ゲスト
(ka0000)
【闇光】戦略的御使行為
マスター:墨上古流人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/23 19:00
- 完成日
- 2015/10/31 02:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
◆
「お祭りしたかったなぁ……」
深く湿り気を帯びて白い息が地表に落ちてゆく。
帝国第九師団――救援部隊の師団長、ユウ=クヴァールは大きく広げた地図の上で頬杖を突き、
駒を指の腹で弄び何度目かの溜息を吐いた。
「汗と威勢が飛び交うならまだしも、あいにく飛び交うのは血と涙と来たもんだ……サボってねーで働け」
バン、とユウの目の前に書類の束を叩き付けるのは、副師団長のリベルトだ。
傷こと深いものはないものの、身に纏う装備は既にぼろぼろだ。
現在、帝国第九師団は自身らの皇帝であるヴィルヘルミナが唱えた北狄侵攻の為に、
後方にて支援部隊を展開していた。
ある程度の想定はしていたものの、乱発する強敵との戦闘や慣れない寒冷地での継戦により、
常にキャンプはフル稼働をしていた。
「帰って落ち着いたら、絶対ラオネンでやるよ、お祭り」
「戦場での約束はやめとけ、地獄までレッドカーペットで案内されるぞ」
「大丈夫だよ、僕ら白衣の天使だから、行先は地獄じゃないハズだよ」
「サボってないって言いながら祭りの企画書書いちゃうような、白衣のペテン師の行先はこちらでーす」
徐にユウが据わっていたテントの後ろをめくると、鋭い寒気がここぞとばかりに簡易指令室の中へと入り込んできた。
「わ、わ、待って、待って、持ってきてたのちょっと見てただけだってー」
「俺だからよかったものの、部下とか怪我人に見られたら示しがつかねーだろーが! このまま頭冷やしやがれ!」
テントの裾を下げようとするユウと上げようとするリベルトの攻防が続く。
よれよれになったテント地は、報告に来た師団の者の入室によって、何事もなかったように瞬時に元に戻された。
「なんでテント捲ってたんですか……?」
『メクッテナイヨ』
「いや、だって寒いですよ……?」
『サムクナイヨ』
妙に仲良く声をそろえる二人に『?』を浮かべながら、女性の師団員は口を開こうとした。
「何台分ぐらい足りないの?」
ユウが先に突いた言葉に、今度はリベルトが『?』を浮かべるが、師団員は開きかけの口を驚いたようにそのままにしていた。
「魔導トラックいっぱいに、3台分ぐらいです……」
「そう思って、補給に回せるのを3台表に回しておいたよ、物資の手配もしておいた。問題は受け取り先が少し遠いのと、誰を行かせるかだね」
「おい、何の話だよ」
「物資の使い方見てたらね、当初の想定より明らかに減りが早いんだ」
困ったもんだね、と口をとがらせて、魔導トラックを模した駒を地図の上に3台配置する。
「は? おい、ちょっと待てよ。ちょっとした村なら2週間働かなくても贅沢に過ごせる量だったハズだぞ」
「粗悪品の混入や虚偽の数の申請は確認されませんでした、物品の仕入れにも信頼できる『事務所』を使ったので、恐らく師団内の担当の数字の確認ミスか……」
「うーん……その可能性も否定できないけど、単純に、慣れない戦闘にやられたんだと思うよ」
コツコツ、とペン先を紙に打ち付けながら、ユウが複雑な顔をする。
「もちろん一番は剣妃のオルクスや十三魔のレチタティーヴォの部隊が強いっていうのがあると思うよ。ただ、領域の汚染の影響は高くない、とはいえ影響が全く無い訳でもない。併せて寒冷地、万全に対策したとはいえ、実際に動いてみると違ったってことなんじゃないかな……特に僕らは、救援という特性上戦場はあっちこっち行き来するし、看護の為に非覚醒者も多いから、そういう人たちがフル稼働したら『救護役という自分達を保つ』ためにもの多く分も使っちゃうだろうし……」
「俺だってその辺は織り込んでこの物資量で承認上げたんだぜ? それほどこの戦いは厳しいって事かよ……」
いらついたように後頭部を掻くと、部屋の隅の箱を漁りだすリベルト。
「とりあえず俺がいくぜ、後は……うちのメンバーが抜けたらそれこそ負荷かかっちまうな、ハンター何人か連れてくぞ」
「うん、お願いね」
ナイフを何本かホルスターに収め、残る2人を一瞥してからテントを出ていくリベルト。
「険しい顔してましたね……よほど思いつめているのでしょうか」
「いや、どうせ捲るならこの子のスカートの方が、いや、そのスカートにしまったシャツの裾というのも捨てがたい……帰ったら絶対口説いてやる、とか思ってたんじゃないかなぁ」
「やっぱりテント捲ってたんじゃないですか。それに、ダメですよ。戦場での約束は、縁起が悪いです」
師団員にへらっ、と笑いかけてから、ユウはその顔を伏せるように地図へと向けた。
戦いへの憂いを、顔に出さないように。
「お祭りしたかったなぁ……」
