• 闇光

【闇光】青い記憶と共に

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/10/07 22:00
完成日
2015/10/15 04:48

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「というわけで、わらわが連合軍総司令官のナディアじゃ。おぬしらの身の安全は保証するので、大人しく退去し……」
「するかバーカ!」
「なんでお前みたいなクソガキに従わにゃならんのだ!」
 怒声と投擲物に身を竦めるナディア・ドラゴネッティ。その額に空き缶が直撃し、背後へよろけた。
 ここはサルヴァトーレ・ロッソにあるCAMハンガーの一つ。本来ならば一般人はおろか、外部の人間であるハンターも立ち入り禁止の区域である。
 ナディアがおでこを擦りながら溜息を零す視線の先。そこにはロッソからの退艦を拒否した難民たち徒党を組み、ハンガーを占拠する姿があった。
 連合軍総司令官がナディアに決定され、サルヴァトーレ・ロッソが北伐作戦へ参加する事が決まってわずか数時間後。
 一部の避難民が蜂起し、一斉にこのハンガーへと雪崩れ込んだのである。
「我々、“地球の民”の要求は一つ! サルヴァトーレ・ロッソの現状維持と、地球への帰還方法の公開である!」
「なんじゃ地球の民って……」
「本日結成されたできたてホヤホヤのタカ派組織です☆」
 ジョン・スミス(kz0004)の爽やかな回答にげんなりしてしまう。
「おぬしらロッソ祭で相互理解図ったのではなかったのか?」
「全く効果がなかったとまでは言いませんが、まあ、話を聞いてくれない人もいますよねぇ」
 と、そこへ依頼を引き受けたハンター達が駆け付ける。中には篠原神薙の姿もあった。
「こ、これは……即席にしては本格的ですね」
 資材やコンテナで作られた即席のバリケード。構成員は銃で武装し、背後には奪われた魔導型ドミニオンが一機。
 女性陣のお手製の結構カワイ目な“移民反対”の横断幕がはためいている。
「スミスさん、防げなかったんですか?」
「いやぁ、ここまでするとは思いませんでしたし……元軍人とか傭兵も混じっているようでして。かと言って非戦闘員も多いのですが、私服なので見分けもつかず……」
「全員まとめてとっちめるわけにもいかんからの~」
 面目ないと笑うスミスを左右から睨む神薙とナディア。
 地球の民の即席リーダーらしい男は拡声器を片手に叫びだす。
「この異界に蔓延るVOID共が地球を襲っていることは既にわかっているぞ! この異世界こそLH044事件の悲劇の源だったのだ!」
「……そうなんですか、スミスさん?」
「んーまー、こっちの世界にVOIDが沢山いるのは事実ですけどね」
 顎に手をやり神薙は考える。
 確かにこちらの世界には多種多様なVOIDがいる。二つの世界に共通して存在する脅威は、二つの世界の繋がりを示唆している。
 こちらの世界の人間も歪虚に襲われ危機に瀕している以上、単純な異世界侵攻という筋書きでない事は間違いないが、艦の外の事を知らない一般人からすれば曲解はいくらでもできるわけで。
「実際、二つの世界の繋がりってどうなんですか、総長?」
「な、なぜにわらわにふるのじゃ?」
「なんか知ってそうだから……」
「貴様らが秘匿している元の世界への転移方法が六時間以内に開示されない場合! 我々にも考えがある!」
 そう言って連れてこられたのは、錬魔院の研究者であるブリジッタ・ビットマン(kz0119)であった。
