ゲスト
(ka0000)
盾と槍 黒幕編
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2015/11/04 15:00
- 完成日
- 2015/11/17 01:38
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●歪んだ魂
(若き匠? 稀代の天才? こんなのが出てこられるとこっちが困るんだよ…)
フマーレにある小さな酒場の片隅で真っ昼間から酒を煽るのは一人の男――。
手にはここらの職人らに配られている組合新聞。その見出しが新人特集とあって、彼はどうにも機嫌が悪い。
(こういう奴は何も判っちゃいないんだ。なのに、いい気になりやがって…)
男もかつては天辺を目指して腕を揮ったものだが、今となってはもう遥か昔の事だ。
(武器も盾も所詮消耗品と諦めて、次々買い替えて貰う。それがいいやり方だ)
使う側も売る側も……どちらも損はしないじゃあないか。
一概に丈夫で長持ちすればいいというものではない。両者にとって本当にいいもの。それは適度に使い捨てる事ができ、新商品に手を伸ばすきっかけが作れるもの。時が経つにつれてそう思うようになった彼である。であるからして…。
「軽くて丈夫な槍に、強靭で何ものにも負けない盾だと? 冗談じゃあない」
グラスに入っていた酒を煽って、男は考える。
(こいつらさえいなければ、またうちの商品が売れるようになるに違いない…だったら)
歪んでしまった思考は彼をいけない方向へと駆り立てる。
(やってやる…)
その時の男の瞳にはもう職人の魂と呼べるものは存在しなかった。
●娯楽の陰に
「さぁ、よってらっしゃいみてらっしゃい! 今日はここで世紀の対決を御覧にいれるよぉ」
派手な服装に身を包んだ男がとある街道の一角で人を呼び込んでいる。
その中央のテントには顔がそっくりな二人の男。兄弟で傭兵をしているのか片方は槍を、もう片方は盾を手にしている。
「さぁさ、皆様お立ち合い。ここにある立派な槍と頑丈な盾。これは今注目の新人職人が作ったものだ。しかし、気にならないか? どちらも腕がいいと聞く…ならば、一体どちらが優秀なのかと」
口上につられるように見物人達が僅かにざわつく。
「そこで今日ははっきりさせようじゃあないか。若き匠の作りし槍と稀代の天才が作りし盾の本当の実力を!」
その言葉にワッ――とその場が湧いた。確かに誰もが考える事だ。
しかし、こういった直球の比較対決は両者に利益を生まない事が明白であり、道具職人の間では禁止されている。その他の地域でも暗黙の了解でこのような見世物紛いの行為は行わないのが普通だ。だがここは街道で、ゲリラ的に始まったのだから関係者がいない限り、止める者はいない。
「さぁ、では始めましょう」
呼び込みの合図で傭兵同士が向かい合う。そして、数度の打ち合いの末――。
ピキ…ピキピキピキッ ゴトリ
それは呆気ない幕切れだった。盾にはひびが入ると同時にそこからぱっくりと二つに割れ、槍は刃毀れを繰り返し、ついには見るも無残に欠け落ちてしまう。
『なんとっ!!』
人だかりからそんな声が上がる。
「そう、なんともはや…売り出し中の新人・注目の一品ってもこんなもんだ。新しいものにばかり飛びついちゃあ痛い目をみる。それを知って欲しくてねぇ…お粗末。これにて終了だ」
呼び込みはそう言うと、何事もなかったようにテントを畳んで砕けた槍と盾を素早く片付け去って行く。
「何だったんだ…?」
集まった人々はその手際の良さに呆気にとられながら呟く。
(フフッ、これで奴らも終わりだ…ちゃんと現物を使ってるし、客は疑わねぇだろう)
少しばかり商品に細工はしていたが…そんな事を心中で呟きつつ、呼び込みをしていた男はほくそ笑む。そして、
(どうせなら、もっと悪評を広めてやろう)
男の欲が自分を追いつめている事に彼はまだ気付いてはいなかった。
フマーレ職人組合にて。
「どうやら規則を破っている輩がいるようですな」
武器や防具を作る各工房の長やら熟練の職人やらが集められて密かに会議が行われている。
話題は勿論、現在流れている新人が作った道具への悪評被害についてである。
「現物を使っているのかどうかはわからんが、形状にはそれ程違いは見られなかったと聞いている。即ち…」
「使っていたとしたら、数度の打ち合いでガタが来るように細工が出来る人間。考えたくはありませんが、職人である、或いは道具に精通しているものの犯行かと」
一度であればそこまでの情報はなかったであろうが、犯人と思しき人物は味を占めたのか数回その見世物を行っているようで、聞き込みも割と進んでいる。
「どっちにしても早く捕まえねばな。期待の新人のものだ…これからの彼らの評判にも響くし、果てはここらの信用やブランドにも関わる」
場を纏めていた年配の職人が言う。
「では、依頼を…ハンター達に頼めばあっという間に探して貰えるでしょうし」
それぞれが動いてもいいのだが、その間仕事を放り出す事になってしまう。
それを避ける為、彼らは少しずつ資金を出し合って…ハンター達に依頼を出すのだった。
(若き匠? 稀代の天才? こんなのが出てこられるとこっちが困るんだよ…)
フマーレにある小さな酒場の片隅で真っ昼間から酒を煽るのは一人の男――。
手にはここらの職人らに配られている組合新聞。その見出しが新人特集とあって、彼はどうにも機嫌が悪い。
(こういう奴は何も判っちゃいないんだ。なのに、いい気になりやがって…)
男もかつては天辺を目指して腕を揮ったものだが、今となってはもう遥か昔の事だ。
(武器も盾も所詮消耗品と諦めて、次々買い替えて貰う。それがいいやり方だ)
