ゲスト
(ka0000)
紅葉の楓街道とお騒がせ妖精
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/05 19:00
- 完成日
- 2015/11/13 03:42
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国。王都【イルダーナ】より北東の地にカーチスと呼ばれる町が存在していた。そのカーチスとグリュンシュを繋ぐ経路を人々は楓街道と呼ぶ。
名が示す通り、街道の両脇にはたくさんの楓が植えられていて並木道になっている。
秋から初冬にかけて楓は色づく。紅葉に黄葉が織りなす景色に誰もが一度は足を止めた。落葉が重なり、道には紅と黄の絨毯が敷かれる。
落葉を街道の両脇に寄せて、時に焚き火で燃やす地元の有志達がいた。彼、彼女等がいるからこそ楓街道は美しい状態を保っていられる。
そんな楓街道で些細ながら事件が発生した。
通行人が歩いていると突然に疾風によるつむじ風が発生。舞い上がった落葉に包まれて身動きできなくなってしまうのである。
単なる自然現象だろうと誰もが思っていたが、通りがかった馬車にひかれそうになる事案が発生して地元の有志達は調査に乗りだした。
注視して観察したところ、犯人の正体は妖精だった。
背中に羽根を生やした二、三十cmの妖精が超低空を全速力で飛ぶ。そしてわざと落葉の中に突っ込み、巻き上げて通行人を驚かしていた。
「なあ、どうしてそんなことするんだ?」
地元有志の一人である青年ピートは妖精が隠れていそうな街道横の茂みに話しかける。返事はなかった。しかし諦めずに毎日通って何度も話しかけてみると、一度だけ囁きのような声が返ってくる。
「ボクを掴まえたら教えてあげるよ。でもできるかな? 無理だと思うよ。それに仲間もたくさんいるからね」
ピートは落葉のつむじ風に巻き込まれてしばらく身動きがとれなくなった。笑い声と共に妖精はどこかへ消えてしまう。このままでは大事故に繋がると判断した彼はハンターズソサエティー支部に連絡をとった。
「妖精達はイタズラが事故に繋がるとか、そういうのが理解できていないだけだと思うんです。ですからハンターのみなさんには妖精を無傷で捕まえて頂きたい。あらためて妖精達との話し合いの場が持てればと」
倒すよりも無傷で捕まえる方が余程難しい。すばしっこい相手ならなおのことだ。
妖精を捕獲した後、ピートは説得を試みるつもりである。妖精側にも事情があると考えていた。但し、これはピートの勝手な思い込みで確実性のある話ではなかった。
今日も楓街道でつむじ風が舞う。大事故が繋がらないことを祈りながらハンター一行の到着を待つピートであった。
名が示す通り、街道の両脇にはたくさんの楓が植えられていて並木道になっている。
秋から初冬にかけて楓は色づく。紅葉に黄葉が織りなす景色に誰もが一度は足を止めた。落葉が重なり、道には紅と黄の絨毯が敷かれる。
落葉を街道の両脇に寄せて、時に焚き火で燃やす地元の有志達がいた。彼、彼女等がいるからこそ楓街道は美しい状態を保っていられる。
そんな楓街道で些細ながら事件が発生した。
通行人が歩いていると突然に疾風によるつむじ風が発生。舞い上がった落葉に包まれて身動きできなくなってしまうのである。
単なる自然現象だろうと誰もが思っていたが、通りがかった馬車にひかれそうになる事案が発生して地元の有志達は調査に乗りだした。
注視して観察したところ、犯人の正体は妖精だった。
背中に羽根を生やした二、三十cmの妖精が超低空を全速力で飛ぶ。そしてわざと落葉の中に突っ込み、巻き上げて通行人を驚かしていた。
「なあ、どうしてそんなことするんだ?」
地元有志の一人である青年ピートは妖精が隠れていそうな街道横の茂みに話しかける。返事はなかった。しかし諦めずに毎日通って何度も話しかけてみると、一度だけ囁きのような声が返ってくる。
「ボクを掴まえたら教えてあげるよ。でもできるかな? 無理だと思うよ。それに仲間もたくさんいるからね」
ピートは落葉のつむじ風に巻き込まれてしばらく身動きがとれなくなった。笑い声と共に妖精はどこかへ消えてしまう。このままでは大事故に繋がると判断した彼はハンターズソサエティー支部に連絡をとった。
