『期待』され過ぎた男

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/10/25 09:00
完成日
2015/11/01 23:35

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●富豪の期待
「これほどの腕前とは、これは、期待できるね~」
 一人の画家が、とある富豪から褒められていた。
 画家は恐縮して、ただ頭を下げているだけである。
「も、もったいないお言葉です」
「これなら、例のコンテスト……優勝も夢ではないな」
 とある貴族が開催する絵画コンテスト。
 この富豪は、その中の一貴族お抱えの商人であった。コンテストの為に、素晴らしい絵を探していたのだ。
「私の絵など、有名な先生方と比べては……」
「なにを言っておるか! 君の絵は、素晴らしいのだよ!」
 富豪は画家の両肩を掴んだ。
「いいかい! なんとしてでも、描きあげるのだ!」
 そうでないと、自分の商売に響くと富豪は内心呟く。
 有名画家に勝てる程の技量を持ち、かつ、お金をあまりかけないで済ませる。富豪の企みは、絵画のそれとは程遠い所にあった。
「し、しかし、明らかに、力量は……」
「君は自信を持てばいい! そうだ、今回のテーマは、豪華絢爛だ。思いっきり豪華に描いてみたまえ!」
 画家の肩を豪快に二度三度と叩くと、それだけ言い残して富豪はアトリエから立ち去っていった。

●恋人の期待
「ねぇ、あんた。今度、コンテストに出るんでしょ?」
 アトリエに併設されている画家の自宅で、恋人が笑顔を浮かべて言った。
 画家は驚いた顔で恋人を見つめた。コンテストの話しは誰にも言っていなかったからだ。
「もう、街では凄い噂になっているわよ!」
「そ、そんな……一体、誰が……」
「私も嬉しいわ~」
 恋人がスッと傍によって来て、画家の顔を撫でた。
「今まで、売れない画家とか、三流画家とか、言われ続けてきた貴方を見捨てなかった私も、鼻が高いわ」
 そんな事を言いながら、心の中では別の事を考えていた。
(これで、貴族と知り合う事ができれば、玉の輿も狙えるわ。こんな、冴えない画家とはおさらばよ)
 一方の画家は視線を落としている。
 手が……震えていた。
「僕には、無理だ……豪華絢爛? そんなの、絵の中でしか知らないよ」
「なにを言ってるの。貴方なら、できるわ!」
 急かす様に、恋人はキャンバスと筆を持ってきたのであった。

●市民の期待
「おっ! 先生じゃないか!」
 絵の具を補充する為に、街中に出た画家を一人の中年男性が呼び掛けた。
 思わず、画家はキョロキョロとする。
「先生だよ! 先生!」
 慣れ慣れしく肩に手を回してくる。
 この人――僕を三流画家と言っていた人――は、下心ありありの笑顔で顔を近づけた。
「コンテストに出るって聞いたぜ! それも、優勝間違い無しなんだってな!」
「ゆ、優勝! と、とんでもない!」
「謙遜しなくていいんだぜ。もう、街の皆、知っている事だぜ」
 その言葉に、画家は周囲を見渡す。
 通りの店の店員やら客やらから、期待と羨望と……嫉妬が入り混じった視線を感じた。
「優勝なんか、するわけないじゃないか!」
 画家は、中年の男性から無理矢理突き放すと、一目散にアトリエに向かって走り出した。

