【アルカナ】 死出の旅路を看取る凶弾

マスター:桐咲鈴華

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/11/08 09:00
完成日
2015/11/15 18:41

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング



「なかなかに険しいんだな……」
「すみません、ご足労おかけします……」
 起伏の激しい山間の道を歩くは、エフィーリア・タロッキ(kz0077)とハンター達。
今回エフィーリアがタロッキ族の集落へと戻るに際し、エフィーリアの護衛として雇われたハンター達のうちの一人が発した声にエフィーリアは申し訳なさそうに返事を返す。
「いや、構わないさ。タロッキ族は未だ歪虚の支配領域付近に居るんだろう? そんな中に一人で行かせる訳にはいかないからな」
 エフィーリアは前回の依頼にて『アルカナ』と呼ばれる歪虚群の新たな力の発現を危惧し、部族に帰り、情報を集めようというのだ。ただ彼女はハンターオフィスにおける部族の代表ではあるが戦闘経験が乏しく、歪虚の支配領域付近にある集落への一人での帰還は危険と判断し、ハンター達に護衛を仰いだのが事のあらましだ。
「もうそろそろ日も落ちてきますし、そろそろ野営の準備をした方が良いかもしれませんね」
「あぁ、そうだな。このあたりが良いか?」
 一行は足を止め、山間のなだらかな部分で野営の準備を始めることにした。傾いた日は朱に染まり、少しずつ夜の闇が忍び寄ってきている。
「私は火の用意を……っと」
 それぞれの準備に取り掛かろうとした時、動こうとしたエフィーリアが足元の石に躓いて体勢を崩した。
「おっと、大丈夫かエフィー……」

 その直後、エフィーリアの肩に風穴が空いた。

「……っ!?」
 エフィーリアは、そのままその場に倒れこんでしまう。
「お、おい!? 大丈夫か、エフィーリア!?」
 近くにいたハンターが駆け寄る。エフィーリアを抱き起こすと、その肩には深い銃槍が出来ていた。出血が多く、エフィーリアは傷口を抑えながら苦悶の表情で痛みに耐えている。
「銃撃……だと!? 何故だ、野党か!? いや、発砲音なんてどこにも……」
「……ぁ、はやく、隠れて……くださ……!」
 痛みに堪えながら、必死で近くの岩場を指差すエフィーリア。ハンター一行はエフィーリアと共にその岩場へと身を潜める。ひとまずエフィーリアは自身のマテリアルによって自分の応急処置を進めるが、傷は深く中々治りそうもない。
「……『アルカナ』、です……。恐らく、超長距離からの狙撃……。こんな事が出来るのは、私の知る限りでは……」
「あまり喋るな、今治療する……!」
 額に汗を滲ませながらも痛みに耐え、口を動かすエフィーリアの治療を進めるハンター。それでもエフィーリアは、皆に伝えようと言葉を続ける。
「……狙撃は、隠れればひとまず、やり過ごせます……。ですが……飛来している『鏡』には気をつけて下さい……弾丸の飛来する角度は、一方向ではありません……」
 自身の服を破り、包帯を巻きながら説明をするエフィーリア。
「とても遠くにいる、筈ですが……近づけば、勝てる相手、です……。問題は、近寄るまで……。弾丸の種別も、変わります……逐一、注意を……」
 だが彼女の発する声に冷静さはなく、いつもに比べて説明の精度が低く言葉も途切れ途切れだ。様子をおかしく思ったハンターはエフィーリアを制する。
「わかった。なんとかする。とりあえず、治療を進めよう……最後に、その『アルカナ』の名は、なんだ?」
 治療の用意を始めるハンターの最後の問いに、エフィーリアは荒い息を吐きながら答えた。
「……『凶弾放つ死の訪れ』……。……『The Death』……」