使う側も売る側も……どちらも損はしないじゃあないか。
一概に丈夫で長持ちすればいいというものではない。両者にとって本当にいいもの。それは適度に使い捨てる事ができ、新商品に手を伸ばすきっかけが作れるもの。時が経つにつれてそう思うようになった彼である。であるからして…。
「軽くて丈夫な槍に、強靭で何ものにも負けない盾だと? 冗談じゃあない」
グラスに入っていた酒を煽って、男は考える。
(こいつらさえいなければ、またうちの商品が売れるようになるに違いない…だったら)
歪んでしまった思考は彼をいけない方向へと駆り立てる。
(やってやる…)
その時の男の瞳にはもう職人の魂と呼べるものは存在しなかった。
●娯楽の陰に
「さぁ、よってらっしゃいみてらっしゃい! 今日はここで世紀の対決を御覧にいれるよぉ」
派手な服装に身を包んだ男がとある街道の一角で人を呼び込んでいる。
その中央のテントには顔がそっくりな二人の男。兄弟で傭兵をしているのか片方は槍を、もう片方は盾を手にしている。
「さぁさ、皆様お立ち合い。ここにある立派な槍と頑丈な盾。これは今注目の新人職人が作ったものだ。しかし、気にならないか? どちらも腕がいいと聞く…ならば、一体どちらが優秀なのかと」
口上につられるように見物人達が僅かにざわつく。
「そこで今日ははっきりさせようじゃあないか。若き匠の作りし槍と稀代の天才が作りし盾の本当の実力を!」
その言葉にワッ――とその場が湧いた。確かに誰もが考える事だ。
しかし、こういった直球の比較対決は両者に利益を生まない事が明白であり、道具職人の間では禁止されている。その他の地域でも暗黙の了解でこのような見世物紛いの行為は行わないのが普通だ。だがここは街道で、ゲリラ的に始まったのだから関係者がいない限り、止める者はいない。
「さぁ、では始めましょう」
呼び込みの合図で傭兵同士が向かい合う。そして、数度の打ち合いの末――。
ピキ…ピキピキピキッ ゴトリ
それは呆気ない幕切れだった。盾にはひびが入ると同時にそこからぱっくりと二つに割れ、槍は刃毀れを繰り返し、ついには見るも無残に欠け落ちてしまう。
『なんとっ!!』
人だかりからそんな声が上がる。
「そう、なんともはや…売り出し中の新人・注目の一品ってもこんなもんだ。新しいものにばかり飛びついちゃあ痛い目をみる。それを知って欲しくてねぇ…お粗末。これにて終了だ」
呼び込みはそう言うと、何事もなかったようにテントを畳んで砕けた槍と盾を素早く片付け去って行く。
「何だったんだ…?」
集まった人々はその手際の良さに呆気にとられながら呟く。
(フフッ、これで奴らも終わりだ…ちゃんと現物を使ってるし、客は疑わねぇだろう)
少しばかり商品に細工はしていたが…そんな事を心中で呟きつつ、呼び込みをしていた男はほくそ笑む。そして、
(どうせなら、もっと悪評を広めてやろう)
男の欲が自分を追いつめている事に彼はまだ気付いてはいなかった。
フマーレ職人組合にて。
「どうやら規則を破っている輩がいるようですな」
武器や防具を作る各工房の長やら熟練の職人やらが集められて密かに会議が行われている。
話題は勿論、現在流れている新人が作った道具への悪評被害についてである。
「現物を使っているのかどうかはわからんが、形状にはそれ程違いは見られなかったと聞いている。即ち…」
「使っていたとしたら、数度の打ち合いでガタが来るように細工が出来る人間。考えたくはありませんが、職人である、或いは道具に精通しているものの犯行かと」
一度であればそこまでの情報はなかったであろうが、犯人と思しき人物は味を占めたのか数回その見世物を行っているようで、聞き込みも割と進んでいる。
「どっちにしても早く捕まえねばな。期待の新人のものだ…これからの彼らの評判にも響くし、果てはここらの信用やブランドにも関わる」
場を纏めていた年配の職人が言う。
「では、依頼を…ハンター達に頼めばあっという間に探して貰えるでしょうし」
それぞれが動いてもいいのだが、その間仕事を放り出す事になってしまう。
それを避ける為、彼らは少しずつ資金を出し合って…ハンター達に依頼を出すのだった。
リプレイ本文
●上書き
悪評を振り撒いた犯人を捜す為、依頼主となる組合から現在掴んでいる情報を引き渡して貰った面々は改めて各々の考えを述べる。
「職人の掟に背いてまで何を愚かな事をやっているのやら…地域全体の信用問題に成りかねないのに、そこまで気が回らないとは…妬みって怖いですねぇ」
ミノル・ユスティース(ka5633)が地図を広げながら言う。
「全くその通りね。愉快犯って線も考えられるけど…技術がないと出来ない様だしその線が有力かしら?」
セリス・ティニーブルー(ka5648)の見解もほぼ同じだ。少し考えれば業界全体が傷つく事をまるで判っていないと思う。
「どちらにせよ、罪は罪。たとえどんな理由があろうと然るべき所に出すまで」
烏丸 涼子 (ka5728)はそう言い、提出されて資料の中の被害者の項目に目を通す。
「まァ、何だァ。聞いた話じゃこの被害者側も泣き寝入りはしなかったようだし、こっちにとちゃア好都合だろ?」
ここに来るまでに聞いて来たのか万歳丸(ka5665)が話す。
それはつい先日の事。目には目をと被害者側もハンターらと組んで悪評払拭の技術競技会なる実演会を開いたらしい。人は己が見たものは信じる傾向にあるから、実演は打ってつけだ。
「成程~。という事はまた黒幕さんもやるかもしれないですね!」
その事を聞きリュミア・ルクス(ka5783)は手にした財布をグッと握る。
(このお仕事が成功すれば報酬がっぽり。御家賃のために頑張るのですっ!)
