ゲスト
(ka0000)
【聖呪】筋肉くるくるぽっぽ
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/17 19:00
- 完成日
- 2015/10/23 17:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●緑の森と筋肉鳩
戦いは睨み合いの局面に移行した。
王国貴族達の軍は浅くない傷を負い、茨小鬼はハンターに押されながらも崩壊せず、今は双方距離をとって戦力をかき集めている所だ。
そんな状況下、主戦場予定地から数キロ離れた森で王国の偵察隊が混乱状態に陥っていた。
「敵襲です!」
「今度は何だ。馬か、鹿か」
彼等はあくまで念のため配置されていた部隊だ。
茨小鬼の痕跡を当てもなく探し万一見つかれば追跡して捕殺、という名目の実質休暇配置だった。つい数秒前までは。
「熊なら騎士かハンターの旦那に助けを求め……」
「鳩です!」
発見者の兵士が隊長の言葉を遮り叫ぶ。
「推定雑魔級の鳩が……伏せてください!」
総勢6名が同時に伏せる。
直後、轟音を伴う何かが彼等の背中を掠めて通過していった。
強固な幹に何かが埋まる音、枝が数本まとめて折れる音が連続する。
「なにあれ」
隊長が間抜けに大口を開けた。
緑の森で破壊の限りを尽くしているのは、薄灰色の、おそらく鳩だ。
体長は普通の鳩しかないのに厚みは数割増しだ。羽毛の上からでも分かるほど筋肉が分厚い。
「撃て」
休暇は終わった。隊長の冷たい命令は忠実に実行され、6張りのショートボウから6本の矢が放たれる。
狙いは正確、非歪虚飛行生物を撃ち殺すには十分な威力があり、訳の分からぬ騒動もこれで終わりになるはずだった。
鳩の胸肉が怒張する。
鏃の先端すらめり込まず、矢が自重に負けて下に落ちていく。
最も体格の良い鳩など当たる前に鋭い嘴で受け止め噛み砕く有様だ。
鳩の目が、王国兵達を冷たくを見据えた。
「退避ぃ!」
兵士達が小型の洞窟に飛び込む。
鳩の群れが兵士のいた場所をメートル単位で抉る。
兵士達が荷物を入り口に積み上げ封鎖する。
怒り狂った鳩が体当たりして荷物を揺らし、内側で押さえている兵士達がよろめき倒れかけた。
「トランシーバーは」
「無事です。応援要請を」
隊長は即座に首を横に振った。
近くには貴族の部隊しかいない。救援を願っても拒絶されるかもしれないし、こんな特殊な敵に対抗可能な人材がいるかどうかも分からない。
さらに、ここから鳩を追い散らしても別の隊や人里が襲われるかもしれないので要請する訳にはいかない。
「後方の隊を経由しハンターズソサエティに依頼を出せ」
「了解」
筋肉ハトが、くるくるぽっぽと叫んで騒ぐ。
封鎖はいつ突破されてもおかしくなかった。
●ハンターオフィス
転移装置を使って移動する際、リゼリオのオフィスを覗くのが数少ない息抜きだった。
「午後もパーティー……」
イコニア・カーナボン(kz0040)の目は死んでいた。
貴族と関わるのを嫌う平民出身司祭に代理を押しつけられたり、付き合いを面倒臭がった上司に代理を押しつけられたり、寄付と引き替えに出席せざるを得なくなったりで、ここのところ連日宴会に出席し続けていた。
正直全く楽しくない。
貴族かつ司祭として相応しく振る舞いながらゴマをすりすり情報提供しつつ寄付を願うなんて行動、1回するだけでも胃壁が薄くなる。高級料理だって毎食食べると苦行でしかない。
「お腹がぽっこりするの嫌なのに」
うふふと不気味に笑う司祭の周囲から人が離れていく。
オフィス職員が追い出そうかと考え出したとき、何故かファンシーな効果音と共に新たな3Dディスプレイが現れた。
「パルシア村郊外、特異な鳩、生命力過じょ、う?」
イコニアの瞳に正気が戻る。
もともと白い肌から血の気が引いて、冷たい汗が全身から流れ出す。
「これ、あの方のマテリ」
慌てて両手で自分の口を塞ぐ。
近くのハンターに聞かれた気はするが気にしてはいられない。
「すみません、この依頼うけます!」
窓口に走る。
この依頼だけは、他の何を後回しにしても解決する必要があった。
●只今防戦中
「また穴が開きましたよちくしょー!」
「ちょ、あの鳩伝書鳩ですよ隊長。足に茨小鬼の手紙っぽいのがうぉ危ねぇっ」
「暢気に喋るな土嚢積み上げて耐えるんだよこの野郎!」
防戦はまだ続いている。
「早く来てくれー!」
洞窟の外では大量の鳩が餌を求めて集まり、羽ばたきの音で悲鳴は全てかき消されていた。
戦いは睨み合いの局面に移行した。
王国貴族達の軍は浅くない傷を負い、茨小鬼はハンターに押されながらも崩壊せず、今は双方距離をとって戦力をかき集めている所だ。
そんな状況下、主戦場予定地から数キロ離れた森で王国の偵察隊が混乱状態に陥っていた。
「敵襲です!」
