ゲスト
(ka0000)
実験畑の研究日誌8頁目
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/02 22:00
- 完成日
- 2015/11/11 01:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
歪んだ土地を拓いてしまったのだろうと研究員達が言う。
地主は項垂れてどうしたらよいかと尋ねた。
研究員に土地勘を買われて同行した案内人はハンターオフィスへの依頼を勧めた。
農業魔術研究機関、通称「実験畑」。ジェオルジの北の畑に始まる研究機関は、その一部をルーベン・ジェオルジ、農業都市ジェオルジの前領主が管理することも有り、多少なりとも、外部の研究畑とも縁があった。
村長祭、ジェオルジの祭を控えたある日、「実験畑」の研究チームが近隣の畑の調査に呼ばれた。
数枚の畑を管理しているという地主と、彼がこの秋の収穫を目指し、新しく拓いた畑でサフランの管理を任されている男。男は片脚を無くして杖で身体を支えていた。
「夜中に騒がしかったと聞いたもので……」
研究員達を前に男が溜息を吐きながら話し始めた。
数日前、膨れてきた蕾を眺めて畑の世話をしていると、顔を顰めた地主が畑まで出向いてきた。
畑は地主の家から距離が有り、わざわざ足を運ぶのは珍しい。何かあったのかと尋ねると、辺りを見回して、変わったことは無かったかと聞き返された。その日の仕事は半分ほど終えていたが、畑に異常は見当たらない。何も無いと応えると地主は重そうに腕を伸ばし、畑から見える何軒かの家を指した。
その辺りの家から苦情が来たという。
夜に騒がしかった。酔っ払いに世話をさせているのか、奇声を上げて、農具を振り回して。
月の明かりを映した鎌が危なっかしい。
雇う人間はよく選ぶようになんていう嫌味まで。
酒瓶でも落ちていれば手がかりになるかと思って来たと地主が言う。酔っ払いとは思えないがと苦笑いで。
世話を済ませた畑にも、まだ手を着けていない辺りにもそれらしい物は見付かっていない。
男は腕を組んで首を捻る。日が落ちる前には仕事を終えて帰ってしまう。
だからだろうか、今日までそんな話1つ聞いたことは無いし、見たこともない。
しかし、この畑が荒らされては、ここで作物を育てている男自身も困ることになる。
「……見張りをしましょうと、言ったんです」
男は脚を一瞥した。
その日の夜を思い出す。
男の申し出に、それならと地主が家に招き夕食を振る舞った。月の昇る頃に地主の家を出て畑へ向かった。
苦情のような奇声や鎌を振り回す姿は、その時は未だ見えなかった。
空の白む頃、夜を徹して畑を見ていた男が、うとうとと微睡み始め、欠伸をしながら目を擦った頃、視界の隅で何かが揺れた。
細い葉を伸ばし、紫の蕾をゆっくりと広げて赤い蕊を垂らす。
子供の背丈程から見上げる様に揺れたそれは、男が育てているサフランによく似ていた。
夢かと思った瞬間に、頬に熱を感じた。咄嗟に手を遣ると掌にぬるりと赤い滑りを感じ、ひりつく痛みと錆の香が広がった。
悲鳴を上げて逃げ出した。
背後に硝子を引っ掻くような耳障りで奇妙な咆哮が聞こえる。
花を踏みつけたその足が刈り取られたと知ったのは、地面に倒れ、藻掻いて、意識を無くし。
その後、病院で目を覚ましてからのことだった。
「大きさは、俺の腰くらいだったと思います。花は蕾で頭くらいあったから、咲くともっと大きい……と思います。先に鎌の付いた鞭みたいな蔓があちこちで伸びていたけど、花は動いてなかったと思います。花の数は……3つはあったと思いますが……動転していて、それ以上は分かりません」
●
男の話を聞き終えた研究員が畑の状態と、その周辺の土を見る。
辺りの空気を嗅いだり、風向きや、気温を測ったり。
吹き溜まりになった落ち葉を見ながら、研究員が呟いた。
「歪んだマテリアルが、溜まってしまったのかも知れないな……根から駆除して、早めに清めた方が良い。今は、周りの歪みを溜めているが、いつ周りに広がっていかないとも限らないから」
「駆除ですか?」
「花を刈って、出てしまった雑魔を始末するんだ。そっちは専門家に頼んだ方がいいだろうな」
白衣の裾をたくし上げて研究員がサフランを一輪摘む。それは何の変哲も無い花だった。
細い葉の中心に茎が伸びて、紫の花を咲かせている。特徴的な赤い蕊を垂らすサフランの花。手に収まる程のそれが、子供の様な高さに育つという。細く真っ直ぐな葉しか見られないが蔓を撓らせ襲うという。
それをファイルに収めると、研究員は地主を呼んだ。
「詳しくは戻ってから調べてみます。花は刈って、燃やして仕舞って下さい。駆除の依頼は……」