●ブルダズルダの街にて
「無理だ。無理だ。無理だ……」
 画家がぶつぶつと言いながら暗くなった路地を歩いていた。
 豪華絢爛というテーマに応えられるだけのなにかを、画家は見失っていたのだ。
「みんなして、僕をよってたかって……絵なんて、描くんじゃなかった……」
 小さい頃から絵を描く事が大好きだった彼は、いつしか、画家を目指した。
 師匠からは、感性は良いと言われていた。事実、彼は、人の心の移り変わりに敏感だった。
 だからからか、人物が入った絵を描く分には、人並み以上の評価を貰っているし、自分にとっても、そこは自信ある所だ。
「豪華絢爛……わからないよ」
 絵の勉強した時に、どういうのか、イメージはつく。
 しかし、普通に描いたのでは、話にならないのは、彼自身が一番良く分かっていた。
 締切まで間に合わない……その結果、どういう事態になるのかも、良く分かっている。
「もう……ダ、ダメだ……」
 援助をしていた富豪は激怒するだろう。契約を打ち切られるに違いない。
 ずっと家に居座っている恋人はは失望するだろう。余所の所に行くに違いない。
 街中の人々が、白い目で見てくるに違いない……。
「これも、あれも……ぜんぶ、みんなが悪いんだ」
 画家の心の中にどす黒い感情が流れていた。
 いっその事、全部、無くなってしまえばいいのに。
 そんな事を、頭を抱えて蹲り、考えていたら、誰かが目の前にやってきた。
「だ、誰?」
 少女だった。ふわふわゆるゆるでくるくるの緑髪が特徴的な、可愛らしい少女だ……正直、恋人より断然、可愛い。
「貴方の願い、叶える事、できますよ」
「君は……女神か?」
「……いいえ。私は、貴方のノゾミを叶える者です」

●とあるハンターオフィス
 受付嬢ミノリが一枚の絵のパンフレットに集中していた。
「うーん。この絵に、そんな価値があるなんて……」
 横から見ても縦から見て変わりはしないのだが、ミノリは一生懸命になってみつめる。
 この絵の価値が分かれば……私も、ちょっと一流?
「……あー。だめ、分からない!」
 ポンと、パンフレットを投げ捨てた。
「そんな事より、依頼ね、依頼」
 カウンターの上に資料を置いた。
 モニターには、一つのアトリエが写っている。
「アトリエに出現した雑魔の討伐依頼か~。有名画家なら、ついでに作品の何作かも持って来て欲しいけど……」
 有名というわけではなさそうである。
 画材の納品に来たという者が、アトリエを訪れた所、中から悲鳴が聞こえ、窓から覗き見たら、雑魔が人々を襲っていたという。
「アトリエの持ち主の画家と、その恋人、画家の雇い主である富豪と、数人の市民……まぁ、なんで、こんなに集まっている所で雑魔が出るのかしら」
 資料に書かれている一部始終を読んだミノリがそんな感想を呟く。
 とりあえず、第一発見者が入口を封鎖しておいたようで、雑魔は外に出ていないとの事である。
「依頼をお受け下さるハンターの方々、お待ちしておりまーす」
 あくび混じりで言うミノリであった。

●時期遡り、惨劇直前の事
 完成した画を事前公開するという事で、画家のアトリエに何人かが集まっていた。
 富豪と、恋人と、表向き仲が良いとされる市民達は、シートが被さっている画に期待の眼差しを向けている。
「……これより、僕の最高傑作をお見せします」
 疲れ切った表情の画家が、画の隣に現れた。なぜか、片手には大き目の壺を持っている。
「最高傑作とは! それは楽しみだ!(これで、優勝は間違いない。大儲けできる)」
「さすが、貴方だわ。私は信じていたわ!(憧れの貴族の玉の輿が狙えるわ)」
「やっぱり、先生はすげぇよ!(ゴマをすっておけば、なにか、おこぼれでも貰えるかも)」
 集まった市民達から、次々と歓声が起きる。
 画家は、それを早々に制すると、画を覆っているシートを外した。そこには――。

