ゲスト
(ka0000)
BANG BANG RUN
マスター:楠々蛙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/29 22:00
- 完成日
- 2015/12/07 22:17
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「それ、私にもやり方教えてよ」
街の外れに停車する馬車の御者台に座る赤毛の少女が、馬車の屋根に腰掛ける男を見上げながら声を掛ける。
「嫌なこった。ガキの玩具じゃねえんだよ」
黒髪の男はリボルバーの用心金に指を掛けてクルクルと回しながら、少女に言い捨てる。
「ケチ」
「イエッサーはどうした。──こんな事覚えるくらいなら、美味い料理でも覚えろよ」
「卿と呼ばれる程上等な人は、馬車の上で胡坐を掻いたりはしないわ。──何よ、昨日のシチューに不満でもあるの?」
「……人参が入ってた」
「どっちが子供なのよ……」
「何だと」「何よ」
「仲睦まじい様で何よりだ、お二人さん」
互いに火花を散らせる二人に、歩み寄ったのは金髪の男。
さて、彼らの紹介をするべきだろう。
先ずは黒髪の男──キャロル=クルックシャンク(kz0160)と、金髪の男──バリー=ランズダウン(kz0161)。彼らは故あってあちらこちらを放浪しているハンターである。現在特定地域のギルドに所属も出入りもしていない為、行く先々で適当な依頼を請け負って路銀を稼いでいる。オフィスの仲介を得られない彼らは、万年金欠状態だ。
赤毛の少女──ラウラ=フアネーレが、そんな彼らの前に依頼人として現れたのが先日の事。
人攫いに囚われた子供達を助けて欲しいと彼らに依頼した彼女自身も、遠く離れた地から連れ去られて来た被害者で、故郷に戻る為──そして、先立った両親が残した誰も居ない家までの帰路で、寂しさを紛らわす為に二人に同行しているのだ。
金銭を持たない彼女は、料理当番という仕事を担って依頼料の代わりとしている。これまで男やもめだった旅路での食事は余程悲惨だったのか、彼女の料理は──昨夜の様な例外を除けば──二人にすこぶる好評だった。
とまあ、そういう三人組である。
睨み合いの最中に声を掛けて来たバリーに、キャロルとラウラは視線を向ける。
「何言ってやがる。その目玉、腐ってんじゃねえのか?」
「まったくね。何? あなた達、子供舌と節穴のコンビだったのかしら」
「誰が子供舌だって?」「本当の事でしょ?」
再び両者の間で視線がぶつかり、火花が再燃。どうやらこの二人、余程相性が良い、いや悪いらしい。ラウラが旅の道連れとなってまだ数日だというのに、この様なやり取りが何度あった事か。
溜息を漏らし、これまで何度も仲裁役を務めたバリーが、抱えた紙袋から紙巻煙草入りの紙箱と小振りの林檎を取り出し、
「落ち着け二人とも、ほら土産だ」
紙箱をキャロルに投げ渡して、林檎をラウラに手渡した。
「……先ずは一服だ」
「……ありがと」
どうやら、二人の矛を降ろさせる事に成功したらしい。
「で? 仕事は見つかったのかよ、バリー」
靴底で燐寸を摩って火を起こし、咥えた煙草に点しながら、キャロルが問う。元々バリーが馬車を離れていた目的は、買い出しではなく、職探しにあったのだ。
「ああ、中々稼ぎの良さそうなのが一つな」
同じ様に煙草に火を着けて、バリーが答える。
「この街の銀行が、隣町に金を運ぶらしくてな、その護衛だ。自前の馬車持ちだと伝えたら、二つ返事でOKだった」
「そいつは上々。確かにがっぽりと稼げそうだ」
煙草の味を満喫しながら、キャロルが笑む。
「ラウラ」
バリーは、林檎を齧るラウラの方へと振り向く。
「護衛のついでに旅路も進める事になる。ちと荒い運転になるかもしれんが、同乗して貰う。構わないか?」
バリーの問いに、瑞々しい果肉を咀嚼し飲み込んでから、ラウラは頷いた。
「いえっさー。心配しないで、わたし乗り物には強いから」
「おい、ちょっと待て。何でバリーには、サーが付くんだよ」
「あなたより、幾らかマシだからよ。バリーは、少なくともあなたよりは女の子の扱いを心得ているわ」
「淑女振りたいなら、林檎の皮くらいは剥いたらどうだ?」
「わたしは、丸齧りの方が好きなの!」
「やれやれ……」
三度目の戦火を燻らせる二人を前に、バリーが紫煙と共に溜息を吐き出した。
「お忙しい中、ようこそお集まり下さいました、ハンターの皆様。今回は、私共の依頼をお請け頂くという事で、誠に有難うございます」
集まったハンター、他三名の前で、銀行の取締役を名乗る小太りの男が、慇懃な口調で挨拶を始める。ハンターを相手に畏まっているというよりは、おそらくこれがこの男の地なのだろう。
「さてさて、今回皆様にお頼み申し上げますのは、私共の輸送馬車の護衛になります、はい。普段、私共は貨幣の輸送に比較的安全な街道を利用しているのですが、その街道が一昨日の落石事故により通行止めになっている次第でございまして。それで私共、別の道を利用する事にしたのですが、馬車の通行が可能な道となると他に一つしかなく、そしてその道に問題が一つ。その道は盗賊通りと呼ばれているのですよ」