「妖精達はイタズラが事故に繋がるとか、そういうのが理解できていないだけだと思うんです。ですからハンターのみなさんには妖精を無傷で捕まえて頂きたい。あらためて妖精達との話し合いの場が持てればと」
倒すよりも無傷で捕まえる方が余程難しい。すばしっこい相手ならなおのことだ。
妖精を捕獲した後、ピートは説得を試みるつもりである。妖精側にも事情があると考えていた。但し、これはピートの勝手な思い込みで確実性のある話ではなかった。
今日も楓街道でつむじ風が舞う。大事故が繋がらないことを祈りながらハンター一行の到着を待つピートであった。
リプレイ本文
●
宵の口にカーチスへ辿り着いたハンター一行は宿屋で一晩を過ごす。
「よく来て下さいました!」
そして翌朝、依頼人のピートと会った。百聞は一見にしかず。一同は徒歩で現場へと向かう。
「きれいな紅葉だね~♪」
燕谷 梨子(ka5782)が両腕を広げながら振り返りつつ楓街道を眺める。丘の向こうまで続く紅の並木道はとても見事なものだ。
「楓の枝葉に隠れて妖精さんがこちらを見ているかも知れないですね」
ソナ(ka1352)が目の前に舞い落ちてきた紅葉を掌で受け止めた。
そのとき、夜桜 奏音(ka5754)は立ち止まって天を仰いだ。紅葉で赤く染まる枝をしばし見上げる。
(こちらの様子を誰かが窺っていたように感じましたが……)
本当に妖精が隠れて見張っていたのかはわからないが、そのような気がしたことは確かなことだ。
「妖精の悪戯、とのみ聞けば微笑ましいが、些か度を越しておるようじゃ」
「そうなんです。ああやって馬車も通りますので、とても危なっかしくて」
道の端を歩くカガチ(ka5649)とピートの側を馬車が通り過ぎていく。
最後尾を歩いていた鳳凰院ひりょ(ka3744)がピートの背中を見つめる。
(妖精に友好的で歩み寄ろうとする依頼人で良かった。討伐してくれといった依頼が来なかったとも限らない。そんな状況なわけだからな)
どうして悪戯に至ったのか、鳳凰院は妖精達の真意が気になっていた。
「妖精と話したのはこの辺りなんです」
楓街道を歩き始めて十数分後、ピートが足を止めて茂みを指さす。
「果たしてどうかね?」
ロラン・ラコート(ka0363)が茂みの中を覗き込んでみるが妖精の姿は見つからなかった。
「皆、虫籠は持っているかね? 早速始めようか」
仲間へと振り向いたロランが手にしていた虫籠を肩の高さまで持ち上げる。こうして妖精探しが始まった。
「あの、くれぐれも怪我させないようお願いします」
最初は心配そうだったピートの表情が次第に和らいでいく。ハンター達が怪我させないよう気をつかっているのがわかったからである。
「網で捕まえてごめんっ! 痛いとこある?」
燕谷梨子は「えいっ!」と虫取り編みを被せて捕獲。
「妖精さん、逃げないで話を聞かせてもらえるでしょうか」
夜桜奏音は意趣返し的に桜吹雪の幻影で妖精二体を包み込んだ。身動きできないところを捕まえた。
(許すのじゃ)
カガチは妖精が通行人に悪戯をしでかした瞬間を狙う。喜んでいた妖精は隙だらけ。さっと掌で優しく掴んで虫籠の中に入ってもらった。
「少し話を聞かせてもらいたいんだ」
鳳凰院は茂みの中で眠りこけていた妖精を難なくゲット。
「悪いようにはしないから、少し我慢していてね」
ソナは麻袋を利用した。悪戯の最中に舞い上がった落葉ごと妖精二体を収めてしまう。
(ピートは……ま、甘ちゃん。だが、悪くは無い考え方だね。素直というか、何と言うか……羨ましくは無いが眩しいね)
ロランはまるで蝶を捕まえるが如く妖精を虫籠の中へ。
ハンター一行は二時間ほどで八体を捕まえる。それはこの一帯に棲む妖精すべてであった。
●
ピートは大急ぎでカーチスへと戻った。その間にハンター達は落ち葉を集めて火を熾す。
「だせっー!」
妖精達は丸焼きにされて食べられてしまうのではないかと怖がる。そんなことはしないと何度も説明したが信じてくれなかった。
「お待たせしました!」
ピートは荷馬車で戻ってくる。ハンター達も手伝い、彼が運んできたテーブルや椅子を野外に並べた。ヤカンに清水を注いで湯を沸かす。
「こうすると様になるのじゃ」
カガチがクロスをテーブルにかける。
食器やお菓子が並べられていくうちに、妖精達もようやく信じてくれた。これから始まるのはお茶会だと。
