ゲスト
(ka0000)
【闇光】反復行動
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/25 22:00
- 完成日
- 2015/11/08 01:30
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●巫子と器と少女達
荒れ果てた土地、辺境よりさらに北。
(痛い、不快、気持ち悪い、眩暈もしそうだわ)
全ての負の感情をないまぜにしながらも、真白の肌はただ透けるようにつややかに。
五感を全て研ぎ澄ませるようにして、巫子としての役目を果たさなければとその範囲を広げていく。
感知能力の高さには自負がある。伊達にトップクラスの能力を誇ってなどいない。
若い事は能力には関係が無い。その証は自らの力で示してきた。
(課された仕事をこなすだけだわ)
それが意に沿わぬ仕事だとしても。
浄化術の輸出が動き出してから、そう時間はたっていない。
そのはずなのに。
(どうして私がまた外に……)
それしか思う事が出来ない。前と同じだ。
役人も、帝国の兵士も、事務ばかりで事が済むなんて思っては居なかった、知っていた。
すぐに実戦に送られるだろうことは予想の範囲内だ。ただ前回が少し特殊だっただけ。
前よりも、外に出る……仕事を与えられる頻度が上がること。その予想はついていた。
自分達巫子だけが仕事をしているわけではない、知っていた。
力の強い巫子を動かすには長老会の承認が必要だ、その結果を導くために多くの役人が動いているのだ。
承認が降りれば護衛もつく事はこれから当たり前になるだろうことも。
器が外に行くだけでどうにかなるわけではない、認めたくはないが……知って、いた。
(私達はあくまでも浄化術の担い手)
人を傷つける事、人を癒す事、結果が目に見える明確な技術を必要最小限にまで削ぎ落して、捉えどころのない技術を鍛え高めた存在。
それは器だけではない、自分達巫子だって、そうなのだ。
(また、私)
外に出たことがあるから、そのレッテルは今もその効力を発揮し続けている。
外部の者達と協力したことがあるから、そんなレッテルも確かに増えた。
(器が居るじゃないの)
自らの力で戦う事さえも可能な絶対的な力の行使者、人型術具。
護衛も要らないほどの力の奔流。
そう思うことは容易い。なぜならそう思う事で自分の気は軽くなるからだ……知っている。
認めたくはないのだ。あれが人であると。人として扱うに足る生き物だと。
器は人ではないと思わなければ、自分達は自分達の森を護る事が出来ない。
知っているのだ。気付いているのだ。けれど知らないふりをし続けなければ自分を保てる自信がない。
怖いのだ。
森がなくなってしまう怖さ。
歪虚病に悩まされる怖さ。
居場所を奪われる怖さ。
自分の存在価値をそれと同じとしてしまう怖さ。
自分達のしてきたことを否定する怖さ。
……キリがない。
認めずにいられれば、楽なのだ。
「フュネ様」
一人の少女が近づいてくる。今日が実戦初めての新人と呼ぶべきか……名は確か、デリア。
自分達のような巫子に支持し、巫子としての力を備えさせようと育てられている、多くの少女達の一人だ。
彼女もまた、外に出たことがあるからこの任につけられた。私の下に預けられた。
浄化術の輸出には限界がある。その根本的で絶対的な理由は、術の行使者の数が絶対的に足りないことにある。
だから、少女達を巫子として育てることになった。
これまでは能力の高い、素養のある者だけが就いていた巫子という言葉を、これまでとは格段に違う、多くの少女達が名乗ることになる。
戦地へ送られることになる。
自分の様にはじめから、そうなるべきと育てられたなら、まだいい。
けれど彼女達はまだ染まっていなかった。未来の決まっていない、決めていない彼女達はある日を境にひとからげに集められ、急速に教えを叩きこまれている。
そう命を受けた、自分達巫子によって。
一般人よりは素養のあったこの少女は、熱心だったからか、素養があったのか……目覚ましく力をつけていった。
護りたいものがあるのかもしれない。夢があるのかもしれない。
(それは、私にはないものだわ)
この子をこのまま巫子にしていいのか、既に巫子として活動をしているこの子をどうすればいいのか。
器の様に外に出してまで……この子を浄化術に触れさせていていいのか。
巫子として育てているはずなのに、器の様に早くから実戦を経験させる必要があるのか。
(……これも、考えはいけないことかもしれないけれど)
巫子に権力はない。長老であり人形師である彼女も実際にその発言権はない。
彼女でさえそうなのだ。能力が高くとも、六式の柱を担える自分でも、それは変わらない。
エルフハイムがどうなっていくのか、フュネには見通すことができない、その権利が存在しない。
「……遠くまで来て、疲れてはいないかしら」
「大丈夫です、私だって森の民です。フュネ様、少しお休みになっては如何ですか」
神経を研ぎ澄ませてばかりでは後に響くのでは? デリアの手から、まだみずみずしさを保つりんごの果実が差し出される。
「これが私達の仕事だわ、貴女もこれから先の為、しっかり見ておきなさい」
「わかりました……!」
感謝の言葉はそう簡単に出るものではない。当たり障りのない事しか言えない自分が歯がゆくなっていた。
●幾度となく重ねれば
作るだけではその精度を確かめることができない。だからこそ完成次第その効果を確かめなければならない。
完成間近になると、気を見計らっていたらしくカブラカンが遠征の話を持ってくる。だから特に場所を決めていないヴォールは新作を持ち出して、データ収集という名の賑やかしに向かう。
