ゲスト
(ka0000)
イルミネーション・フェスティバル
マスター:篠崎砂美

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/19 19:00
- 完成日
- 2015/11/27 02:45
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
11月です。
「さてと、何か商店街を盛り上げるネタはないものかしら」
売り上げ台帳を見ながら、セレーネ・リコお嬢様が考え込みました。
先月は、お酒の祭りを開いて大盛り上がりでした。おかげで、商店街の集客状況も、売り上げも、なかなか美味しい数字でした。
ただ、その反動でしょうか、今月は、なんだかパッとしません。
ここは、何か、盛り上がるイベントをしたいところですが。
「イベントー? やろやろやろ、なんでもいいから、イベントやろー」
案内所でお嬢様の愚痴ともつかない溜め息を聞いたフィネステラ案内嬢が、目を輝かせました。お祭り大好きのようです。
「なんでもっていうわけにはいきませんわよ。少し前の飛行機コンテストみたいに、いきなり盛り下がっては、その後の商売に影響しますから」
第一回の盛況に気をよくしてほいほいと第二回を開いた飛行機コンテストですが、やはり短期間での機体の制作は難しかったのか、数が集まらずにパッとしませんでした。何ごとも、急いてはいけません。商人としては、ここは堅実に後の商売にも繋がるイベントを模索したいところです。
「空がダメなら、地上はどうかしら。お店に、キラキラのお星様を飾るとかあ」
「地上にお星様って、星形の飾りをつけただけではパッとしませんわねえ。やっぱり、夜もキラキラする物でないと。とはいえ、キャンドルでは数が大変ですし、火事への対策も大変ですわ。ランタンにするにしても、大して変わりませんし。魔術学院に魔法の明かりを頼むと、なんだか経費がかさみそうですわよねえ……」
何かいい方法はないかと、お嬢様が考え込みます。
「そういえば、春の郷祭の時に、ジェオルジで光る花が開発されたとか……」
「それですわ!」
デレトーレ支配人の言葉に、お嬢様がポンと手を打ちました。
「確か、採光花『咲蛍』という花でしたか。ヒナギクに似た花で、様々な花の色そのままに、昼間に貯めた光で夜も輝き続けるとか。ジェオルジでは、まめしに次ぐ新製品として、注力しているはずです」
「それを大量に仕入れましょう。光る花で、商店街を飾るのですわ。ヴァリオス一明るい商店街、いいじゃないですか。忙しくなりますわよ」
思わず、綺麗に飾りつけられた商店街をお嬢様は想像してみました。
大通りに面した宅配受付センターから始まる商店街は、端から端まで100メートルほどです。幅の広い道路の左右にならぶ店は、イベントともなれば色とりどりの採光花で飾りつけられることでしょう。
ちょうど中央に位置する二階建ての案内所も例外ではないはずです。
そして、なんと言っても、その案内所の前の中央広場に立っている原寸大CAM像。これは、実に飾りがいがあるはずです。
想像すると、ちょっとうっとりとしてしまいます。
歪虚の攻撃から復興した新興商店街も、ハンターたちの協力のおかげで数々のイベントの舞台となり、最近はやっと色々と様になってきました。
商工会の支援の下、出店権を持っている商人たちは、その都度店員を雇って様な店を出しています。きっちりした店舗であったり、その場限りの簡易屋台であったり、その形態は様々です。取り扱う商品も、働く店員も、ちょこまかと変化して、商店街全体の活性化をうながしていました。特に、クリムゾンウェスト由来の店舗とリアルブルー由来の店舗がほどよく共存しているのも特徴となっています。そのため、ハンターたちがよく雇われ店長として店先に立ったりしています。お嬢様のお店も、時にがらりと扱い商品を変えながら、順調に商売をしていました。
「さて、今度は、何を売ろうかしら」
新しい商売のヒントを得たお嬢様は、すぐに咲蛍の手配を始めました。
「さてと、何か商店街を盛り上げるネタはないものかしら」
売り上げ台帳を見ながら、セレーネ・リコお嬢様が考え込みました。
先月は、お酒の祭りを開いて大盛り上がりでした。おかげで、商店街の集客状況も、売り上げも、なかなか美味しい数字でした。
ただ、その反動でしょうか、今月は、なんだかパッとしません。
ここは、何か、盛り上がるイベントをしたいところですが。
「イベントー? やろやろやろ、なんでもいいから、イベントやろー」
案内所でお嬢様の愚痴ともつかない溜め息を聞いたフィネステラ案内嬢が、目を輝かせました。お祭り大好きのようです。
「なんでもっていうわけにはいきませんわよ。少し前の飛行機コンテストみたいに、いきなり盛り下がっては、その後の商売に影響しますから」
第一回の盛況に気をよくしてほいほいと第二回を開いた飛行機コンテストですが、やはり短期間での機体の制作は難しかったのか、数が集まらずにパッとしませんでした。何ごとも、急いてはいけません。商人としては、ここは堅実に後の商売にも繋がるイベントを模索したいところです。
「空がダメなら、地上はどうかしら。お店に、キラキラのお星様を飾るとかあ」
「地上にお星様って、星形の飾りをつけただけではパッとしませんわねえ。やっぱり、夜もキラキラする物でないと。とはいえ、キャンドルでは数が大変ですし、火事への対策も大変ですわ。ランタンにするにしても、大して変わりませんし。魔術学院に魔法の明かりを頼むと、なんだか経費がかさみそうですわよねえ……」
何かいい方法はないかと、お嬢様が考え込みます。
「そういえば、春の郷祭の時に、ジェオルジで光る花が開発されたとか……」
「それですわ!」
デレトーレ支配人の言葉に、お嬢様がポンと手を打ちました。
「確か、採光花『咲蛍』という花でしたか。ヒナギクに似た花で、様々な花の色そのままに、昼間に貯めた光で夜も輝き続けるとか。ジェオルジでは、まめしに次ぐ新製品として、注力しているはずです」
「それを大量に仕入れましょう。光る花で、商店街を飾るのですわ。ヴァリオス一明るい商店街、いいじゃないですか。忙しくなりますわよ」
思わず、綺麗に飾りつけられた商店街をお嬢様は想像してみました。
大通りに面した宅配受付センターから始まる商店街は、端から端まで100メートルほどです。幅の広い道路の左右にならぶ店は、イベントともなれば色とりどりの採光花で飾りつけられることでしょう。
ちょうど中央に位置する二階建ての案内所も例外ではないはずです。
そして、なんと言っても、その案内所の前の中央広場に立っている原寸大CAM像。これは、実に飾りがいがあるはずです。
想像すると、ちょっとうっとりとしてしまいます。