「俺はロラン・ラコート。もう一度伝えておこうか。俺達は妖精サン方をどうこうするつもりはないよ。一緒に茶と菓子でも楽しむのも悪くは無いだろ? 少し話を聞かせて欲しいだけだ」
ロランが紅茶を淹れる。注いであった湯を捨ててカップに紅茶を注ぐ。
ピートが用意したクッキーの他にマシュマロとマカロンが並んだ。こちらはロランが用意したものである。
「わぁ。このクッキー美味しい! 炙ったマシュマロ、柔らかい!」
「紅茶、とてもよい香り……。うっとりしてしまいますよね」
燕谷梨子とソナがわざと妖精達の前で味わう。その上で虫籠を開いた。悩んでいたようだが妖精達はこの場に留まってくれる。
こうしてお茶会は始まった。
「以前、私に声をかけた妖精さんはいるかな?」
ピートが順に妖精達へ視線を送ると一体が立ち上がる。
「妖精くんはやめろ。ボクはタンタだ」
「そうかタンタ、よろしく。私はピートです。まずはお近づきの印に」
全員でお菓子とお茶を楽しんだ。風がない穏やかな秋空の下で。紅葉は一段と鮮やかである。妖精達は想像していたよりも食いしん坊だ。身体に似合わぬ大食漢だった。
「タンタさん以外のお名前も教えてもらえるでしょうか? わたしはソナです」
「あの、ピナピです……」
ソナの近くにいた妖精ピナピが恥ずかしそうに名乗る。
紅茶を味わいながらピナピは語った。この周辺に棲みだしたのは二年前からで、家はあるらしい。ただ場所や形は秘密のようだ。
「鳳凰院ひりょだよ。よかったらこれもどうぞ」
食べ足りないといった様子の妖精ドンタに鳳凰院が自分のクッキーをあげる。
「あんがと。人間って悪いやつばかりじゃないんだな」
「悪い奴って?」
詳しく訊こうとしたものの、タンタが咳払いするとドンタは口をつぐんだ。タンタがリーダーのようである。
「何か困っていることがあれば相談に乗りますから、いってもらえませんか?」
「困っていることなんてないよ」
訊ねたピートからタンタが視線を逸らす。夜桜奏音もタンタに話しかけた。
「なら何故、なぜあのような悪戯をし始めたのですか。何か理由があるのでしょうか」
「妖精が悪戯をするのは普通だってば」
「そうとも限りませんよ。街道で悪戯をするのは危ないのでやめていただきたいのですが」
「そんなこといわれてもなー」
タンタはマカロンを美味しそうに頬張った。
「どうして悪戯したの……? やっぱり危ないよ……」
燕谷梨子が悲しそうな顔で妖精を一人一人見つめる。
「しつこいようですが教えくれませんか?」
ピートの問いの後で長い沈黙が続く。そのときカガチがフォローを入れた。
「此度の騒動がただの悪ふざけであったとは思うておらぬ。そなたらが怒るだけの理由あったのであろ? なれど、荒ぶるだけでは伝わらぬ。伝わらなくば償いも出来ず、むしろ何も知らぬまま、そなたらを人に害為す者と捉えるやも知れぬ」
「だってお仕置きなんだもん!」
我慢しきれずタンタが声を荒らげる。
「仕置きは仕置きとして、訳を明かさねば一層こじれるばかりじゃ。このように真摯に耳を傾ける者に免じて、仔細を話してはくれぬか」
「……」
タンタが紅茶を一気に飲み干す。それを知ったロランが新たに注いでくれる。
「今回の事件……悪戯? の目的を聞かせて貰えんかね?」
ロランが淹れてくれた二杯目の紅茶をタンタはじっくりと味わう。
「……傷ついている楓の木が何本かあるんだ。冬の間に枯れてしまうかも知れないんだよ。それをやったのは人間なんだ」
ようやく妖精達がやった悪戯の原因がわかる。
「そうだったんですね。その楓の樹木がどれなのか聞かせてくださいね?」
ソナの頼みに精霊全員がコクリと頷くのだった。
●
お茶会後、妖精達を含めて全員が荷馬車へと乗り込んだ。
「あれがそうだよ!」
「見たところ普通だが」
荷馬車から飛びおりたロランはタンタが示した楓の樹木を見上げる。ピートや他の仲間達も周りを取り囲んだ。
「ここなの……」
ピナピが樹木の根元を隠していた茂みの隙間に入り込む。
「斧のようなもので伐ろうとしたのかしら。酷いことをする方もいるものね」
「ホントだ……。ひどいね……。許せないの分かるよ!」
ソナと燕谷梨子が憤る。茂みを除けてみると深い傷跡がいくつも刻まれている。
