かぼちゃおばけ

マスター:芹沢かずい

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/10/17 09:00
完成日
2015/10/25 01:13

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●雨のあとで
「二日も雨だったから退屈だったな」
 そう言って二人の元にやってきたのは、活発そうな少年。名をレオと言う。彼を待ち受けていたのは、彼の遊び仲間の少年と少女。『遊び仲間』と言うと彼らのご機嫌を損ねるので、ここでは『探険仲間』としておこう。
 少女の名はディアナ。栗色の髪をポニーテールにしている。少年はグーマー。常にお菓子を携帯し、少しばかりふっくらしている。
「お日様が出てくれたけど、畑はぐちゃぐちゃでしょうね」
「僕は長靴だよ。パパのだから大きいけど」
 ディアナは大きな籠を背負い直すと、足元を見てがっかりしたような声。反対にワクワクした声を出すのはグーマーだ。水たまりや泥の中で踏み心地を試している。……が、穿いているモノはかなりオーバーサイズのようだ。
「よし、ぐずぐずしてたら日が暮れちまうな。行こうぜ」
「「うん!」」
 三人が目指す場所は、村の外れにある庭。庭と呼ぶにはかなり抵抗があるが、そこの持ち主がそう言うのだから仕方がない。
「パト婆のメモ持って来た? レオ」
「勿論。なくても分かると思うけど、似たような毒草があるって聞いてるからな。用心しないと」
「パト婆、今度はどんなおやつを作ってくれるのかな?」
「グーマーったら食べることばっかりね」
「薬草使うんだから、苦いのかもな?」
「ええ〜僕苦いのは嫌だよぅ」
 賑やかにおしゃべりしながら歩みを進める先には、鬱蒼とした(という言葉が相応しいだろう)茂み。多種多様の植物が、それぞれの成長を互いに補い合いながら生息している。
 ここの持ち主が、『パト婆』の愛称で親しまれているパトリシアだ。彼女は元ハンターと言う肩書きを持ちながら、今は隠居生活を楽しんでいる。子供達を相手に昔を語り、彼女の『庭』で採れる植物や果実を使って美味しいお菓子を作って日々を過ごしている。
 今回、三人組は彼女に薬草摘みを頼まれたらしい。二日程降り続いた雨の所為で、あちこちに水たまりはあるし、土はぬかるんですでに泥だらけだが、楽しそうだ。
 やがて三人は庭に辿り着いた。村の外れにあるパト婆の家の近くで待ち合わせ、子供の足で歩いて三十分程の場所に、それはあった。
 ……そして、『それ』も。

●何かが……
「ちょっとこれ……」
 ディアナが震えた声を出す。目の前のモノを見上げて、二の句が継げない。
 彼らの目の前にあったのは、巨大な蔓植物のようなもの。『ような』といったのは、それが明らかに普通ではないからだ。
「カボチャ……か……?」
 絞り出した声はかすれていたが、レオは気丈にもそれをしっかり観察していた。パト婆に知らせなくては。パト婆なら、対策を教えてくれるはずだ。
 目の前にあるのは、子供が中に入り込めそうな程の大きさのカボチャ。濁った汚いオレンジ色に、茶色の斑。至る所に大小様々の虫食い穴……見る角度によってはニヤけた顔にも見える。
 そんな巨大カボチャが、二メートル程の高さにぶら下がっている。
「レオ〜……」
「な、情けない声出すなよグーマー!」
「だって……蔓が動いてる! こっちに来るよぉ!」
 慌ててグーマーを振り返るレオ。彼が見たのは、じわりじわりとグーマーににじり寄っている太い蔓。成人男性の二の腕ほどはあるだろうか……まるで意志があるかのように、グーマーの持つお菓子袋に狙いを定めているようだ。
「逃げろよグーマー!」
「う、う……うん! あっ!」
 ずべしゃっ!
 コケた。泥の中に顔面から。泥に長靴を奪われて、脱げたらしい。
「グーマー!」
 慌てて辺りを見回すレオ。目が止まった先には手頃な棒切れ。迷わず引っ掴むと、そのままグーマーの盾になるように走り込む。 
「ディアナ! パト婆に連絡してくれ! こいつ、雑魔ってヤツかも知れない!」
 がむしゃらに棒切れを振り回して蔓を牽制しながら、レオが叫ぶ。
「わ、分かった! レオ、グーマー! 待っててね!」
 背中の籠を降ろすとパト婆の家目がけて猛ダッシュ。軽やかに走り出した彼女は、驚くべき早さでパトリシアの元に辿り着いたのだった。

