ゲスト
(ka0000)
瓶入りスライム、香草を添えて
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/04 12:00
- 完成日
- 2015/12/10 18:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
王国東部に広がる田畑の中に、一際目立つ屋敷があった。
この周囲を納める貴族、マーシャロウの別荘である。
別荘といえども、三階建の赤レンガ作りは見上げるだけでも壮観である。
当然ながら、調度品も良質なものを取り揃えていた。
明かりをつける燭台一つ一つにも、こだわりがある。
「相変わらず、この別荘は掃除が大変ね」
別荘を管理するメイド長、フィオ・ドランドは丹念に金属製の燭台を磨きながら嘆息する。彼女にとって、この別荘の調度品一つ一つが子どものようなものだ。
2×才の若さでメイド長に上り詰めた彼女の出世の秘訣。
それが、備品に対する愛情であった。
「さて、次は二階を……」
予定を確かめ、二階への階段に足をかけた……その時。
甲高い悲鳴が、厨房の方から響いてきた。
「なにごと!?」と厨房に駆けつけたフィオは、怯えるメイドたちの姿を見た。
そして、彼女たちの視線の先にそれはいた。
「……は?」
それは保存食を入れるための大型の壺であった。むしろ、瓶というべきだろうか。
茶色く煤けた瓶が逆さまの状態で蠢いていたのだ。
「なにこれ」
マジマジと見つめれば、瓶の口から何やら粘着質な液体が漏れ出ていることに気が付かされる。保存食が腐ったのかとも思ったが、違う。
フィオは、これを知っている。
これが何かを知っている! 我々は、これの正体を知っている!!
「スライムっ!?」
慌てて動けないでいるメイドたちを引き連れて、退却する。
一息ついたフィオは、強い憤りと自分への落胆を感じていた。
「私としたことが、別荘にスライムの出現を許してしまうとはっ!」
部下の目の前で、フィオは涙を浮かべて叫ぶ。
この別荘は冬季に主人が暖を取るために使う予定であった。その予定を狂わせるような自体が発生したのだ。これはセプクしなければなるまい。
セプクとは、リアルブルーで好まれるという、あまりにも酷い失態を演じたときに腹を切る謝罪方法だ。
だが、フィオの主人は「セプクは最終手段だ、いいね?」とフィオを押し留めた。
かくなる上は、自分の力で排除しなければならない。そう決意した彼女を冷静にさせたのは、やはり主人だった。
「専門家をつけなさい。君が傷つくと、私も傷つく。調度品や瓶は買い直せばいいが、君を失うのはいたすぎる」
主人の言葉に涙が枯れ果てるまで、フィオは感激した。
「……わかりました。マイマスター! このフィオ。全身全霊をかけて、別荘を悪しきスライムの手から取り戻してみせます!」
ちがう、そうじゃない。
主人の声が届くより先に、フィオは屋敷を後にする。主人は、慌てて早馬を出しハンターに依頼を出すのだった。
王国東部に広がる田畑の中に、一際目立つ屋敷があった。
この周囲を納める貴族、マーシャロウの別荘である。
別荘といえども、三階建の赤レンガ作りは見上げるだけでも壮観である。
当然ながら、調度品も良質なものを取り揃えていた。
明かりをつける燭台一つ一つにも、こだわりがある。
「相変わらず、この別荘は掃除が大変ね」
別荘を管理するメイド長、フィオ・ドランドは丹念に金属製の燭台を磨きながら嘆息する。彼女にとって、この別荘の調度品一つ一つが子どものようなものだ。
2×才の若さでメイド長に上り詰めた彼女の出世の秘訣。
それが、備品に対する愛情であった。
「さて、次は二階を……」
予定を確かめ、二階への階段に足をかけた……その時。
甲高い悲鳴が、厨房の方から響いてきた。
「なにごと!?」と厨房に駆けつけたフィオは、怯えるメイドたちの姿を見た。
そして、彼女たちの視線の先にそれはいた。
「……は?」
それは保存食を入れるための大型の壺であった。むしろ、瓶というべきだろうか。
茶色く煤けた瓶が逆さまの状態で蠢いていたのだ。
「なにこれ」
マジマジと見つめれば、瓶の口から何やら粘着質な液体が漏れ出ていることに気が付かされる。保存食が腐ったのかとも思ったが、違う。
フィオは、これを知っている。
これが何かを知っている! 我々は、これの正体を知っている!!
