ゲスト
(ka0000)
グッバイ・イエスタデイ
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/12 22:00
- 完成日
- 2015/10/23 05:12
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ブラストエッジ鉱山に眠る邪神、ゾエル・マハ。その討伐作戦がいよいよ開始される。
北伐作戦に帝国軍が注力している今、この問題をいつまでも放置するわけにはいかない。
背後の憂いを絶ち、カルガナ・ブアナ率いる部隊も北伐作戦に参加しなければならないのだから。
ベルフラウはシュシュが指揮する封印部隊と共にブラストエッジ鉱山へ突入。イヲの領域からベノの領域を通過し、最下層であるマハの領域を目指していた。
機械仕掛けの聖剣を振るいながらベルフラウは目の前を進む少女達の姿を見つめる。
コボルドとヒトの和平を実現させようと本気で取り組んできた彼等の姿はいつも眩しく、ベルフラウの胸を締め付ける――。
「――ヒトは醜く悍ましい存在……君はそう言ったね」
少しずつ、失われて記憶が追いついてくる。
あの日、帝国軍の部隊を襲撃したベルフラウを、たまたま居合わせた一人の戦士が組み伏せて言ったのだ。
「私も全く同感だよ」
風のない、しかし雨の降る日の午後だった。分厚い雲を背に、這いつくばって見上げたその人は。
「これまで私は何人もの悪人を斬り殺して来た。止むを得なかったと言い訳をするつもりはない。良かれと思って、自らの正義にしたがって手を下したのだ。私と君にそれほど大きな違いはないのだよ」
女はベルフラウの掌を大地に串刺しにしていた剣を抜き、胸ぐらを掴んで引き起こす。
「善人を悪人が食い物にしていた。悲劇を運命と言い換え、自分を慰める人を見た。自分が助かる為に他人を犠牲にする人を見た。そんな世界には反吐が出る。だからこそ、私はここにいる」
その人の目はとても真っ直ぐで、とても純粋で――言い知れない絶望に満ちていた。
「クソッタレだと思うのなら、変えるために生きてみろ。自分は“そうではない”と胸を張ってみろ。最初はそれが嘘でもいい。いつか身に染みた嘘が決意に変わったのならば、君は自分を許せるだろう」
流しすぎた血が体を冷やし、意識が遠のいていく。
「忘れるな。自分を決められるのは自分だけだ。誰かの“せい”ではなく。自分の“ため”に生きてみろ――」
“絶望”と“希望”は紙一重だ。
目の前の現実を受け入れられないから、諦める為に絶望する。
だったらそれを乗り越えたのなら、後に残るのはただ希望だけじゃないか。
「……シュシュさん!」
マハの領域、ゾエルの神殿。その途上に立ち塞がる小さな影があった。
かつて自分と同じように、オルクスに集められ力を授けられた者たち……“ベルフラウ”の成れの果て。
メイズ・ベルフラウ。黒衣の少女は軋むような笑みを浮かべ呼びかける。
「よお兄弟。再会にはいい夜だぜ?」
「皆さん、ここは私に任せてください。私の狙いは彼女ですし、彼女の狙いは私ですから」
その言葉にシュシュは頷き、迷いなくベルフラウの肩を強く叩いた。
「わかっただ。ここは任せる。信じてるだよ」
止める事も心配もしなかったシュシュの真っ直ぐな瞳に少し驚き、それから少女は力強く頷いた。
「……はいっ!! 皆さんが帰ってくるまでにあいつを退場させておきます!」
「行ってくる!」
「行ってらっしゃい!」
走り去るシュシュ達をメイズは止めなかった。彼女にとって最早この鉱山での物語は終わっている。
これから先何がどうなろうと、所詮は蛇足にすぎないのだ。
「今更お友達ごっことは泣かせてくれるじゃねぇか。お前の体もうボロッボロだろ? もうすぐ死ぬくせに何やってんだ」
「確かに私はもうすぐきっと死ぬよ。何ヶ月後か何週間後か何日後かはわからないけど。だけどそんなの、生きているなら当たり前でしょ?」
すっと息を吸い、吐き出してみる。
少しだけ心を軽くして、前に進む力に変えて。
「私決めたよ、メイズ。残り僅かな命だけど、やれるだけやってみる。この世界を変えてみる」
「と、いうと?」
「わかんない。だからまずは目の前のことから一つずつ。あなたを救ってみる。次のことは、それから」
「救うも何も俺はもう死んでるんだが……」
「死んでいるのに絶望だけを続けてるなんてあんまりでしょ?」
「偽善だな」
「自分でもそう思う。でも、どうせそれくらいの事しかできないから」
ベルフラウ達は、オルクスの契約者。吸血鬼のなりそこないだ。
少女たちは皆、ヒトの世に絶望し闇の力を頼った。他に生き方などなかった。
だがその力は容易に死を引き寄せる。結局吸血鬼になる以外、彼女らに存続する方法はなかった。
一人、また一人と道半ばで闇の力に耐え切れず死んでいく中で、引き返した者と引き返せなかった者が生まれ、相まみえた。
二人にとってもう一人は辿れなかった可能性。ならば当然受け入れられるはずもない。
「否定しあうしかない。哀しいよなぁ、兄弟」
メイズは自らの手首を引き裂き、足元へ血を滴らせる。
落ちた雫は解き放たれるように広がり、ゾエルの神殿に続く通路の壁を飲み込んでいく。
