ゲスト
(ka0000)
【闇光】ノーライフ・キング
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/21 22:00
- 完成日
- 2015/10/29 05:59
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
北狄に進軍した人類軍は、大きな浄化キャンプを作成。そこを本陣とし、歪虚の迎撃に応じていた。
各軍、各部隊、各勢力はそれぞれ展開し、各地で大規模な戦闘が繰り広げられる。
「後方の浄化部隊へ敵を近づけるな!」
叫びながらヴィルヘルミナの振るった剣が光を放ち、集まったスケルトンをまとめて吹き飛ばす。
雪崩のように押し寄せるスケルトンの軍勢は、個々の戦闘能力に乏しい。しかし、いくら倒しても無限に湧いてくるような錯覚すら覚える。
「各方面に高位歪虚が出現! このままでは戦線が維持できません!」
部下の声に険しい表情を浮かべる。
そもそもこの北伐は、汚染領域への進軍だ。人類が安全に活動できるのは浄化エリアだけという縛りがある。
一方敵は自在に汚染領域から奇襲を仕掛けてくる。包囲されるのも時間の問題と言えた。
頭上の夢幻城を見上げ、ヴィルヘルミナは思案する。
既にこの場所に到達するだけで兵力は大幅に低下した。先の歪虚の迎撃の死傷者も多く、補給物資も万全ではない。
この地で休息し、準備を整えてから北上すれば勝機も退路もあっただろう。スメラギ達が作った防衛陣地なら、当面は戦い抜ける筈だった。
しかし、敵は十三魔クラスを複数投入。敵の数も圧倒的に多く、状況は劣勢に傾きつつある。
「まさか目的地の方からおいでとは、敵も大胆な手を考える……」
そう、夢幻城が飛んで来るというのはいくらなんでも想定外だ。
「このまま戦線を維持しつつ後退! 後方の部隊にも撤退準備を進めさせろ!」
「陛下、我々はまだやれます!」
「勘違いするな、玉砕が目的ではないのだ。敵の情報を少しでも多く持ち帰れればそれで良い」
この戦場にいる仲間は帝国軍だけではない。上手くやれば、敵を出し抜ける……その筈だった。
空に浮かぶ城の先端、それは風にマントを靡かせ眼下を見下ろしていた。
既に戦闘は始まっている。だが、闇雲に目についた人間を始末するというのも面白くない。
「あそこかの」
負のマテリアルを纏い、一気に跳躍する。それは風を切り、戦場の真っ只中に墜落した。
衝撃波にまるで瓦礫のように吹き飛んでいくヒトと骨の中心。陥没した大地から這い上がり、怪物は双眸を輝かせる。
「ほう……よくもこれだけ頭数を揃えたものだ。それに見た所“混色”か。成程、或いは獄炎にさえ届き得るのやもしれぬ」
肋骨のような装甲を開き、その内側に渦巻く闇より取り出したるは骨牙の大剣。
剣というには野蛮すぎるが、生命を殺傷せしめる為だけに造られたそのカタチは、紛れも無く剣であった。
どす黒く、そして時折青く明滅する光を帯びた斬撃は直線上の兵達を微塵に粉砕しつつ、大地をえぐり空を割る。
「素晴らしい絶叫だ。命とはその散り際にこそ最も強く輝く。この戦場にもようやく、死が満ちてきおったわ」
無残に薙ぎ払われた死体から浮き出た淡い光は、怪物の口へと吸い込まれていく。
「ううむ。ちと長く“死に続け”すぎたかの……。身体が上手く動かぬ……」
遥か前方から突如飛来した衝撃と閃光に、ヴィルヘルミナは盾を構え備える。
随分と距離があったはずだが、それでも身体が大きく大地を滑った。
側で戦っていた部下へ駆けつけるが、飛来した岩石が胸に食い込み、驚愕の表情のまま絶命している。
「……すまない」
「陛下、今の攻撃は……っ」
「非覚醒者の部隊は後退を急げ! キャンプに近づくスケルトンの迎撃に専念すればよい!」
「し、しかし……」
「今のが見えなかったのか? 生半可な戦力では何秒も持たん」
涙目で震えを隠す兵の後頭部を掴み、ヴィルヘルミナは自らの額を重ね。
「貴様らは貴様らの守るべきモノを守れ。さあ……行け!」
悲鳴を上げながら次々に逃げ出す兵達を追いかけるスケルトンをヴィルヘルミナは剣でなぎ払う。
敵が迫っている。考え得る限り最悪の可能性が、もうすぐ目の前にまで。
――髑髏の軍靴が雪を鳴らす。
亡霊の騎士達は整列し、携えた槍を頭上に交差させた。
不死者の隊列が作ったアーチの下を、王はゆっくりと前進する。
陽炎のような真っ黒の光を背負い、無窮の怪物は剣を振るう。
「部下を下がらせたか……それは間違った判断であろうな、王よ」
雪原に風を受けて立つヴィルヘルミナに、髑髏の王は首を傾げる。
「王とは最後までそこに立ち続けることこそ責務。その他の命にかまけてその身を晒すとは愚の骨頂」
「生憎この身は王道にあらず。“覇道”にけちをつけられる謂れはないよ、“不死の剣王”」
暴食王ハヴァマール。その怪物と対峙して尚、ヴィルヘルミナは笑みを作る。
「それに生憎、一人ではないのでな」
後退する帝国兵と入れ違いに最前線に駆けつける者達が居た。
精霊の加護を受けた戦士達、ハンター。絶対的な力を持つ歪虚王の前に、彼等は勇敢に立ちはだかる。
「精霊の力か……くだらんな。おぬしらは自らが何故戦うのか、その本質にすら気づいておらぬのか」
大地に剣を突き、両腕を広げる。
「この広大な世界に何故精霊があり、何故歪虚があるのか。光とは何か、闇とは何か……おぬしらはそんな当たり前の事にすら気づかぬまま死んでいく。だがそれこそ、そうであってこそ、ヒトの命とは美しい」
そう。生まれては死んでいく、ただそれだけの機械的な存在であったとしても。
「――余が救おう。彷徨える哀れな星の涙よ。万物一切の区別なく、余が束ねよう。そして共に至ろうではないか……虚無の深淵へと!」
歪虚王との明確な交戦記録は、東方の九尾だけ。
目の前の怪物はかつて大侵攻の名の元に、人類の領土をごっそりと奪い取った略奪者の王だ。
その力の凄まじさはただそこに立っているだけでもわかる。生半可な非覚醒者など、側を歩かれただけで気がどうにかしてしまうだろう。
「それでも……」
七体の王全てを屠らぬ限り、この世界に未来はない。
このバケモノを戦場に引きずり出した。それ自体が歴史的快挙。
「我が名は暴食王ハヴァマール。“星の救済者”である」
不死者の軍勢に続き、ハンター達も動き出す。
交わる生者と死者の剣。二人の王は遠く離れたお互いに突きつけるように、地に穿たれた刃を抜き放った。
各軍、各部隊、各勢力はそれぞれ展開し、各地で大規模な戦闘が繰り広げられる。
「後方の浄化部隊へ敵を近づけるな!」
叫びながらヴィルヘルミナの振るった剣が光を放ち、集まったスケルトンをまとめて吹き飛ばす。
雪崩のように押し寄せるスケルトンの軍勢は、個々の戦闘能力に乏しい。しかし、いくら倒しても無限に湧いてくるような錯覚すら覚える。
「各方面に高位歪虚が出現! このままでは戦線が維持できません!」
部下の声に険しい表情を浮かべる。
そもそもこの北伐は、汚染領域への進軍だ。人類が安全に活動できるのは浄化エリアだけという縛りがある。
一方敵は自在に汚染領域から奇襲を仕掛けてくる。包囲されるのも時間の問題と言えた。
頭上の夢幻城を見上げ、ヴィルヘルミナは思案する。
既にこの場所に到達するだけで兵力は大幅に低下した。先の歪虚の迎撃の死傷者も多く、補給物資も万全ではない。
この地で休息し、準備を整えてから北上すれば勝機も退路もあっただろう。スメラギ達が作った防衛陣地なら、当面は戦い抜ける筈だった。
しかし、敵は十三魔クラスを複数投入。敵の数も圧倒的に多く、状況は劣勢に傾きつつある。
「まさか目的地の方からおいでとは、敵も大胆な手を考える……」
そう、夢幻城が飛んで来るというのはいくらなんでも想定外だ。
「このまま戦線を維持しつつ後退! 後方の部隊にも撤退準備を進めさせろ!」
「陛下、我々はまだやれます!」
「勘違いするな、玉砕が目的ではないのだ。敵の情報を少しでも多く持ち帰れればそれで良い」