生きるためにはお金が必要――おいしいものも食べたいし、悪人退治に全力を尽くす構えだ。捜査の基本は足だと誰か偉い人が言っていたのを思い出し、彼女は現行犯逮捕を狙う。
「まぁ、この犯人は多くの目に触れていますし、実演していた傭兵らしい人物も特徴的です。その辺から当たっていけば自ずと黒幕さんにぶつかるでしょう」
穏やかに笑ってミノルは地図に印をつける。
「それは?」
「ああ、見世物があったと噂される場所です。念の為、法則的なものがないか調べてみようかと思いまして」
まだ書き込んだだけであるが、犯人の気付かない所で何かあるかもしれない。
「おー、なんか捜査っぽい!」
その作業にリュミアは目を輝かせた。そして、その後その地図を借りたいと申し出る。
「ほら、犯人は現場に戻るって言うしー、あたしその辺うろついてみるからさー」
そんな彼女のお願いにミノルは快く応じる。人員は少ないし、一人で出来る事は限られている。
「ありがとー」
彼女はそれを受け取ると、早速意気揚々と出て行こうとする。
「気ィつけてなァ」
万歳丸の言葉に彼女は元気よく頷いた。
●方法
五者五様の方法で――彼等は犯人捜索にあたる。そこでミノルは傭兵斡旋所となる建物に足を運んでいた。
「兄弟だと思われる顔付がそっくりな傭兵なのですが、登録されていないでしょうか?」
ハンターと同じように、登録があれば足取りを追えるかもしれない。しかし、事はそう簡単に運ばない。
「ん~、うちの名簿にはないねぇ。傭兵って言ってもあんたらハンターが兼任している場合もあるし、最近はフリーでも名を上げればやってけると思ってる若者も多いからなぁ」
組合に登録すれば仕事の斡旋はして貰えるが、仲介料がとられてしまう。
それを嫌う者も少なくない。ミノルのあては外れだが、これも無駄ではない。
「まあ、そう簡単に見つかってはつまらない……なんて不謹慎でしょうか」
彼がぽつりと呟き、傭兵の人相を元にした聞き込みを始める。
一方人相と言えば、目立つ角を帽子で隠して路地裏をうろつくのは万歳丸だ。
道すがら見かけた工房や職人にも思い当たる人間がいないか声を掛けてはいるが、正攻法だけでは難しい。そこで彼は聞き込み対象を意外な人物に切り替える。
「よォ、この辺りで武器や盾を使って客寄せしてるヤツを探してるンだが…あんたら知らねェか?」
「なんだよ、話しかけ…って、げっ!」
まだ青二才という言葉がぴったりくる悪ガキだ。悪振り振り返ったはいいが、その先の巨体に委縮する。
「あ、あの…道なら譲りますんで…」
そんな少年らに彼ははぁと息を吐いた。判っていた事だが如何にもこの巨体はいつも人を驚かせてしまう。生まれ持ったものであるから仕方がないが、やはり余りいい気はしない。が今その事を気にしている場合ではない。
「いやァ、わりィわりィ…何ちょっと人を探しているだけだ。もし、おまえらが先に見つけたら駄賃をやるぜ?」
出来るだけ愛想よく笑って彼等に話を持ちかける。
「えと…人探し、ですか。ちなみに人相は…」
畏まったまま少年達はおとなしく彼の話を聞く。
「まぁ、見つかったら連絡くれや。俺ァこの辺をうろついてるからよォ」
万歳丸の言葉に彼らは頷く。
(地元のガキの情報網はどれほどのもんかねェ)
正直当てになるとは思えない。しかしこの後彼らは重要人物と接触するのだが、それは彼の知らぬところ。彼に代ってその現場に遭遇するのは涼子であるが、その前に首尾よく情報を掴んだのはセリスの方。
「まぁ、ここはある意味競争社会だからねぇ…挫折ややさぐれなんて日常茶飯さぁ」
酒場のマスターがグラスを磨きながら彼女に言う。
「で最近そんな感じだった職人の名前は?」
そこで単直に名を尋ねてみる彼女だが、それで得られる筈もなく。
「おやおや、大胆なお客様だ。けど、うちも客商売だからねぇ。私からはなんとも…」
守秘義務――とまではいかないが、酒の入った者は無意識にプライベートを話す事もある。それを聞き流してやるのも店の役目だ。
「けど、これはもう事件として扱われているのよ。だから…」
彼女が負けじと食い下がる。
「さぁねえ…っとお客様。ここは酒場だ、何か飲んで頂かないと…シャーリーテンプルなど如何かな?」
マスターはコースターを手に取り、小さく微笑む。その意図を朧に察し、彼女も応対する。
「いいわ、それを頂戴」
「畏まりました」
何気ない受け答え…ちなみにシャーリーテンプルはノンアルのカクテルで用心深いという意味を持っている。
彼女がその意味を知っていたかは別として、マスターは周囲を窺うとカウンターの裏でペンを走らせコースターに数名の名を書き、それを彼女のカクテルの下に敷く。
「有難う、マスター」
書かれたのは五人の名――これを照合すれば彼らの住所くらいは判りそうだ。
(この中に当たりがあるといいけど)
