ゲスト
(ka0000)
秋刀魚で宴会。完食まで監禁
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~16人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/25 19:00
- 完成日
- 2015/11/01 21:57
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
一足早く紅く色づいた楓。
その1枚が木から離れ、音もなくゆるやかな清流に着水した。
川の逆側には川原が広々と広がっている。
ソサエティ支部の裏手にあるこの場所は、知る人ぞ知る絶好の行楽地であった。
●お疲れ様パーティ
白い炭が風に吹かれて赤くなる。
熱を帯びた空気と赤外線が上に向かって放たれて、鉄網の上の秋刀魚を程良く熱していた。
「けむっ」
「生の魚なんて食えるのかよ。腐るぜ」
大の大人達がバーベキューセットを囲み、否定的な言葉ばかりを口にしている。
人間、エルフ、ドワーフ、少数ではあるが鬼までいる。
言うまでもなく当然全員覚醒者だ。
ハンターオフィス本部に貼られていた参加費無料の宴会のお報せに釣られ、転移門を使ってとある支部に移動後徒歩5分でこの場にたどり着き現在に至る。
焼いているメーガン(kz0098)は無言だ。
焼き色を確認してトングでひっくり返しつつ団扇で新鮮な空気を送り込む。
やがて白い煙があたりに充満し、新鮮な油の焼ける香りが広がり始めた。
「焦げてる」
「黒い……けどにおいは悪くない」
男達は動かない。
不器用なメーガンのせいで、本日朝水揚げされた秋刀魚が両面とも黒い。
メーガンは硬いパンの上にトングで秋刀魚を載せていく。
「出来た」
本人は満足そうだが男達は腰が退けている。
小首をかしげ、手元の秋刀魚と男達の間で視線を往復させた後、行儀悪くパンの皿の上の黒にかじりついた。
軽い音を立てて皮が割れる。
するとほんのり狐色に染まった身が姿を現し、白い歯でかみ砕かれメーガンの口の中へ吸い込まれていった。
十数人の喉が同時に鳴る。
淡い潮の香りが漂っている。煙に混じる油の匂いが実によい。そして、黒く焼けたのは皮の外側だけで中は美味そうに白い。
「いらないなら全て頂く」
真面目な顔でそう言って、彼女は残りの魚を頭ごとかみ砕いて嚥下した。
「頂こう」
「俺にも1つくれ」
雰囲気が一変した。
既に焼かれた秋刀魚は瞬く間に無くなり、別のバーベキューセットが組み立てられ点火されて秋刀魚が並べられていく。
清流から網が引き上げられる。
中に入っているのは蒸留酒の瓶と缶ビールで、皆勝手に好きなものを手にして飲み始める。
手には旨い肴に美味い酒。
隣には戦友や同業者。
話は弾んで食も進み、楽しいときは瞬く間に過ぎていった。
●未だ衰えぬ秋刀魚
「なあ」
「うん?」
違う種族の男達が、同時に嫌な予感に襲われていた。
「魚が減ってない気がするんだが」
「ハハハ、気のせいに決まって……」
秋刀魚臭い息を吐きながらバーベキューセットを見る。
総勢10を越える網の上に、新鮮で焦げ目もない秋刀魚が数十並べられていた。
「言い忘れていた」
せっせと魚を裏返しつつメーガンが言う。
「全部食べ終わるまで転移門の使用許可が降りないそうだ」
一度全部裏返してから近くの茂みに移動。
特大サイズのクーラーボックスを引きずってくる。
もちろん、中には秋刀魚がみっちりと詰まっていた。
「それって獲れ過ぎの在庫処分……」
「おい、良く見ろ。秋刀魚だけじゃねぇ!」
クーラーボックスがあった場所を覗き込むと、昨年の日付の米に飯盒に土鍋、歪なサツマイモにジャガイモ等が、大量に積み上げられていた。
「監禁および食事強要事件、だと?」
「やめろよ。これ以上腹にはいんねーぞ」
騒ぎ出す男共に気づかず、メーガンは真面目な顔で秋刀魚を焼き続けていた。
●ハンターズソサエティの陰謀
オフィスで3Dディスプレイが強く光る。
文面は参加費無料の宴会のお報せだ。
職員が育ったパルムから耳打ちされて何かを操作。するとお知らせの文面に、料理人募集の1文と報酬額が追記された。
「へえ、おいそそうな依頼じゃない」
料理が得意なハンターが依頼票を覗き込む。
危険度の割りに報酬が高い。料理の合間にたっぷり食べても問題ないのも素晴らしい。
しかし第六感あるいは精霊が、猛烈な勢いで警告を発している。
「おっかしいなぁ。なんで戦場に行く前のような気配が……」
依頼票であるディスプレイの隅っこに、全て食べ尽くさないと帰りは転移門を使えません、と胡麻サイズの字でこっそり記載されていた。
●増える食材
「獲ったぞー!」
鬼が暴れる猪を抱え上げた。
「逃がしてこい! 魚がまだ半分以上残っとるんじゃ!」
蒸留酒片手に叫ぶドワーフ。吐く息は非常に秋刀魚臭い。
「お、おう。そういやそうだったな」
