影からの襲撃者

マスター:四方鴉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2014/07/28 19:00
完成日
2014/08/05 10:53

みんなの思い出

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オープニング

●夜闇に生じる恐怖
 日が落ち、月明かりが照らす町外れ。
 数名の男女が遠出から各々の家に戻るべく、人気の無い道を急いでいた。
「いやー、今日はちょっと長引いたな。仕事の息抜きにしては遊びすぎたよ」
「マイクったら、いくら夕方の方が釣れるからって長居しすぎよ、まったくもー」
 日々の雑踏から逃れ、自然の中で釣りと食事を楽しんできたのだろう。結果、楽しみすぎて日が落ち、夜闇の中を進むハメになってしまったがそれも一つの思い出か。
 ようやく、家々から零れる光りが大きくなり、戻ってきたんだとそれぞれが認識した時異変は生じた。
「うがっ……」
「ジョン? どうしたの……ヒィッ!?」
 突如倒れた仲間、そしてその傍に立つのは影の人間。
 全身を黒き一色で塗り固め、のっぺりとした輪郭が徐々にその姿を変えていく。
 ようやくその形の変化が終われば、何処かで見たことがあるような、そんな違和感を覚える成人男性の容貌に。
 一歩、また一歩。
 驚愕する人々に近づく影は、歩を進めるごとに黒き身体に彩りを付け、彼らが感じた違和感の正体を示すべく変容を続けていく。
 肌の色を、服の色を、そして手にした物品は先ほど倒れたジョンのもの。
 そう、この影は時間をかけ、漆黒の闇から人間の、他者の姿を真似て襲い掛かる雑魔だったのだ。
「な、なんでジョンの姿になってるんだよ、こいつは!?」
「ちょっと、まだ居るわよ……私たちの姿になってる、いや、いやぁぁああ!」
「くっそ、誰か手を貸せ、ジョンを連れて逃げるぞ!」
 いつの間にか出現した複数の人影。
 その全てがこの男女、それぞれの姿を模して不気味な笑いを浮かべていたのだ、皆がパニックになるのも無理は無い。
 ただ、幸運なのは荒事、雑魔関係の出来事を何度も経験していた者が居たことだろう。彼は倒れた青年、ジョンに駆け寄り救助、仲間と共に抱えつつ雑魔の脇を通り抜けるように離脱。
 無理に追撃する性質は無かったのだろう、逃げる際に何人かが怪我をするも死者を出す事はなく彼らは町への逃走に成功。
 翌日、雑魔出現の報を受けた町の有力者は危険と判断、治安維持の点からも雑魔駆逐をハンターに依頼する運びとなっていた。

●偽りの自分は
「はいはーい、今回はちょーっと面白い雑魔退治の依頼ですよーっと」
 集ったハンターを前に、受付嬢が妙にハイテンションで説明を開始する。
 今回舞い込んだ依頼は町外れに出没、夕刻から夜間にかけて人々を襲う雑魔退治となっていた。
「えーと、場所は町外れ、夜闇にまぎれてどこからか出てきますね。昼間は無理です、出てきませんよー
 それと、相手の特徴ですけど最初はただの影人間、ちょーっと時間があったら、ななな、なんとぉ!
 姿形を狙ってる人と似た形に変化させちゃうんですよね、これが。まあ、完全にソックリ、は無理みたいで全体的に黒っぽい、影の入ったダークカラーで再現されますね」
 出現時はただの影、それが相対する相手の姿に変化し、色彩まで似通った色となる。
 夕刻~夜間という時間も相まって、光源や判別手段を用意していなければパッと見で見分けるのは困難、咄嗟の対処が出来ない可能性もある。
 また、相手は姿形だけでなくそれぞれが持つ得物までもを模倣、攻撃手段も真似て襲い繰ることが確認されていた。
「同じ姿、同じ武器……うーん、これは自分自身との戦いってやつですね!
 燃えるシチュエーションだとは思いませんか? いえ、そうに決まってますよ、だって同じ姿なんですから! 色々とこう、思う事とかやってみたい事とかあるでしょう?
 例えば、自分の弱い心の具現化だー、とか。忘れたい過去の記憶を、とか言って乗り越える自分に酔ってみたりとか……普通の戦いでは決して味わえない充足感、そう、それは自分と戦う事だ! とかやっちゃったり。
 あとは、そうですね。仲間と戦う相手を交換して連係プレイとかもいいかと思うんですよっ!
 絡み合って他の仲間の所に割り込んで……コイツは俺のことを真似て、全て知った風な態度だがそうでない事を教えてやれ! とか言って、相手を交換してバッサリ倒しちゃうんですよ!
 姿形や武器を真似ても、戦ってきた経験は真似れない、とか言って〆るとカッコいいと思いませんか? いえ、思いますよねっ!」
「いいから落ち着け、脱線してるぞ」
 身振り手振りを交え、相手の能力やどういう風に戦うといいとか熱弁する受付嬢。
 興奮しきった彼女を落ち着かせようとハンターが冷めた目で言い放つも、あんまり効果はないようだ。
「まあ、相手の戦闘力はそこまで高く無いって事はわかってますんで! 取り囲まれつつも逃げれた程度ですし、真似る方に力を全力で割いてるんだと思いますよ。
 あんまり無茶なことさえしなければ大丈夫、皆さんなら上手く出来ますって。それじゃ、いってらっしゃい」
 そこまで伝え、相手の能力を取りまとめた資料を彼女は手渡し説明を終了。
 姿形を変化させ、相手を脅かす雑魔退治へとハンターを送り出すのであった……

