ゲスト
(ka0000)
【闇光】ブルー・ブルー・メモリーズ2
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/11 12:00
- 完成日
- 2015/11/20 04:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
人類軍は二体の怠惰王の反撃により、過酷な撤退戦を強いられていた。
夢幻城目前にまで迫った人類軍の勢いは失われ、今や二体の王を相手に時間を稼ぐのが精一杯だ。
歪虚王から距離の遠い戦域であったとしても、過酷な戦いが繰り広げられている。
不慣れな汚染領域への遠征と多数の高位歪虚の波状攻撃を受けた影響で生まれた大量の負傷者が、撤退の難易度を急上昇させていた。
銃声と剣戟が鳴り響く荒野の戦場、そこに蒼い血の刃が降り注ぐ。
一瞬で人類軍の戦士達が引き裂かれ、その返り血を掌に集めながらオルクスは眉を潜める。
「全く、二度も強力な分体を撃破されて、かなり消耗してしまったわね。こんな雑魚をいくら食い散らかしても物足りないわぁ」
「ンッン~……我輩が思うに、やはり新たな器が必要な時期なのでは?」
そんなオルクスの側にタキシードの大男が歩み寄る。男は帽子の鍔をくいっと持ち上げ。
「吸血鬼はその高い知性と能力を維持する為に、大量のマテリアルを必要とする。故に省エネ運転が当たり前。し・か・し、オルクス殿はここ最近暴れてばかり。燃料切れを起こすもやむなしでは?」
確かに、ロッソの大転移からこっち、なんだかんだでオルクスは前に出過ぎている。
オルクスの力は莫大だが、周囲の空間を書き換えるほどの結界は相応の消耗がつきものなのだ。
「テオフィルス殿が確認したという今代の器、なかなか上物だと聞いておりますが?」
「そうしたい所だけどねぇ。アレはガードが硬いし、それにタイミングっていうのがね……」
逃げ惑う兵士達を横目に溜息を零すオルクス。
浄化キャンプを破壊し、ハヴァマールが更に南下を続ければ、混乱は広範囲に渡るだろう。
そうなれば、恐らくチャンスはある。それまでは適当に食いつないでおくしかない……そんな事を考えていた時だ。
逃げていく人類軍の中、一人だけまっすぐこちらに走ってくる小さな影があった。
息を切らして駆けつけたその少女は外套を脱ぎさり、オルクスを見つめる。
「おやッ!? もしやあなたは出来損ない(ベルフラウ)!? 生きていたのですか? というか、メイズは……?」
「メイズなら倒したよ、カブラカン。そして……会いたかった、オルクス様」
オルクスは少女の姿をしげしげと見つめ、腕を組み。
「うーん? どこかで見たような、見ていないような……」
「私です。ベルフラウの一人……スバルです。オルクス様に救われて、実験体としてお仕えしておりました」
胸に手を当て歩み寄るが、オルクスは覚えがないと言わんばかりに肩を竦める。
「カブラカン、本当にベルフラウなの?」
「ええ、まあ。オルクス殿が記憶しておられないのであれば、マジモンのポンコツでしょうが」
カブラカンの事は眼中にないと言わんばかりにベルフラウはオルクスへ駆け寄る。
「どうして……私を吸血鬼にして下さらなかったのですか? 私では、力不足だったのですか?」
「あなた、何を言っているのぉ?」
不思議そうに、当たり前のように、オルクスは少女を指差す。
「あなた――もう吸血鬼なんじゃなあい?」
「ベルフラウを……殺せ?」
辺境の荒野をバイクで駆け抜けながら、ゲルト・デーニッツは自らが帯びた任務を思い返す。
突如ナサニエルに呼び出されたゲルトは、そこで新たな装備一式と共に命令を言い渡された。
極秘任務は、とある人物の抹殺。対象者はベルフラウと呼ばれるイルリヒト機関の少女であった。
「ベルフラウは試作段階の浄化兵器である新型聖機剣を奪い、北へ向かいました」
「試作兵器の私的専有が抹殺の理由ですか?」
「いいえ。彼女は……殆どもう死んでいるのです」
ブラストエッジ鉱山での戦いから帰還したベルフラウは聖機剣の修理をナサニエルに依頼した。
そこで検査した結果、ベルフラウの肉体には既に歪虚化の症状が見られたのだ。
「彼女の平熱は30℃前後と異常に低く、体組織の死滅と再生が交互に繰り返され、肉体の変様が始まっています。これはエルフの歪虚病と似た症状で……」
「すみません院長、最初から説明して貰えませんか?」
ゲルトは知らなかった。あの日、イルリヒトの生徒達と共にカブラカンと交戦した日から、ベルフラウの行方を。
気にはなっていた。だが他の任務を言い渡されれば従うしかないのがゲルトの性分であった。
「ベルフラウは腐ってもオルクスの眷属です。歪虚化すればどの程度の格を得るのかわかりません。この顔の傷を見て下さいよ。彼女が暴れた時のものですよ、全く……」
そう言いながら頬をさすり、ナサニエルは溜息をこぼした。
「私はすぐリゼリオに戻らなければなりません。この件はくれぐれも内密に頼みますよ」
ベルフラウの目的地は恐らく北だろうとナサニエルは言った。
オルクスが出現する場所を目指しているであろう少女を追う為、ゲルトはアクセルを強く踏み込む。
「ベルフラウ……」
錬魔院にも、イルリヒトにも居場所を失った少女。
