ゲスト
(ka0000)
何とかがひくとは言うけれど
マスター:四月朔日さくら
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/30 12:00
- 完成日
- 2014/08/07 00:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
辺境という場所はその地理条件ゆえ、王国や帝国、同盟などとはずいぶん異なる文化を持つ。
――医療も、その一つだ。
●
さてここに、一人の青年がいる。
ユーリィ・キジャン、年は若いがこれでも一部族の族長として部族を切り盛りしている頑張り屋だ。
年齢が若いというのは、この地ではいいわけに出来ない。
何しろ判断をひとつ間違えれば、部族ともども死に至る可能性がある。しっかりとした知識や判断が常に求められるのだ。
むろん、失敗することもある。
彼としては、更に努力をしなければならないと想う部分であるが……若さゆえの無鉄砲なところはだれにでもあること。それはどんな立場にあっても、だ。
●
そんなある日。
「ユーリィ、アンタ今日妙に顔が赤くないかい?」
部族のものにそう言われて、彼は妙に体がほてっていることに気づいた。
考えが今ひとつまとまらない、集中力が途切れる……そして何より身体が重い。彼はいつもよりかすれた声で、努めて明るく言う。
「なに、少し疲れているだけさ」
しかし自分よりも年かさの女性の手が額に当てられ、そして言われる。
「なに言ってんだい。こりゃあ、ひどい熱があるじゃないか」
夏風邪は何とかがひく――なんて言葉がこの地で通用するかはともかくとして。そう、彼は確実に発熱していた。ここのところの気候のせいかもしれない。
「そんなことないよ。大丈夫」
そう言っても、おせっかいなおばさんというのは多くて、ユーリィはたちまちテントに連れて行かれ、半ば無理やり横たわらされた。
「ああ、こりゃあひどい。ただの風邪ならいいんだけど」
「とはいえ、ちょうど薬師も買い出しに行って留守なんだよねぇ……。病気を診てもらえるアテなんてあるかねぇ……」
移動生活の多いキジャン族は、すぐに手を貸してくれる部族が近くにいると限らない。タイミングが悪いとはよく言ったものだ。
……と、悩んでいるキジャンの民だったが、一人がふと思いついた。
「あのさ……ハンターに頼んでみたらどうかな。医術の心得がなくても、何かしら助言はもらえるかもしれない」
「そうか、ハンターなら」
彼らの知らぬ知識を持っているかもしれない。
「とりあえず、ハンターズソサエティに急ぐんだ。族長に万が一のことがあったら、まずいからな」
キジャンの民の誰もが頷く。なにしろ、キジャン族の前族長――ユーリィの母は、病で命を落としていたのだ。
――ユーリィはそれを、ぼんやりと聞いていた。
意識してしまったぶん、頭がいっそうぼんやりする。
「……あまいものが、ほしいな」
つい子どもの頃のように、そんな言葉を漏らしてしまった。すると仲間はクスクスと笑う。
「そうさね、見舞いの菓子も頼んでみようか」
そんなわけで、ハンターズソサエティに急ぎの連絡が届いた。
病人の看病をしてくれる人を求めるという、ちょっと変わった依頼の――。
辺境という場所はその地理条件ゆえ、王国や帝国、同盟などとはずいぶん異なる文化を持つ。
――医療も、その一つだ。
●
さてここに、一人の青年がいる。
ユーリィ・キジャン、年は若いがこれでも一部族の族長として部族を切り盛りしている頑張り屋だ。
年齢が若いというのは、この地ではいいわけに出来ない。