「わっかり易いネーミングだな」
キャロルが皮肉気に呟く。彼の言葉に、ラウラは肩を竦める。
「捻る必要なんかないでしょ。……それにしても、道が開通するまで待てば良いだけの話じゃないの?」
「御言葉はごもっともで、セニョリータ。しかし、私共の仕事というのは、まさしく時は金也という事でして。時間もお金も、私共の都合を待ってはくれないものなのです」
「ふうん、大変なのね」
「御同情、痛み入ります」
ラウラの明らかに浅い理解と同情の言葉にも、慇懃な姿勢を崩さない小太り男。
「それで、俺達に盗賊から金を守って欲しいと、そういうわけか」
バリーの確認に、男は頷く。
「そういう事でございます。盗賊通りを縄張りとする盗賊団は、総数四十人程で、主にリアルブルー製の銃器で武装している様ですね。覚醒者も数人混じっているそうです。馬や、馬車に乗って襲撃を仕掛けて来たり、待ち伏せなどもあると聞いております」
「こちらの戦力は?」
「申し訳ありませんが、手配できますのは輸送馬車の御者だけです。中々に肝の据わった男ですが、戦う術は持ちません。一応、装甲付きの馬車をもう一台御用意する事ができますが、そちらの御者は居りません」
「成程な」
情報を受けて、バリーが思索に耽る中、キャロルが口端を曲げる。
「なあに、難しい事は何もねえ。金に寄って来る馬鹿共に、鉛をくれてやれば良いだけだろ?」
「……鉛玉だけで、何もかも事が済めば苦労はないけどな」
「だわな。だから先立つもんを稼がねえとなんねえ。鉛を金に変えましょう、ってな」
「黴臭い詐欺文句みたいだな」
「水銀飲ませるよか、真っ当な錬金術だろ?」
「親分、街からキャラバンが一組出た様で。例の道を通るかもしれないと、見張りから連絡が」
「上出来だ。街道を塞いだ甲斐があったってもんだな。──さあてお前ら、鉛玉大放出の出血大サービスと行こうかい。お代はのこのこやって来る間抜け共の命だ。安い買い物だったって、あの世で喜んでくれるだろうぜ」
街の外れに停車する馬車の御者台に座る赤毛の少女が、馬車の屋根に腰掛ける男を見上げながら声を掛ける。
「嫌なこった。ガキの玩具じゃねえんだよ」
黒髪の男はリボルバーの用心金に指を掛けてクルクルと回しながら、少女に言い捨てる。
「ケチ」
「イエッサーはどうした。──こんな事覚えるくらいなら、美味い料理でも覚えろよ」
「卿と呼ばれる程上等な人は、馬車の上で胡坐を掻いたりはしないわ。──何よ、昨日のシチューに不満でもあるの?」
「……人参が入ってた」
「どっちが子供なのよ……」
「何だと」「何よ」
「仲睦まじい様で何よりだ、お二人さん」
互いに火花を散らせる二人に、歩み寄ったのは金髪の男。
さて、彼らの紹介をするべきだろう。
先ずは黒髪の男──キャロル=クルックシャンク(kz0160)と、金髪の男──バリー=ランズダウン(kz0161)。彼らは故あってあちらこちらを放浪しているハンターである。現在特定地域のギルドに所属も出入りもしていない為、行く先々で適当な依頼を請け負って路銀を稼いでいる。オフィスの仲介を得られない彼らは、万年金欠状態だ。
赤毛の少女──ラウラ=フアネーレが、そんな彼らの前に依頼人として現れたのが先日の事。
人攫いに囚われた子供達を助けて欲しいと彼らに依頼した彼女自身も、遠く離れた地から連れ去られて来た被害者で、故郷に戻る為──そして、先立った両親が残した誰も居ない家までの帰路で、寂しさを紛らわす為に二人に同行しているのだ。
金銭を持たない彼女は、料理当番という仕事を担って依頼料の代わりとしている。これまで男やもめだった旅路での食事は余程悲惨だったのか、彼女の料理は──昨夜の様な例外を除けば──二人にすこぶる好評だった。
とまあ、そういう三人組である。
睨み合いの最中に声を掛けて来たバリーに、キャロルとラウラは視線を向ける。
「何言ってやがる。その目玉、腐ってんじゃねえのか?」
「まったくね。何? あなた達、子供舌と節穴のコンビだったのかしら」
「誰が子供舌だって?」「本当の事でしょ?」
再び両者の間で視線がぶつかり、火花が再燃。どうやらこの二人、余程相性が良い、いや悪いらしい。ラウラが旅の道連れとなってまだ数日だというのに、この様なやり取りが何度あった事か。
溜息を漏らし、これまで何度も仲裁役を務めたバリーが、抱えた紙袋から紙巻煙草入りの紙箱と小振りの林檎を取り出し、
「落ち着け二人とも、ほら土産だ」
紙箱をキャロルに投げ渡して、林檎をラウラに手渡した。
「……先ずは一服だ」
「……ありがと」
どうやら、二人の矛を降ろさせる事に成功したらしい。
「で? 仕事は見つかったのかよ、バリー」
靴底で燐寸を摩って火を起こし、咥えた煙草に点しながら、キャロルが問う。元々バリーが馬車を離れていた目的は、買い出しではなく、職探しにあったのだ。
「ああ、中々稼ぎの良さそうなのが一つな」