同じ班だったから、何度も組んで行動していたのに、彼女の苦しみも事情も、何一つ理解しちゃいなかった。
もう一度会って話をしたいと、謝りたいと思っていたのに。与えられた役割は、少年の理想とはちぐはぐなところで現実を突き付けていた。
「なりそこないって所かしらね……どちらにせよ器ではないわ」
オルクスはそう言って翼を広げ舞い上がる。
「待って……! 待ってください!」
「まーつーのーは……オマエだゾッ!!」
突然の衝撃に荒野を吹っ飛ぶベルフラウ。受け身を取り顔を上げれば、そこには小柄な少女の姿があった。
「ヒサシブリだなー、兄弟! 会いたかったゾ!」
「あなたは……」
「自分はジルコ・ベルフラウ! メイズやスバルと同じ、オルクス様の子分だゾ♪」
見れば確かにメイズと似たようなデザインのローブを着ている。が、そんな事よりも。
「おいていかないで……お母さぁん!」
既に興味を失ったように飛んで行くオルクスに手を伸ばすが、その声が届く事はない。
「お母さん? オマエ、オルクス様の事お母さんだと思ってるのか?」
一瞬顔を赤らめ、ベルフラウは首を横にふる。
「だ、誰があんな人なんか……っ」
「ぎゃはは! そーだゾ。オルクス様はただ自分のエサを集めてるだけ。自分らの事なんか娘だとは思ってないゾ~」
「そんな事ない! あの人は結構優しい所もあって……!!」
「おっ?」
「……じゃ、なくて! 邪魔をしないでよ!!」
「おっおっおっ! やるか? やるか? 遊んでやるゾ~、スバル! ぐっちゃぐちゃにしちゃうゾ!」
爪で首筋を引き裂き、吹き出た血液を両腕に纏い、皮膚を宝石のような結晶で覆っていく。
「あの~……我輩もいるのですが……」
おずおずと手を上げるカブラカンを無視し、二人は激突する。
まさにそんな時である。撤退戦を支援する為に作戦に参加していたハンター達が、その場に駆けつけたのは……。
夢幻城目前にまで迫った人類軍の勢いは失われ、今や二体の王を相手に時間を稼ぐのが精一杯だ。
歪虚王から距離の遠い戦域であったとしても、過酷な戦いが繰り広げられている。
不慣れな汚染領域への遠征と多数の高位歪虚の波状攻撃を受けた影響で生まれた大量の負傷者が、撤退の難易度を急上昇させていた。
銃声と剣戟が鳴り響く荒野の戦場、そこに蒼い血の刃が降り注ぐ。
一瞬で人類軍の戦士達が引き裂かれ、その返り血を掌に集めながらオルクスは眉を潜める。
「全く、二度も強力な分体を撃破されて、かなり消耗してしまったわね。こんな雑魚をいくら食い散らかしても物足りないわぁ」
「ンッン~……我輩が思うに、やはり新たな器が必要な時期なのでは?」
そんなオルクスの側にタキシードの大男が歩み寄る。男は帽子の鍔をくいっと持ち上げ。
「吸血鬼はその高い知性と能力を維持する為に、大量のマテリアルを必要とする。故に省エネ運転が当たり前。し・か・し、オルクス殿はここ最近暴れてばかり。燃料切れを起こすもやむなしでは?」
確かに、ロッソの大転移からこっち、なんだかんだでオルクスは前に出過ぎている。
オルクスの力は莫大だが、周囲の空間を書き換えるほどの結界は相応の消耗がつきものなのだ。
「テオフィルス殿が確認したという今代の器、なかなか上物だと聞いておりますが?」
「そうしたい所だけどねぇ。アレはガードが硬いし、それにタイミングっていうのがね……」
逃げ惑う兵士達を横目に溜息を零すオルクス。
浄化キャンプを破壊し、ハヴァマールが更に南下を続ければ、混乱は広範囲に渡るだろう。
そうなれば、恐らくチャンスはある。それまでは適当に食いつないでおくしかない……そんな事を考えていた時だ。
逃げていく人類軍の中、一人だけまっすぐこちらに走ってくる小さな影があった。
息を切らして駆けつけたその少女は外套を脱ぎさり、オルクスを見つめる。
「おやッ!? もしやあなたは出来損ない(ベルフラウ)!? 生きていたのですか? というか、メイズは……?」
「メイズなら倒したよ、カブラカン。そして……会いたかった、オルクス様」
オルクスは少女の姿をしげしげと見つめ、腕を組み。
「うーん? どこかで見たような、見ていないような……」
「私です。ベルフラウの一人……スバルです。オルクス様に救われて、実験体としてお仕えしておりました」
胸に手を当て歩み寄るが、オルクスは覚えがないと言わんばかりに肩を竦める。
「カブラカン、本当にベルフラウなの?」
「ええ、まあ。オルクス殿が記憶しておられないのであれば、マジモンのポンコツでしょうが」
カブラカンの事は眼中にないと言わんばかりにベルフラウはオルクスへ駆け寄る。
「どうして……私を吸血鬼にして下さらなかったのですか? 私では、力不足だったのですか?」
「あなた、何を言っているのぉ?」
不思議そうに、当たり前のように、オルクスは少女を指差す。
「あなた――もう吸血鬼なんじゃなあい?」
「ベルフラウを……殺せ?」
辺境の荒野をバイクで駆け抜けながら、ゲルト・デーニッツは自らが帯びた任務を思い返す。
突如ナサニエルに呼び出されたゲルトは、そこで新たな装備一式と共に命令を言い渡された。
極秘任務は、とある人物の抹殺。対象者はベルフラウと呼ばれるイルリヒト機関の少女であった。
「ベルフラウは試作段階の浄化兵器である新型聖機剣を奪い、北へ向かいました」
