ゲスト
(ka0000)
名も無き村への大きな道で
マスター:春野紅葉
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/16 22:00
- 完成日
- 2015/10/25 03:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●惨劇
小さな村に向けて進む行商の一団があった。六台の馬車を引いて進む彼らは、定期的に小さな村々を回る行商であった。目的の村はそんな彼らが決まって立ち寄るいわば休息地のような場所だ。
行商の集団が村の手前にある森に差し掛かった頃。行商団の一番前にいる強面の男は一つ安堵の溜め息を漏らす。男は行商から雇われた護衛である。同じように雇われた五人と行商達を囲う形で護衛していた。
「っと、うん?」
男は芝を踏み抜いた脚を止め、後ろにいる行商達に停止を告げた。ハンターとしての勘が、告げていた。何かがいると。
「何かあったんですか?」
馬車の中から顔をだした行商の男に、引っ込むように指示を出しつつ、腰に挿す剣に手を伸ばす。がさっと左側から音がした。
「そこ――」
馬から飛び降りつつ、草陰から跳んできたそれの頭頂部を剣で貫いた。
「こいつぁ……ゴブリンか?」
剣をそれから取り戻して周囲を見渡した時、男は背筋を寒い物が駆け抜けるのを確かに感じた。
「なんじゃこりゃぁ……」
行商の周囲、数十体はいるだろうか。どこを見渡してもゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。全方向を、ゴブリンの群れに包囲されていた。
「キシャーッ!!」
今まで感じ取れなかったきつい獣臭さのようなものが充満している。呆然としつつあった意識が、戻ってきた。
「こりゃ、護るどころじゃねぇな……」
男の判断は速かった。すぐさま振り返ると、大声で指示を出す。
「おい!! 全員逃げるぞ!! 荷物なんて捨てちまえっ! アンタらも速くしろ!!」
叫び、一番近くにあった馬車の中から、裕福そうな服に身を包む男を引っ張り出した。横から走ってきたゴブリンに向けて、剣を入れる。悲鳴と怒号とそれらしきゴブリンの声が、複雑に混じり合いながら、その場を埋め尽くした。
●発覚
ゴブリンに行商が襲われた翌日。今か今かと、行商の到着を待ちわびていた村人たちの前に現れたのは、男の二人組だった。
「ど、どうなされた、その傷は!」
急いで現れた村長は、片方の裕福そうな服を着た男に声をかけた。それはそちらの男の事を知っていたからでもあるが、何よりまだ喋れそうだったからだ。
「ご、ゴブリンに……襲われました。お願いします。彼の手当てを……」
「もちろんじゃ……よくぞご無事で参られた」
「無事? はははっ、まさか……僕は彼に助けられただけですよ」
そう言って、視線をもう一人の方に向ける。もう一人の方は血だらけだった。服装はもはやぼろきれとなり、手にしている剣は刃こぼれが酷く、使えたとしてももはや打撃にしか使用できまい。
身体中に様々な傷やあざを刻み、生き長らえているのが奇跡と言って過言ではない。
「ハンターに連絡を……ゴブリンは……まだ……います」
男はそう言うと、そのまま意識を失ってしまう。
「そういえば、他の行商の方は……」
男を運ぶように村人に告げた村長は、そのまま視線を行商に向ける。行商は沈痛な面持ちのまま、静かに首を横に振った。
●救援要請
ハンターオフィスに集まっていたハンター達に向けて、受付嬢は少し焦り気味に告げる。
「皆さん。急遽西に行ってきてください。ゴブリンの群れが行商を襲いました。狙われたのは小さな村に向けて進んでいた行商のようです。群れの数は不明です」
受付嬢は言いつつ、さらりと地図を広げて見せる。
