ゲスト
(ka0000)
【深棲】夏祭りで元気になろう
マスター:篠崎砂美

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/30 12:00
- 完成日
- 2014/08/07 17:52
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
同盟の海岸線は、歪虚のために、現在、普段よりもかなり危険な状態にあります。
そのため、戦闘に巻き込まれたり、歪虚に襲われたりしないようにと、戦う力のない者たちの一部は、ジェオルジなどの内陸部に一時的に避難したりしています。
海から襲ってくる歪虚たちも、さすがに内陸深くまでは簡単にはやってこられません。とはいえ、海の歪虚に触発されて、内陸の歪虚たちもやや活性化はしています。人々は、不安を拭えない毎日を過ごしていました。
「なんとかしなさい」
「いきなりなんですか、母上」
母親のバルバラ・ジェオルジに呼び出されて、若き領主のセスト・ジェオルジが聞き返しました。
「現在の停滞した空気は好ましくありません。せっかく、普段はこの土地とは無関係な者たちがたくさん訪れているのです。広くジェオルジをアピールするいい機会ではありませんか。それに、今のような状態では、ジェオルジは辛気くさい田舎などと風評を広められても困ります」
「そうですね。それでは、人々の志気を高める方策を行うとしましょう。ジェオルジの農業生産力と、豊かな山野の自然資源、そして人々の温かいもてなし、それらを喧伝するには夏祭りが最適でしょう」
すぐにアイディアを練って、セストがバルバラに言いました。
「姉上を通じて、ハンターに協力してもらえば、都会の人たちでも飽きの来ないお祭りができそうですね。ハンターであれば、万が一の時の警備として、歪虚や獣も排除できますし。一つ盛大に騒いで、鬱々としたものを吹き飛ばし、さらなる生産性を高めるとしましょう」
色々な効果をきちんと考えて、セストが言いました。かくして、ジェオルジで盛大な夏祭りが行われることになったのです。
「そこー、しっかりと櫓を組んでよー。なにしろ、メインステージなんだからね。そっち、屋台の場所でもめるんじゃない。ちょっと、あんたも、わざわざ陸軍から派遣されてきたんなら、ちゃんと仕事しなさいよ」
広場で夏祭り会場の設営の指揮をしながら、ルイーザ・ジェオルジが、アルマート・トレナーレ少佐に言いました。
少佐は陸軍として一部の避難民をジェオルジまで護衛してきたのですが、どうやらそのまま夏祭りを手伝うように上から命令されたようです。
「しっかたねえなあ……」
いかにも面倒くさいという態度で、少佐がもめている屋台の主たちに近づいていって、がっしりと両腕で二人の首根っこをかかえ込みました。
「これから儲けるのに、もめててどうするんだあ。心配しなくても、広場は円形なんだから、どこに店出しても同じだろ。なあ、みんなで幸せになろうや」
半ば脅すように少佐が言いくるめます。
夏祭りの会場は、中央にちょっと高い櫓が組まれて、そこが演奏したり踊ったりできるステージのようなものになっていました。その櫓を大きく取り囲むようにして、広場の外周に色々な食べ物屋などの屋台が並んでいます。
準備はもうほとんどできあがっていて、後は、人々が集まってくるだけです。
「じゃあ、あたしは周囲をパトロールしてくるから。ここの警備は任せたわよ」
「へいへい、行ってらっしゃい」
少佐がルイーザを送り出すと、四人の若者がやってきました。地元の陸軍の兵士たちのようですが、まだ成り立ての新兵のようです。
「こんにちはー。少佐さん、いえ、少佐殿でありますかあ」
「そうだが?」
お前たちはなんなんだと、少佐が訊ねました。
「今日の警備に来ましたー」
どうやら、今日一日の部下たちのようです。
「おお、そうか。まあ、よろしく頼む」
「わあ、さすが都会の士官様だあ、格好いいだあ」
「えへへっ、そ、そうかあ」
なんだか素朴さ爆発の兵士たちにおだてられて、少佐が機嫌をよくしました。単純です。
さて、準備はすっかり整いました。
夏祭りを始めましょう!
そのため、戦闘に巻き込まれたり、歪虚に襲われたりしないようにと、戦う力のない者たちの一部は、ジェオルジなどの内陸部に一時的に避難したりしています。
海から襲ってくる歪虚たちも、さすがに内陸深くまでは簡単にはやってこられません。とはいえ、海の歪虚に触発されて、内陸の歪虚たちもやや活性化はしています。人々は、不安を拭えない毎日を過ごしていました。
「なんとかしなさい」
「いきなりなんですか、母上」
母親のバルバラ・ジェオルジに呼び出されて、若き領主のセスト・ジェオルジが聞き返しました。
「現在の停滞した空気は好ましくありません。せっかく、普段はこの土地とは無関係な者たちがたくさん訪れているのです。広くジェオルジをアピールするいい機会ではありませんか。それに、今のような状態では、ジェオルジは辛気くさい田舎などと風評を広められても困ります」
「そうですね。それでは、人々の志気を高める方策を行うとしましょう。ジェオルジの農業生産力と、豊かな山野の自然資源、そして人々の温かいもてなし、それらを喧伝するには夏祭りが最適でしょう」
すぐにアイディアを練って、セストがバルバラに言いました。
「姉上を通じて、ハンターに協力してもらえば、都会の人たちでも飽きの来ないお祭りができそうですね。ハンターであれば、万が一の時の警備として、歪虚や獣も排除できますし。一つ盛大に騒いで、鬱々としたものを吹き飛ばし、さらなる生産性を高めるとしましょう」
色々な効果をきちんと考えて、セストが言いました。かくして、ジェオルジで盛大な夏祭りが行われることになったのです。
「そこー、しっかりと櫓を組んでよー。なにしろ、メインステージなんだからね。そっち、屋台の場所でもめるんじゃない。ちょっと、あんたも、わざわざ陸軍から派遣されてきたんなら、ちゃんと仕事しなさいよ」
広場で夏祭り会場の設営の指揮をしながら、ルイーザ・ジェオルジが、アルマート・トレナーレ少佐に言いました。
少佐は陸軍として一部の避難民をジェオルジまで護衛してきたのですが、どうやらそのまま夏祭りを手伝うように上から命令されたようです。
「しっかたねえなあ……」
いかにも面倒くさいという態度で、少佐がもめている屋台の主たちに近づいていって、がっしりと両腕で二人の首根っこをかかえ込みました。
「これから儲けるのに、もめててどうするんだあ。心配しなくても、広場は円形なんだから、どこに店出しても同じだろ。なあ、みんなで幸せになろうや」
半ば脅すように少佐が言いくるめます。
夏祭りの会場は、中央にちょっと高い櫓が組まれて、そこが演奏したり踊ったりできるステージのようなものになっていました。その櫓を大きく取り囲むようにして、広場の外周に色々な食べ物屋などの屋台が並んでいます。
準備はもうほとんどできあがっていて、後は、人々が集まってくるだけです。
「じゃあ、あたしは周囲をパトロールしてくるから。ここの警備は任せたわよ」
「へいへい、行ってらっしゃい」
少佐がルイーザを送り出すと、四人の若者がやってきました。地元の陸軍の兵士たちのようですが、まだ成り立ての新兵のようです。
「こんにちはー。少佐さん、いえ、少佐殿でありますかあ」
「そうだが?」
お前たちはなんなんだと、少佐が訊ねました。
「今日の警備に来ましたー」
どうやら、今日一日の部下たちのようです。
「おお、そうか。まあ、よろしく頼む」
「わあ、さすが都会の士官様だあ、格好いいだあ」
「えへへっ、そ、そうかあ」
なんだか素朴さ爆発の兵士たちにおだてられて、少佐が機嫌をよくしました。単純です。
さて、準備はすっかり整いました。
夏祭りを始めましょう!
