ゲスト
(ka0000)
【幻森】蝕みの帳へ
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/09 07:30
- 完成日
- 2015/10/11 23:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
雑魔とは人を傷つけたりする存在であり、未知なる存在こそが恐怖となる。
東方と辺境の境目にも雑魔は存在し、これから東方は他国との結び付きが大事となるこの時期にも人々の暮らしを脅かす。
「ひ……っ」
境目の近くにある集落に住む者が見たのはただの獣ではないと思われる。
葉がこすれるような音がしたことで気が動転してしまったが、発見者は木の陰に隠れたので、見付からずに済んだ。
●
ファリフはチューダより聞かされた言葉を思い出し、月を眺めていた。
どこかに幻獣達が身を寄り添って住んでいるという。
残念ながら、チューダは詳しい場所までは思い出せなかった。
歪虚は幻獣を吸収する為に動く存在がいると聞く。やつらは愚かな者しかいないわけではない。
巧みに人の不安を煽る事が出来る者だっているのをファリフは知っているのだ。
今回は事柄が重なった上でチューダの知識を引き出す事が出来ただけ。
チューダの知識量は確か。
しかし、前回のナルガンド塔には確かに幻獣はいた。しかし、チューダが予言したトリシュヴァーナではなく、その眷属たるフェンリル。
間違いでないし、チューダを責める事も出来ない。
「ファリフ」
しわがれた声に名を呼ばれて振り向けば、大巫女がいた。
「チューダの事、気にしているんだろう」
大巫女の言葉にファリフは俯いてしまう。図星を突かれてしまったようで恥ずかしくなってしまう。
ファリフとて、チューダの知識は確かなものだ。しかし、後手に回っているようにも感じて、焦燥感が胸をかきむしるように不安になる。
壁画を通してトリシュヴァーナの嘆きを感じたからこそ、ファリフは焦ってしまう。
あんな思いは二度とさせたくない。苦しむ事なんかさせたくない。
否、自分がしたくないのだ。
黙り込むファリフに大巫女はため息をついた。凡その悩みどころは見当がついている。
「まぁ、心配してしまう気持ちはわからんでもないがな。焦るのはよくないさ、一つ一つ進んでいくしかない」
「うん……」
大巫女の言葉は身に染みるし、痛いくらいわかる。
「もしかしたら、ひとつひとつ提示するチューダみたいなのが丁度いいかもしれんな」
「え! ボクの刺青と通じ合っているのはトリシュヴァーナでしょ! だから、フェンリルが守っててくれてたんだし!」
おどける大巫女にファリフは大慌てでお腹の刺青を指を差す。
「フェンリルがいないのが寂しくてしょげているのかい?」
「ち、違うよ!」
ムキになるファリフに大巫女は声を上げて笑う。
「もー、夜に大声上げちゃだめなんだよっ」
膨れっ面になるファリフに、大巫女は「はいはい」と宥める。
きっと、フェンリルのことだ。「なんだ、俺がいなくて寂しがっているのか。悪い事をしたな、お嬢ちゃん」とか言うに違いないと頬を膨らましたファリフは思った。
●
影が着地すると、注意深く周囲を見渡し、何もいない事を確認している様子。
大丈夫と確信したのかのように、獲物を軽々と降りあげて肩に担いでしまった。
再び移動してしまう。
出来るだけ密やかに、気づかれないように影は森の奥へと跳んでいった。
●
翌日、ファリフと大巫女に歪虚の動きの情報が飛び込んできた。
「怪しい雑魔が発見された?」
話によれば、東方と辺境の境目に近い集落に住む者から、雑魔が奇妙な動きをしているという報告があったようだ。
報告は多数あるものの、姿は全員見ていない。
これからエトファリカの人々が自由に国を出入りできる矢先なのに。
しかし、チューダは朝ごはんのチーズに夢中で話を聞いていなかった。
「ボク、ハンターの皆と調査してくるよ」
ファリフがそう言えば、手持ちのチーズがなくなったチューダが顔を上げる。
「我輩はパンがほしいのであります。……って、何かありましたか?」
緊張感のないチューダの言葉に二人は肩を落とした。
「あ。うん、東方と辺境の境目に雑魔が出てるから、調査しにいくんだ」
「そうでありますか。下僕どもと赴くのですか?」
「……ハンター達と行くんだ」
チューダの性格はわかっているが、ファリフ的には下僕という言葉をハンターには使ってほしくないので、スルーすることに決めた。
大巫女と共にファリフを見送ったチューダは首を傾げる。
思い当たる節がどこかにある。しかし、それが何だか思い出せない。
多分……それは……と掴みかけようとした瞬間……。
「チューダ様、いかがされましたか? パンですよ。蜂蜜もあります」
可愛いもの好きの大巫女の配下が思案するチューダに気付かず声をかけてしまう。。
「気が利くであります!」
