ゲスト
(ka0000)
【聖呪】茨風景を打ち破れ
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/07 22:00
- 完成日
- 2015/11/13 03:34
みんなの思い出
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オープニング
●ラスリド伯爵部隊
古都アークエルスの北方にて、ゲオルグ・ミスカ・ラスリド伯爵は部隊を配備し、進撃してくるゴブリンを待っていた。
茨風景なる結界を発生させる術でゴブリンに後れを取り、前線を突破されたあとすぐに追撃を開始した。
大軍では足が鈍るため、行軍速度を優先して少数精鋭で先回りした。
その間にも治めるラスリド領へ伝令を送り、領内で雇っている刀匠へ指示を出した。
「連中の茨風景を、打ち破れるでしょうか」
不安そうな副官に、ゲオルグは高笑いしながら「そのための秘密兵器よ」と、背後にある届いたばかりの投石器を指差した。
「これは投石器を改造したものだ。刀匠だけにこうした仕事は嫌がるかと思ったが、ゴブリンになんぞ恨みでもあるのか、急ピッチで仕上げてくれよったわ」
「なるほど。しかし、改造した投石器でなんとかなるものですか」
副官はまだ不安そうだ。
「奴らの結界内では、スキルの効果は十分に発揮できなかった。人間の能力も落ちる。だが、人の力が加わらぬ武器ならどうだ。効果が減少する可能性もあるだろうが、その場合でも十分な攻撃力が備わっている。不安になる必要などないわ!」
改造した投石器が打ち上げる砲丸は特殊なもので、空中で爆発するようになっている。しかも砲丸の内部には、無数の小剣が詰め込まれていた。
「連中がこちらの射程内へ入った瞬間、改造投石器を使って茨風景ごと殲滅する。その後、生き残ったゴブリンに茨風景を維持させぬよう、ハンターに一気に攻め込んでもらう作戦よ」
そう言ったあとで、ゲオルグは部隊に同行中のハンターたちを見た。
「苦労をかけるが、頼むぞ。アークエルスを抜かれれば、王都までの進撃を許すことになる。ゴブリンどもが土足で王都を踏み荒らすなど、あってはならんのだ!」
バスタードソードを地面に突き刺し、ゲオルグが吼えた。
高まる緊張感によって、肌が切り裂かれそうになるほど空気が鋭くなる。
ピリピリした雰囲気の中、ゲオルグはゴブリンが現れるのを待った。
「ここを抜ければ、アークエルスの北門へ着く。突破されて面倒な事態になる前に、ここで先陣を討つ。詳しくは知らぬが、連中は知恵をつけた。茨風景が通じぬとわかれば、以降は簡単に力押しもできなくなるであろう。亜人ごときが、いつまでも好き勝手にできると思うなよ……!」
●茨小鬼部隊
自らを簒奪者と称する巨躯のゴブリンのもとに、他の仲間より遅れて茨小鬼のドンガが到着した。
「ドンガか。今まで何をしていた?」
静かに問うているだけなのに、首筋に刃を突き付けられているようだった。場の空気さえ恐怖するような迫力に、さしものドンガも後退りする。
「す、すまねえ、親方。ニンゲンの巣を見ると、つい我慢できなくなっちマウんダ!」
「楽しかったか?」
「グギャギャ! 逃げたニンゲンもいたガ、タクサン殺してヤッタ!」
「……仕方のないやつめ。今回だけは許してやる」
やや呆れ気味にため息をついたあと、一体だけ格の違うゴブリンは肩をすくめた。
たまには怒ったりもするが、基本的に仲間想いなのである。
「ニンゲンを殺すのが好きなお前に、仕事をくれてやろう。茨風景でニンゲンの街まで道を拓け」
「オヤスイ御用だ、親方。グギャギャギャ!」
さらにたくさんの人間を殺せると知ったドンガは、殺してきた人間の血が染みついた棍棒を肩に抱えて大笑いした。
●ドンガの進軍
預かったゴブリンたちで茨風景を発動させ、ドンガは意気揚々と人間を殺しに出発する。
とにかく戦いと血が大好きなドンガは、鼻歌交じりだ。
そんなドンガに、同行中のゴブリンが話しかけた。
「ニンゲンの街の近くにイッタラ、茨風景を解除して中へ入り込もう」
「グギャギャ。その必要ハナイ! コノママ、ツッコめ」
「本気カ、ドンガの大将。親方はソンナコト――」
「ニンゲンノ街を壊して、先へ進めばイインダロ? ダッタラ、真っ直ぐダ! グギャギャ!」
単細胞のドンガは、作戦などお構いなしに部隊をひたすら前進させる。
速度も勢いも増していくドンガ隊は、暴走列車よろしく前だけを目指して走り続ける。
●ラスリド伯爵部隊
ゲオルグのもとへやってきた兵士が、大変ですと叫んだ。
「ゴブリンどもが現れたか」
「は、はい。伯爵閣下の予想どおり、茨風景も使っております。しかし……」
「しかし、何だ?」
「偵察の情報では、アークエルスの城壁に真っ直ぐ向かってるとのことです」
報告を受けたゲオルグは最初、目の前に立っている兵士が何を言ってるのか理解できなかった。
連中は茨風景で強引にこの場を突破し、なんとかして北門を開かせる作戦を練っているとばかり思っていた。
ところが、である。
茨風景を発動させて部隊は門へ通じるルートではなく、どこまでも真っ直ぐ進んでいる。そのまま行けば、城壁へぶつかるのにである。
「門を開けるのではなく、城壁を破壊しようというのか? せ、戦略も何もないぞ。一体どうなっている!」
ゲオルグは狼狽した。この展開は、さすがに予測できていなかった。
茨風景を維持したまま壁に突き当たるなど、力押しもいいところだ。壊せるという保証もない。