「はい! お任せ下さい!」
案内人が手を上げた。
『サフラン雑魔の駆除をお願いします!』
男の証言と調査結果を添えて、依頼がオフィスに掲げられた。
歪んだ土地を拓いてしまったのだろうと研究員達が言う。
地主は項垂れてどうしたらよいかと尋ねた。
研究員に土地勘を買われて同行した案内人はハンターオフィスへの依頼を勧めた。
農業魔術研究機関、通称「実験畑」。ジェオルジの北の畑に始まる研究機関は、その一部をルーベン・ジェオルジ、農業都市ジェオルジの前領主が管理することも有り、多少なりとも、外部の研究畑とも縁があった。
村長祭、ジェオルジの祭を控えたある日、「実験畑」の研究チームが近隣の畑の調査に呼ばれた。
数枚の畑を管理しているという地主と、彼がこの秋の収穫を目指し、新しく拓いた畑でサフランの管理を任されている男。男は片脚を無くして杖で身体を支えていた。
「夜中に騒がしかったと聞いたもので……」
研究員達を前に男が溜息を吐きながら話し始めた。
数日前、膨れてきた蕾を眺めて畑の世話をしていると、顔を顰めた地主が畑まで出向いてきた。
畑は地主の家から距離が有り、わざわざ足を運ぶのは珍しい。何かあったのかと尋ねると、辺りを見回して、変わったことは無かったかと聞き返された。その日の仕事は半分ほど終えていたが、畑に異常は見当たらない。何も無いと応えると地主は重そうに腕を伸ばし、畑から見える何軒かの家を指した。
その辺りの家から苦情が来たという。
夜に騒がしかった。酔っ払いに世話をさせているのか、奇声を上げて、農具を振り回して。
月の明かりを映した鎌が危なっかしい。
雇う人間はよく選ぶようになんていう嫌味まで。
酒瓶でも落ちていれば手がかりになるかと思って来たと地主が言う。酔っ払いとは思えないがと苦笑いで。
世話を済ませた畑にも、まだ手を着けていない辺りにもそれらしい物は見付かっていない。
男は腕を組んで首を捻る。日が落ちる前には仕事を終えて帰ってしまう。
だからだろうか、今日までそんな話1つ聞いたことは無いし、見たこともない。
しかし、この畑が荒らされては、ここで作物を育てている男自身も困ることになる。
「……見張りをしましょうと、言ったんです」
男は脚を一瞥した。
その日の夜を思い出す。
男の申し出に、それならと地主が家に招き夕食を振る舞った。月の昇る頃に地主の家を出て畑へ向かった。
苦情のような奇声や鎌を振り回す姿は、その時は未だ見えなかった。
空の白む頃、夜を徹して畑を見ていた男が、うとうとと微睡み始め、欠伸をしながら目を擦った頃、視界の隅で何かが揺れた。
細い葉を伸ばし、紫の蕾をゆっくりと広げて赤い蕊を垂らす。
子供の背丈程から見上げる様に揺れたそれは、男が育てているサフランによく似ていた。
夢かと思った瞬間に、頬に熱を感じた。咄嗟に手を遣ると掌にぬるりと赤い滑りを感じ、ひりつく痛みと錆の香が広がった。
悲鳴を上げて逃げ出した。
背後に硝子を引っ掻くような耳障りで奇妙な咆哮が聞こえる。
花を踏みつけたその足が刈り取られたと知ったのは、地面に倒れ、藻掻いて、意識を無くし。
その後、病院で目を覚ましてからのことだった。
「大きさは、俺の腰くらいだったと思います。花は蕾で頭くらいあったから、咲くともっと大きい……と思います。先に鎌の付いた鞭みたいな蔓があちこちで伸びていたけど、花は動いてなかったと思います。花の数は……3つはあったと思いますが……動転していて、それ以上は分かりません」
●
男の話を聞き終えた研究員が畑の状態と、その周辺の土を見る。
辺りの空気を嗅いだり、風向きや、気温を測ったり。
吹き溜まりになった落ち葉を見ながら、研究員が呟いた。
「歪んだマテリアルが、溜まってしまったのかも知れないな……根から駆除して、早めに清めた方が良い。今は、周りの歪みを溜めているが、いつ周りに広がっていかないとも限らないから」
「駆除ですか?」
「花を刈って、出てしまった雑魔を始末するんだ。そっちは専門家に頼んだ方がいいだろうな」
白衣の裾をたくし上げて研究員がサフランを一輪摘む。それは何の変哲も無い花だった。
細い葉の中心に茎が伸びて、紫の花を咲かせている。特徴的な赤い蕊を垂らすサフランの花。手に収まる程のそれが、子供の様な高さに育つという。細く真っ直ぐな葉しか見られないが蔓を撓らせ襲うという。
それをファイルに収めると、研究員は地主を呼んだ。
「詳しくは戻ってから調べてみます。花は刈って、燃やして仕舞って下さい。駆除の依頼は……」
「はい! お任せ下さい!」
案内人が手を上げた。
『サフラン雑魔の駆除をお願いします!』
男の証言と調査結果を添えて、依頼がオフィスに掲げられた。
リプレイ本文
