• 深棲

【深棲】商と霧と山岳猟団

マスター:有坂参八

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/01 12:00
完成日
2014/08/10 13:15

みんなの思い出

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オープニング

●霧の道
 活気に溢れる冒険都市リゼリオを出発し、極彩色の街ヴァリオスを通り過ぎて、次に農耕地帯ジェオルジを抜け、その更に北へ行く。
 そうして、辺境と自由都市同盟とを結ぶ海岸沿いの街道を往来し、儲けを稼ぐ商人たちは多い。
 歪虚との戦いに逼迫する辺境は兎角、多くの集落が物資不足で、売り手市場の傾向が強いのだ。特に武具、食料、薬品の類は、然程品質を選ばずともよく売れる。
 何時の世も、商人にとって戦は立身出世の好機であり……この街道が若く野心ある商人達に多く使われるのもまた、ある種の必然と言えた。

 その街道の、本来ならば地平と海とがどこまでも広がる筈の景色を、老兵はここ数日間、ただじっと見つめていた。
 酷く霧の濃い数日だった。視界は劣悪で、碧の海面と白砂の浜辺に輝く筈の景色は、深い霧に覆われて一切が見通せない。
 辺境で長い時間を過ごした老兵にとってもここまで深い霧は見たことがなく、それは極めて異常な事象であった。
 一寸先さえまともに見えぬのだから、海に漕ぎ出すのはもちろんのこと、街道を歩いて進むことさえ、これはおそらく不可能であろう。
「………………♪」
 ふと、歌が聞こえてきた。
 霧の向こう側にたゆたう、か細く、麗らかで、けれど時折、調子と音程の狂う歌。
 老兵は、衰えて久しい目を凝らす。白い霞に浮かぶ小さな人影、長い髪、翼のシルエット。
「………………♪」
 老兵さえ知らぬ言葉で紡がれる歌の、その旋律が強く深まるほどに、霧もまた、濃さを増す。
 老兵は確信した。その上で、待ち人が来たかの様に、にやりと笑った。