「試作兵器の私的専有が抹殺の理由ですか?」
「いいえ。彼女は……殆どもう死んでいるのです」
ブラストエッジ鉱山での戦いから帰還したベルフラウは聖機剣の修理をナサニエルに依頼した。
そこで検査した結果、ベルフラウの肉体には既に歪虚化の症状が見られたのだ。
「彼女の平熱は30℃前後と異常に低く、体組織の死滅と再生が交互に繰り返され、肉体の変様が始まっています。これはエルフの歪虚病と似た症状で……」
「すみません院長、最初から説明して貰えませんか?」
ゲルトは知らなかった。あの日、イルリヒトの生徒達と共にカブラカンと交戦した日から、ベルフラウの行方を。
気にはなっていた。だが他の任務を言い渡されれば従うしかないのがゲルトの性分であった。
「ベルフラウは腐ってもオルクスの眷属です。歪虚化すればどの程度の格を得るのかわかりません。この顔の傷を見て下さいよ。彼女が暴れた時のものですよ、全く……」
そう言いながら頬をさすり、ナサニエルは溜息をこぼした。
「私はすぐリゼリオに戻らなければなりません。この件はくれぐれも内密に頼みますよ」
ベルフラウの目的地は恐らく北だろうとナサニエルは言った。
オルクスが出現する場所を目指しているであろう少女を追う為、ゲルトはアクセルを強く踏み込む。
「ベルフラウ……」
錬魔院にも、イルリヒトにも居場所を失った少女。
同じ班だったから、何度も組んで行動していたのに、彼女の苦しみも事情も、何一つ理解しちゃいなかった。
もう一度会って話をしたいと、謝りたいと思っていたのに。与えられた役割は、少年の理想とはちぐはぐなところで現実を突き付けていた。
「なりそこないって所かしらね……どちらにせよ器ではないわ」
オルクスはそう言って翼を広げ舞い上がる。
「待って……! 待ってください!」
「まーつーのーは……オマエだゾッ!!」
突然の衝撃に荒野を吹っ飛ぶベルフラウ。受け身を取り顔を上げれば、そこには小柄な少女の姿があった。
「ヒサシブリだなー、兄弟! 会いたかったゾ!」
「あなたは……」
「自分はジルコ・ベルフラウ! メイズやスバルと同じ、オルクス様の子分だゾ♪」
見れば確かにメイズと似たようなデザインのローブを着ている。が、そんな事よりも。
「おいていかないで……お母さぁん!」
既に興味を失ったように飛んで行くオルクスに手を伸ばすが、その声が届く事はない。
「お母さん? オマエ、オルクス様の事お母さんだと思ってるのか?」
一瞬顔を赤らめ、ベルフラウは首を横にふる。
「だ、誰があんな人なんか……っ」
「ぎゃはは! そーだゾ。オルクス様はただ自分のエサを集めてるだけ。自分らの事なんか娘だとは思ってないゾ~」
「そんな事ない! あの人は結構優しい所もあって……!!」
「おっ?」
「……じゃ、なくて! 邪魔をしないでよ!!」
「おっおっおっ! やるか? やるか? 遊んでやるゾ~、スバル! ぐっちゃぐちゃにしちゃうゾ!」
爪で首筋を引き裂き、吹き出た血液を両腕に纏い、皮膚を宝石のような結晶で覆っていく。
「あの~……我輩もいるのですが……」
おずおずと手を上げるカブラカンを無視し、二人は激突する。
まさにそんな時である。撤退戦を支援する為に作戦に参加していたハンター達が、その場に駆けつけたのは……。
リプレイ本文
拳に血の結晶を纏ったジルコは跳躍し、小柄な体躯を回転させながらスバルを殴りつける。
聖機剣でガードしても勢いは殺せず、少女の身体は大きく後退した。
「うははー! 弱っちい、弱っちいゾ~……おっ!?」
突如その顔面に炎が爆ぜた。後方から駆けつけたハンター達の中、フェリア(ka2870)の放った火の矢であった。
「なんだ、誰かがもう先に始めてるぞ? フェリア、俺達以外の奴が来てるなんて……聞いてない、よな?」
「確かに話にはなかったけれど、歪虚と交戦しているのは明らかでしょう?」
「……それもそうだ。君! 援護するよ!」
そう叫びながらシン(ka4968)は低い姿勢から距離を詰める。大地を擦るように奔らせたラージブレードの一撃は、しかしジルコの腕に阻止される。
少し焦げた頬を長い舌で舐めつつ、ジルコは反撃の拳を繰り出す。シンは咄嗟にブレードを盾と構えたが、それでも衝撃は凄まじい。
スバルはシンの背中を支えるようにして堪え、二人は大地の上を滑り息を着く。
「驚いたな、あの子あんな背丈ですごい力だ。君も助けてくれてありがとう」
シンの屈託のない真っ直ぐな視線にスバルはきょとんとし、それから少し頬を赤らめつつ「いえいえ」と首を振った。
「スバル! 何故こんなところに……!?」
夕鶴(ka3204)はその姿に驚きを隠せない。駆けつけてみればやはり人違いではないようだ。
「夕鶴さんこそ……」
「今は見ての通り撤退戦の最中だ。あなたもそうではないのか? まさか、本当にオルクスを追って……?」
「ん……またあの女か。それにあっちは……この間のヤツと似ているな」
ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)はスバルとジルコを交互に見やり、顎に手をやる。
言われてみれば、ブラストエッジで交戦した吸血鬼そっくりだと夕鶴も気づく。
「同じタイプの敵……やはりオルクス絡みか」
