ゲスト
(ka0000)
愉愚泥羅疾風録
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/04 09:00
- 完成日
- 2015/10/08 20:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「『愉愚泥羅』総長、平左・須黒紅! 夜露死苦!」
ツナギを身に纏い、鉄パイプを担いだヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)が、それはもう高らかに名乗りを上げた。
彼女のツナギには色々な文字が刺繍されていた。
背中には大きく『紫素貞奈』――システィーナ。
その横には『蔵頭兵武』――グラズヘイム。
反対側には『王女殿下万歳』――プリンセスアイラブユー。
そして(フラットな)胸から腰にかけては『愉愚泥羅』――ユグディラ。
ハンターオフィスのミーティングルームに通されたハンター達が目にしたのは、そういう事象だった。
「ハンターの中で素行の悪い奴らがいる」
『愉愚泥羅』総長、平左・須黒紅は語った。
愉愚泥羅はチーム名のつもりらしい。
平左ではヘイザだと、突っ込むのはご自由にどうぞ、だ。
「皆も知ってのとおり、私達覚醒者は常人を遥かに上回る力を持っている。
ハンターである覚醒者は人類に仇為す歪虚と戦うためのものだ。
しかし、あろうことか……辺境や東方での戦いで歪虚の実力を目の当たりにして、恐れをなし……歪虚と戦うより弱い奴から奪ったほうが実入りが良いと……そう考えた奴らがいるのだ!
今回の依頼は、そういう奴らを叩きのめして更生させる――そういう趣旨だ。
そいつらは『雷斗忍愚』とかいうチームを組んでいて、王国の主要都市から離れた地方都市で『用心棒』をやるという名目で好き勝手やっている。
人数は12人。クラスは様々だ。
夜中にバイクで町中を走り回ったり、酒場で無銭飲食を繰り返しているという。
町中での戦いになるだろう。
町の人たちを盾に取るかもしれない。
これは私達ハンターの問題だ。
騎士団や聖堂戦士団の手をわずらわせちゃならない。
ハンターの汚点は、ハンターがすすぐ。
それが――筋ってもんだ。
ひとつ質問をさせてくれ。
あるいは自分達がたどったかもしれない道のりを確認し、その過ちを正す覚悟は――あるか?」
ヘザーは問う。あなたの目を、真っ直ぐに見て。
ツナギを身に纏い、鉄パイプを担いだヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)が、それはもう高らかに名乗りを上げた。
彼女のツナギには色々な文字が刺繍されていた。
背中には大きく『紫素貞奈』――システィーナ。
その横には『蔵頭兵武』――グラズヘイム。
反対側には『王女殿下万歳』――プリンセスアイラブユー。
そして(フラットな)胸から腰にかけては『愉愚泥羅』――ユグディラ。
ハンターオフィスのミーティングルームに通されたハンター達が目にしたのは、そういう事象だった。
「ハンターの中で素行の悪い奴らがいる」
『愉愚泥羅』総長、平左・須黒紅は語った。
愉愚泥羅はチーム名のつもりらしい。
平左ではヘイザだと、突っ込むのはご自由にどうぞ、だ。
「皆も知ってのとおり、私達覚醒者は常人を遥かに上回る力を持っている。
ハンターである覚醒者は人類に仇為す歪虚と戦うためのものだ。
しかし、あろうことか……辺境や東方での戦いで歪虚の実力を目の当たりにして、恐れをなし……歪虚と戦うより弱い奴から奪ったほうが実入りが良いと……そう考えた奴らがいるのだ!
