ゲスト
(ka0000)
オルソンの誤算
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/27 15:00
- 完成日
- 2015/11/30 16:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
どうしてこうなった。
飯屋を開業したばかりのオルソンは、一ヶ月もしないうちに頭を抱えていた。
洞窟の中で飯屋を経営すれば、家賃はかからない。やってきたハンターを客にすれば、集客にも困らない。何より洞窟の奥から漂う食欲誘う香りに、誰もが吸い寄せられる。
自信と確信の中で始めたオルソン飯店。
しかし、一ヶ月の営業成績はゼロだった。衝撃的な数字がひとつ、ちょこんと座っているだけである。
なんてこった。
依頼がなければ、ハンターは洞窟にこないのだ。今さらながらに気づき、オルソンは愕然とする。
この分では、洞窟の前に客寄せとして置いたどんぶりも、昨夜と同じ状態で残っているはずだ。
今朝の絶望を終えたあと、なけなしの希望を持って洞窟の外にでる。
――ない。
どんぶりの中身が見事にない。
「ついにきた。俺の時代が……神様、母ちゃん、ありがとう! 少しばかり遅れたけど、今から俺のサクセスロードが始まるんだ!」
握り拳を空高くつきだせば、欠片ほどしかなかった希望が手の中でむくむくと大きくなってくるのがわかる。
世界はこんなにも明るく、暖かかったんだな。待ってろ世界! すぐにでも頂点へ行ってやるからな。
冷静になれば赤面するしかないような台詞を心の中で叫び、根城である洞窟内へ戻る。
その時だった。洞窟の奥で開店中のオルソン飯店から、何者かの気配がするではないか。
客だ! この感覚はまごうことなき客だ! ついにオルソン飯店に初めての客が訪れたのだ。開店から一ヶ月も経過しちゃってるけど。
全力ダッシュで店へ帰ったオルソンは、客の背中に満面の笑みで「いらっしゃいませ!」と挨拶する。
声に気づいた客が振り返り、顔を見たオルソンは笑顔を崩さずに呟く。
「……コボルドじゃねーか」
客の来なかった一ヶ月のうちに枯れ果ててしまったのか、涙の代わりに鼻水がこぼれそうになった。
客じゃなくて敵対的な亜人とは。どうすりゃ、いいんだ。まだ一匹しかいないから、店の奥のあるロングソードでなんとかならないか。
「いや、待てよ。よくよく考えてみれば、コボルドが食ってるのは俺の作った飯じゃねえか。つまり! 俺の飯はコボルドすらうならせる絶品ということだ!」
完全に視界が開けた。どこに繋がってるかはまったくわからないが、とにかく道はできたのだ。
「こうなればコボルドでも構わない。客は客だ! 俺は料理人。求める奴には、喜んで飯を提供するぜ。こいつがオルソン飯店自慢のごった煮具入りスープだ。たっぷり食らいやがれ!」
洞窟へ来たハンターは疲弊しきっている。体力を回復させるのは何より大事。そのための特製料理だ。
りんご、はちみつ、にんにくを混ぜて基本のスープを作り、近くで農家をしているゲンさんから提供してもらったじゃがいもやにんじん、たまねぎをふんだんにぶち込む。
疲れてる人間には、味の濃い料理が定番だ。さらに汗もかいてるだろうから、塩分も失われているはずだ。そこで塩もスープに浮くくらい塊で突っ込んでいる。これがオルソン特製のごった煮具入りスープだった。
正式な名前はまだない。ちなみに開店前、ゲンさんに味見させた時は、口に入れるなり家まで全力で走って帰れるほど元気になってくれた代物だ。もちろんコボルドは完食。これで繁盛間違いなしだ。
しかし、オルソンは盛大に間違っていた。相手は人ではなくコボルド。そもそもお金を使って商品を購入するという、基本的な知識がない。さらに人間の言語もわからない。コボルドを相手に商売するなど、土台無理なのである。
人間を捕らえて脅し、料理を作らせようなんて考えにも、もちろん到達しない。人を襲う性質を存分に発揮し、オルソンに襲い掛かる。
「ちょっと、お客さん!? 食い逃げする気かよ! 困りますって無視かよ! くそっ! こうなったら退治を――って、何だ?」
店の出入口からカシャンカシャンと音がする。不思議がって注目していると、音の正体がやってきた。
「嘘……だろ……? どこからやってきたんだよ、このデカいサソリは……」
姿を現したのは、巨大化したサソリだった。先ほどの音は、両手のハサミから発生したものだった。
ギロリと睨みつけられたオルソンは、即座に自分で敵を退治しようという気力を失う。
殺されると思ったが、サソリが興味を示したのは、なんとオルソンの作った特製スープだった。
「い、今のうちに、急いで洞窟から出よう……!