リプレイ本文
●夏祭り
「こちらの調子はどうだい? あたしたちは、ちょっといい汗かいてきたけれどもね」
手早く周辺の巡視を終えて戻ってきたルイーザ・ジェオルジが、アルマート・トレナーレ(kz0044)に訊ねました。
ルイーザに同行した紺野 璃人(ka1825)と日高・明(ka0476)も一緒に戻ってきています。
入れ替わりに、別の小隊が巡視に出かけていきます。
「こっちは、まあ、順調かな」
暇なもんさと、少佐が答えました。
ルイーザたちは、巡視の途中で野犬の小集団を見つけたりしましたが、璃人のホーリーライトなどで追っ払っています。傷つけてしまっては、血の臭いなどで他の動物を引き寄せてしまいかねませんから、今日は追い払うにとどめていました。
「これだけ人が騒いでいれば、むやみに近づいてくる動物もいないだろう」
すでに盛りあがっている祭りの様子を見て、明が言いました。ある程度追い払ってしまえば、祭りの喧騒や明かりに警戒して、再び近づいてくることもないでしょう。
「ああ、僕もお祭り気分に浸ってきているのかな。今だけは何でもできそうな気分だ」
銀髪を軽くかきあげて、璃人が設営を手伝った会場を満足気に見回しました。色とりどりの提灯の列が、中央の少し高い櫓から、周囲の屋台へとむけて放射状に広がっています。夜になったとしても、その照明で結構明るくなりそうです。
あらためて、無事に祭りを成功させるぞという気分になってきます。
今回の夏祭りは、歪虚の襲撃から避難するためにヴァリオスなどの都会から来た人たちを励ますためものでした。そういうハイセンスな人たちに馬鹿にされないようにと考えたジェオルジ家が、主にリアルブルー出身のハンターたちの意見を入れて会場作りを行ったわけです。おかげで、リアルブルーの者たちにはどこか懐かしく、クリムゾンウェストの者たちには奇妙な物珍しい祭りとなっていました。
集まった屋台は、同盟風のバンカレッラ(屋台)というよりは、リアルブルーの縁日風の物です。
「こういうのは、元の世界と変わんないなあ」
ちょっとホッとしたように、明が和みます。
「じゃあ、俺は祭りを堪能……、いや、問題が起きないようにブラブラしてっから」
「あたしも、そうするわ」
警備組は二手に分かれると、会場の中をブラブラと巡視することにしました。
ルイーザには、璃人と明が引き続き同行します。
少佐の方は、地元の若い兵隊さんたち四人と、ウィルヘルミナ=スピナハイム(ka1625)とリィン・ファナル(ka0225)が同行しました。
「ウィルと呼んでくださいまし。今日一日、よろしくお願いしますわ。かっこいい少佐様♪」
ピンク色の長い髪を靡かせて、ウィルが少佐に自己紹介しました。ちょっと胸のあたりの肉付きがいい美少女です。
「へへっ、格好いいかなあ。なあ、なあ?」
「ええと……」
「うんうん」
少佐に無理矢理同意を求められて、兵隊さんたちがひくつきます。
なんだか、珍しい物でも見たように、そばでリィンが苦笑しました。こちらは、ウィルとは対照的なすらりとした細身の少女で、ちょっと広いおでこをのぞかせながら、長い黒髪をサイドで一つに纏めています。
「ようし、とにかく繰り出そうぜ」
少佐が歩き始めました。
会場には、すでにたくさんの人が集まっています。屋台はどれもにぎやかで、人々は円形の広場をグルグルと回りながら、屋台で足を止めては色々と異国情緒たっぷりのお祭りを楽しんでいるようです。
「なんだか、懐かしい感じもしますよね……」
お祭りの風景を楽しみながら、リィンが言いました。エルフの里にはこういったお祭りはありませんから、もしかしたら彼女の薄れかけているリアルブルーの記憶に、これと同じ物があったのかもしれません。
「あら、どうしましたの?」
人々の中に、ポツンと座り込んでいる少女を見つけて、ウィルが声をかけました。
「お家帰りたい……」
ぼそっと、少女が答えます。どうやら、ヴァリオスから疎開してきているようです。ホームシックにでもかかっているのでしょう。
「大丈夫。ここと同じように、たくさんの人たちが、海の歪虚をやっつけようと頑張っていますの。みんなで協力すれば、どんな歪虚でも追い払えるはずですわ! 希望を持って。わたくしたちが、それを信じていなければダメなのですわ。じきにお家へも帰れます。それまで、一緒に頑張りましょう♪」
「うん」
ウィルが励ましていると、兵隊さんの一人が綿飴を持ってきてくれました。
「わー、ありがとー」
それを受け取ると、少女がニッコリと微笑みました。
「みんな楽しそうだねえ」
ちょっと眠たげな表情をしたミウ・ミャスカ(ka0421)が、周囲の人混みをなんとはなしにながめて言いました。寝癖なのか、長い銀髪はあちこちで大きく撥ねています。
「そうだね。でも、人が多いから、ミウも気をつけないとね」
隣を歩くオウカ・カゲツ(ka0830)が、赤い瞳で周囲に気を配りながら、ミウが人にぶつからないようにと注意しています。こちらは、黒髪を靡かせた、凛とした長身の女性でした。ぽやんとしたミウとは、対照的です。
身長と言えば、こちらの二人もちょっと極端でした。エルフである黒の夢(ka0187)と連れだって歩くシグリッド=リンドベリ(ka0248)は、頭二つ分ほど身長が低いです。それを埋めるためでしょうか、シグリッドの頭の上には、猫のシェーラが乗っていました。
「お祭りキラキラ綺麗なのなー♪ それに美味しいニオイ!」
シグリッドに勧められてか、黒の夢は浴衣を着ています。団扇を持って、黒髪を後ろ手に一つに纏めて、三つ編みにた姿は、意外と似合っています。けれども、その豊かな胸は襟元からちょっと零れそうで、シグリッドはちょっと気が気ではありません。
小柄でちょっと儚げなシグリッドと比べて、長身と黒い肌も相まってか、黒の夢はちょっと迫力があります。もっとも、本人はちょっとぽやぽやしていて、いたって呑気なのですが。
「そうですね。あっちの食べ物屋さんに行ってみましょうか」
目をキラキラさせて周囲を物珍しそうに見回す黒の夢の手を引いて、シグリッドが屋台の方へと歩きだしました。
「よし、今日は思いっきり楽しもうぜ、鞍馬。せっかくの祭りなんだからよ」
義弟である鞍馬 ハスロ(ka0608)の頭を乱暴にわしゃわしゃと撫で繰り回しながら、ツンツン頭の飄 凪(ka0592)が豪快に言いました。レザージャケットの大きなポケットには、ティグとリオンという名の二匹の虎縞の仔猫を入れています。
「ちょっと、凪兄さん、痛いよお」
あまり豪快に頭を撫でられると、線の細い鞍馬は壊れてしまいそうです。
「おっ、わりい、わりい。欲しいもんがあれば何でも言ってくれよな。兄ちゃんが買ってやるからよ」
「うん、ありがとう、凪兄さん」
「よっし。じゃあ、手始めにあの辺から行ってみよーかあ」
そう言うと、凪は人混みをかき分けて鞍馬のために道を作りながら進んでいきました。
人混みの中で、ひときわ目だっていたのは、春次 涼太(ka2765)を中心とする一団でした。
「みんな、今日はオレに任せとけよ。なにしろ祭りならプロだからな、プロ。めっちゃ遊んでるお祭り男って言ったら、オレのことだからなっ!」
いっちばーんとポーズをとりながら、涼太が言いました。緑のピンで留めたオールバックのデコの下で、メガネがキラーンと光ります。
「アホか。頼むから、あまり調子に乗んなよ」
こんな調子で大丈夫かと、イスカ・ティフィニア(ka2222)がちょっと心配になって言いました。
「ふふふふ、今日はお頼みしますわね」
アルフェロア・アルヘイル(ka0568)が、涼太に微笑みました。
「ふむふむ、よろしゅう案内頼んまっせ。なにせ、リアルブルーのハンターたちが入れ知恵……おっとっと、助言してるんやろ。これがおもろないはずがないやんか。前例がない分野は、まっさらの白紙や。これは、商売し放題やでー」
盛んにメモをとりながら、アカーシャ・ヘルメース(ka0473)が、グッと拳を握りしめました。ここは、商人としての血が騒ぎます。
「ナツマツリー! リアルブルーのお祭りって、楽しそうだよね」
エテ(ka1888)が、軽くジャンプしてはしゃぎました。お祭りの正装だと涼太に聞いて着てきた浴衣の袂が大きく左右に振れ、背中に流したピンク色の髪が帯の上で踊りました。
「そういや、エテはんが着てはるのって、浴衣ゆうんやろ。見せてや、見せてや」
興味津々のアルヘイルが、ぴらっとエテの浴衣の裾をつまんでめくろうとしました。
「きやっ!」
エテが、慌てて飛び退きます。
「お前、それはダメだぞ。セクハラだ」
さすがに、涼太が止めに入ります。今回は引率ですから、ちゃんと注意しなければなりません。男としては、ちょっとつらいところです。
「あーん、これがおつな物だと聞いてきたのに」
「いやあ、浴衣は実にいいもんだなぁ」
チラリとのぞいたエテの素足に感動しながら、イスカが感慨深げに言いました。おっと、星の模様のエテの浴衣姿も、もちろんステキです。
「ふんふん、浴衣はいい物と……。おっ、あっちにも、浴衣のエルフがいるやん」
素早くメモをとると、シグリッドにお面を買ってもらって頭に載せた黒の夢を見かけて、アカーシャが走りだしていきました。どちらかというと逃げだした?