「場所は森になっています。行商を狙ったことから、食べ物の香りを嗅ぎつけたのだと推定されます」
そう言うと、受付嬢は静かにハンターに現場に向かう為の地図を差し出した。
「村の人々はゴブリンが討伐されたことが分かれば、お礼の宴を催すとのことです。村へは森を通る以外にも道はありますが、森以外の道は道幅が狭く、行商が通れません。失敗すれば村への物資供給が滞る事になりかねません」
地図を見ても、森林を示す緑色の地帯が続いている。
「討伐につきまして、森に重大な被害をもたらすような戦闘は控えた方が良いでしょう。村の人々にとって、森はエクラ教と並ぶとまで行かずとも信仰の対象となっていますし、何より狭く、木々が生い茂っているため、下手をすると皆さんにも被害が及びかねません」
小さな村に向けて進む行商の一団があった。六台の馬車を引いて進む彼らは、定期的に小さな村々を回る行商であった。目的の村はそんな彼らが決まって立ち寄るいわば休息地のような場所だ。
行商の集団が村の手前にある森に差し掛かった頃。行商団の一番前にいる強面の男は一つ安堵の溜め息を漏らす。男は行商から雇われた護衛である。同じように雇われた五人と行商達を囲う形で護衛していた。
「っと、うん?」
男は芝を踏み抜いた脚を止め、後ろにいる行商達に停止を告げた。ハンターとしての勘が、告げていた。何かがいると。
「何かあったんですか?」
馬車の中から顔をだした行商の男に、引っ込むように指示を出しつつ、腰に挿す剣に手を伸ばす。がさっと左側から音がした。
「そこ――」
馬から飛び降りつつ、草陰から跳んできたそれの頭頂部を剣で貫いた。
「こいつぁ……ゴブリンか?」
剣をそれから取り戻して周囲を見渡した時、男は背筋を寒い物が駆け抜けるのを確かに感じた。
「なんじゃこりゃぁ……」
行商の周囲、数十体はいるだろうか。どこを見渡してもゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。全方向を、ゴブリンの群れに包囲されていた。
「キシャーッ!!」
今まで感じ取れなかったきつい獣臭さのようなものが充満している。呆然としつつあった意識が、戻ってきた。
「こりゃ、護るどころじゃねぇな……」
男の判断は速かった。すぐさま振り返ると、大声で指示を出す。
「おい!! 全員逃げるぞ!! 荷物なんて捨てちまえっ! アンタらも速くしろ!!」
叫び、一番近くにあった馬車の中から、裕福そうな服に身を包む男を引っ張り出した。横から走ってきたゴブリンに向けて、剣を入れる。悲鳴と怒号とそれらしきゴブリンの声が、複雑に混じり合いながら、その場を埋め尽くした。
●発覚
ゴブリンに行商が襲われた翌日。今か今かと、行商の到着を待ちわびていた村人たちの前に現れたのは、男の二人組だった。
「ど、どうなされた、その傷は!」
急いで現れた村長は、片方の裕福そうな服を着た男に声をかけた。それはそちらの男の事を知っていたからでもあるが、何よりまだ喋れそうだったからだ。
「ご、ゴブリンに……襲われました。お願いします。彼の手当てを……」
「もちろんじゃ……よくぞご無事で参られた」
「無事? はははっ、まさか……僕は彼に助けられただけですよ」
そう言って、視線をもう一人の方に向ける。もう一人の方は血だらけだった。服装はもはやぼろきれとなり、手にしている剣は刃こぼれが酷く、使えたとしてももはや打撃にしか使用できまい。
身体中に様々な傷やあざを刻み、生き長らえているのが奇跡と言って過言ではない。
「ハンターに連絡を……ゴブリンは……まだ……います」
男はそう言うと、そのまま意識を失ってしまう。
「そういえば、他の行商の方は……」
男を運ぶように村人に告げた村長は、そのまま視線を行商に向ける。行商は沈痛な面持ちのまま、静かに首を横に振った。