深く湿り気を帯びて白い息が地表に落ちてゆく。
帝国第九師団――救援部隊の師団長、ユウ=クヴァールは大きく広げた地図の上で頬杖を突き、
駒を指の腹で弄び何度目かの溜息を吐いた。
「汗と威勢が飛び交うならまだしも、あいにく飛び交うのは血と涙と来たもんだ……サボってねーで働け」
バン、とユウの目の前に書類の束を叩き付けるのは、副師団長のリベルトだ。
傷こと深いものはないものの、身に纏う装備は既にぼろぼろだ。
現在、帝国第九師団は自身らの皇帝であるヴィルヘルミナが唱えた北狄侵攻の為に、
後方にて支援部隊を展開していた。
ある程度の想定はしていたものの、乱発する強敵との戦闘や慣れない寒冷地での継戦により、
常にキャンプはフル稼働をしていた。
「帰って落ち着いたら、絶対ラオネンでやるよ、お祭り」
「戦場での約束はやめとけ、地獄までレッドカーペットで案内されるぞ」
「大丈夫だよ、僕ら白衣の天使だから、行先は地獄じゃないハズだよ」
「サボってないって言いながら祭りの企画書書いちゃうような、白衣のペテン師の行先はこちらでーす」
徐にユウが据わっていたテントの後ろをめくると、鋭い寒気がここぞとばかりに簡易指令室の中へと入り込んできた。
「わ、わ、待って、待って、持ってきてたのちょっと見てただけだってー」
「俺だからよかったものの、部下とか怪我人に見られたら示しがつかねーだろーが! このまま頭冷やしやがれ!」
テントの裾を下げようとするユウと上げようとするリベルトの攻防が続く。
よれよれになったテント地は、報告に来た師団の者の入室によって、何事もなかったように瞬時に元に戻された。
「なんでテント捲ってたんですか……?」
『メクッテナイヨ』
「いや、だって寒いですよ……?」
『サムクナイヨ』
妙に仲良く声をそろえる二人に『?』を浮かべながら、女性の師団員は口を開こうとした。
「何台分ぐらい足りないの?」
ユウが先に突いた言葉に、今度はリベルトが『?』を浮かべるが、師団員は開きかけの口を驚いたようにそのままにしていた。
「魔導トラックいっぱいに、3台分ぐらいです……」
「そう思って、補給に回せるのを3台表に回しておいたよ、物資の手配もしておいた。問題は受け取り先が少し遠いのと、誰を行かせるかだね」
「おい、何の話だよ」
「物資の使い方見てたらね、当初の想定より明らかに減りが早いんだ」
困ったもんだね、と口をとがらせて、魔導トラックを模した駒を地図の上に3台配置する。
「は? おい、ちょっと待てよ。ちょっとした村なら2週間働かなくても贅沢に過ごせる量だったハズだぞ」
「粗悪品の混入や虚偽の数の申請は確認されませんでした、物品の仕入れにも信頼できる『事務所』を使ったので、恐らく師団内の担当の数字の確認ミスか……」
「うーん……その可能性も否定できないけど、単純に、慣れない戦闘にやられたんだと思うよ」
コツコツ、とペン先を紙に打ち付けながら、ユウが複雑な顔をする。
「もちろん一番は剣妃のオルクスや十三魔のレチタティーヴォの部隊が強いっていうのがあると思うよ。ただ、領域の汚染の影響は高くない、とはいえ影響が全く無い訳でもない。併せて寒冷地、万全に対策したとはいえ、実際に動いてみると違ったってことなんじゃないかな……特に僕らは、救援という特性上戦場はあっちこっち行き来するし、看護の為に非覚醒者も多いから、そういう人たちがフル稼働したら『救護役という自分達を保つ』ためにもの多く分も使っちゃうだろうし……」
「俺だってその辺は織り込んでこの物資量で承認上げたんだぜ? それほどこの戦いは厳しいって事かよ……」
いらついたように後頭部を掻くと、部屋の隅の箱を漁りだすリベルト。
「とりあえず俺がいくぜ、後は……うちのメンバーが抜けたらそれこそ負荷かかっちまうな、ハンター何人か連れてくぞ」
「うん、お願いね」
ナイフを何本かホルスターに収め、残る2人を一瞥してからテントを出ていくリベルト。
「険しい顔してましたね……よほど思いつめているのでしょうか」
「いや、どうせ捲るならこの子のスカートの方が、いや、そのスカートにしまったシャツの裾というのも捨てがたい……帰ったら絶対口説いてやる、とか思ってたんじゃないかなぁ」
「やっぱりテント捲ってたんじゃないですか。それに、ダメですよ。戦場での約束は、縁起が悪いです」
師団員にへらっ、と笑いかけてから、ユウはその顔を伏せるように地図へと向けた。
戦いへの憂いを、顔に出さないように。
リプレイ本文
◆
「おお、寒い寒い。コートを着てこなかったら凍えてしまうところですよぉ」
切り刻むような冷たい空気と、ハンドルに伝わる激しい揺れ。
白くなった片手に息をあてて、アシュリー・クロウ(ka1354)が言った。
「ずっと運転を続けると疲れますので、短時間でしたら、交代しますからね」
師団に申請して貸与された簡素な双眼鏡から目を離し、助手席のミオレスカ(ka3496)がアシュリーに言うと、
