ゲスト
(ka0000)
【紅空】TestFlight
マスター:蒼かなた

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/17 07:30
- 完成日
- 2015/10/23 22:40
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ホープの格納庫にて
復興が進むホープにて、1つの格納庫の修復が完了した。
とは言ってもそこに格納されていたCAMはまだ修理中で、今も1台も戻ってくる予定はない。
それなのに何故この格納庫を直したかと言えば、勿論使用するからだ。
「オーケー、そのまま上げろー」
格納庫内でメガホンを片手によれよれの白衣を着たトーマスが指示を飛ばす。
トーマスの視線の先では魔導トラックで運ばれてきた積荷がウィンチを使って釣り上げられていく。
球体状のフォルムをしたそれは、魔導型CAMでも使用されていた魔導エンジンだ。
「やっとエンジンが届いたなー。いやぁ、長かった」
トーマスはしみじみといった様子で呟きながら格納庫内を見渡す。
格納庫内では他の作業員達も忙しそうに働いており、ここ数ヶ月碌な仕事のなかった技術者達は目を輝かせながら届いたパーツを手で触れて確かめたり仕様書に目を通したりしている。
これぞ本来あるべき空気だとトーマスも満足げに頷きながら倉庫の奥へと向かう。
「あっ、リーダー。やっときたわね。はい、これにサインして」
「おお、助手2号。そんなことより進捗はどうだ?」
きっちりと綺麗な白衣をきた女性がトーマスに書類を渡すが、トーマスはそれを受け取るや否や傍の机に放り投げた。
女性からは睨まれるも、トーマスは肩をすくめて質問の催促とばかりに手で格納庫の奥を示す。
「はあ……まあ、順調よ。というか皆よっぽど暇してたのね。休憩もせず張り切っちゃってるわ」
女性も後ろに振り返り、見上げるようにしてそこで組み立てられている物へ視線を向ける。
どこか丸みを帯びた流線型のフォルムに、ところどころに見える無骨なデザイン。ちぐはぐに見えるがそれも組み立て途中だからであって、完成すればきっと気にもならなくなることだろう。
大きな翼を持ったそれは、遥か遠くのリアルブルーの世界でとある時代の空を支配した人造の翼――飛行機だ。
「いやぁ、しかしまさか木製布張りになるとは思わなかったね」
そう、今作成されている飛行機は木を使って作られていた。そしてその翼を覆っているのは厚手の布である。
「それは仕方がないわよ。地球連合の資材の大半はCAMの修理に使われてるしね」
物資不足は深刻だ。このホープの復興も勿論だが、特にCAMとその装備一式には大量の物資と資金が必要になる。
まだ試作段階である『飛行機』という開発計画に費やされる物資や資金はホンの雀の涙程度なのだ。進められているだけで御の字なのである。
「まあ、今更言ってもしょうがないか。それにしても……この調子なら今夜中にでも完成しそうだ」
「そんなまさか……と言いたいところだけど、この人達ならやりかねないわ」
女性のほうは何でそこまでと不思議そうにしているが、浪漫を追い求める男であるトーマスは彼らの気持ちが分かるのか楽しそうに笑っている。
「おーい、リーダー!」
と、そこでトーマスを呼ぶ声が格納庫内で響く。
「助手1号か。どうした!」
「頼まれてたものが出来たんで報告っす。もう準備を始めてもいいんっすかね!」
「おお、そうか。なら進めてしまっていいぞ。どうやらこっちも予定より早く完成しそうだからな!」
メガホンを使った大声で会話が行われ、最後にサムズアップを上げた白衣の男は近くの魔導トラックに乗り込んで走り去る。
「さて、それじゃあ俺はちょっと出かけてくるから後は頼んだぞ」
「出かけるって、どこに?」
渡されたメガホンを受け取りながら女性が首を傾げる。トーマスはそんな彼女に背を向けながら軽く手を振って格納庫の入り口へと向かう。
「勿論、ハンターオフィスだよ」
そう一言残して。
●ハンターオフィス
「はい、そういう訳で諸君には空を飛んで貰う」
ホープにあるハンターオフィスの一室で、トーマスは集められたハンター達に開口一番にそう告げた。
依頼の内容は予め伝えて集まって貰っているのだから意味は通じているだろうが、あまりに突飛な発言にハンター達の頭に僅かな不安が過ぎった。
そんなハンター達の様子を気にすることなく、トーマスは手元のコンソールを弄ってハンター達の目の前に資料を表示させる。
「今回君達に協力して欲しいのは試作機のテスト飛行だ」
映し出されたのはリアルブルーの世界で言うところの飛行機だった。
ただそれはリアルブルー出身の者、または詳しく知る者が見れば随分と古臭いアンティークの品のように映っただろう。
その飛行機は二対四翼のプロペラ機、俗に複葉機と呼ばれる飛行機の歴史としては初期の頃に発明されたものだからだ。
「えー、ご存知の通りこの世界には化石燃料がないから普通のエンジンは使えない。その代替品として作られたのが魔導エンジンだが、こっちは如何せん出力が足りない」
トーマスが簡単なグラフやデータ表を使って通常エンジン、マテリアルエンジン、魔導エンジンそれぞれの見解と問題点をあげていく。
更に少し前に行ったエンジンテストの結果を踏まえた継続飛行時間の問題や、そもそもの資材不足など足りないものを上げれば切りがないと一度説明を切る。
