ゲスト
(ka0000)
中にいるのは
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/11/25 22:00
- 完成日
- 2015/12/01 18:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
目下、リゼリオの港からサルヴァトーレ・ロッソの姿が消えている。遠い北の地で壊滅寸前となっている人類軍の撤退と支援のために、出かけているのだ。
こんな重大事が起きている間にも、巷に歪虚は現れる。いつでも、どこでも、容赦なく。彼らは虎視眈々、日常を壊そうと試み続ける。
●
ハンター一行は、リゼリオ近郊のとある邸宅に来ていた。
横に広い三階建て。彫金細工も目にあやな門扉、手入れの行き届いた彫像だらけの中庭、床は総大理石。いささか成り金趣味なこの屋敷に現在住んでいるのは、さる海運業者の一家。
居住者の内訳は現当主、現当主の妻、現当主の父、召し使い3人。
今回依頼を出してきたのは、現当主の妻。
ふくよかな体にけばけばしい色のドレス。耳にも指にも胸元にもきんぴかもの。
お金はあってもセンスはないらしい。
「ええ、主人は近いうち医者に見せるからと言っておりますの。でも、私なんだか……あまりにも急なお変わりようですから。何か悪いものに取り付かれでもしているんじゃないかと」
彼女が言うところによると、舅の様子が最近激変したらしい。
もともと小食な人だったのだが、最近は朝から晩まで食べている。
性格も変わった。気難しい人だったのに、最近はいつでもにこにこしている。
孔雀の扇で口元を隠し、さも気味悪そうに言う奥様に、カチャは首を傾げた。
「うーん、大食いの件は置くとして、性格が穏やかになられたというのは、どちらかというといい傾向なんじゃないですか?」
「穏やか、とかいうものとは違うんですのよ……とにかく一度見て確かめてくださいまし」
そこまで言うなら、ということでハンターたちは、件の舅を見に行くとした。以前の姿であるという肖像画――いかにも抜け目無さそうな痩せた老人が描かれている――を見確かめてから。
●
居心地の良い南向きの部屋に案内してもらったハンターたちは、扉を開けてぎょっとした。
カーテンが降ろされたままの薄暗い中、小山が蠢いている。
体も手足も膨れ上がり、首などないも同然。目鼻は幅広になった顔の中央あたりで、埋もれかけている。
限界を超えた肥満ぶりだ。
老人は他者が入ってきても全く気にせずにこにこ顔で、手にしたものを口に入れ咀嚼し続けている。
カチャはうめいて後退りした。
「うっ……あれラードの塊ですよ……」
別のハンターは、思い切って話しかけてみた。
「あの、あなたがロッシオ・コメルシオさんですか?」
話しかけられた老人の口から出たのは、以下の一言のみ。
「ふぁあ?」
後は何を聞いても同じ。意味のある返事は返ってこない。
なるほどこれはおかしい。
だが歪虚の仕業かどうか断定するのは難しい。主人の見立てどおり、病気という可能性も捨て切れない。聞くところによればロッシオ老人は今年で91。心身に変調を来したとしても、少しもおかしくない年である……。
頭を悩ませるハンターたちへ、奥様はうんと離れたところから(部屋に近づきたくなかったらしい)こう言った。
「皆様、とりあえず今晩はここに泊まって行ってくださいましね。主人は出張で明日の晩まで戻ってきませんの。私もうなんだか気持ちが悪くて、夜も眠れなくなりそうですわ」
●
夜。
仲間とともに大広間へ泊まり込んでいたカチャは、喉が渇いたので、屋敷の台所まで水を飲みに行くことにした。
「ええと、確かこっちだったですよね。もう、広いから何がなんだか……」
行ってみれば明かりがついており、奥の方から声がする。
何だろうと見てみれば、召使が食糧をあさっている老人を止めようとしていた。
「大旦那様、もうお止めください、大旦那様、お体に触りますから……」
しかし老人は彼の介入など意に介さず、ひたすら大きな塊のベーコンをあさっている。
カチャは、自分も部屋に連れ戻すのを手伝ってあげようかと、そちらに向け歩み寄った。
その時召使が老人から跳び下がった。
「ひっ!?」
