ゲスト
(ka0000)
【聖呪】茨風景の恐怖
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/17 19:00
- 完成日
- 2015/10/23 17:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●前線ラスリド伯爵部隊
膠着状態に陥った戦線の中、前線部隊の一部を預かるラスリド領の領主ゲオルグ・ミスカ・ラスリド伯爵は真っ直ぐに前を見据えていた。
「ゴブリンどもに動きはないか?」
尋ねられた副官は、即座に「ありません」と返答した。
「フン。我等に恐れをなしたのであれば、すぐにでも逃げ出せばいいものを。まあ、そうしたところで、追いかけて全滅させてやるがな」
豪快に笑うゲオルグにつられ、側にいる側近たちも笑い声を発した。
――突如。
斥候の兵士が大慌てで、ゲオルグのもとまでやってきた。
「伯爵閣下にご報告! 前方からゴブリンたちが進軍。ただし妙なのです」
ようやく来たかと座っていた椅子から立ち上がろうとした矢先に、なんとも要領の得ない報告を受けた。
ゲオルグの部隊は見晴らしのいい場所に陣取っている。膠着状態にあるゴブリンが何かしようものなら、すぐに報告が入る。
実際想定どおりになったものの、報告に来た兵士はなんと説明すべきかわからないといった様子だった。
「慌てずに見たままを報告しろ。貴様も栄誉あるグラズヘイム王国に属する兵であろう!」
「はっ! し、しかし、妙な進軍としかいいようがなく……あっ! き、来ました!」
兵士の指差す先には、鋒矢の陣のごとき隊列のゴブリンたちがいた。
前衛のゴブリンが術を唱えるように空へ手をかざし、集団がまるで波みたいに押し寄せてくる。
「何だ……あれは……」
明らかに奇妙すぎるゴブリンたちに、ゲオルグも一瞬言葉を失った。
ゴブリンの周囲だけ色が違う。大気が気色悪いほど緑なのだ。景色そのままで色だけが違う。見間違いかと思ったが、そうではない。
連中、何をしてやがるんだ……。
どう見ても怪しすぎだろ。
異変に気づいた兵士たちもザワつきだす。
ここでようやくゲオルグは我に返った。
「ゴ、ゴブリンどもを止めろ! このままでは前線を突破されてしまう。急いで迎撃だ!」
●茨の王
ゴブリンたちの本陣では、報告を受けた巨躯の茨小鬼が高笑いをしていた。
「ゲェゲ! そうか! ニンゲンどもは慌てふためいているか、我らの茨風景に!」
術者が作り上げた波動で現実空間を侵食し、ゴブリンたち専用のルートを作る。それこそが茨風景の目的だった。
効果範囲は極端に広くないが、空間内はいわばゴブリンのテリトリーだ。人間も侵入は可能だが、従来の力を発揮できなくなる。
「ゲッゲ……いいぞ、このまま進軍を続けろ。悪くないな……ニンゲンどもが道を開けるこの光景は……」
自らを簒奪者と名乗る巨躯に命じられた配下のゴブリンが、威勢良く返事をして部隊へ指示を伝えに向かう。
「切り札を用意できるのは、ニンゲンどもだけではない! 茨風景とともに、いざ進め同胞たちよ! 大地を踏み砕き、忌むべきニンゲンどもを蹂躙するのだぁ!」
●前線ラスリド伯爵部隊
「ゴブリンどもの勢い、止まりませんっ! うわあ!」
兵がひとり、またひとりと倒れる。
ゴブリンどもを取り囲めば、必然的に兵が奇妙な景色の中に飲み込まれる。
命からがら脱出できた兵士は、ゲオルグにあの中はまるで水中のようだと告げた。肌にまとわりつく空気が微妙に違うらしかった。
「そ、そんな!? 魔法が直撃したのに倒れないなんてっ!?」
大きな悲鳴が上がり、部隊の主力兵士までもが大きなダメージを負う。
「大変です、伯爵閣下! 例のゴブリンどもを抑えきれません!」
「何だとっ!? そんなふざけた話があるか! 相手は茨小鬼でもないただのゴブリンどもなんだぞ!」
部隊を指揮するゲオルグのもとには、信じられない報告ばかりが上げられる。
独自の力でトンネルでも掘り進めるかのように、従来の空間を侵食してくるゴブリンなど前代未聞だ。
「遠距離から攻撃を仕掛けろ! 鶴翼の陣で迎え、突破されるのを前提にし、その後ろに長蛇の陣を敷け。敵の突破を抑えつつ、魔法や弓で攻撃するのだ!」
「りょ、了解しました!」
作戦が実行されるも、期待通りの戦果は上がらない。まとまってるゴブリンに範囲攻撃を仕掛けても、どういう理由か倒れないのだ。攻撃は直撃し、確かにダメージを負ってるというのにである。
「奴らは不死者にでもなったのか!」
ゲオルグが怒りの声を上げるのも当然だった。膠着状態が続いていたかと思ったら、いきなりこの有様である。
「ダメージは与えてるみたいなのですが、すぐに回復する模様です。恐らくは、連中の作り出してる空間みたいなものに、何らかの仕掛けがあるものと思われます!」
「チィ! ゴブリンの分際で小癪な真似を……!」
歯軋りをしたところで戦局は回復しない。対応が後手に回ったゲオルグ率いる前線部隊は、すでに統率が乱れてしまっている。
立て直しをするにも後退しなければならず、その間はゴブリンの一団の前進を許してしまう。
「伯爵閣下! 次のご指示を!」
副官の男が叫ぶ。
