• 闇光

【闇光】アンデス・エリート

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/10/23 12:00
完成日
2015/11/07 18:55

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 冬用の装備で身を固めて天幕の中では火も焚いているが、それでも沁みるように寒さが這い上がってくる。ダンテ・バルカザール(kz0153)率いる赤の隊は、じわりと身を削る寒さに耐えながら次の戦を待っていた。
 ジェフリー・ブラックバーン(kz0092)は1人、彼らに後追いとなる形で合流する。本国の厄介事を片付ける。そう意気込んで北伐遠征軍を抜けたジェフリーが、あっさり赤の隊に戻ったのには理由があった。
 連合軍司令官ナディア・ドラゴネッティより、連合軍隊長へ推薦する旨の手紙が届いたからである。事情を聞いていたダンテはジェフリーから手紙を受け取るが、半ばまで読みうんざりした顔でジェフリーに手紙を返した。
「この面倒な事案、お前さん以外に任せられるやつはいねえな」
「せめて『名誉ある職務』とか言い替えませんか?」
「仲間内で取り繕ってどうするよ。シンアイナル王女殿下の前でなら別だがな」
 そもそも公式行事を面倒がってるダンテのこと、頑張りどころは永久に来ない気もした。
「それはともかくとして、今後戦力を分ける可能性もあります。連合軍として動く騎士を選抜したいのですが、こちらでやっても構いませんか?」
「俺の部下を持っていくってな意味は分かってんだろうな? で、何割だ」
「まずは2割。各国軍やハンターとの合同作戦も増えますから、輪番にしてまずは慣れてもらいます」
 赤の隊は遠征向きの軍だが遠征用に編成されているわけではない。最終的には連合軍の要請に適した形に落ち着ける必要があるが、本部の体制が整っていないためいきなり全力を傾けるわけにはいかない。ついでに言えば今から訓練に割く時間も無い。それも含め、連合軍は北伐から帰還した後にまず体裁を整える必要がある。
 ここまでダンテはわかったようなわかっていないような微妙な顔だが、自分に必要な話題だけは切り分けてしっかり理解しているようだった。
「なあ、ジェフリー」
「なんでしょう?」
「今まで窮屈だったろう。明日は好きにしろ」
 思わぬ言葉にジェフリーは目を見開いた。ダンテは単純な人間だ。こういう物言いをするとは思わなかった。
「あのなあ、流石に俺でもわかるぜ。お前は何でもそつなくやれる奴だ。突撃しか出来ねえ赤の隊じゃ窮屈だっただろう」
 それは半ば事実でもあったがそれで全てでもない。ジェフリー本人がもっとも窮屈に思っていたのは、結局のところ外征が多く戦死者の多い赤の隊以外に、行き場のなかった自分の立場だ。
 今までは活躍しても国許での出世は望めない立場にあった。誰かを立て自分もそのおこぼれに預かる程度しか彼の功績とならなかった。
 連合軍隊長となればそれも全てが変わるだろう。自由に戦える。出世も望める。それが何より彼には嬉しい変化であった。
「それはそれで自由にやらせてもらっていました。王国の外にいるだけでそれなりに自由でしたよ」
 ダンテは苦笑して肩を竦めた。ジェフリーの物言いは時に遠まわしだ。
 そうせざるを得ない事を、隊の誰もが理解していた。