アシュリーはまだ大丈夫ですよぉ、と健康的な八重歯を見せて笑った。
そのトラックの荷台には、アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)が立ち、
運転席と助手席の屋根部分に肘をついて風を切っていた。
傍から見れば見通しの良い景色とトラックの荷台という状況を楽しんでいるように見えるが(実際楽しんでいたかもしれないが)
肘で抑えるのは色々書き込みが加えられた道中の地図、目や耳、鼻が捉えるのは自然だけではなく敵の気配。
襲撃に備えて荷台で警戒を担当していた。
「輸送任務というやつだな。大王たるもの兵站を軽視してはいけないからな。言われた以上はベストを尽くすのが大王だ」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は中央の車両の助手席にて、同乗していた。
戦馬を連れてきており、行きは荷台に乗せられるが、帰りは積荷でいっぱいになるので、並走の形を取るらしい。
「さあ皆の者、この任務を必ず達成しようではないか!」
「大王より賜りしお言葉であるー、皆の者聞こえるかー?」
運転をしながら、状況確認も込めて無線のスイッチを入れていたのは、第九師団副師団長のリベルトだ。
暑がりらしく、窓から吹き込む風を涼しげに髪と顔に受けていた。
「聞こえてますよっ。あ、おやつはいくらまででしたかっ!」
「うむ、大王は狭量ではないからな、好きなだけ持ち込んでいて良いぞ!」
無線に喜びの声を返すのはソフィア =リリィホルム(ka2383)だ。彼女も先頭車両で荷台に立ち、前方左右の警戒をしていた。
「その"おやつ"すらないからお使いに行ってると思ったのですが……」
同じく荷台に居たのは雨月彩萌(ka3925)出発前に、
『聞けばリベルト副師団長はマイペースな師団長に振り回される事の多い苦労人とか。わたしも変人な兄に振り回されることが多いので、お気持ちお察しします』
とリベルトに挨拶を済ませ、リベルトからは泣きそうな顔で「わかってくれるか……」と言われていたが、
もしかしたら苦労人は、マイペースを引き寄せるのかもしれない。
「うぅぅ、寒いっ。外の作業は慣れてるけど……寒いの苦手ー!」
暖かそうだなーと助手席に目をやると、そこには熊のぬいぐるみを抱えてコートを着込んだヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207)がいる。
「……仕方無いじゃない、これが遠距離武装で一番強いんだもの」
ぬいぐるみを撫でつつ、数キロ先での交代を提案するべく荷台と運転席をつなぐ小窓から無線機を受け取り連絡する。
内容を聞いてから、承知した、とゆっくりうなずくのは運転席の明王院 蔵人(ka5737)
無線を用意したのは彼で、他にもブーツに唐辛子を入れたり、悪路にタイヤをとられた際の脱出用にスコップや土嚢等、
細かい用意を色々行っていた。
(オヤ……)
最初は簡素なメモ書き程度の記入が、段々キラキラしてきたり小さなアルヴィンのようなものが書き込まれてきた地図から目を離すと、
前方上空に飛来する影を見つけた。
「サテ、チョットソコまでお使いに行かセテもらおうカ」
ペンを置いて無線を取り、アルヴィンが口元で誰に囁くでもなく言った。
◆
「来ましたか……」
運転席の屋根の角に魔導銃を斜めに置き、銃身を安定させる彩萌。
フロントサイトのひとつの突起と、リアサイトのふたつの突起、高さを合わせて、左右の幅を合わせて―――
敵に合わせる。赤子を撫でるように引かれたトリガーが、的確に鳥型雑魔の体を穿った。
「リベルト殿?」
「停まらんでもいいんじゃねーか? お互いのこのスピードなら交戦距離も短くなるだろうし、振りきれんだろ」
蔵人の問いかけに、リベルトが判断して鼻唄交じりでハンドルを持つ。
既に2体目が、ソフィアの銀の銃から伸びる一条の弾丸に撃ち落とされていた。
肉眼でもハッキリわかる距離になると、鳥は頭を下げて急降下を始める。
鋭く向かう先は、トラックのフロントガラス。
そんな鳥型と目が合うのは蔵人ではなく、ひょこ、と助手席のガラスから顔を出した熊。
両手で傾けるようにフリーデが持つぬいぐるみ。口からは可愛らしい鳴き声、ではなく、微かな銃口。
幼気が狂気へと変わり、くまんてぃーぬの弾丸は鳥へと喰らいついた。
「コノママ進むと森が出テクルネ。針葉樹林みたいダカラ突撃は防ゲソウダシ、結構深そうダカラ上手く撒ケルカモネ」
アルヴィンが地図に目を落とすと、シャドウブリットを唱えていた口を噤み無線で連絡を飛ばす。
それを合図に、三台は一斉にエンジンを猛回転させる。当たらなくても良い、牽制目的で銃弾が飛び交う。
ミオレスカの矢が細く尖った枝葉を掠ったのが、ハンター達への一時の安堵の合図となった。
◆
森を抜けて街で物資の積込が最終段階に入った頃、
街中を見渡してから彩萌は判断し難い表情をしていた。
