ボラ族、同郷の仲間と大喧嘩する

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/12/02 09:00
完成日
2015/12/09 03:04

みんなの思い出

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オープニング

 派手に鉄火を迸らせる鉄槌の音がリズムよく響く。
 ここは帝国の小さな港町。船舶工房ではボラ族と呼ばれる辺境からの移民がこうして船部品鍛造の仕事をこなしていた。
「かぁーか。ひと」
 そんな熱気あふれる鍛冶場の入り口でよちよち歩きの子供が、扉が開いたのを見てボラ族の女レイアの裾を引っ張った。
「こんに……」
 レイアが振り向いてそう言おうとした瞬間、言葉が途切れた。目の前にいるのは手入れのまったくできていない不潔な灰ヒゲの男。潮風で焼けた赤胴色の肌。磯で汚れた衣服は海の、それもあまり歓迎されない男達であることはすぐわかった。そしてその後ろにも似たような男達の姿が何人も見える。
 外に見える近所の人達は明らかに恐怖して訪問客を見やっていたが、レイアは汗を拭いて立ち上がった時に見せたのは輝いた笑顔だった。
「ノトの!」
「んぁ、レイア!? 久しぶりじゃねぇか。このガキはお前の子か?」
 レイアの笑顔に合わせて、ノトと呼ばれた一団も一斉に相好を崩した。にっこり笑う子を抱き上げて、高い高いをするその顔は周りから怯えられるような感じでもない。
「前族長スィアリ様の形見。名前はウル。春が来れば2才よ」
「おおお、マジか!? こりゃめんこい」
 ひげを押し付けて頬ずりする男に、ウルは片目を閉じてゾリゾリの感触に耐えてはいたが別に嫌そうな感じでもない。
 そうこうしている内に、鍛冶場で働く男達も、来訪者の存在に気付いたのか手を休めて、やって来た。
「ノトのゲールか! 久しいな」
 鍛冶場の一団をまとめるイグが大きく手を広げてノトの、つまり同郷の部族ノト族の彼らを歓迎した。
「イグ!」
 ゲールと呼ばれた男はウルを下ろすと、イグと腕をガシリと組み、再開の喜びを分かち合った。
「てめぇらボラ族がこんなところで何してやがる。ボラ族といえば北荻の歪虚を薙ぎ倒して赤き大地を守る孤高の戦士達だろ」
「負けてしまった。見ての通り、今は帝国の鍛冶屋だ」
 はははは。という笑い声が一瞬響いたが、それは徐々に冷めたものになる。
「……帝国の鍛冶屋ってなんだよ、そりゃ」
「我らの住んでいた豊穣の大地は歪虚によって失われた。泉はひび割れ、草木は枯れ果て、獣は逃げた。前族長スィアリ様も……」
 過去を触れられ、僅かに顔に影を落として話すイグの言葉にゲールは激昂した。
「それでなんで帝国人なんかになり下がってやがる! 帝国の力に物言わせるやり方を忘れたわけないだろ。その中でも誇りを忘れず立つのが辺境の民だ。てめぇ、辺境魂を金で売ったか!」
 ゲールはお構いなしに唾を吹き付けんばかりの勢いでイグに食って掛かるが、イグはそれに比べると冷静だった。怒るのも無理はない。という顔で。
「力が正義だとは思わない。だが帝国だ辺境だと人間同士でいがみ合う、それでは人類共通の敵、歪虚に勝てない。心を合わせることが大事だ」
「クソが! 結局負け犬根性がついて家畜に成り下がっただけじゃねえか!」
 烈火の勢いでゲールはイグの顔を思いっきり殴り飛ばした。続いてもう一撃と振りかぶったが、喉元に突きつけられた火箸によって制止させられる。
「ご高説はありがたいけどサ、あんた達ノトは海賊生活して辺境からも放逐された身だろ? 力で他人様に迷惑しかかけてない連中に説教垂れられてもねー」
 その言葉を放ったボラ族の少年ロッカにゲールの後ろにいた男たちの顔色もがらっと変わる。
 そして。