この戦場にいる仲間は帝国軍だけではない。上手くやれば、敵を出し抜ける……その筈だった。
空に浮かぶ城の先端、それは風にマントを靡かせ眼下を見下ろしていた。
既に戦闘は始まっている。だが、闇雲に目についた人間を始末するというのも面白くない。
「あそこかの」
負のマテリアルを纏い、一気に跳躍する。それは風を切り、戦場の真っ只中に墜落した。
衝撃波にまるで瓦礫のように吹き飛んでいくヒトと骨の中心。陥没した大地から這い上がり、怪物は双眸を輝かせる。
「ほう……よくもこれだけ頭数を揃えたものだ。それに見た所“混色”か。成程、或いは獄炎にさえ届き得るのやもしれぬ」
肋骨のような装甲を開き、その内側に渦巻く闇より取り出したるは骨牙の大剣。
剣というには野蛮すぎるが、生命を殺傷せしめる為だけに造られたそのカタチは、紛れも無く剣であった。
どす黒く、そして時折青く明滅する光を帯びた斬撃は直線上の兵達を微塵に粉砕しつつ、大地をえぐり空を割る。
「素晴らしい絶叫だ。命とはその散り際にこそ最も強く輝く。この戦場にもようやく、死が満ちてきおったわ」
無残に薙ぎ払われた死体から浮き出た淡い光は、怪物の口へと吸い込まれていく。
「ううむ。ちと長く“死に続け”すぎたかの……。身体が上手く動かぬ……」
遥か前方から突如飛来した衝撃と閃光に、ヴィルヘルミナは盾を構え備える。
随分と距離があったはずだが、それでも身体が大きく大地を滑った。
側で戦っていた部下へ駆けつけるが、飛来した岩石が胸に食い込み、驚愕の表情のまま絶命している。
「……すまない」
「陛下、今の攻撃は……っ」
「非覚醒者の部隊は後退を急げ! キャンプに近づくスケルトンの迎撃に専念すればよい!」
「し、しかし……」
「今のが見えなかったのか? 生半可な戦力では何秒も持たん」
涙目で震えを隠す兵の後頭部を掴み、ヴィルヘルミナは自らの額を重ね。
「貴様らは貴様らの守るべきモノを守れ。さあ……行け!」
悲鳴を上げながら次々に逃げ出す兵達を追いかけるスケルトンをヴィルヘルミナは剣でなぎ払う。
敵が迫っている。考え得る限り最悪の可能性が、もうすぐ目の前にまで。
――髑髏の軍靴が雪を鳴らす。
亡霊の騎士達は整列し、携えた槍を頭上に交差させた。
不死者の隊列が作ったアーチの下を、王はゆっくりと前進する。
陽炎のような真っ黒の光を背負い、無窮の怪物は剣を振るう。
「部下を下がらせたか……それは間違った判断であろうな、王よ」
雪原に風を受けて立つヴィルヘルミナに、髑髏の王は首を傾げる。
「王とは最後までそこに立ち続けることこそ責務。その他の命にかまけてその身を晒すとは愚の骨頂」
「生憎この身は王道にあらず。“覇道”にけちをつけられる謂れはないよ、“不死の剣王”」
暴食王ハヴァマール。その怪物と対峙して尚、ヴィルヘルミナは笑みを作る。
「それに生憎、一人ではないのでな」
後退する帝国兵と入れ違いに最前線に駆けつける者達が居た。
精霊の加護を受けた戦士達、ハンター。絶対的な力を持つ歪虚王の前に、彼等は勇敢に立ちはだかる。
「精霊の力か……くだらんな。おぬしらは自らが何故戦うのか、その本質にすら気づいておらぬのか」
大地に剣を突き、両腕を広げる。
「この広大な世界に何故精霊があり、何故歪虚があるのか。光とは何か、闇とは何か……おぬしらはそんな当たり前の事にすら気づかぬまま死んでいく。だがそれこそ、そうであってこそ、ヒトの命とは美しい」
そう。生まれては死んでいく、ただそれだけの機械的な存在であったとしても。
「――余が救おう。彷徨える哀れな星の涙よ。万物一切の区別なく、余が束ねよう。そして共に至ろうではないか……虚無の深淵へと!」
歪虚王との明確な交戦記録は、東方の九尾だけ。
目の前の怪物はかつて大侵攻の名の元に、人類の領土をごっそりと奪い取った略奪者の王だ。
その力の凄まじさはただそこに立っているだけでもわかる。生半可な非覚醒者など、側を歩かれただけで気がどうにかしてしまうだろう。
「それでも……」
七体の王全てを屠らぬ限り、この世界に未来はない。
このバケモノを戦場に引きずり出した。それ自体が歴史的快挙。
「我が名は暴食王ハヴァマール。“星の救済者”である」
不死者の軍勢に続き、ハンター達も動き出す。
交わる生者と死者の剣。二人の王は遠く離れたお互いに突きつけるように、地に穿たれた刃を抜き放った。
リプレイ本文
●開戦
大地に突いた剣に両手を重ね、暴食王は静かに佇んでいる。
その声もない指示に従うように、多数の暴食の眷属がハンター達へと押し寄せる。
「来るよ! 各員、攻撃開始!」
キヅカ・リク(ka0038)の声に合わせチョココ(ka2449)が詠唱を開始。キヅカはデルタレイ、チョココはライトニングボルトを放つ。
「よし……行くぞ! 必ず全員で生き残るんだ!」
その光を追いかけるように駆け出したヴァイス(ka0364)に続き前に出たヴァルナ=エリゴス(ka2651)。二人は接近するスケルトン集団に飛び込んでいく。
範囲攻撃を受けたスケルトンはあっさりと粉砕されて吹き飛ぶ。個々の戦闘力は高いわけではない。
「デュラハンの部隊が来るでござるよ!」
スケルトンを大太刀で薙ぎ払いながらミィリア(ka2689)が叫ぶ。
まずは四体のデュラハンが大地を滑るように浮遊しつつ、五体のスケルトンを引き連れ迫ってくる。
スケルトンより高い戦闘力と厄介な不死性を持つデュラハンの対処には三つのチームに分けられたハンターが対応する手筈が整っていた。
「オラァ、俺様が相手だ! 貴族舐めんなよ!」
銃撃を加えつつ走るジャック・J・グリーヴ(ka1305)へ急接近したデュラハンが槍を繰り出す。
これを盾で受けると、続いてスケルトンが一斉にジャックへ襲いかかった。
そんな敵の頭上を飛び越え、空中で反転するフィルメリア・クリスティア(ka3380)は掌に収束させた火炎を降り注がせ、スケルトンを吹き飛ばす。
ジャックが受け止めた槍の一撃に盾を構えたまま体当りし敵を仰け反らせると、紅薔薇(ka4766)が鎧を斬りつけ鋭い傷口を作る。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が炎を纏ったハルバードをぶつければ鎧はひしゃげ、傷口は広がる。フィルメリアはそこにシザーハンズを纏った腕を突き入れた。
鎧の内側で放たれた雷撃にデュラハンは出鱈目に痙攣し、あっと言う間に核を破壊され蒸発していく。
「あ? もう終わりか? 呆気無ぇなオイ」
「ううむ、グスタフの教え恐ろしく有効じゃな」
次の攻撃に身構えていたボルディアが拍子抜けしたように舌打ちする。フィルメリアは腕を引き抜き、その手応えを握り締めた。
「だいぶ余裕あるな。この調子でガンガン行くぞ!」
ジャックの言葉に頷き、A班は次の獲物を探す。結論を言えば、このA班がこの戦いで最も多くのデュラハンを倒す事になる。
一方B班。アルファス(ka3312)の放つ無数の閃光がスケルトンごとデュラハンを攻撃すると、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)が追撃を放つ。
剣を持ったデュラハンと刃を交えるユーリだが、基本スペックではユーリが敵を圧倒している。
鎧に傷を受けたデュラハンが反撃の刃を繰り出すと、そこへ割り込んだルオ(ka1272)がスピアで剣戟を打ち払った。
「雑魚はこの戦場に相応しくねぇ……このデスドクロ様が引導を渡してやるぜ!」
怯んだところへ雷撃を帯びたデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)のアッパーカットがデュラハンの顎を打つ。
「ユーリ、今だ!」
更に背後へ回りこんだアルファスがデュラハンの背に機杖を当て雷撃を放つと、正面から跳びかかったユーリの斬撃が繰り出された。
力任せに破損された鎧の胸を見据えながら走るルオは、そこへスピアを繰り出す。
