珈琲サロンとぱぁずのお見舞い

マスター:佐倉眸

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/11/08 19:00
完成日
2015/11/17 01:11

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 蒸気工場都市フマーレの商業区、ファンシーな内装と美味しい珈琲、焼き立てのクッキー。
 妙齢の店長代理と若いウェイトレスが給仕し、老齢の店員がネルでコーヒーを煎れている。
 珈琲サロンとぱぁずでは朝早くに開けて夜遅くに閉めるまで、常連の賑やかな声が絶え間なく聞こえてくる。
 それでも夕方、ティータイムを過ぎて近隣の工場の終業にも間がある時間帯は、少し暇になり大抵はこの時間帯に買い出しや掃除を済ませていた。
 しかし今日は、客の姿が見える。

 カウンターといくつかのテーブル、奥の8人掛けの大きなテーブルの天板には地図が貼られてピンが幾つも立てられている。
 珈琲サロンとぱぁずで何等かの悩みを打ち明けた客が、店長代理のユリアの取り次ぎでハンターオフィスへ相談し、その行き先へと立てたピンだ。
 書き込みや資料らしき切り抜きも添えられている。傍の壁のコルクボードには謝礼の手紙が何枚も貼られていた。
 ユリアがそのボードへ1枚の手紙を、ヴァリオスに住む病床の恋人を見舞いに向かった男性から届いた、彼女の快復を知らせるそれを貼っていたところ、来客を告げるドアのベルがからんと鳴った。
 入り口に佇んだ青年はユリアの方を向くと頬を赤らめながらにこりと笑った。

 曰く、以前とぱぁずからハンターオフィスを勧められた移送の業者を雇った者だという。
 エンリコと名乗った彼は工業区の紡績工場で働いているらしい。
 ユリアがいらっしゃいと微笑むと、はにかんだ顔を伏せながら、彼是と喋り出した。
「今日は休みで……あいつ、ブルームの散歩に来たんです。こっちまで来たら、つい寄っちゃいました」
 ブルームと呼ばれた狐は店の表で欠伸をしたり、後ろ足で耳を掻いて退屈そうにしている。

●※※※
 カウンターの席には客がひとり、華やかな和装に黒い天鵞絨に艶やかな椿を刺繍したストールを羽織っている。
 結い上げた髪に簪が揺れ、厚底の下駄に仕込んだ鈴が歩く度に小さく鳴る。
「ユリア、珈琲煎れて」
 蜜を煮詰めたような甘い声音で、うっそりと微笑みながら告げた。
 煎れ立ての珈琲の香りが広がっていく。


 ドアのベルが鳴る。買い出しに出ていたウェイトレスのモニカと、店員のローレンツが荷物を抱えていた。
「お帰りなさい」
「え、えと、お、お帰りなさいっす!」
 カウンターからユリアが声を掛けるとエンリコも釣られた様に入り口を振り返る。途端、モニカが笑い出した。
「お兄さん、面白いね。コーヒーでいい? 突っ立ってないで座りなよー」
 モニカが粉や砂糖を仕舞いながら近くの椅子を指す。ローレンツがネルを取って、洗った跡に首を傾げた。
「珍しいな」
 その呟きは誰の耳にも届かなかったようで、ユリアはモニカの片付けを手伝い、エンリコは小さなメニューボードを握って震えている。

 エンリコの前にローレンツが珈琲を置き、ユリアがモニカに一通の手紙を差し出した。
 その手紙は、ユリアの祖父、エーレンフリートの病を伝える物だった。
 風邪だろうから大したことは無いが、これから冷え込んでいくから大事を取った方が良い、可能ならば手伝いに来て欲しいと、祖父のヴァリオスでの知人から。
 流石に店を放り出して行けないし、モニカとロロさんに任せきりにも出来ない。
 老人の風邪だというのに、ロロさんに行かせるわけにも、小さな弟を連れたモニカに頼むわけにも行かないだろう。
「……どうしようかと思って。後で話せる?」
「え? あたし行きますよ」
「でも……」
 ユリアはモニカの背中を見る。
 負ぶわれた小さな弟のピノはすやすやと穏やかな寝息を立てている。
「大丈夫です。こっちに抱えて来れたんで、今度も連れて行けます。寒くっても、ぎゅーってしてれば温かいです」
 にっとモニカが笑む。話し声に起き出したのか背中のピノもむにゃむにゃと声を立てて手足を動かしている。