ここは里じゃなかったと言って猪を逃がそうとする鬼の前に、かなり食べているはずのに平然としたメーガンが立ちふさがる。
「猪は見つけ次第仕留めるようにと支部長から指示されています」
肉加工用の道具を真面目な顔で手渡す。
なお、20頭までは連絡なしで獲っても問題ないらしい。
「ノルマ追加かよ……」
項垂れる鬼達にメーガンは深くうなずいて、慣れた手つきで解体の準備を始めるのだった。
その1枚が木から離れ、音もなくゆるやかな清流に着水した。
川の逆側には川原が広々と広がっている。
ソサエティ支部の裏手にあるこの場所は、知る人ぞ知る絶好の行楽地であった。
●お疲れ様パーティ
白い炭が風に吹かれて赤くなる。
熱を帯びた空気と赤外線が上に向かって放たれて、鉄網の上の秋刀魚を程良く熱していた。
「けむっ」
「生の魚なんて食えるのかよ。腐るぜ」
大の大人達がバーベキューセットを囲み、否定的な言葉ばかりを口にしている。
人間、エルフ、ドワーフ、少数ではあるが鬼までいる。
言うまでもなく当然全員覚醒者だ。
ハンターオフィス本部に貼られていた参加費無料の宴会のお報せに釣られ、転移門を使ってとある支部に移動後徒歩5分でこの場にたどり着き現在に至る。
焼いているメーガン(kz0098)は無言だ。
焼き色を確認してトングでひっくり返しつつ団扇で新鮮な空気を送り込む。
やがて白い煙があたりに充満し、新鮮な油の焼ける香りが広がり始めた。
「焦げてる」
「黒い……けどにおいは悪くない」
男達は動かない。
不器用なメーガンのせいで、本日朝水揚げされた秋刀魚が両面とも黒い。
メーガンは硬いパンの上にトングで秋刀魚を載せていく。
「出来た」
本人は満足そうだが男達は腰が退けている。
小首をかしげ、手元の秋刀魚と男達の間で視線を往復させた後、行儀悪くパンの皿の上の黒にかじりついた。
軽い音を立てて皮が割れる。
するとほんのり狐色に染まった身が姿を現し、白い歯でかみ砕かれメーガンの口の中へ吸い込まれていった。
十数人の喉が同時に鳴る。
淡い潮の香りが漂っている。煙に混じる油の匂いが実によい。そして、黒く焼けたのは皮の外側だけで中は美味そうに白い。
「いらないなら全て頂く」
真面目な顔でそう言って、彼女は残りの魚を頭ごとかみ砕いて嚥下した。
「頂こう」
「俺にも1つくれ」
雰囲気が一変した。
既に焼かれた秋刀魚は瞬く間に無くなり、別のバーベキューセットが組み立てられ点火されて秋刀魚が並べられていく。
清流から網が引き上げられる。
中に入っているのは蒸留酒の瓶と缶ビールで、皆勝手に好きなものを手にして飲み始める。
手には旨い肴に美味い酒。
隣には戦友や同業者。
話は弾んで食も進み、楽しいときは瞬く間に過ぎていった。
●未だ衰えぬ秋刀魚
「なあ」
「うん?」
違う種族の男達が、同時に嫌な予感に襲われていた。
「魚が減ってない気がするんだが」
「ハハハ、気のせいに決まって……」
秋刀魚臭い息を吐きながらバーベキューセットを見る。
総勢10を越える網の上に、新鮮で焦げ目もない秋刀魚が数十並べられていた。
「言い忘れていた」
せっせと魚を裏返しつつメーガンが言う。
「全部食べ終わるまで転移門の使用許可が降りないそうだ」
一度全部裏返してから近くの茂みに移動。
特大サイズのクーラーボックスを引きずってくる。
もちろん、中には秋刀魚がみっちりと詰まっていた。
「それって獲れ過ぎの在庫処分……」
「おい、良く見ろ。秋刀魚だけじゃねぇ!」
クーラーボックスがあった場所を覗き込むと、昨年の日付の米に飯盒に土鍋、歪なサツマイモにジャガイモ等が、大量に積み上げられていた。
「監禁および食事強要事件、だと?」
「やめろよ。これ以上腹にはいんねーぞ」
騒ぎ出す男共に気づかず、メーガンは真面目な顔で秋刀魚を焼き続けていた。
●ハンターズソサエティの陰謀
オフィスで3Dディスプレイが強く光る。
文面は参加費無料の宴会のお報せだ。
職員が育ったパルムから耳打ちされて何かを操作。するとお知らせの文面に、料理人募集の1文と報酬額が追記された。
「へえ、おいそそうな依頼じゃない」
料理が得意なハンターが依頼票を覗き込む。
危険度の割りに報酬が高い。料理の合間にたっぷり食べても問題ないのも素晴らしい。
しかし第六感あるいは精霊が、猛烈な勢いで警告を発している。
「おっかしいなぁ。なんで戦場に行く前のような気配が……」
依頼票であるディスプレイの隅っこに、全て食べ尽くさないと帰りは転移門を使えません、と胡麻サイズの字でこっそり記載されていた。
●増える食材
「獲ったぞー!」
鬼が暴れる猪を抱え上げた。
「逃がしてこい! 魚がまだ半分以上残っとるんじゃ!」
蒸留酒片手に叫ぶドワーフ。吐く息は非常に秋刀魚臭い。
「お、おう。そういやそうだったな」
ここは里じゃなかったと言って猪を逃がそうとする鬼の前に、かなり食べているはずのに平然としたメーガンが立ちふさがる。
「猪は見つけ次第仕留めるようにと支部長から指示されています」
肉加工用の道具を真面目な顔で手渡す。
