ゲスト
(ka0000)
【闇光】紅凶汲曲、怪宴す
マスター:鹿野やいと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/19 19:00
- 完成日
- 2015/11/30 16:04
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
2体目の歪虚王の出現で戦況は覆された。この時劣勢を知ったダンテ・バルカザール(kz0153)は、赤の隊を率いていち早く最前線を離脱した。
騎馬隊を本隊とする赤の隊は防戦に向かない。撤退における役割も殿でなく退路確保にこそ威力を発揮する。赤の隊は混乱する友軍の為、多大な被害を出しつつも血路を切り開いた。退路を塞ぐ敵、迂回する敵、手当たり次第に剣を振るっていく。
陽が落ちて空の明かりが消えうせた頃、赤の隊はようやく仲間の拠点に合流した。そこは平地の周囲に土嚢を積み、土を盛り返しただけの簡易の陣地だった。凍り付いて硬い地面を無理やりスコップで掘り返し、仕立てあげたばかりの粗末な防壁が周囲をぐるりと囲んでいる。前線基地が悉く破壊された最中にあってはこのささやかな防壁も頼もしく見えた。
陣に入り馬を降りたダンテは、そこで見知った顔と再会した
「アカシラか。どこにも見ねえから野垂れ死んだかと思ったぞ」
「そっちこそ。歪虚王にびびって逃げたと思ってたよ」
アカシラ含む鬼達は防壁に背を預け、各々に休憩を取っていた。鬼の部隊も騎士団と同じく退路確保に動いていたが、速度の違いで役割が変わり、戦場で出会うことはなかった。どちらも激戦区から激戦区をわたり続けたことは同様だ。率いるダンテやアカシラはまだ余裕が見えるが、部下達には疲労の色が濃い。
それでも普通の兵士に比べれば余力もあったのだろう。今の鬼達の手には似合わない同盟領のスコップが握られていた。
「アンタも手伝えよ。まだ残ってるんだ」
「バカ言うな。先に飯だ、飯。食える時に食わせてもらうぞ」
ダンテは鬼達に背を向ける。食事と共に休憩が必要だ。敵の攻勢は妙に弱まっていた。その理由が見えないため先程から落ち着かない。ダンテは戦場で培った直感のみで次の強襲を予期していた。動物的な勘の正しさは直後すぐさま証明されることになる。
足を止めたダンテとアカシラが急に振り返った。周囲の勘の良い者は辛うじて2人と同じものに感づく。ダンテは魔剣、アカシラが魔刀を抜き放った。直後、薄暗い闇の先から禍々しい赤の光が見えた。
気づいた者達は動けない。その赤のおぞましさに、身を竦ませてしまっている。
「ちっ!」「やっべェなこりゃ……!」
その最中でさえダンテとアカシラは咄嗟に体を動かしていた。2人が射線上へと身を割り込ませ……直後、ダンテはアカシラに蹴りだされる。無様に転がり受身を取るダンテ。アカシラは魔刀を構え、光条にたった一人立ち向かった。
「アンタはすっこんでろ! アタシがやる!」
刹那、アカシラを光条が襲った。アカシラは渾身の斬撃で迎え撃つ。殺しきれない熱波が周囲に弾け散った。覚醒者でも一瞬で蒸発しかねない砲撃だが、アカシラは光を受け止めきった。彼女の周りはそこだけ雪の下の地面が覗いていたが、彼女の後方に光は届いていない。
天幕の中で動けなくなっていた多くの負傷兵が命を救われた。だがそこまでだ。光に焼かれ満身創痍のアカシラはその場に膝をつく。まともに戦える状態ではなくなっていた。
「アカシラ!」
「アタシはいい! さっさと行きな!」
「解ってらァ! そっちこそ解ってるだろうな!」
ダンテは不安を消し飛ばすように吼えた。砲撃をそのままにするわけにはいかない。まともな機動力を持つのが自分達だけである以上、赤の隊は全力を持ってこれを速やかに叩く必要がある。