●救援要請
ハンターオフィスに集まっていたハンター達に向けて、受付嬢は少し焦り気味に告げる。
「皆さん。急遽西に行ってきてください。ゴブリンの群れが行商を襲いました。狙われたのは小さな村に向けて進んでいた行商のようです。群れの数は不明です」
受付嬢は言いつつ、さらりと地図を広げて見せる。
「場所は森になっています。行商を狙ったことから、食べ物の香りを嗅ぎつけたのだと推定されます」
そう言うと、受付嬢は静かにハンターに現場に向かう為の地図を差し出した。
「村の人々はゴブリンが討伐されたことが分かれば、お礼の宴を催すとのことです。村へは森を通る以外にも道はありますが、森以外の道は道幅が狭く、行商が通れません。失敗すれば村への物資供給が滞る事になりかねません」
地図を見ても、森林を示す緑色の地帯が続いている。
「討伐につきまして、森に重大な被害をもたらすような戦闘は控えた方が良いでしょう。村の人々にとって、森はエクラ教と並ぶとまで行かずとも信仰の対象となっていますし、何より狭く、木々が生い茂っているため、下手をすると皆さんにも被害が及びかねません」
リプレイ本文
●
鬱蒼と茂った森を、真っ二つに裂くような形で、道路がある。馬車の往来によって芝は倒されているものの、力強く生えている。
森の入り口には、六人の人影があった。依頼を受けて派遣されてきたハンター達である。
「速やかに退治しなくてはな」
「ふむ、数が随分と大規模な襲撃だ。放っておくわけにはいくまい」
長身で筋肉質な黒髪の男、榊 兵庫(ka0010)は顎辺りに手を当てながら、覗き込むようにして龍崎・カズマ(ka0178)が手に入れてきた森近辺の地図を見ていた。兵庫に答えるように続いた声は、全身をプレートアーマーで包み込む歴戦の戦士といった風貌のユルゲンス・クリューガー(ka2335)だ。
カズマの持つ地図によると、ゴブリンの出た道以外には馬車では到底通れない畦道しか存在せず、村はじきに干上がってしまうだろう。もし、ゴブリンが居続ければ、その被害がどれ程になるというのか。
速やかに退治したくとも、肝心のゴブリンは数が多い。一匹一匹がそれほど強くないとはいえ、数が多ければ油断はできない。そこでハンターたちは一つの計略を用いることにした。
「この地図によると、広く取って戦える場所は、俺達がいるこの森の入り口しかないようだ。森自体はそれほど大きさがないみたいだから、奥まで行ってもよほどの事でもない限り戻ってこれるはずだ」
カズマは他の五人にも見えるように地図を動かしながら現在地を示す。
「戻れる距離なら大丈夫じゃろう」
赤い瞳から、どことなく楽しげな光を覗かせる叢雲 輝夜(ka5601)はそう言って笑うと、話を進めていく。
そうして準備を整えた面々は静かに動き出した。
●
足元の芝を踏みならすようにしながら、輝夜と華蜂院 蜜希(ka5703)は森の中を突き進んでいく。警戒を怠らないようにしつつも、ほぼ同一の景色の続く道のりをゆったりと進んでいく。
「さーって、敵さんはどこかね……おっ? あれか……?」
「いや、どうも違いそうやね」
もしゃもしゃと敢えて見つかりやすいように、ゴブリンの釣り餌となる食料を食べながら蜜希が見つけたのは、よく見ればゴブリンではなかった。近づくにつれて、理解させられる正体は、馬車の残骸。どうやら、行商が襲われた現場まで来たようだ。
何か棍棒のような物で叩き壊された形跡のみられるそれの近くでは、折れた剣が放置されており、少し進むと、人影がいくつかある。近寄ってみれば、身体中に傷を負い、全員が事切れている。
「酷い光景じゃ……」
輝夜が立ち止まり、弔いのために一人の傍に近寄った時だった。一瞬だが、何か嫌な気配がして、輝夜が振り向き、同じように蜜希が腰を落とした。