「今度は何だ。馬か、鹿か」
彼等はあくまで念のため配置されていた部隊だ。
茨小鬼の痕跡を当てもなく探し万一見つかれば追跡して捕殺、という名目の実質休暇配置だった。つい数秒前までは。
「熊なら騎士かハンターの旦那に助けを求め……」
「鳩です!」
発見者の兵士が隊長の言葉を遮り叫ぶ。
「推定雑魔級の鳩が……伏せてください!」
総勢6名が同時に伏せる。
直後、轟音を伴う何かが彼等の背中を掠めて通過していった。
強固な幹に何かが埋まる音、枝が数本まとめて折れる音が連続する。
「なにあれ」
隊長が間抜けに大口を開けた。
緑の森で破壊の限りを尽くしているのは、薄灰色の、おそらく鳩だ。
体長は普通の鳩しかないのに厚みは数割増しだ。羽毛の上からでも分かるほど筋肉が分厚い。
「撃て」
休暇は終わった。隊長の冷たい命令は忠実に実行され、6張りのショートボウから6本の矢が放たれる。
狙いは正確、非歪虚飛行生物を撃ち殺すには十分な威力があり、訳の分からぬ騒動もこれで終わりになるはずだった。
鳩の胸肉が怒張する。
鏃の先端すらめり込まず、矢が自重に負けて下に落ちていく。
最も体格の良い鳩など当たる前に鋭い嘴で受け止め噛み砕く有様だ。
鳩の目が、王国兵達を冷たくを見据えた。
「退避ぃ!」
兵士達が小型の洞窟に飛び込む。
鳩の群れが兵士のいた場所をメートル単位で抉る。
兵士達が荷物を入り口に積み上げ封鎖する。
怒り狂った鳩が体当たりして荷物を揺らし、内側で押さえている兵士達がよろめき倒れかけた。
「トランシーバーは」
「無事です。応援要請を」
隊長は即座に首を横に振った。
近くには貴族の部隊しかいない。救援を願っても拒絶されるかもしれないし、こんな特殊な敵に対抗可能な人材がいるかどうかも分からない。
さらに、ここから鳩を追い散らしても別の隊や人里が襲われるかもしれないので要請する訳にはいかない。
「後方の隊を経由しハンターズソサエティに依頼を出せ」
「了解」
筋肉ハトが、くるくるぽっぽと叫んで騒ぐ。
封鎖はいつ突破されてもおかしくなかった。
●ハンターオフィス
転移装置を使って移動する際、リゼリオのオフィスを覗くのが数少ない息抜きだった。
「午後もパーティー……」
イコニア・カーナボン(kz0040)の目は死んでいた。
貴族と関わるのを嫌う平民出身司祭に代理を押しつけられたり、付き合いを面倒臭がった上司に代理を押しつけられたり、寄付と引き替えに出席せざるを得なくなったりで、ここのところ連日宴会に出席し続けていた。
正直全く楽しくない。
貴族かつ司祭として相応しく振る舞いながらゴマをすりすり情報提供しつつ寄付を願うなんて行動、1回するだけでも胃壁が薄くなる。高級料理だって毎食食べると苦行でしかない。
「お腹がぽっこりするの嫌なのに」
うふふと不気味に笑う司祭の周囲から人が離れていく。
オフィス職員が追い出そうかと考え出したとき、何故かファンシーな効果音と共に新たな3Dディスプレイが現れた。
「パルシア村郊外、特異な鳩、生命力過じょ、う?」
イコニアの瞳に正気が戻る。
もともと白い肌から血の気が引いて、冷たい汗が全身から流れ出す。
「これ、あの方のマテリ」
慌てて両手で自分の口を塞ぐ。
近くのハンターに聞かれた気はするが気にしてはいられない。
「すみません、この依頼うけます!」
窓口に走る。
この依頼だけは、他の何を後回しにしても解決する必要があった。
●只今防戦中
「また穴が開きましたよちくしょー!」
「ちょ、あの鳩伝書鳩ですよ隊長。足に茨小鬼の手紙っぽいのがうぉ危ねぇっ」
「暢気に喋るな土嚢積み上げて耐えるんだよこの野郎!」
防戦はまだ続いている。
「早く来てくれー!」
洞窟の外では大量の鳩が餌を求めて集まり、羽ばたきの音で悲鳴は全てかき消されていた。
リプレイ本文
●
「このっ」
イコニア・カーナボン(kz0040)はメイス両手で構えてつきだした。
ぽっぽー、と妙に気が抜ける鳴き声をあげ、体格の良い鳩がメイスの先端に着地し毛繕いを始めた。
「ナイススイング?」
鳳凰院ひりょ(ka3744)が一声かけて森の奥へ向かう。
イコニアの白い肌が羞恥で真っ赤に染まる。湯気まで見える。
「気を抜くな」
柊 真司(ka0705)から光の線が延びる。
鳩の死角から急接近し、白い羽と太い肉を貫き内側から爆散させた。
「ふぁっ!?」
鳩の血にまみれて驚くイコニア。
それを捉え、死んだ鳩より一回り大きな鳩が4匹、イコニア目がけて急降下する。
「穢れた雑魔が、私の前で群れをなすだと?」
イコニアより大きな盾が割り込んだ。
大柄とは言えしょせんは鳩。勢いをつけても歴戦のクルセイダーの守りを撃ち抜くことはできず、盾にぶつかりはね飛ばされた。
「羽毛の1本まで浄化し尽くして……浄化?」