「スライムっ!?」
慌てて動けないでいるメイドたちを引き連れて、退却する。
一息ついたフィオは、強い憤りと自分への落胆を感じていた。
「私としたことが、別荘にスライムの出現を許してしまうとはっ!」
部下の目の前で、フィオは涙を浮かべて叫ぶ。
この別荘は冬季に主人が暖を取るために使う予定であった。その予定を狂わせるような自体が発生したのだ。これはセプクしなければなるまい。
セプクとは、リアルブルーで好まれるという、あまりにも酷い失態を演じたときに腹を切る謝罪方法だ。
だが、フィオの主人は「セプクは最終手段だ、いいね?」とフィオを押し留めた。
かくなる上は、自分の力で排除しなければならない。そう決意した彼女を冷静にさせたのは、やはり主人だった。
「専門家をつけなさい。君が傷つくと、私も傷つく。調度品や瓶は買い直せばいいが、君を失うのはいたすぎる」
主人の言葉に涙が枯れ果てるまで、フィオは感激した。
「……わかりました。マイマスター! このフィオ。全身全霊をかけて、別荘を悪しきスライムの手から取り戻してみせます!」
ちがう、そうじゃない。
主人の声が届くより先に、フィオは屋敷を後にする。主人は、慌てて早馬を出しハンターに依頼を出すのだった。
リプレイ本文
●
どこまでも広がる田園風景の中に、赤レンガ造りの屋敷がぽつんと立っていた。
マーシャロウという貴族の別荘である屋敷に、ハンターたちがたどり着く。
「いい感じの屋敷だな! これで別荘ってんだから、すげーよな」
三階建ての屋敷を見上げ、岩井崎 旭(ka0234)は感嘆の息を漏らす。
扉をたたき、礼を述べて中に入ればさらに息を呑むしつらえが出迎える。
「えと、フィオさんはどちらにいるのでしょうか」
下手すれば迷いそうな室内をツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)が見渡す。
どうやら、メイド長フィオは入り口付近にはいないらしい。
「探すか?」
「そうだね……あ、その前に」
中へ進もうとした月叢 虎刃(ka5897)を止め、オシェル・ツェーント(ka5906)が毛布を手渡す。
「先に渡しておくね。フィオさんが蓋を知っていればいいけど」
なければこれを使うより他にない。
虎刃は頷き、毛布を預かると再び歩き出す。
「あたしの毛布も誰かに預けとかないと」
シャルア・レイセンファード(ka4359)も持ってきた毛布を取り出す。
手近にいたバレル・ブラウリィ(ka1228)が一度預かることになった。
「で、メイド長とやらはどこだ」
バレルの問いに全員が足を止めた。
闇雲に屋敷を探しまわるわけにもいかないのだ。
「……厨房とかでしょうか」
トリス・ラートリー(ka0813)が不意に告げた。
トリスの意見に、ホワイトラビット(ka5692)が同意の声を上げた。
「そういえば、最初に出たのは厨房の方だよね」
「じゃあ、行ってみるか」
旭が前衛をつとめて、一行は歩き出す。
エントランスから厨房までは近いといっても、屋敷の広さが十分に伝わるほどだった。スライムが沸いたことだし、ダンジョンめいた雰囲気すら感じられる。
厨房に近づくと、賑やかな叫び声が聞こえてきた。
●
メイド長フィオ・ドランドはハンターの推測通り、厨房にいた。
「泥棒ですか!?」
開口一番、フィオはそう告げてナイフを突き出してきた。
「いや、ハンターだ」
返す言葉で虎刃が告げる。
ハンター、と首を傾げたフィオへツィスカが事情を説明する。
が、その途中。戦いに来たのだと知ると、声を荒げた。
「この屋敷で傍若無人な振る舞いは……!」
「フィオさん、ごめんよ。あのね、話は最後まで聞いて欲しいんだ」
荒ぶる神を鎮めるがごとく、おっとりした口調でオシェルガ割り込む。
「まず、最初にスライムを野放しにしたり対処を謝れば屋敷や調度品への被害は増すことでしょう」
「そうなるでしょうね」
ツィスカの話にシャルアも乗っかり、フィオにハンターの必要性を認識させる。
そして、調度品被害の少ない作戦を取ることを告げた。
端的に言えば、作戦は次のようになる。
瓶からはみ出ているスライムを蓋を用いて閉じ込め、窓から外へ放り投げる。
外ならば、調度品を破壊する心配もないからだ。
「所詮はスライム。調度品を庇わずとも、捕まえて放りだせば宜しい」
「私も調度品を壊さずに住むなら、それが最善だと思います! 一緒にスライムを外に引っ張りだしてもらえませんか?」