「邪魔が入るのも面倒だ! 二度あるとは限らない兄弟ゲンカ、盛大にやろうぜ!」
高まる負のマテリアルがメイズの長い髪を揺らし、壁面を輝かせる。
「祈り捧げよ我らが母へ! 天の涙は叩いて潰す! 降り注げ、百万の絶叫……!」
眩い光と負のマテリアルが、周囲の空間を覆い尽くす。
「零式浄化血界! ブラッドフォート……“オラトリヲ”!」
目を開くと、閉鎖的な地下空間は存在しなかった。
広々とした、何らかの神殿。ステンドグラスから差し込む光を背にソレは浮いていた。
複雑に絡み合う結晶のパイプオルガン。黒い翼を広げた少女はローブの下から六つの腕を伸ばし、鍵盤を叩く。
途端、衝撃がベルフラウを吹き飛ばした。空中で体勢を整えながら魔法で反撃するが、空中に生じた血の結晶が防御する。
「オルクスと同じ絶対防御……!?」
「様をつけろよ出来損ないィッ!」
聖機剣を変形させ、光を解き放つ。
マテリアルの刃は衝撃波と激突し、相殺した。
「魔法を相殺した……?」
「ナサニエル院長が作ったこの剣は、ただ変形するだけのオモチャじゃないよ」
自分の命を燃やして――。
「魔法術、結界陣をディスペルする破城兵器。なりそこないに持たせた、吸血殺しの聖剣」
命がすり減っていく音を聞くのは心地よい。
刹那的な考えはもう捨てたけれど。自分の本質は偽れない。
「私の命とあなたの命。どちらが重いか、比べっこしよ?」
「……死にたがりのキチガイが! お望み通り消え失せろ!!」
吐き捨てるような叫びに少女は笑みを作る。まるで殺し合いを楽しむように。
「おもしれぇ! ヤろうぜ兄弟! “ベルフラウ”……! “スバル・ベルフラウ”ッ!!」
嘘つきからはじめた勇気がその身に染みるまで。
ずっと昔になくした名前を呼ばれ。今やっと、“自分”を見つけた気がした。
北伐作戦に帝国軍が注力している今、この問題をいつまでも放置するわけにはいかない。
背後の憂いを絶ち、カルガナ・ブアナ率いる部隊も北伐作戦に参加しなければならないのだから。
ベルフラウはシュシュが指揮する封印部隊と共にブラストエッジ鉱山へ突入。イヲの領域からベノの領域を通過し、最下層であるマハの領域を目指していた。
機械仕掛けの聖剣を振るいながらベルフラウは目の前を進む少女達の姿を見つめる。
コボルドとヒトの和平を実現させようと本気で取り組んできた彼等の姿はいつも眩しく、ベルフラウの胸を締め付ける――。
「――ヒトは醜く悍ましい存在……君はそう言ったね」
少しずつ、失われて記憶が追いついてくる。
あの日、帝国軍の部隊を襲撃したベルフラウを、たまたま居合わせた一人の戦士が組み伏せて言ったのだ。
「私も全く同感だよ」
風のない、しかし雨の降る日の午後だった。分厚い雲を背に、這いつくばって見上げたその人は。
「これまで私は何人もの悪人を斬り殺して来た。止むを得なかったと言い訳をするつもりはない。良かれと思って、自らの正義にしたがって手を下したのだ。私と君にそれほど大きな違いはないのだよ」
女はベルフラウの掌を大地に串刺しにしていた剣を抜き、胸ぐらを掴んで引き起こす。
「善人を悪人が食い物にしていた。悲劇を運命と言い換え、自分を慰める人を見た。自分が助かる為に他人を犠牲にする人を見た。そんな世界には反吐が出る。だからこそ、私はここにいる」
その人の目はとても真っ直ぐで、とても純粋で――言い知れない絶望に満ちていた。
「クソッタレだと思うのなら、変えるために生きてみろ。自分は“そうではない”と胸を張ってみろ。最初はそれが嘘でもいい。いつか身に染みた嘘が決意に変わったのならば、君は自分を許せるだろう」
流しすぎた血が体を冷やし、意識が遠のいていく。
「忘れるな。自分を決められるのは自分だけだ。誰かの“せい”ではなく。自分の“ため”に生きてみろ――」
“絶望”と“希望”は紙一重だ。
目の前の現実を受け入れられないから、諦める為に絶望する。
だったらそれを乗り越えたのなら、後に残るのはただ希望だけじゃないか。
「……シュシュさん!」
マハの領域、ゾエルの神殿。その途上に立ち塞がる小さな影があった。
かつて自分と同じように、オルクスに集められ力を授けられた者たち……“ベルフラウ”の成れの果て。
メイズ・ベルフラウ。黒衣の少女は軋むような笑みを浮かべ呼びかける。
「よお兄弟。再会にはいい夜だぜ?」
「皆さん、ここは私に任せてください。私の狙いは彼女ですし、彼女の狙いは私ですから」
その言葉にシュシュは頷き、迷いなくベルフラウの肩を強く叩いた。
「わかっただ。ここは任せる。信じてるだよ」
止める事も心配もしなかったシュシュの真っ直ぐな瞳に少し驚き、それから少女は力強く頷いた。
「……はいっ!! 皆さんが帰ってくるまでにあいつを退場させておきます!」
「行ってくる!」
「行ってらっしゃい!」
走り去るシュシュ達をメイズは止めなかった。彼女にとって最早この鉱山での物語は終わっている。
これから先何がどうなろうと、所詮は蛇足にすぎないのだ。
「今更お友達ごっことは泣かせてくれるじゃねぇか。お前の体もうボロッボロだろ? もうすぐ死ぬくせに何やってんだ」
「確かに私はもうすぐきっと死ぬよ。何ヶ月後か何週間後か何日後かはわからないけど。だけどそんなの、生きているなら当たり前でしょ?」