「……面倒ではあるが、必要なことなのである」
完成系を見出すには今一つ足りない、だからこそ試行錯誤を重ね、試作を重ねている。今回の出来もまた、思い浮かべるものとはまた違う、そんな気がしてならなかった。
刺すような陽射しの下に出ることはヴォールにとって面倒な事、避けられるなら避けたい事象ではあった。けれど最近はその不快感を補って余りある貢物がある。……そう、アーマー型剣機の製作だ。
グルルルル……
唸り声のような、回転するガトリングのような音を周囲に撒き散らしながら、それが駆ける。その様子を眺めながら、まだ見ぬ獲物を待つよう指示を飛ばした。
「愉しませてくれる観察対象がいるといいのである」
クックックッ……
それが大人しくなった今、ヴォールの笑い声だけが静かに響いていた。
荒れ果てた土地、辺境よりさらに北。
(痛い、不快、気持ち悪い、眩暈もしそうだわ)
全ての負の感情をないまぜにしながらも、真白の肌はただ透けるようにつややかに。
五感を全て研ぎ澄ませるようにして、巫子としての役目を果たさなければとその範囲を広げていく。
感知能力の高さには自負がある。伊達にトップクラスの能力を誇ってなどいない。
若い事は能力には関係が無い。その証は自らの力で示してきた。
(課された仕事をこなすだけだわ)
それが意に沿わぬ仕事だとしても。
浄化術の輸出が動き出してから、そう時間はたっていない。
そのはずなのに。
(どうして私がまた外に……)
それしか思う事が出来ない。前と同じだ。
役人も、帝国の兵士も、事務ばかりで事が済むなんて思っては居なかった、知っていた。
すぐに実戦に送られるだろうことは予想の範囲内だ。ただ前回が少し特殊だっただけ。
前よりも、外に出る……仕事を与えられる頻度が上がること。その予想はついていた。
自分達巫子だけが仕事をしているわけではない、知っていた。
力の強い巫子を動かすには長老会の承認が必要だ、その結果を導くために多くの役人が動いているのだ。
承認が降りれば護衛もつく事はこれから当たり前になるだろうことも。
器が外に行くだけでどうにかなるわけではない、認めたくはないが……知って、いた。
(私達はあくまでも浄化術の担い手)
人を傷つける事、人を癒す事、結果が目に見える明確な技術を必要最小限にまで削ぎ落して、捉えどころのない技術を鍛え高めた存在。
それは器だけではない、自分達巫子だって、そうなのだ。
(また、私)
外に出たことがあるから、そのレッテルは今もその効力を発揮し続けている。
外部の者達と協力したことがあるから、そんなレッテルも確かに増えた。
(器が居るじゃないの)
自らの力で戦う事さえも可能な絶対的な力の行使者、人型術具。
護衛も要らないほどの力の奔流。
そう思うことは容易い。なぜならそう思う事で自分の気は軽くなるからだ……知っている。
認めたくはないのだ。あれが人であると。人として扱うに足る生き物だと。
器は人ではないと思わなければ、自分達は自分達の森を護る事が出来ない。
知っているのだ。気付いているのだ。けれど知らないふりをし続けなければ自分を保てる自信がない。
怖いのだ。
森がなくなってしまう怖さ。
歪虚病に悩まされる怖さ。
居場所を奪われる怖さ。
自分の存在価値をそれと同じとしてしまう怖さ。
自分達のしてきたことを否定する怖さ。
……キリがない。
認めずにいられれば、楽なのだ。
「フュネ様」
一人の少女が近づいてくる。今日が実戦初めての新人と呼ぶべきか……名は確か、デリア。
自分達のような巫子に支持し、巫子としての力を備えさせようと育てられている、多くの少女達の一人だ。
彼女もまた、外に出たことがあるからこの任につけられた。私の下に預けられた。
浄化術の輸出には限界がある。その根本的で絶対的な理由は、術の行使者の数が絶対的に足りないことにある。
だから、少女達を巫子として育てることになった。
これまでは能力の高い、素養のある者だけが就いていた巫子という言葉を、これまでとは格段に違う、多くの少女達が名乗ることになる。
戦地へ送られることになる。
自分の様にはじめから、そうなるべきと育てられたなら、まだいい。
けれど彼女達はまだ染まっていなかった。未来の決まっていない、決めていない彼女達はある日を境にひとからげに集められ、急速に教えを叩きこまれている。
そう命を受けた、自分達巫子によって。
一般人よりは素養のあったこの少女は、熱心だったからか、素養があったのか……目覚ましく力をつけていった。
護りたいものがあるのかもしれない。夢があるのかもしれない。
(それは、私にはないものだわ)
この子をこのまま巫子にしていいのか、既に巫子として活動をしているこの子をどうすればいいのか。
器の様に外に出してまで……この子を浄化術に触れさせていていいのか。
巫子として育てているはずなのに、器の様に早くから実戦を経験させる必要があるのか。
(……これも、考えはいけないことかもしれないけれど)
巫子に権力はない。長老であり人形師である彼女も実際にその発言権はない。
彼女でさえそうなのだ。能力が高くとも、六式の柱を担える自分でも、それは変わらない。
エルフハイムがどうなっていくのか、フュネには見通すことができない、その権利が存在しない。
「……遠くまで来て、疲れてはいないかしら」
「大丈夫です、私だって森の民です。フュネ様、少しお休みになっては如何ですか」
神経を研ぎ澄ませてばかりでは後に響くのでは? デリアの手から、まだみずみずしさを保つりんごの果実が差し出される。
「これが私達の仕事だわ、貴女もこれから先の為、しっかり見ておきなさい」
「わかりました……!」