掴みかけた事はどこへやら。チューダは大喜びでチーズをスライスさせ、蜂蜜を垂らしてパンに挟み、大きく口を開けて幸せを頬張った。
東方と辺境の境目にも雑魔は存在し、これから東方は他国との結び付きが大事となるこの時期にも人々の暮らしを脅かす。
「ひ……っ」
境目の近くにある集落に住む者が見たのはただの獣ではないと思われる。
葉がこすれるような音がしたことで気が動転してしまったが、発見者は木の陰に隠れたので、見付からずに済んだ。
●
ファリフはチューダより聞かされた言葉を思い出し、月を眺めていた。
どこかに幻獣達が身を寄り添って住んでいるという。
残念ながら、チューダは詳しい場所までは思い出せなかった。
歪虚は幻獣を吸収する為に動く存在がいると聞く。やつらは愚かな者しかいないわけではない。
巧みに人の不安を煽る事が出来る者だっているのをファリフは知っているのだ。
今回は事柄が重なった上でチューダの知識を引き出す事が出来ただけ。
チューダの知識量は確か。
しかし、前回のナルガンド塔には確かに幻獣はいた。しかし、チューダが予言したトリシュヴァーナではなく、その眷属たるフェンリル。
間違いでないし、チューダを責める事も出来ない。
「ファリフ」
しわがれた声に名を呼ばれて振り向けば、大巫女がいた。
「チューダの事、気にしているんだろう」
大巫女の言葉にファリフは俯いてしまう。図星を突かれてしまったようで恥ずかしくなってしまう。
ファリフとて、チューダの知識は確かなものだ。しかし、後手に回っているようにも感じて、焦燥感が胸をかきむしるように不安になる。
壁画を通してトリシュヴァーナの嘆きを感じたからこそ、ファリフは焦ってしまう。
あんな思いは二度とさせたくない。苦しむ事なんかさせたくない。
否、自分がしたくないのだ。
黙り込むファリフに大巫女はため息をついた。凡その悩みどころは見当がついている。
「まぁ、心配してしまう気持ちはわからんでもないがな。焦るのはよくないさ、一つ一つ進んでいくしかない」
「うん……」
大巫女の言葉は身に染みるし、痛いくらいわかる。
「もしかしたら、ひとつひとつ提示するチューダみたいなのが丁度いいかもしれんな」
「え! ボクの刺青と通じ合っているのはトリシュヴァーナでしょ! だから、フェンリルが守っててくれてたんだし!」
おどける大巫女にファリフは大慌てでお腹の刺青を指を差す。
「フェンリルがいないのが寂しくてしょげているのかい?」
「ち、違うよ!」
ムキになるファリフに大巫女は声を上げて笑う。
「もー、夜に大声上げちゃだめなんだよっ」
膨れっ面になるファリフに、大巫女は「はいはい」と宥める。
きっと、フェンリルのことだ。「なんだ、俺がいなくて寂しがっているのか。悪い事をしたな、お嬢ちゃん」とか言うに違いないと頬を膨らましたファリフは思った。
●
影が着地すると、注意深く周囲を見渡し、何もいない事を確認している様子。
大丈夫と確信したのかのように、獲物を軽々と降りあげて肩に担いでしまった。
再び移動してしまう。
出来るだけ密やかに、気づかれないように影は森の奥へと跳んでいった。
●
翌日、ファリフと大巫女に歪虚の動きの情報が飛び込んできた。
「怪しい雑魔が発見された?」
話によれば、東方と辺境の境目に近い集落に住む者から、雑魔が奇妙な動きをしているという報告があったようだ。
報告は多数あるものの、姿は全員見ていない。
これからエトファリカの人々が自由に国を出入りできる矢先なのに。
しかし、チューダは朝ごはんのチーズに夢中で話を聞いていなかった。
「ボク、ハンターの皆と調査してくるよ」
ファリフがそう言えば、手持ちのチーズがなくなったチューダが顔を上げる。
「我輩はパンがほしいのであります。……って、何かありましたか?」
緊張感のないチューダの言葉に二人は肩を落とした。
「あ。うん、東方と辺境の境目に雑魔が出てるから、調査しにいくんだ」
「そうでありますか。下僕どもと赴くのですか?」
「……ハンター達と行くんだ」
チューダの性格はわかっているが、ファリフ的には下僕という言葉をハンターには使ってほしくないので、スルーすることに決めた。
大巫女と共にファリフを見送ったチューダは首を傾げる。
思い当たる節がどこかにある。しかし、それが何だか思い出せない。
多分……それは……と掴みかけようとした瞬間……。
「チューダ様、いかがされましたか? パンですよ。蜂蜜もあります」
可愛いもの好きの大巫女の配下が思案するチューダに気付かず声をかけてしまう。。
「気が利くであります!」
掴みかけた事はどこへやら。チューダは大喜びでチーズをスライスさせ、蜂蜜を垂らしてパンに挟み、大きく口を開けて幸せを頬張った。
リプレイ本文
ハンターたちと合流したファリフは彼らに気付くのが少し遅かった。
「ファリフはん……?」
眉をひそめたのはアカーシャ・ヘルメース(ka0473)だ。
顔なじみに見つめられてファリフは目を瞬く。