すっと息を吸い、吐き出してみる。
少しだけ心を軽くして、前に進む力に変えて。
「私決めたよ、メイズ。残り僅かな命だけど、やれるだけやってみる。この世界を変えてみる」
「と、いうと?」
「わかんない。だからまずは目の前のことから一つずつ。あなたを救ってみる。次のことは、それから」
「救うも何も俺はもう死んでるんだが……」
「死んでいるのに絶望だけを続けてるなんてあんまりでしょ?」
「偽善だな」
「自分でもそう思う。でも、どうせそれくらいの事しかできないから」
ベルフラウ達は、オルクスの契約者。吸血鬼のなりそこないだ。
少女たちは皆、ヒトの世に絶望し闇の力を頼った。他に生き方などなかった。
だがその力は容易に死を引き寄せる。結局吸血鬼になる以外、彼女らに存続する方法はなかった。
一人、また一人と道半ばで闇の力に耐え切れず死んでいく中で、引き返した者と引き返せなかった者が生まれ、相まみえた。
二人にとってもう一人は辿れなかった可能性。ならば当然受け入れられるはずもない。
「否定しあうしかない。哀しいよなぁ、兄弟」
メイズは自らの手首を引き裂き、足元へ血を滴らせる。
落ちた雫は解き放たれるように広がり、ゾエルの神殿に続く通路の壁を飲み込んでいく。
「邪魔が入るのも面倒だ! 二度あるとは限らない兄弟ゲンカ、盛大にやろうぜ!」
高まる負のマテリアルがメイズの長い髪を揺らし、壁面を輝かせる。
「祈り捧げよ我らが母へ! 天の涙は叩いて潰す! 降り注げ、百万の絶叫……!」
眩い光と負のマテリアルが、周囲の空間を覆い尽くす。
「零式浄化血界! ブラッドフォート……“オラトリヲ”!」
目を開くと、閉鎖的な地下空間は存在しなかった。
広々とした、何らかの神殿。ステンドグラスから差し込む光を背にソレは浮いていた。
複雑に絡み合う結晶のパイプオルガン。黒い翼を広げた少女はローブの下から六つの腕を伸ばし、鍵盤を叩く。
途端、衝撃がベルフラウを吹き飛ばした。空中で体勢を整えながら魔法で反撃するが、空中に生じた血の結晶が防御する。
「オルクスと同じ絶対防御……!?」
「様をつけろよ出来損ないィッ!」
聖機剣を変形させ、光を解き放つ。
マテリアルの刃は衝撃波と激突し、相殺した。
「魔法を相殺した……?」
「ナサニエル院長が作ったこの剣は、ただ変形するだけのオモチャじゃないよ」
自分の命を燃やして――。
「魔法術、結界陣をディスペルする破城兵器。なりそこないに持たせた、吸血殺しの聖剣」
命がすり減っていく音を聞くのは心地よい。
刹那的な考えはもう捨てたけれど。自分の本質は偽れない。
「私の命とあなたの命。どちらが重いか、比べっこしよ?」
「……死にたがりのキチガイが! お望み通り消え失せろ!!」
吐き捨てるような叫びに少女は笑みを作る。まるで殺し合いを楽しむように。
「おもしれぇ! ヤろうぜ兄弟! “ベルフラウ”……! “スバル・ベルフラウ”ッ!!」
嘘つきからはじめた勇気がその身に染みるまで。
ずっと昔になくした名前を呼ばれ。今やっと、“自分”を見つけた気がした。
リプレイ本文
メイズが鍵盤を叩くと同時、その場に居たハンター全員を正面方向からの衝撃が襲った。
「いきなり全員に攻撃か……」
「これも結界の能力なんでしょうか? 目は見えていないと聞きましたが」
舌打ちするヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)とは対象的に葛音 水月(ka1895)は興味深そうに周囲を見渡す。
そう、攻撃は明らかにハンターだけを狙ったもので、周囲の地形に破損等はない。目視できない敵の範囲攻撃にしては正確が過ぎる。
「ほーん? こいつがオルクスのねぇ……」
鵤(ka3319)はそう呟きながら視線を巡らせ攻撃箇所を選定。デルタレイの光を放つ。
放出される魔法に対しメイズの指は淀みなく旋律を奏で、空中に集結した血の盾が同時攻撃を防ぐ。
クドリャフカ(ka4594)の銃撃も丁寧に小さな盾が防いでいく。その防御の正確さもまた異常である。
「目に頼らぬ敵……結界内において死角がないのなら厄介ですね」
リーリア・バックフィード(ka0873)の小さく呟く声にメイズは口元を歪め。
「ここは吸血鬼の腹ン中だ。後はどう調理するかってだけの問題なんでね……ま、死ぬまで楽しく踊ってくれよ、なあ!」
空中に凝固した無数の結晶剣がぐるりと回転し陣を組み、その切っ先をハンター達へ向ける。
矢のように降り注ぐ剣の攻撃を合図に、ハンター達は一斉に動き始めた。
「景気づけにいくわよ! 邪なる威力よ退け! ホノカグツチ!」
七夜・真夕(ka3977)は仲間の接近に先駆け火球を打ち出す。当然メイズは障壁でガードするが、広範囲に爆ぜる攻撃には相応の面積が必要だ。
空中で爆散する炎を突き抜け、ヴォルフガングがアンカーを打ち込む。空中浮遊するオルガンに巻きつけ接近しようとするが、近づくヴォルフガングの身体は衝撃波に吹き飛ばされた。
続く水月と夕鶴(ka3204)の攻撃は障壁に防がれる。近接攻撃が止まれば、そこには魔法攻撃の反撃が待つだけだ。
降り注ぐ剣の中、ジグザグに走って回避するリーリア・バックフィード(ka0873)は先の状況を反芻し、思案する。