歪虚の攻撃から復興した新興商店街も、ハンターたちの協力のおかげで数々のイベントの舞台となり、最近はやっと色々と様になってきました。
商工会の支援の下、出店権を持っている商人たちは、その都度店員を雇って様な店を出しています。きっちりした店舗であったり、その場限りの簡易屋台であったり、その形態は様々です。取り扱う商品も、働く店員も、ちょこまかと変化して、商店街全体の活性化をうながしていました。特に、クリムゾンウェスト由来の店舗とリアルブルー由来の店舗がほどよく共存しているのも特徴となっています。そのため、ハンターたちがよく雇われ店長として店先に立ったりしています。お嬢様のお店も、時にがらりと扱い商品を変えながら、順調に商売をしていました。
「さて、今度は、何を売ろうかしら」
新しい商売のヒントを得たお嬢様は、すぐに咲蛍の手配を始めました。
リプレイ本文
●光の街路
夕日が沈み、残照もその幕を空から下ろすとき、夜の光が目を覚まします。
ほつほつと、ゆわゆわと。
昼の光を思い出し、採光花(さいこうばな)が輝きだすのです。
普段はジェオルジの花畑を淡い光の絨毯のように照らし、家々に点る標(しるべ)の明かりですが、今日のヴァリオスでは違いました。
商店街を成す通りその物が光でつつまれていたのです。
シャンシャンシャンと、夜道の馬車の接近を知らせる鈴が鳴り、お客様を送り届けてきた商店街の馬車が戻ってきました。
Gacrux(ka2726)によって採光花を全体に飾られた馬車は、昼は可愛い花馬車として、夜は幻想的な光につつまれた乗り物として、今日のイベントをヴァリオス中に告げて回りました。
普段は商店街の入り口の預かり所に停める馬車ですが、今日は特別に小型の馬車を商店街の端から端へも定期的に走らせていました。商店街中央のCAM像前でいったん停まり、商店街を一往復して帰ってくるというスケジュールです。
「それでは出発します」
正装して御者台に座ったガクルックスが、光につつまれた馬車を発車させます。
馬車に乗ったお客様は、色とりどりの花で飾られた店先や、随所におかれているオーナメントを鑑賞できます。商店街を歩くお客様は、美しく飾られた馬車を小さなパレードのように鑑賞するという形です。
商店街は、お店ごとに色や形の違うボンボリが目印としておかれています。エティ・メルヴィル(ka3732)が鳳凰院ひりょ(ka3744)に手伝ってもらって設置した物です。
七夕飾りの残りから作った竹ひごで枠を作り、飛行機コンテストで仕入れた残りの和紙を貼りつけて作ったオーナメントでした。中に入れられた採光花の光が和紙に映り、広く柔らかくオーナメント全体から周囲へと明かりを投げかけます。
「うん、いい感じ」
中央広場のCAM周りを光るボンボリで飾りつけながら、エティがうなずきました。
「これで完成だね。お疲れ様」
手伝ってくれた鳳凰院が、屋台から買ってきたドリンクとパンをエティに手渡しました。
「ありがとー」
一段落ついてお腹の空いたエディがそれにパクつきます。
少し離れた所では、馬車を停めて休憩中のガクルックスも、ドリンクで一息ついていました。じきにお客様を入れ替えて、商店街を回ります。
「じゃあ、ちょっと見て回ってくる」
そうエディに言うと、鳳凰院は商店街の散策へとでかけました。自分たちがおいた飾りの他にも、それぞれの店が趣向を凝らして採光花を飾っています。リアルブルー出身の者としては、久しぶりに明るい夜の街という物を見た気がします。もちろん、電気の明かりとは比べようもありませんが、それでも、歪虚が出現するこの世界で、光は人の心を安心させてくれます。
「妹たちにも見せてやりたいな」
機会があれば連れてきてやりたいと思う鳳凰院でした。
「さしいれだよ」
鳳凰院が、入り口でスタンプラリーの受付をしているJ(ka3142)にも、パンと飲み物を渡します。
ありがとうと、Jが仕種でお礼を言います。結構忙しいようで、休息を取る暇もないようでした。
「ねえ、面白そうだから、やりましょうよ」
リーラ・ウルズアイ(ka4343)が、柊 真司(ka0705)の腕を引っぱって、スタンプラリーの受付へとむかいました。
「スタンプラリーか」
どのみち真司に奢ってもらって買い物する気満々のリーラですので、その上景品ももらえるのでしたらラッキーです。
「それでは、目印の採光花のリースがある店で、お買い上げの際にこのカードにスタンプを押してもらってください」
一通りの説明をして、Jが真司たちにカードを渡しました。
商店街に入る真司やリーラたちのように、通りには寄り添って歩くカップルたちの姿があちこちに見られました。みんな、幻想的な光につつまれて、いい雰囲気になっているようです。
「結構久しぶりという気がしますね、二人だけのデートというのは」
しっかりと腕を組みながら、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が言いました。
「そうかもね」
ピッタリと身を寄り添わせながら、時音 ざくろ(ka1250)が答えます。
こうしてくっついていれば、夜の寒さも逃げいってしまいそうです。
「ざくろが地球にいた頃は、冬の駅前はこういうふうにイルミネーションで飾られていたんだよ」
「それはそれは」
「だから、アデリシアと、同じように歩きたいなって思って……」
そう言うと、ざくろは頭をアデリシアの肩にあずけました。これで雪でも降ってくれば、ほとんどクリスマスです。そして、寒いのを理由として、一つのマフラーを二人で巻くのもいいなあと考えたりします。
リアルブルーでのイルミネーションは、どこかキラキラしたイメージがありました。
そんな雰囲気をよく出していたのは、ウル=ガ(ka3593)のアクセサリー屋さんです。
銀細工と硝子細工を中心としたその店のショーウインドゥでは、切り子細工のグラスに入れられた採光花が、キャンドルライトのようなほのかな明かりを周囲に投げかけています。その光を受ける動物型の銀細工の輝きが、さらに、ならべられたワイングラスの曲面に光の弧を描くという具合です。
天上から糸でぶら下げられた銀の髪飾りやイヤリングは、まるで星の飾りのようでした。
「わあ、綺麗なアクセサリーだなあ。でも、ちょっと高いかな。あっ、あっちのお店の洋服も素敵!」
採光花のおかげで夜でもよく見える商品につられて、陶 凛華(ka5636)がパタパタとお店からお店へ走り回っていました。
「あの赤い髪飾り。ちょっといいかな。硝子のペンダントヘッド、玉露に似合うかも……」
入れ替わるようにしてウインドゥをのぞき込んだ遠火 楓(ka4929)が、ちょっと興味を示します。肩には、猫の玉露を乗せています。
「いらっしゃいませ」
キラキラした商品の中に埋もれるようにして、ウルがいかにも職人という感じで渋く楓を迎えます。
