• 闇光

【闇光】空の支配者が変わる日

マスター:馬車猪

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2015/11/11 22:00
完成日
2015/11/17 05:52

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 灰黒のドラゴンが飛んでいる。
 巨大なのに小さく見える。
 高位の覚醒者弓使いでも、当てるのすら難しいほど遠くて高い。
 これだけ飛べるなら岩を運んできて落とすことでどんな獲物でも狩れる。ブレスを使えるなら無敵に近い。
 彼等は常に空の支配者であり、支配は永遠に続くと誰もが思っていた。

●CAM
 微かな振動を除けば無音のCAMコクピットで、メーガン(kz0098)はぼんやり見上げていた。
 正確には、目視ではなくヘッドマウントディスプレイに表示されたドラゴンを視認中だ。
 R6M2bデュミナスは彼女の動きを正確にトレースし、頭部のセンサーを上空の脅威に向けていた。
『FCSが再起動しました。攻撃を開始してください』
 兜から報告と指示が届いたとき、メーガンは言葉の意味を把握するより早く、右の人差し指でトリガーを引いていた。
 CAMが動き始める。
 全高5メートルに達するアサルトライフル型重火器を両手で構え、メーガンが視認しているドラゴンへ銃口を向ける。
 太鼓の連打に似た音が響く。
 30ミリの砲弾が放たれるたびに銃口の向きが修正され、銃弾が徐々にドラゴンに近づき、命中した。
 鋼よりも硬い鱗が弾に負けた。
 負のマテリアルをまき散らして高度を保つが、ブレスを吐く力も無く投石用の岩もない。
 憎々しげにCAMを睨み、ドラゴンが旋回して背中を見せた。
『ドラゴンが撤退していきます!』
 複数の歓声が聞こえる。
 が、メーガンの意識にはドラゴンしかない。
 右の操縦桿を傾けることで方向転換。ドラゴンが常時CAMの正面になるよう向きを調節する。
 ドラゴンとの距離が急速に開いていく。
 背中から腰にかけて抉れてはいるが飛行能力は健在だ。
『30ミリアサルトライフルの有効射程外まで後』
 躊躇無くフットレバーに蹴りを入れる。
 固定砲台モード解除。
 安定性と即応性の優先順位が入れ替わり、30ミリの火線が大きく逸れた。
『馬鹿! 加速し過ぎよっ』
 ブースター点火。デュミナスが巨大な火を吹いて跳んだ。
 非常識な加速は訓練経験のない人間の意識を一瞬で奪い去るには十分過ぎる。
 しかし現在乗っているのはサルヴァトーレ・ロッソ勤務の軍人ではなくクリムゾンウェスト産の覚醒者だ。
 骨折しないどころかブラックアウトすらせず、冷静にドラゴンとの距離を測る。
 彼女は不器用だ。CAMへの搭乗もこれが2回目、おまけにブースターによる移動は微調整が極めて困難。
 なのでブースターによる跳躍も、行こうとした場所から角度で数十度距離にして50メートルはずれていた。
 ブースターの火を落とす。左スティックを弄ってCAMの両足で踏ん張り、大量の雪煙をあげながら十数メートル滑ってようやく停止。
 ドラゴンの距離は半分以下にまで縮んでいた。
 目はドラゴンに向けたまま残弾を確認、問題なしと判断して再度右人差し指に力を込めた。
 デュミナスが自動で固定砲台モードを選択する。
 両足の動きが制限されて機体が安定し、30ミリの銃弾を空飛ぶドラゴンへ届けた。
 左翼から腰に着弾する。
 速度が落ち高度が下がる。
 このままでは一方的に撃たれるだけと判断したのだろう。
 ドラゴンは急旋回の後、凶悪な足でCAMごと中身を砕こうと急降下を行った。
 右スティックを左に、左スティックを右に、シールドを捜査するボタンを押し込む。
 デュミナスは入力を元にプログラムから動作を選択し、常に正対し、右へ弧を描いて回避しつつシールドによる防御を試みる。
 だが、コンマ数秒遅れの入力では成功には届かない。
 デュミナスの胸にドラゴンの足が直撃する。装甲が陥没し四肢の関節で火花が散る。
「動かない」
 メーガンは無事だが相棒の中身はそうではないらしい。左右のスティックを動かしてもボタンを押しても反応がない。
 ドラゴンが前に出る。目は怒りで血走り、楽には殺さないという意思がこれ以上なくはっきり示されていた。
 ディスプレイに再起動完了まで5秒の表示が出る。
 歪虚の牙がCAMの左肩部装甲にめり込む。機体全体に負荷がかかり、コクピット内の計器複数にひびが入った。
「動いた」
 視線で目標部位を指示。右スティックで姿勢を、左スティックで位置を微修正して、軽くトリガーを引く。
 右手がアサルトライフルを放棄しシールドの裏に手を突っ込み、ナイフを外して一閃する。
 ドラゴンの喉が切れ目が刻まれる。数秒の後、飽きっぱなしの傷口からどす黒い血がこぼれ、本体ごと薄れて消滅した。