しかし砲撃だけで終わるはずが無い。生き残りを皆殺しにすべく本隊が駆けつけるだろう。だがアカシラは笑っていた。周囲の仲間を信じているからこそ、その豪儀な笑みも浮かぶのだろう。
ダンテの僅かな迷いはそれで晴れた。
「動けるやつだけで良い。俺に続け!!」
ダンテは愛馬に飛び乗ると、誰が続くかも確認せぬまま馬に走らせる。赤の隊とハンター達、彼の意図を理解した猛者達が言葉も発することなく追随した。
●
森の一画。やや小高い丘のような地形になった場所に骸骨の姿をした歪虚、ラトス・ケーオは居た。常と変わらぬフォーマルな装いとたっぷりしたカツラを身に着けているが、ラトスの手には楽器でなく銃口の付いた大降りの弓のような武器を構えていた。
その弓は何とわからぬ肉を混ぜて作られていた。至る所に耳・目・口・鼻が残っており、あろうことか一部はまだ蠢いている。口は耳障りな呪詛を放ち、目は溢れるほどに涙を流していた。表情はわからずとも、そのパーツは一様に耐え難い苦悶を伝えている。
一つだけ救いがあるとするのなら、それが人の物でないことだろうか。
「ふむ。仕上がりは上々ですね」
ラトスの声は躍るような歓喜に溢れていた。これは東方で一ヶ月かけて作った彼の作品だ。自分の装備で無いため形状こそ楽器でないものの、愛すべき作品であることに変わりは無い。しかし感動に入り浸っていることもできない。人類が愚かでないなら彼を見過ごしはしないだろう。
「よう。また会ったな」
「おや、これは皆様お揃いでようこそ」
現れたのはダンテ達、赤の隊の騎馬部隊。因縁と言えば因縁だ。ラトスが弓(?)を持った手を中空にかざすと、弓は霧か何かのように掻き消え、代わりに手にはヴァイオリンが握られていた。
「私共の舞台、楽しんでいただけましたでしょうか?」
「ぬかせ、クソ骸骨。手前と遊んでる暇なんざねえんだよ!」
骸骨が、笑ったような気がした。ダンテ達に向けられた怒りで、自らの成した事の成果に思いを馳せたのだろう。
「楽しんでいただけたようで何よりです。であれば、アンコールにもお答えしましょう」
ダンテの1歩後方に立つ副官のジェフリー・ブラックバーン(kz0092)はにらみ合いながらも思案した。ラトスの厄介さは転移の魔法と防御の魔法にある。これによって今までどんなに優勢な戦闘でも無かったことにされてきた。
どちらもダンテ隊長の魔剣であれば破壊は可能だが、それは向こうも警戒している。直撃させるのは並大抵ではないだろう。しかし――。
「ジェフリー、やれるか?」
「もちろん」
ダンテの問いにジェフリーは即答した。ラトスの防御は十三魔の『手下』という位階に比して強力過ぎる。本来あるはずのコストや弱点が見えないように演出してるのだろう。ラトスはアンコールと言った。裏を返せばこちらを殺しきれる状況ではなく、且つ転移魔法の詠唱を行うだけの時間を稼ぐ必要があるということだ。
余裕の顔をしているのは防御結界を全て自身に使用できるためだろうが、防御結界に絶対の自信があるのならこちらを皆殺しにすれば良いだけのこと。状況は悪いが、決して絶望ではないはずだ。
「よし、ならここで殺せ!! 総員突撃!!」
ダンテが吼える。赤の隊が呼応し、咆哮が雪に覆われた山林を振るわせた。
騎馬隊を本隊とする赤の隊は防戦に向かない。撤退における役割も殿でなく退路確保にこそ威力を発揮する。赤の隊は混乱する友軍の為、多大な被害を出しつつも血路を切り開いた。退路を塞ぐ敵、迂回する敵、手当たり次第に剣を振るっていく。
陽が落ちて空の明かりが消えうせた頃、赤の隊はようやく仲間の拠点に合流した。そこは平地の周囲に土嚢を積み、土を盛り返しただけの簡易の陣地だった。凍り付いて硬い地面を無理やりスコップで掘り返し、仕立てあげたばかりの粗末な防壁が周囲をぐるりと囲んでいる。前線基地が悉く破壊された最中にあってはこのささやかな防壁も頼もしく見えた。
