梓弓、東国の鬼の里で妖怪に遭遇す

マスター:狐野径

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/10/20 09:00
完成日
2015/10/26 22:30

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●幼いころの記憶
 妹が生まれるより前の大江紅葉は一家の希望を背に、怖いもの知らずで屋敷の中を歩き回っていた。乳母の目を盗んで警備のために雇っている者たちの所に入り込み遊んでもらっていた。
 彼らも非番であると、雇い主の娘と遊ぶのを楽しんでいる様子だった。
「あそんでたもー」
「おうおう、おひいさん、今日は何してあそぶんじゃ?」
「うーん、かくれおに」
「おひいさんは隠れるところは多いけどわしらには無理じゃ」
 男たちは笑った。
「うーん、つのさわりしていい?」
「おう」
 男の背中にへばりついて壁を登るように登って行く。時々、滑って尻餅ついたり、転げそうになるが何とか登る。
 転がっても頭を打つことはない。登られている者以外が紅葉を受け止めるから。
「やった」
 肩に登って角に触るが、その拍子に落ちる。やはり受け止めてもらって、ケラケラと笑う。
「おひいさんは元気じゃ」

 紅葉は飛び起きた。
「ううん? 何この夢? え? あれ?」
 鬼に助けてもらったときより古い記憶。天ノ都に来て陰陽寮に入って、家を守らないといけないと奔走のうちに忘れていた記憶。
「……道理で私、鬼に対して嫌悪感少ないわけね……」
 両親は雇っていたのだ、鬼たちを。

●惨敗
 エトファリカ連邦国天ノ都にある大江家の小さな屋敷。主たる紅葉が家臣を集めて話したことは、衝撃と懐かしみを生じさせた。後者は年寄りに多い感情で、若い者は困惑もしていた。
 告げたのは人手不足により、警備に数名、内向きのことに1か2人鬼を雇うと言う計画だった。
「じい、やっぱり昔、我が家で鬼を雇っていたんですね」
「そうですよ? 戦が激しくなって敵ということになっておりましたし、都に住むにあたってさすがに無理だと言うことで解約したのですが……最後の最後で我々を守って死んだ者が多かったんですよ」
 家令はしみじみと告げる。生き延びた年寄が同調してうなずいている。その子世代は「そういえばいたね」と何とも言えない顔。
「供養をとも思いますが……まだ難しいでしょうね」
 家令は溜息を洩らした。南部に行けばいくほど、まだ妖怪が多くいるのだから。
「困っている方がいて、わたしたちも人手が欲しい……雇うことも彼らの種族への共存こそが供養だと考えますよ」
「じい、ありがとう」
「もったいなきお言葉、何もしてはおりませぬゆえ」
「まだ彼らの風当たりは強いし、我が家なんて吹き飛びそうな家だけど、草の根運動っていうし……」
 紅葉はにこりと笑って、善は急げと陰陽寮に休暇願を出して里に赴いてみた。
 単独でいくには道中に不安があったが、馬を飛ばせは何とかなると楽観することにした。
 訪れたことはなかったが、里らしい空気は漂っていた。人気はあるが、紅葉が到着した瞬間、散り散りに消えた。
 そんなか行った求人活動は惨敗した。一日で何とかなるとは思いもしなかったが、話すら聞いてもらえなかったのだ。近づくと逃げられ、遠くから話しかけても逃げられ。
 紅葉を見つめる目もあった。以前助けた鬼の子のようだったが、彼らこそ「お久しぶり」といって再会するわけにはいかない、お互いのために。
 空き家に入り込んで、丸くなって寝た。

●不安と共に
 松永光頼は以前監視という任務でそばにいた大江紅葉が気になっていた。
(知り合ったのは任務だった……その後会うのはどうなんだろうか……公私混同か、う、ううう)
 悩む彼に上司は気付き、温かい目で「いいんだよ、頑張って口説け」と言ったことが腹立つことだった。
 結局、大江家に向かうと、紅葉は出かけていないとのことだった。元気ならいいと帰ろうとしたところ、応対に出た家令がぼそりと一言。
「松永様とご一緒ではなかったんですね」
「ちょっと待ってください。どういうことです」
 家令は事情を話す。
「モノノフでも雇ったんでしょう」
「……へそくりがあるなら」
 カネの管理は家令の役目らしい、この家は。
 光頼はハンターを雇って鬼の里に急ぐことにした。
 鬼が危険ではなく、問題は妖怪だ。
 光頼はふと大仰に騒いでいる自分に驚いた。
「何もなければ、大江殿を護衛して帰ってくればいいんだ」