「……仕方あるまい。前線を放棄する。だが、ただで突破はさせぬぞ!」
気合を入れながら剣を抜いたゲオルグは、部隊に同行中のハンターたちを呼んだ。
「急ですまぬが、諸君らに危険な任務をお願いしたい。見てのとおり、我が部隊はゴブリンどもの奇妙な空間を使った進撃に苦戦中だ。兵を向かわせたが、詳しく効果を探る前に殺されるか、退却を余儀なくされる有様だ。そこで実力的に優れる諸君らに、ゴブリンどもの作った空間内に滞在した場合、どのような効果が敵味方にあるのかを探ってほしい。しばらく留まっていられれば、大体のことがわかるはずだ」
さらにゲオルグは言葉を続ける。
「速度や敵味方への影響判明後は、敵の突破を少しでも遅らせるために尽力してほしい。全滅させられればよいのだが、現状では厳しかろう。その間に、伝令を本陣へ向かわせる。我らが時間を稼ぐほど、後続の部隊は対策を練れるだろう。恥ずかしい話だが、我が部隊だけではどうにも手に余る。諸君らの力を貸してほしい」
ゲオルグの指示と依頼を受けて、ハンターたちは向かってくるゴブリンと対峙する。
「ではゆくぞ! 撤退戦も同然とはいえ、ゴブリンどもに人間の力を見せてくれる!」
膠着状態に陥った戦線の中、前線部隊の一部を預かるラスリド領の領主ゲオルグ・ミスカ・ラスリド伯爵は真っ直ぐに前を見据えていた。
「ゴブリンどもに動きはないか?」
尋ねられた副官は、即座に「ありません」と返答した。
「フン。我等に恐れをなしたのであれば、すぐにでも逃げ出せばいいものを。まあ、そうしたところで、追いかけて全滅させてやるがな」
豪快に笑うゲオルグにつられ、側にいる側近たちも笑い声を発した。
――突如。
斥候の兵士が大慌てで、ゲオルグのもとまでやってきた。
「伯爵閣下にご報告! 前方からゴブリンたちが進軍。ただし妙なのです」
ようやく来たかと座っていた椅子から立ち上がろうとした矢先に、なんとも要領の得ない報告を受けた。
ゲオルグの部隊は見晴らしのいい場所に陣取っている。膠着状態にあるゴブリンが何かしようものなら、すぐに報告が入る。
実際想定どおりになったものの、報告に来た兵士はなんと説明すべきかわからないといった様子だった。
「慌てずに見たままを報告しろ。貴様も栄誉あるグラズヘイム王国に属する兵であろう!」
「はっ! し、しかし、妙な進軍としかいいようがなく……あっ! き、来ました!」
兵士の指差す先には、鋒矢の陣のごとき隊列のゴブリンたちがいた。
前衛のゴブリンが術を唱えるように空へ手をかざし、集団がまるで波みたいに押し寄せてくる。
「何だ……あれは……」
明らかに奇妙すぎるゴブリンたちに、ゲオルグも一瞬言葉を失った。
ゴブリンの周囲だけ色が違う。大気が気色悪いほど緑なのだ。景色そのままで色だけが違う。見間違いかと思ったが、そうではない。
連中、何をしてやがるんだ……。
どう見ても怪しすぎだろ。
異変に気づいた兵士たちもザワつきだす。
ここでようやくゲオルグは我に返った。
「ゴ、ゴブリンどもを止めろ! このままでは前線を突破されてしまう。急いで迎撃だ!」
●茨の王
ゴブリンたちの本陣では、報告を受けた巨躯の茨小鬼が高笑いをしていた。
「ゲェゲ! そうか! ニンゲンどもは慌てふためいているか、我らの茨風景に!」
術者が作り上げた波動で現実空間を侵食し、ゴブリンたち専用のルートを作る。それこそが茨風景の目的だった。
効果範囲は極端に広くないが、空間内はいわばゴブリンのテリトリーだ。人間も侵入は可能だが、従来の力を発揮できなくなる。
「ゲッゲ……いいぞ、このまま進軍を続けろ。悪くないな……ニンゲンどもが道を開けるこの光景は……」
自らを簒奪者と名乗る巨躯に命じられた配下のゴブリンが、威勢良く返事をして部隊へ指示を伝えに向かう。
「切り札を用意できるのは、ニンゲンどもだけではない! 茨風景とともに、いざ進め同胞たちよ! 大地を踏み砕き、忌むべきニンゲンどもを蹂躙するのだぁ!」
●前線ラスリド伯爵部隊
「ゴブリンどもの勢い、止まりませんっ! うわあ!」
兵がひとり、またひとりと倒れる。
ゴブリンどもを取り囲めば、必然的に兵が奇妙な景色の中に飲み込まれる。
命からがら脱出できた兵士は、ゲオルグにあの中はまるで水中のようだと告げた。肌にまとわりつく空気が微妙に違うらしかった。
「そ、そんな!? 魔法が直撃したのに倒れないなんてっ!?」
大きな悲鳴が上がり、部隊の主力兵士までもが大きなダメージを負う。
「大変です、伯爵閣下! 例のゴブリンどもを抑えきれません!」
「何だとっ!? そんなふざけた話があるか! 相手は茨小鬼でもないただのゴブリンどもなんだぞ!」
部隊を指揮するゲオルグのもとには、信じられない報告ばかりが上げられる。
独自の力でトンネルでも掘り進めるかのように、従来の空間を侵食してくるゴブリンなど前代未聞だ。
「遠距離から攻撃を仕掛けろ! 鶴翼の陣で迎え、突破されるのを前提にし、その後ろに長蛇の陣を敷け。敵の突破を抑えつつ、魔法や弓で攻撃するのだ!」
「りょ、了解しました!」
作戦が実行されるも、期待通りの戦果は上がらない。まとまってるゴブリンに範囲攻撃を仕掛けても、どういう理由か倒れないのだ。攻撃は直撃し、確かにダメージを負ってるというのにである。
