ゲスト
(ka0000)
【闇光】ハンター達の一日
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/13 09:00
- 完成日
- 2015/11/20 06:08
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●冒険都市リゼリオにて
ハンターズソサエティの本部が構えているハンター達の本拠地でもあるこの街のある屋敷で一人の騎士が頭を悩ませていた。
グラズヘイム王国の騎士、ソルラ・クート(kz0096)だ。彼女は、遠征している王国騎士団――赤の隊――への後方支援の為、リゼリオで輸送隊の指揮を執っていたのだ。
「二体の歪虚王……」
緊急の報告書を手にどうすればいいか迷っていた。
帝国を主体とする北伐は事実上、失敗だ。個々の作戦では成功を収めていたが、歪虚王が二体というのは分が悪すぎる。
「キャンプが次々と突破されています」
報告に来た兵士が告げる。
ソルラは信じられない気持ちだった。いや、信じたくなかった。
北伐に臨む兵力は、補給を担当していた彼女であれば、如何に規模の大きい事か、容易に知る事ができた。
それらを打ち破って南下をしてくるのだ。
「私達は、恐ろしい存在に触れてしまったというのでしょうか」
歪虚王だけで、西方など吹き飛んでしまうのか。そんな気持ちにさせる。
「ソルラ様、ご命令を」
「……残っている全ての馬車を前線に回して。補給じゃないわ。傷病者の避難の為よ」
恐らく、多くの負傷者が出ているはずだ。
撤退の速度を速めるには、重い怪我を負った者達を運ぶ手段が必要になる。
「それと、例の馬車も使っていいわ。とにかく、全力を出しきって。ここで支えてこそ、後方支援よ」
『軍師騎士』から借り受けた特殊な水陸両用の馬車。これなら、撤退の際に障害となる川を逆に利用してスムーズが移動ができる。
それに、いざとなれば、簡単な細工をした上で並べる事により簡易的な陣地の構築も可能だ。
後方で大事に使っていたが、今は、四の五の言っていられない。
「分かりました。ただ、護衛はいかがしましょうか」
「それも、全力で構わないわ。リゼリオのハンター達にも呼び掛けるから」
さすがに護衛をつけないわけにはいかない。
歪虚王の南下に呼応して、撤退を邪魔する者もいるはずである。
兵士は敬礼すると、部屋から出て行った。
「さて……ナディア総長に連絡が取れるかしら……」
ソルラの溜め息にも似た声が部屋に響いた。
●交渉
サルヴァトーレ・ロッソからの移民が住むリゼリオの一角。
安全であるリゼリオの街の中でも、更に厳重な警備がされている。それは、安全の確保が移民の条件でもあったからだ。
「つまり、警備をしていたハンター達をも駆り出さないといけない程の状況なのですかな」
老人紳士がソルラに確認する。
「負ける……というわけではありません。しかし、戦線を下げるにはどうしても戦力が必要です」
「理屈は分かるよ。しかし、騎士として領地経営に理解ある君なら、儂の言おうとする事も分かるはずじゃ」
初対面と言うのに老人紳士は遠慮ない言葉をぶつけてくる。
なおも、老人紳士は続けた。
「安全が保障されるという条件で移民した者も多い。果たして、その説明で納得できると思うのかね」
歪虚に負けそうなので、警備のハンター達を引き揚げさせると説明して良い顔をする者はいないだろう。
下手をすれば、また、無理な要求をしてくる過激派が出てくる可能性もある。
「……転移者の中には、覚醒者としての素養がある者が多いです。自衛という形で……」
「それが、甘いとは、分からないのか、君は! 戦いたくなくて、船から降りた人々なのだぞ」
老人紳士の言葉はもっともだ。
リアルブルーに居た頃は市民達の代表をやっていたという事もあり、その言葉にはその筋の力がある。
まるで、貴族同士の派閥争いの中に居るような錯覚をソルラは覚えた。
「君は、まだまだ為政者というのを知らない。民を治めるという事をな」
「歪虚の進撃は、そう言っていられない状況なのです」
「軍人という者は、皆、口を揃えてそう言うのだよ。君の言葉は為政者ではなく、まさしく、騎士のものだな」
ぐうの音も出ないとはこの事か。
ソルラは唇を噛んだ。移住した人々の代表団の後見人であるというこの老人紳士を落とさない限り、こちらの要求は通らないというのに。
「君は甘い。移民を覚醒者にしようとする事も、ハンター達を引き上げようとする事も、目先の事ばかりで、その先を考える想像力に欠ける。その甘さは、やがて、大きな失敗を生む。その時、失われる命の責任を君は取れるのかね?」
反撃の言葉を失い、ソルラは黙り込んだ。
「……と、若い娘をいじめても儂の評価に響くからの。こちらの条件を伝えよう」
サッと秘書が一枚の書類をソルラに手渡した。
それを読んで、ソルラは驚く。
「この前、問題を起こした過激派の覚醒者を保護観察としながら警備に付かせるなんて! あり得ません!」
「自衛なら彼らも素直に受け取ってくれるだろう。それに、これは、君が決める事じゃない。さぁ、美しい騎士様のお帰りだ」
ソルラの左右にスーツ姿の男が立った。
悔しい表情を隠しもせず、ソルラは退室した。
●ハンターオフィスの一室にて
「ふーん。そんな事があったんだー。ルミちゃん、難しい事は苦手~」
一連の事をソルラから聞き、ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)が、そんな感想を言った。
「なにか、良い手はないかしら……こう、ハンターになろうっていう気持ちを持ってもらえるように……」
要は自主的に覚醒者になろうという流れになれば、ある程度は解決するのだ。
しかし、その為にどうすればいいか、ソルラの思考は完全に停止していた。
「そういう時は、知って貰えばいいと思います♪」
「知って貰う?」
「そうです。ハンターさんが普段、何をしているのか、どうしているのか、日常のありのままをです」
親近感を持って貰うには、知るという事は大事だ。
「……ルミちゃん……凄いです」
ガシっと彼女の手を握るソルラ。
「え? そうですか? そういう宣伝みたいのは、少しは分かるのですよ☆」
「さっそく、依頼を出します!」
ハンター達の過ごし方を取材させて、それを移住した人達に知って貰う。
その中から、興味や関心を持って貰える人がいれば……あるいは、覚醒者になる者も、もしかしているかもしれない。
なにもしないよりかは良い。少しでも希望があるのであれば。
「お仕事ですね! どうぞ!」
真剣に依頼書に書きこむソルラに向かって、満面の笑みをルミは向けたのであった。
ハンターズソサエティの本部が構えているハンター達の本拠地でもあるこの街のある屋敷で一人の騎士が頭を悩ませていた。
グラズヘイム王国の騎士、ソルラ・クート(kz0096)だ。彼女は、遠征している王国騎士団――赤の隊――への後方支援の為、リゼリオで輸送隊の指揮を執っていたのだ。
「二体の歪虚王……」
緊急の報告書を手にどうすればいいか迷っていた。
帝国を主体とする北伐は事実上、失敗だ。個々の作戦では成功を収めていたが、歪虚王が二体というのは分が悪すぎる。
「キャンプが次々と突破されています」
報告に来た兵士が告げる。
ソルラは信じられない気持ちだった。いや、信じたくなかった。
北伐に臨む兵力は、補給を担当していた彼女であれば、如何に規模の大きい事か、容易に知る事ができた。
それらを打ち破って南下をしてくるのだ。
「私達は、恐ろしい存在に触れてしまったというのでしょうか」
歪虚王だけで、西方など吹き飛んでしまうのか。そんな気持ちにさせる。
「ソルラ様、ご命令を」
「……残っている全ての馬車を前線に回して。補給じゃないわ。傷病者の避難の為よ」
恐らく、多くの負傷者が出ているはずだ。
撤退の速度を速めるには、重い怪我を負った者達を運ぶ手段が必要になる。
「それと、例の馬車も使っていいわ。とにかく、全力を出しきって。ここで支えてこそ、後方支援よ」
『軍師騎士』から借り受けた特殊な水陸両用の馬車。これなら、撤退の際に障害となる川を逆に利用してスムーズが移動ができる。
それに、いざとなれば、簡単な細工をした上で並べる事により簡易的な陣地の構築も可能だ。
後方で大事に使っていたが、今は、四の五の言っていられない。
「分かりました。ただ、護衛はいかがしましょうか」
「それも、全力で構わないわ。リゼリオのハンター達にも呼び掛けるから」
さすがに護衛をつけないわけにはいかない。
歪虚王の南下に呼応して、撤退を邪魔する者もいるはずである。
兵士は敬礼すると、部屋から出て行った。
「さて……ナディア総長に連絡が取れるかしら……」
ソルラの溜め息にも似た声が部屋に響いた。
●交渉
サルヴァトーレ・ロッソからの移民が住むリゼリオの一角。