●
夜半、ハンター達の瞳に幽かな月明かりが映る。
シア(ka3197)は、畑に巡らせたロープを撫でて、その張りを確かめると端を括った杭の傍へ身を屈めた。畑を囲った上で、アシェ-ル(ka2983)の提案により農道まで伸ばしてはいるが、そのロープにも変化は見られず、空もまだ暗い。冷たい夜風が畑を見詰めるシアの髪を柔らかく揺らした。
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)がアシェ-ルと烏丸 涼子 (ka5728)を庇う様に細い農道を畑へと向かい、隅で盾を構えて機を探る。
対角でザレム・アズール(ka0878)が双眼鏡を覗くが、暗い中では視覚よりも、風に紛れる異質な音や、淀んだ息遣いの気配に頼りがちになる。花を刈った青い匂いが吹き抜ける風に流されていく。
畑の中心で座す万歳丸(ka5665)が、ぼうと灯る火の傍らで伏せた金の眼を片方開く。
日中、実験畑の研究員と共に叶う限りのことは調べたが、収穫は乏しい。山を拓き畑として使われ始めてからの年数も浅く、或いは、そうで有った場所を拓いてしまったのではないか、と汚染に対して現時点での結論を出すに留まった。
「しっかし、…………」
もう片方の眼も開ける。
籠手を打ち合わせて巨躯を立ち上がらせると、その目の先で一輪の花が揺れた。
刈り取られていた筈の花は、そこに伸びて大きな蕾が、まるで頭を垂れるようにハンター達へ向く。
「呵々ッ! 漸く出てきたか!」
花を見据え唸るように声を、しかし、仲間へ警句を飛ばすまでもなく、花は万歳丸を囲むように3本、土中から伸び上がり、瞬く間に人の子の丈にまで育っていた。
●
両手で杖を握るアシェ-ルの細い指先が白む。騒ぐマテリアルを制御し、杖の指す先をディアドラに向ける。
「大王たるボクがここに来た以上は、すべて駆逐して見せようではないか!」
仄暗い夜を照らすような笑顔で振り返り、畑へと進む背へ定め深呼吸を静かに。マテリアルを燃え立たせ、その力で操る土が、ディアドラを鎧う。
「大王さんのお手伝いをするのです!」
足を引っ張らなければいい、けれど、頑張れることは有るはずだから。
ディアドラの纏った石の鎧を見届けて、アシェ-ルは安堵の息を吐き、仮面の奥で甘い桃色の瞳を輝かせる。杖を握り直し、仲間達の構える畑を見据えると逸る鼓動を抑えながらマテリアルを操った。夜風にローブがはためいて、所々の淡い明かりに絵柄が揺れる。
アシェ-ルの鎧を纏って、ディアドラは畑の中へ駆けていく。真ん中には万歳丸が陣取って静かに気を昂ぶらせているが、隅からも余さずに駆逐していく。
土を蹴り上げて畑を走る。見えている敵は勿論、まだ潜んでいるものも全て誘き寄せようと隅々へ目を走らせる。
温かい。そう感じる。マテリアルを巡らせたディアドラの身体が白い光りを纏い、夜の闇の中太陽の如くその姿を浮かばせる。
光りを、大王そのものである太陽の光りを力に、と全身を覆って余る高さの盾を構えた。
撓らせてその盾に迫る蔓を、がきんと先端の刃とぶつかり合う重い音を立てて捉える。追撃に伸ばされた蔓も、盾を傾けるだけで容易く受け止め、纏めて弾く流線の先、他方から伸ばされてきた蔓を見付ける。蔓を弾いた盾を構え直して受け止めると、刃が装飾に咬んでかたかたと音を立てた。
撓る蔓が空気を薙ぐ音が絶えず響く。
傍らに咲いた雑魔の蔓がディアドラへと向かったが、もう一輪、こちらを狙う花が揺れる。万歳丸の視線がその蔓を睨んだ。
巨躯には見下ろす程のその花だが、撓る蔓が違わずに狙ってくる。
氣、を。
巡るマテリアルを燃え立たせて、蔓の揺れる間合いへと踏み出す。浮かび上がった金の麒麟の精霊は、その姿を万歳丸に重ね、数歩の内に身の内へ溶け込み沈むように姿を消した。
拳を固めた籠手に揺らいだ金の光りの幻影が穏やかに凪ぐ。
一撃目の蔓を体勢を崩さずに躱し、構える盾に2撃目の蔓の刃を受け止め押し返しながら花へと迫る。
よく手を入れられていたらしい柔らかな土に足が沈む。管理していたという男の顔が浮かんだ。
ディアドラの後に続くように烏丸が畑へ入る。弾かれた蔓と花を観察しながら握る拳にマテリアルを巡らせる。その熱を感じて高鳴る鼓動に任せて飛び込んでいく。
「――捕まえるか、抑え込むか。どちらが良いかしら」
蔓の射程は長く、後方に控えるアシェ-ルまで、その切っ先がいたりそうな程だ。花自体は土に根を張っているのか捕まえて転ばせる隙が見当たらない。
覚醒したマテリアルを自身の身体で制御し、慣れた技の型を思い描く。
「……まあいいわ――はっ!」
蔓へ手を掛けて、力を込める。地面に叩き付けられたそれは、他の蔓と縺れるように横たわって土埃を上げながら藻掻いていたが、やがて静かに動きを止めて這うように根元へ戻っていった。