「はーなーせー! 放すのよさー!」
「サルヴァトーレ・ロッソ機関部を出入りしていた怪しげな者の一人だ! 人質の命が惜しければ要求を呑め!」
「誰じゃあのちびっ子は?」
「ナサニエルさーん! ちょっとちょっとー!!」
 スミスが大声で手を振ると面倒くさそうに歩いてきたナサニエル・カロッサ(kz0028)が首を傾げる。
「おや? なぜブリジッタがあちらに?」
「……だから言ったろ! さっきからブリジッタが見当たらないってよ!」
 クリケット(kz0093)がナサニエルの肩を高速で揺さぶると。
「その娘がどうなろうと私は全く構いません! 人質は無駄ですよ!」
「お前は悪魔か!?」
「ていうかこういう事にならないようにクリケット君がいるのでは?」
「そ、それは……っ」
 クリケットはナサニエルの護衛を優先していたのと、ブリジッタは避難誘導に従わなかったので彼は悪くないぞ!
「ワカメー! デカブツー! 早く助けるのよさー!!」
「もう覚醒者で武力制圧しちゃいます?」
 ジョンがそうつぶやいた直後、ハンター達の足元をドミニオンの銃弾が襲った。
 一斉に全員が背後に下がると、ドミニオンは一歩前進。両手で構えたアサルトライフルの銃口を輝かせる。
「ばばばばっかもーん! 殺す気かボケぇっ!?」
「総長落ち着いてください!」
「魔導型エンジンは嫉妬の歪虚に奪われた時の為に自爆装置がついています。このスイッチを押せば一撃で……ブリジッタ、君の事は忘れません」
「院長も落ち着いてくださいね!?」
 神薙が二人の首根っこを掴んで引き下がらせると、再び膠着状態に陥った。
 誰もが次の一手に首を撚る中、バリケードの向こうから数人が姿を見せた。
「私達は、ただ元の世界に帰りたいだけなんです! お願いです……元の世界に帰してください!」
「LH044事件で心に傷を負った孤児が沢山いるんです! あの子たちが船を降りるのはまだ無理なんです!」
「俺達は地球を守る為に軍に入ったんだ! こんな所でいつまでも足踏みしてたら、故郷のダチや家族がどうなっちまうかわからねぇ!」
 主張自体は当然というか、共感できる物だ。その方法が強行的なのも、急な退艦命令が原因なわけで……。
「まいったな。一年間、結局彼等を変えられなかった俺達のツケ、なのかな……」
 頬を掻き、神薙は苦笑する。
 とは言え、元の世界に帰る方法は今の所わかっていないし、クリムゾンウェストはそこまで危険な場所ではない。
 確かに不便な事もあるかもしれないが、それなりに生活していける事は外に出たものが証明している。
「あの、ぶっちゃけて訊きたいのですが……ナサニエル院長はこの艦を動かす為にここにいるんですよね?」
 神薙の質問にナサニエルは少し考え、確かに頷いた。
「ええ。その通りですよ」
「この艦を調べれば元の世界に帰る方法も見つかるかもしれない……と考えていいんでしょうか?」
「調べてみなければわかりませんが、この艦にまだ明かされていない秘密があるという事、そしてそれは“外部”の力がなければ明かせない事は間違いないでしょうね」
 やはりどちらにせよ、この艦は動かさなければならないのだ。
 存在感をアピールし、力を証明し、クリムゾンウェストの技術者達が注目して初めて、帰還の可能性が見えてくる。
「さてと。とりあえず、どう解決したものかな」
 武力行使か。CAM一体と非覚醒者の武装集団など、本気を出せばどうとでもできるだろう。
 だが、それは最後の解決手段にしたいものだ。そう考え、少年は一歩前へ踏み出した。

