エッグハンター

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/10/22 22:00
完成日
2015/10/30 10:46

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「つかぬ事をお聞きしますが…… そもそも、私はなぜこのような所にいるのでしょう?」
 荒れた道を行く馬車の車列── まだ若い、いや、幼さすら感じさせる少年の様な出で立ちで、ガタゴト荷台に揺られながら。ジーン・リドリーは挨拶を交わした隣りの中年男にそんな事を尋ねていた。
「それは…… お前さんがハンターで、依頼を受けたからじゃあないのか?」
 何を言っているんだ、と中年男が怪訝に眉をひそめ。その腰の剣は飾りかい? と顎をしゃくって指し示す。
「確かにこれは私の得物ですが、私はハンターではありません」
「なら傭兵かい?」
「いえ。騎士を目指して王都へ赴く途上でした。村の教会の若先生に王都まで送って貰っていたのですが、その方が失踪してしまいまして…… 逗留していた宿の代金が支払えなくなる、という段になって宿屋の女将に相談した所、この依頼に放り込まれました」
「なんだ。これ以上ないはっきりした理由があるじゃないか」
「いえいえ、私がお聞きしたかったのは、騎士を目指して上京して来たはずの自分がこんな所で何やってんだという運命の悪戯というか悪意というか、この様な舞台を用意した精霊様に対して思いっきり悪態をついて差し上げるべきか、という類の疑問で」
「知るかよ」
 男はそう言い切ると横を向いてしまった為、手持ち無沙汰となったジーンは反対側の男に話しかけようと口を開きかけ……
「黙ってろ」
 ……挨拶すらする暇もなく言葉を封じられた。両隣の話しかけんなオーラというか空気感にジーンは仕方なく正面に視線を固定させ…… 結果、差し向かいに座る別の中年男を詳細に観察する時間を得た。
 男は薄い革のベストに厚手の革コートを羽織っていた。──周りのハンターたちと比べても、随分と軽装である。くたびれた様な表情にしまりのない口元。顎には無精ヒゲが生え放題で、寝不足なのか目の下に大きなクマが見える……
(目が合った……!)
 慌てて床へと視線を逸らす。じろじろと見ていたことに気づかれてしまっただろうか。いや、好きで見ていたわけではないです。両隣共に気まずいだけで。ので、今も床に視線を逸らしたわけですが……ああでも左右がダメならなんで上を見上げなかった自分。上なら曲がりなりにも空とか風景とか見えたのに。床なんて木目しかないじゃないか。年輪でも数えてろってか……
「おい、坊主」
「…………?」
「お前だ、お前」
 顔を上げて自分を指差すと、くたびれ男は鷹揚に頷いた。偉そう、というよりも、単に億劫そうとかそういう感じ。
 男はバリバリと襟足を掻くと、ジーンに聞きたい事がある、と告げた。そう言っておいて、本当にそれを口に出してもよいものかどうか、少し迷った様な素振りの後…… 男が意を決す。
「……なぁ。なんで俺はこんな所にいるんだ?」
「それは…… 貴方がハンターで、依頼を受けたからじゃないでしょうか?」
「覚えてねぇ…… 深酒をして契約書にサインしたような記憶は薄らぼんやりとはあるが……」
「それ何て外泊証明書です?」
 何となくツッコミを入れながら。ジーンはよかった、と安堵した。もし、人生の機微について訊ねられてたら、自分の様な若輩にはとてもじゃないが答えられない。