なんとか洞窟から町に逃げたオルソンは、その足でハンターへ依頼を出したのだった。
●
「以上が事の顛末と、出された依頼の内容になります」
オルソンの話を、そのままハンターに伝えた支部の若い男性受付はふうと小さなため息をついた。
「目的のひとつは店を取り戻すこと。大型のサソリというのは、恐らく雑魔でしょう。気を抜かないでください。コボルドの方は、依頼者が逃げて来た時には一匹しかいなかったみたいです。しかしながら、暇さえあれば数を増やすのがコボルドですので、今はどれくらいになっているかもわかりません。どこからかやってきたのを考慮すれば、近くに巣みたいなのが存在する可能性もありますしね」
話を聞いているハンターを見ながら、受付の男性は説明を続ける。
「退治の際は依頼者も同行するそうです。依頼者は一般人で、戦闘訓練を受けているわけではありません。駄目だと止めたのですが……。店を取り戻したあとは、ハンターの方々に味見とアドバイスをお願いしたいそうです。新たな料理の発案でも構わないみたいですね。ハンターを相手に商売をしようと考えていたわけですから、アドバイスを求めるのが遅いような気もしますけどね。ともかく依頼者は、入手しやすいリンゴ、はちみつ、にんにく、じゃがいも、ニンジン、タマネギを使えるメイン料理が欲しいそうです。コボルドやサソリに大人気の特製スープはこりごりだと言ってました。料理を作る腕は普通みたいですが、発想が普通ではないというか、突拍子もない感じなのでしょうね」
調達しやすいわけではないですが、キャベツやトマトも手に入るそうですと付け加えて、受付によるひとまずの依頼説明は終了した。
「後々を考えれば敵の殲滅が望ましい依頼です。引き受けるのであれば、しっかりと準備をして臨んでください」
どうしてこうなった。
飯屋を開業したばかりのオルソンは、一ヶ月もしないうちに頭を抱えていた。
洞窟の中で飯屋を経営すれば、家賃はかからない。やってきたハンターを客にすれば、集客にも困らない。何より洞窟の奥から漂う食欲誘う香りに、誰もが吸い寄せられる。
自信と確信の中で始めたオルソン飯店。
しかし、一ヶ月の営業成績はゼロだった。衝撃的な数字がひとつ、ちょこんと座っているだけである。
なんてこった。
依頼がなければ、ハンターは洞窟にこないのだ。今さらながらに気づき、オルソンは愕然とする。
この分では、洞窟の前に客寄せとして置いたどんぶりも、昨夜と同じ状態で残っているはずだ。
今朝の絶望を終えたあと、なけなしの希望を持って洞窟の外にでる。
――ない。
どんぶりの中身が見事にない。
「ついにきた。俺の時代が……神様、母ちゃん、ありがとう! 少しばかり遅れたけど、今から俺のサクセスロードが始まるんだ!」
握り拳を空高くつきだせば、欠片ほどしかなかった希望が手の中でむくむくと大きくなってくるのがわかる。
世界はこんなにも明るく、暖かかったんだな。待ってろ世界! すぐにでも頂点へ行ってやるからな。
冷静になれば赤面するしかないような台詞を心の中で叫び、根城である洞窟内へ戻る。
その時だった。洞窟の奥で開店中のオルソン飯店から、何者かの気配がするではないか。
客だ! この感覚はまごうことなき客だ! ついにオルソン飯店に初めての客が訪れたのだ。開店から一ヶ月も経過しちゃってるけど。
全力ダッシュで店へ帰ったオルソンは、客の背中に満面の笑みで「いらっしゃいませ!」と挨拶する。
声に気づいた客が振り返り、顔を見たオルソンは笑顔を崩さずに呟く。
「……コボルドじゃねーか」
客の来なかった一ヶ月のうちに枯れ果ててしまったのか、涙の代わりに鼻水がこぼれそうになった。
客じゃなくて敵対的な亜人とは。どうすりゃ、いいんだ。まだ一匹しかいないから、店の奥のあるロングソードでなんとかならないか。
「いや、待てよ。よくよく考えてみれば、コボルドが食ってるのは俺の作った飯じゃねえか。つまり! 俺の飯はコボルドすらうならせる絶品ということだ!」
完全に視界が開けた。どこに繋がってるかはまったくわからないが、とにかく道はできたのだ。
「こうなればコボルドでも構わない。客は客だ! 俺は料理人。求める奴には、喜んで飯を提供するぜ。こいつがオルソン飯店自慢のごった煮具入りスープだ。たっぷり食らいやがれ!」
洞窟へ来たハンターは疲弊しきっている。体力を回復させるのは何より大事。そのための特製料理だ。
りんご、はちみつ、にんにくを混ぜて基本のスープを作り、近くで農家をしているゲンさんから提供してもらったじゃがいもやにんじん、たまねぎをふんだんにぶち込む。
疲れてる人間には、味の濃い料理が定番だ。さらに汗もかいてるだろうから、塩分も失われているはずだ。そこで塩もスープに浮くくらい塊で突っ込んでいる。これがオルソン特製のごった煮具入りスープだった。
正式な名前はまだない。ちなみに開店前、ゲンさんに味見させた時は、口に入れるなり家まで全力で走って帰れるほど元気になってくれた代物だ。もちろんコボルドは完食。これで繁盛間違いなしだ。
しかし、オルソンは盛大に間違っていた。相手は人ではなくコボルド。そもそもお金を使って商品を購入するという、基本的な知識がない。さらに人間の言語もわからない。コボルドを相手に商売するなど、土台無理なのである。
人間を捕らえて脅し、料理を作らせようなんて考えにも、もちろん到達しない。人を襲う性質を存分に発揮し、オルソンに襲い掛かる。
「ちょっと、お客さん!? 食い逃げする気かよ! 困りますって無視かよ! くそっ! こうなったら退治を――って、何だ?」
店の出入口からカシャンカシャンと音がする。不思議がって注目していると、音の正体がやってきた。
「嘘……だろ……? どこからやってきたんだよ、このデカいサソリは……」
姿を現したのは、巨大化したサソリだった。先ほどの音は、両手のハサミから発生したものだった。
ギロリと睨みつけられたオルソンは、即座に自分で敵を退治しようという気力を失う。
殺されると思ったが、サソリが興味を示したのは、なんとオルソンの作った特製スープだった。
「い、今のうちに、急いで洞窟から出よう……!