「そしてそんな紆余曲折の果てに辿り着いたのが、この複葉機という飛行機なわけだよ」
この複葉機は何と言っても軽い。基幹部分以外の部品は木材や布で出来ており、金属を使ったものの半分以下の重さになる。
そして何より作成費が安くて済む。限られた物資と資金で今後量産を目指すとしたら、大量確保できる資源はやはり木材と布なのだ。
さらに技術面でも利点があり、複葉機ならエンジンが低出力でも飛行することが可能で、魔導エンジン単独の出力でもそれをまかなうことが出来るのだ。
勿論デメリットがないわけではない。装甲や耐久性の脆さや、加速力や最高速度の低さなど問題は色々とある。
「それでも、こいつなら空を飛ぶことが出来る」
そう、重要なのはそこなのだ。今現在の限りある資源と技術でどこまで空に挑戦できるのか。それを試す為にここにハンター達が集められたのだ。
「さて、試作機の講釈はこの辺にして。改めて君達にやって貰いたいことを説明しよう」
そう言って次にトーマスがハンター達に見せたのは簡単な地図だった。どうやら辺境の地図らしく、ホープの位置も印してある。
そしてそのホープの東側にいくつかのポイントが印されていて、それぞれに『対空攻撃』『対地攻撃』『低空飛行』『最大出力』などの書き込みがされている。
「なぁに、難しいことじゃないさ。ちょっとしたアトラクションだと思えばいい」
それぞれのポイントで標的の的への攻撃や、飛行性能の確認を行ってもらう。ただそれだけ。
「使える機体は2機あるから、競争してもいいかもね。ああ、それと……」
トーマスは笑みを浮べながら最後にと付け加えてこう言った。
「パラシュートは忘れずに」
復興が進むホープにて、1つの格納庫の修復が完了した。
とは言ってもそこに格納されていたCAMはまだ修理中で、今も1台も戻ってくる予定はない。
それなのに何故この格納庫を直したかと言えば、勿論使用するからだ。
「オーケー、そのまま上げろー」
格納庫内でメガホンを片手によれよれの白衣を着たトーマスが指示を飛ばす。
トーマスの視線の先では魔導トラックで運ばれてきた積荷がウィンチを使って釣り上げられていく。
球体状のフォルムをしたそれは、魔導型CAMでも使用されていた魔導エンジンだ。
「やっとエンジンが届いたなー。いやぁ、長かった」
トーマスはしみじみといった様子で呟きながら格納庫内を見渡す。
格納庫内では他の作業員達も忙しそうに働いており、ここ数ヶ月碌な仕事のなかった技術者達は目を輝かせながら届いたパーツを手で触れて確かめたり仕様書に目を通したりしている。
これぞ本来あるべき空気だとトーマスも満足げに頷きながら倉庫の奥へと向かう。
「あっ、リーダー。やっときたわね。はい、これにサインして」
「おお、助手2号。そんなことより進捗はどうだ?」
きっちりと綺麗な白衣をきた女性がトーマスに書類を渡すが、トーマスはそれを受け取るや否や傍の机に放り投げた。
女性からは睨まれるも、トーマスは肩をすくめて質問の催促とばかりに手で格納庫の奥を示す。
「はあ……まあ、順調よ。というか皆よっぽど暇してたのね。休憩もせず張り切っちゃってるわ」
女性も後ろに振り返り、見上げるようにしてそこで組み立てられている物へ視線を向ける。
どこか丸みを帯びた流線型のフォルムに、ところどころに見える無骨なデザイン。ちぐはぐに見えるがそれも組み立て途中だからであって、完成すればきっと気にもならなくなることだろう。
大きな翼を持ったそれは、遥か遠くのリアルブルーの世界でとある時代の空を支配した人造の翼――飛行機だ。
「いやぁ、しかしまさか木製布張りになるとは思わなかったね」
そう、今作成されている飛行機は木を使って作られていた。そしてその翼を覆っているのは厚手の布である。
「それは仕方がないわよ。地球連合の資材の大半はCAMの修理に使われてるしね」
物資不足は深刻だ。このホープの復興も勿論だが、特にCAMとその装備一式には大量の物資と資金が必要になる。
まだ試作段階である『飛行機』という開発計画に費やされる物資や資金はホンの雀の涙程度なのだ。進められているだけで御の字なのである。
「まあ、今更言ってもしょうがないか。それにしても……この調子なら今夜中にでも完成しそうだ」
「そんなまさか……と言いたいところだけど、この人達ならやりかねないわ」
女性のほうは何でそこまでと不思議そうにしているが、浪漫を追い求める男であるトーマスは彼らの気持ちが分かるのか楽しそうに笑っている。
「おーい、リーダー!」
と、そこでトーマスを呼ぶ声が格納庫内で響く。
「助手1号か。どうした!」
「頼まれてたものが出来たんで報告っす。もう準備を始めてもいいんっすかね!」
「おお、そうか。なら進めてしまっていいぞ。どうやらこっちも予定より早く完成しそうだからな!」
メガホンを使った大声で会話が行われ、最後にサムズアップを上げた白衣の男は近くの魔導トラックに乗り込んで走り去る。
「さて、それじゃあ俺はちょっと出かけてくるから後は頼んだぞ」
「出かけるって、どこに?」
渡されたメガホンを受け取りながら女性が首を傾げる。トーマスはそんな彼女に背を向けながら軽く手を振って格納庫の入り口へと向かう。
「勿論、ハンターオフィスだよ」
そう一言残して。
●ハンターオフィス
「はい、そういう訳で諸君には空を飛んで貰う」
ホープにあるハンターオフィスの一室で、トーマスは集められたハンター達に開口一番にそう告げた。
