ゲスト
(ka0000)
秋の酒菜
マスター:月宵

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/29 19:00
- 完成日
- 2015/11/06 06:26
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
今一つの祭が終わった。各自が我が家へと帰り行く様子は、切ないながらもまた明日の気力を思えば良いものなのだろう。
祭事を手伝ってくれたイチヨ族にも礼をしなければならない。小規模な我が集落なれど、活気に満ち溢れるのは彼らの補助があったからこそとも言えるのだから。
「ありがとう御座います。精霊様も喜んでいることでしょう」
声を掛けられたのはサ・ナダ、と言う若い見た目をした族長の男だ。うっすらと微笑みと会釈、それから少しばかりの四方山話を付け加える。
「それで、ですね。例の報酬の件は……」
ふとナダが話を転換する。彼には珍しく、どことなくソワソワしているようだ。
「ああ、明日一日入山許可でしたな。どうぞお好きになさって下さいな」
「あ……ありがとうございます! それでは、私はこれで片付けも残っていますから」
跳ね上がるナダの台詞は、最初の物静かな雰囲気と一線を隔てており、一族の元へと一目散に走ってゆく。
それを見送った所で、笑いを隠しつつナダと会話していた男に近付く部族の男性。
「しかし、本当代わった一族ですなぁ、彼らは」
「ああ……今年は来てくれて、本当に助かりましたな」
「けど報酬が、あの山の入山なんて安上がりですよねぇ」
「ああ、鮎は兎も角あんな『大鋸屑茸(オガクズキノコ)』良く食べる気になる」
「本当、もの好きな部族ですねぇ」
●
嬉しそうにナダが此方へ走ってくる様子に、最年少ヤ・マダは苦笑いを隠せない。ナダは子供っぽいが、四十は越えた中年族長である。いつもはもっと大人っぽいのだ、と彼の名誉のためにお伝えしておく。
「松茸、許可が出ましたよ!」
「おー、なら明日はハンター達と松茸狩りに洒落こもうぜ」
のってきたこの男は、マ・エダ。一応、マダより年上だ。
「東方で仕入れた清酒ありますよねぇ。あれで打ち上げと行こうぜ!」
「いいね、いいね。いやぁ……これだから、秋はたまらないんだよ」
この部族で良かった、とナダが感じる瞬間らしい。族長とその部下の会話の筈が、どうみても酒場のオッサンのそれである。
「あのお二人とも、お酒は程々に……」
「「わかってる、わかってる!」」
(……ダメだろうな)
そっと、彼らの歯止め役をハンターに頼もうと思ったマダであった……
祭事を手伝ってくれたイチヨ族にも礼をしなければならない。小規模な我が集落なれど、活気に満ち溢れるのは彼らの補助があったからこそとも言えるのだから。
「ありがとう御座います。精霊様も喜んでいることでしょう」
声を掛けられたのはサ・ナダ、と言う若い見た目をした族長の男だ。うっすらと微笑みと会釈、それから少しばかりの四方山話を付け加える。
「それで、ですね。例の報酬の件は……」
ふとナダが話を転換する。彼には珍しく、どことなくソワソワしているようだ。
「ああ、明日一日入山許可でしたな。どうぞお好きになさって下さいな」
「あ……ありがとうございます! それでは、私はこれで片付けも残っていますから」
跳ね上がるナダの台詞は、最初の物静かな雰囲気と一線を隔てており、一族の元へと一目散に走ってゆく。
それを見送った所で、笑いを隠しつつナダと会話していた男に近付く部族の男性。
「しかし、本当代わった一族ですなぁ、彼らは」
「ああ……今年は来てくれて、本当に助かりましたな」
「けど報酬が、あの山の入山なんて安上がりですよねぇ」
「ああ、鮎は兎も角あんな『大鋸屑茸(オガクズキノコ)』良く食べる気になる」
「本当、もの好きな部族ですねぇ」
●
嬉しそうにナダが此方へ走ってくる様子に、最年少ヤ・マダは苦笑いを隠せない。ナダは子供っぽいが、四十は越えた中年族長である。いつもはもっと大人っぽいのだ、と彼の名誉のためにお伝えしておく。
「松茸、許可が出ましたよ!」
「おー、なら明日はハンター達と松茸狩りに洒落こもうぜ」
のってきたこの男は、マ・エダ。一応、マダより年上だ。
「東方で仕入れた清酒ありますよねぇ。あれで打ち上げと行こうぜ!」
「いいね、いいね。いやぁ……これだから、秋はたまらないんだよ」
この部族で良かった、とナダが感じる瞬間らしい。族長とその部下の会話の筈が、どうみても酒場のオッサンのそれである。