リプレイ本文

●ブルダズルダの街郊外―画家アトリエ前
「また……かしらね」
 アルラウネ(ka4841)が、半ば諦めたような表情を仲間のハンター達に向けながら呟いた。
 彼女と何人かの仲間と同行する依頼には、なぜか、スライム状の雑魔を討伐する事が多かったからだ。
「まったく、似たような話が続きますね。嫌なものです」
 神妙な顔付きでマヘル・ハシバス(ka0440)がアルラウネの呟きに返した。
 ある予感が、頭を過ぎる。それは、歪虚と共に行動する緑髪の少女の事であった。怪しい事件の依頼とはいえ、そうそう、少女に関するはずが……。
「って、ノゾミ!? の、絵……!?」
 毎回おなじみになったスライム退治の依頼に意気揚々としていた小鳥遊 時雨(ka4921)が、アトリエを窓から覗きこみ、目に飛び込んできた物に向かって叫ぶ。
 アトリエの片隅に一枚の絵が飾られている。その絵に描かれている人物は、確かに、ノゾミであった。
「あれ、この絵に描いてある女の子って……」
 葛音 水月(ka1895)も興味深そうに絵をみつめる。
 森の中で亜人を助けた時に一緒にいた少女という事は覚えている。なぜ、こんな所に少女の絵があるのかと水月は首を傾げた。
「おーう。今回も、凄惨な事件現場って感じー」
 絵の人物にあまり興味のないソフィア・フォーサイス(ka5463)は、アトリエ内の惨劇跡を見て、そんな感想を口にする。
 四肢どころか、頭も胴体も見事なまでにバラバラだ。もともと、何人いたのかも、これではハッキリしないだろう。
「ノゾミの絵で不意打ち食らっちゃったけど、気を取り直して、いくよ!」
「ホント、なんでこんな場所で、このタイミングにって感じですね。さっくとヤっちゃいましょー」
 時雨と水月が同じ様な掛け声をあげると、それぞれ、武器に手をかけようとした。
 その動きを制するように、アルラウネが二人の間からヌッと姿を現す。
「全員で武器を振りまわすには、気を付けた方がいいかしら」
 確かに、アトリエ内部は狭く感じる。全員が入れないというわけではないが、大振りな攻撃や範囲攻撃は味方に当たる可能性があるだろう。
「生存者は恐らくいないんだろうなー。部屋の中から出たってことは、人が雑魔化したってこと?」
 ソフィアの何気ない質問に答えたのはマヘルだった。
「もしくは、雑魔を『持っていた』という可能性もありますね……」
 マヘルの視線は、アトリエ内に散らばった壺の破片に向けられている。
 緑髪の少女が引き起こしたと思われる事件には、壺の中に入っていたと思われる共通性があったからだ。
「え? そんなに簡単に、雑魔って手に入る物なのです?」
 キョトンとするソフィア。誰からか手に入るような品物だったら、危険極まりない。
「簡単かどうかわかりませんが、少なくとも、歪虚が絡んでいる可能性はあります」
「高位の歪虚だったら嫌ですね」
 率直な感想を述べるソフィアに、ある歪虚を思い浮かびながらマヘルも頷いた。
「スライム状の雑魔だけど、どんな能力があるか、知りたいです」
 水月の言葉に、それまで話しの成り行きを見守っていたルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が出番とばかりに威勢良く手を上げる。
「私に任せて下さい! 式神を作って、確認します!」
 符術師(カードマスター)である彼女は、仲間達の返事よりも早く、セットしていた符を一枚取り出すと、魔法詠唱の様に言葉を紡ぐ。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法分身の術!」
 分身の術とか言っているが、あくまでも、符術師のスキルでしかない事に、仲間達は敢えてツッコミを入れなかった。というよりも、なかなか見る機会がなかったのか、その様子を興味津々で見守るハンター達。
 5cm程の紙製の人形が現れた。人形には丸っこい字で『ルンルン』と大きく書かれており、楽しそうにリズムを取っていた。
「へえ、これが式神なんですか」
「式神かー。どんなのかちょびっと楽しみ」
「符術ですか、そんな事もできるのですね」
 水月、時雨、マヘルが出現した式神を見て、それぞれ、そんな感想を口にした。
 今はふわふわと空中を浮いているだけで、なにかすぐに吹き飛んで行ってしまいそうな頼りなさを感じる。
「泥に乗ったつもりで任せてください! だって、私、チャンピオンですから☆」
 決めポーズに☆が飛び、自信満々に張られた胸が、威風堂々と強調されていた。
「泥でなくて、大船だと思うけど……任せたわ」
「任せてください!」
 アルラウネの言葉をサラりと受け流し、ルンルンは意識を集中させる。
 式神がスーと動いて、アトリエの入口の隙間から内部に侵入する。
「偵察はニンジャの基本だもの……わぁ、なんかきしょいのと、女の子の絵が見えます」
 意識だけを集中し、ルンルンは偵察内容を説明する。
 改めて生存者がいない事も確認し、ルンルンは式神を巧みに動かし、雑魔の注意を引こうとした。
「わぁ!」
 式神から意識が途絶え、思わず、ルンルンは声を発する。
 窓から中を見ていた仲間達にも何が起こったのが状況がわかった。
「まるで、刃のような切れ味の水ですね。それにしても、敵の手札が見れるというのはありがたいです」
 マヘルが寸断された式神を見て、そんな感想を言った。
 雑魔から射出された太刀筋が式神を切り裂いたからだ。しかも、距離が開いていたのにも関わらず。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法で、ずっと私のターンになぁれ!」
 再び符術師のスキルを使用するルンルン。
 アトリエの入口方面から注意を逸らして、仲間達が突入しやすいように誘導しようと思ったからだった。