老人の目から緑色の触手が飛び出す。立て続けに鼻からも口からも耳からも突き出す。膨れ上がった体がさらに膨れる。首に裂け目が入り、皮が破け、頭が吹き飛ぶ――束になった触手が突き出してきたことによって。
反射的にカチャは、すくんでいる彼の腕を掴み、引きずるようにして逃げた。
戦いの経験は浅いが、それでも察することは出来た。一人ではどうにもならない、と。
背後から邪悪な気配が迫ってくる。
カチャは大広間へ向けて走る。
「でっ、出たーっ! 変なのがロッシオさんの体から出たーっ! 皆さん来てください早くーっ!」
リプレイ本文
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!??」
夜の広間に響いてくる、けたたましい悲鳴。
夢の中にいたディヤー・A・バトロス(ka5743)と、常から寝ているドゥアル(ka3746)が、同時に起きた。
ディヤーは寝ぼけた顔で薄暗い屋内をきょろきょろ見回す。
「ふぁ? ワシの肉料理は?」
数秒考え込んでから、悔しがる。
「なんだ夢じゃったのか? うぬ、許せぬ!」
ドゥアルも同様に御機嫌斜めだ。彼女がこの世で一番嫌いなのは、睡眠を妨害されることなのである。
「……わたくしの睡眠を妨害する者は死あるのみ……」
広間に2人の人間が、こけつまろびつ走り込んできた。
見れば先程水を飲んでくると言って出て行ったカチャ。そして屋敷の召使。
天竜寺 詩(ka0396)はぎょっとした。
「わ、何あれ!?」
カチャ達の背後に続く暗がりで、何かが動いている――ぬらぬらした触手の塊だ。廊下一杯に広がりながら、ぞわぞわこちらへ移動してくる。
形といい動きといい気持ち悪いといったらない。ディーナ・フェルミ(ka5843)は本気で泣いてしまいそうになる。
「きゃ~~!? 触手? 何なのいや~~ん」
とりあえず、どこからどう見ても歪虚である。
「屋敷の人に被害が出る前に倒さないと!」
詩は転がり込んできたカチャを背にかばい、光を帯びた矢を放つ。歪虚は驚いたように縮み上がり、動きの速度を落とした。
その合間に彼女は、息を弾ませているカチャを落ち着かせる。
「はい深呼吸して~。吸って~、吐いて~で、何があったの」
「あ、あ、あ、あの歪虚、ロッシオさんの中から出てきたんです! ロッシオさんの体を突き破って出てきたんです! 台所で、ロッシオさんが、ベーコンの塊を食べてたら、急にあれが……出てきて……ロッシオさんぼーんてなって! ぼーんて!」
事情を聞いたツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は確認を取った。あれだけの年齢となれば、歪虚から逃れる事など出来ないだろうと思いながら。
「……では、ロッシオ氏はお亡くなりになられたということですね?」
カチャは吐き気を催したように口元を押さえ、頷く。
ディヤーはそんな彼女の背を叩いた。軽口も、また。
「……のう、退治すれば依頼主から馳走は出ぬかの、カチャ殿?」
「こんな時によく食欲がありますね……」
「ハンターたるものタフでなければいかんでの」
フルルカ(ka5839)は、しかつめらしく言う。
「しかしあの長い触手は厄介だな。どうにか封じる手はないだろうか……ああ、そうだ。皆の衆。戦闘で建物家具などあまり痛めないようにな」
いつのまにか立ったまま二度寝しているデュアルが、寝言で呟いた。
「聞いた事がありま……あのような生物の事をリアルブルーでは……そう……エイドリアンと呼ぶ……」
ハーレキン(ka3214)は接近してくる敵に目をこらした。彼は自分の戦闘力がそれほど高くないことを意識している。だけに、観察を怠らない。
(さして強く無い敵だろうって思ったんだけどな……)
触手の長さはざっと4メートル。一杯に伸ばせば天井近くまで届くに違いない。粘液は、かなりの粘着性がありそうだ。包み込まれたら抜け出すのは容易でなさそうだ……。
「前には出ませんからね……」
歪虚が近づいてくる。触手をのたくらせ宙にかざし、周囲を嗅ぎ回っている。
藤林みほ(ka2804)は鎖鎌を持ち出し、構えた。
「狭い屋内戦闘は忍者の十八番でござるからして」
ツィスカは素早く暗がりの一角、二階へ通じる階段に目を走らせる。
彼女の意図を察したフルルカは、こそっと託宣を下した。