感謝の言葉はそう簡単に出るものではない。当たり障りのない事しか言えない自分が歯がゆくなっていた。
●幾度となく重ねれば
作るだけではその精度を確かめることができない。だからこそ完成次第その効果を確かめなければならない。
完成間近になると、気を見計らっていたらしくカブラカンが遠征の話を持ってくる。だから特に場所を決めていないヴォールは新作を持ち出して、データ収集という名の賑やかしに向かう。
「……面倒ではあるが、必要なことなのである」
完成系を見出すには今一つ足りない、だからこそ試行錯誤を重ね、試作を重ねている。今回の出来もまた、思い浮かべるものとはまた違う、そんな気がしてならなかった。
刺すような陽射しの下に出ることはヴォールにとって面倒な事、避けられるなら避けたい事象ではあった。けれど最近はその不快感を補って余りある貢物がある。……そう、アーマー型剣機の製作だ。
グルルルル……
唸り声のような、回転するガトリングのような音を周囲に撒き散らしながら、それが駆ける。その様子を眺めながら、まだ見ぬ獲物を待つよう指示を飛ばした。
「愉しませてくれる観察対象がいるといいのである」
クックックッ……
それが大人しくなった今、ヴォールの笑い声だけが静かに響いていた。
リプレイ本文
●拠点構築
「大きな森の同胞たち どうぞ宜しく」
巫子二人に護符を差し出すルシオ・セレステ(ka0673)。
デリアは謝辞と共に受け取った。フュネは何かを言いかけ、けれど声には出さぬまま受け取る。
涼しい顔で凛と立つフュネは言葉を受け付けないようにも見えた。
「二人が巫女だから、だけじゃない。そこに生きて居るから」
けれど言わずにはいられない。
「フュネ、役割は変わらなくても……個人で、選べる部分はあると思うよ」
仕事は義務かもしれないけれど、心まで染まる必要はないのだ。どうか、わずかに揺れるその視線の君に、届いてほしいと思っているよ。言葉は、届けられるうちに。
「浮かない顔で」
言っては見たが。前もこんな顔だったかもしれないと思う。あの時は冬で、記憶もそう新しいものではない。ただ勝手にそう思っただけかもしれない。ミカ・コバライネン(ka0340)にわかるのは、フュネに感情のある表情が浮かんだ事だけだ。その顔が毎朝見ている顔に重なった気がしたからだ。
特に語る事もなく、近い場所に居るだけ。デリアの視線が刺さったが、それは居場所によるものか、咥えた煙草によるものか。……ほどなく。フュネの視線の先を感じ取る。
「しんどいな」
●襲撃
巫子。その言葉に導かれて、この世界の文化に触れたくて。だからこそ引き受けることに決めたこの仕事。故郷のような形式を強く意識したものではなくて、本当に力を持った存在。自分との違いを意識しないわけじゃない。憧れだってある。
だからこそ、この地で自分のできる事を模索して精一杯やっていこう、そう思っていた矢先だというのに。
「……その機会がこんな風に回ってくるなんて思わなかったわ!」
八つ当たりだとわかっていても七夜・真夕(ka3977)は言わずにはいられなかった。声が届かない距離でも。
「堅牢なるモノよ、命の礎よ。城壁となりて立ち上がれ!」
呪を唱える声が常よりも張った。
真夕とタイミングを合わせ土壁の盾を作りながら、リアム・グッドフェロー(ka2480)の脳内では機上のヴォールとの会話が成った場合、何を伝えようか……その為の言葉が展開されていた。
(難しいのはわかっているんだ)
ただ話をしたいのだ。新しい考え方を少しでも多く聞き、自分なりの考えを、答えに辿り着く意思を積み上げるために。この仕事の最優先事項はわかっているし、より近くに倒すべき歪虚が居るとわかっている。作戦も理解して、そのために行動をしていても。考えることは自由だから。
「出来ることをやるしかないっさね」
役に立てるか立てないかは、動かなければわからない。自らのマテリアルを護りの光に変えながら、七窪 小鈴(ka0811)はこの短期間の相棒である木魂を握る手に力を込めた。
(剣機開発者等との繋がりがあるのは確実でしょうか)
目的はわからない、音桐 奏(ka2951)に分かるのはヴォールという機上の男の出身と名前と、そして自らの配下と自分達ハンターを観察しているという事実。導き出される答えはあるけれど、そこに確実性はない。
手の中にある手帳をしまい得物を手にする。
「ゲーベル師団長、敵指揮官牽制の為、第三師団員のお力をお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」
急を要する戦場だからいつものように挨拶は出来ない。それはカミラだって同じだ。
「勿論だ。後、カミラでいいぞ?」
余裕を含む言葉に何と答えればいいのか。それよりも敵だ。深海のように暗い蒼のオーラを銃に纏わせ、帽子の影から機影を一瞥。
「では、観察を始めましょう」
●検証
攻撃は届く範囲内、けれど声が届くかは賭けだ。
「高みの見物か、あるいは優雅な指揮者か……」
師団兵と共に弾幕を展開する奏。動きを制限する足しになればいい。向こうの狙いが観察だと言うのなら、阻止するのがこちらの狙いだ。その上で、こちらから観察出来れば最良だ。
矢の先に灯す光は、それだけでは眩しいと呼べるほどではない。それは行使者である小鈴自身が一番よく理解している。
「こげん方法で目晦まししきるか、いっちょんわからんけど……ッ!!」
高速型は飛行可能な最低速度の限界を保ちながら上空を旋回している。おかげでタイミングを読めば難しい事ではないのが幸いだった。
狙いは勿論カメラのある首だ。カメラを壊すための行為、けれど本来の目的をこなすのは自分ではない。
身を隠す場所が無いも同然の現状、小鈴の行動は一種の囮も担っていた。