昼の酒場は何処か寂しかった。
「そう、新作は出来ていない訳ね」
被害者であった新人のもとを尋ねた涼子は思案する。もし新しい商品が出来ていたなら、犯人はまたその商品を使い見世物をする為、道具屋に新作を買いに来ると踏んでいた。しかし、実際は出来ていない。けれど、新人が行った事は決して彼女達に不利ではない。
(犯行で大金を得ている気配もなさそうだし、逆恨みも含めた怨恨の線だとすると…悪評が消えてしまう事は彼にとって好ましくない訳よね)
折角つけた悪評――簡単に打ち消され、今頃頭に来ている筈だ。冷静な判断が出来なくなっている犯人であれば、もう一度上書きを試みてもおかしくない。
「問題はここで張っていていいのかって事だけど、やってみるしかないわよね」
比較的在庫のある道具屋の協力を得て、彼女は裏口から中の様子を窺い怪しい人物がこないかを探る。そして注目すべきは新人の武器を手に取る者だけ。しかも迷いなく取る者に絞る。勿論店主にも同業者や職人が来た場合は知らせて欲しいとお願いしている。
(話によれば見世物に使われているものは本物。複製を作っていないとすれば次に使うモノを買う必要がある)
見世物の為に何個用意していたかは判らないが、業者でない限り一度にそれ程多くは買っていない筈だ。でなければ、大量購入自体怪しまれる。
「いらっしゃいませ~」
店主が入って来た客に声をかけている。案外道具屋には人が来るもので、人の出入りは多い。
「毎度あり~」
何度もそんなやり取りを見つめていた彼女であったが、次に入ってきた客を見た瞬間何か違和感を覚える。
「ちっーす」
複数人で入って来たのは絵に描いたような悪ガキだ。そんな彼等が一通り周囲を見回して、手に取ったのがあの盾と槍だったのだ。
「親父、これとこれを買うぜ」
仲間の少年から金の入った袋を受け取り、そのまま店主に差し出す。
(彼らが槍と盾?)
もし仮に彼らがハンターだとして、身なりは袖のないシャツに擦り切れたズボン。戦闘時に着替えるとしてもとても重装備をする者の体格ではない。どちらかと言えば自分と同じ格闘タイプ…そんな彼らが槍と盾を買うというのは些か不思議である。
「毎度あり~」
早々に買い物を終えて、少年達が店を出ていく。
「店主、彼らはハンターなのか?」
彼らが出たのを確認し涼子が尋ねる。
「いえ、今日初めて来たと思いますよ。いつもは路地裏でたむろってたりしますが、仕事でも見つけたのかなぁ?」
呑気な言いようであったが、彼女の思考は既にもうそこにはない。まだ子供の彼らがそこそこする道具を買って行った。しかもさっきの支払い方。
(あれではまるで金額を知っていたような…)
金の入った袋は紐で縛られていた。初めて入って物色して決めたのなら財布を開く筈だ。つまり彼らは既に金額を知っていた、あるいは買うものが決まっていたという事になる。
(別の店でサーチしてこずかいを貯めた? いや、違う)
あの手の少年がコツコツ貯金は似合わない。彼女は直感的に店を飛び出す。幸い、少年らはそう遠くには行っていない。
「ちょっとま…」
彼女はそう言いかけて、言葉を切った。
彼等が進む先――路地の奥には怪しげな人影二つ。
「へへっ、頼まれたもん。買ってきたぜ」
少年らはその人物に槍と盾を渡し、さっき道具屋で出していた様な袋を受け取り去っていく。道具を受け取った人物は少年を見送ると足早に行動を開始する。
(明らかに怪しいわね、あの二人…)
顔を隠しているという事は何らかの理由がある筈だ。そしてその予想が当たっていればきっと――。
●もう一度
「おうおう、それは本命っぽいなァ」
涼子の報告を聞いて万歳丸が顎に手を当てる。
「多分間違いないわ。私の調べでもその場所の住人の名が挙がってるもの」
涼子の行きついた先と酒場で仕入れた情報の中の一人と住所が一致。その名はレンチ、勿論武器職人だ。
「何でも一度ここらのコンクールで入賞した事があるらしいわ。ただ、その後は平々凡々。腕はあるようだけど、最近はなまくらが多いとかで彼の道具の売れ行きはいまいちみたい」
それで妬み犯行に至ったか。彼の住まいはなかなかのボロアパートだと言う。
「では、いざ出陣なの。でないと逃げられちゃうかもだし」
やれ急げとリュミアが立ち上がる。
「いや、住んでる場所はわかっていますし、現場を押さえましょう」
がミノルは冷静だった。準備が出来れば彼等は見世物をする為に出て行く筈だ。そこを押さえれば、確固たる証拠も得られ言い逃れも出来なくなる。
「となると明朝でしょうか。アパートの近くで張り込みましょー」
リュミアの言葉に皆が頷いた。
フマーレから離れた場所でないといけない。万一見つかる恐れがあるからだ。
だが、数日家を空ければ怪しまれる。そこでレンチは早朝を選んで馬車を用意し、傭兵らと共に街道へ出る。
