ゲスト
(ka0000)
巡礼者 マリーの冒険
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/04 22:00
- 完成日
- 2015/10/12 07:11
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
王国巡礼の旅を続ける貴族の娘・クリスティーヌとその侍女・マリーの二人旅は、広大な王国南部=シエラリオ地方をようやく抜け、東部のリンダール地方に達した。
「ここに至るまで、長い…… 長い道のりでしたね、お嬢様! いよいよ血湧き肉踊る冒険の再開ですよ!」
「……血湧き肉踊る巡礼の旅って、いったい……」
苦笑する主人・クリスを急かすように前へ、前へと進むマリー。
リンダール地方の特徴と言えば、やはり王国と同盟の国境周辺に広がる『リンダールの森』だろう。王国の成立以前からこの地に広がる森は深く、広大であり、長い間人々の介入を拒んできた。同盟まで続くブリギッド街道こそ通したものの、昼なお暗い森の中には中継地となる村落もなく、その道幅から言っても大規模輸送には適さない。ついでに言えば、時折、森に住む野生動物が襲い掛かってくることもある。
「王国と同盟の間の通商が専ら海上交通によって行われている所以ですね。……でも、マリー。私たちの行く巡礼路は森の縁に沿って北上します。森に入る事はありませんよ?」
「えー……」
とあるリンダール地方の聖堂── 夕食を終えて今後の予定を話していると、隣のテーブルにいた巡礼者が2人に声を掛けて来た。
「教会が推奨する正式な巡礼路ではありませんが…… 森の中の聖堂を参拝するコースもあるらしいですよ。辿り着くだけでも色々と大変なのであまり人は多くないようですが、運が良ければ森の中でユグディラを群れで見る事もできるとか」
「ユグディラ!」
その単語を聞いた瞬間、マリーが話題に食いついた。
ユグディラとは『妖猫』とも呼ばれる小動物の様な幻獣だ。王国の至る所で目撃例があり、特に地方の農村に住む人々にとってはそれほど珍しい生き物というわけでもない。場所によっては幸運の象徴として扱われたりする一方、農家や旅人などにとっては、畑を荒らしたりお弁当を取っていく害獣と見なされることもある。
お気に入りの御伽噺に出てくる『主人公を不思議な旅に誘う妖猫』に思い入れがあるマリーにとっては、子供の頃から『ぜひ一度はこの目で見てみたい!』と常々思っていた生き物だった。
「ぜひ参りましょう、お嬢様! これも何かのお導きですよ!」
「しかし、この旅も予定よりだいぶ遅れていますし、寄り道は……」
言い掛けたクリスは、しかし、瞳を潤ませて見つめるマリーの姿にやれやれと肩を竦め……
「泣く子には勝てませんね」
と、そう言って了承した。
翌朝、クリスとマリーの2人は正規の巡礼路から外れ、森の中の古い聖堂への『ツアー』が組まれているという村へ向かった。
リンダールの森の外縁部に位置するその村は、元々は開拓村であったと言う。村としての歴史は他の地方に比べて浅いが、開拓村としては最初期の頃のものらしく、今ではすっかり普通の村としての佇まいを見せている。
辿り着いた教会で『ツアー』について話を聞くと、『ガイド』を兼ねる修道士が済まなそうな微笑で言った。
「お客さん(と修道士は言った)たち、運が悪い! つい昨日、ツアーが帰って来たばかりなんだ。また参加者の数が集まるまで待っててくれるかな? なに、ほんの2、3日の話だよ!」
クリスは表情を引き締めた。
「それは…… つまり、団体で行動しないとならないような脅威がある、と……?」
「うん、まぁ、大人数なら森の獣が襲って来る可能性も減るし、皆で纏めて行った方が護衛の雇用費も安く済むし……」
「具体的には?」
「……最近、盗賊が出るらしいんだ。ツアーを組まずに森に入った何組かが帰って来なかった。噂では、ユグディラの強盗団が出るとかなんとか」
「嘘だ!」
マリーが叫んだ。ユグディラがそんなことするわけない! と。泣きながら教会を飛び出していく。クリスはその後を追ったが、すぐに見失ってしまった。
「ユグディラは、そんなことしない……」
村の外れの材木置き場の陰── 膝を抱えて座りながら、マリーが呟く。
くー、とお腹が鳴る音で時間が経った事に気づき、目の端の涙を両袖で拭いながら、巡礼者の弁当箱を開ける。
直後、横合いから飛び出して来た何かが、弁当のおかず──それも選りに選ってマリーが大好きなサラダのポテト──を掻っ攫った。
「ユグディラ!」
大慌てでびっくりしながら、材木の上に飛び乗った生き物に指を差す。その大声に驚いて、慌てて森へと逃げていくユグディラ。それをポカンと見送るマリーの胸中に、裏切られた、との想いと怒りがふつふつと湧いてきた。
「許さない! ぜったい掴まえてやるんだから!」
マリーは後を追って森へ入った。振り返ったユグディラはぴょんと跳んで驚いた。その足が余りにも速かったから。
そんなこんなで一、二時間── 執念の追いかけっこを制したマリーがついにユグディラを捉えた。
「掴まえたーっ!」
両手を前に地を蹴り、ユグディラの胴へと飛びつくマリー。必中の予感はしかし、手の内からするりと獲物が逃れていったことで絶望へと変わった。
「逃げられた……」
荒い息を吐きながら、仰向けに転がり、枝葉の隙間に空を見上げる。暫しそのまま虚心でいると、木々の向こうから人の声がした。
(クリスが追いかけてきたのかな……?)