「ああ、もう仕事したくない……」
 帝国の地方内務課の職員メルツェーデスはげんなりした顔で港町の前で魔導車を降りた。そこには辺境の民の移民政策のモデルケースとして受け入れられたボラ族が待っているのだ。しかし、非常識の塊のような彼らといると、頭が痛くなる。
 ただでさえ家の事も忙しいし、北伐のことで仕事もめちゃくちゃだし。
 しばらく顔は出せなかった代わりに、移民助成金を数か月前渡しにしていたが、無駄遣いをしていないかも心配だ。ちゃんと節約を呼びかけるワッペンを縫いつけておいてはいたのだが。
 などと、ぶちくさ言ってメルツェーデスが町に足を踏み入れた瞬間。

 目の前の民家が爆発音を立ててレンガ造りの壁がガラガラと崩れ去ると同時に、海賊の男が鼻を鳴らして瓦礫に向かって叫んだ。
「歪虚を戦うためと言って同族を兵士に仕立て奴らは後ろでのうのうとしてるんだ! 帝国は簒奪者だぞ」
「戦い方が違う。帝国のやり方を毛嫌いして学ぼうともしないのは、お前たち」
 崩れ去った瓦礫の中から電撃が迸り周りの物を吹き飛ばすと、ボラ族きっての超肉体派聖導士、ゾールが立ち上がり吼えた。
 途端に周りの壁は震え、屋内の棚にしまわれていた漁の道具が崩れ落ちて、家人の悲鳴が上がる。
「辺境の名の元に、リムネラ様の元に戻れよ。誇りを……」
「太陽の火よ、下りて燃やし尽くせ」
 一方では、レイアの詠唱と同時に爆発が起き、何人かの辺境の男が吹き飛んだ。
「大地が続く限り、風が吹く限り、どこも私達の故郷。勝手な線引きに惑わされているのは、そっち」
「この女ぁぁぁぁ」
 対抗するの相手も魔術師のようで、レイアの声がした方にアースバレットを叩きこんだ。
 と同時にレイアの真後ろにある厩から馬の悲鳴が上がる。突然の戦闘に恐慌状態になったのだろう。
「あははは、鬼さーん、こっちらぁ」
 その家屋の上ではロッカの可愛い、いや、小憎らしい挑発が響き、それを追いかける男が屋根の上を全力で走るのが見えた。
 だがどうも弱い部分を踏み抜いたらしい。そのままシュポンと姿が突如見えなくなり、色んな悲鳴が重なって聞こえてくる。
「そうやって逃げてばかりいるから犬になるんだ」
「あっははは、猪に言われたくないね。家畜にされたら豚だもんね」
 戦いは町の一部を完全に戦場にし、あちらこちらから、悲鳴と怒号が飛び交っていた。

「あああ、お役人さん。助けてくれ!! 鍛冶屋の連中と海賊が喧嘩を始めちまって! このままじゃ町が崩壊しちまうんだ」
 呆然としているメルツェーデスに逃げ惑っていた町の人間がすがりついてきたことで、彼女はこの惨状が悪夢ではなく現実だということを確認したのであった。
「お、お役人さん?」
 多分、町の人は気が付いたのだろう。
 メルツェーデスが真っ白になっていることを。
「ハイ、今、はんたー、呼ブワネ」