「部隊を率いている巨体の茨小鬼は、グギャギャと笑いながら突撃を命じてるようです」
報告に来た兵士も、戸惑い気味だった。
裏にとんでもない計略が隠されているか、もしくはただのアホかのどちらかだ。
前者である可能性は否定できないが、報告を受けるに、どうも後者の予感がする。
「であれば、余計に厄介だな……」
呟いたゲオルグは、ギリと奥歯を噛み締めた。
何も考えてないアホほど、次にどのような手を打ってくるかわからない。
味方にしても敵にしても厄介だから、たちが悪い。率いている者は、ゴブリンの中にいるからこそ実力を発揮できるタイプだ。
「せっかくの秘密兵器も届かなければ意味がない……!」
両膝を手でパンと叩いたゲオルグは、同行中のハンターを呼んだ。
「任務変更だ。諸君らには、茨風景を用いて進軍中の敵部隊を、改造投石器の攻撃範囲内へ誘導してほしい。突撃を命じている敵の大将は、どうも単細胞で好戦的なようだ。そこを上手くつけば、狙いどおりに動いてくれるかもしれん」
言葉を一度切ったあとで、ゲオルグはなおも言葉を続けた。
「無論、改造投石器を使わずに、茨風景内での直接戦闘を挑むのも可能だ。その場合は激戦が予想される。どちらにせよ、茨小鬼との対決には覚醒者たるハンター諸君の協力が必要不可欠だ。情けない話、我が兵では茨風景内の敵を一掃するのは難しい。大将がいる部隊を諸君らに任せ、我らは他の取り巻き部隊を標的にする。改造投石器の発射のタイミングは諸君らに一任する。ただし、かなりの無理を強いた設計のため、一度発射すると改造投石器は壊れてしまう。つまり、範囲攻撃を仕掛けられるのは一度きりだ。肝に銘じてくれ」
古都アークエルスの北方にて、ゲオルグ・ミスカ・ラスリド伯爵は部隊を配備し、進撃してくるゴブリンを待っていた。
茨風景なる結界を発生させる術でゴブリンに後れを取り、前線を突破されたあとすぐに追撃を開始した。
大軍では足が鈍るため、行軍速度を優先して少数精鋭で先回りした。
その間にも治めるラスリド領へ伝令を送り、領内で雇っている刀匠へ指示を出した。
「連中の茨風景を、打ち破れるでしょうか」
不安そうな副官に、ゲオルグは高笑いしながら「そのための秘密兵器よ」と、背後にある届いたばかりの投石器を指差した。
「これは投石器を改造したものだ。刀匠だけにこうした仕事は嫌がるかと思ったが、ゴブリンになんぞ恨みでもあるのか、急ピッチで仕上げてくれよったわ」
「なるほど。しかし、改造した投石器でなんとかなるものですか」
副官はまだ不安そうだ。
「奴らの結界内では、スキルの効果は十分に発揮できなかった。人間の能力も落ちる。だが、人の力が加わらぬ武器ならどうだ。効果が減少する可能性もあるだろうが、その場合でも十分な攻撃力が備わっている。不安になる必要などないわ!」
改造した投石器が打ち上げる砲丸は特殊なもので、空中で爆発するようになっている。しかも砲丸の内部には、無数の小剣が詰め込まれていた。
「連中がこちらの射程内へ入った瞬間、改造投石器を使って茨風景ごと殲滅する。その後、生き残ったゴブリンに茨風景を維持させぬよう、ハンターに一気に攻め込んでもらう作戦よ」
そう言ったあとで、ゲオルグは部隊に同行中のハンターたちを見た。
「苦労をかけるが、頼むぞ。アークエルスを抜かれれば、王都までの進撃を許すことになる。ゴブリンどもが土足で王都を踏み荒らすなど、あってはならんのだ!」
バスタードソードを地面に突き刺し、ゲオルグが吼えた。
高まる緊張感によって、肌が切り裂かれそうになるほど空気が鋭くなる。
ピリピリした雰囲気の中、ゲオルグはゴブリンが現れるのを待った。
「ここを抜ければ、アークエルスの北門へ着く。突破されて面倒な事態になる前に、ここで先陣を討つ。詳しくは知らぬが、連中は知恵をつけた。茨風景が通じぬとわかれば、以降は簡単に力押しもできなくなるであろう。亜人ごときが、いつまでも好き勝手にできると思うなよ……!」
●茨小鬼部隊
自らを簒奪者と称する巨躯のゴブリンのもとに、他の仲間より遅れて茨小鬼のドンガが到着した。
「ドンガか。今まで何をしていた?」
静かに問うているだけなのに、首筋に刃を突き付けられているようだった。場の空気さえ恐怖するような迫力に、さしものドンガも後退りする。
「す、すまねえ、親方。ニンゲンの巣を見ると、つい我慢できなくなっちマウんダ!」
「楽しかったか?」
「グギャギャ! 逃げたニンゲンもいたガ、タクサン殺してヤッタ!」
「……仕方のないやつめ。今回だけは許してやる」
やや呆れ気味にため息をついたあと、一体だけ格の違うゴブリンは肩をすくめた。
たまには怒ったりもするが、基本的に仲間想いなのである。
「ニンゲンを殺すのが好きなお前に、仕事をくれてやろう。茨風景でニンゲンの街まで道を拓け」
「オヤスイ御用だ、親方。グギャギャギャ!」
さらにたくさんの人間を殺せると知ったドンガは、殺してきた人間の血が染みついた棍棒を肩に抱えて大笑いした。
●ドンガの進軍
預かったゴブリンたちで茨風景を発動させ、ドンガは意気揚々と人間を殺しに出発する。
とにかく戦いと血が大好きなドンガは、鼻歌交じりだ。
そんなドンガに、同行中のゴブリンが話しかけた。
「ニンゲンの街の近くにイッタラ、茨風景を解除して中へ入り込もう」
「グギャギャ。その必要ハナイ! コノママ、ツッコめ」
「本気カ、ドンガの大将。親方はソンナコト――」
「ニンゲンノ街を壊して、先へ進めばイインダロ? ダッタラ、真っ直ぐダ! グギャギャ!」