同じ様に煙草に火を着けて、バリーが答える。
「この街の銀行が、隣町に金を運ぶらしくてな、その護衛だ。自前の馬車持ちだと伝えたら、二つ返事でOKだった」
「そいつは上々。確かにがっぽりと稼げそうだ」
煙草の味を満喫しながら、キャロルが笑む。
「ラウラ」
バリーは、林檎を齧るラウラの方へと振り向く。
「護衛のついでに旅路も進める事になる。ちと荒い運転になるかもしれんが、同乗して貰う。構わないか?」
バリーの問いに、瑞々しい果肉を咀嚼し飲み込んでから、ラウラは頷いた。
「いえっさー。心配しないで、わたし乗り物には強いから」
「おい、ちょっと待て。何でバリーには、サーが付くんだよ」
「あなたより、幾らかマシだからよ。バリーは、少なくともあなたよりは女の子の扱いを心得ているわ」
「淑女振りたいなら、林檎の皮くらいは剥いたらどうだ?」
「わたしは、丸齧りの方が好きなの!」
「やれやれ……」
三度目の戦火を燻らせる二人を前に、バリーが紫煙と共に溜息を吐き出した。
「お忙しい中、ようこそお集まり下さいました、ハンターの皆様。今回は、私共の依頼をお請け頂くという事で、誠に有難うございます」
集まったハンター、他三名の前で、銀行の取締役を名乗る小太りの男が、慇懃な口調で挨拶を始める。ハンターを相手に畏まっているというよりは、おそらくこれがこの男の地なのだろう。
「さてさて、今回皆様にお頼み申し上げますのは、私共の輸送馬車の護衛になります、はい。普段、私共は貨幣の輸送に比較的安全な街道を利用しているのですが、その街道が一昨日の落石事故により通行止めになっている次第でございまして。それで私共、別の道を利用する事にしたのですが、馬車の通行が可能な道となると他に一つしかなく、そしてその道に問題が一つ。その道は盗賊通りと呼ばれているのですよ」
「わっかり易いネーミングだな」
キャロルが皮肉気に呟く。彼の言葉に、ラウラは肩を竦める。
「捻る必要なんかないでしょ。……それにしても、道が開通するまで待てば良いだけの話じゃないの?」
「御言葉はごもっともで、セニョリータ。しかし、私共の仕事というのは、まさしく時は金也という事でして。時間もお金も、私共の都合を待ってはくれないものなのです」
「ふうん、大変なのね」
「御同情、痛み入ります」
ラウラの明らかに浅い理解と同情の言葉にも、慇懃な姿勢を崩さない小太り男。
「それで、俺達に盗賊から金を守って欲しいと、そういうわけか」
バリーの確認に、男は頷く。
「そういう事でございます。盗賊通りを縄張りとする盗賊団は、総数四十人程で、主にリアルブルー製の銃器で武装している様ですね。覚醒者も数人混じっているそうです。馬や、馬車に乗って襲撃を仕掛けて来たり、待ち伏せなどもあると聞いております」
「こちらの戦力は?」
「申し訳ありませんが、手配できますのは輸送馬車の御者だけです。中々に肝の据わった男ですが、戦う術は持ちません。一応、装甲付きの馬車をもう一台御用意する事ができますが、そちらの御者は居りません」
「成程な」
情報を受けて、バリーが思索に耽る中、キャロルが口端を曲げる。
「なあに、難しい事は何もねえ。金に寄って来る馬鹿共に、鉛をくれてやれば良いだけだろ?」
「……鉛玉だけで、何もかも事が済めば苦労はないけどな」
「だわな。だから先立つもんを稼がねえとなんねえ。鉛を金に変えましょう、ってな」
「黴臭い詐欺文句みたいだな」
「水銀飲ませるよか、真っ当な錬金術だろ?」
「親分、街からキャラバンが一組出た様で。例の道を通るかもしれないと、見張りから連絡が」
「上出来だ。街道を塞いだ甲斐があったってもんだな。──さあてお前ら、鉛玉大放出の出血大サービスと行こうかい。お代はのこのこやって来る間抜け共の命だ。安い買い物だったって、あの世で喜んでくれるだろうぜ」
リプレイ本文
「お久し振りね、お姉さん」
装甲馬車の窓から身を乗り出して、ラウラは騎馬に跨るユリシウス(ka5002)に満面の笑みを向ける。
「ええ、そうですわね、ラウラ。お元気そうで何よりですわ」
ユリシウスもまた、微笑みを湛えて少女に答える。
「ほんと、元気そうで何よりだ。この間の凛々しい顔も嫌いじゃないが、やっぱり女の子は弾ける笑顔でなけりゃな」
馬車内で木箱に腰掛けるカッツ・ランツクネヒト(ka5177)が、普段通りに軽薄な調子で世辞を口にする。
「あなたも相変わらずね、ニンジャさん」
振り返ったラウラは、お澄まし顔でカッツを見遣る。
「お蔭様で。──それよりお姫様、ガンマンのお二人とは仲良くやってるのかい?」
肩を竦めるカッツの問いに、
「──仲良く? バリーはともかく、あの手持ちのデリカシーを豚の餌箱の中身と取り換えて来た様な馬鹿と、仲良くなんかできるわけないでしょ!」
ラウラが過敏に反応する。
「随分と御不満を溜め込んでいる様で。俺でよけりゃ、愚痴聞き相手になろうか?」
「良いの!?」
食い気味のラウラに、言い出した手前取り敢えず頷きを返すが、
(ちっとばかし、安請け合いし過ぎたか?)