●誘拐事件
 警備および家の中の仕事をしてくれる人募集中と旗を掲げ、ぼんやりと紅葉は待つ。
 遠巻きに子どもや大人が見ているが、結局それで終わりだった。昨日よりは視線を感じるので、慣れてもらえて一歩前進したと考えるしかなかった。
「はあ。思った以上に溝が深いのかしら」
 紅葉は昼過ぎに荷物を馬に積んで、帰ろうとした。
 悲鳴が耳に届く。反射的に紅葉はそちらを見た。
 妖怪が数匹、女の子とその祖父らしい鬼を襲っているのだ。大猿は女の子を連れて行こうとしているように見える。
 紅葉は馬に積んであった弓と杖を手にすると駆けだす。
「やめなさいっ!」
 杖で猪のような妖怪をぶん殴るが、狙ったのとは別の妖怪に当たった。
 懐から札を出そうとして青くなる。
(ないっ!?)
 ガブリと妖怪に手首をかじられた。
「きゃあ」
 紅葉は痛みに一瞬頭の中が真っ白になった。
「おじいちゃん!」
 この間にも大猿は女の子を連れ去ろうとしている。
 紅葉は大猿に向かって杖を振るうが、猪の妖怪に体当たりされてバランスを崩した。
「テユカ!」
 年配の鬼は大猿に殴り掛かろうとしたが、大猿が投げ捨てた女の子の落下地点に急いだ。
 大猿は雑魔に囲まれ右往左往している紅葉の手首をつかんで自分の方に引いた。
「ちょ、いやああ」
 倒れ込んだ紅葉を大猿は小脇に抱え林に向かった。一応、紅葉が抵抗しているが、大して効果がなかった。
「おじいちゃん!」
 テユカと呼ばれた女の子が紅葉が連れ去られているのを見て悲鳴を上げるが、年配の鬼は雑魔に押し倒され守りに徹するので精いっぱいだった。
 何とかなったときには、雑魔も林に消えていなくなっていた。

●助けないと
「さすがに放っておけないだろう」
 駆け付けた鬼の一人は有志を募って助けに行こうと言う。
「あの林、奥までまだ行っていないし」
「……」
 あれこれ話している間に、テユカが叫ぶ。
「あたしが行くよ! だってあのヒトと都行きたい!」
 それは問題外で、行く者が決まった。
 ここに、光頼とハンターがやってくる。
 武力を持っている彼らに鬼たちは警戒するが、光頼らは馬から下りて礼儀正しく挨拶する。
「人間の女性は来ていませんか? 迎えに来たのですが」
 心配そうにしている彼を見て、現在起っていることを告げた。

リプレイ本文

●いざ、林へ
 光頼は真っ青になりハンターに向き直る。
「お願いします、大江殿を助けてください」
(なんともまぁ……面倒なことに)
 バレル・ブラウリィ(ka1228)はそう思いつつも、命に危険が迫っているだろう人物を放ってはおけないため光頼にうなずいた。
「鬼を雇うために来て、その上助けてようとして連れ去られたなんて聞いて、俺達『鬼』が率先して動かなくてどうする」
 百鬼 雷吼(ka5697)は集落にいる鬼たちを見渡した。彼らの中にも助けに行くべきと簡単に武装している者がいるため、気持ちは通じていると安堵する。
「紅葉さんの周りも落ち着いてきたのかと思っていましたが……大事に至る前に救出しないといけませんね」
 ミオレスカ(ka3496)は以前に紅葉と同道した時は、彼女が憔悴している様子だった。それでも、別れ際には穏やかそうな未来が見えていたのだが。
「もちろん、すぐにでも参ろう」
 雪継・白亜(ka5403)は姉の名と同じ字の紅葉に対し、縁を感じ気持ちが急く。戦闘に役立つよう、袋に砂をつめて準備を始める、何かあったら目つぶしに使えるようにと。
「この地で生きるなら鬼も人間も同じだ。見捨てられない」
 キリエ(ka5695)は東方解放の大きな戦に間に合わなかった悔しさを、一人でも多くのヒトを救いたいと思う。
「戦うのは苦手だが……放っておけないし」
 エスクラーヴ(ka5688)は「故郷が懐かしい」と思う間もなく、依頼を受けてここに来たが自分の経験不足に不安が生じる。やれることを見つけて、必要に応じて戦おうと決意する。
「すまない。まだ、ここに定着しているとは言い難い面子で、下手に動いて足手まといになるかもしれない」
 武装をしている一人が言う、ついていくか否か。
「無理に来なくてもかまわない」
「そうだ、妖怪がいるなら手当の準備や近づかないということも重要だ」
 バレルと白亜が里の者を見て告げる。
「後々迷惑になるでしょうし倒してしまうつもりです」
 ミオレスカがうなずきながら付け足した。
「まずはお嬢を助け出すだ、な」
 雷吼が愛刀の斬龍刀の柄に触れる。符術と共にこれも重要な力である。
「で、おおよその場所は見当ついているのか?」
 キリエが尋ねた所、目撃者たちが方向を教える。
 ハンターたちも聞けるだけの事は聞き、おおよその作戦を立て向かう。
 戦えない可能性がある紅葉を守るためにも、光頼に同道は頼んだ。武人である彼は、ひるまずについてくる気ではあった。