「え、えっと……」
どう答えていいものか、ファリフが言葉を捻り出そうとしていると、八雲 奏(ka4074)がファリフへ向く。
「白龍様、黒龍様……幻獣のことで気になるところはありますから」
「うん。チューダが言うには、どこかに幻獣達が身を潜めてるっていうんだ。幻獣は皆戦えるかわからないし、強い歪虚が幻獣を狙っているとなれば心配なんだ」
ぎゅっと拳を握るファリフにアカーシャは「しゃーないな」と言わんばかりにため息をつく。
「場所はわからないのでしょう?」
「うん……」
花厳 刹那(ka3984)が声をかければファリフは頷く。
「幻獣王が思い出すまで待つしかあらへん。今回は東方と辺境の国境近くや。気晴らしに歩いてこ」
焦って闇雲に探しても当たるかどうかなんて分からない。
ならば、少しでもファリフの気持ちを落ち着かせようとアカーシャは思う。
「とりあえず、雑魔を見つけた者がいる集落へ向かおう」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が言えば、皆が頷く。
「どんな雑魔がいるんだか」
「毘古ちゃん、随分楽しそう」
歩き始める久延毘 大二郎(ka1771)が言えば、奏が後ろから追いかけて大二郎の隣に立つ。
奏の姿に気づいた彼は少し身じろぎをするようにどうしたらいいのか戸惑うような様子を見せた。
殿を歩くようにセツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)は依頼書に書かれてあった事を思い出す。
●
目的の集落はとても小さい部族であり、そろそろ移動する時期だという。
遭遇しかけたのは青年、壮年の合わせて四人。
猟をして日々の糧を得ているというこの集落は主に男達が猟に出ている。
「それで、雑魔のことですが……見た時はどのような場所に」
セツナが本題を尋ねる。
「自分が見たときは、夕暮れでした。森の中で、猟をしてました」
最初に状況を伝えたのは一番年若い男だった。
発見した場所は森のいつも猟をしている場所より奥だと言う。手負いの獲物を追いかけて奥まで入ってしまい、戻ろうかと思案した際にさらに奥より葉擦れの音が聞こえたのだという。
「姿は確かめなかったのかね?」
大二郎が尋ねると、青年は首を横に振った。
「弓矢や刃物が扱えても、雑魔との実戦で俺一人で倒せるかわかりません……」
クリムゾンウェストに住む者たち全員が雑魔や歪虚と戦える訳ではない。
「それで、やり過ごそうと思って、茂みの中に隠れていたんです。そうしたら、奥から音が近付いてきまして、重そうな物を引きずるような音も聞こえました」
更に続ける青年の言葉にハンター達は耳を傾ける。
「一際大きな葉ずれの音がしたと思ったら、俺が狙ってた獲物が降ってきたんです」
「獲物ってなんだったんだ?」
眉を顰めるグリムバルドに青年は腕を使って大体の大きさを伝える。
大きさは中型くらいの鹿だというが鹿自体、持ち運ぶにはかさばる大きさだ。
「鹿って、持つのも大変だろ……」
「それを振り上げて飛ばしたってことね」
グリムバルドの言葉に刹那が続ける。
「鹿を放り投げた者の姿は見ましたか?」
更にセツナが尋ねると、青年はまた首を振った。
「その時間には日が暮れかけてて、その方向は暗くて見えませんでした」
「黄昏時……ならば仕方ないですね」
奏が言えば、ファリフが首を傾げる。その姿を見た奏が黄昏時の意味を教える。
「相手は怪力の持ち主か……」
ふむと、大二郎が思案すると、壮年の男が昼間に遭遇しかけたと言いだした。
シチュエーションは似たようなものであったが、壮年の男はその当時、足を挫いていたという。
何とか這って茂みに隠れたが、雑魔どころか獲物に反撃されたらなすがままになって、今ここにいるかわからないと言っていた。
壮年の方へ向かってくる足音は壮年を飛び越えて奥へと駆けて行った。
「飛び越えた……?」
「うつぶせになってて、盗み見たとき、逆光で姿が見えてなかったんだ……」
目を瞬かせるセツナに壮年は頷く。
「足跡は?」
奏が言えば、「あった」と即答した壮年であったが、どう言っていいか困っている様子だ。
「獣の四足歩行とは違う足跡だったんだ」
「二足歩行……それでは雑魔ではなく、人型の歪虚の可能性ではないか」
歪虚であれば人型も存在するし、知能も高い者も多い。
高いメリットを獲得する為には、弱くて殺しても意味を成さない命は放っておく事が出来る歪虚も存在すると言われている。
東方と辺境はこれから発展していくというのに、万が一、高位の歪虚がいたとすれば……そう考えるファリフの顔色は青ざめていた。
「ファリフはん。まだ、決まったわけやない」
血相を変えていくファリフの肩をアカーシャが宥めるように叩く。
ハンター達は場所を教えてもらって、集落を後にした。
●
今向かっている国境近くは深い森があり、奥へ奥へと進んでいけば、雑魔と遭遇する可能性もあると言われているようであった。
