古き知識を、新たな住処へ

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~12人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/11/27 09:00
完成日
2015/12/04 02:35

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 サルヴァトーレ・ロッソから一般人の避難より早一ヶ月。
 宇宙という名の海を渡り、そして数奇な運命によって異世界に漂着した巨大な船の足下で、数人の男女が大の字になって倒れていた。
 別に名残を惜しんでいるわけでも、なんらかのデモというわけでもない。
 疲れているのだ……引っ越し作業で。彼らの周りには無数のコンテナと段ボール箱が積み上げられている。風にあおられちらりと覗くそれは本、本、本本本。全部本だ。
「もうこれで全部だよ、な?」
 男が虚ろな目を空に向けて、誰かに向けるわけでもなく呟いた。
「たぶん」
 女がそれに答えた。彼女も疲れ果ててエプロンがシワだらけになるのもお構いなしにぶっ倒れていた。
 そしてそのまた横で倒れている眼鏡の男は何度も訂正を重ねて真っ黒になったメモをポケットから取り出して読み上げた。
「書籍6万9154冊、レポート1万とび325件、巻物21巻、電子資料11万2500件、万計19万2千点の資料、運び出し完了……です」
 そう告げて、眼鏡の男の手はばったり地面に落ちた。貧弱そうな体で相当無理をしたのだろうことがうかがえる。
「私設司書なんて、生まれ変わったら絶対やらねぇぞ……エスカ様、本は命より大切とか言っときながら全然姿見せねぇし!」
「なんで軍艦に本なんて載せたのかしら……理解に、苦しむわ」
「そうですね。でもロッソに乗ってまた元の世界に戻ることができるようになったら、運び直すんですかね……」
 沈黙が走った。

 知っての通りサルヴァトーレ・ロッソはリアルブルー最新鋭艦だ。ここには様々な夢を託す者達もいた。その中の一人として数える場合、地球において名だたる貴族から軍人に入ったエスカはかなり異色の存在であった。
 未知の襲来者であるヴォイドとの交戦に際し、人間の発想力を最大限に発揮させ、同時に精神衛生の確保の為に、図書館と見紛うばかりの書庫を提案した人間として知られている。
 将校として彼女の立場、ついでに言うと生活スペースも狭くした上で、私財を出してまで電子データではなく紙媒体とそれを閲覧するスペースを持ち込んだ辺りに彼女のこだわりが窺える。
 しかし、栄えある処女航海にてロッソはヴォイド、クリムゾンウェストで言うところの歪虚と遭遇してからあれよあれよと異世界に飛ばされたあげく、元のリアルブルーの世界に戻るのを待っていたら、こちらの歪虚との戦争に巻き込まれ、ロッソは戦闘力を期待され、戦いに赴くことになってしまった。
 リアルブルーの本は、クリムゾンウェストの人々にとっても有利になるでしょうから、この際、下ろしてしまいましょう。
 それが主エスカの命令だった。
 彼らは、家族や自分の生活を省みずに持てる時間を費やしてようやく。本当にようやくそれを終えたのである。今日まで電子化された文献をロッソの力で延々印刷された物まで含めて。
 おかげさまでこのざまである。

「あらあら、そんなところで寝ころんでいては大切な服が汚れますわ?」
 司書達にそんな高く澄んだ穏やかな声が届くと、彼らは電撃を撃たれたように震えると慌てて立ち上がって最敬礼をした。雇い主であるエスカだった。年齢不詳の美しさと子供のような愛らしい笑みの不釣り合いが、なんとも恐ろしい。
 彼女は軍服を脱ぎ捨て、とっくに王国製の美麗な衣装に身を包み優雅なものである。
「え、エスカ様。蔵書をすべて運び出しましたっ」
「はい、ご苦労様。大変だったでしょう」
 と、思いつつも、麗らかなる本人を目の前にするとまるで人形のようだった。
 エスカは彼らをねぎらうと「はい」と付き添っているパルムが差し出す地図を、そのまま男に手渡した。
「あの?」
「本を野外においたままですと、すぐ傷んでしまうでしょう? わたくし、本がちゃんと直せる場所を見つけてきましたの。今は廃城となっている場所なので、全部書庫にしても構わないのですって! 素敵だわ。本のためにある城。あらゆる歴史を広い回廊を歩きながら思索にふけることもできますのよ……」
 あら。
 そこまで興奮した様子で語っていたエスカは彼らが泡吹いて倒れているのを不思議そうに見つめた。