何しろ判断をひとつ間違えれば、部族ともども死に至る可能性がある。しっかりとした知識や判断が常に求められるのだ。
むろん、失敗することもある。
彼としては、更に努力をしなければならないと想う部分であるが……若さゆえの無鉄砲なところはだれにでもあること。それはどんな立場にあっても、だ。
●
そんなある日。
「ユーリィ、アンタ今日妙に顔が赤くないかい?」
部族のものにそう言われて、彼は妙に体がほてっていることに気づいた。
考えが今ひとつまとまらない、集中力が途切れる……そして何より身体が重い。彼はいつもよりかすれた声で、努めて明るく言う。
「なに、少し疲れているだけさ」
しかし自分よりも年かさの女性の手が額に当てられ、そして言われる。
「なに言ってんだい。こりゃあ、ひどい熱があるじゃないか」
夏風邪は何とかがひく――なんて言葉がこの地で通用するかはともかくとして。そう、彼は確実に発熱していた。ここのところの気候のせいかもしれない。
「そんなことないよ。大丈夫」
そう言っても、おせっかいなおばさんというのは多くて、ユーリィはたちまちテントに連れて行かれ、半ば無理やり横たわらされた。
「ああ、こりゃあひどい。ただの風邪ならいいんだけど」
「とはいえ、ちょうど薬師も買い出しに行って留守なんだよねぇ……。病気を診てもらえるアテなんてあるかねぇ……」
移動生活の多いキジャン族は、すぐに手を貸してくれる部族が近くにいると限らない。タイミングが悪いとはよく言ったものだ。
……と、悩んでいるキジャンの民だったが、一人がふと思いついた。
「あのさ……ハンターに頼んでみたらどうかな。医術の心得がなくても、何かしら助言はもらえるかもしれない」
「そうか、ハンターなら」
彼らの知らぬ知識を持っているかもしれない。
「とりあえず、ハンターズソサエティに急ぐんだ。族長に万が一のことがあったら、まずいからな」
キジャンの民の誰もが頷く。なにしろ、キジャン族の前族長――ユーリィの母は、病で命を落としていたのだ。
――ユーリィはそれを、ぼんやりと聞いていた。
意識してしまったぶん、頭がいっそうぼんやりする。
「……あまいものが、ほしいな」
つい子どもの頃のように、そんな言葉を漏らしてしまった。すると仲間はクスクスと笑う。
「そうさね、見舞いの菓子も頼んでみようか」
そんなわけで、ハンターズソサエティに急ぎの連絡が届いた。
病人の看病をしてくれる人を求めるという、ちょっと変わった依頼の――。
リプレイ本文
●
辺境部族の族長のひとりが病に倒れたらしいという情報は、依頼を通じてハンター達に知れ渡ることとなり、今ハンター達はその部族――キジャン族の居住地に向かっていた。
(窮する者の救済は、重要な教えの一つ――)
胸を高鳴らせるのは聖導士のドワーフ、ロニ・カルディス(ka0551)。ドワーフとは言ってもかの種族に特徴的な髭は見当たらない。とあることをきっかけに、生えなくなってしまったのだという。
「……キジャン族というのは名前を聞いたことがありますね。しかし、辺境部族にはタブーも多いですし、それに気をつけなければなりませんね」
そんなことを説明しているジョン・フラム(ka0786)は、もともと自身も巫覡の素質があり、代々祭司を執り行う家系であったのだという。だからこそわかる知識を簡単にレクチャーする。また彼自身が呪術医という側面も持っていたため、今回は活躍できるだろうと目されていた。
「ふみゅ。病気なのは大変ですの」
小柄な少女、ヒスイ・グリーンリバー(ka0913)が僅かに顔を曇らせ、同時にどうすればよいだろうかと頭を巡らせる。
(でも、お熱が出てて、頭痛くて、喉の調子……風邪?)