虎刃とホワイトラビットがそれぞれフィオに告げる。
フィオはそれなら、と納得した表情を見せた。
「で、蓋はどこだ?」
「蓋?」
虎刃の問いに、フィオは首を傾げる。
スライムがいる瓶の蓋だと重ねて聞いて、やっとフィオは思い至った。
数分後。
「これは、微妙だな……」
旭は蓋を受け取り、神妙な面持ちで呟いた。
確かに蓋はあったのだが、スライムの酸にやられたのかボロボロのものが多かった。だが、蓋のおかげで一つのことが知れた。
「蓋だけが6つあるということは」
「スライムも6匹ってことだよな?」
シャルアと旭が述べるように、蓋は使い物にならない3つを含めて6つあった。
つまり、それだけの瓶にスライムが潜んでいることになる。
「あとは用意した毛布で何とかしないとですね」
「ボクとシャルアさんの持ってきた毛布で、2つかな」
「バレルさん、虎刃さん。頼みましたよ?」
二人の毛は屋内担当のバレルたちに託された。
使えそうな蓋も持って、準備が整う。
「それでは改めて、今回はよろしくお願いします」
トリスがにこやかに挨拶をして、場を締めた。
ハンターが加わり、フィオはさらに気合を入れていた。空転しそうな気合の背中を見て、バレルは毛布を揉みながら思う。
(……有能なんだろうけど、端から見てると駄メイドにしか見えんな)
●
「戦闘……頑張ってやるのですよ!」
「こちらも出来る限り迅速に、屋外へ投げ出しますね」
シャルアをはじめとする外部待機組を見送り、ツィスカたちは本核的に捜索を開始する。頼りにするのはフィオのメイドとしての土地勘と、旭の超聴覚だ。
ハンターたちが到着するより前に、フィオは一階を見まわっていた。
「あまり無茶はしないで欲しいんだがな」
依頼主の心配する姿を思い出し、旭は苦笑する。
なおも先頭を行こうとするフィオをトリスが止めた。
「ボクより前には、あまり行かないようにお願いします」
「むぅ」
「危ないからな。用心してくれ……」
何かしでかしそうな雰囲気を察して、バレルも付け加える。
しぶしぶ後ろに下がったフィオを連れ、階段を登る。
「廊下に飾られた調度品も、価値が高そうだし気をつけないとな」
「そうですね……なるべく中で戦闘したくはありません」
注意ししつつ登り切った時、旭が不意に右奥を見た。
水気のあるものが蠢くような音が聞こえたのだ。
「こっちだ!」
駈け出した先にいたのは、まさしく瓶入のスライムだった。廊下のドン付きで、逆さになった瓶の口から、身を乗り出している。
「こうして実際に見ると、神出鬼没ですね……」
ツィスカが眉をひそめ、スライムを見つめる。何を考えているのか、スライムは廊下の壁にぶつかり続けていた。
思ったより大きいが、二人でかかれば問題なさそうだ。
「そっと捕まえるか」と虎刃が率先して、前に出る。
「蓋でいきましょうか」
トリスが蓋をもって虎刃につづいて近づく。
旭が瓶の手前、足を止める。
「どうしました?」
「こっちにも、何か……いるな」
扉に手をかけようとして、気づく。すでに開いていたのだ。
フィオに聞けば、掃除をする際に、すべての扉を開放していたらしい。
「いるな」
隣からバレルが覗き込み、告げる。
高級そうな調度品に囲まれて、薄汚れた瓶が転がっていた。
「先にあちらから。こっちは私が見ています」
扉を半ば開けた状態で、ツィスカが監視を続ける。
あと一歩、近づけば掴めるといったところでスライムの身体が大きく揺らいだ。
「気づかれた!?」
「素手はまずいですよ!」
慌てたのか、素手でつかもうとした虎刃へトリスが警句を発した。
すぐに切り替えて、酸を浴びつつも毛布を構える。
「くっ……」
暴れるスライムを虎刃とトリスが押さえこみに入る。
毛布の隙間からスライムは抵抗の一手を伸ばす。強酸を纏った一撃をトリスは護りの構えで受けきる。
「よし、窓は開けたぞ」
旭の声に応じて、虎刃たちが瓶を運ぶ。
「落としますよ、頭上注意してください」
トリスが声を上げながら、せいのと底を押し上げる。
その声に合わせて虎刃がぐっと押し出す……のだが。
「キチョウナマドワクガー!!」
意外に重いスライムに、わずか力及ばずガリッと窓枠が擦られるのであった……。
●
「気がついたらスライムがって、結構怖いよねぇ」等とオシェルを中心に、外にいる面子が会話をしていた。
その刹那、フィオの叫びが聞こえてきた。
「声が聞こえたのは……んー、あっち?」