そのまま、楓は、自分用のアクセサリーと、猫用の物を買ったようでした。
「どうせだから、採光花も買おうかなあ」
まだまだ見るお店はたくさんあると、ウルが綺麗につつんでくれた袋をかかえて、楓はブラブラと商店街を進んで行きました。
「そこ行くお姉さん、香水なんかどうだい? ここいらじゃちょっと珍しい、練り香水だよ」
シャン、シャンと神楽鈴を鳴らし、ゆったりとした袖を振りながら紫吹(ka5868)が、出店の前で軽く舞を踊ります。その袖の動きにわずかに風が起き、紫吹の持つ香水の香りを道行く人に届けました。
「わあ」
香りに惹かれるようにしてやってきた凜華が、店先をのぞき込んでいます。
色分けされた採光花の前には、その色に合わせた香水がおかれていました。光と香りがよくマッチしていて、なんともエキゾチックです。
香料を蜜蝋に混ぜて練り込んだ練り香水は、ちょっと見ると可愛いお菓子のようです。
「今でも素敵だけれど、これを使えばもっと素敵になれるよ」
自らの腕に、練り香水をスッと滑らせて香りを振りまきながら、紫吹が道行く人に声をかけていきました。
「いい香りやな。そうそう、それで、うち、服が欲しいんやけど」
その香りに誘われた白藤(ka3768)が、一歩後ろを歩くマッシュ・アクラシス(ka0771)に言いました。
「お召し物でございますか? そうですねえ、それでしたら、あちらのお店がよろしいかと」
そう言うと、マッシュが白藤をお嬢様のお店に連れていきました。
仕事仲間の白藤がショッピングをしたいというので案内係を買ってでたわけですが、いつの間にか買い物の荷物持ちもさせられています。
「お召し物ですか? どうぞ、自由に御覧ください。試着もできますので、どうぞ」
採光花をコサージュのように飾ったセレーネ・リコお嬢様が、店内に飾られた衣服をいくつかピックアップして白藤とマッシュに勧めました。
「そうですねえ……」
ちょっとマッシュが言いよどみます。鎧の類ならまだしもですが、普段女性が着るおしゃれな服となると、ちょっと勝手が違います。はたして、どういう物が白藤の好みなのか……。
「これなどはいかがでしょうか……」
とりあえず、ふりふりした物がいいだろうと、ふんだんにレースのついた赤い色のドレスを勧めてみます。
「動きにくいのや、派手な色は勘弁や」
そう言うと、白藤はマッシュが次々と選んでくれた服の大半を却下します。しばらくして、やっとその中から気に入った物を選びました。黒いキャミソールワンピースで、胸元が大きく開いている代わりに丈は長めです。金と黒のベルトでアンダーバストを絞り、裾で隠れた太腿にホルスターを装着します。
「これなら蝶がよく見えるし、色もお揃いや」
マッシュにならんで見せて、白藤が言いました。確かに、胸元の蝶の模様がちゃんと見えます。色も、マッシュの着ている服とお揃いの黒です。
「お買上ありがとうございます。いらっしゃいませ、お召し物はいかがですか?」
ウキウキとした白藤と荷物を持ったマッシュを送り出すと、お嬢様がショーウィンドゥをのぞき込んでいる凜華に声をかけました。
通りでは、まるごとゆぐでぃらを着た龍崎・カズマ(ka0178)が、採光花を人々に配っていました。
猫妖精のイメージを壊さないように、台詞を発することなく仕種で色々とお客様にアピールしていきます。
そこへ、真司とリーラが通りかかりました。
「おいおい」
「いいじゃないの、減るもんじゃなし」
真司の腕をとりながら、胸をピッタリとくっつけながらリーラが言いました。
「何が減るんだ!?」
「寒いから暖を取ってるの。でも、こっちも暖めてるから、おあいこよね」
なんだかよく分からない理論で、リーラがますます真司にくっつきました。
まあ、ああいうのは邪魔しちゃいけないなと、カズマが気をきかせて反対の方向へと進みます。
ぽん。
「はわわ……本物!?」
パルムをだいて歩いていたクアンタ(ka4214)が、いきなり採光花をカズマから差し出されてちょっとどぎまぎします。
「あ、ありがと……」
そうお礼を言って、クアンタがカズマから採光花をもらいました。
昼間は商店街の飾りつけの手伝いで、採光花がちゃんと陽にあたって光を蓄えられるようにと位置を調整して働いていたクアンタです。色々なオーナメントを見ていたので、最初、カズマのまるごとゆぐでぃらも置物だと思っていたようでした。それがいきなり動いて採光花を差し出してきたので、びっくりです。
「ねえ、今みたいなのも記録しちゃうの?」
自分の失敗は記録されたらちょっと困るなあと、クアンタがパルムに聞きました。でも、パルムはポーカーフェイスです。
「じゃあ、ああいうのは?」
いちゃいちゃしている真司とリースを指さしてなおも聞きましたが、やっぱりパルムは可愛いままでよく分かりません。
「あっ、ちょっと曲がってる……。よいしょっと♪」
オーナメントの位置がずれているのを見つけては、直しながらクアンタは散策を続けていきました。
「ちゃんと光ってるねー」
同じように事前の飾りつけを手伝ったエティも、夜になって明るさを増す採光花を満足気に眺めて回っていました。自分以外の人たちが飾りつけたお店やオーナメントを見ていると、ウキウキしてきます。
お店ごとに、様々に工夫を凝らしているので、見ていて飽きません。
「みんな頑張って飾りつけしたんですね」
そんなイルミネーションを綺麗だなあとしみじみ眺めながら、アメリア・フォーサイス(ka4111)が思いました。人々に目を戻せば、カズマから採光花を手渡されて、凜華がちょっとびっくりしている様子が見えます。
お店の明かりに目をとらわれすぎていたので、ふいをつかれたのでしょう。長らく森の中のエルフの里で暮らしていた凜華にとっては、都会のこういうイベントはサプライズの連続です。
お上りさんっぽいなあと思いながら、自分もまたクリムゾンウェストという世界のお上りさんだと思い出すアメリアでした。
「何かないかなあ」
ちょっと落ち着きたいと周囲を見回したアメリアの目に、ホットドリンクの屋台が映りました。
「やあ、繁盛している?」
中央広場のCAM像にお祈りをあげた後、ちょっと他の店の様子を見に来たミオレスカ(ka3496)が、ドリンク屋台のジュード・エアハート(ka0410)とエアルドフリス(ka1856)に声をかけました。
「まあまあかな」
「これ、さしいれ」
飄々と答えるジュードに、ミオレスカがパンの入ったつつみを差し出しました。甘い水飴をシュガーコートしたパンです。
「ありがとー。これに合うドリンクはあるかなあ?」
エプロンドレスに短いショルダーケープ姿のジュードが、エアルドフリスに聞きました。接客係として、ふりふりがよく似合います。男だというのに、まったく違和感が仕事をしていません。