ヒスイの知識でははっきりとはわからない。何となくそう感じるだけだが、でもそれならと彼女なりに荷物を準備している。
「ああ。だからこそ、微力でも力を貸そうと思うのだ。弱っているものを支える心優しさこそ騎士の心意気だと、『神聖騎士教則本』にもある」
少女の言葉をうけてラグナ・グラウシード(ka1029)が手に持っていた本を確認してそう言いながら笑えば、顔を隠したエルフの(恐らく)青年スウェル・ローミオン(ka1371)が、ぽつりぽつりと言葉を重ねる。
「……体が弱ると、心も弱る。怖いよね、私も、同じだ」
スウェル自身、決して身体は強くない。それは赤い瞳と白い髪、白い肌という特徴を知識のあるものがみればわかるのだろうが。小柄な青年は顔を隠してはいてもどこか影のある雰囲気は伝わってくる。体調を崩せば、不安を生むのはだれでも同じ。その脇に立つイェルバート(ka1772)も呼応するように頷いた。
「うん、……僕もしょっちゅう熱を出して、家族に看病されたことがあるんだ。その時の経験が、少しでも役に立てばいいんだけど」
あらかじめリゼリオで用意しておいた熱冷ましの材料や、レモンやオレンジなどのみずみずしい果実、そして砂糖と塩を袋に入れたまま抱え、にっかりと笑う。
「大丈夫、僕達にできることを頑張ろう?」
明るいイェルバートの言葉に、頷くハンター達。
空は高く青く、今日もいい天気だ。
●
「今日は、我が族長のために集まってくれてありがとうございます」
そう言葉を告げたのは四十ほどのふくよかな女性だった。聞くと、前族長――つまりユーリィ・キジャンの母とは親友関係にあり、現族長であるユーリィの手伝いもしているのだという。
「さ、皆様。ユーリィはこちらです、どうか宜しくお願いします」
ハンター達は言われるままに、集落の中央付近にある立派なテントへ吸い込まれていった。
「一族の長ともなると、責任も重大ですからねー……ユーリィさんも、気の休まる時間があまりなかったんじゃないでしょーか? こんな時くらいは、ゆっくりさせてあげたいですよねー」
そんなことをゆっくり間延びした口調で小さく口にするのはコーデリア・カラーズ(ka2721)である。イェルバートとは別に、彼女もあらかじめ伝え聞いていたユーリィの現在の症状から有効な薬がないか模索していた。ただ彼女の場合、効果的であろう薬草の情報も合わせて聞いており、集落の付近で探せないかと考えていたのだ。
また、クッキーや辺境では入手がやや難しい干し魚など、保存がきいたりする食料をしっかりと準備だてしていて、まさしくお見舞いという風情が伝わってくる。
と、人が入ってきたのを察したのだろう、寝台で横たわっていたユーリィはわずかに頭を上げて目を見開く。
「けほっ……ハンターを、呼んだのか……?」
わずかにしゃがれた声は、たしかに体調が悪い証拠のようだ。もともと健康的な小麦色をした肌も今はやや熱っぽく赤みを増している。
「そうですよ、ユーリィ。なにしろ今は薬師が留守をしていましてね、あなたを診てくれそうなアテが思いつかなかったものですから」
ハンターはめいめいに挨拶をすると、その中でもとびきり小柄な少女――シルフェ・アルタイル(ka0143)がニッコリと笑って何かを差し出した。
「シルはプリンを作ってきたんだ。これなら、喉が痛くても、熱があっても食べられるからね」
そう微笑むと、彼女はスウェルに手伝ってもらいながら、ユーリィの口にプリンを一口分運んでやる。はじめはユーリィも戸惑っていたようだが、ええいままよと口を開けて差し出されたプリンを口に含んだ。
「……あ、甘い。それにプルプルしてる」
驚き混じりのその声に、キジャンの民は嬉しそうに笑う。どうやら、ユーリィは倒れてからろくに食べ物が口を通らなかったらしい。
「それはよかった。さて、これはあなたへの土産です。リアルブルーのとある地域の住民は、鹿の歯を健康長寿の縁起物とするとか」
ジョンが差し出したそれは鹿の歯を加工したペンダント。素朴ながらもそれはたしかにプリミティブな力を秘めているような感じがした。
「病は気からといいます。どうか、これで気を強く持ってください」
ジョンは内心キジャンの禁忌に触れるのではないかとヒヤヒヤしていたが、ユーリィはそれを有りがたそうに受け取った。
「リアルブルーにも……鹿を尊ぶ人達がいるんだな」
ユーリィにとってはその事実が嬉しかったらしい。そのままペンダントを嬉しそうに首から下げると、少し落ち着いたのだろう、そのまま寝息をたてだした。