 歪虚が、現れたのだ。

●要塞にて
「ドワーフ王と隊商達が孤立した?」
 辺境の要塞ノアーラ・クンタウに居を構える帝国軍の対歪虚部隊・山岳猟団、その兵舎にて。
 山岳猟団の団長代理、八重樫敦は、団員である老戦士シバよりの報告に、怪訝な表情を浮かべた。
「ああ、ドワーフ王ヨアキムとその手下が何人か、それに彼らと取引を持つ隊商が、濃霧の中で足止めを食らっておる。サイレンにやられたようじゃな」
「サイレン。歪虚か、特徴は」
「半人半鳥の姿で、歌を唄う。そして、雲の様に濃い霧を生む。判っておるのはそれだけだ。なにせ行動が気まぐれで、その意図も読めん」
「『狂気』の眷属だな」
「然り」
 狂気。昨今になって急に動きを活発化させた、リアルブルーより来たとされる歪虚。総じて行動は支離滅裂であるのが特徴で、その動きを予測する事は困難だ。
 活動域は自由都市同盟の領域だと聞いて、気に懸けていなかったが……
「来たか。辺境にも」
「ドワーフ王が歪虚に襲われ、安否さえ確認できぬのでは一大事。山岳猟団としても動く必要があろう」
「無理だ。これ以上、状況を抱え込む余裕はない」
 シバの提案を、しかし八重樫は即断で拒む。
 猟団は常に、瓦解寸前のぎりぎりの戦力で歪虚と戦い続けている。先日もハンターを雇い入れて尚、相当数の負傷者を出して漸く歪虚を撃破したという現状で、既出の歪虚対応以外に戦力を割くことは、単純な人員数の問題で不可能なのだ。
「そこじゃ。儂らに余裕が無いのは何故か。第一は帝国軍が物資をよこさんからじゃろ」
「……」
 八重樫は、押し黙った。帝国の猟団に対する扱いが、前線正規部隊に対するそれとは思えない程悪いのは事実だ。
 装備も、薬も、被服も、食料も、あらゆる物資が、現状では不足だ。
「補給要請は直参の者達が何度も上げたが、まともに通った試しもない。理由はどうあれ、帝国軍は山岳猟団を、維持すべき貴重な戦力とは考えておらんよ」
「どうすると」
「上からの支援が無いならば、猟団自ら、補給線を確保するしかないと言うことよ」
 八重樫の中で話が見えたらしく、彼は眉をひくりと動かした。
「その孤立した隊商を使う気か」
 八重樫の言葉で、シバの目に、老い先短い人間とは思えない輝きが宿る。
「おう。ドワーフ共は、その隊商となにか極めて重要な物資の取引をしている筈だ。王者たるヨアキム自身が動いた以上、これは間違いない。双方に恩を売るには、絶好の機会じゃろう?」
「軍規がある。要塞管理者のヴェルナーが黙っていまい」
「どうとでもなる。お主は山岳猟団団長代理『兼ねて』極東十八傭兵団長。取引をするのは、どちらの肩書かね」
 八重樫は、一瞬考える間を置いた。シバは畳み掛ける。
「戦力が足りぬのなら、ハンターを動かすがよかろう。ついでに隊商との交渉も、彼らに任せりゃいい。安く取引した分、取り分を増やしてやるとな」
「部外者に対外交渉まで任せるのは気が進まんな」
「儂は商談などできんぞ。お主はできるのか」
「できん」即答の八重樫。
「なら、決まりじゃ」
「……いいだろう。好きに勧めろ」
 八重樫は腹を決めた。
 自分達の面倒は自分達で見る、少なくとも八重樫ら傭兵は、そういう原則で生きてきた。
 先日に引き続き、ハンターがどこまで使えるか、いい見極めにもなるだろう。
「これあら使えそうなハンターを引っ張ってくる。連絡と案内は、また儂が受け持つでな」
「まて、シバ」
 最後に八重樫が、ふと思い立った様に、去ろうとするシバを呼び止めた。
「今回の事を、お前はどうやって知った。帝国軍もハンターソサエティも、歪虚はおろか、ドワーフ王が動いたことさえまだ知らん筈だぞ」
 老人は……また笑った。
「お前さん達が辺境などと呼びおるこの『赤き大地』はな、儂らの庭も同然ぞ。年季が違うちゅうことよ」

リプレイ本文

●霧の歌姫
「…………♪」

 霧の向こうから、白波の揺れる音に混ざり、微かな歌が聞こえる。
 それは集った八人のハンターの、誰一人として知らない歌だった。
「……どうやら、歌姫は近くにいらっしゃるようだ」
 クラウス・エンディミオン(ka0680)が、じっとりと湿った癖毛を掻き上げながら周囲を見渡した。
 嫌な霧だ、とクラウスは想った。厚く、重い霧。
 事前にシバに大凡の地形をたずねていなければ、いま自分達が浜辺のどこに立っているのかさえ把握できなかったであろう。
「霧はこの歌に依るものなんじゃろうな。尤も、他の効果もあるやもしれんが」
 レーヴェ・W・マルバス(ka0276)は、歌の音源を探っている。聞きながら自身の体調にも意識を注いではいるが、まだ異変と呼べる程の変化は、無い。
「こんな美声で歌うお嬢さんを狩らねばならんとは、なかなかに倒錯的かつ猟奇的だな」
 レーヴェの隣、密着しそうな程近くを歩くのは、ヴァージル・チェンバレン(ka1989)。彼はドワーフのレーヴェが見上げる程の長身だが、それだけで互いの顔は霞んで見える。
 霧の濃い方向へ行けば……ともヴァージルは考えていたが、最早視界は全く当てにならないと知り、面倒そうに溜息をついた。
「大分はっきり聞こえてきた。もう対策をした方がいい」
 次いで、アレグザンダー・ブリッグス(ka1346)の声。敵に接近していることで、彼の語調は、淡々とした抑揚の薄い物となっている。
 サイレンの歌声になんらかの効果があると聞き、ハンター達は事前に耳栓を装着するよう、打ち合わせていた。
 唯一、最も抵抗力に長けるクラウスだけが、両耳を開けたまま歌の方向を探っている。
「私も耳栓……って、あれ、私覚醒したらどうやって耳栓したら……」
 美作さくら(ka2345)は、覚醒の影響で変化した狼耳が塞がらず戸惑っていたが、それを聞いたシバは笑いを堪えつつ、
「何、耳穴が塞がるなら同じ事よ」
 と、丸めた麻布をぎゅっと彼女の耳に詰め込んだ。