「このままで何もできぬ。もう枯れた草じゃ。刈らせてもらうぞ」
カガチは妖精達に一言断ってから小太刀を抜く。わずかな時間で茂みを取り除いた。
「確か、そのままにしておくと傷口から雑菌が入って最悪枯死する可能性もあると、書物で見た気がするな」
鳳凰院は露わになった傷跡に顔を近づける。
「先程の話しぶりだとまだあるのですよね?」
「うん。えっと……あと三本かな?」
夜桜奏音が飛んでいるドンタを目で追う。すべての傷ついた楓を確認してから対策を練ることにする。傷ついた楓は二、三百メートルの範囲でまとまっていた。
「水分が多いようだから、先ずは傷口をふさぐため布か何かを患部に巻き付けておいた方が良いかね。応急手当になるが」
「布ならすぐに手に入ります」
ロランの話を聞いたピートは荷馬車で町へ行く。布を手に入れて戻ってくる。日が暮れるまでに四本全部に巻き付けた。
ハンター一行は宿屋ではなくピートの家に泊めてもらった。妖精のうちタンタ、ピナピ、ドンタも世話になる。
「本で読んだ知識だと、傷口をナイフで少し削ってその後、ボンドのようなものを傷口に塗り込んで表面をコーティングするのがいいらしい。その後、水が入り込まないようにシートで覆っておくのも大切みたいだな」
鳳凰院の知識を元にして本格的な対策が立てられた。但しここはクリムゾンウェストなので代替え品が必要となる。
「ボンドは手に入らないよね……。そうだっ! 粘土ならどうかな?」
「粘土なら楓を守る有志に左官屋をしている者がいるので手に入りますよ」
燕谷梨子の思いつきで粘土を使ってみることに。シートの代わりは油紙を使う。
治療は明日行うとして問題はもう一つ残っていた。楓を傷つけた不届き者をどうするかである。
「犯人見つけよっ! どんな奴?」
「妖精のみなさん、犯人の顔は覚えているかな?」
ソナと燕谷梨子の質問に妖精達が首を横に振った。
「一人は黒い服を着てたけど……」
「あたしが覚えているのは赤い上着だったよ」
ピナピとドンタの証言はあまりにも抽象的で要領を得ない。
「妖精ちゃんたちがしたことも危なかったけど、悪いのは傷つけた方だと思うんだよね! 犯人がそのままでいいはずがないよ! ……って、そうか。近くの人とは限らないか……。通りすがりかもしれないし……」
燕谷梨子が胸の前で腕を組んで思わず唸る。
「わからなかったから、人間全部が悪いってことで悪戯したんだよ。……関係ない人には悪かったと思っているよ。ごめん」
タンタが謝るとピナピとドンタも反省の色をみせた。
「捜しても見つからないかも知れないけど、でも傷つけた人への警告や、啓蒙になるかもしれませんね。楓街道の保全運動になるし、やる意味はあると思いますよ」
「確かにそうじゃ。今後の楓対策にも繋がるであろうの」
ソナとカガチが捜索に賛成する。
「街道の警備や見回りの強化をするのはよいことです。お手伝いさせてもらいます」
「妖精ちゃんたちにピートちゃん、これからのためにがんばってみないかな?」
夜桜奏音と燕谷梨子がピートや妖精達を誘う。
「看板とかで告知しておけば通行人が注意してくれるかも。私は楓の治療を手伝いますので、そちらお願いできますか?」
「ボクたちは犯人捜しを手伝うよ」
ピートと妖精達もやる気を見せる。
傷ついた楓の樹木を治療するのはロラン、鳳凰院、ピート。啓蒙が主目的の犯人捜しはソナ、カガチ、燕谷梨子、夜桜奏音、そして妖精達が担当となった。
●
翌日、ピートは有志から粘土を譲ってもらう。それを使って楓の治療が行われた。
「かなり傷んでますね」
「ま、こんなもんかな」
鳳凰院とロランが刃物で傷口を薄く削りとった。その間、ピートは粘土を捏ねる。
表面が綺麗になったところで粘土を塗って次の楓へと向かう。四個所すべてを回ったところで最初の楓のところへ戻った。
「粘土、かなり乾燥していますね」
ピートが大きめの油紙を広げる。厚くて頑丈なので冬の間ぐらいは雨風に晒されても充分に持つはず。幹に油紙を巻き、上から縄で縛って固定した。
「枝を刈っておくのもいいらしいんです。水分が飛ばないようにするためだとか」
「なるほどな。ただあまり伐ると妖精サンに怒られそうだ。少しにしておくか」
四本ともおなじように治療を施す。
犯人捜しにも熱が入っていた。
「そんな奴らがいるんだ」