「最近歪虚の動きがどうとか聞いていますからね、ユーリィも気が気でなかったようで」
付き添っていた婦人はそんなことを言って苦笑を浮かべた。まあ、確かに族長というのはそういうものだろう。一族を束ねるだけの様々な能力が必要なのだから。
「さて、それでは私達は作業をするか。ご婦人、すまないが知恵も拝借したい」
ラグナが教則本を片手に持ちながら、口元に笑みを浮かべた。
●
ラグナとコーデリアは、薬草を採取する――これはこの集落にくる前にあらかじめ決めていたことだ。
八人もハンターがいれば適材適所というものもある。ジョンは今回、多少なりとも医術の心得がある身としてユーリィの側に付いているつもりだったし、ヒスイやシルフェではまだ幼い。諸々の理由からこの二人が薬草の採取に適任と考えたのだ。
あらかじめコーデリアらが聞いていた該当の症状に対応した薬草の群生地がないかを集落の者に確認し、色よい返事をもらえたところで二人が出発した。ハンターの脚で集落から一時間ほどの場所にそれらしきものがあるというのは幸いだった。ただし場所は平地ではあるが、辺境の環境では似たような外見の草も多く、見つけるのは厄介なのだという。しかも薬草自体が何種類かを配合する必要があるため、ひとつところでばかり採取というわけでもない。
「狭い場所は私がやりますからー、私では背の届かないところなどはお願いしますねー?」
「ふむ、こちらの方は任された」
コーデリアがそう言えば、ラグナも手の届きにくい場所にある薬草の採取に挑戦する。また、ラグナは頑張って道中の地図も作成していた。とはいえ地図はずいぶんと凝っているが、薬草の特徴を記した図の方はコーデリアに何度も違いを指摘されていた。
地図は書けるが絵の描けない男だったらしい。
しかしラグナも騎士の中の騎士を目指す者、コーデリアの負担を減らしてやる。結果、なんとか二人がかりで目的の薬草は採取することができ、出発してから三時間ほどで二人は集落に戻りついたのだった。
●
いっぽう、集落に残った面々はというと――。
シルフェとスウェルは、交替でユーリィの側に座っていた。
一人でいれば、しぜんと不安になることが多い。病気ともなればそうなるのはなおさらだ。側についてやることで、身の回りの世話をすることもできるし、病人の抱える不安を多少なりとも拭い去ることができる。汗をかいているようならばそれを拭い、額に冷やした布を当てる。時には手をそっと握ったり、他愛のない話し相手にもなる。
それは、今のユーリィにとって必要な存在なのかもしれなかった。
「ええと……痒いところは、ない?」
スウェルはとつとつとした口調で、ユーリィに問いかける。
「ああ、ありがとう」
まだ体温は高いが、最初よりはずいぶん声が楽しそうだ。話しているだけでも気が紛れるのだろう。
(種族は違っても、同じ辺境部族で、まだ若い。きっと、俺の知らないような話も、知っている……話を、聞きたいな)
スウェルはそう思いながら、ユーリィと会話をして親睦を深めていくのだった。
一方のシルフェは換気をしっかりとしてから、清潔なタオルケットやシーツを準備したりする。兄とも慕うジョンが見立て役なので、彼を招き入れて状態を確認したりもした。
そのジョンは過去に身につけた知識も総動員して、ユーリィの診察にあたった。最初に比べればやや熱も下がっているということで、どうやら峠は越えたらしい。
「危なかったかもしれないですね。そのまま熱の高い状態が続いていたら、肺炎になっていたかもしれない」
むろんまだ油断は禁物だが、それだけでもキジャンの民にとっては朗報であった。
「実はキジャンは一度、伝染病で壊滅寸前になったことがあるんですよ」
キジャン族の青年がそんなことを言った。
そのときに病魔から免れるために行ったといわれる行動が今も習慣になっているのだという。辺境部族の風習などに興味のあるジョンからすれば、聞きたくなってしまう。
「それは、どんな?」
しかしそう尋ねようとした矢先に薬草採集組が帰還した。ジョンは渡された薬草を受け取ると、早速それを煎じる作業に移る。彼の役目は薬の調合や経過の観察が主たるものだ。質問するのは、それが終わったあとでもいいだろう。
ジョンは薬研を取り出すと、鼻歌交じりにすりつぶし始めた。
食事全般の作業は主にロニとヒスイの担当だ。
空腹を訴えたら食べさせるようにするということで、滋養があってのどごしの良さそうなものを準備する。
(味付けは少し甘目で……菓子があってもいいな……)