それが彼のやり方――まだ霧の多い石畳に彼等の僅かな靴音が響く。
「きゃっ」
そこで肩がぶつかった。女性の声にハッとして、彼は慌ててそちらに視線を向ける。
「あの、朝早くから何処に行かれるんですか?」
彼女の問いに彼は答えない。呼び込みの恰好をしたままで彼女を無視して荷物を取りに戻ろうとする。
「あの、もし最近うわさの見世物だったらあたし見てみたいなー」
その言葉にレンチの動きが止まった。
そして、馬車に乗っていた傭兵らも異変に気付き、彼女に向けて武器を振り被る。
「皆さん、出てきて下さいっ!」
がその得物が彼女をとらえる事はない。
「なァ、この槍見せてくれるかィ?」
万歳丸が槍の柄を掴んで言う。
「こちらの盾も興味深いですね」
とこれはミノル。積んでいた盾を押収し、表面にある筈の細工を探す。
「無駄な抵抗は怪我の元よ…」
そしてセリスはレンチらに銃を構え、降伏を促す。そんな彼らを見てレンチはゆっくりと口を開く。
「あんたら、ハンターってやつだろう? だったらなんであっちの味方すんだよ」
自分が正しいと言うように…その問いに彼らは訝しむ。
「あァん、あんた何が言いたいンだ?」
そこで万歳丸が尋ね返す。
「あんたらだって新しいもんが気になんだろう。それは良い事だとは思うぜ…だったら、丈夫過ぎる道具なんざ不要なだけだろう? 良過ぎる製品は次を許さない…だったら、適度に壊れる方がいいに決まってる」
不気味な笑みを浮かべて、彼は持論を展開する。
「でなければ、買った道具はどうなる…売りに出すか? 中古の道具なんざ安価でさばかれて終わりだってのによぉ…」
ふるふると震える手が彼の言葉とは裏腹に彼の内面を映し出しているようにも見える。
「成程、おめェの言い分はそれだけかァ? 確かに判らんでもない…だがよ。俺達より先に逝く武器に誰が命を預けンだ、ア? 都合よく手入れ中に壊れるようにつくれんのか? もし戦場で壊れたら…あんたは責任とれンのか?」
道具は丈夫であってこそだ。第一、ハンターらの手足となり彼らを護り助けるものであり、そう簡単に壊れるようでは意味がない。命を支える為の唯一無二の相棒――その相棒に信用がおけなくてどうする。彼はそう言うと見せしめのように細工された槍をへし折る。
「あ、あああ……」
レンチはその光景を前に言葉を失う。そして零れた破片が自分の闇と重なって見える。
「誰も死んでないし、政治的なデマでもない。だからあなたの意志さえあれば償える」
罪は罪であるが、情状酌量の余地はある。人は新しいものが好きだ。強力でより良いものが出れば、そちらに手を伸ばしてしまうのも事実。簡単に鞍替えされれば、作った本人もいい気はしない。それでも彼らは己が作る道具を愛し、丈夫に作らねばならない。手を抜いてはならない。ましてや、手を加えて本当に良いものを偽りで貶めていいものではないのだ。
「……」
レンチはそのまま言葉なく蹲る。そして彼は組合員立ち合いの許、裁かれて――。
「レンチさんは職人組合除名。懲役は三年だそうです」
街の噂で聞いた話だ。彼は今、檻の中で作業の合間に『リメイク』の研究を始めているという。
「自分が裏切り続けた道具を見つめ直した結果、と言ったところでしょうか?」
ミノルが言う。温故知新――新しいものが全てではない。
彼はもう一度初心に返って、新たな道を開拓し始めているのかもしれない。
悪評を振り撒いた犯人を捜す為、依頼主となる組合から現在掴んでいる情報を引き渡して貰った面々は改めて各々の考えを述べる。
「職人の掟に背いてまで何を愚かな事をやっているのやら…地域全体の信用問題に成りかねないのに、そこまで気が回らないとは…妬みって怖いですねぇ」
ミノル・ユスティース(ka5633)が地図を広げながら言う。
「全くその通りね。愉快犯って線も考えられるけど…技術がないと出来ない様だしその線が有力かしら?」
セリス・ティニーブルー(ka5648)の見解もほぼ同じだ。少し考えれば業界全体が傷つく事をまるで判っていないと思う。
「どちらにせよ、罪は罪。たとえどんな理由があろうと然るべき所に出すまで」
烏丸 涼子 (ka5728)はそう言い、提出されて資料の中の被害者の項目に目を通す。
「まァ、何だァ。聞いた話じゃこの被害者側も泣き寝入りはしなかったようだし、こっちにとちゃア好都合だろ?」
ここに来るまでに聞いて来たのか万歳丸(ka5665)が話す。
それはつい先日の事。目には目をと被害者側もハンターらと組んで悪評払拭の技術競技会なる実演会を開いたらしい。人は己が見たものは信じる傾向にあるから、実演は打ってつけだ。
「成程~。という事はまた黒幕さんもやるかもしれないですね!」
その事を聞きリュミア・ルクス(ka5783)は手にした財布をグッと握る。
(このお仕事が成功すれば報酬がっぽり。御家賃のために頑張るのですっ!)