●捜索
 竹林は静寂が漂っている。
 風に揺れる竹の葉が立てる音が唯一耳に入ってくる。
 けもの道はいくつかあるが、洞窟に続く道にある足跡が新しいようだ。
「待て」
 バレルは道端に落ちている杖を見つける。地面を突いて歩くための物ではなく、武器として使う類の杖だ。
「紅葉さん持っていたと言いましたね」
 ミオレスカはこの道があっているという確信を得る。
「術の道具持っていれば……どうにかなる?」
 白亜が符術師である雷吼を見る。
「術の道具があり、余裕があれば。結局は状況次第だな」
 術も武器も完全ではないのだから仕方がない。
「行こうぜ。食われる前に見つけないと」
 キリエが前を見て言うと、エスクラーヴが拳を固めてうなずいた。

●接敵
 感づかれないような距離で一行は眺める。さすがに洞窟の中まで見えないが、大猿の妖怪と行動を共にしていたと見られる雑魔がいるため、そこにいると考えるのが妥当だ。
 猪型の雑魔が竹の生えていない所でくつろいでいる。一見するとほほえましいが、牙の形状、大きさ、毛並みを見ても猪ではないと分かり、そのような考えは消える。
 この洞窟に妖怪がいるか否かは推測である。何にせよ油断はできない。
 バレル、キリエ、エスクラーヴそして光頼が洞窟に回り込んで近づいていく。中に『いる』はすの人質を助ける為だ。
 彼らがギリギリ雑魔たちに近づいたところで、陽動でもある攻撃をミオレスカ、白亜そして雷吼が開始する。猪型の雑魔が気付いていないために、奇襲となる。
「さあ、行きますよ」
 ミオレスカは射程ギリギリなため、弓でもって攻撃を開始した。洞窟から目を離させるために有効と言える。
 雑魔に当たり、それらは午睡から覚め、矢が飛んできた方を見る。
「次は……」
 白亜がライフルで弱っている一体に攻撃をし撃破した。
「距離もあるからな」
 大きな武器を使うため、広さが必要で雷吼が前に出て抜刀する。術を使うにも距離が微妙なため、雑魔たちの標的になるにはちょうど良かった。
 雑魔たちは襲撃者に向かった。

 紅葉は狭い洞窟に妖怪に連れ込まれた。地面に押し付けられ、妖怪に上から見つめられる。荒い息とよだれが降ってきており、紅葉は顔をしかめる。
 いつ、首にガブリと来るのかと思うと怖かった。
 妖怪は紅葉の狩衣に手を掛けると破こうとしている。
「……ちょ、着物が邪魔って事?」
 救出が来る見込みがあるならば、この状況は時間稼ぎだが、殺されるだけならば時間を引き延ばされるだけだった。
 外で物音がし、妖怪が牙をむき威嚇をする。
 新たな敵なのか、助けが来たのか、紅葉は弓をぎゅっと握りしめる。もしもの時はこれでどうにかできるはずだから。
 妖怪は紅葉の衣を放さなかった。

 バレルは洞窟内を覗こうとしたが、動きを止める。後方にいたキリエとエスクラーヴと光頼を手で制した。
 大きな影が出てきた。ずるずると引きずる布が見える。
 エスクラーヴは息をのんだ。引きずられている布は人であり、抵抗をしているが無力に見えた。
 影である大きな猿のようなそれは止まった、まるで息をのむ音を聞きつけたように。そして、手に持つそれを振り上げた。
 バレルはマテリアルを活性化させ、妖怪が振るう手を狙ってバスターソードを振り下ろす。狙いは逸れたが十分な手ごたえはあった。
「てめぇの相手はこっちだ」
 キリエはロングソードを振るい牽制する。
 エスクラーヴは状況を見て、猿の持つ人を奪還する機会を模索する。
「きゃああ」
 妖怪は手に持っている布……紅葉で薙ぎ払おうとした。
 エスクラーヴは鈍器のような硬さと鞭のようなしなやかさを持つ攻撃を食らった。しかし、これはチャンスでもあった紅葉を掴むための。意識がもうろうとしていたが、なんとか紅葉の腰に張り付いて必死に引っ張られないようにする。
「あんたも手伝えよ」
 光頼は妖怪が持つ紅葉の狩衣を引き離そうと力を込めた。