今回の依頼は、そういう奴らを叩きのめして更生させる――そういう趣旨だ。
そいつらは『雷斗忍愚』とかいうチームを組んでいて、王国の主要都市から離れた地方都市で『用心棒』をやるという名目で好き勝手やっている。
人数は12人。クラスは様々だ。
夜中にバイクで町中を走り回ったり、酒場で無銭飲食を繰り返しているという。
町中での戦いになるだろう。
町の人たちを盾に取るかもしれない。
これは私達ハンターの問題だ。
騎士団や聖堂戦士団の手をわずらわせちゃならない。
ハンターの汚点は、ハンターがすすぐ。
それが――筋ってもんだ。
ひとつ質問をさせてくれ。
あるいは自分達がたどったかもしれない道のりを確認し、その過ちを正す覚悟は――あるか?」
ヘザーは問う。あなたの目を、真っ直ぐに見て。
リプレイ本文
●今日も今日とて乱痴気騒ぎ
「おい。酒と食い物だ!」
田舎の広い土地を活かした大きな酒場に、我が物顔の集団が入ってきた。店主が、引きつった笑みで彼らを迎えた。
「へ、へい皆様。ただいま」
十二人いるかれらは統一感のない格好をしており、また武装していた。
店主が自ら酒を持っていく。他の店員は皆辞めた。集団は酒が不味いだの料理が遅いだのさんざんに文句をつける。
他に客はいない。
集団は遠慮やマナーなどという言葉は忘れたようにひとしきり騒いだ後、
「女を狩りにいくぞお!」
そう言って、店を出て行った。
代金は払わない。もし請求しようものなら、
「俺達はお前ら弱虫どもを歪虚から守ってるありがたい守護神様だ」
などと宣言された上で、制裁を受けるのがオチだとわかっている。
事実、若い店員が暴行を受けた。今頃は病院のベッドの上で自らの蛮勇を悔いている。
バイクの音を響かせて集団は去った。
カウンターの向こうで、店主がため息をついた。
その日、酒場の扉が再び開かれた。店主が体を引きつらせる。しかし入ってきたのは例の集団ではない、九人の男女だった。
「あ……悪いね……今日は貸切なんだ……」
痩せた鼬を思わせる店主は、疲れ切った顔で告げた。
本当は今日は、ではなく毎日が、なのだが。
「こんにちは。私達は客ではないんです」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)が、丁寧に会釈した。その横で無限 馨(ka0544)が言葉を継いだ。
「ハンターっす。この辺りで悪さしてる覚醒者達がいると聞いたので、捕まえに来ました」
「ハンター……! それじゃ、奴らをやっつけてくれるのか……!?」
店主がその言葉に目を輝かせたがしかし、すぐに曇らせた。心強いが、もしハンター達が負けた時、自分達が八つ当たりされれるのが怖いのだ。
「そのつもりだよ。そいつらはここを根城にしてるのか?」
ザレム・アズール(ka0878)が聞く。
「あ、ああ……奴らはここで夜中まで騒ぐから、待ってれば現れると思う……」
店主は答える。
「なるほどな。店主さんよ、なるべく店の外でカタをつけるようにするが、一応は気をつけな」
ヤナギ・エリューナク(ka0265)はカウンターに座り、賊が来るまで待たせてもらう意思を示した。
夜も更けて、ハンター崩れ集団――自称『雷斗忍愚』は再び酒場に戻ってきて目を丸くした。店の前にちょっとしたスペースがあるのだが、そこにヘッドライトを点灯したバイクが並んでいたのである。それも外側に向けて。
(どこぞの馬鹿が自分達の縄張りに紛れ込んできたのか?)
などと思っていると、
「このあたりで狼藉を働いているグループは貴様らか! ハンターにして警察の筱崎だ! 神妙に縄につけ!」
大きなシルエットが前に出て逆光を背にした。高らかに名乗りを上げたのは、戦馬に騎乗した筱崎あかね(ka3788)その人である。
「『愉愚泥羅』総長、平左・須黒紅!」
「リツカ! 夜露死苦ぅ!」
「みっミコト! えと、その……仏恥義理っ!」
同じく光源を背負い、女子三人が名乗りを上げた。いずれも特攻服でビシッと決めている。中央で背中の『紫素貞奈』の文字を見せつけるヘザーの両横に、ノリノリで名乗ったリツカ=R=ウラノス(ka3955)、このノリに慣れてないミコト=S=レグルス(ka3953)が並んだ。
「どういう組み合わせだ……?!」
警察と暴走族。
新機軸なのだろうか。
それだけではなかった。声を発さなかったが、もう一つ逆光に浮かび上がった影がある。凹凸が無く長身のシルエット、誰かがバイクのライトを向けた時、その異様が目に入った。
光を受けて彩りを変化させるローブ。悪魔的な仮面。ライトに照らし出され浮かび上がったチマキマル(ka4372)の姿は、それだけで見るものを震え上がらせた。
「なんだてめえら!」
悪漢どもが叫ぶ。
その声とほぼ同時に、ステラ、馨、ザレム、ヤナギも店から出てきた。
●危険な夜遊び
夜だった。満月が彼らを見下ろしている。
悪漢の何人かが銃を構えた。アサルトライフルを構えた者もいる。
しかし、それらが火を噴く前にハンター達が動いていた。
ザレムの姿が消えた。かと思えば、敵の1人に拳を叩き込んでいた。ジェットブーツの加速で一気に接近しての一撃、それも素手で。