なんとか洞窟から町に逃げたオルソンは、その足でハンターへ依頼を出したのだった。
●
「以上が事の顛末と、出された依頼の内容になります」
オルソンの話を、そのままハンターに伝えた支部の若い男性受付はふうと小さなため息をついた。
「目的のひとつは店を取り戻すこと。大型のサソリというのは、恐らく雑魔でしょう。気を抜かないでください。コボルドの方は、依頼者が逃げて来た時には一匹しかいなかったみたいです。しかしながら、暇さえあれば数を増やすのがコボルドですので、今はどれくらいになっているかもわかりません。どこからかやってきたのを考慮すれば、近くに巣みたいなのが存在する可能性もありますしね」
話を聞いているハンターを見ながら、受付の男性は説明を続ける。
「退治の際は依頼者も同行するそうです。依頼者は一般人で、戦闘訓練を受けているわけではありません。駄目だと止めたのですが……。店を取り戻したあとは、ハンターの方々に味見とアドバイスをお願いしたいそうです。新たな料理の発案でも構わないみたいですね。ハンターを相手に商売をしようと考えていたわけですから、アドバイスを求めるのが遅いような気もしますけどね。ともかく依頼者は、入手しやすいリンゴ、はちみつ、にんにく、じゃがいも、ニンジン、タマネギを使えるメイン料理が欲しいそうです。コボルドやサソリに大人気の特製スープはこりごりだと言ってました。料理を作る腕は普通みたいですが、発想が普通ではないというか、突拍子もない感じなのでしょうね」
調達しやすいわけではないですが、キャベツやトマトも手に入るそうですと付け加えて、受付によるひとまずの依頼説明は終了した。
「後々を考えれば敵の殲滅が望ましい依頼です。引き受けるのであれば、しっかりと準備をして臨んでください」
リプレイ本文
●
一行が現場に到着する。日中の洞窟内には光が届き、灯りがなくとも十分なくらいだった。案内してくれたオルソンはすでに避難済みだ。
「またコボルドに占拠されたアルか。今度は中央に大きなサソリもいるアルね」
洞窟内を見渡した李 香月(ka3948)が言った。以前にもオルソンからの依頼を受けて、同洞窟を訪れた経験があった。
「リュミアちゃんのー! 突撃☆グルメりぽーと! 本日おじゃまするのは秘密基地っぽいと巷でうわさ? のオルソンさんのお店でーす。さっそく行ってみましょう。こーんにーちはー」
グルメリポーターよろしく取材するみたいに言ったあと、リュミア・ルクス(ka5783)はコボルドさんで大盛況でーす! と加えた。
楽しそうに準備運動をするのはロイ・J・ラコリエス(ka0620)だ。
「コボルド何匹狩れるっかなー」
明るく楽しそうという観点では、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)も同様だ。
「カードの力とルンルン忍法を駆使し、怪物からオルソンさんのお店を取り戻しちゃいます! 美味しい料理と明日の為に戦うのも、プロカードゲーマーの使命だもの!」
力強く宣言した秋桜の側では、近くの壁を叩くなりして柊 真司(ka0705)が洞窟内の様子を確認していた。
「こんな洞窟で飯屋ねぇ……店が壊されないうちにさっさと敵を倒すとするかな。料理のアドバイスもしなきゃいけねぇし」
「そうですね」
真司の言葉に、グエン・チ・ホア(ka5051)が同意した。
「料理の心得が多少ある身としちゃ、色々見過ごせん依頼人だな……敵の排除がてら、客に出す店の料理ってのはどういうものかを叩き込んでやる!」
気合全開のエヴァンス・カルヴィ(ka0639)の発言後、洞窟内の敵の一掃が開始される。
一塊になって敵へ突っ込むのではなく、ハンターたちはあえて戦力を分散させる。
「わたしはこちらを担当します。ただし、他の人の作戦の邪魔になりそうなら、別の場所にします」
洞窟の出入口からオルソン飯店を正面に見て、左側へ向かうと宣言したのはグエンだった。
グエンの他に真司も同じ方向を希望した。その逆、オルソン飯店を正面に見て右側へ向かうと言ったのはロイ、エヴァンス、香月の三人だ。
残ったリュミアと秋桜は、中央でコボルドがこの場から逃げ出さないようにする役目を担う。
「コボルド単体は余裕かもだけど、数の暴力は怖いかんね。囲まれないようにだけは気を付けよっか。入り口の方は固めてくれるみたいだから、逃げちゃう事は気にしなくていいかな」
一旦はコボルドを避けるように移動しつつ、ロイが言った。
すぐ後ろをエヴァンスが続く。仲間と左右に広がるように進み、敵を見逃さないよう周囲の気配を探る。
一方で、コボルドたちもハンターの姿を視界に捉える。すぐに襲い掛かり、そのうちの一体が香月を狙う。
回避しきれないと判断するなり、すぐさま香月は腕で上手くコボルドの一撃を受け止めた。
コボルドの爪を防いだ音が合図になったわけではないだろうが、ここから戦闘が激化していく。
味方が出入口付近から離れたのを受けて、秋桜が出入口の手前辺りを塞ぐように地縛符を仕掛けた。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法土蜘蛛の術! 符を伏せてターンエンド」
「ようし。次はあたしの番だよ。秋桜ちゃんの設置した地縛符の前にアースウォールで壁を作って、出口を半分封鎖するよ」