内部で輝いていた核を矛先が貫くと、デュラハンはその姿を消していった。
「ふ、ふう……心の準備全然できてなかったけど、結構イケるもんだな……」
ほっと胸を撫で下ろすルオ。B班も比較的速いペースでデュラハンの撃破に成功した。
リュー・グランフェスト(ka2419)の盾はデュラハンの斧を受けてもびくともしない。
そこへナハティガル・ハーレイ(ka0023)が戦槍を繰り出し、リューも振動刀で追撃を放つ。
更に回りこんだ牡丹(ka4816)は鞘から抜き放った刃で大地を擦り、炎を纏った斬撃を繰り出した。
「――今だ! 一発カマしてやれ……ソフィア!」
ナハティガルの声に頷き、ソフィア =リリィホルム(ka2383)は雷撃を放つ。
「……今ね!」
牡丹の居合に続き雷撃を受けたデュラハンは仰け反り完全に動きが止まっている。そこへ牡丹が甲冑の隙間に刃を通すが、核には命中しない。
「退いてな! 今穴を開けてやる!」
ナハティガルは力任せに槍を繰り出し、鎧に矛先を食い込ませる。
牡丹はその穴に腕を突っ込み核を引き出すと背後へ放り、リューがそれを両断する事でデュラハンは機能停止する。
「一丁上がり、っと。……ハッ、対処法が分かると脆いモンだぜ」
魔法攻撃と物理攻撃を的確に割り振る事ができれば、デュラハンは難しい相手ではない。
三つの班は亡霊殺しの術を心得ていたのだ。
「さっきから倒しても倒してもスケルトンが沸いてきますね……」
日紫喜 嘉雅都(ka4222)はもうずっとスコープを覗いたままの姿勢で攻撃を続けている。
デュラハン対応チームが各地で交戦する中、残りのメンバーは押し寄せるスケルトン軍団を撃退していた。
とっくに初期配置の30体など屠り終えたが、敵の勢いはまるで衰える気配がない。
「どういう事じゃ? まさか本当に湧き出ているとでもいうのか?」
カナタ・ハテナ(ka2130)は思案しつつ、セイクリッドフラッシュで敵を蹴散らしつつ。
「敵は撃破された個体を文字通りリサイクルしている可能性もある! 無理に倒さず、部位破壊で活動不能に追い込めればよい!」
「な、なかなか難しい注文ですね……っ」
「敵の増殖速度が早すぎて、こちらも纏めて片付けないといけませんからね」
困り顔で雷を放つチョココ。ヴァルナはそれに続いて大剣で敵を薙ぎ払う。手加減は難しいが、確かに止めを刺している暇はない。
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)は手裏剣を束ね、接近する敵集団へ同時に投擲。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は敵陣に飛び込むも、次々に攻撃をかわし、左右の剣で踊るように敵を切り裂いていく。
「倒しても倒してもキリがないねぇ」
「取るに足らない雑魚とは言え、いつまでもこうしていれば消耗するだけか……」
「やっぱり前に出るしかないか……」
攻撃しつつ呟くキヅカにヴィルヘルミナは剣を抜き。
「このスケルトンの増殖が剣王の仕業だとすればそのような理屈になる。敵の数は少しずつだが減っている……勢いのあるうちに征くぞ」
「あ、ちょっと……! 前にですぎっすでございますっす!」
神楽(ka2032)は駆け出した皇帝の後を追う。刹那もその勢いに目を白黒させ。
「謎の思い切りのよさ……待ってください!」
「あの人は生き急ぎ過ぎではないでしょうか……」
神楽はファミリアアタックで、刹那と嘉雅都は銃撃で皇帝に迫る敵を打ち払う。
赤い光を帯びた剣を繰り出しながら敵陣に突撃したヴィルヘルミナは滑りこむようにヴァイスとヴァルナの間に到着する。
「うお!? び、びっくりした」
「二人共、敵陣を突破するぞ」
「あ、自ら先頭なんですね……。それぞれの範囲攻撃を交互に打ち込み、突破を試みようと思うのですが」
「ミィリアも手伝うでござるよ! 突撃するのは得意でござる」
どや顔で親指を立てるミィリア。頑強さと突破力に優れる闘狩人勢が最前線に立つ。
「くそ……身体さえまともに動け、ば……」
「無理をしてはだめよ。傷が悪化してしまうわ」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)は先の戦闘で既に重傷を負っている。悔しげに歯噛みする肩を叩き、エイル・メヌエット(ka2807)は首を横にふる。
「なぁに。お前一人の穴くらい、ボクが埋めてやるさぁ」
「危なくなったら壁を出しますから、その後ろに隠れてくださいですのっ」
「ヒース……チョココ……。ありが……とう」
スケルトン軍団を撃破しつつ前進するハンター達。そこへ近づくデュラハンは、デュラハン対応班が迅速に撃破していく。
彼等の進軍は非常に順調に進んでいく。
それは彼等が優秀なハンターであるという事、そして暴食王にとって望ましい敵である事を意味していた。
●深淵より来たりて
「スケルトンはどうやら奴の足元付近から湧き出しているようだねぇ」
戦線は歪虚側に大きく食い込み、距離が近づけば様子もよくわかる。
ヒースの視線の先では次々にスケルトンが出現していた。大地に出現した黒い霧から骨の腕が伸び、大地から這い出てくるのだ。
「よし……行こうみんな!」
バイクに跨ったキヅカが声を上げる。紅薔薇はその後ろに縋るように跨った。
剣王に近づけばそれだけスケルトンに包囲攻撃を受ける。王は近いようでまだ遠い。
「皆の道は私達で作るわ!」
「へっ、オイシイところは譲ってやる……ヘマすんじゃねぇぞ!」
左右から近づく敵をエイルのレクイエムが止め、ジャックの斬撃が吹き飛ばす。
「せっかくの好機だぁ。必ず情報を持って帰るぞ」
「邪魔をしないでほしいですの!」
ヒースの手裏剣が、チョココのファイアボールが進路上の敵を薙ぎ払う。
「ユーリ、君の剣を奴に届かせる為に!」
「後衛の護衛は任せろ!」
アルファスのデルタレイがスケルトンを穿ち、そんな後衛達に近づく敵をヴァイスが切り伏せる。
剣王へ向かって突き進むハンターの一団の先頭はキヅカだ。そんなキヅカのバイクに近づく敵を同じくバイクに乗ったナハティガルが槍で打ち払う。
「行け、キヅカ!」
「ありがとう、皆!」
そんなハンター達の接近に剣王は大地に突き刺した髑髏の剣を抜き、黒い極光を纏わせる。
「王を相手に怯まず突き進むとは……その意気や良し」
片手で水平に構えた刃は肥大化し、長大な剣と成る。
横振りに繰り出されたソレは味方のスケルトンごとハンター達を一閃に薙ぎ払った。
剣王に向かっていたハンター達はその一撃を各々の方法で防御、回避するが、勢いは一瞬で失われてしまった。
「くそっ」
キヅカはバイクを倒して回避するが、殆どただ転倒しただけだ。
しかし紅薔薇は跳躍し、そのままの勢いでハヴァマールへ跳びかかりつつあった。
ありったけの力を込めて振り下ろす一撃。雄叫びと共に繰り出された光の斬撃は剣王の身体を袈裟に切り裂いた。
「ぬう……!?」
着地もままならず雪の上を転がる紅薔薇が上げた顔に、攻撃に成功したという喜びはなかった。
(なんじゃ……この手応えは?)
遅れ、ハンター達が駆け寄ってくる。次々に繰り出される攻撃に剣王は軽く刃を構えて防御の姿勢を取るが、殆ど“防御”の体を成していない。
身構えはするが、それだけだ。剣を細かく動かし防ぐだとか、回避するという動きは見られない。どっしり両足を地についたまま、次々にハンターの攻撃を受けている。
そしてやがて雄叫びを上げると、その場にバッタリと倒れこんでしまった。
「……えっ!?」
「倒した……でござるか? もう?」
驚きを隠せないフィルメリア。ミィリアは刀の先で死体をつついてみるが、反応はない。
覚醒者なら歪虚の気配くらい感じ取れる。だが目の前のソレは完全に死んでいた。
「油断するんじゃねぇぞ! 不死の名を持つ相手だ、再生能力くらい持ってて当然だ!」
デスドクロの言う通り、ハヴァマールの身体がびくりと脈打つと、急速に負のマテリアルが収束していく。