「それだったら、ホットショコラかな」
屋台の裏手でせっせと仕込みをしていたエアルドフリスが答えました。
「オレンジピールを刻んだ物を混ぜれば、さらによくなる」
言いつつ、実際に作ってみせます。スパイスに詳しいエアルドフリスですが、地元で栽培できるスパイスをのぞいては、まだまだ入手困難な物がたくさんあります。おかげで、高いスパイスは気軽に飲み物などに使うことはできません。まあ、そこを工夫するのも、エアルドフリスの腕の見せどころでした。
「何か、身体の温まる物を一杯」
そこへ、アメリアがやってきました。
「では、ホットワインなどはいかがですか?」
ジュードが振り返って言いました。黒髪に挿した採光花が明るく、その端正な顔を照らします。
「じゃあ、それで」
「はい。エアさん、ホットワイン一つ」
「う、うん」
ちょっとジュードに見とれていたエアルドフリスが、慌ててドリンクを作ります。
ワインをベースにして、それを林檎ジュースで割り、さらにレモンを加えます。本当はスパイスを加えたいところですが、ここはエルダーの花を飾りと香りづけとしてグラスにさすことにしましょう。
「はあ、リアルブルーだったら、もうすぐクリスマスだよねえ」
屋台横のベンチに座ってホットワインを飲みながら、アメリアが愚痴りました。一体、自分が転移後のリアルブルーは、今どうなっているのでしょうか。今さら戻れたとしても、失踪期間中の処理が大変でしょうし。とはいえ、残してきた家族のことも心配ではあります。
「ねえ……」
ちょっと愚痴ろうと振り返ったアメリアの目に映ったのは、ジュードとエアルドフリスが仲睦まじくつつきあっている姿でした。
「やめとこ……」
そう言って、ホットワインをぐいとあおったアメリアでした。
夜も更けてきて結構寒くなってきたせいか、ホットワインがよく売れます。
「こ、こら。私を蹴ったって、あげないからね」
ワインで身体を温めていた楓が、それを欲しがる玉露に暴れられて慌てて肩に押さえつけました。
「仕方ないなあ。ミルクある?」
玉露用にホットミルクを追加すると、楓がベンチに腰をおろしました。パッと飛び降りた玉露が、足許をクルクルしてからベンチに乗ってミルクをなめだしましたが、一口目で、熱いと、抗議の目を楓にむけます。
「もう」
仕方なく、ミルクをふうふうさせられる楓でした。
「おお、あったあった、これが目印かな」
ジュードの屋台に着けられていたスタンプラリーのリースを見つけて、真司とリーラがやってきました。
「暖かそうなのがあるわね♪」
アメリアの飲んでいるホットワインを見て、リーラが同じ物をジュードに頼みました。自動的に支払うはめになった真司が、台紙を出して、しっかりと採光花型のスタンプを二つ押してもらいます。せめて、景品ぐらいはもらわないと、お財布係としてはやってられません。
「あっちにも、何かあるらしいよ」
リーラが、真司の腕を引っぱって、そのまま広場の方へとむかいました。
広場には、巨大な原寸大CAM像が、あちこちに採光花をつけられて明るく輝いています。まさに、光の守護神といった感じです。手に持った剣の先からは案内所の方へとロープが渡され、エディと鳳凰院の作ったボンボリがお祭りよろしく下げられています。
「すっごい、でっかい、明るい」
「うん、なかなかに綺麗な物だな」
さすがに、オブジェとしては最大の物なので、見物のしがいがあります。所々に鳩のオーナメントが止まっているのは、CAM像を採光花で飾った鞍馬 真(ka5819)の演出でした。CAMは、戦いの象徴ではなく、平和の守護者の象徴であれと言うことのようです。案内所の屋根にも、同じオーナメントがいくつもおかれています。
CAM像の足許には、ザレム・アズール(ka0878)が作った採光花の花壇が広がっていました。植木鉢の採光花を綺麗にならべて、模様にした物です。
CAM像を中心にして、放射状に色とりどりの採光花のラインがのびています。まるで、CAM像へと人々を案内する道のようです。
採光花の道の脇にはベンチがおかれていて、ゆっくりと休みつつ、景色を眺めたり軽食をとったりできるようになっていました。
「うーん、こうしてみると、よくできてはいてもやはり像なんだよなあ。なんで、前に見たときは本物だと思ったんだろう。乗りたいのか俺?」
近くに店を開いているミオレスカのパン屋で買った水飴パンをパリパリと囓りながら、ザレムがCAM像を見あげました。
「魔導アーマーなんかの出番も増えてきてるって話だし、時代は変わりつつあるのかな」
ふと、気づくと、クアンタが、ちょっとびくびくしながらCAM像を見あげていました。
「これ、動かないよね……」
さすがに本物ではないので動きませんが、動きだしたとしても不思議ではない感じもします。きっと、商店街の危機には、御当地CAMとして、ゆるキャラのように動きだすのかもしれません。
「それは、それで……」
突然CAM像が真の姿を現して戦う場面を想像して、ちょっといいかもしれないと思うザレムでした。
「あった、あった。ここだな、世にも珍しい水飴パンを売っている店は」
CAM像の飾りのできを確認しに来た真が、ミオレスカのパン屋を見つけて叫びました。
屋台には、パンで作られたCAM人形が飾られていて、ピカーっと目を光らせています。
その輝きや、屋台の要所要所におかれた採光花の光に照らされて、水飴パンはキラキラと光り輝いていました。夜の闇の中で、周囲のイルミネーションの光を映して輝く水飴パンは、なんだか幻想的です。
水飴パンを買うと、真はベンチに座って、CAM像を眺めながら、それにパクついていきました。
「ここで食べよう♪」
真の隣のベンチにリーラが座って、真司を手招きました。
「よし、たまったな……」
ミオレスカのパン屋に支払いを済ませた真司が、スタンプ帳を確認しながらリーラの横に座ります。
「カップルばっかり……」
一人ベンチでパンを食べていたクアンタが、ちょっとあてられて視線を周囲へとさまよわせます。けれども、別の方向にもまたカップルです。
「一つ一つは小さな明かりでも、集まると華やかなものですね」
アデリシアにピッタリとくっつかれたままのざくろが、ちょっと苦労しながら周囲を眺めて言いました。
「んっ、ちょっと疲れましたか? どこかで休みましょうか。ちょうどベンチもありますし」
だきつかれ疲れの見え始めたざくろが、アデリシアに言いました。
「そうですね。でも、もっとちゃんと暖かい所で……」
そう言うと、アデリシアはざくろを押すようにして商店街隣の通りへとむかっていきました。
「どこへ行くんだろう……」
ちょっと興味津々でクアンタが二人を目で追います。その視線を遮るようにして白藤とマッシュがやってきました。
「ほら、あーん」
「そんなことをしなくても食べられますよ」