「朝、起きたら見知らぬ女の部屋で目覚めた時のような気分だ」
「捻りがない、というか、まんま過ぎる例えですね」
「人生の深遠を覗き込んだ様な気分だぜ、坊主。ええ?」
「奇遇ですね。自分もそんな様な気分になったばかりですよ。ついさっきと、今しがた」
 それと坊主は止めてください。私は…… そうジーンが言いかけた時、目的地についたのか、馬車がゆっくりと停車した。
 荷台から降りると、同乗していたハンターたちはすぐにその場から散り、ジーンとくたびれ男だけがその場にポツリと残された。
「王国北東山岳地帯、フェルダー地方── それもかなり奥深い山林部のようですね。依頼主はこんな所で何をさせるつもりでしょう?」
「馬車で入れるのがここまで、だろうな。まだ依頼の目的地というわけじゃない」
 くたびれ男が顎をしゃくると、小屋の中から2人の男が出て来た。一人はいかにもハンター然とした中年男。恐らくこの依頼の取りまとめ役だろう。もう一人はこのような山奥にはそぐわない、だが、動きやすそうな高級スーツに身を包んだ壮年の男だった。
「これより依頼の詳細について説明する。4班に分かれて集合しろ」
 その号令に、ジーンは同乗した男たちがなぜさっさと散ったのか理解できた。人込みにポツリと残されるジーンとくたびれ男2人── ああ、面倒くさい奴等と思われてしまったのだなぁ、と嘆息しつつ。気にした様子も見せない男に挨拶する。
「ジーン・リドリーです」
「ダイク・ダンヴィルだ」
 特に拳を合わせることもなく、微妙な距離で名乗りを済ませ。とりあえず人の足りない班に交ぜてもらって、取りまとめ役の話を聞く。
「古都アークエルスのとある研究機関に所属する某教授からの依頼だ。これより皆には班ごとに山林に分け入って貰い、担当エリアの捜索を行ってもらう。持ち帰ってもらう物は、聖獣等の大型獣、或いは爬虫種の卵、もしくは幼体だ。熊程度のものは必要ない。この奥深い山林のみに住まうレア物のみを依頼人は所望しておられる」
「具体的には?」
「全長3m以上の種。草食のおとなしいものより肉食の獰猛な種を求む。当然、巣の周りには成獣もいる。討伐するなり、目を盗んで掠め取るなり、方法は一任する」
「バカ言うな! 俺たちに死ねっていうのか!」
「その為に依頼主はお前等を、ハンターを雇ったのだ!」
「無茶苦茶だ!」
 喧々囂々── 皆が騒然とする中、ジーンは小声でダイクに訊ねた。
「アークエルスの教授がなんで猛獣の子を欲しがるんです?」
「生物学だかなんだか、そういう研究をしている学者もいるんだ。あそこには」
「へー」
 その間に、ハンターたちの喧騒は、依頼料を上積みする事で話がついた。こんな山奥くんだりまで来て、手ぶらで、しかも歩いて帰るという選択肢はなかったのだろう。
 かくして、ハンターたちは班ごとに分かれて山へと入った。ジーンもダイクと共に他の8人の後について進む。
 人の進入を拒むかのような険しき地形を、登った峰沿いに幾つか山を越えて── そうして到達した人外魔境な山奥において、ジーンたちは最初の『蛇の巣』を発見した。成獣はいなかった為……皆が周辺警戒に当たる最中、もっとも軽装なジーンとダイクがひょいひょいと巣に入り、残った最後の1つ──他の卵は既に全部割れていた──を取って帰る。
「こいつじゃ大した金にはならないな」
 人頭大の卵を掲げながら、ダイクが言った。依頼主は捕獲が難しい類を欲しているはずだから……
「もう少し捜索の手を伸ばしてみるかね?」