秋桜に続いて、リュミアがコボルドを逃がさないための仕掛けを完成させる。
その頃香月は鷹爪翻子拳で壁や天井を走るように飛び回っていた。
「その程度の動きでは、妾からは逃れられないアルよ」
鷹のような動きで、強化した指先を爪のように突き立てる。容赦のない一撃が命中し、コボルドの一体がその場に倒れた。
数だけはコボルドがハンターを上回る。注意と警戒だけは怠らないようにしながら、右手に持ったダガーで的確にロイがコボルドを狙う。
「サソリには大方片付くまでは近づかないよ。コボルドと一緒に雑魔は嫌だしね」
経験を積んだハンターにとって、単体のコボルドはほぼ問題にならない。一体また一体と着実に数を減らしていく。
香月やロイと一緒に行動中のエヴァンスも、両手に持つ灼滅剣で、部位構わずに迫ってきたコボルドを一刀両断にした。
別方向へ移動していたグエンと真司も、コボルドたちとの戦闘に突入していた。
「ストライダーのボビナム体術を見せてあげるよ!」
コボルドの体を踏み台代わりにして高く飛び上がる。落下速度を加えた一撃を首に見舞って、難なく一体を倒す。
グエンの攻撃でハンターたちを危険と判断したのか、コボルドが集団で対抗しようとする。
コボルドの動きを、じっくり見ていた真司が不敵に笑う。
「俺の目の前でわざわざ密集してくれるとはな。手間が省けるぜ。お礼を言ってやった方がいいか?」
言いながら威力を重視したファイアスローワーを放つ。噴射された炎の力を持つ破壊エネルギーに抗えず、複数のコボルドが同時に絶命する。
ここで奥のコボルドも、ハンターの存在に気づいた。逃げようとはせず、敵意を剥き出しする。
それがコボルドの仇となった。
策略もなく突っ込んでくるコボルドに、実力で上回るハンターが後れを取るはずがない。
瞬く間に数が減り、恐怖に怯えたコボルドが逃げようとするも、その先にはリュミアが立ち塞がっている。
「あたし、アースウォール、地縛符、秋桜ちゃんの四重壁! この最終防衛線にして最後の砦な絶対防御陣形は、そう簡単に越えさせたりしないのだだだ!」
行く手を塞がれたコボルドは、出口へ辿り着けずに混乱する。隙だらけになったところを攻撃すれば、苦もなく倒せた。
アースウォールを回避しても、その先には秋桜の仕掛けた地縛符がある。そこを目指すコボルドは、自ら罠にかかりに行っているも同然だった。
「ルンルン忍法コボルドホイホイ……ここで場に伏せたフィールドトラップ発動です!」
地縛符が発動し、立ち尽くすしかできなくなったコボルドに、秋桜がとどめの五色光符陣を放つ。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法五星花! 五色の光が貴方に直撃☆」
ポーズを決める秋桜の前で、最後のコボルドが事切れて倒れた。
コボルドを殲滅すれば、残りは巨大なサソリの雑魔一体だけになる。コボルドより防御力に優れる敵に対応するため、エヴァンスは攻殻の隙間などを狙っていく。
香月も武器を青龍偃月刀に持ち替え、距離を取って攻撃を仕掛ける。
「厄介な毒攻撃を、まずは封じておかないとな」
呟くように言ったエヴァンスが、素早くサソリの横へ回り込む。香月やロイが正面で引きつけてくれる形になったため、苦労せずに移動できた。
狙うべきポイントを見つけたエヴァンスは、全力で両手剣を振り下ろす。毒を持つサソリの尾を切り落としたのだ。
悲鳴を上げるサソリが暴れる。応対していたハンターが離れる中、機会を窺っていた真司が待ってましたとばかりにデルタレイを撃つ。
「せっかく飯屋に来たんだ。メニューの追加をしていけ。俺のデルタレイをご馳走してやる」
サソリが店の近くにいたのもあり、店を破壊しないように考慮した真司の一撃が見事に命中した。
連携のとれたエヴァンスと真司の攻撃により、少なくないダメージをサソリに与えた。
この機会を逃してたまるかと、すぐに香月とグエンが追撃を行う。
「まずは妾からアルな。青龍偃月刀の切れ味は優しくないアルよ」
一番手は香月だ。持ち替えた青龍偃月刀で、やや離れた位置から攻撃する。
サソリが応対へ回ったところへ、今度は香月の背中から飛び出したグエンが襲い掛かる。
「わたしを忘れたら駄目ですよ。隙を見せたら、すぐにククリを突き立てますから」
高い防御力の前に致命傷は与えられずとも、サソリのバランスを大きく崩した。
そこへ真司が二度目のデルタレイを放ち、十分に弱ったところでエヴァンスがとどめを刺した。最初に毒を持つ尾の処理を済ませていたのもあり、大きな危険もなくサソリの雑魔も倒せた。
周囲の処理も終え、静かになった洞窟内を秋桜が見渡す。
「お店は取り戻したのです! ……あっ、オルソンさんまだ入ってきちゃ――」
――地縛符が。そう言うよりも先に、戦闘が終わったと安心して現場にやってきたオルソンはしっかり踏んでしまった。
「う、うわあっ! た、助けてくれぇ!」
こうして勝利の雄叫びではなく、オルソンの悲鳴で洞窟内における戦闘は終了したのだった。
●
「お肉ないのー? お肉」
店を救ってもらったお礼だと料理を作り始めたオルソンの側で、ねだるようにロイが言った。
ロイからすると肉は森からわりと簡単に獲れるものだけに、ないのが不満だった。