陣に入り馬を降りたダンテは、そこで見知った顔と再会した
「アカシラか。どこにも見ねえから野垂れ死んだかと思ったぞ」
「そっちこそ。歪虚王にびびって逃げたと思ってたよ」
アカシラ含む鬼達は防壁に背を預け、各々に休憩を取っていた。鬼の部隊も騎士団と同じく退路確保に動いていたが、速度の違いで役割が変わり、戦場で出会うことはなかった。どちらも激戦区から激戦区をわたり続けたことは同様だ。率いるダンテやアカシラはまだ余裕が見えるが、部下達には疲労の色が濃い。
それでも普通の兵士に比べれば余力もあったのだろう。今の鬼達の手には似合わない同盟領のスコップが握られていた。
「アンタも手伝えよ。まだ残ってるんだ」
「バカ言うな。先に飯だ、飯。食える時に食わせてもらうぞ」
ダンテは鬼達に背を向ける。食事と共に休憩が必要だ。敵の攻勢は妙に弱まっていた。その理由が見えないため先程から落ち着かない。ダンテは戦場で培った直感のみで次の強襲を予期していた。動物的な勘の正しさは直後すぐさま証明されることになる。
足を止めたダンテとアカシラが急に振り返った。周囲の勘の良い者は辛うじて2人と同じものに感づく。ダンテは魔剣、アカシラが魔刀を抜き放った。直後、薄暗い闇の先から禍々しい赤の光が見えた。
気づいた者達は動けない。その赤のおぞましさに、身を竦ませてしまっている。
「ちっ!」「やっべェなこりゃ……!」
その最中でさえダンテとアカシラは咄嗟に体を動かしていた。2人が射線上へと身を割り込ませ……直後、ダンテはアカシラに蹴りだされる。無様に転がり受身を取るダンテ。アカシラは魔刀を構え、光条にたった一人立ち向かった。
「アンタはすっこんでろ! アタシがやる!」
刹那、アカシラを光条が襲った。アカシラは渾身の斬撃で迎え撃つ。殺しきれない熱波が周囲に弾け散った。覚醒者でも一瞬で蒸発しかねない砲撃だが、アカシラは光を受け止めきった。彼女の周りはそこだけ雪の下の地面が覗いていたが、彼女の後方に光は届いていない。
天幕の中で動けなくなっていた多くの負傷兵が命を救われた。だがそこまでだ。光に焼かれ満身創痍のアカシラはその場に膝をつく。まともに戦える状態ではなくなっていた。
「アカシラ!」
「アタシはいい! さっさと行きな!」
「解ってらァ! そっちこそ解ってるだろうな!」
ダンテは不安を消し飛ばすように吼えた。砲撃をそのままにするわけにはいかない。まともな機動力を持つのが自分達だけである以上、赤の隊は全力を持ってこれを速やかに叩く必要がある。
しかし砲撃だけで終わるはずが無い。生き残りを皆殺しにすべく本隊が駆けつけるだろう。だがアカシラは笑っていた。周囲の仲間を信じているからこそ、その豪儀な笑みも浮かぶのだろう。
ダンテの僅かな迷いはそれで晴れた。
「動けるやつだけで良い。俺に続け!!」
ダンテは愛馬に飛び乗ると、誰が続くかも確認せぬまま馬に走らせる。赤の隊とハンター達、彼の意図を理解した猛者達が言葉も発することなく追随した。
●
森の一画。やや小高い丘のような地形になった場所に骸骨の姿をした歪虚、ラトス・ケーオは居た。常と変わらぬフォーマルな装いとたっぷりしたカツラを身に着けているが、ラトスの手には楽器でなく銃口の付いた大降りの弓のような武器を構えていた。
その弓は何とわからぬ肉を混ぜて作られていた。至る所に耳・目・口・鼻が残っており、あろうことか一部はまだ蠢いている。口は耳障りな呪詛を放ち、目は溢れるほどに涙を流していた。表情はわからずとも、そのパーツは一様に耐え難い苦悶を伝えている。