両手に荷物をかかえたマッシュが、白藤に千切ったパンを口許に持ってこられてちょっと困ります。
「ほなかて、両手ふさがってるやん。一人じゃ食べらへんやろ」
「仕方ありません。いただきます」
観念して、マッシュがパンを食べました。だいたいにして、洋服などの買い物につきあう予定ではありましたが、白藤がこんなにたくさん買い込むとは、ちょっと予定外でした。
「ああ、でも、あそこのベンチに座れば手が放せ……」
「あーん」
もう、ほとんど餌付けです。
餌付けと言えば、楓はまたもや玉露にパンをねだられています。
「悪食はダメ。帰ったら、猫用のやるからニャーニャー言わない」
持っていた煙管で、ぽこんとやさしく玉露の頭を叩きます。そのまま食後の一服をしようとしましたが、タバコが切れていました。
「しまった。ここらで売ってるかなあ……」
玉露を肩に担ぐと、楓はタバコを探しに行きました。
「本当に、カップルしかいない……。あれ? 何か始まるのかな」
クアンタが溜め息をついていると、案内所横の特設ステージから、テンポのよい音楽が聞こえてきました。
緑と茶色に色分けされたタイツを着たハーレキン(ka3214)が、クルリと身軽な動きでステージ上でバク転をしました。
「さあ、今回の出し物は人間イルミネーションだよ!」
そう言うと、軽くダンスを披露した後に、ハーレキンが倒立して開脚します。
「はーい、飾りの採光花はこちらですよー」
案内所のフィネステラ受付嬢が、サポートとして飾りを売ります。
この飾りを、直接ハーレキンの身体にくっつけて、人間イルミネーションを完成させるという出し物なのですが……。
実際にそれをやるとなると、ちょっと戸惑う出し物です。お客さんたちも、ひそひそと喋って遠巻きにするばかりです。
「ねえ、色々と、シチュエーション的に無理がなあい?」
ちょっと、この格好の逆立ちしたタイツ男子に近づく趣味はないと、フィネステラ嬢がハーレキンにささやきました。
仕切り直しです。
ハーレキンの意図を汲んで、緑色のケープコートを羽織って、ゆっくりとステージ上を動くクリスマスツリーもどきとなってもらいます。それを、飾りを持った子供たちが追いかけて、ぺたぺたと貼りつけていくという具合です。
これは見た目もまともで、楽しい追いかけっこという形なので、子供たちには好評でした。ほどなくして、ハーレキンの身体が、光る飾りで一杯になりました。
「お疲れ様ー」
テキパキと片付けをするフィネステラ嬢が、ハーレキンに言いました。
「じゃあ、僕は、そのへんをブラブラしてきますねー」
全身に光る飾りをつけたまま、ハーレキンが通りに繰り出しました。ケープについた飾りが光って、まさに人間イルミネーションですが、本人はまったく気にしていません。
そのまま通りを縦断して、商店街の入り口辺りまでやってきます。
スタンプラリーの受付では、Jが一杯になったスタンプ帳を確認して、景品を渡しているところでした。
「はい、おめでとうございます。景品は、各店で使えるサービス券と、採光花のブーケです」
「これはこっちでもらっておこう」
すかさず、真司がサービス券の方を確保します。
ああと、サービス券を欲しそうに手をのばすリーラの髪に、真司が採光花を一輪、スッと差し入れました。
「リーラは、こっち」
そう言うと、真司はリーラの頭をポンポンと撫でました。子供みたいに撫でるなあっと、リーラがピョンピョンします。
そこへ、送迎用の馬車が戻ってきました。
商店街を楽しんだ人々が、光に飾られた馬車に乗り込んで家路につきます。
でも、光のあふれた夜は、まだまだこれからなのでした。
夕日が沈み、残照もその幕を空から下ろすとき、夜の光が目を覚まします。
ほつほつと、ゆわゆわと。
昼の光を思い出し、採光花(さいこうばな)が輝きだすのです。
普段はジェオルジの花畑を淡い光の絨毯のように照らし、家々に点る標(しるべ)の明かりですが、今日のヴァリオスでは違いました。
商店街を成す通りその物が光でつつまれていたのです。
シャンシャンシャンと、夜道の馬車の接近を知らせる鈴が鳴り、お客様を送り届けてきた商店街の馬車が戻ってきました。
Gacrux(ka2726)によって採光花を全体に飾られた馬車は、昼は可愛い花馬車として、夜は幻想的な光につつまれた乗り物として、今日のイベントをヴァリオス中に告げて回りました。
普段は商店街の入り口の預かり所に停める馬車ですが、今日は特別に小型の馬車を商店街の端から端へも定期的に走らせていました。商店街中央のCAM像前でいったん停まり、商店街を一往復して帰ってくるというスケジュールです。
「それでは出発します」
正装して御者台に座ったガクルックスが、光につつまれた馬車を発車させます。
馬車に乗ったお客様は、色とりどりの花で飾られた店先や、随所におかれているオーナメントを鑑賞できます。商店街を歩くお客様は、美しく飾られた馬車を小さなパレードのように鑑賞するという形です。
商店街は、お店ごとに色や形の違うボンボリが目印としておかれています。エティ・メルヴィル(ka3732)が鳳凰院ひりょ(ka3744)に手伝ってもらって設置した物です。
七夕飾りの残りから作った竹ひごで枠を作り、飛行機コンテストで仕入れた残りの和紙を貼りつけて作ったオーナメントでした。中に入れられた採光花の光が和紙に映り、広く柔らかくオーナメント全体から周囲へと明かりを投げかけます。
「うん、いい感じ」
中央広場のCAM周りを光るボンボリで飾りつけながら、エティがうなずきました。
「これで完成だね。お疲れ様」
手伝ってくれた鳳凰院が、屋台から買ってきたドリンクとパンをエティに手渡しました。
「ありがとー」
一段落ついてお腹の空いたエディがそれにパクつきます。
少し離れた所では、馬車を停めて休憩中のガクルックスも、ドリンクで一息ついていました。じきにお客様を入れ替えて、商店街を回ります。
「じゃあ、ちょっと見て回ってくる」
そうエディに言うと、鳳凰院は商店街の散策へとでかけました。自分たちがおいた飾りの他にも、それぞれの店が趣向を凝らして採光花を飾っています。リアルブルー出身の者としては、久しぶりに明るい夜の街という物を見た気がします。もちろん、電気の明かりとは比べようもありませんが、それでも、歪虚が出現するこの世界で、光は人の心を安心させてくれます。
「妹たちにも見せてやりたいな」
機会があれば連れてきてやりたいと思う鳳凰院でした。
「さしいれだよ」
鳳凰院が、入り口でスタンプラリーの受付をしているJ(ka3142)にも、パンと飲み物を渡します。
ありがとうと、Jが仕種でお礼を言います。結構忙しいようで、休息を取る暇もないようでした。
「ねえ、面白そうだから、やりましょうよ」
リーラ・ウルズアイ(ka4343)が、柊 真司(ka0705)の腕を引っぱって、スタンプラリーの受付へとむかいました。
