ゲスト
(ka0000)
【闇光】襲い来る暴風
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/25 22:00
- 完成日
- 2015/11/10 05:52
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
※このシナリオは難易度が高く設定されています。所持金の大幅な減少や装備アイテムの損失、場合によっては、再起不能、死亡判定が下される可能性があります。
再起不能、死亡判定の下されたキャラクターはログイン、及びコンテンツへのアクセスが制限されます。
●眠りを妨げるもの
――またか。
その男はうっすらと目を開けると、その巨体をゆっくりと起こす。
気持ちよく眠りを貪っていたというのに、こうも煩くては寝ていられぬ――。
――そういえば、不死の剣王が北の地にやってきた人間共と遊ぶから協力しろとか言っていたような……。
……面倒臭い。あいつらが何をしようが、知ったことではない。
が。眠りを妨げられたのは気に入らぬ。
折角起きたのだ。
この怒りをぶつけてもバチはあたるまい……?
●襲い来る暴風
北狄に進軍する人類軍。
後方の大きな浄化キャンプを本陣とし、各部隊は歪虚と、そして迫り来る夢幻城の迎撃準備に追われている。
その中に、赤毛の青年……イェルズ・オイマト(kz0143)が混じり、せっせと働いていた。
本来であれば、辺境部族の大首長であるバタルトゥ・オイマト(kz0023)がここにいるはずなのだが――先日行われた北伐での戦いにおいて沢山の負傷者が出た。
北伐は、寒さが厳しい上に汚染領域でもある。怪我人の身体には堪える為、代表者同士の協議の結果、バタルトゥが負傷者を連れて一旦下がるという選択をした。
ここを離れるバタルトゥが、念のためにと自分の代理としてイェルズを派遣して……今この状況がある訳だ。
イェルズ自身、働くのは好きだし、族長の役に立てるのは嬉しいし。
辺境部族の悲願でもある北方を取り戻す計画に、族長の代理として参加できるというのは、とても名誉なことに感じていた。
――そんな状況で、まさかこんな事態になるとは思ってもいなかったのだが。
異変に気付いたのは、見張りの兵だった。
「……報告します! 北の方角に大型歪虚が出現!」
「何? 暴食王ハヴァマールではなく、か?」
「違います! あれは恐らく……災厄の十三魔、ハイルタイ! 馬で、ものすごいスピードでこちらに向かっています!」
「……何だと……!?」
見張りの兵の悲鳴に近い声に、凍りつくハンター達。
――ハイルタイ。
かつてオイマト族と辺境部族を裏切り、歪虚へとついた大罪人。
災厄の十三魔が一将、辺境に今なお伝わる災禍『ベスタハの悲劇』の主犯――。
「何でハイルタイがこんなところに……?」
その問いに答えられるものは残念ながらここにはいない。
ただ、分かっているのは、このままでは……。
「……南の方角から暴食王ハヴァマールの軍、そして北からはハイルタイ……。このままじゃ挟み撃ちにされるぞ」
「……これもハヴァマールの計画のひとつなのでしょうか」
「分からん。分からんがとにかく止めないと……」
唇を噛むハンター。
この部隊は、夢幻城の迎撃の為に置かれたものだ。
ここがハイルタイの対応に当たれば、夢幻城から次々と降下してくる歪虚に対応しきれない。
部隊を動かす訳にはいかない……。どうしたらいい……?
思いを巡らせるハンター達。イェルズは大剣を担ぐとスタスタと歩いて部隊を外れて行く。
「おい! イェルズどこに行く!」
「どこってハイルタイを迎撃するに決まってるじゃないですか! あいつ止めないと大変なことになりますよ!」
「そりゃ分かってる! だから今その対策をだな……」
「そんなこと言ってる間にあいつここまで来ちゃいますよ!? 俺、行きます!」
「おい! 待て、イェルズ! おい!!」
制止も聞かずに走って行くイェルズ。
あの青年はどうにも考えるより先に身体が動いてしまうらしい。
ハンターはため息をつくと、装備と武器を担いで歩き出す。
「お前も行く気か?」
「ええ。……一人で行かせる訳にいかないでしょ?」
「ふむ。全軍は動かせないが、一部なら何とかなる、か……」
「よし。俺も行こう」
武器を携え、イェルズの背を負うハンター達。
そう。この事態を、このまま放っておくことは出来ない。
――こうして、ごく一部の精鋭のみで、災厄の十三魔であるハイルタイを迎え撃つことになった。
再起不能、死亡判定の下されたキャラクターはログイン、及びコンテンツへのアクセスが制限されます。
●眠りを妨げるもの
――またか。
その男はうっすらと目を開けると、その巨体をゆっくりと起こす。
気持ちよく眠りを貪っていたというのに、こうも煩くては寝ていられぬ――。
――そういえば、不死の剣王が北の地にやってきた人間共と遊ぶから協力しろとか言っていたような……。
……面倒臭い。あいつらが何をしようが、知ったことではない。
が。眠りを妨げられたのは気に入らぬ。
折角起きたのだ。
この怒りをぶつけてもバチはあたるまい……?
