ゲスト
(ka0000)
盾と槍 工作編
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/11/01 22:00
- 完成日
- 2015/11/11 02:06
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●挑戦状
「お願いだ、スペアを止めてくれ」
飛び込んで来たその言葉に場が騒然とする。
ここはギアの世話になっている武器工房だった。そこへやって来たのが、畑違いの防具職人の工房長であるから皆驚きを隠せない。
「スペアって~と、あんたんとこの新人じゃねぇのかい?」
事情が判らなくて、とりあえずギアの親方が彼に尋ねる。
「あぁ、そうだ。しかし、あいつは思い込むと手が付けられなくてな…ちょっとした噂を引き金に規則を破ろうと…」
「たのも――!」
そう言いかけた工房長だったが、後方からの知った声にハッと振り返る。
とそこにいた青年こそが彼の言う新人、スペアだ。
「ここにギアって奴がいるんだろ! 俺の作った防具とどっちが優れているか勝負しろよなっ」
彼は言うなり、自作の盾を彼に見せつける。
「スペア、バカな事はよせ…」
その声に視線を向けて、スペアは明らかにムッとした。どうにも気に食わないらしい。
「何で工房長がここにいんだよっ! それにあんな噂たてられて納得いかねぇだろ」
あんな噂とは何か――彼の言葉に周囲が首を傾げた。
話は数時間前に遡る。スペアが先輩らの昼食を買いにパン屋を訪れた時の事だ。
併設されたカフェスペースで旅人風の男らがひそひそ話をしている。
「フマーレの期待の新人ってもまだまだらしいな…あれじゃあ、使い物にならない」
連れの男と珈琲を傾けながら言う。
「まぁ、そりゃあ仕方ねぇだろうさ。若き匠、稀代の天才ったってぇ技術がまだ追いついていないんだろう。しかし、道具屋であれを目玉商品として売っているとは驚きだねぇ」
とこれはもう一人の方。冷めてしまったピザを無理矢理口にほおり込んで呟く。
(ちょ、技術が追い付いてないとか…こいつら素人か?)
ちらりと服装に目をやって、スペアは二人を観察した。
服の袖から覗く腕はそれなりに鍛えられている。腰に下げた剣もなかなか使い込まれているし、一方の男の鎧は数々の戦闘の痕が残っている。とすると、この二人はある程度の腕は持っていると考えていいだろう。
「ちょっとおっさん。俺の盾がどうして使い物にならないんだよ」
稀代の天才…それが恥ずかしながら自分を紹介する為に付けられた呼称であるから、スペアは怒りを抑えつつ、何とか平静を装って二人に尋ねる。
「え、あぁ……それは…ってあんた!」
「ああ、俺の名はスペア。今言ってた話の当事者だけど…」
ひくひくと口元を震わせて、爆発しそうな怒りを辛うじておし留める。
「あ、いやぁ…その、街道でちょっとした見世物を見たもので」
「見世物?」
何の事だろう、苛立ちながらもその後の言葉を待つ。
「その…あんたの作った盾とギアって奴の作った槍を使って戦わせていたんだが…結果が、なぁ」
「あぁ、数度撃ち合っただけであんたの盾は真っ二つ。槍もひびが入った大きく欠けてしまって…」
「んな、バカなッ!」
相手の槍がそれ程勝っていたという事か。しかし、スペアの盾とてそんなに簡単に壊れる様には作られていない。強度テストだって何度となく繰り返してやっとの事で作り上げたものだ。
「くっそ……そんなの納得いかねぇ…」
ぎりりと奥歯を噛んでスペアが呟く。そしてパンも買わず一目散に駆けて行く。
「俺達、なんかまずい事言っちまったかな…」
そう言った二人だったが、それはもう手遅れに近かった。
●対抗策
「あぁ、確かにその話は僕にとっても聞き捨てならないですね」
武器職人のプライドがギアの心にも僅かに火をつける。
「だろう。だったら決着つけようぜ。俺の盾とお前の槍、どっちが強いか勝負だ!」
スペアが言う。が、ギアはそれに同意しない。
「それは出来ません。あなたもフマーレの職人であれば知っているはずだ。別の店の職人が作ったものを比較目的で闘わせるなどどちらの利益にもならない、従って争わせる事は基本禁止事項です」
ギアはそう言い、静かに腕を組む。
「け、怖いのかよ」
スペアの挑発に、しかしやはりギアは冷静だ。
「通りで出したばかりなのに、売れ行きが良くない訳だ……でも、待てよ。って事はある意味でこれは僕らに対する挑戦かもしれない」
「挑戦? 誰の?」
スペアが不審げに繰り返す。
「さぁ、そこまでは。しかし、売られた喧嘩は買わないとですよね」
何処かでギアも苛立っていたらしい。物言いに僅かな怒気が含まれている。
「あ、それはそれとしてその盾、なかなかいいものですね。いい形してる」
「え、ああ…ありがと」
付け加えられた言葉にスペアは面食らい、そう答える。だがそこでハッとして、
「ちょっと待てよ! 敵のお前に褒められたって嬉しくなんてねぇんだからなっ!」