なお、20頭までは連絡なしで獲っても問題ないらしい。
「ノルマ追加かよ……」
項垂れる鬼達にメーガンは深くうなずいて、慣れた手つきで解体の準備を始めるのだった。
リプレイ本文
●
コロッケの表面は植物油でからりと揚がり、内側からは濃厚な肉と芋の香りが漂ってくる。
「出来たぞ」
柊 真司(ka0705)は箸を操りながら呼びかける。
清潔な紙の上に揚げたてコロッケを並べ続けているのに何故か数が増えない。
三角巾の位置を直しつつじろりと一瞥。
真司と同じく三角巾装備のパルム達が、大口を開けてコロッケにかぶりついていた。
「大人気ですね」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)が上品に微笑む。
彼女の今の担当は煎餅だ。
土鍋の蓋を開ける。正しいやり方で炊いたのに、米の質が低くて良い香りはほとんどない。
そこに少量の塩と砂糖を投入して加工開始。白い手が潰れた米に塗れ、熱によってほんのり桜色になる。
額にうっすら汗をかく、骨惜しみせず働く10代前半の少女。
無骨な独身野郎共にとってはなんとしてもお近づきになりたい存在のはずなのに、彼等の生存本能が何故か警告を発していた。
「美味しそうな秋刀魚の香りがしますね」
漂う香りに頬をほころばせ、調味料を小さじで舐めて味と状態を確かめた。
「うん、いいお味」
料理酒として持ち込まれた高級酒が既に半分になっていることに、依頼をうけたハンターだけが気づいていた。
コロッケを助手パルムに任せた真司は、蜜がたっぷりかかった大学芋と、さつまいもを薄く切って揚げたものを更に並べているところだ。
ぱらりと塩をかける。
新鮮な油と塩、そして揚げたてのさつまいもの香りが見事に調和し、若い覚醒者や酒飲みの食欲を強烈に刺激する。
「罪作りなひと。女をふっくらさせるのがお好み?」
消毒済みナイフで生地を切り一定の厚さにし、鉄板の上に載せていく。
うっすら焦げ目が付く頃には、残念な米が材料とは思えない美味煎餅の完成だ。
「罪作りって、お前ほどじゃないよ」
軽く息を吐いて周囲を見る。
腹が膨れたドワーフが煎餅を、甘味に飢えた女性陣が甘味を、男性陣の大部分は料理上手で可憐なステラに引きつけられている。
なお、ステラの性別は男である。
どんなに可憐でも、男なのだ。
「お前等、まだ腹に入るか?」
せめて傷が浅くなるようにと、真司は甘味や酒のつまみを配って別の窯に向う。
100人分は入った鍋の蓋を開け、大型のお玉杓子で救って小皿にとり、一口。
「薄いか?」
ポタージュスープとしては満点に近い出来なのに、真司の表情は少々どころでなく暗い。
小さなパルムがマイコップ持参でスープを要求する。それに釣られて休暇中ハンター達も集まってきて、水のように何倍も飲み干す。
「お代わりはいくらでもあるぞ」
未だ大量に詰まれている芋の山複数を見上げ、真司は大きな溜息をついた。
●
「美味しい料理を用意して……お待ちしていますから」
明王院 雫(ka5738)がカウンターの上に皿を置く。
皿の上に盛られた揚げ芋が揺れ、ハーブと塩と油の食欲をそそる香りがハンターズソサエティ支部の一室に広がった。
「より多くの方にお立ち寄りくださるようお声掛けのほど……お願いしますね」
ゆったりと話しながら一礼する。
隙無く着込んだ巫女装束の上からでも分かるふくらみが、実に優雅に揺れた。
「はい!」
食と色の欲に釣られた職員達が、遊びに来ていたり神霊樹の分樹に用があったパルムにお願いを開始した。
「ありがとうございます」
もう一度下げてから支部の外へ。緑豊かな小道を1分ほど歩くと川原に出る。
小川が陽光を反射しきらめき、対岸には紅葉が揺れている。
川原の中程には、同業者や各国の覚醒者が寝転び腹をさすっていた。
その中の1人が勢いよく起き上がる。まだ寝転んでいる連中と違ってかなり細い。
「あー、何かもう風はココに永住したいですねー、何もしなくても食べ放題ですしー」
最上 風(ka0891)は、眠気を感じさせない足取りで雫と合流する。
「猪のお腹の中に、米を注ぎ込んで、丸焼きとかどうですかー? イカメシ的な感じで」
「あまり派手にするのは……」
雫は茂みのある方向に一度だけ目をやった。
自分で解体してその場で焼いて食べるハンターもいるが、今この場にいる客の大部分はは解体の経験すらない。肉と骨と内臓を見せた結果食欲が削がれて食材が大量に余るなんて展開になると、依頼失敗になってしまう。
「じゃあ、お米がありますし、他の食材を鍋に入れて、カレー作りませんかー?」
風の喋りは淡々としているが足取りが軽い。
甘いもの、辛いもの、油たっぷりなものを食べて元気いっぱいだ。
「ルーは高いですよ」
やんわり断ってからテントの1つに入る。丁度そのタイミングで炊飯器が鳴った。
「食欲には怖い面がありますね」
噂を聞きつけたハンターオフィスが送りつけた、大型炊飯器計3個である。
1つの蓋を開ける。