安全であるリゼリオの街の中でも、更に厳重な警備がされている。それは、安全の確保が移民の条件でもあったからだ。
「つまり、警備をしていたハンター達をも駆り出さないといけない程の状況なのですかな」
老人紳士がソルラに確認する。
「負ける……というわけではありません。しかし、戦線を下げるにはどうしても戦力が必要です」
「理屈は分かるよ。しかし、騎士として領地経営に理解ある君なら、儂の言おうとする事も分かるはずじゃ」
初対面と言うのに老人紳士は遠慮ない言葉をぶつけてくる。
なおも、老人紳士は続けた。
「安全が保障されるという条件で移民した者も多い。果たして、その説明で納得できると思うのかね」
歪虚に負けそうなので、警備のハンター達を引き揚げさせると説明して良い顔をする者はいないだろう。
下手をすれば、また、無理な要求をしてくる過激派が出てくる可能性もある。
「……転移者の中には、覚醒者としての素養がある者が多いです。自衛という形で……」
「それが、甘いとは、分からないのか、君は! 戦いたくなくて、船から降りた人々なのだぞ」
老人紳士の言葉はもっともだ。
リアルブルーに居た頃は市民達の代表をやっていたという事もあり、その言葉にはその筋の力がある。
まるで、貴族同士の派閥争いの中に居るような錯覚をソルラは覚えた。
「君は、まだまだ為政者というのを知らない。民を治めるという事をな」
「歪虚の進撃は、そう言っていられない状況なのです」
「軍人という者は、皆、口を揃えてそう言うのだよ。君の言葉は為政者ではなく、まさしく、騎士のものだな」
ぐうの音も出ないとはこの事か。
ソルラは唇を噛んだ。移住した人々の代表団の後見人であるというこの老人紳士を落とさない限り、こちらの要求は通らないというのに。
「君は甘い。移民を覚醒者にしようとする事も、ハンター達を引き上げようとする事も、目先の事ばかりで、その先を考える想像力に欠ける。その甘さは、やがて、大きな失敗を生む。その時、失われる命の責任を君は取れるのかね?」
反撃の言葉を失い、ソルラは黙り込んだ。
「……と、若い娘をいじめても儂の評価に響くからの。こちらの条件を伝えよう」
サッと秘書が一枚の書類をソルラに手渡した。
それを読んで、ソルラは驚く。
「この前、問題を起こした過激派の覚醒者を保護観察としながら警備に付かせるなんて! あり得ません!」
「自衛なら彼らも素直に受け取ってくれるだろう。それに、これは、君が決める事じゃない。さぁ、美しい騎士様のお帰りだ」
ソルラの左右にスーツ姿の男が立った。
悔しい表情を隠しもせず、ソルラは退室した。
●ハンターオフィスの一室にて
「ふーん。そんな事があったんだー。ルミちゃん、難しい事は苦手~」
一連の事をソルラから聞き、ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)が、そんな感想を言った。
「なにか、良い手はないかしら……こう、ハンターになろうっていう気持ちを持ってもらえるように……」
要は自主的に覚醒者になろうという流れになれば、ある程度は解決するのだ。
しかし、その為にどうすればいいか、ソルラの思考は完全に停止していた。
「そういう時は、知って貰えばいいと思います♪」
「知って貰う?」
「そうです。ハンターさんが普段、何をしているのか、どうしているのか、日常のありのままをです」
親近感を持って貰うには、知るという事は大事だ。
「……ルミちゃん……凄いです」
ガシっと彼女の手を握るソルラ。
「え? そうですか? そういう宣伝みたいのは、少しは分かるのですよ☆」
「さっそく、依頼を出します!」
ハンター達の過ごし方を取材させて、それを移住した人達に知って貰う。
その中から、興味や関心を持って貰える人がいれば……あるいは、覚醒者になる者も、もしかしているかもしれない。
なにもしないよりかは良い。少しでも希望があるのであれば。
「お仕事ですね! どうぞ!」
真剣に依頼書に書きこむソルラに向かって、満面の笑みをルミは向けたのであった。
リプレイ本文
●天央 観智(ka0896)
「まぁ、移民を、覚醒者に……とか言う企画そのものには、反対ですけれどね」
宿の一室にて観智が記者の質問に答える。
心の中で、その事に関して一つの推察に至っていた。
(この街の人口の3割程がサルヴァトーレ・ロッソとコロニー市民。そんな中、多くの移民が覚醒者となれば、その影響力は強大になる……移民の中には、それを利用しようとする者や危惧する者もいるはずです)
覚醒者一人の戦闘能力は一般人とは比較にならない。そして、転移者の多くは覚醒者としての素養に恵まれている。
極端な話、移民の半分が覚醒者となり一致団結すれば、一つの都市国家……あるいは、『国家』そのものの形成も可能かもしれない。
「覚醒者に成ったから……と言って、必ずしも人を辞める様な事もなければ、それを強要はされませんし。僕のようにこうして日々を過ごす事もできますから」
机の上に山積みとされている資料の中から一冊の本を取りだす。
「マテリアルと世界・法則について考察しています。取り敢えず、目下一番の興味対象が『それ』なので」
爽やかな笑顔を記者に向ける観智であった。
●ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)
「パワーとテクニックを養うの……名人はこうやって強くなったって、地球では常識なのです」
ニッコリとしながらルンルンが、建物の屋上で、呪符タワーを作りながら記者に伝える。
豊かな胸を揺らしながらマラソンしたり、豆を箸でお皿に移したりと日々の修行の様子を取材させている途中なのだ。
「まだまだ、私の日常生活をバッチリ取材して貰っちゃいます!」
私、チャンピオンだもの、取材は慣れてるんだからと心の中で呟きながら胸を張る。
なお、記者の趣味で、実は、修行の様子というよりかは、思春期男子が喜びそうなカメラアングルなのは秘密であるが。
「え? ニンジャみたいですか? そうなのです! 私のご先祖様は大ニンジャなのです!」
記者からの言葉に、胸を揺らしながらルンルンが純粋な反応をする。そして、ふと、思い出したように言葉を続ける。
「今は、そろそろ何処か下宿とか見つけなくちゃ、東方から来てこの方、宿代もバカにならないもの……思う存分に、カードを拡げられる場所で」
陰陽護符を掲げて楽しそうな表情を浮かべるルンルンだった。
●アルナイル(ka0001)&シリウス(ka0043)&ルキハ・ラスティネイル(ka2633)
リゼリオの街は、海の幸もあれば、サルヴァトーレ・ロッソから手に入る珍しい食材・調味料もあり、食事が美味しいとも言われる同盟諸都市の中でも好評であるようで、アルナイルとシリウスは買物と食事を楽しんでいた。
「今日は、どのお店に入ろうか?」
買物の荷物を抱えながら、シリウスが幼馴染に声を掛けた。
「ケーキが美味しいっていう噂のカフェがあるらしいの。行ってみない?」
桃色の髪を揺らしながらアルナイルが観光案内の雑誌を広げて応えた。
様々な店があり、実に飽きない街である。
「混んでなければいいけど」
「シリィの好きなフルーツタルトもあるって。紅茶も美味しいって噂だし」
アルナイルの言葉に、その組み合わせを一瞬想像するシリウス。
色鮮やかなフルーツが山盛りのタルトと、香り高い紅茶……その威力は抜群だ。
「それじゃ、行ってみようか」
二人が向かったカフェは人気のお店という事だけあって、混雑していた。
相席となり、海が見える3人掛けの席に案内される。
「人気のカフェがあるって聞いて来たのだけど……行列すごいわねぇ。相席になる? アタシは全然構わないわヨ」
ルキハが店員に席を案内される。
そこには、アルナイルとシリウスが既に座っていた。向けられた二人の視線に、ルキハは思わず手を合わせる。
「あら、可愛らしいエルフちゃん達♪ お邪魔するわネ」
そんな事を言いながら、優雅な物腰で腰掛け、
「すいませーん。珈琲とフォンダンショコラお願いー☆」
と注文すると、改めて二人に向き合う。
「あたしはルキハよ、宜しくネ」
「アルナイルっていうの。仲良くしてもらえると嬉しいなって思うの」
「僕はシリウスだよ」
3人のハンター達は初対面というのに、まるで旧知の仲のように会話が弾み始めた。
ショートケーキにフルーツタルト、フォンダンショコラ。
広がる海の光景を望みながら、スイーツを堪能する3人。
「二人は幼馴染で、楽師さんなのネ。いつか貴方達の歌聞かせてもらいたいわぁ♪」
オーバーな手振りを交えながらルキハが言った。
お互いハンターではあるが、一般人と大差はない。色々な職業を生業としている人が居る事は、ハンターにとっても同様である。
「気にいってもらえれば」
シリウスが微笑を浮かべる。
(すごくお洒落な人だな。街にはこんな人もいっぱいいて、楽しい)
今日、街に出て過ごせた事をシリウスは嬉しく思っていた。