●物資輸送用トラック
「歪虚兵級ドラゴンの撃破しました!」
「北方に新手のドラゴン複数を確認。2体……糞、負のマテリアルが濃すぎて見通せねぇ。到着まで推定3分!」
「増援要請です。可能なら即座にキャンプへ向かえと」
「CAMを一旦後退させろ。当方に余裕無しと言っておけ!」
 ゾンネンシュトラール帝国・地球連合CW支部合同試験部隊は、ほとんど恐慌状態に陥っていた。
 覚醒者向けに調整中のCAMを、前線の空気を感じられる場所で少し動かし帰還するだけの簡単な任務のはずだった。
 ところが蓋を開けてみると強力な歪虚に襲われ、すぐに助けに来いと矢の催促まで来る始末だ。
「高空を飛行可能なドラゴン型なんて怪物、どこから出てきやがった」
 同じドラゴン型のガルドブルムと比べれば弱いとはいえ、矢も銃弾も届かぬ高空を飛行可能な歪虚など厄介すぎる。
「搭乗資格を持つ技術者はCAMに乗り込め。全機使い潰して構わぬ、歪虚王との合流だけは阻止しろ」
 ロッソの軍人達が、無念の表情で首を横に振った。
「我々の頭と体ではブースターを使った高速戦闘に追いつかない」
 彼等はCAM訓練経験者ではなかった。通常の戦闘技術はあっても高速戦闘の処理能力が絶望的に足りず、今ある機体ではドラゴンを墜とせない。命を賭そうが物理的に無理なのだ。
 指揮官の頭の中に、戦力保全、CAMの乗り手という名誉、各国各勢力との力関係等が渦巻き、腹の奥底からわき上がる怒りと使命感に吹き飛ばされた。
「スクランブル無しで広域放送! 誰でもいい。CAMの席をやるから代わりにドラゴンスレイヤーなれと言ってやれ!」
 彼の命令は忠実に実行され、CAM6機がハンターの手に託された。