「あのお二人とも、お酒は程々に……」
「「わかってる、わかってる!」」
(……ダメだろうな)
そっと、彼らの歯止め役をハンターに頼もうと思ったマダであった……
リプレイ本文
ひんやりとした空気には、紅に染まった山は良く映える。
「さあ……山(の食材)が私を呼んでいるわ」
壮年の女性。櫻子=シング=セレン(ka2829)は葉巻片手に懐古する。嘗ては重装備にて、何度山を登っただろうことか。
「っとこんなところで黄昏ていたら明日になるわね。瀬陰行くわよ」
「はい。櫻子殿」
瀬陰(ka5599)は、傍らにて釣竿片手に葉巻を携帯灰皿にしまう旧友に二つ返事で頷いた。
「マツタケ……アユ……ん、知らない食べ物ね」
セリス・アルマーズ(ka1079)がそう呟く。王都うまれの彼女には、聞き覚えのない言葉。しかしそれも彼女から言わせれば、食べれば、済む話だそうだ。
「松茸かぁ……鮎も使って土瓶蒸しかな?栗や銀杏も入れれば美味しいねぇ。シャルアさんは食べてみたい?」
「栗!銀杏!…ってなんです?」
アルファス(ka3312)の質問に質問で返すのは、シャルア・レイセンファード(ka4359)だ。それに答えたのは、意外にもイチヨ族のヤ・マダてあった。
「銀杏は木の実です。けど、この山にはイチョウがないので……」
「それじゃあ、銀杏はまた今度かぁ」
その代わり栗はある、とマダからの情報を得る。
「じゃあ、行ってくんな?」
「お気をつけて」
「コッチはワシらに任せておけ!」
マ・エダに答えるのは、族長サ・ナダと、とある戦いで重傷を負った包帯全身ぐるぐる巻きのバルバロス(ka2119)だ。いくらドワーフでも限度はあると思う。
彼は今回、療養の為に参加したのだ。余計な生傷は作りたくない。
「採取は任せたよ!取って来てくれれば、いくらでも用意するから!」
アルファスの言葉を背に、採取組は山へと乗り込んでいった。
「さて、わたし達も薪を集めましょう」
「さて。料理は得意な子に任せておじさんはお酒飲んで待って…え、仕事しろ?」
「何を当然なことを」
バルバロスに喬栄(ka4565)は溜め息を吐かれる。彼の目的はただ酒である。エールやワインやらも嫌いではないが、やはり清酒が呑みたいそう言う年頃のなまぐさ坊主なのだ。
「ところで、ナダ様?」
「……はい?」
もう一人のなまぐさシスターセリスの笑みに、嫌な予感がはしるナダ。
「信仰を信仰する、がイチヨ族ならばエクラ教も――」
「手助けの必要性もないでしょう!?」
●秋の恩恵
山と言えどそんなに標高はない。せいぜい頂上まで、二時間かからないものだ。
そんな山だからこそ、頂上が目的地でない百鬼 雷吼(ka5697)はすぐ目的の物を発見する。山は任せろと言った通り、知識経験は豊富だった。
アカマツの林。そこで共に訪れていたマダに彼は一つ問う。
「昨年以前でも良い、前に松茸が生えてた所を覚えてたら教えて貰いたいんだが?」
松茸は同じ場所に生える習性があること、雷吼が言えばマダは驚いあ。
「詳しいですね。こっちです」
予め用意していた地図を便りに、マダはその場所までハンター達を導いた。
木の根っこから周辺シロ。辺りの枯れ葉を手で払ってみれば、それは直ぐに姿を見せる。カサの開いてない松茸が、ぴょこんと顔を出していた。
「これ全部か! ヒュー太っ腹じゃなーい?」
では早速と松茸を引っこ抜いたのは、同じくアカマツ林を探していた鵤(ka3319)である。
「程々にしておけよ。これだけ豊かな山とて、採り尽くしてしまっては絶やしかねぬのでな」
背後で明王院 蔵人(ka5737)がそれを制す、彼は種類を見極めながらキノコを一つ手にし、すんと匂いを嗅ぐ。
「ふむ…これ程の舞茸が手付かずとは…良き土産が出来た」
肉厚な見た目に、今後の料理が目に浮かぶ。
「それと皆さん。くれぐれも、この山で松茸が採れることはご内密に」
「ん~、ここが穴場だからぁ?」
茶化すような鵤の声に、慌てたようにマダは否定した。確かにこの山の松茸は、この辺りの部族には価値もないものだ。だが、その価値を高く見るものは当然いる。
「乱獲され、山が荒らされるのは不本意ですから」
情報はどこから漏れるか、わからないものだ。
「なるほどの」
「流石、信仰の部族と言ったところか……」
特に鬼である雷吼は、イチヨ族に感心したようだ。族長の方針ですが、とマダは照れつつ付け足す。
「おー了解」