「行くなら真っすぐ最短距離で突っ切ることだ。暗くて足元悪いから、そこは気をつけて」
ツィスカが床を蹴り、走り出した。
ドゥアルは眠たげな目をカチャに向ける。
「……わたくしたちも行きましょうか」
「え?」
「……貴公はそちらの方を、3階の部屋まで運んでくださいね」
寝息交じりな台詞の内容を飲み込んだカチャは、口もきけねば足も立たぬ状態の召使を担ぎ上げた。
それを見届けドゥアルは、覚醒する。
「ハァァァァ! 覚醒! 歪虚よ、天に帰るときが来たようだな!」
彼女らがツィスカを追い走りだすと同時に、歪虚の体全体が、どっと広間の中へ入って来た。
何かが動いている気配を察しているのだろう、壁を伝い、階段の方へ向かっていく。
詩が矢を放った。
「とにかく上に行かせないよ!」
矢の当たった触手が千切れた。しかし千切られた触手はすぐ再生してくる。
再生力の早さに目を見開くみほ。
「なんだと!? 復元力がありすぎでござるな!」
ディーナは大急ぎで仲間たちにロッドの先端を向けた。
「5人までしか飛ばせないのごめんなさいなの……プロテクション!」
彼女自身を除いた5人――ドゥアル、みほ、ハーレキン、詩、ディヤーにプロテクションがかかる。
援護を受けたディヤーは不敵に笑った。
「フ……お遊びはここまでじゃ! 寸刻みにしてくれよう!」
すらりと剣を抜いた彼は、真っ向から歪虚に挑む。
助走をつけソファを足がかりに、華麗な跳躍。
「くらえいっ!」
あまりに高く跳び過ぎた為天井にぶつかり、剣が刺さる。
「あっ……!」
柄に捕まり宙ぶらりんになりながら、足元の歪虚に言うディヤー。
「ちょ、タンマじゃ! タンマ!」
しかし歪虚が聞いてくれるわけがない。すかさず触手を巻き付けてきた。
「!? ふにゃ~」
全身の力が抜けたディヤーは柄から手を放し、落下する。
ハーレキンは手持ちの食料を歪虚に向かって投げ付けた。ディヤーが落ちたのと真逆の方向へ。
「こっちだ、こっち!」
触手の一部がそちらに気をとられ、分散する。掴まれないようハーレキンは、壁を足場に飛び下がる。
みほは前衛に出、鎖鎌の分銅部分を振り回し、ディヤーを包み込もうとする触手に対抗した。
振り回す部分全体に神経が通っているだけに、相手の動きの方がより巧妙であった。鎖の部分に絡み動きを止め、引きずり込もうとしてくる。
触手が右手へ触れた瞬間、その部分の力が抜ける。分銅が床に落ちる。
そのままみほを押し包もうとする歪虚を、階上からツィスカが撃った。
「弱肉強食……喰らう側はそれを覚悟しなければならない」
触手が弾け飛ぶ様に、フルルカは手を叩く。
「いいぞ、その調子――」
直後、悪寒が背に走った。
振り向てみると目と鼻の先に触手がいた。
懐かしい故郷。毎年春になると家の庭に咲く、桜の花が如く舞い散るポテトチップス。田植えの際、踏みしめた泥のように飛び散るレトルトカレー……
間違いだらけの走馬灯を見つつフルルカは、現実のポテトチップスとレトルトカレーを現実の歪虚に投げ付け、どうにか逃げ切る。
「こいつが無ければ危なかったぞ……!」
ディーナは触手の先端でなく中間を狙う。接近戦をしている仲間に万一当たることがないように。
「……ホーリーライト!」
詩はブランデーの蓋を外し、歪虚に向かって投げ入れ、気をそらした。倒れているディヤーを引きずり出し、みほと共に治癒をかける。
伸びてきた新たな触手が身に触れそうになった瞬間、シャインを放つ。
「子供に見せられないゲームになるでしょ!」
光を受けた歪虚は縮こまった。そこに続けて矢が撃ち込まれる。
「女の敵は倒すべし!」
立ち上がったディヤーに、フルルカが言う。
「ディヤー、天井傷つけまくりだぞ。気をつけろと言ったのに」
「細かいところは気にするな、フルフル殿。それよりワシ、重大なことに気づいてたのじゃ。あの歪虚光に弱いのではないか? 先程からそれ系の攻撃に怯んでおる」
●
「一体どうしたのですこの騒ぎは!?」
「ご安心ください奥様。扉に鍵をかけ部屋から出なければ大丈夫です。家具調度への損害は最小限にくい止めますので……けして大旦那様が体から触手を出す隠し芸を今披露しているわけでは無いので大丈夫です」
かえって不安になるような説明を終えたドゥアルは、奥様を部屋に押し戻し、扉の前に陣取った。
下手に避難されるより籠もっていてもらうほうが、守る側としてやりやすい。