「感心しませんね」
燕谷梨子とソナは二つの町に跨がる不良集団の存在を知る。暴力沙汰を何度も起こしていた。但し、楓を傷つけた証拠は一つもない。そこでできる限りの情報を集めてピートに伝えておく。
「今後の悪戯防止策として柵を作るのはどうじゃ?」
「傷ついた楓の木だけするのも変だし、かといって街道は長いからね」
カガチと夜桜奏音は妖精達の意見を尊重した。妖精達はピートがいっていたように柵よりも看板を望んだ。そこで注意書きの看板を十数枚製作。それを楓の幹にぶら下げる。
「知らなかっただけではすまないこともありますし、今後もみなさんと有志の方々がお茶会などで交流するようにされたらどうでしょうか」
「そうなったらうれしいな……」
町への帰り道、夜桜奏音の案にピナピが真っ先に賛成する。この案は夕食のときにピートへと伝えられた。
「私もそうなったらいいなと考えていました。一ヶ月に一度は会合を開きましょうか。お茶とお菓子付きで」
ピートの言葉に喜んだ妖精達が室内を飛び回る。
数日の滞在の間に楓の順調な治療確認、犯人調査の情報集め、そして看板の取りつけが終了。ハンター一行は帰路に就くこととなった。
「全ての人間が信頼できる筈もなし、いつまた同じことが起きぬとも限らぬ。この男ならば、必ずや双方の為になるよう尽力する筈じゃ。次に何かあれば、まずは言葉で訴えるが良い」
「綺麗な樹で傷付けられたら怒るのも当然と言えば当然だがね。それより樹を枯らさぬ様、護ることに手を伸ばすべきかな。ピートの様な奴も珍しいかも知れんが、居るしね」
別れ際、ソナとロランが最後の言葉を残す。
ピートと有志達、そして妖精達が去っていくハンター一行を見送る。三週間後、王都支部を介して各ハンターの元に手紙が届いた。
不良集団の一人が樹木を傷つけたところを妖精が目撃する。それを有志達に通報して解決に導いたと認められてあった。樹木の新しい傷はわずかなものであったらしい。
それを切っ掛けにして町の人々の声が集まって官憲が動いた。不良集団の検挙がカーチスとグリュンシュの双方の町で行われる。
それからぴたりと楓の樹木を傷つける事件はなくなった。
ピートを含む有志達と妖精達の活動は末永く続いたという。
宵の口にカーチスへ辿り着いたハンター一行は宿屋で一晩を過ごす。
「よく来て下さいました!」
そして翌朝、依頼人のピートと会った。百聞は一見にしかず。一同は徒歩で現場へと向かう。
「きれいな紅葉だね~♪」
燕谷 梨子(ka5782)が両腕を広げながら振り返りつつ楓街道を眺める。丘の向こうまで続く紅の並木道はとても見事なものだ。
「楓の枝葉に隠れて妖精さんがこちらを見ているかも知れないですね」
ソナ(ka1352)が目の前に舞い落ちてきた紅葉を掌で受け止めた。
そのとき、夜桜 奏音(ka5754)は立ち止まって天を仰いだ。紅葉で赤く染まる枝をしばし見上げる。
(こちらの様子を誰かが窺っていたように感じましたが……)
本当に妖精が隠れて見張っていたのかはわからないが、そのような気がしたことは確かなことだ。
「妖精の悪戯、とのみ聞けば微笑ましいが、些か度を越しておるようじゃ」
「そうなんです。ああやって馬車も通りますので、とても危なっかしくて」
道の端を歩くカガチ(ka5649)とピートの側を馬車が通り過ぎていく。
最後尾を歩いていた鳳凰院ひりょ(ka3744)がピートの背中を見つめる。
(妖精に友好的で歩み寄ろうとする依頼人で良かった。討伐してくれといった依頼が来なかったとも限らない。そんな状況なわけだからな)
どうして悪戯に至ったのか、鳳凰院は妖精達の真意が気になっていた。
「妖精と話したのはこの辺りなんです」
楓街道を歩き始めて十数分後、ピートが足を止めて茂みを指さす。
「果たしてどうかね?」
ロラン・ラコート(ka0363)が茂みの中を覗き込んでみるが妖精の姿は見つからなかった。
「皆、虫籠は持っているかね? 早速始めようか」
仲間へと振り向いたロランが手にしていた虫籠を肩の高さまで持ち上げる。こうして妖精探しが始まった。
「あの、くれぐれも怪我させないようお願いします」
最初は心配そうだったピートの表情が次第に和らいでいく。ハンター達が怪我させないよう気をつかっているのがわかったからである。
「網で捕まえてごめんっ! 痛いとこある?」