 道中は何かと心配だから、とユリアがいつものようにハンターオフィスへ向かった。
 モニカは店内を軽く見回すと、ローレンツの目を盗むようにエンリコの隣の椅子へ軽く座った。
「ユリア姉さんは、手強いと思いますよー」
「え? え?」
 不意の言葉に瞬いて噎せた背を笑いながらさすって、モニカはカウンターの奥の小さな棚に目を遣った。
 罅の入ったゴーグルと、小さな貝殻を収めた瓶が飾ってある。
「大事な人がいたみたいで。あたしも詳しくは知らないけど……お兄さんが頑張るなら、応援だけはしてますね」
 ぱちん、とウィンクを。モニカはカウンターの中へ戻っていった。


 店を覗いたらいなかったから工房の方まで来た。倒れていたから驚いたが、寝かせて放って置いたらすぐに動き出すんだから。
 孫に送った手紙が無駄になったな。
 近くに住む知人が差し入れだと持ってきたシチューを温めながら、エーレンフリートを寝かせたベッドを振り返った。
 パジャマを着込んで氷嚢を乗せているが、顔色は頗る良く。空いた腹をさすっている。
「まあ、久しぶりにお孫さんとの水入らずでも、どうだい?」
「来ないさ。あれはあれで、責任感が強いから。任された店を放り出したりはしないさ」
 来たら叱ってやらなければ。
 シチューを受け取って笑う。
 窓の表に木枯らしを聞く。騒がしい音にも負けず暖炉の薪の爆ぜる音が響いた。

リプレイ本文


 久しぶりと掛かる声にモニカはピノを抱え直して、今日はよろしくお願いしますと頭を下げる。天辺で結わえた髪が跳ねると、ピノがふにゃふにゃと笑って手を振った。
「元気だったかしら? こちらでの生活は慣れてきたかしら?」
 背筋を伸ばして凜と佇みコントラルト(ka4753)が尋ねる。道中、たくさん話しましょうと。
 その傍ら、ユリアが馬車の荷台に毛布を広げ、これで良かったかしらと、カリアナ・ノート(ka3733)を呼んだ。
「馬車の方が行き来便利だと思ったの」
 石や弓が飛んできても、と、荷台の毛布を重ねて被ってみせる。その端を揺らす風に、白水 燈夜(ka0236)が愛猫の伊織を両腕で抱き込んで白衣の内に包みながら肩を竦めた。
「風邪かー……朝晩冷え込み始めたし」
 俺も気をつけないと、と思った矢先にくしゅん、とくしゃみが零れた。猫は腕の中でごろごろと甘えている。
「では、何かあった時は……馬を……」
 出発の支度の進む中、マキナ・バベッジ(ka4302)は馭者の男に声を掛けた。道程の確認をしながら有事には馬を宥めるようにと伝える。
 馬車の支度が調うと、モニカとピノが荷台へ乗り込んだ。
「あんたがモニカだな? オレは蜜希、よろしくな!」
 華蜂院 蜜希(ka5703)が荷台へ腰掛けながら、モニカに声を掛けた。モニカよりも先に応えて小さな手を伸ばすピノの丸い頬を白い指が擽る。
 少しの怪我もさせない様に頑張らねーと、と、蜜希を見上げて揺れる小さな顔を覗き込んでにっと目を細めた。
「しっかり護衛しちゃいますから、安心しててください――チャンピオンにお任せです!」
 助手席へ飛び乗って振り返るルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が2人へにこりと笑顔を見せる。
 孫の笑顔をお届けするのも、プロカードゲーマー……もとい、ハンターの勤めなんだから、と弾む声に荷台から覗いたモニカの顔が笑む。
 コマ、と呼び、馬の足下へ狛犬を従えてコントラルトが鐙へ足を掛ける。手綱を取り荷台の後へ、コントラルトを見上げると、モニカが馬車の内で居住まいを正しながらお喋りな口を開く。
 カリアナと白水も荷車の傍に付いた。
 馬車の様子を確かめると毛布を2人を頭から覆うように引き上げる。
「またモニカおねーさん達と一緒に旅ができるわ!」
 カリアナが荷台の内へ手を伸ばして嬉しげにはしゃぐ。その素直な感情にピノが馬車から転び出る勢いで両手を伸ばし返すのを、モニカが慌てて抱き留めた。
 馬車の調達の代わりに店に通うわ、とユリアに小さな声で囁いたカリアナに、みんな無事で言ってきてと囁き返したユリアが手を振って、馬車とハンター達は出発した。