「わたし、お家に飾るための可愛い置物とか買いたくて、いいお店知ってます?」
「記者さんの好みの異性のタイプってなぁに~?」
空気を装っていた取材の記者に容赦なく、アルナイルとルキハが絡む。
タジタジとしている状態に気が付いているのかいないのか、アルナイルが身を乗り出すように迫る。
「ちなみに、わたしはお星さまやお月さまをモチーフにしたものが好きなの」
鞄の中からそんな小物を並べる。返答に困っている記者の左腕をルキハが掴む。
「ねぇ、アタシにも取材、さ・せ・て☆」
まるで、取り逃がさないよという雰囲気で笑うと、耳元で囁いた。
記者は救いを求める視線をシリウスに向けてきたが、彼は面白そうな表情を浮かべている。
こうして、この後、3人は記者を巻き込んで、リゼリオでの一日を楽しむのであった。
●フィルメリア・クリスティア(ka3380)×ゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)
海が見えるスイーツが美味しいカフェを出た所で、ゼクスがカフェを振り返りながら言った。
「なかなか、良い店だったな」
「まぁ、そうね……ゼクスが選んだにしては、良かったと思うわ」
とクールな感じを装いながらも、手にはしっかりとお土産の焼菓子を握っている。
「それにしても、取材ねぇ……」
視線を向けた先の柱の影に先程からずっと熱い視線を向けてくるパルムがいた。
ゼクスもパルムの存在に気がついていた。
「こんなしがない軍人崩れのハンターを取材しても面白い事はないと思うが……」
「まぁ、特に気にせずに一日過ごしていればいいのよね。いつもと変わらない日常を過ごせばいいだけだし」
人差し指を斜めに立てながらフィルメリアが自信満々で言った。
その言葉にゼクスは頷く。
「あまり深く考える必要も無いか。彼等にしてみればそれが仕事な訳だし、俺は俺でゆっくり過ごせば良いだけだからな」
気を取り直した所で、ある事を思い至った。
『いつもと変わらない日常』という婚約者の言葉がきっかけだった。
CAMを駆る依頼で偶然にも数年ぶりに再会した二人。転移という事を考えれば、その再会は奇跡と言っても過言ではないだろう。
「フィル……」
婚約者の名を呼びながら、ゼクスは後ろからフィルメリアを優しく抱きしめた。
突然の事に、茫然としていたが、事態を把握して顔を真っ赤に染めるフィルメリア。記者がいないとはいえ、パルムがジッと見つめているのだ。その映像は後で、記者や報告官が確認するのである。
「ちょ、ちょっと! い、いきなり!?」
バッと離れると振り返って拳を振り上げる。
対してゼクスは降参しますと言わんばかりに両手を挙げた。
「殴られるのは勘弁してくれ。フィルに殴られるのは、歪虚に殴られるよりも痛いからな」
と苦笑を浮かべる。それなら、最初からやらなきゃいいものを。
赤面しながらプイっと横に向けるフィルメリア。
「恋人と数年ぶりの……だっていうのに、ま、まったく変わってないんだから……」
恨めしそうな婚約者の言葉に、ゼクスは飄々とした態度で返してあげた。
「変わらない方が安心するだろ?」
「……バカ……!」
拗ねるフィルメリアの手をゼクスは愛おしそうに握った。
●星輝 Amhran(ka0724)+Uisca Amhran(ka0754)
美少女姉妹のハンターが覚醒者の技講義を行うという事で、移住民街の一角が賑わっていた。
「蒼世界の人々は覚醒適合者が多いと聞く。紅世界の者でも、急な覚醒で戸惑いがあったり、そうした場合の事故を未然に防ぐ意味でも、一般の方々にも広く、講義を開いておるのじゃ」
自信満々な態度で星輝が舞台の上に立って市民達に語っていた。
背後には『巫女の集い“B.Grossa”無料講習会』と書かれた垂れ幕が張ってある。
「今日は皆さんにスキルに関する無料講習会を行います」
覚醒者としての素養があり、実際、力を使える人もいるだろう。逆に、覚醒者の持つ力が分からない人もいるだろう。
だから、こういう場を設ける事により、正しい知識を持ってもらう事は大事なのだ。
「ワシは物理系担当じゃ! マテリアル……それらを取り込んで魔法なり、身体能力の向上を行う物がスキルなのじゃ」
星輝が疾影士としての能力を使い、壇上を素早く移動したり、壁を使って高く跳躍したりする。
「物理系は武器を作用先にするのもある」
ワイヤーウィップに内蔵されているモーターをマテリアル制御によって射出・巻戻して実演する。
「うまくすればこんなことも出来るのじゃぞ♪」
射出させたワイヤーを巧みに操り、星輝はリボンを結んでみせた。
驚きや感心が含んだ歓声が響く中、次にUiscaが壇上に上がる。
「私からは魔法担当します」
その言葉に会場の移住民達がざわめく。
リアルブルーにおいては、魔法という言葉にはファンタジーのイメージが強いからだ。
「魔法は厳密な意味ではスキルの一つに過ぎません。魔術具や法具といった発動体を媒介に使用できます」
黄金色の光を発する魔術儀礼用の杖を掲げる。
「効果は様々で、灯りをつけたりできます」
光の精霊の力を杖に付与すると、昼間と言うのに太陽のように輝いた。
「他にも、癒しの魔法もあります」
そう前置きしながら、唄を奏でるように白龍奏歌のスキルを使う。Uiscaの周囲が淡い光によって満たされる。
「あとは、破壊をする魔法もあります。ですが、力の悪用だけはしてはダメですよ!」
光り輝く弾を射出し、的を粉砕した後で、Uiscaが可愛げな表情を作った。
集まった人々から一斉の拍手。少しは覚醒者に対する理解も深まっただろうか。
●カッツ・ランツクネヒト(ka5177)
太陽が徐々に沈み、夕陽が差し込む中、移住民街でカッツがゆっくりとした足取りで歩いていた。
特に用事はない。あの暴動の時に殴ってきた暴徒を探すのも一興だと思ったが、見つけ出してなにさせるわけでもないと、ただ散策していた。
(随分と整頓されているな街並だな)
立ち並ぶ建物の様子を見てカッツはそう思った。
少なく見積もってもだいぶと前から計画されていた可能性はある。
問題は、それほど前から移住の計画があったとして、なぜ、『あの様な騒ぎになったのか』だった。
思った事をツラツラと断片的にメモに残していた時だ。
「あの時のハンターの方ですよね! その節はありがとうございました!」
幼い子を連れた母親が話しかけてきた。
そして、思い出した。暴徒の波に飲み込まれるのを身体を張って助けた親子だと。
「……気にしなくていい。こちらはそれが仕事だからな」
母親は深く頭を下げながら、もう一度、感謝の言葉を告げると去って行った。
去りゆく様子を見守りながら、カッツはハーモニカを取り出す。
夕暮れ時の移住民街にハーモニカの音色が響いた。
●鳳凰院ひりょ(ka3744)
人気がない一角で日課である鍛錬を終えて、ひりょが飲み物を口にする。
転移前に嗜んでいた剣術が今の彼を戦士として形創っていた。
(やはり実戦は稽古とは全く違う)
まず想定している相手が違った。
ハンターとして戦う敵の多くは人の姿をしていない。人間で通用する常識や狙うべき急所も違う。
(もっと、俺は強くなっていかなければな……)
大切な人達を守る為にも。
そんな事を決意した時、突如背後から拍手の音が響く。
振り返ると、何人かの護衛を引き連れ、一人の老人紳士がいた。
「まだ若いのに、素晴らしい事じゃの。名を何と言う」
老人の言葉と尊大な態度にひりょは一瞬、表情を堅くしたが、相手がただ者ではないと感じて姿勢を正した。
「鳳凰院ひりょです」
「活気がある若者を見ると、つい、声をかけたくなるのじゃ……ひりょ君、邪魔したの」
ひりょは返事と共に頷き、去っていく老人紳士を見送った。
この老人、どこかで見た事が――記憶の糸を辿り、答えに行きついた。
(確か、代議士の冬羽 明次郎……)
冷たい風が頬を撫でていき、ひりょは気を引き締めた。
●クリスティン・ガフ(ka1090)VS春日 啓一(ka1621)
二人は昼過ぎから打ち合いを行ってきていた。今は模擬戦闘訓練を取材を兼ねて行っている最中である。
「お互い生き残って幸せな時間を築こうと誓った中、たまには、お互いの牙がどれだけ研ぎ澄まされたかを確認するのも良いだろう」
啓一の言葉に真剣な顔付きでクリスティンは応えた。
「一緒に遊ぶ以外にこういうのも好きだ」
空を裂く音を立てながら斬魔刀『祢々切丸』を納刀したまま振り上げて構える。
(まあ、どうみても俺が負けそうなんだがな……あの大物をどう対処するかね……)
一方の啓一は黒く染め上げた戦闘用のグローブを装着していた。
間合いは変わらず、円を描くように移動しながら、お互いが相手の様子を見る。
先に動いたのはクリスティンだった。間合いを活かし長大な刀を振り下ろす。それを啓一は僅かに後退し、剣先が振り過ぎるを待つ。あとは一気に距離を詰めるだけだ。
微妙に体幹と腕の振りを調整し、遠心力で鞘を飛ばすクリスティン。
(鞘、投げか……ッ!)