歯車の装飾を施した杖を握り、ザレムは畑の隅へ視線を走らせる。光りを抑え身を潜めるザレムへ視線が返されることはないが、互いに畑への攻撃を行えば位置の把握は可能だろう。
蔓の数だけ攻撃してくる様子は無いが、射程は想像よりも幾分か長いかも知れない。近付くには、厄介だ。ディアドラも万歳丸も蔓を躱し、或いは盾で押しながら進んでいる。遠距離から攻撃力を削ごうと、杖を掲げた。
敵を見据える青い双眸に赤が滲み、その揺らぎは瞬きひとつでその色を深紅に染め上げる。背に鋭い翼爪を頂く硬い骨格を得た、皮膜の翼の幻影が羽ばたいた。夜の闇に溶け込む漆黒の翼は、竜の様相で静かに揺れる。
「全部、焼こう……」
根も、種も、全てだ。
構えた杖の先から放たれたデルタ、その頂点から伸びる三条の光りがそれぞれの方向へ伸びていく。
その光がディアドラへ伸びた蔓を、万歳丸へ振り下ろされる蔓を灼き切った。
どさと音を立てて地面に落ちたそれは瞬く間に黒ずんで、腐敗し泡立つようにぐずぐずと形を無くし、最後は黒い霧となって散っていった。
追撃を、とシアが杖を構えて炎を放つ。
烏丸に倒された蔓の他を灼かれたばかりの花を、炎の矢が貫いた。炎を纏って舞い上がった数枚の花弁が燃え尽きて尚、花は茎を伸ばし細い葉をざわめかせている。
「花では足りない……根元の方でしたら」
視線を落として杖を構え直す。狙えるだろうか、ここから。他の花へも視線を巡らせた。土には幾つも蔓の這った後や、薙いだような、或いは叩き付けた様な跡が残っている。
あまり荒らしたくはないと、青い双眸に憤りを込めて花を睨んだ。
深傷に震える花が1つ、蔓を数本失いながら残りを振り翳して反撃を覗うものが2つ。ハンター達がそれぞれに得物を握り直した。
蔓が撓る。万歳丸を捉えようと2本の蔓が左右から向かってくるが、その1つを躱し、もう1つを盾に弾いた。
「因果応報……知ってるか」
肩を聳やかして花を睨む。金の瞳が欄と光る。
「アイツの片脚分のケジメ、確と付けさせて貰うぜ!」
金の焔が立ち上り拳を包む。マテリアルに反応した籠手が硬化し、巨躯から放たれる重さを乗せた一撃に蔓を1つ刈り取って、衝撃のままに夜空へと放り出した。
「大王たるボクが前に出ているんだ」
ディアドラが伸ばされた蔓を盾に捉え、死角と思しき横からの攻撃を剣先でいなし、鋭く研がれた切っ先を突き付ける。振り払う剣の一太刀に、蔓を中程から切り落とした。残された1本が揺れながら丸くなる。
「……もう1体いたはずだが」
剣を構えたまま見ると、絡んだ蔓をうねるように滑らせて、低い位置から切り上げる凶刃が烏丸に迫っていた。
「っ――く、間に合――」
咄嗟に盾を下げるが、羽の意匠を刈るように叩き付ける衝撃に姿勢が崩れ、立て直す間も無く解けた蔓の切っ先に刈られる。
「ふっ……せいっ」
傷を負った腕で蔓へ叩き付け。地面へ縫い止めるようにその動きを押さえ付ける。1体ずつ抑えることしか出来ないから、と艶やかな黒の瞳が枯れかけの花を睨み上げた。
刹那、残された花弁が震える。
空気の振動、腑の奥から揺さぶるような不快な音が響き渡る。
ザレムが目を走らせると、その視界の両端でシアとアシェ-ルが耳を押さえて蹲るのが見えた。耳栓程度では防ぎきれない音に、ザレム自身も顔を顰めた。
嫌な音だと、盾に伝う振動にディアドラが呻り、その花を押さえていた烏丸は至近からの音の衝撃に地面に伏せ、音に意識を揺らされ明滅する視界に震えた。
「……ッ覇亜亜――亜亜亜ッ!」
万歳丸の咆哮が響く。
花の音に抗うように上がる気合の籠もる声に、音に堪えた2人が早々に得物を構え、攻撃の姿勢を立て直した。
ザレムが杖を向けてマテリアルを込める。
狙う先に花が2つ新たに現れていた。
「みんな、確り。花が増えているよ」
烏丸を狙うものとディアドラが相手をしているもの、そしてその間に新たに現れた1つを射程に含む。幾らか向きを調整すると、万歳丸へ蔓を伸ばす花を捉えた。
注意を促す声を上げて炎を放つ。倒れていた烏丸が起き上がろうと、身動ぎを見せて顔を上げた。音の名残に霞む視界に花が灼けて崩れていく姿を見た。
万歳丸が盾で留める焼け残った花へ、残った蔓ごとその根元を刈り取るようにシアが風の刃を放つ。
「……すこし、頭が……ぼうっとしますね」
狙いを反らさぬように杖に両手を添え、膝を震わせながら土を踏みしめた。
中心は逸れながらもその殆どを刈られた花は傷口から横倒しに、どす黒い霧となって消えていった。
畑の残りは、新しく現れた花が2つ。咲きたてのものと、ザレムの一撃を食らって花弁を僅かに焦がしたもの。
