• 深棲

【深棲】海底に沈む紅玉

マスター:旅硝子

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/04 15:00
完成日
2014/08/12 23:58

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 長き船旅も、終わりを迎えようとしていた。
 甲板に立つ少女は、そっと胸元のブローチに手を当て、見え始めた陸地に視線を向ける。
 冒険都市リゼリオへと向かう船である。甲板の上は、そろそろ下船準備を始めた人々で埋まりつつあった。
 この街を訪れるのは、少女は初めてであった。けれど、少女の父はしょっちゅうここに足を運んでいたという。
 少女の父は有能な行商人であった。そして、少女もまた行商人であった。
 もっとも、彼女は父にはまだまだ及ばぬ新米であった。けれど、急な病で亡くなった父の作った人脈と、彼女自身の隠れた商才と誠実な人柄によって、リゼリオと生まれ育った町の間で行商を行うだけの準備と商品を整え、彼女は初めて見るリゼリオへと向かったのだ。
 胸元のブローチは、父の形見でもあり、母の形見でもあった。父が初めて行商で得た利益で買った、ルビーで薔薇を象ったブローチは、当時はまだ恋人であった少女の母に贈られ、少女の母が若くして亡くなった時に少女へと受け継がれたのだ。
 近づきつつあるリゼリオの街を見つめていた少女は――はっと、海面へと視線を移した。
 揺らいでいる。
 それは波の揺らぎにしても、船の作る飛沫にしても、不自然であった。
 少女は思い出す。冒険都市リゼリオ、そして同盟諸国を襲う、狂気の眷属と呼ばれる歪虚の噂を――。
「皆さん、避難して下さい! 歪虚です!」
 少女がそう声を張り上げたのと、水面からざばりと奇怪なる歪虚が姿を現したのは、ほぼ同時の事であった。

 既に下船も近く、甲板に集まっていた人々が恐慌をきたす中、船長は冷静に船員に指示を出し、同時に警戒を行っていたハンター達が飛びかかってくる歪虚達と戦闘を繰り広げる。
 蛸の触手を持つ帆立貝、といった姿の歪虚が甲板に乗り上げたことで、慌てて反対側へと逃げ出そうとする人々に、船長が叫ぶ。
「中央にお集まりください! 片側に寄りますと船が不安定になります!」
 ハンター達の戦いの邪魔になるまいと下がった少女は、人の波に押されながら何とか甲板の中央へと戻ろうとする。
 ――びりり、と音がした。
 はっと音の源、胸元を見れば、服の布地が裂け――ブローチが、なかった。
 僅かな板の上を滑る音。見れば、ブローチは甲板の上を滑って行き――咄嗟に走り出そうとした少女が人の足につまづいて転ぶ間に、海へと落ちた。
「あ……」
 恐らくは、誰かの持ち物か服の飾りに引っかかってしまったのだろう。そう冷静に考えながら、けれど少女の身体は勝手に動き、人々の間を抜け出して甲板の縁に立ち、海の中を覗き込んでいた。
「危ないッ!」
 はっと顔を上げれば、甲板の上を這うように向かってくる歪虚。動けない。動いても、きっと歪虚の方が速い。
 けれど――歪虚が少女に触れる前に、銃声と共に歪虚の身体が弾け飛ぶ。
「船長さん、船の速度を上げられますか!?」
「おう、あと少しならな!」
 ハンターと船長の会話に、思わず待って、と言いそうになって口をつぐむ。
 歪虚が群れているであろう水底に沈んだブローチを、己が潜って取りに行く事など、ましてや誰かに取って来てもらう事など、出来ないのだから。
 甲板に手を付いたままの少女の頬を、涙が伝った。

「嬢ちゃん」
 横から優しく呼ぶ声に、はっと振り向く。
「なんか落としたんだろ、さっき見えた」
 声をかけたのは、さっき甲板で戦っていたハンターの1人だった。
「はい……」
「大事なものだったんだな」
「……」
 ぎゅ、と少女は拳を握る。そうでないと、また涙がこぼれてしまいそうだったから。
 ブローチがあるから、父が、母が守ってくれている気がした。胸元の重みがなくなった今、心細くて、辛くて――両親を喪った時の辛さまで思い出して、幼い子どものように泣いてしまいそうだった。
「泣くんじゃない、まだ手はある」
「……え?」
 ぽん、と頭に手を置かれ、思わずハンターの顔を見上げる。
「ハンターってのは、どんな小さな仕事にも集まって、助けてくれることがある。これ持って、助けてくれってハンターズソサエティに行きゃいい」
 差し出された皮袋の中からは、じゃらりと硬貨の揺れる音がした。
 けれど、少女は首を横に振る。その顔には、明るさが僅かに戻っていた。
「ありがとうございます。けれど、私は商人ですから」
 自らのお金で、依頼を出せるよう頑張ります。
 そう言った少女に、ハンターはにこりと笑って。
「おう、じゃあ、頑張れよ。首尾よく見つかるといいな」
 再びぽんと少女の頭に手を置いて、仲間達の元へと去って行った。