啓一は誘われていたのだ。後の先は相手側にあった。
鞘が肩口に当たった。続く斬り上げられた剣先を避けて、一度距離を取る啓一。
「間合いを詰めるにゃ、さて、どうしたもんかね」
再び蜻蛉の構えを取る恋人の隙を探る。
「どうした?」
挑発するような言葉と視線を放つクリスティン。
意を決したように啓一が踏み込んだ。刀が振り下ろされと巧みな機動で避け、間合いの外へ出るという動きを何度か繰り返す。
「疲労させるつもりだが、無駄だと分かっているはずだ」
「そうでも……ねぇさ」
振り下ろされた刀を魔導盾で受け流しながら、一気に距離を詰める。
懐に入れば、格闘武器の方が有利。押し倒す勢いで飛びかかった啓一だが、クリスティンの方が一枚上手だった。
柔軟な動きで後退しながら身体を捻ると、軸足で体勢を整え、刀の柄で迎撃した。
「今回は、私の勝ちだな」
そう言いながら頭をさする啓一に大きいタオルを渡すクリスティン。
「こんなに大きくなくてもよさそうだが」
「風呂だよ。……恋人なのだから一緒に入っても問題はないよね」
澄ました表情と言葉で先に歩きだした彼女の姿に、啓一は苦笑いした。
(訓練だけじゃなく、また、負けたな)
打たれた所をさすっていた手がいつの間にか、掻いていた。
●ジャック・J・グリーヴ(ka1305)&ボルディア・コンフラムス(ka0796)
「俺様を取材してぇとは分かってんじゃねぇか。この世界に煌めく綺羅星の如くイケメンな俺様の姿……普段なら拝むだけでも金を取る所だが……今日は気分が良い……」
辺りは夜の帳が下りて、街灯が輝きだした中、ジャックが向かって記者に言った。
「存分に、俺様を取材しやがれ! まずは酒でも飲みに行こうや!」
ビシっとポーズを華麗に決めた所で、撮影の邪魔にならないように目立たない服装をしていた記者がフードを外す。
「て、てめぇは!?」
ただの記者かと思ったら、ハンターオフィスの受付嬢ミノリだった。
「よろしくお願いします、ジャック様♪」
「お、お、お、おう。任せろ。俺様が、特別に酒奢ってやっからよぉ。決して、一人飲みが寂しいとかそんなんじゃねぇかんな! 勘違いすんじゃねぇぞ!」
赤面しながら必死に虚勢を張るジャックだった。
日が回ろうとしている時間になり、その日の仕事を終えて酒場通りを歩くボルディア。
視界の中で喧嘩が目に入った。暗くて良く分からないが、女性を囲うように柄の悪い連中が絡んでいる。
「こっちにも女だ!」
酔っ払っているのか、何人かが向かってくるのを、ボルディアは不気味な笑顔を向けながら迎え打つ。
鍛え抜かれた身体から繰り出される一撃は覚醒状態に入っていなくとも、十分な威力があった。次々と野郎共を打倒していく。
「てめぇ! 俺様まで、殴るんじゃねぇ!」
最後に殴った男がボルディアの拳を避けて叫ぶ。
よく見たら戦場で一緒になった事があった男だった。
「おまえ、ジャックか! 暗くてよく見えなかったぜ」
「道に迷って変なのに絡まれたと思ったら、あぶねぇ事しやがって」
「すまないな。おっと、なんだ、デートか?」
ジャックとミノリを交互に見つめてボルディアが言う。
「そ、そんなんじゃ、ねぇよ! 取材だ! 取材!」
「あぁ、そうか。それじゃ、朝まで一緒に飲むか!」
楽しそうなボルディアの提案にミノリが喜んだ声をあげた。
昼は誰かの為に命を張り、夜はそれを肴に酒を飲む。結局、ハンターであっても、世の中の人と大差はないのだ。
3人は太陽が顔を出すまで飲み続ける事になった。
ちなみに、翌日、あのジャックが両手に花状態で飲み歩いていたと一部のハンター達の中で噂になった――らしい。
●ナナセ・ウルヴァナ(ka5497)&エスクラーヴ(ka5688 )
太陽が顔を出し、清々しい朝を迎えた中、市場をナナセが買物袋を抱えながら歩いていた。
「おおーっ! 今日はいい肉入ってますね!」
肉屋の前で商品を見て思わず声を上げる。
リゼリオは海に面している事もあり、港の市場には様々な食材、鮮度の良い食材が集まっている。
「ほんとだ。仕入れには、ちょうどいいかな」
同じ商品をみつめるエスクラーヴ。二人とも日常生活の取材中である。
申し合わせた訳ではない。市場での活動中に偶然にも取材が重なったから、二人一緒にとなったのだ。
「鬼は見かけるようになったが、メイド姿は初めてみるな」
肉屋の亭主が驚いた顔をしていた。
「ハンターだが、メイドの仕事は嫌いでしぶしぶやっている。戦いはそれほど好きじゃないけどな」
エスクラーヴが苦笑を浮かべた。
どうも、ハンターや鬼という単語で好戦的と受け止められてしまう場合もあるからだ。
中には戦いがあんまり好きじゃないハンターも多くいるはずである。
「この肉、獲れたてですか? 凄く、鮮度が良さそう」
瞳を輝かせるナナセ。
「おう。お目が高いな嬢ちゃん。これは今朝方、魔導冷蔵庫で届いた上等品よ」
「それを、下さい!」
元気な声を出したナナセを見て、エスクラーヴもそれを買う事に決める。
「俺もその肉にするかな」
数を多く買って、主人の店に持ち帰ろうかなと思う。
これで、ブラブラと外をサボっていたわけではないという弁明もできるだろう。
そこへ亭主の子供が店の影からコソっと姿を現した。
「ハンターだ。鬼だ」
興味津々のようだが、亭主が一喝すると悲鳴をあげて店の奥に引っ込んだ。
「すまねぇ。うちらは転移してきたのだが、まだ子供は慣れなくてな。今日は友達も居ないみてねぇで」
「それなら、私が遊びますよ。取材も一緒ですけど」
ナナセの言葉に、奥から子供が歓声を上げて飛び出してきた。
「なら、俺も一緒しようかな。ちょうど、午後から移民街でも行ってみようと思っていたし」
メイドとして子供の世話なんかも問題ないだろうと思い、エスクラーヴも言った。
二人のハンターからの言葉にとても嬉しそうな声をあげる子供。
ナナセとエスクラーヴの二人は取材を受けながら、子供と一緒に午後も過ごすのであった。
●シャルア・レイセンファード(ka4359)
ハンターオフィス近くの公園でシャルアは、ソルラと偶然にも出逢った。
「そうですね、私自身から見れば、力があるのであれば勿体ないと思うからでしょうか……」
移住者を覚醒者にする事に対してのシャルアの質問にソルラが真面目な顔をして答えた。
「シャルアさんはどう思います?」
「守られるだけでは、もしもという時に、対応ができないかもしれないのです。自分自身を守る為の力を……あたしはそう思うのです」
「つまり、自衛の為にと?」
首を傾げて更に聞いてくるソルラに、シャルアも同じように首を傾げた。
「そういう意味もありますが、自分自身が変わる事が自身を守る為の力になると……これがソルラさんの助言にでもなればいいのですが」
シャルアの言葉にソルラは大きく頷いた。
「……私の尊敬する人も、そんな事を言っていました『平和を成し遂げる為には、全て人間が変わらねばならぬ』と。シャルアさんの言う通りかもしれませんね」
ソルラが明るい笑顔を見せた。彼女なりになにか悩んでいた事が解決できたかもしれない。
彼女が差し出した手をシャルアは笑顔で握った。
●龍崎・カズマ(ka0178)―リューリ・ハルマ(ka0502)―アイビス・グラス(ka2477)―アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
ここは、ギルド街にある【月待猫】。
「みんな、制服で頑張るよ!」
ギルドマスターであるリューリが宣言した。慣れたものでリューリはテキパキと開店の準備を進めていた。
袖がほぼない中華風のメイド服っぽい制服のスカートの丈は、短い。
「生活資金を稼ぐ為にリューリさんのお店でバイトやる事になったけど、この格好は慣れないなぁ」
「いつ着ても慣れないからか、結構恥ずかしい」
アイビスとアルトの二人がスカートの丈に触れながら恥じらう。
(その恥じらう姿が、やっぱり女性だな)
まるごとゆぐでぃらに身を包んだカズマが、そんな感想を思った。
もちろん、そんな言葉を口にしたらどうなるか、彼ならすぐに分かっていた。
強力な蹴りと拳が飛んでくるからだ。彼の仕事は料理や掃除、雑用ではあるが、大切なのは、腕っ節の強い女性陣『から』、セクハラ客の『命』を守る事なのだ。自業自得ではあるが、ボコボコにしすぎたせいで変な評判を立たせるわけにはいかない。
「スカートはミニだし、スースーして落ち着かないし……でも我慢してやらなきゃ」
まるで強敵と戦うまえのよう――否、この緊張感はきっと、歪虚王とサシで対峙しても感じられないだろうとアイビスは思った。
(ちょっと、昨夜、トレーニングし過ぎたかな)
アルトは心配しながら自身の両腕を組むように掴む。
深夜に型を反復して訓練していただけあって腕に疲労感が残っている気がする。
「さぁ! アルトちゃん、アイビスさん、カズマさん! 開店しますよ」
パンパンと手を叩き、扉にぶら下がっている板を裏返す。
そこには『OPEN』と書かれていた。
カウンターのみの店内だが、入れ替わりお客が入ってくる。
忙しさに追われない程度に賑わっていた。
「3番にホットサンドです」
ミニスカートをヒラヒラとさせながらアイビスがカウンターの中にいるリューリに注文を伝えた。
「私は料理がメインだからね。任せてだよ。最近は寒いからホットサンドとか良いのかな?」
早朝に仕込んでおいたパンを用意しながら、そんな感想を呟く。
多種の野菜に絶品のチーズの手慣れた動きで素早く取りだした。
「リューリちゃん! 店の裏で模擬戦したいって人がいるけど、今、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。アルトちゃん、悪いけど、案内してもらっていいかな」
カフェの裏側は模擬戦ができるようにしてある。