集落の者達は雑魔に気取られないように猟をしてきたとも言っていた。
「ファリフちゃん、速度が速いわよ」
刹那が先を急ごうとするファリフへ声をかける。
「あ……焦っちゃって……」
おろおろするようなファリフの言葉と様子が可愛らしくて刹那は笑みを零してしまう。
「高位の歪虚がいるかもしれないという予想はやっぱり、気持ちが焦るわよね」
刹那の言葉にファリフは頷く。
「……私は、今回の依頼書を見た時、幻獣かも知れないと思ってました」
二人の後ろを歩いていたセツナが呟いた。
「セツナお姉さん?」
ファリフがセツナの神妙な声音に気付いて振り向く。今回、刹那とセツナと間違えやすいからという事で、刹那を「刹那さん」と呼び、セツナを「セツナお姉さん」と呼ぶことにした。
「隠れていたとはいえ、何故、雑魔は気付かなかったのでしょうか。そして、探さなかったのでしょうか」
ハンター全員がセツナの言葉に耳を傾け、彼女は言葉を紡ぐ。
「幻獣は潤沢なマテルアルを持ち、歪虚はそれを狙っているとも聞いてます。幻獣であれば、隠れるように動くという事にも納得が出来るのです」
「問題は二足歩行の幻獣がいるかどうかということか」
グリムバルドの言葉にセツナが頷く。
「我々が見聞した事を考えれば、歪虚である可能性が高く感じるのもまた事実。先を見据えつつ、現状を確認するのが最優先だな」
空論を論じ、可能性を覚悟するのも悪くはないが、確認は優先するべきと大二郎が纏めた。
「ファリフ様、お腹空いてませんか?」
「え、ボクは……」
ファリフの顔を覗き込む奏にファリフは否定しようとしたが、お腹を鳴らしてしまった。
「お腹空いてると、ろくなことばかり考えるんやで。まずは腹ごしらえや」
こみ上げる笑いを抑えようとせず、アカーシャが言う。
「太陽も真上から傾いているな」
グリムバルドが空を見上げる。
「お昼ご飯にしましょう!」
この中で一番お腹を空かせているのは多分、奏。
お昼は保存食や持ち寄った食料で食べる。
「毘古ちゃん、あーん♪」
全開笑顔で奏がチーズを大二郎に食べさせようとする。
「……え……奏……その……」
周囲がいるんだがと、抵抗している大二郎であるが、奏は戸惑い、うろたえる大二郎が可愛くて面白いのだ。
「仲良しやなぁ。見てるだけでお腹一杯になったら、力出ぇへんわー」
アカーシャが陽気に茶々を入れると、更に大二郎は平静を頑張って保とうとしつつも、更に内心おろおろしている。
「仲良しはいいことだね」
無邪気なファリフに大二郎はトドメを刺されたように肩を落とした。
●
集落の者達が言っていた場所は森が深いところであり、草が生い茂っていた。
秋から冬にかけて葉が痩せたり枯れたりするが、足場の見通しはあまり良くならなさそうである。
「足跡はありますが……ある所で消えてしまってますね」
大二郎に肩車をしてもらいつつ、奏が報告をしてくれた。
それを見たファリフはちょっと羨ましいと思ったが、決して態度には出さない構え。
他のハンターの皆もその付近を探し回ったが、特に何もいなかったし、音も聞こえなかったようだ。
「そろそろ夕暮れですね」
刹那が地平線に隠れようとする太陽を見つめる。
「とりあえず、野営だな」
ため息混じりにグリムバルドが声をかけた。
夜の食事はスープがメイン。
この時期は寒暖差があり、夜は冷える。
「はい、毘古ちゃん。ふーふーしましょうね」
「……自分で食べるから……」
「いいじゃないですか。冷めますよ」
再び押し問答が始まる。
「チーズと干し肉を炙るのか? 危ないから貸してみろ」
ファリフが危なっかしそうにチーズと干し肉を炙ろうとしている姿を見かねたグリムバルドが声をかけて代わりに炙ってくれた。
「グリムバルドさん、ありがとう!」
「月が綺麗ですね」
温かいスープが盛ってある椀を手にして暖を取る刹那が顔を見上げる。
「冷気で空が澄んでますね。今夜は月光が強いからある程度の暗さは和らぐでしょう」
刹那の様子につられてセツナも顔を空へと向けて月の光を確認した。
「とりあえず、ツナ缶とパンを置いたが、釣られてくれるか……」
なんとか奏からパンを貰って自分でちぎって食べる大二郎が奥を見て呟く。
「この辺、一応食べられるものはあるし、出てくると思うんやけど……」
アカーシャも同じ方向を見て思案する。
食事の合間も、それらしい影はなかった。
ハンター達の聴覚を刺激しないようなところで跳ねるように駆けていく。
見回るように、警戒するように。
ふっと、立ち止まった『それ』は月夜に登る細い煙に気付く。
近いのか遠いのかはわからないが、『それ』は駆け出した。
●
野営は交代で行う事にしている。
「アカーシャさん、見張り番まで一緒に羽織るといいよ」
ファリフが自身の毛皮を広げ、アカーシャに羽織ろうとぴっとりとくっついてきた。
「お、あったかいなー。おおきに」