「ああ、はぐれてはダメですよ」
慌てて、アルヘイルがアカーシャを引き止めようとします。
「わーい」
そこへ、はしゃいだ男の子が駆けてきました。前をよく見ていなかったので、アルヘイルに思いっきりぶつかります。ちょうど顔のあたりがアルヘイルの豊かな胸にあたって弾き返されました。反発係数は高いようです。
「危ないから、気をつけましょうね」
少し屈んで、サファイアブルーの瞳で男の子をのぞき込むようにしてアルヘイルが言いました。
「ごめんなさい」
よい香りのする長い銀髪が頬に零れかかってきて、男の子が真っ赤になって走り去っていきました。
「みんな、纏まって。さあ、まずは食べ物から制覇するぜ!」
これ以上散らばられては困ると、涼太が一同を集めて移動を開始しました。
●チョコバナナ屋台
「何か珍しい物はないかなあ。お土産にできる物だといいんだけど」
アマービレ・ミステリオーソ(ka0264)は、リアルブルーの友人から、お祭りはやっぱり浴衣だと聞いていました。せっかくだからと、金髪をシニョンにしてうなじを顕わにしながら、ちゃんと着こなしています。
「あっ、あれはどうかしら」
チョコバナナの屋台を見つけて、アマービレが近づいていきました。
「この喧騒、出店の匂い、そして皆の華やかな浴衣姿。やっぱりお祭りっていうのはいいものだねぇ」
チョコバナナの屋台に集まっている女の子たちの艶姿を見て、イスカが言いました。
ピンクのチョコバナナを買ってもらった浴衣姿の黒の夢が、キツネのお面を頭に載せたシグリッドをだきしめていいこいいこしています。さすがに、シグリッドはちょっと難しい顔をしていますが。猫のシェーラも、今は肩へと避難中です。
「お祭りの屋台って、意外とどこも同じなのかな?」
同じく買い食いを楽しんでいる超級まりお(ka0824)も、浴衣で夏祭りの雰囲気を明一杯楽しんでいます。
「面白い食べ物ですわねぇ」
いつも通りのふんだんにリボンをあしらった黒いゴスロリ姿のマリーシュカ(ka2336)も、物珍しげにチョコバナナを頬ばっています。ちょっとお祭りの装いと言うには違和感がありますが、これはこれでちょっと色っぽいです。
「これは、バナナをチョコレートでコーティングした物ですか?」
チョコバナナを見て、アルフェロアが聞きました。
「その通り。リアルブルーの祭りじゃ、定番なんだぜ」
涼太が自慢げに説明します。
ちょうどチョコバナナを買っていた柊 真司(ka0705)も、その言葉にはうんうんとうなずきます。
「へえ、そうなのですか。やはり、こちらの世界とは違いますね。まあ、でも、これはこれで面白いものですね」
ミウと一緒にその説明を横で聞いたオウカが、見たことのなかった食べ物に、ちょっと納得しました。
●リンゴ飴屋台
「さあ、いらっしゃいいらっしゃい。美味しいリンゴ飴だよー」
リンゴ飴の屋台を開いたジュード・エアハート(ka0410)が、元気な声で呼び込みをしています。
リンゴの他にも、ジェオルジで採れるブドウやトマトを串に刺し、飴でくるんで売っています。地元作物を利用しているのがポイントです。さらに、サービスとして、籤を引いてあたりが出れば、おまけにもう一本から三本までつけてしまおうという太っ腹です。
チョコバナナの屋台からほとんどそのまま流れてきた一団が、さっそく籤を引いては一喜一憂しています。
「おまけ三本もらいましたよ」
「わーい」
籤箱から金色の玉をつかみ取ったシグリッドが、両手にあまりそうな数々の飴を黒の夢に手渡しました。
「これも、食べ歩きには最高よね」
ぺろりと可愛らしくリンゴ飴をなめてから、アマービレが顔をほころばせます。
「よし、あてますよ」
珍しく気合いを込めて籤を引いたオウカでしたが、結果は白い玉で外れです。
「私は一つで十分だよ。はい、あーん」
ブドウの飴をオウカに差し出して、ミウが言いました。それをパクンと食べてから、お返しにと、オウカもトマトの飴をミウに食べさせあいます。
「あれ、美味しそうだね」
「そうか。よし、兄ちゃんが買ってやんぞ。どれがいい?」
鞍馬にねだられた凪が、まりおやマリーシュカたちをかき分けて飴を買います。
リンゴ飴屋さん、大繁盛です。
「おう、流行ってるじゃないか。儲かってるねえ」
それを見て、隣で焼きそば屋の屋台を開いているボルディア・コンフラムス(ka0796)が、ジュードに挨拶してきました。御近所づきあいは大切です。
「ええ、おかげさまで」
繁盛に気をよくして、ジュードが愛想よく答えます。
「リンゴ飴かあ。リアルブルーじゃ色つけたりいろんな中身があったけれどなあ」
懐かしいなあと、柊も、一つ買いました。
「ありました、ありました。ここです、ここ!」
ジュードから屋台を出すと聞いて期待していたエテが、涼太たちを引っぱってやってきました。
「やあ、エテさん、いらっしゃい。待ってたんだよ、じゃ、これはサービス」
エテが来るのを待っていたジュードが、サービスでブドウ飴をエテたちに一つずつ渡しました。
「わあ、表面がキラキラしてて、とっても綺麗です」
もらった飴を見て、エテが目を輝かせます。
「これ美味いな。材料、何使うとるん?」
ブドウ飴を食べたアカーシャが、ジュードに訊ねました。機会があれば、次回は自分で作って売る気満々です。
「これは、ブドウを飴でくるんだ物かしら。あちらは、リンゴ?」
「そうそう、見た通りですよ」
アルフェロアの言葉に、ジュードがうなずきました。
「隠し味は、そう……、愛情でしょうか」
「じゃあ、リンゴも一つくださいな」
ちょっとおどけるジュードに、アルフェロアがリンゴ飴も頼みました。
●焼きそば屋台
「おう、そこ行くニーチャンネーチャンたち、ちょっとウチの焼きそば食ってかねぇか!?」
ボルディアが、ジュードの屋台から出てくる食べ歩きの者たちを、次々にちゃっかりと呼び込んでいます。
ジュウジュウと音をたててソースの香りがたち、甘い物ばかり食べていた者たちの鼻孔をくすぐりました。
さっそく、耐えきれなくなった柊やまりおやマリーシュカたちが注文していきます。
「二人で一つを分けましょう」
それなら、まだ色々食べられると、オウカがミウに言いました。さすがに、全ての屋台を制覇できる強者の胃袋を持っている者はほとんどいないでしょう。多分……。
「兄さん……」
鞍馬も食べてみたくて凪におねだりします。こちらは、一口食べて満足してしまいそうですが、凪が楽勝で残りを平らげてくれるので心配ありません。
「これまた、珍しい食べ物やなあ。レシピはどないなってるん?」
「これはだな、焼きそばという由緒正しい定番グルメでなあ……」
アカーシャに聞かれて、涼太が待ってましたとばかりに独自の説明を繰り広げました。
「ようよう、兵士さんもずっと警備じゃ疲れんだろ? これ食ってちょっと休んでけよ、な?」
ボルディアに声をかけられて、少佐と一緒に見回りをしていた兵隊さんたちが、いいんですかと確認をしてきました。
「いいんじゃねえか? 今のところ、大したことは起きちゃいねえし。おう、あんたたちも、ちょっと一休みしようぜ」
あっさりと許可すると、少佐がリィンやウィルにも声をかけました。
「美味しそうだよね」
「ええ。いただきましょう」
ちょっと顔を見合わせて、リィンとウィルがうなずきあいました。
●クレープ屋台
「もう一つのお隣も、繁盛しているねえ。よう、頑張ろうな!」
好評に気をよくして、ボルディアが隣でクレープ屋台を開いている宇都宮 祥子(ka1678)にむかってコテを上げて挨拶しました。一気に少佐たちの七人分の焼きそばを作り始めたので、それ以上はちょっと手が放せません。
そんな祥子の屋台では、ルイーザと璃人と明たちがクレープを食べていました。
「遅いお昼ですが、食べ損なっていましたからねえ」
周囲に散らばったゴミを手早く拾い集めてゴミ箱に捨てて戻ってきた璃人が、ルイーザたちに言いました。
「まあ、こういう雰囲気も、祭りの醍醐味だな」
「うんうん、活気があっていいってことだね。これなら、みんな歪虚になんて負けないさ」
明の言葉に、ルイーザがうなずきます。
「この食べ物のレシピはどうなってるんや?」
メモを片手に、アカーシャがこちらでも情報収集に余念がありません。
「今、ちょっと忙しいんで、後にしてくれますかあ」
さすがに注文を捌くのに手一杯で、祥子が答えました。
鉄板の上でクルリとお玉を回転させてクレープを焼いていきます。そこへジャムと生クリームをたっぷり塗って、刻んだフルーツをこれでもかと載せてクルクルと巻きます。
本当は、金型があればベビーカステラを焼きたかったのですが、さすがに道具が揃っていなければできません。それに、鉄板があれば作れるクレープは、比較的楽なので屋台むきです。
「お待たせしましたー」
待っていたミウとオウカに、祥子が焼き上げたばかりのクレープを渡しました。その後ろには、まりおとマリーシュカが順番を待っています。まったく、食い歩きに全身全霊を捧げている者たちの胃袋は底なしです。見れば、鞍馬が凪の腕を引っぱってこっちへとやってきます。
「これはちょっと待たされそうかな」
並ぶ列を見て、柊が言いました。
●射的
お祭りの屋台は、何も食べ物だけではありません。
リアルブルーでは定番の射的などの屋台も出ています。
「あのクマさん人形ですね。大丈夫、見ていてください」
シグリッドが黒の夢に自信満々で言うと、コルク鉄砲の狙いを定めます。
スパーン!