ツィスカは階段の手摺りから身を乗り出し、伸び上がってくる触手を打ち砕いている。
3階へ召使を運んで行ったカチャが降りてきた。
「ただ今戻りましたっ」
「ご苦労様……扉は開けないように言っておいた?」
「はい、ディヤーさん。内側からバリケードもしておくように言ってきまし――いひいいい!」
射撃によって千切れた触手が飛んできた。
ディヤーは盾で防ぐ。
弾かれ落ちたものはまだぴくぴく動いている。
カチャは竹刀で叩きに叩く。
「いやあ! もう気持ち悪いっ!」
このままでは埒が明きそうもない。再生可能な手先ではなく本体を叩くほうがいい。だがびっしり生えた触手の渦の中心まで攻撃を届かせるには、どうすればいいのか。
ツィスカがそう思っていたところ、階下から大声が響いてきた。
「おーい! 2階に明かりをつけるのじゃ! この歪虚光に弱そうじゃぞ!」
「カチャさん、頼みます」
「えっ!? 何で私……」
「この危険な状況で、召使の方達に動いてもらうわけにはいかないでしょう。歪虚は私たちが引き付けますから早く」
「わ、分かりましたっ!」
カチャは隅々まで走り回り、手の届くところにある全ての照明をつけていく。
●
2階へ次々明かりが灯り始めた。
そちらへ向かい伸びていた触手の動きが一気に鈍る。眩しいとでも言いたげな動きだ。
上に昇ろうという気がかなり弱まったに違いない。それをより確実なものとするためディーナは、手持ちの食料を惜しみ無くばら撒いた。
「まさか……前回の野営の残りがこんなところで役に立つなんてぇ――やぁん、こっち来ないで……じゃなかったこっち来なさいなの!」
階上からツィスカも、次々餌を投げ落とす。
歪虚は不快さを感じる方向へ移動を続けるより、引き返して食物を得る方を選んだ。
階段付近に張り付いていた触手が、ひとつひとつ剥がれていく。
ディヤーはパンをリトルファイアで炙り、これみよがしに見せつけた。
「おお、パンの焼ける匂いはいいもんじゃ」
フルルカと、みほと、ハークレイが、紐に結び付けた食料を振ってみせる。
「ほれほれ、こっちにはおいしいものがたんとあるぞ」
「早く来ないと無くなるでござるよー」
「パンとお肉、差し上げます!」
一気に歪虚が反転した。
フルルカはにやりと口の端を持ち上げた。
「触手を縦横無尽に伸ばすがいいぞ!」
3者は散開し、全速力で走りだした。みほとハーレキンは身体能力を生かし、お互いが立体的に交錯するよう飛び回る。
歪虚はそれぞれを追おうと、四方八方手を広げ、お互いもつれあってしまう。
付け根に触手とは違う部分が見えた。
本体だ。
詩は狙い違わず、そこに向かって矢を突き立てる。
本体に攻撃を受けた歪虚は、伸びていた触手を大急ぎで引っ込めにかかった。本体を防護しようというのだ。
しかし手があちこちで絡まっているため思うに任せない。
ディヤーは炎をまとったリートダガーで、束になった触手を切りつけた。
「再生がうまく行かぬか? それが火傷じゃよ」
露になった本体目がけ放たれる、ツィスカの機導砲。
「喰らう側が喰われる側になる。ただそれだけです」
フルルカもここぞとばかり撃ちまくる。
「これはさっき食べてたベーコンの恨み、これは犠牲になった爺さんの恨みィィ!!」
もう2階に上がってくることは無いだろう。そう踏んだドゥアルはカチャに奥様のことを任せ、攻撃可能な距離まで降りて行く。
近接武器の代用として松明(火はついていない)を振り回していたディーナは、粘液でとろけてきたそれを投げ捨て、彼女に呼びかけた。
「タイミング合わせてホーリーライト撃ちます……ホーリーライト!」
ドゥアルはそれに応える。
「申し訳ありません……体を破壊させてもらいます」
2方向からの光弾が歪虚の体を貫いた。
ディヤーは、歪虚を踏み台にして跳んだ。天井に刺さった剣に掴まり、大きく体を前後に揺らして、抜きにかかる。
先程と違い下から襲われることは無かった。圧倒的にハンターの側が優勢になっていたので。
触手の一部が勝手に千切れ始める。あたふた逃げようとでもするかのように。
それにみほの手裏剣が刺さった。ハーレキンのローゼンメッサーも。
「逃しはせぬでござる」
「残念だけど行かせるわけにはいかないんだ」
本体から離れると再生能力が効かなくなるものらしい。触手はそのまま煙を上げ消滅していった。