「こいつらか?」
「ふふ~ん♪ 来よったねぇ」
はっきりと感じ始めた獣臭さに輝夜は日本刀骨喰を抜いた。直後、二人の前にゴブリンが姿を現わす。二人の前を塞ぐようにして現れた二匹を皮切りに、瞬く間に二人を囲うような形でゴブリン達が芝生を踏みしめ、奇声を上げながら姿を現わした。
「囲まれちまったか!?」
「思ったより賢いねぇ。普通に逃げないけんけぇね?」
前後を埋め尽くす、数多のゴブリンを見渡して、長く伸びて牙のようにも見えるようになった犬歯を口元に覗かせながら、楽しそうに輝夜が笑った。水蒸気にも似た煙が立ちのぼり、額の角が僅かに大きく変質していく。
「華蜂院。うちの代わりにトランシーバーで後ろの人らと連絡取ってくれんけ?」
殴られ、或いは切り付けられながらも、後方、来た道を戻るべく血路を開かんと走り出す。その時だった。眼前、自分達が来た方向にいたゴブリンが銀輪を頭に突き立てられて昏倒する。
「退くんだ! 囲まれてりゃ意味がない!」
どこからか現れた金色の髪を靡かせるカズマに首肯して、輝夜と蜜希は後ろから迫るゴブリンを背に、正面にいるゴブリンに、輝夜が抜いた刀身に龍の文様の描かれた日本刀が奔る。僅かな赤い線がゴブリンの頭部に刻まれ、悲鳴が轟く。
その隣では、力の加減を調節しながら、蜜希がゴブリンを転ばしていく。蜂のように鋭く、しかし喰らえば重いであろう一撃が、ゴブリンを退けていく。
一方、二人の正面では、豪奢な黄金製の柄をした白い剣身のロングソードを閃かせるカズマがゴブリン達を薙ぎ払っていく。
やがて、三人が縦に並ぶように道が開いたところを、一気に駆け抜けた。
●
蜜希とカズマからほぼ同時に囮組が囲まれたことを伝えられた待機組も既に動き出していた。合流できるように、三人とも一気に駈け出していた。作戦通りとは言い難いが、囲まれているのであっては釣るどころの話ではない。
「どうやら、群れごとこっちには向かってきているらしい。そろそろ、合流できるはずだ」
焦りが僅かに混じった声色で兵庫が叫ぶ。それを聞いて、少しだけ前にいたユルゲンスが小さく頷いた。
「見えたぞ!」
遥か先方、数人の人影を見たスーズリー・アイアンアックス(ka1687)の声が響く。
兵庫は己の身に刻み込まれた歴戦の傷跡をにじませ、スーズリーは普段の肉体をより一層、骨太に変質させながら、アサルトライフルを構える。
「どうやら、三人とも無事のようだ。行くぞ!」
三つの人影よりも低く、群がるような影の塊、ゴブリンの断末魔が轟く様を見つめながら、ユルゲンスが叫ぶ。後の二人が同意するように声を上げたのを聞きながら、ユルゲンスは長年の愛剣であるクラルミーネを抜いた。
群れへと突撃したユルゲンスは走り込んだ体勢を瞬く間に立て直し、クラルミーネが正面のゴブリン一匹を斬る。
「手加減する理由もないからな。初手から全力で打ち込ませて貰おう」
小さく、しかし力のこもった兵庫の声の直後、狼の意匠のあしらわれた剣によって、一匹のゴブリンが上段から斬り裂かれた。
それに続くように、二人を射線より外した位置から、弾丸が撃ち込まれ、ゴブリンの悲鳴が響く。
三人の突然の乱入に驚いたのか、ゴブリンが奇声を上げて一様にユルゲンスらの方を向くが、振り向いたゴブリン達は分断されていた囮役の三人の攻撃を受けて悲鳴を上げた。
「釣り野伏せとはいかんけぇど、これならいけそうやね」
ゴブリンを挟んだ向こうから、輝夜が楽しげに笑う。何体かは減っているとはいえど、依然ゴブリンの数はハンターの面々よりも多い。
「こっからが本番だな! いくぜみんな!」
蜜希の鼓舞を合図に、六人は各々が前にいるゴブリンへと戦闘を開始する。
ユルゲンスは剣でゴブリンを引き倒すと剣を収め、斧へと持ち替える。そのまま渾身の力を籠めて上段からかち割らんばかりに斧を振り抜いた。