「よし、完璧だ。これがオルソン飯店のメイン料理、疲れたハンターを癒す特製スープだ!」
「試食はあたしに任せろー! でもおいしくないものを出したら許さないからね!」
いの一番にスープを飲んだのは、リュミアだった。
口に入れた直後、笑顔のままで口からスープを吹き出し、反射的に動いた右拳をオルソンに命中させる。
必殺のリュミアぱんちを食らったオルソンが、まともに吹っ飛ぶ。
その様子を見ていたロイは、出された料理を軽く舐めるだけで終える。美味しければ食べるつもりだったが、そうじゃなかったので胃袋が拒絶した。山籠りもよくしており、だいたいの物は食べられるはずなのにである。
「まずこの場所を選んだ時点で壮大な間違いを犯してるが……」
言いながら、とりあえずひと口スープを飲んだエヴァンスが悶絶しかける。
「なんだこの塩の量は、ハンターを塩分過多で殺す気かよ! それなりに作れる腕があるなら、それを発揮出来るようまずは基礎を大事にしろ」
「……強烈だな、これは。どうしたら、この料理をハンターが喜ぶという結論に至るんだ……」
エヴァンスの隣では、手で額を押さえる真司が顔をしかめていた。
グエンが頭を抱え、香月はひと口でオルソン特製スープの試食を終える。
「ここお店があるってわかりにくいし、入り口も全然オシャレじゃありません……自己主張するさりげない看板と、隠れ家風に彩る入り口付近のオシャレ向上も大事だと思うの」
真面目な顔つきで秋桜がオルソンにアドバイスをする。ちなみに、料理にはまだ一切手をつけていない。
口元を拭き終えたリュミアが、両手でテーブルを叩いて勢いよく立ち上がる。
「おいしくないごはんなんて、歪虚とおなじくらい害悪なんだよ!!」
「そ、そんなにか……」
酷評の嵐にうろたえるオルソンに、強めの口調でそうだよと言ってロイが頷く。
「ほら、武術でも基本が大事でしょ? 一般的な基本料理が美味しいってのも大事なんだよ」
万が一、この店を訪れるかもしれないハンターのためにも、一般的なメニューをロイは意地でも加えさせてやるつもりだった。
ロイの指摘に、エヴァンスもすぐに同意する。
「ハンターとて千差万別。味付けはまず誰が食べても丁度よく感じる程度に抑え、食べにきた客層に合わせ、その場で濃さを変えていくんだ」
「まったくですよ! このままじゃ、建前でお店を乗っ取られたオルソンさんのために、ついでにコボルドとサソリをやっつけて、おまけで新メニューを開発して、ただでおいしいごはんをおなかいっぱい食べて帰るというわたしの真の目的が台無しじゃないですか!」
本音だだ漏れのリュミアの気迫に押され、オルソンが後退りする。
「新メニューということなら、妾が中華料理を教えるアル。調味料が足りないので本場の味にはならないアルが、材料は使えるアル」
その上で油であげる、あんかけにする、炒めるなどの調理方法と、悪い素材でも食えるようにする発想を伝える。
「サソリ料理もあるし、コボルド相手なら、より選択肢も増えるアルよ」
香月が説明を終えたあとで、今度はグエンが手を上げる。
「それじゃ、わたしはベトナム料理の手法を伝えます! ちょっと足りないかもですけど、野草の中にベトナム料理系の香草の代わりになるものがあれば十分です。カニの丸茹で料理もあるし、古い手法にヘビ料理やネズミ料理、虫料理、カエル料理とかもありますからね。洞窟と近辺で採取できて、コボルドに出すなら有益かも?」
「なるほど! コボルド相手のスペシャリストになれば売上が確保できて、今回みたいになる心配もなくなるな!」
「よく考えたらコボルドの舌は動物に近いだろうから、狩りに使える? 悪戯には確定で使えるよね。よし、諸々のレシピを教えてもらっと」
ロイまで乗り気になったところで、真司がやめておけと制止する。
「まずは人相手に商売させるのを徹底させよう。キャベツとトマトは手に入るみたいだし、ミネストローネが丁度いいだろ」
前に作った時の感覚を直感で思い出しつつ、一緒に作って真司はオルソンへ教えることにした。
野菜を切り、鍋に油を熱し、火の通りにくいものから炒める。水と残りの野菜を加え、ある調味料で味を調えつつ、やわらくなるまで煮込んで完成。
「そこに直感で、新たな味付けを――」
「――加える必要はない」
真司がオルソンの暴走をあっさり却下したところで、次はエヴァンスが新メニューを提案する。
すりつぶした大量のジャガイモに、細かく刻んだ人参と玉ねぎを混ぜ込んで種を作る。
「下味をつけるのを忘れるな。それをハンバーグのようにカリカリに焼き、キャベツで葉包みにすれば、名付けてヘルシーハンターズサンドの出来上がりだ。食べ応えがあり、チーズやソースでの改良も自由だ。稼ぎが入れば、パンや肉を調達できるようになる」
試作した数々の料理がテーブルに並ぶ。コボルドやサソリを呼び寄せた時とは違い、人間の食欲を誘う香りがそこかしこに漂う。
味も美味しく、洞窟で疲れたハンターを癒すには十分だった。
店を取り戻すだけでなく、新メニューまで考えてくれたハンターたちに、オルソンは改めて頭を下げる。
「今回は本当に助かった。ミネストローネにヘルシーハンターズサンドか。十分に売り物なりそうだ。あとは名物となるサソリやヘビ料理だな!」