アルトは血気盛んなハンターらを誘導していく。
「てんちょ。俺はなにかする事はあるか?」
もふもふのまるごとゆぐでぃら姿のカズマが訊ねた。
ウェイター兼マスコットであるのだが、ウェイトレスとしてアイビスとアルトがいるし、店もあまり忙しくない状態では、する事がない。
「カズマさんは立ってて」
素っ気ない店長の言葉に、カズマは揺れながら立っているのであった。
酔っ払いが数人、崩れるように入ってきた。
「ここかぁ? 可愛いねーちゃんがいる店ってのはー」
「そうですよー。おやぶんー」
「あれ、こんな店でしたっけー?」
嫌な予感にアルトがこめかみをヒクヒクとさせながら作り笑顔を向ける。
「いらっしゃいませ」
酔っ払い達を奥のカウンターへと案内する。
「ねーちゃん、綺麗な足だなー」
酔っ払いの一人が無遠慮にアルトの美脚に触れた。
すかさず手に持っていたお盆で、酔っ払いの頭を叩くアルト。
「ばっかじゃねぇーの、おめぇ、そんなおっかねぇのに手だしてー」
別の酔っ払いが笑い転げながら床をごろごろする。
「見えた! 見えたよ! おやぶん!」
アイビスの真下の転がった男が叫ぶ。
きっと、天使の草原でも見えたのだろう。
「お客様、不用意なお触り・視線はお断りですよ♪」
怒り心頭なのを抑えながら満面の笑みで酔っ払いに向かって言うと、拳を突き降ろす。
「なんでぇ、ちっとぐらい、いいじゃねぇーか」
親分と呼ばれた男がヘラヘラと笑いながら、カウンターから出て来たリューリの胸を掴もうと手を伸ばした。
電光石火の動きでリューリが投げ倒す。
そこへ二人の酔っ払いもドサドサと集まるように倒れ込んだ。アイビスとアルトの拳が鳴っている。
「「「ただで、帰れると、思うなよ」」」
天使のなにかが丸見え状態だろうが、気にせず、リューリ、アイビス、アルトが怒りの言葉を重ねた。
とそこへ、客(の命)が危険と感じて、カズマが滑り込んできた。
「おらおらおら!」
もふもふのその手でボコボコと殴って、店の外に追い出し(避難)させたのであった。
●マヘル・ハシバス(ka0440)~小鳥遊 時雨(ka4921)
待ち合わせ場所にやってきた時雨を見て、マヘルが驚く。
「あら、その格好はどうなされたのですか?」
「私さ。向こうにいた頃、あんまり学校通えてなくてだから、学生の間くらい、せめて……ね?」
学校の制服姿が眩しい。
「それに今回は取材っしょ? 元気にやってる姿、映してもらおうって思って」
「そうですね。時雨さんの元気な姿見て、喜んでいる人がいますよ」
笑顔で言ったマヘルだったが、心中は複雑だった。
この子はなにかを隠している。以前から依頼で一緒になる事が多かったが、都度、気になる事があったからだ。
二人は楽しく買物や散策を済ませた後、【月待猫】と書かれた喫茶店に入った。
「コーヒーのホットと何か甘いものを。時雨さんは、どうしますか? 私はブラックにしますが」
「私も珈琲をブラックで」
キリッとした表情の時雨。
だが、後悔する事になったのは言うまでもない。届いた珈琲に一口つけ時雨の動きが止まる。
「大丈夫ですか、時雨さん?」
「に、苦いー! ……ミルクと砂糖を追加で」
すぐに砂糖とミルクを注文した時雨は、フフっと笑った。
どうしたものかと言いたげなマヘルの視線に答える。
「マヘルやノゾミ皆と出会って、やりたかったこといっぱい叶っちゃったから、わりと満足、かな。……いつもありがと、マヘル。楽しかったよん」
どことなく悲しげな陰りを残しながら笑顔の時雨に、マヘルが唾を飲み込んでから口を開いた。
「過去形で言わないでください」
そして、しっかりと時雨の瞳をみつめた。
「……私は、ただリアルブルーに帰る事を目的に覚醒者になりました。ですが、時雨さんやノゾミさんと出会って、やりたいことが出てきました」
ゆっくりと静かに、一言一言に力を込めるマヘル。
「私は、貴方達に、力を貸せようになりたい」
ウェイトレスが気を使って、砂糖とミルクが静かに置いた。
時雨は震える手で砂糖に手を伸ばす――が、珈琲に入れる前に落としてしまった。
頬から流れるものを袖で拭い、時雨が身を乗り出す。
「マヘルに、だけは、伝えておくね……私のことを、さ……耳、貸してくれる?」
時雨の真剣な表情にマヘルは頷くと、彼女と同じように身を乗り出した。
テーブルに転がった砂糖だけが、二人の会話を聞いていた。
●ヒース・R・ウォーカー(ka0145)
移民街を散策した後、『宵闇の館』に戻ったヒースは、手記を書きながら取材に応じていた。
「リアルブルー……あの世界を楽園とは思わない。多くの血が流れている。それも人間同士の争いによって、ねぇ」
記者は信じられないという反応を見せた。この世界に住む者なのだろう。
「それでも、ボクにはあの世界に帰る理由がある。帰る手段をこの手にするまで、ボクは戦い続け、ボクが見聞きした事を記録する。それがボクに出来る事」
手記が何冊にもなっていた事に記者は気がついた。
彼の激闘の日々が綴られているに違いない。
「何もせずに、ただ生きるだけでは平穏を得る為に死んでいった者たちに失礼だからねぇ」
こうしている間にも北伐に限らず、戦い、傷つき、死んでいくものがいるだろう。
そして、戦いに身を投じるという事はいつ死と直面するかわからない。彼が残しているのは、自身と仲間達の生きた証なのだ。
「ボクらは数多の屍の上に立っている。それに気づかない、あるいは目を背ける臆病な卑怯者にはなりたくないんでねぇ」
微笑を浮かべながら言った彼の言葉に記者は深く頷いていたのであった。
こうして、ハンター達の一日は過ぎた。
取材した内容は広く移住した人々に知らされ――大きな反響を呼んだと言う。
おしまい。
「まぁ、移民を、覚醒者に……とか言う企画そのものには、反対ですけれどね」
宿の一室にて観智が記者の質問に答える。
心の中で、その事に関して一つの推察に至っていた。
(この街の人口の3割程がサルヴァトーレ・ロッソとコロニー市民。そんな中、多くの移民が覚醒者となれば、その影響力は強大になる……移民の中には、それを利用しようとする者や危惧する者もいるはずです)
覚醒者一人の戦闘能力は一般人とは比較にならない。そして、転移者の多くは覚醒者としての素養に恵まれている。
極端な話、移民の半分が覚醒者となり一致団結すれば、一つの都市国家……あるいは、『国家』そのものの形成も可能かもしれない。
「覚醒者に成ったから……と言って、必ずしも人を辞める様な事もなければ、それを強要はされませんし。僕のようにこうして日々を過ごす事もできますから」
机の上に山積みとされている資料の中から一冊の本を取りだす。
「マテリアルと世界・法則について考察しています。取り敢えず、目下一番の興味対象が『それ』なので」
爽やかな笑顔を記者に向ける観智であった。
●ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)
「パワーとテクニックを養うの……名人はこうやって強くなったって、地球では常識なのです」
ニッコリとしながらルンルンが、建物の屋上で、呪符タワーを作りながら記者に伝える。
豊かな胸を揺らしながらマラソンしたり、豆を箸でお皿に移したりと日々の修行の様子を取材させている途中なのだ。
「まだまだ、私の日常生活をバッチリ取材して貰っちゃいます!」
私、チャンピオンだもの、取材は慣れてるんだからと心の中で呟きながら胸を張る。
なお、記者の趣味で、実は、修行の様子というよりかは、思春期男子が喜びそうなカメラアングルなのは秘密であるが。
「え? ニンジャみたいですか? そうなのです! 私のご先祖様は大ニンジャなのです!」
記者からの言葉に、胸を揺らしながらルンルンが純粋な反応をする。そして、ふと、思い出したように言葉を続ける。
「今は、そろそろ何処か下宿とか見つけなくちゃ、東方から来てこの方、宿代もバカにならないもの……思う存分に、カードを拡げられる場所で」
陰陽護符を掲げて楽しそうな表情を浮かべるルンルンだった。
●アルナイル(ka0001)&シリウス(ka0043)&ルキハ・ラスティネイル(ka2633)
リゼリオの街は、海の幸もあれば、サルヴァトーレ・ロッソから手に入る珍しい食材・調味料もあり、食事が美味しいとも言われる同盟諸都市の中でも好評であるようで、アルナイルとシリウスは買物と食事を楽しんでいた。
「今日は、どのお店に入ろうか?」
買物の荷物を抱えながら、シリウスが幼馴染に声を掛けた。
「ケーキが美味しいっていう噂のカフェがあるらしいの。行ってみない?」
桃色の髪を揺らしながらアルナイルが観光案内の雑誌を広げて応えた。
様々な店があり、実に飽きない街である。
「混んでなければいいけど」
「シリィの好きなフルーツタルトもあるって。紅茶も美味しいって噂だし」
アルナイルの言葉に、その組み合わせを一瞬想像するシリウス。
色鮮やかなフルーツが山盛りのタルトと、香り高い紅茶……その威力は抜群だ。
「それじゃ、行ってみようか」
二人が向かったカフェは人気のお店という事だけあって、混雑していた。
相席となり、海が見える3人掛けの席に案内される。
「人気のカフェがあるって聞いて来たのだけど……行列すごいわねぇ。相席になる? アタシは全然構わないわヨ」
ルキハが店員に席を案内される。
そこには、アルナイルとシリウスが既に座っていた。向けられた二人の視線に、ルキハは思わず手を合わせる。
「あら、可愛らしいエルフちゃん達♪ お邪魔するわネ」
そんな事を言いながら、優雅な物腰で腰掛け、
「すいませーん。珈琲とフォンダンショコラお願いー☆」
と注文すると、改めて二人に向き合う。
「あたしはルキハよ、宜しくネ」