●襲い来る暴風
北狄に進軍する人類軍。
後方の大きな浄化キャンプを本陣とし、各部隊は歪虚と、そして迫り来る夢幻城の迎撃準備に追われている。
その中に、赤毛の青年……イェルズ・オイマト(kz0143)が混じり、せっせと働いていた。
本来であれば、辺境部族の大首長であるバタルトゥ・オイマト(kz0023)がここにいるはずなのだが――先日行われた北伐での戦いにおいて沢山の負傷者が出た。
北伐は、寒さが厳しい上に汚染領域でもある。怪我人の身体には堪える為、代表者同士の協議の結果、バタルトゥが負傷者を連れて一旦下がるという選択をした。
ここを離れるバタルトゥが、念のためにと自分の代理としてイェルズを派遣して……今この状況がある訳だ。
イェルズ自身、働くのは好きだし、族長の役に立てるのは嬉しいし。
辺境部族の悲願でもある北方を取り戻す計画に、族長の代理として参加できるというのは、とても名誉なことに感じていた。
――そんな状況で、まさかこんな事態になるとは思ってもいなかったのだが。
異変に気付いたのは、見張りの兵だった。
「……報告します! 北の方角に大型歪虚が出現!」
「何? 暴食王ハヴァマールではなく、か?」
「違います! あれは恐らく……災厄の十三魔、ハイルタイ! 馬で、ものすごいスピードでこちらに向かっています!」
「……何だと……!?」
見張りの兵の悲鳴に近い声に、凍りつくハンター達。
――ハイルタイ。
かつてオイマト族と辺境部族を裏切り、歪虚へとついた大罪人。
災厄の十三魔が一将、辺境に今なお伝わる災禍『ベスタハの悲劇』の主犯――。
「何でハイルタイがこんなところに……?」
その問いに答えられるものは残念ながらここにはいない。
ただ、分かっているのは、このままでは……。
「……南の方角から暴食王ハヴァマールの軍、そして北からはハイルタイ……。このままじゃ挟み撃ちにされるぞ」
「……これもハヴァマールの計画のひとつなのでしょうか」
「分からん。分からんがとにかく止めないと……」
唇を噛むハンター。
この部隊は、夢幻城の迎撃の為に置かれたものだ。
ここがハイルタイの対応に当たれば、夢幻城から次々と降下してくる歪虚に対応しきれない。
部隊を動かす訳にはいかない……。どうしたらいい……?
思いを巡らせるハンター達。イェルズは大剣を担ぐとスタスタと歩いて部隊を外れて行く。
「おい! イェルズどこに行く!」
「どこってハイルタイを迎撃するに決まってるじゃないですか! あいつ止めないと大変なことになりますよ!」
「そりゃ分かってる! だから今その対策をだな……」
「そんなこと言ってる間にあいつここまで来ちゃいますよ!? 俺、行きます!」
「おい! 待て、イェルズ! おい!!」
制止も聞かずに走って行くイェルズ。
あの青年はどうにも考えるより先に身体が動いてしまうらしい。
ハンターはため息をつくと、装備と武器を担いで歩き出す。
「お前も行く気か?」
「ええ。……一人で行かせる訳にいかないでしょ?」
「ふむ。全軍は動かせないが、一部なら何とかなる、か……」
「よし。俺も行こう」
武器を携え、イェルズの背を負うハンター達。
そう。この事態を、このまま放っておくことは出来ない。
――こうして、ごく一部の精鋭のみで、災厄の十三魔であるハイルタイを迎え撃つことになった。
リプレイ本文
遮るものがない広い平原。馬に跨り、疾走する歪虚は遠目からでも見て取れる。
接触地点までまだ距離があるというのに、目視出来るということはそれだけハイルタイの巨大さを物語っていて……その姿に目を丸くする霧雨 悠月(ka4130)。その横で、ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)は渋い顔で吸おうと思っていた煙草を懐に戻す。
「わー。本当に大きいんだね」
「面倒臭えヤツが来やがったな……。面倒臭え……」
「ったく、毎回出張ってこられちゃ堪ったもんじゃねえな」
「ほんになぁ。大人しゅう寝ておれば良いものを……」
手馴れた様子で軍馬の手綱を握るジャンク(ka4072)。蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は向かい来る歪虚に剣呑な目線を向ける。
軍馬や魔導バイクで突き進むハンター達。向こうにも、こちらの姿は見えているはずだが……。
「早めに対処しませんとね……」
呟く月雲 夜汐(ka5780)。拠点まで距離はあるが、遠距離攻撃を得意とするハイルタイだ。安心することは出来ない。拠点の者達にも警戒するようには伝えたが、飛来する巨大な矢を防ぎきるのは難しいだろう。
だからこそ、どうしても。自分達が食い止めなければならない。
「ともかく、何とか帰って貰えるよう頑張りましょう」
夜汐の言葉に強く頷いたサクラ・エルフリード(ka2598)に無言を返す尾形 剛道(ka4612)。
ハイルタイを射るような眼差しを向け、ククク……と笑いを漏らす。
――あいつはどんな動きをするのか。……あの笑える程に太い腕から、どんな弾が飛んで来るのか。
湧き上がる高揚感に笑いが止まらない。
「……怖いか。そうだよな。すまんが耐えてくれ、俺も頑張るから」