予想もしていなかったオルソンのひと言に、ハンターたちの目が驚きで見開かれる。
どうやらオルソンは香月やグエンの提案料理に、リビドーを刺激されてしまったみたいだった。
「教わったとおり基本は大事だ! しかし! それと同時に応用も大切なんだな! さあ、忙しくなるぞ! まずは食材のサソリやヘビを大量に確保しないとな!」
大はりきりのオルソンを前に、ハンターたちは言葉を失う。
オルソン飯店の暴走はまだまだ続きそうだが、とりあえずは普通のメニューも追加されたし、いいか。そう考えて、ハンターたちは美味しく食べられる試食のメニューを平らげていくのだった。
一行が現場に到着する。日中の洞窟内には光が届き、灯りがなくとも十分なくらいだった。案内してくれたオルソンはすでに避難済みだ。
「またコボルドに占拠されたアルか。今度は中央に大きなサソリもいるアルね」
洞窟内を見渡した李 香月(ka3948)が言った。以前にもオルソンからの依頼を受けて、同洞窟を訪れた経験があった。
「リュミアちゃんのー! 突撃☆グルメりぽーと! 本日おじゃまするのは秘密基地っぽいと巷でうわさ? のオルソンさんのお店でーす。さっそく行ってみましょう。こーんにーちはー」
グルメリポーターよろしく取材するみたいに言ったあと、リュミア・ルクス(ka5783)はコボルドさんで大盛況でーす! と加えた。
楽しそうに準備運動をするのはロイ・J・ラコリエス(ka0620)だ。
「コボルド何匹狩れるっかなー」
明るく楽しそうという観点では、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)も同様だ。
「カードの力とルンルン忍法を駆使し、怪物からオルソンさんのお店を取り戻しちゃいます! 美味しい料理と明日の為に戦うのも、プロカードゲーマーの使命だもの!」
力強く宣言した秋桜の側では、近くの壁を叩くなりして柊 真司(ka0705)が洞窟内の様子を確認していた。
「こんな洞窟で飯屋ねぇ……店が壊されないうちにさっさと敵を倒すとするかな。料理のアドバイスもしなきゃいけねぇし」
「そうですね」
真司の言葉に、グエン・チ・ホア(ka5051)が同意した。
「料理の心得が多少ある身としちゃ、色々見過ごせん依頼人だな……敵の排除がてら、客に出す店の料理ってのはどういうものかを叩き込んでやる!」
気合全開のエヴァンス・カルヴィ(ka0639)の発言後、洞窟内の敵の一掃が開始される。
一塊になって敵へ突っ込むのではなく、ハンターたちはあえて戦力を分散させる。
「わたしはこちらを担当します。ただし、他の人の作戦の邪魔になりそうなら、別の場所にします」
洞窟の出入口からオルソン飯店を正面に見て、左側へ向かうと宣言したのはグエンだった。
グエンの他に真司も同じ方向を希望した。その逆、オルソン飯店を正面に見て右側へ向かうと言ったのはロイ、エヴァンス、香月の三人だ。
残ったリュミアと秋桜は、中央でコボルドがこの場から逃げ出さないようにする役目を担う。
「コボルド単体は余裕かもだけど、数の暴力は怖いかんね。囲まれないようにだけは気を付けよっか。入り口の方は固めてくれるみたいだから、逃げちゃう事は気にしなくていいかな」
一旦はコボルドを避けるように移動しつつ、ロイが言った。
すぐ後ろをエヴァンスが続く。仲間と左右に広がるように進み、敵を見逃さないよう周囲の気配を探る。
一方で、コボルドたちもハンターの姿を視界に捉える。すぐに襲い掛かり、そのうちの一体が香月を狙う。
回避しきれないと判断するなり、すぐさま香月は腕で上手くコボルドの一撃を受け止めた。
コボルドの爪を防いだ音が合図になったわけではないだろうが、ここから戦闘が激化していく。
味方が出入口付近から離れたのを受けて、秋桜が出入口の手前辺りを塞ぐように地縛符を仕掛けた。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法土蜘蛛の術! 符を伏せてターンエンド」
「ようし。次はあたしの番だよ。秋桜ちゃんの設置した地縛符の前にアースウォールで壁を作って、出口を半分封鎖するよ」
秋桜に続いて、リュミアがコボルドを逃がさないための仕掛けを完成させる。
その頃香月は鷹爪翻子拳で壁や天井を走るように飛び回っていた。
「その程度の動きでは、妾からは逃れられないアルよ」
鷹のような動きで、強化した指先を爪のように突き立てる。容赦のない一撃が命中し、コボルドの一体がその場に倒れた。
数だけはコボルドがハンターを上回る。注意と警戒だけは怠らないようにしながら、右手に持ったダガーで的確にロイがコボルドを狙う。
「サソリには大方片付くまでは近づかないよ。コボルドと一緒に雑魔は嫌だしね」
経験を積んだハンターにとって、単体のコボルドはほぼ問題にならない。一体また一体と着実に数を減らしていく。
香月やロイと一緒に行動中のエヴァンスも、両手に持つ灼滅剣で、部位構わずに迫ってきたコボルドを一刀両断にした。
別方向へ移動していたグエンと真司も、コボルドたちとの戦闘に突入していた。
「ストライダーのボビナム体術を見せてあげるよ!」
コボルドの体を踏み台代わりにして高く飛び上がる。落下速度を加えた一撃を首に見舞って、難なく一体を倒す。