 リゼリオに到着した少女は、凄まじい勢いで商品を売り捌き、必要な金額を整えるとすぐさまハンターズソサエティの扉を叩いた。
『海に落としたブローチを、探し出してほしい』
 それは、彼女が最初に稼いだ金で、ただ一つ叶えたいと思った願いだった。

リプレイ本文

「――よろしくお願いいたします。ハンターの皆さんだけが、頼りなんです……!」
 小舟に乗り込むハンター達を埠頭から見送りながら、商人の少女ネリッサが深く頭を下げる。サーシャ・V・クリューコファ(ka0723)が、そんな少女に笑顔で頷いた。
「安心して、絶対ブローチは見つけ出してくるから!」
 にこっと笑って、時音 ざくろ(ka1250)がネリッサを元気づけるように力強く宣言する。それに安心したように、ネリッサは深く頷いて微笑んだ。
 ブローチを落としてから港に着くまでの時間や、周囲の風景について覚えていることをしっかりと尋ねた彼に、ネリッサは信頼を寄せていたのだ。
 その様子を見ていたモニカ(ka1736)の拳が、ぎゅっと握られる。唇が引き結ばれる。
(モニカには、何も残らなかったけど、それでも)
 両親が残してくれたのは、この身体だけ。そのことを思えば胸は痛いけれど――。
(それでも、お母さんやお父さんが残してくれたものを無くしたらって思うと、心臓が引き千切られそう、なのよ……っ)
 一つ小さく息を吐き、モニカは小舟に乗り移る。
「絶対に見つけないと、なのよっ」
「ええ、泳いでからの一杯はまた格別! ささっと探しちゃいましょう!」
 酔仙(ka1747)が明るい声を上げる。その言葉に一同の顔も、ネリッサの表情も明るくなる。
「では、お待ち下さい。ブローチは見つけ出して参ります」
 オールを握ったエルバッハ・リオン(ka2434)が、静かな、けれど頼れる口調でそう言って頭を下げる。戦闘の可能性がある以上、今回の依頼に対して彼女は非常に真剣であった。
「さぁ、行きましょうか」
 マグノリア(ka2824)が仲間達に声をかけ、ネリッサに一礼してからすっと天へ目を向ける。太陽の位置を、軽く確かめて。
 既にざくろと手分けをして、現場周辺の潮の流れや風向きについては定期船の船長や地元の船乗りに尋ねてあった。海底の地形まではわからなかったものの、見つけられそうだという手ごたえはある。
 静かに海に漕ぎ出していく小舟を、ネリッサは小さな手を組んで、祈るように見守っていた。

