ゲスト
(ka0000)
月姫の丘で、逢う
マスター:瑞木雫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/04 12:00
- 完成日
- 2015/10/13 19:21
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●月姫の丘
同盟のとあるところに、風雅なる秋の名月を静かに見晴らせる丘があった。
ススキの穂が夜風に揺れる音に癒されながら、天高く浮かぶ美しい月を見上げる事の出来る丘が。
その丘を地元の村の者達は親しみを込めて、『月姫の丘』と呼んでいる。
「―――!? まじで、月姫の丘に歪虚が!?」
「あぁ。花の歪虚が現れたらしい……。でも被害は今の所無くて、もう既にハンターオフィスへ退治してもらうよう依頼してくれたみたいだ」
歪虚出現の為『月姫の丘』に近づかないよう自警団と共に村人達に呼びかけ終えた村長と、その息子のヴァレーリオ(kz0139)。
「兎は!?」
「あぁ、月が綺麗な……まさしく月姫の兎が姿を現しそうな夜だけど、近付いてないみたい」
「そうか……」
ヴァレーリオはほっと安心して小さく呟く。
「ってかハンターオフィスに依頼したって誰が?」
「ロザリーナさん」
「あぁ……」
お節介焼きお嬢様の顔を思い浮かべたヴァレーリオは或る意味納得の声を漏らしていた。
●月姫の丘の伝承
むかしむかし、とおいむかしのこと。
月からやってきた姫君と噂されているそれはそれは美しい娘が居た。
月姫はいつか、月の世界へと帰らねばならなかったのだが、
彼女は地上で最愛の人を見つけ、結ばれたがゆえ、故郷の月へと帰ることを拒んでいたのだという。
そしていつしか月姫には子が生まれ、
地上の人として、家族と共に温かい日々を過ごしていたそうな。
……しかし。
そんな幸せは、長くは続かなかった。
月で生まれた月姫にとって地上の生活は合わなかったのかもしれない――。
病に伏せ、子が幼少の頃に亡くなってしまったのだ。
子に、ある約束を遺して。
『貴方を置いていってしまう私を どうか許して。
もし貴方が許してくれるのなら必ず、会いに行きます――。
月の綺麗な夜に、あの丘で。
きっと。
貴方に寄り添う存在を、私だと思って――。』
●月姫の丘に、歪虚の魔の手
「…………という伝承がある場所なのよ。それからもうひとつ。亡くなった人と再び会えるかもしれない場所として有名ね」
今回の依頼主であり、自由都市同盟の観光大使を自称するロザリーナ(kz0138)ことロゼが言うとハンターオフィスの職員であるラフィーナは首を傾げていた。
「亡くなった方と再会できる場所、ですか……?」
それに、ロゼはこくり。
「月姫の丘はね、とても不思議なのよ。月が綺麗な夜にだけぴょんぴょん兎がやってくるの! 月姫の兎、って呼ばれてるのよ!
とても人懐っこくて、可愛くて、元気で。……でもね、時々、誰かにぴっとり寄り添うだけの兎がいるの。
その兎は、寄り添った人に逢いにやって来てくれた亡くなった人だって、信じられているわ」
勿論、月姫の伝承はあくまで古い言い伝え。
実際に月姫は存在したかもしれないが、多少なりともフィクションを加えられているものであると想う。
しかしそれでも、
信じたくなってしまう心も、分からなくは無いからこそ――
ずっと受け継がれてきたおはなしなのかもしれない。
「そう、なんですね………」
月姫の伝承のお話を聞いたラフィーナは俯きながら呟いた。
「月姫の丘は沢山の人から愛されている丘だと聞きます。……早く、歪虚を退治してしまいましょう。皆さん……お願い、致します」
ハンター達へお願いする今回の依頼というのは月姫の丘に出現した歪虚を退治してもらうこと。
月姫の丘は観光スポットとして人気がある他に地元の者達にも深く愛されている場所で、早急に安寧を取り戻したいところである。
そして、それが終われば――
「今夜はお月見日和よ。折角だし良かったら一緒にお月見していかない?」
ロゼが第一発見者となった理由はどうやらお月見をするために早くから訪れていたからだったらしい。
問題となっている歪虚を倒した後なら、のんびり楽しんでも問題は無い筈。
むしろ歪虚が発生してしまった観光スポットだからこそ、『もう何も心配ない』とハンター達からお墨付きをくれた方が、後の人達も安心してお月見を楽しめるというものだろう。
「皆に退治をお願いするかわりに、私は美味しいお団子を用意していくわっ!」
ロゼはそう言うと、楽しみにしているように満面に微笑んでいるのだった。
●月下に咲く、花の歪虚
「ハンター、遅かったじゃねえか」
月姫の丘がある村に到着すると覚醒者であり、此処の村の村長の息子であるというヴァレーリオがハンター達を出迎えた。満身創痍で。
「な、なんでもねえ。ちょっと色々あっただけだ……」
そう言って目を合わせないヴァレーリオ。
それもそうだろう。月姫の丘に歪虚が現れたと聞いて俺一人で充分だと挑んだところボコボコにされてしまい大人しく仲間が到着するのを待っていただなんてそんなこと、言える筈が無いのである。
「いいから! こっちだ、ついて来い」
秋の虫の声が音楽を奏でる静寂包む夜景
誰も居ない月姫の丘
なんと優美で可憐な……