とキノコしか目がいかない鵤は、一見もせず抜いてはカゴに放り込むを繰り返す。見かねた蔵人は鵤の収穫に一言。
「鵤さん。もう少し丁寧に、せめて確認せぬか」
「大丈夫だってぇ。もしダメな奴なら、あの三人が見極めんだろ」
あの三人とは、イチヨ族の三人確かに識別は出来るだろう……が。
(ベニテングがここから見えるぞ)
シャルアは一人、木に登りながら実をもいでいた。アルファスが採れるだけ採って来て欲しいの言葉を思い出しアケビ、栗、そして山葡萄を採取。赤に橙、緑と葉が続くなか、やはり黄色だけは見当たらなかった。
その傍らでは、川で鮎釣りに勤しむ瀬陰とエダの姿があった。沈んだ浮きを上げれば、ピチピチと活気良い鮎は直ぐに釣れた。上々な釣果に笑む瀬陰は再び釣り糸を垂らす。
すると、エダのオトリ鮎の仕掛けとほぼ同時に針が引かれた。瀬陰が竿を上げればエダが強く竿を引かれ、エダが竿を上げれば瀬陰が強く竿を引かれる。
「「あ」」
良くみれば二人の釣糸は交差し、いわゆる……
「オマツリ」
「ですね」
●調理のターン
秋の食材を魚籠、かご、両手いっぱいにしてハンター達は基地、つまり調理場へと凱旋。勿論、松茸もゴロゴロだ。
火種に調理器具は準備完了。
最初に大きく動いたのは蔵人だ。青竹を器代わりにするため、加工していく。本来山で調達したかったが見つからず、イチヨ族の私物を拝借させて貰えたのだ。
同時に、土鍋に白米、松茸と調味料一式を加えて炊き込みご飯を作る。ちょこっと長めに炊いて、軽くおこげを作る予定だ。
櫻子は見た目に似合わぬダイナミック料理。持ち寄った串に松茸、鮎(内臓そのまま)、狩ったウサギ肉を刺して焚き火で焼く。
「ふぅー結構出来たわね」
その隣、瀬陰は焼いた鮎の身を解し、持ってきた昆布出汁で炊き込みご飯を作る。炊ける間、旅のことをぼんやりと思い出していた。
「そういえば櫻子殿にお会いしたのも、旅先での事だったねえ」
櫻子に会わなければ、この男あわや売り飛ばされるところだったらしい。
「あれは瀬陰が世間を知らなかったからよ。もう少し悪意というものを知ることね」
アルファスは、他のハンター達と方向性が違いなるべく小さめな、いわゆる女性向きの料理を作る。勿論、普通の野性味溢れる料理も作る。
予め用意したパスタはアルデンテに茹で、味付けした火を通した松茸と鮎のほぐし身を合わせる。もう一つは、酢飯と甘く煮た松茸で握った寿司だ。
肉厚な松茸を半分に裂いた高級品だ。
「アルファスさん山葡萄絞りました!」
シャルアはアルファスを手伝い、彼の目の前に濃い赤紫の濃厚なジュースを置いた。おかげで彼女の指先は綺麗なぶどう色である。これだけあれば、お土産用の山葡萄ジャムを作るのにも足りるだろう。
「持ち込んだ牛肉と山の野菜と東方の調味料ですきやき鍋かぁ……うんうん、これはご飯もお酒もすすみそうだ」
●秋の恵み
各料理が完成を迎えれば、そこらかしこから香木にも似た松茸の独特の香りが辺りに広がる。
その力は、早く食べたいと東方の面子に思わせるには充分すぎた。
「挨拶は以下略し、皆様ご苦労様でした。乾杯!」
ナダの早々とした音頭を始めに、各々が作った料理へとみんなが手を伸ばしていく。
先ずは一杯とぐい飲みをバルバロスが一気呑み。
「ん……馬乳酒とはまた違うな。ん、悪くない」
また向こうでは、アルファスがシャルアに山葡萄のジュースを配っていた。
「ありがとう! お酒飲めないから助かります」
「あのぼくも貰えます?」
最年少のマダが、器を片手にアルファスの元へと進み出る。もしかしてお酒が飲めないのは、自分だけかと思っていたシャルアは仲間がいてホッとした。
「どうぞ。お寿司もあるよ」
「お待ちどう。しゃぶしゃぶの準備出来たぜ」
ドン、とエダが二人の前に魚出汁の注がれた土鍋を置く。一緒に薄造りのように切られた生の松茸が添えられている。
「わぁ、美味しそう♪」
セリスも炊かれた麦飯。それに初めて目にする鮎と言う魚の荒塩焼きで飯をかっこむ。タダメシとはいえ秋の情緒とかは、少しは味わってほしいものだ。
さて、みんながワイのワイのと食事を楽しむなか、一人離れたところで焼き松茸を楽しむ鵤。土瓶蒸しならぬ、土鍋蒸しの出し汁を啜りながらぐい飲みで一献。
その背後では、喬栄が見知らぬ長い三つ編みの女に酌をして貰っているのが見えた。ハンターでないのなら、イチヨ族の人間なのだろう。
喬栄としては願ったり、叶ったりの状況であったらしい。
聖母、なんてものがいるかは知らないが、そんな言葉が思いつく微笑みを女性は見せている。
(……どっかで見た顔だな)