単細胞のドンガは、作戦などお構いなしに部隊をひたすら前進させる。
速度も勢いも増していくドンガ隊は、暴走列車よろしく前だけを目指して走り続ける。
●ラスリド伯爵部隊
ゲオルグのもとへやってきた兵士が、大変ですと叫んだ。
「ゴブリンどもが現れたか」
「は、はい。伯爵閣下の予想どおり、茨風景も使っております。しかし……」
「しかし、何だ?」
「偵察の情報では、アークエルスの城壁に真っ直ぐ向かってるとのことです」
報告を受けたゲオルグは最初、目の前に立っている兵士が何を言ってるのか理解できなかった。
連中は茨風景で強引にこの場を突破し、なんとかして北門を開かせる作戦を練っているとばかり思っていた。
ところが、である。
茨風景を発動させて部隊は門へ通じるルートではなく、どこまでも真っ直ぐ進んでいる。そのまま行けば、城壁へぶつかるのにである。
「門を開けるのではなく、城壁を破壊しようというのか? せ、戦略も何もないぞ。一体どうなっている!」
ゲオルグは狼狽した。この展開は、さすがに予測できていなかった。
茨風景を維持したまま壁に突き当たるなど、力押しもいいところだ。壊せるという保証もない。
「部隊を率いている巨体の茨小鬼は、グギャギャと笑いながら突撃を命じてるようです」
報告に来た兵士も、戸惑い気味だった。
裏にとんでもない計略が隠されているか、もしくはただのアホかのどちらかだ。
前者である可能性は否定できないが、報告を受けるに、どうも後者の予感がする。
「であれば、余計に厄介だな……」
呟いたゲオルグは、ギリと奥歯を噛み締めた。
何も考えてないアホほど、次にどのような手を打ってくるかわからない。
味方にしても敵にしても厄介だから、たちが悪い。率いている者は、ゴブリンの中にいるからこそ実力を発揮できるタイプだ。
「せっかくの秘密兵器も届かなければ意味がない……!」
両膝を手でパンと叩いたゲオルグは、同行中のハンターを呼んだ。
「任務変更だ。諸君らには、茨風景を用いて進軍中の敵部隊を、改造投石器の攻撃範囲内へ誘導してほしい。突撃を命じている敵の大将は、どうも単細胞で好戦的なようだ。そこを上手くつけば、狙いどおりに動いてくれるかもしれん」
言葉を一度切ったあとで、ゲオルグはなおも言葉を続けた。
「無論、改造投石器を使わずに、茨風景内での直接戦闘を挑むのも可能だ。その場合は激戦が予想される。どちらにせよ、茨小鬼との対決には覚醒者たるハンター諸君の協力が必要不可欠だ。情けない話、我が兵では茨風景内の敵を一掃するのは難しい。大将がいる部隊を諸君らに任せ、我らは他の取り巻き部隊を標的にする。改造投石器の発射のタイミングは諸君らに一任する。ただし、かなりの無理を強いた設計のため、一度発射すると改造投石器は壊れてしまう。つまり、範囲攻撃を仕掛けられるのは一度きりだ。肝に銘じてくれ」
リプレイ本文
●
巨体の茨小鬼が率いる部隊が迫る。
ゴブリンたちの不愉快な笑い声が今にも聞こえてきそうな中、クオン・サガラ(ka0018)は呟くように言った。
「この前は……討ち損ないましたからね……ドンガにリターンマッチです。今度こそ何とか退治したいと思いますが……配下を率いて出て来た所を見ると、中々の難物ですね」
クオンは、ドンガと呼ばれる巨体のゴブリンと対峙した経験があった。その時は決着をつけられなかったのである。
「このような戦場は久しぶり、ですね。姉上が二人ともに居る、という意味でも」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)が背後を振り返る。視界に映る女性二人が彼の姉、ガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401)とメリル・E・ベッドフォード(ka2399)だ。
「野蛮ね。そして愚昧だわ。調教してあげましょう。ここがどこかということをね」
冷徹な殺気を、ガーベラが放つ。
「この国は私の生まれ育った大切な故郷、踏み荒らされるのは心外でございます」
メリルはスっと目を細めた。瞳に、無慈悲な怒りの炎が宿る。
「ですから……目には目を、歯には歯を、蹂躙には蹂躙を」
姉二人のプレッシャーを背中に感じたレイは、自分ごと誤魔化すように笑う。
「ふふ。それほど頼りに感じている……ということですね」
かつて、世界を支配していたという大王の生まれ変わりだと自称するディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は、臆したりせずに前だけを見据える。腰に手を当て、堂々とした態度だ。
「ふむ、また例の結界か。厄介な結界だが、突破されるわけにはいかんな。皆の者! 大王たるボクが前に出るぞ! なんとしても死守するのだ!」
すでに一度、ディアドラは茨風景を使うゴブリンたちと戦っていた。アーサー・ホーガン(ka0471)やザレム・アズール(ka0878)も一緒だった。
「我が物顔で、アホ面晒してやがるな。だが、お前らが良い気でいられる時間はもう終わりだぜ」
自信ありげにアーサーが言った。グレートソードのエッケザックスを構え、すぐにでも突撃したそうだ。
「ラスリド伯爵、しばらくぶりですね」
他にも向かってくる部隊の迎撃に向かうゲオルグに、以前に面識のあるザレムが声をかけた。
「あの経験を生かし、茨風景を破りましょう。伯爵、宜しく頼みます」