日本酒とみりん、醤油と他少々で味付けられた米は、古米とは思えないほど美味そうだ。
米の間に混じった魚肉も素晴らしい。焼いて解してから入れた魚肉は米の旨味を吸って米にも旨味を吸わせている。
「おお」
風が目を輝かせて茶碗と箸を準備する。
お焦げと表現するにはあまりに綺麗かつ健康的に焼かれた秋刀魚の皮が、適度に形を保ったまま炊飯器の中で自己主張していた。
雫によそって貰い、頂きますと一言言ってから行儀良く口に運ぶ。
風の動きが完全に停止した。
具は魚しか入っていないのに、味も舌触りも歯ごたえも変化に富んでいる。気づいたときには茶碗に米1粒も残っていない。
「大丈夫そうね」
最初の炊飯器は風に任せ、雫は残る2つを客の元まで運んでいくのだった。
●
濡れ羽色の髪が秋の風に吹かれて揺れた。
閏(ka5673)は三角巾で髪をまとめ直す。
石鹸と綺麗な水で手を洗い、土鍋を窯から下ろして蓋を外す。
米が立っていた。
品種改良と冷蔵技術とその他文明の力で舌が肥えすぎた地球出身者とは異なり、閏にとっては十分質が高い米だ。
塩を適量使いながら、慣れた手つきでひたすら握って並べていく。
一通り作り終える。川原一帯を見渡し、見知った顔を探す。
「丸さん、イッカクさん、おにぎり作ったので宜しかったら食べて下さい」
「……あ゛?」
イッカク(ka5625)の表情が激しく歪む。
閏と並べると、気の荒い鬼と気弱な料理人だ。
しかし閏は驚かず怯えもしない。イッカク怒りの対象が何が知っているからだ。
「これ量おかしいだろ」
人差し指と親指だけでおにぎりをひとつ手に取り、米1粒も落とさす一口で食べきる。
口の中で解ける米と微かな塩味、ほんのり効いた胡麻の風味が実に良い。
「これをこんだけの人数で食うのは無謀過ぎんだろ」
川原で寝転ぶ連中を指さし鼻を鳴らす。
この全員が鬼の若い衆ならなんとかなったかもしれないが、人間の覚醒者や覚醒者ですらない人間だけでは無理がある。
「支部で生け贄集めてくらぁ。美肌って適当言っときゃ何とかなんだろ」
体格が優れているので、のんびり歩いていても速度がある。
「おっと。お前も手伝え」
ぶつかりかけたパルムを回収して肩に乗せ、速度を緩めず支部へ向かう。
「あからさまに怪しいが参加さえさせちまえばこっちのモンだからな」
女性に人気の穴場スポット! 今なら男性限定サービス実施中!
そんな文面のプラカードを持ったパルムが、本部と複数の支部でこの日見かけられたらしい。
「イッカクも頑張るねぇ」
万歳丸(ka5665)は閏に軽く手をあげて、おむすびを一つ自分の口へ放り込んだ。
ゆっくりと、何度も噛みしめてから嚥下して、満足そうに息を吐いた。
「散々飲み食いした舌と胃腸に優しい塩加減、米も扱いが難しいのに握りの加減が最適だ。両方の面が調和して……」
語る口が止まらないし止める気もない。貧素な暮らしだったため食材と調理人への感謝は無限大なのだ。
「丸さん、宣伝も助かるけど楽しんで食べてくれると嬉しいな」
大きな皿を手渡す。
秋刀魚の蒲焼、竜田揚げ、白味噌を使った味噌汁には猪肉じゃが芋がごろごろ入り、箸休め兼お菓子として煎餅状に揚げた骨が盛られている。
「オッサン、気合はいりすぎだ」
敬意の感じられる動きで受け取り、万歳丸は真剣な表情で1品1品味わい、楽しむ。
それを見た満腹男女が立ち上がり、ふらふらとこちらに向かってくる。
客の流れはそれだけではない。支部のある方向から、大量かつ濃密な人の気配が接近している。
「とれたての秋刀魚と猪を食す秋の宴、じゃ。紅葉を肴に一献傾けるのもよかろ」
先頭で多数の覚醒者を導くのは帳 金哉(ka5666)。
鋼の如く鍛えられた体の上に洒落た着物を羽織り、高い下駄を鳴らしながら歩いてふと気づく。
「俺まで遊山という訳にはいかんか」
新たに生まれた需要が、料理の供給量を上待っている。
金哉は客から離れ、厨房用テントの1つに向かう。
無造作に積まれているクーラーボックスを1つ開けると、中には秋刀魚と氷と保冷剤がみっしり詰まっていた。
「同じ食材ばかりようけあるのぅ」
天然物で似通った大きさの魚、長距離輸送に向いた入れ物と保冷装置。
東方とは異なる文化を五感で感じながら、閏は早速包丁とまな板を取り出した。
素早く三枚に下ろす。
「ほう」
内臓の鮮度に気づいて口角が上がる。
一杯やりたいところだが、炊かれてそのままになっている米の量を考えるとそうもいかない。
未だ瑞瑞しい魚肉を丁寧に切り分けて、素っ気ない皿に美しく盛りつけていく。
「いいですねぇ」
隣のテントの閏が気付き、刺身にあうよう塩の量を調節した。
遠目で見ても瑞瑞しい秋刀魚の刺身に、艶やかな白米おにぎり。
その組み合わせには魔性すら感じられ、東方出身者や海岸近くの出身者が集まって来た。
「臭みがない」
「たまんねぇ」
金哉は賞賛を当然のように受け取り、礼代わりに秋刀魚の叩きの皿を押しつけ追い出す。すると今度は内陸出身者が入れ替わりに集まってくる。