●対峙
「……雑魔で間違いはなさそうだね」
 片腕に松葉杖を抱え、パトリシアがそれを見て確信する。

 ディアナからの報告を聞き、パトリシアはすぐに近くのハンターオフィスに連絡を取った。呼吸を整える暇もなく、断片的な言葉を聞いただけだったが、パトリシアは的確に、その言葉の意味するところを捉えていた。
 それから間もなく、ハンター達を伴ってこの場に辿り着いたのだ。

「動きがのんびりしてて助かってるけど……! 何とかしてくれよ!」
 ハンター達からカボチャを見て、その向こう側。腰を抜かしたらしいグーマーの傍で、レオが頑張って棒切れを振り回し、蔓の接触から逃れていた。
 彼らが目にしているモノ……不気味だがどことなくファンシーな香りがする。
 その形貌は、カボチャに手足が生えているようだ。巨大なカボチャが頭だとすると、幾つもの太い蔓が手足の代わりなのだろう。あちこちに蔓を伸ばしては周囲の植物を手当り次第に折り取り、引き抜いている。根は固定されたままだが、蔓の所為で全体が動いているように見えるのだ。
「でっかいてるてる坊主みたいだけど、レオ! 大丈夫かい?」
 声を張り上げ、パトリシアが問う。
「な、何とか大丈夫だけど! こいつの葉っぱヤスリみたいで痛いんだ! それと、周りの植物が吸い込まれてるみたいだ!」
 レオの言葉に、その場に居合わせた者たちが素早く反応した。
「カボチャ頭の根っこに吸い込まれてるみたい! 蔓から棘が出て来てる!」
「ディアナ! いくら動きが鈍いったって迂闊に近付くんじゃないよ。……周りの植物を取り込んで攻撃用の武器にでもしようってのかい」
 パトリシアの言葉に、三人の子供達は焦った。……今は動きの鈍い蔓とヤスリの葉っぱだけだが、いずれ取り込んだ植物が棘となって攻撃して来るかもしれない。
 蔓の動きが徐々に早くなる……これは気のせいではない! 根元近くの地面からは黒っぽい靄のようなものが立ち上る。
「このままじゃ、パト婆のお庭が……」
 呆然と立ち尽くして呟いたのはディアナ。
 その呟きを、その場に居合わせたハンター達が聞き逃す筈もなく、まして聞き流すことなど出来なかった。

リプレイ本文


「呵呵ッ! デッケェかぼちゃだなァ、おい!」
 庭のど真ん中に鎮座する『それ』を見て、開口一番、叫ぶように言い放ったのは万歳丸(ka5665)だ。
(あっちで頑張ってるガキ共も居る。ならよ……俺たちの戦振り、見せてやろうじゃねエか!)
 心中で意気を高めつつ、状況を確認する万歳丸。その間、彼は蔓が他の植物を取り込む様子を目の当たりにしていた。
「へェ……食えば食うほど強くなる、ってか……なら、それはそれで楽しみではあるがよォ」
「まあ大変! 皆の安全を確保して、この異常変異したかぼちゃを退治しなくては」
 決意ともとれる言葉を発したのは、ソナ(ka1352)だ。
「なんだって雑魔になるものなのねえ……」
 なにやらしんみりとした(呆れている?)口調は、グエン・チ・ホア(ka5051)。
「参ったわね、人間相手の関節技は効かないか」
 故郷の格闘術を修得しているとはいえ、巨大かぼちゃの形容を見て、若干の不安は拭えないようだ。
「この畑に、危険性のある植物はありませんか? 有毒な棘とか麻痺性の植物、かぶれや炎症を引き起こすもの……」
 庭を支配するかのような巨大かぼちゃ、そこから周辺に視線を移しつつ聞いたのはステラ・レッドキャップ(ka5434)。パトリシアは苦い顔で巨大かぼちゃと畑(すでに『茂み』と呼べるレベル)を見据え、やはり苦い顔で言う。
「ここからは死角になってるけどね、向こうには有毒なアジサイがあるんだよ……子供らには近付かないように言ってあるけどね」
 アジサイは種類により、重篤な場合は死に繋がるほどの毒性を有するものがあるという。他にも、アジサイの茂みを中心として有毒な植物が幾つかあるらしい。……子供達も近寄る場所にそんなものを植えるのはどうかという思いもあるが、今は考えないようにしよう。
 至極簡単な説明だったが、ハンター達は素早く理解し、行動に移った。