ペコリと頭を下げて挨拶を終えると、ザレムは仲間たちのところへ戻る。
一行は投石器を活用し、茨風景を打ち破るための作戦を練り始める。
「投石範囲に誘って、倒す……賛成だ。大事なのは気取られない事とタイミングだな」
「わたくしも異論はありありません。使用タイミングなどは貴方に一任致します」
ザレムの言葉に頷いたガーベラが、一任すると告げた相手はクオンだった。
「近接戦闘組が範囲から脱出するのが難しいのと、結構ギリギリまで引付ける必要がありますね。ただ、ドンガが範囲に入らなかった場合は他を全部潰せればいいので、そのつもりで改めて誘導と攻撃のタイミングを考えます」
メリルやレイは長女のガーベラと同意見で、レイは前衛、メリルは後衛を担当する。
「私の力は茨風景と相性がよろしくないようでございます。無理はせず、敵に対しては愚弟より後ろに立ちましょう」
「今回ボクは前衛として行動するぞ。馬に乗って一気に接近を行い、そのままメイジを攻撃するぞ」
ディアドラの言葉に、アーサーが同調する姿勢を見せる。
「俺も前衛だな。守りを重視しつつ、敵を抑えるぜ。誘引中の損害を減らせるように立ち回るつもりだ」
話がまとまったところで行動が開始される。この場はハンターにすべて託された。
クオンの指示で、待機するラスリド兵が投石器を動かすことになる。一度きりの使用となるため、タイミングの見極めが重要だった。
各自が移動し、迎撃ポイントで敵を待つ。クオンとザレムはやや離れた位置から、ピンポイントで敵の大将であるドンガを狙う。
茨風景内にいて能力が上昇しているドンガは、前方に立つディアドラとアーサーを見つけても、歩みを止めるつもりはなかった。
まずは前衛のディアドラとアーサーが茨風景に飲み込まれた。途端に体が重くなり、嫌でも能力の低下を実感させられる。
敵の横合いから食らいつくつもりのレイは、その前に地を駆けるものを使用し、自らの回避能力を上昇させていた。
「バラ色風景……でしたか。それではお邪魔致します」
弟のレイが茨風景内へ侵入していくのを、ゴースロンに跨ったメリルが後方から見ていた。前衛や誘導役の支援を徹底するつもりだった。
その過程で、ゴブリンたちの茨風景を間近で目撃する。
「茨風景の発動の鍵は何……?」
集中するあまり、頭の中の呟きが、そのままメリルの唇の隙間からこぼれた。
相当に強力な呪いめいた魔術、術式や触媒に興味があり、メイジやドンガを観察して探る。
同時に味方を巻き込まないように、ゴブリンたちの進行方向にファイアーボールを放つ。
ガーベラもセイクリッドフラッシュを使って、茨風景内の一団へ範囲攻撃を行う。
一気に駆け上がってメイジを狙ったガーベラは、どの程度のダメージを与えられるのかも含めて敵を注視する。
「グギャギャ! ニンゲンどもの魔法など、茨風景の前では火遊びモ同然ダ!」
耳障りなドンガの笑い声にも、ガーベラは表情を崩さない。元より囮行動する味方の支援と割り切っていた。
それでもダメージはしっかり与えた。この機を逃すまいと、すでに茨風景内にいるアーサーとディアドラがメイジに物理攻撃を仕掛ける。
剣を振るい、ゴブリンメイジに傷を負わせたあと、ディアドラは敵を挑発する。
「見よ! 偉大な大王がここにいるぞ! 臆せぬ者からかかってくるが良い! そして臆病者はボクの目の前から立ち去るが良いぞ!」
振った騎士剣のローレル・ラインを高々と掲げて輝かせる。
ドンガが反応を示す前で、ディアドラに続いてゴブリンメイジを狙ったアーサーが一体を切り捨てた。
「何だ、何だ! こんなもんだったか!? 前より、たいしたことなくなってんじゃねえか!」
ぐぬぬとドンガが歯軋りしだしたところで、レイがゴブリンナイトへ仕掛けた。
「宜しければ、すこしお付き合いを」
ハルバードでナイトの剣と打ち合う。ゴブリン側の能力が上昇し、人間側の能力が低下するため、さすがに一撃で仕留めるのは無理だった。
「ニンゲンごときがいい度胸だ! ゼンイン、奴らを殺せ!」
「ドンガの大将。親方は、ニンゲンどもの城への道を作れと言ってタゾ」
「ココにイル、ニンゲンどもを皆殺しにしてから、親方の言うとおりにすればいいだけだ。グギャーギャギャギャ!」
元より好戦的なドンガは、ハンターからの攻撃を受けて集団の方針を強引に変更した。
南下してこの場を突破するよりも、ハンターの全滅を優先しろと指示を出したのである。
途端に目の色を変えたゴブリンナイトが、レイに反撃を開始する。
強力なナイトの攻撃を、レイが正面から受け止める。
「姉上たちの目の前で、私の……何と言いましたか、肉壁? ぶりを、お示ししなければならないのです」
「面白エ! 俺様が直々にぶっ殺して――グギャ!?」
豪快に笑っていたドンガの顔が歪む。前に出たせいで、クオンとザレムの射程に入ってしまったのだ。
「ノロマ相手には、俺達数人で十分さ」
ニヤリとするザレムの挑発を受けて、単細胞なドンガはさらに頭に血を上らせる。
「上手くこちらに注意を向けさせられたみたいですね。あとは、投石器の攻撃範囲内までおびき寄せるだけです」
言ったクオンは、ドンガへの攻撃を継続しながら、徐々に後退を開始する。敵をまとめて誘導するためだ。
「茨……? もしかして茨風景の触媒は、その名が示すとおり茨なのでは?」
後方から戦況を把握していたメリルは、仮説を組み立てながらファイアーボールを放つ。誘導地点の目印となるよう、投石器の落下地点を目指していく。