腹の調子の悪いユーリィのために量も少なめに。
そんな事を思いながら、ロニはめっぽうファンシーなエプロンを付け、
「では、俺の郷里に伝わる病人食を作るとしようか」
手際よく、料理を作り始めた。
「あ、私も食べやすいものをと思って」
いっぽうでヒスイは自作の鼈甲飴を笑顔でロニに見せる。
「作り方も簡単だし、喉がいたい時なら少し痛みもおさまりますから」
生姜と蜂蜜を入れたひやしあめのようなものも渡す。甘いものなら病人も口に入れやすいだろう。ハンターを興味深げに眺めている集落の子ども達にも渡してみると、嬉しそうにそれを口に含んだ。信頼してくれている証だ。
「ジャムを作るのも良さそうですね」
ジャムにすれば日持ちもするし、何より甘いモノには疲れを吹き飛ばす効果がある。ロニが作っているパン粥に少し添えておけば見目にも良いし、健康のためにも良いだろう。
「あと、生水は厳禁ですよ」
生のままだとお腹の調子に響いてくる。ヒスイがそれを伝えると、キジャンの民も確認するかのように頷いた。
「……? この水、少し味が付いているのか」
やがてジョンが調合した薬とともに渡された水を口に含み、ユーリィは首をひねる。
「こうすると、ただの水よりも身体に吸収されやすいんだ。汗をかいたりすると水分が減るから、こうして補給しておくのがいいよ」
そういったのはこの水を作ったイェルバート。
「熱のあるときは水分を摂ることが大事だからね。汗と一緒に必要な栄養素も出ちゃうから、こまめに補給しないといけないんだ」
いわゆる、経口補水液というやつらしい。なるほど、水分補給が大事なのは納得の行く話である。
「そう言えば、じいちゃんが小さい頃は熱を下げるためにネギを使ったとか何とか言ってたっけ。嘘かホントかはともかく。……あくまで噂のレベルだけどね」
イェルバートはおどけた口調でそんなことを言いながら、ユーリィに飲み方をレクチャーするのだった。
●
ハンター達の献身的な治療ともともと頑健なユーリィというふたつの要素が功を奏したのだろう、五日ほどでユーリィはすっかり良くなった。健康の大切さをしみじみとかみしめているらしく、ハンター達に深々と頭を下げる。
「子どものうちは病除けのまじないをしているんだがね、さすがにこの年でそれも出来ないし……、今回はほんとうに助かったよ」
ハンター達はキジャン族にすっかり受け入れてもらうことも出来、ハンター側からしてもずいぶんと世話になったものだ。その旨を告げると、青年は笑う。
「キジャンの民は恩を忘れたりしないさ」
ならばとジョンは思った疑問を口にする。
「病除けのまじないというのは……?」
するとユーリィは少し困ったような顔をしながら、
「このキジャン族は一度、伝染病で毎滅仕掛けたことがあるんだけど……死を呼ぶ悪しきものに本人と悟られぬようにするといい、と旅人が言ってね。これ以上はキジャンのためにも話すことは出来ないけれど」
具体的な手段については伏せられてしまったが、それでも随分な収穫だ。
「ありがとう」
ジョンは深く頭を垂れる。
「いやこちらこそ! 俺達もまた何かあったら、ハンターを頼らせてもらうからね!」
ユーリィの曇りない笑顔は、眩しいほどだった。
健康である事こそ、何よりの宝。
ハンターもそれを噛み締めて、辺境を後にしたのだった。
辺境部族の族長のひとりが病に倒れたらしいという情報は、依頼を通じてハンター達に知れ渡ることとなり、今ハンター達はその部族――キジャン族の居住地に向かっていた。
(窮する者の救済は、重要な教えの一つ――)
胸を高鳴らせるのは聖導士のドワーフ、ロニ・カルディス(ka0551)。ドワーフとは言ってもかの種族に特徴的な髭は見当たらない。とあることをきっかけに、生えなくなってしまったのだという。
「……キジャン族というのは名前を聞いたことがありますね。しかし、辺境部族にはタブーも多いですし、それに気をつけなければなりませんね」
そんなことを説明しているジョン・フラム(ka0786)は、もともと自身も巫覡の素質があり、代々祭司を執り行う家系であったのだという。だからこそわかる知識を簡単にレクチャーする。また彼自身が呪術医という側面も持っていたため、今回は活躍できるだろうと目されていた。
「ふみゅ。病気なのは大変ですの」
小柄な少女、ヒスイ・グリーンリバー(ka0913)が僅かに顔を曇らせ、同時にどうすればよいだろうかと頭を巡らせる。
(でも、お熱が出てて、頭痛くて、喉の調子……風邪?)