 仕方ないので、エスカは後日頼めばどんな仕事もすごい力で達成してくれるという人たちの噂を聞きつけて、ハンターオフィスに足を運んだのであった。

リプレイ本文

 コンテナの扉が開かれると、一同は思わず感嘆の声を上げた。
 本、本、本。革製の豪華な装丁もあれば、形も背表紙も揃ってはいるがタイトルがいくつも違うものもあれば、巻数100を数える長編らしい書物もみられた。それらが一同が背伸びして届く高さまで、そして奥は全く見えないほどに積み込まれているのだから今日こうして集まった本に深い興味を示す彼らにとってはそれは宝の山に相当すると言えた。
「これほどとはね」
「こういうのは段取りが勝負! まずは中のホールに運び込み! 毛布を敷いておいて、そこに置きましょ! 仕分けしやすいように隙間を開けてねっ」
 手近にあった大判の本を試しに手に取るシルヴェイラ(ka0726) の横でシア(ka3197)はさっそくと腕まくりして指示を出した。
「ほら、シルヴェイラさんも。読んでいないで」
「ああ、すまない」
 リアルブルーにはパルムの様な妖精もいるのだろうか、本の表紙に描かれていた浅黒い肌の小人を見て、シルヴェイラは幼馴染がきっと興味を示すだろうなと思いつつ、本を元の場所に戻した。
「城の見取り図は準備できたよ。大きな部屋が多いから、使い出には困らなさそうだね」
 事前に下調べを終えたバジル・フィルビー(ka4977)は羊皮紙の束をみんなに披露した。
 素人目に見ても正確な見取り図、そして内部のスケッチ。バジルの本領がよくよくうかがえる。
「これが本の住むお城になるんですね。素敵です!」
 書架をこう置いてみたらどうだろう。いや、いっそ迷うのも楽しそう。ブレナー ローゼンベック(ka4184)はバジルのスケッチに胸を躍らせた。
「これをどうやって整理するかは考えないとですね! リアルブルーならでは整理法ってあるのですか?」
 カリン(ka5456)は歴史における建築の意義なる本を手に取って頭を捻った。これって歴史? 建築?
「それはボクに任せておくれ。リアルブルーの図書分類法を学んでいるんだ! もちろんクリムゾンウェストの文学知識もばっちりさ」
 イルム=ローレ・エーレ(ka5113)はカリンに自信に満ちた笑みを見せた。
「それは凄いのです!」
「ふふふ、可愛い子の為なら、ボクはどんな力も惜しまないんだ」
 きょとん。とした目がイルムに注がれる。
「ほな……早ぅ整理できるように……運ばなあかんね」
 浅黄 小夜(ka3062)は馬を連れて、おずおずこの子に曳いてもらったらどうかと提案すると鳳凰院ひりょ(ka3744)はふむ。と頷いた。
「本の下に毛布を敷いてそれをゆっくり曳けば傷つけずにたくさん運べるかもしれないね。本が崩れないよう、左右にも人が付けば効率的だと思う」
 いい案だね、とひりょに言われて小夜は恥ずかしそうに身体をすこしモジモジとさせた。
「それじゃ、始めようか」
 ひりょうの言葉に景気よく仲間たちの声が上がった。が、ルナ・レンフィールド(ka1565)と七夜・真夕(ka3977)は座り込んだまま動かない。
「わわ、これリアルブルーの楽器なんですね……あっ、こっちは楽譜……」
「はああ、本だぁ。ああ、これ阿修羅ファンタジーのガイドブック!! きゃー、懐かしい!」
 ちょっと見るだけのつもりが、すっかりずぶ嵌まりの少女二人。
「は・じ・め・る・よ!!」
 シアが腰に手を当てて雷を落とすと、二人は慌てたように立ち上がった。
「「はいぃっ!」」