メリルが範囲攻撃を仕掛けていたのもあり、ガーベラは防御をしつつ周囲へ注意を向けていた。逃げ遅れた者が居れば馬上から拾い上げ、逃走するつもりだった。
後方部隊が後退を開始したのを見て、前衛のアーサーやディアドラ、それにレイも戦闘の頻度を徐々に落としていく。
「本気になられたら、こっちの分が悪いか。一旦、逃げさせてもらうぜ」
アーサーの退却宣言を本気にして、ドンガは追撃の命を出す。
「グギャギャ! 弱っちいニンゲンドモが調子に乗るからだ!」
ゴブリンたちがあくまで南下するつもりなら、盾を構えて進路上の壁になろうとした。無理やりにでも進路を変えさせる意図があったが、どうやらそこまではする必要がなさそうだ。
ディアドラはアーサーと一緒になり、敵を引付けながら投石器の攻撃範囲まで下がっていく。
「なんにせよ、こちらは投石器まで向かわせなければ勝ち目は薄いのだからな。多少の被害は織り込んで、進路を固定させねばなるまい」
「まったくだ。茨風景が解除されるまでは、直撃を避けるために、まともに打ち合うのを避けた方がよさそうだ」
ディアドラに応じたアーサーが防御に重きを置く。繰り出されるナイトの剣を巻き上げ、弾き飛ばして武器封じをしようとする。
だが茨風景の影響で強力になっているゴブリンナイトは、通常では発揮できそうもない腕力と運動能力で堪える。
バランスを崩しかけたアーサーにゴブリンナイトが追撃しようとした時、そうはさせないとザレムが遠距離からの一撃を命中させた。
アーサーの支援をすると同時に、ゴブリンナイトを投石器の範囲から逃さない目的も含まれていた。
「さて、そろそろですね。今回は……投石器でどこまで削れるかですけど……茨風景は厄介なので確実に潰したいですね……」
上に向かって、クオンが魔導銃を三連続で放った。投石器稼働の合図だった。
事情を知らないゴブリンどもが、ここでようやく前方に見えた投石器の存在に気づく。
「ドンガの大将、ニンゲンドモがナニカやるつもりみたいダゾ!」
「奴らにナニがデキる! グギャギャ! 構わないから、このままぶっ殺せ!」
「全員伏せろ!」
ドンガが「グギャ?」と不思議そうな声を上げたのと、ザレムが投石器の効果範囲外に脱しながら叫んだのはほぼ一緒だった。
地面に伏せて盾を被り、防御障壁も発動させる。他の仲間も範囲から離脱しており、中に残っているのはゴブリンたちだけだ。
改造投石器から放たれた砲丸が空中で爆発する。音につられて上を見たが最後、ゴブリンたちの顔面に、仕込まれていた無数の小剣が豪雨のごとく降り注ぐ。
断末魔の悲鳴が重なる。武器だけが爆発の勢いで空中から発射されたため、能力低下などの影響を一切受けなかった。
防御能力が上昇していても、ゴブリンたちの肉体をあっさりと貫く。範囲内にいた敵で、耐え抜けたのはドンガ一体だけだった。
「どうやら無事に命中したみたいですね。あとは前進しつつ全員で……と行きたい所ですが、私のいる位置は今回の作戦におけるデッドライン。前に出すぎるわけにはいきませんね」
冷静に状況判断するクオンとは対照的に、投石器の一撃を食らったドンガは完全に逆上していた。
大気を震わせるような咆哮を発し、手あたり次第に棍棒で襲い掛かろうとする。
「次弾を装填して、狙いを定めるふりでいいのでしてください! 暴力には敏感なはずなので、投石器が動く気配を見せれば気になるはずです!」
叫ぶように言ったガーベラの指示に従い、ラスリド兵は使用不可能とわかっていても、あえて二回目の攻撃があるように見せかけた。
上手くいくかは不明だったが、範囲外で生き残れたゴブリンはすぐさま怯えるそぶりを見せた。集中力が散り、向かってくる敵への警戒が疎かになる。
「レイ、出番よ。折角ですから、死ぬ気で戦ってらっしゃい」
振り返ったレイに、ガーベラは微笑んでさらに言葉を続ける。
「死んだら……骨でゴーレムを作ってあげる」
割と鬼畜なのであった。
投石器の一撃が炸裂直後に馬を走らせていたレイは、ガーベラから言葉を送られたタイミングで残敵の掃討へ着手する。その際にも、二人の義姉への賞賛を忘れない。
「バラ色風景、破れたり、ですね。姉上達のおかげもあり、隙だらけです。それでは、掃除と参りましょう」
煙に紛れ、ドンガに走り寄るのはザレムだ。
アルケミックパワーを使ってからの超重錬成で、一気にドンガを仕留めにかかる。
装備したスラッシュアンカーで、可能な限り近距離から叩き、貫く。狙うは心臓もしくは首だ。
「首が胴体から離れればオワリ! 逃がすものか!」
茨風景が消失し、能力の上昇が消えたドンガに、ザレムの一撃がまともに命中した。
悲鳴を上げ、力任せに棍棒を振り回すドンガに、背後からメリルが静かに話しかける。
「その得物に染みついた朱は、あなたが受けるべき呪いの象徴です。私は、亜人と人とが手を取り合う余地を手ずから消した事、大変残念に思います」
「ボクの存在も忘れるなよ。大王たる者の実力、今こそ示そう!」
メリルの声に気を取られている隙に、ディアドラもドンガへ気合の乗った一撃を繰り出す。
一方でアーサーは、逃走防止のためにドンガの足を最初に潰そうとした。
「茨風景破れたり、ってな。お前に言っても仕方ねぇが、切り札を見せるのが少し早すぎだな」
「グッギイィィィ! ニンゲンドモガァァァ! オレはモット殺すんだ! 殺されてたまるかあァァァ!」
狂ったように棍棒を振り回し、そこかしこに突進していくドンガ。ハンターの勝利は目前に思えたが、狙いを定めてなかった一撃が偶然にも役目を終えた投石器に命中した。