「おっしぃー」
「ううっ……」
みごとに外しました。もう少し射撃練習をしておけばと思いますが、玩具のコルク鉄砲の命中精度なんて、こんなものです。
「やはり、こういう物があれば、挑戦しないわけにはいきませんよね」
「うん、頑張ってー」
隣でのシグリッドの失敗にニヤリとしながら、オウカが挑戦します。応援するミウは、なんだか少しだけ眠そうです。少しお腹がいっぱいになったのでしょうか。
スパーン!
小さなボールの玩具に命中しました。
「ここが、射的屋だ」
撃ちまくりたいというエテに頼まれて、涼太が案内してきました。
「ありがとー。ふふっ、さあ、ぶち抜くわよ!」
なんだか射的を楽しみにしていたらしいエテは、やる気満々です。浴衣姿のままひょいと小さなお尻を突き出して、シグリッドが撃ちもらしたクマさん人形に狙いを定めます。
「いっけー!」
スパーン!
外れました。
「いっけー!」
スパーン!
外れました。
「うぐぐぐぐ……。次こそ!」
外しまくり、悔しそうにエテがお尻を震わせました。
●ヨーヨー釣り
こちらは、ヨーヨー釣りの屋台です。プールに浮かべた水風船のヨーヨーを、紙の紙縒りの先に結んだ針で釣り上げる遊びです。もちろん、紙は水に溶けるので、簡単には釣れません。
「大漁だよね」
「もちろんですとも」
みごとにたくさん釣り上げた水風船のヨーヨーを両手にぶら下げて、オウカがミウと一緒に次の屋台にむかいました。
浅いプールの前では、黒の夢とシグリッドがヨーヨーを釣り上げている真っ最中です。
「頑張れー」
「今度こそ任せてください」
黒の夢に応援されながら、シグリッドが昔の記憶を辿って、器用に水風船のヨーヨーを釣り上げていきます。名誉挽回です。
「兄ちゃん、負けるなー」
「おうよ! あれっ……!?」
隣では、鞍馬の応援を受けて、凪が負けじと水風船を釣り上げていきます。
「むっ」
「むむむむむ」
なんだか、シグリッドと凪で、競争のようになってきました。
瞬く間に、二人の釣り上げた水風船が、タライの中に積みあがっていきました。
それが、猫たちの好奇心を刺激してしまったのでしょうか。シグリッドのシェーラと凪のティグとリオンが、水風船をちょんちょんと突きました。
パン!
水風船が仔猫たちの爪に触れて破裂します。
「にゃああ!!」
驚いた仔猫たちは、一目散に逃げだしました。
「ああっ!」
慌てたのはシグリッドと凪です。黒の夢と鞍馬たちと一緒に、急いで猫たちの後を追いかけていきました。
●紙芝居
「さあさ、みなさん、もう水飴はもらいました? では、始まり始まりー」
華やかに花で飾られた屋台で紙芝居を始めたのは、エルウィング・ヴァリエ(ka0814)でした。清楚なおっとりとした美少女です。
舞台で歌ったり踊ったり、あるいは屋台で料理をすることもできそうにないので、リアルブルーの童話を紙芝居にして披露しようと思ったのでした。演目は人魚姫にシンデレラに白雪姫です。
お手伝いのパルムが飴を配る中、すばらしくファンシーな水彩画で描かれた紙芝居を読んで聞かせていきます。
「これはちょっと面白いけれど……」
なんだか、バックに薔薇の花が自動で現れそうな光景に、水飴を食べながら柊がちょっと困ったような顔をしました。周囲には、興味津々で集まったクリムゾンウェストの子供たちが一杯です。
紙芝居は、語りが結構大変なのですが、ヴァリエは表情豊かに、よく通る声でそつなくこなしていきます。
「めでたしめでたしー。それでは、次のお話です」
綺麗にお話を締めくくると、ヴァリエは次の紙芝居を華やかな枠にセットしました。
●迷子
「シェーラさーん」
「おーい、ティグ、リオン、どこ行っちまったんだー」
迷子になってしまった仔猫たちを捜して、シグリッドと凪が、必死に屋台の下などをのぞき込んでいました。鞍馬も一緒に捜しています。
「迷子ですか? 大丈夫、わたくしがきっと見つけてさしあげます」
「うん、もちろんだよ」
それに気づいたウィルとリィンが、さっそく仔猫を捜し始めます。
「やれやれ、迷子がいるって聞いたが、猫かよ。ほら、お前たちも捜してこい」
「はい、少佐」
田舎の事件など、しょせんこんな物だなと、少佐が兵隊さんたちにも命じて仔猫たちを捜させました。
「あっ、あそこ!」
少しして、リィンが仔猫たちを見つけました。
屋台の輪の外にある木陰で、ミウがオウカの膝枕でのんびりうたた寝をしています。そこへ、いつの間にか仔猫たちが集まってミウに身体をくっつけて一緒に寝ていたのです。そばには、さっきまで仔猫たちが遊んでいたボールが転がっていました。どうやら、ミウは、猫たちに好かれる体質のようでした。
「シェーラさーん」
「ティグ! リオン!」
シグリッドと凪は、自分の仔猫たちにむかって突進していきました。
「な、何!?」
思わず、オウカが日本刀に手をのばします。
「ああ、待て、早まるなー!」
少佐たちは、慌てて間に入っていきました。
●ステージ
「さあ、みんな。歪虚など怖くはないぞ。そうだ、こういう時こそ、彼を呼ぶんだ、ガイアードを!」
中央の櫓の上で、鳴神 真吾(ka2626)が叫びました。
子供たちがわーわーと歓声をあげます。
「とうっ!!」
真吾がジャンプすると、櫓の四方からスモークが噴きあがりました。
煙に隠れている間に、真吾が必死でヒーロースーツに着替えます。
「機導特査ガイアード!!」
かろうじて着替えに成功し、真吾がポーズを決めました。
「大丈夫、私とハンターの皆が、じきに君たちが家に帰れるようにしてみせる。だから、君たちもいつか大人になった時は、誰かのために頑張れるような人間になって欲しい。それだけが私の願いだ」
目をキラキラさせている子供たちにむかって、真吾が大きな声で言いました。
「シグリッド、どこー」
仔猫捜しでシグリッドとはぐれてしまった黒の夢が、ちょっと不安そうに櫓の周りを歩いていました。
「どうかしました?」
「さっきの浴衣のお姉さんじゃないかぁ」
それに気づいたアルフェロアとイスカが声をかけました。他のみんなは、ゲームや食べ物の屋台に引っ掛かっています。
「よかったら、僕らが相談に乗るよ」
「ええっと、迷子でー」
黒の夢がイスカに答えようとした時、突然、そばに真吾が現れました。
「とうっ! みんな、困っているのかな。困った時は、私を呼びたまえ。ガイアードは、いつでも誰でも助けてみせる。では、そういうことで、舞台の上に、ささっ!」
ちょうどいいエキストラだと、真吾が少し強引にアルフェロアと黒の夢の手を引っぱりました。
「まあ、ナンパでしょうか……」
なんとなく少し嬉しそうにアルフェロアが言いました。
「嫌あ。シグリッド、どこー」
知らない人、いや、知らない仮面のヒーローなので、黒の夢がちょっと嫌がります。
「そこ、何やってますの? このロリっとしたわたくしの前で、破廉恥な真似は許しませんわよ」
それを見たマリーシュカが間に割って入りました。ヒーローですから、マリーシュカのような子供の目の前では、ヘタなことはできないだろうとふんでの乱入です。
「ちょうどいい、君たちもステージへ。可愛い女の子は大歓迎だ」
なんだか、逆に真吾が喜びます。
「アホか。新手のナンパか? 一人だけハーレムは許せん」
「だが、しかし、一人ハーレムはヒーローの特権!」
「ヒーローは、孤高じゃないのか?」
なんだか、微妙に会話がかみ合っていません。
「そこ、何をもめている!」
騒ぎに気づいて、少佐やルイーザたちもやってきました。
「お祭りだからって、はめを外し過ぎちゃダメだよ」
「でも、まあ、誘うのでしたら、もっと可愛い方が目の前にいらっしゃるでしょう?」
ちゃんと注意するリィンの横で、ウィルがちょっと科を作って見せました。
「もっと可愛いって、どういうことですの!」
その言葉に、マリーシュカが噛みつきます。