訓練された上質な戦馬でも、あの歪虚には耐え難い恐怖を感じるらしい。近づくにつれて様子が変わる馬に、声をかける龍崎・カズマ(ka0178)。
ふと目線を上げて、ハイルタイが妙な動きをしたことに気がついた。
「……! おい。あいつ、矢を構え始めたぞ!」
「おいおい。あんなところから狙う気かよ!」
「……いくらハイルタイと言えどもあそこから拠点には届くめぇよ。ということは、衝撃波で吹き飛ばそうって腹か?」
舌打ちするヴォルフガングに、顎を掻きながら言うジャンク。
ハイルタイの位置から拠点までは大分距離がある。が、何しろあの巨体で打つ矢だ。直接当たらずとも、衝撃波だけで拠点にダメージを与えることは出来そうで……。
「ハイルタイって衝撃波打つんでしょ? 一点に纏まってたら危ないよね」
「そうですね。散開しつつ接近を試みましょうか」
むーん、と考え込む悠月にサクラがこくりと頷く。
「承知したのじゃ。妾とジャンクがあのデカブツの注意をひくゆえ、おぬしらは進軍を」
「かしこまりました。ご武運を!」
手綱を強く引き、スピードを上げる蜜鈴に頷く夜汐。その声に応えるように、剛道もバイクのエンジンを全開にする。
「……ようやく追いつきよった。全く、先走りよってからに」
「……蜜鈴さん!?」
「説教は後じゃ。ほれ、あれが来よるぞ! 前を見ろ!」
疾走する軍馬。後ろからやってきた蜜鈴の声に驚いた顔をするイェルズ・オイマト(kz0143)。
ふと見ると、ジャンクが威嚇射撃を歪虚の巨体にお見舞いしている。
――この程度の攻撃で怯むような相手ではない。分かっている。彼の目的はあれを傷つけることではなく……。
ジャンクの放った矢がハイルタイの耳を掠め、顔が動く。
進軍の速度は落ちないが、顔が動いたということは、こちらに気づいているということだ。
ならば――。
「舞うは炎舞、散るは徒花……さあ、炎の種子よ。その花を咲かせ、舞い散れ!」
蜜鈴の流れるような詠唱。彼女の手から火球が飛び出し、紅蓮の花を咲かせる。
鮮やか燃えて虚空に咲いた炎の花は間違いなくハイルタイの目に映るが、スピードが緩むことはない。
彼女がもう一度炎の花を咲かせようと構えたその時、ジャンクが瓶を投げつけ……残念ながら顔には当たらなかったが、ハイルタイの馬と服が、エールで濡れた。
「こいつは俺の奢りだ。とっときな!」
ジャンクの叫び。そしてもう一度打ち込まれる蜜鈴の炎の花。
舌打ちするハイルタイ。矢を放つと炎の花が消え、地面に大きな穴を開け……。
――あんなのを拠点に打ち込まれたら、ひとたまりもない……!
滲む嫌な汗。ごくりと喉を鳴らすサクラ。そうしている間に馬が減速し……歪虚はハンター達を認識したのだろう。ジャンクがその巨体の前に立つ。
「よーぅ、ハイルタイの旦那。久しぶりだな」
「……何のつもりだ。人間」
「なーに。ちょっと旦那に交渉したいことがあってな。時間は取らせねえよ」
「本当に小煩い人間どもめ……」
「ん? まーたうるさくしちまったかい? そいつぁすまねえな。でもよ、このまま南下すりゃあ、不死の剣王と鉢合わせて更に面倒なことに付き合わされるだろうなぁ。そんなのは御免だろう?」
「……何が言いたい」
「おんしの安眠を妨げるのは他の歪虚共であろう。……それ等を片付けた方が余程に静かに眠れると思うがの」
「そーゆーこと。今回の騒動の原因はあの空飛んでる城だ。旦那にとっちゃ羽虫同然の人間蹴散らすより、あのでかぶつをぶっ壊した方がすかっとしねえか?」
蜜鈴の言葉に頷くジャンク。それにハイルタイは肩を震わせて笑う。
「そうさな。そうやもしれんが……そもそもは、お前達人間がさっさと死んでくれればこのようなことにはならんのだ。無駄な抵抗は止めて絶滅してくれた方がわしとしては助かる」
「あー。そー来たか……。まぁ、旦那は歪虚だもんな。そうだわなぁ。……じゃあよ、ここは一つ、俺達相手に憂さを晴らさねえか? 寝床から遠く離れた場所まで行く面倒も省けるぜぇ?」
「……ほう? それは悪くない申し出だな……!」
ニヤリと笑うハイルタイ。言うが否や、矢を番える。
「……起こされて腹が立っておったところだ。精々わしを愉しませてくれ、虫けら共」
「……来るぞ! 散れ!!」
槍を構えながらのカズマの叫び。それに応えるように四散する仲間達。
ハンター達を襲う暴風。
矢が飛来した場所が大きく抉れたのを見て、カズマは己の判断が正しいことを覚る。
……ただ矢を放っただけで地面を砕く程の威力だ。受けるには厳しい。
避ければその分距離は開くが、被害そのものは減る。
元より長期戦を前提にしている。問題ない――。
「まずはご挨拶と行こうか……!」
「あいよ! どこまで嫌がらせできっかね……」
「全てを灰燼と為す紅蓮の魔女の炎……とくと味わうが良い」
刀にマテリアルを溜めて、振り抜くヴォルフガング。ジャンクの絡みつくような射撃と、ハイルタイ目掛けて咲き誇る蜜鈴の紅蓮の花――。
それが、開戦の合図となった。
「わたくしの名は、月雲が夜叉……夜汐。しばしお相手願います!!」
声高らかに名乗る夜汐。その声にハイルタイが反応する様子もない。
――この歪虚の巨体からすれば、己は地に這う小動物。
彼の注意を引くには、人並みならぬ努力が必要だろう。
されどひと目、目を留めて頂けるなれば。わたくしは――!
