ゲスト
(ka0000)
【聖呪】明日に咲く花の為
マスター:鹿野やいと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/17 22:00
- 完成日
- 2015/10/28 11:34
このシナリオは4日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
茨の王、ゴブリンロードが率いるゴブリン軍団との戦いは、両者痛みわけのまま決着を迎えた。ゴブリン軍団は北へ、諸貴族連合軍は南へと陣を引きなおし、後に始まるであろう決戦に備えている。互いの動きを見ながら膠着した両軍の間では、偵察部隊や先行する部隊同士での小競り合いが頻発していた。敵軍には何かしらの戦力増強の動きも見られたが、人類側にはその当てはなく、不利な形で決戦へと雪崩れ込むであろうと思われた。
この頃、人類側にはおそらく最後になるかもしれない増援が届いていた。一騎当千の覚醒者であるアランとリルエナ。そして法術陣の研究者であるオーランである。
「オーランの話ではここから少し下がったあたりを戦場にするらしい」
「ここを? アークエルスに近すぎない?」
アランとリルエナの2人は後方に設置された物見台の上から戦場を俯瞰していた。遠くには茨小鬼達の軍勢が蠢いているのがよく見える。ここは開けた戦場だ。大軍を動かすには都合が良い。
「俺もそれは聞いたが、それが必要なことらしい」
「ふーん……」
オーランが言うのならば、そして青の隊のゲオルギウスが承認したのであれば必要なのであろう。アランは残念なことに魔術にも戦術にも疎い。それが可能かどうかも必要かどうかも、聞いても理解はできないだろう。だから不要な細部までは聞かされていないというのはリルエナにもわかった。
どのみち、アランとリルエナにとって必要なことは一つだけだ。
「エリカの残したものを、ここで終わらせる。その為に必要らしい」
「……エリカ姉さんの……」
エリカ。そう口にするアランの口調に鬼気迫るような執念は無かった。オーランの名前であってもそうだ。
「……リルエナ?」
「何でもない」
リルエナは遠い戦場に視線を向けたまま、やや肌寒い朝の風を受けている。何かもっと言うべき言葉があったはずだが、何を言うべきかわからなくなっていた。終わっても無いのに終わりを語るようで、気が進まなかったのかもしれない。お互い気恥ずかしさもあったろう。結局、死んだ人間に喧嘩を仲裁してもらったようなものだ。
「リルエナ、一つ頼みがあるんだ」
「……な、何?」
リルエナは慌てて意識を戻し、アランに向き直る。アランもリルエナと同じく正面を見ていた。視線の先にはゴブリンの軍勢がいる。
「俺たちには追うべきものが二つある。茨の王と、エリカの亡霊だ。茨の王が死んでもエリカの亡霊が残っていれば同じことが繰り返される可能性がある。しかし、目の前にいる茨の王も放置はできない。だから……」
「私は、茨の王を殺る」
リルエナは内心で、気負い無くその言葉が言えた自分に驚いていた。姉にあれだけ躊躇していた自分がである。もう少し躊躇すると思ったが案外あっけない。アランも同じように考えていたのか、驚いたように目を見開いている。
「いいのか?」
「最後まで姉さんの側に居てあげて」
「…………ありがとう。今、王国の騎士達がエリカの亡霊を追っている。見つかり次第、俺は戦場を抜けてそちらに向かう」
リルエナは無言で頷く。姉のことをあっさり譲ったのはアランの目を見てしまったからでもある。エリカの魂が消えた今、亡霊はエリカの形と負の感情を引きずるだけの歪虚にすぎない。しかし姿形はそのままの敵を、果たして自分は切ることが出来るのか。そう思い至った時、僅かに逡巡する自分に気づいた。そしてアランは斬れるのだろうと、根拠無い確信を抱いた。
理由は本当に良くわからないし説明しづらい。愛だ、なんていう詮無い答えが一番しっくり来るのが少し悔しかった。
「……気をつけて」
「リルエナもな」
気安い言葉だ。結局何を言うべきかわからない。でもそれでも良いと思えた。
言葉で補えることでもなく、言葉で補う必要も無かった。2人はしばらくの間、風を受けながら戦場となる平原を眺めていた。
■
元々短気な気性のゴブリン達が膠着状態に満足できるわけもなく、戦端は思いのほかあっさりと開かれてしまった。平原に陣を敷き構えるのは諸貴族連合軍と王国騎士団青の隊の混成部隊。大挙して押し寄せるゴブリンを、兵士達が槍衾で迎え撃つ。
ハンター含む覚醒者はその陣のあちらこちらにチームで散らばり、兵士達の壁を突き破る可能性のある敵を迎撃する役目を担っていた。
戦場にはアランも姿を見せていた。武器を再び大剣に持ち替え、当たるを幸いにゴブリンを薙ぎ払っていたが……。
「うおおおおお!!??」
前衛に居たはずのアランが矢に追われるようにして一目散に逃げてきた。退却が選択肢に入るなんてこいつも成長したな、などと思う暇もない。並べた木製の盾の後ろに引き込みつつ、ハンター達は弓矢や銃で追いかけてくるゴブリンを始末した。