依頼の内容は予め伝えて集まって貰っているのだから意味は通じているだろうが、あまりに突飛な発言にハンター達の頭に僅かな不安が過ぎった。
そんなハンター達の様子を気にすることなく、トーマスは手元のコンソールを弄ってハンター達の目の前に資料を表示させる。
「今回君達に協力して欲しいのは試作機のテスト飛行だ」
映し出されたのはリアルブルーの世界で言うところの飛行機だった。
ただそれはリアルブルー出身の者、または詳しく知る者が見れば随分と古臭いアンティークの品のように映っただろう。
その飛行機は二対四翼のプロペラ機、俗に複葉機と呼ばれる飛行機の歴史としては初期の頃に発明されたものだからだ。
「えー、ご存知の通りこの世界には化石燃料がないから普通のエンジンは使えない。その代替品として作られたのが魔導エンジンだが、こっちは如何せん出力が足りない」
トーマスが簡単なグラフやデータ表を使って通常エンジン、マテリアルエンジン、魔導エンジンそれぞれの見解と問題点をあげていく。
更に少し前に行ったエンジンテストの結果を踏まえた継続飛行時間の問題や、そもそもの資材不足など足りないものを上げれば切りがないと一度説明を切る。
「そしてそんな紆余曲折の果てに辿り着いたのが、この複葉機という飛行機なわけだよ」
この複葉機は何と言っても軽い。基幹部分以外の部品は木材や布で出来ており、金属を使ったものの半分以下の重さになる。
そして何より作成費が安くて済む。限られた物資と資金で今後量産を目指すとしたら、大量確保できる資源はやはり木材と布なのだ。
さらに技術面でも利点があり、複葉機ならエンジンが低出力でも飛行することが可能で、魔導エンジン単独の出力でもそれをまかなうことが出来るのだ。
勿論デメリットがないわけではない。装甲や耐久性の脆さや、加速力や最高速度の低さなど問題は色々とある。
「それでも、こいつなら空を飛ぶことが出来る」
そう、重要なのはそこなのだ。今現在の限りある資源と技術でどこまで空に挑戦できるのか。それを試す為にここにハンター達が集められたのだ。
「さて、試作機の講釈はこの辺にして。改めて君達にやって貰いたいことを説明しよう」
そう言って次にトーマスがハンター達に見せたのは簡単な地図だった。どうやら辺境の地図らしく、ホープの位置も印してある。
そしてそのホープの東側にいくつかのポイントが印されていて、それぞれに『対空攻撃』『対地攻撃』『低空飛行』『最大出力』などの書き込みがされている。
「なぁに、難しいことじゃないさ。ちょっとしたアトラクションだと思えばいい」
それぞれのポイントで標的の的への攻撃や、飛行性能の確認を行ってもらう。ただそれだけ。
「使える機体は2機あるから、競争してもいいかもね。ああ、それと……」
トーマスは笑みを浮べながら最後にと付け加えてこう言った。
「パラシュートは忘れずに」
リプレイ本文
●紅の空を飛ぶ翼
栄えある試験の第一号はサーシャ・V・クリューコファ(ka0723)とGacrux(ka2726)のペアだ。
Gacruxのほうは飛行機に乗るのも初めてということもあり、トーマスにシートベルトを締めてもらったりとあれこれ手伝って貰いながら準備を進める。
『Gacrux、聞こえる?』
その時、Gacruxの持つ通信機からサーシャの声が聞こえてきた。
「ああ、聞こえています。すみません、待たせてしまって」
『気にしなくていい。誰にだって初めてはあるんだし。今日は私がサポートするから安心していいよ』
それは初心者のGacruxを落ち着かせる為の励ましか、サーシャは気負いさせない程度に軽い声を掛ける。
「さて、準備完了だ。そろそろ覚悟も完了したかい?」
「ああ……もう大丈夫です」
いよいよ試作機が飛び立つ時が来た。Gacruxとサーシャは無線機から聞こえる指示に従い、エンジンを始動させる。
スイッチを捻れば魔導エンジンが動き出し、僅かずつではあるが2人からマテリアルを吸い上げていく。最初は軽かったエンジン音も段々と大きくなり、そして安定すると少し甲高いシャープな音へと変わっていく。
そこまで来たところで次の合図が来た。予め言われていたスイッチをオンにすると、飛行機先端にあるプロペラが回り始めた。そして少しずつスロットルレバーを押しこんで行くと、その回転が段々と速くなって行く。
『さあ、いってらっしゃい、快適な空の旅を楽しんで』
トーマスのその言葉を受けると共に、2機の車輪が地面を離れ機体はふわりと浮き上がった。
「本当に、飛んでる……」
まだ半信半疑だったのか。初めて飛んでその実感が湧いたのかGacruxはそんな言葉がつい口から漏れた。
ガラスから外を見ればそこには辺境の大地が広がっている。今まで見たこともないような、高い位置から見るその景色はこれまで見慣れていたはずのこの地が全くの別世界になってしまったかのような錯覚を受けた。
『窓の外の景色も大事だけど、計器とか機体も気にしてやれよ。へそを曲げると怖いぞ~』
と、そんな言葉が無線機から聞こえてくる。Gacruxは慌てて計器へと目を向けるが今はただゆっくりと上昇を続けているだけで特に問題はなさそうだった。
『はは、冗談だよ。さあ、もっと空を楽しもう』
サーシャの声は明らかに上機嫌で、いつの間にかGacruxの機体の左手に来ていた彼女のほうを見ればガラス越しにサムズアップしている姿が見えた。