「アルナイルっていうの。仲良くしてもらえると嬉しいなって思うの」
「僕はシリウスだよ」
3人のハンター達は初対面というのに、まるで旧知の仲のように会話が弾み始めた。
ショートケーキにフルーツタルト、フォンダンショコラ。
広がる海の光景を望みながら、スイーツを堪能する3人。
「二人は幼馴染で、楽師さんなのネ。いつか貴方達の歌聞かせてもらいたいわぁ♪」
オーバーな手振りを交えながらルキハが言った。
お互いハンターではあるが、一般人と大差はない。色々な職業を生業としている人が居る事は、ハンターにとっても同様である。
「気にいってもらえれば」
シリウスが微笑を浮かべる。
(すごくお洒落な人だな。街にはこんな人もいっぱいいて、楽しい)
今日、街に出て過ごせた事をシリウスは嬉しく思っていた。
「わたし、お家に飾るための可愛い置物とか買いたくて、いいお店知ってます?」
「記者さんの好みの異性のタイプってなぁに~?」
空気を装っていた取材の記者に容赦なく、アルナイルとルキハが絡む。
タジタジとしている状態に気が付いているのかいないのか、アルナイルが身を乗り出すように迫る。
「ちなみに、わたしはお星さまやお月さまをモチーフにしたものが好きなの」
鞄の中からそんな小物を並べる。返答に困っている記者の左腕をルキハが掴む。
「ねぇ、アタシにも取材、さ・せ・て☆」
まるで、取り逃がさないよという雰囲気で笑うと、耳元で囁いた。
記者は救いを求める視線をシリウスに向けてきたが、彼は面白そうな表情を浮かべている。
こうして、この後、3人は記者を巻き込んで、リゼリオでの一日を楽しむのであった。
●フィルメリア・クリスティア(ka3380)×ゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)
海が見えるスイーツが美味しいカフェを出た所で、ゼクスがカフェを振り返りながら言った。
「なかなか、良い店だったな」
「まぁ、そうね……ゼクスが選んだにしては、良かったと思うわ」
とクールな感じを装いながらも、手にはしっかりとお土産の焼菓子を握っている。
「それにしても、取材ねぇ……」
視線を向けた先の柱の影に先程からずっと熱い視線を向けてくるパルムがいた。
ゼクスもパルムの存在に気がついていた。
「こんなしがない軍人崩れのハンターを取材しても面白い事はないと思うが……」
「まぁ、特に気にせずに一日過ごしていればいいのよね。いつもと変わらない日常を過ごせばいいだけだし」
人差し指を斜めに立てながらフィルメリアが自信満々で言った。
その言葉にゼクスは頷く。
「あまり深く考える必要も無いか。彼等にしてみればそれが仕事な訳だし、俺は俺でゆっくり過ごせば良いだけだからな」
気を取り直した所で、ある事を思い至った。
『いつもと変わらない日常』という婚約者の言葉がきっかけだった。
CAMを駆る依頼で偶然にも数年ぶりに再会した二人。転移という事を考えれば、その再会は奇跡と言っても過言ではないだろう。
「フィル……」
婚約者の名を呼びながら、ゼクスは後ろからフィルメリアを優しく抱きしめた。
突然の事に、茫然としていたが、事態を把握して顔を真っ赤に染めるフィルメリア。記者がいないとはいえ、パルムがジッと見つめているのだ。その映像は後で、記者や報告官が確認するのである。
「ちょ、ちょっと! い、いきなり!?」
バッと離れると振り返って拳を振り上げる。
対してゼクスは降参しますと言わんばかりに両手を挙げた。
「殴られるのは勘弁してくれ。フィルに殴られるのは、歪虚に殴られるよりも痛いからな」
と苦笑を浮かべる。それなら、最初からやらなきゃいいものを。
赤面しながらプイっと横に向けるフィルメリア。
「恋人と数年ぶりの……だっていうのに、ま、まったく変わってないんだから……」
恨めしそうな婚約者の言葉に、ゼクスは飄々とした態度で返してあげた。
「変わらない方が安心するだろ?」
「……バカ……!」
拗ねるフィルメリアの手をゼクスは愛おしそうに握った。
●星輝 Amhran(ka0724)+Uisca Amhran(ka0754)
美少女姉妹のハンターが覚醒者の技講義を行うという事で、移住民街の一角が賑わっていた。
「蒼世界の人々は覚醒適合者が多いと聞く。紅世界の者でも、急な覚醒で戸惑いがあったり、そうした場合の事故を未然に防ぐ意味でも、一般の方々にも広く、講義を開いておるのじゃ」
自信満々な態度で星輝が舞台の上に立って市民達に語っていた。
背後には『巫女の集い“B.Grossa”無料講習会』と書かれた垂れ幕が張ってある。
「今日は皆さんにスキルに関する無料講習会を行います」
覚醒者としての素養があり、実際、力を使える人もいるだろう。逆に、覚醒者の持つ力が分からない人もいるだろう。
だから、こういう場を設ける事により、正しい知識を持ってもらう事は大事なのだ。
「ワシは物理系担当じゃ! マテリアル……それらを取り込んで魔法なり、身体能力の向上を行う物がスキルなのじゃ」
星輝が疾影士としての能力を使い、壇上を素早く移動したり、壁を使って高く跳躍したりする。
「物理系は武器を作用先にするのもある」
ワイヤーウィップに内蔵されているモーターをマテリアル制御によって射出・巻戻して実演する。
「うまくすればこんなことも出来るのじゃぞ♪」
射出させたワイヤーを巧みに操り、星輝はリボンを結んでみせた。
驚きや感心が含んだ歓声が響く中、次にUiscaが壇上に上がる。
「私からは魔法担当します」
その言葉に会場の移住民達がざわめく。
リアルブルーにおいては、魔法という言葉にはファンタジーのイメージが強いからだ。
「魔法は厳密な意味ではスキルの一つに過ぎません。魔術具や法具といった発動体を媒介に使用できます」
黄金色の光を発する魔術儀礼用の杖を掲げる。
「効果は様々で、灯りをつけたりできます」
光の精霊の力を杖に付与すると、昼間と言うのに太陽のように輝いた。
「他にも、癒しの魔法もあります」
そう前置きしながら、唄を奏でるように白龍奏歌のスキルを使う。Uiscaの周囲が淡い光によって満たされる。
「あとは、破壊をする魔法もあります。ですが、力の悪用だけはしてはダメですよ!」
光り輝く弾を射出し、的を粉砕した後で、Uiscaが可愛げな表情を作った。
集まった人々から一斉の拍手。少しは覚醒者に対する理解も深まっただろうか。
●カッツ・ランツクネヒト(ka5177)
太陽が徐々に沈み、夕陽が差し込む中、移住民街でカッツがゆっくりとした足取りで歩いていた。
特に用事はない。あの暴動の時に殴ってきた暴徒を探すのも一興だと思ったが、見つけ出してなにさせるわけでもないと、ただ散策していた。
(随分と整頓されているな街並だな)
立ち並ぶ建物の様子を見てカッツはそう思った。
少なく見積もってもだいぶと前から計画されていた可能性はある。
問題は、それほど前から移住の計画があったとして、なぜ、『あの様な騒ぎになったのか』だった。
思った事をツラツラと断片的にメモに残していた時だ。
「あの時のハンターの方ですよね! その節はありがとうございました!」
幼い子を連れた母親が話しかけてきた。
そして、思い出した。暴徒の波に飲み込まれるのを身体を張って助けた親子だと。
「……気にしなくていい。こちらはそれが仕事だからな」
母親は深く頭を下げながら、もう一度、感謝の言葉を告げると去って行った。
去りゆく様子を見守りながら、カッツはハーモニカを取り出す。
夕暮れ時の移住民街にハーモニカの音色が響いた。
●鳳凰院ひりょ(ka3744)
人気がない一角で日課である鍛錬を終えて、ひりょが飲み物を口にする。
転移前に嗜んでいた剣術が今の彼を戦士として形創っていた。
(やはり実戦は稽古とは全く違う)
まず想定している相手が違った。
ハンターとして戦う敵の多くは人の姿をしていない。人間で通用する常識や狙うべき急所も違う。
(もっと、俺は強くなっていかなければな……)
大切な人達を守る為にも。
そんな事を決意した時、突如背後から拍手の音が響く。
振り返ると、何人かの護衛を引き連れ、一人の老人紳士がいた。
「まだ若いのに、素晴らしい事じゃの。名を何と言う」
老人の言葉と尊大な態度にひりょは一瞬、表情を堅くしたが、相手がただ者ではないと感じて姿勢を正した。
「鳳凰院ひりょです」
「活気がある若者を見ると、つい、声をかけたくなるのじゃ……ひりょ君、邪魔したの」
ひりょは返事と共に頷き、去っていく老人紳士を見送った。
この老人、どこかで見た事が――記憶の糸を辿り、答えに行きついた。
(確か、代議士の冬羽 明次郎……)
冷たい風が頬を撫でていき、ひりょは気を引き締めた。
●クリスティン・ガフ(ka1090)VS春日 啓一(ka1621)
二人は昼過ぎから打ち合いを行ってきていた。今は模擬戦闘訓練を取材を兼ねて行っている最中である。
「お互い生き残って幸せな時間を築こうと誓った中、たまには、お互いの牙がどれだけ研ぎ澄まされたかを確認するのも良いだろう」
啓一の言葉に真剣な顔付きでクリスティンは応えた。
「一緒に遊ぶ以外にこういうのも好きだ」
空を裂く音を立てながら斬魔刀『祢々切丸』を納刀したまま振り上げて構える。
(まあ、どうみても俺が負けそうなんだがな……あの大物をどう対処するかね……)
一方の啓一は黒く染め上げた戦闘用のグローブを装着していた。
間合いは変わらず、円を描くように移動しながら、お互いが相手の様子を見る。
先に動いたのはクリスティンだった。間合いを活かし長大な刀を振り下ろす。それを啓一は僅かに後退し、剣先が振り過ぎるを待つ。あとは一気に距離を詰めるだけだ。
微妙に体幹と腕の振りを調整し、遠心力で鞘を飛ばすクリスティン。
(鞘、投げか……ッ!)