セリス・アルマーズ(ka1079)は盾を突きだしたまま青い瞳を瞬かせる。
歪虚ならあって当然の気配が無い。
正のマテリアルを持つ覚醒者と正反対の、負のマテリアルが全く感じられなかった。
「雑魔じゃないの?」
セリスの顔目がけて飛翔した鳩たちを軽々とかわす。
身体能力は雑魔に匹敵するけれど、命と自然を否定する感触が無い。
「いたっ」
イコニアが躱しそこねて悲鳴を上げてはいるが、歪虚に対するときのような情熱と殺意が無い。
「イコニア君、すこし大きくなった? 成長期っていいものねー」
横に大きくなったと言わない程度の情けはあった。
「セリス」
真司が走り出す。セリス達との距離は30メートル。並の相手ならデルタレイでも銃でも一撃で仕留めることができる距離だがこの鳩は特殊だ。
「分かってる」
セリスが目だけでうなずき強い光を放つ。
点の攻撃であるデルタレイやメイスでの攻撃とは異なり面の攻撃。
宙にいる鳩が呆気なく打ち落とされ地面に転がる。しかし全滅ではない。全力で飛んで効果範囲外に逃げた鳩が1羽、セリスからも真司からも離れる方向へ全力で飛んだ。
真司から炎の奔流が広がっていく。炎に見えるのは破壊のためのエネルギーだ。
「やはりそうなるか」
セイクリッドフラッシュ同様面での攻撃を、鳩は本能に従い急速旋回。奔流を髪の毛一本の距離で回避し、勝ち目の無い相手から一直線に逃げ出した。
このまま南に逃げて、北とは違う豊かな土地を食い荒らす。己の勝利を確信する鳩は、力はあっても知恵も知識も普通の鳩を超えることは出来なかった。
真司が魔導計算機にマテリアルを込める。光がうまれ線になって伸びる。
鳩は撤退に集中し過ぎて気づけない。
光の線が、鳩の無防備な背中を貫いた。
「急ぐぞ」
飛び散る鳩肉の音を聞きながら、真司達はイコニアを促し森の奥へ向かった。
●
「ちくしょー!」
大の大人の半泣き声が聞こえてくる。
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は助けに行くのを止めた。
予想よりずっと元気そうで、助けるよりも鳩状の敵の処理を優先すべきと判断したからだ。
鞘から剣を抜く。
柄に載っていた小さな葉が落ちて、美しくも冷たく光る刃が温い空気にさらされた。
「勝手が違いますね」
口に出すより早く動いていた。
攻めの構えの途中で加速、さらに深く踏み込んで剣を突き出す。馬は置いてきているのに騎乗時に匹敵する加速だ。
最も手前にいた鳩は、剣で両断される直前に辛うじて気づいて躱す。
しかしその2メートル北側の鳩もさらに1メートル北を飛行中の鳩も気づけない。
見事に手入れされた切っ先が羽毛とその下の肉にめり込む。回避でも防御でもなく移動に力を使っていた筋肉では防げず、切れすぎる包丁に触れたかのように上下に両断された。
ヴァルナの加速は止まらない。自らの死にも気づけず、血を流す時間も与えられない肉2つの間をすり抜ける。
3羽目に切っ先が触れる。鳩ではあり得ない厚さの胸肉に刃が触れて、止まらない。
イコニアなら3人がかりでようやく拮抗できる筋力で、生きた肉を刃で裂いて内臓を破壊した。
「まさか、ね」
ヴァルナが停止する。軽く剣を振って鳩の血を取り除く。
高速で置き去りにしていた燐光が追いつき、淡い光がヴァルナを美しく照らした。
ヴァルナの攻撃開始位置にボルディア・コンフラムス(ka0796)が到着する。
「本当に鳩だな」
板金鎧を着ているとは思えない身軽さで鳩に近づく。
荒っぽい気配とは逆に、目の奥には熟練戦士特有の冷たさがある。
一瞬視線を向けられたヴァルナが移動し鳩の北側の退路を塞ぐ。
生き残りの鳩5羽がボルディアを警戒して筋肉を膨れあがらせている。
数が多い。ボルディアを警戒して洞窟入り口の鳩も一部こちらに来ているのだ。
ボルディアの口角が上がる。
「来ないならこっちから行くぜ」
鍛え上げられたマテリアルが炎の形をとり、火柱となった後ボルディアに吸収された。
炎が消えたときには既にそこにはいない。
鳩の群れに飛び込んで、ハルバードを恐るべき精度で操り至近の鳩に振り下ろす。
小さな鳥が軽快な足取りで回避。
2羽ずつがハルバードの左右から、残る1羽が反撃のくちばしを正面から刺そうとする。
「たかが鳩にしちゃやるじゃねえか!」
左は躱せるし右はハルバードで防ぐことができる。
そう判断し事実そうだったのに、ヴァルナは大型武器を振り上げたまま動かなかった。
硬いくちばしが金属を打つ音が連続する。それ以外の音は1つも響かない。
大型猟犬に似たマテリアルの犬歯がぬらりと光る。
くちばしは板金鎧を貫けなかった。鳩達は怯えて震えている。
「よっしゃ、力比べといこうぜえぇ!?」
速度と力は本気で、動きだけは鳩にも追える程度に甘く振り下ろす。
筋肉に力が入る。刃と硬い羽毛が接触する。