「シグリッド~」
「さあ、共に戦おう! ステージ上で、僕と握手だ!」
「浴衣の独り占めは許せないな」
「あらあら、まあまあ」
「お前たちなあ……」
少佐が、呆れて天を仰ぎました。
「せっかくの祭りで、怪我したり、怪我させたりしたら、つまんないでしょー! ここは皆で楽しもうよ」
なんとか、明が間に割って入ろうとします。
「姐御、ここはさっさと片づけてもいいですかあ?」
「許す。やっておしまい!」
璃人に聞かれて、ルイーザがあっさりと言い放ちました。
「おい、こ、こら……」
少佐が止める間もあればこそ、もう何がなんだか分からなくなってきました。
その時です、突然大きな音が鳴り響きました。
「いえーい、みんな乗ってるかーい!!」
いつの間にかステージに上がってオルガンを大音響で鳴らしたのは、ジョナサン・キャラウェイ(ka1084)です。
いつもの白衣とは違って、今日はバリッとしたスーツ姿です。ちょっと緊張しているようにも見えますが、それもまたステージの醍醐味ということでどこかしら楽しんでいるようにも見えます。
「いえーい!」
「いえーい!」
ジョナサンの乗りに、涼太たちがテンションをあわせて、腕を突きあげて叫びました。
「歪虚なんてくそくらえだあ! みんな、ファンキーに盛りあがるぜえ!」
そう叫ぶなり、ジョナサンが激しくオルガンを弾き鳴らします。
「うーん、この乗り……。ダメ、身体が勝手に動いちゃう。いえーい!」
そんなジョナサンの音楽につられて、リィンがステージに駆けあがっていきました。
「我輩も……」
つられるように、黒の夢もステージへと駆けあがっていきました。
「ああ、あんな所にいた!」
捜していたシグリッドが、黒の夢に気づいて、盛りあがる人々をかき分けてやってきます。
「ふふふふ。みんな、私をおいて盛りあがっちゃダメだよ!」
そう言うと、我慢できなくなったアマービレもステージに駆けあがっていきました。他にも何人かがステージに上がり、ジョナサンの演奏にあわせて踊りだしました。
「ジェオルジのみんなー、元気出たー?」
曲にあわせて、アマービレが即興で歌いだしました。その綺麗で力強い歌声に、会場がさらに盛りあがります。
「なんだかなあ、これがお祭り? 変わっているというか、なんというか……。でも、盛りあがれば、それでいいのかもしれませんわね。いえーい!」
周りの人々の踊りの輪の中に加わると、マリーシュカも楽しそうに歓声をあげました。
ひとときの夏祭りは、人々の心に元気の火を点したようです。
「こちらの調子はどうだい? あたしたちは、ちょっといい汗かいてきたけれどもね」
手早く周辺の巡視を終えて戻ってきたルイーザ・ジェオルジが、アルマート・トレナーレ(kz0044)に訊ねました。
ルイーザに同行した紺野 璃人(ka1825)と日高・明(ka0476)も一緒に戻ってきています。
入れ替わりに、別の小隊が巡視に出かけていきます。
「こっちは、まあ、順調かな」
暇なもんさと、少佐が答えました。
ルイーザたちは、巡視の途中で野犬の小集団を見つけたりしましたが、璃人のホーリーライトなどで追っ払っています。傷つけてしまっては、血の臭いなどで他の動物を引き寄せてしまいかねませんから、今日は追い払うにとどめていました。
「これだけ人が騒いでいれば、むやみに近づいてくる動物もいないだろう」
すでに盛りあがっている祭りの様子を見て、明が言いました。ある程度追い払ってしまえば、祭りの喧騒や明かりに警戒して、再び近づいてくることもないでしょう。
「ああ、僕もお祭り気分に浸ってきているのかな。今だけは何でもできそうな気分だ」
銀髪を軽くかきあげて、璃人が設営を手伝った会場を満足気に見回しました。色とりどりの提灯の列が、中央の少し高い櫓から、周囲の屋台へとむけて放射状に広がっています。夜になったとしても、その照明で結構明るくなりそうです。
あらためて、無事に祭りを成功させるぞという気分になってきます。
今回の夏祭りは、歪虚の襲撃から避難するためにヴァリオスなどの都会から来た人たちを励ますためものでした。そういうハイセンスな人たちに馬鹿にされないようにと考えたジェオルジ家が、主にリアルブルー出身のハンターたちの意見を入れて会場作りを行ったわけです。おかげで、リアルブルーの者たちにはどこか懐かしく、クリムゾンウェストの者たちには奇妙な物珍しい祭りとなっていました。
集まった屋台は、同盟風のバンカレッラ(屋台)というよりは、リアルブルーの縁日風の物です。
「こういうのは、元の世界と変わんないなあ」
ちょっとホッとしたように、明が和みます。
「じゃあ、俺は祭りを堪能……、いや、問題が起きないようにブラブラしてっから」
「あたしも、そうするわ」
警備組は二手に分かれると、会場の中をブラブラと巡視することにしました。
ルイーザには、璃人と明が引き続き同行します。
少佐の方は、地元の若い兵隊さんたち四人と、ウィルヘルミナ=スピナハイム(ka1625)とリィン・ファナル(ka0225)が同行しました。
「ウィルと呼んでくださいまし。今日一日、よろしくお願いしますわ。かっこいい少佐様♪」
ピンク色の長い髪を靡かせて、ウィルが少佐に自己紹介しました。ちょっと胸のあたりの肉付きがいい美少女です。
「へへっ、格好いいかなあ。なあ、なあ?」
「ええと……」
「うんうん」
少佐に無理矢理同意を求められて、兵隊さんたちがひくつきます。
なんだか、珍しい物でも見たように、そばでリィンが苦笑しました。こちらは、ウィルとは対照的なすらりとした細身の少女で、ちょっと広いおでこをのぞかせながら、長い黒髪をサイドで一つに纏めています。
「ようし、とにかく繰り出そうぜ」
少佐が歩き始めました。
会場には、すでにたくさんの人が集まっています。屋台はどれもにぎやかで、人々は円形の広場をグルグルと回りながら、屋台で足を止めては色々と異国情緒たっぷりのお祭りを楽しんでいるようです。
「なんだか、懐かしい感じもしますよね……」
お祭りの風景を楽しみながら、リィンが言いました。エルフの里にはこういったお祭りはありませんから、もしかしたら彼女の薄れかけているリアルブルーの記憶に、これと同じ物があったのかもしれません。
「あら、どうしましたの?」
人々の中に、ポツンと座り込んでいる少女を見つけて、ウィルが声をかけました。
「お家帰りたい……」
ぼそっと、少女が答えます。どうやら、ヴァリオスから疎開してきているようです。ホームシックにでもかかっているのでしょう。
「大丈夫。ここと同じように、たくさんの人たちが、海の歪虚をやっつけようと頑張っていますの。みんなで協力すれば、どんな歪虚でも追い払えるはずですわ! 希望を持って。わたくしたちが、それを信じていなければダメなのですわ。じきにお家へも帰れます。それまで、一緒に頑張りましょう♪」
「うん」
ウィルが励ましていると、兵隊さんの一人が綿飴を持ってきてくれました。
「わー、ありがとー」
それを受け取ると、少女がニッコリと微笑みました。
「みんな楽しそうだねえ」
ちょっと眠たげな表情をしたミウ・ミャスカ(ka0421)が、周囲の人混みをなんとはなしにながめて言いました。寝癖なのか、長い銀髪はあちこちで大きく撥ねています。
「そうだね。でも、人が多いから、ミウも気をつけないとね」
隣を歩くオウカ・カゲツ(ka0830)が、赤い瞳で周囲に気を配りながら、ミウが人にぶつからないようにと注意しています。こちらは、黒髪を靡かせた、凛とした長身の女性でした。ぽやんとしたミウとは、対照的です。
身長と言えば、こちらの二人もちょっと極端でした。エルフである黒の夢(ka0187)と連れだって歩くシグリッド=リンドベリ(ka0248)は、頭二つ分ほど身長が低いです。それを埋めるためでしょうか、シグリッドの頭の上には、猫のシェーラが乗っていました。