シアが膝を叱咤するように立ち上がる。息は乱れて頭に響く耳鳴りが残っているが、身体に傷は得ておらず杖を握る力も残っている。黒い霧の流れていく中、新たに咲いた花へと炎の幻影を纏う矢を落とした。
「後2つですね……気をつけないと、いけませんね」
自身に言い聞かせるように告げ、励ますように口角を上げた。炎が花弁を焦がして消えると、刃の切っ先を擡げた蔓が大きく撓って暴れ出した。
長い杖を構えてアシェ-ルは呼吸を落ち着かせ、巡るマテリアルを感じる。疵を負った花を指して杖にそれを集め光りの矢を放つ。シアと同じ花を狙った光りの筋が蕊の揺れる中心へと迫るが、庇う様に持ち上がった蔓が阻む。刃の先を揺らしたそれが、獲物を探すようにアシェ-ルへ向く。
仮面の影で瞠った双眸が、杖を掲げてマテリアルを煌めかせるザレムを見詰めた。
――あんなお兄さんが欲しかったな……――
戦いの前に、ふと浮かんだことが蘇る。立ち位置を確認する怜悧で真摯な落ち付いた声。真っ直ぐに見詰める涼しげな青い瞳。
対角から伸ばされた機杖の指す先に浮かぶ点、放たれる光が花を貫いた。
深紅に沸き立つ瞳で敵を見据えて一歩、畑の方へと進んだ。
「根元から切ってしまった方が良さそうだね」
「切るならボクが引き付けるぞ」
ディアドラが花と対峙しながら肩越しの視線でザレムを見上げた。
盾にがたがたと刃を鳴らす蔓と、もう1つ、疵を負った烏丸を狙う。ディアドラが盾を引いてそれを阻む。
「もう平気よ。殴れるわ」
盾を杖代わりに立ち上がった烏丸が蔓へ向かって拳を繰り出した。
ディアドラの盾を捉える蔓を、マテリアルを込める拳で一撃。足りない、まだ軽い。
「はっ、ふんっ――せいっ!」
重ねる数発、それが蔓を刈り取るに至った。
万歳丸も片手の盾でいなす蔓へ、片手の籠手を握り締めてその拳に金の炎を描く。
「呵々ッ! 先の奴よりも、硬そうだなァ!」
金の軌跡を残して雄叫びと共に放たれる拳に、蔓は沈黙し土へ垂れた。
圧している、そう感じはする。それでも、花が落ちる様子は無く、その花弁が微風に揺れる度に、音を警戒する緊張が走った。
●
拳を重ね、或いは重さを乗せて蔓を刈り、或いは盾と剣で引き付けて。
放たれる矢は花弁を灼き、蔓の力を削いで。
重なる攻撃に消耗した花が花弁を揺らす。その動きを阻むように光が貫き、残りの蔓を灼き切られた。
「もう、終わりだと良いのですが……」
日中に休んではいるが、とシアが溜息を吐きながら目を擦った。早朝からの戦いに疲れが見え始めている。
アシェ-ルがこくりと頷いた。杖を握る腕が重く、息が上がってきている。マテリアルが、尽き掛けていた。
「み、皆さん、頑張って下さい!」
「うん、頑張ろう」
ザレムが笑みを返して杖を向ける。
「応! 俺ァ、未来の大英雄だぜ」
強そうで怖いと見上げた万歳丸が、振り返って歯を覗かせる。
「仲間がいてくれますから」
怪我を押して前線に残る烏丸が拳を固めて顎を引いた。
「大王たるボクに任せてくれ」
盾を掲げたディアドラの頬へ、上り始める朝日が差し掛かる。
放たれる光と拳、刈り取られた花が畑に倒されて藻掻く。抑え込まれて花へ最後の矢が落とされると、蔓を暴れさせながら土塊に、黒い霧となって消えた。
終わったと、誰からと無く声が聞こえる。咲いた雑魔は全て駆除されたようだ。
土の中までと自前のスコップを構えたザレムに、日の出を見て様子を伺いに来た地主の男と研究員が怖々と近付いてくる。
「出来れば、真相も知りてェな」
共に畑を回った研究員へ万歳丸が尋ねる。
シアも頷いて畑を示した。
「歪みがたまってしまう土地の条件が客観的に分かれば、危険を予想できるかもしれないですね」
研究員は確かにそうだと頷くが、その研究には時間が掛かりそうだという。
畑にしてしまうに至った例こそ少ないが、歪みの堪った土地は沢山あるから、と。
アシェ-ルが周りの畑を眺めていると、研究員が蕪だね、と答え、あの畑には及んでいなかったと話す。
「この辺りの汚染を何とか出来なければ、また雑魔が生まれるかもしれないしな」
周辺の捜索も、とディアドラが手を上げる。
ディアドラとザレムを留めて、男が溜息を吐きながら畑は清めて埋めるつもりだと告げた。
今回の駆除で済んでしまったかも知れないが、と添えながら肩を落とす。ハンター達へ助かったと安堵の表情で告げながら、青年の怪我が響いている様子で、眠れてないらしい顔は隈が酷い。
病院に戻っているという彼に代わって、と、ハンター達に深く頭を下げた。
夜半、ハンター達の瞳に幽かな月明かりが映る。
シア(ka3197)は、畑に巡らせたロープを撫でて、その張りを確かめると端を括った杭の傍へ身を屈めた。畑を囲った上で、アシェ-ル(ka2983)の提案により農道まで伸ばしてはいるが、そのロープにも変化は見られず、空もまだ暗い。冷たい夜風が畑を見詰めるシアの髪を柔らかく揺らした。