カッツはこの後、自分の軽はずみな言動を悔いる事になる。
「キャロルだったかな?」
バイクに跨ったクリスティン・ガフ(ka1090)が、馬車の上で煙草を吹かすキャロルに声を掛ける。
「そうだが。何か用かよ、サムライガール」
キャロルは、彼女が背に背負った大太刀を目にしながら応じた。
「彼女と三人で旅をしているのか?」
クリスティンは、ラウラの愚痴が漏れて来る馬車を指して問う。
「それがどうかしたか?」
「いや、あまり人の趣味にとやかく言うつもりはないが、彼女一人で二人を相手にするのは大変だな、と」
クリスティンの意味深な、いやはっきりと問題のある発言に、キャロルは思わず咥えていた煙草を落した。
「お、おいちょっと待て。そりゃ、どういう意味だ?」
「いや、深い意味はないが。しかし、うーん、やはり一言だけ言わせて貰うが、健全ではないと思うんだ」
「──ふざけた誤解がある様だから言っておくが、俺はあんな丸太の方が色気の探し様のあるガキを相手にする気はねえよ」
「……あの馬鹿には、今晩たくさん生の人参を食べさせてあげなくちゃ。痺れ薬に漬け込んであげたら、味覚も麻痺してきっと苦手も克服できるわね」
こめかみを引き攣かせながら唇だけで微笑を作るラウラを前にして、カッツは馬車の天井を見上げて内心で呟いた。
(もう少し優しくしてやらんと、ほんと一服盛られかねんぜ、旦那)
「来たよ遂にこの日が!」
馬車の後方で御自慢のバイクに跨ったレイン・レーネリル(ka2887)が、声高に歓喜を叫ぶ。
「もうただの飾りだなんて呼ばせない。今こそ私はこの子と一緒に風になる!」
「随分と楽しそうだな」
傍らで同じくバイクを駆るキャリコ・ビューイ(ka5044)が、ハイテンションなレインに声を掛ける。
「そりゃ勿論。これまで全然この子に乗る機会がなかったんだから。帰ったら、しっかりとメンテナンスしてあげるからねー」
「良いバイクだが、あまり実戦向きではない様だ」
親馬鹿ならぬ、バイク馬鹿になったレインの愛車を見ながら、キャリコが指摘する。
オフロードに対応し、更に射撃補助用の台座まで付いた彼の機体とは違い、レインの愛機は速度重視のレーシング仕様である。
「だいじょーぶ! 風になるから!」
「何がどう大丈夫なのかは分かりかねるが、頑張ってくれ」
「張り切ってるみたいだね、彼女」
後方から聞こえるレインの高らかな声を耳にして、騎馬に跨るイーディス・ノースハイド(ka2106)は微笑を浮かべる。
「うん、元々バイクとか好きだったみたいで。でもずっと置物扱いになっていたから、今回思う存分走り回る事ができるって喜んでたよ」
当のレインの恋人にして、彼女にバイクを贈ったルーエル・ゼクシディア(ka2473)が鞍に腰掛けてイーディスに応じる。
「このまま、気楽なツーリングで終わってくれたら良いんだけど」
ルーエルが表情を曇らせる。
「それには私も異存ないが、無理な話だろうね。平穏を望むには、どうにもきな臭過ぎる様だから」
「そうだよね。レインお姉さんは残念がるだろうけど、仕方ないか」
「君は余程彼女の事を想っているんだな。私にはあまり理解できない感情だよ。何しろ、幼いころから騎士としての研鑽に明け暮れていたから、恋愛事には疎くてね」
「僕もお姉さんが居なかったら、同じだったかもしれないけどね。イーディスさんには、そういう人は居ないの? ──あ、えと、答えたくなかったなら、良いんだけど」
初対面の女性に対して、突っ込み過ぎた質問だったかと思い直しルーエルは取り繕うが、そんな彼の言葉は耳に入っていない様子で、イーディスは思考に耽った。
「私は彼の事をどう思っているのだろう……」
まだ、答えの出ない疑問。そして、次の疑問に触れるのには、少しだけ躊躇いがあった。
明確な答えを知る事に臆病になってしまうけれど、でもやっぱり考えずにはいられない。
「……彼は私の事をどう思っているのだろう」
「盗賊団ですか。本来ならこの護衛依頼の前に、この土地の管轄者が討伐依頼を出すべきでしょうに」
戦馬の上で年齢にそぐわぬ豊かな胸を揺らしながら、エルバッハ・リオン(ka2434)が誰にともなしに呟く。
「ん? 何か言ったか、ミス・リオン」
馬車内から響く喧噪の中で、微かにエルバッハの呟きを捉えたバリーが声を掛ける。
「いえ、後々の事を考えると、盗賊団を殲滅しておいた方が良いのかと。勿論、護衛を最優先としてですが」
先の呟きには触れずに、エルバッハは取り敢えず思案していた件を口にする。