生きるためにはお金が必要――おいしいものも食べたいし、悪人退治に全力を尽くす構えだ。捜査の基本は足だと誰か偉い人が言っていたのを思い出し、彼女は現行犯逮捕を狙う。
「まぁ、この犯人は多くの目に触れていますし、実演していた傭兵らしい人物も特徴的です。その辺から当たっていけば自ずと黒幕さんにぶつかるでしょう」
穏やかに笑ってミノルは地図に印をつける。
「それは?」
「ああ、見世物があったと噂される場所です。念の為、法則的なものがないか調べてみようかと思いまして」
まだ書き込んだだけであるが、犯人の気付かない所で何かあるかもしれない。
「おー、なんか捜査っぽい!」
その作業にリュミアは目を輝かせた。そして、その後その地図を借りたいと申し出る。
「ほら、犯人は現場に戻るって言うしー、あたしその辺うろついてみるからさー」
そんな彼女のお願いにミノルは快く応じる。人員は少ないし、一人で出来る事は限られている。
「ありがとー」
彼女はそれを受け取ると、早速意気揚々と出て行こうとする。
「気ィつけてなァ」
万歳丸の言葉に彼女は元気よく頷いた。
●方法
五者五様の方法で――彼等は犯人捜索にあたる。そこでミノルは傭兵斡旋所となる建物に足を運んでいた。
「兄弟だと思われる顔付がそっくりな傭兵なのですが、登録されていないでしょうか?」
ハンターと同じように、登録があれば足取りを追えるかもしれない。しかし、事はそう簡単に運ばない。
「ん~、うちの名簿にはないねぇ。傭兵って言ってもあんたらハンターが兼任している場合もあるし、最近はフリーでも名を上げればやってけると思ってる若者も多いからなぁ」
組合に登録すれば仕事の斡旋はして貰えるが、仲介料がとられてしまう。
それを嫌う者も少なくない。ミノルのあては外れだが、これも無駄ではない。
「まあ、そう簡単に見つかってはつまらない……なんて不謹慎でしょうか」
彼がぽつりと呟き、傭兵の人相を元にした聞き込みを始める。
一方人相と言えば、目立つ角を帽子で隠して路地裏をうろつくのは万歳丸だ。
道すがら見かけた工房や職人にも思い当たる人間がいないか声を掛けてはいるが、正攻法だけでは難しい。そこで彼は聞き込み対象を意外な人物に切り替える。
「よォ、この辺りで武器や盾を使って客寄せしてるヤツを探してるンだが…あんたら知らねェか?」
「なんだよ、話しかけ…って、げっ!」
まだ青二才という言葉がぴったりくる悪ガキだ。悪振り振り返ったはいいが、その先の巨体に委縮する。
「あ、あの…道なら譲りますんで…」
そんな少年らに彼ははぁと息を吐いた。判っていた事だが如何にもこの巨体はいつも人を驚かせてしまう。生まれ持ったものであるから仕方がないが、やはり余りいい気はしない。が今その事を気にしている場合ではない。
「いやァ、わりィわりィ…何ちょっと人を探しているだけだ。もし、おまえらが先に見つけたら駄賃をやるぜ?」
出来るだけ愛想よく笑って彼等に話を持ちかける。
「えと…人探し、ですか。ちなみに人相は…」
畏まったまま少年達はおとなしく彼の話を聞く。
「まぁ、見つかったら連絡くれや。俺ァこの辺をうろついてるからよォ」
万歳丸の言葉に彼らは頷く。
(地元のガキの情報網はどれほどのもんかねェ)
正直当てになるとは思えない。しかしこの後彼らは重要人物と接触するのだが、それは彼の知らぬところ。彼に代ってその現場に遭遇するのは涼子であるが、その前に首尾よく情報を掴んだのはセリスの方。
「まぁ、ここはある意味競争社会だからねぇ…挫折ややさぐれなんて日常茶飯さぁ」
酒場のマスターがグラスを磨きながら彼女に言う。
「で最近そんな感じだった職人の名前は?」
そこで単直に名を尋ねてみる彼女だが、それで得られる筈もなく。
「おやおや、大胆なお客様だ。けど、うちも客商売だからねぇ。私からはなんとも…」
守秘義務――とまではいかないが、酒の入った者は無意識にプライベートを話す事もある。それを聞き流してやるのも店の役目だ。
「けど、これはもう事件として扱われているのよ。だから…」
彼女が負けじと食い下がる。
「さぁねえ…っとお客様。ここは酒場だ、何か飲んで頂かないと…シャーリーテンプルなど如何かな?」
マスターはコースターを手に取り、小さく微笑む。その意図を朧に察し、彼女も応対する。
「いいわ、それを頂戴」
「畏まりました」
何気ない受け答え…ちなみにシャーリーテンプルはノンアルのカクテルで用心深いという意味を持っている。