「ブラッドさん、がんばるのです!」
 小夜の馬と一緒になって毛布を噛んで引っ張ってくれる犬のブラッドに飼い主のカリンも思わず応援の声。もちろん動物さん達だけにやってもらうわけではなく、人間たちは一列に並んで本をロビーに運び込む。
「奥の方取るから、少し間隔開けてくれるかな」
 七夜の声に合わせてバケツリレー組による本の運び込みも好調だ。
「これは思ったより早く運び込みできそうですね。今日一日でとりあえずホールには運べてしまえます」
 効率の良い動きにブレナーは経過時間と本の移動数を見比べながら、自信を深めた。これなら依頼期間中に完璧に運び込みを終えるのも可能な範囲だ。
 とすると、今度は本の配置をどうしていくかが俄然気になって来る。ブレナーはホールに運び込まれた本をどうするか話し合っている仲間達の方を見やった。
「専門書は上に、雑誌関連は入り口に近い方がいいね! 読み手が違えば雰囲気も違うだろう?」
「ほな……入り口に近いところは……雑誌にして……普通の本……それから一番遠いところに専門書に……しまひょか」
 整理部門では次々と積みあがる本を前に、部屋割りを考え中。イルムの発案に小夜はバジルの書いてくれた見取り図に色を付けた。
「この色で……運ぶ場所決めたら……どない? 色紙、用意……したんよ」
「ワオ! これは素敵な発想だね! 歴史は灰色、文学は冷静な青、自然科学は緑より生まれる。直感的にできそうだ。ラベルをつける機械はロッソに置いてきたっていうから心配していたけれど、これなら安心だね」
 イルムの大げさな感動ぶりに小夜は驚いて委縮してしまっていたが、他の人にもおおよそこのアイデアは好評だった。
「それではそれぞれの部屋に近いところに本を移動していきましょう。ある程度溜まったら部屋への移動をお願いしますね。私はまずは北から」
 シアは占い本片手に声をかけた。
「読書は休憩中じゃなかったのかい?」
「いいんです。時の流れに合わせて進が吉。と書いていましたのでリアルブルーの占い本の精度を確かめるついでにもなります。本当は移送魔術の魔法陣を書いて試したいところですけれど!」
 ひりょが苦笑していたが、シアはまるで気にした様子もなく彼女が担当する分野の書物を分別し始めた。
「それじゃあ、自然科学関連は僕が運びますね」
 バジルは用意したバックパックに動物図鑑全集を詰め込んで背負い……
「う、ぐ」
 自然科学関連は百科事典のように分厚いのが多い。イコール重たい。イコール持ち上げるのに一苦労する。
「大丈夫? 先は長いから無理しない方がいいよ」
 思わず見ていられなくなったブレナーがそのバックパックを持ち上げ、バジルの立ち上がりを補佐した。
「だ、大丈夫です……」
 無理やりに笑顔を作るバジルだが、足元がおぼつかない。それを見たシルヴェイラが司書から借り受けた図書リストの束をひらひらと振って見せた。
「今40冊を詰め込んだようだけど、自然科学関連は4万ほど。1千回ほど往復することになるから、身体を労った方がいいんじゃないかな」
「……いっせんかい」
「む、無理しちゃダメですよ。先日お薬屋さんでも小さな手の怪我から腕が腐ることもあるって言われたんです! それにオーケストラも強い調子ばかりでなく、穏やかなパートも必要だってあんですよ」
 愕然とするバジルにルナも止めに入った。
「そ、そうですね。少し減らしますね……」

●休憩
 そうしてかれこれ半日。運搬者は段々腕がプルプルしてくるし、整理してくる方も頭がどんよりしてくる頃合い。ひりょの一言で全員が休憩に入った。
「~♪」
 ルナは早速未整理の本の束から音楽技法の書籍を見つけて口ずさんでいた。技法は割とクリムゾンウェストとほぼ同じだが、音楽に関する研究はやはり一歩先を言っている。心によく効くという音楽を見て、思わず身体で覚えたいとルナはつい手が今はないリュートを探し始める。
 代わりに伝わってくるのは、柔らかく温かい手の感触。
「ひゃあ!? ご、ごめんなさい!!」
「ああ、君から求めてくれるなんて、なんと身に余る光栄なことだろう。できればその口から愛の賛歌も聴きたい」
 ひっこめる手を即座に掴んでイルムはルナをそう讃えた上で、悪戯っぽく笑った。おかげでルナの中で流れる音楽も、ついでに顔も派手に取り乱す。
「あ、いや、歌は……」
 そう言って座ったまま後ずさるルナの手を放したイルムは、もう一つの手でハーブティーを彼女の前にそっと進めた。そしてティースプーン代わりに置かれた栞には『貴方が殻を抜け出す為に運命は悪戯をする』と書かれていた。哲学者の一文だろうか。イルムの小さな悪戯はルナの心に不思議な重みを感じさせた。