そんなやりとりを見ていた奏が「毘古ちゃん、やってみましょう」と声をかけつつ、白衣を奪おうとする。
「静かにせぇへんとアカンで」
「ねー」
クスクスとファリフとアカーシャに笑われつつ、大二郎は奏のいいようにされてしまう。
たき火の中に枯れ木を入れていたグリムバルドが顔を上げると奥の方から月光を受けて輝く何かに気づく。
双つの輝きが動きを止めたのかと思えば、茂みを揺らして飛び上がった。
着地した先はツナ缶とパンが入った麻袋。
「出やがったな」
素早くグリムバルドが言えば、刹那も反応する。
月光に晒されたその姿は白い短毛の毛並みであるが、しっかりもふもふ。
跳躍で揺れる耳は長い。
片手に杵のようなものを担ぎ、メイルとヘルムを装備し、ハーフパンツ姿。ガーネットの瞳がツナ缶へと向けられていた。
その姿はまさしく……。
「ウサギさんです!」
きゃぁっと、歓声混じりに喜びの声を上げる刹那。クールビューティーはどこへいった。
「はしゃいどる場合や……」
アカーシャをはじめ、他のハンター達が呆然としている。
可愛いからだけではない。
後ろ足で立っている。
「長靴を履いたウサギ……?」
呆然とするように大二郎が呟いた。革靴なんだろうか、妙につるつるした長靴で、夜目ではゴム長にも見える。
「歪虚とは思えないのですが……」
呆然と呟くファリフにウサギはむっとしたような表情へ変わる。
「そんな連中と一緒にするなんて失礼っス!」
「では幻獣ですか!」
否定するウサギにセツナが問う。
「そうっス! ……あ!」
失言に気がついたウサギは大慌てで口を押さえようとし、きびすを返そうとした。
「待ってください! 私達はハンターです! あなた達を心配してます!」
刹那が叫ぶとウサギは警戒の色をそのままにして間合いを取ろうとする。
「マテリアルが狙いっスか」
「狙ってません。あなた達を心配しているのです」
奏とアカーシャは二人そろってファリフを前に出す。
「この子、ファリフさんはトリシュヴァーナの祝福を受けた子なんや」
知った名前を聞いたウサギは目を見開く。
「トリシュヴァーナに会った事ないけど……フェンリルから歪虚に受けた傷を癒しているって聞いたよ」
「確かに、トリシュヴァーナは負傷したって聞いたっス」
ファリフのお腹の入れ墨にトリシュヴァーナのマテリアルでも感じているのか、ウサギから警戒が少しずつ薄れていく。
「ボク、ナルガンド塔で幻獣が倒れてて、トリシュヴァーナが嘆いている壁画を見たんだ。
トリシュヴァーナ、すごく悲しそうだった。だから、ボクはキミを守りたいんだ。ここにいるだけじゃない、たくさんのハンター達もきっと、キミを守ろうとするから……」
「だから、逃げたりしないでください」
「とって食ったりしねぇよ」
刹那が言葉を続け、グリムバルド隙をついてジェットブーツで背後に回ってウサギの肩を叩いた。
「……トリシュヴァーナが認めた。嘘を言っているようには見えないっすね。了解したっス」
観念したようウサギはそう言った。
ウサギはツキウサギという幻獣であり、この界隈に住む幻獣を雑魔から守ってきたのだという。
「最近は結界の力が弱まっているっス」
それにはハンター達も気づくものがある。
「あんなところで一夜を過ごすより、結界の中で過ごした方がマシっス」
思わぬ誘いに刹那が内心喜ぶ。
「ただ、幻獣は恐がりもいるっス。幻獣以外の種族と接触を絶っていることもあるっスから」
「それは残念だが、仕方ない」
興味を惹かれていた大二郎に奏がくすくす笑う。
「毘古ちゃんはこっちに興味が深いのね」
「ここの世界は興味深い」
二人の会話をよそにセツナはツキウサギへ問いを投げる。
「ここの主はいるのですか?」
ツキウサギはしょんぼりするように肩を落とす。
「幻獣の森の結界が弱まって、なんだか気持ちも弱まってるカンジっス。本来は優しい方っス。今晩はこのツキウサギと一緒に休んでほしいっス」
ふわふわ毛並みのウサギと一緒にいれることに刹那が喜んだ。
「さ、触ってもいいかしら?」
「構わないっス」
一部のハンター達はツキウサギのふわふわ毛並みを堪能して休んだ。
「こんなところに幻獣の森があったなんて……」
「チューダ、忘れてたんだろうね……」
セツナがうなだれると、ファリフもげんなりしている。
「まぁまぁ、目的は半分果たせたようなもんやし。儲け、儲け」
アカーシャが二人を慰める。
グリムバルドが顔を上げると、月は傾き始めていた。
ハンター達とそう離れてない場所に、同じく月を見上げる者がいる。
これから満月へと向かう月は煌々と明るいが、その瞳は望みを放棄し、寂しさが溢れていた。
「ファリフはん……?」
眉をひそめたのはアカーシャ・ヘルメース(ka0473)だ。
顔なじみに見つめられてファリフは目を瞬く。
「え、えっと……」
どう答えていいものか、ファリフが言葉を捻り出そうとしていると、八雲 奏(ka4074)がファリフへ向く。