リプレイ本文

 班ごとに分かれて道なき道を山岳地帯の深部へ入り──
 川原の側の草地に仲間たちと共に身を隠していたリュミア・ルクス(ka5783)は、長く続く会議と待機に退屈して空を見上げ、その存在に気がついた。
「あ、『ワイバーン』♪」
 リュミアの明るい発見報告── その瞬間、ハンターたちは弾ける様に木陰の下に身を隠し。一人、小首を傾げるリュミアを『騎士』ユナイテル・キングスコート(ka3458)が慌てて木の下へと引っ張り込む。
 『飛龍』はそんな彼らに気づいた様子も見せず、ここから少し離れた山上へと降下すると、地上を舐める様に炎の息を噴きかけた。微かに聞こえて来る悲鳴と怒号── 離れていく飛龍を見送り、ハンターたちはホッと息を吐いた。
「恐らく、飛龍の巣に仕掛けた別班でしょう。……結果はそれこそ『火を見るより明らか』ですが」
「『飛龍』に『鷲獣』、『鴨嘴熊』に『有角蜥蜴』…… リアルブルーの猛獣が可愛く見えるようなのばかりじゃねぇか。これじゃあどっちが獲物なんだっつぅ話だよ」
 冷静に状況を分析するユナイテルに肩を竦めて見せつつ、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が川原に視線を戻す。
 そちらには彼らが目標に定めた『猛獣』──『戦亀』がいた。他種と違い『卵』を『巣』ごと『持ち歩く』のが最大の特徴で、巨大なメスが己の甲羅に生みつけた卵を、一回り小さなオスが上に乗って守っている。防御力と耐久性は群を抜くが機動性は乏しく、そこに付け入る隙があるとハンターたちは踏んでいた。
「……しかし、研究者ってのは本当、めんどくせーことを依頼してくれやがるのです」
 シレークス(ka0752)はそう不機嫌そうに頭を掻いた。……相手が害獣で、それを退治しろという話なら解る。だが、こちらから彼等のテリトリーに踏み入り、卵とは言え、親子を引き離すというのは…… 聖職者の端くれとしては気乗りのするものではない。
「まったく、何か騙されたような気分だが…… 受けた以上はやるしかないわな」
「あー、なんか、成獣に追いかけ回されて必死で逃げる私たちの姿が物凄く鮮明に想像できるわ……」
 何かを諦めたかの様に、乾いた声でアルト・ハーニー(ka0113)。月影 夕姫(ka0102)もまた深く、深く溜め息を吐く。
「でも、ちょっとワクワクしますね! 『驚異! 人知れぬ秘境の奥地に、我々探検隊は伝説の猛獣・デロンチャペスを見た!』みたいな!」
 東方より来たりし符術士、ティリル(ka5672)がどこか楽しげに、胸の前に持ち上げた両の拳をギュッと握った。彼女の目に映る西方世界はその全てが珍しかった。たとえそれが巨大な『猛獣』であったとしても──

 一行の視線の先で、戦亀が上陸した。
 普段、魚などを主食とする戦亀も、子が卵から孵るまでは陸に上がり、草木を主食とするという。水中の素早い敵から卵を守る為だ。その間、オスは飲まず食わずで卵の上に陣取り続ける。
「……さて、卵を狙うにしてもどうしましょうか? オスを引っくり返すとか? ……何にせよ、まずは疲労させる必要がありそうですね。麻痺とかさせられれば良いのですが」
 草陰にしゃがんで観察を続けながら、ティリルは腕を組みつつ、唇に指を当てた。両腕に挟まれた豊かな胸がキュッと寄せられ、盛り上がる。着物のスリットから覗く白い太腿といい、男性陣には目の保よ……もとい、目の毒だ。本人は全く気づいていないが。
「それについては当てがある」
 餌場へ移動する亀を追いつつ、夕姫がティリアの懸念に答える。
「……では、囮班が正面で戦亀の気を惹いている間に、奪取班が後方から母亀の甲羅に取り付き、卵を奪う── この作戦で決定ということで良いですね?」
「うん! サッと登って、シーッと静かに、スッと卵を貰って、せっせと運んで、そっと逃げるの!」
 方針は確定した。皆に最終確認を行うユナイテルに、リュミアが笑顔で頷く。──これぞ戦亀のさしすせそ! ……ああ、卵、おいしそうだなぁ。ご飯に掛けて食べたいなぁ。依頼の報酬貰ったら、ちょっとだけ贅沢してみようかなぁ……
「なら、私は囮班ですね。色んな意味で『鈍重』なもんで」
「体重が?」
 軽口を叩くアルトに間髪入れず、シレークスが腰の入った良い掌底を鳩尾に叩き込んだ。鎧の下でアルトの大事な埴輪が音を立てて砕け散る。
「クッ?! 相変わらずの埴輪ブレイカーっぷりだな、破壊修道女! だが、こんなこともあろうかと…… 見よ! 今回から2個常備するようになったのだ!」
 得意げに2つ目を披露するアルトへシレークスが無言で淡々と二発目を打ち放ち。
 その傍らで、元正規軍衛生兵・アリア ウィンスレッド(ka4531)はニコニコ微笑を浮かべながらビシッと見事な──だが、どこかおどけた仕草の敬礼した。
「了解! 皆の作戦に従って行動するよ! 私は回復役だから、危険な役目を担う囮の人たちに同行だね!」
 そして、鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で、周囲の地形と退路──ベースキャンプまでの移動ルートを脳裏で再確認する。……サルバトーレ・ロッソ転移の折、激戦の渦中で『タガが外れた』アリアは確かに『death wish』(無鉄砲)ではあったが、『死にたがり』というわけではなかった。……まぁ、歪虚の『狂気』に満ちたあの戦場を笑いながら生き抜いたあの日、彼女の中で恐怖の基準が『多少』ずれた事は確だが。