そう言ってくるりと踵を返し、帰ってゆく。
後に残された者はそんなスペアにくすりと笑みを零しながらも、これからの事を思うと少しばかり頭を使わねばと思うのだった。
「お願いだ、スペアを止めてくれ」
飛び込んで来たその言葉に場が騒然とする。
ここはギアの世話になっている武器工房だった。そこへやって来たのが、畑違いの防具職人の工房長であるから皆驚きを隠せない。
「スペアって~と、あんたんとこの新人じゃねぇのかい?」
事情が判らなくて、とりあえずギアの親方が彼に尋ねる。
「あぁ、そうだ。しかし、あいつは思い込むと手が付けられなくてな…ちょっとした噂を引き金に規則を破ろうと…」
「たのも――!」
そう言いかけた工房長だったが、後方からの知った声にハッと振り返る。
とそこにいた青年こそが彼の言う新人、スペアだ。
「ここにギアって奴がいるんだろ! 俺の作った防具とどっちが優れているか勝負しろよなっ」
彼は言うなり、自作の盾を彼に見せつける。
「スペア、バカな事はよせ…」
その声に視線を向けて、スペアは明らかにムッとした。どうにも気に食わないらしい。
「何で工房長がここにいんだよっ! それにあんな噂たてられて納得いかねぇだろ」
あんな噂とは何か――彼の言葉に周囲が首を傾げた。
話は数時間前に遡る。スペアが先輩らの昼食を買いにパン屋を訪れた時の事だ。
併設されたカフェスペースで旅人風の男らがひそひそ話をしている。
「フマーレの期待の新人ってもまだまだらしいな…あれじゃあ、使い物にならない」
連れの男と珈琲を傾けながら言う。
「まぁ、そりゃあ仕方ねぇだろうさ。若き匠、稀代の天才ったってぇ技術がまだ追いついていないんだろう。しかし、道具屋であれを目玉商品として売っているとは驚きだねぇ」
とこれはもう一人の方。冷めてしまったピザを無理矢理口にほおり込んで呟く。
(ちょ、技術が追い付いてないとか…こいつら素人か?)
ちらりと服装に目をやって、スペアは二人を観察した。
服の袖から覗く腕はそれなりに鍛えられている。腰に下げた剣もなかなか使い込まれているし、一方の男の鎧は数々の戦闘の痕が残っている。とすると、この二人はある程度の腕は持っていると考えていいだろう。
「ちょっとおっさん。俺の盾がどうして使い物にならないんだよ」
稀代の天才…それが恥ずかしながら自分を紹介する為に付けられた呼称であるから、スペアは怒りを抑えつつ、何とか平静を装って二人に尋ねる。
「え、あぁ……それは…ってあんた!」
「ああ、俺の名はスペア。今言ってた話の当事者だけど…」
ひくひくと口元を震わせて、爆発しそうな怒りを辛うじておし留める。
「あ、いやぁ…その、街道でちょっとした見世物を見たもので」
「見世物?」
何の事だろう、苛立ちながらもその後の言葉を待つ。
「その…あんたの作った盾とギアって奴の作った槍を使って戦わせていたんだが…結果が、なぁ」
「あぁ、数度撃ち合っただけであんたの盾は真っ二つ。槍もひびが入った大きく欠けてしまって…」
「んな、バカなッ!」
相手の槍がそれ程勝っていたという事か。しかし、スペアの盾とてそんなに簡単に壊れる様には作られていない。強度テストだって何度となく繰り返してやっとの事で作り上げたものだ。
「くっそ……そんなの納得いかねぇ…」
ぎりりと奥歯を噛んでスペアが呟く。そしてパンも買わず一目散に駆けて行く。
「俺達、なんかまずい事言っちまったかな…」
そう言った二人だったが、それはもう手遅れに近かった。
●対抗策
「あぁ、確かにその話は僕にとっても聞き捨てならないですね」
武器職人のプライドがギアの心にも僅かに火をつける。
「だろう。だったら決着つけようぜ。俺の盾とお前の槍、どっちが強いか勝負だ!」
スペアが言う。が、ギアはそれに同意しない。
「それは出来ません。あなたもフマーレの職人であれば知っているはずだ。別の店の職人が作ったものを比較目的で闘わせるなどどちらの利益にもならない、従って争わせる事は基本禁止事項です」
ギアはそう言い、静かに腕を組む。
「け、怖いのかよ」
スペアの挑発に、しかしやはりギアは冷静だ。
「通りで出したばかりなのに、売れ行きが良くない訳だ……でも、待てよ。って事はある意味でこれは僕らに対する挑戦かもしれない」
「挑戦? 誰の?」
スペアが不審げに繰り返す。
「さぁ、そこまでは。しかし、売られた喧嘩は買わないとですよね」
何処かでギアも苛立っていたらしい。物言いに僅かな怒気が含まれている。
「あ、それはそれとしてその盾、なかなかいいものですね。いい形してる」
「え、ああ…ありがと」
付け加えられた言葉にスペアは面食らい、そう答える。だがそこでハッとして、
「ちょっと待てよ! 敵のお前に褒められたって嬉しくなんてねぇんだからなっ!」
そう言ってくるりと踵を返し、帰ってゆく。
後に残された者はそんなスペアにくすりと笑みを零しながらも、これからの事を思うと少しばかり頭を使わねばと思うのだった。