リプレイ本文

「無関係の人間を巻き込み甚大な迷惑をかけるとは、許しがたい話です!」
 町田紀子(ka5895)は拳を振り立てそう叫ぶと、黒髪の少女を取り囲む海賊に飛びかかった。
 これは初依頼。気を抜かず、やれるところからきっちり仕留めていかなければ!
 紀子は懐に飛び込むと、脇腹から肝臓に向けて鋭い一撃を放った。確実に足を止めさせ、ダメージを与えるリバーブロー。ヒーローには似つかわしくない、何千回も訓練した実用一点張りの一撃。
 身体を捻じって、斜め下から腕を、叩き込む!
 それで海賊は崩れ落ちるはずだった。
「おーい、あんまり派手にやるなよ。そっちまでしょっぴくことになるぜ?」
 グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が呆れたように声をかけた。
 覚醒した紀子の一撃は、海賊の身体を吹き飛ばしたあげく、数メートル先の瓦礫に埋もれさせた。もちろん海賊に意識など残ってるはずもない。
 こんなに力の差ってあったっけ? 呆然と自分の拳をみやる紀子であったが、すぐさま気を取り直して改めて腰を落として攻撃態勢に戻った。
「次っ!」
 紀子の声に、海賊共が一斉に襲い掛かる。
「おーおー、覚醒者とはいえ女一人にそりゃあんまりだな」
 グリムバルドは紀子より前に駆け出ると、真正面から飛びかかる海賊の腹目がけて刀の峰を叩きこんだ。
「ぐ、は……」
 崩れ落ちる海賊に後ろ蹴りで吹き飛ばし横にいた別の海賊に叩きつけると、反対側にいた海賊にはリボルバーを突き付けた。
「賑やかなのは嫌いじゃないがな、人の迷惑ってものは考えた方が良い。火傷するぜ?」
 グリムバルドはゆっくりリボルバーの安全装置を外して金色の瞳で睨みつけた。
「迷惑だぁ? 辺境の名前に迷惑かけてんのはこいつらだし、こいつらが町中に逃げこ……おぶっ」
「きゃー、助かっちゃったー♪」
 海賊に囲まれていた少女は勢いよく立ち上がったついでの頭突きで海賊の言い分を途中で阻害すると、シナを作ってコロコロと笑った。
「ああ、勇者様。まだ町中にはいっぱい海賊が暴れまわっています。どうぞお助け下さい」
「わかりました。大半は非覚醒者だと聞いています。確実に仕留めて、この騒乱を鎮めてみせる。グリムバルドさん、あなたはこのまま左翼へ。私は右から回っていきます」
 紀子はぐっと拳を握りしめて少女に決意を示すと、ヒーローマントを翻して走り去っていった。そしてグリムバルドも少女に軽く手を上げて次の騒乱に向かって駆けだしていった。
「さぁ~て、こいつらいいもの持ってるかなー♪ ハンガーも溶かせば材料になるよね」
 残った少女はニヤリと笑ってぶっ倒れた海賊のみぐるみを剥ぎだそうとした時、ジュード・エアハート(ka0410)の影が少女の視界を暗くした。
「ロッカ! ウルが見習ったらどうするのさ」
「生きる知恵を学ぶって大切だと、思わない?」
 悪戯を見つけられた子供のようにしらばっくれながら、少女だと思われていたロッカは適当な言い訳を述べた。ロッカの見た目にはジュードは騙されたりしない。付き合いはそれなりにあるのだから。
「そんなことするなら、まとめてやっちゃえばいいのに。ロッカならできるでしょ? しかも協力があれば完璧に!」
 ジュードは半眼の笑顔でロッカに詰め寄ると、彼の視界にちらちらと映るようにチョコレートを振って見せた。
 そうするとロッカもまたジュードと同じような笑顔になる。こうするとどことなく姉妹のようにもみえる。
「ふふ、お姉ちゃんも交渉うまいねー」
「商売人だからね」
 交渉成立だ。
 二人は握手を交わした次の瞬間、ジュードはかんざしを引き抜き、ロッカは腕に付けていたデバイスから機動砲を作り上げると、互いの顔めがけて撃ち放った。
「……多分、悪いコンビじゃないね」
 それは互いの顔をかすめ、双方の背後からそっと起き上がり不意打ちをしようとしていた海賊を貫いたのを確認すると、二人はふふふ、と笑みを浮かべて港へと走った。