「なんだ、外しちまったか?」
 某所。ガシャリと巨大なライフルを構え直しながら、人影は呟く。
「『死神』らしくサっと殺してやろうかと思ったがねぇ、どうにも幸運の女神様とやらがついてやがんのかねタロッキには」
 ライフルのボルトを動かし、薬莢を排出、弾丸を再装填する人影。巨大な銃を再度構え直し、スコープを覗く。その視線の先には宙に浮かぶ鏡。そこにハンター一行が隠れた岩場が写っていた。空中に浮かぶ何枚かの鏡を順番に見ては小さく舌打ちをする。
「角度がワリィか。けどそこから動く事が出来ねぇ以上、撃って出てきやがる筈だしな」
 誰に言う訳でもなく呟く人影。姿勢を伏せ、じっくりとそこに標準を定めている。挑戦的に、挑発的に、届くはずのない言葉をハンター達に向けて呟いた。
「死死死死(シシシシ)、さあて、楽しもうぜハンター達。死神から逃げる事が、お前らに出来るかな?」
 『死神(The Death)』と呼ばれるその男は、暗闇の中で静かに口元を歪めて嗤っていた。

リプレイ本文

●命を狙う死神の鎌

 じきに夕闇が訪れる頃。僅かに露出した鈍く光る銃身を傾け、『死神(Death)』の名を持つ歪虚は静かに狙いを定める。スコープが捉えるのは宙に浮かぶ不思議な鏡。そこに映し出されているのは、ハンター達が隠れる岩だ。宙に浮かぶ鏡はゆっくりと動き、その角度を変えていく。
「もーちょい、もーちょい……」
 誰に言うでもなく独りごちる『死神』。少しずつ鏡は映し出す景色を変え、岩陰の方へと動いていく。そこから、数名のハンターが飛び出した。
「……お、撃って出てきたか。さぁて……」
 『死神』は鏡を動かしつつ、スコープごしに別の鏡に視点を変え、飛び出してくるハンターに照準を合わせる。
「ひいふうみい……5人か。1人はタロッキのお守りかね? 死死死、さぁ勝負だぜハンター共。既に鎌はお前さんらの首にかかってんだ」
 その引き金に指をかけながら、死神は暗闇の中で笑む。
「そいつから逃れられるかどうかは……お前さんら次第ってな」
 引き絞られた引き金。銃身が火を吹き、弾丸が放たれた。