耳をつんざくような破裂音が響き、投石器から黒煙が上がる。威力を極限まで高めるため、様々な改造を施していたのが仇になった。
千載一遇の好機と判断したドンガが、煙に紛れるようにして戦場を脱出してしまったのだ。
●
部隊を率いていたドンガの逃走こそ許したものの、ハンターが上げた戦果は状況を有利にした。
茨風景は隊列を組まなければならず、徐々に加速はできるものの、急激な方向転換は難しい。
一度きりしか使えないという情報をゴブリン側が得るのは難しく、茨風景の維持や使用に変化が現れた。
改造投石器の一撃を食らえば、茨風景を展開する部隊ごと全滅する可能性もある。
結果としてゴブリンの部隊は一箇所に固まらないようにしつつ、茨風景を解除して戦闘を継続した。
それはすなわち、戦力の分散を意味する。人間側はそこを逃さず、敵部隊の連携を許さずに一部隊ずつ撃破していった。
投石器を使用しての、ハンターの勝利が戦局を有利に導いた。
これによりラスリド伯爵軍は、押し寄せてきたゴブリン部隊を撃破。古都アークエルスの城壁への突撃を許さなかったのである。
巨体の茨小鬼が率いる部隊が迫る。
ゴブリンたちの不愉快な笑い声が今にも聞こえてきそうな中、クオン・サガラ(ka0018)は呟くように言った。
「この前は……討ち損ないましたからね……ドンガにリターンマッチです。今度こそ何とか退治したいと思いますが……配下を率いて出て来た所を見ると、中々の難物ですね」
クオンは、ドンガと呼ばれる巨体のゴブリンと対峙した経験があった。その時は決着をつけられなかったのである。
「このような戦場は久しぶり、ですね。姉上が二人ともに居る、という意味でも」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)が背後を振り返る。視界に映る女性二人が彼の姉、ガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401)とメリル・E・ベッドフォード(ka2399)だ。
「野蛮ね。そして愚昧だわ。調教してあげましょう。ここがどこかということをね」
冷徹な殺気を、ガーベラが放つ。
「この国は私の生まれ育った大切な故郷、踏み荒らされるのは心外でございます」
メリルはスっと目を細めた。瞳に、無慈悲な怒りの炎が宿る。
「ですから……目には目を、歯には歯を、蹂躙には蹂躙を」
姉二人のプレッシャーを背中に感じたレイは、自分ごと誤魔化すように笑う。
「ふふ。それほど頼りに感じている……ということですね」
かつて、世界を支配していたという大王の生まれ変わりだと自称するディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は、臆したりせずに前だけを見据える。腰に手を当て、堂々とした態度だ。
「ふむ、また例の結界か。厄介な結界だが、突破されるわけにはいかんな。皆の者! 大王たるボクが前に出るぞ! なんとしても死守するのだ!」
すでに一度、ディアドラは茨風景を使うゴブリンたちと戦っていた。アーサー・ホーガン(ka0471)やザレム・アズール(ka0878)も一緒だった。
「我が物顔で、アホ面晒してやがるな。だが、お前らが良い気でいられる時間はもう終わりだぜ」
自信ありげにアーサーが言った。グレートソードのエッケザックスを構え、すぐにでも突撃したそうだ。
「ラスリド伯爵、しばらくぶりですね」
他にも向かってくる部隊の迎撃に向かうゲオルグに、以前に面識のあるザレムが声をかけた。
「あの経験を生かし、茨風景を破りましょう。伯爵、宜しく頼みます」
ペコリと頭を下げて挨拶を終えると、ザレムは仲間たちのところへ戻る。
一行は投石器を活用し、茨風景を打ち破るための作戦を練り始める。
「投石範囲に誘って、倒す……賛成だ。大事なのは気取られない事とタイミングだな」
「わたくしも異論はありありません。使用タイミングなどは貴方に一任致します」
ザレムの言葉に頷いたガーベラが、一任すると告げた相手はクオンだった。
「近接戦闘組が範囲から脱出するのが難しいのと、結構ギリギリまで引付ける必要がありますね。ただ、ドンガが範囲に入らなかった場合は他を全部潰せればいいので、そのつもりで改めて誘導と攻撃のタイミングを考えます」
メリルやレイは長女のガーベラと同意見で、レイは前衛、メリルは後衛を担当する。
「私の力は茨風景と相性がよろしくないようでございます。無理はせず、敵に対しては愚弟より後ろに立ちましょう」
「今回ボクは前衛として行動するぞ。馬に乗って一気に接近を行い、そのままメイジを攻撃するぞ」
ディアドラの言葉に、アーサーが同調する姿勢を見せる。
「俺も前衛だな。守りを重視しつつ、敵を抑えるぜ。誘引中の損害を減らせるように立ち回るつもりだ」
話がまとまったところで行動が開始される。この場はハンターにすべて託された。
クオンの指示で、待機するラスリド兵が投石器を動かすことになる。一度きりの使用となるため、タイミングの見極めが重要だった。
各自が移動し、迎撃ポイントで敵を待つ。クオンとザレムはやや離れた位置から、ピンポイントで敵の大将であるドンガを狙う。
茨風景内にいて能力が上昇しているドンガは、前方に立つディアドラとアーサーを見つけても、歩みを止めるつもりはなかった。
まずは前衛のディアドラとアーサーが茨風景に飲み込まれた。途端に体が重くなり、嫌でも能力の低下を実感させられる。