うつ伏せになり、そちらを見やる。
想像は外れた。そこにはあからさまに『いかにも』な格好をした男たちがいた。その手には先程のユグディラ。首根っこを掴まれ、暴れている。
「なんだ、ユグディラだ。本当にいやがった」
「丁度いい。こいつを強盗ってことにして突き出し、懸賞金を頂きましょうぜ。最近は巡礼者どもも警戒していてとんと獲物もかかりませんし、とんずらする頃合だ」
「違ぇねぇ。こいつに俺たちの罪を被ってもらって、ついでに懐も暖めてもらうとしようか」
流れてくるその言葉に、マリーはその身を震わせた。震えながら、やっぱりユグディラは強盗なんてしてなかったんだ! との確信を得る。
「しかし、こいつらは人語を解するとも言うぜ? どうにかして俺たちの事を伝えられたらどうするんだ?」
「なに、死体はものを語らねぇ。人もユグディラも一緒ですて」
ユグディラを提げたまま、高笑いと共に去っていく男たち。
「助けなきゃ──」
マリーはグッと拳を握った。
その少し前── 村でずっとマリーを探していたクリスは、それらしき少女がユグディラを追って森へ入っていったとの情報を得て、慌てて教会へと取って返した。
「マリーを追います。森の中の案内をお願いします」
事情を話し、頼み込む。だが、修道士は慌てて首を振った。
「我々だけで行くなんて、自殺行為だ!」
「ご心配には及びません。先程、ハンターたちを呼びました。……確か、人数さえ揃えば、ツアーは出発できるのでしたよね?」
「ここに至るまで、長い…… 長い道のりでしたね、お嬢様! いよいよ血湧き肉踊る冒険の再開ですよ!」
「……血湧き肉踊る巡礼の旅って、いったい……」
苦笑する主人・クリスを急かすように前へ、前へと進むマリー。
リンダール地方の特徴と言えば、やはり王国と同盟の国境周辺に広がる『リンダールの森』だろう。王国の成立以前からこの地に広がる森は深く、広大であり、長い間人々の介入を拒んできた。同盟まで続くブリギッド街道こそ通したものの、昼なお暗い森の中には中継地となる村落もなく、その道幅から言っても大規模輸送には適さない。ついでに言えば、時折、森に住む野生動物が襲い掛かってくることもある。
「王国と同盟の間の通商が専ら海上交通によって行われている所以ですね。……でも、マリー。私たちの行く巡礼路は森の縁に沿って北上します。森に入る事はありませんよ?」
「えー……」
とあるリンダール地方の聖堂── 夕食を終えて今後の予定を話していると、隣のテーブルにいた巡礼者が2人に声を掛けて来た。
「教会が推奨する正式な巡礼路ではありませんが…… 森の中の聖堂を参拝するコースもあるらしいですよ。辿り着くだけでも色々と大変なのであまり人は多くないようですが、運が良ければ森の中でユグディラを群れで見る事もできるとか」
「ユグディラ!」
その単語を聞いた瞬間、マリーが話題に食いついた。
ユグディラとは『妖猫』とも呼ばれる小動物の様な幻獣だ。王国の至る所で目撃例があり、特に地方の農村に住む人々にとってはそれほど珍しい生き物というわけでもない。場所によっては幸運の象徴として扱われたりする一方、農家や旅人などにとっては、畑を荒らしたりお弁当を取っていく害獣と見なされることもある。
お気に入りの御伽噺に出てくる『主人公を不思議な旅に誘う妖猫』に思い入れがあるマリーにとっては、子供の頃から『ぜひ一度はこの目で見てみたい!』と常々思っていた生き物だった。
「ぜひ参りましょう、お嬢様! これも何かのお導きですよ!」
「しかし、この旅も予定よりだいぶ遅れていますし、寄り道は……」
言い掛けたクリスは、しかし、瞳を潤ませて見つめるマリーの姿にやれやれと肩を竦め……
「泣く子には勝てませんね」
と、そう言って了承した。
翌朝、クリスとマリーの2人は正規の巡礼路から外れ、森の中の古い聖堂への『ツアー』が組まれているという村へ向かった。
リンダールの森の外縁部に位置するその村は、元々は開拓村であったと言う。村としての歴史は他の地方に比べて浅いが、開拓村としては最初期の頃のものらしく、今ではすっかり普通の村としての佇まいを見せている。
辿り着いた教会で『ツアー』について話を聞くと、『ガイド』を兼ねる修道士が済まなそうな微笑で言った。
「お客さん(と修道士は言った)たち、運が悪い! つい昨日、ツアーが帰って来たばかりなんだ。また参加者の数が集まるまで待っててくれるかな? なに、ほんの2、3日の話だよ!」
クリスは表情を引き締めた。
「それは…… つまり、団体で行動しないとならないような脅威がある、と……?」
「うん、まぁ、大人数なら森の獣が襲って来る可能性も減るし、皆で纏めて行った方が護衛の雇用費も安く済むし……」
「具体的には?」
「……最近、盗賊が出るらしいんだ。ツアーを組まずに森に入った何組かが帰って来なかった。噂では、ユグディラの強盗団が出るとかなんとか」
「嘘だ!」
マリーが叫んだ。ユグディラがそんなことするわけない! と。泣きながら教会を飛び出していく。クリスはその後を追ったが、すぐに見失ってしまった。
「ユグディラは、そんなことしない……」
村の外れの材木置き場の陰── 膝を抱えて座りながら、マリーが呟く。
くー、とお腹が鳴る音で時間が経った事に気づき、目の端の涙を両袖で拭いながら、巡礼者の弁当箱を開ける。
直後、横合いから飛び出して来た何かが、弁当のおかず──それも選りに選ってマリーが大好きなサラダのポテト──を掻っ攫った。
「ユグディラ!」
大慌てでびっくりしながら、材木の上に飛び乗った生き物に指を差す。その大声に驚いて、慌てて森へと逃げていくユグディラ。それをポカンと見送るマリーの胸中に、裏切られた、との想いと怒りがふつふつと湧いてきた。
「許さない! ぜったい掴まえてやるんだから!」
マリーは後を追って森へ入った。振り返ったユグディラはぴょんと跳んで驚いた。その足が余りにも速かったから。
そんなこんなで一、二時間── 執念の追いかけっこを制したマリーがついにユグディラを捉えた。
「掴まえたーっ!」
両手を前に地を蹴り、ユグディラの胴へと飛びつくマリー。必中の予感はしかし、手の内からするりと獲物が逃れていったことで絶望へと変わった。
「逃げられた……」
荒い息を吐きながら、仰向けに転がり、枝葉の隙間に空を見上げる。暫しそのまま虚心でいると、木々の向こうから人の声がした。
(クリスが追いかけてきたのかな……?)