リプレイ本文

●己との戦いへ
「自分との戦い……面白いですね」
「身体的特徴も似るのか、それ次第だな」
 町外れ、日が落ちる中各々が持ち寄ったランタンやライトの光の中で言葉を交わすミリア・コーネリウス(ka1287)とクリスティン・ガフ(ka1090)が周囲を見渡す。
 まばらに立った木々、放置された岩。
 どこから現れても不思議では無い相手、警戒するに越した事は無い。
「自分を乗り越える事に酔うの推奨……いい機会!」
「偽者野郎、なんて俺も偉そうには言えやしねえが。自分が物真似で終わらない為にも倒さないとな」
 自分が別の道を歩んでいれば、という思いを持っていたクレール(ka0586)に戦う戦士に憧れ、戦士を演じるだけではなく自ら力を欲していた鳴神 真吾(ka2626)が頷く。
 伸び悩む今の自分を見て家業を継いでいればもっと伸びたのでは、という想いを持つクレールに、偽りの戦士ではなく真の戦士を目指す真吾には何か通じるものがあったのだろう。
 そんな2人を見遣りつつ、自分自身との戦いに興味など無いとアッサリした空気のミスティカ(ka2227)に、浮かべた微笑から何を考えているか読み取れぬ、ある種の狂気を湛えたマリー・ドルイユ(ka1396)が眼を細め。
 何時現れるとも分からぬ雑魔を待ちうけ、各々が歩を進める中ようやくその影は現れた。
「お姉さま、あそこの岩陰……ッ」
「どうやらお出ましのようだね、ったく悪趣味だよ、人の真似したってそいつにゃなれないってのに」
 真っ先に違和感に気付いたCelestine(ka0107)が声を上げ、彼女と手首を縄で結んでいたタディーナ=F=アース(ka0020)が反応。
 同時に、残る面々もそれぞれの光源を掲げ敵を確認、自分自身の姿を真似た影を引きつれ各所へ散開。
 夜闇の中、姿を真似た敵との戦いがこうして始まっていた……

●その姿は誰のもの?
「これが主の試しであるのでしたら、声と心を以ち潔白を示すものでありますけれど」
 地に置かれたランタンが照らす中、黒き影が徐々に彩度を高め自らに近づいていく様を見つめるマリー。
「悪魔の使いでしたわね……? 見真似だけでは、私にはなれませんのよ……?」
 色彩を真似、自身の持つロッドとラウンドシールドを構えた雑魔を前に一歩前進。
 ロッドの先端より光弾が放たれ、そのまま雑魔の額へ命中。
 大きく身体を仰け反らせ、衝撃に耐え切れず後退した雑魔であったが模倣を是とする相手、反撃はここから始まる。
 ピクリと身体を震わせ、仰け反った上半身を引き起こす。
 何事も無かったかのように引き戻された体であったが、顎だけが直撃弾を受けたまま大きく上がる異質な状態。
 手にしたロッドで顎を押さえ、力任せに元の位置へと戻せばそこに見えるはマリーの微笑、ただそれだけ。
 酷く醜く、三日月状に歪んだ口元は嫌悪感を、そして怒りを呼び起こすのに十分か。
 そこからは双方、一歩も引かぬ消耗戦。
 マリーの放つ光弾を雑魔が盾で受け止め、光が爆ぜれば即座に雑魔も反撃に光弾を射出する。
 盾で受ければ、その光りは即座に消失、ただ漆黒の影が飛び散り偽りの攻撃である事を物語る。
「例え紛い物でありましても、総ては主様の物なのですわ……ですから、返しなさい?」
 互いに距離を離さず、射撃戦を続ける状況を終わらせるのはマリー。
 盾を翳し突撃し、雑魔もそれに応じ前進を。
 双方の構えた盾が激しくぶつかり、金属音と共に両者が一歩、引き下がる。
「返さないのでしたら……」
 直後、ロッドと全身にマテリアルを巡らせたマリーが跳躍、雑魔も負けじと飛び跳ねれば、2つの影が交錯していた……