ヴォルフガングの一撃目は通って、後の二人は通らなかった。障壁は非常に強力だが、連続使用と効果範囲に限界があるのかもしれない。
衝撃波を大剣で受けた夕鶴の身体が後退る。敵は巨大で“回避”という概念もないが、その分守備に関してはずば抜けている。
「やはり決め手となるのはスバルと聖機剣か……」
二人のベルフラウを見比べ、夕鶴は再び剣を構える。
「貴殿らの希望も絶望も、私には関係ない。――ユージェニー・ガウェイン。推して参るッ!」
ヴォルフガング、水月、夕鶴、リーリアは角度を変え、タイミングをずらし波状近接攻撃を仕掛けるが、懐に飛び込む前に拒絶されてしまう。
そうして近接組を抑えながらもメイズが狙うのはやはりベルフラウであった。
剣の矢が連続して放たれると、これをクドリャフカが銃撃で撃ち落とし、残った分はシガレット=ウナギパイ(ka2884)が盾でガードする。
「スバルだけにいい格好はさせられねェな!」
「スバル、か。随分と懐かしい名前を聞いたよ」
帽子を目深に被り笑みを浮かべるクドリャフカ。シガレットはスバルを隠すように少しずつ前進していく。
「シガレットさん……」
「心配すンな。スバルは破城攻撃を奴に打ち込む事だけ考えるんだぜェ」
強く頷き返すスバル。そう、この結界内においてメイズの力は極限まで膨らんでいる。
勝機を掴む為には、この城を打破する必要があった。
「捌ける攻撃範囲に限度があるのなら、同時攻撃かねぇ?」
鵺の合図に応じ、真夕は再びファイアーボールを放つ。
真正面からの広範囲攻撃を防ぐ為にはどうしても正面に巨大な血の壁を作る必要がある。
そこへ鵺はデルタレイで多角的に攻撃を放ち、クドリャフカも銃弾を放つ。
「右から撃つよ」
炎は大きな血の壁に防がれたが、デルタレイを止められたのは二発だけ、オルガンのパイプに命中し、亀裂が走る。
「ちっ、面倒なことを……ぐッ!?」
メイズの身体が僅かに揺れる。クドリャフカの銃弾は壁を跳弾し、二人の攻撃とは更に別方向からメイズを狙ったのだ。
「ふふっ、今なら近づけそうですねー!」
「そこです!」
そのダメージに隙が生まれる。水月、リーリア、夕鶴がそれぞれ接近しパイプを攻撃すると、再び結晶に亀裂が入った。
美しいオルガンは氷の彫刻のように、それそのものが高い強度を持つわけではない。攻撃や障壁を掻い潜れれば破壊する事は可能だろう。
「図に乗るなよ……人間風情が!」
ヴォルフガングは先に絡めてあったアンカーを手に取りオルガンをよじ登りにかかるが、その途中で衝撃波に吹き飛ばされてしまう。
オルガンは変形し、若干その姿を変えた。その直後放たれた奇妙な音がハンター達の耳を劈く。
「なんて喧しい音楽だ……戦争交響曲にしたって品がなさすぎる」
自分の呟く声もろくに聞こえない中走り出すヴォルフガングだが、その足が縺れ途中で転倒してしまう。
「か、身体が……」
特に効果が顕著だったのは耳栓をつけていない面々の中でもヴォルフガングと水月で、まるで世界がグルグルと勝手に回転しているような感覚異常に襲われていた。
「良い音だろ? こいつは死神が聞かせる歌さ。人間には理解できないだろうが、死が近づくと心地よくなるんだぜ?」
びりびりと大気が振動する。直後、スバルを中心として音が破裂した。
先程までとは違う、力の篭った一撃に側にいたシガレットとクドリャフカも吹き飛んでしまう。
続いて剣の投擲。狙いはやはりスバルだ。
「スバル!」
「やらせません!」
発射された剣戟に反応出来たのはリーリアと夕鶴のみで、二人は殆ど自分を身代わりに攻撃を防いだ。
二人の名前を叫び、スバルは聖機剣を起動。剣が眩い光を放つと、反響していた奇妙な音が鳴り止んだ。
「ぐっ、ディスペルしたか……だが」
効果はまだ消えていない。与えられたバッドステータスが消えるには時間がかかる。
「スバル、こっちだ!」
聖機剣の反動で膝から崩れ落ちたスバルを抱きかかえながらシガレットは走る。
そうして彼は特に効果の強く効果を受けているメンバーにレジストを施していく。
「よく頑張るけどなぁ……無駄じゃねぇの!?」
スバルを衝撃波から庇い盾を構えるシガレット。そこへ更に血の剣が放たれる。
「こんなところで……倒れてる場合じゃ……ないな」
立ち上がることも出来ず、朦朧とした意識の中でヴォルフガングは振動刀を自らの足に突き刺した。
鋭い痛みに歯を食いしばり立ち上がる。先程よりは幾らかマシだ。
傷を自力で癒しつつシガレットの前に立つと振動刀で結晶剣を打ち払う。
更に、夕鶴とリーリアがメイズへ駆け寄り刃を振るう。これを防がねばならぬ為、ベルフラウへの集中攻撃は停止した。
「ヴォルフガング!」
「俺の事はいい……早く他の奴らを……起こせ」
「言われるまでもないぜェ!」
音の爆弾の連続着弾に夕鶴は防御を優先する構えで耐え凌ぎ。リーリアは血の剣を素早く掻い潜る。
そうして時間を稼いでいる間に倒れていたハンター達も立ち上がり、戦線は整い始めた。
「うぅ、気持ち悪いですー……頭がガンガンします」
「もう……仕返ししてやるんだから!」
走り出す水月は夕鶴、リーリアと合流し攻撃を仕掛け、真夕はファイアボールを放つ。