彼らの目的地は、普通に街、と呼ぶにはとても荒廃しきっていた貧しい集落だった。
かつては栄えたであろう石造りの門や家も、所々崩れていて、
街を歩く者は老若男女問わず細く痩せこけ、不衛生な佇まいをしていた。
「よーし、これで全部だな。悪いな町長、また今度フォローすっから」
「いえいえ、師団の皆さんにはいつもよくして頂いていますからな……また来てくだされ」
責任者らしき老人に声をかけるリベルト。
横ではアルヴィンとソフィアが積荷を荷台に固定するべく紐を巻いていた。
救援物資としては充分な量だ。
だが、この街が生活していくには、かなり厳しくなる量だろう。
「ふむふむ、飢えた街から物資を回収する救援部隊、これは色々複雑な話を展開出来そうなネタですねぇ」
アシュリーはメモを片手に、トラックへと群がる街人へ色々と聞いてまわっている。
「戦場と戦場を構成する仕組み、学ぶこともわたしの仕事です。そしてこれがわたしの正常を証明する事になる……」
軍と民、有事とあらば応じるのは当然、それは確かに戦場を構成する仕組み。
だが、日々を暮すのも厳しい街から、明日生きられるかもわからない量の物資を徴収していく。
何を正常ととるか、世間の正常に合わせるのか、自身で正常を判断するのか……
暗い中の行軍は危険と判断し、一行は街で休み明るくなるのを待ってから街を出た。
◆
帰りの行軍は順調に進み、重くなった荷台にハンドルを取られないよう注意しながらドライバーは運転を続ける。
キャンプも近づき、新しく雪が降ったのか、一面が薄く真っ平になっていた。
ふと、道の途中で後方を向けて停車している車のようなものが一同の目に入った。
「うーん、なんだろ。少し様子を見てきますっ」
ソフィアが降り、近づいていくと2台の車2台のバイク、6人の男が困った顔で立っていた。
「あぁ、ちょうど良い所に。どうも穴にハマっちまったようでして……縄とかスコップとかお持ちでないですか?」
1人、初老の男がソフィアへと声をかける。
「あら、それは大変ですね。待っててください、今仲間を呼びますのでっ」
無線でこちらへ来るように指示するソフィアに、2人の男が後ろから近付く。
「お嬢ちゃんも俺達の仲間になるんだぜぇ、大人しくしな!」
背を向けたソフィアへナイフを振りかぶる男達。
ソフィアは背を向けたまま、後ろへ手を伸ばす。男の鳩尾に、銃口が突きつけられる。
鋭い流し目は、吹き飛ぶ男を捉える。次いでトラックより放ったアルヴィンの銃弾がもう1人の男の手を吹き飛ばした。
「来ル時ソコに穴ハ無かったシ、轍が無イのも残念賞、ダッタネ」
待ち構えていた野盗達は、一斉に態度を変えて武器を抜き出す。
「あらら……これはまた困ったことになりましたねぇ。どうします?」
「今なら急いで近づけば回収して振りきれん事もなさそうだが」
「そうだな、逃げるか」
アシュリーと蔵人の思案に、リベルトが後押しを入れる。
「あー聞こえるかソフィア。俺達は一刻も早く荷物を届けなきゃならねーのはわかるな。だから、すまん! まぁお前なら余裕だろ?」
「やだなぁ、本気で言ってますー?」
無線越しの会話だが、いつも通りあざとい口調。だがこっちにいい顔を向けてから、起き上がろうとした男の足へ銃弾を撃ち込んだ。
「冗談だからその銃はこっちに向けるなよ……? ところで諸君。確実な逃亡……ベッドに入る時に一抹の不安も残さねぇ、確実な逃亡ってなんだと思う?」
武器を持ち、トラックを降りたミオレスカがきょと、とした顔をしてリベルトを見上げる。
「それはな……追いかけてくる敵を殲滅して、その上で逃げる事だ」
にやり、と嫌な笑い方をしてから、リベルトはトラックから飛び出ていった。1人の男へ近づくと、反応すらさせずナイフを首に刺し、
勢いのまま背中から地面へと叩き付けた。
なるほどな……と小さく息を吐き、蔵人が銃を放つ。2回、3回、まずは足を封じるべく、敵車両のタイヤを壊していった。
「うむ、このうえなくシンプルだな! 大王たるもの、敵がどのように来たとしても堂々と相手しようぞ!」
前線に出るリベルトを追いかけディアドラが前に立つ。
「チビが!」
1人の男が向かってくるディアドラへ斧を振り下ろす。
避けるでもなく、ディアドラはそれを盾で真正面から受け止める。
男は盾を蹴って体制を崩そうとするが、ディアドラの両の足はしっかりと地面を踏んだまま。
そのまま掬い上げるように勢いよく盾を上げると、男は後頭部から地面へと転倒していった。
フォローに回ろうとした別の男のつま先へ、足と地面へ縫い付けるように矢が放たれる。
ミオレスカの遠距離からの弓は冷気を纏い、男の行動を著しく阻害した。
体制を崩した相手に、彩萌のフリューゲルが狙いを定める。
させまい、と敵がクロスボウを彩萌へと放つが、彩萌は眼前に迫る矢を咄嗟に銃身で弾く。
ディアドラがクロスボウを放った敵へ突撃し、剣を振りかぶるが、盾を構えてフェイント。