丘の中心部に巨体な蕾が佇むのが見えるだろうか
「あれが歪虚だ。まだ近付くんじゃねえぞ……アイツの射程は広範囲だからな」
蕾を保護するようにうねる蔓を見れば、確かに遠くの対象に攻撃をすることも可能である事がうかがえた。
この蔓を鞭のように叩いたり締め付けたりするのが、花の歪虚の特徴らしい。
「どうやらアイツの弱点は蕾で守っている花の部分……、つまり開花した時が狙い目みてえだわ」
今は閉じてしまっているが――
花が咲くと、まるで月下美人のような白く清廉とした花になるのだという。
「開花は近付いた奴を呑みこもうとする時に起きる。回避できねえこともねえけど、もし飲み込まれちまった時は花粉に気をつけろ……すげえ痺れっから」
まるでその痺れを体験した者ではないと漂わせられない説得力と重みがある一言。
「まぁ……でもよ。強すぎってわけでもねえし、数は一体だし、さくっとやっつけちまおうぜ」
(月姫の兎たちの為にも……)
意外にも協力的な様子を見せるヴァレーリオがハンター達に言った。
彼の言う通り花の歪虚はそれ程強い相手ではない。
力を合わせれば難なく退治できるはずだ。
今宵は満月が綺麗な夜。
風情あり、何もかもが美しい夜だった。
同盟のとあるところに、風雅なる秋の名月を静かに見晴らせる丘があった。
ススキの穂が夜風に揺れる音に癒されながら、天高く浮かぶ美しい月を見上げる事の出来る丘が。
その丘を地元の村の者達は親しみを込めて、『月姫の丘』と呼んでいる。
「―――!? まじで、月姫の丘に歪虚が!?」
「あぁ。花の歪虚が現れたらしい……。でも被害は今の所無くて、もう既にハンターオフィスへ退治してもらうよう依頼してくれたみたいだ」
歪虚出現の為『月姫の丘』に近づかないよう自警団と共に村人達に呼びかけ終えた村長と、その息子のヴァレーリオ(kz0139)。
「兎は!?」
「あぁ、月が綺麗な……まさしく月姫の兎が姿を現しそうな夜だけど、近付いてないみたい」
「そうか……」
ヴァレーリオはほっと安心して小さく呟く。
「ってかハンターオフィスに依頼したって誰が?」
「ロザリーナさん」
「あぁ……」
お節介焼きお嬢様の顔を思い浮かべたヴァレーリオは或る意味納得の声を漏らしていた。
●月姫の丘の伝承
むかしむかし、とおいむかしのこと。
月からやってきた姫君と噂されているそれはそれは美しい娘が居た。
月姫はいつか、月の世界へと帰らねばならなかったのだが、
彼女は地上で最愛の人を見つけ、結ばれたがゆえ、故郷の月へと帰ることを拒んでいたのだという。
そしていつしか月姫には子が生まれ、
地上の人として、家族と共に温かい日々を過ごしていたそうな。
……しかし。
そんな幸せは、長くは続かなかった。
月で生まれた月姫にとって地上の生活は合わなかったのかもしれない――。
病に伏せ、子が幼少の頃に亡くなってしまったのだ。
子に、ある約束を遺して。
『貴方を置いていってしまう私を どうか許して。
もし貴方が許してくれるのなら必ず、会いに行きます――。
月の綺麗な夜に、あの丘で。
きっと。
貴方に寄り添う存在を、私だと思って――。』
●月姫の丘に、歪虚の魔の手
「…………という伝承がある場所なのよ。それからもうひとつ。亡くなった人と再び会えるかもしれない場所として有名ね」
今回の依頼主であり、自由都市同盟の観光大使を自称するロザリーナ(kz0138)ことロゼが言うとハンターオフィスの職員であるラフィーナは首を傾げていた。
「亡くなった方と再会できる場所、ですか……?」
それに、ロゼはこくり。
「月姫の丘はね、とても不思議なのよ。月が綺麗な夜にだけぴょんぴょん兎がやってくるの! 月姫の兎、って呼ばれてるのよ!
とても人懐っこくて、可愛くて、元気で。……でもね、時々、誰かにぴっとり寄り添うだけの兎がいるの。
その兎は、寄り添った人に逢いにやって来てくれた亡くなった人だって、信じられているわ」
勿論、月姫の伝承はあくまで古い言い伝え。
実際に月姫は存在したかもしれないが、多少なりともフィクションを加えられているものであると想う。
しかしそれでも、
信じたくなってしまう心も、分からなくは無いからこそ――
ずっと受け継がれてきたおはなしなのかもしれない。
「そう、なんですね………」
月姫の伝承のお話を聞いたラフィーナは俯きながら呟いた。
「月姫の丘は沢山の人から愛されている丘だと聞きます。……早く、歪虚を退治してしまいましょう。皆さん……お願い、致します」
ハンター達へお願いする今回の依頼というのは月姫の丘に出現した歪虚を退治してもらうこと。
月姫の丘は観光スポットとして人気がある他に地元の者達にも深く愛されている場所で、早急に安寧を取り戻したいところである。
そして、それが終われば――
「今夜はお月見日和よ。折角だし良かったら一緒にお月見していかない?」
ロゼが第一発見者となった理由はどうやらお月見をするために早くから訪れていたからだったらしい。
問題となっている歪虚を倒した後なら、のんびり楽しんでも問題は無い筈。
むしろ歪虚が発生してしまった観光スポットだからこそ、『もう何も心配ない』とハンター達からお墨付きをくれた方が、後の人達も安心してお月見を楽しめるというものだろう。