「あまりいい声ではなかったよね」
声を追うシャルアにオシェルが続く。
側面に近い位置の地面に、それは落ちていた。
「丈夫なんだね、あの瓶」
二階から落下した瓶は、まだ割れてはいなかった。
「それなら、今割るだけだよ!」とホワイトラビットが先手を打つ。
練り切った気を拳に込めて、最短距離で真っ直ぐに打ち込む。ヒビが入っている箇所を狙い定めた一撃は、見事に瓶を破壊した。
でろんと出た中身が、そのままの勢いでホワイトラビットに襲いかかる。
「……熱っ」
強酸を浴びせられ、やや後退。その隙に逃げの一手を取ろうとしたスライムだが、そうはシャルアが許さない。
「逃がさないのですよ~?」
包囲網を補うように、土壁を創りだしたのだ。
「瓶が割れたなら……通るはず」
続けてオシェルが瞬時に符を取り出し、放つ。蝶に似た光弾がスライムをめがけて飛来し、身を穿つ。
瓶さえとれれば、ただのスライム。散布される酸の距離に気をつけていれば、問題はない。ホワイトラビットが逃走経路を塞ぐ間に、シャルアも気を集中させた。
「これで、どうですか!」
蒼く燃え盛る炎の矢が一本、スライムを穿つ。強烈な一撃に、スライムは身を捩るがまだ倒れはしない。
続けざまに撃とうとしたとき、
「もう一個行くぞ!」というバレルの声が響いた。
ついでに、「落ち着いてフィオさん! 被害は最小限ですからっ!」というトリスの声とフィオを抑える虎刃の姿が見えた。
「……大丈夫、だよね?」
少し怖くなる中、もう一つの瓶が落ちてくる。
やはり割れていないそれを、ホワイトラビットがすかさず処理した。
「ごめんなさい。フィオさんが予想以上に荒ぶってて……」
外側の戦場にツィスカが加わった。
事情を簡単に説明すると、部屋の中にいたスライムが扉に向かって瓶ごとぶつかってきたのだという。それをかばおうとしたフィオをトリスがかばったのだけれど、漏れた酸が少し壁を灼いたらしい。
冷静になれば被害がほとんどないと、フィオもわかるのだろうが……。
「今は冷静さを欠いているみたいです」
説明を終え、ツィスカはライフルを構える。
遠距離から確実にスライムの体力を削りにかかる。一匹目、二匹目と複数でとりかかり、処理が完了する。
続けざまに、三匹目、四匹目が合図とともに向こう側で落とされるのが見えるのだった。
●
屋敷内三階は、鉄火場と化していた。
5匹目を捕えかかろうとしたところ、最後の一体も現れ対応に追われたのだ。
「こっちは俺が押さえるぜ。そっちは任せた」
旭は一人、先に現れた5匹目に一人立ち向かう。
一人で投げ出そうとすれば、確実に窓枠へ被害が出るだろう。これ以上の被害は避けねばならない。
幸いにも三階の廊下は、調度品もなかった。立ち向かおうとする旭へ、スライムは酸を吐きかける。壁やカーペットに被害は出せない。旭は受け止めた。
「痛ぇじゃねーか。だが……」
そして、灼熱の砂嵐のようなマテリアルを纏って瓶スライムへ攻撃を仕掛ける。
「そのまま、焼けろ!」
瓶の中へえぐり込むように、本体を狙う。たまらず逃げ出そうとした、スライムを追いかけ旭は声を荒げた。
「厄介なことを!」
「何事だ」
「そっちは頼んだ!」
振り向いたバレルに告げて、旭はそれを追いかけた。
「分裂したみたいですね」
「ここで片すか」
旭の攻撃を受けたうえでの分裂、質量はかなり減っていた。
バレルは金色の刃を上段から一気に振り下ろし、瓶を真っ二つに割り切った。どろりと漏れでたスライムを逃すまいと、虎刃が旋棍で気を満ちた一撃を放つ。
フィオも無駄に突っ込んでこないようにトリスがかばいながら、ナイフで応戦する。
一方で片割れを追いかけた旭は、階段の踊場で追いつく。
素早い身のこなしでスライムの攻撃を捌きながら、再び熱砂を混といて刃を突き入れる。
トドメであったらしい。
スライムの身が崩れ、その場でほろろと消えていった。
そこへ降りてきた面子と合流し、外の戦場へ向かう。
●
「なかなかに、しぶといものだね」
オシェルの視線の先では、三体のスライムが瓶を外して蠢いていた。
スライムのしぶとさが身に沁みる。
「ホワイトラビットさん、気をつけてください」
前衛を担うホワイトラビットに、ツィスカが運動性を上げるエネルギーを与える。
奮戦する彼女は一撃、また一撃と確実に体力を減じていたのだ。
「助かるよ……それにしても」