「白龍様、黒龍様……幻獣のことで気になるところはありますから」
「うん。チューダが言うには、どこかに幻獣達が身を潜めてるっていうんだ。幻獣は皆戦えるかわからないし、強い歪虚が幻獣を狙っているとなれば心配なんだ」
ぎゅっと拳を握るファリフにアカーシャは「しゃーないな」と言わんばかりにため息をつく。
「場所はわからないのでしょう?」
「うん……」
花厳 刹那(ka3984)が声をかければファリフは頷く。
「幻獣王が思い出すまで待つしかあらへん。今回は東方と辺境の国境近くや。気晴らしに歩いてこ」
焦って闇雲に探しても当たるかどうかなんて分からない。
ならば、少しでもファリフの気持ちを落ち着かせようとアカーシャは思う。
「とりあえず、雑魔を見つけた者がいる集落へ向かおう」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が言えば、皆が頷く。
「どんな雑魔がいるんだか」
「毘古ちゃん、随分楽しそう」
歩き始める久延毘 大二郎(ka1771)が言えば、奏が後ろから追いかけて大二郎の隣に立つ。
奏の姿に気づいた彼は少し身じろぎをするようにどうしたらいいのか戸惑うような様子を見せた。
殿を歩くようにセツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)は依頼書に書かれてあった事を思い出す。
●
目的の集落はとても小さい部族であり、そろそろ移動する時期だという。
遭遇しかけたのは青年、壮年の合わせて四人。
猟をして日々の糧を得ているというこの集落は主に男達が猟に出ている。
「それで、雑魔のことですが……見た時はどのような場所に」
セツナが本題を尋ねる。
「自分が見たときは、夕暮れでした。森の中で、猟をしてました」
最初に状況を伝えたのは一番年若い男だった。
発見した場所は森のいつも猟をしている場所より奥だと言う。手負いの獲物を追いかけて奥まで入ってしまい、戻ろうかと思案した際にさらに奥より葉擦れの音が聞こえたのだという。
「姿は確かめなかったのかね?」
大二郎が尋ねると、青年は首を横に振った。
「弓矢や刃物が扱えても、雑魔との実戦で俺一人で倒せるかわかりません……」
クリムゾンウェストに住む者たち全員が雑魔や歪虚と戦える訳ではない。
「それで、やり過ごそうと思って、茂みの中に隠れていたんです。そうしたら、奥から音が近付いてきまして、重そうな物を引きずるような音も聞こえました」
更に続ける青年の言葉にハンター達は耳を傾ける。
「一際大きな葉ずれの音がしたと思ったら、俺が狙ってた獲物が降ってきたんです」
「獲物ってなんだったんだ?」
眉を顰めるグリムバルドに青年は腕を使って大体の大きさを伝える。
大きさは中型くらいの鹿だというが鹿自体、持ち運ぶにはかさばる大きさだ。
「鹿って、持つのも大変だろ……」
「それを振り上げて飛ばしたってことね」
グリムバルドの言葉に刹那が続ける。
「鹿を放り投げた者の姿は見ましたか?」
更にセツナが尋ねると、青年はまた首を振った。
「その時間には日が暮れかけてて、その方向は暗くて見えませんでした」
「黄昏時……ならば仕方ないですね」
奏が言えば、ファリフが首を傾げる。その姿を見た奏が黄昏時の意味を教える。
「相手は怪力の持ち主か……」
ふむと、大二郎が思案すると、壮年の男が昼間に遭遇しかけたと言いだした。
シチュエーションは似たようなものであったが、壮年の男はその当時、足を挫いていたという。
何とか這って茂みに隠れたが、雑魔どころか獲物に反撃されたらなすがままになって、今ここにいるかわからないと言っていた。
壮年の方へ向かってくる足音は壮年を飛び越えて奥へと駆けて行った。
「飛び越えた……?」
「うつぶせになってて、盗み見たとき、逆光で姿が見えてなかったんだ……」
目を瞬かせるセツナに壮年は頷く。
「足跡は?」
奏が言えば、「あった」と即答した壮年であったが、どう言っていいか困っている様子だ。
「獣の四足歩行とは違う足跡だったんだ」
「二足歩行……それでは雑魔ではなく、人型の歪虚の可能性ではないか」
歪虚であれば人型も存在するし、知能も高い者も多い。
高いメリットを獲得する為には、弱くて殺しても意味を成さない命は放っておく事が出来る歪虚も存在すると言われている。
東方と辺境はこれから発展していくというのに、万が一、高位の歪虚がいたとすれば……そう考えるファリフの顔色は青ざめていた。
「ファリフはん。まだ、決まったわけやない」
血相を変えていくファリフの肩をアカーシャが宥めるように叩く。
ハンター達は場所を教えてもらって、集落を後にした。
●
今向かっている国境近くは深い森があり、奥へ奥へと進んでいけば、雑魔と遭遇する可能性もあると言われているようであった。
集落の者達は雑魔に気取られないように猟をしてきたとも言っていた。
「ファリフちゃん、速度が速いわよ」