「スタンプラリーか」
どのみち真司に奢ってもらって買い物する気満々のリーラですので、その上景品ももらえるのでしたらラッキーです。
「それでは、目印の採光花のリースがある店で、お買い上げの際にこのカードにスタンプを押してもらってください」
一通りの説明をして、Jが真司たちにカードを渡しました。
商店街に入る真司やリーラたちのように、通りには寄り添って歩くカップルたちの姿があちこちに見られました。みんな、幻想的な光につつまれて、いい雰囲気になっているようです。
「結構久しぶりという気がしますね、二人だけのデートというのは」
しっかりと腕を組みながら、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が言いました。
「そうかもね」
ピッタリと身を寄り添わせながら、時音 ざくろ(ka1250)が答えます。
こうしてくっついていれば、夜の寒さも逃げいってしまいそうです。
「ざくろが地球にいた頃は、冬の駅前はこういうふうにイルミネーションで飾られていたんだよ」
「それはそれは」
「だから、アデリシアと、同じように歩きたいなって思って……」
そう言うと、ざくろは頭をアデリシアの肩にあずけました。これで雪でも降ってくれば、ほとんどクリスマスです。そして、寒いのを理由として、一つのマフラーを二人で巻くのもいいなあと考えたりします。
リアルブルーでのイルミネーションは、どこかキラキラしたイメージがありました。
そんな雰囲気をよく出していたのは、ウル=ガ(ka3593)のアクセサリー屋さんです。
銀細工と硝子細工を中心としたその店のショーウインドゥでは、切り子細工のグラスに入れられた採光花が、キャンドルライトのようなほのかな明かりを周囲に投げかけています。その光を受ける動物型の銀細工の輝きが、さらに、ならべられたワイングラスの曲面に光の弧を描くという具合です。
天上から糸でぶら下げられた銀の髪飾りやイヤリングは、まるで星の飾りのようでした。
「わあ、綺麗なアクセサリーだなあ。でも、ちょっと高いかな。あっ、あっちのお店の洋服も素敵!」
採光花のおかげで夜でもよく見える商品につられて、陶 凛華(ka5636)がパタパタとお店からお店へ走り回っていました。
「あの赤い髪飾り。ちょっといいかな。硝子のペンダントヘッド、玉露に似合うかも……」
入れ替わるようにしてウインドゥをのぞき込んだ遠火 楓(ka4929)が、ちょっと興味を示します。肩には、猫の玉露を乗せています。
「いらっしゃいませ」
キラキラした商品の中に埋もれるようにして、ウルがいかにも職人という感じで渋く楓を迎えます。
そのまま、楓は、自分用のアクセサリーと、猫用の物を買ったようでした。
「どうせだから、採光花も買おうかなあ」
まだまだ見るお店はたくさんあると、ウルが綺麗につつんでくれた袋をかかえて、楓はブラブラと商店街を進んで行きました。
「そこ行くお姉さん、香水なんかどうだい? ここいらじゃちょっと珍しい、練り香水だよ」
シャン、シャンと神楽鈴を鳴らし、ゆったりとした袖を振りながら紫吹(ka5868)が、出店の前で軽く舞を踊ります。その袖の動きにわずかに風が起き、紫吹の持つ香水の香りを道行く人に届けました。
「わあ」
香りに惹かれるようにしてやってきた凜華が、店先をのぞき込んでいます。
色分けされた採光花の前には、その色に合わせた香水がおかれていました。光と香りがよくマッチしていて、なんともエキゾチックです。
香料を蜜蝋に混ぜて練り込んだ練り香水は、ちょっと見ると可愛いお菓子のようです。
「今でも素敵だけれど、これを使えばもっと素敵になれるよ」
自らの腕に、練り香水をスッと滑らせて香りを振りまきながら、紫吹が道行く人に声をかけていきました。
「いい香りやな。そうそう、それで、うち、服が欲しいんやけど」
その香りに誘われた白藤(ka3768)が、一歩後ろを歩くマッシュ・アクラシス(ka0771)に言いました。
「お召し物でございますか? そうですねえ、それでしたら、あちらのお店がよろしいかと」
そう言うと、マッシュが白藤をお嬢様のお店に連れていきました。
仕事仲間の白藤がショッピングをしたいというので案内係を買ってでたわけですが、いつの間にか買い物の荷物持ちもさせられています。
「お召し物ですか? どうぞ、自由に御覧ください。試着もできますので、どうぞ」
採光花をコサージュのように飾ったセレーネ・リコお嬢様が、店内に飾られた衣服をいくつかピックアップして白藤とマッシュに勧めました。
「そうですねえ……」
ちょっとマッシュが言いよどみます。鎧の類ならまだしもですが、普段女性が着るおしゃれな服となると、ちょっと勝手が違います。はたして、どういう物が白藤の好みなのか……。
「これなどはいかがでしょうか……」
とりあえず、ふりふりした物がいいだろうと、ふんだんにレースのついた赤い色のドレスを勧めてみます。
「動きにくいのや、派手な色は勘弁や」
そう言うと、白藤はマッシュが次々と選んでくれた服の大半を却下します。しばらくして、やっとその中から気に入った物を選びました。黒いキャミソールワンピースで、胸元が大きく開いている代わりに丈は長めです。金と黒のベルトでアンダーバストを絞り、裾で隠れた太腿にホルスターを装着します。
「これなら蝶がよく見えるし、色もお揃いや」
マッシュにならんで見せて、白藤が言いました。確かに、胸元の蝶の模様がちゃんと見えます。色も、マッシュの着ている服とお揃いの黒です。
「お買上ありがとうございます。いらっしゃいませ、お召し物はいかがですか?」
ウキウキとした白藤と荷物を持ったマッシュを送り出すと、お嬢様がショーウィンドゥをのぞき込んでいる凜華に声をかけました。
通りでは、まるごとゆぐでぃらを着た龍崎・カズマ(ka0178)が、採光花を人々に配っていました。
猫妖精のイメージを壊さないように、台詞を発することなく仕種で色々とお客様にアピールしていきます。
そこへ、真司とリーラが通りかかりました。
「おいおい」
「いいじゃないの、減るもんじゃなし」
真司の腕をとりながら、胸をピッタリとくっつけながらリーラが言いました。
「何が減るんだ!?」
「寒いから暖を取ってるの。でも、こっちも暖めてるから、おあいこよね」
なんだかよく分からない理論で、リーラがますます真司にくっつきました。
まあ、ああいうのは邪魔しちゃいけないなと、カズマが気をきかせて反対の方向へと進みます。
ぽん。
「はわわ……本物!?」
パルムをだいて歩いていたクアンタ(ka4214)が、いきなり採光花をカズマから差し出されてちょっとどぎまぎします。
「あ、ありがと……」