リプレイ本文


 テントの上部が取り払われ、澄んだ冷たい青空が目に飛び込んできた。
『盾2つの取り付けを完了しました。起動してください』
 マリアン・ベヘーリト(ka3683)がうなずいた時、整備テント内のCAMも全く同じ動きをしていた。
 左右の手でそれぞれ別の操縦桿に触れる。
 待機状態が解除され、自然な、ただしマリアン本来のものとは異なる動作でCAMが立ち上がった。
 CAMの頭部は地表から約8メートルの高さにある。
 足下の簡易整備所は非常に小さく見えるし、テントから出て行く整備兵も子犬の大きさに見えた。
 視線を水平に向ける。
 冷たい雪原が延々と広がり、地平線があるはずの場所で滲んで消えている。
「視界に問題なし」
 機械を通して再生されている画像なのに、覚醒者の知覚でもそれほど違和感はない。
 テントの壁をまたぐ。
 カタナに対応したボタンに触れると、予め入力された動きで八相に構えた。
「拙い動きではないですが」
 己の体が他人の動きをしているようで違和感がある。
 違うことを意識しておかないと思わぬ不覚をとるかもしれない。
『テント撤去しました。ブースター使えます!』
 整備兵がバイクに乗って離れていく。数分前までCAMを覆っていたテントは、乱暴に畳まれバイクの後ろに固定されていた。
 右の操縦桿で方向を微修正、CAM1機とドラゴン2頭の戦いを正面に捉える。
「マリアン・ベヘーリト、出ます」
 着ぐるみ兎足でフットレバーを押し込んだ。
 ブースターが発光する。飛行に向いていないはずの人型が、仰角2~3度で宙に向けて飛び出した。
「また勝手に」
 CAMの各所が勝手に動いている。
 飛行のための姿勢制御なのだが正直慣れない。まるで、分厚すぎる着ぐるみを着て戦っているようだ。
 意識を前に集中する。
 巨人とドラゴンの姿が凄まじい速度で拡大していた。
 ドラゴンは左右から時間差で攻め、巨人は戦い慣れた動きで躱し盾で防ぎ背後をとられるのだけは辛うじて避けている。
『敵か!』
 記憶にある声が耳元から響いた。
「メーガンさん! 2ぴこぴこ加勢します!」
 ブースターの出力が弱まる。吹かしきり落下、両足で大地を踏みしめる。
 マリアンは彼我の距離と速度と方向、およびカタナの長さを無意識で計算し、左側のドラゴンがディスプレイ一杯に表示されたところでカナタのボタンを押す。
 かぎ爪の方が早く動いたが、カタナはかぎ爪を押さえ、そのままドラゴンの肩を刺し貫いた。
「此処からは、私達がやります! 後退を!」
『箸を持つ方からだ!』
 鳥瞰図からドラゴンが一頭消えていた。
 一瞬遅れで縮尺が変更され、右斜め後方から急速接近する光点が表示された。
 2本の操縦桿をそれぞれ別の方向へ。
 CAMがすり足で半歩下がり、急降下するドラゴンに右肩のシールドを向け、受け止めた。
「伊達や酔狂で盾2枚装備だと思いましたか」
 両手を小刻みに動かす。
 地上のドラゴンの体当たりを左のシールドで受け、すり足で斜めに下がり、また背中を狙ったドラゴンを躱した。
『ガトリングを使う』
 マリアン機が片膝をついてシールドを構えた。
 雪原と水平に光の線が延びる。
 最初の曳光弾はドラゴンの手前数メートルに突き刺さり、続く3発は宙のドラゴンの足に、それ以降は分厚い鱗で覆われた腰に全弾当たる。
 同じ30ミリでも威力が違う。鱗はひび割れ一部は脱落し、大量の血がこぼれて雪原を赤黒く染める。
「機体に問題なし」
 百メートル後方で、CAMが1機ガトリングを構えていた。
「戦闘ヘリよりは硬いか」
 雪ノ下正太郎(ka0539)は操縦桿を動かさない。
 攻撃中の一体を目で追い続けることで射撃を継続、射撃優先の指示を出し続けることで命中精度を維持し続ける。
 眉間に皺が寄っている。
 退役前と同程度にはCAMを扱えているはずなのに、CAMの追従性が鈍く、CAMの外を遠いように感じるからだ。
「覚醒者用の調整が不十分なのか」
 覚醒による能力向上と比較すれば、立体感覚や持久力もそれほど影響はない。
 ドラゴンが30ミリを浴びながら鋭く方向を変え、死力を振り絞り加速する。
 弾切れで止まったガトリングに、正太郎機が短時間で再装填。
 真正面から30ミリ弾を浴びせ続けて頭部から肩にかけてを変形させ、しかしドラゴンの接近を止めることはできなかった。
「だが」
 射撃優先の指示を解除。
 脚部の自由を回復させ、血塗れで飛ぶドラゴンを凝視する。
 翼が最大限に揺れる。
 ディスプレイからドラゴンの姿が消え、しかし鳥瞰図にはこれ以上なくはっきりと映し出されていた。
「見え見えだ」
 最小限の方向転換と斜め移動でドラゴンに正対する。
 ドラゴンの顔が視界を塞いでも動かず、ドラゴンの牙と喉奥が見えてはじめてカタナのボタンを押す。
 抜いて、加速し、当てる。
 翼を狙った正太郎の狙いは外れ、刀身がドラゴンの肩にめり込み、翼ごと肩を抉りとった。
 空の支配者だったものの悲鳴がCAMを震えさせる。
 飛び散った血がセンサーにかかり、ディスプレイの表示が赤く染まる。
 肩翼のドラゴンは雪原に着地しCAMを待ち受けるが、正太郎機は近づかずに再度ガトリングガンを向けた。
 怒りも憎しみも無く、純粋な戦意で以て引き金を引く。
 鱗が剥げ挽肉がこぼれ落ち白い骨が砕けて散る。
「止めだ」
 CAMが踏み込みカタナが振り下ろされ、ドラゴンの首が宙に舞った。