うつ伏せになり、そちらを見やる。
想像は外れた。そこにはあからさまに『いかにも』な格好をした男たちがいた。その手には先程のユグディラ。首根っこを掴まれ、暴れている。
「なんだ、ユグディラだ。本当にいやがった」
「丁度いい。こいつを強盗ってことにして突き出し、懸賞金を頂きましょうぜ。最近は巡礼者どもも警戒していてとんと獲物もかかりませんし、とんずらする頃合だ」
「違ぇねぇ。こいつに俺たちの罪を被ってもらって、ついでに懐も暖めてもらうとしようか」
流れてくるその言葉に、マリーはその身を震わせた。震えながら、やっぱりユグディラは強盗なんてしてなかったんだ! との確信を得る。
「しかし、こいつらは人語を解するとも言うぜ? どうにかして俺たちの事を伝えられたらどうするんだ?」
「なに、死体はものを語らねぇ。人もユグディラも一緒ですて」
ユグディラを提げたまま、高笑いと共に去っていく男たち。
「助けなきゃ──」
マリーはグッと拳を握った。
その少し前── 村でずっとマリーを探していたクリスは、それらしき少女がユグディラを追って森へ入っていったとの情報を得て、慌てて教会へと取って返した。
「マリーを追います。森の中の案内をお願いします」
事情を話し、頼み込む。だが、修道士は慌てて首を振った。
「我々だけで行くなんて、自殺行為だ!」
「ご心配には及びません。先程、ハンターたちを呼びました。……確か、人数さえ揃えば、ツアーは出発できるのでしたよね?」
リプレイ本文
「まず最初に頑張ることと無謀の違いを弁えやがるです。自分が弱いと自覚すること──その上で如何に行動するかが大事なのですよ?」
──ユグディラ救出を決断したマリーの脳裏に、旅の途中でハンターたちから聞いた教訓や冒険譚がめまぐるしい勢いで流れ始めた。
先の言葉は、確か…… そう、シレークス(ka0752)さんから護身術か何かについて聞いた時のものだ。修道女らしくない破天荒な、お胸の大きなお姉さん。……うん。あれだけ大きいのなら私やクリスにちょっと分けてくれてもバチは当たらないと思う。精霊様は意地悪だ。
「危険には近づかない。逃げられる時には逃げる──私が今から教える事は、それが出来ない場合の話でやがります。なに、非力なら非力なりに出来ることもあるですよ。力がねーなら頭を使いやがるです」
脳裏に情景付きで再生されるシレークスの教え── マリーは考えた。まずは状況の整理から。目的はユグディラの救出。障害は4人の武装した盗賊たち──とてもじゃないが私が正面からどうこうできる相手じゃない。
(どうしよう、どうしよう……)
囁きながら、それでも目だけは現状を観察する。
盗賊たちのキャンプは聖堂前の開けた空間。中央に焚き火があり、少し離れた木の枝にユグディラがグルグル巻きで吊るされている。
(気づかれずには近づけそうもない…… 盗賊たちの注意を逸らさなきゃ)
脳裏に別のハンターの姿が浮かぶ。とある宿屋で一緒になった、確か、イルム=ローレ・エーレ(ka5113)さん。元帝国騎士爵という物腰の洗練された男の人で…… あれ? 女の人だっけ? まぁ、綺麗で格好良かったからどっちでもいいか(
「人というものは日常の中で何か不自然なことに遭遇すると、それを確認せずにはいられないそうだよ。音とか光とかには特に。不安感を拭う為、好奇心を満たす為に、ね。そして、人というものは、分からない部分に関しては勝手に想像を膨らませて自分で補完してしまう」
例えば、長年使われていないはずの部屋から物音が聞こえてきたら? 無人のはずの物音から人の声が聞こえてきたら?
想像してごらん。夜の闇の帳の向こうで、光が明滅していたら? そして、何かを咀嚼するような水音が聞こえてきたとしたら? 勇気を振り絞ってそちらに進み、何もないことを確認してホッとした直後、地面の血溜まりに気づいたら? ついでに背後から生臭い獣の臭いが漂ってきたとしたら──!
(きゃああぁぁ……!!!)