わざと刃筋を立てていないので拮抗するがそれは一瞬のこと。
鳩が全身の筋肉で支えても支えきれず、小さな足が地面に埋まってしまう。
「結構強かったぜ」
刃が地面に触れて、破裂した鳩が地面に散らばった。
●
洞窟の洞窟の入り口から1羽離れ2羽がついて行き、とうとう1羽だけが残る。
彼を阻むのは積み上げられた土嚢で、後何カ所が穴を開ければ連鎖的に崩壊して中の肉食べ放題になるはずだった。
「兵士の皆さん、助けに来ました」
鳳凰院が声をかける。
洞窟の中から兵士の歓声が聞こえるが鳩の動きに変化はない。
鳳凰院を警戒し、派手に戦うボルディア達も警戒し、鳩はいつでも逃げられる体勢で土嚢を壊す。
「すまねぇ、包帯持ってないか。こいつの血が止まらねぇんだ」
どうやら時間はないらしい。
鳳凰院はポケットから干し肉を取り出し、目立つように振って見せた。
一瞬だけ、鳩の眼が干し肉に向いた。
「欲しければ獲りに来い」
命令するのに慣れた声で挑発する。
くるぁ、と鳩とは思えない獰猛な鳴き声を出し、鳩が鳳凰院に向かって飛んだ。
干し肉を手間に放って武器を構え、間髪入れずに左手のチャクラムを投げた。
風に乗って鳩の首に向かう。投擲は完璧に近く、地球でなら世界クラスの記録も狙えたかも知れない。
「予想以上だな」
だが鳩の動きが速すぎる。
軽量の体を覚醒者に匹敵する筋力で動かして、チャクラムを躱して地面の肉を狙った。
刺突剣で、肉に食いつく直前の鳩を狙う。
食事と回避は同時にはできず、回避し損ねた鳩の胸から血がこぼれた。
「この程度か!」
大きな声で鳩の意識を引きつけると同時に合図を送る。
洞窟の入り口の上から夜桜 奏音(ka5754)が飛び降りた。
危なげ無く着地し周辺を確認する。最も近い鳩は鳳凰院が相手をしている。救出するならいまのうちだ。
「兵士の皆さん無事ですか。敵は近くにいません。脱出してください」
中から押されて土嚢が崩れた。
奏音が清潔なハンカチを渡し、兵士の1人が同僚の傷口に巻いて応急手当てを終える。
「筋肉が異常に発達して、空高く飛べない鳩とは……」
歩く速度を調節しながら呪符を1枚手に取る。
「歪虚で無ければマテリアルの異常ね」
エルフである奏音にとって当たり前の推測だった。
言い終えると同事に呪符への精霊力付与を完了。臨界に達した力が炎に変わって鳩を目指す。
「依頼票の難易度がいい加減ですね」
鳳凰院は苦戦していた。
こちらは擦り傷3つで鳩は胸に穴が開いている。このまま戦えば軽傷未満で確実に勝てるが、勝つまでに時間がかかりすぎる。
そんな状況を、奏音が放った炎が変えた。
炎が羽毛を覆い、燃え移ってより大きな炎に変わる。
肉の焦げる香りと羽毛が燃える臭いが混じって異臭として完成。
鳳凰院はエストックの長さを活かして炎の中へ一刺しして、死に損ないの鳩を余計な苦しみから解放してやった。
「退路はこちらです」
少年の言葉に従い兵士が逃げる。
奏音は、兵士達の背中を守る位置へと移動した。
「こちらに突っ込んで来ないでください」
遠くから別の鳩が飛来する。
咄嗟にナイフを構えて受け流しを試みるが、クラスも装備も白兵戦に向いている訳ではないので軌道を僅かにずらすのが精一杯だ。
鳩が姿勢を崩し、最後尾の兵士の踵をかすめて地面にめり込んだ。
鳳凰院が刺して止めを刺す。
奏音は、さらなる新手に対し手当たり次第に炎を撃ちだしている。
「数が多い」
ヴァル達相手に勝てないとようやく悟った鳩が数羽、弱った兵士を狙い飛行を始めていた。
●
風が吹く。
柔らかそうなパンの切れ端が舞待って、焼きたての香りがハンター達の鼻をくすぐった。
ハンターの反応はその程度だが鳩の反応は激しい。
直前の行動を忘れて切れ端に向かい、同属を筋肉で押しのけ押しのけられながら激しく取り合う。
一際体格の良い鳩が、自慢げに最後のパンを食い尽くした。
「うっわ鳩っつーかもうクリーチャーじゃん?」
嘲弄の声が戦場に響く。
フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)は目元に手を当て、腹を抱えて聞く者の精神を逆なでする音で笑う。
「とはいえ鳩は鳩」
体を起こして前髪を押さえる。
「筋肉ばっか発達してもちっちゃい脳みなのはかわりねーだろ。脳みそまで筋肉だったりして~」
掌から覗く赤い瞳が、鳩の頭でも分かるほどに悪意を湛えていた。
「そおらみんなで仲良く食べにこい~♪」
干し肉を残してフェイルが後ろに飛ぶ。半秒遅れで怒り狂った鳩が殺到し、肉に気をとられて回避に失敗し、鳩の塊が出来あがる。
そこへ炎が命中し、見事な時間差攻撃で刃が突き込まれ、回避力だけなら歪虚並の鳩が一気に数を減らした。
「で、そのままさようなら~」
フェイルの口調は相変わらずだが目はすっかり冷めている。
これまでのはただの演技だ。