それぞれの攻撃を障壁で防ぐが、オルガンの損傷や先の攻撃を相殺された影響か、防御が追いつかない。
「いや~、二日酔いでももうちょっと気分はいいだろうがね……」
青ざめた表情で大地を蹴り、飛び上がったのは鵺だ。雷を纏ったメイスを振り下ろし、メイズ本体に限りなく接近する。
しかしここでも障壁が展開しその攻撃を防いだ。だが更に続くクドリャフカの攻撃までは止められない。
「音が大事なんだろう? なら邪魔するまでだよ」
鵺を止めるので精一杯のところへ放たれたライフル弾は青い軌跡を描き、オルガンを貫通し、凍結させていく。
純粋な管楽器ではないが、凍結は音に影響を及ぼすだろう。メイズは苛立たしさを隠そうともせず猛攻撃を繰り出す。
「今が攻め時か……行けるかァ、スバル?」
スバルがシガレットに頷き返すと、クドリャフカはスバルの手を握り。
「さぁ行こうか。一緒に生きて帰る為に」
鵺のデルタレイと真夕の魔法を防ぐのに精一杯のメイズの障壁を掻い潜り、夕鶴と水月が下方向から攻撃を加える。
そんな二人に攻撃が集中する中スバルは走り出した。この結界の中心点であるメイズを目指して。
シガレットは神罰銃を掲げ、その引き金を引く。そこから放たれたのは銃弾ではなく聖なる音。
メイズとは対象的なその柔らかな音色はこの音響神殿の中で肥大化し、メイズの身体を縛り付ける。
「何だと……俺の結界のせいで……!?」
「おォ? なんだか予想外だが調子いいぜェ!」
「スバル、聖機剣を!」
クドリャフカは聖機剣に手を触れマテリアルを注ぎ込む。
当然それを阻みたいメイズだが、レクイエムの影響下にあり動きは鈍い。そこへ水月や夕鶴が攻撃を仕掛けてくる。
「おーにさんこーちらー……っとと!」
オルガンを駆け上がり振動刀を繰り出す水月を血の結晶で防ぎ、オルガンを攻撃する夕鶴を衝撃波で引き剥がそうとするが、二人は直ぐに戻ってきて攻撃を続ける。
「鬱陶しいんだよ……雑魚共が!」
無数の血の剣を展開すると、そこへ真夕がファイアーボール、鵺がデルタレイ、そしてクドリャフカが小銃を連射し打ち払っていく。
「スバルさん!」
駆けつけたリーリアはスバルに肩を貸すようにして大地を強く蹴る。その途中で落ちていたヴォルフガングのワイヤーを手に取り、スバルを抱えたまま壁を疾走する。
「皆で作ったチャンスです! 今こそ叩き込んで下さい!」
ワイヤーをオルガンに引っ掛ける勢いで跳躍したリーリアはスバルを放り投げる。
空中で回転したスバルはメイズ目掛けて聖機剣を振り下ろし、そして眩い光が放たれた。
「くそ……こんな出来損ないに……ッ!?」
「私は出来損ないかもしれない。だけどこの剣も、私を支えてくれる人達は出来損ないでも偽物でもない。本物の……真実の力なんだ!」
空間に亀裂が走り、結界が歪んでいく。
一瞬の静寂の後、神殿は粉々に砕け散った。
「ぐっ、馬鹿な……オラトリオが……こんな奴らに……!?」
結界を破られた反動からか、身悶えながら膝を着くメイズ。そこへ水月が駆け寄る。
「今までのお返しですよー!」
素早く繰り出す十字の斬撃にメイズはたまらず倒れこむ。
防御能力は高いが、本人の防御能力が低いのはオルガンと同じ。力を使う余力がない今のメイズに対抗手段はなかった。
「結界がないと普通の女の子ですねぇ。歪虚というにも弱々しすぎます」
「……そらそうだ。所詮ベルフラウシリーズはオルクス様の力を分け与えられた眷属……血の力がなけりゃこんなモン。俺も出来損ないってわけだ」
傷を庇うように起き上がるメイズ、その額から切断された目隠しが落ちる。
少女が開いた瞼には眼球はなく、ただ闇だけが広がっていた。
「巨大過ぎる力に耐え切れず、実験の途中で俺は光を失った。お前には色々言ったが、まあ俺も失敗作に違いはねぇんだ」
「メイズ……」
「どうやら俺の負けだし……ま、そこそこ悪くない気分だぜ。善いダチが居て……良かったな、兄弟」
「巫女の私が言うのもなんだけれど、最初から善なる存在なんていない。偽善と言われても積み重ね、誰かの為にって意思からこそ生まれるの」
真夕に続き、夕鶴は剣を収め。
「善いかどうかはわからないが、少なくともスバルに友はいる。私もここまで来た以上、最後まで付きあわせてもらうつもりだ」
「ベル君。“君が光に向かって一歩でも進もうとしている限り、君の魂が敗北する事など断じてない”。キミが生きてる理由を、あいつに思いっきりぶつけてやりなよ」
クドリャフカの言葉に自らの手を見つめるスバル。握りしめた聖機剣は先のディスペルで故障していた。
スバルはクドリャフカからナイフを受け取りメイズの前に腰を下ろすと、その身体を抱きしめ、胸にナイフを突き立てた。
「じゃあな、偽善者。母さんに宜しく」
「さようなら、ベルフラウ。兄弟達に宜しくね」
小さく笑みを浮かべ、少女は霧散していく。黒い光はブラストエッジの洞窟の中に消え、形を取る事は二度となかった。
「……スバルさーん、生きてますかー?」
中々そのまま身動きを取らないスバルの顔を覗き込み、水月は目を丸くする。
スバルは泣いていた。その涙を拭い立ち上がるが、よろけてしまう。
「貴方の命が尽きる前に勝てたのは僥倖でした……」
そんなスバルを抱き留めるリーリア。夕鶴は歩み寄り、笑みを作る。
「良かった。前よりずっと晴れやかな顔をしている」