ホワイトラビットは決定打にかいていた。殴打に加え、捻りを入れた蹴りも放つ。だが、打撃は軟体の体を前に威力が目減りするのだ。打撃で怯む隙を突いて後方から飛来する光弾や炎の矢が、スライムを確実にあの世へ向かわせる。
現に一匹、耐え切れずに炎に飲み込まれて消失した。
「ショートカットだ!」
そこへ2階の窓から旭が、虎刃が降りてきた。
「虎刃。マナーが悪いよ?」
「時間が惜しいのだ」
言うやいなや、虎刃は使い物にならなくなった毛布を投げ捨てた。
そして、旋棍を振るってスライムへと立ち向かっていく。
手数の面で圧倒したハンターを前に、瓶を失ったスライムはなすすべがないのであった。
●
戦闘が終わり、フィオは冷静さを取り戻していた。
「このまま、放置してはおけません!」
そして、掃除は終わっていないと気合を入れていた。
「片付けするのかな。瓶は割っちゃったし、まだ時間もあるみたいだから、ボクも手伝うよ」
オシェルの意見を発端に、屋敷の点検と片付けが始まった。
「スライムはもういませんよね?」と警戒するツィスカに、
「音はしないね」と旭が超聴力を用いて最終確認をしていく。
今度は先頭を行くフィオに、シャルアが話しかけた。
「フィオさん、凄かったのですよ~。屋敷内を把握してらっしゃいますし、流石はメイド長さんなのです!」
「それしき、メイド長として当然の……」
少し鼻が高くなったフィオだったが、くだんの窓枠が見えた途端に表情が落ちた。
「くっ。これはセプク……」
「ご婦人、腹を切ろうとしたそうだが、腹を切るにも作法があるのはご存知か」
おもむろに、虎刃がフィオに語りかける。
顔を向けたフィオに、虎刃は続けていう。
「うむ。そもそも小生が斯様な恰好を――常に死装束を着ているのは、いつでも腹を切れるようにと。小生は未熟者だからな、いつどのような失態を犯すか」
「失態を犯した時は……やはり?」
「……同じ失態をつかない誓いをたてるのであれば、腹は切らないのだぞ?」
「え、そうなのですか」
本気になりかけたフィオへ、虎刃は「あぁ」といったあと、
「最も、全て嘘だが」とひっくり返した。
「はいはい、虎刃。冗談は横に捨てておいてね」
オシェルガ虎刃を撤収させ、まだセプクに執着するフィオにツィスカが語りかける。
「これぐらいの傷ならば、メイド長たるあなたはうまく修繕できるのではありませんか」
「そうですよ。フィオさんなら、きっとできます」
シャルアも乗っかり、フィオを持ち上げる。
気を良くしたフィオは、ハンターたちの力も借りて戦闘の跡を完膚なきまでに消し去っていく。
これが伝説のメイドの伝説の始まりだったとかなんとか……。
どこまでも広がる田園風景の中に、赤レンガ造りの屋敷がぽつんと立っていた。
マーシャロウという貴族の別荘である屋敷に、ハンターたちがたどり着く。
「いい感じの屋敷だな! これで別荘ってんだから、すげーよな」
三階建ての屋敷を見上げ、岩井崎 旭(ka0234)は感嘆の息を漏らす。
扉をたたき、礼を述べて中に入ればさらに息を呑むしつらえが出迎える。
「えと、フィオさんはどちらにいるのでしょうか」
下手すれば迷いそうな室内をツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)が見渡す。
どうやら、メイド長フィオは入り口付近にはいないらしい。
「探すか?」
「そうだね……あ、その前に」
中へ進もうとした月叢 虎刃(ka5897)を止め、オシェル・ツェーント(ka5906)が毛布を手渡す。
「先に渡しておくね。フィオさんが蓋を知っていればいいけど」
なければこれを使うより他にない。
虎刃は頷き、毛布を預かると再び歩き出す。
「あたしの毛布も誰かに預けとかないと」
シャルア・レイセンファード(ka4359)も持ってきた毛布を取り出す。
手近にいたバレル・ブラウリィ(ka1228)が一度預かることになった。
「で、メイド長とやらはどこだ」
バレルの問いに全員が足を止めた。
闇雲に屋敷を探しまわるわけにもいかないのだ。
「……厨房とかでしょうか」
トリス・ラートリー(ka0813)が不意に告げた。
トリスの意見に、ホワイトラビット(ka5692)が同意の声を上げた。
「そういえば、最初に出たのは厨房の方だよね」
「じゃあ、行ってみるか」
旭が前衛をつとめて、一行は歩き出す。
エントランスから厨房までは近いといっても、屋敷の広さが十分に伝わるほどだった。スライムが沸いたことだし、ダンジョンめいた雰囲気すら感じられる。