リプレイ本文
●発想の転換
「それは駄目だ」
ハンターの提案を一刀両断したのは職人街の組合長だった。
「そうなの?」
悪評対策として彼らが提案したのは新たな噂を作る為の新たな武器対決。
ハンターらの所有物であれば大丈夫かと考えたようなのだが、組合長の許可は下りない。
「己が武器なれば細工の有無等の余計な詮索をかけられぬし、もし相手の武器に何かあれば格安チケットかメンテナンス権を配れば問題なかろうに」
リィ・ヴェスト(ka5075)に続いて、カガチ(ka5649)が対決の有用性を説く。がやはり組合長の意見はノーだ。
「ハンターが手にしている道具とて、何処かで作られた道具に変わりはない。従って、やり合えば自ずとどちらかに優劣がつく。それが元で工房同士のいざこざに発展しかねない。判ってくれ」
ギアとスペアのように――許可の有無問わず喧嘩はご法度。一方的な見方をしてしまえば、その後下に見られた工房の回復は容易ではなく、逆に違う部分では上であってもその結果に世間の目がゆき、いい部分が闇に隠れてしまう事さえあるのだ。
「一長一短…職人には拘りがありますからね」
ギアが静かに言う。ちなみに今ここにスペアは不在だ。
当事者であるが、どうもギアと顔を合わせるのが嫌らしい。
「だったら、実演販売はどうだ? 藁束や豆腐で切れ味や耐久力を見せれば信用を回復できるかもしれない」
打ち合いが駄目なら対象を違うものに変えればいい。その発想からザレム・アズール(ka0878)が提案する。
「確かにそれはいいわね。新作を作るには時間もかかりそうだし、今あるものを使うのは悪くないと思うわ」
十野間 灯(ka5632)が今出たアイデアに同意する。
「なんにしても実際問題、結局は二人の信頼の無さが招いた事ですよねぇ…」
そんな中でクオン・サガラ(ka0018)は率直な見解を零して、
「それは……そうですよね」
彼の言葉にギアが下ろしたままの拳を握る。
自分が新人で、まだそれ程多くの人に知られていない事は知っていた。職人達の間では組合新聞に取り上げられた事により多少名は通っていたのだが購買者側は? フマーレと言う都市のブランド力と、道具屋の店主の口コミのみだ。ちょっと詳しい者であれば名を耳にしていたかもしれないが、まだまだデマだと思わせる程の信頼性は得ていない。
(いつの間にか浮れていたのかな…けど、僕はこの位でへこたれるつもりはない!)
評判が落ちたのなら、その評判を塗り替える程の名器を作ればいい。そう決意し、彼もまた後をハンターらに任せ工房に戻ってゆく。
「しかし、実演販売のみで人は集まるものでしょうか?」
道具に興味のある者ならば別だが、出来れば多くの人の目に耳に伝えたい。皆が頭を捻る。
一般人の興味をひくもの…それは娯楽だ。それも派手であれば尚更いい。
(対決ならばうってつけだったのだが)
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が考える。
(いや、待て。少し発想を切り替えれば…)
「組合長、ハンター同士の腕試しならば問題ないのかな?」
彼女が尋ねる。
「ああ、まあ…しかし、それではさっきと同じでは?」
「いや、全然に違うよ!」
彼女はそう言い、にやりと笑う。そして、詳細を仲間に説明し始める。
「成程、そう言う事ね。だったら、道具や賞品を用意しないと」
灯がそれを受けて、必要物をメモし始める。
「賞品ならこういうのはどうかしら?」
するとリィが徐に組合長携帯の道具箱から何やら工具を取り出して、皆に見せる。
「ちょっ、あんた!」
慌てる組合長に彼女は平然と、
「少しくらいいいじゃない。ちょっと探しものよ。後でちゃんと片付けるわ」
そう言い返す。というのも彼女に悪気はないのだ。ただ純粋に彼女は『何か』を探し、旅を続けているだけの事。
組合長はその後は何も言わず、広げられた工具を元に戻してゆく。
「ものがダメならここらで使える道具整備の年間パスなど良いと思うぞ」
カガチの意見。確かに職人街ならではのサービスを賞品にするのは悪くない。
灯がプランを簡単にまとめ、役割を決めると各方面への交渉に入る。
「さてと、ではわたしは少し二人と話してきましょうか」
クオンが呟く。それに気付いたリィも片付けを終えると探し物の発見を目指し、彼の後を追うのだった。
●技術競技会
広場に作られた客寄せ舞台――ここで行うのはいわば『腕試し』。
この日の為にアルトは酒場に通い、催しがあるという噂を流しておいた。
灯は組合に所属する工房や職人に協力を要請し、簡易的に作ったポスターを配り今日の事は宣伝しておいた。
そのおかげもあって当日現在、目の前に広がる人の波に彼等はホッとする。
「これならいけそうだな。受付頼むよ」
ちょこんと椅子に座るリィにザレムが言う。
「ええ、勿論お仕事だもの。お腹が減っている気がするけど、最後まで頑張るわ」