続けざまに、あかねが馬を走らせつつ馬上から弓を射た。古の武将を髣髴とさせる流鏑馬だった。敵の猟撃士が構えた銃が正確に射抜かれ、落ちた。
チマキマルが異形の仮面の奥で呪文を紡ぐ。手にする魔杖が炎を帯びた。振るうと巨大な火球が飛び、悪漢一団の最中に炸裂した。
開始後即見せ付けられる圧倒的な力と技巧と魔術。さらに、圧倒される悪漢どもの周りをバイクが回る。
「ノロノロしてるとたたんじまうぞオラァー!」
ヘザーがバイクを走らせ叫んだ。同じくステラ、リツカ、馨がバイクで悪漢達の周りを周る。
「びびってんじゃねえ! こけおどしだ!」
誰かが叫んだ。それぞれバルディッシュやハルバードなど様々な得物を構え、応戦の気配を見せる。
アサルトライフルを構えた修道服の女が、棒立ちになっている獲物を見つけた。
ヤナギだ。
「ヒャッハー! ぶっ殺しィーッ!」
引き金を引き、振動と火薬の音に身を委ねる。
――しかし。
「き、消えた?!」
「ハッ、ヘタクソが」
横から見ていれば、月光を浴びて華麗に跳ぶヤナギの姿が見えたであろう。しかし、引き金を絞った女には、突如として眼前から敵が消えたようにしか見えなかった。
「行くぜ」
凄惨な笑みを浮かべ跳びかかる。
やがて鮮やかな一撃が、相手の銃を叩き落した。
「ふむ、やはりハンターの魔法防御は防具に左右されるのか……」
チマキマルは先ほど自分の放った術の効果をまじまじと確認した。一発で倒れた者もいる。
「何なんだあんた……!」
誰かがチマキマルに視線を向けた。魔術師だ。少しは持ったほうのようだ。
魔術師のワンドの先から石礫が飛び、チマキマルのローブに突き刺さった。長躯がぐらりと揺れたが、すぐに聳えるように立ち直った。
「これで殺しきれなかったのは失敗だ。逃げるべきだったな」
チマキマルが淡々と述べた。
魔杖が振られ、緋色の光が奔る。
「――だが、私の興味は満たされた。運が良かったな」
炎の矢は魔術師を焼き尽くすことはなく足元に炸裂した。――彼の心を挫くのには十分だった。
一方では、乱戦となっていた。
突き出された短剣をいなしたミコトが、鞘に収めた剣を相手のみぞおちに叩き込む。
「ホントは嫌だけど……話を聞いてくれないからっ!」
勢い良く名乗りはしたが、言葉くらいは交わしたかったというのが本音だった。
そんなミコトの気持ちもよそに悪漢達は武器を振りかざしてくる。
「ナメてんじゃねぇぞおらぁー!」
バイクの上から煽るのはリツカ。剣を繰り出し、的確にミコトに仕掛ける敵の手元を突いていく。
走り去るや、追撃するべくUターンする。
「わあ……ノリノリだね」
ミコトの視界には本当に楽しそうなリツカがいた。
ザレムは素手で戦っているにも関わらず、武器でしかも数人に同時にかかられていた。
「男だったら素手ゴロだろ!」
ウォーハンマーの一撃をかわして懐に入り、アッパーで顎を突き上げる。
「喧嘩のやり方も知らないのか?」
にもかかわらず、ザレムは悪漢どもを圧倒していた。
「では……行きますねェ゛ェ゛ッ!!」
ステラがおしとやかな口調のまま釘バットを振り下ろした。
「皆さん覚醒者ですから遠慮なく殴れますね!」
爽やかな笑顔が返り血に濡れていた。
「それでも歪虚を相手にするよりゃましだ!」
大柄な男がハルバードを振り上げ、渾身の一撃を仕掛ける。
相手取られた馨はそれを避け、体勢が崩れた敵の足に鞭を巻きつけて転ばせた。
「……もう、やめるっすよ。勝負は見えてる」
倒れた敵に、まるで敵ではないものに語りかけるような口調で、馨は呼びかけた。
耐久力のある歪虚ならいざ知らず、人間同士の戦いでは先手を取った方が有利だ。そうでなくとも実力の勝る相手に勝つのは至難だ。
それを悟ったのか、悪漢どものうち三人がバイクで走り出した。逃亡である。
「うふふ。これでお別れは寂しいですわ!」
ステラが柔らかな笑顔でペレトレイトC26を構えた。
狙いを定め引き金を引く。銃声と同時に、バイクが横転し、派手に回転した。
しかし、他のバイクはすでにライフルの射程外にいる。
「一人も逃がすな!」
「まてやゴラァ!」
ヘザーが叫ぶ。リツカが応えるように吼え、ヤナギ・ザレム・馨・あかねも続いた。
逃げる二騎は山道へと向かって走る。
暗闇の中、曲がりくねった道をハイスピードで駆け抜け、登り坂も物ともせず、下り坂でも減速しない。真夜中の道路は遮るものは何もなかった。
「そこのバイク、路肩に寄せて止まりなさい!」
まるで警察官のようにあかねは言った。否、本当に警察官だった。
騎馬警察である彼女が駆るのは戦馬だ。白バイのようにハンドルやパトライトがついている、この走ることに特化した動物は、魔導機械を相手に互角以上のスピードを発揮した。
しかしそれで止まる訳はなく、数時間のデッドヒートが繰り広げられた。
やがて逃げる一人が集中力を欠き、カーブを曲がれずに転倒した。ほどなくしてもう一騎も同じように転倒する。
起き上がれない悪漢の一人にあかねは下馬し、近づいて拳銃を抜く。
「立て、両手を上げて後ろを向け!