剣を抜き飛び降りてきたディヤーは、再び歪虚に突進して行く。
「火炎烈斬!」
これが決定打になると察したツィスカは、自身のマテリアルを彼に送り込む。
一段と強く燃え上がった剣が歪虚を斜めになぎ払った。
破られた体の中から粘液があふれ出し、歪虚自身を溶かしていく。
詩は弓を降ろし、肩をすくめた。
「そういえば昔話にあったね。食いしん坊すぎて自分を全部食べちゃうタコだかウワバミだかの話」
みるみるうちに消えて行く歪虚を前に、ドゥアルは、仲間へ提案した。
「出入り口を確認して、もう一度屋敷内を探索しましょう。寄生するというならば、一片たりとも残せないのよ」
●
翌日、屋敷に当主が帰宅してきた。
げっそりした表情の妻君、使用人たちとともに、ハンターらも彼を出迎える。
「おお、ご当主か。この度はお悔やみ申し上げる――」
先頭に立ったディヤーの礼に、当主は、怪訝な表情を見せた。
「――何があったんだねアンリエット? この方たちは?」
問いを受けた奥様は、ハンカチを目元に押し当てつつ言った。
「あなた、お義父様が亡くなられたんですよ……それがまあ本当にひどくて! 私こんな恐ろしい目に遭ったのは、生まれて初めてですわ。今も気分が悪くて倒れそうなんですよ……」
「え、え、死んだって……父上がかね……何故……」
動揺を示す当主に、ドゥアルが、半分寝ているような声で言う。
「……どうやら、歪虚に憑かれておられたようなのです。ご遺体を確認されますか?」
当主は、まだ現実感が持てない表情で頷いた。
ハンターらは広間に彼を案内する。
そこは家具がすべて取り払われており、がらんとしていた。
中央に箱が置いてあった。随分小さなもので、上に布がかけてある。
傍らでレクイエムを口ずさんでいた詩は、当主の姿を見て歌を打ち切り、道を譲った。
当主はぎこちない手つきで布を取り外し、箱を開けた。
箱の中にあったのは、なんだか分からない肉片と、それにこびりついた髪の毛だけ。
当主の顔がみるみる白くなっていく。
ドゥアルは言う。酷だとは思いつつも。
「ご遺体は、火葬されることを提案いたします。よろしければ、大旦那様が歪虚にとりつかれた心当たりなどもお聞かせ願えればと……」
夜の広間に響いてくる、けたたましい悲鳴。
夢の中にいたディヤー・A・バトロス(ka5743)と、常から寝ているドゥアル(ka3746)が、同時に起きた。
ディヤーは寝ぼけた顔で薄暗い屋内をきょろきょろ見回す。
「ふぁ? ワシの肉料理は?」
数秒考え込んでから、悔しがる。
「なんだ夢じゃったのか? うぬ、許せぬ!」
ドゥアルも同様に御機嫌斜めだ。彼女がこの世で一番嫌いなのは、睡眠を妨害されることなのである。
「……わたくしの睡眠を妨害する者は死あるのみ……」
広間に2人の人間が、こけつまろびつ走り込んできた。
見れば先程水を飲んでくると言って出て行ったカチャ。そして屋敷の召使。
天竜寺 詩(ka0396)はぎょっとした。
「わ、何あれ!?」
カチャ達の背後に続く暗がりで、何かが動いている――ぬらぬらした触手の塊だ。廊下一杯に広がりながら、ぞわぞわこちらへ移動してくる。
形といい動きといい気持ち悪いといったらない。ディーナ・フェルミ(ka5843)は本気で泣いてしまいそうになる。
「きゃ~~!? 触手? 何なのいや~~ん」
とりあえず、どこからどう見ても歪虚である。
「屋敷の人に被害が出る前に倒さないと!」
詩は転がり込んできたカチャを背にかばい、光を帯びた矢を放つ。歪虚は驚いたように縮み上がり、動きの速度を落とした。
その合間に彼女は、息を弾ませているカチャを落ち着かせる。
「はい深呼吸して~。吸って~、吐いて~で、何があったの」
「あ、あ、あ、あの歪虚、ロッシオさんの中から出てきたんです! ロッシオさんの体を突き破って出てきたんです! 台所で、ロッシオさんが、ベーコンの塊を食べてたら、急にあれが……出てきて……ロッシオさんぼーんてなって! ぼーんて!」
事情を聞いたツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は確認を取った。あれだけの年齢となれば、歪虚から逃れる事など出来ないだろうと思いながら。
「……では、ロッシオ氏はお亡くなりになられたということですね?」