悲鳴を上げるのをどうにか堪えるマリーの脳裏で、回想のイルムが笑う。
(人は見えないものに不安を抱く。不安は容易に増幅できる)
でなくても、人はそれを確認せずにはいられない── マリーは一つ頷くと、荷物から手持ちの道具を取り出し、並べた。
シレークスに貰った水鉄砲。イルムからは無線機にLEDライト── この蚤と槌はいったい誰から貰ったものか…… えーと、あれだ。そう、あの若い男の人…… 名前は、えーと…… ……そう。とにかく『埴輪の人』(アルト・ハーニー(ka0113)さん)(←酷
(この森はユグディラの棲む森── そこを上手く利用すれば……)
●
同日。森に面した村の教会── 依頼を受けて集ったハンターたちは、出迎えたクリスから改めて詳細について説明を受けた。
「盗賊ですか。巡礼者を食い物にするとは卑劣な輩だ。成敗せねばなりません。……しかし、付き人はなぜ一人で森に?」
生真面目に頷きつつ訊ねる『騎士』ユナイテル・キングスコート(ka3458)。クリスは肩身を狭くしつつ、一連の事情を正直に説明する。
「……それで森へ? 盗賊が出没しているというのに、無謀ですね」
「全く。主人に心配かけてばかりの侍女だなんて…… 一度、お説教してやらないといけませんね」
あらあらと頬に手を当てる、眼鏡に白衣の日下 菜摘(ka0881)。黒ゴスドレスのお嬢様・セシール・フェーヴル(ka4507)が腰に両手を当て、息を吐く。
準備と情報収集を終え、一行はガイドと共に森へと入った。
「わたくし、森なんて好きではありませんわ。せっかくのドレスにクモの巣や蔦が絡むし……」
枝葉やクモの巣を払いながら進むセシールが、ふと視線を感じてクリスを振り返る。
「何か?」
「いえ、帝国の良家のお出でと伺いましたが、この様な森の中でもしっかりとした足取り。感心しておりました」
「あら。わたくしだってハンターの端くれ。その気になればクリスさんよりもずっと速く歩けますのよ?」
褒められた喜色を隠しながら、しかし、満更でもなさそうにセシール。その言葉が終らぬ内に、後ろから「ぴゃっ!」と声が上がった。新人ハンター・稲峰 翠月(ka5627)が、除けた枝葉に顔面を鞭の如く叩かれた悲鳴だった。
「……皆さん、旅慣れておりますのね」
赤くなった鼻を押さえ、翠月が恥ずかしそうに言った。リアルブルーにいた頃、翠月は『ガチガチのインドア派』(?)であった。歌やダンスで肺活量には自信はあるが、こうして深い森を歩くとなれば話は別だ。
「私などははまだまだ…… 冒険用に買った装備も馴染んでおらず、服ずれしてしまいましたわ」
擦れて赤くなった肌を見下ろし、嘆息する翠月。それを覗き込んだセシールが革鎧の下のセーラー服に気づき、暫し青世界のファッション談義に花が咲く。
「しかし、それにしても広い森ですね。後に続く我々の為に何か目印でも残しておいてくれると助かるのですが……」
大きな倒木を潜り抜けつつ、菜摘。痕跡はすぐに──必要以上に見つかった。やたら元気な足跡にあちこちで枝葉──そう、まるでユグディラと追いかけっこでもしたような。
「あの子ったら…… 本当にすいません」
頭を下げるクリスの元へ、先行していたはずの月影 夕姫(ka0102)が戻って来て、言った。
「ただの迷子なら良かったんだけどね」
嫌な予感を覚えながら、後に続いて先へと進む。
そこでは膝をついたユナイテルが硬い表情で踏み荒らされた地面を調べていた。
「足跡だ。屈強な男のものが複数……おそらくは4人分。噂に聞く盗賊たちのものだろう」
一行の表情が引き締まる。クリスはその顔を蒼白にして、守り刀の柄をギュッと掴む。
「落ち着いて。マリーが捕まった痕跡はないわ。ユグディラは捕まったようだけど……」
足跡から状況を推察し、安心させるように夕姫は言った。盗賊たちの居場所に関しても、大体予測がついていた。
「盗賊の正体が人間であるのなら、この森の中で拠点にできそうな場所は限られる。例えば、そう…… 森の中に放置された、古い石造りの聖堂とか」
「……マリーはその捕まったユグディラを助けにいったと思います。あの子、ユグディラには特別な想い入れがあるようなので」
ならば急いだ方がいい。一行が移動を開始する。
村に戻った方が良い、と勧めるユナイテルに、だが、クリスは頭を振った。
「すみません。でも、私には彼女に対する責任があるのです」
●
森に夜の帳が下り── マリーは行動を開始した。
用を足す為に群れから離れた者を追い。鼻歌混じりに用を足す男の股間を、マリーが目を逸らしながら木の枝でもって強打する。
悶絶し、気絶した男を蔦で縛って無力化すると、脳裏に浮かんだシレークスがグッドスマイルで親指を立てた。ししょーは言っていた。「どんなに汚く無様でも、最後に笑えれば良いのです」(きら~ん!)←星
「おせ~な、あいつ……」
「今夜はなんだか気味が悪ぃや。ずっと誰かに見られてるような……」
夜の下、森を渡る風がざわざわと枝葉を揺らし── と、闇の中にキラリと光が瞬き、人の鳴き声の様な、呻き声の様な声が辺りにくぐもった。
「うおっ?!」
「ひいっ!?」
驚き、悲鳴を上げる手下たち。現実主義者のリーダーが彼等を引き連れ、異常を確認しにそちらへ向かう。見出したのは、枝に吊るされた手鏡と、声を発する何かの機械──
その反対側の森の草の陰──ひょっこりと姿を現したマリーが抜き足差し足でユグディラに近づき、ナイフで縄を切ってやる。
「さあ、早く逃げなさい」
「!」
一瞬、きょとんとマリーを見返したユグディラが、意図を察して森へと駆ける。
「あ、てめぇ!」
気づかれた。マリーは立ち上がると『盗賊たちの方へ』駆け出した。思わずたたらを踏む彼らを他所に、『聖堂』の中へと飛び込み、扉を閉める。
(大人の足からは逃げられない。ここで盗賊たちを撒く!)