「その場合、盗賊団のリーダーを生け捕りするのも手かなと思ったんですが」
「成程な。軍に身柄を引き渡せば、追加報酬の見込みもあるか。縄なら馬車に積んであるしな。だが、どうやって生け捕りにする」
「私は魔術師ですので。催眠魔法で、おやすみして貰います」
「そりゃ良い。それじゃあそっちは任せても良いか? リトルレディ」
バリーの問いに、エルバッハは悪戯めいた笑みを浮かべて答える。
「ええ、お任せあれ」
「おい、あんたら。そろそろ盗賊通りに入る。俺は真っ直ぐ進むからよ。護衛をよろしく頼まあな」
幌付き馬車の御者が、ハンター達にそう言った。
いち早く盗賊の襲撃を察知したのは、エルバッハとユリシウスだ。双眼鏡と望遠鏡で周囲を警戒していた彼女達が、丘陵の陰から騎馬や馬車に乗って現れた盗賊団を見咎める。
「来なすったぜ、悪党共が」
ホルスターから愛銃を引き抜いたキャロルが、リボルバーの銃口と共に、盗賊団へ獰猛な歓迎の笑みを向けた。
「Come on,BABY!」
「あらあら、喜色満面の笑みですわ」
アイアンサイトの奥に盗賊御者の顔に浮かぶ表情を見据えたユリシウスは、失笑を禁じ得ずに、何処か蠱惑的に唇を歪めた。
「鴨が葱を背負ってやって来た、といった心境でしょうか」
騎兵銃の銃口を向けられながらも、まだ彼らは余裕の態度だ。
さもあらん。
光学スコープすらない短銃身の銃で狙撃が叶う距離ではない。況してやユリシウスの風貌は、鉄火場には不釣り合いな令嬢めいたドレス姿である。彼らが侮るのも無理からぬ事。
しかし彼女は、淑やかなだけの深窓の令嬢ではない。
「そんな貴方方へ、銃弾と一緒にこの言葉をお贈りましょう」
細指にトリガープルが掛かった直後、
「雉も鳴かずば撃たれまい」
拡張した彼女の視界の中で真っ赤な花が咲いた。
「わたくし達の前に現れなければ、長生きする事ができたかもしれませんのに」
その忠告も、今しがた爆ぜた男の後悔も遅過ぎた。
「──ああ、後のお祭りは、どうか地獄の底で開いて下さいな」
きっとすぐに、そちらは賑やかしくなる事でしょうから。
「物量攻めか。まあ、悪くない手ではある」
ユリシウスの銃撃で仲間を葬られて色めき立つ盗賊達の襲撃に対し、キャリコは冷静に評価を述べた。
「ただ、少々固まり過ぎだ」
バイクのハンドルに取り付けられた台座に魔導銃の銃身を置いて、照準を安定させる。試作型であるこの銃は、ちょいと精度が粗いじゃじゃ馬だが、癖を把握した上で乗りこなしてやれば、長射程を誇る悪くない銃だ。
銃身にマテリアルを流す。
マテリアルは宿主の感情を投影して、絶対零度の冷気へと変化した。黒色の外装に霜が貼り付き、白の彩色を施す。
紅き双眸で標的を捉え、鉄爪に掛けた指に力を籠める。
銃口から放たれた魔弾が、騎馬隊の先頭を駆ける馬の騎手の肩口に着弾。魔弾が孕む冷気に侵された騎手の身体は硬直し、着弾の衝撃のままに落馬する。
固まった拳で手綱を握ったまま落馬した為、馬が嘶きながら棹立ちになり急停止。後続の騎馬が軌道を阻害されて、騎馬の群れが一時停滞した。
「良い具合に固めて貰いました。では、皆纏めて火焙りの刑といきましょう」
戦馬の上でエルバッハが杖を掲げ、その先端に火花を生じさせる。火花が集い、火球を形成。固まった盗賊達の中心へと、火球が投じられる。
火球が弾け、爆炎を生み出した。逆巻く火炎に呑み込まれた悪党共の悲鳴が木霊す中で、爆炎から一人の男が逃れ出る。
「いきなり処刑たぁ酷過ぎやしねえか、ハンター共!」
リボルバーを構えたその男の身のこなしから鑑みて、盗賊団に紛れているという覚醒者の一人だろう。
「どの口がほざくのやら。裁判を受ける権利が、お前達にあるわけがないだろう」
呆れた口調で返したのは、クリスティン。
「殺す気で私達に喧嘩を売ったのだろう? なら殺されても文句を言うべきではない。それも理解できないのなら、そんな大仰な得物を提げる資格はないな」
「吹くじゃねえかよ、剣士サマ? そんな棒切れでガンマンに挑もうってか?」
「馬鹿かお前は。刀が銃に劣る道理が何処にある」
事もなく言い切ったクリスティンは、魔導バイクのスロットルを全開にする。
機械仕掛けの馬の心臓部──魔導機関が乗り手のマテリアルだけでは飽き足らず、その命すらも吸い上げて咆哮を上げる。生み出したエネルギーが車輪へと伝播し、機馬の馬脚が地を踏み締めて急加速。
盗賊とて、持ち主の倍以上の長さを誇る大太刀の切先が自身に迫るのを、指を咥えて見ていたわけではない。銃口を向けて鉄爪を絞る。
BAANG、BAANG、BAAAANG!