 かくして、ハンターたちは行動を開始した。
 まず奪取班──夕姫、アルト、ユナイテル、リュミアの4人が、夕姫の言に従い風下方面へと回り込み。残るシレークス、レイオス、アリア、ティリルの4人が囮班として戦亀に向かって歩き出す。
「卵を取っちゃうのはちょっと可愛そうだけど…… これぞまさにエッグハンター・リアルオンライン! いいよね、このワクワク感♪ 冒険って心躍るよね!」
 接近を継続しながら身をぶるりと震わせて。アリアは自分を落ち着かせるべく、改めてお薬……もとい、ヒールのセットを確認した。……回復量重視のと、回数重視のと。うん、準備はばっちりだ。
 その接近に、オスが気づいた。甲高い警告の叫びに、草を食むメスがゆっくりと振り返り…… その大きさに「おー!」と感動の声を上げたティリアは、すぐに「おー……」とドン引きの吐息を洩らした。
 戦亀は想像以上にでかかった。オスでも3m以上。メスは10m以上……うん。東方ではあれは猛獣じゃなく怪獣と呼ぶわよね(
「……デカ過ぎだろ。そのうち回転しながら飛んだりするんじゃないか、アレ」
「えっと…… か、回復は任せておいて! だから…… ファイト、だよっ♪」
 呆気に取られるレイオスに、ちゃっかり後方に下がるアリア。瞬間、メス亀が空気を震わせす咆哮を上げ── それが開戦の嚆矢となる。
 散開するハンターたち。前衛のレイオスとシレークスは左右に分かれ、両翼から亀に突っ込んだ。2人に『プロテクション』を投げるアリア。ティリルは引き出した呪符の束を扇の様に広げると、いつでも支援できるよう符術を準備し待機する。
「こんな所まで来ちまったんだ! こうなりゃ意地でも目標を確保してやる!」
「私たちが囮を引き受けてやってるです。しくじりやがったら覚悟しやがれですよ、埴輪男!」
 レイオスがまず仕掛けた。敵の正面右側から一気に敵へと肉薄し、引き抜いた試験刀に通電。メス亀の前肢に向けて横薙ぎに刃を払う。
「……痛ぇっ! なんて硬さだ!」
 まるで木刀で巨木を殴りつけたかのような反動に顔をしかめるレイオス。構わず繰り出されるメス亀の脚に押されて尻餅をつきつつ、即座に地面を転がって踏み下ろされる足を避ける。
 そこへ仕掛けるシレークス。離れた場所から一気に『踏込』み、左前肢へ棘鉄球を叩き込んで一撃離脱。そのままぶぅんと鉄鎖を振り戻しつつ、再び踏み込んで頭部へ一撃。メス亀の視界をうろちょろする様に接近と離脱を繰り返すシレークスを、メス亀がギロリと睨む。
「お? 怒りやがりましたですか? それでいーです。こちらに喰いつきやがるですよ!」
 首を伸ばして噛み付いてくるメス亀をバックステップで受けいなし。その隙に切り込むレイオスをオス亀が水流の刃で狙う。
 瞬間、待機していたティリアが腕を振り『胡蝶符』を投射した。光の蝶と化した呪符が水刃を放とうとしていたオス亀を直撃し。その間にアリアが前衛組にそれぞれに適したヒールを掛ける。
「離れてください! 亀の足を止めます!」
 亀たちが完全に自分たちに喰いついたことを確認すると、ティリアは新たな符に火の精霊力を込め、メス亀の足元へと投射した。燃え上がる符術の焔── 突如、眼前に噴き出した火炎にメス亀が思わず足を止め……
 その機を逃さず、身を潜めていた奪取班が一斉に飛び出した。
 『ジェットブーツ』で宙を飛び駆け、一気にメス亀の甲羅後方へと取り付く夕姫。遅れて地上を駆け来たアルトへ大鎌の柄を差し出し、甲羅の上へと引き上げて。そのまま鎌を任せつつ、自身はオス亀へと振り向き、その甲羅に手を押し当てる。
「飛べ、リュミア!」
「うん!」