クーラーボックスを10程空にする頃には、太陽はすっかり傾いていた。
「お疲れ様」
閏が差し出すおにぎりを、恭しいとすら表現できる手つきで受け取る。
穏やかなのに妙な圧迫感がある閏の目に気付き、金哉は珍しく照れたように頬をかいた。
「もう子供ではないわ、頂きますくらい言えるぞ」
閏に対して頂きますと言った後、軽く火を通した秋刀魚のわたを添えて大振りのおにぎりを囓る。
米と塩と具の質が比べものにならないほど向上しているのに、何故か昔の味で感じられた。
●
「立派になって」
閏が涙目で杯を干す。
周囲には、無謀にも彼に酒を勧めた男女が良い潰されて高鼾だ。
「とーう」
無数の注射器が出現し、逢魔が時の夕闇でぬらりと光った。
鋭く尖った先端からは毒々しい薬液っぽいものがしたたっている。
満腹で気の抜けているところに不意打ちだったからだろう、逞しい騎士や軍人が這って逃げようとして、飛来した注射器に針を突き立てられた。
「食べ過ぎ、酔っ払い、食当たりには効果があるのか、興味あったんですよねー」
風は秋刀魚の骨を加工した煎餅をかじり、ペンを取り出しカルテ風のメモに記入する。
「喧嘩の打撲跡は回復。生命力へのダメージではない古傷は未回復、腹は」
しゃがみ込んで、赤ん坊をあやす程度の強さで叩くと、情けない声だけが繰り返された。
「満腹を状態異常と見るか負傷とみるかで解釈が違う」
「ステラより若いのに恐ろしい女だな」
万歳丸は、猪の突撃を受け止めた状態で眺めていた。
「おっと悪い」
猪を投げて関節を極め、頸骨に一撃。
苦しませずに倒したのは良いが、この場所で解体すべきかどうか悩んでしまう。
それに……。
「男性用のトイレはあちらです」
メーガン(kz0098)が顔を出し、桶に猪を突っ込み臨時会退場へ運んでいく。
「皆さんもお早めに」
個室トイレは実質女性専用。ドワーフが急遽増設した大用も9割方埋まっている。
「川に出すのはお止めくださいだとよ。お上品なこった」
イッカクは鼻で笑うが川に向かおうとはしない。安っぽい反抗をするほど幼くないのだ。
「閏のオッサン、暗くなる前に行こうぜ」
万歳丸は手に付いた血を手ぬぐいで拭いて、閏の手を引き金哉達と一緒に歩いて行く。
子供の背ほどもある壁があった。
一番下には溝がある。壁にかけると下に流れていくのだろう。
「邪魔するぜ」
イッカクは最中だった騎士の横で一物を取り出す。
男性騎士が目を剥いて自分とイッカクのそれを見比べ、肩を落とした。
「いい眺めじゃな」
騎士を挟む位置で、金哉が同じように取り出す。
形は異なるが度胸の据わり具合ではよい勝負だ。
「お、俺は後でしますから」
何故か閏が抵抗を試みている。術を使わず札でぺしんぺしん叩いるだけなので抵抗になっていない。
「オッサン、ガキじゃないんだから早めにすませておこうぜ」
酒癖悪ぃなぁと呟いて万歳丸が手を離す。
閏は慌てて横へと走り、距離を十分とったところで別のトイレを見つけて息を吐く。
帯を緩めて狙いを付けて、力を抜いた瞬間メーガンと目が会う。
「逞しいですね」
失礼しましたと頭を下げて去っていく女騎士を、閏は涙目で見送っていた。
●
「俺に勝てば2万ゴォォォルドくれてやるぜ!」
万歳丸が挑発する。上半身裸の汗で光る肌が妙に艶っぽい。
「よく言った小僧! ……ぬぁっ!?」
帝国軍人が腕相撲を挑んで台ごと吹っ飛ばされた。
既に何度目になるか分からない金のやりとりがされ、万歳丸の財布が元の太さに戻る。
「これだけ人集めて盛り上げてもまだ余ってんのか」
イッカクはグラス片手に重い息を吐いた。
大皿からコロッケをとって囓り、強いのに癖のない酒精で腹の中に流し込んだ。
「仕方がねぇ」
新鮮な魚と肉を腐らせるなんて論外だ。
己を飢えた熊だと思い込む。焼けた秋刀魚を掴んで骨ごと囓る。しっかり噛んで飲み込みまた囓る。
魚酒肉酒魚魚酒肉。
イッカクの食べる様は、現実の鬼でなく伝説でうたわれる鬼のようだった。
盛り上がる場所から少し離れた場所に、地元の猟師達が集まっていた。
彼等の側には超大型の鍋、その向こう側ではステラが巨大おたまを操っている。
「試食」
風がどんぶりを持ち上げる。
ステラはにやりと笑っておたまの中身を注いだ。
最も目立つのは子供の握り拳ほどある猪肉。しかし風や猟師が注目したのは秋刀魚のつみれと餅だ。
特に餅は肉と魚と野菜の旨味を吸い込んで、元がただのジャガ芋だったとは思えないほど味わい豊かで食べていて楽しい。
どんぶりが争うように差し出され、瞬く間に満たされ鍋の水位が下がっていく。
「最初にとれた猪肉、食えるようにして窓口に渡しといたから」
「巫女のねーちゃんにもよろしく言っといてくれ」
猟師達は土産の焼き芋を受け取り帰路につく。
全ての食材が食い尽くされるまで、後2時間ほど必要だった。
コロッケの表面は植物油でからりと揚がり、内側からは濃厚な肉と芋の香りが漂ってくる。
「出来たぞ」
柊 真司(ka0705)は箸を操りながら呼びかける。