ふと、そんな言葉が鵤の脳裏に過った。が、次に聞こえた雷吼の台詞に、意識はそちらへと飛んだ。
「どうですか? 一緒に」
焼いた松茸を薄切りにし浮かべた熱燗を手に鵤を誘う雷吼。清酒の芳醇な香りと松茸の香ばしさが相まって、生唾を呑みたくなる代物だ。
「いいよ、いいよ。おっさんだけのひとり酒ってなぁ?」
ヘラヘラと代わらぬ笑みの鵤に、雷吼はちらりと視線を外すその先のもの。
「そのわりにぐい飲みが二つ」
「……んーこれは予備、予備」
酒盛りも中盤。賑わいは変わらぬものの、ほんのり季節外れの桜色に頬の染まる面子がちらほら現れた頃。
櫻子の料理をお裾分けに持ってきた瀬陰が、ナダへとお酌をし、話をふった。
手には櫻子の持ってきた大吟醸。自分は鬼であり、漸く世に存在を認められた種族ゆえに、他種族や他部族との交流や文化は興味深く、互いの理解を深めたいと思っている、と話す。
「ですので、古来より存在すると言うイチヨ族の話を聞いてみたいのです」
「おお! そいつは俺も聞いてみたいなぁ」
「そうですね。では」
(未だ)ほろ酔いのナダが手慣れた様に語りだす。雷吼の龍笛に合わせ、物語が乗る。
その昔、東方に女がいた。その女には、予見の力があり村を助けていたと言う。しかし、その力を良しとしない、時の朝廷が女の一族を東方より追放した。
「そして彼女は辺境に来ました」
そこで、初めて様々なものを信仰する辺境の部族にあったと言う。実際東方にて、当たり前のように真霊樹、精霊を信仰した彼女にはその様子は目から鱗だったと言う。
だからこそ、女は様々な部族を渡り歩き、そして信仰の手伝い、催事の補助をしたと言う。
「あぁ、おまんま食うためにも好都合だったワケだなぁ」
はい、と喬栄の言葉にナダも肯定した。
そこから『信仰の尊さは如何なるものにでも平等にあり敬うべきもの』と言う思想にてイチヨ族が完成した。がその後、女は旅に出てその行方を誰も知らないと言う。
「この方が概念精霊コリオリのモデルであると言われてます」
「はーそんないわれがねぇ」
「まさにヒトに歴史あり、ですか」
と、真面目な話のあとは……
「櫻子殿、折角様々な酒が揃っている事だし、一つ飲み比べといかないかい?」
瀬陰は軽い気持ち、だったかもしれない。だが、あからさまに櫻子の目の色は変わった気がする。
「ふふ…私に飲み比べを挑むとは度胸があるわね?」
「私が勝ったら大吟醸よ! 負けたら一日なんでも言うことを聞くわ」
「お、呑み比べかおじさんも参加だ」
「うむぅ、今回は見送るぞ。傷がなければな」
「そぉ言うのは、おっさんいいや」
「良いでしょう。お相手させていただきましょう」
「もぐもぐもご(訳:折角ですが、食べるのが忙しくて。あ、勧誘のパンフいります?)」
「体調にはお気をつけを。どうぞ。フキとミズのお浸しとアケビだ」
「ありがとう。酒は呑んでも呑まれるな、だ」
こうして、清酒が尽きるか潰れるかまで続く飲んべえデスマッチが開始された。
●
……その後。日もとっぷりと暮れてきた。
全く呑み比べに関わらなかったシャルアとアルファスの二人は、パスタの最後の一口を食し手を合わせた。
「楽しかったのですよ~!」
「美味しかった?松茸や山の果実は持って帰って、他の皆にも食べさせてあげないとね♪」
「持ち帰りたかったら言ってくれ。残ったもん俺達じゃ食いきれないからな」
「ありがとうございます」
「やった~」
エダの言葉に、これは残り物で友達皆で二次会のフラグでしかないと考えるシャルア。一方アルファスは、こう言う時の気配りとばかりに、冷まして瓶に詰めた山葡萄のジャムを手渡した。
「良いのか?」
「はい、これほどのご馳走をいただきましたから」
そのお礼にと言うことで、エダもありがたく頂戴しておいた。
さて、閑話休題があったが、呑み比べの結果はどうなったか気になるところだろう。最初に潰れたのは、案の定。提案を持ちかけた瀬陰であった。
量にして二瓶と言ったところか。次いでが櫻子であった。普段ならそうそう酔いすら回らないのに、飲み慣れない清酒だったのか三瓶で辞退した。
尤も、彼女としては瀬陰に勝てばそれで良かったのだろうが……
そして、残すは、喬栄とナダの一騎討ちを残すのみであった。
ごきゅり、ごきゅり、どんな極上の大吟醸と言えど、数を呑めば濁酒となんらかわりない。
もう数えるのも馬鹿馬鹿しい程に徳利を空ければ、喬栄はすっかり呂律が怪しくなっていた。もう秋を越えて夏場のたこだ。
「ほれほれぇ、どしたぁ。おじしゃんまだどんろんいけるぞぉ」