厨房に近づくと、賑やかな叫び声が聞こえてきた。
●
メイド長フィオ・ドランドはハンターの推測通り、厨房にいた。
「泥棒ですか!?」
開口一番、フィオはそう告げてナイフを突き出してきた。
「いや、ハンターだ」
返す言葉で虎刃が告げる。
ハンター、と首を傾げたフィオへツィスカが事情を説明する。
が、その途中。戦いに来たのだと知ると、声を荒げた。
「この屋敷で傍若無人な振る舞いは……!」
「フィオさん、ごめんよ。あのね、話は最後まで聞いて欲しいんだ」
荒ぶる神を鎮めるがごとく、おっとりした口調でオシェルガ割り込む。
「まず、最初にスライムを野放しにしたり対処を謝れば屋敷や調度品への被害は増すことでしょう」
「そうなるでしょうね」
ツィスカの話にシャルアも乗っかり、フィオにハンターの必要性を認識させる。
そして、調度品被害の少ない作戦を取ることを告げた。
端的に言えば、作戦は次のようになる。
瓶からはみ出ているスライムを蓋を用いて閉じ込め、窓から外へ放り投げる。
外ならば、調度品を破壊する心配もないからだ。
「所詮はスライム。調度品を庇わずとも、捕まえて放りだせば宜しい」
「私も調度品を壊さずに住むなら、それが最善だと思います! 一緒にスライムを外に引っ張りだしてもらえませんか?」
虎刃とホワイトラビットがそれぞれフィオに告げる。
フィオはそれなら、と納得した表情を見せた。
「で、蓋はどこだ?」
「蓋?」
虎刃の問いに、フィオは首を傾げる。
スライムがいる瓶の蓋だと重ねて聞いて、やっとフィオは思い至った。
数分後。
「これは、微妙だな……」
旭は蓋を受け取り、神妙な面持ちで呟いた。
確かに蓋はあったのだが、スライムの酸にやられたのかボロボロのものが多かった。だが、蓋のおかげで一つのことが知れた。
「蓋だけが6つあるということは」
「スライムも6匹ってことだよな?」
シャルアと旭が述べるように、蓋は使い物にならない3つを含めて6つあった。
つまり、それだけの瓶にスライムが潜んでいることになる。
「あとは用意した毛布で何とかしないとですね」
「ボクとシャルアさんの持ってきた毛布で、2つかな」
「バレルさん、虎刃さん。頼みましたよ?」
二人の毛は屋内担当のバレルたちに託された。
使えそうな蓋も持って、準備が整う。
「それでは改めて、今回はよろしくお願いします」
トリスがにこやかに挨拶をして、場を締めた。
ハンターが加わり、フィオはさらに気合を入れていた。空転しそうな気合の背中を見て、バレルは毛布を揉みながら思う。
(……有能なんだろうけど、端から見てると駄メイドにしか見えんな)
●
「戦闘……頑張ってやるのですよ!」
「こちらも出来る限り迅速に、屋外へ投げ出しますね」
シャルアをはじめとする外部待機組を見送り、ツィスカたちは本核的に捜索を開始する。頼りにするのはフィオのメイドとしての土地勘と、旭の超聴覚だ。
ハンターたちが到着するより前に、フィオは一階を見まわっていた。
「あまり無茶はしないで欲しいんだがな」
依頼主の心配する姿を思い出し、旭は苦笑する。
なおも先頭を行こうとするフィオをトリスが止めた。
「ボクより前には、あまり行かないようにお願いします」
「むぅ」
「危ないからな。用心してくれ……」
何かしでかしそうな雰囲気を察して、バレルも付け加える。
しぶしぶ後ろに下がったフィオを連れ、階段を登る。
「廊下に飾られた調度品も、価値が高そうだし気をつけないとな」
「そうですね……なるべく中で戦闘したくはありません」
注意ししつつ登り切った時、旭が不意に右奥を見た。
水気のあるものが蠢くような音が聞こえたのだ。
「こっちだ!」
駈け出した先にいたのは、まさしく瓶入のスライムだった。廊下のドン付きで、逆さになった瓶の口から、身を乗り出している。
「こうして実際に見ると、神出鬼没ですね……」
ツィスカが眉をひそめ、スライムを見つめる。何を考えているのか、スライムは廊下の壁にぶつかり続けていた。
思ったより大きいが、二人でかかれば問題なさそうだ。
「そっと捕まえるか」と虎刃が率先して、前に出る。
「蓋でいきましょうか」
トリスが蓋をもって虎刃につづいて近づく。
旭が瓶の手前、足を止める。
「どうしました?」
「こっちにも、何か……いるな」
扉に手をかけようとして、気づく。すでに開いていたのだ。
フィオに聞けば、掃除をする際に、すべての扉を開放していたらしい。