ヒスイの知識でははっきりとはわからない。何となくそう感じるだけだが、でもそれならと彼女なりに荷物を準備している。
「ああ。だからこそ、微力でも力を貸そうと思うのだ。弱っているものを支える心優しさこそ騎士の心意気だと、『神聖騎士教則本』にもある」
少女の言葉をうけてラグナ・グラウシード(ka1029)が手に持っていた本を確認してそう言いながら笑えば、顔を隠したエルフの(恐らく)青年スウェル・ローミオン(ka1371)が、ぽつりぽつりと言葉を重ねる。
「……体が弱ると、心も弱る。怖いよね、私も、同じだ」
スウェル自身、決して身体は強くない。それは赤い瞳と白い髪、白い肌という特徴を知識のあるものがみればわかるのだろうが。小柄な青年は顔を隠してはいてもどこか影のある雰囲気は伝わってくる。体調を崩せば、不安を生むのはだれでも同じ。その脇に立つイェルバート(ka1772)も呼応するように頷いた。
「うん、……僕もしょっちゅう熱を出して、家族に看病されたことがあるんだ。その時の経験が、少しでも役に立てばいいんだけど」
あらかじめリゼリオで用意しておいた熱冷ましの材料や、レモンやオレンジなどのみずみずしい果実、そして砂糖と塩を袋に入れたまま抱え、にっかりと笑う。
「大丈夫、僕達にできることを頑張ろう?」
明るいイェルバートの言葉に、頷くハンター達。
空は高く青く、今日もいい天気だ。
●
「今日は、我が族長のために集まってくれてありがとうございます」
そう言葉を告げたのは四十ほどのふくよかな女性だった。聞くと、前族長――つまりユーリィ・キジャンの母とは親友関係にあり、現族長であるユーリィの手伝いもしているのだという。
「さ、皆様。ユーリィはこちらです、どうか宜しくお願いします」
ハンター達は言われるままに、集落の中央付近にある立派なテントへ吸い込まれていった。
「一族の長ともなると、責任も重大ですからねー……ユーリィさんも、気の休まる時間があまりなかったんじゃないでしょーか? こんな時くらいは、ゆっくりさせてあげたいですよねー」
そんなことをゆっくり間延びした口調で小さく口にするのはコーデリア・カラーズ(ka2721)である。イェルバートとは別に、彼女もあらかじめ伝え聞いていたユーリィの現在の症状から有効な薬がないか模索していた。ただ彼女の場合、効果的であろう薬草の情報も合わせて聞いており、集落の付近で探せないかと考えていたのだ。
また、クッキーや辺境では入手がやや難しい干し魚など、保存がきいたりする食料をしっかりと準備だてしていて、まさしくお見舞いという風情が伝わってくる。
と、人が入ってきたのを察したのだろう、寝台で横たわっていたユーリィはわずかに頭を上げて目を見開く。
「けほっ……ハンターを、呼んだのか……?」
わずかにしゃがれた声は、たしかに体調が悪い証拠のようだ。もともと健康的な小麦色をした肌も今はやや熱っぽく赤みを増している。
「そうですよ、ユーリィ。なにしろ今は薬師が留守をしていましてね、あなたを診てくれそうなアテが思いつかなかったものですから」
ハンターはめいめいに挨拶をすると、その中でもとびきり小柄な少女――シルフェ・アルタイル(ka0143)がニッコリと笑って何かを差し出した。
「シルはプリンを作ってきたんだ。これなら、喉が痛くても、熱があっても食べられるからね」
そう微笑むと、彼女はスウェルに手伝ってもらいながら、ユーリィの口にプリンを一口分運んでやる。はじめはユーリィも戸惑っていたようだが、ええいままよと口を開けて差し出されたプリンを口に含んだ。
「……あ、甘い。それにプルプルしてる」
驚き混じりのその声に、キジャンの民は嬉しそうに笑う。どうやら、ユーリィは倒れてからろくに食べ物が口を通らなかったらしい。
「それはよかった。さて、これはあなたへの土産です。リアルブルーのとある地域の住民は、鹿の歯を健康長寿の縁起物とするとか」
ジョンが差し出したそれは鹿の歯を加工したペンダント。素朴ながらもそれはたしかにプリミティブな力を秘めているような感じがした。
「病は気からといいます。どうか、これで気を強く持ってください」
ジョンは内心キジャンの禁忌に触れるのではないかとヒヤヒヤしていたが、ユーリィはそれを有りがたそうに受け取った。
「リアルブルーにも……鹿を尊ぶ人達がいるんだな」