『グラム! 誤射の危険がっ』
 懇願に似た要請を無視し、長砲身105ミリ砲が咆えた。
 発射の衝撃は凄まじい。
 万全の姿勢だったにも関わらず、CAMが数十センチ仰け反ってしまう。
 その分威力も強大だ。
 メーガン(kz0098)機に触れる寸前のドラゴンに当たり、胸を横から大きく凹ませた。
 肺にあたる器官から空気が押し出され全身の動きが一瞬止まる。
 隙だらけの巨体にマリアン機が止めを刺すまで、秒も必要なかった。
「大丈夫、僕達の結晶は壊させない……」
 中破した機体が整備班の元に向かうのを確認し、アルファス(ka3312)はそっと息を吐いていた。
 ディスプレイには真っ白な雪と青い空。斜め前方に空飛ぶドラゴン。
 歪虚領域と人類領域の狭間にいるせいか、センサーの性能が本来より落ちている気がした。
 スナイパーライフルへの再装填を強制中断し横へ跳ぶ。
 ドラゴンが、速度を落とさないまま鋭角的な進路変更を繰り返し、寸前まで背部装甲があった場所を通過した。
「この子達はこの世界で未来を切り開くんだ」
 操縦桿から手を離してキーボードから入力する。
 センサーを自機中心100メートルに集中。
 アサルトライフル以外の武器の優先度を最低に。
「行くよシグルド。最初の関門、歪虚兵を突破する!」
 ドラゴンが離れて高度を上げた。
 仰角86度。弓矢や銃なら命中率も威力も激減する位置取りであり、この一事でもドラゴンがどれほど戦慣れしているか分かる。
 デュミナスは数秒前に入力されたアルファスの命令を忠実に実行し、盾で四肢の動きを隠しつつアサルトライフルで連射した。
 尻尾が凹む。腹が凹む。胸が凹む。鼻がひび割れる。
 これまで数百年、あるいは数千年安全だった場所で、空の支配者たるドラゴンが一方的に撃たれて血を流す。
 空の王者の座を失っても戦意は失わない。
 ドラゴンは再度の急加速および急旋回を行い、今度こそアルファス機の死角から高速で迫る。
 当たれば大破、防いでも中破。
 ドラゴンの自滅覚悟の体当たりは絶大な破壊をもたらすはずだった。
『退け、羽虫が』
 カタナがドラゴンの進路に割り込んだ。
 限界まで速度を上げていたためドラゴンに回避の余裕はない。
 凹んだ腹で柔らかく受け止め、刃渡り5メートルの巨大武器をアルファス機に己もろともぶつけようとする。
「舐められたものだ」
 コクピットの中で、Gacrux(ka2726)の顔を複数の色が飾っていた。
 1つは蒼。研ぎ澄まされたマテリアルが紋章の形となり彼の顔を彩っている。
 もう1つは朱。ディスプレイに浮かぶ無数のエラー表示が、彼の全身を禍々しく照らしている。
「貴様等を歪虚王の元へは行かせない」
 整備員作の不出来なマニュアルを読んだのが悪かった。
 CAMが一部とはいえ勝手に判断して動くのも知らなかったし、何よりここまでマテリアルの通りが悪いとも知る術がなかった。
 しかし既に理解した。
「貴様は」
 操縦桿にはマテリアルを通さない。
 CAMが勝手に動くタイミングを見切り、CAMに懇切丁寧に指導するつもりでカタナの攻撃動作を開始。
 ドラゴンが前進する速度とカタナが切り込む速度と方向が絶妙にかみ合って、強固な鱗と柔軟な筋肉と衝撃を殺す脂肪全てを貫通、腸と背骨をまとめて砕いて両断する。
「ここで消えろ」
 生身なら蹴り落とすか槍ではたき落とすところだが、CAMの四肢はそのように出来ていない。
 回転する上半身に八相の構えからカタナを振り下ろし、首を刎ねて消滅させた。