アルトさん(←やっと思い出した)が言っていた事を回想付きで思い出す。
「多人数相手の場合、広い場所だと囲まれやすいからな。その点、屋内等の狭い場所なら相手の動きを制限できるし、動線も読み易くなる。時間稼ぎにはもってこいだ。罠も仕掛け易いしな」
「ブービートラップ! ブービートラップ!」
「よくそんな単語知ってんな…… まあ、森の中なら草を結ぶだけでも足を引っ掛ける罠ができる。屋内なら、そうだな……」
アルトの教えをマリーは実践した。昼の間に準備した仕掛けを使い、罠を仕掛けて身を隠す。
ようやく扉を破った盗賊たちは、すぐに屋内の捜索に入った。
廊下の先。僅かに開いた扉の隙間から灯りが洩れているのに気づく。扉の上には岩が乗せられており…… 「所詮子供の浅知恵よ」とほくそ笑みつつ、扉を蹴破り、中へと入る。
だが、頭上に気を取られていた手下は、足元の『木の棒の罠』に脛を強打されて悶絶する羽目になった。もう一人の手下は部屋が無人であることに気づいて慌てて外に出ようとしたが、振り返ったところを廊下からマリーに塩水鉄砲を顔面に浴びせ掛けられ。扉を蹴り閉めたマリーがバリゲードでそれを閉塞する。
(閉じ込めた。今の内に外へ……!)
迷路の様な廊下を走り、入り口から外へ飛び出そうとしたマリーは、だが、何かにぶつかり、足を止めた。
ぶつかった何か──閉じ込めたはずのリーダーがほくそ笑む。
「あいにくだったなぁ、嬢ちゃん。この聖堂は余りに古くてな。あちこち崩れていやがるんでそこから外に出れるんだ」
「灯りが見えます。注意を」
一方、捜索隊── 先頭を行くユナイテルが、焚き火の光に気づいて移動を止めた。
──聖堂前の空き地は無人。内部からはドタバタ音が聞こえ、やがて、ボロボロになった2人が出て来る。
「人…… そうでしたわ。敵はVoidではないのでしたわね」
呟く翠月の手を握るクリス。その手もまた震えている……
ハンターたちは手早く方針を決めると、菜摘とユナイテルの2人だけで前に出た。1人、側面へと回り込む夕姫。セシールと翠月はクリスとその場に待機する……
「うおっ、びびった…… なんだ、お前ぇたちは?!」
「あのー、迷子になった付き人を探しているのですが、こちらで見かけてはいませんか?」
呑気なおのぼりさんといった風情を装い、盗賊たちに訊ねる菜摘。男たちはごくりと唾を呑んだ。──この地を去る前夜に獲物が向こうから飛び込んで来やがった。護衛はちんちくりん(ユナイテル:「ん?」と青筋)がただ一人。まさに鴨葱だ。
「さあ? 元気なお嬢ちゃんなんて見てねぇなぁ。それより……」
剣を抜く盗賊2人。菜摘とユナイテルは顔を見合し、当たりですね、と肩を竦める。
「お前ぇら、何を言って……っ!?」
盗賊が言い終わる前に、抜剣したユナイテルが踏み込んだ。ただの一合も打ち合うことなく、体当たりから足を払い、倒れたその喉元に剣先を突きつける。
「剣を合わせる価値もない…… 抵抗は無意味だ。疾く投降せよ!」
「どうかな?」
子供呼ばわりされた鬱憤を晴らすように騎士らしく叫ぶユナイテルに答えつつ、聖堂の中からリーダーが現れた──捕らえられたマリーと共に。
「マリー!」
「ちょっ……!?」
セシールと翠月が止める前にクリスが飛び出し、守り刀で切りつけた。難なく受け止めるリーダー。まだ無事な手下が一人、クリスの背後に回りこみ── 寸前、光弾を撃ち捲りながら飛び出して来たセシールが両者の間に割り込んだ。
「ああ、もう! クリスさんはわたくしの後ろに隠れていらして! べっ、別に心配しているわけじゃありませんわよ!? これはお仕事なんですから!」
「手前ぇ!」
「あら。そんなみすぼらしい格好で凄まれたところでちっとも怖くはありませんわよ?」
しゃきーん、とロッドを突き構えるセシールに青筋を立てる手下。だが、それ以上、凄むことはできなかった。飛び出して来たもう一人、翠月の『円舞』に巻き込まれたからだ。
「そうですわ…… ここは私がやらなければ!」
自身を鼓舞するように叫び、抜刀しつつクルリと回る。枝葉の隙間から月光の舞い下りる、聖堂前の森の空間── そう、ここは私の舞うべきステージ。クリスが頑張っているというのに、私がビビッてどうしますか!
(剣だけを弾き飛ばす…… 私に出来ますかしら!)