一つだけ救いがあるとするのなら、それが人の物でないことだろうか。
「ふむ。仕上がりは上々ですね」
ラトスの声は躍るような歓喜に溢れていた。これは東方で一ヶ月かけて作った彼の作品だ。自分の装備で無いため形状こそ楽器でないものの、愛すべき作品であることに変わりは無い。しかし感動に入り浸っていることもできない。人類が愚かでないなら彼を見過ごしはしないだろう。
「よう。また会ったな」
「おや、これは皆様お揃いでようこそ」
現れたのはダンテ達、赤の隊の騎馬部隊。因縁と言えば因縁だ。ラトスが弓(?)を持った手を中空にかざすと、弓は霧か何かのように掻き消え、代わりに手にはヴァイオリンが握られていた。
「私共の舞台、楽しんでいただけましたでしょうか?」
「ぬかせ、クソ骸骨。手前と遊んでる暇なんざねえんだよ!」
骸骨が、笑ったような気がした。ダンテ達に向けられた怒りで、自らの成した事の成果に思いを馳せたのだろう。
「楽しんでいただけたようで何よりです。であれば、アンコールにもお答えしましょう」
ダンテの1歩後方に立つ副官のジェフリー・ブラックバーン(kz0092)はにらみ合いながらも思案した。ラトスの厄介さは転移の魔法と防御の魔法にある。これによって今までどんなに優勢な戦闘でも無かったことにされてきた。
どちらもダンテ隊長の魔剣であれば破壊は可能だが、それは向こうも警戒している。直撃させるのは並大抵ではないだろう。しかし――。
「ジェフリー、やれるか?」
「もちろん」
ダンテの問いにジェフリーは即答した。ラトスの防御は十三魔の『手下』という位階に比して強力過ぎる。本来あるはずのコストや弱点が見えないように演出してるのだろう。ラトスはアンコールと言った。裏を返せばこちらを殺しきれる状況ではなく、且つ転移魔法の詠唱を行うだけの時間を稼ぐ必要があるということだ。
余裕の顔をしているのは防御結界を全て自身に使用できるためだろうが、防御結界に絶対の自信があるのならこちらを皆殺しにすれば良いだけのこと。状況は悪いが、決して絶望ではないはずだ。
「よし、ならここで殺せ!! 総員突撃!!」
ダンテが吼える。赤の隊が呼応し、咆哮が雪に覆われた山林を振るわせた。
リプレイ本文
森を埋め尽くすように骸骨の兵士が群れている。しかし明確な殺意を持つ者は一握り。雄叫びを上げる人類を機械的な動作で迎え撃った。骸骨の兵士では赤の隊の騎士を討ち取るには足りないが、その圧倒的な数は進軍を阻むには十分だ。そして厄介な事に後続には魔法使いを連れている。
ラトスのヴァイオリンが耳障りな金切り音を発すると、赤の隊の騎士達は苦悶の悲鳴をあげ次々と倒れていった。その後方から、ハンターは次々と骸骨めがけて切り込んでいった。
先頭に立つウィンス・デイランダール(ka0039)の七色に煌く刃が翻り、骸骨の兵士を無造作に散らしていく。
「芸術家気取りか。気に入らねえ。殺す」
「気取りではありません。芸術家そのもので―――」
飛来した矢が骸骨兵士の頭を砕き、横に居たラトスの饒舌な口を停止させた。乱戦を逃れ樹上へと移動したナナセ・ウルヴァナ(ka5497)の放った矢だ。ナナセは完全に頭上を取った。
しかし恭しく礼を返すラトスに、焦りの気配はない。すかさず2撃目を放ったナナセだったが、直撃するはずの矢はラトスの正面で折れた。
「演奏は終わりかしら? でも休憩は無しよ!」
側面に移動したレオナルド・テイナー(ka4157)も炎の矢で攻撃に参加する。結果は変わらず、炎の矢はラトスの前で砕け散った。既にこの術を見知っているウィンスとアーサー・ホーガン(ka0471)は共に苦い表情を浮かべる。防御の魔法は既に発動している。散発的な打撃では掠り傷も与えられないだろう。
それでもまだ事態は想定内だ。ハンター達はこの程度で諦めたりはしない。