カチャは吐き気を催したように口元を押さえ、頷く。
ディヤーはそんな彼女の背を叩いた。軽口も、また。
「……のう、退治すれば依頼主から馳走は出ぬかの、カチャ殿?」
「こんな時によく食欲がありますね……」
「ハンターたるものタフでなければいかんでの」
フルルカ(ka5839)は、しかつめらしく言う。
「しかしあの長い触手は厄介だな。どうにか封じる手はないだろうか……ああ、そうだ。皆の衆。戦闘で建物家具などあまり痛めないようにな」
いつのまにか立ったまま二度寝しているデュアルが、寝言で呟いた。
「聞いた事がありま……あのような生物の事をリアルブルーでは……そう……エイドリアンと呼ぶ……」
ハーレキン(ka3214)は接近してくる敵に目をこらした。彼は自分の戦闘力がそれほど高くないことを意識している。だけに、観察を怠らない。
(さして強く無い敵だろうって思ったんだけどな……)
触手の長さはざっと4メートル。一杯に伸ばせば天井近くまで届くに違いない。粘液は、かなりの粘着性がありそうだ。包み込まれたら抜け出すのは容易でなさそうだ……。
「前には出ませんからね……」
歪虚が近づいてくる。触手をのたくらせ宙にかざし、周囲を嗅ぎ回っている。
藤林みほ(ka2804)は鎖鎌を持ち出し、構えた。
「狭い屋内戦闘は忍者の十八番でござるからして」
ツィスカは素早く暗がりの一角、二階へ通じる階段に目を走らせる。
彼女の意図を察したフルルカは、こそっと託宣を下した。
「行くなら真っすぐ最短距離で突っ切ることだ。暗くて足元悪いから、そこは気をつけて」
ツィスカが床を蹴り、走り出した。
ドゥアルは眠たげな目をカチャに向ける。
「……わたくしたちも行きましょうか」
「え?」
「……貴公はそちらの方を、3階の部屋まで運んでくださいね」
寝息交じりな台詞の内容を飲み込んだカチャは、口もきけねば足も立たぬ状態の召使を担ぎ上げた。
それを見届けドゥアルは、覚醒する。
「ハァァァァ! 覚醒! 歪虚よ、天に帰るときが来たようだな!」
彼女らがツィスカを追い走りだすと同時に、歪虚の体全体が、どっと広間の中へ入って来た。
何かが動いている気配を察しているのだろう、壁を伝い、階段の方へ向かっていく。
詩が矢を放った。
「とにかく上に行かせないよ!」
矢の当たった触手が千切れた。しかし千切られた触手はすぐ再生してくる。
再生力の早さに目を見開くみほ。
「なんだと!? 復元力がありすぎでござるな!」
ディーナは大急ぎで仲間たちにロッドの先端を向けた。
「5人までしか飛ばせないのごめんなさいなの……プロテクション!」
彼女自身を除いた5人――ドゥアル、みほ、ハーレキン、詩、ディヤーにプロテクションがかかる。
援護を受けたディヤーは不敵に笑った。
「フ……お遊びはここまでじゃ! 寸刻みにしてくれよう!」
すらりと剣を抜いた彼は、真っ向から歪虚に挑む。
助走をつけソファを足がかりに、華麗な跳躍。
「くらえいっ!」
あまりに高く跳び過ぎた為天井にぶつかり、剣が刺さる。
「あっ……!」
柄に捕まり宙ぶらりんになりながら、足元の歪虚に言うディヤー。
「ちょ、タンマじゃ! タンマ!」
しかし歪虚が聞いてくれるわけがない。すかさず触手を巻き付けてきた。
「!? ふにゃ~」
全身の力が抜けたディヤーは柄から手を放し、落下する。
ハーレキンは手持ちの食料を歪虚に向かって投げ付けた。ディヤーが落ちたのと真逆の方向へ。
「こっちだ、こっち!」
触手の一部がそちらに気をとられ、分散する。掴まれないようハーレキンは、壁を足場に飛び下がる。
みほは前衛に出、鎖鎌の分銅部分を振り回し、ディヤーを包み込もうとする触手に対抗した。
振り回す部分全体に神経が通っているだけに、相手の動きの方がより巧妙であった。鎖の部分に絡み動きを止め、引きずり込もうとしてくる。
触手が右手へ触れた瞬間、その部分の力が抜ける。分銅が床に落ちる。
そのままみほを押し包もうとする歪虚を、階上からツィスカが撃った。
「弱肉強食……喰らう側はそれを覚悟しなければならない」
触手が弾け飛ぶ様に、フルルカは手を叩く。
「いいぞ、その調子――」
直後、悪寒が背に走った。
振り向てみると目と鼻の先に触手がいた。