●判断
 ミオレスカは射程が近くなった雑魔に対して、銃での攻撃に切り替えるか瞬間で決める。洞窟から大きな猿のような妖怪が現れたことにより、弓を手放し銃を引き抜いた。雑魔たちは引きつけてあるため、妖怪との射程を詰める。
 白亜は雑魔を攻撃するために攻撃をするが、避けられる。しかし、雑魔の意識は白亜の方に向いているためちょうどいい。
「てめらの相手は俺らだ」
 雷吼の気迫のこもった攻撃は雑魔に命中した。
 雑魔たちは報復とばかりに雷吼に向かう。よけきれずに攻撃を食らった。
「下がった方がいい」
 白亜は雑魔たちの一点集中にあわて、雷吼はそれに従うように札に手を伸ばしつつ後退する。

 バレルは妖怪の腕を落とすように攻撃を仕掛けるが、避けられた。
「うわっ」
「くっ」
 紅葉を抑えていたエスクラーヴと光頼が引きずられた。妖怪が紅葉を手放してくれればよいのだが、掴んだまま回避したため発生したこと。
「いい加減に離せ」
 キリエの攻撃もぎりぎりで避けられた。
 妖怪はようやく紅葉を手放した。そして、攻撃をせずに逃げ始める。
「その先は行かせません!」
 竹に登ろうと手を伸ばしている妖怪に対して、ミオレスカはマテリアルを込めて引き金を絞った。発射された弾は冷気を発し、妖怪の行動を阻害する。
 白亜は弱ってきている近くの雑魔を攻撃し、これを撃破する。
 バレルとキリエは妖怪に攻撃を加える。妖怪は意地があるのか必死に抵抗する。
 エスクラーヴは紅葉を背負うと戦場から離れ、林の中に向かう。それを光頼が武器を抜き、守る。
 簡単に逃げられないと判断した妖怪は、近くにいるキリエを攻撃した。その拳はキリエにめり込む。
「急急如律令」
 雷吼は札にマテリアルを込め、術を発動させる。炎は雑魔を襲った。
 猪型雑魔は逃げるように、目の前の雷吼から白亜に目標を変え突進した。
「うっ」
 かすられて白亜はかすかに眉をしかめた。
「これで終わりだ」
 静かにバレルは武器を振るった。
 攻撃をよけきれなかった妖怪は恨みのこもった目を向け、断末魔を上げた。
 猪型雑魔は親分のような妖怪がやられたことにより、パニックなったのか突進を始めた。多勢に無勢でもあり、奮闘したが塵となって消えた。

 離れたところでエスクラーヴは紅葉を抱えるようにしゃがんでいた。もしものことがあれば、光頼が守ってくれると思うが、気は張りつめる。それに、仲間の強さは感じ取っていた。
 戦いの音がやむ。
 ほっと息を吐き、エスクラーヴは紅葉を膝枕に寝かせた。紅葉が苦しそうではなく、きちんと息をしているのは確認した。
「このまま俺がこうしていいのか?」
 不意に不安が生じて光頼に尋ねた。
「女性であるあなたに問題はない……ところで、怪我はないか?」
 心配されてエスクラーヴは驚く。鬼が迫害されないどころか、人間に心配されるなど忘れてしまうようなことだったから。
「紅葉さんは」
 ミオレスカがやってきた。洞窟の中のチェックや、周りに危険がないかを見てから他の者は来ると言う。
 ちょうど紅葉が目を覚ます。しかし、最後の記憶が妖怪に振り回されたときだったため、第一声は鋭い悲鳴だった。
 がばっと起き上がり、ふらつく。エスクラーヴやミオレスカを見て目を瞬いている。
「あら?」
 状況を理解したらしい紅葉がおっとりとした声を上げたためか、光頼の膝の力が抜けた。
「もう大丈夫だ……それと、あなたが守った子どもは無事だ」
 悲鳴を聞きつけてやってきた状況になった白亜は、紅葉の横に座ると手の傷を見る。骨は砕かれていないし、出血も止まっている。
「それは良かった……ですが、迷惑かけちゃったんですね……皆さんに」
 紅葉はしょぼんとなる。側にいるエスクラーヴも外傷こそ目立たないが辛そうに見えるし、白亜も怪我をしているようだ。
「洞窟には問題ない」
 バレルがやってきて、紅葉の様子に首をかしげる。
「お嬢、無事で何より」
「何故か集中的に攻撃を受けたな……」
 キリエに肩を借りている雷吼は苦笑する。
 一層紅葉の表情が曇った。
「その……怪我をしているのは事実だが、治る物だ。そんな顔をしないでもらいたい」
 白亜はおずおずと言う。怪我はしても互いに無事だったのだから、笑って終わればいい。
 紅葉は白亜をじっと見つめる。彼女が言いたいことを理解し、淡く笑った。