一体何があったのか。アランは息を整えると盾の陰からゴブリンの集団を確認した。
「いやそれが、よくわからんがどうもゴブリン達が俺を狙ってるみたいでな」
確かに前線の戦力が偏っている。アランに目掛けてと考えればその並びの不自然さも納得だった。今まではそんなことはなかったはずだ。側に居たハンターはひとまず心をあたりを聞いてみた。
「茨だ。……俺の力は聖女の茨と共にある。多分それだろう」
アランのマテリアルはゴブリンロードの茨の力と同質だ。同量ではないものの、ゴブリンからすれば明確な脅威に見えるのだろう。
実際にアランは規格外に強い。納得の行くような行かないような話だが、狙われているのは事実だ。
「なんとか利用できないか?」
ハンター達は考えた。幸いにも近くには逃げ込むのに丁度良い林がある。馬で走るには足場も悪く障害物も多いが、迎撃するにも撒いて逃げ切るにも丁度良い。敵の勢いを味方の本隊から逸らせば、格段に部隊は動きやすくなる。あとは本隊の指揮官が上手くやってくれるだろう。
逆にアランの強さを信じてこちらも戦力を送り込み、群がる敵を切り開くのも良いだろう。どちらにせよ危険を伴うがやってみる価値はある。問題はそれを実行に移すための戦力だ。ハンター達は近くに居る仲間の顔を見渡した。このメンバーなら何が出来るだろうか。
アランを交え、ハンター達の短いミーティングが始まった。
この頃、人類側にはおそらく最後になるかもしれない増援が届いていた。一騎当千の覚醒者であるアランとリルエナ。そして法術陣の研究者であるオーランである。
「オーランの話ではここから少し下がったあたりを戦場にするらしい」
「ここを? アークエルスに近すぎない?」
アランとリルエナの2人は後方に設置された物見台の上から戦場を俯瞰していた。遠くには茨小鬼達の軍勢が蠢いているのがよく見える。ここは開けた戦場だ。大軍を動かすには都合が良い。
「俺もそれは聞いたが、それが必要なことらしい」
「ふーん……」
オーランが言うのならば、そして青の隊のゲオルギウスが承認したのであれば必要なのであろう。アランは残念なことに魔術にも戦術にも疎い。それが可能かどうかも必要かどうかも、聞いても理解はできないだろう。だから不要な細部までは聞かされていないというのはリルエナにもわかった。
どのみち、アランとリルエナにとって必要なことは一つだけだ。
「エリカの残したものを、ここで終わらせる。その為に必要らしい」
「……エリカ姉さんの……」
エリカ。そう口にするアランの口調に鬼気迫るような執念は無かった。オーランの名前であってもそうだ。
「……リルエナ?」
「何でもない」
リルエナは遠い戦場に視線を向けたまま、やや肌寒い朝の風を受けている。何かもっと言うべき言葉があったはずだが、何を言うべきかわからなくなっていた。終わっても無いのに終わりを語るようで、気が進まなかったのかもしれない。お互い気恥ずかしさもあったろう。結局、死んだ人間に喧嘩を仲裁してもらったようなものだ。
「リルエナ、一つ頼みがあるんだ」
「……な、何?」
リルエナは慌てて意識を戻し、アランに向き直る。アランもリルエナと同じく正面を見ていた。視線の先にはゴブリンの軍勢がいる。
「俺たちには追うべきものが二つある。茨の王と、エリカの亡霊だ。茨の王が死んでもエリカの亡霊が残っていれば同じことが繰り返される可能性がある。しかし、目の前にいる茨の王も放置はできない。だから……」
「私は、茨の王を殺る」
リルエナは内心で、気負い無くその言葉が言えた自分に驚いていた。姉にあれだけ躊躇していた自分がである。もう少し躊躇すると思ったが案外あっけない。アランも同じように考えていたのか、驚いたように目を見開いている。
「いいのか?」
「最後まで姉さんの側に居てあげて」
「…………ありがとう。今、王国の騎士達がエリカの亡霊を追っている。見つかり次第、俺は戦場を抜けてそちらに向かう」
リルエナは無言で頷く。姉のことをあっさり譲ったのはアランの目を見てしまったからでもある。エリカの魂が消えた今、亡霊はエリカの形と負の感情を引きずるだけの歪虚にすぎない。しかし姿形はそのままの敵を、果たして自分は切ることが出来るのか。そう思い至った時、僅かに逡巡する自分に気づいた。そしてアランは斬れるのだろうと、根拠無い確信を抱いた。
理由は本当に良くわからないし説明しづらい。愛だ、なんていう詮無い答えが一番しっくり来るのが少し悔しかった。
「……気をつけて」
「リルエナもな」
気安い言葉だ。結局何を言うべきかわからない。でもそれでも良いと思えた。
言葉で補えることでもなく、言葉で補う必要も無かった。2人はしばらくの間、風を受けながら戦場となる平原を眺めていた。
■
元々短気な気性のゴブリン達が膠着状態に満足できるわけもなく、戦端は思いのほかあっさりと開かれてしまった。平原に陣を敷き構えるのは諸貴族連合軍と王国騎士団青の隊の混成部隊。大挙して押し寄せるゴブリンを、兵士達が槍衾で迎え撃つ。
ハンター含む覚醒者はその陣のあちらこちらにチームで散らばり、兵士達の壁を突き破る可能性のある敵を迎撃する役目を担っていた。