周囲の闇を渦巻かせながら剣王は起き上がり、再び刃を握った。破損した骨も全て修復している。
「このマテリアルの波動……成程。オルクスが見初めただけの事はある」
「防御能力は低い! クソ強ぇ個体でも攻撃が通じるならなんとかなる! 攻撃しまくるんだ!」
デスドクロの言葉に背を押され、ハンター達は再度攻撃を行う。
剣王の防御は実におざなりで、攻撃でもきちんと身体は破損している。だが直ぐに再生し、それと共に闇が強まっていく。
「どういう事なのじゃ……?」
奇妙であった。カナタの頬を冷や汗が伝う。
弱い。歪虚王というにはあまりにも、弱い。
確かに再生能力は尋常ではないが、それだけだ。
剣王の刃を容易く回避したアルトが反撃を繰り出すと、ばきりと音を立て骨が砕ける。
ボルディアがハルバードを打ち込めば軽く吹っ飛んで無様に大地を転がるし、魔法や銃撃にはやられるがままだ。
「なんだか変でござるよ。これだったら剣豪さんのほうがずっと強かったでござる」
「動きが単調過ぎるんだ。明らかに戦士の戦いじゃない」
頭上からクエスチョンマークが消えないミィリアに、アルトは弱さの理由を伝える。
剣豪には極めた武術の心得があった。人型である以上、それは強さと直結する。
だが目の前のあれは人型ではあるがヒトではない。ただ力任せに暴力を振るうだけの獣だ。
天衣無縫といった特殊能力も見られないのは、剣王に武という概念が存在しないからだろうか。
「むむ……。ヒトも中々やりおるのう。しかし、何故足掻くのだ? 必ず滅びる命であるというのに……。この先、おぬしらに希望が降り注ぐ事はない。いくら北へ進めど、待つのは闇のみぞ」
「死んだりしても、想いは残るんだ。それを忘れなければ、何もなかったことになんかならない。だから先に行く……そこに絶望があったとしても!」
キヅカの叫びに続き、ボルディアは唾を吐き捨て。
「死で救うだなんてなぁ、そんな事一体誰が頼んだんだ。俺の死も、生も、テメェなんぞに決められる筋合いはねぇ!」
「本質だか何だか知った事か! 俺は俺の意思でここにいる! そうさ、俺達は生きて何もかも知っていくんだ! その先に何があろうが、決して諦めないっ!」
リューの言葉に剣王は剣を肩にのせ、顎を弄る。
「“成長”と“進化”……それは余には理解し得ぬモノだ。死とは全ての到達点ではあるが、だからこそ至る道を余は知らぬ。おぬしらの主張も、一理あるのやもしれぬな」
目を丸くするリュー。剣王はしきりに頷きリューを見る。どうやらその言葉は随分と興味を引いたらしい。
「かつて同じ事を余に告げた者達がいた。最果てを目指し、ありもしない幻想の希望を追い求め、それでも北を目指した英雄達……。障害は最早大精霊達守護者のみと高をくくっていたが、なるほど。おぬしのような新たな世代が生まれているという事か」
「上から目線でグダグダ言ってんじゃねぇ! お前は……俺達が倒す!」
「面白い……付き合ってやろう。オルクスやナイトハルトが育てた力、この余に見せてみよ!」
身構えたハヴァマールから黒い波動が吹き出し、その余波にハンター達が仰け反る。
「また負の波動が強まった……なんて存在感なの」
「奴は王であって戦士じゃない。莫大な負の力を持っていても、それをただ放出するだけだ。経験を活かせば、必ず凌駕出来る」
息を呑むユーリに笑いかけるアルト。ハンター達が再び構えると、剣王は大地を蹴って飛び出した。
鈍重そうな外見に似合わず高速で距離を詰める剣王だが、繰り出した刃はアルトにかすりもしない。
(とはいえ……横切っただけで身体が焼けるみたいだ)
存在の圧力だけは紛れも無く王。まともに攻撃を受ければ一撃で倒れかねない。
「上から見下すだけの者が救いなど、おこがましいのですよ!」
ヴァルナの振り下ろした大剣が剣王の頭部をカチ割り、マテリアルを噴出して加速したフィルメリアが骨の身体に雷撃を打ち込む。
更にカナタがレクイエムで動きを鈍らせると、炎を纏ったボルディアの一撃と蒼い閃光のようなユーリの斬撃が繰り出される。
「反撃の暇なんて与えるかよ!」
更にリューが追撃、キヅカが電撃で反撃を防ぎ、桜吹雪を纏ったミィリアの刺突が剣王を貫く。
剣王が呻いている間にソフィアが雷撃で動きを鈍らせ、アルトが素早く連撃を入れ、紅薔薇がすれ違い様に強力な一撃を打ち込む。
「この芳醇なマテリアル……そうか。おぬしらならば或いは、次代の守護者となり得るのかもしれぬな……」
ボロボロになって倒れた剣王はまた立ち上がり再生する。そして鎧の合間から闇を吹き出し、輝きを強めていく。
核らしきものは見つからない。再生を止める手段も見つからない。今の彼等にこの怪物を屠る術は見えていなかった。
「素晴らしい力だ。この感覚……滾る、滾るぞ。研ぎ澄まされた英雄の魂ほど、余に活力を与える糧もない」
その身体を大地から湧き上がる黒い煙が覆い、負の波動が急激に強まっていく。
「光の力を贄として……目覚めよ深淵! 我が闇を解き放ち、常世全てを食い尽くすが良い……!」
「力の上昇が止まらない……!?」
「やべぇな……全員下がれ!」
荒れ狂う風に腕を翳すキヅカ。デスドクロが叫んだ直後、眩い光がハンター達を包み込んだ。
●闇光の覚醒
「何……!? 何が起きたの!?」
悍ましい歪虚の気配に青ざめるエイル。
剣王を中心に放たれた光は柱となり天を貫いている。圧倒的なその負の力は、あの九尾を彷彿とさせる。
「やっぱりか……。あいつの姿はあれが全力じゃなかったんだ」
眉を潜めて呟くアルファス。小型の人型の歪虚が王の全力であるはずがないし、そもそも暴食の系統には特徴がある。
他の個体との融合や変形、そして巨大化。その予想は全く正しく、闇光から突き出した巨大な骨の腕が証明する。
それは無数のスケルトンが融合した姿。光から這い出した巨大な怪物は北狄の空に雄叫びを上げる。
「なんすかあの大きさ……九尾と同等っすよ!? もう完全に無理ゲーっす!」
「早く皆を助けに……うわっ!?」
驚く神楽。走りだそうとするルオだが、その足を掴む腕があった。
ハンター達の足元にはいつの間にか黒い霧が広がり、そこから夥しい数のスケルトンが這い出してきたのだ。
「オイオイ、なんつー数だ……三桁はいるぜ」
「どうやらそれだけではなく、形の違う個体もいるみたいだねぇ」
数える事を諦めたジャックにヒースは肩を竦め。
サイズ2やサイズ3クラスの大型のスケルトンがあちこちに湧き上がり雄叫びを上げている。
「とにかく敵を対処しつつ、皆を助けに向かうぞ!」
「声出せ声! 気張って行くぞ!!」
ヴァイスに続きジャックが叫ぶ。立ち塞がる大漁の敵を突破し、彼等の援護に向かわねばならなかった。
「くっ、皆は……」
上体を起こそうとするキヅカだが、最早身体が動かない。
暴食王が姿を変える時に生じた膨大なマテリアル爆発から仲間を庇う為前に出たが、最早それだけで戦闘継続不可能に追い込まれていた。
「紅薔薇さん……逃げ……て」
気絶したキヅカの視線の先、紅薔薇は巨大化した暴食王をじっと見つめていた。
「歪虚王よ、この世で最も強き者達よ。お主等が妾の敵である事に感謝するのじゃ」
その瞳にもうキヅカは映っていない。巨大な深淵そのものと化した王の力に見入るのみだ。
「獄炎を斬って残り六体。妾は七体の王の全てを斬ると決めたのじゃ。剣王よ、もしもお主に届いたなら、剣の名の称号を妾にくれんかのう?」
「おヌしが獄炎ヲ……。そウか……既に王ニ届き得ルモノは存在するノだナ……」
歪虚王が振り下ろす巨大過ぎる右腕に紅薔薇は刃を構えるが、その首根っこを掴んだヴィルヘルミナによって移動させられる。
それでも砕かれた大地に二人は空に投げ出される。紅薔薇を抱きかかえたまま、皇帝はハンター達に叫んだ。
「――全軍撤退! これ以上の戦闘継続は不可能だ! 退くぞ!!」
しかし周囲は既に夥しい量のスケルトンに包囲されている。これまでの数とは比較にならないほどだ。
「なんとか退路を作ってみるでござる……皆、こっちでござるよ!」