「うん? 逃がすと思ったか、甘い!」
ユルゲンスの隣では兵庫が逃げ出そうとしたゴブリンを見つけ、剣を構え、一閃。すると、刀身へと収束したマテリアルが空気を歪めながらゴブリンの背中へと飛び、切り刻む。
スーズリーは丈夫な鎧を盾に、前へ進みながら着実にゴブリンへと狙いを定めて弾丸を放つ。それでも浅い傷は残るが、ゴブリンへのダメージの方が遥かに大きかった。
「どうした、数ではそちらが優位だ。もっと攻めて来るがいい!」
ハンター達の力量に怯えつつあったゴブリンへと恫喝するようにユルゲンスが雄叫びを上げ、もう一匹を狩り捨てる。
一方、ゴブリンを挟んだ向こう側にいるメンバーも負けてはいない。凄まじい速度でゴブリンへと接近したカズマは己の肉体を連動させ、着実に、強力な一撃を叩き込んでいく。攻撃しては去るの繰り返しは、ゴブリンを怯懦へ落とし込むことに成功しつつあった。
囮役として、一番の傷を負った二人も、その攻撃は鈍っていない。多少の疲労こそあるが、輝夜の方はより一層、楽しそうにしながら日本刀を振う。蜜希も、蜂を彷彿とさせる鋭い一撃でゴブリンを薙ぎ払っていく。
どれくらいの時間が経っただろうか。蜜希の拳が、最後の一匹の懐を貫いた。ゴブリンの獣臭さと、それを遥かに勝る血生臭さが森を抜けて行った風に生暖かさを加える。
逃がすことだけは決してしないよう徹底された攻撃もあって、生き残りもいないだろう。
「片付いたか。帰還しよう」
斧の刃に付いた血を拭いながらのユルゲンスの発言に、各々は肯定する。
「……道の安全が確保されるまで、行商も足が鈍りがちだろうし、この積み荷は大切な生命線となるかもしれない。可能な限り回収しなくては、な」
「弔いもしてやりてぇけぇね」
兵庫の呟きに応じるような形で輝夜が追従し、六人は馬車のあった場所まで歩き出した。疲労はあっても、村の事を考えれば、荷台は回収して送り届けた方がいいというのが、六人の共通の結論だった。
●
比較的、損傷の度合いが低い馬車の二台のうち、一つに荷物、もう一つには埋葬するために遺体を回収した六人は、速やかにそれを村へと送り届けた。本来なら特に苦労するほどではない道なのだろうが、襲撃を受けてぼろぼろになっている馬車では、本来の速度を出すことは難しく、到着は日暮れ近くになっていた。
「ハンター様方……よくぞ参られました」
到着した六人を出迎えたのは村長と包帯で身体中を包み込み、松葉杖をした男らしき人物、そして傷や汚れこそあるものの、元は裕福そうな着物だったであろう代物を纏った男だった。
「あっちの荷台はご遺体が入っておりますので、埋葬を頼む。そっちは回収できた荷物だ」
カズマが言うと、裕福そうな男が少し目を見開いて驚きながら、遺体のある荷台の方へと走って行った。やがて、その荷台から、嗚咽が漏れ聞こえてきた。
「ありがとうございます! 助かりました」
村長は六人へとそれぞれ握手を求めながら、安堵のため息を漏らした。
「宴も行ないますし、今日は是非とも泊まって行かれよ」
ハンターたちの口から、感嘆の息が漏れる。
埋葬と葬式は、エクラ教式ともう一つ、この村特有のもので執り行われた。どちらのものも静かに滞りなく進み、行商には輝夜から彼の行商仲間達の遺品をご家族に渡してもらえるように取り計らわれた。
「さて、皆の衆、今日は悲しい事があった。しかし、ハンターの皆さまのおかげで、わしらはこうして生きておる」
村の中で、一番広い広場。そこに村人達と包帯に包み込まれた男、それに生き残った行商、そして宴を遠慮したカズマを除くハンター五人が集められた。
「死んだ者がおる。悲しい事実じゃ……最後の別れ。そして彼らが静かに眠れるよう祈り、今宵は宴としようぞ」