「……此方もまだまだ」
それと違い、未だにナダは顔色一つ変えてはいなかった。が、瞳が既にいつもの弱々しさが成りを潜めていた。
「フフフ、愚か者め。この私に勝てると思うことすら烏滸がましい」
ガバッと立ち上がれば、衣装の腰帯をほどき、頭にはちがねの様に巻く。
「あー、こりゃ酔ってるなぁ」
「やめさせよう」
「そうだな。彼だって守りたいものはあるだろう」
主に面子とか、面子とか、面子とか。
「いいぞー族長♪」
「おーいひね、いぃねー。こうれなくちゃ」
「前田さんまで、煽らないでよ!」
土鍋に乗っかって、奇妙なポーズ付けて符らしきものを取り出すナダ。煽る喬栄と酔っぱらいエダ。ひっ捕まえてでも制止にかかろうとする、雷吼と蔵人。が、鵤が一言。
「その必要はなさそうだ」
何故か、雷吼達が問おうとすれば鈍い音が聴こえた。
ボキッ
バキッ
ズルッ
「…………」
「な?」
見れば先程喬栄に酌をしていた女性が、いつの間にかナダの背後をとり……後は先程の音と想像力で片付けて欲しい。
(あの女余程の手練れだ、何者なんだ)
それが一瞬の出来事であれど、バルバロスは見逃さない。実のところナダもそれなりに強い、その背後を許したのだ。いくら酔っていても、彼が背後に気付かないノロマとは思えない。
こうして、ナダは色んな意味でリタイアすることになり、勝ちは喬栄のものになった。その途端だ。両手を広げ、大地に寝そべった。傍らの川のせせらぎが、彼を心地よい眠気へと誘う。
「今水を持ってくる」
蔵人が枯れ葉を踏む音を聞きながら喬栄は空を仰いだ。
(食べて飲んで楽しく飲んで、騒いで飲んで寝るまで飲んで、これが俗世よ)
「さても良い世の中じゃなぁい?」
「う、うー…ん…酒には割と自信あったのになあ…」
木陰で酒気を冷ますように、瀬陰は木の根を枕に寝転がる。鬼が蟒蛇に倒されるなんて、正真正銘鬼である彼にとって無念でしょうがない。
「ふふ飲みすぎよ。しばらく寝ていれば治るわ」
櫻子が傍らに付いてくれた。しかもこっちが動けないのを良いことに、自分の膝に瀬陰の頭を乗せている。これが先程、自分と似たような顔色をしていた人間だろうか。そうだ、きっと幻だ、瞳を閉じながら瀬陰はそう思うことにした。
「私が勝ったから大吟醸――」
「はい、はい…約束は忘れてないから…」
「さあ……山(の食材)が私を呼んでいるわ」
壮年の女性。櫻子=シング=セレン(ka2829)は葉巻片手に懐古する。嘗ては重装備にて、何度山を登っただろうことか。
「っとこんなところで黄昏ていたら明日になるわね。瀬陰行くわよ」
「はい。櫻子殿」
瀬陰(ka5599)は、傍らにて釣竿片手に葉巻を携帯灰皿にしまう旧友に二つ返事で頷いた。
「マツタケ……アユ……ん、知らない食べ物ね」
セリス・アルマーズ(ka1079)がそう呟く。王都うまれの彼女には、聞き覚えのない言葉。しかしそれも彼女から言わせれば、食べれば、済む話だそうだ。
「松茸かぁ……鮎も使って土瓶蒸しかな?栗や銀杏も入れれば美味しいねぇ。シャルアさんは食べてみたい?」
「栗!銀杏!…ってなんです?」
アルファス(ka3312)の質問に質問で返すのは、シャルア・レイセンファード(ka4359)だ。それに答えたのは、意外にもイチヨ族のヤ・マダてあった。
「銀杏は木の実です。けど、この山にはイチョウがないので……」
「それじゃあ、銀杏はまた今度かぁ」
その代わり栗はある、とマダからの情報を得る。
「じゃあ、行ってくんな?」
「お気をつけて」
「コッチはワシらに任せておけ!」
マ・エダに答えるのは、族長サ・ナダと、とある戦いで重傷を負った包帯全身ぐるぐる巻きのバルバロス(ka2119)だ。いくらドワーフでも限度はあると思う。
彼は今回、療養の為に参加したのだ。余計な生傷は作りたくない。
「採取は任せたよ!取って来てくれれば、いくらでも用意するから!」
アルファスの言葉を背に、採取組は山へと乗り込んでいった。
「さて、わたし達も薪を集めましょう」
「さて。料理は得意な子に任せておじさんはお酒飲んで待って…え、仕事しろ?」
「何を当然なことを」
バルバロスに喬栄(ka4565)は溜め息を吐かれる。彼の目的はただ酒である。エールやワインやらも嫌いではないが、やはり清酒が呑みたいそう言う年頃のなまぐさ坊主なのだ。
「ところで、ナダ様?」
「……はい?」
もう一人のなまぐさシスターセリスの笑みに、嫌な予感がはしるナダ。
「信仰を信仰する、がイチヨ族ならばエクラ教も――」