啓一は誘われていたのだ。後の先は相手側にあった。
鞘が肩口に当たった。続く斬り上げられた剣先を避けて、一度距離を取る啓一。
「間合いを詰めるにゃ、さて、どうしたもんかね」
再び蜻蛉の構えを取る恋人の隙を探る。
「どうした?」
挑発するような言葉と視線を放つクリスティン。
意を決したように啓一が踏み込んだ。刀が振り下ろされと巧みな機動で避け、間合いの外へ出るという動きを何度か繰り返す。
「疲労させるつもりだが、無駄だと分かっているはずだ」
「そうでも……ねぇさ」
振り下ろされた刀を魔導盾で受け流しながら、一気に距離を詰める。
懐に入れば、格闘武器の方が有利。押し倒す勢いで飛びかかった啓一だが、クリスティンの方が一枚上手だった。
柔軟な動きで後退しながら身体を捻ると、軸足で体勢を整え、刀の柄で迎撃した。
「今回は、私の勝ちだな」
そう言いながら頭をさする啓一に大きいタオルを渡すクリスティン。
「こんなに大きくなくてもよさそうだが」
「風呂だよ。……恋人なのだから一緒に入っても問題はないよね」
澄ました表情と言葉で先に歩きだした彼女の姿に、啓一は苦笑いした。
(訓練だけじゃなく、また、負けたな)
打たれた所をさすっていた手がいつの間にか、掻いていた。
●ジャック・J・グリーヴ(ka1305)&ボルディア・コンフラムス(ka0796)
「俺様を取材してぇとは分かってんじゃねぇか。この世界に煌めく綺羅星の如くイケメンな俺様の姿……普段なら拝むだけでも金を取る所だが……今日は気分が良い……」
辺りは夜の帳が下りて、街灯が輝きだした中、ジャックが向かって記者に言った。
「存分に、俺様を取材しやがれ! まずは酒でも飲みに行こうや!」
ビシっとポーズを華麗に決めた所で、撮影の邪魔にならないように目立たない服装をしていた記者がフードを外す。
「て、てめぇは!?」
ただの記者かと思ったら、ハンターオフィスの受付嬢ミノリだった。
「よろしくお願いします、ジャック様♪」
「お、お、お、おう。任せろ。俺様が、特別に酒奢ってやっからよぉ。決して、一人飲みが寂しいとかそんなんじゃねぇかんな! 勘違いすんじゃねぇぞ!」
赤面しながら必死に虚勢を張るジャックだった。
日が回ろうとしている時間になり、その日の仕事を終えて酒場通りを歩くボルディア。
視界の中で喧嘩が目に入った。暗くて良く分からないが、女性を囲うように柄の悪い連中が絡んでいる。
「こっちにも女だ!」
酔っ払っているのか、何人かが向かってくるのを、ボルディアは不気味な笑顔を向けながら迎え打つ。
鍛え抜かれた身体から繰り出される一撃は覚醒状態に入っていなくとも、十分な威力があった。次々と野郎共を打倒していく。
「てめぇ! 俺様まで、殴るんじゃねぇ!」
最後に殴った男がボルディアの拳を避けて叫ぶ。
よく見たら戦場で一緒になった事があった男だった。
「おまえ、ジャックか! 暗くてよく見えなかったぜ」
「道に迷って変なのに絡まれたと思ったら、あぶねぇ事しやがって」
「すまないな。おっと、なんだ、デートか?」
ジャックとミノリを交互に見つめてボルディアが言う。
「そ、そんなんじゃ、ねぇよ! 取材だ! 取材!」
「あぁ、そうか。それじゃ、朝まで一緒に飲むか!」
楽しそうなボルディアの提案にミノリが喜んだ声をあげた。
昼は誰かの為に命を張り、夜はそれを肴に酒を飲む。結局、ハンターであっても、世の中の人と大差はないのだ。
3人は太陽が顔を出すまで飲み続ける事になった。
ちなみに、翌日、あのジャックが両手に花状態で飲み歩いていたと一部のハンター達の中で噂になった――らしい。
●ナナセ・ウルヴァナ(ka5497)&エスクラーヴ(ka5688 )
太陽が顔を出し、清々しい朝を迎えた中、市場をナナセが買物袋を抱えながら歩いていた。
「おおーっ! 今日はいい肉入ってますね!」
肉屋の前で商品を見て思わず声を上げる。
リゼリオは海に面している事もあり、港の市場には様々な食材、鮮度の良い食材が集まっている。
「ほんとだ。仕入れには、ちょうどいいかな」
同じ商品をみつめるエスクラーヴ。二人とも日常生活の取材中である。
申し合わせた訳ではない。市場での活動中に偶然にも取材が重なったから、二人一緒にとなったのだ。
「鬼は見かけるようになったが、メイド姿は初めてみるな」
肉屋の亭主が驚いた顔をしていた。
「ハンターだが、メイドの仕事は嫌いでしぶしぶやっている。戦いはそれほど好きじゃないけどな」
エスクラーヴが苦笑を浮かべた。
どうも、ハンターや鬼という単語で好戦的と受け止められてしまう場合もあるからだ。
中には戦いがあんまり好きじゃないハンターも多くいるはずである。
「この肉、獲れたてですか? 凄く、鮮度が良さそう」
瞳を輝かせるナナセ。
「おう。お目が高いな嬢ちゃん。これは今朝方、魔導冷蔵庫で届いた上等品よ」
「それを、下さい!」
元気な声を出したナナセを見て、エスクラーヴもそれを買う事に決める。
「俺もその肉にするかな」
数を多く買って、主人の店に持ち帰ろうかなと思う。
これで、ブラブラと外をサボっていたわけではないという弁明もできるだろう。
そこへ亭主の子供が店の影からコソっと姿を現した。
「ハンターだ。鬼だ」
興味津々のようだが、亭主が一喝すると悲鳴をあげて店の奥に引っ込んだ。
「すまねぇ。うちらは転移してきたのだが、まだ子供は慣れなくてな。今日は友達も居ないみてねぇで」
「それなら、私が遊びますよ。取材も一緒ですけど」
ナナセの言葉に、奥から子供が歓声を上げて飛び出してきた。
「なら、俺も一緒しようかな。ちょうど、午後から移民街でも行ってみようと思っていたし」
メイドとして子供の世話なんかも問題ないだろうと思い、エスクラーヴも言った。
二人のハンターからの言葉にとても嬉しそうな声をあげる子供。
ナナセとエスクラーヴの二人は取材を受けながら、子供と一緒に午後も過ごすのであった。
●シャルア・レイセンファード(ka4359)
ハンターオフィス近くの公園でシャルアは、ソルラと偶然にも出逢った。
「そうですね、私自身から見れば、力があるのであれば勿体ないと思うからでしょうか……」
移住者を覚醒者にする事に対してのシャルアの質問にソルラが真面目な顔をして答えた。
「シャルアさんはどう思います?」
「守られるだけでは、もしもという時に、対応ができないかもしれないのです。自分自身を守る為の力を……あたしはそう思うのです」
「つまり、自衛の為にと?」
首を傾げて更に聞いてくるソルラに、シャルアも同じように首を傾げた。
「そういう意味もありますが、自分自身が変わる事が自身を守る為の力になると……これがソルラさんの助言にでもなればいいのですが」
シャルアの言葉にソルラは大きく頷いた。
「……私の尊敬する人も、そんな事を言っていました『平和を成し遂げる為には、全て人間が変わらねばならぬ』と。シャルアさんの言う通りかもしれませんね」
ソルラが明るい笑顔を見せた。彼女なりになにか悩んでいた事が解決できたかもしれない。
彼女が差し出した手をシャルアは笑顔で握った。
●龍崎・カズマ(ka0178)―リューリ・ハルマ(ka0502)―アイビス・グラス(ka2477)―アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
ここは、ギルド街にある【月待猫】。
「みんな、制服で頑張るよ!」
ギルドマスターであるリューリが宣言した。慣れたものでリューリはテキパキと開店の準備を進めていた。
袖がほぼない中華風のメイド服っぽい制服のスカートの丈は、短い。
「生活資金を稼ぐ為にリューリさんのお店でバイトやる事になったけど、この格好は慣れないなぁ」
「いつ着ても慣れないからか、結構恥ずかしい」
アイビスとアルトの二人がスカートの丈に触れながら恥じらう。
(その恥じらう姿が、やっぱり女性だな)
まるごとゆぐでぃらに身を包んだカズマが、そんな感想を思った。
もちろん、そんな言葉を口にしたらどうなるか、彼ならすぐに分かっていた。
強力な蹴りと拳が飛んでくるからだ。彼の仕事は料理や掃除、雑用ではあるが、大切なのは、腕っ節の強い女性陣『から』、セクハラ客の『命』を守る事なのだ。自業自得ではあるが、ボコボコにしすぎたせいで変な評判を立たせるわけにはいかない。