村長が拍子を打つと、広場内の人びとに飲み物が注がれていく。それが一巡したころ、五人はそれぞれの方法で宴へと入って行った。
スーズリーは出された料理を美味しそうに、豪快にむしゃむしゃと食らい、村人から嬉しそうに微笑まれていた。輝夜は数人の人びとを集めて賭け事を始めた。
宴は夜遅くまで続き、何事も無く、夜が更けていった。
鬱蒼と茂った森を、真っ二つに裂くような形で、道路がある。馬車の往来によって芝は倒されているものの、力強く生えている。
森の入り口には、六人の人影があった。依頼を受けて派遣されてきたハンター達である。
「速やかに退治しなくてはな」
「ふむ、数が随分と大規模な襲撃だ。放っておくわけにはいくまい」
長身で筋肉質な黒髪の男、榊 兵庫(ka0010)は顎辺りに手を当てながら、覗き込むようにして龍崎・カズマ(ka0178)が手に入れてきた森近辺の地図を見ていた。兵庫に答えるように続いた声は、全身をプレートアーマーで包み込む歴戦の戦士といった風貌のユルゲンス・クリューガー(ka2335)だ。
カズマの持つ地図によると、ゴブリンの出た道以外には馬車では到底通れない畦道しか存在せず、村はじきに干上がってしまうだろう。もし、ゴブリンが居続ければ、その被害がどれ程になるというのか。
速やかに退治したくとも、肝心のゴブリンは数が多い。一匹一匹がそれほど強くないとはいえ、数が多ければ油断はできない。そこでハンターたちは一つの計略を用いることにした。
「この地図によると、広く取って戦える場所は、俺達がいるこの森の入り口しかないようだ。森自体はそれほど大きさがないみたいだから、奥まで行ってもよほどの事でもない限り戻ってこれるはずだ」
カズマは他の五人にも見えるように地図を動かしながら現在地を示す。
「戻れる距離なら大丈夫じゃろう」
赤い瞳から、どことなく楽しげな光を覗かせる叢雲 輝夜(ka5601)はそう言って笑うと、話を進めていく。
そうして準備を整えた面々は静かに動き出した。
●
足元の芝を踏みならすようにしながら、輝夜と華蜂院 蜜希(ka5703)は森の中を突き進んでいく。警戒を怠らないようにしつつも、ほぼ同一の景色の続く道のりをゆったりと進んでいく。
「さーって、敵さんはどこかね……おっ? あれか……?」
「いや、どうも違いそうやね」
もしゃもしゃと敢えて見つかりやすいように、ゴブリンの釣り餌となる食料を食べながら蜜希が見つけたのは、よく見ればゴブリンではなかった。近づくにつれて、理解させられる正体は、馬車の残骸。どうやら、行商が襲われた現場まで来たようだ。
何か棍棒のような物で叩き壊された形跡のみられるそれの近くでは、折れた剣が放置されており、少し進むと、人影がいくつかある。近寄ってみれば、身体中に傷を負い、全員が事切れている。
「酷い光景じゃ……」
輝夜が立ち止まり、弔いのために一人の傍に近寄った時だった。一瞬だが、何か嫌な気配がして、輝夜が振り向き、同じように蜜希が腰を落とした。
「こいつらか?」
「ふふ~ん♪ 来よったねぇ」
はっきりと感じ始めた獣臭さに輝夜は日本刀骨喰を抜いた。直後、二人の前にゴブリンが姿を現わす。二人の前を塞ぐようにして現れた二匹を皮切りに、瞬く間に二人を囲うような形でゴブリン達が芝生を踏みしめ、奇声を上げながら姿を現わした。
「囲まれちまったか!?」
「思ったより賢いねぇ。普通に逃げないけんけぇね?」
前後を埋め尽くす、数多のゴブリンを見渡して、長く伸びて牙のようにも見えるようになった犬歯を口元に覗かせながら、楽しそうに輝夜が笑った。水蒸気にも似た煙が立ちのぼり、額の角が僅かに大きく変質していく。
「華蜂院。うちの代わりにトランシーバーで後ろの人らと連絡取ってくれんけ?」