「手助けの必要性もないでしょう!?」
●秋の恩恵
山と言えどそんなに標高はない。せいぜい頂上まで、二時間かからないものだ。
そんな山だからこそ、頂上が目的地でない百鬼 雷吼(ka5697)はすぐ目的の物を発見する。山は任せろと言った通り、知識経験は豊富だった。
アカマツの林。そこで共に訪れていたマダに彼は一つ問う。
「昨年以前でも良い、前に松茸が生えてた所を覚えてたら教えて貰いたいんだが?」
松茸は同じ場所に生える習性があること、雷吼が言えばマダは驚いあ。
「詳しいですね。こっちです」
予め用意していた地図を便りに、マダはその場所までハンター達を導いた。
木の根っこから周辺シロ。辺りの枯れ葉を手で払ってみれば、それは直ぐに姿を見せる。カサの開いてない松茸が、ぴょこんと顔を出していた。
「これ全部か! ヒュー太っ腹じゃなーい?」
では早速と松茸を引っこ抜いたのは、同じくアカマツ林を探していた鵤(ka3319)である。
「程々にしておけよ。これだけ豊かな山とて、採り尽くしてしまっては絶やしかねぬのでな」
背後で明王院 蔵人(ka5737)がそれを制す、彼は種類を見極めながらキノコを一つ手にし、すんと匂いを嗅ぐ。
「ふむ…これ程の舞茸が手付かずとは…良き土産が出来た」
肉厚な見た目に、今後の料理が目に浮かぶ。
「それと皆さん。くれぐれも、この山で松茸が採れることはご内密に」
「ん~、ここが穴場だからぁ?」
茶化すような鵤の声に、慌てたようにマダは否定した。確かにこの山の松茸は、この辺りの部族には価値もないものだ。だが、その価値を高く見るものは当然いる。
「乱獲され、山が荒らされるのは不本意ですから」
情報はどこから漏れるか、わからないものだ。
「なるほどの」
「流石、信仰の部族と言ったところか……」
特に鬼である雷吼は、イチヨ族に感心したようだ。族長の方針ですが、とマダは照れつつ付け足す。
「おー了解」
とキノコしか目がいかない鵤は、一見もせず抜いてはカゴに放り込むを繰り返す。見かねた蔵人は鵤の収穫に一言。
「鵤さん。もう少し丁寧に、せめて確認せぬか」
「大丈夫だってぇ。もしダメな奴なら、あの三人が見極めんだろ」
あの三人とは、イチヨ族の三人確かに識別は出来るだろう……が。
(ベニテングがここから見えるぞ)
シャルアは一人、木に登りながら実をもいでいた。アルファスが採れるだけ採って来て欲しいの言葉を思い出しアケビ、栗、そして山葡萄を採取。赤に橙、緑と葉が続くなか、やはり黄色だけは見当たらなかった。
その傍らでは、川で鮎釣りに勤しむ瀬陰とエダの姿があった。沈んだ浮きを上げれば、ピチピチと活気良い鮎は直ぐに釣れた。上々な釣果に笑む瀬陰は再び釣り糸を垂らす。
すると、エダのオトリ鮎の仕掛けとほぼ同時に針が引かれた。瀬陰が竿を上げればエダが強く竿を引かれ、エダが竿を上げれば瀬陰が強く竿を引かれる。
「「あ」」
良くみれば二人の釣糸は交差し、いわゆる……
「オマツリ」
「ですね」
●調理のターン
秋の食材を魚籠、かご、両手いっぱいにしてハンター達は基地、つまり調理場へと凱旋。勿論、松茸もゴロゴロだ。
火種に調理器具は準備完了。
最初に大きく動いたのは蔵人だ。青竹を器代わりにするため、加工していく。本来山で調達したかったが見つからず、イチヨ族の私物を拝借させて貰えたのだ。
同時に、土鍋に白米、松茸と調味料一式を加えて炊き込みご飯を作る。ちょこっと長めに炊いて、軽くおこげを作る予定だ。
櫻子は見た目に似合わぬダイナミック料理。持ち寄った串に松茸、鮎(内臓そのまま)、狩ったウサギ肉を刺して焚き火で焼く。
「ふぅー結構出来たわね」
その隣、瀬陰は焼いた鮎の身を解し、持ってきた昆布出汁で炊き込みご飯を作る。炊ける間、旅のことをぼんやりと思い出していた。
「そういえば櫻子殿にお会いしたのも、旅先での事だったねえ」
櫻子に会わなければ、この男あわや売り飛ばされるところだったらしい。
「あれは瀬陰が世間を知らなかったからよ。もう少し悪意というものを知ることね」
アルファスは、他のハンター達と方向性が違いなるべく小さめな、いわゆる女性向きの料理を作る。勿論、普通の野性味溢れる料理も作る。
予め用意したパスタはアルデンテに茹で、味付けした火を通した松茸と鮎のほぐし身を合わせる。もう一つは、酢飯と甘く煮た松茸で握った寿司だ。
肉厚な松茸を半分に裂いた高級品だ。
「アルファスさん山葡萄絞りました!」