戦場にはアランも姿を見せていた。武器を再び大剣に持ち替え、当たるを幸いにゴブリンを薙ぎ払っていたが……。
「うおおおおお!!??」
前衛に居たはずのアランが矢に追われるようにして一目散に逃げてきた。退却が選択肢に入るなんてこいつも成長したな、などと思う暇もない。並べた木製の盾の後ろに引き込みつつ、ハンター達は弓矢や銃で追いかけてくるゴブリンを始末した。
一体何があったのか。アランは息を整えると盾の陰からゴブリンの集団を確認した。
「いやそれが、よくわからんがどうもゴブリン達が俺を狙ってるみたいでな」
確かに前線の戦力が偏っている。アランに目掛けてと考えればその並びの不自然さも納得だった。今まではそんなことはなかったはずだ。側に居たハンターはひとまず心をあたりを聞いてみた。
「茨だ。……俺の力は聖女の茨と共にある。多分それだろう」
アランのマテリアルはゴブリンロードの茨の力と同質だ。同量ではないものの、ゴブリンからすれば明確な脅威に見えるのだろう。
実際にアランは規格外に強い。納得の行くような行かないような話だが、狙われているのは事実だ。
「なんとか利用できないか?」
ハンター達は考えた。幸いにも近くには逃げ込むのに丁度良い林がある。馬で走るには足場も悪く障害物も多いが、迎撃するにも撒いて逃げ切るにも丁度良い。敵の勢いを味方の本隊から逸らせば、格段に部隊は動きやすくなる。あとは本隊の指揮官が上手くやってくれるだろう。
逆にアランの強さを信じてこちらも戦力を送り込み、群がる敵を切り開くのも良いだろう。どちらにせよ危険を伴うがやってみる価値はある。問題はそれを実行に移すための戦力だ。ハンター達は近くに居る仲間の顔を見渡した。このメンバーなら何が出来るだろうか。
アランを交え、ハンター達の短いミーティングが始まった。
リプレイ本文
アランが逃げた後もゴブリン達の攻勢は続いていた。ハンター達の様子に気づいた指揮官はすぐさま作戦を切り替える。騎士団と貴族の私兵団が戦線を押し上げ、苛烈な肉弾戦がそこかしこで始まった。
金属と金属のぶつかり合う音はハンター達の元にも生々しく響いてきている。ウィンス・デイランダール(ka0039)は壁盾の陰から戦場の様子を眺めた。
「アレ、全部倒せば良いんだろ?」
「いやいやいや。間を端折りすぎだから」
慌てて無限 馨(ka0544)が突っ込みを入れる。最終的には勿論そうだが、何事も段取りというものがある。理解しているように見えてたまにこういう無頼のような発言をするのが不安になる。
「急ごう。時間無いんだろ?」
ショウコ=ヒナタ(ka4653)はバイクにまたがり、急かすように言う。不安の残る無限だったが気づいたアリア(ka4531)が思い切り背中をはたいた。
「大丈夫ですよ。こっちはこっちで面倒みますから」
「お任せください。未来のためのこの一戦、無様なことはいたしません」
ミルベルト・アーヴィング(ka3401)も自信ありげに頷く。無限は諦めてショウコのバイクの後ろに乗った。待ち伏せのために事前に現場を確認しなければならない。
「で、始めていいのか?」
ウィンスは走り去るバイクを見送り、グレイブを肩に担いだ。合わせてハンター達は武器を手に立ち上がる。
「はい、お待たせしました」
「西の悪鬼に符術の恐ろしさを教えてあげましょう」
アイ・シャ(ka2762)は戦輪を、ティリル(ka5672)は呪符を構える。
戦意は十分だ。この数に物怖じする気配は無い。
セイラ・イシュリエル(ka4820)は改めてアランとウィンス、2人の前に立った。
「おさらいするけど、リーダーは…」
「リーダーは殺さない。足の早いやつはなるべく倒す。突出しすぎない」
「それで良いわ。危険だけどアランの力を貸して欲しいの。お願い、できるかしら」
「もちろん。それが必要なら」
アランは気前良く請け負った。その顔には恐怖も蛮勇も見当たらない。腕前は未熟そのものだが、やるべき事を見つけた彼は大きく変貌していた。
「なに1人で背負ったつもりになってんだ? あんたはそれより、俺についてこれるか心配したほうがいいぜ」
アランは面食らって目を見開いた。どうもこういうのは慣れてないらしい。それもこれも、自分がそういう拒絶を周囲に向けてばかりだったせいもあったろう。ウィンスの言葉は素直さとは無縁だが、彼も彼で自分の役割に生真面目なことはよくわかった。苦笑しつつも周りの女性たちは彼の物言いを受け入れた。
「安心して。貴方はもう、1人じゃないわ」
「……ああ。頼りにしてる」
ウィンスは無言で背を向けた。追いかけながらアランは大剣を構えなおす。ウィンスとアランが壁盾の陰から出ると、兵士達は動きを変えて陣の中央を開け放った。
急に目の前が開けて何事かと戸惑うゴブリン達目掛け、2人は猛然と突撃していった。
■
その姿、まさに暴風。2人の過ぎ去る場所に、吹き上がる血で大輪の花が咲く。
「おおおおおおおっ!!!」
「はああああああっ!!!」
右翼、アラン。大剣を力任せに振るい、ゴブリン達を叩き潰していく。剛力ゆえにゴブリンの粗末な武器では受けた武器ごと破壊されてしまう。