「ナナセ、周りを掃除してくれ! まだ手はある!」
「はいっ!」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)の叱咤を受け、ナナセは周囲への援護射撃を再開した。
頭上をとったナナセの射撃は的確且つ回避しようがない。
おまけに光の矢は骸骨達にとって相性が悪く、確実に護衛の数を削っていく。
「今です! 突っ込みますよ!」
「おう! 骸骨野郎の好きにはさせねえからな!」
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)と央崎 枢(ka5153)がウィンスの立つ両側面から攻勢をかけた。
ヴァルナのハルバードは一気に骸骨兵士を薙ぎ払う。
一方の央崎は威力も間合いも不足するかと思われたが、ヴァイパーソードでそれを十分に補った
勢いづくハンター達だが、ラトスとて棒立ちでその状況を見ているわけではない。
弦を弾けば再び魔力が衝撃となってハンターを襲う。
正面からの一撃を受け止めきれず吹き飛ばされるアーサー。
後方に居た米本 剛(ka0320)は彼が倒れこまないように、身体を張って受け止めた。
「すまねえな」
「いえ、それよりも」
米本はアーサーを立ち上がらせると、後ろから包囲を狭めてくる骸骨を大剣で薙ぎ払った。砕かれた骨がからころと音を立て転がっていく。
「ここは任せてあの亡者を」
「おう!」
アーサーは再び手裏剣を握り締め、ラトスへ向けて走り出した。前列での戦いが激しさを増した頃合いで、骨の数にうんざりするダンテの脇を抜けていく影があった。バイクに操るリリティア・オルベール(ka3054)と、軍馬を駆る岩井崎 旭(ka0234)だ。
後列より助走した2人は勢いをつけ骸骨の群に突貫する。
「ここであいつをぶっ潰すぜ!」
軍馬シーザーの突進で骨をなぎ倒し、斧を振るって周囲の骸骨を寄せ付けない。
リリティアはより乗り物には頓着しない性質であった。乗り付けるために速度を殺すかと思いきや、速度はそのままバイクを飛び降り、正面の骸骨を軒並み薙ぎ倒してからラトスの周囲へと降り立った。
リリティアはワイヤーウィップと手裏剣を構える。
近寄った骸骨を視線をあわせぬままワイヤーウィップで切り裂いた。
「恨みはありませんが、ただここで会う縁があった……。それだけです。断たせてもらいますよ」
状況はここまで若干の誤差を含みつつも、ハンターの思うとおりに進んだ。赤の隊の騎士に加え米本やレオナルド、そしてナナセのおかげで周囲の骸骨は押し返しつつある。問題はその後だ。
ウィンスは何度目かになる突きをラトスに放つ。ラトスはその槍をあろうことか手で受け止めた。苛烈に何度攻め立てても同じ。ウィンスが呼吸を整える為に1歩引き、切れ目なく続央崎のトンファーとヴァルナのハルバードが続く。
央崎は骨の細い場所を狙い攻撃を繰り返すが、太さや外見を無視した強度でまるでダメージが入らない。ヴァルナのハルバードは薙ぎ払いの途中で柄を掴まれ、前にも後ろにも引けなくなっている。こちらも本来なら金属製の柄自体が鈍器代わりになるはずだ。動きを止めたラトスを狙いアーサーが手裏剣を次々と放つが、これも胴体に命中する端から虚しく弾かれていく。
「ちっ、どこにも隙間がねえってのかよ!」
アーサーは苛立ち吼える。足も腕も頭もそれぞれ順番に狙ってみたが、どこに当ててもダメージがない。であれば、次は属性と威力での試行が必要だ。
「そこを動くな骨野郎!」
ヴァルナの後方を抜けるように岩井崎が馬を走らせる。ヴァルナはハルバードを捨て、央崎も飛びのく。ラトスが逃げようと動き出す前にリリティアのワイヤーウィップが彼の腕に絡みついた。動きを封じられたままのラトスは、岩井崎の攻撃に正面から対峙した。