朝食を食べていた筈であるが、彼女はそう言い参加希望者の列を整理する。
ちなみに舞台に上がれるのは八人のみ。あまり多くても困るので、予選という名の握力テストと筋力テストが行い数値のいい者を選出、舞台への出場者を決定する流れだ。
「へぇ…思ったより集まってんじゃん」
スペアがその人だかりを遠目に呟く。
「おや、そなたは……どうした? やはり気になるか?」
その姿を見つけてフフフッとカガチが微笑を浮かべる。
「ッ! 違うって…その、クオンって奴に呼ばれてきたんだよ」
その笑みに含みを感じてスペアはぷいっと外を向く。
カガチの後ろでは既にギアがクオンの隣りで自身の槍を一つ一つ確かめている。
「きみもこっちで盾の状態確認を頼むよ。これからやる実演会で使うんだ。もちろん耐えれるくらいには作ってあるんだろ?」
その姿を見つけてアルトも彼を煽る。
そうして暫くすると、会場に運んでいた銅鑼が鳴って――いよいよ腕試しの始まりだ。
「エントリーナンバー一番…」
計測結果の良かった者から順に名前を呼んで舞台の上へ。
壇上には既に藁束が案山子のように設置されており、舞台に上がる直前に各自用意された槍を選び取る。
そして、その槍の全てがあの悪評付きの槍だったが、参加者に選ばせているから文句の言いようもない。それにその前に制作者が一本一本不備はないか確認済みとあって不正は出来ない。そんな腕試しの先頭を行くのはアルトだ。元々実演員をするつもりだったし、二人の武器の性能を試したいと考えていたからちょうどいい。左利きだが道具の扱いには自信もある。
「やってみせる」
自分に言い聞かせ、彼女はお手本役を務める。
そして、第一審査は目の前に立った藁束を槍でいかに素早く綺麗に落としてゆくかというものだ。
「構え……始めっ」
その掛け声に合わせて順に藁束が一閃のもとに薙ぎ落とされてゆく。
『おおっーー!』
その姿に一般人からは感嘆の声。それぞれのスタイルで…巷ではなかなか見れるものではない。
動作の優美さもさることながら、すぱりと切り落とされた断面はそれぞれ甲乙が付けがたい。
しかし、見るものが見れば判るものだ。
「これは力押しで切った感じだな。茎の断面が僅かに粗い」
数名の職人の中に混じってザレムが評価する。本当に使いこなせていれば、断面は真っ直ぐに茎の形はそのままの状態で残っている筈だ。藁束にささくれが残っている等問題外である。審査員は迅速に点数をつけて、次は突きの審査。灯が藁を片付け、代わりに加工前の鶏肉が設置される。
「次はこの肉への貫通審査です」
槍と言えば本来は突くのがお仕事。一匹丸々用意されたそれを、一突きでいかに正確に貫き通せるかという事らしい。さっきの藁を切った後だ。切っ先の方へのダメージは少ないだろうが、両刃の部分には注意が必要である。準備が終わると、先程と同じ要領で参加者は備え付けられた肉を狙う。
ザクッ ザジシュッ
これでは多少の差が現れた。
相手が鶏肉とあって骨への扱いも得点に関わってくる。ただ単に突くだけでは途中の骨に矛先が止められてしまうが、センスを持った者ならば切っ先に力をうまく集中させてそれをも貫き通す。すると少し突いた時の音が変わってくるのだ。
「あの肉の塊を一突きなんて…どんな鋭さなの?」
観客に混じり少し声色を変えて、灯が密かに槍の凄さもアピールする。
ここではアルトを含め半数以上があっさりと骨を貫通させ、切っ先を外へと飛び出させている。
(どんなものかと思っていたが、本当にこの槍は凄い)
アルトが手応えを実感する。正確には手にした時から…女性でも扱いやすい様に柄の部分は気持ち細く作られ、素材も普通のモノと違うのか丈夫で手に馴染みやすい。それに矛先に重量感はあるものの、他のものと比べて格段とシャープである。
「当然です」
ギアが参加者の表情を満足げに見つめる。
「俺のだって負けてないんだからな」
そんな彼を少し離れた所から見つめて、次はスペアの番だった。
●職人愛
さっき使われた鶏肉を利用しての昼食を終えると、次は防具の部である。
具体的にはスペアの盾を使用しての実戦耐久テスト。
これだけ大きな催しにすれば悪評を振りまいた関係者が来るかとカガチが合間に不審人物を探っているようだが、残念ながらそれらしい人物は見当たらない。
「今からこの投球機を使って色のついた皮のボールを発射します。そのインクの付き方で捌き方の優劣を見ます」
一度南瓜を前に置き、投球の威力を皆に知らしめる。その威力は相当なもので大人の顔程ある大きさの南瓜を砕き飛ばしてしまう程だ。
「本当に大丈夫なの?」
観客には子供もいる。アルトが職人を目指すという子供達を招待したらしい。
彼等に被害がないよう柵と網を設置し、準備は万端。早速ボールを飛ばす。
バシュンッ ドスッ
こちらもさっきの鶏肉同様、音が全てを物語る。