ここだ―――静かに構え直した銃、照準に捉え、息を吐き、引き金を弾く。
全てが定められていたかのように一瞬で処理され、弾丸は必然のように敵へ飲みこまれていった。
突如、側面から2つの騒音が響いてくる。
見れば、バイクに乗った2人の増援が駆けつけたようだ。
一目散に向かう先は、トラックの荷台。
ミオレスカは急ぎ持てるだけの矢を持ち、空へと放つ。
鋭く刺さる制圧射撃が、敵のバイクの行動範囲を制限した。
アシュリーが制圧射撃の進路を読み、前に出てバイクとトラックの間に立つ。
轢き殺さんとする勢いで迫るバイクをギリギリまで引きつける。
「怖気づいたかぁ!」
ヤケかスピードのためか、ギリギリで横に逸れたアシュリーへ罵声を浴びせる。
だが、アシュリーはニヤッと悪戯な笑みを浮かべてチャクラムを取り出す。
すれ違う刹那、近距離で、確実に、バイクの機軸付近へチャクラムを突きこんだ。
前輪の自由を失ったバイクから、敵はカタパルトのように上空へと放り出されていった。
いいネタは最後まで追いかける、と言わんばかりに宙を泳ぐ男を追いかける。
弧が落下を描き始めたところで、エストックを抜く。
弓のように肘を引き絞り、眼前に捉えたところで勢いよく放たれる突き。
男は願いどおり物資へ到着したが、ピンボールのように、骨を砕く勢いで叩きつけられ、ずるりと意識を失った。
アシュリーの背後では近距離で男が散弾銃を構える。その様子を曲がったミラーから確認すると、
トラックの側面を駆けのぼるように足を運ぶアシュリー。
弧を描きすとん、と男の背後に落ちる。慌てて振り向く男の銃を、エストックの刀身と先端でちょちょいと絡めるように払い飛ばす。
拾おうとした銃を、手と共に踏みつけられる。見上げれば、ジャンクガンを構えた蔵人が威圧的に男を見下ろしていて、そのまま動くことはできなくなった。
交戦距離が縮まり、フリーデはシュテルンピースを取り出す。
近づくもう1台のバイクの後車輪へ、ミオレスカが正確に1射。
減速し慣性で進んでくるバイクを、フリーデが横にした槍で受け止める。
その隙に、ミオレスカは次の矢を番える事が出来た。
男が銃を取り出すよりも早く、横凪ぎの槍がシートから男を弾き飛ばし、
その一瞬浮いた所へ、ミオレスカの矢が深く突き刺さっていった。
堪えるように矢が刺さった肩をおさえ、痛みを忘れるように叫びながら銃を向ける男。
「黙りなさいっ」
ぼふ、と投じられた柔らかいものに口を遮られる男。見れば、それは熊のぬいぐるみ。
状況を察するのに時間がかかる。気付いたのは、ディアドラが接近し手を熊の中に入れ、かち、という何かの軽い音を聞いた後だった。
先へ行かせまいと立ち塞がるディアドラへ、2本のナイフを構えた男が肩で息をして襲い掛かる。
王は凶刃を押し返すように剣で突きの連撃を撃ちこんでいく。
両の手を弾かれた男へ向けられた彩萌の銃口、その先端に集まる光の欠片はやがて一つの塊となり―――
一条の光へと爆発した機導砲は、男の胸を強く焼き貫いた。
乱戦の隙に荷台へ近づいた男、荷物に手をかけようとしたところで頭部に、べこん、という音と共に衝撃が圧し掛かる。
「お預け、ダヨ」
荷台からアルヴィンが盾で窘めるように叩き、面を喰らった男は気づかぬうちに、
アルヴィンのワイヤーウィップでぐるぐると荷台へ巻きつけられてしまった。
「このまま出すのか?」
粗方の脅威を払い終え、荷台に『積まれた』ままの男を見て蔵人が言う。
持ち帰った所で余裕が無いとし、タイヤを壊し、エンジンだけはかけられるようにした敵のトラックと共に放置していった。
◆
その後、補給物資は無事想定の時間内に、充分な量を運ぶことが出来た。
人手も足りなかったので、そのまま続けて師団の手伝いをお願いされたハンターもいるとかいないとか。
アシュリーの取材依頼は、物資が到着してなお忙しくなったので、まだまだ時間がかかりそうだ。
「ゴメンねー。今度何かで埋め合わせるから……どうしたの? リベルト」
「……いや、なんでもねぇ。ほら、次の迎えに行くぞ。1人残らず連れて帰ってやらねーとな」
何が正常――彩萌のフレーズが感染っちまったか。
何かを振り払うように眺めていた箱をあけ、リベルトは駆けていった。
「おお、寒い寒い。コートを着てこなかったら凍えてしまうところですよぉ」
切り刻むような冷たい空気と、ハンドルに伝わる激しい揺れ。
白くなった片手に息をあてて、アシュリー・クロウ(ka1354)が言った。
「ずっと運転を続けると疲れますので、短時間でしたら、交代しますからね」
師団に申請して貸与された簡素な双眼鏡から目を離し、助手席のミオレスカ(ka3496)がアシュリーに言うと、
アシュリーはまだ大丈夫ですよぉ、と健康的な八重歯を見せて笑った。
そのトラックの荷台には、アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)が立ち、
運転席と助手席の屋根部分に肘をついて風を切っていた。