「皆に退治をお願いするかわりに、私は美味しいお団子を用意していくわっ!」
ロゼはそう言うと、楽しみにしているように満面に微笑んでいるのだった。
●月下に咲く、花の歪虚
「ハンター、遅かったじゃねえか」
月姫の丘がある村に到着すると覚醒者であり、此処の村の村長の息子であるというヴァレーリオがハンター達を出迎えた。満身創痍で。
「な、なんでもねえ。ちょっと色々あっただけだ……」
そう言って目を合わせないヴァレーリオ。
それもそうだろう。月姫の丘に歪虚が現れたと聞いて俺一人で充分だと挑んだところボコボコにされてしまい大人しく仲間が到着するのを待っていただなんてそんなこと、言える筈が無いのである。
「いいから! こっちだ、ついて来い」
秋の虫の声が音楽を奏でる静寂包む夜景
誰も居ない月姫の丘
なんと優美で可憐な……
丘の中心部に巨体な蕾が佇むのが見えるだろうか
「あれが歪虚だ。まだ近付くんじゃねえぞ……アイツの射程は広範囲だからな」
蕾を保護するようにうねる蔓を見れば、確かに遠くの対象に攻撃をすることも可能である事がうかがえた。
この蔓を鞭のように叩いたり締め付けたりするのが、花の歪虚の特徴らしい。
「どうやらアイツの弱点は蕾で守っている花の部分……、つまり開花した時が狙い目みてえだわ」
今は閉じてしまっているが――
花が咲くと、まるで月下美人のような白く清廉とした花になるのだという。
「開花は近付いた奴を呑みこもうとする時に起きる。回避できねえこともねえけど、もし飲み込まれちまった時は花粉に気をつけろ……すげえ痺れっから」
まるでその痺れを体験した者ではないと漂わせられない説得力と重みがある一言。
「まぁ……でもよ。強すぎってわけでもねえし、数は一体だし、さくっとやっつけちまおうぜ」
(月姫の兎たちの為にも……)
意外にも協力的な様子を見せるヴァレーリオがハンター達に言った。
彼の言う通り花の歪虚はそれ程強い相手ではない。
力を合わせれば難なく退治できるはずだ。
今宵は満月が綺麗な夜。
風情あり、何もかもが美しい夜だった。
リプレイ本文
●
「ボロボロだったり妙に詳しかったり……リオ兄ちゃん、もしかして1人で戦いに行ったんですかぃ?」
「もしかしなくてもまた1人で如何にかしようとしたのん?」
鬼百合(ka3667)が尋ねると共に、ミィナ・アレグトーリア(ka0317)からもじとーっと見つめられ、「う」とヴァレーリオは声を漏らした。正しく、もしかしなくても図星なのである。
「抜け出せたから良かったけど、本当に危険な敵だったらどうするん?!」
「ミィナ……」
無茶を叱ってくれるのは心配してくれているからなのだろう。
――ただ。
「オイやめ……ッ首が、首がァ!」
男は襟首を掴まれガックンガックンしながら、心の白旗は全力で振っていたに違いない。
一方の月華は、沈黙を貫いていた。
花は未だ開かず蕾のままなのに神秘のベールに包まれた美しさが、見る者を虜にする。
「あの花がただの花だったら良かったんだが……まぁ歪虚じゃ仕方ない。頑張って刈るとしますかね」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)はアルケミックギアブレイドを構えつつ、確りと見据えた。先ずは月見の邪魔をする華を駆除しよう、と。
「そんじゃま、シンプルに退治と行こう」
龍崎・カズマ(ka0178)も月華を映す瞳、そして風に揺らぐ髪が――月明かりが溶け込んだような金色へと変貌。そのままグリムバルドと共に丘を駆け抜けていく。
「ヴァレーリオのお陰で事前情報があるのは助かるよ。……だから今は余り無理をしないで」
白水 燈夜(ka0236)も彼らに続く折、満身創痍にも関わらずまた無茶をしでかしそうなヴァレーリオへと気遣う。月華に挑んでいって痛い目に遭った事は一目瞭然だが、どうも懲りていない様子を察して。案の定男は共に駆け出しながら我武者羅に言った。じっとしてンのは性に合わねぇ! ……と。
燈夜は駆け出し際に月色の鳥の羽が舞う中――深いマリンブルーに染まった穏やかな眸で困ったように男を見つめ、そう言うと思った、と内心。
心理学を心得る燈夜にとってヴァレーリオの人となりは分かりやすい。きっと男は何を言っても突進するタイプなのだろう。
「うちらの事、そんなに信用できないん……?」
と、ミィナがぽつり。
勿論ハンターを信用していない訳じゃない。ただ自分で何とかやりたがる無鉄砲おバカは自重を知らないのだろう。
「もう知らんのん、お花に食べられてビリビリしとくといいのん!」
そんなふうにミィナがぷいっとすると、振り返ったヴァレーリオは悪ガキのようにニッと笑った。
月華は自身を目掛けてやってくるハンターの気配に気付くと、蔓がめきめきと伸びるようにうねりだす。そして射程内の距離に詰めたカズマへと蔓を振り落とした。だが、カズマは素早く回避。空振りして地面を叩く蔓。その隙を狙い切り落とす速さは、白光の残像が残る程。侵攻しつつ、邪魔な蔓は即座に眩い光を放つ鞭で叩き落とした。仲間を強く意識し道を拓く為、的確に捌いていく。元来戦場を渡り歩き戦い慣れているカズマだからこそ出来る業だ。
この隙に本体へと近付く叢雲 輝夜(ka5601)。