「作戦に従って行動しますね。蔵人さん、子供達をお願いします!」
 ユキヤ・S・ディールス(ka0382)の言葉に「応!」と答え、明王院 蔵人(ka5737)はソナと共に一気にレオとグーマーの場所まで駆け抜ける! 足元はぬかるんでいたが、蔵人のブーツはモノともしない。 
「蔵人さん!」
 駆け寄りつつソナが集中していた魔法を蔵人に向けて発動する。光が蔵人の全身を覆う。
「うむ!」
 自身の変化を確認したのか、力強く頷くと、そのまま一気に巨大かぼちゃとレオの間に割り込むように身を躍らせる。
「良く頑張ったな、もう大丈夫だ。御老と共に後ろに下がれ」
「う、うん! ありがとう! ほらグーマー、立てるか?」
「な、何とか……ありがとう」
 二人の子供を背に庇いながら、蔵人はパトリシアの方へと移動する。
「もう心配はいらん。奴は仲間達が……お前達は俺が守ろう。安心して見ておれ」
 どっしりと構えたその姿は、まさしく『壁』と呼ぶに相応しい。
 蔵人と共に子供達と巨大かぼちゃの間に移動していたソナは、すれ違う時にグーマーと何やら話し、彼の持っているお菓子袋を預かっていた。ソナはそのままそこで巨大かぼちゃと対峙する。

「『因果応報』。アンタの結びだ。有難く頂戴しなァ!」
 巨大かぼちゃを真正面から見据え、吠えるような一言を発した万歳丸。……その胸元には、どこから出したのかお菓子袋が吊るされている。お菓子が好きなら、こちらも狙って来るはず!

 のんびりとした動きから、徐々に早さを増す蔓。それぞれに意志を持っているかの如く、獲物を狙うような動きを見せる。
 
 一方で、雨上がりのぬかるみにも構わず、巨大かぼちゃからやや距離を取った場所に伏せるようにしてライフルを構えているステラ。ここなら、巨大かぼちゃが伸ばす蔓の先まで良く見えるし、その全てが射程内。
 じっくりと相手を見据え、援護のタイミングを窺う。