舞う様に円を描きつつ刃を繰り出す翠月。なんだなんだと受けてた盗賊の得物が遂に対応しきれず宙へ跳ぶ。
「そこまでだ!」
クリスの刃を跳ね飛ばし、盗賊リーダーが刃をマリーの喉元に突きつける。
だが、こう着状態は生まれなかった。それまで一度も攻撃せずに『猫を被り続けてきた』菜摘がにっこりと微笑んで。その錫杖からリーダーの眼前目掛けて光弾を打ち放ったのだ。
「何っ!?」
眩しげに目を狭めるリーダー。その隙を逃さず、マリーが盗賊の顎を頭突きでかち上げる。瞬間、横合いの森から『ジェットブーツ』を噴かして飛び出して来た夕姫が盗賊の右腕を強かに打ち据えた。たまらず剣を取り落とすリーダー。拾い、振り仰いだその首に、夕姫の大鎌の刃が突きつけられる。
「このまま大人しく捕まるか、更にボコボコにされてから捕まるか…… それくらいは選ばせてあげるわよ?」
●
「にわか知識は怪我の元よ。知っているのとやれるのは別なんだから。これからは注意してね」
「今回はたまたま上手くいきましたけれど、いろいろな幸運が重なった結果だときちんと肝に銘じておいてください」
盗賊たちを縛り上げ、村への帰還の準備を終えて──
目的を達して得意気でいたマリーは夕姫と菜摘に叱られた。
不満気なマリーにクリスが無言で歩み寄り。パチンと頬を張った後、ギュッと抱き締め、泣きじゃくる。
「侍女が主人を心配させてどうするんですか。お互い助け合うのか真に信頼しあった主従というものですわ」
「クリスさんを悲しませるのは、あなたも本意ではないでしょう?」
セシールと菜摘みの言葉にマリーも泣き出し。恍惚に月を見上げる翠月にユナイテルが声を掻ける。
「ともあれ、作戦は終了です。帰投しましょう」
帰途につくハンターたちを、何体ものユグディラが見送る。
「ん?」
マリーが振り返った時、そこには誰もいなかった。
──ユグディラ救出を決断したマリーの脳裏に、旅の途中でハンターたちから聞いた教訓や冒険譚がめまぐるしい勢いで流れ始めた。
先の言葉は、確か…… そう、シレークス(ka0752)さんから護身術か何かについて聞いた時のものだ。修道女らしくない破天荒な、お胸の大きなお姉さん。……うん。あれだけ大きいのなら私やクリスにちょっと分けてくれてもバチは当たらないと思う。精霊様は意地悪だ。
「危険には近づかない。逃げられる時には逃げる──私が今から教える事は、それが出来ない場合の話でやがります。なに、非力なら非力なりに出来ることもあるですよ。力がねーなら頭を使いやがるです」
脳裏に情景付きで再生されるシレークスの教え── マリーは考えた。まずは状況の整理から。目的はユグディラの救出。障害は4人の武装した盗賊たち──とてもじゃないが私が正面からどうこうできる相手じゃない。
(どうしよう、どうしよう……)
囁きながら、それでも目だけは現状を観察する。
盗賊たちのキャンプは聖堂前の開けた空間。中央に焚き火があり、少し離れた木の枝にユグディラがグルグル巻きで吊るされている。
(気づかれずには近づけそうもない…… 盗賊たちの注意を逸らさなきゃ)
脳裏に別のハンターの姿が浮かぶ。とある宿屋で一緒になった、確か、イルム=ローレ・エーレ(ka5113)さん。元帝国騎士爵という物腰の洗練された男の人で…… あれ? 女の人だっけ? まぁ、綺麗で格好良かったからどっちでもいいか(
「人というものは日常の中で何か不自然なことに遭遇すると、それを確認せずにはいられないそうだよ。音とか光とかには特に。不安感を拭う為、好奇心を満たす為に、ね。そして、人というものは、分からない部分に関しては勝手に想像を膨らませて自分で補完してしまう」
例えば、長年使われていないはずの部屋から物音が聞こえてきたら? 無人のはずの物音から人の声が聞こえてきたら?
想像してごらん。夜の闇の帳の向こうで、光が明滅していたら? そして、何かを咀嚼するような水音が聞こえてきたとしたら? 勇気を振り絞ってそちらに進み、何もないことを確認してホッとした直後、地面の血溜まりに気づいたら? ついでに背後から生臭い獣の臭いが漂ってきたとしたら──!
(きゃああぁぁ……!!!)
悲鳴を上げるのをどうにか堪えるマリーの脳裏で、回想のイルムが笑う。
(人は見えないものに不安を抱く。不安は容易に増幅できる)
でなくても、人はそれを確認せずにはいられない── マリーは一つ頷くと、荷物から手持ちの道具を取り出し、並べた。
シレークスに貰った水鉄砲。イルムからは無線機にLEDライト── この蚤と槌はいったい誰から貰ったものか…… えーと、あれだ。そう、あの若い男の人…… 名前は、えーと…… ……そう。とにかく『埴輪の人』(アルト・ハーニー(ka0113)さん)(←酷
(この森はユグディラの棲む森── そこを上手く利用すれば……)
●
同日。森に面した村の教会── 依頼を受けて集ったハンターたちは、出迎えたクリスから改めて詳細について説明を受けた。
「盗賊ですか。巡礼者を食い物にするとは卑劣な輩だ。成敗せねばなりません。……しかし、付き人はなぜ一人で森に?」
生真面目に頷きつつ訊ねる『騎士』ユナイテル・キングスコート(ka3458)。クリスは肩身を狭くしつつ、一連の事情を正直に説明する。
「……それで森へ? 盗賊が出没しているというのに、無謀ですね」
「全く。主人に心配かけてばかりの侍女だなんて…… 一度、お説教してやらないといけませんね」
あらあらと頬に手を当てる、眼鏡に白衣の日下 菜摘(ka0881)。黒ゴスドレスのお嬢様・セシール・フェーヴル(ka4507)が腰に両手を当て、息を吐く。