強く踏み込み、ハイルタイに大太刀を振るう彼女。
感じる手ごたえ。だが、目の前の歪虚に効いた様子は見られない。
相手は巨体ゆえ、当てること自体はさほど難しくないように感じるが……酷く硬い。
刃が届いていないのではないかと思えるほどだ。
だが、これで諦める訳には……!
「さすがに強いね……! ふふっ」
夜汐に続くようにハイルタイの馬目掛けて刀を振りぬく悠月。返す刀で馬の足にクナイを突き立てる。
だが、馬は――。
ジャンクが『馬も恐ろしいほど頑丈だぜぇ』と言っていたが、その通りのようだ。
念の為言っておくが、悠月とて経験豊富なハンターで、決して弱いという訳ではない。
それでも、ここまで打たれ強いのは予想外だ。
「……この胸の高鳴り、堪らないね……!」
さすがに強い……! だが、この強さがたまらない。自分を高めてくれる。
悠月に浮かぶ笑み。愛らしい外見からは想像がつかない程、それは冷たく……。
ダメージが行くかどうかは問題じゃない。とにかくこいつらを邪魔できればいい。
悠月は刀を返すと、何度も果敢に食らいつく。
「こうも体格差があると難しいですね。有効打を与える……とはいかないまでも、こちらの攻撃で面倒臭がってくれるといいんですけどもね……」
「そうだな。幸いこちらにはリーチがある。射撃の邪魔をすることは出来るんじゃないか」
「そうですね……。やってみましょう」
仲間達の様子を見ていたサクラの呟き。カズマの冷静な声にもう一度頷く。
幸い己と彼の獲物は槍だ。色々とやりようがある――!
風を切るサクラの槍。弧を描き、顔目掛けて飛んできたそれを、ひょいと避けるハイルタイ。
続いて己ではなく、弓を狙って鋭い一閃を浴びせてきたカズマに舌打ちをして、再び矢を番える。
「……チィッ! 来るぞ!! 避けろ!!」
響くジャンクの叫び。ハンター達が散ったと同時に、耳を裂くような轟音が木霊する。
馬と共に身を伏せるも、避けきれぬ衝撃波。それを食らいながらもニヤリと笑うカズマ。そんな彼を見てサクラが青ざめる
「カズマさん! こんなに血が……!」
「何。こんなのかすり傷だ。それより奴さん、明らかに苛立ってた。効果アリと見ていいかね」
「そうですね。……続けてみたいところですが、そろそろ回復に回ったほうがよさそうです」
目を細めるサクラ。夜汐もジャンクもイェルズも、今の衝撃波を食らって怪我をしたように見える。
「俺はこのまま続ける。皆を頼んだ」
「了解しました! お気をつけて!」
精霊に祈り、傷を癒すサクラ。カズマは彼女に背を向けたまま手を上げる。
「もってくれよ……せめて、この時間稼ぎの間だけでもな」
カズマの呟きは、吹きすさぶ風に飲み込まれる。
「いててて……くそっ!」
矢の衝撃波に飲まれたイェルズ。大剣を握り直し、立とうとするが上手く行かない。
そこに差し伸べられる白い手。見上げると、蜜鈴の穏やかな微笑みがあって……。
「……ほれ立て。バタルトゥに褒めてもらうのじゃろ? おんしが伏せっておってはあ奴が寂しがる」
「……! はい!」
「怪我をしておるな。大事無いか?」
「男ですから平気です! 蜜鈴さんこそ大丈夫ですか?」
「問題ない。いま少しの辛抱じゃ。ジャンクの話じゃと、あと数発で奴も飽きる」
イェルズを助け起こし、蜜鈴はハイルタイの巨体に目線を向ける。
「うわっ……! ホント洒落になってねーな……」
揺れるヴォルフガングの身体。彼は仲間達がハイルタイに猛攻を仕掛けている間、馬の身体にショットアンカーを引っ掛けてその巨体によじ登っていた。
その間も、彼の視界をちらちらと横切る黒い影。
ピンヒールで器用に跳躍し、空を舞うようにハイルタイの左腕を一閃する剛道が見える。
「……強ェ! 強ェなハイルタイ! 鉄の壁殴ってるみてェだ!!」
饒舌になる剛道。生死の瀬戸際。絶え間ない暴力。血の匂い。己の求めていたものがここにあって……胎の底から沸き上がる興奮に笑いが止まらない。
振るう刀。巨大な歪虚がさして堪えた様子はない。が、彼は高らかに笑いながら襲いかかる。
「おーおー。おっそろし。じゃあ、俺もやってみますかね……」
ニヤリと笑うヴォルフガング。剛道が左を狙うなら、自分は右だな……とあたりをつけて、リールを巻き上げ近づくのはハイルタイの弱そうなところ……肘目掛けて、渾身の一撃を振り下ろす――!