そうお礼を言って、クアンタがカズマから採光花をもらいました。
昼間は商店街の飾りつけの手伝いで、採光花がちゃんと陽にあたって光を蓄えられるようにと位置を調整して働いていたクアンタです。色々なオーナメントを見ていたので、最初、カズマのまるごとゆぐでぃらも置物だと思っていたようでした。それがいきなり動いて採光花を差し出してきたので、びっくりです。
「ねえ、今みたいなのも記録しちゃうの?」
自分の失敗は記録されたらちょっと困るなあと、クアンタがパルムに聞きました。でも、パルムはポーカーフェイスです。
「じゃあ、ああいうのは?」
いちゃいちゃしている真司とリースを指さしてなおも聞きましたが、やっぱりパルムは可愛いままでよく分かりません。
「あっ、ちょっと曲がってる……。よいしょっと♪」
オーナメントの位置がずれているのを見つけては、直しながらクアンタは散策を続けていきました。
「ちゃんと光ってるねー」
同じように事前の飾りつけを手伝ったエティも、夜になって明るさを増す採光花を満足気に眺めて回っていました。自分以外の人たちが飾りつけたお店やオーナメントを見ていると、ウキウキしてきます。
お店ごとに、様々に工夫を凝らしているので、見ていて飽きません。
「みんな頑張って飾りつけしたんですね」
そんなイルミネーションを綺麗だなあとしみじみ眺めながら、アメリア・フォーサイス(ka4111)が思いました。人々に目を戻せば、カズマから採光花を手渡されて、凜華がちょっとびっくりしている様子が見えます。
お店の明かりに目をとらわれすぎていたので、ふいをつかれたのでしょう。長らく森の中のエルフの里で暮らしていた凜華にとっては、都会のこういうイベントはサプライズの連続です。
お上りさんっぽいなあと思いながら、自分もまたクリムゾンウェストという世界のお上りさんだと思い出すアメリアでした。
「何かないかなあ」
ちょっと落ち着きたいと周囲を見回したアメリアの目に、ホットドリンクの屋台が映りました。
「やあ、繁盛している?」
中央広場のCAM像にお祈りをあげた後、ちょっと他の店の様子を見に来たミオレスカ(ka3496)が、ドリンク屋台のジュード・エアハート(ka0410)とエアルドフリス(ka1856)に声をかけました。
「まあまあかな」
「これ、さしいれ」
飄々と答えるジュードに、ミオレスカがパンの入ったつつみを差し出しました。甘い水飴をシュガーコートしたパンです。
「ありがとー。これに合うドリンクはあるかなあ?」
エプロンドレスに短いショルダーケープ姿のジュードが、エアルドフリスに聞きました。接客係として、ふりふりがよく似合います。男だというのに、まったく違和感が仕事をしていません。
「それだったら、ホットショコラかな」
屋台の裏手でせっせと仕込みをしていたエアルドフリスが答えました。
「オレンジピールを刻んだ物を混ぜれば、さらによくなる」
言いつつ、実際に作ってみせます。スパイスに詳しいエアルドフリスですが、地元で栽培できるスパイスをのぞいては、まだまだ入手困難な物がたくさんあります。おかげで、高いスパイスは気軽に飲み物などに使うことはできません。まあ、そこを工夫するのも、エアルドフリスの腕の見せどころでした。
「何か、身体の温まる物を一杯」
そこへ、アメリアがやってきました。
「では、ホットワインなどはいかがですか?」
ジュードが振り返って言いました。黒髪に挿した採光花が明るく、その端正な顔を照らします。
「じゃあ、それで」
「はい。エアさん、ホットワイン一つ」
「う、うん」
ちょっとジュードに見とれていたエアルドフリスが、慌ててドリンクを作ります。
ワインをベースにして、それを林檎ジュースで割り、さらにレモンを加えます。本当はスパイスを加えたいところですが、ここはエルダーの花を飾りと香りづけとしてグラスにさすことにしましょう。
「はあ、リアルブルーだったら、もうすぐクリスマスだよねえ」
屋台横のベンチに座ってホットワインを飲みながら、アメリアが愚痴りました。一体、自分が転移後のリアルブルーは、今どうなっているのでしょうか。今さら戻れたとしても、失踪期間中の処理が大変でしょうし。とはいえ、残してきた家族のことも心配ではあります。
「ねえ……」
ちょっと愚痴ろうと振り返ったアメリアの目に映ったのは、ジュードとエアルドフリスが仲睦まじくつつきあっている姿でした。
「やめとこ……」
そう言って、ホットワインをぐいとあおったアメリアでした。
夜も更けてきて結構寒くなってきたせいか、ホットワインがよく売れます。
「こ、こら。私を蹴ったって、あげないからね」
ワインで身体を温めていた楓が、それを欲しがる玉露に暴れられて慌てて肩に押さえつけました。
「仕方ないなあ。ミルクある?」
玉露用にホットミルクを追加すると、楓がベンチに腰をおろしました。パッと飛び降りた玉露が、足許をクルクルしてからベンチに乗ってミルクをなめだしましたが、一口目で、熱いと、抗議の目を楓にむけます。
「もう」
仕方なく、ミルクをふうふうさせられる楓でした。
「おお、あったあった、これが目印かな」
ジュードの屋台に着けられていたスタンプラリーのリースを見つけて、真司とリーラがやってきました。
「暖かそうなのがあるわね♪」
アメリアの飲んでいるホットワインを見て、リーラが同じ物をジュードに頼みました。自動的に支払うはめになった真司が、台紙を出して、しっかりと採光花型のスタンプを二つ押してもらいます。せめて、景品ぐらいはもらわないと、お財布係としてはやってられません。
「あっちにも、何かあるらしいよ」
リーラが、真司の腕を引っぱって、そのまま広場の方へとむかいました。
広場には、巨大な原寸大CAM像が、あちこちに採光花をつけられて明るく輝いています。まさに、光の守護神といった感じです。手に持った剣の先からは案内所の方へとロープが渡され、エディと鳳凰院の作ったボンボリがお祭りよろしく下げられています。
「すっごい、でっかい、明るい」
「うん、なかなかに綺麗な物だな」
さすがに、オブジェとしては最大の物なので、見物のしがいがあります。所々に鳩のオーナメントが止まっているのは、CAM像を採光花で飾った鞍馬 真(ka5819)の演出でした。CAMは、戦いの象徴ではなく、平和の守護者の象徴であれと言うことのようです。案内所の屋根にも、同じオーナメントがいくつもおかれています。
CAM像の足許には、ザレム・アズール(ka0878)が作った採光花の花壇が広がっていました。植木鉢の採光花を綺麗にならべて、模様にした物です。
CAM像を中心にして、放射状に色とりどりの採光花のラインがのびています。まるで、CAM像へと人々を案内する道のようです。
採光花の道の脇にはベンチがおかれていて、ゆっくりと休みつつ、景色を眺めたり軽食をとったりできるようになっていました。