「お祭りキラキラ綺麗なのなー♪ それに美味しいニオイ!」
シグリッドに勧められてか、黒の夢は浴衣を着ています。団扇を持って、黒髪を後ろ手に一つに纏めて、三つ編みにた姿は、意外と似合っています。けれども、その豊かな胸は襟元からちょっと零れそうで、シグリッドはちょっと気が気ではありません。
小柄でちょっと儚げなシグリッドと比べて、長身と黒い肌も相まってか、黒の夢はちょっと迫力があります。もっとも、本人はちょっとぽやぽやしていて、いたって呑気なのですが。
「そうですね。あっちの食べ物屋さんに行ってみましょうか」
目をキラキラさせて周囲を物珍しそうに見回す黒の夢の手を引いて、シグリッドが屋台の方へと歩きだしました。
「よし、今日は思いっきり楽しもうぜ、鞍馬。せっかくの祭りなんだからよ」
義弟である鞍馬 ハスロ(ka0608)の頭を乱暴にわしゃわしゃと撫で繰り回しながら、ツンツン頭の飄 凪(ka0592)が豪快に言いました。レザージャケットの大きなポケットには、ティグとリオンという名の二匹の虎縞の仔猫を入れています。
「ちょっと、凪兄さん、痛いよお」
あまり豪快に頭を撫でられると、線の細い鞍馬は壊れてしまいそうです。
「おっ、わりい、わりい。欲しいもんがあれば何でも言ってくれよな。兄ちゃんが買ってやるからよ」
「うん、ありがとう、凪兄さん」
「よっし。じゃあ、手始めにあの辺から行ってみよーかあ」
そう言うと、凪は人混みをかき分けて鞍馬のために道を作りながら進んでいきました。
人混みの中で、ひときわ目だっていたのは、春次 涼太(ka2765)を中心とする一団でした。
「みんな、今日はオレに任せとけよ。なにしろ祭りならプロだからな、プロ。めっちゃ遊んでるお祭り男って言ったら、オレのことだからなっ!」
いっちばーんとポーズをとりながら、涼太が言いました。緑のピンで留めたオールバックのデコの下で、メガネがキラーンと光ります。
「アホか。頼むから、あまり調子に乗んなよ」
こんな調子で大丈夫かと、イスカ・ティフィニア(ka2222)がちょっと心配になって言いました。
「ふふふふ、今日はお頼みしますわね」
アルフェロア・アルヘイル(ka0568)が、涼太に微笑みました。
「ふむふむ、よろしゅう案内頼んまっせ。なにせ、リアルブルーのハンターたちが入れ知恵……おっとっと、助言してるんやろ。これがおもろないはずがないやんか。前例がない分野は、まっさらの白紙や。これは、商売し放題やでー」
盛んにメモをとりながら、アカーシャ・ヘルメース(ka0473)が、グッと拳を握りしめました。ここは、商人としての血が騒ぎます。
「ナツマツリー! リアルブルーのお祭りって、楽しそうだよね」
エテ(ka1888)が、軽くジャンプしてはしゃぎました。お祭りの正装だと涼太に聞いて着てきた浴衣の袂が大きく左右に振れ、背中に流したピンク色の髪が帯の上で踊りました。
「そういや、エテはんが着てはるのって、浴衣ゆうんやろ。見せてや、見せてや」
興味津々のアルヘイルが、ぴらっとエテの浴衣の裾をつまんでめくろうとしました。
「きやっ!」
エテが、慌てて飛び退きます。
「お前、それはダメだぞ。セクハラだ」
さすがに、涼太が止めに入ります。今回は引率ですから、ちゃんと注意しなければなりません。男としては、ちょっとつらいところです。
「あーん、これがおつな物だと聞いてきたのに」
「いやあ、浴衣は実にいいもんだなぁ」
チラリとのぞいたエテの素足に感動しながら、イスカが感慨深げに言いました。おっと、星の模様のエテの浴衣姿も、もちろんステキです。
「ふんふん、浴衣はいい物と……。おっ、あっちにも、浴衣のエルフがいるやん」
素早くメモをとると、シグリッドにお面を買ってもらって頭に載せた黒の夢を見かけて、アカーシャが走りだしていきました。どちらかというと逃げだした?
「ああ、はぐれてはダメですよ」
慌てて、アルヘイルがアカーシャを引き止めようとします。
「わーい」
そこへ、はしゃいだ男の子が駆けてきました。前をよく見ていなかったので、アルヘイルに思いっきりぶつかります。ちょうど顔のあたりがアルヘイルの豊かな胸にあたって弾き返されました。反発係数は高いようです。
「危ないから、気をつけましょうね」
少し屈んで、サファイアブルーの瞳で男の子をのぞき込むようにしてアルヘイルが言いました。
「ごめんなさい」
よい香りのする長い銀髪が頬に零れかかってきて、男の子が真っ赤になって走り去っていきました。
「みんな、纏まって。さあ、まずは食べ物から制覇するぜ!」
これ以上散らばられては困ると、涼太が一同を集めて移動を開始しました。
●チョコバナナ屋台
「何か珍しい物はないかなあ。お土産にできる物だといいんだけど」
アマービレ・ミステリオーソ(ka0264)は、リアルブルーの友人から、お祭りはやっぱり浴衣だと聞いていました。せっかくだからと、金髪をシニョンにしてうなじを顕わにしながら、ちゃんと着こなしています。
「あっ、あれはどうかしら」
チョコバナナの屋台を見つけて、アマービレが近づいていきました。
「この喧騒、出店の匂い、そして皆の華やかな浴衣姿。やっぱりお祭りっていうのはいいものだねぇ」
チョコバナナの屋台に集まっている女の子たちの艶姿を見て、イスカが言いました。
ピンクのチョコバナナを買ってもらった浴衣姿の黒の夢が、キツネのお面を頭に載せたシグリッドをだきしめていいこいいこしています。さすがに、シグリッドはちょっと難しい顔をしていますが。猫のシェーラも、今は肩へと避難中です。
「お祭りの屋台って、意外とどこも同じなのかな?」
同じく買い食いを楽しんでいる超級まりお(ka0824)も、浴衣で夏祭りの雰囲気を明一杯楽しんでいます。
「面白い食べ物ですわねぇ」
いつも通りのふんだんにリボンをあしらった黒いゴスロリ姿のマリーシュカ(ka2336)も、物珍しげにチョコバナナを頬ばっています。ちょっとお祭りの装いと言うには違和感がありますが、これはこれでちょっと色っぽいです。
「これは、バナナをチョコレートでコーティングした物ですか?」
チョコバナナを見て、アルフェロアが聞きました。
「その通り。リアルブルーの祭りじゃ、定番なんだぜ」
涼太が自慢げに説明します。
ちょうどチョコバナナを買っていた柊 真司(ka0705)も、その言葉にはうんうんとうなずきます。
「へえ、そうなのですか。やはり、こちらの世界とは違いますね。まあ、でも、これはこれで面白いものですね」
ミウと一緒にその説明を横で聞いたオウカが、見たことのなかった食べ物に、ちょっと納得しました。
●リンゴ飴屋台
「さあ、いらっしゃいいらっしゃい。美味しいリンゴ飴だよー」
リンゴ飴の屋台を開いたジュード・エアハート(ka0410)が、元気な声で呼び込みをしています。
リンゴの他にも、ジェオルジで採れるブドウやトマトを串に刺し、飴でくるんで売っています。地元作物を利用しているのがポイントです。さらに、サービスとして、籤を引いてあたりが出れば、おまけにもう一本から三本までつけてしまおうという太っ腹です。
チョコバナナの屋台からほとんどそのまま流れてきた一団が、さっそく籤を引いては一喜一憂しています。
「おまけ三本もらいましたよ」
「わーい」
籤箱から金色の玉をつかみ取ったシグリッドが、両手にあまりそうな数々の飴を黒の夢に手渡しました。
「これも、食べ歩きには最高よね」
ぺろりと可愛らしくリンゴ飴をなめてから、アマービレが顔をほころばせます。
「よし、あてますよ」
珍しく気合いを込めて籤を引いたオウカでしたが、結果は白い玉で外れです。
「私は一つで十分だよ。はい、あーん」