傍から見れば見通しの良い景色とトラックの荷台という状況を楽しんでいるように見えるが(実際楽しんでいたかもしれないが)
肘で抑えるのは色々書き込みが加えられた道中の地図、目や耳、鼻が捉えるのは自然だけではなく敵の気配。
襲撃に備えて荷台で警戒を担当していた。
「輸送任務というやつだな。大王たるもの兵站を軽視してはいけないからな。言われた以上はベストを尽くすのが大王だ」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は中央の車両の助手席にて、同乗していた。
戦馬を連れてきており、行きは荷台に乗せられるが、帰りは積荷でいっぱいになるので、並走の形を取るらしい。
「さあ皆の者、この任務を必ず達成しようではないか!」
「大王より賜りしお言葉であるー、皆の者聞こえるかー?」
運転をしながら、状況確認も込めて無線のスイッチを入れていたのは、第九師団副師団長のリベルトだ。
暑がりらしく、窓から吹き込む風を涼しげに髪と顔に受けていた。
「聞こえてますよっ。あ、おやつはいくらまででしたかっ!」
「うむ、大王は狭量ではないからな、好きなだけ持ち込んでいて良いぞ!」
無線に喜びの声を返すのはソフィア =リリィホルム(ka2383)だ。彼女も先頭車両で荷台に立ち、前方左右の警戒をしていた。
「その"おやつ"すらないからお使いに行ってると思ったのですが……」
同じく荷台に居たのは雨月彩萌(ka3925)出発前に、
『聞けばリベルト副師団長はマイペースな師団長に振り回される事の多い苦労人とか。わたしも変人な兄に振り回されることが多いので、お気持ちお察しします』
とリベルトに挨拶を済ませ、リベルトからは泣きそうな顔で「わかってくれるか……」と言われていたが、
もしかしたら苦労人は、マイペースを引き寄せるのかもしれない。
「うぅぅ、寒いっ。外の作業は慣れてるけど……寒いの苦手ー!」
暖かそうだなーと助手席に目をやると、そこには熊のぬいぐるみを抱えてコートを着込んだヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207)がいる。
「……仕方無いじゃない、これが遠距離武装で一番強いんだもの」
ぬいぐるみを撫でつつ、数キロ先での交代を提案するべく荷台と運転席をつなぐ小窓から無線機を受け取り連絡する。
内容を聞いてから、承知した、とゆっくりうなずくのは運転席の明王院 蔵人(ka5737)
無線を用意したのは彼で、他にもブーツに唐辛子を入れたり、悪路にタイヤをとられた際の脱出用にスコップや土嚢等、
細かい用意を色々行っていた。
(オヤ……)
最初は簡素なメモ書き程度の記入が、段々キラキラしてきたり小さなアルヴィンのようなものが書き込まれてきた地図から目を離すと、
前方上空に飛来する影を見つけた。
「サテ、チョットソコまでお使いに行かセテもらおうカ」
ペンを置いて無線を取り、アルヴィンが口元で誰に囁くでもなく言った。
◆
「来ましたか……」
運転席の屋根の角に魔導銃を斜めに置き、銃身を安定させる彩萌。
フロントサイトのひとつの突起と、リアサイトのふたつの突起、高さを合わせて、左右の幅を合わせて―――
敵に合わせる。赤子を撫でるように引かれたトリガーが、的確に鳥型雑魔の体を穿った。
「リベルト殿?」
「停まらんでもいいんじゃねーか? お互いのこのスピードなら交戦距離も短くなるだろうし、振りきれんだろ」
蔵人の問いかけに、リベルトが判断して鼻唄交じりでハンドルを持つ。
既に2体目が、ソフィアの銀の銃から伸びる一条の弾丸に撃ち落とされていた。
肉眼でもハッキリわかる距離になると、鳥は頭を下げて急降下を始める。
鋭く向かう先は、トラックのフロントガラス。
そんな鳥型と目が合うのは蔵人ではなく、ひょこ、と助手席のガラスから顔を出した熊。
両手で傾けるようにフリーデが持つぬいぐるみ。口からは可愛らしい鳴き声、ではなく、微かな銃口。
幼気が狂気へと変わり、くまんてぃーぬの弾丸は鳥へと喰らいついた。
「コノママ進むと森が出テクルネ。針葉樹林みたいダカラ突撃は防ゲソウダシ、結構深そうダカラ上手く撒ケルカモネ」
アルヴィンが地図に目を落とすと、シャドウブリットを唱えていた口を噤み無線で連絡を飛ばす。
それを合図に、三台は一斉にエンジンを猛回転させる。当たらなくても良い、牽制目的で銃弾が飛び交う。
ミオレスカの矢が細く尖った枝葉を掠ったのが、ハンター達への一時の安堵の合図となった。
◆
森を抜けて街で物資の積込が最終段階に入った頃、
街中を見渡してから彩萌は判断し難い表情をしていた。
彼らの目的地は、普通に街、と呼ぶにはとても荒廃しきっていた貧しい集落だった。
かつては栄えたであろう石造りの門や家も、所々崩れていて、
街を歩く者は老若男女問わず細く痩せこけ、不衛生な佇まいをしていた。
「よーし、これで全部だな。悪いな町長、また今度フォローすっから」