「寒くない?……エーレンフリートさんは平気かな。安静にしてるといいんだけど」
 2人の元気そうな様子を眺めて尋ねながら、白水は遠い地の老人を思い浮かべた。
 道中の景色は穏やかだ。秋晴れの空は澄んで、鮮やかに染めた紅葉の並木は何処までも続いているように見える。
 睡眠の秋、と思い浮かべながら、移り変わる季節を感じた。
「いいか? 蜜希だ。み、つ、き」
 毛布に包まれたピノに、蜜希が名前を呼ばせようと、教え込むがピノは口をもごもごと動かして音を紡がず。小さな手が珍しがって、角へ伸びるのをモニカが抑えた。すみませんと肩を竦めながら荷台の内には和やかな笑い声が零れた。
「お祖父さんか……」
 弟やこれから向かう先のことを楽しそうに話す声に、ルンルンが助手席から肩越しに振り返る。視線は荷台を超えて遠く高い。
 伏せた目が幽かに睫を震わせ、みんな元気かな、と、遠い家族へ思いを馳せる。
「こちらの生活にはなれましたか……?」
 以前会ってから随分経つと、マキナが尋ねる。後方への警戒を保ちながら、コントラルトも視線を向けた。私も、気になっていたのよ、と出会った日を思いながら。
 宝飾技師との縁が出来ていれば、と2人からの視線に、あのね、とモニカの声が高く……

「――止まってください! 来ますよ……っ」
 助手席からルンルンが馭者へ声を、同時に白水とカリアナが杖を構えた。
 前方には木切れを構えて走ってくるゴブリンが5匹。
 その姿が迫りきる前に、包み込むような火球が落ちる。辺りを覆う炎の衝撃に押され、ゴブリンの数匹は動かなくなり茂みへと這う。
 火球を放った白水の周囲に黄色い羽の幻影が舞う。白水を包む様に揺れた幾枚の羽は秋風に攫われるように舞い上がり消える。ゆっくりと瞬く黒い双眸が海の青に染まっていく。
「ふう……こう、丁度いいくらいの手頃な群れでお願いしたいよな」
 火球からはみ出した1匹が、尚こちらへと木切れを振りかぶって走る。
「折角、おねーさん、おにーさん達との旅なんだから!」
 丈を超すヤドリギの杖を振り翳す。カリアナがそのゴブリンを見据え、巡るマテリアル杖へ集めて、水の礫を放った。
 空気を薙ぐ杖の先から放たれたマテリアルは水の礫の様相を成し、弾かれたゴブリンは、足を引きずるように茂みへと逃げていった。
「これで済めば、良いのですが……」
「モニカ、話しの続きは後でにしましょう」
 マキナが鞭を握り直し、コントラルトは馬の歩みを緩め、コマの様子を覗う。警戒を促す様に唸る犬の鬣が揺れた。