「オルクス……? どういう事、なんでしょう? 知り合いのようですけど……」
状況がよく飲み込めないシュネー・シュヴァルツ(ka0352)だが、とりあえずスバルの方は敵ではなさそうだ。
「私達はハンターよ。私はフェリア。所属を明確にして」
「私は……ワルプルギス錬魔院、イルリヒト機関所属、ベルフラウ二等兵です」
「帝国軍……? そう、ならば少なくとも敵ではなさそうね。そちらは……吸血鬼?」
「オッス! オラ、ジルコだゾ!」
片手を上げて満面の笑みを浮かべるジルコ。そのまま右腕をぐるぐると回し。
「オマエら急にイッパイ増えて顔覚えらんないゾ! 挨拶もしたし、もうくたばっちゃっていいゾ~!」
大地に鋭く拳を振り下ろす。陥没した地面に結晶が広がり、ハンター達の足元から隆起した琥珀色の結晶が刃となって襲いかかる。
「うわっと……やっぱり厄介な相手だな。君、戦うなら力を合わせよう!」
「は……はい! お願いします!」
シンの呼びかけに構え直すスバル。ジルコはむっとした表情で左右の拳を打ち鳴らした。
「あの~……我輩の存在忘れてませんかな~?」
始まった戦闘を横目にカブラカンは膝を抱え、地面に「の」の字を書いていた。
「貴様は戦闘に参加するつもりはないのか?」
そこへ弥勒 明影(ka0189)が歩み寄ると、大男は膝を抱えた姿勢のまま跳躍し、空中でピンと背筋を伸ばし。
「おお! 我輩とやるつもりですかな? ほったらかされて少しナイーブになっていましたが、我輩頑張りますゾ!」
「変な歪虚だな……」
眉間に皺を作りながらボソリと言うヴォルフガング。だが明影は腕を組み。
「確かに変だな……だがそれでこそ面白い」
「そうか?」
「ああ。そうだ」
「俺には理解できんだろうが、おまえが言うならまあそうなんだろう」
タキシード姿の髭面のオッサン歪虚にそれぞれ好奇の視線を向ける男二人。まあ、目的意識は比較的近い。
「おまえと会うのはそういや二度目か。さっきチラっと聞いたが、オルクスがいたのか?」
「如何にも。オルクス殿はお忙しい身分なので既にフェードアウトしましたが」
「ベルフラウシリーズってのは、やっぱりオルクスが作ったのか」
カブラカンはシルクハットをくいっと持ち上げ。
「よくご存知ですな」
「既に一体倒したからな」
「ほほう……では、メイズを倒したのは貴殿らでしたか」
そう言ってカブラカンは拳を構える。目には見えないグローブの内側、スーツの中で皮膚を硬質化させながら。
「あれは我輩が卸した商品。馬の骨に倒せる代物ではない筈。事実かどうか、確かめてみたくなりましたな」
ジルコの動きに武術的な規則性はない。単純にバケモノとしての身体能力を振り回しているだけだ。
げらげらと笑いながら駆け寄るジルコの拳を夕鶴はクレイモアで弾く。何てことはないパンチだが、衝撃でガードが崩される。
「守りに注力しても腕が痺れるか……!」
今回の作戦は時間稼ぎがメイン、あまり無理に攻める気はないが、向こうの攻め気が勝ちすぎる。
シュネーは素早く側面から距離を詰め、すれ違い様に刃を走らせる。しかし手応えはまるで石を打っているかのようだ。
「ガードは甘い……隙は幾らでもつけるけど……」
ジルコ切り裂かれた皮膚のすぐ下、琥珀色の結晶がかさぶたのように盛り上がっている。
「そんな攻撃痛くも痒くもないゾ~! 攻撃っていうのは、こうやるんだゾッ!」
飛び上がったジルコが両足を硬化させ落下する。シュネーは素早く回避に成功するが、大地が粉砕され陥没している。
「避けるのも訳ないですけど……死にますね……」
「オッ!? 足が引っこ抜けないゾ!?」
フェリアはその隙を見逃さず魔法を詠唱。杖に風のマテリアルを収束させる。
「貫きなさい、ライトニング・ソーン(雷の茨)」
放たれた雷撃がジルコの身体を貫き、その身体を仰け反らせる。
「うびゃばばば!? いびびび!?」
「あれ? なんか……僕達の攻撃より効いてる?」
「属性の問題……か?」
シンの疑問に夕鶴が答える。ジルコは目をグルグルと回したままだ。
これを好機と見て二人は接近、同時に大剣を叩きつける。やはり傷は浅いが、修復は遅くなったように見えた。
復帰したジルコは足を引っこ抜き、空中に無数の血の槍を作ると一斉に発射。ハンター達はそれぞれこれに対処するが、そうしている間にジルコは真っ直ぐにフェリアを目指す。
「遠くから攻撃、オマエうざいゾ!」
そこへシンが横から接近し、ラージブレードを構えて突進する。
「お姫様はやらせないよ!」
脇腹に突きこまれた斬撃に身じろぎするが、肉には殆ど食い込まない。苛立ったジルコがラージブレードを掴んだその時、シュネーのワイヤーがジルコの顎をぐっと持ち上げた。
「……今です!」
シンが交代すると、フェリアが更に雷撃を放つ。雷の奔流に晒されたジルコへ直ぐ様夕鶴とスバルが駆け寄り、互いの得物を交差させジルコの顔面にめり込ませた。
「か、硬い……!」
「身体が石でできているのか、こいつは……!」
上半身を仰け反らせブリッジの姿勢で大地に手をつくと、ジルコを中心に結晶が隆起する。その刃に身を引き裂かれ、ハンター達は距離を空けた。
カブラカンはガチガチの近接格闘タイプだ。
故に明影とヴォルフガングの二人は徹底して銃撃による中距離戦を狙う。