Gacruxは僅かに引きつった顔をしながらも、同じようにサムズアップを返してまた前を向き直る。すると正面に何か赤いものが浮いていることに気付いた。
「あれが対空試験用の的ですか……思ったより、小さい」
距離があるからもあるが、豆粒のように小さいそれを視認するのも一苦労だ。
『それじゃあ私が先にお手本見せる。ちゃんと見ているように』
そう言ってサーシャ機が前に出た。高度をやや上げて、標的の高さとあわせてまっすぐに進んでいく。そして、ぶつかってしまうのではないかと言う距離まで近づいたところで火薬が炸裂する音が響いた。
「お見事です」
バルーンにぶら下げられた的に赤いペンキが付着している。真ん中からは僅かにずれているが、一発で当てたのは流石と言うべきだろう。
『さあ、次はそちらの番だ。今度は私が見せて貰うよ』
「……分かりました。行きます」
操縦桿を強く握り直したGacruxは、標的を見据えながらトリガーを押すタイミングを計り、そして引き金を引いた。
「ロベリアさん、ロベリアさん」
「おや、どうしたんだい?」
第2陣として飛行場から飛び立った葛音 水月(ka1895)とロベリア・李(ka4206)は難なく離陸を終え、第一テストの対空攻撃のポイントへと向かっていた。
「折角ですし、何かをかけて勝負しませんかー?」
「ふふっ、仕方がないね。あんまり高いものはなしだよ?」
「流石、話が分かる♪ それじゃあ先制点はもらいますね」
勝負はもう始まっている、と水月は機首を上げてバルーンへと照準を定める。
「まず1つ! ……て、あれ?」
水月は確かに的を照準の真ん中に入れてトリガーを引いたが、弾は的の下の部分を掠めて外れてしまった。
「空戦じゃただ真っ直ぐに狙っても駄目だよ。距離がある分重力での落下、風の影響、何より機体の揺れまで計算に入れないとね」
そう言ってロベリアもトリガーを引く。標的のやや上を狙ったペイント弾は僅かに弧を描く軌道を取り標的へと命中した。
「むむっ、なるほど。意外と難しいです」
「そのうち慣れるさ。ただまあ、今回の勝負は私が貰うけどね」
ロベリアはくすりと通信機に向かって笑いかけ、一番上空にある的にもペイント弾を命中させた。
「むむっ、まだですよ。まだ対地攻撃ポイントが残っています」
水月機は次のポイントへ向けて高度を下げながら飛ぶ。ロベリア機もその後を追うようにして同じ高度を取る。
「さて、見えてきたね。さあ、お手並み拝見」
「見ててくださいよー」
標的に向けて一直線、ではなくそのやや上へと機首を向けて水月機が地面へと迫る。そしてその距離が100mを切ろうとしたところでトリガー。機関銃からペイント弾がばら撒かれ、地面に一直線の赤い跡を残す。
「当たりましたかー?」
標的を通り過ぎてしまった為に後ろを確認できない水月が無線機の先にいるロベリアに質問する。
「ああ、的は見事に真っ赤だよ。ただちょっとばら撒きすぎかな?」
「ふふーん、それも計算の内です。さあ、次です次!」
次の5つの目標は水月が2つ、ロベリアが3つ当てて対地攻撃ではこれで半分ずつとなった。
そしてこのテストの最後、起伏のある岩場の目標への攻撃に入る。
「うわ、これはいやらしい位置にあるね」
ロベリアもついそんな言葉を漏らしてしまうくらい、小賢しいと言える位置に的は設置されていた。
「こっちは左から回りこめば……って、行き過ぎました!」
「あぁ、こりゃ機銃じゃ厳しいね」
そんな悪戦苦闘を繰り返し互いに1つずつ的に当て最後の1つ。互いに正面から向かい合う形で、真ん中にある1つの的を狙う。
2人の機体は急降下からの射撃、そして互いの機体の腹を見せ合うようにして交差して離脱していく。
「当たりましたか?」
水月が旋回して的を見れば、見事表裏両面に赤いペンキが付着していた。
「これは、引き分けかな?」
「むむ、そうですね。それじゃあ……」
水月が何か言おうとしたところで、ロベリア機は速度を上げて水月機を引き離す。
「先にホープへ戻ったほうの勝ちだね」
「あっ、ずるいです!」
水月も追いつくために速度を上げ、ロベリア機を追いかけた。
「ああ……やっぱり空はいいでありますね」
念願の飛行機に乗れて感無量なのか、クラヴィ・グレイディ(ka4687)は込み上げてくる感動を噛み締めながらただ青い空を見上げていた。
「おい、勝負をするんじゃなかったのか?」
「はっ! そうでありました」
無線機からグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)の声が聞こえ、我に返ったクラヴィは操縦桿を握り直す。
そこから対空、対地ポイントをこなしたところで結果はクラヴィのほうに軍配が上がった。
「ちっ、やっぱり勘が鈍ってるみたいだな」
「ふふー、勝利であります。いやぁ、しかしスキルが使えるかの確認はしたかったのでありますが」
CAMでもスキルが使えたのだからもしかして、と思っていたのだがその点に関してはトーマスから事前に止められてしまっていた。
今回はテスト飛行なので純粋に試作機の性能のみで飛んで欲しかったのもあるが、それが魔導エンジンなどにどのように影響するかも分からないので危険ということもあってのことらしい。
それに、さらにもう1つ問題もある。スキルを使うイコール覚醒をしないといけないのだ。そうすれば勿論マテリアルの消費は急増する。