 借りた船は、1隻。波は穏やかだが、オールを漕ぐのは骨が折れる。
 海図を見たり現在地を確かめるのと交代しながら、一行は徐々に目的の場所へと向かっていく。
 今小舟を漕いでいるのはサーシャだ。唇から零れるのは、リアルブルーの少し昔の流行歌。
「依頼を受けた責任上、それに心情的にもブローチは見つけないといけませんね。ただ、歪虚の存在が面倒ですが」
 さっきまでオールを動かしていたエルバッハが、手首を軽く動かしながら呟く。
「この辺りだと思うのよ」
「うん、確かにネリッサさんから聞いていた通りの場所だね」
 海図を見ながらモニカが声を上げるのに、ざくろが辺りの景色を確かめながら頷いた。
「さて、それじゃあ水鏡の中に探しに行こう、あの歌のように……」
 微笑んだサーシャに、そっとざくろが耳打ちした。
「え、正しい歌詞って鏡じゃなくて鞄なの?」
 こくりと頷くざくろ、リアルブルーの日本出身。
「よっし、それじゃボク達からですねー!」
 酔仙が立ち上がり、船を揺らさないよう気をつけながら準備運動を始める。モニカが透明な袋に入れたLEDライトのスイッチを入れる。
 そして準備を終えた2人は、ざばりと海に飛び込む。彼女達2人が、最初の捜索担当だ。
「じゃあ、これ落とすね。お願い!」
 ざくろが取り出したのは、ブローチと同じくらいの大きさと重さの石。ネリッサに持ってもらって、確認したものだ。
 落とした時と同じ状況を再現することで、ブローチの行方に少しでも近づけないかと。
 石が海へと飛び込み、ゆらゆらと沈んでいく。酔仙とモニカが、潜りながらその行方を追っていく。
「私の分まで、精々頑張ってきてくれ」
 その背に向けて、サーシャが運動強化をかけておく。歪虚に遭うことがあれば、その機導の力は役に立つだろう。
「ざくろ、偉大な冒険家だったご先祖様の様に、この海で大切な宝物を見つけるんだ!」
 そう気合を入れるように言って、ざくろがばさりと上着を取る。
「!?」
 慌てたように集まる一同の視線。
「あ、あの……ざくろ、男、なんだけ、ど……」
 ざくろの切なげな呟きが海に消えていく。
 悲しいかな、水着買う時も間違えられて、『お客様にはこちらがお似合いですよ』と赤いフリルつきのビキニなんぞ勧められたのだ。
 依頼だから、男だからと必死に言い募って買った競泳用の水着を着た姿は、細身だがシルエットはちゃんと男性である。
 そっと遠い目をするざくろの肩を、ぽんとエルバッハが軽く叩く。
「歪虚の警戒、しましょうか」
「うん、うん……そうだね、何としてもブローチを見つけ出さなきゃね!」
 必死に自分に気合を入れて、ざぶんと海に飛び込むざくろ。後に続いて足からひらりと水に入るエルバッハ。
「ま、今は私は船上待機だから、休憩を満喫させてもらうとしよう……いや、真面目に警戒はするよ?」
 のんびりと言ってから、マグノリアの視線にぱたぱたと手を振って付け加えるサーシャであった。

 そんな船上の一騒動(?)のことは知らず、探索を繰り広げるモニカと酔仙である。
 ざくろが落とした石の方向を辿り、潮の流れを把握する。す、と酔仙が指差した方向に、モニカが水を掻いて泳いでいく。LEDライトの輝きを当て、ブローチの光が反射するのを探す。
 岩陰にモニカが光を当てれば、それを邪魔しないよう酔仙が覗き込む。紅い輝きは見つからず、顔を見合わせて首を振る。
 砂の上をモニカが光でなぞり、海藻の中を酔仙が覗き込み――けれど、まだブローチの姿は見えない。
 懸命に探すモニカの唇が紫になりかけているのを見て、酔仙が上を指さす。それは、モニカと決めた浮上して交代、の合図。
 砂を蹴って体の力を抜けば、ゆらりと揺れる水の中を2人の身体がすぅっと昇っていく――。