暴行の現行犯・威力業務妨害・その他諸々の罪で逮捕する」
●落伍者達の告白
空が白みはじめていた。
力尽きたハンター崩れがいずれも酒場の前に倒れており、ハンター達も疲労した面持ちでそれを囲んでいる。
「何でこんな事をやってたっすか」
馨が聞いた。しばらくの沈黙があった。
「理由は人それぞれさ……」
やがて一人が口を開いた。
「俺の場合は、簡単に言うと歪虚に負けて自信を無くしたからだ。自分は強いと思っていた……けどそんなことはなかった」
「そんなの、自分を客観的に見れてなかっただけっすよ」
馨の言葉は、敗北の直後では重みがあったのか、男は何も言わなかった。
「俺も昔は弱い男だったっす。けど、目標としてる人がいたっす。その人みたくなりたかった。だから、強くなれたっす。
今の自分に絶望することないっす、今よりも強くなれるっすよ」
「俺の理由は」
別の男が口を開いた。魔術師だ。
「守りたかった人を死なせてしまったからだ……」
「えっ……」
人を守りたいという理由は、戦う動機に繋がるとステラは信じていた。しかし守りたい人がすでにいないのなら。
「でも、それじゃ死んだ人間が浮かばれないだろ……」
ステラは美しい顔を歪め、考えに考えた末にこう言った。男らしい口調は、素だからだ。
「何をしたってあいつは戻ってこないんだ」
「死んだ人間への想いに今も縛られてるんだろう。なのに死んだからその人のためにしてきた事を辞めるなんて、おかしくないか」
魔術師の男は何も言わなかったが、しばらく黙った。
泣いているようだった。
「私には大した理由なんて無いね」
修道服の女が言った。
「単純に狂っちまってるのさ!
どう思う? ご同輩。いや、もとご同輩か。最前線で一番強い敵と戦うのは、いつだってハンターの役目でしょ。ワァーシン。ベリアル。ヤクシー。九尾。……勝つには勝ったさ。でも犠牲はあるでしょう! その犠牲を私達が負っているのさ! そりゃ、狂いもするわ!」
「本当に、それだけなの……?」
ミコトは、ただ純粋に呼びかけた。
「最初に目的はあったはずだよ。誰かを守りたいとか、人を助けたいとか……それを忘れてしまったの?」
「私はすでに結果だ! 始まりはどうであれな!」
「傷つきすぎてしまったんだよ、あなたは……。疲れたのなら休めばいいから……自分がハンターになった理由、もう一度思い出して……」
「無いだろうな。そんな物は」
猟撃士の男が言った。
「その女は立場がそうさせずにはいられなかったからハンターになった。俺は、単に他に出来ることがないからハンターになった。だが、なりたかったわけじゃない」
「おい、だったらハンターは出来るってことだろ」
ヤナギが言った。
「出来ることがあるっていいことだろ。勝っといて何だが、お前ェらそんなにヒドくねー。
まず最初に俺達を見て脅威だと判断し、攻撃してきた判断は正しい。
それにヤバいと感じたら逃げた。自分の弱さを知ってるってことだ。
俺には悩まなくていいことで悩んでるように見えるがな」
「何だよ、お前……」
だが、それ以上の反論はなかった。
「あー! もう、どんだけ悩みたいんだお前ら!」
それまで座って話を聞いていたリツカがぴょこんと立ち上がって言った。
「悩むぐらいなら動けー!