我武者羅に盾を突き出した者は盾を通して腕に衝撃が伝わり重い音を響かせる。一方、うまく扱う者は盾の湾曲を利用しボールの力を受け流す。最小の力でそれを行うから擦れる音が少しするだけで、当たった衝撃もそれ程感じはしない。それは盾に残るインクの軌跡で一目瞭然――一部に当たって放射状の跡が残るか、線のような跡が残るか…その二通りといっていい。そして、勿論スペアの盾はどんな球を受けてもヒビ一つ入らない。
「あれを受けて傷一つないなんて凄いわね」
「ああ、そうだな。あれはいい盾だ」
灯の言葉を受けて、近くにいたハンターも言う。
彼は気付いたのだ。誤った受け方をしたインクの跡が――自然と外へ逃がす筋を描いている事に。
「へたくそが使ってもこの通りだぜっ」
謙遜せずにスペアが胸を張る。
「それを自分で言ってしまうとは…なんとまぁ」
その先の言葉を呑み込んでカガチは苦笑。
しかし、そんな機能性を持たせた盾はそうない。装飾に特化して肝心の部分が疎かだったり、逆に装飾に喰い込ませて敵の動きを封じるものもあるが…相手との接近は危険が伴うものだし、万一貫通してしまえばこちらが危ない。盾に必要とされるのはやはり、耐久力と防御性だ。
そしてこの実演を目の当たりにした出来るハンターならば、きっとあの道具対決の信憑性に疑問を抱く事だろう。
「さて、審査の間にご紹介いたします。今回使った道具は現在道具屋でも売り出し中の目玉商品。最近よからぬ噂が立っておりますがご安心下さい。先程見て頂いた通り、性能は保証します。何故ならこの会場には制作者のお二人が来いるのですから」
そう言って紹介された手前、ギアもスペアも出ない訳にはいかない。
「さあ、出番ですよ」
ハンターらに背を押され二人は舞台の方に歩いてゆく。
そうして、促されるままに始まったのはそれぞれの道具のメンテ指南だ。
「すぐ刃毀れするようでしたらご相談下さい。強化加工をする必要があるかもしれませんので」
武器の質問はギアの担当。さっきの槍を持ち出して、どうやって行うかや簡単な研ぎ方を披露する。
一方防具に関してはスペアが答える。
「革製だから撥水加工してても水に弱い。戦場で濡れちまったんならちゃんと乾かしてやらないと駄目なんだよ」
そう言って質問者の皮鎧を手持ちのクリームでケアを始める彼。やはり口は悪いようだが、周りはそれを不快には思っていない。
「やはりああ見えても職人なのじゃな」
カガチがその姿を見つめて言う。
「ですね。お二人共『自分の作ったものを粗末に扱われたら嫌でしょう?』と誘ったら、すぐに飛びついてくれました。売れる売れないを別にしても彼らは道具に対してちゃんと愛情を持っているようですよ」
そう言うのはクオンだ。新作の提案をしても良かったが、それはまた今度でもいいだろう。
「まあ、あの盾と槍も彼らにとっては子供同然。思い入れも強いだろうからな」
ザレムが生き生きした二人を見つめて、腕には何やら紙袋を抱えている。
そうして、無事技術競技会は終了した。
「はあ、疲れたわ…」
終始お客と参加者の対応を続けていたリィが舞台の片付けを終えて、ギルドに戻り座り込む。
「あはは、お疲れ様。身体と頭を動かした後は甘い物だよ」
するとザレムが彼女に差し出したのはきつね色に揚げられたドーナツだ。
「あら、素敵よ。私、こういうの大歓迎だわ」
彼女はそう言って早速パクつく。
「沢山作って来たから皆もどうだ?」
そう言う彼のお言葉に甘えて、皆が手作りドーナツに舌鼓を打つ。
「しかし、更なる新作は出来なんだか」
良品は一日にしてならず。間に合えばあの舞台で披露し販売しても良かったのだが、二人共未完のままに終わる。
「今回は残念だったが待ってろ。今に凄いの作ってやるからなっ」
スペアの言葉――相変わらずの口振りだがそれも御愛嬌。
が調子に乗る彼にそれだけでは駄目だとカガチは念押し。
「よいか。上を目指すのは構わぬが、その前に職人の仁義を知り横の繋がりも太くせねばの。でないとまたこんな事が起こるかもしれぬぞ」
そう言われては仕方がない。少し気まずげに小さくは「はい」と呟く。
「でも本当助かりました。これを機に更に認めて貰える武器を作れるよう頑張りますね」
とこれはギアだ。そんな彼にはアルトから嬉しい一言。
「きみの次の新作を楽しみにしているよ」
もし期限内にできたなら、彼女は報酬よりそっちを希望していた程だ。
総括して一時はどうなるかと思われたが、二人の道具への不信感は拭えたと言えるだろう。
後は悪評の広まったのと同じように、今日の事が口コミで各地に広がれば万々歳。
今日だけでも幾人もがその使い心地を体感し購入に至ったのだから、物自体の良さが広まるのも時間の問題だ。
そしてこんな悪評を広めた犯人が捕まるのも時間の問題――。
何故なら、もう既に追跡の手はすぐ傍まで伸びているのだから…。
「それは駄目だ」
ハンターの提案を一刀両断したのは職人街の組合長だった。
「そうなの?」
悪評対策として彼らが提案したのは新たな噂を作る為の新たな武器対決。