グリムバルドが蔓に雷撃を与え焼き払っていく。そして状況を注意深く見つめ、本体へ接近した輝夜を狙う蔓から守る為に光の防御壁を。壁が打撃を受け止め弾き返しガラスのように割れて霧散する中で―――輝夜は月華の懐に飛び込んで、つい妖艶に笑む。全身から水蒸気の様な煙が立ち上りつつ、牙の様な犬歯が微かに覗いた。
(ハンターとして初めての博打じゃね♪ ちぃと物足りん気けど、丁度ええじゃろ)
頑丈に守られていた蕾は輝夜を見下ろしながら、ゆっくりと開いた。すると、美しく煌めく白が。花が。華麗に咲き、蠢いた。輝夜を丸飲みするために――。
伸びてくる無数の蔓。飲み込もうとする花。通常ならかわしきれないような状況。だがしかし、それらをあしらうように軽やかに跳ぶ。同時に、仲間が援護。足を掴もうとした蔓を鬼百合が鋭い風で切り裂き、背後から打とうとする蔓を燈夜の水塊の鳥が虎の如き爪で勢いよく弾き返す。そして輝夜自身も赤い眸をよおく凝らしながら、するりとかわしていった。
この一瞬が終わると、蔓の束が虚しく地面を打ち付ける音が響くだろう。
「ふふ……賭けはうちらの勝ちじゃね♪」
スリルを味わった輝夜が色っぽく微笑を浮かべる。と、共に弱点を晒す月華へ一斉攻撃を繰り出した。
「さっさとご退場願うよ」
月華に言い放ったカフカ・ブラックウェル(ka0794)が魔導拳銃を構えると、黄金色と蒼色の焔が混じったような淡い光の残像が。そして炎のように取り巻きたなびくマーキナの弾丸を射出。一直線に向かって飛び、月華が弱点に苦しむように蠢動。畳みかけるように鬼百合と燈夜が月華に火球を放ち、爆発。月華は明らかに弱まった様子で、虫の息であるかのように悶えだす。
まるで月夜を飛ぶ白梟の様な翼を持つミィナは、駆け寄って弓で急所を射る。グリムバルドも蔓を刈りながらカズマと共に、トドメは仲間を信じて託して。
「これで終いじゃ♪」
輝夜が精神統一すると一気に間合いを詰めて貫き斬った。
その衝撃により月華が数多もの花弁を散らし、だがそれも煌めくように儚く消えていく。
月夜に散る花を見つめながら燈夜が呟く。こういうのもまた乙なものだね、と。
散り際に光の粒のようにきらきらと輝きながら空に溶けてしまうのを見つめていたグリムバルドが、そっと頷いていた。
●
秋の夜長は尚続く
改めてようこそ、ジェオルジの観光名所『月姫の丘』へ
「ロゼさんお久しぶりなんよー! 元気しとった?」
「ミィナちゃーん!」
ミィナが仲間の応急手当を終えた頃、ロゼと合流し一緒にきゃっきゃ。
「カフカ君もお久しぶりねっ!」
そして仲良しの輪はカフカにも。三人は薔薇のガーデンパーティーで一緒にお茶した仲なのである。
「やぁ、ミィナ、ロゼ。久しぶり。ロゼはこの前、僕の伯父さんと会ったんだって?」
「そうなのよ! とっても素敵な人だったわ」
紳士的に振舞ってくれたことをカフカに話し、はにかんだ。「伯父さんが君に宜しくと言ってたよ」とカフカが告げると、ロゼは嬉しそうに微笑む。
月は満ち、
静かに優しく彼らを照らす――
「月餅とハーブティーを用意してみたよ」
カフカの差し入れに、皆が喜ぶ。
「このハーブティー、なんだか落ち着くわ」
月餅を美味しそうに食べつつロゼがほっこり。
「ふふ」
フレーバーがカモミールなのは食べ過ぎになる事を懸念してのカフカの優しさであるのは、ここだけの話。
「俺も折角だしと思って兎饅頭作ってきたから良ければどうぞ」
燈夜の兎饅頭も皆大絶賛。
「可愛いのんー!」
ミィナが思わずきゅんきゅんしながら言った。
「白いのがこしあん、ピンクのが白あんな」
燈夜がそう添えていると、ふと、ヴァレーリオと目が合う。
「(欲しいのかな……?)良かったらヴァレーリオも食べる?」
燈夜の厚意に一瞬ぎくっとなっていたが、蚊が鳴くような声でどーもと男が受け取る。仏頂面の割に何処か嬉しそうだっただろう。兎は可愛いから好きなのである。
楽しいお月見の会。
(実家の寺では月見もしてたけど、転移してからは久しぶりだな)
燈夜はしみじみ想い抱きつつ、月見酒を。強い訳ではなくすぐ眠たくなってしまうから、ちょっとだけ。
カズマは皆からは少し離れながら静かに空を見上げていた。
(届かないからこそ眺めていられるものを見ていたい――)
今宵は美しい夜
風雅なる秋の名月を静かに見晴らせる丘で眺めるなら猶更
「旅しとる時には、こうしてのんびり眺める事は無かったけぇ…ほんま、綺麗じゃねぇ♪」
輝夜が団子を片手に月見を楽しむ。
(月姫の丘……こんな場所もあるんだな)
その近くにグリムバルドも月見酒と団子に舌鼓をうちながら、改めてのんびりと見渡していた。
リアルブルーにて学生の間に見聞を深めようと、世界を巡って旅を続けて。道中で転移し異世界に来た時は流石に動揺したが、未知の文化、未知の生物との出逢いは心惹かれ、旺盛な好奇心が刺激される日々。
「まだまだ知らない名所が沢山あるなぁ」
グリムバルドは楽しいぜ、と内心呟く。
自由都市同盟――現在旅行しているこの国でまだ見ぬ景色が沢山あるのだろうと思うと、心が躍っていた。
「大きい鬼の女って女性として魅力ある思う? 怒らんけぇ正直にゆーて」
輝夜は、「正直な意見言ってくれそうじゃけぇね」と添えながらこっそりヴァレーリオに質問を。
すると男は輝夜をじーっと見つめた。
「輝夜は俺より身長高いっぽいもんな」