 平坦な雪原にて再び戦端は開かれた。浮遊する夢幻城より出現した大量の骸骨兵士、そしてそれを率いる暴食の歪虚王。前衛を務める赤の隊は真っ先にこの群と接触し、瞬く間に乱戦となった。
「くそったれ! 数が多すぎだろうがよ!!」
 あまりのことにダンテが叫んでいた。骸骨兵士は弱いが数が多い。多すぎて薙ぎ倒して走ることすら難しい。そうなると武器を振り回すだけの赤の隊では身動きが取れなくなる。特化した部隊だ。仕方ない。こうなることは誰もがわかっていた。
 同時に援軍も期待できない状況に合った。ジェフリーは周囲を見渡す。部隊同士、指揮官同士の連携がお粗末だ。連合軍の隊長達は指名されるだけあってどの隊長も素晴らしく動きが良い。だが横の連携という意味ではとても及第点は出ない。今までは急造の混成軍なりに担当を分担することで、その地域内では円滑に動いた。
 だが一堂に会した野戦ではそうもいかない。詮無いことだ。これは最初の大規模戦闘からわかりきっていた事。連合軍という旗を作ったところで変わるはずが無かった。ならばどうするか。他者最適を旨として動くほか無い。
「これじゃ埒があかねえな。ジェフリー、何とかならねえか?」
「そうですね。突破は諦めましょう」
「ああ?」
「狙える首は、暴食王以外にもたくさんあります」
 ジェフリーは部隊の右翼側を指差す。彼の示す先には毛色の違った骨の一団が姿を現していた。
 粗末な剣や盾を装備する周囲の雑魚に比べ、それらは立派な武具で身を固めている。
「……なんだありゃ?」
 ダンテの声が険しくなった。骨の動きは遠めにも違いがある。武器だけでなく、動きも他の骨とは一線を画すだろう。その骨の一団の動く先には、人類側の銃兵部隊があった。
「おそらくあの部隊の役割は我々やハンターと同じ。前線に穴をあけるのが仕事です。放置しておけばどうなるかは……」
「いつも俺達がやってることだな」
 ダンテは良いながら寄ってきた骸骨兵を大剣で叩き伏せた。何体もの骸骨兵が瞬く間に吹き飛ばされていく。敵は弱いが背を向けるのは危険すぎる。ここの維持も必要だ。ダンテの判断は早かった。
「ジェフリー、ここは抑えておく。お前が行け」
「了解」
 ジェフリーの返事は短く、合図も最小限。しかし部隊を区切っておいたおかげで、部隊はスムーズに分かれた。
 ハンターを連れたジェフリーはまずは最も手近なグループに狙いを定める。ジェフリー達が骸骨兵を薙ぎ払いながら近づくと、敵のグループは動きを止めた。確かな知性を感じる。激戦の予期しながらも、ジェフリーは再び赤の隊に突撃を命じた。