「相手が自分だとやりにくいわね……だけど、それはそっちも同じじゃないかしら」
 左腕に走る鋭い痛み、そして同時に液体が滴る感触。
 一旦後方へ飛び退きつつ、左肩に穴を空けた雑魔を見遣りミスティカがクスリと笑う。
 1対1、正面からの削り合いは得意では無いがそれは真似た相手も同じ。
「どちらが先に力尽きるか、根競べといったところね」
 マテリアルを活性化、淡い光に包まれ傷を癒したミスティカが再度接近、地面から切り上げる形でルーンソードを振り上げれば回避できず雑魔の胴部に深い傷が刻み込まれた。
「全く本当に目障りだわ」
 攻撃を受けても歪んだ笑みを崩さぬ雑魔。
 受けた攻撃そのままに、同じ様に剣の切っ先を地面スレスレに走らせ切り上げる雑魔であったが、聞こえたのは虚空を走る武器の音のみ。
 それはミスティカが攻撃を予測、剣の軌道を予測し飛び越える形で跳躍し攻撃を回避していたからだ。
 生じた隙は逃がさない、それが彼女の戦術。
 反転する相手に先んじ剣を一閃、その一撃が相手の右腕を掠めれば反撃にと雑魔が繰り出す刺突攻撃。
 上体を捻る事で切っ先は彼女を貫く事は出来ず、胸部から左肩に一筋の傷が刻まれるに止まっていた。
「流れる血は生きている事の証……貴女は今までどれだけ痛みを感じてきたかしら」
 姿を真似る、それが影の限界。
 相手が感じた痛み、心の疵、感情が無い人形では幾ら真似をしたところで本人以上に使いこなせる事は無い。
 それを示す為、ミスティカは雑魔との距離を詰めその剣を振りぬいていた。


 轟音と共に大地に亀裂、そして飛び散る多数の小石。
 振り下ろされた大剣の衝撃は凄まじく、直撃すればただではすまないその一撃を前にしてミリアは平然としていた。
「大剣の使い方がなっていませんね、力の入れ方が違うんです」
 振り下ろされた大剣、そこへ自身の得物であるグレートソードを打ち込み軌道を逸らす。
 標的を失った一撃は勢いだけはそのままに地面に激突、地面に亀裂を生じる先の光景を生み出していたのだ。
「姿形だけ真似たところで私たちには勝てませんよ」
 振り下ろしたが故に生じた隙、得物を引き戻す雑魔の動作を見逃さずミリアが一歩踏み込みグレートソードで薙ぎ払い。
 弾き飛んだ雑魔は地面を滑りながら後退、急ぎ上体を起こし迎え撃つが眼前には地を蹴り、一気に距離を詰めるミリアの姿。
 袈裟懸けに切りつけられた一撃を雑魔は自身の剣で防御、闇夜に金属音と共に火花が走り、互いの武器をぶつけ合う2つの影が浮かび上がる。
「剣と人が共に歩んできた歴史は長い。短時間で模倣しきれるものではありません」
 双方、武器を押し付けあう鍔迫り合い。
 ただひたすらに、質量を活かした力任せの攻撃を中心とした雑魔に対し武器の歴史、そして使い込んできたその経験は即座に模倣出来ぬと言い放つミリア。
 闇夜に赤き双眼が輝き、激しい金属音が鳴り響く。
 数合の後、4つあった眼光は2つに減じこの領域には静寂が訪れていた。