冷たいほど冷静な目で鳩の様子を観察し、鳩塊に紛れている大柄な2羽に気づく。
対大型歪虚用の立体攻撃ではなく瞬脚を起動。
増大した移動力を活かし大型鳩の真後ろまで回り込み、鳩首を狙って刀をそっと伸ばした。
羽と羽の間から鳥肌に触れる。刃にうっすらと紫電が奔る。
肉を裂く感触も骨を断つ感触もほとんどなく、あっさりと鳩首の1つが宙に舞った。どれだけ回避が上手でも死角から一撃すればこんなものだ。
フェイルはもう1羽も仕留めようとして、しかし野生の本能は紙一重でフェイルの刃を上回る。
「そっちに行ったぞ!」
狙いを変えて通常サイズの鳩首を飛ばしつつ、フェイルは森の奥へ声をかけた。
ひひんと、逞しいのに何故か疲れて聞こえる嘶きが聞こえた。
筋肉鳩の進路上に、木々の間から頭を出し馬が現れる。
「もう一息」
並木 怜(ka3388)が首筋を撫でる。馬の瞳に力が戻り、邪魔な枝や草を粉砕して開けた場所に躍り出た。
「ありがとう」
後は主人の仕事だ。
怜は両手で剣を構え、真正面から筋肉鳩を迎え撃つ。
鳩の胸から羽の部分が膨れあがる。
形が崩れすぎて醜悪にすら感じられる。歪虚でもここまで酷いのは滅多にない。
冷静さを保ち、基本に忠実に、それ故に失敗し辛い動作で振り下ろす。
ユナイテッド・ドライブ・ソードの先端が鳩の頭部に触れかけ、しかし相変わらずの素早さで異形の筋肉が切っ先を飛び越える。
回避の動きが攻撃に繋がっている。攻撃直後の怜の喉元を狙い、速度を落とさずくちばしを先頭に突っ込んだ。
くちばしの先端が砕け散る。
怜の機導術により浮かんだ盾が、獣の知恵と抵抗を完璧に防いで砕いたのだ。
馬がこの戦場で初めて本領を発揮する。
開けた空間を飛ぶように駆け、衝突で速度を落としつつも逃走を再開した鳩の後ろについて、相対速度を0にする。
「これは……なに?」
剣を振り下ろすわずかな時間、怜は違和感に襲われていた。
目の前の鳩は凶暴であり人里まで接近すれば家畜や子供に被害が出る。
なのに、仇敵である歪虚に対する憎悪が胸の中から吹き上がって来ない。
小さな頭蓋を中ごと砕いて仕留めても、戦闘で少し乱れた服装を直しても、奇妙な感覚は消えてくれなかった。
「確認させてくれ」
フェイルが怜の隣を通り過ぎ、しゃがみこんで鳩の死体を確認する。
そして、鳩の足に巻かれていた小さな紙を見つけて広げた。
「茨の」
ヴァルナが中身を見て驚いたように瞬く。
内容は茨小鬼の槍隊指揮官への命令書だ。彼女の記憶が正しいなら、既に文字通り全滅した部隊のはずだ。
「皆さんご無事ですか!」
とうに鳩が殲滅された場所を、イコニアが警戒しながら走り抜けようとして途中でばてる。
「何か前に会ったときより肉付きが良くなったというか丸くなったというか……もしかして太ったか?」
銃器と鎧で身を固めた真司が、息も乱さずイコニアを護衛する位置で並走していた。
「な、何のことでしょう?」
涙目に見えるのは気のせいではないだろう。
真司は特に気にもせず、兵士の無事と鳩の全滅を視認してから改めてイコニアに目を向ける。
「そういや慌てて依頼を受けてたけど何か事情知ってるのか?」
「イコニア君。この鳩の有様に、なにか心当たりとか、ある?」
守秘義務があるなら聞かないけど困り事があるなら全力で力になるよ、という気持ちでもちもちほっぺをつつく。小さな肩が落ち諦めたように話し出す。
「推測ですが、聖女様の正のマテリアルを経口摂取して」
兵士達が自分の両耳を押さえ全力で聞いていないアピールをしている。
「無かったことにしたがる勢力がありそうですね」
鳳凰院がつぶやき、イコニアが引きつった表情で1度だけうなずいた。
フェイルは大きく息を吐き、少しだけ残っていたパンをイコニアの口に詰め込み発言を止めさせた。
「体を動かせば気も晴れるだろ。走って帰るぞ」
ボルディアに背中を叩かれ、パンを飲み込んでしまい目を白黒させるイコニアであった。
「このっ」
イコニア・カーナボン(kz0040)はメイス両手で構えてつきだした。
ぽっぽー、と妙に気が抜ける鳴き声をあげ、体格の良い鳩がメイスの先端に着地し毛繕いを始めた。
「ナイススイング?」
鳳凰院ひりょ(ka3744)が一声かけて森の奥へ向かう。
イコニアの白い肌が羞恥で真っ赤に染まる。湯気まで見える。
「気を抜くな」
柊 真司(ka0705)から光の線が延びる。
鳩の死角から急接近し、白い羽と太い肉を貫き内側から爆散させた。
「ふぁっ!?」
鳩の血にまみれて驚くイコニア。
それを捉え、死んだ鳩より一回り大きな鳩が4匹、イコニア目がけて急降下する。
「穢れた雑魔が、私の前で群れをなすだと?」
イコニアより大きな盾が割り込んだ。
大柄とは言えしょせんは鳩。勢いをつけても歴戦のクルセイダーの守りを撃ち抜くことはできず、盾にぶつかりはね飛ばされた。