リプレイ本文

 雪原を進む骨の兵隊はその外見だけで人に生理的な恐怖を呼び起こす。骨の兵隊は数の上で脅威であり、恐れを知らない分だけ性能としても脅威であった。ハンターともなればこの程度の外見や能力で怯むものは居ないが、それもピンキリである
「はっはー! やばいね! 最高の戦場だね!! ……びゃぁぁ、帰りたいィィィ……!!」
 威勢の良い水流崎トミヲ(ka4852)の声は数秒も持たずに裏返った。リアルブルーでの彼の半生を考えればそれもまた普通の反応だったが、残念ながら周りは肝の据わった人間しかいなかった。
「あーもう、うるせえ。腹括って魔法撃ってれば終わりだろうが!」
 ミリア・コーネリウス(ka1287)の何度目かの叱咤が飛ぶ。うんざりしつつもそれ以上は苦笑いで流した。王国産のゴースロンなら1人逃げ帰ることも出来るだろうにトミヲはそれをしない。この戦場で逃げ帰らないのであれば仲間として十分だ。後衛が十全に動けば前衛は安心して戦える。
「いくよみんな! もうすぐこの壁を抜ける」
 時音 ざくろ(ka1250)が骸骨兵士を切り倒しながら声を張り上げる。正面には先程確認した明らかに強力な骸骨の戦士団。クルス(ka3922)は目を細め、その動きを仔細に観察した。
「強敵ね」
 同じく様子を見ていたセイラ・イシュリエル(ka4820)が呟く。彼女にも怯えは無いものの、苦戦を予期したのか声は苦い。クルスは表情を硬くしながらもその空気をはらうように十字を切った。
「だが、俺達がやらねば誰がやる。それに……」
 クルスは周囲を見た。赤の隊だけではない。多くの兵士がこの地獄を生きようともがいていた。それぞれに悲壮な覚悟を抱いている。彼らを見殺しにするわけにはいかない。
「友軍が血道開けてんだ。あんまり待たせてる場合じゃねえよな」
 腹はとうの昔に決まっている。だが、言葉にしてこそ形になるものもある。
 赤の隊は周囲の敵を蹴散らしながらも随伴していたが、ジェフリー・ブラックバーン(kz0092)は別の場所に視線を移していた。
「他にもいるようだ。ここは任せる」
 言うが早いか、彼は選りすぐりの仲間を率いて馬を駆る。彼の向かう先には別の敵部隊も確認されている。彼が抑えてくれているうちは横槍の心配はなさそうだが、援護も期待できない。
 ハンター達は赤の隊の騎士達に周囲の敵を任せ、正面に火力を集中するべく陣形を整える。
 中央で魔術師達が各々に杖を構える。こちらに気づいた骸骨の後列も、魔法の準備に入っているのが見て取れた。
「魔法を使う骸骨……気を付けねばな?」
 動物の骨を被った魔術師チマキマル(ka4372)が薄ら笑いしながら徐々に前に出る。隣で備えていた十 音子(ka0537)は「自分のことかな?」という突っ込みを引っ込めた。歪虚側に居て違和感無い外見である。彼と一緒に居てはどちらが魔王の軍隊かわかったものではない。ただ、その外見も隣にいれば頼もしいものである。
 骸骨戦士の動きに合わせ魔術師達は一斉に詠唱を開始する。間合いはまだ遠い。1歩先んじて黒耀 (ka5677)が袖に下に手を入れた。
「ふん……スケルトンが好き放題にやってくれるな。ライフがマイナスな連中が、デュエル場に立つ資格などない。カードドロー! セット!!」
 中空に投げ出された2枚の呪符は風になびくことなく場に固定され、怪しく光を放つ。
「勝利への道を示せ! マジックカード禹歩発動!」
 黒耀が印を切ると、呪符が青い炎をあげて燃え散った。
「未来が見えた。ただではすまないよ。作戦はどうする?」
 黒耀が投げかけた問いに、答えたのは意外にもトミヲであった。彼はいつのまにか、周りのメンバーに隠れるように最後列に隠れていた。
「初手だ。初手で決める。数的有利は絶対だって、先生の戦術理論で言ってたんだ」
「先生?」
「そこはまたあとで!」
 誰からあがった疑問を急ぎ遮るトミヲ。そこは触らないほうが良かったらしい。先生なる人物が何者かはわからないが、その答えは理に適っている。陸戦における敗北ラインは5%。わずかな差が勝敗を分ける。先に1人を戦闘不能にしたほうが勝ちだ。
「皆行くよ! プランAだ……ッ!」
 最大火力を最大効率でぶつける。ハンターと骸骨戦士団の戦いは、熾烈な遠隔攻撃で幕を開けた。



 人は外見でその機能を判断する。戦士は所作を見て互いの技量をはかり、学士は道具の背景に情報を求める。骸骨達が通常通りの視覚を有するわけではないが、ほぼ同様の情報で判断を下していた。
 骸骨達はまず前衛の戦士二人――ざくろとミリア――を脅威と判断した。前衛に向いた装備の者は他に2人――セイラとクルス――居るが、配置上専業戦士という線は薄い。壁としては大きな障害ではないだろう。
 では後衛はどうか。魔術師は3名居る。後方に隠れて震えている小太りの男と、動物の骸骨をかぶる魔術師、異国の魔術を使う者。三者の役割は近しいはずだが狙うのであれば脅威度の高いほうだ。
 骸骨戦士団はこの後列を狙い、乱戦を仕掛ける作戦を選んだ。
 盾を前面に掲げて範囲攻撃に備え、一気に間合いを詰める。前衛が薄いの編成では乱戦での戦いは不利になる。ハンター達の陣形もその事実を裏付けるものだ。
 確信を得た骸骨戦士は戦場を駆けた。前列から戦士の1人が光線を放って来たのは計算外であったが、前面に備えた盾でなんとか防ぎきった。続けて火炎球が来る。これも同じ要領で防いで突入する。 
 そう考えていた骸骨達だったが、着弾と同時に襲ってきた衝撃で膝をついていた。