シャルアはアルファスを手伝い、彼の目の前に濃い赤紫の濃厚なジュースを置いた。おかげで彼女の指先は綺麗なぶどう色である。これだけあれば、お土産用の山葡萄ジャムを作るのにも足りるだろう。
「持ち込んだ牛肉と山の野菜と東方の調味料ですきやき鍋かぁ……うんうん、これはご飯もお酒もすすみそうだ」
●秋の恵み
各料理が完成を迎えれば、そこらかしこから香木にも似た松茸の独特の香りが辺りに広がる。
その力は、早く食べたいと東方の面子に思わせるには充分すぎた。
「挨拶は以下略し、皆様ご苦労様でした。乾杯!」
ナダの早々とした音頭を始めに、各々が作った料理へとみんなが手を伸ばしていく。
先ずは一杯とぐい飲みをバルバロスが一気呑み。
「ん……馬乳酒とはまた違うな。ん、悪くない」
また向こうでは、アルファスがシャルアに山葡萄のジュースを配っていた。
「ありがとう! お酒飲めないから助かります」
「あのぼくも貰えます?」
最年少のマダが、器を片手にアルファスの元へと進み出る。もしかしてお酒が飲めないのは、自分だけかと思っていたシャルアは仲間がいてホッとした。
「どうぞ。お寿司もあるよ」
「お待ちどう。しゃぶしゃぶの準備出来たぜ」
ドン、とエダが二人の前に魚出汁の注がれた土鍋を置く。一緒に薄造りのように切られた生の松茸が添えられている。
「わぁ、美味しそう♪」
セリスも炊かれた麦飯。それに初めて目にする鮎と言う魚の荒塩焼きで飯をかっこむ。タダメシとはいえ秋の情緒とかは、少しは味わってほしいものだ。
さて、みんながワイのワイのと食事を楽しむなか、一人離れたところで焼き松茸を楽しむ鵤。土瓶蒸しならぬ、土鍋蒸しの出し汁を啜りながらぐい飲みで一献。
その背後では、喬栄が見知らぬ長い三つ編みの女に酌をして貰っているのが見えた。ハンターでないのなら、イチヨ族の人間なのだろう。
喬栄としては願ったり、叶ったりの状況であったらしい。
聖母、なんてものがいるかは知らないが、そんな言葉が思いつく微笑みを女性は見せている。
(……どっかで見た顔だな)
ふと、そんな言葉が鵤の脳裏に過った。が、次に聞こえた雷吼の台詞に、意識はそちらへと飛んだ。
「どうですか? 一緒に」
焼いた松茸を薄切りにし浮かべた熱燗を手に鵤を誘う雷吼。清酒の芳醇な香りと松茸の香ばしさが相まって、生唾を呑みたくなる代物だ。
「いいよ、いいよ。おっさんだけのひとり酒ってなぁ?」
ヘラヘラと代わらぬ笑みの鵤に、雷吼はちらりと視線を外すその先のもの。
「そのわりにぐい飲みが二つ」
「……んーこれは予備、予備」
酒盛りも中盤。賑わいは変わらぬものの、ほんのり季節外れの桜色に頬の染まる面子がちらほら現れた頃。
櫻子の料理をお裾分けに持ってきた瀬陰が、ナダへとお酌をし、話をふった。
手には櫻子の持ってきた大吟醸。自分は鬼であり、漸く世に存在を認められた種族ゆえに、他種族や他部族との交流や文化は興味深く、互いの理解を深めたいと思っている、と話す。
「ですので、古来より存在すると言うイチヨ族の話を聞いてみたいのです」
「おお! そいつは俺も聞いてみたいなぁ」
「そうですね。では」
(未だ)ほろ酔いのナダが手慣れた様に語りだす。雷吼の龍笛に合わせ、物語が乗る。
その昔、東方に女がいた。その女には、予見の力があり村を助けていたと言う。しかし、その力を良しとしない、時の朝廷が女の一族を東方より追放した。
「そして彼女は辺境に来ました」
そこで、初めて様々なものを信仰する辺境の部族にあったと言う。実際東方にて、当たり前のように真霊樹、精霊を信仰した彼女にはその様子は目から鱗だったと言う。
だからこそ、女は様々な部族を渡り歩き、そして信仰の手伝い、催事の補助をしたと言う。
「あぁ、おまんま食うためにも好都合だったワケだなぁ」
はい、と喬栄の言葉にナダも肯定した。
そこから『信仰の尊さは如何なるものにでも平等にあり敬うべきもの』と言う思想にてイチヨ族が完成した。がその後、女は旅に出てその行方を誰も知らないと言う。
「この方が概念精霊コリオリのモデルであると言われてます」
「はーそんないわれがねぇ」
「まさにヒトに歴史あり、ですか」
と、真面目な話のあとは……
「櫻子殿、折角様々な酒が揃っている事だし、一つ飲み比べといかないかい?」
瀬陰は軽い気持ち、だったかもしれない。だが、あからさまに櫻子の目の色は変わった気がする。
「ふふ…私に飲み比べを挑むとは度胸があるわね?」
「私が勝ったら大吟醸よ! 負けたら一日なんでも言うことを聞くわ」
「お、呑み比べかおじさんも参加だ」