感じた手ごたえ。強張る筋肉。さすがの歪虚も痛みを感じたのか。
次の瞬間、巨大な腕が振るわれて、ヴォルフガングの身体が吹っ飛ぶ。
「……調子に乗るでないぞ! この羽虫が……!」
びきびきと流動するハイルタイの筋肉。その腕が矢を番え、狙うは跳躍する剛道。
その軌道を逸らすように、夜汐が踏み込み、一太刀浴びせる。
――力不足は認めましょう。……されど、引く事は……逃げる事は、許されませぬ。
己の力の限り、戦い抜く……!
「届かぬ一太刀など、あってはなりませぬ!」
「剛道さん! 夜汐さん! 避けてーーーー!!」
咄嗟に地に伏したヴォルフガングを庇いながら叫ぶ悠月。
このままでは間に合わない……!
「おのれ……! 炎の矢よ! 往きて全てを焼き尽くせ!!」
「させるかああああ!!」
放たれた巨大な矢目掛けて吸い込まれる蜜鈴の炎の矢とジャンクの氷の弾丸。
それは確かに命中したが、軌道を完全に逸らすまでには至らず――。
次の瞬間、襲い来る激しい衝撃と烈風。身体が宙に浮き、飛ばされる夜汐。直撃を食らった剛道もまた吹き飛ばされる。
「……流石、だな。やってくれる……! だがまだまだだァ! もっと俺を滾らせろハイルタイィ!!」
片膝をつき、血を吐きながら笑う剛道。目を覆うような有様だが、まだ戦う気はあるのだろう。立ち上がろうとする彼とハイルタイの間に立つ悠月。カズマが巨大な歪虚に鋭い目線を向ける。
「……ねえ、どうする? まだ続ける? 僕達が最後の一人になるまで相手してあげてもいいけど」
「俺達はお前にとっちゃ虫かもしれんが、ただの八つ当たりで殺される気はねーのよ」
「……ふむ。疲れた。帰る。なかなか愉しめたぞ、人間よ」
突然のハイルタイ言葉。彼は手綱を引くと拍子抜けするほどあっさりと……その場を去っていく。
「もう来んじゃねえぞー!」
その背に向けて叫ぶジャンク。サクラは慌てて地に伏したヴォルフガングを助け起こす。
「大丈夫ですか!? 今手当てをしますから……」
「おー。さすがに無茶だったな……。えーっと煙草は……」
「そんな怪我で煙草吸っちゃダメです!!」
サクラに叱られ、くつりと笑う彼。その横で、傷だらけの夜汐が唇を噛み締め、自身の拳を睨む。
「わたくしは強くならねばなりませぬ……もっと、もっと」
「……そうだね。でも、その為には休養も必要だよ」
悠月の励ましに、素直に頷く夜汐。蜜鈴はふう、とため息をついて手元の煙管を弄ぶ。
「さ、長居は無用じゃ。急ぎ戻るとしようぞ。馬達も疲弊しよる」
「そうですね。汚染の影響が出ないとも限らないですし」
「……イェルズは後でゆっくり説教という名の話をするとしようかのう」
「まあ、そう言ってやるなよ。こいつは確かにバカだが、良いバカだ」
「バカって酷くないですか!?」
「良いバカって褒めてるだろうが」
身も蓋もないカズマの談にショックを受けるイェルズ。そのやり取りに笑いを堪えながら、蜜鈴は酷い傷を負った剛道に肩を貸す。
「……次に会う時にゃァ、もっと強くなって……いつか殺してやる。……必ずだ」
去り行くハイルタイ。その強い腕を見つめながら、剛道は血の滲む口の端を上げて笑った。
接触地点までまだ距離があるというのに、目視出来るということはそれだけハイルタイの巨大さを物語っていて……その姿に目を丸くする霧雨 悠月(ka4130)。その横で、ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)は渋い顔で吸おうと思っていた煙草を懐に戻す。
「わー。本当に大きいんだね」
「面倒臭えヤツが来やがったな……。面倒臭え……」
「ったく、毎回出張ってこられちゃ堪ったもんじゃねえな」
「ほんになぁ。大人しゅう寝ておれば良いものを……」