銃弾を片手で軽々弾くその様は紛うことなき高位歪虚であり、まともにやりあえば不利は必至。
何より今回の作戦は時間稼ぎが目的。無闇に敵の本領に付き合う必要はないという判断だ。
「成程……しかし、我輩も少しは拳を振るわねば溜飲が下がらぬのですぞ!」
大地を強く踏みしめ、粉砕しながら加速する拳。明影は咄嗟に太刀を抜くが、軌道を僅かに反らせただけだ。
腹にめり込んだ拳に口から血が吹き出す。続けて左の拳。明影はこれに刃に黒炎を纏わせ合わせる。
二発目は防げたが、それでも衝撃で吹き飛んだ。続け、カブラカンはヴォルフガングへ迫る。
「殴ってくるヤツとは戦りたくねぇんだがな……」
敵の拳は強烈だ。とにかく防御に全神経を集中させ、繰り出される一撃を弾き流す。
連続の攻防に火花が散り、ヴォルフガングの身体が軋む。そこへ明影が口に溜まった血を吐きながら引き金を引いた。
抉れた腹の肉は黒い炎が既に修復している。銃撃を受けても物ともしないカブラカンだが、ヴォルフガングが距離を放すには十分な隙があった。
背後へ跳びながら拳銃を連射すると、敵は手刀で銃弾を弾きつつ片目を瞑り。
「確かに打たれ強い……しかし、それだけでオルクス殿の眷属を屠れたとは思えませんな。何か細工をしましたか?」
「教えてほしいのはこっちの方だぜ、供給源」
紳士はニカっと白い歯を見せ。
「フフフ。我輩は吸血――」
その側面から放出された雷撃に飲み込まれた。
放ったのはフェリア。ジルコとカブラカンが直線上に並ぶのをずっと待っていたのだ。
黒焦げた自慢のタキシードを見つめ、カブラカンは瞳を潤ませる。
「わ、我輩の一張羅……がふんっ!?」
更に、そこへ突然飛び込んできたバイクがカブラカンの身体をはねとばした。
バイクから飛び降りた少年はヴォルフガングと目を合わせ。
「あなたは……あの時の?」
「少しビックリしたけど、もうオマエらの攻撃なんか効かないゾ!」
言うように、ジルコの体力は未だ有り余っている。一方、ハンター達は頑強なジルコとの戦闘で息が上がっていた。
「暴れさせればそのまま勢いで崩されるが……攻め立てようにも頑丈すぎる」
額から流れる汗を拭い、夕鶴が呟く。しかし、フェリアは杖を下ろし。
「いいえ、もう十分よ。この辺りの残されたのは私達だけ……潮時ね」
逆にこれ以上残れば孤立してしまう。そんなフェリアの言葉に頷き、ハンター達は走りだす。
「なんだなんだ、逃げるのか? お? ていうか別に追っかける理由もないゾ?」
首を傾げるジルコ。唯一撤退するのを渋っていたスバルの手を左右から掴み、シンと夕鶴が走りだす。
「そろそろ退くぞ!」
夕鶴の声にカブラカンと刃を交えるハンターも走りだす。おかしなことに何故か向こうは三人に増えていたが、カブラカンも特に固執して追いかけてくる様子はなかった。
「なんだか妙でしたね。追いかけてくる様子もないなんて……」
敗走する帝国軍に合流し、軽くスケルトンを処理してハンター達は臨時キャンプの隅で休憩していた。
シュネーの言う通り、敵の目的はよくわからない。それを言うのなら、そもそも状況がイレギュラーだったという事なのだろうが。
「ベルフラウ」
「ゲルト……どうしてここに?」
その要因の一人である少年兵はベルフラウと対峙し、何やら剣呑な雰囲気が続いている。
「ナサニエル院長の命令で、お前を処分しに来た。聖機剣の回収とお前の抹殺が、今の俺の任務だ」
そう言って得物を突きつける。しかし、直ぐにシュネーと夕鶴が割って入った。
「どういうつもりだ? 同士討ちをしている場合ではない筈だ」
「撤退支援は感謝している。だが、俺の任務にハンターは関係ない」
「確かに私は関係ないかもしれない。だが、スバルには助けられた恩もある。それを返したいと思うのは何も不思議ではないだろう?」
悲しげに眉を潜めるゲルトに、ヴォルフガングは煙草を取り出しつつ。
「……まずはその理由を話しても遅くはないと思うぜ?」
「……そうだな。確かに、あなた達にとっては無関係ではないかもしれない」
そう言ってゲルトは説明する。
スバルが元オルクスの契約者であり、存在寿命が短い事。それが今切れかかっている事。そして切れた場合、歪虚化する可能性が高いという事……。
「オルクスの眷属が歪虚化した場合、例の連中と同じになる。強力な敵が増えるのを見過ごすわけにはいかない」
「でも……スバルさんはまだ歪虚じゃないし、まだ生きて話せるじゃないですか」
シュネーはそう言って首を横に振る。
「ちゃんと話をしてあげて下さい……そうでなければ、あなたが後悔するだけです」
「そうだ。あなたは明らかに殺したくないという目をしている。私は、泣きそうな顔をしている戦友に刃を向けられるような人間にはなりたくないし、あなたをそうしたくもない」
夕鶴に言われ、ゲルトはゆっくりと武器を下ろす。
「だが、任務なんだ……」
「任務だからと殺せば、必ず後悔する。確かに歪虚化など末路としては悲惨だが、その理由を人任せにするべきではないよ」
明影に肩を叩かれ、ゲルトは得物を腰のホルスターに戻す。
「確かに俺は任務に疑問を持っている。だが、他の解決策も持ち合わせていない。他にスバルを救う方法を思いつかないんだ」
「でも……彼女は大丈夫じゃないかな? 俺は事情は良くわからないけど……でも、彼女はいい子だよ」
シンはそう言って優しく微笑む。