「マラソンしながら筋トレもするなんて、器用と言うかただの馬鹿にしか見えないな」
トーマスがそんな表現をしていたのを思い出しグリムバルドは小さく笑った。
「飛びながら息切れするのは勘弁であります!」
「まあ、今回は最後に全力で飛ぶ試験も控えている。それまでに息切れして途中で墜落は俺も御免だ」
2人共まだマテリアルに余裕はあるが、まだ予定している飛行距離の半分も飛んでいない。本番はまだまだこれからである。
そうこうしているうちに、2人は低空飛行のポイントへと入った。
「とりあえず、運動性能はいいみたいだな。やっぱボディが軽い分小回りは利く」
右へ左へと機体を傾けながらグリムバルドは蛇行飛行を繰り返す。時折木組みの部分から軋む音が聞こえるが、柔軟性のいい素材を使っているのか折れたり罅が入るような音は聞こえてこない。
「それにしてもグリムバルド殿は操縦が上手でありますね」
「そうか? まあ、リアルブルーにいた頃に経験があるからな」
会話をしながらも下に流れる川のコースを意識して操縦桿を左右に動かし、グリムバルド機は鮮やかに曲線を描きながら空を飛び続ける。
「自分はちょっと目が回りそうであります!」
「落ちるなよ? パラシュートはちゃんと持ってきてるか?」
「それは勿論であります。そうでありますね……もしもの時はパラシュート殿に助けて貰うであります。こう、ふわふわと」
本気なのか冗談なのか、そんな会話をしながら2人は川に沿って飛行を続けた。
そして折り返し地点にて、互いに並んで飛んだところで互いに通信を入れる。
「レディー……」
「ゴーであります!」
合図と同時に2機の試作機は風を切りながらホープへと向かって最後の競争を始めたのだった。
4組目のシャーリーン・クリオール(ka0184)とウーナ(ka1439)は簡易点検を終えた試験機に乗り込むと、すぐに空へと舞い上がった。
2人の飛行は経験者ということもあってか安定しており、対地対空の試験は問題なくクリアした。
成績としてはウーナのほうが若干多く的に当てていたといったところだろうか。
「やっぱり対地攻撃が難しいな。障害物がある場所は機動云々より位置取りが大事なようだ」
「うんうん。垂直に急降下するわけにはいかないしね。やっぱり投下型爆弾搭載して急降下爆撃とかするのが一番じゃないかな」
やはり他の試験者達と同様に対地攻撃では思った以上に苦戦したようだ。
機銃も元々は対空戦を意識したものであって命中率が悪かったというのもあるが、そもそも停止している陸上の的への攻撃は地上降下のタイミングで一度しか行えずそれを外すと大きく旋回して戻らないといけないのがネックであった。
と、そんな話をしている間に2人は低空飛行試験のポイントへと辿り着いた。眼下に緩やかなカーブを描き流れている川が見える。
「低空飛行か。とりあえず高度は100m、それでいて時速100kmを目指す」
「100mって高いように思えて、飛行機で飛ぶと殆ど地面スレスレの気分なんだから不思議だよね」
高度100mがどのくらいかと言えば、リアルブルーで言うならば超高層ビルと言われる建物の高さと同程度だ。階数で言えば30階前後になるだろう。
「うわ、慣れてきたところで本番が来た!」
そして2人はその低空飛行の終盤に入る。下を流れる川は無駄に大きく曲がりくねり、それについていくには機体をほぼ真横にして機首を上げるしかない。そして曲がったと思ったらまた今度は逆方向へのカーブが待っている。
曲芸のような急カーブゾーンを2人は時に川の上から逸れてしまいならがも、必死で縋りついた。
「終わったか……いや、これでやっと折り返しだったな」
シャーリーンはシェイクされた頭を軽く振って調子を取り戻す。
「そうだねー。と言っても私は急加速はパス! 逆に失速速度を調べるテストしたいんだ」
「むっ、そうか。実は私も機体の強度を確かめるつもりでいたし、丁度いいな」
2人はそう言うと、互いのテストをしながら帰路の道を飛ぶことにしたのだった。
●格納庫
「なあ、トーマス。もう一度飛んできてもいいか?」
「あらま。そんなに気に入ったの? んー、まあいいよ。日が沈む前に帰ってきてね」
サーシャはそれに笑みを返して頷くと、まだ格納庫に仕舞われていない試作機のほうへと向かった。
彼女が最後に「壊すつもりで飛んでくる」と言っていたような気がするが、気のせいだろうとトーマスは差し入れられたシフォンケーキを頬張る。
「それでさ。予備燃料は積めないの?」
「あっ、それなら複座にするのもいいと思うんだ。やっぱり操縦しながら話してると大変だし」
「なるほどなぁ。けど重量の問題もあるし、燃料でも2人体制でもそれが魔導エンジンにどう影響するかを調べないといけないな」
そして格納庫の一角ではハンターとトーマス達がテスト飛行の感想も踏まえた意見交換を行っていた。
やはり考えることは沢山あるようで、しかし全てを実現するにはやはり色々と足りない。
「皆さん、本当に元気ですね」
その様子をGacruxは水の入ったペットボトル片手にベンチで座り込みながら眺めていた。
「そりゃあ、慣れてますから。それより君もどうぞ」
シャーリーンはそう言ってシフォンケーキをGacruxへと手渡す。
「ところで、この飛行機に名前はないのでありますか?」
「テスト用の試作機だしないんじゃないか? 型名くらいならあるかもしれないが」
クラヴィは残った1機の試作機を眺めながらそう口にした。グリムバルドも詳しいことは分からないが、そう言うものだと返事を返す。