ユーリィにとってはその事実が嬉しかったらしい。そのままペンダントを嬉しそうに首から下げると、少し落ち着いたのだろう、そのまま寝息をたてだした。
「最近歪虚の動きがどうとか聞いていますからね、ユーリィも気が気でなかったようで」
付き添っていた婦人はそんなことを言って苦笑を浮かべた。まあ、確かに族長というのはそういうものだろう。一族を束ねるだけの様々な能力が必要なのだから。
「さて、それでは私達は作業をするか。ご婦人、すまないが知恵も拝借したい」
ラグナが教則本を片手に持ちながら、口元に笑みを浮かべた。
●
ラグナとコーデリアは、薬草を採取する――これはこの集落にくる前にあらかじめ決めていたことだ。
八人もハンターがいれば適材適所というものもある。ジョンは今回、多少なりとも医術の心得がある身としてユーリィの側に付いているつもりだったし、ヒスイやシルフェではまだ幼い。諸々の理由からこの二人が薬草の採取に適任と考えたのだ。
あらかじめコーデリアらが聞いていた該当の症状に対応した薬草の群生地がないかを集落の者に確認し、色よい返事をもらえたところで二人が出発した。ハンターの脚で集落から一時間ほどの場所にそれらしきものがあるというのは幸いだった。ただし場所は平地ではあるが、辺境の環境では似たような外見の草も多く、見つけるのは厄介なのだという。しかも薬草自体が何種類かを配合する必要があるため、ひとつところでばかり採取というわけでもない。
「狭い場所は私がやりますからー、私では背の届かないところなどはお願いしますねー?」
「ふむ、こちらの方は任された」
コーデリアがそう言えば、ラグナも手の届きにくい場所にある薬草の採取に挑戦する。また、ラグナは頑張って道中の地図も作成していた。とはいえ地図はずいぶんと凝っているが、薬草の特徴を記した図の方はコーデリアに何度も違いを指摘されていた。
地図は書けるが絵の描けない男だったらしい。
しかしラグナも騎士の中の騎士を目指す者、コーデリアの負担を減らしてやる。結果、なんとか二人がかりで目的の薬草は採取することができ、出発してから三時間ほどで二人は集落に戻りついたのだった。
●
いっぽう、集落に残った面々はというと――。
シルフェとスウェルは、交替でユーリィの側に座っていた。
一人でいれば、しぜんと不安になることが多い。病気ともなればそうなるのはなおさらだ。側についてやることで、身の回りの世話をすることもできるし、病人の抱える不安を多少なりとも拭い去ることができる。汗をかいているようならばそれを拭い、額に冷やした布を当てる。時には手をそっと握ったり、他愛のない話し相手にもなる。
それは、今のユーリィにとって必要な存在なのかもしれなかった。
「ええと……痒いところは、ない?」
スウェルはとつとつとした口調で、ユーリィに問いかける。
「ああ、ありがとう」
まだ体温は高いが、最初よりはずいぶん声が楽しそうだ。話しているだけでも気が紛れるのだろう。
(種族は違っても、同じ辺境部族で、まだ若い。きっと、俺の知らないような話も、知っている……話を、聞きたいな)
スウェルはそう思いながら、ユーリィと会話をして親睦を深めていくのだった。
一方のシルフェは換気をしっかりとしてから、清潔なタオルケットやシーツを準備したりする。兄とも慕うジョンが見立て役なので、彼を招き入れて状態を確認したりもした。
そのジョンは過去に身につけた知識も総動員して、ユーリィの診察にあたった。最初に比べればやや熱も下がっているということで、どうやら峠は越えたらしい。
「危なかったかもしれないですね。そのまま熱の高い状態が続いていたら、肺炎になっていたかもしれない」
むろんまだ油断は禁物だが、それだけでもキジャンの民にとっては朗報であった。
「実はキジャンは一度、伝染病で壊滅寸前になったことがあるんですよ」
キジャン族の青年がそんなことを言った。
そのときに病魔から免れるために行ったといわれる行動が今も習慣になっているのだという。辺境部族の風習などに興味のあるジョンからすれば、聞きたくなってしまう。
「それは、どんな?」
しかしそう尋ねようとした矢先に薬草採集組が帰還した。ジョンは渡された薬草を受け取ると、早速それを煎じる作業に移る。彼の役目は薬の調合や経過の観察が主たるものだ。質問するのは、それが終わったあとでもいいだろう。