 数十秒で同属3体が墜とされたのに、その場にいるドラゴンは恐怖を一切感じていなかった。
 射程と攻撃力が露見した以上、これからはドラゴンが刈る側とすら思っているのかもしれない。
「またか」
 滞空するドラゴンから南に400メートルの地上で、1機のCAMが奇妙な動きを披露していた。
「補助輪のつもりかよ」
 ゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)がつぶやく。
 全身の余分な力を抜いて平常心を持つことで、最大の効率で自身の体を動かしCAMに正確な指示を出す。
 なのにCAMがアレンジを加えて珍妙な動きになってしまうのだ。
「覚醒して鍛え抜いた元CAM乗り程不利なんじゃないか」
 地面に突き立てたシールドを銃架として使うのは諦めた。
 天候、風速、風向、ドラゴンの動き、何よりCAMの癖を総合的に判断。
 視線で目標を示し、引き金を引くことで射撃のタイミングを伝えた。
 スナイパーライフルが咆える。射撃に特化した姿勢でもCAMの上半身が大きく揺れた。
 1頭のドラゴンが1秒で100メートル近く落ちる。
 忙しなく翼を上下させ受け身までとることで重傷は避けたものの、撃たれた足は動かず地上走行が不可能になる。
「良い子だバロール。もう少し素直に指示を聞けばもっと可愛がってやるぞ」
 冗談を飛ばす間も視線は地上と上空のドラゴンをいったりきたり。
 動きからドラゴンの思考の推測を行い、予想進路に105ミリ弾を置くつもりで引き金を引いた。
 また揺れる。
 長距離射撃中は絶対に白兵戦をしたくないと思えるほど揺れる。
 地上のドラゴンの片翼に見事に命中し、翼ごと砕けて雪原に広く撒き散らされた。
「通常弾で正解か」
 高位歪虚相手ならAP弾が必要かもしれないが、CAM本体も装備も数が限られているので調達は難しいだろう。
「残りは2頭……これは接近戦確定か」
 これまでで最高の精度で射撃。
 ドラゴンが絶妙のタイミングで翼を畳み、105ミリ弾をぎりぎりで回避した。
 そこに斜め前方から105ミリ弾が飛来する。
 尻尾の端に当たって火花が散り、速度を失った弾が地上へ落ちていく。
「ごめんねサフィラス。ヴォロンテと同じに扱った私の失策よ」
 フィルメリア・クリスティア(ka3380)は息を吐いて意識を切り替える。
 覚醒後に跳ね上がった身体能力を一時忘れて覚醒前の能力を思い出す。
 覚醒前は数十メートル先の目標に百発百中なんて神業は不可能だった。当時は確か、こうしていたはずだ。
 CAMがマニュアル通りの動きでスナイパーライフルを操作した。
 予想外の状況が連続する戦場でマニュアル通りというのはベテラン以上の技ではあるが、既に熟練の覚醒者でもあるフィルメリアにとっては不満の残る動きでしかない。
 ドラゴンが十数センチ横に滑る。
 当たった。105ミリ弾により仰け反りはしても速度は落ちず近づいてくる。
 射撃。当たるが翼にも急所にも当たらない。
 射撃。急な突風でドラゴンが安定を失いその頭頂を掠めて105ミリ弾が宙に消えた。
「この距離で外す?」
 フィルメリア機はドラゴンとの距離が数十メートルある時点でブースターを起動。
 ドラゴンが急降下を開始する。
 鋭く重く頑丈な足爪がCAMの頭上10メートルまで接近した時点で、ようやくブースターが本格稼働しCAMをゼクス機近くまで運んだ。
『後は防戦かい?』
 ゼクスからの通信が入る。
 フィルメリアは脚部の動きを選択し着地の衝撃を可能な限り消して、残弾豊富なアサルトライフルに持ち替えた。
「追撃戦の準備を」
 血塗れのドラゴンが後退する。アサルトライフルが30ミリ弾で狙う。
 無事な一頭が血塗れを庇う位置に入り、銃撃を浴びながら姿勢を維持して同属に続く。