リプレイ本文

「ここが例の場所じゃな」
 小さな手描きのメモから雑居ビルへの視線を上げた。
 紅薔薇(ka4766)の目指す施設はこのビルの二つのフロアを使ってかろうじて維持されているという。
 この広い、しかし小さな方舟では、そもそも避難民の為の居住区も十分ではない。
 艦を降りて行く者達が残した空白にも、結局のところ傷を抱く者達は収まれないまま、膝を抱えて閉じこもっていた。

「とりあえず武器は置いて、っと……タイムリミットは六時間。逆に言えば六時間も使えるわけだ」
 銃を下ろし、ウーナ(ka1439)は大きく伸びをする。
 格納庫の一画にハンター達は装備を積み重ねていく。興奮状態にある“地球の民”と対するにあたり、非武装は最低条件に思えた。
「今こうしている間にも歪虚相手に戦ってる人達だっているでしょうに……いい大人が我儘の大合唱とはね」
「冷静では居られぬ心情は理解できる。だが、彼等の行動は本質的に矛盾している。武力を盾にすれば、願いは正しく届かない」
 呆れるようなキサ・I・アイオライト(ka4355)の言葉に銀 真白(ka4128)は淡々と続ける。
 そう。こんな状況に陥ってしまっている時点で、彼等の主張に正当性はない。
 他人を犠牲にして自分達だけ助かりたいと言うのなら、その愚かしさは罪だ。
「だが、今ならばまだ間に合う。誰の血も流さず、終わらせなければ」
「……ああ。同郷の者が凶行へ走るのを、見過ごすわけにはいかないから……な」
 オウカ・レンヴォルト(ka0301)が決意を確かめるように拳を握る。神薙はその横顔に笑みを浮かべ。
「必ず俺達で止めましょう。それがきっと、俺達の役割だから」
 神薙が求めた握手にオウカが応じる隣、エイル・メヌエット(ka2807)は遠巻きに地球の民を眺めていた。
「彼等の気持ちもよく分かるのよね……LH044事件は大変だったって、私も親しい人から聞いているから」
「LH044事件かー。あたしも一応当事者みたいなんだけど、全然覚えてないんだよね」
「ウーナのように大転移に巻き込まれた人の中には記憶を失った人も多いんだ。それくらい、悲惨な事件だったんだろうね」

 ――2013年、10月7日。
 民生コロニーLH044は、VOIDと呼ばれる火星由来の謎の敵の襲撃を受けた。
 サルヴァトーレ・ロッソの介入により民間人の脱出支援が行われたものの、コロニーは崩壊。多数の死傷者が出るも、正確な人数は把握されていない。
 直後、サルヴァトーレ・ロッソは突如として異世界へ転移する。これがLH044事件、“大転移”のあらましだ。
「言葉にしてしまえば簡単だけどね。とても沢山の人が亡くなったのよ。なのにもう、皆がそれを忘れてしまったみたい……」
 地球の民側、バリケードの後ろ。そこにうずくまるようにして座り込んだ集団に紛れ、柏木 秋子(ka4394)は相槌を打っていた。
 地球出身者で退艦に反対すると言えば、アッサリとこの場に交じる事はできた。そこで秋子は彼等の事情を聞き出そうとしていたのだ。
「少しだけ……わかります。私も姉が消息不明で、両親の悲しむ姿を見て育ったので……」
「苦労したのね……こんなに若いのに」
 優しく頭を撫でる女性の手に嘘はないように思える。だからこそ、こんな事件を起こした理由が知りたい。
「孤児達はがロッソから降りるのは、難しいんでしょうか?」
「あの子達にとって、もう孤児院の外は恐怖でしかないの。それに一度家を失っているから、安らげる場所を再び失う事を恐れているのね」
 本当は彼女も理解しているのだ。しかし彼女の力だけでは、子供達の心を変える事も、思い出を守る事もできない。
 秋子を慰めようと握り締めた手は震えていた。この状況に緊張しない筈も、罪悪感を覚えない筈もないのだ。
「いきなりロッソを降りろなんて酷ですよねー。地球軍や向こうのトップは何を考えてるのやら。あなたはどう思いますか?」
「奴らは我々の事情など考えもしていないのだ! 軍人共は人権を無視している!」
 一方、同じく地球の民に紛れ込んだ和泉 澪(ka4070)は銃を持ったリーダーらしき男に声をかけていた。
「奴らはサルヴァトーレ・ロッソを専有し、自らの利益追求の為だけに使おうとしている。元の世界へ戻らない方が都合が良いのだ!」
「でも、本当に何も知らないとしたら、どうしますか?」
「そんなわけがあるか!」
 それが一番指摘されたくない可能性だというのは、顔を真っ赤にした男の様子で丸分かりだ。
 当然である。そんな可能性があったら。そうだとしたら。こんな活動、何もかも無意味になってしまう。
「もしもーし! 地球の民の人達、聞こえるー? だいぶ時間も過ぎたし、とりあえずゴハンにしなーい?」
 拡声器を手にしたウーナの姿を横目に澪は説得が始まった事を知る。
 こちらも動き始めねばならない。説得が一方通行にならぬよう、こちらで“相槌”を打つのが彼女の仕事だった。