●戦闘開始
 カードが雑魔に向かって飛んで行く。
「今日の私はかーどますたーならぬ、かーどきゃすたー!」
 マテリアルを込め、冷気を纏ったカードが雑魔に突き刺さる。
 ルンルンが投げた物ではなく、時雨が投げたカードだった。狭い室内では弓を使うには不適切と考え、投擲用のカードを持ってきたのだ。一方のルンルンは雑魔が放った水刃を床に手をつきながら避けていた。
 入口から雑魔までの距離を一気に詰めつつ、水月がバラバラの死体の断面を見て言い放った。
「死体がバラバラなのは、この水の刃の為です、か」
 床が思ったよりも綺麗なのは、血を雑魔が飲み込んだのか吸収したのだろう。
 それでも、足場に気をつけながら踏み込むと、鋭い刺突を連続で放つ。斬撃があまり有効ではないかなと思ったからだ。
「あー。密室とかなー。臭いがー……何ー? 画家って、こんなこもった場所じゃないといけないの? 換気してよ。換気ー!」
 愚痴を言いながらソフィアも突入していた。
 舞刀士特有の円を描く動きで雑魔に迫ると、素早く斬りつける。
「肉片が邪魔するというのですか」
 些か驚くソフィア。雑魔が取りこんだ犠牲者の肉片が斬りつける箇所に集まったからだ。
 こうなると、さすがに思う様にダメージが与えられない。
「全部削ぎ落したら、どんな形になるのかしら……?」
 アルラウネも声をあげた。
 雑魔による取り込みに注意しながら突きを繰り出すが、肉片によって『受け』止められてしまう。ただ、水月の突きは届いていた様子なので、必ずしも、防がれるというわけではなさそうである。
「これはどうですか」
 盾を構えながら機導術を用いた光の剣を叩き込むマヘル。
 肉片による受けが間に合わなかったのか、それとも、そもそも動かなかったのか、マテリアルの光剣が雑魔の水状の身体に深く入る。
「ぅへ……」
 水月がげんばりしたような顔をした。
 彼だけではない。ハンター全員が思わず顔をしかめる。マヘルが叩き込んだ一撃の為か、異臭がアトリエ内部に広がったからだ。
 ともすれば、身動きが疎かになるほどの異臭だ。
 そんな中、雑魔を焼き払うように猛烈な炎が放たれる。ルンルンが符術を使用したのだ。
 符を引いて、そのまま印を結んでから台詞と共に投げつける。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法火遁の術!」
 マテリアルの炎に焼かれる雑魔が揺らめく。
 どうやら、物理的な攻撃は通じにくい様子ではあるが、マテリアルのスキルには弱そうな感じである。