輝夜は「あはは♪」と笑う。輝夜は小柄な女性が可愛いと思っていた。ある人を浮かべつつ、(「……じゃけぇ、手ぇ出されんかったんじゃろうねぇ……」)、と。寂しい気持ちを覚えながら。
「大きくても小さくても関係ねぇよ。まぁ、俺は悪くねぇと思うけど? 大きい奴も……」
男の答えを聞いて、目を細めて微笑む。
「ありがと、ヴァレリー♪」
「ぇえ!?」
感謝とそして悪戯を込めて輝夜が肩を抱けば、男は勢いよく照れた。どうやら女性に慣れていないようだ。ひらひらと手を振ってその場から離れても、男は暫く赤くなったまま硬直していたことだろう。
そして。
「リオの兄ちゃん! お団子もらってきやした!」
鬼百合がヴァレーリオに声を掛ける。
「へへ、いっこどうですかぃ? きれーなおつきさまですぜ!」
にーっと笑顔を浮かべる鬼百合を見ていると、いつも尖っている男もつい微笑んでしまう。
二人肩を並べながら、大きく丸い月を見上げた。
「もしかして兄ちゃん、会いたい人がいるからあんなに頑張ってたんじゃないですかぃ?」
「え……」
あの月華に一人で戦いに挑むのは誰にだって出来る勇気では無かったと思うから。でも、「あんま無茶しちゃだめですぜ」。そう言ってヴァレーリオを見ると、男は何かを言いかけて――
「あっ、今動かんかった?」
ミィナが遠くに何かが居るのを見つける。
その正体は――
「うささんなのん!」
月光に照らされ光っている兎がいっぱい、大群でやって来る。
「――ん?」
月見酒を嗜んでいたカズマの元に兎の群れが襲う。
兎達はカズマの膝を占領し、挙句には肩や顔に登ろうとする兎まで。
何やらもみくちゃな状態になってしまっているが、本人は気にしない。自由にさせればさせる程もみくちゃになるが、こういう事には慣れてもいた。
「話に聞いて居た通り人懐っこい兎なんだね。……あ、駄目だよ、ヴィー」
兎に反応したペットのフェレットを制しつつ、カフカは自身の元へと遊びにやってきた兎を見つめて目を細める。
(……頑張ったからもふもふしても良いよな)
ご褒美に、と。グリムバルドも膝に乗る兎を思わず優しくもふり。
「うーうちの猫とは違った可愛さだな」
燈夜も白いふわもこをもふもふしながら心癒されながら、ロゼから貰った人参を奪い合ってぽりぽりする兎達に和む。
「ロゼさん、うちもお野菜分けてもらってもええ?」
「勿論よ! はいっ、ミィナちゃん♪」
「えへへ、有難うなのんー♪」
ミィナは「うささん、お野菜あるんよー♪」と人参を軽く振りつつ、寄って来た兎達にあげた。
(わぁっ!かりかり囓るんも可愛いなぁ♪)
ふにゃん、となりながらロゼに笑顔のサインを贈る。かわええよー! と。
(ミィナちゃんこそ可愛いわよ……ッ!)
なんてロゼが心の中で叫んでいるのには、恐らく気付いていないだろう。
兎達は無邪気な子供のように戯れる。
――だが中には寄り添うだけの大人しい兎も居るのだという。
「……!」
輝夜は周りと様子が違う兎と目が合った。思わず息を呑む。
寄り添う兎は、姿を借りて逢いにやってきた死者の魂だと云われているそうな。
しかし輝夜の元へとやってきた兎は寄り添いに来た訳ではなかった。遊びたそうにぴょんぴょんと跳ねているだけだ。
輝夜はほっとする。
(彼には生きとって欲しいけぇ……)
月姫の丘の伝承を信じている訳ではないが、博徒はゲン担ぎを気にするものだから。
元気にしているといいな、と心の何処かで願いながら。
(月姫の兎……日本で言う盆の蛍みたいなもんなのかな。魂が会いに来る、か)
燈夜は、想う。
(この中に俺の知る亡き人はいないだろう)
同時にそうである事を絶対に望んでいなかった。――それに、そもそも見えるなら必要ない。
「うーん、今は逢いたい故人は居らんけど、その内増えそうなん」
「え……?」
ミィナがぽつりと呟く言葉に、ロゼが反応する。
「一緒に遊んでた仲でも人って物凄く早く成長しちゃうんよ? うちの方が年上なんになぁ〜?」
エルフは人間よりも長い寿命を生きる。
ミィナは、それはある意味寂しい事であるのを物語るように首を傾げて。
「ミィナちゃん……私、一年でも、一日でも長く、生きるわ」
ロゼは約束する。少しでも貴方を、悲しませたくないから。
「爺ちゃんだけが俺の味方だったんだ」
ヴァレーリオが先程の続きを鬼百合に語った。
自身の寂しさを鬼百合なら話してもいい、と思えた。
そんな折、鬼百合の隣に寄り添う兎が。「お。誰か会いに来たみてぇだな」なんて男は悪戯っぽく言うと、「きっと、母ちゃんでさ」。
その言葉に男はハッとする。
「オレの母ちゃんはすごくきれーで優しくて、オレ大好きだったんでさ。……もう死んじゃったけど。
ハンターになって、旅先できれいなもんみると母ちゃんにも見せたかったなって思うんでさ。――だから今日は、一緒に見られてすっげ嬉しい」
寄り添う兎をそっと撫でて語る鬼百合。少年を見つめる男はほんの少し、目が潤んでいた。
――死者の魂。
(誰もが何処かで何かで繋がってる。情念然り、面識然り)
カズマは想う。
それは案外、この世とあの世でもそうなのかもしれない。
大事な事は相手をそのまま受け入れられるかって所だ、と。
カズマがジャケットの内側に潜り込んでいた月姫の兎に視線を落としてみる。兎はぐっすりと心地よさそうに眠っていた。
●