ヒュン……
ならば堂々と矢を放ってしまえばいい。
「………」
高速型はただ旋回を続けている所を見るに、命中はしていないけれど。
「機上に動きはあったようですよ」
ゴーグル越しに見えた光景を奏が教えてくれる。ほぼ動かない筈のヴォールの体が傾いだと。
「おぉー。……意外にも効果あったとねぇ」
実感を得ながらも高速型の動きを確認。実際の被害はなかったようで、こちらに攻撃をしてくる様子は見受けられない。
(それでもいいとよ)
警戒されないことを利点と捉えるべきだ。次は必ず仲間の攻撃に繋げるのだと意欲を新たに、小鈴は機会を伺い始めた。
(ちょこまかと)
見た目通り脚力が強化されている。だからこそブレの少ない筈の後ろ足の違和感にミカは気付いた。爪のようなパーツが広がっている。狼の動きに忠実な中、注意深く見て居なければわからない程の差異。
「予備動作は後ろ足の先だ! 来るぞ!」
詳細は後だ、仲間への警告を優先した後三筋の光の一つをその一機の足へと向けた。
ミカの声に、狼へとすぐ意識とドライアドを向けるリアム。機を伺っていた甲斐があった。
狙うのは背にある発射口。装填されているはずの弾、その誘爆を狙い放つのは火矢の術。
(あの弾が発射される事は是非とも避けたいからね)
外に出ただけで効果を発揮したとも聞いている。ならば発射台の中に在るままならばどうなるのか?
試す価値はあるはずだ。火属性が剣機型に効果が高いことも織り込んだ上で、確率が低すぎることはないと考えていた。けれど実行に移す理由は、ヴォールの様に効率を重視したからではなく、あくまでも興味があったから、それが一番なのだった。
狙い通り射出の阻止は叶った。発射台は破壊され、歪に見える何かが転がり落ちる様子が視界にうつる。
同時に不快感が際立つ。平気な振りをしていてもエルフであることには変わりなく、ここが北筏である以上の圧迫感がリアムを襲う。それが意味するのは汚染濃度の高まりに他ならない。
近い場所の者達の動きが鈍る。
(これは……残りもやらない方がいいかな)
そう結論付けようとしたところで。
「前よりは動けるみたいだが」
シャーリーン・クリオール(ka0184)の言葉が効果の差を示した。
シャーリーンの言葉が、妙に真夕の脳裏を駆け巡る。
(拍子抜け? ……そんなはずないわね)
汚染弾頭の大きさに比例して効果も小さくなったとは考えにくかった。
「音桐さん! 弾頭の形、見えました?」
「……見間違いでなければですが」
閃きを元に聞けば、欠けていた可能性があると同意する奏。
「リアム殿の魔法攻撃が、効果があったとみるべきかもしれないね」
シャーリーンが思い出しているのはフュネの言葉。弾頭の破損がリアムの魔法によるものだと仮定すると、辻褄があうようにも思えるのだ。原理はわからないまでも、結果として効果があったとみるべきかもしれない。
「検証もしたいところだが……素直に喰らう道理もないさね」
本来の効果を知ることは、自分達を不利に追い込むことと表裏一体なのだ。
●弾頭と結界
「都合よく一直線に並んではくれないわね……荒ぶるものよ、裁きの鉄槌を私に!」
わかっていたけれど、呟いた後に雷撃を放ちながら、再び真夕の脳裏に浮かぶのは狼の距離感である。
「私達に近い方が、より多く範囲に巻き込めるわよね?」
汚染結界は弾頭を中心に展開されていたはずだ。ならば前衛をすり抜けて自分達との間に来ようとするものだと思っていたが。何処か違和感を覚える。
「こちらに来ないのなら助かるようにも見えるが……確かに」
先頭に値する一機に冷気を纏う一撃を撃ち込みながら同意するシャーリーン。この後攪乱に向かおうと、バイクのエンジンも温めてある。
「……瀬崎しゃん達の動き、鈍ってるように見えるとよ」
照明弾のタイミングを見極めようとしていた小鈴の声が割り込む。
「! 七窪さん、その照明弾、左側の敵にお願いできますか」
気付いた奏の声に頷いて小鈴が射かける。光が狼を眩ませたのか、動きが乱れたおかげか。汚染結界にとらわれていた前衛たちの動きが戻った。
少し時間を戻す。
「決まった位置に向かおうとしているように見えねぇか?」
あまり接近してこない狼達を相手に、何時もの二挺拳銃で応対しながらこぼす瀬崎・統夜(ka5046)。前衛として動くからと用意していたグローブの出番は少なく、早々に装備を切り替えたのだ。
ビビってんのか? そう考えるのは軽率と統夜も分かっている。そうして導き出した結果がそれだ。狼は二機ずつ位置を変えながら、けれど並びきることもせず少しずつ移動をしていた。巫子達の下に向かうため慎重になっているのかと思い観察していたが、そうではないと気づいたのが今だ。
統夜はヴォールとの相対が初めてだったからこそ偏見なく状況を見ることができていた。
予想していたほど格闘戦にならないことに不満だったというのもあるかもしれないが。
「「「!?」」」
そこに隠された狙いに気付いたミカは後手を理解するが、文字通り遅い。
直後に前衛達は目を見張った。プレッシャーが彼らを襲っていく。
ハンター達の左右、二カ所に分かれて巫子を目指していた狼。それは一種のブラフ。
まだ弾頭を温存しているうちの2機が前衛をその間に挟んだとき、その効果は白日の下に晒されたのだ。
「シャーリーン……! 七夜……!」
統夜の絞り出すような声が届き、結界が作用している事実が周知となる。
発射台を、ひいては中に在る弾頭の破壊を試みながら、トラックの上から見た結界の配置を思い出すシャーリーン。あの時は六式浄化結界と言っていただろうか。確かに巫子は6人だったような気がする。
(同じように6機……弾頭が、6個あったとしたら?)