 奇襲に気づいて後方に転回しようとしたオス亀は、だが、レイオスとリュミアに阻まれた。
 近くの草場の陰から飛び出すリュミアを、両手で足場を組んだレイオスが一気に上へと打ち上げて。跳躍したリュミアはオス亀が仰ぎ見るより早くその眼前へと肉薄し、オス亀の頭部を狙って光の矢を撃ち下ろしながらどべしっ! と落着。そのままオス亀の下へと潜り込む。
 夕姫が『エレクトリックショック』を放ったのはその時だった。動きを止めたオス亀の下にアルトが大鎌を差し入れ、卵を掻き出し、地上で待つユナイテル(「よ、鎧が重かったのです!」)へスクリューパス。ユナイテルは受け取った卵を抱えてゴールライン──愛馬を待機させておいた場所へ向かって走り出す。
「ママガメの真後ろへ!」
 ズポッ! とオス亀の下から抜け出したリュミアがユナイテルに指示を出す。図体のでかいメス亀は、180度転回するだけでも時間を喰う。
 頷き、走るユナイテル。卵を奪われた事に気づいた母亀が怒りに鳴く。
「そんだけ沢山卵があるんだ。一つくらい貰うぜ、デカブツ!」
「ああ、何で私はこの依頼、受けたのかしら…… 罪悪感が物凄いわ」
 それぞれバラバラに離脱するレイオスらハンターたち。夕姫が振るわれた尻尾を避けつつ再びジェットブーツで飛び降り、アルトもまた急いで亀から転がり降りる。
「薙ぎ払い、来るわよ。気をつけて!」
 夕姫の警告に、ユナイテルは走りながら卵をギュッと抱え込み…… 背中の鎧表面を水刃に削られながら、そのままゴールへと飛び込んだ。だが、愛馬がそこにいない事に気づいて「あれっ!?」と驚きの声を上げるユナイテル。──亀の咆哮か、或いは別の脅威に遭遇して逃げたのか。ともあれ、馬に乗れねば想定していた機動力は発揮できない。
「クッ、受け取ってください、埴輪の人!」
「いや、確かに埴輪の人だけれども!?」
 ユナイテルはこちらに転回を終えた亀を振り返りつつ、再びアルトに卵を投げ渡した。更に転回を進める母亀。アルトは迷う間もなく走り出す。
「こっち、こっち!」
 いつの間にかこちらに来ていたアリアがアルトを呼び。事前に確認しておいた退路へ招き入れた。
 それを追う戦亀の移動速度は、サイズが大きい為か存外に速かった。だが、狭い山林、木々を薙ぎ倒しながらではその速度も上がらない。
「想定通り! 後は『最後の関門』を突破するだけだよ!」
 最後の関門── 即ち、この山林に生息する『ドリル猿』。右手首からドリル状の角を突き出し、好物である卵の硬殻に穴を開けて飲食する。常に集団で行動し、猛獣たちに比べれば人間など屁とも脅威に感じていない。
「止まるですよ、埴輪!」
 周囲に警戒の視線を飛ばしていたシレークスの叫びに、アルトはたたらを踏んだ。前方、木の上から飛び掛ってきた『ドリル猿』が、アルトの持つ卵へ手を──ドリルを伸ばし…… 直前、踏み込んだレイオスがその猿を一刀の下に斬って捨てる。
「猿の癖にドリル!? ここの生態はいったいどうなっているのよ!」
 次々と木の上から襲い掛かってくる猿たちを迎え撃ちつつ、叫ぶ夕姫。木上だけでなく地上からも猿たちが地を跳び駆けつつ全周から卵に殺到し…… 間一髪、アルトの背後に身体を割り込ませたアリアが盾でそれを受け弾き。と、そこへ愛馬と再会して戻って来たユナイテルが馬ごと猿の群れへ突っ込み、剣と早駆けにて追い散らす。
 枝上を飛び伝う猿たちへ『胡蝶符』を投射していたティリルは、傍らで「えい、えい!」と杖をブンブン振って猿を追い払っているリュミアに気づいて二度見した。いつの間にか、リュミアも戦亀の卵を持っていた。
「え? 卵? 二つ目? え?」