「ああ、この本懐かしい……家に置いてたな」
 神事に関する本を見つけた七夜は思わず点景となった実家のことを思い出した。転移前は本とは切ってもきれない生活を送っていたはずが、今は本を見るのが珍しいと思ってしまう。本の匂いを嗅ぐと、遠い故郷が急に近くなったように錯覚する。
「かくよ さしまつりし くぬちに あらぶるかみたちをば かむとはしにとはしたまひ……」
 何か困ったことがあったら、唱えなさい。
 父親が教えてくれた祝詞がつい口から出る。
「それ呪文ですか?」
 横で本を読んでいたシアが思わず顔を上げて七夜に問いかけてきた。
「まあ、うん。呪文だよね。リアルブルーの国の一つにある神様にお願いして悪いことを取り除いてもらう為の言葉よ」
 祝詞を呪文とするかどうかは身近だった七夜には少し抵抗もあったが、シアにはその説明の方が手っ取り早い。
 その言葉にいたく感動したシアは持っていた本を差し出し尋ねた。
「これも分かりますか? 知っている言語体系とは違ってて読めなくて」
「あ、これはね、言葉には運命がこめられていて、そこから未来を推し量る占いよ。例えば名前を……」
 七夜とシアは空いた紙に、傍目からは相当に難しそうな秘術文のようなものを書き記しながら、賑やかに話を進めていた。

「整理に時間がかかってるなぁ」
 ブレナーは運ばれてきたばかりの書架と共に用意されたテーブルで、用意してきた軍用PDAを操作しながらため息をついた。城内への運び込みは思ったより早く済んだが、整理となると区別しにくいものもあり、場合によっては中身を開かなければならないことも多々あった。
「随分熱心ですね。休憩の時は離れないといけませんよ」
 そんなブレナーに鼻を通り抜けるようなすっきりとした香りが差し出される。PDAから目を上げると、シルヴェイラがコーヒーを淹れて微笑んでくれていた。
「あ、すみません気づかなくて。いい香りのコーヒーですね」
「疲れた時には酸味を強く、砂糖にも合うものを選びました。本当ならここでブレンドから始めたかったんですがね。ここに来る前に準備して来たよ」
「オリジナルブレンドですか? うわぁ、すごいいい香り……一気に疲れが抜けていきますね。あ、ボクもパン焼いてきたんですよ」
 コーヒーを口にして嬉しくなったブレナーは自分のバックパックを開けた。同時にパンの優しい香りが部屋に一気に広がる。
「パンとコーヒー。いい組み合わせだ」
 シルヴェイラもいただいたパンをちぎって口に入れると、穏やかにほほ笑んだ。
「本たちの住むお城。この仕事が終わってもまた来させてもらいたいですよね」
「奇遇だね。また来させてもらいたいとは思っていたんだよ。私の幼馴染に本好きがいてね。先に整理してやれば幼馴染も喜んで来られるんじゃないかと思って来たから、是非連れてきたいと思っていたところなんだ」
「ふふふ、みんなに喜んでもらえる場所になるといいですね」
 思わずシルヴェイラとブレナーに同じ微笑みが浮かぶ。
「カリンさんが言ってましたけど、迷路、なんていうのも面白いかもですね」
 デザインは任されているのだ。どうせならこの楽しみを味わってほしいな。と想いブレナーは発案者のカリンがいる方を見つめた。

「本、本がむにゃ、変形……合体。おーらろーどを」
 そのカリンは夢の中に沈没していた。何の夢を見ているのかは横で寝言をしっかり聞いている小夜でも良くわからない。でも、先程まで一緒になって最新型軍事兵器特集の雑誌を読んでいたのでそれに関わることかもしれない。
「転移って……なんで起こるんやろ……」
 雑誌にはどう口にすればいいのかわからない専門用語は山ほど出てきたが、転移に関連しそうな話は一つもない。
「大丈夫?」
 そんな小夜にクッキーの皿が勧められる。ひりょだ。小夜はひりょの顔を見るとほんの少しだけ心を緩めた顔をして、そしてまた寂しげな顔に戻った。
「うん。おおきに……知りたい事、わかれへんでな……」
「そうだな。本はそれぞれの経験や思索が込められている。未知の事には触れられない」
 ひりょの言葉は重たく小夜の胸にのしかかった。だがそれに加えるようにして、冒険小説を読んでいたバジルが言葉を重ねた。
「でも、それが土台になって新たな道が作られるものだよ。空を飛ぶ、なんて夢物語だと言われていた時代があり、それを元にこの物語も書かれているけれど、今、リアルブルーの空には今飛行機が飛んでいるんだ」
 バジルの言葉に小夜はしばらくきょとんとした。それに対してひりょがカレーの料理本を取り出していった。
「例えばこの本には僕の求めるカレーの味はない。でも、新たな材料や作り方は発見できた。ここから新たなカレーの調合を作り出せるかもしれないってことさ」
「うん……そやな。おおきに」
 小夜は微笑んだところで、がばりとカリンが起きた。
「あああ、また森の夢を見たです……」
 カリンの森では変形合体する動植物でもいるのだろうか。
 その場にいた皆は顔を見合わせてクスクスと笑った。