 真っ先に異変を感じ取ったのは、耳栓を外したクラウスだった。
 手足が痺れ、意識が遠のく様な感覚が、指先から徐々に彼の四肢を蝕み始めたのだ。
「魔法的な殺傷力もあるが、それより麻痺の効果……いや、麻酔に近いか?」
 クラウスは冷静に自分の症状を分析し、仲間に身振り手振りで伝える。歌の音源に近づく程、その影響は、ごく緩やかにだが強まっていく。
「……相手が動き始めましたね」
 真田 天斗(ka0014)が、霧の向こう、上空を見上げた。
 歌い手が飛翔したのを、音響から察知したのだ。
「耳栓が邪魔だ。外して、もう一度周囲を探る」
 アレグザンダーが耳栓を外して、クラウスと共に捜索に加わる。
 ハンター達は背中合わせになって移動していたが、まだ誰もサイレンを目視してはいない。
「……旋回している?」
「私達の存在に気づいているのかね」
 アレクザンダーの呟きに、クラウスが返す。
 歌の聞こえてくる方向は、右へ左へ不規則に変化し、その法則性は掴めない。
「霧の中で獲物を麻痺させれば、誰にも見つからず野垂れ死にで一丁あがり、てこっちゃな。このままじゃジリ貧やで」
 アカーシャ・ヘルメース(ka0473)がぼやく。
「此方から追うよりは、向こうから来てもらう方が手っ取り早そうだ」
「というと」
 呟いたヴァージルに、レーヴェが問う。
 返答の代わりに、カチャ、という銃の金属音。成る程、とレーヴェは呟いた。
 次いで、銃声が轟く。何度も、繰り返し。
 すると、霧が微かにその濃さを減じる。同時にサイレンの歌声は不愉快げな、低い不気味な旋律に変化した。
「わかりやすいですね」と天斗。
「来るぞ」
 レーヴェはあたれば儲けと霧の向こうに当てずっぽうで銃撃してみたものの、さすがに視界ゼロでは全く命中しない。
 だが、陽動にはなった様だ。歌声の主は明らかに、銃声に近づいて来ている。
「楽しみを邪魔されてお怒り、という所か」
 と、クラウス。彼の体は徐々に自由を奪われつつあるが、それでも霊闘士の抵抗力には、まだ余裕がある。
「見て下さい、あそこ!」
 さくらが、ランタンで上空の一方向を示す。紙で囲って光に指向性を持たせた、手製のサーチライトだ。
 その光が、霧の向こうに巨大な鳥の様な影を映し出した。
「翼の軸を狙え、まずは地に墜とす!」
 ヴァージルが発砲した。
 翼に当たったかは判らない。だが、歌は途切れ、代わりに女の悲鳴。
 次いで、霧が微かに薄れ、サイレンの姿がぼんやりとその輪郭を露わにする。
「さて、隠れ鬼もここまでだ……なに、鬼が多い? まあ、些細な事だ、気にするな」
 アレグザンダーもオートマチックのトリガーを引く。互いの距離は、おぼろげながら射撃も十分届くまでに近づいている。
 弾丸が命中したらしくサイレンはまた唸ったが、それでも直接に攻撃してはこない。
 代わりに向けてくるのは、歌だ。低く緩やかな、しかし強く響く旋律の歌を、明らかにハンターに対し唄いかけてくる。