ハンターらの所有物であれば大丈夫かと考えたようなのだが、組合長の許可は下りない。
「己が武器なれば細工の有無等の余計な詮索をかけられぬし、もし相手の武器に何かあれば格安チケットかメンテナンス権を配れば問題なかろうに」
リィ・ヴェスト(ka5075)に続いて、カガチ(ka5649)が対決の有用性を説く。がやはり組合長の意見はノーだ。
「ハンターが手にしている道具とて、何処かで作られた道具に変わりはない。従って、やり合えば自ずとどちらかに優劣がつく。それが元で工房同士のいざこざに発展しかねない。判ってくれ」
ギアとスペアのように――許可の有無問わず喧嘩はご法度。一方的な見方をしてしまえば、その後下に見られた工房の回復は容易ではなく、逆に違う部分では上であってもその結果に世間の目がゆき、いい部分が闇に隠れてしまう事さえあるのだ。
「一長一短…職人には拘りがありますからね」
ギアが静かに言う。ちなみに今ここにスペアは不在だ。
当事者であるが、どうもギアと顔を合わせるのが嫌らしい。
「だったら、実演販売はどうだ? 藁束や豆腐で切れ味や耐久力を見せれば信用を回復できるかもしれない」
打ち合いが駄目なら対象を違うものに変えればいい。その発想からザレム・アズール(ka0878)が提案する。
「確かにそれはいいわね。新作を作るには時間もかかりそうだし、今あるものを使うのは悪くないと思うわ」
十野間 灯(ka5632)が今出たアイデアに同意する。
「なんにしても実際問題、結局は二人の信頼の無さが招いた事ですよねぇ…」
そんな中でクオン・サガラ(ka0018)は率直な見解を零して、
「それは……そうですよね」
彼の言葉にギアが下ろしたままの拳を握る。
自分が新人で、まだそれ程多くの人に知られていない事は知っていた。職人達の間では組合新聞に取り上げられた事により多少名は通っていたのだが購買者側は? フマーレと言う都市のブランド力と、道具屋の店主の口コミのみだ。ちょっと詳しい者であれば名を耳にしていたかもしれないが、まだまだデマだと思わせる程の信頼性は得ていない。
(いつの間にか浮れていたのかな…けど、僕はこの位でへこたれるつもりはない!)
評判が落ちたのなら、その評判を塗り替える程の名器を作ればいい。そう決意し、彼もまた後をハンターらに任せ工房に戻ってゆく。
「しかし、実演販売のみで人は集まるものでしょうか?」
道具に興味のある者ならば別だが、出来れば多くの人の目に耳に伝えたい。皆が頭を捻る。
一般人の興味をひくもの…それは娯楽だ。それも派手であれば尚更いい。
(対決ならばうってつけだったのだが)
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が考える。
(いや、待て。少し発想を切り替えれば…)
「組合長、ハンター同士の腕試しならば問題ないのかな?」
彼女が尋ねる。
「ああ、まあ…しかし、それではさっきと同じでは?」
「いや、全然に違うよ!」
彼女はそう言い、にやりと笑う。そして、詳細を仲間に説明し始める。
「成程、そう言う事ね。だったら、道具や賞品を用意しないと」
灯がそれを受けて、必要物をメモし始める。
「賞品ならこういうのはどうかしら?」
するとリィが徐に組合長携帯の道具箱から何やら工具を取り出して、皆に見せる。
「ちょっ、あんた!」
慌てる組合長に彼女は平然と、
「少しくらいいいじゃない。ちょっと探しものよ。後でちゃんと片付けるわ」
そう言い返す。というのも彼女に悪気はないのだ。ただ純粋に彼女は『何か』を探し、旅を続けているだけの事。
組合長はその後は何も言わず、広げられた工具を元に戻してゆく。
「ものがダメならここらで使える道具整備の年間パスなど良いと思うぞ」
カガチの意見。確かに職人街ならではのサービスを賞品にするのは悪くない。
灯がプランを簡単にまとめ、役割を決めると各方面への交渉に入る。
「さてと、ではわたしは少し二人と話してきましょうか」
クオンが呟く。それに気付いたリィも片付けを終えると探し物の発見を目指し、彼の後を追うのだった。
●技術競技会
広場に作られた客寄せ舞台――ここで行うのはいわば『腕試し』。
この日の為にアルトは酒場に通い、催しがあるという噂を流しておいた。
灯は組合に所属する工房や職人に協力を要請し、簡易的に作ったポスターを配り今日の事は宣伝しておいた。
そのおかげもあって当日現在、目の前に広がる人の波に彼等はホッとする。
「これならいけそうだな。受付頼むよ」
ちょこんと椅子に座るリィにザレムが言う。
「ええ、勿論お仕事だもの。お腹が減っている気がするけど、最後まで頑張るわ」
朝食を食べていた筈であるが、彼女はそう言い参加希望者の列を整理する。
ちなみに舞台に上がれるのは八人のみ。あまり多くても困るので、予選という名の握力テストと筋力テストが行い数値のいい者を選出、舞台への出場者を決定する流れだ。
「へぇ…思ったより集まってんじゃん」