「こいつで勝負だ! ハブーブクラッドッ!!」
赤熱した斧が大上段より振り下ろされた。
ラトスは岩井崎の一撃を手で受け止める。
ミシ、と音がしてラトスの体が僅かに沈んだ。
「!!」
「効いたかよ!?」
柄を握る岩井崎には確かに何かを砕いたような感触があった。それが気のせいでない証拠に、ラトスの手にはヒビが入っている。一撃の威力はウィンスやエヴァンスも同等だが特性の差がここで現れた。
これなら行ける。そう確信する岩井崎とラトスの目があう。リリティアに縛られていたラトスの右手が指をスナップさせた。肉の無い骨がどうやって音を出したのかは不明だが、見事なスナップ音が響く。詠唱によって蓄積されたマテリアルは衝撃波となり、岩井崎とリリティアを吹き飛ばした。
リリティアは受身をとってすぐさま立ち上がったが、馬上に居た岩井崎はそうはいかず地面に派手に転げ落ちた。
「させないわよ!」
群がる骸骨の兵士をレオナルドは炎の矢で吹き散らす。なんとか体勢を立て直した岩井崎だが、至近距離から攻撃を受けてダメージが大きい。
ハンター達の緩い包囲の中、戒めをとかれたラトスは軽く衣装を調えると、再び落とした楽器を拾い上げた。
「楽器がなくても演奏するなんて、根性座ってるじゃない」
レオナルドは呆れたように呟いてみるが、内心では誰もが焦りを抱えていた。威力は楽器を使用した時に比べ一段劣るが音であれば何でも媒体に使えるのだろう。加えて今の連続攻撃であらゆる箇所を狙ったがどこも防御能力は均一だった。
魔術を補助する魔具らしき装飾品を狙っての攻撃もあったが、これも傷一つつけることはなかった。膜のような物が外を覆っている現状では、例え目を狙っても同じ結果になるだろう。状況は前回よりもなお悪いと言えた。
(くそっ、気にいらねえ)
ウィンスは槍を構えながら、ラトスを睨みすえた。手品の種がわからない。このまま戦えば奴を逃がしてしまう。それがわかっていながらも次の手がない。
「ウィンス、呑まれるな!」
エヴァンスは叫びながらウィンスの隣に立った。
彼も同じく打ち合いに参加していたが、今は呼吸を整え終わっている。
「まだ手はあるだろ」
「なんか名案でもあるのかよ?」
苛立たしげに言うウィンスに、エヴァンスはにかっと歯を見せて笑った。
ウィンスはやや毒気を抜かれ、憮然とした表情のまま正面に向き直る。
「旭の攻撃が抜けたんだ。強引にやって抜けねえことはねえよ。だから……」
エヴァンスは大剣を構えなおす。ラトスは揺るがない構えを見て1歩後ずさった。
「時間差で無理なら包囲で押しつぶす!」
「なるほどな。わかりやすい」
理解したウィンスも良く似た不敵な笑みを浮かべた。勝利への確信ではない。意地を張る時の男の顔だ。意地の張り合いなら男はどこまでも頑強になれる。岩井崎もアーサーも、そして央崎もその笑みに釣られ足を進めた。無敵の防御結界への絶望は、彼らの中から消え去っていた。
「愚かな! 美しさの欠片もない!」
ラトスは彼らの笑みを理解できず、慄いて腕を振るった。骸骨兵士達は空白となった空間に吸い込まれるように歩き出す。
「こいつ、悪あがきを……!」
ナナセが矢を降らせ兵隊を足止めするが数が違いすぎた。レオナルドの炎も追いつかない。
エヴァンス達はやむを得ず骸骨兵士と戦うと決めたが、それを覆すかのように雄叫びが響いた。
「おおおおおっ!!」
刀と鞘で攻撃を受け止めた米本が、骨の兵隊を武器ごと押し返していく。
ふんばりの効かない者からドミノのように倒れていった。
「行って下さい!」
「言われずともだ! 覚悟しろよ、クソ骸骨!」