カフカは紡ぐ。
「月姫の兎達よ、月に帰るというなら迷わぬ様に『標』となる曲を捧げよう」
鎮魂と月の精霊に捧げる為の静かなる曲――
故郷で「月光の愛し子」と褒められた奏を――
月姫の兎達は雲に隠れた月を見上げ、導かれるように跳ねて何処かへと。
月と星の輝く丘で横笛は雅で幻想的な音色を届け、兎達の『標』となる。
(オレまだ、きれーに踊れてますかねぃ)
母が教えてくれた踊りを舞う鬼百合は、寄り添っていた兎が振り返った時追いかけたくなってしまったけれど――我慢。
ミィナと燈夜は確りと兎を見守った。ちゃんと帰れますように、と。
グリムバルドも皆と一緒にお月見の会の最後を彩る演奏と舞と、そして月に帰る兎を眺めながら丘の風を感じていた。
(良い夜だ――)
「ボロボロだったり妙に詳しかったり……リオ兄ちゃん、もしかして1人で戦いに行ったんですかぃ?」
「もしかしなくてもまた1人で如何にかしようとしたのん?」
鬼百合(ka3667)が尋ねると共に、ミィナ・アレグトーリア(ka0317)からもじとーっと見つめられ、「う」とヴァレーリオは声を漏らした。正しく、もしかしなくても図星なのである。
「抜け出せたから良かったけど、本当に危険な敵だったらどうするん?!」
「ミィナ……」
無茶を叱ってくれるのは心配してくれているからなのだろう。
――ただ。
「オイやめ……ッ首が、首がァ!」
男は襟首を掴まれガックンガックンしながら、心の白旗は全力で振っていたに違いない。
一方の月華は、沈黙を貫いていた。
花は未だ開かず蕾のままなのに神秘のベールに包まれた美しさが、見る者を虜にする。
「あの花がただの花だったら良かったんだが……まぁ歪虚じゃ仕方ない。頑張って刈るとしますかね」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)はアルケミックギアブレイドを構えつつ、確りと見据えた。先ずは月見の邪魔をする華を駆除しよう、と。
「そんじゃま、シンプルに退治と行こう」
龍崎・カズマ(ka0178)も月華を映す瞳、そして風に揺らぐ髪が――月明かりが溶け込んだような金色へと変貌。そのままグリムバルドと共に丘を駆け抜けていく。
「ヴァレーリオのお陰で事前情報があるのは助かるよ。……だから今は余り無理をしないで」
白水 燈夜(ka0236)も彼らに続く折、満身創痍にも関わらずまた無茶をしでかしそうなヴァレーリオへと気遣う。月華に挑んでいって痛い目に遭った事は一目瞭然だが、どうも懲りていない様子を察して。案の定男は共に駆け出しながら我武者羅に言った。じっとしてンのは性に合わねぇ! ……と。
燈夜は駆け出し際に月色の鳥の羽が舞う中――深いマリンブルーに染まった穏やかな眸で困ったように男を見つめ、そう言うと思った、と内心。
心理学を心得る燈夜にとってヴァレーリオの人となりは分かりやすい。きっと男は何を言っても突進するタイプなのだろう。
「うちらの事、そんなに信用できないん……?」
と、ミィナがぽつり。
勿論ハンターを信用していない訳じゃない。ただ自分で何とかやりたがる無鉄砲おバカは自重を知らないのだろう。
「もう知らんのん、お花に食べられてビリビリしとくといいのん!」
そんなふうにミィナがぷいっとすると、振り返ったヴァレーリオは悪ガキのようにニッと笑った。
月華は自身を目掛けてやってくるハンターの気配に気付くと、蔓がめきめきと伸びるようにうねりだす。そして射程内の距離に詰めたカズマへと蔓を振り落とした。だが、カズマは素早く回避。空振りして地面を叩く蔓。その隙を狙い切り落とす速さは、白光の残像が残る程。侵攻しつつ、邪魔な蔓は即座に眩い光を放つ鞭で叩き落とした。仲間を強く意識し道を拓く為、的確に捌いていく。元来戦場を渡り歩き戦い慣れているカズマだからこそ出来る業だ。
この隙に本体へと近付く叢雲 輝夜(ka5601)。
グリムバルドが蔓に雷撃を与え焼き払っていく。そして状況を注意深く見つめ、本体へ接近した輝夜を狙う蔓から守る為に光の防御壁を。壁が打撃を受け止め弾き返しガラスのように割れて霧散する中で―――輝夜は月華の懐に飛び込んで、つい妖艶に笑む。全身から水蒸気の様な煙が立ち上りつつ、牙の様な犬歯が微かに覗いた。
(ハンターとして初めての博打じゃね♪ ちぃと物足りん気けど、丁度ええじゃろ)
頑丈に守られていた蕾は輝夜を見下ろしながら、ゆっくりと開いた。すると、美しく煌めく白が。花が。華麗に咲き、蠢いた。輝夜を丸飲みするために――。
伸びてくる無数の蔓。飲み込もうとする花。通常ならかわしきれないような状況。だがしかし、それらをあしらうように軽やかに跳ぶ。同時に、仲間が援護。足を掴もうとした蔓を鬼百合が鋭い風で切り裂き、背後から打とうとする蔓を燈夜の水塊の鳥が虎の如き爪で勢いよく弾き返す。そして輝夜自身も赤い眸をよおく凝らしながら、するりとかわしていった。
この一瞬が終わると、蔓の束が虚しく地面を打ち付ける音が響くだろう。
「ふふ……賭けはうちらの勝ちじゃね♪」
スリルを味わった輝夜が色っぽく微笑を浮かべる。と、共に弱点を晒す月華へ一斉攻撃を繰り出した。
「さっさとご退場願うよ」