「ぷはぁっ!」
 思いっきり息を吸い込む酔仙とモニカ。
「お疲れ様! それじゃ、交代するね」
「ありがと、なのよっ、あ、これ、使って、ほしい、のよっ……」
 モニカが肩で息をしながら、LEDライトをざくろに渡す。今回はブローチを見つけることはできなかったが、役に立つだろうとの判断だ。
「えっと、ここから、真っ直ぐ、降りて、いくと、大きい、岩が2つ、あって……そこから、一番近、い海藻の茂み、まで、探しました、よ!」
「了解しました。それでは、行ってきます」
「あの子、凄く不安そうにしてた……絶対、絶対見つけるもん。行ってきます!」
 息を荒げた酔仙から既に探した場所を教えてもらい、歪虚への警戒を担当していたざくろとエルバッハが、軽く勢いを付けて水中へと潜っていく。その間にモニカと酔仙は船に上がり、サーシャが刀をすらりと抜いたマグノリアと共に、すいと海面に浮かんで警戒を始める。
 そして、下へ下へと泳いで行ったざくろとエルバッハは――酔仙とモニカが探した海藻の傍らから、波の動く方へと探索を開始する。落とした石はやや砂に埋もれていたことから、砂を被って見つけにくくなっているかもしれないと、丁寧に、丁寧に。
 僅かにでも砂から顔を出していれば見つかるだろうと、ざくろがライトで海底をゆっくりと照らしていく。時折、少し上の方にいるエルバッハへと視線を送る――大きく作られたバツ印に懲りることなく、ざくろは再びゆっくりと泳ぎ進みながらライトを動かす。
 ブローチがライトの光で輝くならば、エルバッハの位置する少し上からは確かに見やすいだろう。時折、潮の流れから少し外れた場所も含めて探すが――呼吸の限界を感じ、2人は急いで浮上する。
 2人が海面に飛び出し大きく息を吸った頃には、モニカと酔仙は息を整え、敵を警戒しながら軽い休みを取り終えていた。そして代わって水上に浮きながら警戒をしていたサーシャとマグノリアが、上がってきたエルバッハとざくろと、軽い打ち合わせを終えて水中へと潜っていく。
 モニカが船の警備の間は陸上用にしていた弾倉を海中用へと取り換え、海面に浮きながら水中を見張る。ざばん、と酔仙が、船の上から豪快に身を乗り出して顔を付ける。
 まだ荒い息を必死に整えるざくろ。やや落ち着いた様子で、荷物からミネラルウォーターのボトルを取り出すエルバッハ。
 塩水に囲まれていた体は、思いのほか早く水分を消費する。体に負担を与えないようゆっくりと飲んでから、エルバッハは口を拭いざくろに尋ねる。
「飲みますか?」
「あ、いいのかな? いただきま」
「回し飲みになりますけれど」
 固まるざくろ。じっと真っ直ぐにざくろを見つめるエルバッハ。
 ざくろの頭の中を様々な葛藤が駆け巡り――勝利したのは、喉の渇きだった。
「あ、えっと、エルさんが、気にしないなら……」
「大丈夫です」
 ぎくしゃくとした動作でボトルを受け取り、思わず急いで飲んで返すざくろだった。

 ゆっくりと泳ぎ、立体感覚を生かして深度を把握しながら、探索方向を見失わぬよう、見落としがないよう懸命にサーシャは視線を走らせる。
(水中は声が出せないからなぁ……その分、よく注意しとかないと)
 そこからやや離れ、けれど互いの位置が把握できる場所で、マグノリアはそっと海藻の密集部分を手で掻き分ける。砂をまき上げて探しにくくならないよう、丁寧に。
 ――ふ、と頭上に、影が差した。
 サーシャがはっと振り向き、素早くマグノリアに攻性強化を飛ばす。その時には、既にマグノリアも歪虚の姿に気付いていた。
 数は――3体。マグノリアがさっと上に掲げた指は、浮上の合図。サーシャが頷き、海底を蹴って一気に加速する。
「敵襲ですよー!」
 海上でも、既に酔仙が顔を上げて仲間達に叫んでから海へと飛び込む。エルバッハがワンドを掴んで船上から近づく敵に備え、ざくろは船に背を付けて水面に浮きながら水中拳銃の照準を合わせる。
 うねり――触手が不気味に揺らめき、それによって泳ぐホタテ貝が、1匹は浮上しようとするマグノリアとサーシャへ、そして1匹は海面から潜ってくる酔仙へ、そしてもう1匹は船へと向かう!
 すっとマグノリアが日本刀を峰を前にして構える。声もなき気勢と共に、銀閃。
 がっ、と音を立てて、貝殻の一部が砕け散る。サーシャから攻性強化を受け、戦うことのできる水深ギリギリまで潜ったモニカが、ふわりと覚醒の証の花弁を身に纏いながら、その隙間に向けて銃の引き金を引く。
 自分に近付く1匹を、酔仙が軽やかに引き受ける。変幻自在の酔ったような動きで裏拳をぶつければ、べこりと貝殻がへこんだ。
(邪魔をするな!)
 声こそ出せぬがその気概を込めて、船を守り水面近くに陣取ったざくろは水中拳銃で牽制をかける。ブローチが引っかかっていないことを確かめ、殻で弾きながら近づいてきた歪虚に、一気に叩き付けるのは機導剣。
 次の瞬間、ぐ、と喉が詰まる。歪虚の触手がざくろの鳩尾を強打し、そのままの勢いで船に思いきりぶつかったのだ。
 ごりり、と削れる船の壁面――けれど航行に支障があるほどではない。
 エルバッハが大きく揺らいだ船を即座に立て直し、遠ざけるようにアースバレットを、続けてウィンドスラッシュを解き放つ。
「……属性持ちでは、ないようですね」
 眉を寄せたエルバッハは、けれどそのまま魔法による攻撃を続ける。ざくろが銃で牽制をかけながら一気に前に出て、再び機導剣の一撃を叩きこむ。
 マルチステップで触手の絡み付きを華麗に避け、酔仙は今度は踵落としを叩き込み、水中でそのまま1回転して拳を当てる。
 殻を砕かれながらもマグノリアに向かっていた歪虚が、ぐねりと触手を伸ばす。刀が次々に触手を斬り飛ばすのも構わず、やがて触手がぐっと彼女の腕に巻き付く。
(やらしいなぁ、この歪虚。息を吸いに行けないじゃないか)
 一度水面に顔を出して息を吸ってから、サーシャが一気にマグノリアへの距離を詰める。その間に抜いたバタフライナイフで斬り落とした触手は、さすがに勢いを緩め海底へと溶けながら落ちていく。
 目線で礼を伝えたマグノリアは、刀を正眼に構え直す。狙うは――貝の、中身。
 斬、と突き刺した刃は、確かな手ごたえを伝えて。
 危険を感じたのか、慌てて歪虚が逃げ出す。その時にはざくろと酔仙も、担当していた歪虚を追い払うのに成功していた。
 モニカとエルバッハの追撃で1体を撃沈し、ハンター達は急いで海面へと向かった。