「ゴハンくらいよくない? 意地じゃお腹は膨れないと思うけどなー」
 ハンバーガーを齧るウーナの視線の先、何かしっちゃかめっちゃか叫んでいる男が見えるが聞くだけ無駄に思える。
「聞く耳持たぬとしても、歩み寄らねば始まらん」
「そうね。だけど近づくとお互いに危険もあるから、先に魔法を……」
 歩き出した真白にエイルがプロテクションを施そうとするも、神薙はその手を静止する。
「魔法はダメです、エイルさん。彼等は魔法を見た事がない」
「あ」
 人質、ひいては混乱した地球の民を有事の際に守る為に魔法は有効な手段だが、それが守護の力だと彼等には判別できない。
「そ、そうね……驚かせてしまうかしら」
「大丈夫、傷は負わせませんから……ね?」
 同意を求めるように真白やキサにウィンクする神薙。
 ハンター達は両手を挙げたり、敵意がない事を示しながら少しずつ距離を詰めていく。
「我々に敵意はない。ただ、そちらの意見をきちんと窺い、不安や疑問を払拭したい」
「それ以上近づくな! こちらの要求は変わらない!」
「元の世界に戻りたいという気持ちはよくわかるわ。でも、今はまだ本当に帰還方法はわからないの」
「そんな筈があるか!」
 真白やエイルの言葉に聞く耳持たない首謀者にオウカは目を瞑り。
「“この異界に蔓延るVOID共が地球を襲っている事は既にわかっているぞ。この異世界こそLH044事件の悲劇の源だったのだ”……確かそう言った、な」
「そうだ。そもそもこんな世界……」
「それが本当なら、ますますこちらの世界の歪虚を放っておく訳には、いかんだろう。お前たちのリーダーの弁を借りるなら、この世界の歪虚を倒さぬ限り何度でも地球でLH044と同じ悲劇が起こるだろう。何度でも、な……」
 オウカの言葉にメガフォンを手にしていた男も言葉を失った。
 彼の言葉は実に正しい。この世界が原因だというのなら、“この世界の原因”を取り除かない限り、リアルブルーは救われない。
「その根本を叩く事が、故郷を、家族を、友を護ることに繋がるんじゃないの、か?」
 元軍人達が顔を見合わせる。動揺が走る程、指摘は的を射ている。
「そもそも人類側がリアルブルーに行く方法を知っていて、かつ行えるのなら、歪虚から逃げるべく大量の移民があってしかるべき、だ。それが無いのが、人間側にその方法が無い証左なんじゃ、ないのか?」
「オウカ殿の言う通りだ。この世界では長年歪虚と戦っているが、未だ解決の道も見つかっていない。もし逃げられるのならば、逃げ出す者がいて当然なのだ」
「よくよく考えると、彼の言う通りではないでしょうか?」
 オウカに続き真白が、そして地球の民側でも澪がそう口にする。
 理詰めに簡単に動揺が走る程、彼等が場当たり的な勢い任せの集団である事が露呈する。
 だからこそ、理性的ではない反応を見せる者もいるのだが。
「……うるさいうるさい! お前達は全員敵だ! 皆、奴らの口車に乗るな!」
「それは違うわ。私達は決して敵ではないの。一緒に未来を創る為に……」
 語りかけるエイルに銃口が向けられると、キサとオウカが同時にその前に立ちはだかった。
「バカなことはやめなさい! 本当に取り返しのつかない事になる!」
「だったら余計な事をせずさっさと要求を呑むんだよ!」
「出来ないものは出来ないし、無理なものは無理よ。そんな身勝手な我儘で二つの世界をバラバラにするつもり?」
 キサは束ねた髪を後ろに追いやり、長く尖った耳を見せつける。
「私はエルフよ。でも、母さんはあなた達と同じ向こうの世界の人間だった。いつか母さんの故郷を一緒に歩きたかった……約束は約束のまま終わっちゃったけど」
 エルフを見るのも彼等にしてみれば珍しい。それが異界のハーフとなれば尚更だ。
「私だってリアルブルーに行きたいわ。母さんの故郷を知りたい。この目で見て、この足で歩きたい。だから私は協力するわ。約束する。あなたたちと目的は同じだもの」
「生まれた世界が違っても同じ人間、わかりあえるわ。私も転移者で弟のように思ってる人がいる。仲良く一緒に暮らしてるわ。敵は人ではなく歪虚なのよ!」