その可能性に体が震える。
ヴォールに仕掛けたい気持ちはある、けれど汚染結界を解除しなければ戦況は不利なままだ。
初めの一発の弾頭は既にその痕跡を残して居なかった。けれど狼に搭載されたままの弾頭は消失していないようで、その効果時間は計り知れない。
片側の狼だけでもと2機の破壊を成功させたところで、前衛の動きが常態へと戻る。後手は否めない。ヴォールの観察資料を増やす結果になったことも否めない。
それでも決着がつくまでは、ハンター達に休息は与えられることが無い。
「ああ、これは……パクり返したくなる」
喰らった後だからこその軽口を零して、これからが本番だとミカのタクトから文字列があふれ出した。
「まずは破壊を。記録者が記録媒体を失うのは痛手ですから、ね」
奏の言葉が仲間達の奮起を促す。小鈴が早速矢の先端に光を灯した。少しでもヴォールの目的達成の邪魔をしなければ、それがその場で戦う者達共通の思いだった。
●撤退と殲滅
「……十分に採れたのである」
地上のハンター達に見えないように、そして聞こえないように。ヴォールはコンソールを操作し記録を終える。
カメラはあくまでも記録するための道具に過ぎない。彼らの中には蒼界の者も居たと思うのだが、どうして気付かないのだろうかと思うと笑ってやりたくもなる。そんな貢物、自分から差し出してやる気もないけれど。
(一度起きた事象の対策を立てないまま続ける程、愚かなつもりはないのである)
そこに気付いているのか、居ないのか……クックック……
「我が興味を失うまではあと少し……残り時間は楽しませて貰えるのであろうな?」
改めて眼下で足掻く愚か者達の顔ぶれを見回す。見通しにくい場所はカメラ越しだ。
「こちらに向かって中指を立てて居るのは流しの盾(バリアブルシールド)ではないか……あの帽子も志の黒(サイレントナハト)……また、久しい顔ぶれであるな」
見れば覚えのある顔が……計5名。愉しませてもらえそうだと、フードの下でただ、嗤う。
カメラの破壊は妨害も反撃もなく済んだ。あっさりと去っていく高速型を見送り、ルシオは複雑な表情を隠せない。
(あまり見たくないものだね……)
堕ちた者を同胞と呼ぶのも本当なら避けたいところだ。自分でさえそうなのだから、巫子達はよりその感情が強いだろうと思う。
オカリナに手を伸ばしかけ、止まる。今日の自分は壁でもあるのだ。持ち込んだ盾の存在がそう主張する。ならば歌うしかないのだろう。声音を意識していられるほど余裕はないかもしれない。
彼の手の感触がルシオの頬を、喉を撫ぜた気がした。
(旅の途中、そうだ、君も居たのだったね)
すぅと息を吸い込む。この調は彼に届けるものだから、私も私でいていいのだ。
低すぎない声が旋律を紡ぎ出す。透明な波のような揺らめきがルシオを中心に広がっていく。
グルルゥゥゥ……
怯むような呻き声が狼達からあがる。殲滅も、あっけないものだった。
●休息
負傷の回復を終え、一度休んでから本来の仕事に戻る……そう決まって、程ないタイミング。
「言っておきたいことがあるんだが、いいか?」
隠しておこうか迷ったんだが。大真面目な顔で切り出すミカとその空気に、周囲が色めき立つ気配。
「実は……発音ができないんだ」
名前のことだ。場の温度ががくりと落ちる。
「必要ありませんっ、フュネ様、こんな人間」
「『エルフ』『術師』『巫子』呼ばわり。ほら、腹立たないか?」
デリアが返せず口ごもり、ミカの目的はフュネの頷きによって達成された。
「そういうことで、フネ、フユネ……冬音」
口頭では伝わりきらない中に、似合いの音を見つけるミカ。笑む口元に気付いてフュネが小さく首を傾げる。
「ああ、ちょっと……微妙に日本語っぽいんだよ」
故郷の音を重ねてみたかったのかもしれない。
汚染弾頭。その弾丸は、まさしく以前奏が垣間見たそれに酷似していた。同じだと言ってもいいかもしれない。
カミラに視線を向ける。頷き。同じ事を思ったのだろうと思う。
(落ちていただけで効果を発揮する代物でした)
跡形もなく消え去ったかつての弾丸。植物だったからこそあれで済んだのだろうか。畑を汚染させるほどの効果をもつ弾丸が、5倍。
前の弾頭も、落ちただけで発動したと言っていた。そして今回。改良が加えられていることも、新たな使用法も明白になった。
あれが、より大きく、より強い形で。
正規の使用法で使われた場合は……?