「奴らは不死者にでもなったのか!」
ゲオルグが怒りの声を上げるのも当然だった。膠着状態が続いていたかと思ったら、いきなりこの有様である。
「ダメージは与えてるみたいなのですが、すぐに回復する模様です。恐らくは、連中の作り出してる空間みたいなものに、何らかの仕掛けがあるものと思われます!」
「チィ! ゴブリンの分際で小癪な真似を……!」
歯軋りをしたところで戦局は回復しない。対応が後手に回ったゲオルグ率いる前線部隊は、すでに統率が乱れてしまっている。
立て直しをするにも後退しなければならず、その間はゴブリンの一団の前進を許してしまう。
「伯爵閣下! 次のご指示を!」
副官の男が叫ぶ。
「……仕方あるまい。前線を放棄する。だが、ただで突破はさせぬぞ!」
気合を入れながら剣を抜いたゲオルグは、部隊に同行中のハンターたちを呼んだ。
「急ですまぬが、諸君らに危険な任務をお願いしたい。見てのとおり、我が部隊はゴブリンどもの奇妙な空間を使った進撃に苦戦中だ。兵を向かわせたが、詳しく効果を探る前に殺されるか、退却を余儀なくされる有様だ。そこで実力的に優れる諸君らに、ゴブリンどもの作った空間内に滞在した場合、どのような効果が敵味方にあるのかを探ってほしい。しばらく留まっていられれば、大体のことがわかるはずだ」
さらにゲオルグは言葉を続ける。
「速度や敵味方への影響判明後は、敵の突破を少しでも遅らせるために尽力してほしい。全滅させられればよいのだが、現状では厳しかろう。その間に、伝令を本陣へ向かわせる。我らが時間を稼ぐほど、後続の部隊は対策を練れるだろう。恥ずかしい話だが、我が部隊だけではどうにも手に余る。諸君らの力を貸してほしい」
ゲオルグの指示と依頼を受けて、ハンターたちは向かってくるゴブリンと対峙する。
「ではゆくぞ! 撤退戦も同然とはいえ、ゴブリンどもに人間の力を見せてくれる!」
リプレイ本文
●
戦場に立つハンターの前方に、ゴブリンの大群が迫る。報告があったとおり、周囲は景色そのままなのに不気味なほど緑色に染まっている。
真っ直ぐに前を見据えたアーサー・ホーガン(ka0471)が、武器を構えながら口を開く。
「肩で風を切るように歩いてやがるぜ。ま、少しくらいは浸らせてやるか。良い気でいられるのも、今のうちだけだからな」
側にいるディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は、今回の依頼に対して自信ありげだった。
「ゴブリン達の新戦術というやつか。一体誰の差金かは知らないが、この戦術の謎を解かなければ、ボク達は手も足も出ないということだな。大王たるボクがその謎を解いてみせようではないか」
「ふむ、自分たちが有利になる特殊な空間か。どの程度楽しめるのか……実に心躍るわい」
戦いこそが至上の誉れであるバルバロス(ka2119)は、豊かな口髭を撫でさすりながらニタリとした。よほどの戦闘好きらしい。
軽く首を捻りながら、猛進してくるゴブリンの観察を続けるのは超級まりお(ka0824)だ。まずは目で、ゴブリンのパワーアップの秘密を探ろうとしている。
「見た感じゴブリンメイジをアレ出来れば結界が消せそうっぽいけれども? まぁがんばります!」
「調査の間に時間稼ぎと敵へのダメージもあわせて行いたいな。何が起こるか分からないから気を引締めていこう」
ザレム・アズール(ka0878)の言葉にセリア・シャルリエ(ka4666)が頷く。両者の顔に緊張の色はなく、迫りくるゴブリンに恐れてもいないようだった。
「敵の戦術、破れたりと言いたいところですが、今回その役は無さそうですね。それは見知らぬ誰かに託す事にします」
ゴブリンの一団は、ハンターを見つけても隊列を乱さない。戦闘を行うよりも、可能な限り迅速に前線を突破したがっているみたいだった。
敵との距離がある中で、ザレムがひとつの提案をする。
「少し前進して、より前で、受け止めないか? じっと待つよりさ、俺達の中にも近距離を得意とする者がいるし、前線を押し上げておこうってワケだ」
「……それなら、調査目的という意図を敵に勘付かれない方が良いですね」
最初にセリアが同意した。他のハンターにも異論はないらしく、ディアドラも提案に頷いた。
「狙いは中央に布陣しているゴブリンメイジ達だな」
「ああ。メイジに集中攻撃して撃破し、敵全体を足止めする」
グレートソードのエッケザックスを、右肩に担ぎながらアーサーが言った。視線は、歩みを止めないゴブリン団へ向けたままだ。
前に出ることにしたハンターは各担当を決める。
ディアドラとアーサーはメイジを狙いつつ、ソルジャーが狙ってくればそちらの対応に回る。
セリアは遊撃の遊撃として動き、ザレム、まりお、バルバロスの三名はメイジを倒すのに注力する。
「先手必勝、ってぇことでランアウトで先頭のゴブリンメイジの頭部を狙うよ。ヒァウィゴー!!」
まりおの掛け声で、ハンターが一斉に動く。
まずはザレムが、最初から積極的に攻撃を仕掛ける。三体のゴブリンメイジを標的にして、デルタレイを放つ。
「メイジを進ませないのが第一だ。ソルジャー等への対応は仲間を信じ、俺はメイジ中心だ」