「いるな」
隣からバレルが覗き込み、告げる。
高級そうな調度品に囲まれて、薄汚れた瓶が転がっていた。
「先にあちらから。こっちは私が見ています」
扉を半ば開けた状態で、ツィスカが監視を続ける。
あと一歩、近づけば掴めるといったところでスライムの身体が大きく揺らいだ。
「気づかれた!?」
「素手はまずいですよ!」
慌てたのか、素手でつかもうとした虎刃へトリスが警句を発した。
すぐに切り替えて、酸を浴びつつも毛布を構える。
「くっ……」
暴れるスライムを虎刃とトリスが押さえこみに入る。
毛布の隙間からスライムは抵抗の一手を伸ばす。強酸を纏った一撃をトリスは護りの構えで受けきる。
「よし、窓は開けたぞ」
旭の声に応じて、虎刃たちが瓶を運ぶ。
「落としますよ、頭上注意してください」
トリスが声を上げながら、せいのと底を押し上げる。
その声に合わせて虎刃がぐっと押し出す……のだが。
「キチョウナマドワクガー!!」
意外に重いスライムに、わずか力及ばずガリッと窓枠が擦られるのであった……。
●
「気がついたらスライムがって、結構怖いよねぇ」等とオシェルを中心に、外にいる面子が会話をしていた。
その刹那、フィオの叫びが聞こえてきた。
「声が聞こえたのは……んー、あっち?」
「あまりいい声ではなかったよね」
声を追うシャルアにオシェルが続く。
側面に近い位置の地面に、それは落ちていた。
「丈夫なんだね、あの瓶」
二階から落下した瓶は、まだ割れてはいなかった。
「それなら、今割るだけだよ!」とホワイトラビットが先手を打つ。
練り切った気を拳に込めて、最短距離で真っ直ぐに打ち込む。ヒビが入っている箇所を狙い定めた一撃は、見事に瓶を破壊した。
でろんと出た中身が、そのままの勢いでホワイトラビットに襲いかかる。
「……熱っ」
強酸を浴びせられ、やや後退。その隙に逃げの一手を取ろうとしたスライムだが、そうはシャルアが許さない。
「逃がさないのですよ~?」
包囲網を補うように、土壁を創りだしたのだ。
「瓶が割れたなら……通るはず」
続けてオシェルが瞬時に符を取り出し、放つ。蝶に似た光弾がスライムをめがけて飛来し、身を穿つ。
瓶さえとれれば、ただのスライム。散布される酸の距離に気をつけていれば、問題はない。ホワイトラビットが逃走経路を塞ぐ間に、シャルアも気を集中させた。
「これで、どうですか!」
蒼く燃え盛る炎の矢が一本、スライムを穿つ。強烈な一撃に、スライムは身を捩るがまだ倒れはしない。
続けざまに撃とうとしたとき、
「もう一個行くぞ!」というバレルの声が響いた。
ついでに、「落ち着いてフィオさん! 被害は最小限ですからっ!」というトリスの声とフィオを抑える虎刃の姿が見えた。
「……大丈夫、だよね?」
少し怖くなる中、もう一つの瓶が落ちてくる。
やはり割れていないそれを、ホワイトラビットがすかさず処理した。
「ごめんなさい。フィオさんが予想以上に荒ぶってて……」
外側の戦場にツィスカが加わった。
事情を簡単に説明すると、部屋の中にいたスライムが扉に向かって瓶ごとぶつかってきたのだという。それをかばおうとしたフィオをトリスがかばったのだけれど、漏れた酸が少し壁を灼いたらしい。
冷静になれば被害がほとんどないと、フィオもわかるのだろうが……。
「今は冷静さを欠いているみたいです」
説明を終え、ツィスカはライフルを構える。
遠距離から確実にスライムの体力を削りにかかる。一匹目、二匹目と複数でとりかかり、処理が完了する。
続けざまに、三匹目、四匹目が合図とともに向こう側で落とされるのが見えるのだった。
●
屋敷内三階は、鉄火場と化していた。
5匹目を捕えかかろうとしたところ、最後の一体も現れ対応に追われたのだ。
「こっちは俺が押さえるぜ。そっちは任せた」
旭は一人、先に現れた5匹目に一人立ち向かう。
一人で投げ出そうとすれば、確実に窓枠へ被害が出るだろう。これ以上の被害は避けねばならない。
幸いにも三階の廊下は、調度品もなかった。立ち向かおうとする旭へ、スライムは酸を吐きかける。壁やカーペットに被害は出せない。旭は受け止めた。
「痛ぇじゃねーか。だが……」
そして、灼熱の砂嵐のようなマテリアルを纏って瓶スライムへ攻撃を仕掛ける。
「そのまま、焼けろ!」
瓶の中へえぐり込むように、本体を狙う。たまらず逃げ出そうとした、スライムを追いかけ旭は声を荒げた。