左翼、ウィンス。目にも止まらぬ速さで刃がゴブリンの首を過ぎていく。あまりの速さに目で見て受けることなど出来ない。
物量で押すゴブリン達だが、白兵戦では圧倒的な質を押しとどめる術は存在しない。
「ド田舎でゴブリンと遊んでた割には結構やるな」
「そっちこそ。俺なんかよりずっと強い」
素直な賞賛にウィンスは顔をしかめた。アランの技は見るからに稚拙で基本を修めた程度だ。力任せに武器を振るっているに過ぎない。つまりは戦士としての強さにまだ伸び代があった。ウィンスはそれが気に食わない。まだ強さに先がある。それも目の前に。
若さという点ではウィンスにこそ伸び代があるのだが、彼は若さ故に「いずれ」という言葉に我慢できなかった。
(誰一人だって俺の前に立たせるものか。誰も彼も踏み台にしてやる)
その傲慢さも戦場に立てば頼もしい心構えに変わった。2人は互いに背を預け、死の旋風となってゴブリンの大群に穴を開けていく。その勢いは時に後方の味方を置き去りにすることもあった。
「はいはーい、ヒールいっくよー!」
追いついてきたアリアは敵の攻勢の隙間を縫い回復の魔術を使った。ミルベルトと2人掛かりの回復で傷は急速に癒えていく。
「………」
「ウィンス君、どうかした?」
「お前は近すぎる。もっと下がれ」
アリアがウィンスの視線を追うと、周囲のゴブリンが再度動き始めたのが見えた。
「そうは言っても、これ以上下がったらヒールが届かないじゃない」
「要らん。さっさと逃げてろ」
いくら気遣いでもこうなると難儀する。素直でない彼をなんと言いくるめようかとアリアが思案に暮れていると、ミラベルトは微笑んでウィンスの腕に触れた。
「ウィンスさん、今ここが命をかける場所です。それは貴方だけではありません」
「………」
言い負かすつもりでなかったウィンスは、不満げな顔だがあっさり引き下がった。再び押し寄せる部隊を見つけるとアランとウィンスは前線へと駆けていく。ヒールの使用可能距離を維持するように、残る2人もすぐに追いかけ始めた。前衛となった2人は強い。アリアはそのことを頼もしく重いながらも、同時に不安も覚えていた。自分の役割は衛生兵。自分を治療するようなことになってはならない。だからといって、2人に圧し掛かる負担を無視することは出来なかった。
「来ました! ゴブリンの騎兵です!」
射手の目で戦場を見渡していたアイシャが鋭く警戒を発する。狼や大型のトカゲに乗るライダー達がゴブリンの歩兵を押しのけながら直進してきていた。その後方にはシャーマン達も控えている。
アイ・シャは引き絞った弓を新手に向けて放つ。続けてティリルも胡蝶符を放った。
何体がバランスを崩してその場で転倒するが、数が多く流れは止まらない。ライダー達は前衛2人にすれ違いざまの一撃を加えていく。次々と襲う棍棒や斧や剣をかいくぐり何体かは叩き落すが、状況は決して良いとは言えなかった。。
ライダーが過ぎ去った後、今度は側面から弦を離す鋭い音。ウィンスとアランは逃げながら降り注ぐ矢を弾いた。追いかけるように地面には幾つかの火球が炸裂する。
ゴブリンは近距離では戦えないものと作戦を変えてきたのだ。ゴブリンの群の中に突っ込めば群を盾にできるが、二人はしなかった。
「アラン、そろそろ疲れたんじゃないか?」
「なんの。だけど、頃合だろ」
「確かにな」
2人は安全な距離に逃げると、わざと大きく肩を上下させながら荒い呼吸を吐いた。半分は演技である。だが疲労の蓄積もバカにならなかった。注目を集めるためとは言えたった二人での突出は、飛びぬけて優秀な戦士2人にとっても過酷であった。
もう少し固まるべきかとちらりと考えたウィンスだが、残ったメンバーの申し出があったとしても断っただろうと考え直した。
女の助けなんか要るか。足手まといになる。
今まさに後方支援をありがたく受け取っている身だが、そんな返事になっただろう。
「ウィンス! アラン! あれを!」
近くにいたセイラが右前方の一団を指差す。彼女の指す先には一際体の大きいリーダーたち。茨小鬼の一団がいた。状況は次の段階に移った。ウィンスとアランはそれを悟ると、一目散にその場を逃げた。2人を待っていたハンター達も一斉に林に向けて走り出す。
追撃するゴブリン達を確認しながらも、ハンター達は林の奥へ奥へと進んでいった。
■
ゴブリンを順当にいなしつつ、ハンター達は林の中へと逃げ込んだ。後は時間一杯逃げ切るだけでいいが、ゴブリンライダー達は容赦なく襲いかかってくる。振り向けば距離は幾らもない。
「仕方ありませんね」
後方に位置したアイ・シャは逃げる足を止め、振り向きざまに銀飛輪を投げはなった。
相対速度もあり先頭のゴブリンはかわすことができず、そのままトカゲから転げ落ちた。
アイ・シャは次々と残りの銀飛輪も投擲する。矢のように点でなく、軌道が線となる銀飛輪は残らずライダー部隊に命中した。残ったゴブリンライダーが衝突する前にランアウトで離脱する。
残ったのは追撃にあぶれた部隊。本隊ほどの数ではないが、1人で相手ができる数ではない。
「どこ見てるの? 私のことを忘れたのかしら?」