清潔な紙の上に揚げたてコロッケを並べ続けているのに何故か数が増えない。
三角巾の位置を直しつつじろりと一瞥。
真司と同じく三角巾装備のパルム達が、大口を開けてコロッケにかぶりついていた。
「大人気ですね」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)が上品に微笑む。
彼女の今の担当は煎餅だ。
土鍋の蓋を開ける。正しいやり方で炊いたのに、米の質が低くて良い香りはほとんどない。
そこに少量の塩と砂糖を投入して加工開始。白い手が潰れた米に塗れ、熱によってほんのり桜色になる。
額にうっすら汗をかく、骨惜しみせず働く10代前半の少女。
無骨な独身野郎共にとってはなんとしてもお近づきになりたい存在のはずなのに、彼等の生存本能が何故か警告を発していた。
「美味しそうな秋刀魚の香りがしますね」
漂う香りに頬をほころばせ、調味料を小さじで舐めて味と状態を確かめた。
「うん、いいお味」
料理酒として持ち込まれた高級酒が既に半分になっていることに、依頼をうけたハンターだけが気づいていた。
コロッケを助手パルムに任せた真司は、蜜がたっぷりかかった大学芋と、さつまいもを薄く切って揚げたものを更に並べているところだ。
ぱらりと塩をかける。
新鮮な油と塩、そして揚げたてのさつまいもの香りが見事に調和し、若い覚醒者や酒飲みの食欲を強烈に刺激する。
「罪作りなひと。女をふっくらさせるのがお好み?」
消毒済みナイフで生地を切り一定の厚さにし、鉄板の上に載せていく。
うっすら焦げ目が付く頃には、残念な米が材料とは思えない美味煎餅の完成だ。
「罪作りって、お前ほどじゃないよ」
軽く息を吐いて周囲を見る。
腹が膨れたドワーフが煎餅を、甘味に飢えた女性陣が甘味を、男性陣の大部分は料理上手で可憐なステラに引きつけられている。
なお、ステラの性別は男である。
どんなに可憐でも、男なのだ。
「お前等、まだ腹に入るか?」
せめて傷が浅くなるようにと、真司は甘味や酒のつまみを配って別の窯に向う。
100人分は入った鍋の蓋を開け、大型のお玉杓子で救って小皿にとり、一口。
「薄いか?」
ポタージュスープとしては満点に近い出来なのに、真司の表情は少々どころでなく暗い。
小さなパルムがマイコップ持参でスープを要求する。それに釣られて休暇中ハンター達も集まってきて、水のように何倍も飲み干す。
「お代わりはいくらでもあるぞ」
未だ大量に詰まれている芋の山複数を見上げ、真司は大きな溜息をついた。
●
「美味しい料理を用意して……お待ちしていますから」
明王院 雫(ka5738)がカウンターの上に皿を置く。
皿の上に盛られた揚げ芋が揺れ、ハーブと塩と油の食欲をそそる香りがハンターズソサエティ支部の一室に広がった。
「より多くの方にお立ち寄りくださるようお声掛けのほど……お願いしますね」
ゆったりと話しながら一礼する。
隙無く着込んだ巫女装束の上からでも分かるふくらみが、実に優雅に揺れた。
「はい!」
食と色の欲に釣られた職員達が、遊びに来ていたり神霊樹の分樹に用があったパルムにお願いを開始した。
「ありがとうございます」
もう一度下げてから支部の外へ。緑豊かな小道を1分ほど歩くと川原に出る。
小川が陽光を反射しきらめき、対岸には紅葉が揺れている。
川原の中程には、同業者や各国の覚醒者が寝転び腹をさすっていた。
その中の1人が勢いよく起き上がる。まだ寝転んでいる連中と違ってかなり細い。
「あー、何かもう風はココに永住したいですねー、何もしなくても食べ放題ですしー」
最上 風(ka0891)は、眠気を感じさせない足取りで雫と合流する。
「猪のお腹の中に、米を注ぎ込んで、丸焼きとかどうですかー? イカメシ的な感じで」
「あまり派手にするのは……」
雫は茂みのある方向に一度だけ目をやった。
自分で解体してその場で焼いて食べるハンターもいるが、今この場にいる客の大部分はは解体の経験すらない。肉と骨と内臓を見せた結果食欲が削がれて食材が大量に余るなんて展開になると、依頼失敗になってしまう。
「じゃあ、お米がありますし、他の食材を鍋に入れて、カレー作りませんかー?」
風の喋りは淡々としているが足取りが軽い。
甘いもの、辛いもの、油たっぷりなものを食べて元気いっぱいだ。
「ルーは高いですよ」
やんわり断ってからテントの1つに入る。丁度そのタイミングで炊飯器が鳴った。
「食欲には怖い面がありますね」
噂を聞きつけたハンターオフィスが送りつけた、大型炊飯器計3個である。
1つの蓋を開ける。
日本酒とみりん、醤油と他少々で味付けられた米は、古米とは思えないほど美味そうだ。
米の間に混じった魚肉も素晴らしい。焼いて解してから入れた魚肉は米の旨味を吸って米にも旨味を吸わせている。
「おお」
風が目を輝かせて茶碗と箸を準備する。
お焦げと表現するにはあまりに綺麗かつ健康的に焼かれた秋刀魚の皮が、適度に形を保ったまま炊飯器の中で自己主張していた。