通常のゴブリンであれば、楽に一撃で絶命されられる威力がある。しかし奇妙な空間の外側から繰り出したデルタレイは、直撃したにもかかわらずゴブリンメイジを一体も倒せなかった。瀕死にもなってないだけに、命中させたザレムも驚きを見せる。
勇壮にゴースロンを駆って、セリアがゴブリン団に突撃する。攻撃よりも調査を優先し、緑色の範囲外からスローイングでメイジを攻撃する。
ザレムのデルタレイでダメージを与えてるにもかかわらず、狙ったメイジは倒れない。それどころか、ほとんど効いてないように見えた。
メイジを倒そうとするまりおが、範囲内に侵入してランアウトを放つも、メイジに回避されてしまう。
「これは確かになんか動きづらいけれどもっ!」
まりおが叫ぶ中、アーサーやバルバロス、ディアドラも次々とゴブリンの作る緑色の空間内へ突入した。
壁のように並ぶハンターたちを前にしても、先頭のゴブリンメイジたちは強引に突破しようとする。
本気かとハンターが驚く中、メイジを守るべく弓を持ったゴブリンソルジャーが攻撃を仕掛けてくる。
構えた盾でディアドラが、飛んでくる弓を防ぐ。
バルバロスは攻撃を受けるも、まるで蚊に刺されたようだと言わんばかりに口角を吊り上げて笑う。
弓矢の雨がやめば、今度はハンター側が攻勢に転じる。
「本気を出して叩き潰す。仕留められるか、仕留められないかで、どれほど威力が減衰してるのかが判断できるはずだ」
二メートルを超える巨体を肩からぶつけたあと、両手に持つギガースアックスでバルバロスが先頭のメイジを真っ二つにした。
「これだけの仕掛けとなれば、核らしきものが存在するはずです」
懸命になって、セリアは緑の空間の核らしきものがないかを探す。
そのあとで範囲内へ入り、スローイングでメイジの一体を攻撃する。
「やはり範囲の内外で、スキルの効果に差が出ますね」
範囲内から放ってもダメージは軽減されているみたいだが、範囲外からほどではなかった。
敵に与えたダメージを見れば、範囲内であってもスキルの威力がだいぶ減らされてるのがわかる。
「左右からゴブリンソルジャー達が接近してきそうだな。ボクはそちらの対応に当たるぞ」
注意喚起するように仲間へ告げたあと、騎士剣とシールドを装備しているディアドラは標的をゴブリンソルジャーへ切り替えた。
大きく踏み込みながら武器を突き出した刺突一閃で、直線状のソルジャーをメイジごと狙う。スキルの効果が弱まるのは承知済みでの一撃だった。
ゴブリンたちの作る空間の影響で簡単に倒せないが、ダメージは与えられる。しかし兵士の報告にもあったとおり、ソルジャーの負ったばかりの傷が回復していく。
その一方でバルバロスは、ひとつの事実に気づく。
「どうやら、絶命した奴は再生しないみたいだな。ただ回復するだけなら、暴論だがぶっころせば問題無い」
回復したソルジャーも全快には至っていない。だが一度だけでなく、空間内にいる限り何度も回復できるようだ。長期戦になれば、ハンター側に不利なのは誰の目にも明らかだった。
ソルジャーの味方への接近に気づいたアーサーが、守りの構えを使って敵の進路上に立ち塞がる。待ちの戦法で攻撃を引き受けるが、空間内にいる影響で強化されたゴブリンの一撃が脚に命中する。
だが致命傷にはならず、逆にアーサーは敵を押し返した。有利になる空間内でも互角以上に戦われる現状に、ゴブリンたちが驚愕する。
「おいおい、さっきまでの威勢はどうした?」
ソルジャーの相手をしながらも、アーサーはしっかりと空間内における自身及び敵の能力の変化を調査していた。
「さっきの攻撃でダメージを負ったということは、防御能力にまで影響が出ると考えて間違いなさそうだな」
先ほどから気合を入れるなどして、空間内の悪影響に抵抗できないか試してもいるが、アーサーの中で好結果は得られていなかった。
改めて、ゴブリンの新戦術の厄介さを実感させられる。
「敵の進軍が止まらない。こちらも徐々に後退しつつ、ゴブリンメイジたちへの攻撃を継続していくぞ」
共に戦っている仲間たちへ聞こえるように、ディアドラは叫ぶように言った。
戦いよりも移動を優先するゴブリンたちは、前方にハンターがいるのも構わずに突破を果たそうとする。
メイジを倒せば一時的に動きは止まるが、すぐに倒した数だけ補充される。一体後ろにどれだけのゴブリンが控えているのか。
まとめて倒したくとも、補充や回復をされるせいで劇的な効果は得られない。ディアドラも一気に敵を薙ぎ倒すというより、多数から一度に攻撃を受けないようにするための戦闘を行っていた。
向かってくるゴブリンソルジャーを、着実に一体ずつ処理していく。一撃で倒せなくとも、味方への被害を減らすのは可能だった。
「ボクの名は大王ディアドラ! この世界に光をもたらす者だ!」
先制攻撃でデルタレイを仕掛けたザレムは、敵の作った緑色の空間内で戦闘を継続していた。
メイジを含めた敵にファイアスローワーを放ち、扇状に炎の力を持った破壊エネルギーで倒そうとする。同時に、範囲内での調査も忘れない。
セリアが、緑色の空間をゴブリンが形成するには核みたいなのが必要ではないかと言っていたが、ザレムも同様の結論に辿り着いていた。
「空間を召還してるというよりは、ゴブリンによる結界に近いのか? となれば必要な核、もしくは触媒や人柱みたいなのがあっても不思議ではないな」