口元の血を拭いミィリアが太刀を振るう。動けるハンターは敵を範囲攻撃等で粉砕するが、その背後でハヴァマールは巨大な剣を大地から引き抜いていた。
「……後ろから来るぞ! 全員走れぇえええ!!」
リューの絶叫の最中、大きな影がハンター達を覆った。
振り下ろされる巨大な骨の固まりから逃れるハンター達。直撃範囲からは逃れたが、衝撃の余波だけでも凄まじい。
吹っ飛んでくる骨や地面の残骸を前にソフィアは斧を巨大化させ両断、背後の仲間を守る。
「クソが……攻撃の規模が出鱈目すぎんぞ!」
「こっちじゃ!」
あまりにも多すぎる敵にカナタはレクイエムを連発し動きを止めつつ、隙間を縫うように仲間を誘導する。
「あの時ノ小娘か……。貴様ハ危険じゃ……逃しハせぬ」
剣王の開かれた口に収束した闇の波動が光弾となって発射される。
それは先頭を進んでいたハンターの集団を巻き込み、爆散した。
(あの時の……という事は、剣王はカナタと会った事が……)
激しく大地をバウンドし、血を流し倒れるカナタ。敵の正体を思案する前に、その意識は途切れた。
「う……。皆、生きてる……?」
「まあ……なんとか、な……」
起き上がったユーリの目の前には槍を大地について立つボルディアの姿があった。
だがその腹には無数のスケルトンの残骸が突き刺さっており、口と鼻からぼたぼたと血が流れている。
「ボルディアさん……!」
「当りどころが悪かったかな……く、そ……」
倒れるボルディアを抱き留めるヴァルナ。一方、リューは皇帝の腕の中にいた。
先の光弾による攻撃の際、リューは盾を構え皇帝を守ったのだ。
「リュー……馬鹿な事を!」
「守られてばかりじゃない……今度こそ、俺が守るって……そう決めてたからな」
気を失ったリューを背負い、皇帝は唇を噛みしめる。
「すまない……必ず連れて帰る!」
「負傷者の数が多すぎる……このままじゃ逃げきれなくなるよ!」
キヅカを担いだアルトが焦りを露わにする。負傷者が増えれば突破力も機動力も低下してしまう。
相変わらず退路を塞ぐスケルトンの軍勢……それをチョココのファイアボールが吹き飛ばした。
「皆さん、こっちですのっ!」
「皆ひどい怪我……。走りながらでいいわ、回復するから!」
エイルは移動しつつ負傷者にヒールを施していくが、癒やし手の数は絶対的に足りていない。
「邪魔だ……退けぇええ! 俺達は皆で生きて帰るんだ!!」
鬼気迫る表情でスケルトンを蹴散らすヴァイスだが、そこへ大型個体が一斉に襲いかかる。
「ヴァイス! クソが、狙うなら俺様を狙いやがれ! 貴族はこっちだ!」
ジャックも敵を引きつけようと懸命に闘うが、上級スケルトンに群がられては太刀打ち出来ない。
「すまない……俺のせいで……」
「負傷者だらけなんだぁ、今更対して変わらないさぁ。生き残り、情報を持ち帰るのも仕事のひとつだから、ねぇ」
ヒースは手裏剣を投擲しつつ、オウカに肩を貸してなんとか撤退を試みる。
「ユーリ!」
「私はまだ大丈夫……それより一緒に退路を!」
駆けつけたアルファスが頷き返す。アルファスは炎で、ユーリは振動刀で退路を確保する。
逃げる事、そして負傷者を守る事だけに力を注ぎ込めば、少しずつだが着実に前に進める。
「奴はどうやらまだ上半身だけみたいだぁ。もしかしたらあそこから移動できないのかもしれないねぇ」
振り返り暴食王を確認するヒースだが、確かに黒い霧から出ているのは上半身だけ。下半身は未だ見えず、敵もその場から動いていない。
「よかった……逃げきれるかもしれないって事ですよね?」
刹那がそう言った直後、剣王は周囲のスケルトンを鷲掴みにすると、それをハンター達へ思い切り投げつけた。
「ええっ!? 冗談でしょ!?」
目を丸くする牡丹。上空から降り注ぐスケルトンに刹那と嘉雅都は銃撃で、牡丹は刀で迎撃を行う。
更にエイルはセイクリッドフラッシュを放ち、降り注ぐスケルトンを多く散らして見せた。
「くそ、また退路が!」
慌てるルオ。どんどん投擲されたスケルトンが退路に落下し襲ってくる。
「全く……どこが星の救済者ですか。寧ろ星の膿そのものですね……。ヴァルナさん、アルトさん、負傷者はお預かりします。お二人は前の方が得意でしょう?」
「確かに、これはサボってられないね……助かるよ」
嘉雅都が負傷者を預かると、アルトは連撃で立ち塞がる大型個体を瞬殺。ヴァルナも範囲攻撃で道を切り開く。
「皇帝陛下、ご無事でしたか!」
「ああ……。だが、ハンターに負傷者が……私の責任だな」
「仕方のない事ですよ。それにそう思うのなら、早く撤退しましょ……え?」
逃げるように諭す刹那にリューを渡すと、その肩を叩き。
「私は殿をやる。リューは任せた」
「あの……ちょっと……この人筋肉質で結構重い……誰か代わって下さい! 陛下を護衛しないと!」
大きな棍棒を振りかざした大型個体へ牡丹は刃を鞘から滑らせ、その動きを阻害する。
ルオはスピアを叩きこむようにして足を折り、ナハティガルが槍で頭蓋骨を貫く。
「もうっ、無駄に頑丈なんだから!」
「ルミナちゃん似の人、大丈夫かな……?」
「おい……また来るぞォ!」
遠距離から剣王は負の光弾を放つ。着弾点から離れようと走るハンター達だが、爆風に全員が大地をのたうつ。
飛来する破片も厄介で、後方のヴィルヘルミナはオーラを纏った剣でこれを一閃。紅薔薇も協力し、残骸を薙ぎ払う。
「暴食王の狙いはどうやら我らのようじゃな」
「ああ。ということは、私達が後方に居れば前方の被害は留められる道理だ」
「付き合うぞ、ヴィルヘルミナ殿」
「いやいや、陛下は自分の立場を理解するっすよ!」
後方から迫る大型個体をパルムを発射して砕く神楽。刹那も敵を掻い潜りつつ太刀で切り伏せ駆けつけた。
「ようやく追いつきました」
「二人共来るな! そう何度も耐えられん!」
「だからこそ見捨てるわけにはいかないんすでございますよ」
更に投擲されたスケルトンが降り注ぐ。エイルがセイクリッドフラッシュで打ち払い着弾点をずらしているが、それにも限度がある。
「もう魔法が尽きてしまう……!」
「エイルさん、手伝います!」
フィルメリアは火炎でスケルトンを薙ぎ払い、エイルの隣に並ぶ。
「こっちは私が。エイルさんはヴァイスさんやジャックさんを回復して上げて下さい」
「……わかったわ。フィルメリアさんも気をつけて」
頷き返すフィルメリア。今回の戦いでは確かな手応えを感じていた。
「今の私に出来る事……その為に!」
いよいよ歪虚王が遠ざかり、敵の数も減ってきた。あと少しで撤退完了という所だ。
「貴様ラだけハ逃がサぬ……闇光に散レ!」
ぐっと剣を振りかぶった剣王は、それに黒い光を纏わせて投擲する。
それはスケルトンをも薙ぎ払いながら猛スピードでハンター達へ迫る。
「まず……っ、避けきれっ……」
目を見開く神楽。紅薔薇が回避を諦め刃を抜いた瞬間、光が爆ぜた。
「陛下っ!」
大地に突き刺さった剣の衝撃で転がるハンター達。
紅薔薇は全力で攻撃を逸らそうと試みたが叶わず、左胸から脇腹あたりまでを大きく抉られていた。
「陛下……無事でしたか」
「刹那!」
皇帝に覆い被さるようにして刹那は倒れていた。その無事を確認すると安心したように意識を失う。
「リューといい貴様といい……何故私のようなものの為に!」
「皇帝だからに決まってるっす! あんたの命はあんたが思っている以上に重たいものなんすよ!」
神楽も盾を構えてかばいに入ったが、刹那には神楽ほどの防御能力がなかったのだ。
「刹那……すまない……」
起き上がろうとした皇帝だが、背中に痛みが走る。吹き飛んだ骨が幾つか突き刺さっていたのだ。
それを無言で引き抜くと刹那を抱きかかえ立ち上がる。
「神楽、紅薔薇を頼めるか?」
「当然っす」
二人はそれぞれ負傷者を抱え走り出す。
ハンター達は道を切り開いて彼等を待っていた。暴食王も攻撃の範囲外なのか手は出さず、スケルトンも追ってこない。
(暴食王ハヴァマール……この借りは、必ず返す……)
だが、そもそもハンター達に犠牲が出てしまったのは自分のせいではないのか?