「これって、怒ってるんでしょうか……」
 さくらは耳栓を突き抜けて聞こえてくる歌に、狼の形の耳を思わず畳もうとする。
「奴にとっては私達の方が邪魔者なんじゃろうな。無論、だからといって放っても置けんが」
 そう言いながらレーヴェは、自分の身の丈に迫る長さの猟銃を構え、牽制射撃を加える。動きを妨げた所にヴァージルとアレグザンダーの追撃が入り、とうとうサイレンが地に落ちた。
 その間、歌が途切れる。
「霧が……」
 辺りを見渡しながら、アカーシャが呟いた。霧は一瞬にして薄れ、今はぼんやりとではあるが、海の向こうの水平線までが見えてきた。
「今がチャンスですね、畳みかけます!」
 さくらが身を低くして飛び出した。歌の影響による麻痺の効果は多少あるものの、軽い。耳栓をしていた者については、尚更だ。
 八相の構えを作って間髪置かずに放たれた横薙の斬撃は、サイレンの翼を真一文字に切り裂いた。これでもう、再び飛ぶことは能うまい。
 しかしサイレンは這いずりながら、なお歌を唄う。苦しみと怨念の籠もる歌は、さながら歌劇の一幕の様で、それを聞く者の体の自由を、耳栓越しでさえ少しずつ奪っていく。
「時間をかけてられんな、これは」
 標的が飛行不能とみるやヴァージルは長剣を抜き、強打で以てサイレンに斬りかかる。
 一切の迷いは無い。だが、白刃がその首を掻っ斬る直前、しかしサイレンは翼を出鱈目に動かし、斬撃を弾いた。
「大人しくしていて貰おうか、お嬢さん」
 そのサイレンを押さえつけたのは、クラウス。霊闘士の祈りが宿った鞭の一打で、サイレンの背中ーー白く露わになった少女の肌ーーに、赤い筋が走る。
 サイレンは艶めかしく身をよじり、動きを鈍らせた。
「ほう。なかなか倒錯的な趣向じゃの」
「なんの話かな」
 レーヴェの茶化しを、乾いた笑いでいなすクラウス。このままではあらぬ疑いがかかりそうな気がしないでもない。
「これ以上は却って哀れです……終わらせましょう」
 決意めいた天斗の言葉が終わるや否や、彼の姿は仲間たちの視界から消えている。ランアウトでサイレンに一気に接近し、側面から脇腹にスラッシュエッジの正拳を叩き込んだ。
 よろめいたサイレンは背を向け、逃走の姿勢を見せるがもう遅い。
「見つけた敵を逃がす奴はいない。つまりはそういう事だ」
 アレグザンダーの放つ強弾が、サイレンの胸を貫く。
 地に伏し、その動きを完全に止める最後の時まで、サイレンは唄い続けた。
 だが……やがて、歌は止まる。
 そして霧は、晴れた。
「これで商隊と合流でき……て、あれ!?」
 さくらが、驚愕の叫びを上げた。
 砂浜の向こうに見えてきたのは、隊商とドワーフ、護衛のハンターだけではなかった。
 巨大な浮遊するクラゲの群が、彼らと入り乱れて戦っていたのだ。
「別の歪虚か、こりゃ想定外じゃの」シバがぼやく。
「もう一仕事やな。報酬には色付けて貰うで」
 アカーシャがニコリと笑うと、シバは苦笑して頭を掻いた。