懐かしい故郷。毎年春になると家の庭に咲く、桜の花が如く舞い散るポテトチップス。田植えの際、踏みしめた泥のように飛び散るレトルトカレー……
間違いだらけの走馬灯を見つつフルルカは、現実のポテトチップスとレトルトカレーを現実の歪虚に投げ付け、どうにか逃げ切る。
「こいつが無ければ危なかったぞ……!」
ディーナは触手の先端でなく中間を狙う。接近戦をしている仲間に万一当たることがないように。
「……ホーリーライト!」
詩はブランデーの蓋を外し、歪虚に向かって投げ入れ、気をそらした。倒れているディヤーを引きずり出し、みほと共に治癒をかける。
伸びてきた新たな触手が身に触れそうになった瞬間、シャインを放つ。
「子供に見せられないゲームになるでしょ!」
光を受けた歪虚は縮こまった。そこに続けて矢が撃ち込まれる。
「女の敵は倒すべし!」
立ち上がったディヤーに、フルルカが言う。
「ディヤー、天井傷つけまくりだぞ。気をつけろと言ったのに」
「細かいところは気にするな、フルフル殿。それよりワシ、重大なことに気づいてたのじゃ。あの歪虚光に弱いのではないか? 先程からそれ系の攻撃に怯んでおる」
●
「一体どうしたのですこの騒ぎは!?」
「ご安心ください奥様。扉に鍵をかけ部屋から出なければ大丈夫です。家具調度への損害は最小限にくい止めますので……けして大旦那様が体から触手を出す隠し芸を今披露しているわけでは無いので大丈夫です」
かえって不安になるような説明を終えたドゥアルは、奥様を部屋に押し戻し、扉の前に陣取った。
下手に避難されるより籠もっていてもらうほうが、守る側としてやりやすい。
ツィスカは階段の手摺りから身を乗り出し、伸び上がってくる触手を打ち砕いている。
3階へ召使を運んで行ったカチャが降りてきた。
「ただ今戻りましたっ」
「ご苦労様……扉は開けないように言っておいた?」
「はい、ディヤーさん。内側からバリケードもしておくように言ってきまし――いひいいい!」
射撃によって千切れた触手が飛んできた。
ディヤーは盾で防ぐ。
弾かれ落ちたものはまだぴくぴく動いている。
カチャは竹刀で叩きに叩く。
「いやあ! もう気持ち悪いっ!」
このままでは埒が明きそうもない。再生可能な手先ではなく本体を叩くほうがいい。だがびっしり生えた触手の渦の中心まで攻撃を届かせるには、どうすればいいのか。
ツィスカがそう思っていたところ、階下から大声が響いてきた。
「おーい! 2階に明かりをつけるのじゃ! この歪虚光に弱そうじゃぞ!」
「カチャさん、頼みます」
「えっ!? 何で私……」
「この危険な状況で、召使の方達に動いてもらうわけにはいかないでしょう。歪虚は私たちが引き付けますから早く」
「わ、分かりましたっ!」
カチャは隅々まで走り回り、手の届くところにある全ての照明をつけていく。
●
2階へ次々明かりが灯り始めた。
そちらへ向かい伸びていた触手の動きが一気に鈍る。眩しいとでも言いたげな動きだ。
上に昇ろうという気がかなり弱まったに違いない。それをより確実なものとするためディーナは、手持ちの食料を惜しみ無くばら撒いた。
「まさか……前回の野営の残りがこんなところで役に立つなんてぇ――やぁん、こっち来ないで……じゃなかったこっち来なさいなの!」
階上からツィスカも、次々餌を投げ落とす。
歪虚は不快さを感じる方向へ移動を続けるより、引き返して食物を得る方を選んだ。
階段付近に張り付いていた触手が、ひとつひとつ剥がれていく。
ディヤーはパンをリトルファイアで炙り、これみよがしに見せつけた。
「おお、パンの焼ける匂いはいいもんじゃ」
フルルカと、みほと、ハークレイが、紐に結び付けた食料を振ってみせる。
「ほれほれ、こっちにはおいしいものがたんとあるぞ」
「早く来ないと無くなるでござるよー」
「パンとお肉、差し上げます!」
一気に歪虚が反転した。
フルルカはにやりと口の端を持ち上げた。
「触手を縦横無尽に伸ばすがいいぞ!」
3者は散開し、全速力で走りだした。みほとハーレキンは身体能力を生かし、お互いが立体的に交錯するよう飛び回る。
歪虚はそれぞれを追おうと、四方八方手を広げ、お互いもつれあってしまう。
付け根に触手とは違う部分が見えた。
本体だ。
詩は狙い違わず、そこに向かって矢を突き立てる。
本体に攻撃を受けた歪虚は、伸びていた触手を大急ぎで引っ込めにかかった。本体を防護しようというのだ。