 ハンター達はそれぞれが障害物に身を隠しながらも、互いにカバーし合うように布陣しつつ、単独行動を取らないように少しずつ移動していく。まず目指すは、東の洞窟だ。
「陽が沈む前に敵を見つけて、早くエフィーリアさんの元へ帰りたいよね」
「そうだな、暗くなると視界が効かない上に、明かりが必要になる」
 ナタナエル(ka3884)とジルボ(ka1732)が言いつつ、岩陰に身を潜める。陽は大きく傾き、西日が辺りを朱に染めている。
「そうなると……相手に位置がばれやすくなっちゃうもん、ね」
 岩陰からそっと自分の刀を覗かせて、その反射で宙の鏡を映し出して調べているのはシェリル・マイヤーズ(ka0509)。磨きぬかれた刀はよく反射し、宙に浮く鏡の位置を確認できる。現在こちらを狙っている鏡と、あと数枚は別の所を向いているように思える。
「何とも面妖な光景じゃて。……この妖鏡陣、破ってみせようぞ」
 シェリルの隣で一緒になって鏡の位置を確認する星輝 Amhran(ka0724)。彼女はこの不規則な鏡の布陣を見て、思考を巡らせる。
(こちらを狙ってるものもあればそうでないものもある。……ただの観測機ではないじゃろう。嫌な気配を感じるわい)
 そもそも銃撃は直線だ。鏡を使って別の角度から見ても、狙撃手の位置が動かなければ本来は物陰を狙撃するなど出来ない。故に星輝はこの鏡に、弾丸を跳躍させる能力があると推測する。概ね他のメンバーも同じ推測に辿り着き、『鏡に狙われない』ように警戒を厳にしている。
「……次は、あそこデショウカ」
 そして鏡の位置を確認したヒズミ・クロフォード(ka4246)がハンドサインと口パクで次の方向を示す。その方向にメンバーが動き出そうとした所で……。
 ガァンツ!
 銃撃の着弾音が聞こえる。ヒズミのハンドサインで示された位置に正確な射撃が入る。しかしメンバーの誰一人として弾丸の餌食にはならず、次のカバーリングポジションへと移動できた。
「……フ」
 目論見があって少し口角があがるヒズミ。ハンドサインはダミーであり、彼の視線が本来の移動ポイントを示している。予めメンバーに周知しておいた為に、見事にダミーにつられて狙撃が来たのだろう。
「銃声はあった? ……ないか。ううん、まだ遠いのかな」
 自らも音に集中しつつ、妖精アリスに尋ねるナタナエルだったが、銃声はまだ聞こえない。相当遠くか、はたまた別の場所かはまだ解らない。
「それにしても、ダミーの移動位置に偏差射撃をしてくるなんて、やっぱ奴さん相当練度が高ぇぞ」
 ジルボは先程の着弾した弾丸を見やる。地面が大きく抉れており、人ひとり吹き飛ばす程の破壊力が伺える弾丸。彼もまた鋭敏視覚を利用して鏡の角度を確認する。
「……あの鏡から来たみてぇだな」
 その銃槍の角度から、弾丸を中継した鏡を特定する。比較的こちらに近く、更にこちらを向いている鏡。原理は不明だが、あの鏡を起点に銃撃が飛んできたのを確信した。
「もしや、鏡は別の空間を繋いで弾丸を跳躍させておるのかの? 標的を覆うように展開する鏡の幕……まるで空間そのものをトーチカにしておるようじゃ」
 再び銃撃が飛来。考察する星輝だったが警戒は忘れておらず、背に構えた盾で体を逸し、受け流すように銃弾を回避した。それでも衝撃により幾分か体力は削られたが。
「……っく、危ない、じゃがやはり銃撃は突如あの鏡から飛んできておるようで間違いないようじゃの」
 鏡を見ていたせいで狙われてしまった星輝だったが、そのお陰で銃撃の軌跡をほんの僅かに眼に捉える事に成功する。銃撃は『鏡から直接こちらに飛んできた』ようだ。空間接続を行っているという説は濃厚になってきた。
「なら……」
 シェリルは持参した水の入ったペットボトルを投擲し、手裏剣によって空中で水を割る。弾け飛んだペットボトルから水が拡散し、鏡に付着したのを確認する。
「これで……」
 次に投げるのは小麦粉の入った袋。同じ要領で空中で割ると、水気のついた鏡面が小麦粉をかぶって白く汚れる。
「……ん、ちゃんと、小麦粉ついてるから。……目眩ましには、なるかな」
 銃撃の間隔を見計らい、移動する一行。再び鋭い銃撃が飛来し、ジルボの頬を掠める。
「うおっと!? あぶねえ!」
 だが、先程よりも精度が落ちているように感じる。シェリルの目眩ましは成功したようで、同時に一行は鏡が視覚の補助を行っているという事を確信する。
「少しずつ、解き明かしてやろうぞ。『死神』」
 思慮と試行錯誤からメカニズムを把握していった星輝は、あえて鏡から見えるように不敵な笑みをこぼすのだった。


「ち、敵ながら見事なもんだ。大分頭が回るようだな」
 暗闇の中で舌打ちする『死神』。スコープで狙いを定めている鏡は小麦粉で汚れ、他の鏡で視覚の補助をせざるを得なくなる。
「動きも手慣れてやがるし、経験者がいるな? ったく、面倒だ。……だが、そっちにオレはいねぇんだな、これが」
 一行の動きや予測は見事なものだったが、彼らの向かう先に『死神』は居ない。何れ勘付くだろうが、それでも余裕は十分にある。
「なら……まずはそっちを、狙いますかね」
 大きく照準を変え、別の鏡を向く、そちらにはエフィーリアと、護衛についたUisca Amhran(ka0754)の姿が見える。
「盾持ちの聖導士、か。ま、1人は手負いだ。……どこまでかわせるかね?」
 先程使ってた弾丸とは別の弾丸を装填しつつ、『死神』はまた引き金を絞る。