彼女がその意味を知っていたかは別として、マスターは周囲を窺うとカウンターの裏でペンを走らせコースターに数名の名を書き、それを彼女のカクテルの下に敷く。
「有難う、マスター」
書かれたのは五人の名――これを照合すれば彼らの住所くらいは判りそうだ。
(この中に当たりがあるといいけど)
昼の酒場は何処か寂しかった。
「そう、新作は出来ていない訳ね」
被害者であった新人のもとを尋ねた涼子は思案する。もし新しい商品が出来ていたなら、犯人はまたその商品を使い見世物をする為、道具屋に新作を買いに来ると踏んでいた。しかし、実際は出来ていない。けれど、新人が行った事は決して彼女達に不利ではない。
(犯行で大金を得ている気配もなさそうだし、逆恨みも含めた怨恨の線だとすると…悪評が消えてしまう事は彼にとって好ましくない訳よね)
折角つけた悪評――簡単に打ち消され、今頃頭に来ている筈だ。冷静な判断が出来なくなっている犯人であれば、もう一度上書きを試みてもおかしくない。
「問題はここで張っていていいのかって事だけど、やってみるしかないわよね」
比較的在庫のある道具屋の協力を得て、彼女は裏口から中の様子を窺い怪しい人物がこないかを探る。そして注目すべきは新人の武器を手に取る者だけ。しかも迷いなく取る者に絞る。勿論店主にも同業者や職人が来た場合は知らせて欲しいとお願いしている。
(話によれば見世物に使われているものは本物。複製を作っていないとすれば次に使うモノを買う必要がある)
見世物の為に何個用意していたかは判らないが、業者でない限り一度にそれ程多くは買っていない筈だ。でなければ、大量購入自体怪しまれる。
「いらっしゃいませ~」
店主が入って来た客に声をかけている。案外道具屋には人が来るもので、人の出入りは多い。
「毎度あり~」
何度もそんなやり取りを見つめていた彼女であったが、次に入ってきた客を見た瞬間何か違和感を覚える。
「ちっーす」
複数人で入って来たのは絵に描いたような悪ガキだ。そんな彼等が一通り周囲を見回して、手に取ったのがあの盾と槍だったのだ。
「親父、これとこれを買うぜ」
仲間の少年から金の入った袋を受け取り、そのまま店主に差し出す。
(彼らが槍と盾?)
もし仮に彼らがハンターだとして、身なりは袖のないシャツに擦り切れたズボン。戦闘時に着替えるとしてもとても重装備をする者の体格ではない。どちらかと言えば自分と同じ格闘タイプ…そんな彼らが槍と盾を買うというのは些か不思議である。
「毎度あり~」
早々に買い物を終えて、少年達が店を出ていく。
「店主、彼らはハンターなのか?」
彼らが出たのを確認し涼子が尋ねる。
「いえ、今日初めて来たと思いますよ。いつもは路地裏でたむろってたりしますが、仕事でも見つけたのかなぁ?」
呑気な言いようであったが、彼女の思考は既にもうそこにはない。まだ子供の彼らがそこそこする道具を買って行った。しかもさっきの支払い方。
(あれではまるで金額を知っていたような…)
金の入った袋は紐で縛られていた。初めて入って物色して決めたのなら財布を開く筈だ。つまり彼らは既に金額を知っていた、あるいは買うものが決まっていたという事になる。
(別の店でサーチしてこずかいを貯めた? いや、違う)
あの手の少年がコツコツ貯金は似合わない。彼女は直感的に店を飛び出す。幸い、少年らはそう遠くには行っていない。
「ちょっとま…」
彼女はそう言いかけて、言葉を切った。
彼等が進む先――路地の奥には怪しげな人影二つ。
「へへっ、頼まれたもん。買ってきたぜ」
少年らはその人物に槍と盾を渡し、さっき道具屋で出していた様な袋を受け取り去っていく。道具を受け取った人物は少年を見送ると足早に行動を開始する。
(明らかに怪しいわね、あの二人…)
顔を隠しているという事は何らかの理由がある筈だ。そしてその予想が当たっていればきっと――。
●もう一度
「おうおう、それは本命っぽいなァ」
涼子の報告を聞いて万歳丸が顎に手を当てる。
「多分間違いないわ。私の調べでもその場所の住人の名が挙がってるもの」
涼子の行きついた先と酒場で仕入れた情報の中の一人と住所が一致。その名はレンチ、勿論武器職人だ。
「何でも一度ここらのコンクールで入賞した事があるらしいわ。ただ、その後は平々凡々。腕はあるようだけど、最近はなまくらが多いとかで彼の道具の売れ行きはいまいちみたい」
それで妬み犯行に至ったか。彼の住まいはなかなかのボロアパートだと言う。
「では、いざ出陣なの。でないと逃げられちゃうかもだし」