 爆炎が弾けた。
 家屋も道具も人間も無作為に炎に包まれる。真上では妖精がくるくると飛び回り、きゃーきゃーと叫びまわっていた。
「ちょ、ちょっと、ストップストップ!!」
 アーシュラ・クリオール(ka0226) は炎の作り主たるレイアに組み付いて制止を呼びかけた。容赦手加減一切なしというのはよくよく知っていたが同じボラの民と呼び親しんでくれたアーシュラさえ巻き込み、髪から煙を吹こうがお構いなしなところは正しく破壊神である。
「アーシュラ。どかないと怪我するわ」
「もうしてるって! 使うならスリープクラウドにして!?」
「そんなの準備してない」
 この乱闘戦にスリープクラウドなしって。アーシュラはがくがくと震え、彼女を怒らせたノトに対して心底恨みを募らせると、まだ抵抗するノトの魔術師に叫んだ。
「ちょっと、命が惜しかったら大人しく縛につきなさいっ」
 アーシュラはノトの魔術師に向かってジェットブーツでノトの相手に飛びかかり、ディファレンスエンジンを全開にした。
「ええい、悪いけど。死人が出るよかマシだわ! ちょっと気絶して!!」
 強烈な炸裂音と共に、ノトの身体が激しく明滅し骨格がチラチラ見える。
「あばばばば゛ばばばばば゛は」
 もはや一部が言葉であらわせない悲鳴を上げた後、ノトの魔術師はぐったりして動かなくなった。心の中でゴメン。と謝りながら。
「ほら、倒したから!」
「息の根、止める」
 ひぃぃ。完全に修羅の眼になっているレイアにアーシュラは震えあがった。
「だぁぁぁ、相手はグロッキーになってんだろうが!」
 路地を通り抜けたリュー・グランフェスト(ka2419)が爆発に巻き込まれるのも覚悟の上で飛びかかり、レイアの杖を叩き落とした。
「やるならコイツでやれ。全力で相手になってやるよ!」
 リューも自分の武器を捨てると、拳をぐっと突き立てる。レイアの怒りを覚醒能力を媒介にして発散させるから被害が広がるのだ。妙齢の女性、しかも背後に子供のいる相手に殴り合いを申し込むのは、騎士としては若干気が引けるものはあったが、この際仕方ない。
「ノトに組みするの? いいわ。覚悟して」
 レイアはそう言うと、魔術師とは思えないようなフットワークに飛びかかった。
 しかし近接戦は闘狩人のリューの仕事だ。リューは気迫を込めると、レイアの拳にそのまま拳を真っ向から突き立てた。
「!!」
 言葉にできない空気の弾ける音が飛び散った。