最初の交戦時、スバルと視線を交え、そして共に戦ってみてわかる。彼女は悪い人間ではないと。
「でも確かにそういう事なら帝国軍には戻れないよね。行く所はあるのかい?」
「それは……私は追われる身ですから」
「この戦場で孤立するのは危険過ぎるわ」
フェリアの言葉に俯くスバル。すると、ゲルトは腕を組み。
「そういう事なら俺が同行しよう。そしてお前を殺すべきと判断したら、その場で任務を遂行する」
今はまだベルフラウをどうするべきか答えが出ない。それは妥協案であった。
「俺は任務に従う事しか能のない石頭だった。だから真実に辿りつけなかった。あなた達の言う通り、任務以外の理由を見つめてみようと思う」
ゲルトの答えに満足気に頷く明影。
「オルクスを……追いかけるんですか?」
「はい。なんとなく、場所がわかるから……」
「信じるよ、私は。“戦い続ける”というあなたの言葉を。あの時の笑顔を、信じ続ける」
シュネーに続き夕鶴が微笑むと、スバルは右手を差し伸べる。
掴み返したその手は氷のように冷たい。しかし、スバルの瞳はまっすぐなままだ。
「ありがとうございます。もし、“その時”が来たら……また会えますよね?」
ベルフラウを乗せたゲルトのバイクが撤退方向とは別へ土煙を上げて走り去っていく。
ハンター達は撤退する帝国部隊を守る為、彼らに背を向けて歩き出した。
混迷を極める戦場の中で、再び彼らの運命が交わるか。それはまだ、誰にもわからない事だった。
聖機剣でガードしても勢いは殺せず、少女の身体は大きく後退した。
「うははー! 弱っちい、弱っちいゾ~……おっ!?」
突如その顔面に炎が爆ぜた。後方から駆けつけたハンター達の中、フェリア(ka2870)の放った火の矢であった。
「なんだ、誰かがもう先に始めてるぞ? フェリア、俺達以外の奴が来てるなんて……聞いてない、よな?」
「確かに話にはなかったけれど、歪虚と交戦しているのは明らかでしょう?」
「……それもそうだ。君! 援護するよ!」
そう叫びながらシン(ka4968)は低い姿勢から距離を詰める。大地を擦るように奔らせたラージブレードの一撃は、しかしジルコの腕に阻止される。
少し焦げた頬を長い舌で舐めつつ、ジルコは反撃の拳を繰り出す。シンは咄嗟にブレードを盾と構えたが、それでも衝撃は凄まじい。
スバルはシンの背中を支えるようにして堪え、二人は大地の上を滑り息を着く。
「驚いたな、あの子あんな背丈ですごい力だ。君も助けてくれてありがとう」
シンの屈託のない真っ直ぐな視線にスバルはきょとんとし、それから少し頬を赤らめつつ「いえいえ」と首を振った。
「スバル! 何故こんなところに……!?」
夕鶴(ka3204)はその姿に驚きを隠せない。駆けつけてみればやはり人違いではないようだ。
「夕鶴さんこそ……」
「今は見ての通り撤退戦の最中だ。あなたもそうではないのか? まさか、本当にオルクスを追って……?」
「ん……またあの女か。それにあっちは……この間のヤツと似ているな」
ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)はスバルとジルコを交互に見やり、顎に手をやる。
言われてみれば、ブラストエッジで交戦した吸血鬼そっくりだと夕鶴も気づく。
「同じタイプの敵……やはりオルクス絡みか」
「オルクス……? どういう事、なんでしょう? 知り合いのようですけど……」
状況がよく飲み込めないシュネー・シュヴァルツ(ka0352)だが、とりあえずスバルの方は敵ではなさそうだ。
「私達はハンターよ。私はフェリア。所属を明確にして」
「私は……ワルプルギス錬魔院、イルリヒト機関所属、ベルフラウ二等兵です」
「帝国軍……? そう、ならば少なくとも敵ではなさそうね。そちらは……吸血鬼?」
「オッス! オラ、ジルコだゾ!」
片手を上げて満面の笑みを浮かべるジルコ。そのまま右腕をぐるぐると回し。
「オマエら急にイッパイ増えて顔覚えらんないゾ! 挨拶もしたし、もうくたばっちゃっていいゾ~!」
大地に鋭く拳を振り下ろす。陥没した地面に結晶が広がり、ハンター達の足元から隆起した琥珀色の結晶が刃となって襲いかかる。
「うわっと……やっぱり厄介な相手だな。君、戦うなら力を合わせよう!」
「は……はい! お願いします!」
シンの呼びかけに構え直すスバル。ジルコはむっとした表情で左右の拳を打ち鳴らした。
「あの~……我輩の存在忘れてませんかな~?」
始まった戦闘を横目にカブラカンは膝を抱え、地面に「の」の字を書いていた。
「貴様は戦闘に参加するつもりはないのか?」
そこへ弥勒 明影(ka0189)が歩み寄ると、大男は膝を抱えた姿勢のまま跳躍し、空中でピンと背筋を伸ばし。
「おお! 我輩とやるつもりですかな? ほったらかされて少しナイーブになっていましたが、我輩頑張りますゾ!」
「変な歪虚だな……」
眉間に皺を作りながらボソリと言うヴォルフガング。だが明影は腕を組み。
「確かに変だな……だがそれでこそ面白い」
「そうか?」
「ああ。そうだ」
「俺には理解できんだろうが、おまえが言うならまあそうなんだろう」
タキシード姿の髭面のオッサン歪虚にそれぞれ好奇の視線を向ける男二人。まあ、目的意識は比較的近い。