「お疲れさんだ。折角命を拾ったんだ。死ぬまでは生きてるんだ……精一杯、な」
「夕鶴さんもヴォルフガングさんも、ありがとうございます……」
こうしてブラストエッジ鉱山から脱出したハンター達。遅れ、この地で目覚めた邪神は討たれたとの報告が入った。
ベルフラウは暫く行動を共にしていたシュシュに挨拶を終えると、ハンターより一足早くこの地を去る事になった。
「壊れた聖機剣の修理もあるし、一度錬魔院に戻ろうと思います」
「そうか。それで、これからはどうするのだ?」
「残りのベルフラウを眠らせる為にも、オルクスを追います。最前線に向かえばその機会もあるでしょうから」
夕鶴の質問に真っ直ぐに答え、そして優しく微笑んで。
「戦い続けます。だから、もし縁があれば……また会いましょう!」
その日が来るのか、そもそも彼女の命が続くのかもわからない。
遠ざかる背中を見つめ、クドリャフカはふっと笑みを浮かべる。
「“本当の笑顔”……か」
一つの戦いが終わり、見上げる空は青く晴れ渡っている。
清々しい水色は、どこまでもどこまでも……とても遠いところまでも、続いているようだった。
「いきなり全員に攻撃か……」
「これも結界の能力なんでしょうか? 目は見えていないと聞きましたが」
舌打ちするヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)とは対象的に葛音 水月(ka1895)は興味深そうに周囲を見渡す。
そう、攻撃は明らかにハンターだけを狙ったもので、周囲の地形に破損等はない。目視できない敵の範囲攻撃にしては正確が過ぎる。
「ほーん? こいつがオルクスのねぇ……」
鵤(ka3319)はそう呟きながら視線を巡らせ攻撃箇所を選定。デルタレイの光を放つ。
放出される魔法に対しメイズの指は淀みなく旋律を奏で、空中に集結した血の盾が同時攻撃を防ぐ。
クドリャフカ(ka4594)の銃撃も丁寧に小さな盾が防いでいく。その防御の正確さもまた異常である。
「目に頼らぬ敵……結界内において死角がないのなら厄介ですね」
リーリア・バックフィード(ka0873)の小さく呟く声にメイズは口元を歪め。
「ここは吸血鬼の腹ン中だ。後はどう調理するかってだけの問題なんでね……ま、死ぬまで楽しく踊ってくれよ、なあ!」
空中に凝固した無数の結晶剣がぐるりと回転し陣を組み、その切っ先をハンター達へ向ける。
矢のように降り注ぐ剣の攻撃を合図に、ハンター達は一斉に動き始めた。
「景気づけにいくわよ! 邪なる威力よ退け! ホノカグツチ!」
七夜・真夕(ka3977)は仲間の接近に先駆け火球を打ち出す。当然メイズは障壁でガードするが、広範囲に爆ぜる攻撃には相応の面積が必要だ。
空中で爆散する炎を突き抜け、ヴォルフガングがアンカーを打ち込む。空中浮遊するオルガンに巻きつけ接近しようとするが、近づくヴォルフガングの身体は衝撃波に吹き飛ばされた。
続く水月と夕鶴(ka3204)の攻撃は障壁に防がれる。近接攻撃が止まれば、そこには魔法攻撃の反撃が待つだけだ。
降り注ぐ剣の中、ジグザグに走って回避するリーリア・バックフィード(ka0873)は先の状況を反芻し、思案する。
ヴォルフガングの一撃目は通って、後の二人は通らなかった。障壁は非常に強力だが、連続使用と効果範囲に限界があるのかもしれない。
衝撃波を大剣で受けた夕鶴の身体が後退る。敵は巨大で“回避”という概念もないが、その分守備に関してはずば抜けている。
「やはり決め手となるのはスバルと聖機剣か……」
二人のベルフラウを見比べ、夕鶴は再び剣を構える。
「貴殿らの希望も絶望も、私には関係ない。――ユージェニー・ガウェイン。推して参るッ!」
ヴォルフガング、水月、夕鶴、リーリアは角度を変え、タイミングをずらし波状近接攻撃を仕掛けるが、懐に飛び込む前に拒絶されてしまう。
そうして近接組を抑えながらもメイズが狙うのはやはりベルフラウであった。
剣の矢が連続して放たれると、これをクドリャフカが銃撃で撃ち落とし、残った分はシガレット=ウナギパイ(ka2884)が盾でガードする。
「スバルだけにいい格好はさせられねェな!」
「スバル、か。随分と懐かしい名前を聞いたよ」
帽子を目深に被り笑みを浮かべるクドリャフカ。シガレットはスバルを隠すように少しずつ前進していく。
「シガレットさん……」
「心配すンな。スバルは破城攻撃を奴に打ち込む事だけ考えるんだぜェ」
強く頷き返すスバル。そう、この結界内においてメイズの力は極限まで膨らんでいる。
勝機を掴む為には、この城を打破する必要があった。
「捌ける攻撃範囲に限度があるのなら、同時攻撃かねぇ?」
鵺の合図に応じ、真夕は再びファイアーボールを放つ。
真正面からの広範囲攻撃を防ぐ為にはどうしても正面に巨大な血の壁を作る必要がある。
そこへ鵺はデルタレイで多角的に攻撃を放ち、クドリャフカも銃弾を放つ。
「右から撃つよ」
炎は大きな血の壁に防がれたが、デルタレイを止められたのは二発だけ、オルガンのパイプに命中し、亀裂が走る。
「ちっ、面倒なことを……ぐッ!?」
メイズの身体が僅かに揺れる。クドリャフカの銃弾は壁を跳弾し、二人の攻撃とは更に別方向からメイズを狙ったのだ。