一発、二発、三発と立て続いて襲い来る凶弾を、クリスティンは悉く回避して突き進む。
長髪とローブを靡かせながら疾駆する姿は、さながら紫電の如く。
「なめんじゃねえぞ、剣士!」
BAAAAAANG!
盗賊が放った四発目が、クリスティンの大腿を貫通した。
神経が、灼けた鉛の侵入を訴えるが、それを受けた脳が瞬時に大腿を走査し、骨、腱、筋、大動脈に損傷がない事を確認すると、痛覚の警告を『苦痛』ではなく単なる『情報』として処理する。
敵を斬るという行為に支障がないのであれば、多少の傷など些末事に過ぎない。思考を鈍らせる要因は、その全てを排除する。彼女の身体は、刀の柄を握る事でそういう風に切り替わる。
だが、クリスティンの信条の一つ『常在戦場』──常ニ戦場ニ在レ、その言葉の極致にあるのは──即ち『無念無想』。
その身に根差した『斬魔剛剣術』が、彼女自身の思考すらも置き去りにした。
その手に握る愛刀──マテリアル効率を上げる為に己の血を摩り込んだ紅い刀身に、主従関係を覆して憑き動かされでもした様に。
五発目を放たんとする銃口が、正中線を睨み付ける。回避の暇はない。しかし、意なき刀は銃弾の速度すらも凌駕する。
片手でハンドルを切る。轟轟と風を切る速度にまで達した魔導バイクが、急激な操舵に応じて、スピン。
一転──片手で支えられた長刀が銃口から吐き出された弾丸を水平に薙ぎ、
二転──六度目の撃発を許さずにリボルバーの銃身を切断して、
三転──紅い刀身が刎頚の軌跡を描いた。
「見たか、我が天剣絶刀を。冥土の土産話に持っていけ」
地に転がった首に向けて言い捨て、クリスティンは新たな標的を求めて機馬を駆った。
死に逝く虚ろな瞳が見詰める。
残酷なまでに美しい、主と敵の血を吸った刀身を。
「駆けろ、エクレール。その名の如く!」
エクレール──雷の名を冠する騎馬が、主の鬨の声に従い蹄鉄の音を轟かせて疾駆する。イーディスが突撃槍の穂先を盗賊騎馬隊の一騎へと向けた。
鋼板すら穿つランスチャージの標的とされた盗賊は当然、させじとイーディスに銃撃を浴びせる。
しかし、彼女が掲げる大盾がそれを阻む。木製の芯を金属で被甲した盾は柔と剛を兼ね備え、銃撃の威力と衝撃を耐え凌ぐ。
たとえ盾の障害を掻い潜った銃弾があろうとも、女騎士の身を覆う鎧がその全てを弾き飛ばす。複合装甲──二重三重に異なる材質を積層したそれは、リアルブルーの戦車にも使用されているものだ。無法者の豆鉄砲など、何を恐れる事があろうか。
イーディスに幾ら銃弾を浴びせても無駄と判断した盗賊は、将を射んと欲すればまず馬を射よとばかりに、銃口を彼女の愛馬へと向ける。
「やらせんさ!」
照準の変更を目敏く見咎めたイーディスが、突撃槍を虚空に向けて突き出した。吹き荒れる衝撃波が盗賊を叩いて、撃発を阻止。
盗賊が仰け反り動きを止めている間にも、エクレールの四足は距離を詰め、とうとう主の突撃槍の間合いへと踏み込んだ。
「火焙り、ギロチンとくれば、お次は串刺しさ!」
勇壮美麗な装飾突撃槍のランスチャージを前にすれば、人身など紙切れの様なもの。大した抵抗もなしに、盗賊の腹に穂先の根本まで深々と突き刺さった。
どてっ腹に大穴が開いた骸を地に捨てて、イーディスは盗賊達に向けて声を張り上げる。
「さあ、無法者共。斯様な死に様を望まぬ者は、早々に去るが良い! 尚も掛かって来るなら、それも良いさ。腸をぶち撒け、己の罪と愚かさを思い知りながら逝け!」
初心な恋心に悩む乙女の顔、高らかに気勢を上げる勇将の顔。裏も表もない。どちらも同時に、イーディス・ノースハイドを構成する一面だ。
WHinnnnnnNN────Yy!