後方から飛んだ光の蝶がアイ・シャを包囲しつつあるゴブリンを直撃した。同じく後方に残ったティリルの術だ。敵は怯んでいる。包囲を厚くしながらも仕掛けるのをためらっていた。
そこへ更に追撃が降りかかる。リーダーと思しきゴブリン目掛けて、頭上より人が降ってきた。
無限は飛び降りざまに刀を袈裟切りに振り下ろす。肉を切断する音に続き、ゴブリンの断末魔が響いた。混乱するゴブリン部隊を相手に無限は刀を振るい続ける。
アイ・シャもティリルもその隙を見逃さない。援護射撃とばかりに矢と符を降らせる。援護の甲斐もあり無限はほとんど無傷で死地を飛び出した。
「これだけ足止めすれば十分だ。さっさとずらかるぞ!」
「逃げるってどっちへ?!」
ティリルの疑問も当然で、どの方面もそれなりに厚い。だが無限は迷うことなく視線で南側、アラン達が逃げたのとはまた別の方向を見た。
「チャンスが来るさ。その時に全力で走れば良い」
「チャンスってどんな…」
詳しい説明を聞こうとしたティリルが言葉をとめた。森の奥からブォンブォンとバイクのエンジン音、
ゴブリン達にとっては聞き慣れない音が響いてくる。警戒するゴブリン達。音には全く聞き覚えが無いがどこから響いてくるかはわかった。
気づいたゴブリンが包囲の外を指差すと、残りのゴブリン達もそれを見た。突如、強烈な光がゴブリン達を照らす。光の主はショウコの操る魔導バイクだ。
「メンドくさいからさあ、さっさと散ってよね」
エンジンの音は更に大きくなる。長く響くような音を皮切りに、ショウコのバイクはゴブリンの群目掛けて突入した。バイクは次々と小柄なゴブリンに体当たりしていく。引かれたゴブリンはたまったものではない。
とはいえひき殺せるのは小柄なゴブリンぐらい。あまり大きな生き物にぶつかればバイクが潰れるだろう。その為彼女は一歩遅れた登場となった。
そして何よりもーー
(血とか掃除すんのめんどくさい)
終始一貫して、彼女の思考は面倒か面倒でないかだけだった。
そんな雑な対応だったが、ゴブリン達は覿面に混乱した。対応できるゴブリンライダー達はすでに散り散りで、バイクで往復するショウコに有効な反撃ができない。
混乱さえしなければ幾らでも対応策はあるのだが、騎士の恐ろしさに馴らされたゴブリン達は、見たことも無い騎乗動物(?)に跨るショウコに実像以上の恐怖を抱いた。
「走れ!!」
ゴブリンの群が壊乱するのを待ち、無限は奥の茂みを向けて走り出した。ほぼ同時にアイ・シャとティリルの二人は走り出す。
ゴブリンの群の混乱はしばらく続いたが、ショウコが切り上げてしばらくすると元に戻った。
その頃には既に、4人はどこかへと逃げ去ってしまった後だった。
■
最後まで囮であるアランに追随したのはウィンス、アリア、ミルベルト、セイラの4人。5人は一塊になりつつ、木々に身を隠しながら前に進んでいた。
少し前にライダー部隊で動けるものは全て迎撃し、その他の足の早い部隊も各個撃破でおおよそ片付けた。迂遠で時間のかかる戦闘だったが、ゴブリンは分散と離散を繰り返してかなり数を減らした。まっすぐに追撃できた部隊は数えるほどだ。
それでもハンターだけで戦うのは厳しい。頑強なウィンスやアランはまだ余裕はあるが、それ以外の者はじきに限界がくる。
更に逃走をすべきかと考え始めた頃、背嚢から砂嵐に似た独特の音が聞こえた。
セイラは慌ててトランシーバーを取り出し耳をそばだてる。
「こちら本隊。聞こえるか? 応答してくれ」
聞こえたのは他の部隊の援護していた他のハンターの声。セイラは周りのゴブリンの動きを盗み見つつ、距離を放すべく移動を開始した。
「聞こえるわ。どうしたの?」
「敵の勢いが弱まった。この隙に本隊は撤退を始める。そちらも引き上げてくれ」
待っていた知らせがようやく届いた。よく見ればゴブリンのほうもそわそわと後ろを気にしだす者達が現れている。ゴブリンは徐々に撤退を始めている。このまま放っておけば良い。
そう考えたセイラだったが、それを口に出す前にウィンスが倒木の陰からゴブリンの正面に躍り出ていた。
「追いかけっこは止めだ。とっとと掛かって来いよザコども」
止めようとしてももう遅い。視界に入るゴブリン達は一斉にそちらに向かってくる
「しょうがないなー、ウィンス君は」
「今後の憂いを減らすのであれば、私もお手伝いしましょう」
同じく外に出たのはアリアとミラベルトだ。武器を構えた2人は、後方支援でなく前線での戦いを始める気だ。
「誰も頼んでねーだろ」
「ええ。ですがこれも未来の平穏の為。一緒に戦っても問題ありませんでしょう?」
ミラベルトの言葉は、まるで出来の悪い弟を窘めて言い包めるような言葉遣いだ。もちろんウィンスは気に入らない。理屈よりもそういう扱いが気に食わない。ウィンスは誤魔化すように先頭に立ち、ゴブリンの群に向かっていく。
出遅れたセイラはどうすべきか迷った。助けに入るべきか部隊に報告に向かうべきか。
そんな時、セイラの肩に触れる手があった。同じく隠れたままのアランだった。アランは唇に指を当て、静かにとジェスチャーする。それで散り散りになっていた思考にまとまった。そうだ、他にもすべきことはある。