苦痛と苦悩に顔を顰めつつ、自分を待つハンター達の元へ、ヴィルヘルミナは歩いて行く……。
大地に突いた剣に両手を重ね、暴食王は静かに佇んでいる。
その声もない指示に従うように、多数の暴食の眷属がハンター達へと押し寄せる。
「来るよ! 各員、攻撃開始!」
キヅカ・リク(ka0038)の声に合わせチョココ(ka2449)が詠唱を開始。キヅカはデルタレイ、チョココはライトニングボルトを放つ。
「よし……行くぞ! 必ず全員で生き残るんだ!」
その光を追いかけるように駆け出したヴァイス(ka0364)に続き前に出たヴァルナ=エリゴス(ka2651)。二人は接近するスケルトン集団に飛び込んでいく。
範囲攻撃を受けたスケルトンはあっさりと粉砕されて吹き飛ぶ。個々の戦闘力は高いわけではない。
「デュラハンの部隊が来るでござるよ!」
スケルトンを大太刀で薙ぎ払いながらミィリア(ka2689)が叫ぶ。
まずは四体のデュラハンが大地を滑るように浮遊しつつ、五体のスケルトンを引き連れ迫ってくる。
スケルトンより高い戦闘力と厄介な不死性を持つデュラハンの対処には三つのチームに分けられたハンターが対応する手筈が整っていた。
「オラァ、俺様が相手だ! 貴族舐めんなよ!」
銃撃を加えつつ走るジャック・J・グリーヴ(ka1305)へ急接近したデュラハンが槍を繰り出す。
これを盾で受けると、続いてスケルトンが一斉にジャックへ襲いかかった。
そんな敵の頭上を飛び越え、空中で反転するフィルメリア・クリスティア(ka3380)は掌に収束させた火炎を降り注がせ、スケルトンを吹き飛ばす。
ジャックが受け止めた槍の一撃に盾を構えたまま体当りし敵を仰け反らせると、紅薔薇(ka4766)が鎧を斬りつけ鋭い傷口を作る。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が炎を纏ったハルバードをぶつければ鎧はひしゃげ、傷口は広がる。フィルメリアはそこにシザーハンズを纏った腕を突き入れた。
鎧の内側で放たれた雷撃にデュラハンは出鱈目に痙攣し、あっと言う間に核を破壊され蒸発していく。
「あ? もう終わりか? 呆気無ぇなオイ」
「ううむ、グスタフの教え恐ろしく有効じゃな」
次の攻撃に身構えていたボルディアが拍子抜けしたように舌打ちする。フィルメリアは腕を引き抜き、その手応えを握り締めた。
「だいぶ余裕あるな。この調子でガンガン行くぞ!」
ジャックの言葉に頷き、A班は次の獲物を探す。結論を言えば、このA班がこの戦いで最も多くのデュラハンを倒す事になる。
一方B班。アルファス(ka3312)の放つ無数の閃光がスケルトンごとデュラハンを攻撃すると、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)が追撃を放つ。
剣を持ったデュラハンと刃を交えるユーリだが、基本スペックではユーリが敵を圧倒している。
鎧に傷を受けたデュラハンが反撃の刃を繰り出すと、そこへ割り込んだルオ(ka1272)がスピアで剣戟を打ち払った。
「雑魚はこの戦場に相応しくねぇ……このデスドクロ様が引導を渡してやるぜ!」
怯んだところへ雷撃を帯びたデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)のアッパーカットがデュラハンの顎を打つ。
「ユーリ、今だ!」
更に背後へ回りこんだアルファスがデュラハンの背に機杖を当て雷撃を放つと、正面から跳びかかったユーリの斬撃が繰り出された。
力任せに破損された鎧の胸を見据えながら走るルオは、そこへスピアを繰り出す。
内部で輝いていた核を矛先が貫くと、デュラハンはその姿を消していった。
「ふ、ふう……心の準備全然できてなかったけど、結構イケるもんだな……」
ほっと胸を撫で下ろすルオ。B班も比較的速いペースでデュラハンの撃破に成功した。
リュー・グランフェスト(ka2419)の盾はデュラハンの斧を受けてもびくともしない。
そこへナハティガル・ハーレイ(ka0023)が戦槍を繰り出し、リューも振動刀で追撃を放つ。
更に回りこんだ牡丹(ka4816)は鞘から抜き放った刃で大地を擦り、炎を纏った斬撃を繰り出した。
「――今だ! 一発カマしてやれ……ソフィア!」
ナハティガルの声に頷き、ソフィア =リリィホルム(ka2383)は雷撃を放つ。
「……今ね!」
牡丹の居合に続き雷撃を受けたデュラハンは仰け反り完全に動きが止まっている。そこへ牡丹が甲冑の隙間に刃を通すが、核には命中しない。
「退いてな! 今穴を開けてやる!」
ナハティガルは力任せに槍を繰り出し、鎧に矛先を食い込ませる。
牡丹はその穴に腕を突っ込み核を引き出すと背後へ放り、リューがそれを両断する事でデュラハンは機能停止する。
「一丁上がり、っと。……ハッ、対処法が分かると脆いモンだぜ」
魔法攻撃と物理攻撃を的確に割り振る事ができれば、デュラハンは難しい相手ではない。
三つの班は亡霊殺しの術を心得ていたのだ。
「さっきから倒しても倒してもスケルトンが沸いてきますね……」
日紫喜 嘉雅都(ka4222)はもうずっとスコープを覗いたままの姿勢で攻撃を続けている。
デュラハン対応チームが各地で交戦する中、残りのメンバーは押し寄せるスケルトン軍団を撃退していた。
とっくに初期配置の30体など屠り終えたが、敵の勢いはまるで衰える気配がない。
「どういう事じゃ? まさか本当に湧き出ているとでもいうのか?」
カナタ・ハテナ(ka2130)は思案しつつ、セイクリッドフラッシュで敵を蹴散らしつつ。
「敵は撃破された個体を文字通りリサイクルしている可能性もある! 無理に倒さず、部位破壊で活動不能に追い込めればよい!」
「な、なかなか難しい注文ですね……っ」
「敵の増殖速度が早すぎて、こちらも纏めて片付けないといけませんからね」
困り顔で雷を放つチョココ。ヴァルナはそれに続いて大剣で敵を薙ぎ払う。手加減は難しいが、確かに止めを刺している暇はない。
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)は手裏剣を束ね、接近する敵集団へ同時に投擲。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は敵陣に飛び込むも、次々に攻撃をかわし、左右の剣で踊るように敵を切り裂いていく。
「倒しても倒してもキリがないねぇ」
「取るに足らない雑魚とは言え、いつまでもこうしていれば消耗するだけか……」
「やっぱり前に出るしかないか……」
攻撃しつつ呟くキヅカにヴィルヘルミナは剣を抜き。
「このスケルトンの増殖が剣王の仕業だとすればそのような理屈になる。敵の数は少しずつだが減っている……勢いのあるうちに征くぞ」
「あ、ちょっと……! 前にですぎっすでございますっす!」
神楽(ka2032)は駆け出した皇帝の後を追う。刹那もその勢いに目を白黒させ。
「謎の思い切りのよさ……待ってください!」
「あの人は生き急ぎ過ぎではないでしょうか……」
神楽はファミリアアタックで、刹那と嘉雅都は銃撃で皇帝に迫る敵を打ち払う。
赤い光を帯びた剣を繰り出しながら敵陣に突撃したヴィルヘルミナは滑りこむようにヴァイスとヴァルナの間に到着する。
「うお!? び、びっくりした」
「二人共、敵陣を突破するぞ」
「あ、自ら先頭なんですね……。それぞれの範囲攻撃を交互に打ち込み、突破を試みようと思うのですが」
「ミィリアも手伝うでござるよ! 突撃するのは得意でござる」
どや顔で親指を立てるミィリア。頑強さと突破力に優れる闘狩人勢が最前線に立つ。
「くそ……身体さえまともに動け、ば……」
「無理をしてはだめよ。傷が悪化してしまうわ」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)は先の戦闘で既に重傷を負っている。悔しげに歯噛みする肩を叩き、エイル・メヌエット(ka2807)は首を横にふる。
「なぁに。お前一人の穴くらい、ボクが埋めてやるさぁ」
「危なくなったら壁を出しますから、その後ろに隠れてくださいですのっ」
「ヒース……チョココ……。ありが……とう」
スケルトン軍団を撃破しつつ前進するハンター達。そこへ近づくデュラハンは、デュラハン対応班が迅速に撃破していく。
彼等の進軍は非常に順調に進んでいく。
それは彼等が優秀なハンターであるという事、そして暴食王にとって望ましい敵である事を意味していた。
●深淵より来たりて
「スケルトンはどうやら奴の足元付近から湧き出しているようだねぇ」
戦線は歪虚側に大きく食い込み、距離が近づけば様子もよくわかる。
ヒースの視線の先では次々にスケルトンが出現していた。大地に出現した黒い霧から骨の腕が伸び、大地から這い出てくるのだ。
「よし……行こうみんな!」
バイクに跨ったキヅカが声を上げる。紅薔薇はその後ろに縋るように跨った。
剣王に近づけばそれだけスケルトンに包囲攻撃を受ける。王は近いようでまだ遠い。
「皆の道は私達で作るわ!」
「へっ、オイシイところは譲ってやる……ヘマすんじゃねぇぞ!」
左右から近づく敵をエイルのレクイエムが止め、ジャックの斬撃が吹き飛ばす。
「せっかくの好機だぁ。必ず情報を持って帰るぞ」
「邪魔をしないでほしいですの!」
ヒースの手裏剣が、チョココのファイアボールが進路上の敵を薙ぎ払う。
「ユーリ、君の剣を奴に届かせる為に!」
「後衛の護衛は任せろ!」
アルファスのデルタレイがスケルトンを穿ち、そんな後衛達に近づく敵をヴァイスが切り伏せる。
剣王へ向かって突き進むハンターの一団の先頭はキヅカだ。そんなキヅカのバイクに近づく敵を同じくバイクに乗ったナハティガルが槍で打ち払う。
「行け、キヅカ!」
「ありがとう、皆!」
そんなハンター達の接近に剣王は大地に突き刺した髑髏の剣を抜き、黒い極光を纏わせる。
「王を相手に怯まず突き進むとは……その意気や良し」
片手で水平に構えた刃は肥大化し、長大な剣と成る。
横振りに繰り出されたソレは味方のスケルトンごとハンター達を一閃に薙ぎ払った。
剣王に向かっていたハンター達はその一撃を各々の方法で防御、回避するが、勢いは一瞬で失われてしまった。
「くそっ」
キヅカはバイクを倒して回避するが、殆どただ転倒しただけだ。
しかし紅薔薇は跳躍し、そのままの勢いでハヴァマールへ跳びかかりつつあった。
ありったけの力を込めて振り下ろす一撃。雄叫びと共に繰り出された光の斬撃は剣王の身体を袈裟に切り裂いた。
「ぬう……!?」
着地もままならず雪の上を転がる紅薔薇が上げた顔に、攻撃に成功したという喜びはなかった。
(なんじゃ……この手応えは?)