手馴れた様子で軍馬の手綱を握るジャンク(ka4072)。蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は向かい来る歪虚に剣呑な目線を向ける。
軍馬や魔導バイクで突き進むハンター達。向こうにも、こちらの姿は見えているはずだが……。
「早めに対処しませんとね……」
呟く月雲 夜汐(ka5780)。拠点まで距離はあるが、遠距離攻撃を得意とするハイルタイだ。安心することは出来ない。拠点の者達にも警戒するようには伝えたが、飛来する巨大な矢を防ぎきるのは難しいだろう。
だからこそ、どうしても。自分達が食い止めなければならない。
「ともかく、何とか帰って貰えるよう頑張りましょう」
夜汐の言葉に強く頷いたサクラ・エルフリード(ka2598)に無言を返す尾形 剛道(ka4612)。
ハイルタイを射るような眼差しを向け、ククク……と笑いを漏らす。
――あいつはどんな動きをするのか。……あの笑える程に太い腕から、どんな弾が飛んで来るのか。
湧き上がる高揚感に笑いが止まらない。
「……怖いか。そうだよな。すまんが耐えてくれ、俺も頑張るから」
訓練された上質な戦馬でも、あの歪虚には耐え難い恐怖を感じるらしい。近づくにつれて様子が変わる馬に、声をかける龍崎・カズマ(ka0178)。
ふと目線を上げて、ハイルタイが妙な動きをしたことに気がついた。
「……! おい。あいつ、矢を構え始めたぞ!」
「おいおい。あんなところから狙う気かよ!」
「……いくらハイルタイと言えどもあそこから拠点には届くめぇよ。ということは、衝撃波で吹き飛ばそうって腹か?」
舌打ちするヴォルフガングに、顎を掻きながら言うジャンク。
ハイルタイの位置から拠点までは大分距離がある。が、何しろあの巨体で打つ矢だ。直接当たらずとも、衝撃波だけで拠点にダメージを与えることは出来そうで……。
「ハイルタイって衝撃波打つんでしょ? 一点に纏まってたら危ないよね」
「そうですね。散開しつつ接近を試みましょうか」
むーん、と考え込む悠月にサクラがこくりと頷く。
「承知したのじゃ。妾とジャンクがあのデカブツの注意をひくゆえ、おぬしらは進軍を」
「かしこまりました。ご武運を!」
手綱を強く引き、スピードを上げる蜜鈴に頷く夜汐。その声に応えるように、剛道もバイクのエンジンを全開にする。
「……ようやく追いつきよった。全く、先走りよってからに」
「……蜜鈴さん!?」
「説教は後じゃ。ほれ、あれが来よるぞ! 前を見ろ!」
疾走する軍馬。後ろからやってきた蜜鈴の声に驚いた顔をするイェルズ・オイマト(kz0143)。
ふと見ると、ジャンクが威嚇射撃を歪虚の巨体にお見舞いしている。
――この程度の攻撃で怯むような相手ではない。分かっている。彼の目的はあれを傷つけることではなく……。
ジャンクの放った矢がハイルタイの耳を掠め、顔が動く。
進軍の速度は落ちないが、顔が動いたということは、こちらに気づいているということだ。
ならば――。
「舞うは炎舞、散るは徒花……さあ、炎の種子よ。その花を咲かせ、舞い散れ!」
蜜鈴の流れるような詠唱。彼女の手から火球が飛び出し、紅蓮の花を咲かせる。
鮮やか燃えて虚空に咲いた炎の花は間違いなくハイルタイの目に映るが、スピードが緩むことはない。
彼女がもう一度炎の花を咲かせようと構えたその時、ジャンクが瓶を投げつけ……残念ながら顔には当たらなかったが、ハイルタイの馬と服が、エールで濡れた。
「こいつは俺の奢りだ。とっときな!」
ジャンクの叫び。そしてもう一度打ち込まれる蜜鈴の炎の花。
舌打ちするハイルタイ。矢を放つと炎の花が消え、地面に大きな穴を開け……。
――あんなのを拠点に打ち込まれたら、ひとたまりもない……!