「いえいえ、師団の皆さんにはいつもよくして頂いていますからな……また来てくだされ」
責任者らしき老人に声をかけるリベルト。
横ではアルヴィンとソフィアが積荷を荷台に固定するべく紐を巻いていた。
救援物資としては充分な量だ。
だが、この街が生活していくには、かなり厳しくなる量だろう。
「ふむふむ、飢えた街から物資を回収する救援部隊、これは色々複雑な話を展開出来そうなネタですねぇ」
アシュリーはメモを片手に、トラックへと群がる街人へ色々と聞いてまわっている。
「戦場と戦場を構成する仕組み、学ぶこともわたしの仕事です。そしてこれがわたしの正常を証明する事になる……」
軍と民、有事とあらば応じるのは当然、それは確かに戦場を構成する仕組み。
だが、日々を暮すのも厳しい街から、明日生きられるかもわからない量の物資を徴収していく。
何を正常ととるか、世間の正常に合わせるのか、自身で正常を判断するのか……
暗い中の行軍は危険と判断し、一行は街で休み明るくなるのを待ってから街を出た。
◆
帰りの行軍は順調に進み、重くなった荷台にハンドルを取られないよう注意しながらドライバーは運転を続ける。
キャンプも近づき、新しく雪が降ったのか、一面が薄く真っ平になっていた。
ふと、道の途中で後方を向けて停車している車のようなものが一同の目に入った。
「うーん、なんだろ。少し様子を見てきますっ」
ソフィアが降り、近づいていくと2台の車2台のバイク、6人の男が困った顔で立っていた。
「あぁ、ちょうど良い所に。どうも穴にハマっちまったようでして……縄とかスコップとかお持ちでないですか?」
1人、初老の男がソフィアへと声をかける。
「あら、それは大変ですね。待っててください、今仲間を呼びますのでっ」
無線でこちらへ来るように指示するソフィアに、2人の男が後ろから近付く。
「お嬢ちゃんも俺達の仲間になるんだぜぇ、大人しくしな!」
背を向けたソフィアへナイフを振りかぶる男達。
ソフィアは背を向けたまま、後ろへ手を伸ばす。男の鳩尾に、銃口が突きつけられる。
鋭い流し目は、吹き飛ぶ男を捉える。次いでトラックより放ったアルヴィンの銃弾がもう1人の男の手を吹き飛ばした。
「来ル時ソコに穴ハ無かったシ、轍が無イのも残念賞、ダッタネ」
待ち構えていた野盗達は、一斉に態度を変えて武器を抜き出す。
「あらら……これはまた困ったことになりましたねぇ。どうします?」
「今なら急いで近づけば回収して振りきれん事もなさそうだが」
「そうだな、逃げるか」
アシュリーと蔵人の思案に、リベルトが後押しを入れる。
「あー聞こえるかソフィア。俺達は一刻も早く荷物を届けなきゃならねーのはわかるな。だから、すまん! まぁお前なら余裕だろ?」
「やだなぁ、本気で言ってますー?」
無線越しの会話だが、いつも通りあざとい口調。だがこっちにいい顔を向けてから、起き上がろうとした男の足へ銃弾を撃ち込んだ。
「冗談だからその銃はこっちに向けるなよ……? ところで諸君。確実な逃亡……ベッドに入る時に一抹の不安も残さねぇ、確実な逃亡ってなんだと思う?」
武器を持ち、トラックを降りたミオレスカがきょと、とした顔をしてリベルトを見上げる。
「それはな……追いかけてくる敵を殲滅して、その上で逃げる事だ」
にやり、と嫌な笑い方をしてから、リベルトはトラックから飛び出ていった。1人の男へ近づくと、反応すらさせずナイフを首に刺し、
勢いのまま背中から地面へと叩き付けた。
なるほどな……と小さく息を吐き、蔵人が銃を放つ。2回、3回、まずは足を封じるべく、敵車両のタイヤを壊していった。
「うむ、このうえなくシンプルだな! 大王たるもの、敵がどのように来たとしても堂々と相手しようぞ!」
前線に出るリベルトを追いかけディアドラが前に立つ。
「チビが!」
1人の男が向かってくるディアドラへ斧を振り下ろす。
避けるでもなく、ディアドラはそれを盾で真正面から受け止める。
男は盾を蹴って体制を崩そうとするが、ディアドラの両の足はしっかりと地面を踏んだまま。
そのまま掬い上げるように勢いよく盾を上げると、男は後頭部から地面へと転倒していった。
フォローに回ろうとした別の男のつま先へ、足と地面へ縫い付けるように矢が放たれる。
ミオレスカの遠距離からの弓は冷気を纏い、男の行動を著しく阻害した。
体制を崩した相手に、彩萌のフリューゲルが狙いを定める。
させまい、と敵がクロスボウを彩萌へと放つが、彩萌は眼前に迫る矢を咄嗟に銃身で弾く。
ディアドラがクロスボウを放った敵へ突撃し、剣を振りかぶるが、盾を構えてフェイント。
ここだ―――静かに構え直した銃、照準に捉え、息を吐き、引き金を弾く。
全てが定められていたかのように一瞬で処理され、弾丸は必然のように敵へ飲みこまれていった。
突如、側面から2つの騒音が響いてくる。
見れば、バイクに乗った2人の増援が駆けつけたようだ。
一目散に向かう先は、トラックの荷台。