ブドウの飴をオウカに差し出して、ミウが言いました。それをパクンと食べてから、お返しにと、オウカもトマトの飴をミウに食べさせあいます。
「あれ、美味しそうだね」
「そうか。よし、兄ちゃんが買ってやんぞ。どれがいい?」
鞍馬にねだられた凪が、まりおやマリーシュカたちをかき分けて飴を買います。
リンゴ飴屋さん、大繁盛です。
「おう、流行ってるじゃないか。儲かってるねえ」
それを見て、隣で焼きそば屋の屋台を開いているボルディア・コンフラムス(ka0796)が、ジュードに挨拶してきました。御近所づきあいは大切です。
「ええ、おかげさまで」
繁盛に気をよくして、ジュードが愛想よく答えます。
「リンゴ飴かあ。リアルブルーじゃ色つけたりいろんな中身があったけれどなあ」
懐かしいなあと、柊も、一つ買いました。
「ありました、ありました。ここです、ここ!」
ジュードから屋台を出すと聞いて期待していたエテが、涼太たちを引っぱってやってきました。
「やあ、エテさん、いらっしゃい。待ってたんだよ、じゃ、これはサービス」
エテが来るのを待っていたジュードが、サービスでブドウ飴をエテたちに一つずつ渡しました。
「わあ、表面がキラキラしてて、とっても綺麗です」
もらった飴を見て、エテが目を輝かせます。
「これ美味いな。材料、何使うとるん?」
ブドウ飴を食べたアカーシャが、ジュードに訊ねました。機会があれば、次回は自分で作って売る気満々です。
「これは、ブドウを飴でくるんだ物かしら。あちらは、リンゴ?」
「そうそう、見た通りですよ」
アルフェロアの言葉に、ジュードがうなずきました。
「隠し味は、そう……、愛情でしょうか」
「じゃあ、リンゴも一つくださいな」
ちょっとおどけるジュードに、アルフェロアがリンゴ飴も頼みました。
●焼きそば屋台
「おう、そこ行くニーチャンネーチャンたち、ちょっとウチの焼きそば食ってかねぇか!?」
ボルディアが、ジュードの屋台から出てくる食べ歩きの者たちを、次々にちゃっかりと呼び込んでいます。
ジュウジュウと音をたててソースの香りがたち、甘い物ばかり食べていた者たちの鼻孔をくすぐりました。
さっそく、耐えきれなくなった柊やまりおやマリーシュカたちが注文していきます。
「二人で一つを分けましょう」
それなら、まだ色々食べられると、オウカがミウに言いました。さすがに、全ての屋台を制覇できる強者の胃袋を持っている者はほとんどいないでしょう。多分……。
「兄さん……」
鞍馬も食べてみたくて凪におねだりします。こちらは、一口食べて満足してしまいそうですが、凪が楽勝で残りを平らげてくれるので心配ありません。
「これまた、珍しい食べ物やなあ。レシピはどないなってるん?」
「これはだな、焼きそばという由緒正しい定番グルメでなあ……」
アカーシャに聞かれて、涼太が待ってましたとばかりに独自の説明を繰り広げました。
「ようよう、兵士さんもずっと警備じゃ疲れんだろ? これ食ってちょっと休んでけよ、な?」
ボルディアに声をかけられて、少佐と一緒に見回りをしていた兵隊さんたちが、いいんですかと確認をしてきました。
「いいんじゃねえか? 今のところ、大したことは起きちゃいねえし。おう、あんたたちも、ちょっと一休みしようぜ」
あっさりと許可すると、少佐がリィンやウィルにも声をかけました。
「美味しそうだよね」
「ええ。いただきましょう」
ちょっと顔を見合わせて、リィンとウィルがうなずきあいました。
●クレープ屋台
「もう一つのお隣も、繁盛しているねえ。よう、頑張ろうな!」
好評に気をよくして、ボルディアが隣でクレープ屋台を開いている宇都宮 祥子(ka1678)にむかってコテを上げて挨拶しました。一気に少佐たちの七人分の焼きそばを作り始めたので、それ以上はちょっと手が放せません。
そんな祥子の屋台では、ルイーザと璃人と明たちがクレープを食べていました。
「遅いお昼ですが、食べ損なっていましたからねえ」
周囲に散らばったゴミを手早く拾い集めてゴミ箱に捨てて戻ってきた璃人が、ルイーザたちに言いました。
「まあ、こういう雰囲気も、祭りの醍醐味だな」
「うんうん、活気があっていいってことだね。これなら、みんな歪虚になんて負けないさ」
明の言葉に、ルイーザがうなずきます。
「この食べ物のレシピはどうなってるんや?」
メモを片手に、アカーシャがこちらでも情報収集に余念がありません。
「今、ちょっと忙しいんで、後にしてくれますかあ」
さすがに注文を捌くのに手一杯で、祥子が答えました。
鉄板の上でクルリとお玉を回転させてクレープを焼いていきます。そこへジャムと生クリームをたっぷり塗って、刻んだフルーツをこれでもかと載せてクルクルと巻きます。
本当は、金型があればベビーカステラを焼きたかったのですが、さすがに道具が揃っていなければできません。それに、鉄板があれば作れるクレープは、比較的楽なので屋台むきです。
「お待たせしましたー」
待っていたミウとオウカに、祥子が焼き上げたばかりのクレープを渡しました。その後ろには、まりおとマリーシュカが順番を待っています。まったく、食い歩きに全身全霊を捧げている者たちの胃袋は底なしです。見れば、鞍馬が凪の腕を引っぱってこっちへとやってきます。
「これはちょっと待たされそうかな」
並ぶ列を見て、柊が言いました。
●射的
お祭りの屋台は、何も食べ物だけではありません。
リアルブルーでは定番の射的などの屋台も出ています。
「あのクマさん人形ですね。大丈夫、見ていてください」
シグリッドが黒の夢に自信満々で言うと、コルク鉄砲の狙いを定めます。
スパーン!
「おっしぃー」
「ううっ……」
みごとに外しました。もう少し射撃練習をしておけばと思いますが、玩具のコルク鉄砲の命中精度なんて、こんなものです。
「やはり、こういう物があれば、挑戦しないわけにはいきませんよね」
「うん、頑張ってー」
隣でのシグリッドの失敗にニヤリとしながら、オウカが挑戦します。応援するミウは、なんだか少しだけ眠そうです。少しお腹がいっぱいになったのでしょうか。
スパーン!
小さなボールの玩具に命中しました。
「ここが、射的屋だ」
撃ちまくりたいというエテに頼まれて、涼太が案内してきました。
「ありがとー。ふふっ、さあ、ぶち抜くわよ!」
なんだか射的を楽しみにしていたらしいエテは、やる気満々です。浴衣姿のままひょいと小さなお尻を突き出して、シグリッドが撃ちもらしたクマさん人形に狙いを定めます。
「いっけー!」
スパーン!
外れました。
「いっけー!」
スパーン!
外れました。
「うぐぐぐぐ……。次こそ!」
外しまくり、悔しそうにエテがお尻を震わせました。
●ヨーヨー釣り
こちらは、ヨーヨー釣りの屋台です。プールに浮かべた水風船のヨーヨーを、紙の紙縒りの先に結んだ針で釣り上げる遊びです。もちろん、紙は水に溶けるので、簡単には釣れません。
「大漁だよね」
「もちろんですとも」
みごとにたくさん釣り上げた水風船のヨーヨーを両手にぶら下げて、オウカがミウと一緒に次の屋台にむかいました。
浅いプールの前では、黒の夢とシグリッドがヨーヨーを釣り上げている真っ最中です。
「頑張れー」
「今度こそ任せてください」
黒の夢に応援されながら、シグリッドが昔の記憶を辿って、器用に水風船のヨーヨーを釣り上げていきます。名誉挽回です。
「兄ちゃん、負けるなー」
「おうよ! あれっ……!?」
隣では、鞍馬の応援を受けて、凪が負けじと水風船を釣り上げていきます。
「むっ」
「むむむむむ」
なんだか、シグリッドと凪で、競争のようになってきました。
瞬く間に、二人の釣り上げた水風船が、タライの中に積みあがっていきました。
それが、猫たちの好奇心を刺激してしまったのでしょうか。シグリッドのシェーラと凪のティグとリオンが、水風船をちょんちょんと突きました。
パン!