「させない」
 マヘルが立て続けにマテリアルの光剣を作り出して斬りかかる。
 雑魔の再生能力が高く、彼女が機導術を使っていないと、せっかく与えたダメージが回復してしまうからだ。
(とても、エレクトリックショックを使わせてくれる余裕はありませんね)
 歯がゆい思いがしたが、今はアタッカーとしての役目を果たすしかない。
 その時、雑魔が回転し始める。触手の様に出した水の刃が回転刃のようにぐるぐると勢いよく回りだし、その範囲は狭いアトリエ内いっぱいに広がった。
「ノゾミぃー!」
 緑髪の少女の絵を抱きかかえるようにして時雨が絵を守る。
 ビシビシと背中や脇腹を水刃が切り裂いていくが、途中で眩い光を放つ壁に覆われた。マヘルが自身を顧みずに作りだした防御障壁だ。
「核っぽいのがあればと思ったけど、これじゃ、届かないわね」
 無数にしなる水刃の攻撃を避けながらアルラウネが判断した。鋭く突きを叩き込んではいるが、先程から肉片に邪魔されていた。
「通じないですね」
 雑魔を斬り付けた水月も同様だ。
 斬りも突きも物理的な攻撃は、雑魔の身体の中に取り込まれた肉片が集まって、雑魔の核に達せないのだ。
 スライム状の身体の中心部に怪しく光る球――核のような存在に当たれば致命傷を与えられそうなものなのに。
「汚い! 臭い! キモい! もー、最悪! しかも、なんで、こんなに正確なのよ!」
 ソフィアが半ギレになりながら水刃を払うった言葉に水月がハッとした。
「こちらの攻撃は受けられ、雑魔からは狙って攻撃される……もしかして、その雑魔、『見え』ているのかもです」
 どういう原理かわからないが、こちらの動きを見えているのだろう。
「アルラウネさん!」
「わかったわ。任せなさい」
 水月の呼び掛けに笑顔で応じるアルラウネ。二人は息を合わせて雑魔に斬りかかった。
 肉片が受けに入った所で、太刀を腰だめしたソフィアが体当たりする勢いで突撃する。
 雑魔のスライム状の身体の中でそれを受け止めようとする肉片。水刃を前転し、床に手を触れ避けて体勢を立て直したルンルンが符術を使った。
「ここで床に伏せたトラップカードを発動です……ルンルン忍法桜吹雪!」
 符が眩い光を放ったと思った次の瞬間、辺りを桜吹雪のような幻影が包み込む。
 その幻影は、今まさに会心の突きを繰り出そうとしたソフィアを包む。突きを受けようと動いていた肉片の動きが止まった。
「これで、どうですか」
 彼女の太刀は、雑魔のスライム状の身体に深く突き刺さり、核の様な球を確実に貫いていた。
 直後、異臭とべとべとな液体と肉片をソフィアに撒き散らしながら雑魔が消滅していった。
「……たぶん、スライムは1体目です」
 この戦い、最大の犠牲者なのは彼女であるのは、誰の目にも明らかであった。

●『期待』
「うーん……これで何人? 雑魔に取り込まれていた犠牲者は数になるのかしら……」
 涙目になりながら、雑魔の体液等を拭き取りつつソフィアはブツブツと呟いていた。
 あまりの異臭に手伝おうとしたルンルンも諦めて、もはや、タオルを渡す事ぐらいしかできない。
 ブツブツと呪詛のように続ける低テンションなソフィア。
 千人斬りは、まだまだ先が長い様子だ。
「そうだ! 液体ごと、焼き払ってしまえばいいのです!」
 ルンルンが瞳を輝かせて符を取りだす。
「い、いや、それは、色々、ダメですから」
 後ずさっていくソフィアに、ルンルンが不気味な笑みを浮かべたまま、ゆっくりと近付いていったのであった。