「私にも異世界の友人がいる。彼の為にも、帰る手段は共に探したい。二つの世界が協力すれば、帰還の道が開かれるやもしれぬのだ。不安もあるだろうが、今は我々を信じて欲しい」
 キサ、エイル、真白のそれぞれの訴えに澪が乗っかり議論を起こせば、自分達の行いが間違いだと気づく者も現れる。
「第一さー……ソボクな疑問。パイロットさん、なんでソレ乗ってるの? 魔導型CAMはクリムゾンウェストで改修して、艦長が配備した機体だよ?」
 ストローを咥えたまま、ウーナは顎でCAMを示し。
「ためらわずに乗って戦力にするくらい信頼できるならさ、作って預けた人ももうちょい信頼してあげられない? 矛盾してるよ、ソレ」
「これ以上抵抗するより降りて帰る方法を見つけてもらいましょう。クリムゾンウェストの方々も受け入れてくれるようですしね?」
 澪の話に同意して、ぱらぱらと数人が歩き始めた。悔しげに唇を噛みしめる主犯らしき男が下ろした銃……それを側に立っていた女性が奪い取る。
 女性は震える手でブリジッタに銃口を突きつける。それは組織側も想定していなかったのか、明らかな動揺が走った。
「そんな……どうして……」
 それは秋子が先程まで話をしていた孤児院の女性だったのだ。
「やめて! その子は優秀な技術者で、皆が地球に帰る為に必要なの! 何より……その子はただの少女よ!」
 エイルが叫ぶのも無理はない。女性は完全に冷静さを失っており、いつ引き金を引くかわからない状態にあった。
「もう御託は十分。とにかく私達はこの艦を降りないわ」
「いけません……その子を傷つける事なんて、あなたも望んでいない筈です……」
 秋子が近づこうとするも、女性は簀巻のブリジッタを抱えるようにして後退する。
「わかって、柏木さん……私が守らなきゃ……私が……」
「せめて人質を私と交換して……その子に罪はないわ!」
「そんなのわかってる! だけどもうこうするしか……こうするしか!」
 冷や汗を流す澪。いざとなれば組み付ける位置だが、下手をすればブリジッタが負傷する可能性がある。
「お願いです……少しだけ冷静になって。あなたは子供を傷つけてはいけない人です」
 まっすぐに見つめる秋子の視線にきつく目を閉じると、女性はブリジッタを手放した。
 直ぐに澪がそれを抱きとめるが、女性はそのまま銃口を自らの側頭部に移動させた。
 ハンター達が覚醒し動き出すも、間に合わない――そう思われた時だ。女性が目を見開き固まった瞬間、秋子が拳銃を奪い取った。
「せんせー!」
 格納庫に駆け込んできたのは孤児院の子供達だった。女性に駆け寄るその後に遅れ、紅薔薇が歩いてくる。
「紅薔薇さん、間に合ったんだね」
 溜息混じりの神薙の声に紅薔薇はぐっと親指を立てる。
 彼女は孤児院に向かい、そこで子供達に事情を説明、打ち解ける事に成功していたのだ。
「この艦もまた、LH044事件で心に傷を負った者にとっては事件の記憶が残る場所じゃ。傷を風化させるのであれば、下船させるべきだった……そうは思わぬか?」
 子供達に囲まれながら女性は膝をつき、涙を流す。
「自信がなかったんです……あのコロニーで家族を救えなかった私が、外の世界で子供達を守って生きていく、そんな自信が……」
「その子達は事情を聞いて自分達の意志でここまで来たのじゃ。大人が考えているより、ずっと勇敢ではないかの」
 紅薔薇は振り返り、ナディアを見つめる。
「ナディア殿、これは総長たるお主にしかできん。紅世界の代表として、彼等に未来への希望を与えて欲しい」
 しかしナディアは腕を組み、無言で見つめ返す。言わんとしている事はわかる。
「根拠など無くて良い。歪虚王程度の障害ならば妾が斬ってみせる。だから堂々と胸を張って告げて欲しい。“大丈夫だ”と」
 片目を瞑り、ナディアは笑った。
 そう、コレは無責任な行為だ。保証など何もあるはずもない。だがそれを彼等が望んでいるからこそ、この状況がある。
「――ハンターズソサエティ総長として、そしてクリムゾンウェスト連合軍総司令官として約束しよう。必ずやこの艦の秘密を解き明かし、諸君らリアルブルーの民を元の世界へ帰還させると! 全てはその為の準備とどうか理解してもらいたい!」