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)がアシェ-ルと烏丸 涼子 (ka5728)を庇う様に細い農道を畑へと向かい、隅で盾を構えて機を探る。
対角でザレム・アズール(ka0878)が双眼鏡を覗くが、暗い中では視覚よりも、風に紛れる異質な音や、淀んだ息遣いの気配に頼りがちになる。花を刈った青い匂いが吹き抜ける風に流されていく。
畑の中心で座す万歳丸(ka5665)が、ぼうと灯る火の傍らで伏せた金の眼を片方開く。
日中、実験畑の研究員と共に叶う限りのことは調べたが、収穫は乏しい。山を拓き畑として使われ始めてからの年数も浅く、或いは、そうで有った場所を拓いてしまったのではないか、と汚染に対して現時点での結論を出すに留まった。
「しっかし、…………」
もう片方の眼も開ける。
籠手を打ち合わせて巨躯を立ち上がらせると、その目の先で一輪の花が揺れた。
刈り取られていた筈の花は、そこに伸びて大きな蕾が、まるで頭を垂れるようにハンター達へ向く。
「呵々ッ! 漸く出てきたか!」
花を見据え唸るように声を、しかし、仲間へ警句を飛ばすまでもなく、花は万歳丸を囲むように3本、土中から伸び上がり、瞬く間に人の子の丈にまで育っていた。
●
両手で杖を握るアシェ-ルの細い指先が白む。騒ぐマテリアルを制御し、杖の指す先をディアドラに向ける。
「大王たるボクがここに来た以上は、すべて駆逐して見せようではないか!」
仄暗い夜を照らすような笑顔で振り返り、畑へと進む背へ定め深呼吸を静かに。マテリアルを燃え立たせ、その力で操る土が、ディアドラを鎧う。
「大王さんのお手伝いをするのです!」
足を引っ張らなければいい、けれど、頑張れることは有るはずだから。
ディアドラの纏った石の鎧を見届けて、アシェ-ルは安堵の息を吐き、仮面の奥で甘い桃色の瞳を輝かせる。杖を握り直し、仲間達の構える畑を見据えると逸る鼓動を抑えながらマテリアルを操った。夜風にローブがはためいて、所々の淡い明かりに絵柄が揺れる。
アシェ-ルの鎧を纏って、ディアドラは畑の中へ駆けていく。真ん中には万歳丸が陣取って静かに気を昂ぶらせているが、隅からも余さずに駆逐していく。
土を蹴り上げて畑を走る。見えている敵は勿論、まだ潜んでいるものも全て誘き寄せようと隅々へ目を走らせる。
温かい。そう感じる。マテリアルを巡らせたディアドラの身体が白い光りを纏い、夜の闇の中太陽の如くその姿を浮かばせる。
光りを、大王そのものである太陽の光りを力に、と全身を覆って余る高さの盾を構えた。
撓らせてその盾に迫る蔓を、がきんと先端の刃とぶつかり合う重い音を立てて捉える。追撃に伸ばされた蔓も、盾を傾けるだけで容易く受け止め、纏めて弾く流線の先、他方から伸ばされてきた蔓を見付ける。蔓を弾いた盾を構え直して受け止めると、刃が装飾に咬んでかたかたと音を立てた。
撓る蔓が空気を薙ぐ音が絶えず響く。
傍らに咲いた雑魔の蔓がディアドラへと向かったが、もう一輪、こちらを狙う花が揺れる。万歳丸の視線がその蔓を睨んだ。
巨躯には見下ろす程のその花だが、撓る蔓が違わずに狙ってくる。
氣、を。
巡るマテリアルを燃え立たせて、蔓の揺れる間合いへと踏み出す。浮かび上がった金の麒麟の精霊は、その姿を万歳丸に重ね、数歩の内に身の内へ溶け込み沈むように姿を消した。
拳を固めた籠手に揺らいだ金の光りの幻影が穏やかに凪ぐ。
一撃目の蔓を体勢を崩さずに躱し、構える盾に2撃目の蔓の刃を受け止め押し返しながら花へと迫る。
よく手を入れられていたらしい柔らかな土に足が沈む。管理していたという男の顔が浮かんだ。
ディアドラの後に続くように烏丸が畑へ入る。弾かれた蔓と花を観察しながら握る拳にマテリアルを巡らせる。その熱を感じて高鳴る鼓動に任せて飛び込んでいく。
「――捕まえるか、抑え込むか。どちらが良いかしら」
蔓の射程は長く、後方に控えるアシェ-ルまで、その切っ先がいたりそうな程だ。花自体は土に根を張っているのか捕まえて転ばせる隙が見当たらない。
覚醒したマテリアルを自身の身体で制御し、慣れた技の型を思い描く。
「……まあいいわ――はっ!」
蔓へ手を掛けて、力を込める。地面に叩き付けられたそれは、他の蔓と縺れるように横たわって土埃を上げながら藻掻いていたが、やがて静かに動きを止めて這うように根元へ戻っていった。
歯車の装飾を施した杖を握り、ザレムは畑の隅へ視線を走らせる。光りを抑え身を潜めるザレムへ視線が返されることはないが、互いに畑への攻撃を行えば位置の把握は可能だろう。