主の気炎に応えて嘶きを上げたエクレールは、再び蹄鉄を踏み出した。
「ひゃっほぉおう! 今こそ、私は風になった!」
猛る風音に負けじと奇声を上げながら、レインが更に魔導バイクのアクセルグリップを回す。更に加速するバイクは、盗賊達を撹乱する様に駆け回る。
旋回性能を犠牲にして超加速を手にした愛車は、凶弾の雨を置き去りにした。そもそも、照準で捉えられなければ回避する必要すらない。
「あっはっはー、このノロマ共め! お前達は精々、我が後塵でも拝しておけい!」
哄笑しながら、後方へと火炎放射による牽制を放つ。猛火に怯んだ馬車馬が足を止めた。
「そおれぃ!」
ハンドルを切りながら、同時に前後のブレーキレバーを握る。車体が横滑りしながら急停止。魔導銃の銃口を炎壁の前に立ち往生する馬車に向けると、
「バアアァァン!」
自主制作効果音を付けながら、三条の光線を放った。
「うわぁ、お姉さんノリノリだ……。水を得た魚みたい」
恋人が放った光線が車上の盗賊達を吹き飛ばす様を見届けたルーエルの額を妙な汗が伝う。
「僕も頑張らないと、ね」
聖印が刻まれた盾を掲げて、ルーエルは表情を引き締める。
味方が敷いた防衛網──いや、迎撃網を潜り抜けた盗賊を見咎めたルーエルは、彼が構えた銃口が幌馬車の御者へと向いている事に気付くと、咄嗟に射線に割って入った。
「大丈夫か、坊主!」
案じる御者の声を聞きながら銃弾の衝撃を捩じ伏せると、
「罪には罰を──不義を正して、闇を裁く光を」
ルーエルは法具としても機能する盾を媒介として、光弾を撃ち出した。聖印が生み出す白光が、硝煙吐く銃を構える盗賊に裁きを下す。
「おお、大したもんだな坊主。ありがとよ」
「どういたしまして。それじゃあ先に進もう、御者さん。あまり、うかうかしてられないみたいだから」
「やっと出番か。待ちくたびれちまった」
「やる前から何で疲れてんだよ、お前は」
嘆息するカッツを、キャロルが笑う。
「……旦那のお蔭だよ。ちったあ、女の子の扱いを考え直さねえと、麻痺するどころじゃ済まねえぜ?」
「何の事だ?」
「わからねえなら、それでも──っと」
言い掛けたカッツは、咄嗟に身を伏せる。同様にキャロルも姿勢を下げた直後、
BANG、BANG、BANG,BAAANG!
銃弾の雨が馬車を襲った。
「どうやら暢気にお喋りしている暇はなさそうだな──って、おいおい!」
鉛玉の送り主の方へと視線をやったカッツは、こちらへ急接近して来る四輪馬車を捉えて目を見張る。
盗賊達の馬車は一切速度を緩める事なく体当たりをぶちかまして来た。「うにぃあ!?」という奇天烈な悲鳴が足下から響く。
「無茶苦茶しやがるね、悪党ってのはどいつもこいつも」
あわや振り落され掛かったが、二人はどうにか踏み止まる。一度離れた盗賊馬車が再び銃撃による牽制を放ってくるのに対し、カッツが舌を打つ。
「連中、またかまして来るつもりか? 馬車自体は問題ねえだろうが、下のお姫様が心配だ」
「くそ……、カッツ、乗り込めるか?」
「あいよ、任された。旦那こそ、援護頼むぜ?」
「ああ。銃撃が止んだ瞬間に行くぞ」
「OK。手厚い歓迎をしてくれた悪党共を、地獄へご招待と洒落こもうかね」
右手に直剣、左手に鎧通しを構えたカッツは、シニカルに唇を歪める。
牽制射撃が止んだ直後、キャロルがファニングショットを見舞い、接近して来る馬車を押し留める。その隙にカッツが僅かな助走を経て、跳んだ。
車上に居座る盗賊達の中央に降り立ったカッツは、右手の得物を閃かせて、銃把を握る盗賊の手首を斬り飛ばす。
「どしたよ、チンピラ。撃てよ、撃てるもんなら撃ってみろ」
手首を失い苦鳴を上げる盗賊を嘲笑う。しかし、残りの盗賊達が自分に銃口を向けようと動く様子を確認すると、
「ちょいと、失礼」
利き手の切断面をもう片方の手で押さえる盗賊の顔を足蹴にして、車上から退避する。
装甲馬車の屋根の縁に手を掛けたカッツを盗賊達の銃口が追う。が、キャロルとバリーの一斉射撃が彼らの身体をボロ屑へと変えた。
「はっは、ざまあねえな」
片手で自重を支えながら、またカッツは嘲笑を零す。
「っと、そうだ。──大丈夫かい、お姫様」
「……うぅ、ひたひゃんだ」