遅れ、ハンター達が駆け寄ってくる。次々に繰り出される攻撃に剣王は軽く刃を構えて防御の姿勢を取るが、殆ど“防御”の体を成していない。
身構えはするが、それだけだ。剣を細かく動かし防ぐだとか、回避するという動きは見られない。どっしり両足を地についたまま、次々にハンターの攻撃を受けている。
そしてやがて雄叫びを上げると、その場にバッタリと倒れこんでしまった。
「……えっ!?」
「倒した……でござるか? もう?」
驚きを隠せないフィルメリア。ミィリアは刀の先で死体をつついてみるが、反応はない。
覚醒者なら歪虚の気配くらい感じ取れる。だが目の前のソレは完全に死んでいた。
「油断するんじゃねぇぞ! 不死の名を持つ相手だ、再生能力くらい持ってて当然だ!」
デスドクロの言う通り、ハヴァマールの身体がびくりと脈打つと、急速に負のマテリアルが収束していく。
周囲の闇を渦巻かせながら剣王は起き上がり、再び刃を握った。破損した骨も全て修復している。
「このマテリアルの波動……成程。オルクスが見初めただけの事はある」
「防御能力は低い! クソ強ぇ個体でも攻撃が通じるならなんとかなる! 攻撃しまくるんだ!」
デスドクロの言葉に背を押され、ハンター達は再度攻撃を行う。
剣王の防御は実におざなりで、攻撃でもきちんと身体は破損している。だが直ぐに再生し、それと共に闇が強まっていく。
「どういう事なのじゃ……?」
奇妙であった。カナタの頬を冷や汗が伝う。
弱い。歪虚王というにはあまりにも、弱い。
確かに再生能力は尋常ではないが、それだけだ。
剣王の刃を容易く回避したアルトが反撃を繰り出すと、ばきりと音を立て骨が砕ける。
ボルディアがハルバードを打ち込めば軽く吹っ飛んで無様に大地を転がるし、魔法や銃撃にはやられるがままだ。
「なんだか変でござるよ。これだったら剣豪さんのほうがずっと強かったでござる」
「動きが単調過ぎるんだ。明らかに戦士の戦いじゃない」
頭上からクエスチョンマークが消えないミィリアに、アルトは弱さの理由を伝える。
剣豪には極めた武術の心得があった。人型である以上、それは強さと直結する。
だが目の前のあれは人型ではあるがヒトではない。ただ力任せに暴力を振るうだけの獣だ。
天衣無縫といった特殊能力も見られないのは、剣王に武という概念が存在しないからだろうか。
「むむ……。ヒトも中々やりおるのう。しかし、何故足掻くのだ? 必ず滅びる命であるというのに……。この先、おぬしらに希望が降り注ぐ事はない。いくら北へ進めど、待つのは闇のみぞ」
「死んだりしても、想いは残るんだ。それを忘れなければ、何もなかったことになんかならない。だから先に行く……そこに絶望があったとしても!」
キヅカの叫びに続き、ボルディアは唾を吐き捨て。
「死で救うだなんてなぁ、そんな事一体誰が頼んだんだ。俺の死も、生も、テメェなんぞに決められる筋合いはねぇ!」
「本質だか何だか知った事か! 俺は俺の意思でここにいる! そうさ、俺達は生きて何もかも知っていくんだ! その先に何があろうが、決して諦めないっ!」
リューの言葉に剣王は剣を肩にのせ、顎を弄る。
「“成長”と“進化”……それは余には理解し得ぬモノだ。死とは全ての到達点ではあるが、だからこそ至る道を余は知らぬ。おぬしらの主張も、一理あるのやもしれぬな」
目を丸くするリュー。剣王はしきりに頷きリューを見る。どうやらその言葉は随分と興味を引いたらしい。
「かつて同じ事を余に告げた者達がいた。最果てを目指し、ありもしない幻想の希望を追い求め、それでも北を目指した英雄達……。障害は最早大精霊達守護者のみと高をくくっていたが、なるほど。おぬしのような新たな世代が生まれているという事か」
「上から目線でグダグダ言ってんじゃねぇ! お前は……俺達が倒す!」
「面白い……付き合ってやろう。オルクスやナイトハルトが育てた力、この余に見せてみよ!」
身構えたハヴァマールから黒い波動が吹き出し、その余波にハンター達が仰け反る。
「また負の波動が強まった……なんて存在感なの」
「奴は王であって戦士じゃない。莫大な負の力を持っていても、それをただ放出するだけだ。経験を活かせば、必ず凌駕出来る」
息を呑むユーリに笑いかけるアルト。ハンター達が再び構えると、剣王は大地を蹴って飛び出した。
鈍重そうな外見に似合わず高速で距離を詰める剣王だが、繰り出した刃はアルトにかすりもしない。
(とはいえ……横切っただけで身体が焼けるみたいだ)
存在の圧力だけは紛れも無く王。まともに攻撃を受ければ一撃で倒れかねない。
「上から見下すだけの者が救いなど、おこがましいのですよ!」
ヴァルナの振り下ろした大剣が剣王の頭部をカチ割り、マテリアルを噴出して加速したフィルメリアが骨の身体に雷撃を打ち込む。
更にカナタがレクイエムで動きを鈍らせると、炎を纏ったボルディアの一撃と蒼い閃光のようなユーリの斬撃が繰り出される。
「反撃の暇なんて与えるかよ!」
更にリューが追撃、キヅカが電撃で反撃を防ぎ、桜吹雪を纏ったミィリアの刺突が剣王を貫く。
剣王が呻いている間にソフィアが雷撃で動きを鈍らせ、アルトが素早く連撃を入れ、紅薔薇がすれ違い様に強力な一撃を打ち込む。
「この芳醇なマテリアル……そうか。おぬしらならば或いは、次代の守護者となり得るのかもしれぬな……」
ボロボロになって倒れた剣王はまた立ち上がり再生する。そして鎧の合間から闇を吹き出し、輝きを強めていく。
核らしきものは見つからない。再生を止める手段も見つからない。今の彼等にこの怪物を屠る術は見えていなかった。
「素晴らしい力だ。この感覚……滾る、滾るぞ。研ぎ澄まされた英雄の魂ほど、余に活力を与える糧もない」
その身体を大地から湧き上がる黒い煙が覆い、負の波動が急激に強まっていく。
「光の力を贄として……目覚めよ深淵! 我が闇を解き放ち、常世全てを食い尽くすが良い……!」
「力の上昇が止まらない……!?」
「やべぇな……全員下がれ!」
荒れ狂う風に腕を翳すキヅカ。デスドクロが叫んだ直後、眩い光がハンター達を包み込んだ。
●闇光の覚醒
「何……!? 何が起きたの!?」
悍ましい歪虚の気配に青ざめるエイル。
剣王を中心に放たれた光は柱となり天を貫いている。圧倒的なその負の力は、あの九尾を彷彿とさせる。
「やっぱりか……。あいつの姿はあれが全力じゃなかったんだ」
眉を潜めて呟くアルファス。小型の人型の歪虚が王の全力であるはずがないし、そもそも暴食の系統には特徴がある。
他の個体との融合や変形、そして巨大化。その予想は全く正しく、闇光から突き出した巨大な骨の腕が証明する。
それは無数のスケルトンが融合した姿。光から這い出した巨大な怪物は北狄の空に雄叫びを上げる。
「なんすかあの大きさ……九尾と同等っすよ!? もう完全に無理ゲーっす!」
「早く皆を助けに……うわっ!?」
驚く神楽。走りだそうとするルオだが、その足を掴む腕があった。
ハンター達の足元にはいつの間にか黒い霧が広がり、そこから夥しい数のスケルトンが這い出してきたのだ。
「オイオイ、なんつー数だ……三桁はいるぜ」
「どうやらそれだけではなく、形の違う個体もいるみたいだねぇ」
数える事を諦めたジャックにヒースは肩を竦め。
サイズ2やサイズ3クラスの大型のスケルトンがあちこちに湧き上がり雄叫びを上げている。
「とにかく敵を対処しつつ、皆を助けに向かうぞ!」
「声出せ声! 気張って行くぞ!!」
ヴァイスに続きジャックが叫ぶ。立ち塞がる大漁の敵を突破し、彼等の援護に向かわねばならなかった。
「くっ、皆は……」
上体を起こそうとするキヅカだが、最早身体が動かない。
暴食王が姿を変える時に生じた膨大なマテリアル爆発から仲間を庇う為前に出たが、最早それだけで戦闘継続不可能に追い込まれていた。
「紅薔薇さん……逃げ……て」
気絶したキヅカの視線の先、紅薔薇は巨大化した暴食王をじっと見つめていた。
「歪虚王よ、この世で最も強き者達よ。お主等が妾の敵である事に感謝するのじゃ」
その瞳にもうキヅカは映っていない。巨大な深淵そのものと化した王の力に見入るのみだ。
「獄炎を斬って残り六体。妾は七体の王の全てを斬ると決めたのじゃ。剣王よ、もしもお主に届いたなら、剣の名の称号を妾にくれんかのう?」
「おヌしが獄炎ヲ……。そウか……既に王ニ届き得ルモノは存在するノだナ……」
歪虚王が振り下ろす巨大過ぎる右腕に紅薔薇は刃を構えるが、その首根っこを掴んだヴィルヘルミナによって移動させられる。
それでも砕かれた大地に二人は空に投げ出される。紅薔薇を抱きかかえたまま、皇帝はハンター達に叫んだ。
「――全軍撤退! これ以上の戦闘継続は不可能だ! 退くぞ!!」
しかし周囲は既に夥しい量のスケルトンに包囲されている。これまでの数とは比較にならないほどだ。
「なんとか退路を作ってみるでござる……皆、こっちでござるよ!」