「羽毛の1本まで浄化し尽くして……浄化?」
セリス・アルマーズ(ka1079)は盾を突きだしたまま青い瞳を瞬かせる。
歪虚ならあって当然の気配が無い。
正のマテリアルを持つ覚醒者と正反対の、負のマテリアルが全く感じられなかった。
「雑魔じゃないの?」
セリスの顔目がけて飛翔した鳩たちを軽々とかわす。
身体能力は雑魔に匹敵するけれど、命と自然を否定する感触が無い。
「いたっ」
イコニアが躱しそこねて悲鳴を上げてはいるが、歪虚に対するときのような情熱と殺意が無い。
「イコニア君、すこし大きくなった? 成長期っていいものねー」
横に大きくなったと言わない程度の情けはあった。
「セリス」
真司が走り出す。セリス達との距離は30メートル。並の相手ならデルタレイでも銃でも一撃で仕留めることができる距離だがこの鳩は特殊だ。
「分かってる」
セリスが目だけでうなずき強い光を放つ。
点の攻撃であるデルタレイやメイスでの攻撃とは異なり面の攻撃。
宙にいる鳩が呆気なく打ち落とされ地面に転がる。しかし全滅ではない。全力で飛んで効果範囲外に逃げた鳩が1羽、セリスからも真司からも離れる方向へ全力で飛んだ。
真司から炎の奔流が広がっていく。炎に見えるのは破壊のためのエネルギーだ。
「やはりそうなるか」
セイクリッドフラッシュ同様面での攻撃を、鳩は本能に従い急速旋回。奔流を髪の毛一本の距離で回避し、勝ち目の無い相手から一直線に逃げ出した。
このまま南に逃げて、北とは違う豊かな土地を食い荒らす。己の勝利を確信する鳩は、力はあっても知恵も知識も普通の鳩を超えることは出来なかった。
真司が魔導計算機にマテリアルを込める。光がうまれ線になって伸びる。
鳩は撤退に集中し過ぎて気づけない。
光の線が、鳩の無防備な背中を貫いた。
「急ぐぞ」
飛び散る鳩肉の音を聞きながら、真司達はイコニアを促し森の奥へ向かった。
●
「ちくしょー!」
大の大人の半泣き声が聞こえてくる。
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は助けに行くのを止めた。
予想よりずっと元気そうで、助けるよりも鳩状の敵の処理を優先すべきと判断したからだ。
鞘から剣を抜く。
柄に載っていた小さな葉が落ちて、美しくも冷たく光る刃が温い空気にさらされた。
「勝手が違いますね」
口に出すより早く動いていた。
攻めの構えの途中で加速、さらに深く踏み込んで剣を突き出す。馬は置いてきているのに騎乗時に匹敵する加速だ。
最も手前にいた鳩は、剣で両断される直前に辛うじて気づいて躱す。
しかしその2メートル北側の鳩もさらに1メートル北を飛行中の鳩も気づけない。
見事に手入れされた切っ先が羽毛とその下の肉にめり込む。回避でも防御でもなく移動に力を使っていた筋肉では防げず、切れすぎる包丁に触れたかのように上下に両断された。
ヴァルナの加速は止まらない。自らの死にも気づけず、血を流す時間も与えられない肉2つの間をすり抜ける。
3羽目に切っ先が触れる。鳩ではあり得ない厚さの胸肉に刃が触れて、止まらない。
イコニアなら3人がかりでようやく拮抗できる筋力で、生きた肉を刃で裂いて内臓を破壊した。
「まさか、ね」
ヴァルナが停止する。軽く剣を振って鳩の血を取り除く。
高速で置き去りにしていた燐光が追いつき、淡い光がヴァルナを美しく照らした。
ヴァルナの攻撃開始位置にボルディア・コンフラムス(ka0796)が到着する。
「本当に鳩だな」
板金鎧を着ているとは思えない身軽さで鳩に近づく。
荒っぽい気配とは逆に、目の奥には熟練戦士特有の冷たさがある。
一瞬視線を向けられたヴァルナが移動し鳩の北側の退路を塞ぐ。
生き残りの鳩5羽がボルディアを警戒して筋肉を膨れあがらせている。
数が多い。ボルディアを警戒して洞窟入り口の鳩も一部こちらに来ているのだ。
ボルディアの口角が上がる。
「来ないならこっちから行くぜ」
鍛え上げられたマテリアルが炎の形をとり、火柱となった後ボルディアに吸収された。
炎が消えたときには既にそこにはいない。
鳩の群れに飛び込んで、ハルバードを恐るべき精度で操り至近の鳩に振り下ろす。
小さな鳥が軽快な足取りで回避。
2羽ずつがハルバードの左右から、残る1羽が反撃のくちばしを正面から刺そうとする。
「たかが鳩にしちゃやるじゃねえか!」
左は躱せるし右はハルバードで防ぐことができる。
そう判断し事実そうだったのに、ヴァルナは大型武器を振り上げたまま動かなかった。
硬いくちばしが金属を打つ音が連続する。それ以外の音は1つも響かない。
大型猟犬に似たマテリアルの犬歯がぬらりと光る。
くちばしは板金鎧を貫けなかった。鳩達は怯えて震えている。
「よっしゃ、力比べといこうぜえぇ!?」
速度と力は本気で、動きだけは鳩にも追える程度に甘く振り下ろす。