●乗り越える存在は
「うぅ、それにしても……何か、迷いの無い私のイメージに似すぎてない……?」
 光の剣をその手に生成、うっすらと影が消え自身に似ていく雑魔を前に動揺するクレール。
 自分自身の迷い、それを相手が現しているような錯覚に囚われつつ彼女は突撃、振り下ろしたその剣は相手が生成した光の剣によって防がれ接近戦へ。
「くぅっ! その迷いの無い眼で笑うなぁっ!」
 肉薄し見えた顔。
 今の自分を嘲笑う、見下したかのような目と口元。
 攻撃を凌ぎ、自分を試すならばと彼女は先ほどと同じく機導剣を振るった軌道でアルケミストタクトを振り下ろし、格闘攻撃と見せての機導砲。
 放たれた光は雑魔を捉えその衣服を焦がしてはいたが、光の中に見えた表情は哂ったまま崩れる事は無い。
 新しい攻撃、真似る動作が増えたとばかりに雑魔はぬるりと距離を取り、アルケミストタクトを構え一筋の光を放っていた。
「わっ、こんの……お前、その薄ら笑いを、やめろぉぉぉっ!」
 闇夜に響く咆哮、それは自身の思い、悔いを断ち切らんとするクレールの内面がさらけ出されたに他ならない。
 傍目には無駄が多く、ただ我武者羅に攻撃を繰り出すクレールと冷静、そして的確に反撃する雑魔であったが双方、その攻撃に乗せた想いには雲泥の差がある。
 余裕のあった雑魔も勢いに押され、哂いながら後退するがそれを逃がさずクレールが食らい付く。
「武器も、技も、術もいらない……私の! 渾身の!! 拳だぁぁぁあああっ!!!」
 感情の赴くまま、自分の想いを断ち切る為にクレールの叫びが闇の中、一際大きく響いていた……


「この胸だ、この胸のせいで私は!」
 人気無き闇の中、ランタンが照らし出したのは異様な光景。
 標準体型、でも胸は大きめなんて事で色々と嫌な思いを個人的にはしてきたのであろうクリスティン。
 相手が自分の姿を色彩まで真似るまでじっと待機、邪悪な笑みを浮かべてその時を待っていた彼女は雑魔が自分とソックリになった時点で行動を開始。
 今まで胸の為に受けていた苦しみを思ったのだろう、ひたすら雑魔を殴っていたのだ、胸だけ狙って。
 ちなみに、雑魔は見た目を真似るのに全力を傾けつつ感触も出来るだけ本物に近付けようとフルパワー。
 殴りつけつつ感じた事は『オッパイプルンプルン!』であった。
「逃・が・さ・な・い」
 反撃を受けつつ、とにかくひたすらに胸ばかり攻撃していたクリスティン。
 目的が何か違ってる気がするが、彼女はいたって真面目なのだ。
「ハァ、ハァ……よし、改めて、いざ尋常に勝負」
 激しい打撃戦(一方だけが打撃、雑魔は斬撃とかしてました)を終え、息を整えつつクリスティンが抜刀。
 守りを棄てた攻めの姿勢で一気に肉薄、双方の太刀が闇夜を切り裂きぶつかり合う。
「どうだ、偽者。私ならこれを受けれるがお前には無理だろうな」
 数合の後、一気呵成に攻め立てるクリスティン。
 捨て身で突撃、踏鞴を踏みつつ振り上げた太刀は大上段の構えからの振り下ろし。
「きえええええええい!」
 様々な感情を叫びに込め、胸以外の悩みやら不満をここぞとばかりにぶつけようとした彼女の攻撃は続くのであった。


「覚醒! 機導特査ガイアードッ!」
 掲げたヘルメットを装着、淡い光と共にヒーローの衣を纏った真吾は覚醒し真正面から雑魔とぶつかり合っていた。
 自分の姿、武器を真似るならば自身も同じ武器で戦い、それを乗り越えるという事に意味がある。
「お前が私を真似るなら受けて立つ!」
 左手の魔導拳銃を突きつけ射撃、相手が身体を潜り込ませる様に倒し銃弾を避け、反撃にと銃撃されれば真吾は半身になって紙一重で回避。
 ならばと双方、右手に構えた黒漆太刀での斬撃戦を。
 真吾が真一文字に振り抜く一撃、それを雑魔は地面に垂直に刀身を構える事で受け止め、反撃に上段振り下ろしを放つも真吾は素早く刀を戻し、水平に構え受け止める。
 影を纏ったかに見えた雑魔も激しい攻防の中、得た時間でさらに真吾の姿へ似通っていくがそれに臆する彼ではない。
「目指すべきその姿も、彼等から教えられた想いも知らず、ただ上辺を真似て嘲笑うお前達にだけは負けるわけにはいかない!」
 雑魔が持たず、真吾が持ちえる両者の違いは心に宿した熱き想い。
 銃撃を回避、樹木を足場に跳躍した真吾はその手に青き光を宿し、一振りの剣を生成。
「機導剣(マテリアルセイバー)! ガイア・インパルスッ!!」
 叫びと共に生み出されたその剣。
 迎え撃つ雑魔も同じく光の剣を形成、地上から飛び上がる形で真吾と交錯。
 闇夜に青き閃光が走り、2つの影は背中を向けあい地上に降りる。
 暫しの沈黙、そして真吾が膝を突くが雑魔は微動だにせずその場に鎮座。
 だが、それは真吾の敗北を意味するのでは無い。
 物言わぬ雑魔、末端からグズグズと崩れ落ちるその身体が、無言で真吾の勝利を示していたのだから。