燕谷梨子は「えいっ!」と虫取り編みを被せて捕獲。
「妖精さん、逃げないで話を聞かせてもらえるでしょうか」
夜桜奏音は意趣返し的に桜吹雪の幻影で妖精二体を包み込んだ。身動きできないところを捕まえた。
(許すのじゃ)
カガチは妖精が通行人に悪戯をしでかした瞬間を狙う。喜んでいた妖精は隙だらけ。さっと掌で優しく掴んで虫籠の中に入ってもらった。
「少し話を聞かせてもらいたいんだ」
鳳凰院は茂みの中で眠りこけていた妖精を難なくゲット。
「悪いようにはしないから、少し我慢していてね」
ソナは麻袋を利用した。悪戯の最中に舞い上がった落葉ごと妖精二体を収めてしまう。
(ピートは……ま、甘ちゃん。だが、悪くは無い考え方だね。素直というか、何と言うか……羨ましくは無いが眩しいね)
ロランはまるで蝶を捕まえるが如く妖精を虫籠の中へ。
ハンター一行は二時間ほどで八体を捕まえる。それはこの一帯に棲む妖精すべてであった。
●
ピートは大急ぎでカーチスへと戻った。その間にハンター達は落ち葉を集めて火を熾す。
「だせっー!」
妖精達は丸焼きにされて食べられてしまうのではないかと怖がる。そんなことはしないと何度も説明したが信じてくれなかった。
「お待たせしました!」
ピートは荷馬車で戻ってくる。ハンター達も手伝い、彼が運んできたテーブルや椅子を野外に並べた。ヤカンに清水を注いで湯を沸かす。
「こうすると様になるのじゃ」
カガチがクロスをテーブルにかける。
食器やお菓子が並べられていくうちに、妖精達もようやく信じてくれた。これから始まるのはお茶会だと。
「俺はロラン・ラコート。もう一度伝えておこうか。俺達は妖精サン方をどうこうするつもりはないよ。一緒に茶と菓子でも楽しむのも悪くは無いだろ? 少し話を聞かせて欲しいだけだ」
ロランが紅茶を淹れる。注いであった湯を捨ててカップに紅茶を注ぐ。
ピートが用意したクッキーの他にマシュマロとマカロンが並んだ。こちらはロランが用意したものである。
「わぁ。このクッキー美味しい! 炙ったマシュマロ、柔らかい!」
「紅茶、とてもよい香り……。うっとりしてしまいますよね」
燕谷梨子とソナがわざと妖精達の前で味わう。その上で虫籠を開いた。悩んでいたようだが妖精達はこの場に留まってくれる。
こうしてお茶会は始まった。
「以前、私に声をかけた妖精さんはいるかな?」
ピートが順に妖精達へ視線を送ると一体が立ち上がる。
「妖精くんはやめろ。ボクはタンタだ」
「そうかタンタ、よろしく。私はピートです。まずはお近づきの印に」
全員でお菓子とお茶を楽しんだ。風がない穏やかな秋空の下で。紅葉は一段と鮮やかである。妖精達は想像していたよりも食いしん坊だ。身体に似合わぬ大食漢だった。
「タンタさん以外のお名前も教えてもらえるでしょうか? わたしはソナです」
「あの、ピナピです……」
ソナの近くにいた妖精ピナピが恥ずかしそうに名乗る。
紅茶を味わいながらピナピは語った。この周辺に棲みだしたのは二年前からで、家はあるらしい。ただ場所や形は秘密のようだ。
「鳳凰院ひりょだよ。よかったらこれもどうぞ」
食べ足りないといった様子の妖精ドンタに鳳凰院が自分のクッキーをあげる。
「あんがと。人間って悪いやつばかりじゃないんだな」
「悪い奴って?」
詳しく訊こうとしたものの、タンタが咳払いするとドンタは口をつぐんだ。タンタがリーダーのようである。
「何か困っていることがあれば相談に乗りますから、いってもらえませんか?」
「困っていることなんてないよ」
訊ねたピートからタンタが視線を逸らす。夜桜奏音もタンタに話しかけた。
「なら何故、なぜあのような悪戯をし始めたのですか。何か理由があるのでしょうか」
「妖精が悪戯をするのは普通だってば」
「そうとも限りませんよ。街道で悪戯をするのは危ないのでやめていただきたいのですが」
「そんなこといわれてもなー」
タンタはマカロンを美味しそうに頬張った。
「どうして悪戯したの……? やっぱり危ないよ……」
燕谷梨子が悲しそうな顔で妖精を一人一人見つめる。
「しつこいようですが教えくれませんか?」
ピートの問いの後で長い沈黙が続く。そのときカガチがフォローを入れた。