「大きな森の同胞たち どうぞ宜しく」
巫子二人に護符を差し出すルシオ・セレステ(ka0673)。
デリアは謝辞と共に受け取った。フュネは何かを言いかけ、けれど声には出さぬまま受け取る。
涼しい顔で凛と立つフュネは言葉を受け付けないようにも見えた。
「二人が巫女だから、だけじゃない。そこに生きて居るから」
けれど言わずにはいられない。
「フュネ、役割は変わらなくても……個人で、選べる部分はあると思うよ」
仕事は義務かもしれないけれど、心まで染まる必要はないのだ。どうか、わずかに揺れるその視線の君に、届いてほしいと思っているよ。言葉は、届けられるうちに。
「浮かない顔で」
言っては見たが。前もこんな顔だったかもしれないと思う。あの時は冬で、記憶もそう新しいものではない。ただ勝手にそう思っただけかもしれない。ミカ・コバライネン(ka0340)にわかるのは、フュネに感情のある表情が浮かんだ事だけだ。その顔が毎朝見ている顔に重なった気がしたからだ。
特に語る事もなく、近い場所に居るだけ。デリアの視線が刺さったが、それは居場所によるものか、咥えた煙草によるものか。……ほどなく。フュネの視線の先を感じ取る。
「しんどいな」
●襲撃
巫子。その言葉に導かれて、この世界の文化に触れたくて。だからこそ引き受けることに決めたこの仕事。故郷のような形式を強く意識したものではなくて、本当に力を持った存在。自分との違いを意識しないわけじゃない。憧れだってある。
だからこそ、この地で自分のできる事を模索して精一杯やっていこう、そう思っていた矢先だというのに。
「……その機会がこんな風に回ってくるなんて思わなかったわ!」
八つ当たりだとわかっていても七夜・真夕(ka3977)は言わずにはいられなかった。声が届かない距離でも。
「堅牢なるモノよ、命の礎よ。城壁となりて立ち上がれ!」
呪を唱える声が常よりも張った。
真夕とタイミングを合わせ土壁の盾を作りながら、リアム・グッドフェロー(ka2480)の脳内では機上のヴォールとの会話が成った場合、何を伝えようか……その為の言葉が展開されていた。
(難しいのはわかっているんだ)
ただ話をしたいのだ。新しい考え方を少しでも多く聞き、自分なりの考えを、答えに辿り着く意思を積み上げるために。この仕事の最優先事項はわかっているし、より近くに倒すべき歪虚が居るとわかっている。作戦も理解して、そのために行動をしていても。考えることは自由だから。
「出来ることをやるしかないっさね」
役に立てるか立てないかは、動かなければわからない。自らのマテリアルを護りの光に変えながら、七窪 小鈴(ka0811)はこの短期間の相棒である木魂を握る手に力を込めた。
(剣機開発者等との繋がりがあるのは確実でしょうか)
目的はわからない、音桐 奏(ka2951)に分かるのはヴォールという機上の男の出身と名前と、そして自らの配下と自分達ハンターを観察しているという事実。導き出される答えはあるけれど、そこに確実性はない。
手の中にある手帳をしまい得物を手にする。
「ゲーベル師団長、敵指揮官牽制の為、第三師団員のお力をお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」
急を要する戦場だからいつものように挨拶は出来ない。それはカミラだって同じだ。
「勿論だ。後、カミラでいいぞ?」
余裕を含む言葉に何と答えればいいのか。それよりも敵だ。深海のように暗い蒼のオーラを銃に纏わせ、帽子の影から機影を一瞥。
「では、観察を始めましょう」
●検証
攻撃は届く範囲内、けれど声が届くかは賭けだ。
「高みの見物か、あるいは優雅な指揮者か……」
師団兵と共に弾幕を展開する奏。動きを制限する足しになればいい。向こうの狙いが観察だと言うのなら、阻止するのがこちらの狙いだ。その上で、こちらから観察出来れば最良だ。
矢の先に灯す光は、それだけでは眩しいと呼べるほどではない。それは行使者である小鈴自身が一番よく理解している。
「こげん方法で目晦まししきるか、いっちょんわからんけど……ッ!!」
高速型は飛行可能な最低速度の限界を保ちながら上空を旋回している。おかげでタイミングを読めば難しい事ではないのが幸いだった。
狙いは勿論カメラのある首だ。カメラを壊すための行為、けれど本来の目的をこなすのは自分ではない。
身を隠す場所が無いも同然の現状、小鈴の行動は一種の囮も担っていた。
ヒュン……
ならば堂々と矢を放ってしまえばいい。
「………」
高速型はただ旋回を続けている所を見るに、命中はしていないけれど。
「機上に動きはあったようですよ」
ゴーグル越しに見えた光景を奏が教えてくれる。ほぼ動かない筈のヴォールの体が傾いだと。
「おぉー。……意外にも効果あったとねぇ」
実感を得ながらも高速型の動きを確認。実際の被害はなかったようで、こちらに攻撃をしてくる様子は見受けられない。
(それでもいいとよ)
警戒されないことを利点と捉えるべきだ。次は必ず仲間の攻撃に繋げるのだと意欲を新たに、小鈴は機会を伺い始めた。
(ちょこまかと)
見た目通り脚力が強化されている。だからこそブレの少ない筈の後ろ足の違和感にミカは気付いた。爪のようなパーツが広がっている。狼の動きに忠実な中、注意深く見て居なければわからない程の差異。
「予備動作は後ろ足の先だ! 来るぞ!」
詳細は後だ、仲間への警告を優先した後三筋の光の一つをその一機の足へと向けた。
ミカの声に、狼へとすぐ意識とドライアドを向けるリアム。機を伺っていた甲斐があった。
狙うのは背にある発射口。装填されているはずの弾、その誘爆を狙い放つのは火矢の術。
(あの弾が発射される事は是非とも避けたいからね)
外に出ただけで効果を発揮したとも聞いている。ならば発射台の中に在るままならばどうなるのか?