 警戒を続けながら馬車を進ませる。道幅がやや広がった辺りでその気配を濃く感じた。
 コントラルトは馬を下げて視野を広げ、蜜希も彼女を覗うモニカを気遣いながら、表情を強張らせた。
 ルンルンが放つ斥候の式が数匹の影を見付け、それを放った右の茂みが、緑の瞳の見詰める中で揺れた。
「今度は、そっちですね。皆さん!」
 咄嗟にその方向へ得物を向ける。姿を見せたのは先刻と同様、木切れを握ったゴブリンだった。
 盾に仕込まれたモーターを介し、コントラルトの放つマテリアルがデルタを描く。
 頂点から真っ直ぐに伸びる光りが敵を貫いた。光りの軌跡が消えると、その3匹は茂みへと下がろうとする。
「……追撃はしなくていいわ」
 荷台に丸まった毛布を見詰める。藻掻くように動くのは、モニカがピノを抑えている為だろう。
 怖がらせたくない。剣と盾を構え直して、敵を見据える。
 退いた3匹の代わりのように、1匹覗いた。マキナが鞭を撓らせて地面を蹴る。敵の振るう木切れの届かぬ距離を保ちながら、それを弾き飛ばすように鞭が腕を叩いた。
 マテリアルをざわめかせるその手のグローブの中、左手に浮かぶ歯車と針の模様。
 噛み合う歯車が動き、針はマテリアルに同調しゆっくりと時を刻み始めた。
 ゴブリンが弾かれた木を拾って両腕で振り下ろすのを身体を反らして躱すと、下がりながら放つ鞭の打撃でその身体を弾き飛ばした。
 ゴブリンが去ると、マキナは馬車へ視線を向ける。
「馬車に……何か、されるような……」
 車輪を、荷台をと順に確かめて。その無事に安堵する間も無く、
 更に左右から敵が姿を現した。
 左の3匹へ白水の火球が落とされ、炎の眩しさの引いた茂みに覗いた追撃の姿にルンルンと蜜希が前に出る。2匹のゴブリンは何れも剣を構えていた。
 右からも剣を構えた丈夫そうなものが2匹。マキナは鞭の射程を測って下がり、コントラルトは盾を構えて前に出る。
「生憎だけど、むしろ接近戦のほうが好きなのよ、私」
 片側へ盾を向けながら、刀身に纏わせる雷で、ゴブリンの体を叩く。剣を握って、姿勢を崩した隙をマテリアルの象る光りの刃で貫いた。
「こちらは……僕が……」
 盾に咬む歯を鳴らすもう1匹へ、撓った鞭が振り下ろされた。