グエンの攻撃でハンターたちを危険と判断したのか、コボルドが集団で対抗しようとする。
コボルドの動きを、じっくり見ていた真司が不敵に笑う。
「俺の目の前でわざわざ密集してくれるとはな。手間が省けるぜ。お礼を言ってやった方がいいか?」
言いながら威力を重視したファイアスローワーを放つ。噴射された炎の力を持つ破壊エネルギーに抗えず、複数のコボルドが同時に絶命する。
ここで奥のコボルドも、ハンターの存在に気づいた。逃げようとはせず、敵意を剥き出しする。
それがコボルドの仇となった。
策略もなく突っ込んでくるコボルドに、実力で上回るハンターが後れを取るはずがない。
瞬く間に数が減り、恐怖に怯えたコボルドが逃げようとするも、その先にはリュミアが立ち塞がっている。
「あたし、アースウォール、地縛符、秋桜ちゃんの四重壁! この最終防衛線にして最後の砦な絶対防御陣形は、そう簡単に越えさせたりしないのだだだ!」
行く手を塞がれたコボルドは、出口へ辿り着けずに混乱する。隙だらけになったところを攻撃すれば、苦もなく倒せた。
アースウォールを回避しても、その先には秋桜の仕掛けた地縛符がある。そこを目指すコボルドは、自ら罠にかかりに行っているも同然だった。
「ルンルン忍法コボルドホイホイ……ここで場に伏せたフィールドトラップ発動です!」
地縛符が発動し、立ち尽くすしかできなくなったコボルドに、秋桜がとどめの五色光符陣を放つ。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法五星花! 五色の光が貴方に直撃☆」
ポーズを決める秋桜の前で、最後のコボルドが事切れて倒れた。
コボルドを殲滅すれば、残りは巨大なサソリの雑魔一体だけになる。コボルドより防御力に優れる敵に対応するため、エヴァンスは攻殻の隙間などを狙っていく。
香月も武器を青龍偃月刀に持ち替え、距離を取って攻撃を仕掛ける。
「厄介な毒攻撃を、まずは封じておかないとな」
呟くように言ったエヴァンスが、素早くサソリの横へ回り込む。香月やロイが正面で引きつけてくれる形になったため、苦労せずに移動できた。
狙うべきポイントを見つけたエヴァンスは、全力で両手剣を振り下ろす。毒を持つサソリの尾を切り落としたのだ。
悲鳴を上げるサソリが暴れる。応対していたハンターが離れる中、機会を窺っていた真司が待ってましたとばかりにデルタレイを撃つ。
「せっかく飯屋に来たんだ。メニューの追加をしていけ。俺のデルタレイをご馳走してやる」
サソリが店の近くにいたのもあり、店を破壊しないように考慮した真司の一撃が見事に命中した。
連携のとれたエヴァンスと真司の攻撃により、少なくないダメージをサソリに与えた。
この機会を逃してたまるかと、すぐに香月とグエンが追撃を行う。
「まずは妾からアルな。青龍偃月刀の切れ味は優しくないアルよ」
一番手は香月だ。持ち替えた青龍偃月刀で、やや離れた位置から攻撃する。
サソリが応対へ回ったところへ、今度は香月の背中から飛び出したグエンが襲い掛かる。
「わたしを忘れたら駄目ですよ。隙を見せたら、すぐにククリを突き立てますから」
高い防御力の前に致命傷は与えられずとも、サソリのバランスを大きく崩した。
そこへ真司が二度目のデルタレイを放ち、十分に弱ったところでエヴァンスがとどめを刺した。最初に毒を持つ尾の処理を済ませていたのもあり、大きな危険もなくサソリの雑魔も倒せた。
周囲の処理も終え、静かになった洞窟内を秋桜が見渡す。
「お店は取り戻したのです! ……あっ、オルソンさんまだ入ってきちゃ――」
――地縛符が。そう言うよりも先に、戦闘が終わったと安心して現場にやってきたオルソンはしっかり踏んでしまった。
「う、うわあっ! た、助けてくれぇ!」
こうして勝利の雄叫びではなく、オルソンの悲鳴で洞窟内における戦闘は終了したのだった。
●
「お肉ないのー? お肉」
店を救ってもらったお礼だと料理を作り始めたオルソンの側で、ねだるようにロイが言った。
ロイからすると肉は森からわりと簡単に獲れるものだけに、ないのが不満だった。
「よし、完璧だ。これがオルソン飯店のメイン料理、疲れたハンターを癒す特製スープだ!」
「試食はあたしに任せろー! でもおいしくないものを出したら許さないからね!」
いの一番にスープを飲んだのは、リュミアだった。
口に入れた直後、笑顔のままで口からスープを吹き出し、反射的に動いた右拳をオルソンに命中させる。
必殺のリュミアぱんちを食らったオルソンが、まともに吹っ飛ぶ。
その様子を見ていたロイは、出された料理を軽く舐めるだけで終える。美味しければ食べるつもりだったが、そうじゃなかったので胃袋が拒絶した。山籠りもよくしており、だいたいの物は食べられるはずなのにである。
「まずこの場所を選んだ時点で壮大な間違いを犯してるが……」
言いながら、とりあえずひと口スープを飲んだエヴァンスが悶絶しかける。
「なんだこの塩の量は、ハンターを塩分過多で殺す気かよ! それなりに作れる腕があるなら、それを発揮出来るようまずは基礎を大事にしろ」
「……強烈だな、これは。どうしたら、この料理をハンターが喜ぶという結論に至るんだ……」
エヴァンスの隣では、手で額を押さえる真司が顔をしかめていた。