2人はその場を3人に任せ、途中で離れ離れとなった仲間を探すべく戦場を迂回した。静かな林に響く剣戟の音はしばらく止むことはなかった。
■
前面に展開していた部隊はその日、ハンター達の活躍により想定よりも更に小さな被害で『敗走』した。戦場では人間よりもゴブリンのほうが死者は多かったが、ゴブリン達は普段から個体の数で押していた為に損害の比率にはまるで無頓着だった。人間の村ではなく、人間の軍隊を押し返したという事実でゴブリンは沸き立っていた。
頭の良い茨小鬼の何体かは気づいたかもしれない。だが戦術という概念を操るにはそれでさえ不足していた。それが致死の沼地と知るのは、もう少し後のことになる。
金属と金属のぶつかり合う音はハンター達の元にも生々しく響いてきている。ウィンス・デイランダール(ka0039)は壁盾の陰から戦場の様子を眺めた。
「アレ、全部倒せば良いんだろ?」
「いやいやいや。間を端折りすぎだから」
慌てて無限 馨(ka0544)が突っ込みを入れる。最終的には勿論そうだが、何事も段取りというものがある。理解しているように見えてたまにこういう無頼のような発言をするのが不安になる。
「急ごう。時間無いんだろ?」
ショウコ=ヒナタ(ka4653)はバイクにまたがり、急かすように言う。不安の残る無限だったが気づいたアリア(ka4531)が思い切り背中をはたいた。
「大丈夫ですよ。こっちはこっちで面倒みますから」
「お任せください。未来のためのこの一戦、無様なことはいたしません」
ミルベルト・アーヴィング(ka3401)も自信ありげに頷く。無限は諦めてショウコのバイクの後ろに乗った。待ち伏せのために事前に現場を確認しなければならない。
「で、始めていいのか?」
ウィンスは走り去るバイクを見送り、グレイブを肩に担いだ。合わせてハンター達は武器を手に立ち上がる。
「はい、お待たせしました」
「西の悪鬼に符術の恐ろしさを教えてあげましょう」
アイ・シャ(ka2762)は戦輪を、ティリル(ka5672)は呪符を構える。
戦意は十分だ。この数に物怖じする気配は無い。
セイラ・イシュリエル(ka4820)は改めてアランとウィンス、2人の前に立った。
「おさらいするけど、リーダーは…」
「リーダーは殺さない。足の早いやつはなるべく倒す。突出しすぎない」
「それで良いわ。危険だけどアランの力を貸して欲しいの。お願い、できるかしら」
「もちろん。それが必要なら」
アランは気前良く請け負った。その顔には恐怖も蛮勇も見当たらない。腕前は未熟そのものだが、やるべき事を見つけた彼は大きく変貌していた。
「なに1人で背負ったつもりになってんだ? あんたはそれより、俺についてこれるか心配したほうがいいぜ」
アランは面食らって目を見開いた。どうもこういうのは慣れてないらしい。それもこれも、自分がそういう拒絶を周囲に向けてばかりだったせいもあったろう。ウィンスの言葉は素直さとは無縁だが、彼も彼で自分の役割に生真面目なことはよくわかった。苦笑しつつも周りの女性たちは彼の物言いを受け入れた。
「安心して。貴方はもう、1人じゃないわ」
「……ああ。頼りにしてる」
ウィンスは無言で背を向けた。追いかけながらアランは大剣を構えなおす。ウィンスとアランが壁盾の陰から出ると、兵士達は動きを変えて陣の中央を開け放った。
急に目の前が開けて何事かと戸惑うゴブリン達目掛け、2人は猛然と突撃していった。
■
その姿、まさに暴風。2人の過ぎ去る場所に、吹き上がる血で大輪の花が咲く。
「おおおおおおおっ!!!」
「はああああああっ!!!」
右翼、アラン。大剣を力任せに振るい、ゴブリン達を叩き潰していく。剛力ゆえにゴブリンの粗末な武器では受けた武器ごと破壊されてしまう。
左翼、ウィンス。目にも止まらぬ速さで刃がゴブリンの首を過ぎていく。あまりの速さに目で見て受けることなど出来ない。
物量で押すゴブリン達だが、白兵戦では圧倒的な質を押しとどめる術は存在しない。
「ド田舎でゴブリンと遊んでた割には結構やるな」
「そっちこそ。俺なんかよりずっと強い」
素直な賞賛にウィンスは顔をしかめた。アランの技は見るからに稚拙で基本を修めた程度だ。力任せに武器を振るっているに過ぎない。つまりは戦士としての強さにまだ伸び代があった。ウィンスはそれが気に食わない。まだ強さに先がある。それも目の前に。
若さという点ではウィンスにこそ伸び代があるのだが、彼は若さ故に「いずれ」という言葉に我慢できなかった。
(誰一人だって俺の前に立たせるものか。誰も彼も踏み台にしてやる)
その傲慢さも戦場に立てば頼もしい心構えに変わった。2人は互いに背を預け、死の旋風となってゴブリンの大群に穴を開けていく。その勢いは時に後方の味方を置き去りにすることもあった。
「はいはーい、ヒールいっくよー!」
追いついてきたアリアは敵の攻勢の隙間を縫い回復の魔術を使った。ミルベルトと2人掛かりの回復で傷は急速に癒えていく。
「………」
「ウィンス君、どうかした?」
「お前は近すぎる。もっと下がれ」
アリアがウィンスの視線を追うと、周囲のゴブリンが再度動き始めたのが見えた。