●天ノ都で待っています
「うわあ、お姉ちゃん良かったよ」
 しゃがんだ紅葉の首に、テユカが抱きついて泣いた。優しく抱きしめられて余計にテユカはしがみつく。
「大江殿、なぜ一人で来たんですか」
「その方が速く行けるし……警戒されないと思ったのです」
 道中を考えると光頼の心配はもっともであるため、紅葉は顔を伏せる。
「そうですよね……気持ちはわかりますよ。分かりあいたい、協力したいということでしたら確かに」
 ミオレスカは紅葉の気持ちも光頼の言いたいことも分かる。身を守らないとならない所もあり、武力を見せると溝を深めるところもあるのだから。
「まあ、痛い目にも遭って、慎重になる……だろうし」
 ないな、とバレルは思った。風来坊というわけではないだろうが、行動力が高いことは明らかだ。それに、バレルの言葉の後、紅葉はハンターから視線を逸らしている。
 ぐいぐいとテユカが押していたため、紅葉が支えきれずに後ろによろめいた。
「力の加減知れよ」
 エスクラーヴがテユカに注意を促し引き離し、紅葉を支える。
「すまんの」
 集落の鬼が苦笑してテユカを祖父の下に戻す。
「それに、里の問題を解決してもらってかたじけない」
 頭を下げた。それに合わせて集まっていた者が謝意を示したお辞儀をした。
「縁があったから。それに、妖怪……歪虚がいなければこのような事件は起こらない」
 白亜は淡々と告げる。里に関しての事ではないし、世界全体に共通する話だ。
「そうそう、妖怪は退治して、俺たち鬼は前に進むしかねェんだ。協力できるならするだろう?」
 キリエの言葉に里の者たちは視線を逸らしたり、唇を噛んだりする。人間に迫害され、そして戻ってほしいと受け入れが始まったと言うのが今だ。
「大江の所のお嬢が雇おう、助けようなんてしたなんて聞いて、嬉しくて泣きそうだったよ」
 雷吼の言葉により、里の者は「あっ」と声を上げた者がある。
 武装をしていた鬼の一人が苦笑する。
「その件は、カネを稼げる機会を与えてくれるんだ、大江様が良いと言うなら俺ともう一人が警備兵として、テユカが内向きの仕事の為に……と考えている」
 もう一人と言う男が手を上げる。テユカが横で緊張して返答を待つ。
 紅葉は驚く。
「それであんたの目的も達成できただろう?」
 バレルに言われて紅葉はうなずいた。
「テユカさんはまだ子どもですよね? きちんと読み書きそろばんも教えます」
「……えっ」
 テユカが悲鳴を上げる。
「重要だな、それは」
 雷吼がまじめな顔でうなずく。
「騙されないようにするには重要だ」
 キリエは別の観点からも告げる。
 エスクラーヴも「言葉はなぁ」とうなずいている。
「これで、紅葉さんも落ち着けますね」
 ミオレスカがにこりと言うが、紅葉の目が泳いだ。
「紅葉……それだとまずいのでは」
 白亜には紅葉が何かあったら騒動の渦中にいるような気がしてそわそわした。
 バレルは「ああ、やっぱり」と言う顔になり、愕然となっている光頼を見つめて苦笑を漏らす。
「では、準備もあるでしょうから、後日、私の屋敷にて会いましょう」

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 4
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 堕落者の暗躍を阻止した者
    バレル・ブラウリィ(ka1228
    人間(蒼)|21才|男性|闘狩人
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 冒険者
    雪継・白亜(ka5403
    人間(紅)|14才|女性|猟撃士
  • 鬼メイド
    エスクラーヴ(ka5688
    鬼|15才|女性|格闘士
  • 豪儀なる槍撃
    キリエ(ka5695
    鬼|27才|男性|闘狩人
  • 撃退士
    百鬼 雷吼(ka5697
    鬼|24才|男性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦相談
雪継・白亜(ka5403
人間(クリムゾンウェスト)|14才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/10/19 14:45:09
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/10/16 19:24:57