月華に言い放ったカフカ・ブラックウェル(ka0794)が魔導拳銃を構えると、黄金色と蒼色の焔が混じったような淡い光の残像が。そして炎のように取り巻きたなびくマーキナの弾丸を射出。一直線に向かって飛び、月華が弱点に苦しむように蠢動。畳みかけるように鬼百合と燈夜が月華に火球を放ち、爆発。月華は明らかに弱まった様子で、虫の息であるかのように悶えだす。
まるで月夜を飛ぶ白梟の様な翼を持つミィナは、駆け寄って弓で急所を射る。グリムバルドも蔓を刈りながらカズマと共に、トドメは仲間を信じて託して。
「これで終いじゃ♪」
輝夜が精神統一すると一気に間合いを詰めて貫き斬った。
その衝撃により月華が数多もの花弁を散らし、だがそれも煌めくように儚く消えていく。
月夜に散る花を見つめながら燈夜が呟く。こういうのもまた乙なものだね、と。
散り際に光の粒のようにきらきらと輝きながら空に溶けてしまうのを見つめていたグリムバルドが、そっと頷いていた。
●
秋の夜長は尚続く
改めてようこそ、ジェオルジの観光名所『月姫の丘』へ
「ロゼさんお久しぶりなんよー! 元気しとった?」
「ミィナちゃーん!」
ミィナが仲間の応急手当を終えた頃、ロゼと合流し一緒にきゃっきゃ。
「カフカ君もお久しぶりねっ!」
そして仲良しの輪はカフカにも。三人は薔薇のガーデンパーティーで一緒にお茶した仲なのである。
「やぁ、ミィナ、ロゼ。久しぶり。ロゼはこの前、僕の伯父さんと会ったんだって?」
「そうなのよ! とっても素敵な人だったわ」
紳士的に振舞ってくれたことをカフカに話し、はにかんだ。「伯父さんが君に宜しくと言ってたよ」とカフカが告げると、ロゼは嬉しそうに微笑む。
月は満ち、
静かに優しく彼らを照らす――
「月餅とハーブティーを用意してみたよ」
カフカの差し入れに、皆が喜ぶ。
「このハーブティー、なんだか落ち着くわ」
月餅を美味しそうに食べつつロゼがほっこり。
「ふふ」
フレーバーがカモミールなのは食べ過ぎになる事を懸念してのカフカの優しさであるのは、ここだけの話。
「俺も折角だしと思って兎饅頭作ってきたから良ければどうぞ」
燈夜の兎饅頭も皆大絶賛。
「可愛いのんー!」
ミィナが思わずきゅんきゅんしながら言った。
「白いのがこしあん、ピンクのが白あんな」
燈夜がそう添えていると、ふと、ヴァレーリオと目が合う。
「(欲しいのかな……?)良かったらヴァレーリオも食べる?」
燈夜の厚意に一瞬ぎくっとなっていたが、蚊が鳴くような声でどーもと男が受け取る。仏頂面の割に何処か嬉しそうだっただろう。兎は可愛いから好きなのである。
楽しいお月見の会。
(実家の寺では月見もしてたけど、転移してからは久しぶりだな)
燈夜はしみじみ想い抱きつつ、月見酒を。強い訳ではなくすぐ眠たくなってしまうから、ちょっとだけ。
カズマは皆からは少し離れながら静かに空を見上げていた。
(届かないからこそ眺めていられるものを見ていたい――)
今宵は美しい夜
風雅なる秋の名月を静かに見晴らせる丘で眺めるなら猶更
「旅しとる時には、こうしてのんびり眺める事は無かったけぇ…ほんま、綺麗じゃねぇ♪」
輝夜が団子を片手に月見を楽しむ。
(月姫の丘……こんな場所もあるんだな)
その近くにグリムバルドも月見酒と団子に舌鼓をうちながら、改めてのんびりと見渡していた。
リアルブルーにて学生の間に見聞を深めようと、世界を巡って旅を続けて。道中で転移し異世界に来た時は流石に動揺したが、未知の文化、未知の生物との出逢いは心惹かれ、旺盛な好奇心が刺激される日々。
「まだまだ知らない名所が沢山あるなぁ」
グリムバルドは楽しいぜ、と内心呟く。
自由都市同盟――現在旅行しているこの国でまだ見ぬ景色が沢山あるのだろうと思うと、心が躍っていた。
「大きい鬼の女って女性として魅力ある思う? 怒らんけぇ正直にゆーて」
輝夜は、「正直な意見言ってくれそうじゃけぇね」と添えながらこっそりヴァレーリオに質問を。
すると男は輝夜をじーっと見つめた。
「輝夜は俺より身長高いっぽいもんな」
輝夜は「あはは♪」と笑う。輝夜は小柄な女性が可愛いと思っていた。ある人を浮かべつつ、(「……じゃけぇ、手ぇ出されんかったんじゃろうねぇ……」)、と。寂しい気持ちを覚えながら。
「大きくても小さくても関係ねぇよ。まぁ、俺は悪くねぇと思うけど? 大きい奴も……」
男の答えを聞いて、目を細めて微笑む。
「ありがと、ヴァレリー♪」
「ぇえ!?」
感謝とそして悪戯を込めて輝夜が肩を抱けば、男は勢いよく照れた。どうやら女性に慣れていないようだ。ひらひらと手を振ってその場から離れても、男は暫く赤くなったまま硬直していたことだろう。
そして。
「リオの兄ちゃん! お団子もらってきやした!」
鬼百合がヴァレーリオに声を掛ける。
「へへ、いっこどうですかぃ? きれーなおつきさまですぜ!」
にーっと笑顔を浮かべる鬼百合を見ていると、いつも尖っている男もつい微笑んでしまう。
二人肩を並べながら、大きく丸い月を見上げた。
「もしかして兄ちゃん、会いたい人がいるからあんなに頑張ってたんじゃないですかぃ?」
「え……」
あの月華に一人で戦いに挑むのは誰にだって出来る勇気では無かったと思うから。でも、「あんま無茶しちゃだめですぜ」。そう言ってヴァレーリオを見ると、男は何かを言いかけて――
「あっ、今動かんかった?」