「おいレオ坊! ディアナ! 婆さんでもいい! 『奪われて』ヤバイもんは何処だ!」
 万歳丸の声にはレオが答えた。
「俺たちが居た場所の近くにある茂みだよ! そこに毒草が集中してるんだ! 棘もある!」
「樹液とか汁にも気を付けてっ! すっごくカブれるの!」
 ディアナも、恐怖心を振り切るように大声で答える。
 すでに蔓と葉の攻撃に晒されていた万歳丸だったが、彼自身にその攻撃は届いていない。子供達の声に満足げに頷くと、万歳丸は己の左腕に装備したトゥルムで蔓の攻撃を受けながら、真正面から巨大かぼちゃに向かって行く!
 ヴジュル……!
 気色の悪い音を立て、その中の一本が万歳丸に向かう! ……狙いは、やはりお菓子なのか。
「羅亜亜亜亜亜ッ!」
 凄まじいまでの奇声と右の一撃は、向かい来る蔓をいとも容易く引き千切った! 千切られ宙に舞った蔓は、地面に落ちることなくその姿を消す。だが本体に繋がっている方は勢いを消せず、不規則に暴れる。それにつられるように、周囲の蔓も弾けるように動き出した!
 蔓が激しくのたうったことで、巨大かぼちゃの全容が見え隠れする。
 かぼちゃ頭を支えているのは、太い幹のようだ。一抱えもある幹の先端に、かぼちゃが不格好に突き刺さっている。かぼちゃから蔓が伸びているようにも見えるが、不規則な動きに邪魔されて細部は不明瞭だ。……パトリシアが言ったように、巨大なてるてる坊主に見えなくもない。
 そこに、疾る影の如く飛びかかって来る人影! ホアだ。
 本来ならば人間を相手にするはずの武術を試みる。不規則に揺れたそれをヒトの首に見立て、両足で挟み込んで引き倒そうというのか。
「くっ……」
 両手を地面に付き、倒れ込む勢いで仕掛けたそれは、僅かに巨大かぼちゃの重心をずらした。しかし、動く蔓は全くの無傷。素早く技を解き、その場を離れようとしたホアに、別の蔓が襲いかかる! 
 ガウンッ!
 一発の銃声。ステラだ。ぬかるみで汚れるのにも構わず、命中率を上げるために伏せている。
 蔓に炸裂したステラの弾丸は、意外にもそれを撃ち抜き、さらにはその周りの数本の動きを封じていた。……攻撃されたことに戸惑っているようにも見える。
「ありがとう、ステラさん! あんまり効果なしか……」
 距離を取りつつ呟く。
「っだったら!」
 今度は武器を手にどう斬りつけるか思案する。
 ステラが作った隙を逃さず、ユキヤとソナの魔法攻撃が連続してその根元に炸裂する!
 じりじりと本体に近付いて行くソナだったが、蔓の伸びる先にも注意を払う。
「いけません! アジサイの茂みに伸びる蔓が!」
 ガウン、ガウンッ!
 連続した発砲音。蔓はアジサイの茂みに到達する前に塵と化す。的確な射撃。
 ザシュッ!
 鮮やかな切り口を見せて、蔓が両断された。目の前の蔓を引き千切ろうと奮闘する万歳丸の背後から迫って来ていた蔓だった。ホアのククリナイフの切れ味は抜群だ。
 背後で聞こえた軽やかな着地音と、目の前で消えた蔓で、万歳丸は後ろから狙われていたことを知る。そして、身体に走る痛みに気がついた。
「こりゃあ……」
「大丈夫ですか? 万歳丸さん……わたしも」
 ホアも自分の身体を見て呟く。自らの身体に刻まれたのは、赤く腫れ上がった皮膚だった。蔓の切り口から飛び散った汁が、彼らの身体に火傷のような傷を負わせていた。
 バチンっ!
『っつ……!?』
 突然襲って来た刺激に、思わず攻撃を止めるソナとユキヤ。
 魔法攻撃の余韻が残るその根元に目をやると、細く針のように研ぎすまされた棘が数本、残っているのが見える。自分たちの肌や衣服にも、同じものが刺さっていた。幸いだったのは、それが頑丈に成長する前だったことか。……今確認できることは、棘がそれ以上増えも巨大化する気配もないということ。
 根元を集中して攻撃していたための効果だろう。根はもはや他の植物を吸収していないようだ。もっとも、すでにその周辺には植物は見当たらない。
 
 巨大かぼちゃから視線をそらさないまま、ゆっくりと距離を取るように移動する。それぞれに気配だけで確認し、呼吸を合わせるように。
「皆さん、僕の周りに」
 言ってユキヤは、静かに祈るように集中する。……怪我を負った者たちを柔らかい光が包み込んだ。
 自身と仲間の回復を待つ間にも、ステラは蔓の動きを注視していた。植物、特にアジサイの茂みに向かう蔓を優先して、確実に撃ち抜く。
 蔵人もまた、守るべき者たちに向かってくる蔓をことごとく断ち切っていた。汁を浴びることも厭わず、ヤスリのような葉が触れても動じることなく。持ち前の怪力で繰り出されるその一撃は重く、迫り来る蔓を引き千切るように消し飛ばしている。
 やがて一通りの治療が終わり、改めて全員で巨大かぼちゃに向き直る。