「厄介なことを!」
「何事だ」
「そっちは頼んだ!」
振り向いたバレルに告げて、旭はそれを追いかけた。
「分裂したみたいですね」
「ここで片すか」
旭の攻撃を受けたうえでの分裂、質量はかなり減っていた。
バレルは金色の刃を上段から一気に振り下ろし、瓶を真っ二つに割り切った。どろりと漏れでたスライムを逃すまいと、虎刃が旋棍で気を満ちた一撃を放つ。
フィオも無駄に突っ込んでこないようにトリスがかばいながら、ナイフで応戦する。
一方で片割れを追いかけた旭は、階段の踊場で追いつく。
素早い身のこなしでスライムの攻撃を捌きながら、再び熱砂を混といて刃を突き入れる。
トドメであったらしい。
スライムの身が崩れ、その場でほろろと消えていった。
そこへ降りてきた面子と合流し、外の戦場へ向かう。
●
「なかなかに、しぶといものだね」
オシェルの視線の先では、三体のスライムが瓶を外して蠢いていた。
スライムのしぶとさが身に沁みる。
「ホワイトラビットさん、気をつけてください」
前衛を担うホワイトラビットに、ツィスカが運動性を上げるエネルギーを与える。
奮戦する彼女は一撃、また一撃と確実に体力を減じていたのだ。
「助かるよ……それにしても」
ホワイトラビットは決定打にかいていた。殴打に加え、捻りを入れた蹴りも放つ。だが、打撃は軟体の体を前に威力が目減りするのだ。打撃で怯む隙を突いて後方から飛来する光弾や炎の矢が、スライムを確実にあの世へ向かわせる。
現に一匹、耐え切れずに炎に飲み込まれて消失した。
「ショートカットだ!」
そこへ2階の窓から旭が、虎刃が降りてきた。
「虎刃。マナーが悪いよ?」
「時間が惜しいのだ」
言うやいなや、虎刃は使い物にならなくなった毛布を投げ捨てた。
そして、旋棍を振るってスライムへと立ち向かっていく。
手数の面で圧倒したハンターを前に、瓶を失ったスライムはなすすべがないのであった。
●
戦闘が終わり、フィオは冷静さを取り戻していた。
「このまま、放置してはおけません!」
そして、掃除は終わっていないと気合を入れていた。
「片付けするのかな。瓶は割っちゃったし、まだ時間もあるみたいだから、ボクも手伝うよ」
オシェルの意見を発端に、屋敷の点検と片付けが始まった。
「スライムはもういませんよね?」と警戒するツィスカに、
「音はしないね」と旭が超聴力を用いて最終確認をしていく。
今度は先頭を行くフィオに、シャルアが話しかけた。
「フィオさん、凄かったのですよ~。屋敷内を把握してらっしゃいますし、流石はメイド長さんなのです!」
「それしき、メイド長として当然の……」
少し鼻が高くなったフィオだったが、くだんの窓枠が見えた途端に表情が落ちた。
「くっ。これはセプク……」
「ご婦人、腹を切ろうとしたそうだが、腹を切るにも作法があるのはご存知か」
おもむろに、虎刃がフィオに語りかける。
顔を向けたフィオに、虎刃は続けていう。
「うむ。そもそも小生が斯様な恰好を――常に死装束を着ているのは、いつでも腹を切れるようにと。小生は未熟者だからな、いつどのような失態を犯すか」
「失態を犯した時は……やはり?」
「……同じ失態をつかない誓いをたてるのであれば、腹は切らないのだぞ?」
「え、そうなのですか」
本気になりかけたフィオへ、虎刃は「あぁ」といったあと、
「最も、全て嘘だが」とひっくり返した。
「はいはい、虎刃。冗談は横に捨てておいてね」
オシェルガ虎刃を撤収させ、まだセプクに執着するフィオにツィスカが語りかける。
「これぐらいの傷ならば、メイド長たるあなたはうまく修繕できるのではありませんか」
「そうですよ。フィオさんなら、きっとできます」
シャルアも乗っかり、フィオを持ち上げる。
気を良くしたフィオは、ハンターたちの力も借りて戦闘の跡を完膚なきまでに消し去っていく。
これが伝説のメイドの伝説の始まりだったとかなんとか……。
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依頼相談宅 バレル・ブラウリィ(ka1228) 人間(リアルブルー)|21才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/12/04 05:11:22 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/02 08:39:51 |