 しばらく警戒しながら休憩し、再びローテーションを組んでハンター達は捜索を始める。
 それは、何度目かにモニカと酔仙が潜った時であった。
「!」
 海底をゆっくりと転がって来たのは――最初に、ざくろが落とした石。
 その先を照らしたモニカのライトに反応するように、海藻の中にきらりと光る紅い輝き。
 酔仙がすぐに向かって海藻を掻きわければ、薔薇の形の輝きがそっと佇んでいた。
 思わず笑顔で頷き合った2人は、海底を蹴って上へ、上へと進んでいく。
 もちろん、大切なブローチをしっかりと持って。

 最後の目的を果たすためと思えば、オールを漕ぐ手にも力がこもる。
 ずっと待っていたのか、埠頭のギリギリまで出て必死に手を振るネリッサの元に、ハンター達は辿り着く。
「おかえりなさいませ、皆様、ご無事で……っ!」
 ブローチよりも先に、まずはハンター達を労おうとした口は――ブローチの輝きを見た瞬間に止まってしまい、代わりに瞳が一気に潤む。
「お待たせ、お嬢さん。約束の品を届けに上がったよ」
 サーシャの言葉に、ネリッサは絞り出すように『ありがとうございます』と礼を言う。
「おそらく、無理にでもついて行くと言い出さなかったあなたの判断は正解でした」
 マグノリアが静かに言って、涙を拭きながら頷くサーシャにやはり静かに、けれど優しい声をかける。
「今度は気をつけて」
「はい、本当に……ありがとうございます!」
 深く頭を下げたネリッサに頷き、マグノリアは海水に浸かった刀を手入れするため去っていく。
「見つけられて良かったです。どうか、もうなくしませんように」
 エルバッハも丁寧に挨拶をして、モニカや酔仙、サーシャと共に去っていく。
 最後に残ったのは――ざくろ。
「良かったね」
 心底嬉しそうに微笑んだざくろに、はい、と元気よくネリッサは頷いて。
 その様子にほっとし、少し考えてから、ざくろは口を開く。
「……もしよければ、ざくろにもそのブローチの話、教えて欲しいな」
 一瞬ぽかんとしたネリッサは――次の瞬間、満面の笑みを浮かべて頷いた。
「ありがとうございます! ……お話するの、お父さんとお母さんが死んでから、初めてだから……嬉しい」
 ――時に涙交じりに語られたのは、少女の父と母が愛を込めたブローチの、そして少女が一身に受けた愛の長い物語であった。

依頼結果

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MVP一覧

  • まないた(ほろり)
    サーシャ・V・クリューコファka0723
  • 潮の読み手
    マグノリアka2824

重体一覧

参加者一覧

  • まないた(ほろり)
    サーシャ・V・クリューコファ(ka0723
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 【騎突】芽出射手
    モニカ(ka1736
    エルフ|12才|女性|猟撃士
  • その血は酒で出来ている
    酔仙(ka1747
    エルフ|20才|女性|疾影士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 潮の読み手
    マグノリア(ka2824
    エルフ|23才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/29 22:43:57
アイコン 相談卓!
酔仙(ka1747
エルフ|20才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/08/04 04:25:32