大抵のことは体力で解決できる!
どう動いたらわかんないのならさ、誰かに頼ればいいんだよ!」
勢いに押されたのか、場は水を打ったように静かになった。
「ぷっ……あははは」
やがてミコトが笑った。
「単純すぎっ……でも、うちもそう思うなっ」
捕囚となった賊もこれには様々な反応だった。
「もしかして頼りにできる人間がいないのではないのかな」
それまで黙っていたチマキマルが言った。ただの気紛れで客観的な意見を述べただけだったのだが。
「だったら総長がいるっすよ!」
「………………え、私?」
断じてナディア・ドラゴネッティのことではない。
馨が言ったのが自分の事だとヘザーが気付くまで一呼吸があった。
「お前らどーしよーもねーからこの人に鍛えてもらえ。それしかねえ」
ヤナギも、面白がるように言う。
「及ばずながら、私も協力します! 犯罪者の更生も警察の責務!」
あかねが背筋を正し、ヘザーに最敬礼せんばかりの勢いでそう言った。
暴走族に敬礼する司法官憲という妙な図が出来上がるところだった。
「んー……まあ人脈を最大限活用して何とかするか。ホントに頼るぞ、あかね。いや、他の皆もな」
(愉愚泥羅、ホントに結成か……?)
犯罪者達を独房にぶち込んだ後、一行が泊まった宿でヘザーは考えていた。
「不安なのか、かれらが更生するのかどうか」
突如、宿のロビーで思案顔だったヘザーに話しかけるものがあった。ザレムだ。
「大丈夫さ」
一見クールだが決してドライではない表情でザレムは言った。
「振り返る事は多々あるよ、間違いを犯さない人生なんて無いものさ。
俺だって反省した事もあった。
けど、逸れた道なら戻せば良いんだ。そう思ってるよ」
だから、かれらもやり直せると。
「そうか。では、責任はすべてザレムに押し付けよう!」
ヘザーは明るい顔になって、そう言った。
「…………冗談だ。ありがとうなザレム」
何にせよ、ハンター達の気概は無為には出来なかった。
「おい。酒と食い物だ!」
田舎の広い土地を活かした大きな酒場に、我が物顔の集団が入ってきた。店主が、引きつった笑みで彼らを迎えた。
「へ、へい皆様。ただいま」
十二人いるかれらは統一感のない格好をしており、また武装していた。
店主が自ら酒を持っていく。他の店員は皆辞めた。集団は酒が不味いだの料理が遅いだのさんざんに文句をつける。
他に客はいない。
集団は遠慮やマナーなどという言葉は忘れたようにひとしきり騒いだ後、
「女を狩りにいくぞお!」
そう言って、店を出て行った。
代金は払わない。もし請求しようものなら、
「俺達はお前ら弱虫どもを歪虚から守ってるありがたい守護神様だ」
などと宣言された上で、制裁を受けるのがオチだとわかっている。
事実、若い店員が暴行を受けた。今頃は病院のベッドの上で自らの蛮勇を悔いている。
バイクの音を響かせて集団は去った。
カウンターの向こうで、店主がため息をついた。
その日、酒場の扉が再び開かれた。店主が体を引きつらせる。しかし入ってきたのは例の集団ではない、九人の男女だった。
「あ……悪いね……今日は貸切なんだ……」
痩せた鼬を思わせる店主は、疲れ切った顔で告げた。
本当は今日は、ではなく毎日が、なのだが。
「こんにちは。私達は客ではないんです」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)が、丁寧に会釈した。その横で無限 馨(ka0544)が言葉を継いだ。
「ハンターっす。この辺りで悪さしてる覚醒者達がいると聞いたので、捕まえに来ました」
「ハンター……! それじゃ、奴らをやっつけてくれるのか……!?」
店主がその言葉に目を輝かせたがしかし、すぐに曇らせた。心強いが、もしハンター達が負けた時、自分達が八つ当たりされれるのが怖いのだ。
「そのつもりだよ。そいつらはここを根城にしてるのか?」
ザレム・アズール(ka0878)が聞く。
「あ、ああ……奴らはここで夜中まで騒ぐから、待ってれば現れると思う……」
店主は答える。
「なるほどな。店主さんよ、なるべく店の外でカタをつけるようにするが、一応は気をつけな」
ヤナギ・エリューナク(ka0265)はカウンターに座り、賊が来るまで待たせてもらう意思を示した。
夜も更けて、ハンター崩れ集団――自称『雷斗忍愚』は再び酒場に戻ってきて目を丸くした。店の前にちょっとしたスペースがあるのだが、そこにヘッドライトを点灯したバイクが並んでいたのである。それも外側に向けて。
(どこぞの馬鹿が自分達の縄張りに紛れ込んできたのか?)