 接触の直前、ハンター達は魔術と銃撃で骸骨戦士団と打ち合った。武具は魔法が掛かっていたのか、光の属性を真っ向から防ぐ。効いていないはずはない。しかし彼らは光線も銃弾も爆風もことごとくを受け止め、接近してくる。ミリアが大剣を構え突撃しようとした頃合で、異変は起こった。骸骨はトミヲの放った火球に耐え切れず、足を止めてしまったのである。骸骨戦士の過失ではない。誰か想像しようか、彼が全ハンターで最高峰の一人に数えられるほどの魔力の持ち主などと。
「あ……あれ?」
「良いぞ、上出来だ!!」
 構えていたミリアは嬉々として突入した。膝を突いた骸骨戦士が立ち上がるが、構えを取るにはわずかに遅い。
「もらったぁぁぁぁ!!!」
 助走の勢いをつけたまま、横薙ぎに大剣を振りぬく。盾で受けた骸骨戦士は衝撃で再び、たたらを踏む。ミリアは反撃を許さず、盾ごと潰れろとばかりに怒涛の連撃を加えていく。
「しぶとい!!」
 ミリアが大上段に剣を振り下ろそうと構える。させじと近くに居た骸骨戦士が突っ込んでくる。ミリアは剣の軌道を咄嗟に変えてすくいあげるように迎撃する。突出した彼女は2対1となるが、クルスがその状況を阻んだ。
 ミリアを挟撃しようとした1体を盾で押し込むように体当たりをかける。押し出された骸骨戦士は体勢を整える前に、音子の銃撃を食らい更に後方へ下がった。
「助かった」
「気にするな。それより、前に出すぎだぞ」
「それこそ気にすんなよ。及び腰じゃ殺せねえだろ?」
「同意はするがな……」
 並び立った2人に対し骸骨戦士も体勢を立て直して切りかかる。骸骨の神官は前衛の補助にとクルスと同じ様に前に出るが、音子の銃撃と黒耀の呪符がそれを許さない。
 骸骨の魔術師は乱戦になり範囲魔法を控えてはいるが、手を出せないミリアやクルスには十分な脅威となっていた。骸骨達はこの段階で突破にはこだわっていなかった。
 ミリアとクルスの背後を守るのは音子と黒耀。支援としては十分だが火力ではミリアが勝る。ミリアが攻撃に耐えかねて戦闘不能になるか、火力に勝る魔術師が後衛を殲滅するのが先か。
 こちらのチームは時間を稼いだ先の未来が無い。戦闘の趨勢は、前線の立ち回りに掛かっていた。
 ミリアもその自覚はあった。自覚したからこそ、不敵な笑みを作った。その重責すらも、今は心地よく感じていた。
 一方の戦線は押さえ込むには至らなかった。骸骨達は冷静だ。あっと言う間に戦列を立て直す。狙いは後衛の魔術師達、守るのはざくろとセイラ。しかし2人は戦線を固めるにはクラスや武装の相性が悪い。立ち直った骸骨達はすぐさま状況を見て取り、突破を試みる。
「させないよ! デルタ・レイ!」
 時音の放った光線が骸骨戦士の前衛に命中する。魔術師を狙えない以上、このタイミングではこれが一番良い。しかし来ると分かれば耐えることはできる。1体の戦士がざくろとつばぜり合いに持ち込むと
 残る2体がその横を抜けた。セイラは急ぎフォローに入る。
「っ……まずい」
 割り込んでも力負けする。速さで攻めきる覚悟で鞭を振るうが、足止めするには力不足だ。
「それでも!」
 セイラは鞭を振るい神官服の骸骨を狙った。前衛として前に出た骸骨の神官だが防御能力では骸骨戦士に劣る。デリンジャーで距離を確保した彼女は、神官にとっては相性が悪く、そこで神官の足は止まった。それが限界だった。
「あわわわ」
「来たか」
 骸骨戦士の1体は魔術師2人の元へと抜けた。チマキマルは悠然と動かない。そもそも走ったところで逃げ切れるものではない。
 チマキマルは向かってくる骸骨戦士にファイアアローは放つが、些か非力であった。一瞬のことであった。チマキマルが骸骨戦士の剣に切り裂かれて倒れ伏す。流れる血が彼も人なのだと教えているようだった。骸骨戦士はそこで見逃した一人を探した。
「……昂ぶり、弾けろ、僕のDT魔力ゥ……!」
 聞きなれない詠唱が聞こえ、雷撃が骸骨戦士を撃ち据えた。トミヲは戦列を無視し、馬を駆って完全に逃げの姿勢であった。追いかけようにもそこまでの足はない。その見事な逃げっぷりに骸骨戦士は再び動きを止めた。
(初手以降敵は後衛を狙いに来ると思ってた。そうしないとジリ貧だからね!)
 トミヲは事前にこれを推測していた。馬はトミヲの意志を組み、距離を開けて逃げまくる。逃げながらトミヲは更に雷撃を放つ。ここまで盾で耐えていた骸骨戦士だったが、もはや抵抗する力は残っていなかった。骸骨戦士は雷撃が収束すると、崩れ落ち灰に帰った。
 状況を把握した骸骨の魔術師が逃げるトミヲを狙い攻撃を開始したが、もはや後の祭りである。トミヲの計画された逃走で、乱戦は骸骨戦士団にとって裏目に出ていた。戦況は混沌と化した。人数は7:7で拮抗したままだが、決着はすぐ近くに迫っていた。