「でも確かに名前がないのは勿体無いですね」
そこにひょこと水月が顔をだした。
「折角だし、私達で名づけます?」
「いいのか、それ?」
「いいんですよー。ほら、リアルブルーでも現地の人達で好きに呼んだりすることもあったらしいですし」
それで納得していいのか。グリムバルドはやや引っかかるものを覚えつつも、強く反対する必要もないかと任せることにした。
そしてあれこれと意見が出る中で、イギリス流の訓練機への命名規則の話をクラヴィが口にした。曰く、関連した大学や開発場所の名前が使われるということだ。
「そうなるとこの場合は……地球連合のホープ産だから。アース・ホープですかね?」
「また大げさな名前だな」
2人がそういう中でクラヴィは名づけられた試作機のボディを一撫でする。
「アース・ホープでありますか」
いつかこれに乗り、希望となる日がくるかもしれない。
「おい! さっき試作機に乗ってったねーちゃん、片翼ぶっ壊して戻ってきたぞ!」
「なにー!? 早速壊しやがったのか!」
俄かに騒がしくなってきた格納庫。これからも空を飛ぶ夢を追い求め、その喧騒は止むことはないだろう。
栄えある試験の第一号はサーシャ・V・クリューコファ(ka0723)とGacrux(ka2726)のペアだ。
Gacruxのほうは飛行機に乗るのも初めてということもあり、トーマスにシートベルトを締めてもらったりとあれこれ手伝って貰いながら準備を進める。
『Gacrux、聞こえる?』
その時、Gacruxの持つ通信機からサーシャの声が聞こえてきた。
「ああ、聞こえています。すみません、待たせてしまって」
『気にしなくていい。誰にだって初めてはあるんだし。今日は私がサポートするから安心していいよ』
それは初心者のGacruxを落ち着かせる為の励ましか、サーシャは気負いさせない程度に軽い声を掛ける。
「さて、準備完了だ。そろそろ覚悟も完了したかい?」
「ああ……もう大丈夫です」
いよいよ試作機が飛び立つ時が来た。Gacruxとサーシャは無線機から聞こえる指示に従い、エンジンを始動させる。
スイッチを捻れば魔導エンジンが動き出し、僅かずつではあるが2人からマテリアルを吸い上げていく。最初は軽かったエンジン音も段々と大きくなり、そして安定すると少し甲高いシャープな音へと変わっていく。
そこまで来たところで次の合図が来た。予め言われていたスイッチをオンにすると、飛行機先端にあるプロペラが回り始めた。そして少しずつスロットルレバーを押しこんで行くと、その回転が段々と速くなって行く。
『さあ、いってらっしゃい、快適な空の旅を楽しんで』
トーマスのその言葉を受けると共に、2機の車輪が地面を離れ機体はふわりと浮き上がった。
「本当に、飛んでる……」
まだ半信半疑だったのか。初めて飛んでその実感が湧いたのかGacruxはそんな言葉がつい口から漏れた。
ガラスから外を見ればそこには辺境の大地が広がっている。今まで見たこともないような、高い位置から見るその景色はこれまで見慣れていたはずのこの地が全くの別世界になってしまったかのような錯覚を受けた。
『窓の外の景色も大事だけど、計器とか機体も気にしてやれよ。へそを曲げると怖いぞ~』
と、そんな言葉が無線機から聞こえてくる。Gacruxは慌てて計器へと目を向けるが今はただゆっくりと上昇を続けているだけで特に問題はなさそうだった。
『はは、冗談だよ。さあ、もっと空を楽しもう』
サーシャの声は明らかに上機嫌で、いつの間にかGacruxの機体の左手に来ていた彼女のほうを見ればガラス越しにサムズアップしている姿が見えた。
Gacruxは僅かに引きつった顔をしながらも、同じようにサムズアップを返してまた前を向き直る。すると正面に何か赤いものが浮いていることに気付いた。
「あれが対空試験用の的ですか……思ったより、小さい」
距離があるからもあるが、豆粒のように小さいそれを視認するのも一苦労だ。
『それじゃあ私が先にお手本見せる。ちゃんと見ているように』
そう言ってサーシャ機が前に出た。高度をやや上げて、標的の高さとあわせてまっすぐに進んでいく。そして、ぶつかってしまうのではないかと言う距離まで近づいたところで火薬が炸裂する音が響いた。
「お見事です」
バルーンにぶら下げられた的に赤いペンキが付着している。真ん中からは僅かにずれているが、一発で当てたのは流石と言うべきだろう。
『さあ、次はそちらの番だ。今度は私が見せて貰うよ』
「……分かりました。行きます」
操縦桿を強く握り直したGacruxは、標的を見据えながらトリガーを押すタイミングを計り、そして引き金を引いた。
「ロベリアさん、ロベリアさん」
「おや、どうしたんだい?」
第2陣として飛行場から飛び立った葛音 水月(ka1895)とロベリア・李(ka4206)は難なく離陸を終え、第一テストの対空攻撃のポイントへと向かっていた。
「折角ですし、何かをかけて勝負しませんかー?」
「ふふっ、仕方がないね。あんまり高いものはなしだよ?」
「流石、話が分かる♪ それじゃあ先制点はもらいますね」
勝負はもう始まっている、と水月は機首を上げてバルーンへと照準を定める。
「まず1つ! ……て、あれ?」
水月は確かに的を照準の真ん中に入れてトリガーを引いたが、弾は的の下の部分を掠めて外れてしまった。