敵の横合いから食らいつくつもりのレイは、その前に地を駆けるものを使用し、自らの回避能力を上昇させていた。
「バラ色風景……でしたか。それではお邪魔致します」
弟のレイが茨風景内へ侵入していくのを、ゴースロンに跨ったメリルが後方から見ていた。前衛や誘導役の支援を徹底するつもりだった。
その過程で、ゴブリンたちの茨風景を間近で目撃する。
「茨風景の発動の鍵は何……?」
集中するあまり、頭の中の呟きが、そのままメリルの唇の隙間からこぼれた。
相当に強力な呪いめいた魔術、術式や触媒に興味があり、メイジやドンガを観察して探る。
同時に味方を巻き込まないように、ゴブリンたちの進行方向にファイアーボールを放つ。
ガーベラもセイクリッドフラッシュを使って、茨風景内の一団へ範囲攻撃を行う。
一気に駆け上がってメイジを狙ったガーベラは、どの程度のダメージを与えられるのかも含めて敵を注視する。
「グギャギャ! ニンゲンどもの魔法など、茨風景の前では火遊びモ同然ダ!」
耳障りなドンガの笑い声にも、ガーベラは表情を崩さない。元より囮行動する味方の支援と割り切っていた。
それでもダメージはしっかり与えた。この機を逃すまいと、すでに茨風景内にいるアーサーとディアドラがメイジに物理攻撃を仕掛ける。
剣を振るい、ゴブリンメイジに傷を負わせたあと、ディアドラは敵を挑発する。
「見よ! 偉大な大王がここにいるぞ! 臆せぬ者からかかってくるが良い! そして臆病者はボクの目の前から立ち去るが良いぞ!」
振った騎士剣のローレル・ラインを高々と掲げて輝かせる。
ドンガが反応を示す前で、ディアドラに続いてゴブリンメイジを狙ったアーサーが一体を切り捨てた。
「何だ、何だ! こんなもんだったか!? 前より、たいしたことなくなってんじゃねえか!」
ぐぬぬとドンガが歯軋りしだしたところで、レイがゴブリンナイトへ仕掛けた。
「宜しければ、すこしお付き合いを」
ハルバードでナイトの剣と打ち合う。ゴブリン側の能力が上昇し、人間側の能力が低下するため、さすがに一撃で仕留めるのは無理だった。
「ニンゲンごときがいい度胸だ! ゼンイン、奴らを殺せ!」
「ドンガの大将。親方は、ニンゲンどもの城への道を作れと言ってタゾ」
「ココにイル、ニンゲンどもを皆殺しにしてから、親方の言うとおりにすればいいだけだ。グギャーギャギャギャ!」
元より好戦的なドンガは、ハンターからの攻撃を受けて集団の方針を強引に変更した。
南下してこの場を突破するよりも、ハンターの全滅を優先しろと指示を出したのである。
途端に目の色を変えたゴブリンナイトが、レイに反撃を開始する。
強力なナイトの攻撃を、レイが正面から受け止める。
「姉上たちの目の前で、私の……何と言いましたか、肉壁? ぶりを、お示ししなければならないのです」
「面白エ! 俺様が直々にぶっ殺して――グギャ!?」
豪快に笑っていたドンガの顔が歪む。前に出たせいで、クオンとザレムの射程に入ってしまったのだ。
「ノロマ相手には、俺達数人で十分さ」
ニヤリとするザレムの挑発を受けて、単細胞なドンガはさらに頭に血を上らせる。
「上手くこちらに注意を向けさせられたみたいですね。あとは、投石器の攻撃範囲内までおびき寄せるだけです」
言ったクオンは、ドンガへの攻撃を継続しながら、徐々に後退を開始する。敵をまとめて誘導するためだ。
「茨……? もしかして茨風景の触媒は、その名が示すとおり茨なのでは?」
後方から戦況を把握していたメリルは、仮説を組み立てながらファイアーボールを放つ。誘導地点の目印となるよう、投石器の落下地点を目指していく。
メリルが範囲攻撃を仕掛けていたのもあり、ガーベラは防御をしつつ周囲へ注意を向けていた。逃げ遅れた者が居れば馬上から拾い上げ、逃走するつもりだった。
後方部隊が後退を開始したのを見て、前衛のアーサーやディアドラ、それにレイも戦闘の頻度を徐々に落としていく。
「本気になられたら、こっちの分が悪いか。一旦、逃げさせてもらうぜ」
アーサーの退却宣言を本気にして、ドンガは追撃の命を出す。
「グギャギャ! 弱っちいニンゲンドモが調子に乗るからだ!」
ゴブリンたちがあくまで南下するつもりなら、盾を構えて進路上の壁になろうとした。無理やりにでも進路を変えさせる意図があったが、どうやらそこまではする必要がなさそうだ。
ディアドラはアーサーと一緒になり、敵を引付けながら投石器の攻撃範囲まで下がっていく。
「なんにせよ、こちらは投石器まで向かわせなければ勝ち目は薄いのだからな。多少の被害は織り込んで、進路を固定させねばなるまい」
「まったくだ。茨風景が解除されるまでは、直撃を避けるために、まともに打ち合うのを避けた方がよさそうだ」
ディアドラに応じたアーサーが防御に重きを置く。繰り出されるナイトの剣を巻き上げ、弾き飛ばして武器封じをしようとする。
だが茨風景の影響で強力になっているゴブリンナイトは、通常では発揮できそうもない腕力と運動能力で堪える。
バランスを崩しかけたアーサーにゴブリンナイトが追撃しようとした時、そうはさせないとザレムが遠距離からの一撃を命中させた。
アーサーの支援をすると同時に、ゴブリンナイトを投石器の範囲から逃さない目的も含まれていた。
「さて、そろそろですね。今回は……投石器でどこまで削れるかですけど……茨風景は厄介なので確実に潰したいですね……」
上に向かって、クオンが魔導銃を三連続で放った。投石器稼働の合図だった。