「まあ、皆様。本当にありがとうございます!」
 最終日。本も随分片付いた頃合いに、依頼人のエスカがふらりと姿を現した。
「え、もう……最終日、でしたっけ」
 眼の下に隈を作ったシアがぼんやりと外からさしこんでくる朝日の光を見つめた。
 運搬は極めて順調であったが分類にとにかく手こずって整理組は気が付いたら朝を迎えていた。
「まあ素晴らしい。さすがですわね。わたくしの司書だけではこうはいきませんわ」
 彼女は整理された景色を見て、それはもう少女のようにしてくるくると回って喜びを表現した。
 入り口の一番目立つところには城内の部屋の見取り図が置かれ、色ごとに図書の分類が描かれている。
 ホールにはテーブルが並べられ、それを仕切るように配置された背の低い書架は雑誌類が置かれ、彼らの休憩用にとっていた飲食物がここの雰囲気をしっかりと作っていた。
 それぞれの部屋も単に押し込むだけでなく、小分類に分けた上で配置し、読みやすさなども配置する手の込みようだ。
 ここはもう戦の為の城ではなく、本の為の城。その空気をハンター達はしっかり作っていた。
 それを一目で理解したらしくエスカは感激していたようであった。
「そういえばここの目録をもらい受けることはできるかな? そして解放してもらうことも」
 シルヴェイラはさりげなく、だが、胸弾ませながらそう尋ねた。それを聞きたいのは七夜もシアも同じだった。
「解放は準備が整えばもちろんさせていただくつもりですわ。でも目録はこれから使いますからお渡しできませんの」
「え、でもこの通りほとんど片付きましたよ?」
 ルナは片付いた部屋を見せてそう言った。特に音楽関連は背の高さやジャンルごとに仕分けるというルナの入れ込みようによってとても整然としていた。目録は保管程度にしか必要ないと思うのだが。
 と思っていたら、中庭から司書の「ぎゃあ」とか「もうダメダ」とかいう悲鳴が聞こえてくると同時に、馬車がホールの中にゆっくり入ってくる。
「せっかくですからクリムゾンウェストの書物も買い集めてきましたの。目録は大幅に加筆修正いたしませんと、ごめんなさいね」
 唖然とするハンターの前でエスカは笑顔を浮かべた。
「ここが知識の拠点となってクリムゾンウェストとリアルブルー、二つの知識の架け橋となるためには、もう少しお時間が必要ですわ。皆様はその土台を作り上げて下さったのよ」
 エスカの視線に合わせてハンターはもう一度整理された城の中を振り返った。
 大量の本たちは皆によって収まる場所をもらい、無骨な城の壁を彩り、本好きな皆にまた来てね。と囁きかけてきているようであった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 時の手綱、離さず
    シルヴェイラ(ka0726
    エルフ|21才|男性|機導師
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜(ka3062
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • 冬の使者
    シア(ka3197
    エルフ|16才|女性|魔術師

  • リズレット・ウォルター(ka3580
    人間(紅)|16才|男性|魔術師
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 刃の先に見る理想
    ブレナー ローゼンベック(ka4184
    人間(蒼)|14才|男性|闘狩人
  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビー(ka4977
    人間(蒼)|26才|男性|聖導士
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレ(ka5113
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士
  • 鈴蘭の妖精
    カリン(ka5456
    エルフ|17才|女性|機導師
  • 艶やかに妖しく
    紫吹(ka5868
    人間(紅)|26才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 書籍等の引越し作業
ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/11/27 08:24:33
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/27 00:52:44