「空戦じゃただ真っ直ぐに狙っても駄目だよ。距離がある分重力での落下、風の影響、何より機体の揺れまで計算に入れないとね」
そう言ってロベリアもトリガーを引く。標的のやや上を狙ったペイント弾は僅かに弧を描く軌道を取り標的へと命中した。
「むむっ、なるほど。意外と難しいです」
「そのうち慣れるさ。ただまあ、今回の勝負は私が貰うけどね」
ロベリアはくすりと通信機に向かって笑いかけ、一番上空にある的にもペイント弾を命中させた。
「むむっ、まだですよ。まだ対地攻撃ポイントが残っています」
水月機は次のポイントへ向けて高度を下げながら飛ぶ。ロベリア機もその後を追うようにして同じ高度を取る。
「さて、見えてきたね。さあ、お手並み拝見」
「見ててくださいよー」
標的に向けて一直線、ではなくそのやや上へと機首を向けて水月機が地面へと迫る。そしてその距離が100mを切ろうとしたところでトリガー。機関銃からペイント弾がばら撒かれ、地面に一直線の赤い跡を残す。
「当たりましたかー?」
標的を通り過ぎてしまった為に後ろを確認できない水月が無線機の先にいるロベリアに質問する。
「ああ、的は見事に真っ赤だよ。ただちょっとばら撒きすぎかな?」
「ふふーん、それも計算の内です。さあ、次です次!」
次の5つの目標は水月が2つ、ロベリアが3つ当てて対地攻撃ではこれで半分ずつとなった。
そしてこのテストの最後、起伏のある岩場の目標への攻撃に入る。
「うわ、これはいやらしい位置にあるね」
ロベリアもついそんな言葉を漏らしてしまうくらい、小賢しいと言える位置に的は設置されていた。
「こっちは左から回りこめば……って、行き過ぎました!」
「あぁ、こりゃ機銃じゃ厳しいね」
そんな悪戦苦闘を繰り返し互いに1つずつ的に当て最後の1つ。互いに正面から向かい合う形で、真ん中にある1つの的を狙う。
2人の機体は急降下からの射撃、そして互いの機体の腹を見せ合うようにして交差して離脱していく。
「当たりましたか?」
水月が旋回して的を見れば、見事表裏両面に赤いペンキが付着していた。
「これは、引き分けかな?」
「むむ、そうですね。それじゃあ……」
水月が何か言おうとしたところで、ロベリア機は速度を上げて水月機を引き離す。
「先にホープへ戻ったほうの勝ちだね」
「あっ、ずるいです!」
水月も追いつくために速度を上げ、ロベリア機を追いかけた。
「ああ……やっぱり空はいいでありますね」
念願の飛行機に乗れて感無量なのか、クラヴィ・グレイディ(ka4687)は込み上げてくる感動を噛み締めながらただ青い空を見上げていた。
「おい、勝負をするんじゃなかったのか?」
「はっ! そうでありました」
無線機からグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)の声が聞こえ、我に返ったクラヴィは操縦桿を握り直す。
そこから対空、対地ポイントをこなしたところで結果はクラヴィのほうに軍配が上がった。
「ちっ、やっぱり勘が鈍ってるみたいだな」
「ふふー、勝利であります。いやぁ、しかしスキルが使えるかの確認はしたかったのでありますが」
CAMでもスキルが使えたのだからもしかして、と思っていたのだがその点に関してはトーマスから事前に止められてしまっていた。
今回はテスト飛行なので純粋に試作機の性能のみで飛んで欲しかったのもあるが、それが魔導エンジンなどにどのように影響するかも分からないので危険ということもあってのことらしい。
それに、さらにもう1つ問題もある。スキルを使うイコール覚醒をしないといけないのだ。そうすれば勿論マテリアルの消費は急増する。
「マラソンしながら筋トレもするなんて、器用と言うかただの馬鹿にしか見えないな」
トーマスがそんな表現をしていたのを思い出しグリムバルドは小さく笑った。
「飛びながら息切れするのは勘弁であります!」
「まあ、今回は最後に全力で飛ぶ試験も控えている。それまでに息切れして途中で墜落は俺も御免だ」
2人共まだマテリアルに余裕はあるが、まだ予定している飛行距離の半分も飛んでいない。本番はまだまだこれからである。
そうこうしているうちに、2人は低空飛行のポイントへと入った。
「とりあえず、運動性能はいいみたいだな。やっぱボディが軽い分小回りは利く」
右へ左へと機体を傾けながらグリムバルドは蛇行飛行を繰り返す。時折木組みの部分から軋む音が聞こえるが、柔軟性のいい素材を使っているのか折れたり罅が入るような音は聞こえてこない。
「それにしてもグリムバルド殿は操縦が上手でありますね」
「そうか? まあ、リアルブルーにいた頃に経験があるからな」
会話をしながらも下に流れる川のコースを意識して操縦桿を左右に動かし、グリムバルド機は鮮やかに曲線を描きながら空を飛び続ける。
「自分はちょっと目が回りそうであります!」
「落ちるなよ? パラシュートはちゃんと持ってきてるか?」
「それは勿論であります。そうでありますね……もしもの時はパラシュート殿に助けて貰うであります。こう、ふわふわと」
本気なのか冗談なのか、そんな会話をしながら2人は川に沿って飛行を続けた。
そして折り返し地点にて、互いに並んで飛んだところで互いに通信を入れる。
「レディー……」
「ゴーであります!」
合図と同時に2機の試作機は風を切りながらホープへと向かって最後の競争を始めたのだった。