「そうは言っても、これ以上下がったらヒールが届かないじゃない」
「要らん。さっさと逃げてろ」
いくら気遣いでもこうなると難儀する。素直でない彼をなんと言いくるめようかとアリアが思案に暮れていると、ミラベルトは微笑んでウィンスの腕に触れた。
「ウィンスさん、今ここが命をかける場所です。それは貴方だけではありません」
「………」
言い負かすつもりでなかったウィンスは、不満げな顔だがあっさり引き下がった。再び押し寄せる部隊を見つけるとアランとウィンスは前線へと駆けていく。ヒールの使用可能距離を維持するように、残る2人もすぐに追いかけ始めた。前衛となった2人は強い。アリアはそのことを頼もしく重いながらも、同時に不安も覚えていた。自分の役割は衛生兵。自分を治療するようなことになってはならない。だからといって、2人に圧し掛かる負担を無視することは出来なかった。
「来ました! ゴブリンの騎兵です!」
射手の目で戦場を見渡していたアイシャが鋭く警戒を発する。狼や大型のトカゲに乗るライダー達がゴブリンの歩兵を押しのけながら直進してきていた。その後方にはシャーマン達も控えている。
アイ・シャは引き絞った弓を新手に向けて放つ。続けてティリルも胡蝶符を放った。
何体がバランスを崩してその場で転倒するが、数が多く流れは止まらない。ライダー達は前衛2人にすれ違いざまの一撃を加えていく。次々と襲う棍棒や斧や剣をかいくぐり何体かは叩き落すが、状況は決して良いとは言えなかった。。
ライダーが過ぎ去った後、今度は側面から弦を離す鋭い音。ウィンスとアランは逃げながら降り注ぐ矢を弾いた。追いかけるように地面には幾つかの火球が炸裂する。
ゴブリンは近距離では戦えないものと作戦を変えてきたのだ。ゴブリンの群の中に突っ込めば群を盾にできるが、二人はしなかった。
「アラン、そろそろ疲れたんじゃないか?」
「なんの。だけど、頃合だろ」
「確かにな」
2人は安全な距離に逃げると、わざと大きく肩を上下させながら荒い呼吸を吐いた。半分は演技である。だが疲労の蓄積もバカにならなかった。注目を集めるためとは言えたった二人での突出は、飛びぬけて優秀な戦士2人にとっても過酷であった。
もう少し固まるべきかとちらりと考えたウィンスだが、残ったメンバーの申し出があったとしても断っただろうと考え直した。
女の助けなんか要るか。足手まといになる。
今まさに後方支援をありがたく受け取っている身だが、そんな返事になっただろう。
「ウィンス! アラン! あれを!」
近くにいたセイラが右前方の一団を指差す。彼女の指す先には一際体の大きいリーダーたち。茨小鬼の一団がいた。状況は次の段階に移った。ウィンスとアランはそれを悟ると、一目散にその場を逃げた。2人を待っていたハンター達も一斉に林に向けて走り出す。
追撃するゴブリン達を確認しながらも、ハンター達は林の奥へ奥へと進んでいった。
■
ゴブリンを順当にいなしつつ、ハンター達は林の中へと逃げ込んだ。後は時間一杯逃げ切るだけでいいが、ゴブリンライダー達は容赦なく襲いかかってくる。振り向けば距離は幾らもない。
「仕方ありませんね」
後方に位置したアイ・シャは逃げる足を止め、振り向きざまに銀飛輪を投げはなった。
相対速度もあり先頭のゴブリンはかわすことができず、そのままトカゲから転げ落ちた。
アイ・シャは次々と残りの銀飛輪も投擲する。矢のように点でなく、軌道が線となる銀飛輪は残らずライダー部隊に命中した。残ったゴブリンライダーが衝突する前にランアウトで離脱する。
残ったのは追撃にあぶれた部隊。本隊ほどの数ではないが、1人で相手ができる数ではない。
「どこ見てるの? 私のことを忘れたのかしら?」
後方から飛んだ光の蝶がアイ・シャを包囲しつつあるゴブリンを直撃した。同じく後方に残ったティリルの術だ。敵は怯んでいる。包囲を厚くしながらも仕掛けるのをためらっていた。
そこへ更に追撃が降りかかる。リーダーと思しきゴブリン目掛けて、頭上より人が降ってきた。
無限は飛び降りざまに刀を袈裟切りに振り下ろす。肉を切断する音に続き、ゴブリンの断末魔が響いた。混乱するゴブリン部隊を相手に無限は刀を振るい続ける。
アイ・シャもティリルもその隙を見逃さない。援護射撃とばかりに矢と符を降らせる。援護の甲斐もあり無限はほとんど無傷で死地を飛び出した。
「これだけ足止めすれば十分だ。さっさとずらかるぞ!」
「逃げるってどっちへ?!」
ティリルの疑問も当然で、どの方面もそれなりに厚い。だが無限は迷うことなく視線で南側、アラン達が逃げたのとはまた別の方向を見た。
「チャンスが来るさ。その時に全力で走れば良い」
「チャンスってどんな…」
詳しい説明を聞こうとしたティリルが言葉をとめた。森の奥からブォンブォンとバイクのエンジン音、
ゴブリン達にとっては聞き慣れない音が響いてくる。警戒するゴブリン達。音には全く聞き覚えが無いがどこから響いてくるかはわかった。
気づいたゴブリンが包囲の外を指差すと、残りのゴブリン達もそれを見た。突如、強烈な光がゴブリン達を照らす。光の主はショウコの操る魔導バイクだ。
「メンドくさいからさあ、さっさと散ってよね」