「落ち着いてっ。町に被害を……」
 七夜・真夕(ka3977)が一生懸命に呼びかけるも、事態は一向に収まる気配を見せない。騒ぎの中心にいるゾールがおおよそ原因だ。
「殴れ、辺境の裏切り者を吹き飛ばせ。帝国ごと吹き飛ばせ!」
「ふんはーっ。向けられた戦いには答えねばなるまいっ!!」
「おち、落ち着いて……!」
 全く声は届かず。
 七夜はだむっと地面を思い切り踏み鳴らすと、おもむろにスリープクラウドを放った。
「眠りをもたらす安らかなる空気よ!」
 対覚醒者用の強力なスリープクラウドが七夜の手から生み出される。甘ったるい香りと同時に殴りあっていたボラとノトはその場でバタバタと倒れていった。
「ほんっと、どっちもどっち!」
「んだ、よそ者が加勢かよ。はっ、孤高の部族もこうなりゃ烏合の衆だな」
 スリープクラウドの範囲から外れたノトがそんな悪態を吐いて、仲間を蹴り起こした。
「八つ当たりもいいところじゃないか」
 突き放したようなユリアン(ka1664)の声が聞こえた。屋根の上だ。
 と、次の瞬間に海賊の首にユリアンのウィップが絡まり、屋根からの飛び降りる衝撃をそのまま伝えて海賊を仲間に吹き飛ばした。
「新しい道の模索をしてるんだよ、ただ逃げてきたわけじゃないのに、その言いぐさはないだろ」
「知ったクチきくな! あいつらは帝国に魂売りやがった裏切りものなんだ」
 一瞬だけユリアンの目つきが吹雪のように冷たく光った。逆光を受ける鈍色の顔に光る青は海賊ですらぞっとさせ、後ずさりさせる。
 その沈黙を破ったのは、海賊が後ずさって踏みつけた勢いで目を覚ましたしまったゾールだった。
「ユリアン、気にするな。そんな声があがるのも承知でここに来たんだから」
「だったら、場所と加減は考えて欲しかったな。ここに住むんだろ?」
「ハハハ、戦わなければならぬ時も、ある!」
 胸を張るゾールの答えにユリアンは苦笑いを浮かべた。
 きっと辺境を出る覚悟を決めた時からずっと罪悪感はあったはずだ。イグの時折見せる神妙な顔はその判断による重みを知っていたからだろう。そしてゾールがこんなに悩まず直情的なところは、きっとここに来るまでどれだけ一族の悩みを救ってきたのかも、ユリアンにはわかった気がした。
「言葉では決着つかぬ。故に拳で語ろう! さあいざ尋常に」
「おっしゃあ、こいや!」
 と息巻いたのものの、ノトとゾール、両者の鼻先をかすめるように電撃が走るとそれも静まり返った。
 七夜だ。全身から電撃が迸るのは魔力の所為だけではないはずだ。
「い、い、か、げ、ん、に、しろーーーーーーっ!!!」
 嵐のような電撃に両者どころか、非覚醒者の下っ端たちまで顔を引きつらせて目と口をパクパクとさせ、思わず身をすくめてその場で正座した。転移前は祝詞の読み上げで鍛えた声は、よく通り、そして胸まで打つのだ。
「おめーんところの嬢ちゃん、怖いな……」
「ははは、フーキイインって奴だ」
「そこっ! 喋らないっ」
「「はぃぃっ」」
 こそこそっとノトの覚醒者とゾールが喋りあっていたのを七夜が叱りつけ、説教が始まった。

「ルナさん、ジュードさんが港の船に残ったノトを集めるって。まとめて連れて行くから、こっちに呼び寄せてくれるかな」
「はい、わかりました」
 ユリアンの言葉にルナ・レンフィールド(ka1565)はこくりと頷いた。もう何度か依頼も一緒になった二人はどことなく阿吽の呼吸を感じさせる。ルナは周りの様子をぐるりと確認し、じっと耳を澄ませた。
 てんでバラバラな喧騒の音だが、ルナの耳には波の様なさざめきが手に取るようにわかる。
「あん、どぅ……」
 終わりのない喧騒のほんの小さな隙間を狙って、ルナがリュートを思いっきり叩きつけるようにして音をかき鳴らした。
 戦いの間合い、心の隙間に音が鮮烈に響き渡る。
「戦いはおやめください! 船が危険だと呼んでいますよ!」
 その言葉と同時に、ノトの海賊の眼が自然と港に停泊している船に注がれた。
「あれか」
 ユリアンはいくつもある船の中から視線を集める船を見つけると、屋根の上を一気に走った。
「まてぇぇぇ、船を潰すつもりか!」
「船が大切なのはわかるよ。でもな、それと同じくらい、この町のこと大切にしている人もいるってこと忘れてないか?」
 屋根をよじ登り、ユリアンの走りを遮ろうとする海賊の腕をトンファーで弾き飛された海賊はそのまままた屋根から脱落する。
「ぶち殺せ!」
「ユリアンさん!!」
 怒髪冠を衝いて追いかけ始める海賊の後ろ姿を見てルナが心配そうに叫んだ。だが、ユリアンは振り返らない。
「もう……風の音よ、眠りを誘え、smorendo……」
 ルナの歌うような詠唱にあわせて何人かの海賊がその場で脱落した。
 それが役に立ったのかどうかはわからない。
 ユリアンは走った。立ちふさがる海賊にスライディングで薙ぎ倒し、ボラ族と殴り合うノトを起き上がりざまの飛び回し蹴りで弾き飛ばす。
「うぐぁっ!」
「っだぁ」
 そんな悲鳴だけが上がり、苦悶する海賊をすり抜けてユリアンは船着き場の桟橋にたどり着いた。
 桟橋の先に追いつめられたユリアンを脅すノトの海賊たち。
「もう逃がさねぇぞ!」
「あは、それはこっちの台詞だと思うなー」
 にひひ、と笑う声がしたかと思うと、ユリアンと海賊の立つ桟橋が揺れた。ロッカが桟橋の杭を切り取っていたのだ。桟橋はイカダとなって海を漂い始める。
 慌てる海賊を足元にユリアンは軽く跳躍して陸地に戻り、そして置き土産に網を広げたことにより逃げられもしない。
「さーて、ここで登場いたしますわぁ、デイジー・カッターぁぁ(薙ぎ払う爆弾)、ジュード・エアハート!」
 どこかの芸人の切り口上のようにロッカがジュードを紹介した。そこには矢を天に向けて番えるジュードの姿があった。
「天の蒼よ、凍てつき青霜となりて降り注げっ!!!」
「ち、ち、ちくしょう。だが、町にはまだ仲間が……」
 飛び立った矢を網目の中から絶望的な眼で見やった海賊はそう悪態をついた。
「ああああ、逃げるなぁぁァ。待ってくれぇ」
 と、町にいた残り少ない海賊たちもイカダとなった桟橋へと走りこんできた。
 その後ろから矢のように飛んでくる紀子のパンチ。
「覚悟っ!」
 その一撃でドミノ倒しの様にして海賊たちは海へ、そしてイカダへと飛ばされ。
 まとめてジュードの攻撃の対象に押し込められたノト族は海の藻屑となったのであった。