「此度の騒動がただの悪ふざけであったとは思うておらぬ。そなたらが怒るだけの理由あったのであろ? なれど、荒ぶるだけでは伝わらぬ。伝わらなくば償いも出来ず、むしろ何も知らぬまま、そなたらを人に害為す者と捉えるやも知れぬ」
「だってお仕置きなんだもん!」
我慢しきれずタンタが声を荒らげる。
「仕置きは仕置きとして、訳を明かさねば一層こじれるばかりじゃ。このように真摯に耳を傾ける者に免じて、仔細を話してはくれぬか」
「……」
タンタが紅茶を一気に飲み干す。それを知ったロランが新たに注いでくれる。
「今回の事件……悪戯? の目的を聞かせて貰えんかね?」
ロランが淹れてくれた二杯目の紅茶をタンタはじっくりと味わう。
「……傷ついている楓の木が何本かあるんだ。冬の間に枯れてしまうかも知れないんだよ。それをやったのは人間なんだ」
ようやく妖精達がやった悪戯の原因がわかる。
「そうだったんですね。その楓の樹木がどれなのか聞かせてくださいね?」
ソナの頼みに精霊全員がコクリと頷くのだった。
●
お茶会後、妖精達を含めて全員が荷馬車へと乗り込んだ。
「あれがそうだよ!」
「見たところ普通だが」
荷馬車から飛びおりたロランはタンタが示した楓の樹木を見上げる。ピートや他の仲間達も周りを取り囲んだ。
「ここなの……」
ピナピが樹木の根元を隠していた茂みの隙間に入り込む。
「斧のようなもので伐ろうとしたのかしら。酷いことをする方もいるものね」
「ホントだ……。ひどいね……。許せないの分かるよ!」
ソナと燕谷梨子が憤る。茂みを除けてみると深い傷跡がいくつも刻まれている。
「このままで何もできぬ。もう枯れた草じゃ。刈らせてもらうぞ」
カガチは妖精達に一言断ってから小太刀を抜く。わずかな時間で茂みを取り除いた。
「確か、そのままにしておくと傷口から雑菌が入って最悪枯死する可能性もあると、書物で見た気がするな」
鳳凰院は露わになった傷跡に顔を近づける。
「先程の話しぶりだとまだあるのですよね?」
「うん。えっと……あと三本かな?」
夜桜奏音が飛んでいるドンタを目で追う。すべての傷ついた楓を確認してから対策を練ることにする。傷ついた楓は二、三百メートルの範囲でまとまっていた。
「水分が多いようだから、先ずは傷口をふさぐため布か何かを患部に巻き付けておいた方が良いかね。応急手当になるが」
「布ならすぐに手に入ります」
ロランの話を聞いたピートは荷馬車で町へ行く。布を手に入れて戻ってくる。日が暮れるまでに四本全部に巻き付けた。
ハンター一行は宿屋ではなくピートの家に泊めてもらった。妖精のうちタンタ、ピナピ、ドンタも世話になる。
「本で読んだ知識だと、傷口をナイフで少し削ってその後、ボンドのようなものを傷口に塗り込んで表面をコーティングするのがいいらしい。その後、水が入り込まないようにシートで覆っておくのも大切みたいだな」
鳳凰院の知識を元にして本格的な対策が立てられた。但しここはクリムゾンウェストなので代替え品が必要となる。
「ボンドは手に入らないよね……。そうだっ! 粘土ならどうかな?」
「粘土なら楓を守る有志に左官屋をしている者がいるので手に入りますよ」
燕谷梨子の思いつきで粘土を使ってみることに。シートの代わりは油紙を使う。
治療は明日行うとして問題はもう一つ残っていた。楓を傷つけた不届き者をどうするかである。
「犯人見つけよっ! どんな奴?」
「妖精のみなさん、犯人の顔は覚えているかな?」
ソナと燕谷梨子の質問に妖精達が首を横に振った。
「一人は黒い服を着てたけど……」
「あたしが覚えているのは赤い上着だったよ」
ピナピとドンタの証言はあまりにも抽象的で要領を得ない。
「妖精ちゃんたちがしたことも危なかったけど、悪いのは傷つけた方だと思うんだよね! 犯人がそのままでいいはずがないよ! ……って、そうか。近くの人とは限らないか……。通りすがりかもしれないし……」
燕谷梨子が胸の前で腕を組んで思わず唸る。
「わからなかったから、人間全部が悪いってことで悪戯したんだよ。……関係ない人には悪かったと思っているよ。ごめん」
タンタが謝るとピナピとドンタも反省の色をみせた。
「捜しても見つからないかも知れないけど、でも傷つけた人への警告や、啓蒙になるかもしれませんね。楓街道の保全運動になるし、やる意味はあると思いますよ」