蔓の数だけ攻撃してくる様子は無いが、射程は想像よりも幾分か長いかも知れない。近付くには、厄介だ。ディアドラも万歳丸も蔓を躱し、或いは盾で押しながら進んでいる。遠距離から攻撃力を削ごうと、杖を掲げた。
敵を見据える青い双眸に赤が滲み、その揺らぎは瞬きひとつでその色を深紅に染め上げる。背に鋭い翼爪を頂く硬い骨格を得た、皮膜の翼の幻影が羽ばたいた。夜の闇に溶け込む漆黒の翼は、竜の様相で静かに揺れる。
「全部、焼こう……」
根も、種も、全てだ。
構えた杖の先から放たれたデルタ、その頂点から伸びる三条の光りがそれぞれの方向へ伸びていく。
その光がディアドラへ伸びた蔓を、万歳丸へ振り下ろされる蔓を灼き切った。
どさと音を立てて地面に落ちたそれは瞬く間に黒ずんで、腐敗し泡立つようにぐずぐずと形を無くし、最後は黒い霧となって散っていった。
追撃を、とシアが杖を構えて炎を放つ。
烏丸に倒された蔓の他を灼かれたばかりの花を、炎の矢が貫いた。炎を纏って舞い上がった数枚の花弁が燃え尽きて尚、花は茎を伸ばし細い葉をざわめかせている。
「花では足りない……根元の方でしたら」
視線を落として杖を構え直す。狙えるだろうか、ここから。他の花へも視線を巡らせた。土には幾つも蔓の這った後や、薙いだような、或いは叩き付けた様な跡が残っている。
あまり荒らしたくはないと、青い双眸に憤りを込めて花を睨んだ。
深傷に震える花が1つ、蔓を数本失いながら残りを振り翳して反撃を覗うものが2つ。ハンター達がそれぞれに得物を握り直した。
蔓が撓る。万歳丸を捉えようと2本の蔓が左右から向かってくるが、その1つを躱し、もう1つを盾に弾いた。
「因果応報……知ってるか」
肩を聳やかして花を睨む。金の瞳が欄と光る。
「アイツの片脚分のケジメ、確と付けさせて貰うぜ!」
金の焔が立ち上り拳を包む。マテリアルに反応した籠手が硬化し、巨躯から放たれる重さを乗せた一撃に蔓を1つ刈り取って、衝撃のままに夜空へと放り出した。
「大王たるボクが前に出ているんだ」
ディアドラが伸ばされた蔓を盾に捉え、死角と思しき横からの攻撃を剣先でいなし、鋭く研がれた切っ先を突き付ける。振り払う剣の一太刀に、蔓を中程から切り落とした。残された1本が揺れながら丸くなる。
「……もう1体いたはずだが」
剣を構えたまま見ると、絡んだ蔓をうねるように滑らせて、低い位置から切り上げる凶刃が烏丸に迫っていた。
「っ――く、間に合――」
咄嗟に盾を下げるが、羽の意匠を刈るように叩き付ける衝撃に姿勢が崩れ、立て直す間も無く解けた蔓の切っ先に刈られる。
「ふっ……せいっ」
傷を負った腕で蔓へ叩き付け。地面へ縫い止めるようにその動きを押さえ付ける。1体ずつ抑えることしか出来ないから、と艶やかな黒の瞳が枯れかけの花を睨み上げた。
刹那、残された花弁が震える。
空気の振動、腑の奥から揺さぶるような不快な音が響き渡る。
ザレムが目を走らせると、その視界の両端でシアとアシェ-ルが耳を押さえて蹲るのが見えた。耳栓程度では防ぎきれない音に、ザレム自身も顔を顰めた。
嫌な音だと、盾に伝う振動にディアドラが呻り、その花を押さえていた烏丸は至近からの音の衝撃に地面に伏せ、音に意識を揺らされ明滅する視界に震えた。
「……ッ覇亜亜――亜亜亜ッ!」
万歳丸の咆哮が響く。
花の音に抗うように上がる気合の籠もる声に、音に堪えた2人が早々に得物を構え、攻撃の姿勢を立て直した。
ザレムが杖を向けてマテリアルを込める。
狙う先に花が2つ新たに現れていた。
「みんな、確り。花が増えているよ」
烏丸を狙うものとディアドラが相手をしているもの、そしてその間に新たに現れた1つを射程に含む。幾らか向きを調整すると、万歳丸へ蔓を伸ばす花を捉えた。
注意を促す声を上げて炎を放つ。倒れていた烏丸が起き上がろうと、身動ぎを見せて顔を上げた。音の名残に霞む視界に花が灼けて崩れていく姿を見た。
万歳丸が盾で留める焼け残った花へ、残った蔓ごとその根元を刈り取るようにシアが風の刃を放つ。
「……すこし、頭が……ぼうっとしますね」
狙いを反らさぬように杖に両手を添え、膝を震わせながら土を踏みしめた。
中心は逸れながらもその殆どを刈られた花は傷口から横倒しに、どす黒い霧となって消えていった。
畑の残りは、新しく現れた花が2つ。咲きたてのものと、ザレムの一撃を食らって花弁を僅かに焦がしたもの。
シアが膝を叱咤するように立ち上がる。息は乱れて頭に響く耳鳴りが残っているが、身体に傷は得ておらず杖を握る力も残っている。黒い霧の流れていく中、新たに咲いた花へと炎の幻影を纏う矢を落とした。
「後2つですね……気をつけないと、いけませんね」