「っしゃ、ぅおらぁっ! 行くぞおらっ!」
 日差しを映し煌めく白銀の旋棍を手許で巧みに操り、声を上げた蜜希が地面を蹴って踏み出した。
 威嚇の声を放って、漆黒の双眸が敵を睨む。昂ぶるマテリアルを巡らせて、突き出した拳がゴブリンを捉えてその体勢を崩させる。
 片膝を突いた格好から突き付けられた剣は、しかし重く旋棍に弾き損ねた一撃が腕に掛かる。
「――っく」
 地面を踏むヒールが土に沈む。きん、と金属の触れ合う音を立てて剣を払い除けると、傷を押さえて息を吐く。
 ゴブリンはまだ立っている。マテリアルの熱を乗せて繰り出す手がゴブリンの剣を躱してその手首を捉えた。
 手首掴んで引き倒すように腕を絡め取り、姿勢を崩した隙を突くと片脚を抱え込むように掴んで担ぎ上げる。肩の上で暴れる身体を、は、と勢いよく地面へ叩き付けるように放り落とした。
 受け身を取れずに藻掻いた腹ばいの身体を跨ぐと、腕を脚に編み込むように絡め取って、捻り上げる。ゴブリンの大腿と固められた膝がみしと軋んで、顎を打つ迄引き上げると、背骨がごきと音を立てた。
 ゴブリンの手が地面に這って剣を握る。地面に倒れたままで何処へと無く振り回す攻撃は当たらない。
 這うように立ち上がって、振り下ろした切っ先は旋棍に逸らされ僅かに衣装を引っ掛けて脇へ抜けた。
 腕の傷を押さえながら突き付けた旋棍にゴブリンが沈黙する。乱れた髪を掻き上げて晴れやかに笑った。
「さて、私もやっちゃいます――私のターン!」
 剣を振りかぶったもう1匹のゴブリンに、助手席を飛び降りてルンルンが手中の札を広げる。
 マテリアルを込めた札を1枚指に挟んで引き抜くと、その接近に合わせて炎を纏わせて叩き付けた。
 炎に藻掻くゴブリンが掴んで投じた石が掠めるが構わずに次の札を構える。
「さあ! やっつけちゃいますよ!」
 ジュゲームリリカル……呪いを唄う。札はゴブリンを違わずに捉えて、焦げる程焼き尽くした。
 こちらも済んだと、コントラルトとマキナが言う。
 一帯の敵は全て引いたようだ。ルンルンは手許の札を軽く切ると広げ直し、その中から一枚を選ぶ。
「先が大分暗くなってますからね。潜行偵察はニンジャにお任せです。ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法分身の術!」
 盾に置いた札はひらりひらりと風に舞い、紙人形の形を成したそれは暗がりの中へと飛んでいった。

 コントラルトが馬車の後へ戻り、蜜希とルンルンも馬車に座った。暗がりを抜けるのにそう時間は掛からない。
 毛布から顔を覗かせたモニカに蜜希が大丈夫だと告げ、白水とカリアナも声を掛ける。何事も無く走り出した馬車にマキナも安堵し話に加わる。
 前方からの接近を見たルンルンが馬車を止める。コントラルトが手綱を引くと前足で空気を蹴り上げる馬が転回
する。馬車を背にしながらも馬車への接近を警戒しながら剣と盾を構える。
「こちらから来るなら、近付けさせないわ――それに」
「ぱらぱら来るのは、面倒くさい……カリアナはそっち、いい? モニカはお見舞い見ててもらえる?」
「ええ! 大丈夫――白水おにーさんも、モニカおねーさんもいるんだもの!」
 前から近付く散開したゴブリンへ白水とカリアナが杖を構える。
 傷を負い折れた剣を引き摺って後方から近付くのは、先程引いたはずのものだろう。
 襲ってくるのなら見逃さない、と、コントラルトもマテリアルの光りを灯す。
「大丈夫だ、俺たちが守るって、な?」
 重なる襲撃に、ピノを抱き締めて震えたモニカの肩に蜜希がそっと手を掛けて、震える手に見舞いの包みを握らせた。毛布を手繰って被せると、馬車の傍らを離れずに敵の姿を睨む。
「前から、まだ来ますね!――っ」
 ルンルンが見詰める式の視界。見付けたゴブリンを白水が飛ばす透明な鳥が鋭い爪で引き裂き、カリアナの放った水の礫が弾き飛ばしていく。その先にもう1匹。見付けた途端、振り払う剣に視界が絶えた。
 改めて札を構えると、その中から3枚を引いて中空へ。雷を纏った札が風を切ってゴブリンを貫いた。
「馬を、お願いします……暴れては、大変ですから……」
 荷台の2人を示してマキナは馭者を静かな赤い双眸でじっと見詰める。
 敵が接近しきる前、鞭の射程にいる内に撓らせる勢いを乗せた打撃でその剣を弾いた。
 残党は、これで済んだらしい。再び静かになった街道に幼い声がふにゃふにゃと笑った。