エンジンの音は更に大きくなる。長く響くような音を皮切りに、ショウコのバイクはゴブリンの群目掛けて突入した。バイクは次々と小柄なゴブリンに体当たりしていく。引かれたゴブリンはたまったものではない。
とはいえひき殺せるのは小柄なゴブリンぐらい。あまり大きな生き物にぶつかればバイクが潰れるだろう。その為彼女は一歩遅れた登場となった。
そして何よりもーー
(血とか掃除すんのめんどくさい)
終始一貫して、彼女の思考は面倒か面倒でないかだけだった。
そんな雑な対応だったが、ゴブリン達は覿面に混乱した。対応できるゴブリンライダー達はすでに散り散りで、バイクで往復するショウコに有効な反撃ができない。
混乱さえしなければ幾らでも対応策はあるのだが、騎士の恐ろしさに馴らされたゴブリン達は、見たことも無い騎乗動物(?)に跨るショウコに実像以上の恐怖を抱いた。
「走れ!!」
ゴブリンの群が壊乱するのを待ち、無限は奥の茂みを向けて走り出した。ほぼ同時にアイ・シャとティリルの二人は走り出す。
ゴブリンの群の混乱はしばらく続いたが、ショウコが切り上げてしばらくすると元に戻った。
その頃には既に、4人はどこかへと逃げ去ってしまった後だった。
■
最後まで囮であるアランに追随したのはウィンス、アリア、ミルベルト、セイラの4人。5人は一塊になりつつ、木々に身を隠しながら前に進んでいた。
少し前にライダー部隊で動けるものは全て迎撃し、その他の足の早い部隊も各個撃破でおおよそ片付けた。迂遠で時間のかかる戦闘だったが、ゴブリンは分散と離散を繰り返してかなり数を減らした。まっすぐに追撃できた部隊は数えるほどだ。
それでもハンターだけで戦うのは厳しい。頑強なウィンスやアランはまだ余裕はあるが、それ以外の者はじきに限界がくる。
更に逃走をすべきかと考え始めた頃、背嚢から砂嵐に似た独特の音が聞こえた。
セイラは慌ててトランシーバーを取り出し耳をそばだてる。
「こちら本隊。聞こえるか? 応答してくれ」
聞こえたのは他の部隊の援護していた他のハンターの声。セイラは周りのゴブリンの動きを盗み見つつ、距離を放すべく移動を開始した。
「聞こえるわ。どうしたの?」
「敵の勢いが弱まった。この隙に本隊は撤退を始める。そちらも引き上げてくれ」
待っていた知らせがようやく届いた。よく見ればゴブリンのほうもそわそわと後ろを気にしだす者達が現れている。ゴブリンは徐々に撤退を始めている。このまま放っておけば良い。
そう考えたセイラだったが、それを口に出す前にウィンスが倒木の陰からゴブリンの正面に躍り出ていた。
「追いかけっこは止めだ。とっとと掛かって来いよザコども」
止めようとしてももう遅い。視界に入るゴブリン達は一斉にそちらに向かってくる
「しょうがないなー、ウィンス君は」
「今後の憂いを減らすのであれば、私もお手伝いしましょう」
同じく外に出たのはアリアとミラベルトだ。武器を構えた2人は、後方支援でなく前線での戦いを始める気だ。
「誰も頼んでねーだろ」
「ええ。ですがこれも未来の平穏の為。一緒に戦っても問題ありませんでしょう?」
ミラベルトの言葉は、まるで出来の悪い弟を窘めて言い包めるような言葉遣いだ。もちろんウィンスは気に入らない。理屈よりもそういう扱いが気に食わない。ウィンスは誤魔化すように先頭に立ち、ゴブリンの群に向かっていく。
出遅れたセイラはどうすべきか迷った。助けに入るべきか部隊に報告に向かうべきか。
そんな時、セイラの肩に触れる手があった。同じく隠れたままのアランだった。アランは唇に指を当て、静かにとジェスチャーする。それで散り散りになっていた思考にまとまった。そうだ、他にもすべきことはある。
2人はその場を3人に任せ、途中で離れ離れとなった仲間を探すべく戦場を迂回した。静かな林に響く剣戟の音はしばらく止むことはなかった。
■
前面に展開していた部隊はその日、ハンター達の活躍により想定よりも更に小さな被害で『敗走』した。戦場では人間よりもゴブリンのほうが死者は多かったが、ゴブリン達は普段から個体の数で押していた為に損害の比率にはまるで無頓着だった。人間の村ではなく、人間の軍隊を押し返したという事実でゴブリンは沸き立っていた。
頭の良い茨小鬼の何体かは気づいたかもしれない。だが戦術という概念を操るにはそれでさえ不足していた。それが致死の沼地と知るのは、もう少し後のことになる。
依頼結果
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MVP一覧
- 魂の反逆
ウィンス・デイランダール(ka0039)
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/17 18:55:25 |
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相談所 アイ・シャ(ka2762) エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/10/17 21:46:44 |