事情を知らないゴブリンどもが、ここでようやく前方に見えた投石器の存在に気づく。
「ドンガの大将、ニンゲンドモがナニカやるつもりみたいダゾ!」
「奴らにナニがデキる! グギャギャ! 構わないから、このままぶっ殺せ!」
「全員伏せろ!」
ドンガが「グギャ?」と不思議そうな声を上げたのと、ザレムが投石器の効果範囲外に脱しながら叫んだのはほぼ一緒だった。
地面に伏せて盾を被り、防御障壁も発動させる。他の仲間も範囲から離脱しており、中に残っているのはゴブリンたちだけだ。
改造投石器から放たれた砲丸が空中で爆発する。音につられて上を見たが最後、ゴブリンたちの顔面に、仕込まれていた無数の小剣が豪雨のごとく降り注ぐ。
断末魔の悲鳴が重なる。武器だけが爆発の勢いで空中から発射されたため、能力低下などの影響を一切受けなかった。
防御能力が上昇していても、ゴブリンたちの肉体をあっさりと貫く。範囲内にいた敵で、耐え抜けたのはドンガ一体だけだった。
「どうやら無事に命中したみたいですね。あとは前進しつつ全員で……と行きたい所ですが、私のいる位置は今回の作戦におけるデッドライン。前に出すぎるわけにはいきませんね」
冷静に状況判断するクオンとは対照的に、投石器の一撃を食らったドンガは完全に逆上していた。
大気を震わせるような咆哮を発し、手あたり次第に棍棒で襲い掛かろうとする。
「次弾を装填して、狙いを定めるふりでいいのでしてください! 暴力には敏感なはずなので、投石器が動く気配を見せれば気になるはずです!」
叫ぶように言ったガーベラの指示に従い、ラスリド兵は使用不可能とわかっていても、あえて二回目の攻撃があるように見せかけた。
上手くいくかは不明だったが、範囲外で生き残れたゴブリンはすぐさま怯えるそぶりを見せた。集中力が散り、向かってくる敵への警戒が疎かになる。
「レイ、出番よ。折角ですから、死ぬ気で戦ってらっしゃい」
振り返ったレイに、ガーベラは微笑んでさらに言葉を続ける。
「死んだら……骨でゴーレムを作ってあげる」
割と鬼畜なのであった。
投石器の一撃が炸裂直後に馬を走らせていたレイは、ガーベラから言葉を送られたタイミングで残敵の掃討へ着手する。その際にも、二人の義姉への賞賛を忘れない。
「バラ色風景、破れたり、ですね。姉上達のおかげもあり、隙だらけです。それでは、掃除と参りましょう」
煙に紛れ、ドンガに走り寄るのはザレムだ。
アルケミックパワーを使ってからの超重錬成で、一気にドンガを仕留めにかかる。
装備したスラッシュアンカーで、可能な限り近距離から叩き、貫く。狙うは心臓もしくは首だ。
「首が胴体から離れればオワリ! 逃がすものか!」
茨風景が消失し、能力の上昇が消えたドンガに、ザレムの一撃がまともに命中した。
悲鳴を上げ、力任せに棍棒を振り回すドンガに、背後からメリルが静かに話しかける。
「その得物に染みついた朱は、あなたが受けるべき呪いの象徴です。私は、亜人と人とが手を取り合う余地を手ずから消した事、大変残念に思います」
「ボクの存在も忘れるなよ。大王たる者の実力、今こそ示そう!」
メリルの声に気を取られている隙に、ディアドラもドンガへ気合の乗った一撃を繰り出す。
一方でアーサーは、逃走防止のためにドンガの足を最初に潰そうとした。
「茨風景破れたり、ってな。お前に言っても仕方ねぇが、切り札を見せるのが少し早すぎだな」
「グッギイィィィ! ニンゲンドモガァァァ! オレはモット殺すんだ! 殺されてたまるかあァァァ!」
狂ったように棍棒を振り回し、そこかしこに突進していくドンガ。ハンターの勝利は目前に思えたが、狙いを定めてなかった一撃が偶然にも役目を終えた投石器に命中した。
耳をつんざくような破裂音が響き、投石器から黒煙が上がる。威力を極限まで高めるため、様々な改造を施していたのが仇になった。
千載一遇の好機と判断したドンガが、煙に紛れるようにして戦場を脱出してしまったのだ。
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部隊を率いていたドンガの逃走こそ許したものの、ハンターが上げた戦果は状況を有利にした。
茨風景は隊列を組まなければならず、徐々に加速はできるものの、急激な方向転換は難しい。
一度きりしか使えないという情報をゴブリン側が得るのは難しく、茨風景の維持や使用に変化が現れた。
改造投石器の一撃を食らえば、茨風景を展開する部隊ごと全滅する可能性もある。
結果としてゴブリンの部隊は一箇所に固まらないようにしつつ、茨風景を解除して戦闘を継続した。
それはすなわち、戦力の分散を意味する。人間側はそこを逃さず、敵部隊の連携を許さずに一部隊ずつ撃破していった。
投石器を使用しての、ハンターの勝利が戦局を有利に導いた。
これによりラスリド伯爵軍は、押し寄せてきたゴブリン部隊を撃破。古都アークエルスの城壁への突撃を許さなかったのである。
依頼結果
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茨風景を打ち破れ レイ・T・ベッドフォード(ka2398) 人間(リアルブルー)|26才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/11/07 18:57:06 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/07 09:58:39 |