スペアがその人だかりを遠目に呟く。
「おや、そなたは……どうした? やはり気になるか?」
その姿を見つけてフフフッとカガチが微笑を浮かべる。
「ッ! 違うって…その、クオンって奴に呼ばれてきたんだよ」
その笑みに含みを感じてスペアはぷいっと外を向く。
カガチの後ろでは既にギアがクオンの隣りで自身の槍を一つ一つ確かめている。
「きみもこっちで盾の状態確認を頼むよ。これからやる実演会で使うんだ。もちろん耐えれるくらいには作ってあるんだろ?」
その姿を見つけてアルトも彼を煽る。
そうして暫くすると、会場に運んでいた銅鑼が鳴って――いよいよ腕試しの始まりだ。
「エントリーナンバー一番…」
計測結果の良かった者から順に名前を呼んで舞台の上へ。
壇上には既に藁束が案山子のように設置されており、舞台に上がる直前に各自用意された槍を選び取る。
そして、その槍の全てがあの悪評付きの槍だったが、参加者に選ばせているから文句の言いようもない。それにその前に制作者が一本一本不備はないか確認済みとあって不正は出来ない。そんな腕試しの先頭を行くのはアルトだ。元々実演員をするつもりだったし、二人の武器の性能を試したいと考えていたからちょうどいい。左利きだが道具の扱いには自信もある。
「やってみせる」
自分に言い聞かせ、彼女はお手本役を務める。
そして、第一審査は目の前に立った藁束を槍でいかに素早く綺麗に落としてゆくかというものだ。
「構え……始めっ」
その掛け声に合わせて順に藁束が一閃のもとに薙ぎ落とされてゆく。
『おおっーー!』
その姿に一般人からは感嘆の声。それぞれのスタイルで…巷ではなかなか見れるものではない。
動作の優美さもさることながら、すぱりと切り落とされた断面はそれぞれ甲乙が付けがたい。
しかし、見るものが見れば判るものだ。
「これは力押しで切った感じだな。茎の断面が僅かに粗い」
数名の職人の中に混じってザレムが評価する。本当に使いこなせていれば、断面は真っ直ぐに茎の形はそのままの状態で残っている筈だ。藁束にささくれが残っている等問題外である。審査員は迅速に点数をつけて、次は突きの審査。灯が藁を片付け、代わりに加工前の鶏肉が設置される。
「次はこの肉への貫通審査です」
槍と言えば本来は突くのがお仕事。一匹丸々用意されたそれを、一突きでいかに正確に貫き通せるかという事らしい。さっきの藁を切った後だ。切っ先の方へのダメージは少ないだろうが、両刃の部分には注意が必要である。準備が終わると、先程と同じ要領で参加者は備え付けられた肉を狙う。
ザクッ ザジシュッ
これでは多少の差が現れた。
相手が鶏肉とあって骨への扱いも得点に関わってくる。ただ単に突くだけでは途中の骨に矛先が止められてしまうが、センスを持った者ならば切っ先に力をうまく集中させてそれをも貫き通す。すると少し突いた時の音が変わってくるのだ。
「あの肉の塊を一突きなんて…どんな鋭さなの?」
観客に混じり少し声色を変えて、灯が密かに槍の凄さもアピールする。
ここではアルトを含め半数以上があっさりと骨を貫通させ、切っ先を外へと飛び出させている。
(どんなものかと思っていたが、本当にこの槍は凄い)
アルトが手応えを実感する。正確には手にした時から…女性でも扱いやすい様に柄の部分は気持ち細く作られ、素材も普通のモノと違うのか丈夫で手に馴染みやすい。それに矛先に重量感はあるものの、他のものと比べて格段とシャープである。
「当然です」
ギアが参加者の表情を満足げに見つめる。
「俺のだって負けてないんだからな」
そんな彼を少し離れた所から見つめて、次はスペアの番だった。
●職人愛
さっき使われた鶏肉を利用しての昼食を終えると、次は防具の部である。
具体的にはスペアの盾を使用しての実戦耐久テスト。
これだけ大きな催しにすれば悪評を振りまいた関係者が来るかとカガチが合間に不審人物を探っているようだが、残念ながらそれらしい人物は見当たらない。
「今からこの投球機を使って色のついた皮のボールを発射します。そのインクの付き方で捌き方の優劣を見ます」
一度南瓜を前に置き、投球の威力を皆に知らしめる。その威力は相当なもので大人の顔程ある大きさの南瓜を砕き飛ばしてしまう程だ。
「本当に大丈夫なの?」
観客には子供もいる。アルトが職人を目指すという子供達を招待したらしい。
彼等に被害がないよう柵と網を設置し、準備は万端。早速ボールを飛ばす。
バシュンッ ドスッ
こちらもさっきの鶏肉同様、音が全てを物語る。
我武者羅に盾を突き出した者は盾を通して腕に衝撃が伝わり重い音を響かせる。一方、うまく扱う者は盾の湾曲を利用しボールの力を受け流す。最小の力でそれを行うから擦れる音が少しするだけで、当たった衝撃もそれ程感じはしない。それは盾に残るインクの軌跡で一目瞭然――一部に当たって放射状の跡が残るか、線のような跡が残るか…その二通りといっていい。そして、勿論スペアの盾はどんな球を受けてもヒビ一つ入らない。