緑色に染まった範囲内がゴブリンたちの結界だというのなら、侵入中のザレムをはじめとしたハンターや人間の兵士が重苦しさを覚えるのも納得できる。
結界には人間を弱らせると同時に、兵士の報告どおり、ゴブリンを強化する効果もありそうだ。
武器と機導術で火・光・土・風の攻撃が可能なザレムが空間内の属性を調べたが、四つの属性には当てはまらなかった。
内部で瘴気が発生している様子もない。
結界であれば、発動に時間や特殊な術式を要するのではないか。思考を止めないようにしながら、ザレムは大剣を横に薙ぐ。複数の敵を巻き込んで、吹き飛ばすためだ。
メイジを減少させるほど結界内が揺らぐように思えた。だとしたら、全滅させれば消えるかもしれない。
最初にザレムと同じ仮説を立てていたまりおも、メイジを全滅させるべく試作光斬刀のMURASAMEブレイドで敵を切り刻んでいく。
暴れるのが目的だったバルバロスは強振による一撃で、標的にしたメイジを叩き潰す。
数が減るほどに想定どおり緑の空間――ゴブリンの作り出した結界の揺らぎが大きくなった。敵を全滅させれば空間も消滅するのではないかと思われたが、その前に他のゴブリンがやってきた。
直後、内部の不安定さが嘘みたいになくなってしまった。現場での結界破壊が難しい以上、やはり調査と可能な限りの敵の足止めを行うのが望ましい。
「そうです! 集中するメイジの意識に、強烈なイメージを刷り込めばいいんです!」
叫んだセリアがその場で謎の『ぷるんぷりんダンス』を踊る。
「ぷるんUP♪ ぷりんUP♪」
見る者を魅了する蠱惑的な踊りではあったが、相手はゴブリン。人間の女性に魅力を感じる者は少なかった。多少の注意を引けたまではよかったが、すぐに興味ない様子で顔を逸らされてしまう。
それならばとセリアは、輪投げの要領で馬上から敵にロープを引っ掛けようと試みる。それを重石代わりに引っ張りまわし、間に張られたロープで敵の足を絡め取ろうとした。
狙いはよかったが、想定外の事態が起こる。
命中したと半ば確信していたにもかかわらず、当たり前のようにロープを回避されてしまったのだ。
戸惑いはしたが、それでもセリアは移動の阻害を主目的として、遊撃の立ち位置を意識して交戦しつつ、結界内の情報を得ようとする。
「わざわざメイジを先頭に置く辺り、それも発動条件か?」
滞在時間によって、余計に肉体が重苦しくなったりとかはない。
範囲も拡大されてはいない。ゴブリンの組んだ隊列を覆うような感じのままだ。
兵士の報告にもあったとおり、ゴブリンたちの動きが徐々に速くなっている。
このまま加速を続けていくのであれば、後々大きな問題になるかもしれない。
得た情報を整理しながら、アーサーはメイジの喉や腕を狙った。結界の維持を阻害できるかどうか確かめるためだ。
「駄目か。こうなりゃ、生かさず殺さずを心がけるしかねえな。倒しても補充されるだろうしな」
向かってきたゴブリンソルジャーの斧を巻き上げて弾き飛ばし、武器封じによる戦力低下を図る。さらには後続を巻き込むように、強撃で転倒させて時間を稼ぐ。
「だいぶ敵の前進を許してしまったな。ゴブリンの作った結界みたいなものの調査もこれ以上は難しそうだし、頃合いか」
ディアドラがそう言った時、ラスリド兵のひとりが現場にやってきた。ラスリド伯爵から、総員撤退の指示が出たのである。
退避の一報を受けて、誰より残念そうにしたのは嬉々として戦闘を行っていたバルバロスだった。
「ふむ。基本、自分から退くようなコトはないのだが、退却指示が出たのであれば従わないわけにもいかんな」
そうだねと頷いたまりおだったが、敵の集団に目を向けてこんなことを言った。
「部位狙いで脚怪我させたゴブリンメイジを、一匹拉致れないかな?」
真っ先に賛成の意見を表明したのは、ザレムだった。本来は獲得データとメイジの死体を提出するつもりだったが、生け捕りでも構わない。必要ならその後、自陣で処理をすればいいのだ。
バルバロスも含めた三人でメイジの一匹を狙い、計画通りに拉致るのを成功させるのだった。
●
戦闘終了後、ゴブリンの一団から離れたラスリド伯爵はハンターを前にお礼を述べた。
「諸君らの奮闘で、ゴブリンどもの奇妙な仕掛けの正体がかなり判明した」
まりおが提案して生け捕りにしたゴブリンメイジは片言だったが、人間の言語を理解できた。
そこでラスリド伯爵は、兵士に命じて尋問を行った。
「仕掛けの名称は茨風景というものらしい。せっかく生け捕りにしてくれたが、あのゴブリンメイジから得られた情報はそれだけだ。意味ありげに名称だけを言ったあと、自害された。敵ながら見上げた根性だったと褒めねばなるまい」
特別にラスリド伯爵が、部下に大急ぎで作成させた書類をハンターへ見せてくれた。
その書類に書かれている内容のほぼすべてが、身をもってハンターたちが調べてくれたものだった。
「情報を整理した結果、茨風景は結界の一種だと結論付けた。内部に入るとゴブリンは強化され、人間側は弱体化されるようだ。核というか触媒みたいなのを要しそうだが、何かまでは判明させられなかった。残った謎もあるが、まったくの正体不明ではなくなった。改めて礼を言うぞ」