「スカートはミニだし、スースーして落ち着かないし……でも我慢してやらなきゃ」
まるで強敵と戦うまえのよう――否、この緊張感はきっと、歪虚王とサシで対峙しても感じられないだろうとアイビスは思った。
(ちょっと、昨夜、トレーニングし過ぎたかな)
アルトは心配しながら自身の両腕を組むように掴む。
深夜に型を反復して訓練していただけあって腕に疲労感が残っている気がする。
「さぁ! アルトちゃん、アイビスさん、カズマさん! 開店しますよ」
パンパンと手を叩き、扉にぶら下がっている板を裏返す。
そこには『OPEN』と書かれていた。
カウンターのみの店内だが、入れ替わりお客が入ってくる。
忙しさに追われない程度に賑わっていた。
「3番にホットサンドです」
ミニスカートをヒラヒラとさせながらアイビスがカウンターの中にいるリューリに注文を伝えた。
「私は料理がメインだからね。任せてだよ。最近は寒いからホットサンドとか良いのかな?」
早朝に仕込んでおいたパンを用意しながら、そんな感想を呟く。
多種の野菜に絶品のチーズの手慣れた動きで素早く取りだした。
「リューリちゃん! 店の裏で模擬戦したいって人がいるけど、今、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。アルトちゃん、悪いけど、案内してもらっていいかな」
カフェの裏側は模擬戦ができるようにしてある。
アルトは血気盛んなハンターらを誘導していく。
「てんちょ。俺はなにかする事はあるか?」
もふもふのまるごとゆぐでぃら姿のカズマが訊ねた。
ウェイター兼マスコットであるのだが、ウェイトレスとしてアイビスとアルトがいるし、店もあまり忙しくない状態では、する事がない。
「カズマさんは立ってて」
素っ気ない店長の言葉に、カズマは揺れながら立っているのであった。
酔っ払いが数人、崩れるように入ってきた。
「ここかぁ? 可愛いねーちゃんがいる店ってのはー」
「そうですよー。おやぶんー」
「あれ、こんな店でしたっけー?」
嫌な予感にアルトがこめかみをヒクヒクとさせながら作り笑顔を向ける。
「いらっしゃいませ」
酔っ払い達を奥のカウンターへと案内する。
「ねーちゃん、綺麗な足だなー」
酔っ払いの一人が無遠慮にアルトの美脚に触れた。
すかさず手に持っていたお盆で、酔っ払いの頭を叩くアルト。
「ばっかじゃねぇーの、おめぇ、そんなおっかねぇのに手だしてー」
別の酔っ払いが笑い転げながら床をごろごろする。
「見えた! 見えたよ! おやぶん!」
アイビスの真下の転がった男が叫ぶ。
きっと、天使の草原でも見えたのだろう。
「お客様、不用意なお触り・視線はお断りですよ♪」
怒り心頭なのを抑えながら満面の笑みで酔っ払いに向かって言うと、拳を突き降ろす。
「なんでぇ、ちっとぐらい、いいじゃねぇーか」
親分と呼ばれた男がヘラヘラと笑いながら、カウンターから出て来たリューリの胸を掴もうと手を伸ばした。
電光石火の動きでリューリが投げ倒す。
そこへ二人の酔っ払いもドサドサと集まるように倒れ込んだ。アイビスとアルトの拳が鳴っている。
「「「ただで、帰れると、思うなよ」」」
天使のなにかが丸見え状態だろうが、気にせず、リューリ、アイビス、アルトが怒りの言葉を重ねた。
とそこへ、客(の命)が危険と感じて、カズマが滑り込んできた。
「おらおらおら!」
もふもふのその手でボコボコと殴って、店の外に追い出し(避難)させたのであった。
●マヘル・ハシバス(ka0440)~小鳥遊 時雨(ka4921)
待ち合わせ場所にやってきた時雨を見て、マヘルが驚く。
「あら、その格好はどうなされたのですか?」
「私さ。向こうにいた頃、あんまり学校通えてなくてだから、学生の間くらい、せめて……ね?」
学校の制服姿が眩しい。
「それに今回は取材っしょ? 元気にやってる姿、映してもらおうって思って」
「そうですね。時雨さんの元気な姿見て、喜んでいる人がいますよ」
笑顔で言ったマヘルだったが、心中は複雑だった。
この子はなにかを隠している。以前から依頼で一緒になる事が多かったが、都度、気になる事があったからだ。
二人は楽しく買物や散策を済ませた後、【月待猫】と書かれた喫茶店に入った。
「コーヒーのホットと何か甘いものを。時雨さんは、どうしますか? 私はブラックにしますが」
「私も珈琲をブラックで」
キリッとした表情の時雨。
だが、後悔する事になったのは言うまでもない。届いた珈琲に一口つけ時雨の動きが止まる。
「大丈夫ですか、時雨さん?」
「に、苦いー! ……ミルクと砂糖を追加で」
すぐに砂糖とミルクを注文した時雨は、フフっと笑った。
どうしたものかと言いたげなマヘルの視線に答える。
「マヘルやノゾミ皆と出会って、やりたかったこといっぱい叶っちゃったから、わりと満足、かな。……いつもありがと、マヘル。楽しかったよん」
どことなく悲しげな陰りを残しながら笑顔の時雨に、マヘルが唾を飲み込んでから口を開いた。
「過去形で言わないでください」
そして、しっかりと時雨の瞳をみつめた。
「……私は、ただリアルブルーに帰る事を目的に覚醒者になりました。ですが、時雨さんやノゾミさんと出会って、やりたいことが出てきました」
ゆっくりと静かに、一言一言に力を込めるマヘル。
「私は、貴方達に、力を貸せようになりたい」
ウェイトレスが気を使って、砂糖とミルクが静かに置いた。
時雨は震える手で砂糖に手を伸ばす――が、珈琲に入れる前に落としてしまった。
頬から流れるものを袖で拭い、時雨が身を乗り出す。
「マヘルに、だけは、伝えておくね……私のことを、さ……耳、貸してくれる?」
時雨の真剣な表情にマヘルは頷くと、彼女と同じように身を乗り出した。
テーブルに転がった砂糖だけが、二人の会話を聞いていた。
●ヒース・R・ウォーカー(ka0145)
移民街を散策した後、『宵闇の館』に戻ったヒースは、手記を書きながら取材に応じていた。
「リアルブルー……あの世界を楽園とは思わない。多くの血が流れている。それも人間同士の争いによって、ねぇ」
記者は信じられないという反応を見せた。この世界に住む者なのだろう。
「それでも、ボクにはあの世界に帰る理由がある。帰る手段をこの手にするまで、ボクは戦い続け、ボクが見聞きした事を記録する。それがボクに出来る事」
手記が何冊にもなっていた事に記者は気がついた。
彼の激闘の日々が綴られているに違いない。
「何もせずに、ただ生きるだけでは平穏を得る為に死んでいった者たちに失礼だからねぇ」
こうしている間にも北伐に限らず、戦い、傷つき、死んでいくものがいるだろう。
そして、戦いに身を投じるという事はいつ死と直面するかわからない。彼が残しているのは、自身と仲間達の生きた証なのだ。
「ボクらは数多の屍の上に立っている。それに気づかない、あるいは目を背ける臆病な卑怯者にはなりたくないんでねぇ」
微笑を浮かべながら言った彼の言葉に記者は深く頷いていたのであった。
こうして、ハンター達の一日は過ぎた。
取材した内容は広く移住した人々に知らされ――大きな反響を呼んだと言う。
おしまい。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 17人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
質問はこちらまで!(質問卓) ソルラ・クート(kz0096) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/11/10 23:14:01 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/12 11:54:08 |
|
![]() |
取材が来るらしいぜ?(相談卓) カッツ・ランツクネヒト(ka5177) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/11/10 08:10:12 |