筋肉に力が入る。刃と硬い羽毛が接触する。
わざと刃筋を立てていないので拮抗するがそれは一瞬のこと。
鳩が全身の筋肉で支えても支えきれず、小さな足が地面に埋まってしまう。
「結構強かったぜ」
刃が地面に触れて、破裂した鳩が地面に散らばった。
●
洞窟の洞窟の入り口から1羽離れ2羽がついて行き、とうとう1羽だけが残る。
彼を阻むのは積み上げられた土嚢で、後何カ所が穴を開ければ連鎖的に崩壊して中の肉食べ放題になるはずだった。
「兵士の皆さん、助けに来ました」
鳳凰院が声をかける。
洞窟の中から兵士の歓声が聞こえるが鳩の動きに変化はない。
鳳凰院を警戒し、派手に戦うボルディア達も警戒し、鳩はいつでも逃げられる体勢で土嚢を壊す。
「すまねぇ、包帯持ってないか。こいつの血が止まらねぇんだ」
どうやら時間はないらしい。
鳳凰院はポケットから干し肉を取り出し、目立つように振って見せた。
一瞬だけ、鳩の眼が干し肉に向いた。
「欲しければ獲りに来い」
命令するのに慣れた声で挑発する。
くるぁ、と鳩とは思えない獰猛な鳴き声を出し、鳩が鳳凰院に向かって飛んだ。
干し肉を手間に放って武器を構え、間髪入れずに左手のチャクラムを投げた。
風に乗って鳩の首に向かう。投擲は完璧に近く、地球でなら世界クラスの記録も狙えたかも知れない。
「予想以上だな」
だが鳩の動きが速すぎる。
軽量の体を覚醒者に匹敵する筋力で動かして、チャクラムを躱して地面の肉を狙った。
刺突剣で、肉に食いつく直前の鳩を狙う。
食事と回避は同時にはできず、回避し損ねた鳩の胸から血がこぼれた。
「この程度か!」
大きな声で鳩の意識を引きつけると同時に合図を送る。
洞窟の入り口の上から夜桜 奏音(ka5754)が飛び降りた。
危なげ無く着地し周辺を確認する。最も近い鳩は鳳凰院が相手をしている。救出するならいまのうちだ。
「兵士の皆さん無事ですか。敵は近くにいません。脱出してください」
中から押されて土嚢が崩れた。
奏音が清潔なハンカチを渡し、兵士の1人が同僚の傷口に巻いて応急手当てを終える。
「筋肉が異常に発達して、空高く飛べない鳩とは……」
歩く速度を調節しながら呪符を1枚手に取る。
「歪虚で無ければマテリアルの異常ね」
エルフである奏音にとって当たり前の推測だった。
言い終えると同事に呪符への精霊力付与を完了。臨界に達した力が炎に変わって鳩を目指す。
「依頼票の難易度がいい加減ですね」
鳳凰院は苦戦していた。
こちらは擦り傷3つで鳩は胸に穴が開いている。このまま戦えば軽傷未満で確実に勝てるが、勝つまでに時間がかかりすぎる。
そんな状況を、奏音が放った炎が変えた。
炎が羽毛を覆い、燃え移ってより大きな炎に変わる。
肉の焦げる香りと羽毛が燃える臭いが混じって異臭として完成。
鳳凰院はエストックの長さを活かして炎の中へ一刺しして、死に損ないの鳩を余計な苦しみから解放してやった。
「退路はこちらです」
少年の言葉に従い兵士が逃げる。
奏音は、兵士達の背中を守る位置へと移動した。
「こちらに突っ込んで来ないでください」
遠くから別の鳩が飛来する。
咄嗟にナイフを構えて受け流しを試みるが、クラスも装備も白兵戦に向いている訳ではないので軌道を僅かにずらすのが精一杯だ。
鳩が姿勢を崩し、最後尾の兵士の踵をかすめて地面にめり込んだ。
鳳凰院が刺して止めを刺す。
奏音は、さらなる新手に対し手当たり次第に炎を撃ちだしている。
「数が多い」
ヴァル達相手に勝てないとようやく悟った鳩が数羽、弱った兵士を狙い飛行を始めていた。
●
風が吹く。
柔らかそうなパンの切れ端が舞待って、焼きたての香りがハンター達の鼻をくすぐった。
ハンターの反応はその程度だが鳩の反応は激しい。
直前の行動を忘れて切れ端に向かい、同属を筋肉で押しのけ押しのけられながら激しく取り合う。
一際体格の良い鳩が、自慢げに最後のパンを食い尽くした。
「うっわ鳩っつーかもうクリーチャーじゃん?」
嘲弄の声が戦場に響く。
フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)は目元に手を当て、腹を抱えて聞く者の精神を逆なでする音で笑う。
「とはいえ鳩は鳩」
体を起こして前髪を押さえる。
「筋肉ばっか発達してもちっちゃい脳みなのはかわりねーだろ。脳みそまで筋肉だったりして~」
掌から覗く赤い瞳が、鳩の頭でも分かるほどに悪意を湛えていた。
「そおらみんなで仲良く食べにこい~♪」
干し肉を残してフェイルが後ろに飛ぶ。半秒遅れで怒り狂った鳩が殺到し、肉に気をとられて回避に失敗し、鳩の塊が出来あがる。
そこへ炎が命中し、見事な時間差攻撃で刃が突き込まれ、回避力だけなら歪虚並の鳩が一気に数を減らした。
「で、そのままさようなら~」