「大王たるボクにかかれば、この程度は造作もない」
ディアドラが、大きく胸を張った。
今度はザレムが、正面にいるラスリド伯爵へ声をかける。
「これで敵の新戦術に対応策が取れる。有効に活かしてくれ」
「もちろんだ。諸君らの苦労によって作成できた書類は、すぐにでも本陣へ送る。これ以上は連中の好きにさせん!」
満足げに頷いたラスリド伯爵はひとりひとりと握手をして、ハンターたちを労った。
敵が発動させた正体不明の空間内へ飛び込んだハンターの賞賛すべき勇気によって、茨風景の存在が明らかになった。
ゴブリンたちとの最終決戦は近い。戦場を覆う空気は、より一層の緊張感を含みだしていた。
戦場に立つハンターの前方に、ゴブリンの大群が迫る。報告があったとおり、周囲は景色そのままなのに不気味なほど緑色に染まっている。
真っ直ぐに前を見据えたアーサー・ホーガン(ka0471)が、武器を構えながら口を開く。
「肩で風を切るように歩いてやがるぜ。ま、少しくらいは浸らせてやるか。良い気でいられるのも、今のうちだけだからな」
側にいるディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は、今回の依頼に対して自信ありげだった。
「ゴブリン達の新戦術というやつか。一体誰の差金かは知らないが、この戦術の謎を解かなければ、ボク達は手も足も出ないということだな。大王たるボクがその謎を解いてみせようではないか」
「ふむ、自分たちが有利になる特殊な空間か。どの程度楽しめるのか……実に心躍るわい」
戦いこそが至上の誉れであるバルバロス(ka2119)は、豊かな口髭を撫でさすりながらニタリとした。よほどの戦闘好きらしい。
軽く首を捻りながら、猛進してくるゴブリンの観察を続けるのは超級まりお(ka0824)だ。まずは目で、ゴブリンのパワーアップの秘密を探ろうとしている。
「見た感じゴブリンメイジをアレ出来れば結界が消せそうっぽいけれども? まぁがんばります!」
「調査の間に時間稼ぎと敵へのダメージもあわせて行いたいな。何が起こるか分からないから気を引締めていこう」
ザレム・アズール(ka0878)の言葉にセリア・シャルリエ(ka4666)が頷く。両者の顔に緊張の色はなく、迫りくるゴブリンに恐れてもいないようだった。
「敵の戦術、破れたりと言いたいところですが、今回その役は無さそうですね。それは見知らぬ誰かに託す事にします」
ゴブリンの一団は、ハンターを見つけても隊列を乱さない。戦闘を行うよりも、可能な限り迅速に前線を突破したがっているみたいだった。
敵との距離がある中で、ザレムがひとつの提案をする。
「少し前進して、より前で、受け止めないか? じっと待つよりさ、俺達の中にも近距離を得意とする者がいるし、前線を押し上げておこうってワケだ」
「……それなら、調査目的という意図を敵に勘付かれない方が良いですね」
最初にセリアが同意した。他のハンターにも異論はないらしく、ディアドラも提案に頷いた。
「狙いは中央に布陣しているゴブリンメイジ達だな」
「ああ。メイジに集中攻撃して撃破し、敵全体を足止めする」
グレートソードのエッケザックスを、右肩に担ぎながらアーサーが言った。視線は、歩みを止めないゴブリン団へ向けたままだ。
前に出ることにしたハンターは各担当を決める。
ディアドラとアーサーはメイジを狙いつつ、ソルジャーが狙ってくればそちらの対応に回る。
セリアは遊撃の遊撃として動き、ザレム、まりお、バルバロスの三名はメイジを倒すのに注力する。
「先手必勝、ってぇことでランアウトで先頭のゴブリンメイジの頭部を狙うよ。ヒァウィゴー!!」
まりおの掛け声で、ハンターが一斉に動く。
まずはザレムが、最初から積極的に攻撃を仕掛ける。三体のゴブリンメイジを標的にして、デルタレイを放つ。
「メイジを進ませないのが第一だ。ソルジャー等への対応は仲間を信じ、俺はメイジ中心だ」
通常のゴブリンであれば、楽に一撃で絶命されられる威力がある。しかし奇妙な空間の外側から繰り出したデルタレイは、直撃したにもかかわらずゴブリンメイジを一体も倒せなかった。瀕死にもなってないだけに、命中させたザレムも驚きを見せる。
勇壮にゴースロンを駆って、セリアがゴブリン団に突撃する。攻撃よりも調査を優先し、緑色の範囲外からスローイングでメイジを攻撃する。
ザレムのデルタレイでダメージを与えてるにもかかわらず、狙ったメイジは倒れない。それどころか、ほとんど効いてないように見えた。
メイジを倒そうとするまりおが、範囲内に侵入してランアウトを放つも、メイジに回避されてしまう。
「これは確かになんか動きづらいけれどもっ!」
まりおが叫ぶ中、アーサーやバルバロス、ディアドラも次々とゴブリンの作る緑色の空間内へ突入した。
壁のように並ぶハンターたちを前にしても、先頭のゴブリンメイジたちは強引に突破しようとする。
本気かとハンターが驚く中、メイジを守るべく弓を持ったゴブリンソルジャーが攻撃を仕掛けてくる。
構えた盾でディアドラが、飛んでくる弓を防ぐ。
バルバロスは攻撃を受けるも、まるで蚊に刺されたようだと言わんばかりに口角を吊り上げて笑う。