「ハイハーイ。何時間も立てこもってお腹すいたでしょ? 一緒にご飯食べよー!」
 ナディアの止めの一言で、地球の民は即日解散となった。
 ウーナは緊張状態で疲労した人々に料理を振舞っている。
「おいしい……これは何?」
「クリムゾンウェストの料理だよ。リゼリオの屋台から取り寄せたんだ。こういうのもいいでしょ?」
「怪我をした人が誰もいなくて本当によかったわ……でも、皆ちゃんとゆっくり休んでね」
 中には発表を聞いてから一睡もしていないような人もいる。エイルはそんな人達を軽く診察していく。
「ロッソは人類を救う為の救世艦。戦いの中で命を救う役目がある。あなた方を救ったように、ね。子供達の為に未来を創る……下艦はその為の勇気ある一歩よ」
 結局、地球の民は基本的にお咎め無しという事になった。
 その決定に安堵し、オウカは下げていた頭を上げる。
「ま、素直に降りてくれれば良いじゃろう。元々彼等も被害者なのだからな」
「ああ……そう言ってくれると、助かる」
 ナディアはそう言って無邪気に笑い。
「ところで紅薔薇とかいうの。わらわの色違いみたいじゃの?」
 そんな言葉で締めくくった。

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MVP一覧

  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルトka0301

重体一覧

参加者一覧

  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • 愛にすべてを
    エイル・メヌエット(ka2807
    人間(紅)|23才|女性|聖導士
  • Centuria
    和泉 澪(ka4070
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 正秋隊(雪侍)
    銀 真白(ka4128
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 境界を紡ぐ者
    キサ・I・アイオライト(ka4355
    エルフ|17才|女性|霊闘士

  • 柏木 秋子(ka4394
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/10/03 06:37:15
アイコン 質問卓
エイル・メヌエット(ka2807
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/10/07 04:19:25
アイコン 相談卓
紅薔薇(ka4766
人間(クリムゾンウェスト)|14才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2015/10/07 21:01:50