ウィンスはバカ正直とも言える軌道で突きを放った。その時のラトスは先程と同じように槍を受け止めるが、妙に腰が引けていた。疑問を感じたがウィンスは余計な思考を切り捨て槍をしごく。
お互いの約束ごとは一つ。長柄が他者の邪魔にならぬよう突きか上下の斬撃でであること。
「今更逃げんなよ!」
回り込んだエヴァンスがグレートソードを上段から振り下ろす。これも愚直に素振りをするように、受け止められても意に介さず何度も上下に振り下ろす。馬から下りた岩井崎、リリティアも加わってとにかく叩き潰すような攻撃を繰り返す。金属を叩きつけるような音が森に響き渡った。
「お前たちぃぃぃぃ!!」
傷一つついていないはずのラトスが苛立ちと怒りで叫ぶ。再び衝撃波を放つが、ハンター達はダメージを受けても猪のように前に突っ込んでいく。血を流しながら、笑いながら、雄叫びをあげながら。狂気にも見える彼らの行いにラトスは恐怖していた。
この狂騒が止んだのは3度目かの衝撃波が放たれ、何人かの攻撃が一瞬止まった頃だった。
ずぶり、と聞き慣れない音がした。
「え……?」
「う……ぐあああっ!!!」
深く深く、ヴァルナのハルバードがラトスの腹を抉ってた。誰もが状況を飲み込めず、手を止めてしまっている。武器を持つヴァルナでさえも困惑顔だ。
ラトスは武器を引き抜きつつ、ヴァルナ目掛けて暗黒の波動を放つ。黒い衝撃波に身体を強かに打たれたヴァルナを、米本がすぐに助け上げた。ラトスは困惑する一同から距離を取り、荒い息で腹を押さえている。
エヴァンスはようやくその光景の意味を悟り、不敵な笑みを浮かべながら大剣を突きつけた。
「わかったぜ。お前の魔法、見えない穴があるんだな」
ラトスは沈黙している。それが答えだった。防御の結界は予想の通り穴があった。
それをラトスは操作して穴の箇所をずらして受け、あたかも万全な防御であるように見せかけていたのだ。この魔法では時間差攻撃は回避できても、全周囲からの飽和攻撃には対処できない。
「種はわかった。そんじゃ、続きを始めようぜ」
「!」
エヴァンスが言い終わるのと同時に、ラトスはハンターに背を向けた。ラトスは一目散に兵士の群の中を目指す。詠唱終了まで持たない。ここは逃げに徹して詠唱の時間を稼ぐ他ない。防御結界があることで慢心し、遊んでやろうなどと考えたのがそもそもの間違いだった。
その逃走を許すほどここに集まったハンターは甘くはない。
「どこに行くんですか?」
「!?」
距離を離したと思ったラトスの横に、リリティアが既に追いついていた。足が速いのでなく、逃げようとした動作への反応が尋常でなく速かった。ラトスは慌てて指をスナップさせ魔術を発動させるが、雑になってしまった攻撃をリリティアは体勢を低くとって容易くかわす。
次の瞬間には斬龍刀が舞うように宙を切り裂きラトスを襲っていた。種がばれた以上回避するのが正解だが、リリティアの速度がそれを許さない。攻撃を当て続けることが正しいと知った彼女は、足・腕・胸・頭と次々に狙いを変えて攻撃を放つ。それだけでラトスの防御結界は飽和しそうになった。
必死に攻撃を受け続けるラトス。リリティアは速度を緩めず連撃を加えながら不敵な笑みを浮かべた。
「ほら、背中ががら空きですよ?」
直後、ナナセの放った矢がラトスの肩口を貫いた。矢から広がる凍気がラトスの動きを束縛する。慌てて後方へと障壁を展開するラトス。追撃してきたアーサーの手裏剣を弾き返し、エヴァンスの大剣を受け止める。包囲を回避しつつリリティアの斬撃も受け止めるが、防戦一方のまま逃げの一手は変わらない。
「言ったでしょう? ここでこの縁を断ち切ると」
リリティアは更に速度を上げ刀を走らせる。正面へ障壁を展開し防ぎきったラトスだが、すぐに自身の致命的な間違いに気づかされた。
「足元ががら空きだぜ!!」