滲む嫌な汗。ごくりと喉を鳴らすサクラ。そうしている間に馬が減速し……歪虚はハンター達を認識したのだろう。ジャンクがその巨体の前に立つ。
「よーぅ、ハイルタイの旦那。久しぶりだな」
「……何のつもりだ。人間」
「なーに。ちょっと旦那に交渉したいことがあってな。時間は取らせねえよ」
「本当に小煩い人間どもめ……」
「ん? まーたうるさくしちまったかい? そいつぁすまねえな。でもよ、このまま南下すりゃあ、不死の剣王と鉢合わせて更に面倒なことに付き合わされるだろうなぁ。そんなのは御免だろう?」
「……何が言いたい」
「おんしの安眠を妨げるのは他の歪虚共であろう。……それ等を片付けた方が余程に静かに眠れると思うがの」
「そーゆーこと。今回の騒動の原因はあの空飛んでる城だ。旦那にとっちゃ羽虫同然の人間蹴散らすより、あのでかぶつをぶっ壊した方がすかっとしねえか?」
蜜鈴の言葉に頷くジャンク。それにハイルタイは肩を震わせて笑う。
「そうさな。そうやもしれんが……そもそもは、お前達人間がさっさと死んでくれればこのようなことにはならんのだ。無駄な抵抗は止めて絶滅してくれた方がわしとしては助かる」
「あー。そー来たか……。まぁ、旦那は歪虚だもんな。そうだわなぁ。……じゃあよ、ここは一つ、俺達相手に憂さを晴らさねえか? 寝床から遠く離れた場所まで行く面倒も省けるぜぇ?」
「……ほう? それは悪くない申し出だな……!」
ニヤリと笑うハイルタイ。言うが否や、矢を番える。
「……起こされて腹が立っておったところだ。精々わしを愉しませてくれ、虫けら共」
「……来るぞ! 散れ!!」
槍を構えながらのカズマの叫び。それに応えるように四散する仲間達。
ハンター達を襲う暴風。
矢が飛来した場所が大きく抉れたのを見て、カズマは己の判断が正しいことを覚る。
……ただ矢を放っただけで地面を砕く程の威力だ。受けるには厳しい。
避ければその分距離は開くが、被害そのものは減る。
元より長期戦を前提にしている。問題ない――。
「まずはご挨拶と行こうか……!」
「あいよ! どこまで嫌がらせできっかね……」
「全てを灰燼と為す紅蓮の魔女の炎……とくと味わうが良い」
刀にマテリアルを溜めて、振り抜くヴォルフガング。ジャンクの絡みつくような射撃と、ハイルタイ目掛けて咲き誇る蜜鈴の紅蓮の花――。
それが、開戦の合図となった。
「わたくしの名は、月雲が夜叉……夜汐。しばしお相手願います!!」
声高らかに名乗る夜汐。その声にハイルタイが反応する様子もない。
――この歪虚の巨体からすれば、己は地に這う小動物。
彼の注意を引くには、人並みならぬ努力が必要だろう。
されどひと目、目を留めて頂けるなれば。わたくしは――!
強く踏み込み、ハイルタイに大太刀を振るう彼女。
感じる手ごたえ。だが、目の前の歪虚に効いた様子は見られない。
相手は巨体ゆえ、当てること自体はさほど難しくないように感じるが……酷く硬い。
刃が届いていないのではないかと思えるほどだ。
だが、これで諦める訳には……!
「さすがに強いね……! ふふっ」
夜汐に続くようにハイルタイの馬目掛けて刀を振りぬく悠月。返す刀で馬の足にクナイを突き立てる。
だが、馬は――。
ジャンクが『馬も恐ろしいほど頑丈だぜぇ』と言っていたが、その通りのようだ。
念の為言っておくが、悠月とて経験豊富なハンターで、決して弱いという訳ではない。
それでも、ここまで打たれ強いのは予想外だ。
「……この胸の高鳴り、堪らないね……!」
さすがに強い……! だが、この強さがたまらない。自分を高めてくれる。
悠月に浮かぶ笑み。愛らしい外見からは想像がつかない程、それは冷たく……。
ダメージが行くかどうかは問題じゃない。とにかくこいつらを邪魔できればいい。
悠月は刀を返すと、何度も果敢に食らいつく。
「こうも体格差があると難しいですね。有効打を与える……とはいかないまでも、こちらの攻撃で面倒臭がってくれるといいんですけどもね……」
「そうだな。幸いこちらにはリーチがある。射撃の邪魔をすることは出来るんじゃないか」
「そうですね……。やってみましょう」
仲間達の様子を見ていたサクラの呟き。カズマの冷静な声にもう一度頷く。
幸い己と彼の獲物は槍だ。色々とやりようがある――!
風を切るサクラの槍。弧を描き、顔目掛けて飛んできたそれを、ひょいと避けるハイルタイ。
続いて己ではなく、弓を狙って鋭い一閃を浴びせてきたカズマに舌打ちをして、再び矢を番える。
「……チィッ! 来るぞ!! 避けろ!!」
響くジャンクの叫び。ハンター達が散ったと同時に、耳を裂くような轟音が木霊する。
馬と共に身を伏せるも、避けきれぬ衝撃波。それを食らいながらもニヤリと笑うカズマ。そんな彼を見てサクラが青ざめる
「カズマさん! こんなに血が……!」
「何。こんなのかすり傷だ。それより奴さん、明らかに苛立ってた。効果アリと見ていいかね」
「そうですね。……続けてみたいところですが、そろそろ回復に回ったほうがよさそうです」
目を細めるサクラ。夜汐もジャンクもイェルズも、今の衝撃波を食らって怪我をしたように見える。
「俺はこのまま続ける。皆を頼んだ」
「了解しました! お気をつけて!」
精霊に祈り、傷を癒すサクラ。カズマは彼女に背を向けたまま手を上げる。
「もってくれよ……せめて、この時間稼ぎの間だけでもな」
カズマの呟きは、吹きすさぶ風に飲み込まれる。
「いててて……くそっ!」
矢の衝撃波に飲まれたイェルズ。大剣を握り直し、立とうとするが上手く行かない。
そこに差し伸べられる白い手。見上げると、蜜鈴の穏やかな微笑みがあって……。
「……ほれ立て。バタルトゥに褒めてもらうのじゃろ? おんしが伏せっておってはあ奴が寂しがる」
「……! はい!」
「怪我をしておるな。大事無いか?」
「男ですから平気です! 蜜鈴さんこそ大丈夫ですか?」
「問題ない。いま少しの辛抱じゃ。ジャンクの話じゃと、あと数発で奴も飽きる」
イェルズを助け起こし、蜜鈴はハイルタイの巨体に目線を向ける。
「うわっ……! ホント洒落になってねーな……」
揺れるヴォルフガングの身体。彼は仲間達がハイルタイに猛攻を仕掛けている間、馬の身体にショットアンカーを引っ掛けてその巨体によじ登っていた。
その間も、彼の視界をちらちらと横切る黒い影。
ピンヒールで器用に跳躍し、空を舞うようにハイルタイの左腕を一閃する剛道が見える。
「……強ェ! 強ェなハイルタイ! 鉄の壁殴ってるみてェだ!!」
饒舌になる剛道。生死の瀬戸際。絶え間ない暴力。血の匂い。己の求めていたものがここにあって……胎の底から沸き上がる興奮に笑いが止まらない。
振るう刀。巨大な歪虚がさして堪えた様子はない。が、彼は高らかに笑いながら襲いかかる。
「おーおー。おっそろし。じゃあ、俺もやってみますかね……」
ニヤリと笑うヴォルフガング。剛道が左を狙うなら、自分は右だな……とあたりをつけて、リールを巻き上げ近づくのはハイルタイの弱そうなところ……肘目掛けて、渾身の一撃を振り下ろす――!