 骸骨の戦士は強力だった。一つ二つの幸運で撃破できる相手ではない。ハンターの連携が齟齬があれば容赦なく突いてくる。ハンターの作戦や方針が完璧だったわけではないものの、付け入る隙を埋めてしまうだけの準備がハンターにはあった。 
 乱戦を選んだ段階では骸骨戦士が優位ではあったが、乱戦を受け止め切った後は、その乱戦が仇となり戦線は崩壊していた。もはや前も後ろもない。ざくろとトミヲの支援で突破したセイラが、魔術師を強襲し撃破。これで状況は詰んだ。魔術師が撃破されれば前線を支えていた後衛の火力が失せる。余裕の出来たざくろがデルタ・レイの狙いを切り替え、トミヲの魔法がもう1チームを狙い始めると、急速に残りのチームは瓦解しはじめていた。
 ざくろのチームが互いに互いの肉を切りあうような壮絶な戦闘になったのに対し、ミリアのチームはバインドから一撃必殺を狙うように静かで重い戦闘となっていた。互いの喉元に刃を向けているような状況だ。一瞬の隙が勝敗を分ける。ざくろとトミヲが何気なく放った範囲攻撃で、それは十分に事足りた。
(ここですね!)
 骸骨戦士と神官が怯んだ隙に音子は走った。走って距離と射線を確保し、魔術師に向かって銃撃を浴びせかけた。パンパンと軽妙な音が響いて魔術師の体が傾ぐ。神官はすぐさまフォローに向かおうとするが、背を向けてしまったのはまずかった。
「どこに行く気だ?」
 黒耀の声が不吉に響く。骸骨は振り返らない。役割に忠実であるが、それもこうなれば命取りだ。
「コンボカードセット! マジックカード火炎符発動……焼き払いなさい?」
 黒耀の投げた呪符は燃え上がり、火炎の渦となって骸骨の神官を襲った。火を払いながら逃げる神官に黒耀は更に追い討ちをかける。火炎の渦は投げ入れられた呪符を燃料のように吸い込み、更に大きく成長していった。
「これが私のバーンデッキだ。効いただろう? 理解したらモンスターカード風情は墓場に戻れ」
 既にダメージが蓄積されていた神官は為す術なく無言で燃えていく。骸骨戦士達はこの状況を指をくわえていたわけではない。神官と同じくカバーに入るべく距離を取ろうともがいていた。
 だがそれも、再び襲来したざくろのデルタ・レイで無為となった。
「残念、だったな!」
 隙を狙って腕を跳ね上げたミリア。骸骨戦士の腕は弾かれ、盾も上方に流れる。骸骨戦士が盾を戻す前に、翻ったミリアの剣が骸骨戦士の胴部を薙いだ。胴の上下で泣き別れた骸骨の戦士は、そのまま灰へと帰っていった。 
 これで敵は骸骨戦士が2体、魔術師1体、聖堂士1体。互いに満身創痍だがハンターは7名が未だに残っている。陸戦の敗戦ラインは5%。6人目が撃破された段階でこの流れは必然であった。
 人同士の戦いと違い壊滅的な結果となったのは、骸骨に逃げるという選択肢がなかったためである。