●商いの妙
 隊商側と合流し、無事歪虚を殲滅したハンター達は、ひとまず彼らを要塞まで護衛することにした。
 天斗は面識のあるドワーフ王の独断的な行動を諫めたが、肝心の彼はまったく懲りた様子を見せず。
「ヨアキム様……もう少し考えて商談をしてもらわなくては困ります。こう言う事が、将来の禍根の種になりますよ」
「カコン? なんだそりゃぁ、食えるのか」
 ひきつった笑みを浮かべる天斗の横で、ハンター達はシバにも今後の商談について相談を進めていた。彼らの交渉方針は、今後の猟団にも少なからず影響を及ぼすものであったからだ。
「ドワーフだけに護衛をさせるというのは厳しいな。ドワーフは今回、たまたまこの隊商と取引をしただけ。今後、隊商をあくまで猟団の、それも長期的な取引相手とするならば、猟団自身が護衛をせねば道理は通るまいよ」
 ハンターの申し出に、珍しく表情を曇らせるシバ。
 さくらは、自分にとって懐かしい――古き良き辺境の――空気を醸す老人を、努めて穏やかに説得した。
「私、商いは詳しくないけど……何にしても大切なのは信頼だと思うんです。猟団にできる範囲で、隊商の安全を担保してあげられれば、隊商の皆さんも安心してお付き合いしてくれると思います」
 さくらの語りを、シバは口を挟む事無く、黙したまま聞き続けた。
 それは親が子を見守る様に……いや、或いは、試すかの様に。
「それに長くお付き合いするなら……お金以外にも、お互いが嬉しい形がいいのかなって」
 最後まで聞き終え、シバは漸く首を縦に振った。
「成る程、道理じゃな。ドワーフとの交渉は儂にとって想定外じゃが、それは寧ろ猟団にとって望む所ではある。故に、まずはお主等の思う様に進めてくれ。儂の方でも、調整に手をつくす故にな」
 老兵の満足げな回答に、さくらもまた、安堵の息を漏らした。