 ソナは根元に集中して魔法攻撃。連続するそれによって、辺りに眩い光が迸る。
 ユキヤも魔法攻撃の手を緩めない。彼自身から解き放たれた光の波動は、確実にダメージを与え続ける。
 ホアは手にしたククリナイフで蔓を断ち切る。敵と認識した者に追いすがるようにして伸びて来る蔓の間を華麗に飛び回り、翻弄する。
 アジサイの茂みや仲間の背後に回り込む蔓は、ことごとくステラの弾丸に打ち取られ、それを逃れて子供達に向かうも、そこには鉄壁の如く蔵人が待ち構えている。
 その中で、万歳丸はかぼちゃのすぐ真下にある蔓と、それを支えている幹を引き倒そうと渾身の力を込める。
 ……ぎし……
 根元が揺らぐ。……と。
「万歳丸さん、危ないっ! 皆も伏せてっ!」
 ソナの鋭い声が聞こえた。同時にぬかるんだ地面に伏せるハンター達。子供達の壁となり彼らを守っていた蔵人も膝を付く体勢にはなったが、完全には伏せられない。
 バヒュッ、ボヒュンっ!
 何とも奇妙な音と共に、かぼちゃ頭が爆発した。……ように見えた。正確には爆発ではなく、所々に空いた穴から何かが盛大に噴射したのだ。
 べちゃばちんっ!
 礫のようなものが辺りに撒き散らされる。泥を跳ね返し地面に刺さるように、凄まじい勢いだ。
「痛っ!」
「きゃあっ!」
「痛だだっ!」
 それぞれに悲鳴が上がる。勢いはあったが、全員『痛い』で済む程度のもの……種と実だ。
 無数の種と、茶色く濁った実の部分を吐き出し続けるかぼちゃ頭。
 ボシュウううぅ……
 音が変化したことに気付き見上げると、かぼちゃ頭は穴から煙のようなものを噴き出し、縮んでいた。……やがて子供の頭程の大きさにまで縮むと、ぽしゅんっ、と小さな音を立てて消えた。
 全員が体を起こして見ると、蠢いていた蔓は消え、かぼちゃ頭も無い。残すは、幹と、そこから地面に繋がる根だ。
「後一押しってとこだな!」
「それじゃあ、私に任せて」
 万歳丸の声に応えたのは、膝立ちになったステラだ。
 狙い定めた一撃は、数々の攻撃を受けて一番弱っていた場所を確実に穿つ! 穿たれた箇所から冷気が伝う。
 パキパキパキ……パキン……ッ!
 凍てついた植物は、脆い。
「羅亜亜亜亜亜亜亜ッ!」
 再び吠えた万歳丸の強烈な一撃! 傷つき脆くなった根は、地面から抉り取られるようにして全貌を露にすると、次の瞬間には跡形もなく消え去っていた。