殴られ、或いは切り付けられながらも、後方、来た道を戻るべく血路を開かんと走り出す。その時だった。眼前、自分達が来た方向にいたゴブリンが銀輪を頭に突き立てられて昏倒する。
「退くんだ! 囲まれてりゃ意味がない!」
どこからか現れた金色の髪を靡かせるカズマに首肯して、輝夜と蜜希は後ろから迫るゴブリンを背に、正面にいるゴブリンに、輝夜が抜いた刀身に龍の文様の描かれた日本刀が奔る。僅かな赤い線がゴブリンの頭部に刻まれ、悲鳴が轟く。
その隣では、力の加減を調節しながら、蜜希がゴブリンを転ばしていく。蜂のように鋭く、しかし喰らえば重いであろう一撃が、ゴブリンを退けていく。
一方、二人の正面では、豪奢な黄金製の柄をした白い剣身のロングソードを閃かせるカズマがゴブリン達を薙ぎ払っていく。
やがて、三人が縦に並ぶように道が開いたところを、一気に駆け抜けた。
●
蜜希とカズマからほぼ同時に囮組が囲まれたことを伝えられた待機組も既に動き出していた。合流できるように、三人とも一気に駈け出していた。作戦通りとは言い難いが、囲まれているのであっては釣るどころの話ではない。
「どうやら、群れごとこっちには向かってきているらしい。そろそろ、合流できるはずだ」
焦りが僅かに混じった声色で兵庫が叫ぶ。それを聞いて、少しだけ前にいたユルゲンスが小さく頷いた。
「見えたぞ!」
遥か先方、数人の人影を見たスーズリー・アイアンアックス(ka1687)の声が響く。
兵庫は己の身に刻み込まれた歴戦の傷跡をにじませ、スーズリーは普段の肉体をより一層、骨太に変質させながら、アサルトライフルを構える。
「どうやら、三人とも無事のようだ。行くぞ!」
三つの人影よりも低く、群がるような影の塊、ゴブリンの断末魔が轟く様を見つめながら、ユルゲンスが叫ぶ。後の二人が同意するように声を上げたのを聞きながら、ユルゲンスは長年の愛剣であるクラルミーネを抜いた。
群れへと突撃したユルゲンスは走り込んだ体勢を瞬く間に立て直し、クラルミーネが正面のゴブリン一匹を斬る。
「手加減する理由もないからな。初手から全力で打ち込ませて貰おう」
小さく、しかし力のこもった兵庫の声の直後、狼の意匠のあしらわれた剣によって、一匹のゴブリンが上段から斬り裂かれた。
それに続くように、二人を射線より外した位置から、弾丸が撃ち込まれ、ゴブリンの悲鳴が響く。
三人の突然の乱入に驚いたのか、ゴブリンが奇声を上げて一様にユルゲンスらの方を向くが、振り向いたゴブリン達は分断されていた囮役の三人の攻撃を受けて悲鳴を上げた。
「釣り野伏せとはいかんけぇど、これならいけそうやね」
ゴブリンを挟んだ向こうから、輝夜が楽しげに笑う。何体かは減っているとはいえど、依然ゴブリンの数はハンターの面々よりも多い。
「こっからが本番だな! いくぜみんな!」
蜜希の鼓舞を合図に、六人は各々が前にいるゴブリンへと戦闘を開始する。
ユルゲンスは剣でゴブリンを引き倒すと剣を収め、斧へと持ち替える。そのまま渾身の力を籠めて上段からかち割らんばかりに斧を振り抜いた。
「うん? 逃がすと思ったか、甘い!」
ユルゲンスの隣では兵庫が逃げ出そうとしたゴブリンを見つけ、剣を構え、一閃。すると、刀身へと収束したマテリアルが空気を歪めながらゴブリンの背中へと飛び、切り刻む。
スーズリーは丈夫な鎧を盾に、前へ進みながら着実にゴブリンへと狙いを定めて弾丸を放つ。それでも浅い傷は残るが、ゴブリンへのダメージの方が遥かに大きかった。
「どうした、数ではそちらが優位だ。もっと攻めて来るがいい!」
ハンター達の力量に怯えつつあったゴブリンへと恫喝するようにユルゲンスが雄叫びを上げ、もう一匹を狩り捨てる。
一方、ゴブリンを挟んだ向こう側にいるメンバーも負けてはいない。凄まじい速度でゴブリンへと接近したカズマは己の肉体を連動させ、着実に、強力な一撃を叩き込んでいく。攻撃しては去るの繰り返しは、ゴブリンを怯懦へ落とし込むことに成功しつつあった。