などと思っていると、
「このあたりで狼藉を働いているグループは貴様らか! ハンターにして警察の筱崎だ! 神妙に縄につけ!」
大きなシルエットが前に出て逆光を背にした。高らかに名乗りを上げたのは、戦馬に騎乗した筱崎あかね(ka3788)その人である。
「『愉愚泥羅』総長、平左・須黒紅!」
「リツカ! 夜露死苦ぅ!」
「みっミコト! えと、その……仏恥義理っ!」
同じく光源を背負い、女子三人が名乗りを上げた。いずれも特攻服でビシッと決めている。中央で背中の『紫素貞奈』の文字を見せつけるヘザーの両横に、ノリノリで名乗ったリツカ=R=ウラノス(ka3955)、このノリに慣れてないミコト=S=レグルス(ka3953)が並んだ。
「どういう組み合わせだ……?!」
警察と暴走族。
新機軸なのだろうか。
それだけではなかった。声を発さなかったが、もう一つ逆光に浮かび上がった影がある。凹凸が無く長身のシルエット、誰かがバイクのライトを向けた時、その異様が目に入った。
光を受けて彩りを変化させるローブ。悪魔的な仮面。ライトに照らし出され浮かび上がったチマキマル(ka4372)の姿は、それだけで見るものを震え上がらせた。
「なんだてめえら!」
悪漢どもが叫ぶ。
その声とほぼ同時に、ステラ、馨、ザレム、ヤナギも店から出てきた。
●危険な夜遊び
夜だった。満月が彼らを見下ろしている。
悪漢の何人かが銃を構えた。アサルトライフルを構えた者もいる。
しかし、それらが火を噴く前にハンター達が動いていた。
ザレムの姿が消えた。かと思えば、敵の1人に拳を叩き込んでいた。ジェットブーツの加速で一気に接近しての一撃、それも素手で。
続けざまに、あかねが馬を走らせつつ馬上から弓を射た。古の武将を髣髴とさせる流鏑馬だった。敵の猟撃士が構えた銃が正確に射抜かれ、落ちた。
チマキマルが異形の仮面の奥で呪文を紡ぐ。手にする魔杖が炎を帯びた。振るうと巨大な火球が飛び、悪漢一団の最中に炸裂した。
開始後即見せ付けられる圧倒的な力と技巧と魔術。さらに、圧倒される悪漢どもの周りをバイクが回る。
「ノロノロしてるとたたんじまうぞオラァー!」
ヘザーがバイクを走らせ叫んだ。同じくステラ、リツカ、馨がバイクで悪漢達の周りを周る。
「びびってんじゃねえ! こけおどしだ!」
誰かが叫んだ。それぞれバルディッシュやハルバードなど様々な得物を構え、応戦の気配を見せる。
アサルトライフルを構えた修道服の女が、棒立ちになっている獲物を見つけた。
ヤナギだ。
「ヒャッハー! ぶっ殺しィーッ!」
引き金を引き、振動と火薬の音に身を委ねる。
――しかし。
「き、消えた?!」
「ハッ、ヘタクソが」
横から見ていれば、月光を浴びて華麗に跳ぶヤナギの姿が見えたであろう。しかし、引き金を絞った女には、突如として眼前から敵が消えたようにしか見えなかった。
「行くぜ」
凄惨な笑みを浮かべ跳びかかる。
やがて鮮やかな一撃が、相手の銃を叩き落した。
「ふむ、やはりハンターの魔法防御は防具に左右されるのか……」
チマキマルは先ほど自分の放った術の効果をまじまじと確認した。一発で倒れた者もいる。
「何なんだあんた……!」
誰かがチマキマルに視線を向けた。魔術師だ。少しは持ったほうのようだ。
魔術師のワンドの先から石礫が飛び、チマキマルのローブに突き刺さった。長躯がぐらりと揺れたが、すぐに聳えるように立ち直った。
「これで殺しきれなかったのは失敗だ。逃げるべきだったな」
チマキマルが淡々と述べた。
魔杖が振られ、緋色の光が奔る。
「――だが、私の興味は満たされた。運が良かったな」
炎の矢は魔術師を焼き尽くすことはなく足元に炸裂した。――彼の心を挫くのには十分だった。
一方では、乱戦となっていた。
突き出された短剣をいなしたミコトが、鞘に収めた剣を相手のみぞおちに叩き込む。
「ホントは嫌だけど……話を聞いてくれないからっ!」
勢い良く名乗りはしたが、言葉くらいは交わしたかったというのが本音だった。
そんなミコトの気持ちもよそに悪漢達は武器を振りかざしてくる。
「ナメてんじゃねぇぞおらぁー!」
バイクの上から煽るのはリツカ。剣を繰り出し、的確にミコトに仕掛ける敵の手元を突いていく。