弓矢の雨がやめば、今度はハンター側が攻勢に転じる。
「本気を出して叩き潰す。仕留められるか、仕留められないかで、どれほど威力が減衰してるのかが判断できるはずだ」
二メートルを超える巨体を肩からぶつけたあと、両手に持つギガースアックスでバルバロスが先頭のメイジを真っ二つにした。
「これだけの仕掛けとなれば、核らしきものが存在するはずです」
懸命になって、セリアは緑の空間の核らしきものがないかを探す。
そのあとで範囲内へ入り、スローイングでメイジの一体を攻撃する。
「やはり範囲の内外で、スキルの効果に差が出ますね」
範囲内から放ってもダメージは軽減されているみたいだが、範囲外からほどではなかった。
敵に与えたダメージを見れば、範囲内であってもスキルの威力がだいぶ減らされてるのがわかる。
「左右からゴブリンソルジャー達が接近してきそうだな。ボクはそちらの対応に当たるぞ」
注意喚起するように仲間へ告げたあと、騎士剣とシールドを装備しているディアドラは標的をゴブリンソルジャーへ切り替えた。
大きく踏み込みながら武器を突き出した刺突一閃で、直線状のソルジャーをメイジごと狙う。スキルの効果が弱まるのは承知済みでの一撃だった。
ゴブリンたちの作る空間の影響で簡単に倒せないが、ダメージは与えられる。しかし兵士の報告にもあったとおり、ソルジャーの負ったばかりの傷が回復していく。
その一方でバルバロスは、ひとつの事実に気づく。
「どうやら、絶命した奴は再生しないみたいだな。ただ回復するだけなら、暴論だがぶっころせば問題無い」
回復したソルジャーも全快には至っていない。だが一度だけでなく、空間内にいる限り何度も回復できるようだ。長期戦になれば、ハンター側に不利なのは誰の目にも明らかだった。
ソルジャーの味方への接近に気づいたアーサーが、守りの構えを使って敵の進路上に立ち塞がる。待ちの戦法で攻撃を引き受けるが、空間内にいる影響で強化されたゴブリンの一撃が脚に命中する。
だが致命傷にはならず、逆にアーサーは敵を押し返した。有利になる空間内でも互角以上に戦われる現状に、ゴブリンたちが驚愕する。
「おいおい、さっきまでの威勢はどうした?」
ソルジャーの相手をしながらも、アーサーはしっかりと空間内における自身及び敵の能力の変化を調査していた。
「さっきの攻撃でダメージを負ったということは、防御能力にまで影響が出ると考えて間違いなさそうだな」
先ほどから気合を入れるなどして、空間内の悪影響に抵抗できないか試してもいるが、アーサーの中で好結果は得られていなかった。
改めて、ゴブリンの新戦術の厄介さを実感させられる。
「敵の進軍が止まらない。こちらも徐々に後退しつつ、ゴブリンメイジたちへの攻撃を継続していくぞ」
共に戦っている仲間たちへ聞こえるように、ディアドラは叫ぶように言った。
戦いよりも移動を優先するゴブリンたちは、前方にハンターがいるのも構わずに突破を果たそうとする。
メイジを倒せば一時的に動きは止まるが、すぐに倒した数だけ補充される。一体後ろにどれだけのゴブリンが控えているのか。
まとめて倒したくとも、補充や回復をされるせいで劇的な効果は得られない。ディアドラも一気に敵を薙ぎ倒すというより、多数から一度に攻撃を受けないようにするための戦闘を行っていた。
向かってくるゴブリンソルジャーを、着実に一体ずつ処理していく。一撃で倒せなくとも、味方への被害を減らすのは可能だった。
「ボクの名は大王ディアドラ! この世界に光をもたらす者だ!」
先制攻撃でデルタレイを仕掛けたザレムは、敵の作った緑色の空間内で戦闘を継続していた。
メイジを含めた敵にファイアスローワーを放ち、扇状に炎の力を持った破壊エネルギーで倒そうとする。同時に、範囲内での調査も忘れない。
セリアが、緑色の空間をゴブリンが形成するには核みたいなのが必要ではないかと言っていたが、ザレムも同様の結論に辿り着いていた。
「空間を召還してるというよりは、ゴブリンによる結界に近いのか? となれば必要な核、もしくは触媒や人柱みたいなのがあっても不思議ではないな」
緑色に染まった範囲内がゴブリンたちの結界だというのなら、侵入中のザレムをはじめとしたハンターや人間の兵士が重苦しさを覚えるのも納得できる。
結界には人間を弱らせると同時に、兵士の報告どおり、ゴブリンを強化する効果もありそうだ。
武器と機導術で火・光・土・風の攻撃が可能なザレムが空間内の属性を調べたが、四つの属性には当てはまらなかった。
内部で瘴気が発生している様子もない。
結界であれば、発動に時間や特殊な術式を要するのではないか。思考を止めないようにしながら、ザレムは大剣を横に薙ぐ。複数の敵を巻き込んで、吹き飛ばすためだ。
メイジを減少させるほど結界内が揺らぐように思えた。だとしたら、全滅させれば消えるかもしれない。
最初にザレムと同じ仮説を立てていたまりおも、メイジを全滅させるべく試作光斬刀のMURASAMEブレイドで敵を切り刻んでいく。
暴れるのが目的だったバルバロスは強振による一撃で、標的にしたメイジを叩き潰す。
数が減るほどに想定どおり緑の空間――ゴブリンの作り出した結界の揺らぎが大きくなった。敵を全滅させれば空間も消滅するのではないかと思われたが、その前に他のゴブリンがやってきた。