雫によそって貰い、頂きますと一言言ってから行儀良く口に運ぶ。
風の動きが完全に停止した。
具は魚しか入っていないのに、味も舌触りも歯ごたえも変化に富んでいる。気づいたときには茶碗に米1粒も残っていない。
「大丈夫そうね」
最初の炊飯器は風に任せ、雫は残る2つを客の元まで運んでいくのだった。
●
濡れ羽色の髪が秋の風に吹かれて揺れた。
閏(ka5673)は三角巾で髪をまとめ直す。
石鹸と綺麗な水で手を洗い、土鍋を窯から下ろして蓋を外す。
米が立っていた。
品種改良と冷蔵技術とその他文明の力で舌が肥えすぎた地球出身者とは異なり、閏にとっては十分質が高い米だ。
塩を適量使いながら、慣れた手つきでひたすら握って並べていく。
一通り作り終える。川原一帯を見渡し、見知った顔を探す。
「丸さん、イッカクさん、おにぎり作ったので宜しかったら食べて下さい」
「……あ゛?」
イッカク(ka5625)の表情が激しく歪む。
閏と並べると、気の荒い鬼と気弱な料理人だ。
しかし閏は驚かず怯えもしない。イッカク怒りの対象が何が知っているからだ。
「これ量おかしいだろ」
人差し指と親指だけでおにぎりをひとつ手に取り、米1粒も落とさす一口で食べきる。
口の中で解ける米と微かな塩味、ほんのり効いた胡麻の風味が実に良い。
「これをこんだけの人数で食うのは無謀過ぎんだろ」
川原で寝転ぶ連中を指さし鼻を鳴らす。
この全員が鬼の若い衆ならなんとかなったかもしれないが、人間の覚醒者や覚醒者ですらない人間だけでは無理がある。
「支部で生け贄集めてくらぁ。美肌って適当言っときゃ何とかなんだろ」
体格が優れているので、のんびり歩いていても速度がある。
「おっと。お前も手伝え」
ぶつかりかけたパルムを回収して肩に乗せ、速度を緩めず支部へ向かう。
「あからさまに怪しいが参加さえさせちまえばこっちのモンだからな」
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そんな文面のプラカードを持ったパルムが、本部と複数の支部でこの日見かけられたらしい。
「イッカクも頑張るねぇ」
万歳丸(ka5665)は閏に軽く手をあげて、おむすびを一つ自分の口へ放り込んだ。
ゆっくりと、何度も噛みしめてから嚥下して、満足そうに息を吐いた。
「散々飲み食いした舌と胃腸に優しい塩加減、米も扱いが難しいのに握りの加減が最適だ。両方の面が調和して……」
語る口が止まらないし止める気もない。貧素な暮らしだったため食材と調理人への感謝は無限大なのだ。
「丸さん、宣伝も助かるけど楽しんで食べてくれると嬉しいな」
大きな皿を手渡す。
秋刀魚の蒲焼、竜田揚げ、白味噌を使った味噌汁には猪肉じゃが芋がごろごろ入り、箸休め兼お菓子として煎餅状に揚げた骨が盛られている。
「オッサン、気合はいりすぎだ」
敬意の感じられる動きで受け取り、万歳丸は真剣な表情で1品1品味わい、楽しむ。
それを見た満腹男女が立ち上がり、ふらふらとこちらに向かってくる。
客の流れはそれだけではない。支部のある方向から、大量かつ濃密な人の気配が接近している。
「とれたての秋刀魚と猪を食す秋の宴、じゃ。紅葉を肴に一献傾けるのもよかろ」
先頭で多数の覚醒者を導くのは帳 金哉(ka5666)。
鋼の如く鍛えられた体の上に洒落た着物を羽織り、高い下駄を鳴らしながら歩いてふと気づく。
「俺まで遊山という訳にはいかんか」
新たに生まれた需要が、料理の供給量を上待っている。
金哉は客から離れ、厨房用テントの1つに向かう。
無造作に積まれているクーラーボックスを1つ開けると、中には秋刀魚と氷と保冷剤がみっしり詰まっていた。
「同じ食材ばかりようけあるのぅ」
天然物で似通った大きさの魚、長距離輸送に向いた入れ物と保冷装置。
東方とは異なる文化を五感で感じながら、閏は早速包丁とまな板を取り出した。
素早く三枚に下ろす。
「ほう」
内臓の鮮度に気づいて口角が上がる。
一杯やりたいところだが、炊かれてそのままになっている米の量を考えるとそうもいかない。
未だ瑞瑞しい魚肉を丁寧に切り分けて、素っ気ない皿に美しく盛りつけていく。
「いいですねぇ」
隣のテントの閏が気付き、刺身にあうよう塩の量を調節した。
遠目で見ても瑞瑞しい秋刀魚の刺身に、艶やかな白米おにぎり。
その組み合わせには魔性すら感じられ、東方出身者や海岸近くの出身者が集まって来た。
「臭みがない」
「たまんねぇ」
金哉は賞賛を当然のように受け取り、礼代わりに秋刀魚の叩きの皿を押しつけ追い出す。すると今度は内陸出身者が入れ替わりに集まってくる。
クーラーボックスを10程空にする頃には、太陽はすっかり傾いていた。
「お疲れ様」
閏が差し出すおにぎりを、恭しいとすら表現できる手つきで受け取る。
穏やかなのに妙な圧迫感がある閏の目に気付き、金哉は珍しく照れたように頬をかいた。
「もう子供ではないわ、頂きますくらい言えるぞ」