「ふう、終わったみたいですね」
 額の汗を拭いつつ、ソナがおっとりと言う。
 皆、巨大かぼちゃの在った跡を呆然と眺めていたが、その声で我に帰る。緊張感から一転、何とも和やかな雰囲気になっていた。
「あんまり得意分野出せなくて難しい敵だったけど、倒せましたね」
 可愛らしいホアに、皆が同意とばかりに頷いてみせた。
 巨大かぼちゃの根があった辺りは、凄まじい攻撃の余波で無惨に土が掘り返されていた。巨大かぼちゃそのものは既に痕跡さえ残っていないが、千切られた庭の植物達が、その存在を紛れもない事実と語っている。
 一つ息を吐いて、ソナが微笑みかける。彼らハンターと巨大かぼちゃをやや遠巻きに見ていたパトリシアと、彼女の傍で固まっている様子の子供達に向かって。
「ディアナちゃん、一人でも知らせに来てくれて偉かったわ」
「あ、うん……凄く怖かったけど、皆無事で良かったです」
 ディアナは未だパトリシアの袖を掴んだままだったが、気丈に答えた。
「レオくんはみんなを守って勇敢だったわね。グーマーくんもレオくんの傍に居てくれてありがとう」
 ソナの柔らかい微笑みに、少年二人は得意顔だ。
「一段落ついたところで、庭を少し片付けたいのだが、どうだろうか? パトリシアさん」
 蔵人の言葉に、パトリシアが少し驚いた表情を見せた。……人を外見で判断してはいけない。
「そうさね、この辺りはひとまず更地にしようかね……残っている植物達は、自然のままにしておけば、いずれ元に戻るさ」
 驚いてはいたが、パトリシアは松葉杖を握り直してあっけらかんと答えた。あまり気にしなくても良いらしい。植物が生い茂るこの庭だが、元々あまり手入れはされていないのだ。自然のままに任せる。それが、この庭の主の方針だ。
「そうか……自然を尊重した良い庭だな」

 掘り返され緑を失った地面だけが、浮き出たようにぽっかりと茶色い空間を作っている。松葉杖を持った御老にはさせられないと、蔵人がその役割を買って出てくれたお陰で、そこだけ奇麗に整備された。
 パトリシアと三人の子供達、そしてハンター達は、そんな庭を探索していた。
 ホアが探していた彼女の故郷の植物は残念ながら見つからなかったが、代わりになりそうなハーブを見つけては収穫していく。このあと皆で食事でも、と提案したのはパトリシアだった。ホアは自分の故郷の料理を振る舞うつもりらしい。その提案には子供達をはじめ皆が大賛成だった。
 ソナは子供達のお使いを手伝っている。彼らが持っていたメモを見ながら、香りの良いハーブを収穫する。薬用植物の知識や毒草の見分け方を教わったり、植物についての話を聞き出したり……植物採集が趣味というソナは、パトリシアと気が合ったらしい。
 ステラは毒草に興味があるようで、ひたすらに美しい花を咲かせる猛毒の植物を探しまわっていた。美しく可憐な花を咲かせる植物ほど、強い毒を持っていることが多いのだが……案外多く咲いていたのは怖いことかも知れない。
「……庭園、ねえ」
 一人興味なさそうにしていた万歳丸だが、この後の食事会は大賛成だった。食事の後には、庭で採れたハーブを使ったお茶や、子供達からの評価が高いパトリシアのお菓子が振る舞われる予定だ。彼曰く、『雅はわからねエが、菓子は好きだぜ』とのこと。

 庭を探索する皆を楽しそうに眺めていたパトリシアが、ふと口を開いた。
「子供らに頼んでた薬草……ハーブを混ぜて、パイを焼こうと思ってたんだけどね……アンタら、あの戦闘の後でかぼちゃのパイ、食べたいかい?」
『……………………』
 ……パト婆の言葉に、何とも言えない微妙な沈黙が舞い降りた。

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MVP一覧

  • パティの相棒
    万歳丸ka5665
  • 鉄壁の守護神
    明王院 蔵人ka5737

重体一覧

参加者一覧

  • 遙けき蒼空に心乗せて
    ユキヤ・S・ディールス(ka0382
    人間(蒼)|16才|男性|聖導士
  • エルフ式療法士
    ソナ(ka1352
    エルフ|19才|女性|聖導士
  • 多彩な技師
    グエン・チ・ホア(ka5051
    人間(蒼)|21才|女性|疾影士
  • Rot Jaeger
    ステラ・レッドキャップ(ka5434
    人間(紅)|14才|男性|猟撃士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 鉄壁の守護神
    明王院 蔵人(ka5737
    人間(蒼)|35才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/10/15 07:32:18
アイコン カボチャおばけ
万歳丸(ka5665
鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2015/10/16 18:55:07