「おまえと会うのはそういや二度目か。さっきチラっと聞いたが、オルクスがいたのか?」
「如何にも。オルクス殿はお忙しい身分なので既にフェードアウトしましたが」
「ベルフラウシリーズってのは、やっぱりオルクスが作ったのか」
カブラカンはシルクハットをくいっと持ち上げ。
「よくご存知ですな」
「既に一体倒したからな」
「ほほう……では、メイズを倒したのは貴殿らでしたか」
そう言ってカブラカンは拳を構える。目には見えないグローブの内側、スーツの中で皮膚を硬質化させながら。
「あれは我輩が卸した商品。馬の骨に倒せる代物ではない筈。事実かどうか、確かめてみたくなりましたな」
ジルコの動きに武術的な規則性はない。単純にバケモノとしての身体能力を振り回しているだけだ。
げらげらと笑いながら駆け寄るジルコの拳を夕鶴はクレイモアで弾く。何てことはないパンチだが、衝撃でガードが崩される。
「守りに注力しても腕が痺れるか……!」
今回の作戦は時間稼ぎがメイン、あまり無理に攻める気はないが、向こうの攻め気が勝ちすぎる。
シュネーは素早く側面から距離を詰め、すれ違い様に刃を走らせる。しかし手応えはまるで石を打っているかのようだ。
「ガードは甘い……隙は幾らでもつけるけど……」
ジルコ切り裂かれた皮膚のすぐ下、琥珀色の結晶がかさぶたのように盛り上がっている。
「そんな攻撃痛くも痒くもないゾ~! 攻撃っていうのは、こうやるんだゾッ!」
飛び上がったジルコが両足を硬化させ落下する。シュネーは素早く回避に成功するが、大地が粉砕され陥没している。
「避けるのも訳ないですけど……死にますね……」
「オッ!? 足が引っこ抜けないゾ!?」
フェリアはその隙を見逃さず魔法を詠唱。杖に風のマテリアルを収束させる。
「貫きなさい、ライトニング・ソーン(雷の茨)」
放たれた雷撃がジルコの身体を貫き、その身体を仰け反らせる。
「うびゃばばば!? いびびび!?」
「あれ? なんか……僕達の攻撃より効いてる?」
「属性の問題……か?」
シンの疑問に夕鶴が答える。ジルコは目をグルグルと回したままだ。
これを好機と見て二人は接近、同時に大剣を叩きつける。やはり傷は浅いが、修復は遅くなったように見えた。
復帰したジルコは足を引っこ抜き、空中に無数の血の槍を作ると一斉に発射。ハンター達はそれぞれこれに対処するが、そうしている間にジルコは真っ直ぐにフェリアを目指す。
「遠くから攻撃、オマエうざいゾ!」
そこへシンが横から接近し、ラージブレードを構えて突進する。
「お姫様はやらせないよ!」
脇腹に突きこまれた斬撃に身じろぎするが、肉には殆ど食い込まない。苛立ったジルコがラージブレードを掴んだその時、シュネーのワイヤーがジルコの顎をぐっと持ち上げた。
「……今です!」
シンが交代すると、フェリアが更に雷撃を放つ。雷の奔流に晒されたジルコへ直ぐ様夕鶴とスバルが駆け寄り、互いの得物を交差させジルコの顔面にめり込ませた。
「か、硬い……!」
「身体が石でできているのか、こいつは……!」
上半身を仰け反らせブリッジの姿勢で大地に手をつくと、ジルコを中心に結晶が隆起する。その刃に身を引き裂かれ、ハンター達は距離を空けた。
カブラカンはガチガチの近接格闘タイプだ。
故に明影とヴォルフガングの二人は徹底して銃撃による中距離戦を狙う。
銃弾を片手で軽々弾くその様は紛うことなき高位歪虚であり、まともにやりあえば不利は必至。
何より今回の作戦は時間稼ぎが目的。無闇に敵の本領に付き合う必要はないという判断だ。
「成程……しかし、我輩も少しは拳を振るわねば溜飲が下がらぬのですぞ!」
大地を強く踏みしめ、粉砕しながら加速する拳。明影は咄嗟に太刀を抜くが、軌道を僅かに反らせただけだ。
腹にめり込んだ拳に口から血が吹き出す。続けて左の拳。明影はこれに刃に黒炎を纏わせ合わせる。
二発目は防げたが、それでも衝撃で吹き飛んだ。続け、カブラカンはヴォルフガングへ迫る。
「殴ってくるヤツとは戦りたくねぇんだがな……」
敵の拳は強烈だ。とにかく防御に全神経を集中させ、繰り出される一撃を弾き流す。
連続の攻防に火花が散り、ヴォルフガングの身体が軋む。そこへ明影が口に溜まった血を吐きながら引き金を引いた。
抉れた腹の肉は黒い炎が既に修復している。銃撃を受けても物ともしないカブラカンだが、ヴォルフガングが距離を放すには十分な隙があった。
背後へ跳びながら拳銃を連射すると、敵は手刀で銃弾を弾きつつ片目を瞑り。
「確かに打たれ強い……しかし、それだけでオルクス殿の眷属を屠れたとは思えませんな。何か細工をしましたか?」
「教えてほしいのはこっちの方だぜ、供給源」
紳士はニカっと白い歯を見せ。
「フフフ。我輩は吸血――」
その側面から放出された雷撃に飲み込まれた。
放ったのはフェリア。ジルコとカブラカンが直線上に並ぶのをずっと待っていたのだ。
黒焦げた自慢のタキシードを見つめ、カブラカンは瞳を潤ませる。
「わ、我輩の一張羅……がふんっ!?」
更に、そこへ突然飛び込んできたバイクがカブラカンの身体をはねとばした。
バイクから飛び降りた少年はヴォルフガングと目を合わせ。
「あなたは……あの時の?」
「少しビックリしたけど、もうオマエらの攻撃なんか効かないゾ!」