直後、内部の不安定さが嘘みたいになくなってしまった。現場での結界破壊が難しい以上、やはり調査と可能な限りの敵の足止めを行うのが望ましい。
「そうです! 集中するメイジの意識に、強烈なイメージを刷り込めばいいんです!」
叫んだセリアがその場で謎の『ぷるんぷりんダンス』を踊る。
「ぷるんUP♪ ぷりんUP♪」
見る者を魅了する蠱惑的な踊りではあったが、相手はゴブリン。人間の女性に魅力を感じる者は少なかった。多少の注意を引けたまではよかったが、すぐに興味ない様子で顔を逸らされてしまう。
それならばとセリアは、輪投げの要領で馬上から敵にロープを引っ掛けようと試みる。それを重石代わりに引っ張りまわし、間に張られたロープで敵の足を絡め取ろうとした。
狙いはよかったが、想定外の事態が起こる。
命中したと半ば確信していたにもかかわらず、当たり前のようにロープを回避されてしまったのだ。
戸惑いはしたが、それでもセリアは移動の阻害を主目的として、遊撃の立ち位置を意識して交戦しつつ、結界内の情報を得ようとする。
「わざわざメイジを先頭に置く辺り、それも発動条件か?」
滞在時間によって、余計に肉体が重苦しくなったりとかはない。
範囲も拡大されてはいない。ゴブリンの組んだ隊列を覆うような感じのままだ。
兵士の報告にもあったとおり、ゴブリンたちの動きが徐々に速くなっている。
このまま加速を続けていくのであれば、後々大きな問題になるかもしれない。
得た情報を整理しながら、アーサーはメイジの喉や腕を狙った。結界の維持を阻害できるかどうか確かめるためだ。
「駄目か。こうなりゃ、生かさず殺さずを心がけるしかねえな。倒しても補充されるだろうしな」
向かってきたゴブリンソルジャーの斧を巻き上げて弾き飛ばし、武器封じによる戦力低下を図る。さらには後続を巻き込むように、強撃で転倒させて時間を稼ぐ。
「だいぶ敵の前進を許してしまったな。ゴブリンの作った結界みたいなものの調査もこれ以上は難しそうだし、頃合いか」
ディアドラがそう言った時、ラスリド兵のひとりが現場にやってきた。ラスリド伯爵から、総員撤退の指示が出たのである。
退避の一報を受けて、誰より残念そうにしたのは嬉々として戦闘を行っていたバルバロスだった。
「ふむ。基本、自分から退くようなコトはないのだが、退却指示が出たのであれば従わないわけにもいかんな」
そうだねと頷いたまりおだったが、敵の集団に目を向けてこんなことを言った。
「部位狙いで脚怪我させたゴブリンメイジを、一匹拉致れないかな?」
真っ先に賛成の意見を表明したのは、ザレムだった。本来は獲得データとメイジの死体を提出するつもりだったが、生け捕りでも構わない。必要ならその後、自陣で処理をすればいいのだ。
バルバロスも含めた三人でメイジの一匹を狙い、計画通りに拉致るのを成功させるのだった。
●
戦闘終了後、ゴブリンの一団から離れたラスリド伯爵はハンターを前にお礼を述べた。
「諸君らの奮闘で、ゴブリンどもの奇妙な仕掛けの正体がかなり判明した」
まりおが提案して生け捕りにしたゴブリンメイジは片言だったが、人間の言語を理解できた。
そこでラスリド伯爵は、兵士に命じて尋問を行った。
「仕掛けの名称は茨風景というものらしい。せっかく生け捕りにしてくれたが、あのゴブリンメイジから得られた情報はそれだけだ。意味ありげに名称だけを言ったあと、自害された。敵ながら見上げた根性だったと褒めねばなるまい」
特別にラスリド伯爵が、部下に大急ぎで作成させた書類をハンターへ見せてくれた。
その書類に書かれている内容のほぼすべてが、身をもってハンターたちが調べてくれたものだった。
「情報を整理した結果、茨風景は結界の一種だと結論付けた。内部に入るとゴブリンは強化され、人間側は弱体化されるようだ。核というか触媒みたいなのを要しそうだが、何かまでは判明させられなかった。残った謎もあるが、まったくの正体不明ではなくなった。改めて礼を言うぞ」
「大王たるボクにかかれば、この程度は造作もない」
ディアドラが、大きく胸を張った。
今度はザレムが、正面にいるラスリド伯爵へ声をかける。
「これで敵の新戦術に対応策が取れる。有効に活かしてくれ」
「もちろんだ。諸君らの苦労によって作成できた書類は、すぐにでも本陣へ送る。これ以上は連中の好きにさせん!」
満足げに頷いたラスリド伯爵はひとりひとりと握手をして、ハンターたちを労った。
敵が発動させた正体不明の空間内へ飛び込んだハンターの賞賛すべき勇気によって、茨風景の存在が明らかになった。
ゴブリンたちとの最終決戦は近い。戦場を覆う空気は、より一層の緊張感を含みだしていた。
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相談卓 アーサー・ホーガン(ka0471) 人間(リアルブルー)|27才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/10/16 22:46:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/15 22:00:35 |