やれ急げとリュミアが立ち上がる。
「いや、住んでる場所はわかっていますし、現場を押さえましょう」
がミノルは冷静だった。準備が出来れば彼等は見世物をする為に出て行く筈だ。そこを押さえれば、確固たる証拠も得られ言い逃れも出来なくなる。
「となると明朝でしょうか。アパートの近くで張り込みましょー」
リュミアの言葉に皆が頷いた。
フマーレから離れた場所でないといけない。万一見つかる恐れがあるからだ。
だが、数日家を空ければ怪しまれる。そこでレンチは早朝を選んで馬車を用意し、傭兵らと共に街道へ出る。
それが彼のやり方――まだ霧の多い石畳に彼等の僅かな靴音が響く。
「きゃっ」
そこで肩がぶつかった。女性の声にハッとして、彼は慌ててそちらに視線を向ける。
「あの、朝早くから何処に行かれるんですか?」
彼女の問いに彼は答えない。呼び込みの恰好をしたままで彼女を無視して荷物を取りに戻ろうとする。
「あの、もし最近うわさの見世物だったらあたし見てみたいなー」
その言葉にレンチの動きが止まった。
そして、馬車に乗っていた傭兵らも異変に気付き、彼女に向けて武器を振り被る。
「皆さん、出てきて下さいっ!」
がその得物が彼女をとらえる事はない。
「なァ、この槍見せてくれるかィ?」
万歳丸が槍の柄を掴んで言う。
「こちらの盾も興味深いですね」
とこれはミノル。積んでいた盾を押収し、表面にある筈の細工を探す。
「無駄な抵抗は怪我の元よ…」
そしてセリスはレンチらに銃を構え、降伏を促す。そんな彼らを見てレンチはゆっくりと口を開く。
「あんたら、ハンターってやつだろう? だったらなんであっちの味方すんだよ」
自分が正しいと言うように…その問いに彼らは訝しむ。
「あァん、あんた何が言いたいンだ?」
そこで万歳丸が尋ね返す。
「あんたらだって新しいもんが気になんだろう。それは良い事だとは思うぜ…だったら、丈夫過ぎる道具なんざ不要なだけだろう? 良過ぎる製品は次を許さない…だったら、適度に壊れる方がいいに決まってる」
不気味な笑みを浮かべて、彼は持論を展開する。
「でなければ、買った道具はどうなる…売りに出すか? 中古の道具なんざ安価でさばかれて終わりだってのによぉ…」
ふるふると震える手が彼の言葉とは裏腹に彼の内面を映し出しているようにも見える。
「成程、おめェの言い分はそれだけかァ? 確かに判らんでもない…だがよ。俺達より先に逝く武器に誰が命を預けンだ、ア? 都合よく手入れ中に壊れるようにつくれんのか? もし戦場で壊れたら…あんたは責任とれンのか?」
道具は丈夫であってこそだ。第一、ハンターらの手足となり彼らを護り助けるものであり、そう簡単に壊れるようでは意味がない。命を支える為の唯一無二の相棒――その相棒に信用がおけなくてどうする。彼はそう言うと見せしめのように細工された槍をへし折る。
「あ、あああ……」
レンチはその光景を前に言葉を失う。そして零れた破片が自分の闇と重なって見える。
「誰も死んでないし、政治的なデマでもない。だからあなたの意志さえあれば償える」
罪は罪であるが、情状酌量の余地はある。人は新しいものが好きだ。強力でより良いものが出れば、そちらに手を伸ばしてしまうのも事実。簡単に鞍替えされれば、作った本人もいい気はしない。それでも彼らは己が作る道具を愛し、丈夫に作らねばならない。手を抜いてはならない。ましてや、手を加えて本当に良いものを偽りで貶めていいものではないのだ。
「……」
レンチはそのまま言葉なく蹲る。そして彼は組合員立ち合いの許、裁かれて――。
「レンチさんは職人組合除名。懲役は三年だそうです」
街の噂で聞いた話だ。彼は今、檻の中で作業の合間に『リメイク』の研究を始めているという。
「自分が裏切り続けた道具を見つめ直した結果、と言ったところでしょうか?」
ミノルが言う。温故知新――新しいものが全てではない。
彼はもう一度初心に返って、新たな道を開拓し始めているのかもしれない。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/03 17:39:57 |
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黒幕を探せ 万歳丸(ka5665) 鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2015/11/04 08:36:34 |