 骸骨の戦士8名はハンターによって討伐された。最後の戦士が倒れ、場は一瞬の空白となる。歪虚の死――死と呼んで差し支えなければだが――は残された遺体が塵に変わるため明白だ。
 トミヲは腕を上げガッツポーズをして、すぐに何か思い至って腕を下げた。
「……勝鬨を……! ジェフリーくん、どうぞ!」
「む……」
 その役割はハンターがするのではないのか。そんな疑問を浮かべた顔だった。
「自分でやればいいだろ、それ」
 当然のツッコミがミリアから投げかけられる。たったそれだけでトミヲは慌て始めた。
「だ……だだだって、ボクじゃ盛り上がらないし……」
 特に理由も無くキョドるトミヲ。勝ったはずだが締まらない。しかし野太い声で号令する人物が居ないのも確かだ。ジェフリーは苦笑してから、大きく息を吸い込んだ。
「戦線に穴があいたぞ。押せ!! 押しつぶせ!!」
「おおおおおお!!!」
 赤の隊、そしてその周囲に展開していた兵士達が連鎖して咆哮する。一方の骸骨は怯まない。無機質なまま役割を果たす。致命的な機能の欠損が起きたとしても、彼らは変わらない。結果、柔軟な対応ができぬまま一方的に蹴散らされることになった。
 地獄のような戦線はやがて様相を変えていくが、彼らのおかげで多くの者が死地を脱したのも事実だった。

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MVP一覧

  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろka1250
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲka4852

重体一覧

  • 迷いの先の決意
    チマキマルka4372

参加者一覧


  • 十 音子(ka0537
    人間(蒼)|23才|女性|猟撃士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 英雄譚を終えし者
    ミリア・ラスティソード(ka1287
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 王国騎士団非常勤救護班
    クルス(ka3922
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 迷いの先の決意
    チマキマル(ka4372
    人間(紅)|35才|男性|魔術師
  • 正しき姿勢で正しき目を
    セイラ・イシュリエル(ka4820
    人間(紅)|20才|女性|疾影士
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲ(ka4852
    人間(蒼)|27才|男性|魔術師
  • 千の符を散らして
    黒耀 (ka5677
    鬼|25才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 病んでるんス・エリート
水流崎トミヲ(ka4852
人間(リアルブルー)|27才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/10/22 23:49:55
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/10/22 21:54:00