走り去るや、追撃するべくUターンする。
「わあ……ノリノリだね」
ミコトの視界には本当に楽しそうなリツカがいた。
ザレムは素手で戦っているにも関わらず、武器でしかも数人に同時にかかられていた。
「男だったら素手ゴロだろ!」
ウォーハンマーの一撃をかわして懐に入り、アッパーで顎を突き上げる。
「喧嘩のやり方も知らないのか?」
にもかかわらず、ザレムは悪漢どもを圧倒していた。
「では……行きますねェ゛ェ゛ッ!!」
ステラがおしとやかな口調のまま釘バットを振り下ろした。
「皆さん覚醒者ですから遠慮なく殴れますね!」
爽やかな笑顔が返り血に濡れていた。
「それでも歪虚を相手にするよりゃましだ!」
大柄な男がハルバードを振り上げ、渾身の一撃を仕掛ける。
相手取られた馨はそれを避け、体勢が崩れた敵の足に鞭を巻きつけて転ばせた。
「……もう、やめるっすよ。勝負は見えてる」
倒れた敵に、まるで敵ではないものに語りかけるような口調で、馨は呼びかけた。
耐久力のある歪虚ならいざ知らず、人間同士の戦いでは先手を取った方が有利だ。そうでなくとも実力の勝る相手に勝つのは至難だ。
それを悟ったのか、悪漢どものうち三人がバイクで走り出した。逃亡である。
「うふふ。これでお別れは寂しいですわ!」
ステラが柔らかな笑顔でペレトレイトC26を構えた。
狙いを定め引き金を引く。銃声と同時に、バイクが横転し、派手に回転した。
しかし、他のバイクはすでにライフルの射程外にいる。
「一人も逃がすな!」
「まてやゴラァ!」
ヘザーが叫ぶ。リツカが応えるように吼え、ヤナギ・ザレム・馨・あかねも続いた。
逃げる二騎は山道へと向かって走る。
暗闇の中、曲がりくねった道をハイスピードで駆け抜け、登り坂も物ともせず、下り坂でも減速しない。真夜中の道路は遮るものは何もなかった。
「そこのバイク、路肩に寄せて止まりなさい!」
まるで警察官のようにあかねは言った。否、本当に警察官だった。
騎馬警察である彼女が駆るのは戦馬だ。白バイのようにハンドルやパトライトがついている、この走ることに特化した動物は、魔導機械を相手に互角以上のスピードを発揮した。
しかしそれで止まる訳はなく、数時間のデッドヒートが繰り広げられた。
やがて逃げる一人が集中力を欠き、カーブを曲がれずに転倒した。ほどなくしてもう一騎も同じように転倒する。
起き上がれない悪漢の一人にあかねは下馬し、近づいて拳銃を抜く。
「立て、両手を上げて後ろを向け!
暴行の現行犯・威力業務妨害・その他諸々の罪で逮捕する」
●落伍者達の告白
空が白みはじめていた。
力尽きたハンター崩れがいずれも酒場の前に倒れており、ハンター達も疲労した面持ちでそれを囲んでいる。
「何でこんな事をやってたっすか」
馨が聞いた。しばらくの沈黙があった。
「理由は人それぞれさ……」
やがて一人が口を開いた。
「俺の場合は、簡単に言うと歪虚に負けて自信を無くしたからだ。自分は強いと思っていた……けどそんなことはなかった」
「そんなの、自分を客観的に見れてなかっただけっすよ」
馨の言葉は、敗北の直後では重みがあったのか、男は何も言わなかった。
「俺も昔は弱い男だったっす。けど、目標としてる人がいたっす。その人みたくなりたかった。だから、強くなれたっす。
今の自分に絶望することないっす、今よりも強くなれるっすよ」
「俺の理由は」
別の男が口を開いた。魔術師だ。
「守りたかった人を死なせてしまったからだ……」
「えっ……」
人を守りたいという理由は、戦う動機に繋がるとステラは信じていた。しかし守りたい人がすでにいないのなら。
「でも、それじゃ死んだ人間が浮かばれないだろ……」
ステラは美しい顔を歪め、考えに考えた末にこう言った。男らしい口調は、素だからだ。
「何をしたってあいつは戻ってこないんだ」
「死んだ人間への想いに今も縛られてるんだろう。なのに死んだからその人のためにしてきた事を辞めるなんて、おかしくないか」
魔術師の男は何も言わなかったが、しばらく黙った。
泣いているようだった。
「私には大した理由なんて無いね」
修道服の女が言った。
「単純に狂っちまってるのさ!