「あれを受けて傷一つないなんて凄いわね」
「ああ、そうだな。あれはいい盾だ」
灯の言葉を受けて、近くにいたハンターも言う。
彼は気付いたのだ。誤った受け方をしたインクの跡が――自然と外へ逃がす筋を描いている事に。
「へたくそが使ってもこの通りだぜっ」
謙遜せずにスペアが胸を張る。
「それを自分で言ってしまうとは…なんとまぁ」
その先の言葉を呑み込んでカガチは苦笑。
しかし、そんな機能性を持たせた盾はそうない。装飾に特化して肝心の部分が疎かだったり、逆に装飾に喰い込ませて敵の動きを封じるものもあるが…相手との接近は危険が伴うものだし、万一貫通してしまえばこちらが危ない。盾に必要とされるのはやはり、耐久力と防御性だ。
そしてこの実演を目の当たりにした出来るハンターならば、きっとあの道具対決の信憑性に疑問を抱く事だろう。
「さて、審査の間にご紹介いたします。今回使った道具は現在道具屋でも売り出し中の目玉商品。最近よからぬ噂が立っておりますがご安心下さい。先程見て頂いた通り、性能は保証します。何故ならこの会場には制作者のお二人が来いるのですから」
そう言って紹介された手前、ギアもスペアも出ない訳にはいかない。
「さあ、出番ですよ」
ハンターらに背を押され二人は舞台の方に歩いてゆく。
そうして、促されるままに始まったのはそれぞれの道具のメンテ指南だ。
「すぐ刃毀れするようでしたらご相談下さい。強化加工をする必要があるかもしれませんので」
武器の質問はギアの担当。さっきの槍を持ち出して、どうやって行うかや簡単な研ぎ方を披露する。
一方防具に関してはスペアが答える。
「革製だから撥水加工してても水に弱い。戦場で濡れちまったんならちゃんと乾かしてやらないと駄目なんだよ」
そう言って質問者の皮鎧を手持ちのクリームでケアを始める彼。やはり口は悪いようだが、周りはそれを不快には思っていない。
「やはりああ見えても職人なのじゃな」
カガチがその姿を見つめて言う。
「ですね。お二人共『自分の作ったものを粗末に扱われたら嫌でしょう?』と誘ったら、すぐに飛びついてくれました。売れる売れないを別にしても彼らは道具に対してちゃんと愛情を持っているようですよ」
そう言うのはクオンだ。新作の提案をしても良かったが、それはまた今度でもいいだろう。
「まあ、あの盾と槍も彼らにとっては子供同然。思い入れも強いだろうからな」
ザレムが生き生きした二人を見つめて、腕には何やら紙袋を抱えている。
そうして、無事技術競技会は終了した。
「はあ、疲れたわ…」
終始お客と参加者の対応を続けていたリィが舞台の片付けを終えて、ギルドに戻り座り込む。
「あはは、お疲れ様。身体と頭を動かした後は甘い物だよ」
するとザレムが彼女に差し出したのはきつね色に揚げられたドーナツだ。
「あら、素敵よ。私、こういうの大歓迎だわ」
彼女はそう言って早速パクつく。
「沢山作って来たから皆もどうだ?」
そう言う彼のお言葉に甘えて、皆が手作りドーナツに舌鼓を打つ。
「しかし、更なる新作は出来なんだか」
良品は一日にしてならず。間に合えばあの舞台で披露し販売しても良かったのだが、二人共未完のままに終わる。
「今回は残念だったが待ってろ。今に凄いの作ってやるからなっ」
スペアの言葉――相変わらずの口振りだがそれも御愛嬌。
が調子に乗る彼にそれだけでは駄目だとカガチは念押し。
「よいか。上を目指すのは構わぬが、その前に職人の仁義を知り横の繋がりも太くせねばの。でないとまたこんな事が起こるかもしれぬぞ」
そう言われては仕方がない。少し気まずげに小さくは「はい」と呟く。
「でも本当助かりました。これを機に更に認めて貰える武器を作れるよう頑張りますね」
とこれはギアだ。そんな彼にはアルトから嬉しい一言。
「きみの次の新作を楽しみにしているよ」
もし期限内にできたなら、彼女は報酬よりそっちを希望していた程だ。
総括して一時はどうなるかと思われたが、二人の道具への不信感は拭えたと言えるだろう。
後は悪評の広まったのと同じように、今日の事が口コミで各地に広がれば万々歳。
今日だけでも幾人もがその使い心地を体感し購入に至ったのだから、物自体の良さが広まるのも時間の問題だ。
そしてこんな悪評を広めた犯人が捕まるのも時間の問題――。
何故なら、もう既に追跡の手はすぐ傍まで伸びているのだから…。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- 茨の王
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/28 20:29:01 |
|
![]() |
おみせやさん リィ・ヴェスト(ka5075) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/11/01 15:45:41 |