「ふふっ、今なら近づけそうですねー!」
「そこです!」
そのダメージに隙が生まれる。水月、リーリア、夕鶴がそれぞれ接近しパイプを攻撃すると、再び結晶に亀裂が入った。
美しいオルガンは氷の彫刻のように、それそのものが高い強度を持つわけではない。攻撃や障壁を掻い潜れれば破壊する事は可能だろう。
「図に乗るなよ……人間風情が!」
ヴォルフガングは先に絡めてあったアンカーを手に取りオルガンをよじ登りにかかるが、その途中で衝撃波に吹き飛ばされてしまう。
オルガンは変形し、若干その姿を変えた。その直後放たれた奇妙な音がハンター達の耳を劈く。
「なんて喧しい音楽だ……戦争交響曲にしたって品がなさすぎる」
自分の呟く声もろくに聞こえない中走り出すヴォルフガングだが、その足が縺れ途中で転倒してしまう。
「か、身体が……」
特に効果が顕著だったのは耳栓をつけていない面々の中でもヴォルフガングと水月で、まるで世界がグルグルと勝手に回転しているような感覚異常に襲われていた。
「良い音だろ? こいつは死神が聞かせる歌さ。人間には理解できないだろうが、死が近づくと心地よくなるんだぜ?」
びりびりと大気が振動する。直後、スバルを中心として音が破裂した。
先程までとは違う、力の篭った一撃に側にいたシガレットとクドリャフカも吹き飛んでしまう。
続いて剣の投擲。狙いはやはりスバルだ。
「スバル!」
「やらせません!」
発射された剣戟に反応出来たのはリーリアと夕鶴のみで、二人は殆ど自分を身代わりに攻撃を防いだ。
二人の名前を叫び、スバルは聖機剣を起動。剣が眩い光を放つと、反響していた奇妙な音が鳴り止んだ。
「ぐっ、ディスペルしたか……だが」
効果はまだ消えていない。与えられたバッドステータスが消えるには時間がかかる。
「スバル、こっちだ!」
聖機剣の反動で膝から崩れ落ちたスバルを抱きかかえながらシガレットは走る。
そうして彼は特に効果の強く効果を受けているメンバーにレジストを施していく。
「よく頑張るけどなぁ……無駄じゃねぇの!?」
スバルを衝撃波から庇い盾を構えるシガレット。そこへ更に血の剣が放たれる。
「こんなところで……倒れてる場合じゃ……ないな」
立ち上がることも出来ず、朦朧とした意識の中でヴォルフガングは振動刀を自らの足に突き刺した。
鋭い痛みに歯を食いしばり立ち上がる。先程よりは幾らかマシだ。
傷を自力で癒しつつシガレットの前に立つと振動刀で結晶剣を打ち払う。
更に、夕鶴とリーリアがメイズへ駆け寄り刃を振るう。これを防がねばならぬ為、ベルフラウへの集中攻撃は停止した。
「ヴォルフガング!」
「俺の事はいい……早く他の奴らを……起こせ」
「言われるまでもないぜェ!」
音の爆弾の連続着弾に夕鶴は防御を優先する構えで耐え凌ぎ。リーリアは血の剣を素早く掻い潜る。
そうして時間を稼いでいる間に倒れていたハンター達も立ち上がり、戦線は整い始めた。
「うぅ、気持ち悪いですー……頭がガンガンします」
「もう……仕返ししてやるんだから!」
走り出す水月は夕鶴、リーリアと合流し攻撃を仕掛け、真夕はファイアボールを放つ。
それぞれの攻撃を障壁で防ぐが、オルガンの損傷や先の攻撃を相殺された影響か、防御が追いつかない。
「いや~、二日酔いでももうちょっと気分はいいだろうがね……」
青ざめた表情で大地を蹴り、飛び上がったのは鵺だ。雷を纏ったメイスを振り下ろし、メイズ本体に限りなく接近する。
しかしここでも障壁が展開しその攻撃を防いだ。だが更に続くクドリャフカの攻撃までは止められない。
「音が大事なんだろう? なら邪魔するまでだよ」
鵺を止めるので精一杯のところへ放たれたライフル弾は青い軌跡を描き、オルガンを貫通し、凍結させていく。
純粋な管楽器ではないが、凍結は音に影響を及ぼすだろう。メイズは苛立たしさを隠そうともせず猛攻撃を繰り出す。
「今が攻め時か……行けるかァ、スバル?」
スバルがシガレットに頷き返すと、クドリャフカはスバルの手を握り。
「さぁ行こうか。一緒に生きて帰る為に」
鵺のデルタレイと真夕の魔法を防ぐのに精一杯のメイズの障壁を掻い潜り、夕鶴と水月が下方向から攻撃を加える。
そんな二人に攻撃が集中する中スバルは走り出した。この結界の中心点であるメイズを目指して。
シガレットは神罰銃を掲げ、その引き金を引く。そこから放たれたのは銃弾ではなく聖なる音。
メイズとは対象的なその柔らかな音色はこの音響神殿の中で肥大化し、メイズの身体を縛り付ける。
「何だと……俺の結界のせいで……!?」
「おォ? なんだか予想外だが調子いいぜェ!」
「スバル、聖機剣を!」
クドリャフカは聖機剣に手を触れマテリアルを注ぎ込む。
当然それを阻みたいメイズだが、レクイエムの影響下にあり動きは鈍い。そこへ水月や夕鶴が攻撃を仕掛けてくる。
「おーにさんこーちらー……っとと!」
オルガンを駆け上がり振動刀を繰り出す水月を血の結晶で防ぎ、オルガンを攻撃する夕鶴を衝撃波で引き剥がそうとするが、二人は直ぐに戻ってきて攻撃を続ける。
「鬱陶しいんだよ……雑魚共が!」
無数の血の剣を展開すると、そこへ真夕がファイアーボール、鵺がデルタレイ、そしてクドリャフカが小銃を連射し打ち払っていく。