岩井崎の斧がすべりこむように足を狙う。上半身に全ての障壁を展開していたラトスはこれを防ぐことが出来ない。狙い違わず直撃した斧はラトスの足を砕いた。マテリアルによって強化され頑丈であるはずのラトスの骨だが、障壁の防御を貫通した岩井崎の一撃を前にひとたまりもなかった。
足を失い倒れたラトスの腹に、接近したウィンスは容赦なく槍を突き刺した。槍で貫いた先は背面にある魔術師の口。これで転移の魔術は完全に阻止された。ラトスは身を捩じらせ、身体を痙攣させる。ガチャリガチャリと骨がぶつかる音がして、やがて止んだ。
ハンター達は追いついた順で雪に埋もれたラトスを包囲する。
戦闘の音はいつの間にか途絶え、骸骨の兵隊は動きを止めていた。
「……最後の出番となりましたか」
「やりきった顔してんじゃねえよ」
ウィンスは悪態をつく。が、それ以上は何も手を出さない。必要を感じていなかった。
ラトスに表情は無い。しかし声には諦観がにじんでいる。体のそこかしこで崩壊が始まっており、誰の目にも避けられぬ死が明らかであった
「レチタティーヴォ様の遠大なる戯曲はまだ始まったばかり。皆様どうか最後までおつきあいくださいませ。ではごきげんよう」
ラトスは帽子を取り起き上がれぬまま会釈をすませると、そのままの姿のまま体の端から粒子となって風に消えていった。そこに初めから何もなかったかのように。
消えていく刹那、その口は小さく「クロフェド……」と友の名を呟いた。
芝居がかった口調の中にあって、その呟きだけが何かしらの感情があるように聞こえた。率いていた骨の兵隊はラトスが滅びると、同じように崩れ落ち欠片も残らなかった。あるのは激戦の傷跡のみ。踏み荒らされた雪だけが、そこに居た者のことを伝えている。春になればそれさえも消えてしまうだろう。
「最後まで演劇気取りか。舐めやがって」
ウィンスの悪態で全ては終わった。傷ついた赤の隊の騎士達は手早く応急処置を済ませながら自身の馬を探す。ハンター達も同様に戦場の過去の物にしていく中、ヴァルナは1人立ち尽くしていた。
「………」
「どうしました?」
声を掛けたのは米本だった。周りの者も米本の声でヴァルナに気づき彼女を見ている。
「いえ、少しかの者の所業を思い返していました」
同時に祈りを捧げていた。数多の死者が彼らの犠牲となった。歪虚となった彼らの身体は現世には残らず、多くの墓が空のままだ
「……いつか弔いましょう。この地を再び踏んだ暁に」
米本は笑みを作った。悲しみに塗れていたが、それは間違いなく笑みであった。
ヴァルナは小さく十字を切ると、感傷を振り切り仲間達の下に戻っていく。喧騒は既に無い。時同じくして、拠点での戦いも終わりを迎えていた。
■
赤の隊とハンター達はキャンプへと帰還した。
被害甚大となった歪虚との戦争ではあったが、
死者を冒涜する者の首を取れたことは幸いであった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 エヴァンス・カルヴィ(ka0639) 人間(クリムゾンウェスト)|29才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/11/16 20:32:33 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/18 09:29:08 |
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相談卓 リリティア・オルベール(ka3054) 人間(リアルブルー)|19才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/11/19 19:02:30 |