 だが、本番はここからだ。
 ハンター達が目指す隊商との取引条件を実現する為には、まずドワーフ達を説得する必要があった。
「共同戦線ン~?」
 純粋に理解が及ばない、という感じで、ヨアキムはハンターの申し出を聞き返す。
 明らかにピンときていないヨアキムに、天斗はじっくり、ゆっくりと説明を重ねた。
「はい。これにより山岳猟団側は兵員不足の解消、ドワーフ側は予てより望まれた帝国との良好な関係を築く事ができるかと思います」
「あー、山岳猟団は、帝国軍だったよな? ……てこたぁ、あれだ、つまりワシらが帝国と一緒に戦うってことだな」
「うむ、結果としてはそうなる。同族のよしみじゃ、どうにかお願いできんかね」
 と、傍らのレーヴェも口添えする。
「いいぞ。大勢で戦えば、その分強い敵に勝てるからな!」
 理解した途端の、即答。
 却って心配になるくらい軽い返事だが、ヨアキムの人柄を知るものにとっては、逆に予想通りとも言えよう。
 大事なのは……それがドワーフ族首長直々の発言であるという事実。後々シバは、老獪な笑みを込めてそう呟いた。

 やがて一行は、隊商の目的地でもある要塞に帰還した。
 積み荷を開けたヨアキムらがブラジャーがどうのと騒ぐのを鮮やかにスルーし、ハンター達は交渉の場を設けて、本題に取り掛かる。
「実は、今日うちらが来たのは、取引のためやねん」
 関係者がずらり並んだ長机を挟み、アカーシャが隊商のリーダーに切り出した。
 机の上にはレーヴェが入れた紅茶や、天斗が作った軽食が並び、ちょっとした会食の様な空気を醸している。交渉には悪くないムードだ。
 その中でハンター達は、『山岳猟団の物資発注に関する、優先的・長期的な取引契約』を申し出た。
「ほう、それはまた、突然なお話で」
 隊商の交渉役は態とらしく驚いて見せながら、眼を細めて僅かに身を乗り出した。
 脈アリだ……商売人としての経験を持つアカーシャは直感した。
「俺らの雇い主の猟団は、人類を護るという崇高な目的のもと、歪虚の討伐に当たっているが……なにぶんこの立地だ。物資もまともに手に入らんようでな」
 ヴァージルは会話の中で笑顔を作りつつ、交渉役の様子を密かに伺っていた。
 相手はこちらに興味をもっては居るが、警戒もしている。押すだけでなく、共感を持たせる必要があった。
「我々ハンターを雇ってでも、あんたたちを助けようっていう気概のある奴らだ。何とか力になってやってくれんかね」
「ふむ……」
「猟団としては、安定した物資の補給が欲しいんよ」
 腕を組んだ交渉役に、アカーシャは畳みかけた。
「大口の発注を優先的にそっちに回すさかい、少し色をつけてや。そっちは帝国とのコネもできるし、安定した取引先もできる。悪くない話やと思うけど……どうや?」
 しばしの間をおいて、交渉役が答える。
「一つ、懸念があります。定期的に要塞と自由都市を往復する場合、今回の様に歪虚に襲われるリスクが常に付きまとう」
「そこは猟団が護衛をつける。街道を塞ぐ歪虚は、うちらの方でも優先的に排除するちゅうこっちゃ」
 隊商の護衛として歪虚討伐を行うのは山岳猟団の戦力だが、それは共闘協定を締結したドワーフもちゃっかり勘定に含んでの申し出である。ものは言いようだ。
「突然の商談で困惑するのは解るが……こちらもそれだけ、急を要する話なのでね」
 クラウスがフォローに入る。それまでは雑談で場を和ませる役割に徹していたアレグザンダーも、最後に一言添えた。
「皆さんにとっても、またとないチャンスではないかと思いますよ」
 ハンター達の言葉に隊商達も心が揺れたようで、彼らの間で暫時ああだこうだと問答があった後に、漸く返答が帰ってきた。
「……山岳猟団と契約を結びましょう。但し、代金の現金払いと、街道の安全が保証される限り」
 添えられた現実的な条件に、ハンター達はシバの顔色を伺う。
 彼はそれで十分と言わんばかり、大きく頷いた。

●商談終えて
 結果として、山岳猟団は隊商との長期に渡る物資の取引契約を結び、加えてドワーフとの共同戦線の構築までを成し遂げた。
 シバはハンターの働きに最大限の賛辞を述べながら、約束通り、予告より多い金額の報酬を支払った。
 そして最後に、思わせぶりな一言も添えて。
「取引の件もさることながら、ドワーフの件は思わぬ成果じゃった。これからも何かあれば仕事を頼むことがあろう……お主等ハンターにしかできぬ事を、な」
 笑って背を向けたシバの背後には、猟団の兵舎に詰み上がる物資の山、それに騒ぎ群がる団員達、今後について細部の協議を詰める隊商、その全員を巻き込んで何故か酒盛りを始めようとするドワーフ達……
 猟団が物資不足について困る事は、当分ないだろう。全ては、今回の交渉がもたらした結果だ。
 その光景を眼に焼き付けてから……ハンター達は、要塞を後にした。

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参加者一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗(ka0014
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 豪傑!ちみドワーフ姐さん
    レーヴェ・W・マルバス(ka0276
    ドワーフ|13才|女性|猟撃士
  • 星の慧守
    アカーシャ・ヘルメース(ka0473
    人間(紅)|16才|女性|霊闘士

  • クラウス・エンディミオン(ka0680
    人間(紅)|34才|男性|霊闘士

  • アレグザンダー・ブリッグス(ka1346
    人間(蒼)|17才|男性|猟撃士
  • 俯瞰視の狩人
    ヴァージル・チェンバレン(ka1989
    人間(紅)|45才|男性|闘狩人
  • 山岳猟団即応員
    美作さくら(ka2345
    人間(蒼)|14才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
アカーシャ・ヘルメース(ka0473
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2014/07/29 05:31:20
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/28 04:25:40
アイコン 作戦相談卓
真田 天斗(ka0014
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/08/01 00:07:56