囮役として、一番の傷を負った二人も、その攻撃は鈍っていない。多少の疲労こそあるが、輝夜の方はより一層、楽しそうにしながら日本刀を振う。蜜希も、蜂を彷彿とさせる鋭い一撃でゴブリンを薙ぎ払っていく。
どれくらいの時間が経っただろうか。蜜希の拳が、最後の一匹の懐を貫いた。ゴブリンの獣臭さと、それを遥かに勝る血生臭さが森を抜けて行った風に生暖かさを加える。
逃がすことだけは決してしないよう徹底された攻撃もあって、生き残りもいないだろう。
「片付いたか。帰還しよう」
斧の刃に付いた血を拭いながらのユルゲンスの発言に、各々は肯定する。
「……道の安全が確保されるまで、行商も足が鈍りがちだろうし、この積み荷は大切な生命線となるかもしれない。可能な限り回収しなくては、な」
「弔いもしてやりてぇけぇね」
兵庫の呟きに応じるような形で輝夜が追従し、六人は馬車のあった場所まで歩き出した。疲労はあっても、村の事を考えれば、荷台は回収して送り届けた方がいいというのが、六人の共通の結論だった。
●
比較的、損傷の度合いが低い馬車の二台のうち、一つに荷物、もう一つには埋葬するために遺体を回収した六人は、速やかにそれを村へと送り届けた。本来なら特に苦労するほどではない道なのだろうが、襲撃を受けてぼろぼろになっている馬車では、本来の速度を出すことは難しく、到着は日暮れ近くになっていた。
「ハンター様方……よくぞ参られました」
到着した六人を出迎えたのは村長と包帯で身体中を包み込み、松葉杖をした男らしき人物、そして傷や汚れこそあるものの、元は裕福そうな着物だったであろう代物を纏った男だった。
「あっちの荷台はご遺体が入っておりますので、埋葬を頼む。そっちは回収できた荷物だ」
カズマが言うと、裕福そうな男が少し目を見開いて驚きながら、遺体のある荷台の方へと走って行った。やがて、その荷台から、嗚咽が漏れ聞こえてきた。
「ありがとうございます! 助かりました」
村長は六人へとそれぞれ握手を求めながら、安堵のため息を漏らした。
「宴も行ないますし、今日は是非とも泊まって行かれよ」
ハンターたちの口から、感嘆の息が漏れる。
埋葬と葬式は、エクラ教式ともう一つ、この村特有のもので執り行われた。どちらのものも静かに滞りなく進み、行商には輝夜から彼の行商仲間達の遺品をご家族に渡してもらえるように取り計らわれた。
「さて、皆の衆、今日は悲しい事があった。しかし、ハンターの皆さまのおかげで、わしらはこうして生きておる」
村の中で、一番広い広場。そこに村人達と包帯に包み込まれた男、それに生き残った行商、そして宴を遠慮したカズマを除くハンター五人が集められた。
「死んだ者がおる。悲しい事実じゃ……最後の別れ。そして彼らが静かに眠れるよう祈り、今宵は宴としようぞ」
村長が拍子を打つと、広場内の人びとに飲み物が注がれていく。それが一巡したころ、五人はそれぞれの方法で宴へと入って行った。
スーズリーは出された料理を美味しそうに、豪快にむしゃむしゃと食らい、村人から嬉しそうに微笑まれていた。輝夜は数人の人びとを集めて賭け事を始めた。
宴は夜遅くまで続き、何事も無く、夜が更けていった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/13 09:46:52 |
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相談卓 華蜂院 蜜希(ka5703) 鬼|25才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2015/10/16 18:11:49 |