フェイルの口調は相変わらずだが目はすっかり冷めている。
これまでのはただの演技だ。
冷たいほど冷静な目で鳩の様子を観察し、鳩塊に紛れている大柄な2羽に気づく。
対大型歪虚用の立体攻撃ではなく瞬脚を起動。
増大した移動力を活かし大型鳩の真後ろまで回り込み、鳩首を狙って刀をそっと伸ばした。
羽と羽の間から鳥肌に触れる。刃にうっすらと紫電が奔る。
肉を裂く感触も骨を断つ感触もほとんどなく、あっさりと鳩首の1つが宙に舞った。どれだけ回避が上手でも死角から一撃すればこんなものだ。
フェイルはもう1羽も仕留めようとして、しかし野生の本能は紙一重でフェイルの刃を上回る。
「そっちに行ったぞ!」
狙いを変えて通常サイズの鳩首を飛ばしつつ、フェイルは森の奥へ声をかけた。
ひひんと、逞しいのに何故か疲れて聞こえる嘶きが聞こえた。
筋肉鳩の進路上に、木々の間から頭を出し馬が現れる。
「もう一息」
並木 怜(ka3388)が首筋を撫でる。馬の瞳に力が戻り、邪魔な枝や草を粉砕して開けた場所に躍り出た。
「ありがとう」
後は主人の仕事だ。
怜は両手で剣を構え、真正面から筋肉鳩を迎え撃つ。
鳩の胸から羽の部分が膨れあがる。
形が崩れすぎて醜悪にすら感じられる。歪虚でもここまで酷いのは滅多にない。
冷静さを保ち、基本に忠実に、それ故に失敗し辛い動作で振り下ろす。
ユナイテッド・ドライブ・ソードの先端が鳩の頭部に触れかけ、しかし相変わらずの素早さで異形の筋肉が切っ先を飛び越える。
回避の動きが攻撃に繋がっている。攻撃直後の怜の喉元を狙い、速度を落とさずくちばしを先頭に突っ込んだ。
くちばしの先端が砕け散る。
怜の機導術により浮かんだ盾が、獣の知恵と抵抗を完璧に防いで砕いたのだ。
馬がこの戦場で初めて本領を発揮する。
開けた空間を飛ぶように駆け、衝突で速度を落としつつも逃走を再開した鳩の後ろについて、相対速度を0にする。
「これは……なに?」
剣を振り下ろすわずかな時間、怜は違和感に襲われていた。
目の前の鳩は凶暴であり人里まで接近すれば家畜や子供に被害が出る。
なのに、仇敵である歪虚に対する憎悪が胸の中から吹き上がって来ない。
小さな頭蓋を中ごと砕いて仕留めても、戦闘で少し乱れた服装を直しても、奇妙な感覚は消えてくれなかった。
「確認させてくれ」
フェイルが怜の隣を通り過ぎ、しゃがみこんで鳩の死体を確認する。
そして、鳩の足に巻かれていた小さな紙を見つけて広げた。
「茨の」
ヴァルナが中身を見て驚いたように瞬く。
内容は茨小鬼の槍隊指揮官への命令書だ。彼女の記憶が正しいなら、既に文字通り全滅した部隊のはずだ。
「皆さんご無事ですか!」
とうに鳩が殲滅された場所を、イコニアが警戒しながら走り抜けようとして途中でばてる。
「何か前に会ったときより肉付きが良くなったというか丸くなったというか……もしかして太ったか?」
銃器と鎧で身を固めた真司が、息も乱さずイコニアを護衛する位置で並走していた。
「な、何のことでしょう?」
涙目に見えるのは気のせいではないだろう。
真司は特に気にもせず、兵士の無事と鳩の全滅を視認してから改めてイコニアに目を向ける。
「そういや慌てて依頼を受けてたけど何か事情知ってるのか?」
「イコニア君。この鳩の有様に、なにか心当たりとか、ある?」
守秘義務があるなら聞かないけど困り事があるなら全力で力になるよ、という気持ちでもちもちほっぺをつつく。小さな肩が落ち諦めたように話し出す。
「推測ですが、聖女様の正のマテリアルを経口摂取して」
兵士達が自分の両耳を押さえ全力で聞いていないアピールをしている。
「無かったことにしたがる勢力がありそうですね」
鳳凰院がつぶやき、イコニアが引きつった表情で1度だけうなずいた。
フェイルは大きく息を吐き、少しだけ残っていたパンをイコニアの口に詰め込み発言を止めさせた。
「体を動かせば気も晴れるだろ。走って帰るぞ」
ボルディアに背中を叩かれ、パンを飲み込んでしまい目を白黒させるイコニアであった。
依頼結果
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フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/16 19:11:36 |
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筋肉鳩駆除作戦 フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808) 人間(クリムゾンウェスト)|35才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/10/17 02:56:15 |