ミオレスカは急ぎ持てるだけの矢を持ち、空へと放つ。
鋭く刺さる制圧射撃が、敵のバイクの行動範囲を制限した。
アシュリーが制圧射撃の進路を読み、前に出てバイクとトラックの間に立つ。
轢き殺さんとする勢いで迫るバイクをギリギリまで引きつける。
「怖気づいたかぁ!」
ヤケかスピードのためか、ギリギリで横に逸れたアシュリーへ罵声を浴びせる。
だが、アシュリーはニヤッと悪戯な笑みを浮かべてチャクラムを取り出す。
すれ違う刹那、近距離で、確実に、バイクの機軸付近へチャクラムを突きこんだ。
前輪の自由を失ったバイクから、敵はカタパルトのように上空へと放り出されていった。
いいネタは最後まで追いかける、と言わんばかりに宙を泳ぐ男を追いかける。
弧が落下を描き始めたところで、エストックを抜く。
弓のように肘を引き絞り、眼前に捉えたところで勢いよく放たれる突き。
男は願いどおり物資へ到着したが、ピンボールのように、骨を砕く勢いで叩きつけられ、ずるりと意識を失った。
アシュリーの背後では近距離で男が散弾銃を構える。その様子を曲がったミラーから確認すると、
トラックの側面を駆けのぼるように足を運ぶアシュリー。
弧を描きすとん、と男の背後に落ちる。慌てて振り向く男の銃を、エストックの刀身と先端でちょちょいと絡めるように払い飛ばす。
拾おうとした銃を、手と共に踏みつけられる。見上げれば、ジャンクガンを構えた蔵人が威圧的に男を見下ろしていて、そのまま動くことはできなくなった。
交戦距離が縮まり、フリーデはシュテルンピースを取り出す。
近づくもう1台のバイクの後車輪へ、ミオレスカが正確に1射。
減速し慣性で進んでくるバイクを、フリーデが横にした槍で受け止める。
その隙に、ミオレスカは次の矢を番える事が出来た。
男が銃を取り出すよりも早く、横凪ぎの槍がシートから男を弾き飛ばし、
その一瞬浮いた所へ、ミオレスカの矢が深く突き刺さっていった。
堪えるように矢が刺さった肩をおさえ、痛みを忘れるように叫びながら銃を向ける男。
「黙りなさいっ」
ぼふ、と投じられた柔らかいものに口を遮られる男。見れば、それは熊のぬいぐるみ。
状況を察するのに時間がかかる。気付いたのは、ディアドラが接近し手を熊の中に入れ、かち、という何かの軽い音を聞いた後だった。
先へ行かせまいと立ち塞がるディアドラへ、2本のナイフを構えた男が肩で息をして襲い掛かる。
王は凶刃を押し返すように剣で突きの連撃を撃ちこんでいく。
両の手を弾かれた男へ向けられた彩萌の銃口、その先端に集まる光の欠片はやがて一つの塊となり―――
一条の光へと爆発した機導砲は、男の胸を強く焼き貫いた。
乱戦の隙に荷台へ近づいた男、荷物に手をかけようとしたところで頭部に、べこん、という音と共に衝撃が圧し掛かる。
「お預け、ダヨ」
荷台からアルヴィンが盾で窘めるように叩き、面を喰らった男は気づかぬうちに、
アルヴィンのワイヤーウィップでぐるぐると荷台へ巻きつけられてしまった。
「このまま出すのか?」
粗方の脅威を払い終え、荷台に『積まれた』ままの男を見て蔵人が言う。
持ち帰った所で余裕が無いとし、タイヤを壊し、エンジンだけはかけられるようにした敵のトラックと共に放置していった。
◆
その後、補給物資は無事想定の時間内に、充分な量を運ぶことが出来た。
人手も足りなかったので、そのまま続けて師団の手伝いをお願いされたハンターもいるとかいないとか。
アシュリーの取材依頼は、物資が到着してなお忙しくなったので、まだまだ時間がかかりそうだ。
「ゴメンねー。今度何かで埋め合わせるから……どうしたの? リベルト」
「……いや、なんでもねぇ。ほら、次の迎えに行くぞ。1人残らず連れて帰ってやらねーとな」
何が正常――彩萌のフレーズが感染っちまったか。
何かを振り払うように眺めていた箱をあけ、リベルトは駆けていった。
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明王院 蔵人(ka5737)
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御使いするよ! ソフィア =リリィホルム(ka2383) ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/10/22 23:34:54 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/21 18:27:14 |
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師団長殿に質問☆ アルヴィン = オールドリッチ(ka2378) エルフ|26才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/10/22 03:14:10 |