刹那が先を急ごうとするファリフへ声をかける。
「あ……焦っちゃって……」
おろおろするようなファリフの言葉と様子が可愛らしくて刹那は笑みを零してしまう。
「高位の歪虚がいるかもしれないという予想はやっぱり、気持ちが焦るわよね」
刹那の言葉にファリフは頷く。
「……私は、今回の依頼書を見た時、幻獣かも知れないと思ってました」
二人の後ろを歩いていたセツナが呟いた。
「セツナお姉さん?」
ファリフがセツナの神妙な声音に気付いて振り向く。今回、刹那とセツナと間違えやすいからという事で、刹那を「刹那さん」と呼び、セツナを「セツナお姉さん」と呼ぶことにした。
「隠れていたとはいえ、何故、雑魔は気付かなかったのでしょうか。そして、探さなかったのでしょうか」
ハンター全員がセツナの言葉に耳を傾け、彼女は言葉を紡ぐ。
「幻獣は潤沢なマテルアルを持ち、歪虚はそれを狙っているとも聞いてます。幻獣であれば、隠れるように動くという事にも納得が出来るのです」
「問題は二足歩行の幻獣がいるかどうかということか」
グリムバルドの言葉にセツナが頷く。
「我々が見聞した事を考えれば、歪虚である可能性が高く感じるのもまた事実。先を見据えつつ、現状を確認するのが最優先だな」
空論を論じ、可能性を覚悟するのも悪くはないが、確認は優先するべきと大二郎が纏めた。
「ファリフ様、お腹空いてませんか?」
「え、ボクは……」
ファリフの顔を覗き込む奏にファリフは否定しようとしたが、お腹を鳴らしてしまった。
「お腹空いてると、ろくなことばかり考えるんやで。まずは腹ごしらえや」
こみ上げる笑いを抑えようとせず、アカーシャが言う。
「太陽も真上から傾いているな」
グリムバルドが空を見上げる。
「お昼ご飯にしましょう!」
この中で一番お腹を空かせているのは多分、奏。
お昼は保存食や持ち寄った食料で食べる。
「毘古ちゃん、あーん♪」
全開笑顔で奏がチーズを大二郎に食べさせようとする。
「……え……奏……その……」
周囲がいるんだがと、抵抗している大二郎であるが、奏は戸惑い、うろたえる大二郎が可愛くて面白いのだ。
「仲良しやなぁ。見てるだけでお腹一杯になったら、力出ぇへんわー」
アカーシャが陽気に茶々を入れると、更に大二郎は平静を頑張って保とうとしつつも、更に内心おろおろしている。
「仲良しはいいことだね」
無邪気なファリフに大二郎はトドメを刺されたように肩を落とした。
●
集落の者達が言っていた場所は森が深いところであり、草が生い茂っていた。
秋から冬にかけて葉が痩せたり枯れたりするが、足場の見通しはあまり良くならなさそうである。
「足跡はありますが……ある所で消えてしまってますね」
大二郎に肩車をしてもらいつつ、奏が報告をしてくれた。
それを見たファリフはちょっと羨ましいと思ったが、決して態度には出さない構え。
他のハンターの皆もその付近を探し回ったが、特に何もいなかったし、音も聞こえなかったようだ。
「そろそろ夕暮れですね」
刹那が地平線に隠れようとする太陽を見つめる。
「とりあえず、野営だな」
ため息混じりにグリムバルドが声をかけた。
夜の食事はスープがメイン。
この時期は寒暖差があり、夜は冷える。
「はい、毘古ちゃん。ふーふーしましょうね」
「……自分で食べるから……」
「いいじゃないですか。冷めますよ」
再び押し問答が始まる。
「チーズと干し肉を炙るのか? 危ないから貸してみろ」
ファリフが危なっかしそうにチーズと干し肉を炙ろうとしている姿を見かねたグリムバルドが声をかけて代わりに炙ってくれた。
「グリムバルドさん、ありがとう!」
「月が綺麗ですね」
温かいスープが盛ってある椀を手にして暖を取る刹那が顔を見上げる。
「冷気で空が澄んでますね。今夜は月光が強いからある程度の暗さは和らぐでしょう」
刹那の様子につられてセツナも顔を空へと向けて月の光を確認した。
「とりあえず、ツナ缶とパンを置いたが、釣られてくれるか……」
なんとか奏からパンを貰って自分でちぎって食べる大二郎が奥を見て呟く。
「この辺、一応食べられるものはあるし、出てくると思うんやけど……」
アカーシャも同じ方向を見て思案する。
食事の合間も、それらしい影はなかった。
ハンター達の聴覚を刺激しないようなところで跳ねるように駆けていく。
見回るように、警戒するように。
ふっと、立ち止まった『それ』は月夜に登る細い煙に気付く。
近いのか遠いのかはわからないが、『それ』は駆け出した。
●
野営は交代で行う事にしている。
「アカーシャさん、見張り番まで一緒に羽織るといいよ」
ファリフが自身の毛皮を広げ、アカーシャに羽織ろうとぴっとりとくっついてきた。
「お、あったかいなー。おおきに」
そんなやりとりを見ていた奏が「毘古ちゃん、やってみましょう」と声をかけつつ、白衣を奪おうとする。
「静かにせぇへんとアカンで」
「ねー」
クスクスとファリフとアカーシャに笑われつつ、大二郎は奏のいいようにされてしまう。