「エフィーリアさん、大丈夫ですか!?」
「……っ、え、ぇ……ウィスカ様、すみません……」
 Uiscaはなるべく鏡から庇うようにしながら、ヒールによって銃撃を受けたエフィーリアの治療をする。だが、痛み以上に呻くエフィーリアの容態に異変を感じる。
(毒か、何か? でしたら、これを……)
 試しにキュアを使ってみると、治癒の光がエフィーリアを包み、顔色がよくなる。
「は、ぁ……大分楽になりました」
「うん、良かった。マテリアルの動きも安定してきたみたいです」
 後遺症からか軽く頭を抑えるエフィーリアだったが、それもすぐ快調した。覚醒状態に入り、自身もマテリアルヒーリングによって自己治療をする。
「……面目ありません、自らキュアを使えれば、良かったのですが」
「今は気にしないで、治療に専念してください。……友人である貴女の事、必ず守ってみせますっ」
 その言葉と同時に2つの盾を携え、大きく振り返るUisca。その瞬間銃弾が飛来し、彼女の盾によって弾き飛ばされた。
「見つかっちゃいましたか!」
「Uisca様、気をつけて下さい……! 先程のように銃弾に特殊なものもあります!」
 エフィーリアの言葉に盾を見れば、銃撃を弾いた盾が少し腐食しているように思える。Uiscaはマテリアルによる光で防御力を強化して、エフィーリアを守るように鏡に向き直る。白竜の翼のようなオーラと共に振るわれる大小2つの盾を駆使して彼女を守る。突如として複数の銃弾が散弾となって襲ってくると、前面に重ねて構える事でやり過ごす。中には弾き飛ばそうとした弾丸が爆発し、衝撃によって大きく体勢を崩す事もあった。Uiscaは魔導短伝話によって星輝に連絡をとる。
「姉さま、エフィーリアさんの容態は回復しました! けど、銃弾は思った以上に多彩みたいです。腐食に散弾、炸裂と、注意して下さい! それから……こちらへの攻撃頻度が高くなっています。そっちの方角には『死神』は居ないかもしれません!」
『ああ、こちらも洞窟に着いた所じゃが、『死神』はおらなんだ、イスカや、もう少し辛抱してくれ!』
 伝話を切り、再び向き直るUisca。多彩な銃撃による攻撃に体力を奪われながらも必死に自分を守ってくる姿を、その背中を、エフィーリアは目に焼き付けるように見ていた。
(…………)
 彼女は幼い頃から使命が第一だった。一族の教えを重んじ、知識を吸収する事を第一に生きてきた。故に、師匠や先生という間柄ではなく、『友達』と呼べる存在が出来たのは、ハンターオフィスを訪れてからだった。
(……生きなくては)
 ふと、懐に入っていたキャンディを口に含む。それも『友達』がくれたものだ。じわりと染みこむ味が、黒い髪をした大切な友人の姿を思い出させてくれる。
(……私を、守ってくれる人たちの為に。……私は……!)
 エフィーリアは立ち上がり、今もなお守り続けてくれるUiscaの援護に向かった。戦闘技術では劣っていても、自分にはこの為につけた、知識があるのだから。



「ちっ、あの聖導士もやり手だな。高ェ弾丸こんだけご馳走してやったのに捌きやがる。おまけにタロッキの助言もついたせいで仕留め切れねぇ」
 目論見が外れて忌々しそうに言葉を吐き捨てる『死神』。彼女らへの銃撃は諦め、もう片方の一行を狙い直す。一行は北側の高低差ある山脈に歩を進めており、それは『死神』が潜んでいる場所であった。
「と、こっちへ向かってきやがったか、なら、こっちも全力で……」
 ボルトアクションによって巨大なバレルを動かし、次弾を再装填する『死神』。命のやり取りを心から楽しむように、その銃を構える。
「文字通り『迎え撃たせて』もらおうかなァ、死死死死!」