「スバルさん!」
駆けつけたリーリアはスバルに肩を貸すようにして大地を強く蹴る。その途中で落ちていたヴォルフガングのワイヤーを手に取り、スバルを抱えたまま壁を疾走する。
「皆で作ったチャンスです! 今こそ叩き込んで下さい!」
ワイヤーをオルガンに引っ掛ける勢いで跳躍したリーリアはスバルを放り投げる。
空中で回転したスバルはメイズ目掛けて聖機剣を振り下ろし、そして眩い光が放たれた。
「くそ……こんな出来損ないに……ッ!?」
「私は出来損ないかもしれない。だけどこの剣も、私を支えてくれる人達は出来損ないでも偽物でもない。本物の……真実の力なんだ!」
空間に亀裂が走り、結界が歪んでいく。
一瞬の静寂の後、神殿は粉々に砕け散った。
「ぐっ、馬鹿な……オラトリオが……こんな奴らに……!?」
結界を破られた反動からか、身悶えながら膝を着くメイズ。そこへ水月が駆け寄る。
「今までのお返しですよー!」
素早く繰り出す十字の斬撃にメイズはたまらず倒れこむ。
防御能力は高いが、本人の防御能力が低いのはオルガンと同じ。力を使う余力がない今のメイズに対抗手段はなかった。
「結界がないと普通の女の子ですねぇ。歪虚というにも弱々しすぎます」
「……そらそうだ。所詮ベルフラウシリーズはオルクス様の力を分け与えられた眷属……血の力がなけりゃこんなモン。俺も出来損ないってわけだ」
傷を庇うように起き上がるメイズ、その額から切断された目隠しが落ちる。
少女が開いた瞼には眼球はなく、ただ闇だけが広がっていた。
「巨大過ぎる力に耐え切れず、実験の途中で俺は光を失った。お前には色々言ったが、まあ俺も失敗作に違いはねぇんだ」
「メイズ……」
「どうやら俺の負けだし……ま、そこそこ悪くない気分だぜ。善いダチが居て……良かったな、兄弟」
「巫女の私が言うのもなんだけれど、最初から善なる存在なんていない。偽善と言われても積み重ね、誰かの為にって意思からこそ生まれるの」
真夕に続き、夕鶴は剣を収め。
「善いかどうかはわからないが、少なくともスバルに友はいる。私もここまで来た以上、最後まで付きあわせてもらうつもりだ」
「ベル君。“君が光に向かって一歩でも進もうとしている限り、君の魂が敗北する事など断じてない”。キミが生きてる理由を、あいつに思いっきりぶつけてやりなよ」
クドリャフカの言葉に自らの手を見つめるスバル。握りしめた聖機剣は先のディスペルで故障していた。
スバルはクドリャフカからナイフを受け取りメイズの前に腰を下ろすと、その身体を抱きしめ、胸にナイフを突き立てた。
「じゃあな、偽善者。母さんに宜しく」
「さようなら、ベルフラウ。兄弟達に宜しくね」
小さく笑みを浮かべ、少女は霧散していく。黒い光はブラストエッジの洞窟の中に消え、形を取る事は二度となかった。
「……スバルさーん、生きてますかー?」
中々そのまま身動きを取らないスバルの顔を覗き込み、水月は目を丸くする。
スバルは泣いていた。その涙を拭い立ち上がるが、よろけてしまう。
「貴方の命が尽きる前に勝てたのは僥倖でした……」
そんなスバルを抱き留めるリーリア。夕鶴は歩み寄り、笑みを作る。
「良かった。前よりずっと晴れやかな顔をしている」
「お疲れさんだ。折角命を拾ったんだ。死ぬまでは生きてるんだ……精一杯、な」
「夕鶴さんもヴォルフガングさんも、ありがとうございます……」
こうしてブラストエッジ鉱山から脱出したハンター達。遅れ、この地で目覚めた邪神は討たれたとの報告が入った。
ベルフラウは暫く行動を共にしていたシュシュに挨拶を終えると、ハンターより一足早くこの地を去る事になった。
「壊れた聖機剣の修理もあるし、一度錬魔院に戻ろうと思います」
「そうか。それで、これからはどうするのだ?」
「残りのベルフラウを眠らせる為にも、オルクスを追います。最前線に向かえばその機会もあるでしょうから」
夕鶴の質問に真っ直ぐに答え、そして優しく微笑んで。
「戦い続けます。だから、もし縁があれば……また会いましょう!」
その日が来るのか、そもそも彼女の命が続くのかもわからない。
遠ざかる背中を見つめ、クドリャフカはふっと笑みを浮かべる。
「“本当の笑顔”……か」
一つの戦いが終わり、見上げる空は青く晴れ渡っている。
清々しい水色は、どこまでもどこまでも……とても遠いところまでも、続いているようだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/10 04:54:58 |
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質問卓 シガレット=ウナギパイ(ka2884) 人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/10/10 15:55:52 |
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相談卓 リーリア・バックフィード(ka0873) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/10/12 21:37:21 |