どう思う? ご同輩。いや、もとご同輩か。最前線で一番強い敵と戦うのは、いつだってハンターの役目でしょ。ワァーシン。ベリアル。ヤクシー。九尾。……勝つには勝ったさ。でも犠牲はあるでしょう! その犠牲を私達が負っているのさ! そりゃ、狂いもするわ!」
「本当に、それだけなの……?」
ミコトは、ただ純粋に呼びかけた。
「最初に目的はあったはずだよ。誰かを守りたいとか、人を助けたいとか……それを忘れてしまったの?」
「私はすでに結果だ! 始まりはどうであれな!」
「傷つきすぎてしまったんだよ、あなたは……。疲れたのなら休めばいいから……自分がハンターになった理由、もう一度思い出して……」
「無いだろうな。そんな物は」
猟撃士の男が言った。
「その女は立場がそうさせずにはいられなかったからハンターになった。俺は、単に他に出来ることがないからハンターになった。だが、なりたかったわけじゃない」
「おい、だったらハンターは出来るってことだろ」
ヤナギが言った。
「出来ることがあるっていいことだろ。勝っといて何だが、お前ェらそんなにヒドくねー。
まず最初に俺達を見て脅威だと判断し、攻撃してきた判断は正しい。
それにヤバいと感じたら逃げた。自分の弱さを知ってるってことだ。
俺には悩まなくていいことで悩んでるように見えるがな」
「何だよ、お前……」
だが、それ以上の反論はなかった。
「あー! もう、どんだけ悩みたいんだお前ら!」
それまで座って話を聞いていたリツカがぴょこんと立ち上がって言った。
「悩むぐらいなら動けー!
大抵のことは体力で解決できる!
どう動いたらわかんないのならさ、誰かに頼ればいいんだよ!」
勢いに押されたのか、場は水を打ったように静かになった。
「ぷっ……あははは」
やがてミコトが笑った。
「単純すぎっ……でも、うちもそう思うなっ」
捕囚となった賊もこれには様々な反応だった。
「もしかして頼りにできる人間がいないのではないのかな」
それまで黙っていたチマキマルが言った。ただの気紛れで客観的な意見を述べただけだったのだが。
「だったら総長がいるっすよ!」
「………………え、私?」
断じてナディア・ドラゴネッティのことではない。
馨が言ったのが自分の事だとヘザーが気付くまで一呼吸があった。
「お前らどーしよーもねーからこの人に鍛えてもらえ。それしかねえ」
ヤナギも、面白がるように言う。
「及ばずながら、私も協力します! 犯罪者の更生も警察の責務!」
あかねが背筋を正し、ヘザーに最敬礼せんばかりの勢いでそう言った。
暴走族に敬礼する司法官憲という妙な図が出来上がるところだった。
「んー……まあ人脈を最大限活用して何とかするか。ホントに頼るぞ、あかね。いや、他の皆もな」
(愉愚泥羅、ホントに結成か……?)
犯罪者達を独房にぶち込んだ後、一行が泊まった宿でヘザーは考えていた。
「不安なのか、かれらが更生するのかどうか」
突如、宿のロビーで思案顔だったヘザーに話しかけるものがあった。ザレムだ。
「大丈夫さ」
一見クールだが決してドライではない表情でザレムは言った。
「振り返る事は多々あるよ、間違いを犯さない人生なんて無いものさ。
俺だって反省した事もあった。
けど、逸れた道なら戻せば良いんだ。そう思ってるよ」
だから、かれらもやり直せると。
「そうか。では、責任はすべてザレムに押し付けよう!」
ヘザーは明るい顔になって、そう言った。
「…………冗談だ。ありがとうなザレム」
何にせよ、ハンター達の気概は無為には出来なかった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/02 20:38:38 |
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素行不良者を殴っ血KILL! リツカ=R=ウラノス(ka3955) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/10/04 00:49:23 |