準備と情報収集を終え、一行はガイドと共に森へと入った。
「わたくし、森なんて好きではありませんわ。せっかくのドレスにクモの巣や蔦が絡むし……」
枝葉やクモの巣を払いながら進むセシールが、ふと視線を感じてクリスを振り返る。
「何か?」
「いえ、帝国の良家のお出でと伺いましたが、この様な森の中でもしっかりとした足取り。感心しておりました」
「あら。わたくしだってハンターの端くれ。その気になればクリスさんよりもずっと速く歩けますのよ?」
褒められた喜色を隠しながら、しかし、満更でもなさそうにセシール。その言葉が終らぬ内に、後ろから「ぴゃっ!」と声が上がった。新人ハンター・稲峰 翠月(ka5627)が、除けた枝葉に顔面を鞭の如く叩かれた悲鳴だった。
「……皆さん、旅慣れておりますのね」
赤くなった鼻を押さえ、翠月が恥ずかしそうに言った。リアルブルーにいた頃、翠月は『ガチガチのインドア派』(?)であった。歌やダンスで肺活量には自信はあるが、こうして深い森を歩くとなれば話は別だ。
「私などははまだまだ…… 冒険用に買った装備も馴染んでおらず、服ずれしてしまいましたわ」
擦れて赤くなった肌を見下ろし、嘆息する翠月。それを覗き込んだセシールが革鎧の下のセーラー服に気づき、暫し青世界のファッション談義に花が咲く。
「しかし、それにしても広い森ですね。後に続く我々の為に何か目印でも残しておいてくれると助かるのですが……」
大きな倒木を潜り抜けつつ、菜摘。痕跡はすぐに──必要以上に見つかった。やたら元気な足跡にあちこちで枝葉──そう、まるでユグディラと追いかけっこでもしたような。
「あの子ったら…… 本当にすいません」
頭を下げるクリスの元へ、先行していたはずの月影 夕姫(ka0102)が戻って来て、言った。
「ただの迷子なら良かったんだけどね」
嫌な予感を覚えながら、後に続いて先へと進む。
そこでは膝をついたユナイテルが硬い表情で踏み荒らされた地面を調べていた。
「足跡だ。屈強な男のものが複数……おそらくは4人分。噂に聞く盗賊たちのものだろう」
一行の表情が引き締まる。クリスはその顔を蒼白にして、守り刀の柄をギュッと掴む。
「落ち着いて。マリーが捕まった痕跡はないわ。ユグディラは捕まったようだけど……」
足跡から状況を推察し、安心させるように夕姫は言った。盗賊たちの居場所に関しても、大体予測がついていた。
「盗賊の正体が人間であるのなら、この森の中で拠点にできそうな場所は限られる。例えば、そう…… 森の中に放置された、古い石造りの聖堂とか」
「……マリーはその捕まったユグディラを助けにいったと思います。あの子、ユグディラには特別な想い入れがあるようなので」
ならば急いだ方がいい。一行が移動を開始する。
村に戻った方が良い、と勧めるユナイテルに、だが、クリスは頭を振った。
「すみません。でも、私には彼女に対する責任があるのです」
●
森に夜の帳が下り── マリーは行動を開始した。
用を足す為に群れから離れた者を追い。鼻歌混じりに用を足す男の股間を、マリーが目を逸らしながら木の枝でもって強打する。
悶絶し、気絶した男を蔦で縛って無力化すると、脳裏に浮かんだシレークスがグッドスマイルで親指を立てた。ししょーは言っていた。「どんなに汚く無様でも、最後に笑えれば良いのです」(きら~ん!)←星
「おせ~な、あいつ……」
「今夜はなんだか気味が悪ぃや。ずっと誰かに見られてるような……」
夜の下、森を渡る風がざわざわと枝葉を揺らし── と、闇の中にキラリと光が瞬き、人の鳴き声の様な、呻き声の様な声が辺りにくぐもった。
「うおっ?!」
「ひいっ!?」
驚き、悲鳴を上げる手下たち。現実主義者のリーダーが彼等を引き連れ、異常を確認しにそちらへ向かう。見出したのは、枝に吊るされた手鏡と、声を発する何かの機械──
その反対側の森の草の陰──ひょっこりと姿を現したマリーが抜き足差し足でユグディラに近づき、ナイフで縄を切ってやる。
「さあ、早く逃げなさい」
「!」
一瞬、きょとんとマリーを見返したユグディラが、意図を察して森へと駆ける。
「あ、てめぇ!」
気づかれた。マリーは立ち上がると『盗賊たちの方へ』駆け出した。思わずたたらを踏む彼らを他所に、『聖堂』の中へと飛び込み、扉を閉める。
(大人の足からは逃げられない。ここで盗賊たちを撒く!)
アルトさん(←やっと思い出した)が言っていた事を回想付きで思い出す。
「多人数相手の場合、広い場所だと囲まれやすいからな。その点、屋内等の狭い場所なら相手の動きを制限できるし、動線も読み易くなる。時間稼ぎにはもってこいだ。罠も仕掛け易いしな」
「ブービートラップ! ブービートラップ!」
「よくそんな単語知ってんな…… まあ、森の中なら草を結ぶだけでも足を引っ掛ける罠ができる。屋内なら、そうだな……」
アルトの教えをマリーは実践した。昼の間に準備した仕掛けを使い、罠を仕掛けて身を隠す。
ようやく扉を破った盗賊たちは、すぐに屋内の捜索に入った。
廊下の先。僅かに開いた扉の隙間から灯りが洩れているのに気づく。扉の上には岩が乗せられており…… 「所詮子供の浅知恵よ」とほくそ笑みつつ、扉を蹴破り、中へと入る。
だが、頭上に気を取られていた手下は、足元の『木の棒の罠』に脛を強打されて悶絶する羽目になった。もう一人の手下は部屋が無人であることに気づいて慌てて外に出ようとしたが、振り返ったところを廊下からマリーに塩水鉄砲を顔面に浴びせ掛けられ。扉を蹴り閉めたマリーがバリゲードでそれを閉塞する。
(閉じ込めた。今の内に外へ……!)