●模倣者達の終わり
(あれは私、私の中の欲望とか、きっとそういう物を見てるんだと思いますわ)
 自分自身へ姿を似せていく相手を前に、ぼんやりと考えていたセレス。
 胸が大きい、スタイルが良すぎるのはおかしいと自分を卑下。
 もっと魅力的でありたいと願った姿が、もう少し胸は控えめ、全体的にぽっちゃりな自分を嘲笑う形で顕現しているのだと彼女は思っていたのだ。
「セレス、頼んだよ」
「お姉様に合わせますわ、お任せあれ」
 考え事をしていたセレスを現実に引き戻したのはタディーナの言葉。
 自分達の姿を模倣、並び立つ雑魔の頭上へ彼女が酒瓶を投擲し、それを撃ち抜く形でセレスが多量の石つぶてを生じさせ射出する。
 砕け散るガラス片、そして同時に撒き散らされた度数の高いブランデー。
 所持品である瓶を模倣、投擲まで考慮していた雑魔であったが中身までは模倣できなかったのだろう、動きを止め酒特有の強い臭気の中、次の一手を逡巡した雑魔。
 生じた隙を逃さずタディーナが近づき、マッチで酒が染み込んだ部位に火をつければ激しい炎が立ち昇る。
「どうだいセレス、自分が燃えてる様を見る気持ちは。あたしゃ最高に、唾を吐きかけてやりたい気分だよ」
「私は、私から逃げませんわ。私を知る人の為に、私を守る」
「ははっ、流石あたしの義妹だ。どうやら燃やすだけじゃ終わりじゃないみたいだよ」
 忌々しげに雑魔を見遣るタディーナに、決意を込めた言葉を返したセレス。
 そんな両者の絆を断とうと炎をもみ消し雑魔が前進、影を纏った石つぶてをセレスの模倣者が放ち戦端が開かれていた。
「きゃぁ! はしたない! みないでくださいまし!」
 双方撃ち合う中雑魔の衣服が破け、下着が見える状況下で顔を赤らめたセレス。
 自分を鏡で見るより細かい部位に目が向いたが為の悲劇、興味が沸いて下着とコルセットまでになったら、なんて思っていたがやはり気恥ずかしいようである。
 そんな中、タディーナはマジックアローで自身の偽者を撃ち貫きセレスも反撃で撃破を完了するのであった……



 暫しの静寂、それが終われば散らばった面々が集結する。
 自身の影が立っていた場所、そこで煙草を揉み消しつつ自身を外から見たタディーナは思う。
 自分に男が寄り付くわけは無い、と。
「ちょっと見苦しかったですけど、自分と向き合う切っ掛けとしては上々かもしれませんわ」
 セレスが呟き、自分の中の何かを乗り越えてきたのだろう、真吾とクレールが笑顔で頷いていた。
「所詮は偽者でした、物足りませんね」
「だが、自分との戦いではあった」
 少々不満げに肩をすくめたミリア、対照的にやりきった感で胸を張るクリスティン。
 これは偽者に何を思ったか、の違いであろう。
「それにしても、私を真似るに最も大切なものが抜けていたのですわよ……」
「そうね、私の方がもっと美人という事、この魅力を超えれ無かったことね」
 真似切れなかった事を指摘するのはマリーとミスティカ。
 ただ、双方が言う真似れなかった点は絶対に違う、きっと違う。
 全ての敵を倒した今、これ以上止まる必要は無く。一同はこの場を後にするのであった。

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参加者一覧

  • 素っ気ない節介焼き
    タディーナ=F=アース(ka0020
    人間(蒼)|24才|女性|魔術師
  • 暁風の出資者
    Celestine(ka0107
    エルフ|21才|女性|魔術師
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • 英雄譚を終えし者
    ミリア・ラスティソード(ka1287
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 影色の宗教者
    マリー・ドルイユ(ka1396
    人間(蒼)|19才|女性|聖導士
  • 黒き刃
    ミスティカ(ka2227
    人間(紅)|23才|女性|疾影士
  • ヒーローを目指す者
    鳴神 真吾(ka2626
    人間(蒼)|22才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談所
鳴神 真吾(ka2626
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/07/26 23:58:41
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/24 11:58:32