「うむぅ、今回は見送るぞ。傷がなければな」
「そぉ言うのは、おっさんいいや」
「良いでしょう。お相手させていただきましょう」
「もぐもぐもご(訳:折角ですが、食べるのが忙しくて。あ、勧誘のパンフいります?)」
「体調にはお気をつけを。どうぞ。フキとミズのお浸しとアケビだ」
「ありがとう。酒は呑んでも呑まれるな、だ」
こうして、清酒が尽きるか潰れるかまで続く飲んべえデスマッチが開始された。
●
……その後。日もとっぷりと暮れてきた。
全く呑み比べに関わらなかったシャルアとアルファスの二人は、パスタの最後の一口を食し手を合わせた。
「楽しかったのですよ~!」
「美味しかった?松茸や山の果実は持って帰って、他の皆にも食べさせてあげないとね♪」
「持ち帰りたかったら言ってくれ。残ったもん俺達じゃ食いきれないからな」
「ありがとうございます」
「やった~」
エダの言葉に、これは残り物で友達皆で二次会のフラグでしかないと考えるシャルア。一方アルファスは、こう言う時の気配りとばかりに、冷まして瓶に詰めた山葡萄のジャムを手渡した。
「良いのか?」
「はい、これほどのご馳走をいただきましたから」
そのお礼にと言うことで、エダもありがたく頂戴しておいた。
さて、閑話休題があったが、呑み比べの結果はどうなったか気になるところだろう。最初に潰れたのは、案の定。提案を持ちかけた瀬陰であった。
量にして二瓶と言ったところか。次いでが櫻子であった。普段ならそうそう酔いすら回らないのに、飲み慣れない清酒だったのか三瓶で辞退した。
尤も、彼女としては瀬陰に勝てばそれで良かったのだろうが……
そして、残すは、喬栄とナダの一騎討ちを残すのみであった。
ごきゅり、ごきゅり、どんな極上の大吟醸と言えど、数を呑めば濁酒となんらかわりない。
もう数えるのも馬鹿馬鹿しい程に徳利を空ければ、喬栄はすっかり呂律が怪しくなっていた。もう秋を越えて夏場のたこだ。
「ほれほれぇ、どしたぁ。おじしゃんまだどんろんいけるぞぉ」
「……此方もまだまだ」
それと違い、未だにナダは顔色一つ変えてはいなかった。が、瞳が既にいつもの弱々しさが成りを潜めていた。
「フフフ、愚か者め。この私に勝てると思うことすら烏滸がましい」
ガバッと立ち上がれば、衣装の腰帯をほどき、頭にはちがねの様に巻く。
「あー、こりゃ酔ってるなぁ」
「やめさせよう」
「そうだな。彼だって守りたいものはあるだろう」
主に面子とか、面子とか、面子とか。
「いいぞー族長♪」
「おーいひね、いぃねー。こうれなくちゃ」
「前田さんまで、煽らないでよ!」
土鍋に乗っかって、奇妙なポーズ付けて符らしきものを取り出すナダ。煽る喬栄と酔っぱらいエダ。ひっ捕まえてでも制止にかかろうとする、雷吼と蔵人。が、鵤が一言。
「その必要はなさそうだ」
何故か、雷吼達が問おうとすれば鈍い音が聴こえた。
ボキッ
バキッ
ズルッ
「…………」
「な?」
見れば先程喬栄に酌をしていた女性が、いつの間にかナダの背後をとり……後は先程の音と想像力で片付けて欲しい。
(あの女余程の手練れだ、何者なんだ)
それが一瞬の出来事であれど、バルバロスは見逃さない。実のところナダもそれなりに強い、その背後を許したのだ。いくら酔っていても、彼が背後に気付かないノロマとは思えない。
こうして、ナダは色んな意味でリタイアすることになり、勝ちは喬栄のものになった。その途端だ。両手を広げ、大地に寝そべった。傍らの川のせせらぎが、彼を心地よい眠気へと誘う。
「今水を持ってくる」
蔵人が枯れ葉を踏む音を聞きながら喬栄は空を仰いだ。
(食べて飲んで楽しく飲んで、騒いで飲んで寝るまで飲んで、これが俗世よ)
「さても良い世の中じゃなぁい?」
「う、うー…ん…酒には割と自信あったのになあ…」
木陰で酒気を冷ますように、瀬陰は木の根を枕に寝転がる。鬼が蟒蛇に倒されるなんて、正真正銘鬼である彼にとって無念でしょうがない。
「ふふ飲みすぎよ。しばらく寝ていれば治るわ」
櫻子が傍らに付いてくれた。しかもこっちが動けないのを良いことに、自分の膝に瀬陰の頭を乗せている。これが先程、自分と似たような顔色をしていた人間だろうか。そうだ、きっと幻だ、瞳を閉じながら瀬陰はそう思うことにした。
「私が勝ったから大吟醸――」
「はい、はい…約束は忘れてないから…」
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/29 18:50:34 |