「つべご言わずに修繕!」
 七夜の指導の下で、ノトもボラも関係なくレンガを積みなおしていた。
「スィアリってどんな奴だったんだ?」
 顔に絆創膏を貼り付けてもらったリューがレイアに尋ねた。ウルを背負うレイアもこれまたリューに絆創膏を貼り付けてもらっていたりするのだが。
「ゾールの妻、ウルの母。厳しく優しいボラ族の母でもあった。自然を愛し、また歪虚と戦う時は自然が助けてくれるような人だった。だが大地を枯らせた歪虚レーヴァと戦い……私の子もその時に死んだ。乳がまだ出たからウルを預かったの」
 沈黙するリューに、族長のイグは不思議な顔をした。
「しかし、スィアリ様のこと、よく知っていたな」
「ん、ああ。北伐の時にな……」
 曖昧に答える仲間に対して、ボラ族のメンバーは顔を見合わせた。
「あー、やはり生きていたか」
「スィアリ様、そう簡単に滅ばなさそうだものね」
 あっさりした会話にアーシュラは目を丸くした。
「スィアリ様が歪虚になってたって知ってるの?」
 イグとレイアはアーシュラの問いかけにこっくり頷いた。
「うむ。そもそもレーヴァに負けて戻って来た時にはもう身体が腐ってたからな」
「イグが鎮めたけど、やっぱり無理ね。スィアリ様はボラ族最強の戦士で巫女だもの」
 ボラ族が帝国に下った一番の理由は族長スィアリが歪虚に滅ぼされて恵みを失ったこと。そしてそれを取り返すほどの力を誰も持ち合わせていなかったことだと皆は気づいた。誰かにけなされても彼らには選択肢はなかったのだ。
「でも、これで良かった」
 グリムバルドの案内によって、迷惑にならない港のはずれで大ゲンカし、見事仲直りしたゾールとノトのリーダー・ゲールは肩を組みあってハンター達に笑顔を作った。
「生きていれば何かしらいいことはあるからな!」

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MVP一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハートka0410

  • 町田紀子ka5895

重体一覧

参加者一覧

  • ボラの戦士
    アーシュラ・クリオール(ka0226
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師

  • 町田紀子(ka5895
    人間(蒼)|19才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 喧嘩の仲裁・制圧
アーシュラ・クリオール(ka0226
人間(リアルブルー)|22才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/12/02 01:20:56
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/28 21:01:28