閏に対して頂きますと言った後、軽く火を通した秋刀魚のわたを添えて大振りのおにぎりを囓る。
米と塩と具の質が比べものにならないほど向上しているのに、何故か昔の味で感じられた。
●
「立派になって」
閏が涙目で杯を干す。
周囲には、無謀にも彼に酒を勧めた男女が良い潰されて高鼾だ。
「とーう」
無数の注射器が出現し、逢魔が時の夕闇でぬらりと光った。
鋭く尖った先端からは毒々しい薬液っぽいものがしたたっている。
満腹で気の抜けているところに不意打ちだったからだろう、逞しい騎士や軍人が這って逃げようとして、飛来した注射器に針を突き立てられた。
「食べ過ぎ、酔っ払い、食当たりには効果があるのか、興味あったんですよねー」
風は秋刀魚の骨を加工した煎餅をかじり、ペンを取り出しカルテ風のメモに記入する。
「喧嘩の打撲跡は回復。生命力へのダメージではない古傷は未回復、腹は」
しゃがみ込んで、赤ん坊をあやす程度の強さで叩くと、情けない声だけが繰り返された。
「満腹を状態異常と見るか負傷とみるかで解釈が違う」
「ステラより若いのに恐ろしい女だな」
万歳丸は、猪の突撃を受け止めた状態で眺めていた。
「おっと悪い」
猪を投げて関節を極め、頸骨に一撃。
苦しませずに倒したのは良いが、この場所で解体すべきかどうか悩んでしまう。
それに……。
「男性用のトイレはあちらです」
メーガン(kz0098)が顔を出し、桶に猪を突っ込み臨時会退場へ運んでいく。
「皆さんもお早めに」
個室トイレは実質女性専用。ドワーフが急遽増設した大用も9割方埋まっている。
「川に出すのはお止めくださいだとよ。お上品なこった」
イッカクは鼻で笑うが川に向かおうとはしない。安っぽい反抗をするほど幼くないのだ。
「閏のオッサン、暗くなる前に行こうぜ」
万歳丸は手に付いた血を手ぬぐいで拭いて、閏の手を引き金哉達と一緒に歩いて行く。
子供の背ほどもある壁があった。
一番下には溝がある。壁にかけると下に流れていくのだろう。
「邪魔するぜ」
イッカクは最中だった騎士の横で一物を取り出す。
男性騎士が目を剥いて自分とイッカクのそれを見比べ、肩を落とした。
「いい眺めじゃな」
騎士を挟む位置で、金哉が同じように取り出す。
形は異なるが度胸の据わり具合ではよい勝負だ。
「お、俺は後でしますから」
何故か閏が抵抗を試みている。術を使わず札でぺしんぺしん叩いるだけなので抵抗になっていない。
「オッサン、ガキじゃないんだから早めにすませておこうぜ」
酒癖悪ぃなぁと呟いて万歳丸が手を離す。
閏は慌てて横へと走り、距離を十分とったところで別のトイレを見つけて息を吐く。
帯を緩めて狙いを付けて、力を抜いた瞬間メーガンと目が会う。
「逞しいですね」
失礼しましたと頭を下げて去っていく女騎士を、閏は涙目で見送っていた。
●
「俺に勝てば2万ゴォォォルドくれてやるぜ!」
万歳丸が挑発する。上半身裸の汗で光る肌が妙に艶っぽい。
「よく言った小僧! ……ぬぁっ!?」
帝国軍人が腕相撲を挑んで台ごと吹っ飛ばされた。
既に何度目になるか分からない金のやりとりがされ、万歳丸の財布が元の太さに戻る。
「これだけ人集めて盛り上げてもまだ余ってんのか」
イッカクはグラス片手に重い息を吐いた。
大皿からコロッケをとって囓り、強いのに癖のない酒精で腹の中に流し込んだ。
「仕方がねぇ」
新鮮な魚と肉を腐らせるなんて論外だ。
己を飢えた熊だと思い込む。焼けた秋刀魚を掴んで骨ごと囓る。しっかり噛んで飲み込みまた囓る。
魚酒肉酒魚魚酒肉。
イッカクの食べる様は、現実の鬼でなく伝説でうたわれる鬼のようだった。
盛り上がる場所から少し離れた場所に、地元の猟師達が集まっていた。
彼等の側には超大型の鍋、その向こう側ではステラが巨大おたまを操っている。
「試食」
風がどんぶりを持ち上げる。
ステラはにやりと笑っておたまの中身を注いだ。
最も目立つのは子供の握り拳ほどある猪肉。しかし風や猟師が注目したのは秋刀魚のつみれと餅だ。
特に餅は肉と魚と野菜の旨味を吸い込んで、元がただのジャガ芋だったとは思えないほど味わい豊かで食べていて楽しい。
どんぶりが争うように差し出され、瞬く間に満たされ鍋の水位が下がっていく。
「最初にとれた猪肉、食えるようにして窓口に渡しといたから」
「巫女のねーちゃんにもよろしく言っといてくれ」
猟師達は土産の焼き芋を受け取り帰路につく。
全ての食材が食い尽くされるまで、後2時間ほど必要だった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/23 19:47:56 |
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食べきるまで帰れま10 万歳丸(ka5665) 鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2015/10/25 11:54:04 |