口元の血を拭いミィリアが太刀を振るう。動けるハンターは敵を範囲攻撃等で粉砕するが、その背後でハヴァマールは巨大な剣を大地から引き抜いていた。
「……後ろから来るぞ! 全員走れぇえええ!!」
リューの絶叫の最中、大きな影がハンター達を覆った。
振り下ろされる巨大な骨の固まりから逃れるハンター達。直撃範囲からは逃れたが、衝撃の余波だけでも凄まじい。
吹っ飛んでくる骨や地面の残骸を前にソフィアは斧を巨大化させ両断、背後の仲間を守る。
「クソが……攻撃の規模が出鱈目すぎんぞ!」
「こっちじゃ!」
あまりにも多すぎる敵にカナタはレクイエムを連発し動きを止めつつ、隙間を縫うように仲間を誘導する。
「あの時ノ小娘か……。貴様ハ危険じゃ……逃しハせぬ」
剣王の開かれた口に収束した闇の波動が光弾となって発射される。
それは先頭を進んでいたハンターの集団を巻き込み、爆散した。
(あの時の……という事は、剣王はカナタと会った事が……)
激しく大地をバウンドし、血を流し倒れるカナタ。敵の正体を思案する前に、その意識は途切れた。
「う……。皆、生きてる……?」
「まあ……なんとか、な……」
起き上がったユーリの目の前には槍を大地について立つボルディアの姿があった。
だがその腹には無数のスケルトンの残骸が突き刺さっており、口と鼻からぼたぼたと血が流れている。
「ボルディアさん……!」
「当りどころが悪かったかな……く、そ……」
倒れるボルディアを抱き留めるヴァルナ。一方、リューは皇帝の腕の中にいた。
先の光弾による攻撃の際、リューは盾を構え皇帝を守ったのだ。
「リュー……馬鹿な事を!」
「守られてばかりじゃない……今度こそ、俺が守るって……そう決めてたからな」
気を失ったリューを背負い、皇帝は唇を噛みしめる。
「すまない……必ず連れて帰る!」
「負傷者の数が多すぎる……このままじゃ逃げきれなくなるよ!」
キヅカを担いだアルトが焦りを露わにする。負傷者が増えれば突破力も機動力も低下してしまう。
相変わらず退路を塞ぐスケルトンの軍勢……それをチョココのファイアボールが吹き飛ばした。
「皆さん、こっちですのっ!」
「皆ひどい怪我……。走りながらでいいわ、回復するから!」
エイルは移動しつつ負傷者にヒールを施していくが、癒やし手の数は絶対的に足りていない。
「邪魔だ……退けぇええ! 俺達は皆で生きて帰るんだ!!」
鬼気迫る表情でスケルトンを蹴散らすヴァイスだが、そこへ大型個体が一斉に襲いかかる。
「ヴァイス! クソが、狙うなら俺様を狙いやがれ! 貴族はこっちだ!」
ジャックも敵を引きつけようと懸命に闘うが、上級スケルトンに群がられては太刀打ち出来ない。
「すまない……俺のせいで……」
「負傷者だらけなんだぁ、今更対して変わらないさぁ。生き残り、情報を持ち帰るのも仕事のひとつだから、ねぇ」
ヒースは手裏剣を投擲しつつ、オウカに肩を貸してなんとか撤退を試みる。
「ユーリ!」
「私はまだ大丈夫……それより一緒に退路を!」
駆けつけたアルファスが頷き返す。アルファスは炎で、ユーリは振動刀で退路を確保する。
逃げる事、そして負傷者を守る事だけに力を注ぎ込めば、少しずつだが着実に前に進める。
「奴はどうやらまだ上半身だけみたいだぁ。もしかしたらあそこから移動できないのかもしれないねぇ」
振り返り暴食王を確認するヒースだが、確かに黒い霧から出ているのは上半身だけ。下半身は未だ見えず、敵もその場から動いていない。
「よかった……逃げきれるかもしれないって事ですよね?」
刹那がそう言った直後、剣王は周囲のスケルトンを鷲掴みにすると、それをハンター達へ思い切り投げつけた。
「ええっ!? 冗談でしょ!?」
目を丸くする牡丹。上空から降り注ぐスケルトンに刹那と嘉雅都は銃撃で、牡丹は刀で迎撃を行う。
更にエイルはセイクリッドフラッシュを放ち、降り注ぐスケルトンを多く散らして見せた。
「くそ、また退路が!」
慌てるルオ。どんどん投擲されたスケルトンが退路に落下し襲ってくる。
「全く……どこが星の救済者ですか。寧ろ星の膿そのものですね……。ヴァルナさん、アルトさん、負傷者はお預かりします。お二人は前の方が得意でしょう?」
「確かに、これはサボってられないね……助かるよ」
嘉雅都が負傷者を預かると、アルトは連撃で立ち塞がる大型個体を瞬殺。ヴァルナも範囲攻撃で道を切り開く。
「皇帝陛下、ご無事でしたか!」
「ああ……。だが、ハンターに負傷者が……私の責任だな」
「仕方のない事ですよ。それにそう思うのなら、早く撤退しましょ……え?」
逃げるように諭す刹那にリューを渡すと、その肩を叩き。
「私は殿をやる。リューは任せた」
「あの……ちょっと……この人筋肉質で結構重い……誰か代わって下さい! 陛下を護衛しないと!」
大きな棍棒を振りかざした大型個体へ牡丹は刃を鞘から滑らせ、その動きを阻害する。
ルオはスピアを叩きこむようにして足を折り、ナハティガルが槍で頭蓋骨を貫く。
「もうっ、無駄に頑丈なんだから!」
「ルミナちゃん似の人、大丈夫かな……?」
「おい……また来るぞォ!」
遠距離から剣王は負の光弾を放つ。着弾点から離れようと走るハンター達だが、爆風に全員が大地をのたうつ。
飛来する破片も厄介で、後方のヴィルヘルミナはオーラを纏った剣でこれを一閃。紅薔薇も協力し、残骸を薙ぎ払う。
「暴食王の狙いはどうやら我らのようじゃな」
「ああ。ということは、私達が後方に居れば前方の被害は留められる道理だ」
「付き合うぞ、ヴィルヘルミナ殿」
「いやいや、陛下は自分の立場を理解するっすよ!」
後方から迫る大型個体をパルムを発射して砕く神楽。刹那も敵を掻い潜りつつ太刀で切り伏せ駆けつけた。
「ようやく追いつきました」
「二人共来るな! そう何度も耐えられん!」
「だからこそ見捨てるわけにはいかないんすでございますよ」
更に投擲されたスケルトンが降り注ぐ。エイルがセイクリッドフラッシュで打ち払い着弾点をずらしているが、それにも限度がある。
「もう魔法が尽きてしまう……!」
「エイルさん、手伝います!」
フィルメリアは火炎でスケルトンを薙ぎ払い、エイルの隣に並ぶ。
「こっちは私が。エイルさんはヴァイスさんやジャックさんを回復して上げて下さい」
「……わかったわ。フィルメリアさんも気をつけて」
頷き返すフィルメリア。今回の戦いでは確かな手応えを感じていた。
「今の私に出来る事……その為に!」
いよいよ歪虚王が遠ざかり、敵の数も減ってきた。あと少しで撤退完了という所だ。
「貴様ラだけハ逃がサぬ……闇光に散レ!」
ぐっと剣を振りかぶった剣王は、それに黒い光を纏わせて投擲する。
それはスケルトンをも薙ぎ払いながら猛スピードでハンター達へ迫る。
「まず……っ、避けきれっ……」
目を見開く神楽。紅薔薇が回避を諦め刃を抜いた瞬間、光が爆ぜた。
「陛下っ!」
大地に突き刺さった剣の衝撃で転がるハンター達。
紅薔薇は全力で攻撃を逸らそうと試みたが叶わず、左胸から脇腹あたりまでを大きく抉られていた。
「陛下……無事でしたか」
「刹那!」
皇帝に覆い被さるようにして刹那は倒れていた。その無事を確認すると安心したように意識を失う。
「リューといい貴様といい……何故私のようなものの為に!」
「皇帝だからに決まってるっす! あんたの命はあんたが思っている以上に重たいものなんすよ!」
神楽も盾を構えてかばいに入ったが、刹那には神楽ほどの防御能力がなかったのだ。
「刹那……すまない……」
起き上がろうとした皇帝だが、背中に痛みが走る。吹き飛んだ骨が幾つか突き刺さっていたのだ。
それを無言で引き抜くと刹那を抱きかかえ立ち上がる。
「神楽、紅薔薇を頼めるか?」
「当然っす」
二人はそれぞれ負傷者を抱え走り出す。
ハンター達は道を切り開いて彼等を待っていた。暴食王も攻撃の範囲外なのか手は出さず、スケルトンも追ってこない。
(暴食王ハヴァマール……この借りは、必ず返す……)
だが、そもそもハンター達に犠牲が出てしまったのは自分のせいではないのか?
苦痛と苦悩に顔を顰めつつ、自分を待つハンター達の元へ、ヴィルヘルミナは歩いて行く……。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 17人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
暴食王撃退するよっ! ソフィア =リリィホルム(ka2383) ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/10/21 21:15:55 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/20 21:18:00 |
|
![]() |
質問卓なのじゃ 紅薔薇(ka4766) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/10/21 15:36:11 |