ジョンは薬研を取り出すと、鼻歌交じりにすりつぶし始めた。
食事全般の作業は主にロニとヒスイの担当だ。
空腹を訴えたら食べさせるようにするということで、滋養があってのどごしの良さそうなものを準備する。
(味付けは少し甘目で……菓子があってもいいな……)
腹の調子の悪いユーリィのために量も少なめに。
そんな事を思いながら、ロニはめっぽうファンシーなエプロンを付け、
「では、俺の郷里に伝わる病人食を作るとしようか」
手際よく、料理を作り始めた。
「あ、私も食べやすいものをと思って」
いっぽうでヒスイは自作の鼈甲飴を笑顔でロニに見せる。
「作り方も簡単だし、喉がいたい時なら少し痛みもおさまりますから」
生姜と蜂蜜を入れたひやしあめのようなものも渡す。甘いものなら病人も口に入れやすいだろう。ハンターを興味深げに眺めている集落の子ども達にも渡してみると、嬉しそうにそれを口に含んだ。信頼してくれている証だ。
「ジャムを作るのも良さそうですね」
ジャムにすれば日持ちもするし、何より甘いモノには疲れを吹き飛ばす効果がある。ロニが作っているパン粥に少し添えておけば見目にも良いし、健康のためにも良いだろう。
「あと、生水は厳禁ですよ」
生のままだとお腹の調子に響いてくる。ヒスイがそれを伝えると、キジャンの民も確認するかのように頷いた。
「……? この水、少し味が付いているのか」
やがてジョンが調合した薬とともに渡された水を口に含み、ユーリィは首をひねる。
「こうすると、ただの水よりも身体に吸収されやすいんだ。汗をかいたりすると水分が減るから、こうして補給しておくのがいいよ」
そういったのはこの水を作ったイェルバート。
「熱のあるときは水分を摂ることが大事だからね。汗と一緒に必要な栄養素も出ちゃうから、こまめに補給しないといけないんだ」
いわゆる、経口補水液というやつらしい。なるほど、水分補給が大事なのは納得の行く話である。
「そう言えば、じいちゃんが小さい頃は熱を下げるためにネギを使ったとか何とか言ってたっけ。嘘かホントかはともかく。……あくまで噂のレベルだけどね」
イェルバートはおどけた口調でそんなことを言いながら、ユーリィに飲み方をレクチャーするのだった。
●
ハンター達の献身的な治療ともともと頑健なユーリィというふたつの要素が功を奏したのだろう、五日ほどでユーリィはすっかり良くなった。健康の大切さをしみじみとかみしめているらしく、ハンター達に深々と頭を下げる。
「子どものうちは病除けのまじないをしているんだがね、さすがにこの年でそれも出来ないし……、今回はほんとうに助かったよ」
ハンター達はキジャン族にすっかり受け入れてもらうことも出来、ハンター側からしてもずいぶんと世話になったものだ。その旨を告げると、青年は笑う。
「キジャンの民は恩を忘れたりしないさ」
ならばとジョンは思った疑問を口にする。
「病除けのまじないというのは……?」
するとユーリィは少し困ったような顔をしながら、
「このキジャン族は一度、伝染病で毎滅仕掛けたことがあるんだけど……死を呼ぶ悪しきものに本人と悟られぬようにするといい、と旅人が言ってね。これ以上はキジャンのためにも話すことは出来ないけれど」
具体的な手段については伏せられてしまったが、それでも随分な収穫だ。
「ありがとう」
ジョンは深く頭を垂れる。
「いやこちらこそ! 俺達もまた何かあったら、ハンターを頼らせてもらうからね!」
ユーリィの曇りない笑顔は、眩しいほどだった。
健康である事こそ、何よりの宝。
ハンターもそれを噛み締めて、辺境を後にしたのだった。
依頼結果
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面白かった! | 6人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/27 22:18:14 |
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辺境的病気の治し方 シルフェ・アルタイル(ka0143) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/07/30 07:31:36 |