たき火の中に枯れ木を入れていたグリムバルドが顔を上げると奥の方から月光を受けて輝く何かに気づく。
双つの輝きが動きを止めたのかと思えば、茂みを揺らして飛び上がった。
着地した先はツナ缶とパンが入った麻袋。
「出やがったな」
素早くグリムバルドが言えば、刹那も反応する。
月光に晒されたその姿は白い短毛の毛並みであるが、しっかりもふもふ。
跳躍で揺れる耳は長い。
片手に杵のようなものを担ぎ、メイルとヘルムを装備し、ハーフパンツ姿。ガーネットの瞳がツナ缶へと向けられていた。
その姿はまさしく……。
「ウサギさんです!」
きゃぁっと、歓声混じりに喜びの声を上げる刹那。クールビューティーはどこへいった。
「はしゃいどる場合や……」
アカーシャをはじめ、他のハンター達が呆然としている。
可愛いからだけではない。
後ろ足で立っている。
「長靴を履いたウサギ……?」
呆然とするように大二郎が呟いた。革靴なんだろうか、妙につるつるした長靴で、夜目ではゴム長にも見える。
「歪虚とは思えないのですが……」
呆然と呟くファリフにウサギはむっとしたような表情へ変わる。
「そんな連中と一緒にするなんて失礼っス!」
「では幻獣ですか!」
否定するウサギにセツナが問う。
「そうっス! ……あ!」
失言に気がついたウサギは大慌てで口を押さえようとし、きびすを返そうとした。
「待ってください! 私達はハンターです! あなた達を心配してます!」
刹那が叫ぶとウサギは警戒の色をそのままにして間合いを取ろうとする。
「マテリアルが狙いっスか」
「狙ってません。あなた達を心配しているのです」
奏とアカーシャは二人そろってファリフを前に出す。
「この子、ファリフさんはトリシュヴァーナの祝福を受けた子なんや」
知った名前を聞いたウサギは目を見開く。
「トリシュヴァーナに会った事ないけど……フェンリルから歪虚に受けた傷を癒しているって聞いたよ」
「確かに、トリシュヴァーナは負傷したって聞いたっス」
ファリフのお腹の入れ墨にトリシュヴァーナのマテリアルでも感じているのか、ウサギから警戒が少しずつ薄れていく。
「ボク、ナルガンド塔で幻獣が倒れてて、トリシュヴァーナが嘆いている壁画を見たんだ。
トリシュヴァーナ、すごく悲しそうだった。だから、ボクはキミを守りたいんだ。ここにいるだけじゃない、たくさんのハンター達もきっと、キミを守ろうとするから……」
「だから、逃げたりしないでください」
「とって食ったりしねぇよ」
刹那が言葉を続け、グリムバルド隙をついてジェットブーツで背後に回ってウサギの肩を叩いた。
「……トリシュヴァーナが認めた。嘘を言っているようには見えないっすね。了解したっス」
観念したようウサギはそう言った。
ウサギはツキウサギという幻獣であり、この界隈に住む幻獣を雑魔から守ってきたのだという。
「最近は結界の力が弱まっているっス」
それにはハンター達も気づくものがある。
「あんなところで一夜を過ごすより、結界の中で過ごした方がマシっス」
思わぬ誘いに刹那が内心喜ぶ。
「ただ、幻獣は恐がりもいるっス。幻獣以外の種族と接触を絶っていることもあるっスから」
「それは残念だが、仕方ない」
興味を惹かれていた大二郎に奏がくすくす笑う。
「毘古ちゃんはこっちに興味が深いのね」
「ここの世界は興味深い」
二人の会話をよそにセツナはツキウサギへ問いを投げる。
「ここの主はいるのですか?」
ツキウサギはしょんぼりするように肩を落とす。
「幻獣の森の結界が弱まって、なんだか気持ちも弱まってるカンジっス。本来は優しい方っス。今晩はこのツキウサギと一緒に休んでほしいっス」
ふわふわ毛並みのウサギと一緒にいれることに刹那が喜んだ。
「さ、触ってもいいかしら?」
「構わないっス」
一部のハンター達はツキウサギのふわふわ毛並みを堪能して休んだ。
「こんなところに幻獣の森があったなんて……」
「チューダ、忘れてたんだろうね……」
セツナがうなだれると、ファリフもげんなりしている。
「まぁまぁ、目的は半分果たせたようなもんやし。儲け、儲け」
アカーシャが二人を慰める。
グリムバルドが顔を上げると、月は傾き始めていた。
ハンター達とそう離れてない場所に、同じく月を見上げる者がいる。
これから満月へと向かう月は煌々と明るいが、その瞳は望みを放棄し、寂しさが溢れていた。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 久延毘 大二郎(ka1771) 人間(リアルブルー)|22才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/10/09 01:58:47 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/07 20:54:26 |