 時雨が身体を張って守った絵の前で、マヘルが厳しい表情をしていた。
「どうしたの、マヘル?」
 時雨がアトリエ内で鬼ごっこのように追いかけっこをしている二人を横目に訊ねた。
「画家はこの絵にどんな思いを籠めたのかと」
 絵を描いた画家は人を描くのが得意だったという。コンテストが近く迫っていて焦っていた様子でもあったという目撃者の話しもあった。
「画家を目指すなら、周りの期待など気にせず描きたい物を描けば良かったのに……」
「期待されるのって、時々すっごいつらいよね。応えられないって分かってるなら、尚更……さ……」
「……それでも、最後に描きたい物をテーマに縛られずに描く事はできたのですね」
 そっと、絵の中の少女に触れる。
 なにを想いながら、画家は少女を描いたのだろうか。
「やっぱり、ノゾミちゃんなのね。どうやったら、この行為を止められるのかしら……」
「どういう事なんですか? 最近のノゾミさんを知らないから、わからないのです」
 深刻そうなアルラウネの台詞に水月が訊ねた。
 ノゾミが自暴自棄に陥っているような人に破滅へと導く物を渡している事を、アルラウネはお姉さんぶりながら水月に教えた。
「望みを叶えるのと、救済するのは違うって、よくわかるわね……」
「そういう経緯だったんですね」
 水月は溜め息をつく。話しを聞いただけでも、少女を止めるには難しそうだと思ったからだ。
 拳を強く握り、マヘルが宣言する様に言った。
「早くノゾミさんを止めないと。あの子とノゾミという言葉を汚されるわけにはいきません」
 願いを叶えるという名の下に自殺の道具を与えているだけだ。
 時雨が散乱している画材で折り鶴を作ると、窓の枠にちょんと飾る。
 そして、以前の依頼で出逢った歪虚の言葉を思い出して呟いた。
「ノゾミと同じ目をしてる、か。さて、どーなんだろ。マヘルはどう思うー?」
 その質問にマヘルは時雨の瞳をジッとみつめた。そして、少しの間の後に訊ね返す。
「……時雨さん、なにか、隠していませんか?」

 笑って誤魔化そうとした時雨が突然、悲鳴をあげた。
「わぁー!」
 符を構えて走ってくるルンルンから逃れる為に、ソフィアが突っ込んできたのだ。
 勢いは止まらず、時雨だけではなく、全員が巻き込まれ、5人がまとまって床に転がる。
「今です! ジュゲームリリッ!?」
 走りながら符術を使おうとしたソフィアが画材に躓き、仲間達の上に覆いかぶさるように倒れる。
「だあぁぁぁ!」
「お、おもいー!」
「ちょっと、変な所、触らないで下さい!」
 等々の悲鳴がアトリエ内に響いたのは言うまでもない。
 結局、全員が異臭激しいべとべとの液体にまみる事になって、ハンター達はハンターオフィスへと帰っていたのであった。


 帰路の中で、ハンター達が馬車に揺られながら夜空を見上げる。漆黒の闇の中で、月が眩い光を放っていた。
 月をぼんやり眺めながら、時雨は思った
(……やっぱり ノゾミは笑顔がいちばん似合うと思うなー)
 その時、ガタンと馬車が揺れ、無表情な少女の絵が、弾んだ。


 おしまい

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    マヘル・ハシバスka0440
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜ka5784

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参加者一覧

  • 憧れのお姉さん
    マヘル・ハシバス(ka0440
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • 甘えん坊な奥さん
    アルラウネ(ka4841
    エルフ|24才|女性|舞刀士

  • 小鳥遊 時雨(ka4921
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • 無垢なる黒焔
    ソフィア・フォーサイス(ka5463
    人間(蒼)|15才|女性|舞刀士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師

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小鳥遊 時雨(ka4921
人間(リアルブルー)|16才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/10/24 19:20:49
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/10/23 01:58:16