ミィナが遠くに何かが居るのを見つける。
その正体は――
「うささんなのん!」
月光に照らされ光っている兎がいっぱい、大群でやって来る。
「――ん?」
月見酒を嗜んでいたカズマの元に兎の群れが襲う。
兎達はカズマの膝を占領し、挙句には肩や顔に登ろうとする兎まで。
何やらもみくちゃな状態になってしまっているが、本人は気にしない。自由にさせればさせる程もみくちゃになるが、こういう事には慣れてもいた。
「話に聞いて居た通り人懐っこい兎なんだね。……あ、駄目だよ、ヴィー」
兎に反応したペットのフェレットを制しつつ、カフカは自身の元へと遊びにやってきた兎を見つめて目を細める。
(……頑張ったからもふもふしても良いよな)
ご褒美に、と。グリムバルドも膝に乗る兎を思わず優しくもふり。
「うーうちの猫とは違った可愛さだな」
燈夜も白いふわもこをもふもふしながら心癒されながら、ロゼから貰った人参を奪い合ってぽりぽりする兎達に和む。
「ロゼさん、うちもお野菜分けてもらってもええ?」
「勿論よ! はいっ、ミィナちゃん♪」
「えへへ、有難うなのんー♪」
ミィナは「うささん、お野菜あるんよー♪」と人参を軽く振りつつ、寄って来た兎達にあげた。
(わぁっ!かりかり囓るんも可愛いなぁ♪)
ふにゃん、となりながらロゼに笑顔のサインを贈る。かわええよー! と。
(ミィナちゃんこそ可愛いわよ……ッ!)
なんてロゼが心の中で叫んでいるのには、恐らく気付いていないだろう。
兎達は無邪気な子供のように戯れる。
――だが中には寄り添うだけの大人しい兎も居るのだという。
「……!」
輝夜は周りと様子が違う兎と目が合った。思わず息を呑む。
寄り添う兎は、姿を借りて逢いにやってきた死者の魂だと云われているそうな。
しかし輝夜の元へとやってきた兎は寄り添いに来た訳ではなかった。遊びたそうにぴょんぴょんと跳ねているだけだ。
輝夜はほっとする。
(彼には生きとって欲しいけぇ……)
月姫の丘の伝承を信じている訳ではないが、博徒はゲン担ぎを気にするものだから。
元気にしているといいな、と心の何処かで願いながら。
(月姫の兎……日本で言う盆の蛍みたいなもんなのかな。魂が会いに来る、か)
燈夜は、想う。
(この中に俺の知る亡き人はいないだろう)
同時にそうである事を絶対に望んでいなかった。――それに、そもそも見えるなら必要ない。
「うーん、今は逢いたい故人は居らんけど、その内増えそうなん」
「え……?」
ミィナがぽつりと呟く言葉に、ロゼが反応する。
「一緒に遊んでた仲でも人って物凄く早く成長しちゃうんよ? うちの方が年上なんになぁ〜?」
エルフは人間よりも長い寿命を生きる。
ミィナは、それはある意味寂しい事であるのを物語るように首を傾げて。
「ミィナちゃん……私、一年でも、一日でも長く、生きるわ」
ロゼは約束する。少しでも貴方を、悲しませたくないから。
「爺ちゃんだけが俺の味方だったんだ」
ヴァレーリオが先程の続きを鬼百合に語った。
自身の寂しさを鬼百合なら話してもいい、と思えた。
そんな折、鬼百合の隣に寄り添う兎が。「お。誰か会いに来たみてぇだな」なんて男は悪戯っぽく言うと、「きっと、母ちゃんでさ」。
その言葉に男はハッとする。
「オレの母ちゃんはすごくきれーで優しくて、オレ大好きだったんでさ。……もう死んじゃったけど。
ハンターになって、旅先できれいなもんみると母ちゃんにも見せたかったなって思うんでさ。――だから今日は、一緒に見られてすっげ嬉しい」
寄り添う兎をそっと撫でて語る鬼百合。少年を見つめる男はほんの少し、目が潤んでいた。
――死者の魂。
(誰もが何処かで何かで繋がってる。情念然り、面識然り)
カズマは想う。
それは案外、この世とあの世でもそうなのかもしれない。
大事な事は相手をそのまま受け入れられるかって所だ、と。
カズマがジャケットの内側に潜り込んでいた月姫の兎に視線を落としてみる。兎はぐっすりと心地よさそうに眠っていた。
●
カフカは紡ぐ。
「月姫の兎達よ、月に帰るというなら迷わぬ様に『標』となる曲を捧げよう」
鎮魂と月の精霊に捧げる為の静かなる曲――
故郷で「月光の愛し子」と褒められた奏を――
月姫の兎達は雲に隠れた月を見上げ、導かれるように跳ねて何処かへと。
月と星の輝く丘で横笛は雅で幻想的な音色を届け、兎達の『標』となる。
(オレまだ、きれーに踊れてますかねぃ)
母が教えてくれた踊りを舞う鬼百合は、寄り添っていた兎が振り返った時追いかけたくなってしまったけれど――我慢。
ミィナと燈夜は確りと兎を見守った。ちゃんと帰れますように、と。
グリムバルドも皆と一緒にお月見の会の最後を彩る演奏と舞と、そして月に帰る兎を眺めながら丘の風を感じていた。
(良い夜だ――)
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 6人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/30 21:55:39 |
|
![]() |
相談所 叢雲 輝夜(ka5601) 鬼|20才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/10/04 08:42:09 |