「はい。パパガメの下に偶然もぐりこんだ時に取りました。今夜はおっきい目玉焼きです」
 戦闘は続く。次々と襲い掛かってくるドリル猿たち── その可愛げのない猛攻に中々前進も出来ず、遂にシレークスがキレた。ぶぅんとハンマーを頭上に放り投げ…… 流れる鎖の端を引っ掴み、一気に枯れ木へ叩き付けてそれを粉微塵にする。
「てめーらの脳天もカチ割りやがりますよ、あぁ?!」
 シレークスの恫喝に、ビクゥッ! と猿たちが一瞬、動きを止める。ハッと気づいたティリルもまた『火炎符』を撒き、猿たちを威嚇し、遠ざける。
 元来、臆病な猿たちは一旦、ハンターたちから距離を取った。だが、その包囲は崩さない。枝の上に、草木の陰に、猿たちは遠巻きにジッとこちらを見続けている。諦めた訳ではなさそうだ。
 ズシン、ズシン、と後方より迫る戦亀の足音── 走ろう、と、アルトが皆に告げた。
「このまま膠着してても追いつかれるだけだ。追い払えないなら突破するしかない」
 猿共の対応は任せたぜ。俺は卵を守り切ることだけを考える── きらーんと歯を輝かせ、親指を立てて見せるアルト。シレークスは無言で肩を竦めてその背を叩き。夕姫は彼を中心に輪形陣を組むよう指示を出した。先に立つのは騎馬のユナイテル。左右に盾のアリアに剣のレイオス。ティリアはリュミアを見て思った。まぁ、2つ目を持ち歩くと言うのなら、それはそれで囮になるかな……?
「それじゃあ…… Goだ!」
 卵を胸に抱え込み、味方を信じて脇目も振らずに一気に走り出すアルト。猿たちもまた襲撃を再開し……
「しつこい! いい加減、諦めなさい!」
 殿の夕姫が3条の光線により猿たちを迎撃する。

 突破行は森の切れ目まで続き…… ハンターたちはようやくベースキャンプまで逃げ切った。

 リュミアの卵も無事だった。
 彼女は卵を渡す事を渋ったが、普通の卵何個分と説得されて、賞金と引き換えた。

依頼結果

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MVP一覧

  • エアロダンサー
    月影 夕姫ka0102
  • 元正規軍衛生兵
    アリア ウィンスレッドka4531
  • ドラゴンハート(本体)
    リュミア・ルクスka5783

重体一覧

参加者一覧

  • エアロダンサー
    月影 夕姫(ka0102
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • いつも心に盾を
    ユナイテル・キングスコート(ka3458
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 元正規軍衛生兵
    アリア ウィンスレッド(ka4531
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 希望を繋ぐ眩光
    ティリル(ka5672
    エルフ|20才|女性|符術師
  • ドラゴンハート(本体)
    リュミア・ルクス(ka5783
    人間(紅)|20才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦相談卓
シレークス(ka0752
ドワーフ|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/10/22 19:55:45
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/10/21 03:02:40