しかし手があちこちで絡まっているため思うに任せない。
ディヤーは炎をまとったリートダガーで、束になった触手を切りつけた。
「再生がうまく行かぬか? それが火傷じゃよ」
露になった本体目がけ放たれる、ツィスカの機導砲。
「喰らう側が喰われる側になる。ただそれだけです」
フルルカもここぞとばかり撃ちまくる。
「これはさっき食べてたベーコンの恨み、これは犠牲になった爺さんの恨みィィ!!」
もう2階に上がってくることは無いだろう。そう踏んだドゥアルはカチャに奥様のことを任せ、攻撃可能な距離まで降りて行く。
近接武器の代用として松明(火はついていない)を振り回していたディーナは、粘液でとろけてきたそれを投げ捨て、彼女に呼びかけた。
「タイミング合わせてホーリーライト撃ちます……ホーリーライト!」
ドゥアルはそれに応える。
「申し訳ありません……体を破壊させてもらいます」
2方向からの光弾が歪虚の体を貫いた。
ディヤーは、歪虚を踏み台にして跳んだ。天井に刺さった剣に掴まり、大きく体を前後に揺らして、抜きにかかる。
先程と違い下から襲われることは無かった。圧倒的にハンターの側が優勢になっていたので。
触手の一部が勝手に千切れ始める。あたふた逃げようとでもするかのように。
それにみほの手裏剣が刺さった。ハーレキンのローゼンメッサーも。
「逃しはせぬでござる」
「残念だけど行かせるわけにはいかないんだ」
本体から離れると再生能力が効かなくなるものらしい。触手はそのまま煙を上げ消滅していった。
剣を抜き飛び降りてきたディヤーは、再び歪虚に突進して行く。
「火炎烈斬!」
これが決定打になると察したツィスカは、自身のマテリアルを彼に送り込む。
一段と強く燃え上がった剣が歪虚を斜めになぎ払った。
破られた体の中から粘液があふれ出し、歪虚自身を溶かしていく。
詩は弓を降ろし、肩をすくめた。
「そういえば昔話にあったね。食いしん坊すぎて自分を全部食べちゃうタコだかウワバミだかの話」
みるみるうちに消えて行く歪虚を前に、ドゥアルは、仲間へ提案した。
「出入り口を確認して、もう一度屋敷内を探索しましょう。寄生するというならば、一片たりとも残せないのよ」
●
翌日、屋敷に当主が帰宅してきた。
げっそりした表情の妻君、使用人たちとともに、ハンターらも彼を出迎える。
「おお、ご当主か。この度はお悔やみ申し上げる――」
先頭に立ったディヤーの礼に、当主は、怪訝な表情を見せた。
「――何があったんだねアンリエット? この方たちは?」
問いを受けた奥様は、ハンカチを目元に押し当てつつ言った。
「あなた、お義父様が亡くなられたんですよ……それがまあ本当にひどくて! 私こんな恐ろしい目に遭ったのは、生まれて初めてですわ。今も気分が悪くて倒れそうなんですよ……」
「え、え、死んだって……父上がかね……何故……」
動揺を示す当主に、ドゥアルが、半分寝ているような声で言う。
「……どうやら、歪虚に憑かれておられたようなのです。ご遺体を確認されますか?」
当主は、まだ現実感が持てない表情で頷いた。
ハンターらは広間に彼を案内する。
そこは家具がすべて取り払われており、がらんとしていた。
中央に箱が置いてあった。随分小さなもので、上に布がかけてある。
傍らでレクイエムを口ずさんでいた詩は、当主の姿を見て歌を打ち切り、道を譲った。
当主はぎこちない手つきで布を取り外し、箱を開けた。
箱の中にあったのは、なんだか分からない肉片と、それにこびりついた髪の毛だけ。
当主の顔がみるみる白くなっていく。
ドゥアルは言う。酷だとは思いつつも。
「ご遺体は、火葬されることを提案いたします。よろしければ、大旦那様が歪虚にとりつかれた心当たりなどもお聞かせ願えればと……」
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作戦相談 ツィスカ・V・A=ブラオラント(ka5835) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/11/25 14:17:20 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/23 02:04:21 |