4組目のシャーリーン・クリオール(ka0184)とウーナ(ka1439)は簡易点検を終えた試験機に乗り込むと、すぐに空へと舞い上がった。
2人の飛行は経験者ということもあってか安定しており、対地対空の試験は問題なくクリアした。
成績としてはウーナのほうが若干多く的に当てていたといったところだろうか。
「やっぱり対地攻撃が難しいな。障害物がある場所は機動云々より位置取りが大事なようだ」
「うんうん。垂直に急降下するわけにはいかないしね。やっぱり投下型爆弾搭載して急降下爆撃とかするのが一番じゃないかな」
やはり他の試験者達と同様に対地攻撃では思った以上に苦戦したようだ。
機銃も元々は対空戦を意識したものであって命中率が悪かったというのもあるが、そもそも停止している陸上の的への攻撃は地上降下のタイミングで一度しか行えずそれを外すと大きく旋回して戻らないといけないのがネックであった。
と、そんな話をしている間に2人は低空飛行試験のポイントへと辿り着いた。眼下に緩やかなカーブを描き流れている川が見える。
「低空飛行か。とりあえず高度は100m、それでいて時速100kmを目指す」
「100mって高いように思えて、飛行機で飛ぶと殆ど地面スレスレの気分なんだから不思議だよね」
高度100mがどのくらいかと言えば、リアルブルーで言うならば超高層ビルと言われる建物の高さと同程度だ。階数で言えば30階前後になるだろう。
「うわ、慣れてきたところで本番が来た!」
そして2人はその低空飛行の終盤に入る。下を流れる川は無駄に大きく曲がりくねり、それについていくには機体をほぼ真横にして機首を上げるしかない。そして曲がったと思ったらまた今度は逆方向へのカーブが待っている。
曲芸のような急カーブゾーンを2人は時に川の上から逸れてしまいならがも、必死で縋りついた。
「終わったか……いや、これでやっと折り返しだったな」
シャーリーンはシェイクされた頭を軽く振って調子を取り戻す。
「そうだねー。と言っても私は急加速はパス! 逆に失速速度を調べるテストしたいんだ」
「むっ、そうか。実は私も機体の強度を確かめるつもりでいたし、丁度いいな」
2人はそう言うと、互いのテストをしながら帰路の道を飛ぶことにしたのだった。
●格納庫
「なあ、トーマス。もう一度飛んできてもいいか?」
「あらま。そんなに気に入ったの? んー、まあいいよ。日が沈む前に帰ってきてね」
サーシャはそれに笑みを返して頷くと、まだ格納庫に仕舞われていない試作機のほうへと向かった。
彼女が最後に「壊すつもりで飛んでくる」と言っていたような気がするが、気のせいだろうとトーマスは差し入れられたシフォンケーキを頬張る。
「それでさ。予備燃料は積めないの?」
「あっ、それなら複座にするのもいいと思うんだ。やっぱり操縦しながら話してると大変だし」
「なるほどなぁ。けど重量の問題もあるし、燃料でも2人体制でもそれが魔導エンジンにどう影響するかを調べないといけないな」
そして格納庫の一角ではハンターとトーマス達がテスト飛行の感想も踏まえた意見交換を行っていた。
やはり考えることは沢山あるようで、しかし全てを実現するにはやはり色々と足りない。
「皆さん、本当に元気ですね」
その様子をGacruxは水の入ったペットボトル片手にベンチで座り込みながら眺めていた。
「そりゃあ、慣れてますから。それより君もどうぞ」
シャーリーンはそう言ってシフォンケーキをGacruxへと手渡す。
「ところで、この飛行機に名前はないのでありますか?」
「テスト用の試作機だしないんじゃないか? 型名くらいならあるかもしれないが」
クラヴィは残った1機の試作機を眺めながらそう口にした。グリムバルドも詳しいことは分からないが、そう言うものだと返事を返す。
「でも確かに名前がないのは勿体無いですね」
そこにひょこと水月が顔をだした。
「折角だし、私達で名づけます?」
「いいのか、それ?」
「いいんですよー。ほら、リアルブルーでも現地の人達で好きに呼んだりすることもあったらしいですし」
それで納得していいのか。グリムバルドはやや引っかかるものを覚えつつも、強く反対する必要もないかと任せることにした。
そしてあれこれと意見が出る中で、イギリス流の訓練機への命名規則の話をクラヴィが口にした。曰く、関連した大学や開発場所の名前が使われるということだ。
「そうなるとこの場合は……地球連合のホープ産だから。アース・ホープですかね?」
「また大げさな名前だな」
2人がそういう中でクラヴィは名づけられた試作機のボディを一撫でする。
「アース・ホープでありますか」
いつかこれに乗り、希望となる日がくるかもしれない。
「おい! さっき試作機に乗ってったねーちゃん、片翼ぶっ壊して戻ってきたぞ!」
「なにー!? 早速壊しやがったのか!」
俄かに騒がしくなってきた格納庫。これからも空を飛ぶ夢を追い求め、その喧騒は止むことはないだろう。
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相談卓 サーシャ・V・クリューコファ(ka0723) 人間(リアルブルー)|15才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/10/17 01:30:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/14 20:51:58 |