試す価値はあるはずだ。火属性が剣機型に効果が高いことも織り込んだ上で、確率が低すぎることはないと考えていた。けれど実行に移す理由は、ヴォールの様に効率を重視したからではなく、あくまでも興味があったから、それが一番なのだった。
狙い通り射出の阻止は叶った。発射台は破壊され、歪に見える何かが転がり落ちる様子が視界にうつる。
同時に不快感が際立つ。平気な振りをしていてもエルフであることには変わりなく、ここが北筏である以上の圧迫感がリアムを襲う。それが意味するのは汚染濃度の高まりに他ならない。
近い場所の者達の動きが鈍る。
(これは……残りもやらない方がいいかな)
そう結論付けようとしたところで。
「前よりは動けるみたいだが」
シャーリーン・クリオール(ka0184)の言葉が効果の差を示した。
シャーリーンの言葉が、妙に真夕の脳裏を駆け巡る。
(拍子抜け? ……そんなはずないわね)
汚染弾頭の大きさに比例して効果も小さくなったとは考えにくかった。
「音桐さん! 弾頭の形、見えました?」
「……見間違いでなければですが」
閃きを元に聞けば、欠けていた可能性があると同意する奏。
「リアム殿の魔法攻撃が、効果があったとみるべきかもしれないね」
シャーリーンが思い出しているのはフュネの言葉。弾頭の破損がリアムの魔法によるものだと仮定すると、辻褄があうようにも思えるのだ。原理はわからないまでも、結果として効果があったとみるべきかもしれない。
「検証もしたいところだが……素直に喰らう道理もないさね」
本来の効果を知ることは、自分達を不利に追い込むことと表裏一体なのだ。
●弾頭と結界
「都合よく一直線に並んではくれないわね……荒ぶるものよ、裁きの鉄槌を私に!」
わかっていたけれど、呟いた後に雷撃を放ちながら、再び真夕の脳裏に浮かぶのは狼の距離感である。
「私達に近い方が、より多く範囲に巻き込めるわよね?」
汚染結界は弾頭を中心に展開されていたはずだ。ならば前衛をすり抜けて自分達との間に来ようとするものだと思っていたが。何処か違和感を覚える。
「こちらに来ないのなら助かるようにも見えるが……確かに」
先頭に値する一機に冷気を纏う一撃を撃ち込みながら同意するシャーリーン。この後攪乱に向かおうと、バイクのエンジンも温めてある。
「……瀬崎しゃん達の動き、鈍ってるように見えるとよ」
照明弾のタイミングを見極めようとしていた小鈴の声が割り込む。
「! 七窪さん、その照明弾、左側の敵にお願いできますか」
気付いた奏の声に頷いて小鈴が射かける。光が狼を眩ませたのか、動きが乱れたおかげか。汚染結界にとらわれていた前衛たちの動きが戻った。
少し時間を戻す。
「決まった位置に向かおうとしているように見えねぇか?」
あまり接近してこない狼達を相手に、何時もの二挺拳銃で応対しながらこぼす瀬崎・統夜(ka5046)。前衛として動くからと用意していたグローブの出番は少なく、早々に装備を切り替えたのだ。
ビビってんのか? そう考えるのは軽率と統夜も分かっている。そうして導き出した結果がそれだ。狼は二機ずつ位置を変えながら、けれど並びきることもせず少しずつ移動をしていた。巫子達の下に向かうため慎重になっているのかと思い観察していたが、そうではないと気づいたのが今だ。
統夜はヴォールとの相対が初めてだったからこそ偏見なく状況を見ることができていた。
予想していたほど格闘戦にならないことに不満だったというのもあるかもしれないが。
「「「!?」」」
そこに隠された狙いに気付いたミカは後手を理解するが、文字通り遅い。
直後に前衛達は目を見張った。プレッシャーが彼らを襲っていく。
ハンター達の左右、二カ所に分かれて巫子を目指していた狼。それは一種のブラフ。
まだ弾頭を温存しているうちの2機が前衛をその間に挟んだとき、その効果は白日の下に晒されたのだ。
「シャーリーン……! 七夜……!」
統夜の絞り出すような声が届き、結界が作用している事実が周知となる。
発射台を、ひいては中に在る弾頭の破壊を試みながら、トラックの上から見た結界の配置を思い出すシャーリーン。あの時は六式浄化結界と言っていただろうか。確かに巫子は6人だったような気がする。
(同じように6機……弾頭が、6個あったとしたら?)