自身に言い聞かせるように告げ、励ますように口角を上げた。炎が花弁を焦がして消えると、刃の切っ先を擡げた蔓が大きく撓って暴れ出した。
長い杖を構えてアシェ-ルは呼吸を落ち着かせ、巡るマテリアルを感じる。疵を負った花を指して杖にそれを集め光りの矢を放つ。シアと同じ花を狙った光りの筋が蕊の揺れる中心へと迫るが、庇う様に持ち上がった蔓が阻む。刃の先を揺らしたそれが、獲物を探すようにアシェ-ルへ向く。
仮面の影で瞠った双眸が、杖を掲げてマテリアルを煌めかせるザレムを見詰めた。
――あんなお兄さんが欲しかったな……――
戦いの前に、ふと浮かんだことが蘇る。立ち位置を確認する怜悧で真摯な落ち付いた声。真っ直ぐに見詰める涼しげな青い瞳。
対角から伸ばされた機杖の指す先に浮かぶ点、放たれる光が花を貫いた。
深紅に沸き立つ瞳で敵を見据えて一歩、畑の方へと進んだ。
「根元から切ってしまった方が良さそうだね」
「切るならボクが引き付けるぞ」
ディアドラが花と対峙しながら肩越しの視線でザレムを見上げた。
盾にがたがたと刃を鳴らす蔓と、もう1つ、疵を負った烏丸を狙う。ディアドラが盾を引いてそれを阻む。
「もう平気よ。殴れるわ」
盾を杖代わりに立ち上がった烏丸が蔓へ向かって拳を繰り出した。
ディアドラの盾を捉える蔓を、マテリアルを込める拳で一撃。足りない、まだ軽い。
「はっ、ふんっ――せいっ!」
重ねる数発、それが蔓を刈り取るに至った。
万歳丸も片手の盾でいなす蔓へ、片手の籠手を握り締めてその拳に金の炎を描く。
「呵々ッ! 先の奴よりも、硬そうだなァ!」
金の軌跡を残して雄叫びと共に放たれる拳に、蔓は沈黙し土へ垂れた。
圧している、そう感じはする。それでも、花が落ちる様子は無く、その花弁が微風に揺れる度に、音を警戒する緊張が走った。
●
拳を重ね、或いは重さを乗せて蔓を刈り、或いは盾と剣で引き付けて。
放たれる矢は花弁を灼き、蔓の力を削いで。
重なる攻撃に消耗した花が花弁を揺らす。その動きを阻むように光が貫き、残りの蔓を灼き切られた。
「もう、終わりだと良いのですが……」
日中に休んではいるが、とシアが溜息を吐きながら目を擦った。早朝からの戦いに疲れが見え始めている。
アシェ-ルがこくりと頷いた。杖を握る腕が重く、息が上がってきている。マテリアルが、尽き掛けていた。
「み、皆さん、頑張って下さい!」
「うん、頑張ろう」
ザレムが笑みを返して杖を向ける。
「応! 俺ァ、未来の大英雄だぜ」
強そうで怖いと見上げた万歳丸が、振り返って歯を覗かせる。
「仲間がいてくれますから」
怪我を押して前線に残る烏丸が拳を固めて顎を引いた。
「大王たるボクに任せてくれ」
盾を掲げたディアドラの頬へ、上り始める朝日が差し掛かる。
放たれる光と拳、刈り取られた花が畑に倒されて藻掻く。抑え込まれて花へ最後の矢が落とされると、蔓を暴れさせながら土塊に、黒い霧となって消えた。
終わったと、誰からと無く声が聞こえる。咲いた雑魔は全て駆除されたようだ。
土の中までと自前のスコップを構えたザレムに、日の出を見て様子を伺いに来た地主の男と研究員が怖々と近付いてくる。
「出来れば、真相も知りてェな」
共に畑を回った研究員へ万歳丸が尋ねる。
シアも頷いて畑を示した。
「歪みがたまってしまう土地の条件が客観的に分かれば、危険を予想できるかもしれないですね」
研究員は確かにそうだと頷くが、その研究には時間が掛かりそうだという。
畑にしてしまうに至った例こそ少ないが、歪みの堪った土地は沢山あるから、と。
アシェ-ルが周りの畑を眺めていると、研究員が蕪だね、と答え、あの畑には及んでいなかったと話す。
「この辺りの汚染を何とか出来なければ、また雑魔が生まれるかもしれないしな」
周辺の捜索も、とディアドラが手を上げる。
ディアドラとザレムを留めて、男が溜息を吐きながら畑は清めて埋めるつもりだと告げた。
今回の駆除で済んでしまったかも知れないが、と添えながら肩を落とす。ハンター達へ助かったと安堵の表情で告げながら、青年の怪我が響いている様子で、眠れてないらしい顔は隈が酷い。
病院に戻っているという彼に代わって、と、ハンター達に深く頭を下げた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/02 13:15:41 |
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大きくなったんDEATH 万歳丸(ka5665) 鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2015/11/02 20:08:26 |