グエンが頭を抱え、香月はひと口でオルソン特製スープの試食を終える。
「ここお店があるってわかりにくいし、入り口も全然オシャレじゃありません……自己主張するさりげない看板と、隠れ家風に彩る入り口付近のオシャレ向上も大事だと思うの」
真面目な顔つきで秋桜がオルソンにアドバイスをする。ちなみに、料理にはまだ一切手をつけていない。
口元を拭き終えたリュミアが、両手でテーブルを叩いて勢いよく立ち上がる。
「おいしくないごはんなんて、歪虚とおなじくらい害悪なんだよ!!」
「そ、そんなにか……」
酷評の嵐にうろたえるオルソンに、強めの口調でそうだよと言ってロイが頷く。
「ほら、武術でも基本が大事でしょ? 一般的な基本料理が美味しいってのも大事なんだよ」
万が一、この店を訪れるかもしれないハンターのためにも、一般的なメニューをロイは意地でも加えさせてやるつもりだった。
ロイの指摘に、エヴァンスもすぐに同意する。
「ハンターとて千差万別。味付けはまず誰が食べても丁度よく感じる程度に抑え、食べにきた客層に合わせ、その場で濃さを変えていくんだ」
「まったくですよ! このままじゃ、建前でお店を乗っ取られたオルソンさんのために、ついでにコボルドとサソリをやっつけて、おまけで新メニューを開発して、ただでおいしいごはんをおなかいっぱい食べて帰るというわたしの真の目的が台無しじゃないですか!」
本音だだ漏れのリュミアの気迫に押され、オルソンが後退りする。
「新メニューということなら、妾が中華料理を教えるアル。調味料が足りないので本場の味にはならないアルが、材料は使えるアル」
その上で油であげる、あんかけにする、炒めるなどの調理方法と、悪い素材でも食えるようにする発想を伝える。
「サソリ料理もあるし、コボルド相手なら、より選択肢も増えるアルよ」
香月が説明を終えたあとで、今度はグエンが手を上げる。
「それじゃ、わたしはベトナム料理の手法を伝えます! ちょっと足りないかもですけど、野草の中にベトナム料理系の香草の代わりになるものがあれば十分です。カニの丸茹で料理もあるし、古い手法にヘビ料理やネズミ料理、虫料理、カエル料理とかもありますからね。洞窟と近辺で採取できて、コボルドに出すなら有益かも?」
「なるほど! コボルド相手のスペシャリストになれば売上が確保できて、今回みたいになる心配もなくなるな!」
「よく考えたらコボルドの舌は動物に近いだろうから、狩りに使える? 悪戯には確定で使えるよね。よし、諸々のレシピを教えてもらっと」
ロイまで乗り気になったところで、真司がやめておけと制止する。
「まずは人相手に商売させるのを徹底させよう。キャベツとトマトは手に入るみたいだし、ミネストローネが丁度いいだろ」
前に作った時の感覚を直感で思い出しつつ、一緒に作って真司はオルソンへ教えることにした。
野菜を切り、鍋に油を熱し、火の通りにくいものから炒める。水と残りの野菜を加え、ある調味料で味を調えつつ、やわらくなるまで煮込んで完成。
「そこに直感で、新たな味付けを――」
「――加える必要はない」
真司がオルソンの暴走をあっさり却下したところで、次はエヴァンスが新メニューを提案する。
すりつぶした大量のジャガイモに、細かく刻んだ人参と玉ねぎを混ぜ込んで種を作る。
「下味をつけるのを忘れるな。それをハンバーグのようにカリカリに焼き、キャベツで葉包みにすれば、名付けてヘルシーハンターズサンドの出来上がりだ。食べ応えがあり、チーズやソースでの改良も自由だ。稼ぎが入れば、パンや肉を調達できるようになる」
試作した数々の料理がテーブルに並ぶ。コボルドやサソリを呼び寄せた時とは違い、人間の食欲を誘う香りがそこかしこに漂う。
味も美味しく、洞窟で疲れたハンターを癒すには十分だった。
店を取り戻すだけでなく、新メニューまで考えてくれたハンターたちに、オルソンは改めて頭を下げる。
「今回は本当に助かった。ミネストローネにヘルシーハンターズサンドか。十分に売り物なりそうだ。あとは名物となるサソリやヘビ料理だな!」
予想もしていなかったオルソンのひと言に、ハンターたちの目が驚きで見開かれる。
どうやらオルソンは香月やグエンの提案料理に、リビドーを刺激されてしまったみたいだった。
「教わったとおり基本は大事だ! しかし! それと同時に応用も大切なんだな! さあ、忙しくなるぞ! まずは食材のサソリやヘビを大量に確保しないとな!」
大はりきりのオルソンを前に、ハンターたちは言葉を失う。
オルソン飯店の暴走はまだまだ続きそうだが、とりあえずは普通のメニューも追加されたし、いいか。そう考えて、ハンターたちは美味しく食べられる試食のメニューを平らげていくのだった。
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オルソン店奪還作戦! エヴァンス・カルヴィ(ka0639) 人間(クリムゾンウェスト)|29才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/11/27 11:14:07 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/26 14:22:41 |