水風船が仔猫たちの爪に触れて破裂します。
「にゃああ!!」
驚いた仔猫たちは、一目散に逃げだしました。
「ああっ!」
慌てたのはシグリッドと凪です。黒の夢と鞍馬たちと一緒に、急いで猫たちの後を追いかけていきました。
●紙芝居
「さあさ、みなさん、もう水飴はもらいました? では、始まり始まりー」
華やかに花で飾られた屋台で紙芝居を始めたのは、エルウィング・ヴァリエ(ka0814)でした。清楚なおっとりとした美少女です。
舞台で歌ったり踊ったり、あるいは屋台で料理をすることもできそうにないので、リアルブルーの童話を紙芝居にして披露しようと思ったのでした。演目は人魚姫にシンデレラに白雪姫です。
お手伝いのパルムが飴を配る中、すばらしくファンシーな水彩画で描かれた紙芝居を読んで聞かせていきます。
「これはちょっと面白いけれど……」
なんだか、バックに薔薇の花が自動で現れそうな光景に、水飴を食べながら柊がちょっと困ったような顔をしました。周囲には、興味津々で集まったクリムゾンウェストの子供たちが一杯です。
紙芝居は、語りが結構大変なのですが、ヴァリエは表情豊かに、よく通る声でそつなくこなしていきます。
「めでたしめでたしー。それでは、次のお話です」
綺麗にお話を締めくくると、ヴァリエは次の紙芝居を華やかな枠にセットしました。
●迷子
「シェーラさーん」
「おーい、ティグ、リオン、どこ行っちまったんだー」
迷子になってしまった仔猫たちを捜して、シグリッドと凪が、必死に屋台の下などをのぞき込んでいました。鞍馬も一緒に捜しています。
「迷子ですか? 大丈夫、わたくしがきっと見つけてさしあげます」
「うん、もちろんだよ」
それに気づいたウィルとリィンが、さっそく仔猫を捜し始めます。
「やれやれ、迷子がいるって聞いたが、猫かよ。ほら、お前たちも捜してこい」
「はい、少佐」
田舎の事件など、しょせんこんな物だなと、少佐が兵隊さんたちにも命じて仔猫たちを捜させました。
「あっ、あそこ!」
少しして、リィンが仔猫たちを見つけました。
屋台の輪の外にある木陰で、ミウがオウカの膝枕でのんびりうたた寝をしています。そこへ、いつの間にか仔猫たちが集まってミウに身体をくっつけて一緒に寝ていたのです。そばには、さっきまで仔猫たちが遊んでいたボールが転がっていました。どうやら、ミウは、猫たちに好かれる体質のようでした。
「シェーラさーん」
「ティグ! リオン!」
シグリッドと凪は、自分の仔猫たちにむかって突進していきました。
「な、何!?」
思わず、オウカが日本刀に手をのばします。
「ああ、待て、早まるなー!」
少佐たちは、慌てて間に入っていきました。
●ステージ
「さあ、みんな。歪虚など怖くはないぞ。そうだ、こういう時こそ、彼を呼ぶんだ、ガイアードを!」
中央の櫓の上で、鳴神 真吾(ka2626)が叫びました。
子供たちがわーわーと歓声をあげます。
「とうっ!!」
真吾がジャンプすると、櫓の四方からスモークが噴きあがりました。
煙に隠れている間に、真吾が必死でヒーロースーツに着替えます。
「機導特査ガイアード!!」
かろうじて着替えに成功し、真吾がポーズを決めました。
「大丈夫、私とハンターの皆が、じきに君たちが家に帰れるようにしてみせる。だから、君たちもいつか大人になった時は、誰かのために頑張れるような人間になって欲しい。それだけが私の願いだ」
目をキラキラさせている子供たちにむかって、真吾が大きな声で言いました。
「シグリッド、どこー」
仔猫捜しでシグリッドとはぐれてしまった黒の夢が、ちょっと不安そうに櫓の周りを歩いていました。
「どうかしました?」
「さっきの浴衣のお姉さんじゃないかぁ」
それに気づいたアルフェロアとイスカが声をかけました。他のみんなは、ゲームや食べ物の屋台に引っ掛かっています。
「よかったら、僕らが相談に乗るよ」
「ええっと、迷子でー」
黒の夢がイスカに答えようとした時、突然、そばに真吾が現れました。
「とうっ! みんな、困っているのかな。困った時は、私を呼びたまえ。ガイアードは、いつでも誰でも助けてみせる。では、そういうことで、舞台の上に、ささっ!」
ちょうどいいエキストラだと、真吾が少し強引にアルフェロアと黒の夢の手を引っぱりました。
「まあ、ナンパでしょうか……」
なんとなく少し嬉しそうにアルフェロアが言いました。
「嫌あ。シグリッド、どこー」
知らない人、いや、知らない仮面のヒーローなので、黒の夢がちょっと嫌がります。
「そこ、何やってますの? このロリっとしたわたくしの前で、破廉恥な真似は許しませんわよ」
それを見たマリーシュカが間に割って入りました。ヒーローですから、マリーシュカのような子供の目の前では、ヘタなことはできないだろうとふんでの乱入です。
「ちょうどいい、君たちもステージへ。可愛い女の子は大歓迎だ」
なんだか、逆に真吾が喜びます。
「アホか。新手のナンパか? 一人だけハーレムは許せん」
「だが、しかし、一人ハーレムはヒーローの特権!」
「ヒーローは、孤高じゃないのか?」
なんだか、微妙に会話がかみ合っていません。
「そこ、何をもめている!」
騒ぎに気づいて、少佐やルイーザたちもやってきました。
「お祭りだからって、はめを外し過ぎちゃダメだよ」
「でも、まあ、誘うのでしたら、もっと可愛い方が目の前にいらっしゃるでしょう?」
ちゃんと注意するリィンの横で、ウィルがちょっと科を作って見せました。
「もっと可愛いって、どういうことですの!」
その言葉に、マリーシュカが噛みつきます。
「シグリッド~」
「さあ、共に戦おう! ステージ上で、僕と握手だ!」
「浴衣の独り占めは許せないな」
「あらあら、まあまあ」
「お前たちなあ……」
少佐が、呆れて天を仰ぎました。
「せっかくの祭りで、怪我したり、怪我させたりしたら、つまんないでしょー! ここは皆で楽しもうよ」
なんとか、明が間に割って入ろうとします。
「姐御、ここはさっさと片づけてもいいですかあ?」
「許す。やっておしまい!」
璃人に聞かれて、ルイーザがあっさりと言い放ちました。
「おい、こ、こら……」
少佐が止める間もあればこそ、もう何がなんだか分からなくなってきました。
その時です、突然大きな音が鳴り響きました。
「いえーい、みんな乗ってるかーい!!」
いつの間にかステージに上がってオルガンを大音響で鳴らしたのは、ジョナサン・キャラウェイ(ka1084)です。
いつもの白衣とは違って、今日はバリッとしたスーツ姿です。ちょっと緊張しているようにも見えますが、それもまたステージの醍醐味ということでどこかしら楽しんでいるようにも見えます。
「いえーい!」
「いえーい!」
ジョナサンの乗りに、涼太たちがテンションをあわせて、腕を突きあげて叫びました。
「歪虚なんてくそくらえだあ! みんな、ファンキーに盛りあがるぜえ!」
そう叫ぶなり、ジョナサンが激しくオルガンを弾き鳴らします。
「うーん、この乗り……。ダメ、身体が勝手に動いちゃう。いえーい!」
そんなジョナサンの音楽につられて、リィンがステージに駆けあがっていきました。
「我輩も……」
つられるように、黒の夢もステージへと駆けあがっていきました。
「ああ、あんな所にいた!」
捜していたシグリッドが、黒の夢に気づいて、盛りあがる人々をかき分けてやってきます。
「ふふふふ。みんな、私をおいて盛りあがっちゃダメだよ!」
そう言うと、我慢できなくなったアマービレもステージに駆けあがっていきました。他にも何人かがステージに上がり、ジョナサンの演奏にあわせて踊りだしました。
「ジェオルジのみんなー、元気出たー?」
曲にあわせて、アマービレが即興で歌いだしました。その綺麗で力強い歌声に、会場がさらに盛りあがります。
「なんだかなあ、これがお祭り? 変わっているというか、なんというか……。でも、盛りあがれば、それでいいのかもしれませんわね。いえーい!」
周りの人々の踊りの輪の中に加わると、マリーシュカも楽しそうに歓声をあげました。
ひとときの夏祭りは、人々の心に元気の火を点したようです。
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よろず相談スレッド ジョナサン・キャラウェイ(ka1084) 人間(リアルブルー)|28才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/07/29 23:42:54 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/29 15:29:07 |