迷路の様な廊下を走り、入り口から外へ飛び出そうとしたマリーは、だが、何かにぶつかり、足を止めた。
ぶつかった何か──閉じ込めたはずのリーダーがほくそ笑む。
「あいにくだったなぁ、嬢ちゃん。この聖堂は余りに古くてな。あちこち崩れていやがるんでそこから外に出れるんだ」
「灯りが見えます。注意を」
一方、捜索隊── 先頭を行くユナイテルが、焚き火の光に気づいて移動を止めた。
──聖堂前の空き地は無人。内部からはドタバタ音が聞こえ、やがて、ボロボロになった2人が出て来る。
「人…… そうでしたわ。敵はVoidではないのでしたわね」
呟く翠月の手を握るクリス。その手もまた震えている……
ハンターたちは手早く方針を決めると、菜摘とユナイテルの2人だけで前に出た。1人、側面へと回り込む夕姫。セシールと翠月はクリスとその場に待機する……
「うおっ、びびった…… なんだ、お前ぇたちは?!」
「あのー、迷子になった付き人を探しているのですが、こちらで見かけてはいませんか?」
呑気なおのぼりさんといった風情を装い、盗賊たちに訊ねる菜摘。男たちはごくりと唾を呑んだ。──この地を去る前夜に獲物が向こうから飛び込んで来やがった。護衛はちんちくりん(ユナイテル:「ん?」と青筋)がただ一人。まさに鴨葱だ。
「さあ? 元気なお嬢ちゃんなんて見てねぇなぁ。それより……」
剣を抜く盗賊2人。菜摘とユナイテルは顔を見合し、当たりですね、と肩を竦める。
「お前ぇら、何を言って……っ!?」
盗賊が言い終わる前に、抜剣したユナイテルが踏み込んだ。ただの一合も打ち合うことなく、体当たりから足を払い、倒れたその喉元に剣先を突きつける。
「剣を合わせる価値もない…… 抵抗は無意味だ。疾く投降せよ!」
「どうかな?」
子供呼ばわりされた鬱憤を晴らすように騎士らしく叫ぶユナイテルに答えつつ、聖堂の中からリーダーが現れた──捕らえられたマリーと共に。
「マリー!」
「ちょっ……!?」
セシールと翠月が止める前にクリスが飛び出し、守り刀で切りつけた。難なく受け止めるリーダー。まだ無事な手下が一人、クリスの背後に回りこみ── 寸前、光弾を撃ち捲りながら飛び出して来たセシールが両者の間に割り込んだ。
「ああ、もう! クリスさんはわたくしの後ろに隠れていらして! べっ、別に心配しているわけじゃありませんわよ!? これはお仕事なんですから!」
「手前ぇ!」
「あら。そんなみすぼらしい格好で凄まれたところでちっとも怖くはありませんわよ?」
しゃきーん、とロッドを突き構えるセシールに青筋を立てる手下。だが、それ以上、凄むことはできなかった。飛び出して来たもう一人、翠月の『円舞』に巻き込まれたからだ。
「そうですわ…… ここは私がやらなければ!」
自身を鼓舞するように叫び、抜刀しつつクルリと回る。枝葉の隙間から月光の舞い下りる、聖堂前の森の空間── そう、ここは私の舞うべきステージ。クリスが頑張っているというのに、私がビビッてどうしますか!
(剣だけを弾き飛ばす…… 私に出来ますかしら!)
舞う様に円を描きつつ刃を繰り出す翠月。なんだなんだと受けてた盗賊の得物が遂に対応しきれず宙へ跳ぶ。
「そこまでだ!」
クリスの刃を跳ね飛ばし、盗賊リーダーが刃をマリーの喉元に突きつける。
だが、こう着状態は生まれなかった。それまで一度も攻撃せずに『猫を被り続けてきた』菜摘がにっこりと微笑んで。その錫杖からリーダーの眼前目掛けて光弾を打ち放ったのだ。
「何っ!?」
眩しげに目を狭めるリーダー。その隙を逃さず、マリーが盗賊の顎を頭突きでかち上げる。瞬間、横合いの森から『ジェットブーツ』を噴かして飛び出して来た夕姫が盗賊の右腕を強かに打ち据えた。たまらず剣を取り落とすリーダー。拾い、振り仰いだその首に、夕姫の大鎌の刃が突きつけられる。
「このまま大人しく捕まるか、更にボコボコにされてから捕まるか…… それくらいは選ばせてあげるわよ?」
●
「にわか知識は怪我の元よ。知っているのとやれるのは別なんだから。これからは注意してね」
「今回はたまたま上手くいきましたけれど、いろいろな幸運が重なった結果だときちんと肝に銘じておいてください」
盗賊たちを縛り上げ、村への帰還の準備を終えて──
目的を達して得意気でいたマリーは夕姫と菜摘に叱られた。
不満気なマリーにクリスが無言で歩み寄り。パチンと頬を張った後、ギュッと抱き締め、泣きじゃくる。
「侍女が主人を心配させてどうするんですか。お互い助け合うのか真に信頼しあった主従というものですわ」
「クリスさんを悲しませるのは、あなたも本意ではないでしょう?」
セシールと菜摘みの言葉にマリーも泣き出し。恍惚に月を見上げる翠月にユナイテルが声を掻ける。
「ともあれ、作戦は終了です。帰投しましょう」
帰途につくハンターたちを、何体ものユグディラが見送る。
「ん?」
マリーが振り返った時、そこには誰もいなかった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/30 23:12:22 |
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マリーの冒険 イルム=ローレ・エーレ(ka5113) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/10/04 21:34:59 |