その可能性に体が震える。
ヴォールに仕掛けたい気持ちはある、けれど汚染結界を解除しなければ戦況は不利なままだ。
初めの一発の弾頭は既にその痕跡を残して居なかった。けれど狼に搭載されたままの弾頭は消失していないようで、その効果時間は計り知れない。
片側の狼だけでもと2機の破壊を成功させたところで、前衛の動きが常態へと戻る。後手は否めない。ヴォールの観察資料を増やす結果になったことも否めない。
それでも決着がつくまでは、ハンター達に休息は与えられることが無い。
「ああ、これは……パクり返したくなる」
喰らった後だからこその軽口を零して、これからが本番だとミカのタクトから文字列があふれ出した。
「まずは破壊を。記録者が記録媒体を失うのは痛手ですから、ね」
奏の言葉が仲間達の奮起を促す。小鈴が早速矢の先端に光を灯した。少しでもヴォールの目的達成の邪魔をしなければ、それがその場で戦う者達共通の思いだった。
●撤退と殲滅
「……十分に採れたのである」
地上のハンター達に見えないように、そして聞こえないように。ヴォールはコンソールを操作し記録を終える。
カメラはあくまでも記録するための道具に過ぎない。彼らの中には蒼界の者も居たと思うのだが、どうして気付かないのだろうかと思うと笑ってやりたくもなる。そんな貢物、自分から差し出してやる気もないけれど。
(一度起きた事象の対策を立てないまま続ける程、愚かなつもりはないのである)
そこに気付いているのか、居ないのか……クックック……
「我が興味を失うまではあと少し……残り時間は楽しませて貰えるのであろうな?」
改めて眼下で足掻く愚か者達の顔ぶれを見回す。見通しにくい場所はカメラ越しだ。
「こちらに向かって中指を立てて居るのは流しの盾(バリアブルシールド)ではないか……あの帽子も志の黒(サイレントナハト)……また、久しい顔ぶれであるな」
見れば覚えのある顔が……計5名。愉しませてもらえそうだと、フードの下でただ、嗤う。
カメラの破壊は妨害も反撃もなく済んだ。あっさりと去っていく高速型を見送り、ルシオは複雑な表情を隠せない。
(あまり見たくないものだね……)
堕ちた者を同胞と呼ぶのも本当なら避けたいところだ。自分でさえそうなのだから、巫子達はよりその感情が強いだろうと思う。
オカリナに手を伸ばしかけ、止まる。今日の自分は壁でもあるのだ。持ち込んだ盾の存在がそう主張する。ならば歌うしかないのだろう。声音を意識していられるほど余裕はないかもしれない。
彼の手の感触がルシオの頬を、喉を撫ぜた気がした。
(旅の途中、そうだ、君も居たのだったね)
すぅと息を吸い込む。この調は彼に届けるものだから、私も私でいていいのだ。
低すぎない声が旋律を紡ぎ出す。透明な波のような揺らめきがルシオを中心に広がっていく。
グルルゥゥゥ……
怯むような呻き声が狼達からあがる。殲滅も、あっけないものだった。
●休息
負傷の回復を終え、一度休んでから本来の仕事に戻る……そう決まって、程ないタイミング。
「言っておきたいことがあるんだが、いいか?」
隠しておこうか迷ったんだが。大真面目な顔で切り出すミカとその空気に、周囲が色めき立つ気配。
「実は……発音ができないんだ」
名前のことだ。場の温度ががくりと落ちる。
「必要ありませんっ、フュネ様、こんな人間」
「『エルフ』『術師』『巫子』呼ばわり。ほら、腹立たないか?」
デリアが返せず口ごもり、ミカの目的はフュネの頷きによって達成された。
「そういうことで、フネ、フユネ……冬音」
口頭では伝わりきらない中に、似合いの音を見つけるミカ。笑む口元に気付いてフュネが小さく首を傾げる。
「ああ、ちょっと……微妙に日本語っぽいんだよ」
故郷の音を重ねてみたかったのかもしれない。
汚染弾頭。その弾丸は、まさしく以前奏が垣間見たそれに酷似していた。同じだと言ってもいいかもしれない。
カミラに視線を向ける。頷き。同じ事を思ったのだろうと思う。
(落ちていただけで効果を発揮する代物でした)
跡形もなく消え去ったかつての弾丸。植物だったからこそあれで済んだのだろうか。畑を汚染させるほどの効果をもつ弾丸が、5倍。
前の弾頭も、落ちただけで発動したと言っていた。そして今回。改良が加えられていることも、新たな使用法も明白になった。
あれが、より大きく、より強い形で。
正規の使用法で使われた場合は……?
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質問所 音桐 奏(ka2951) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/10/24 01:18:44 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/23 23:47:32 |
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相談卓 ルシオ・セレステ(ka0673) エルフ|21才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/10/25 20:58:29 |