「確かにそうじゃ。今後の楓対策にも繋がるであろうの」
ソナとカガチが捜索に賛成する。
「街道の警備や見回りの強化をするのはよいことです。お手伝いさせてもらいます」
「妖精ちゃんたちにピートちゃん、これからのためにがんばってみないかな?」
夜桜奏音と燕谷梨子がピートや妖精達を誘う。
「看板とかで告知しておけば通行人が注意してくれるかも。私は楓の治療を手伝いますので、そちらお願いできますか?」
「ボクたちは犯人捜しを手伝うよ」
ピートと妖精達もやる気を見せる。
傷ついた楓の樹木を治療するのはロラン、鳳凰院、ピート。啓蒙が主目的の犯人捜しはソナ、カガチ、燕谷梨子、夜桜奏音、そして妖精達が担当となった。
●
翌日、ピートは有志から粘土を譲ってもらう。それを使って楓の治療が行われた。
「かなり傷んでますね」
「ま、こんなもんかな」
鳳凰院とロランが刃物で傷口を薄く削りとった。その間、ピートは粘土を捏ねる。
表面が綺麗になったところで粘土を塗って次の楓へと向かう。四個所すべてを回ったところで最初の楓のところへ戻った。
「粘土、かなり乾燥していますね」
ピートが大きめの油紙を広げる。厚くて頑丈なので冬の間ぐらいは雨風に晒されても充分に持つはず。幹に油紙を巻き、上から縄で縛って固定した。
「枝を刈っておくのもいいらしいんです。水分が飛ばないようにするためだとか」
「なるほどな。ただあまり伐ると妖精サンに怒られそうだ。少しにしておくか」
四本ともおなじように治療を施す。
犯人捜しにも熱が入っていた。
「そんな奴らがいるんだ」
「感心しませんね」
燕谷梨子とソナは二つの町に跨がる不良集団の存在を知る。暴力沙汰を何度も起こしていた。但し、楓を傷つけた証拠は一つもない。そこでできる限りの情報を集めてピートに伝えておく。
「今後の悪戯防止策として柵を作るのはどうじゃ?」
「傷ついた楓の木だけするのも変だし、かといって街道は長いからね」
カガチと夜桜奏音は妖精達の意見を尊重した。妖精達はピートがいっていたように柵よりも看板を望んだ。そこで注意書きの看板を十数枚製作。それを楓の幹にぶら下げる。
「知らなかっただけではすまないこともありますし、今後もみなさんと有志の方々がお茶会などで交流するようにされたらどうでしょうか」
「そうなったらうれしいな……」
町への帰り道、夜桜奏音の案にピナピが真っ先に賛成する。この案は夕食のときにピートへと伝えられた。
「私もそうなったらいいなと考えていました。一ヶ月に一度は会合を開きましょうか。お茶とお菓子付きで」
ピートの言葉に喜んだ妖精達が室内を飛び回る。
数日の滞在の間に楓の順調な治療確認、犯人調査の情報集め、そして看板の取りつけが終了。ハンター一行は帰路に就くこととなった。
「全ての人間が信頼できる筈もなし、いつまた同じことが起きぬとも限らぬ。この男ならば、必ずや双方の為になるよう尽力する筈じゃ。次に何かあれば、まずは言葉で訴えるが良い」
「綺麗な樹で傷付けられたら怒るのも当然と言えば当然だがね。それより樹を枯らさぬ様、護ることに手を伸ばすべきかな。ピートの様な奴も珍しいかも知れんが、居るしね」
別れ際、ソナとロランが最後の言葉を残す。
ピートと有志達、そして妖精達が去っていくハンター一行を見送る。三週間後、王都支部を介して各ハンターの元に手紙が届いた。
不良集団の一人が樹木を傷つけたところを妖精が目撃する。それを有志達に通報して解決に導いたと認められてあった。樹木の新しい傷はわずかなものであったらしい。
それを切っ掛けにして町の人々の声が集まって官憲が動いた。不良集団の検挙がカーチスとグリュンシュの双方の町で行われる。
それからぴたりと楓の樹木を傷つける事件はなくなった。
ピートを含む有志達と妖精達の活動は末永く続いたという。
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お騒がせ妖精を説得せよ ひりょ・ムーンリーフ(ka3744) 人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/11/05 16:52:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/04 18:33:35 |