 ゴブリンを退けてからの道中は穏やかだった。怯えていたモニカも日が傾く頃には毛布から顔を出し、ハンター達と喋り始めた。
 沢山心配されて、応援されて向かったフマーレの賑やかで忙しない日常と、不安と期待。師事してくれそうな宝飾技師には会えていないけれど、多くの素敵な職人と出会ったと嬉しそうに語った。

 秋の日没は早く、星の輝く頃にヴァリオスに至る。暗い街道から見上げた秋の晴れた星空は宝石を散らしたように美しい。
 街に入ると、ハンター達も共に見舞い先へ向かった。
 夜になっても所々明かりの灯る通りの細い路地を歩くと、吊したランプの明かりを落とした小さな工房のドアが開いた。
 出てきた人物は事情を聞くと、ぴんぴんしてるよと苦笑いしながら、お客さんだよと声を掛けてから帰っていった。
「――いらっしゃい。済まないね、こんな格好で。遠いところをご苦労様。何も無いが、外よりは暖かい。中へどうぞ」
 暫くして出てきたエーレンフリート、風邪で倒れたと手紙に書かれていたユリアの祖父、はパジャマに厚手のストールを着込んでいる物の矍鑠とハンター達を室内へ通した。

 ハンター達は暖炉の燃える部屋の中椅子やラグに座り、モニカは老人をベッドへ押し込んで紅茶を淹れる。見舞いの手製のコンポートを取り分けながら、白水も手伝うとケトルの火を眺めた。
「元気そうで、ほんと良かったのです」
 お年寄りの風邪は油断できないものだから、と笑むルンルンの横顔に暖炉の炎が映る。
 暖かな火に照らされながら蜜希も押し付けられた包帯を腕に巻きながら頷く。
 店長代理の代理で元店長だった店長……と、モニカと老人を交互に見ながら首を捻り、ややこしいなと肩を竦めた。
「ややこしいが、無事に送り届けたぜ!」
「そうね……モニカの話も聞いて貰いたいわね。手紙も出していないのでしょう?」
 コントラルトが尋ねるとモニカが項垂れ、老人は笑いながら頷いた。
「身体が治っても、家族の手紙は元気が出るものよ」
「それに、ユリアおねーさんにも」
 毛布と馬車、とカリアナが思い出すように瞼を伏せて、無事に着いた、元気だったと、並べていく。
 家族の手紙か、とルンルンが呟き、とても嬉しいと思うと頷きながら、とても欲しいと唇を結ぶ。
 工房の手伝いを申し出たマキナに、片付けは済んでいるからと老人は首を横に揺らす。
「何か……出来ることがあれば……言って下さい……」
 分かる範囲ででも手伝うと言うと、老人は頼もしいなと皺の寄る目を細めて温かく見詰めた。
「……苦いの苦手で、自分じゃ珈琲淹れないんだよね」
 トレーに載せたティーカップと皿を運びながら白水が言った、ユリアもそうだとモニカと老人が声を合わせて笑った。

 甘い香りが部屋に広がる。
 秋の夜、温かな暖炉を囲み細やかなティータイムを。

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  • お茶会の魔法使い
    白水 燈夜(ka0236
    人間(蒼)|21才|男性|魔術師
  • 真白き抱擁
    カリアナ・ノート(ka3733
    人間(紅)|10才|女性|魔術師
  • 時の守りと救い
    マキナ・バベッジ(ka4302
    人間(紅)|16才|男性|疾影士
  • 最強守護者の妹
    コントラルト(ka4753
    人間(紅)|21才|女性|機導師
  • 飛翔天蜂
    華蜂院 蜜希(ka5703
    鬼|25才|女性|格闘士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師

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依頼相談掲示板
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/07 15:58:48
アイコン 相談卓
華蜂院 蜜希(ka5703
鬼|25才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2015/11/08 00:12:12