「銃撃が激しくなってきた。恐らく、近付いてきてる」
 ナタナエルが声をあげて他のハンター達に合図をとりつつ、素早いフットワークで銃弾を回避する。その顔には仮面がつけられており、髪も銀色になっている。鏡への攻撃手段を持たない為、専ら自ら射線に出ては回避する、陽動によって一行に貢献していた。
「よ……っと、やっぱ敵さんが近くにいると鏡も多くなってきてんのか、なっ!」
 銃撃を回避しつつ、翻した身を突き出して弓を居るジルボ。放たれた複数の矢は雨のように降り注ぎ、上空に密集していた鏡をまとめて破壊した。だが、全ての鏡を破壊出来たわけではなく、密度を増した鏡は弾丸を中継しあい、不規則な軌道を描きながら飛来してくる。
「ぐあっ」
「熱……っ」
 回避には成功したが、着弾した弾丸が突如として大きな火柱をあげる。ジルボとナタナエルに火炎が襲いかかる。
「焼夷弾もあるトハ……本当に多彩デス、ネ!」
 回避行動をとりながらヒズミは足元の石を拾い上げ、近くを浮かぶ鏡に投擲、亀裂を入れる。その瞬間銃撃が飛来し、ヒズミの肩を穿つ。敵の位置を味方が探っている為に得意の銃が使えないヒズミだったが、それでも狙い撃つ遠距離攻撃は正確なものだった。
「そこじゃな!」
 亀裂の入った鏡がやや高度を下げた所で、星輝は特殊強化銅製ワイヤーウィップを伸ばして鏡を絡めとり、引き寄せた。鏡は直接見ずにそっと刀を反射させて見た。その瞬間銃弾が鏡から飛び出してきて、刀を弾き飛ばした。だが
「見えたぞ」
 その刹那を星輝は見逃さなかった。鏡は普段はただの鏡だったが、銃弾が飛び出してくる瞬間だけ、別の景色が映った。予め予想していた『空間接続』の予想が当たった事に星輝はにやりと笑んだ。
「鏡は彼奴の銃弾専用のわーぷげーとと言った感じかの? 飛び出してくる時だけ、『入口』の鏡の景色が映るようじゃの。」
 星輝が鏡を接収した事は『死神』にも伝わったか、その鏡はそれ以上何の変化も起きなかった。
 再び戦場に戻ろうとする星輝だったが、その瞬間上空の鏡から飛来してきた銃弾に右腕を掠められる。
「ぐ、ぅ……! 状態異常もかけてくるとはのう……」
 銃弾の掠った箇所が、突如として痺れて動かなくなる。何とか左手で盾を構えて続く銃撃をいなすものの、防戦を強いられざるをえなくなっていった。
「……見えた。そこなんだね」
 鋭い感覚を持つシェリルは、今の銃撃で確かに見えた。鏡を中継することなく、遠方から飛来した銃弾が鏡へと吸い込まれる様を。そうして、銃弾が飛来した方角を見やる。それは岩場の影。沈みかけた西日で照らされたそこに、ほんの僅かに金属の光沢めいた鈍い輝きを目にした。
「……」
 脚にマテリアルを込めて、シェリルは跳び出す。常人を遥かに超える速度で高低差のある岩場を漆黒の風のように駆け抜け、僅かに見えた、されど確信したそのポイントへと走っていく。鏡から飛び出してきた弾丸を受け、時折刀で切り飛ばしながら、冷淡なその瞳は一点を見据えて駆け抜けていき……やがて辿り着いた。

「……は、見つかっちまったか」
「あなたが、『死神』ね」
 スコープから目を離した『死神』。岩場の色と同じギリースーツのようなものを身に纏い、近くには多数の弾薬箱が転がっていた。姿こそ普通の軍人といった姿だったが、その目を見れば解る。彼は歪虚だと、確信できる。
「……さよなら」
 『死神』が銃をシェリルに向ける前に、鋭く踏み込んだシェリルの刀が彼の首を捉える。穿たれた傷は鮮血を舞い上げ、『死神』の体が崩れ落ちる。
「へ……ッ、負け、か。……ったく、冷たい目、しやがって……どっちが『死神』なんだか……」
 そう言い残した『死神』の名を冠する歪虚は、地面に落ちると同時に、光の粒となって消えていった。
「……そうね。歪虚と人は結局同じに思う。今も私の心はせめぎ合ったまま……だけど」
 その残滓に向かってシェリルは独りごちる。それが彼に向けての言葉なのか、自分に言い聞かせての言葉かは解らないが。

「……親しい人の悲しむ顔は、みたくない。……今は、この心のままに、動くだけだよ……」

 その言葉が虚空へと溶けて消えていくように、夜の闇が戦果の炎を優しく包み込んでいった。


 こうして『死神』の名を持つアルカナは討伐され、エフィーリアもまた無事に生還した。
 そして彼女らは再び歩を進めてゆく。タロッキ一族の集落は、もう間もなくだった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 12
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズka0509
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhranka0724

重体一覧

参加者一覧

  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • 《死》を翳し忍び寄る蠍
    ナタナエル(ka3884
    エルフ|20才|男性|疾影士
  • 一瞬の狙撃者
    ヒズミ・クロフォード(ka4246
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/03 22:46:47
アイコン 現在状況補足・質問板
エフィーリア・タロッキ(kz0077
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/11/06 23:35:03
アイコン 相談:死神を喰らう狩人達
星輝 Amhran(ka0724
エルフ|10才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/11/07 22:31:01