「うーん、こうしてみると、よくできてはいてもやはり像なんだよなあ。なんで、前に見たときは本物だと思ったんだろう。乗りたいのか俺?」
近くに店を開いているミオレスカのパン屋で買った水飴パンをパリパリと囓りながら、ザレムがCAM像を見あげました。
「魔導アーマーなんかの出番も増えてきてるって話だし、時代は変わりつつあるのかな」
ふと、気づくと、クアンタが、ちょっとびくびくしながらCAM像を見あげていました。
「これ、動かないよね……」
さすがに本物ではないので動きませんが、動きだしたとしても不思議ではない感じもします。きっと、商店街の危機には、御当地CAMとして、ゆるキャラのように動きだすのかもしれません。
「それは、それで……」
突然CAM像が真の姿を現して戦う場面を想像して、ちょっといいかもしれないと思うザレムでした。
「あった、あった。ここだな、世にも珍しい水飴パンを売っている店は」
CAM像の飾りのできを確認しに来た真が、ミオレスカのパン屋を見つけて叫びました。
屋台には、パンで作られたCAM人形が飾られていて、ピカーっと目を光らせています。
その輝きや、屋台の要所要所におかれた採光花の光に照らされて、水飴パンはキラキラと光り輝いていました。夜の闇の中で、周囲のイルミネーションの光を映して輝く水飴パンは、なんだか幻想的です。
水飴パンを買うと、真はベンチに座って、CAM像を眺めながら、それにパクついていきました。
「ここで食べよう♪」
真の隣のベンチにリーラが座って、真司を手招きました。
「よし、たまったな……」
ミオレスカのパン屋に支払いを済ませた真司が、スタンプ帳を確認しながらリーラの横に座ります。
「カップルばっかり……」
一人ベンチでパンを食べていたクアンタが、ちょっとあてられて視線を周囲へとさまよわせます。けれども、別の方向にもまたカップルです。
「一つ一つは小さな明かりでも、集まると華やかなものですね」
アデリシアにピッタリとくっつかれたままのざくろが、ちょっと苦労しながら周囲を眺めて言いました。
「んっ、ちょっと疲れましたか? どこかで休みましょうか。ちょうどベンチもありますし」
だきつかれ疲れの見え始めたざくろが、アデリシアに言いました。
「そうですね。でも、もっとちゃんと暖かい所で……」
そう言うと、アデリシアはざくろを押すようにして商店街隣の通りへとむかっていきました。
「どこへ行くんだろう……」
ちょっと興味津々でクアンタが二人を目で追います。その視線を遮るようにして白藤とマッシュがやってきました。
「ほら、あーん」
「そんなことをしなくても食べられますよ」
両手に荷物をかかえたマッシュが、白藤に千切ったパンを口許に持ってこられてちょっと困ります。
「ほなかて、両手ふさがってるやん。一人じゃ食べらへんやろ」
「仕方ありません。いただきます」
観念して、マッシュがパンを食べました。だいたいにして、洋服などの買い物につきあう予定ではありましたが、白藤がこんなにたくさん買い込むとは、ちょっと予定外でした。
「ああ、でも、あそこのベンチに座れば手が放せ……」
「あーん」
もう、ほとんど餌付けです。
餌付けと言えば、楓はまたもや玉露にパンをねだられています。
「悪食はダメ。帰ったら、猫用のやるからニャーニャー言わない」
持っていた煙管で、ぽこんとやさしく玉露の頭を叩きます。そのまま食後の一服をしようとしましたが、タバコが切れていました。
「しまった。ここらで売ってるかなあ……」
玉露を肩に担ぐと、楓はタバコを探しに行きました。
「本当に、カップルしかいない……。あれ? 何か始まるのかな」
クアンタが溜め息をついていると、案内所横の特設ステージから、テンポのよい音楽が聞こえてきました。
緑と茶色に色分けされたタイツを着たハーレキン(ka3214)が、クルリと身軽な動きでステージ上でバク転をしました。
「さあ、今回の出し物は人間イルミネーションだよ!」
そう言うと、軽くダンスを披露した後に、ハーレキンが倒立して開脚します。
「はーい、飾りの採光花はこちらですよー」
案内所のフィネステラ受付嬢が、サポートとして飾りを売ります。
この飾りを、直接ハーレキンの身体にくっつけて、人間イルミネーションを完成させるという出し物なのですが……。
実際にそれをやるとなると、ちょっと戸惑う出し物です。お客さんたちも、ひそひそと喋って遠巻きにするばかりです。
「ねえ、色々と、シチュエーション的に無理がなあい?」
ちょっと、この格好の逆立ちしたタイツ男子に近づく趣味はないと、フィネステラ嬢がハーレキンにささやきました。
仕切り直しです。
ハーレキンの意図を汲んで、緑色のケープコートを羽織って、ゆっくりとステージ上を動くクリスマスツリーもどきとなってもらいます。それを、飾りを持った子供たちが追いかけて、ぺたぺたと貼りつけていくという具合です。
これは見た目もまともで、楽しい追いかけっこという形なので、子供たちには好評でした。ほどなくして、ハーレキンの身体が、光る飾りで一杯になりました。
「お疲れ様ー」
テキパキと片付けをするフィネステラ嬢が、ハーレキンに言いました。
「じゃあ、僕は、そのへんをブラブラしてきますねー」
全身に光る飾りをつけたまま、ハーレキンが通りに繰り出しました。ケープについた飾りが光って、まさに人間イルミネーションですが、本人はまったく気にしていません。
そのまま通りを縦断して、商店街の入り口辺りまでやってきます。
スタンプラリーの受付では、Jが一杯になったスタンプ帳を確認して、景品を渡しているところでした。
「はい、おめでとうございます。景品は、各店で使えるサービス券と、採光花のブーケです」
「これはこっちでもらっておこう」
すかさず、真司がサービス券の方を確保します。
ああと、サービス券を欲しそうに手をのばすリーラの髪に、真司が採光花を一輪、スッと差し入れました。
「リーラは、こっち」
そう言うと、真司はリーラの頭をポンポンと撫でました。子供みたいに撫でるなあっと、リーラがピョンピョンします。
そこへ、送迎用の馬車が戻ってきました。
商店街を楽しんだ人々が、光に飾られた馬車に乗り込んで家路につきます。
でも、光のあふれた夜は、まだまだこれからなのでした。
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煌めく商店街で【相談・雑談】 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/11/18 22:05:33 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/19 13:24:58 |