 どちらも、歪虚王がいるはずの場所を正確に目指していた。
 フィルメリアは銃撃を継続する。ブースターの再起動が可能になると即再起動。
 跳躍時の揺れでは無駄弾を撃つだけと判断して射撃を一時中断し、ドラゴンの真下に着地してから射撃を再開させた。
 無事な1頭が防御に失敗、血塗れの1頭が流血の頭となり自由落下途中で薄れて消えた。
 残る1頭は最早これまでと判断し、この戦闘が始まる前は絶対の安全圏であった上空目指して舞い上がる。
 フィルメリア達からの弾が外れ、ドラゴンが生き延びた歓喜の咆哮をあげた瞬間、全く別の複数の場所から銃撃と悲鳴が聞こえた。
 別の場所で逃げるドラゴンの背にマリアン機のカタナが4メートルめり込む。
 さらに別の逃亡していたドラゴンの背をアルファス機の30ミリが削り切り心臓にあたる器官を破壊した。
「ようやく慣れてきましたよ」
 Gacruxの眼球が素早く動く。
 鳥瞰図から残存ドラゴン数とその現在位置と追うハンターを確認、アルファスへの援護射撃で熱いアサルトライフルを構えたまま、ブースターで大きく跳んだ。
 白と青が揺れる。地平線もどきが狂気と破滅を孕んで明滅する。
「忌々しい歪虚共め」
 脚部が雪原に触れる。
 緩和しきれない衝撃がGacruxの細身の体を激しく揺らす。
 フィルメリア達の射撃で頭を抑えられ、最後のドラゴンが高度を下げた。
「人間を蹂躙し、虫ケラのように扱う時代は、2度と来ない」
 射撃開始のみを指示。横合いから、ドラゴン腹と翼を狙う角度で30ミリをばらまいた。
 ドラゴンが翼を広げて急減速。翼を撃ち抜くはずだった30ミリ弾を躱し、スナイパーライフルの射撃に捕まった。
 肩が弾けて翼が離れて回転。背骨が折れて巨体が不自然に曲がり、落下し膨大な雪煙が上がった。
 鳥瞰図に味方の表示しかないことを確かめ、Gacruxはハッチを開けて座席の上で体を伸ばしたのだった。

 戦闘から数分後、歪虚王が引き起こした破滅的事態の一報が届く。
 進むか退くか、重要な決断を迫られていた。

依頼結果

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重体一覧

参加者一覧

  • 人と鬼の共存を見る者
    雪ノ下正太郎(ka0539
    人間(蒼)|16才|男性|霊闘士
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 《聡明》なる天空の術師
    アルファス(ka3312
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • うさぎ聖導士
    マリアン・ベヘーリト(ka3683
    ドワーフ|20才|女性|聖導士
  • 【ⅩⅢ】死を想え
    ゼクス・シュトゥルムフート(ka5529
    人間(蒼)|25才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
Gacrux(ka2726
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/11/09 17:32:37
アイコン CAMに関する資料集
Gacrux(ka2726
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/11/09 09:06:00
アイコン 相談卓
Gacrux(ka2726
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/11/11 17:37:13
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/08 07:25:01