言うように、ジルコの体力は未だ有り余っている。一方、ハンター達は頑強なジルコとの戦闘で息が上がっていた。
「暴れさせればそのまま勢いで崩されるが……攻め立てようにも頑丈すぎる」
額から流れる汗を拭い、夕鶴が呟く。しかし、フェリアは杖を下ろし。
「いいえ、もう十分よ。この辺りの残されたのは私達だけ……潮時ね」
逆にこれ以上残れば孤立してしまう。そんなフェリアの言葉に頷き、ハンター達は走りだす。
「なんだなんだ、逃げるのか? お? ていうか別に追っかける理由もないゾ?」
首を傾げるジルコ。唯一撤退するのを渋っていたスバルの手を左右から掴み、シンと夕鶴が走りだす。
「そろそろ退くぞ!」
夕鶴の声にカブラカンと刃を交えるハンターも走りだす。おかしなことに何故か向こうは三人に増えていたが、カブラカンも特に固執して追いかけてくる様子はなかった。
「なんだか妙でしたね。追いかけてくる様子もないなんて……」
敗走する帝国軍に合流し、軽くスケルトンを処理してハンター達は臨時キャンプの隅で休憩していた。
シュネーの言う通り、敵の目的はよくわからない。それを言うのなら、そもそも状況がイレギュラーだったという事なのだろうが。
「ベルフラウ」
「ゲルト……どうしてここに?」
その要因の一人である少年兵はベルフラウと対峙し、何やら剣呑な雰囲気が続いている。
「ナサニエル院長の命令で、お前を処分しに来た。聖機剣の回収とお前の抹殺が、今の俺の任務だ」
そう言って得物を突きつける。しかし、直ぐにシュネーと夕鶴が割って入った。
「どういうつもりだ? 同士討ちをしている場合ではない筈だ」
「撤退支援は感謝している。だが、俺の任務にハンターは関係ない」
「確かに私は関係ないかもしれない。だが、スバルには助けられた恩もある。それを返したいと思うのは何も不思議ではないだろう?」
悲しげに眉を潜めるゲルトに、ヴォルフガングは煙草を取り出しつつ。
「……まずはその理由を話しても遅くはないと思うぜ?」
「……そうだな。確かに、あなた達にとっては無関係ではないかもしれない」
そう言ってゲルトは説明する。
スバルが元オルクスの契約者であり、存在寿命が短い事。それが今切れかかっている事。そして切れた場合、歪虚化する可能性が高いという事……。
「オルクスの眷属が歪虚化した場合、例の連中と同じになる。強力な敵が増えるのを見過ごすわけにはいかない」
「でも……スバルさんはまだ歪虚じゃないし、まだ生きて話せるじゃないですか」
シュネーはそう言って首を横に振る。
「ちゃんと話をしてあげて下さい……そうでなければ、あなたが後悔するだけです」
「そうだ。あなたは明らかに殺したくないという目をしている。私は、泣きそうな顔をしている戦友に刃を向けられるような人間にはなりたくないし、あなたをそうしたくもない」
夕鶴に言われ、ゲルトはゆっくりと武器を下ろす。
「だが、任務なんだ……」
「任務だからと殺せば、必ず後悔する。確かに歪虚化など末路としては悲惨だが、その理由を人任せにするべきではないよ」
明影に肩を叩かれ、ゲルトは得物を腰のホルスターに戻す。
「確かに俺は任務に疑問を持っている。だが、他の解決策も持ち合わせていない。他にスバルを救う方法を思いつかないんだ」
「でも……彼女は大丈夫じゃないかな? 俺は事情は良くわからないけど……でも、彼女はいい子だよ」
シンはそう言って優しく微笑む。
最初の交戦時、スバルと視線を交え、そして共に戦ってみてわかる。彼女は悪い人間ではないと。
「でも確かにそういう事なら帝国軍には戻れないよね。行く所はあるのかい?」
「それは……私は追われる身ですから」
「この戦場で孤立するのは危険過ぎるわ」
フェリアの言葉に俯くスバル。すると、ゲルトは腕を組み。
「そういう事なら俺が同行しよう。そしてお前を殺すべきと判断したら、その場で任務を遂行する」
今はまだベルフラウをどうするべきか答えが出ない。それは妥協案であった。
「俺は任務に従う事しか能のない石頭だった。だから真実に辿りつけなかった。あなた達の言う通り、任務以外の理由を見つめてみようと思う」
ゲルトの答えに満足気に頷く明影。
「オルクスを……追いかけるんですか?」
「はい。なんとなく、場所がわかるから……」
「信じるよ、私は。“戦い続ける”というあなたの言葉を。あの時の笑顔を、信じ続ける」
シュネーに続き夕鶴が微笑むと、スバルは右手を差し伸べる。
掴み返したその手は氷のように冷たい。しかし、スバルの瞳はまっすぐなままだ。
「ありがとうございます。もし、“その時”が来たら……また会えますよね?」
ベルフラウを乗せたゲルトのバイクが撤退方向とは別へ土煙を上げて走り去っていく。
ハンター達は撤退する帝国部隊を守る為、彼らに背を向けて歩き出した。
混迷を極める戦場の中で、再び彼らの運命が交わるか。それはまだ、誰にもわからない事だった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/09 15:53:28 |
|
![]() |
相談卓 シュネー・シュヴァルツ(ka0352) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/11/10 23:08:29 |