感じた手ごたえ。強張る筋肉。さすがの歪虚も痛みを感じたのか。
次の瞬間、巨大な腕が振るわれて、ヴォルフガングの身体が吹っ飛ぶ。
「……調子に乗るでないぞ! この羽虫が……!」
びきびきと流動するハイルタイの筋肉。その腕が矢を番え、狙うは跳躍する剛道。
その軌道を逸らすように、夜汐が踏み込み、一太刀浴びせる。
――力不足は認めましょう。……されど、引く事は……逃げる事は、許されませぬ。
己の力の限り、戦い抜く……!
「届かぬ一太刀など、あってはなりませぬ!」
「剛道さん! 夜汐さん! 避けてーーーー!!」
咄嗟に地に伏したヴォルフガングを庇いながら叫ぶ悠月。
このままでは間に合わない……!
「おのれ……! 炎の矢よ! 往きて全てを焼き尽くせ!!」
「させるかああああ!!」
放たれた巨大な矢目掛けて吸い込まれる蜜鈴の炎の矢とジャンクの氷の弾丸。
それは確かに命中したが、軌道を完全に逸らすまでには至らず――。
次の瞬間、襲い来る激しい衝撃と烈風。身体が宙に浮き、飛ばされる夜汐。直撃を食らった剛道もまた吹き飛ばされる。
「……流石、だな。やってくれる……! だがまだまだだァ! もっと俺を滾らせろハイルタイィ!!」
片膝をつき、血を吐きながら笑う剛道。目を覆うような有様だが、まだ戦う気はあるのだろう。立ち上がろうとする彼とハイルタイの間に立つ悠月。カズマが巨大な歪虚に鋭い目線を向ける。
「……ねえ、どうする? まだ続ける? 僕達が最後の一人になるまで相手してあげてもいいけど」
「俺達はお前にとっちゃ虫かもしれんが、ただの八つ当たりで殺される気はねーのよ」
「……ふむ。疲れた。帰る。なかなか愉しめたぞ、人間よ」
突然のハイルタイ言葉。彼は手綱を引くと拍子抜けするほどあっさりと……その場を去っていく。
「もう来んじゃねえぞー!」
その背に向けて叫ぶジャンク。サクラは慌てて地に伏したヴォルフガングを助け起こす。
「大丈夫ですか!? 今手当てをしますから……」
「おー。さすがに無茶だったな……。えーっと煙草は……」
「そんな怪我で煙草吸っちゃダメです!!」
サクラに叱られ、くつりと笑う彼。その横で、傷だらけの夜汐が唇を噛み締め、自身の拳を睨む。
「わたくしは強くならねばなりませぬ……もっと、もっと」
「……そうだね。でも、その為には休養も必要だよ」
悠月の励ましに、素直に頷く夜汐。蜜鈴はふう、とため息をついて手元の煙管を弄ぶ。
「さ、長居は無用じゃ。急ぎ戻るとしようぞ。馬達も疲弊しよる」
「そうですね。汚染の影響が出ないとも限らないですし」
「……イェルズは後でゆっくり説教という名の話をするとしようかのう」
「まあ、そう言ってやるなよ。こいつは確かにバカだが、良いバカだ」
「バカって酷くないですか!?」
「良いバカって褒めてるだろうが」
身も蓋もないカズマの談にショックを受けるイェルズ。そのやり取りに笑いを堪えながら、蜜鈴は酷い傷を負った剛道に肩を貸す。
「……次に会う時にゃァ、もっと強くなって……いつか殺してやる。……必ずだ」
去り行くハイルタイ。その強い腕を見つめながら、剛道は血の滲む口の端を上げて笑った。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/22 23:03:49 |
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災厄を抑えこめ 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/10/25 21:10:38 |