車内への呼びかけに対する舌足らずの返答に、嘲笑を苦笑に変える。
「そいつはご愁傷さま。取り敢えず、大した怪我もなさそうで良かったよ」
キャロルの手を借りて屋根に上がったカッツは、周囲の様子を見渡してある事に気が付く。
「奴さん達が退いて行く?」
「さて、どうするか」
バリーが思案の声を漏らす。
盗賊達が退却して行った後も周囲を警戒しながら進んだ一行は、左右を崖に挟まれた道の前に来ると、一旦立ち止まった。
「奇襲にはこの上なく適した地形だな」
「そうですわね。町で聞き込んだ限りでは、この場所まで獲物を追い込んで崖上から銃撃を浴びせる、というのが常套手らしいですわ」
キャリコの分析に、事前に情報を仕入れておいたユリシウスが頷く。
ユリシウスの情報が正しければ、盗賊達が退いたのは策などではなく、護衛と呼ぶにはあまりにも攻撃的なハンター達を前に怖れを成したからだろう。
このままでは不利と感じ取った彼らは、最も地の利を発揮できるこの道を最終決戦の場所と定めた。となれば、ハンター達が取るべき手段は自ずと決まる。
何もわざわざ不用心に道を進んで、盗賊達に勝機を譲ってやる謂れはない。
「二手に分かれてはどうだろう。一組がここに留まり馬車の護衛を務め、もう一組が崖上に登って上に居るであろう盗賊を討つ。これが最善策だと思う」
「良いとは思うが、人選はどうする? この崖は、私のナグルファルでは登れそうにないが」
イーディスの提案に、クリスティンが急な上り坂を見上げて呟く。確かに、通常の魔導バイクで登るのは不可能だろう。となると、馬に騎乗した者が適任となる。
イーディス、ユリシウス、ルーエル、そしてエルバッハが崖上組に決まり掛けた所で、
「いや、俺が行こう」
とキャリコが提案した。
「俺のバイクなら、この道でも登る事が可能だ。それに、事前に依頼人から聞いた限りでは、盗賊の主戦力は騎兵と馬車だ。崖上に伏兵が居たとしても、それは歩兵。つまり、少人数という事になる。ならば、広範囲攻撃を持つ魔術師は残留組に残った方が合理的だろう」
こうして、崖上組がイーディス、ユリシウス、ルーエル、キャリコ。残留組がクリスティン、レイン、エルバッハ、カッツと相成った。
巧みにハンドルを操り、キャリコは険しい道を駆け上がって行く。登頂付近に達しても速度を落とす事無く、寧ろ更に魔導エンジンの回転数を上げる。急斜面を一気に登った軽量の車体が、勢いのままに空高く舞った。
眼下に自分を見上げる盗賊達を視認する。大口を開けた彼らの表情を笑みも浮かべる事もなく見下ろして、
「間抜け」
嘲りの言葉と共に、リボルバーの射撃を浴びせた。
「リロードする、援護を任せた!」
車体が地に落ちると同時に味方へリロードを宣告しながら、シリンダーの空薬莢を排莢。零れ落ちる真鍮の輝きを網膜に映しつつ、クイックローダーを取り出す。
「隙だらけだぜ、ハンター!」
再装填の隙を、盗賊が狙う。
BAAAAAANG!
マズルフラッシュに燐光が混じる。余剰マテリアルの発露を伴うその一射が意味するのは、ワンショットキル──覚醒者の渾身を籠めた一撃必殺。しかし、
「任されたさ!」
その一撃を、射線に割って入ったイーディスの大盾が受け止めた。
衝撃吸収に特化した機械盾に内臓したモーターの回転音が、悲鳴の様に木霊する。
「この程度!」
だが、守護を司る概念精霊と契約を交わした彼女は、『盾』として機能する時、最高のポテンシャルを発揮する。
凶弾を弾き飛ばしたイーディスは、渾身の一撃を防がれた盗賊に衝撃波を放つ。
「踏み砕け、エクレール」
主の名を受けて、猛馬は地に倒れた盗賊の頭蓋を目掛けて蹄鎚を振り下ろした。
「悪知恵を働かせたつもりでしょうが、策に溺れましたわね。そのまま溺死して下さいな」
ユリシウスは、ハンター達の思わぬ反撃に慌てふためく盗賊達に照準を付ける。
「引導くらいは渡して差し上げてもよろしくてよ?」
セレッサ──愛馬の名と同じ薄紅色の光彩で敵の死を見詰めながら、彼女は銃爪を絞った。
「今ですわ、ルーエル様」
微笑むユリシウスの傍を、ルーエルを乗せた戦馬が駆け抜ける。
「うん、ありがとうユリシウスさん」
無骨な戦鎚を握る手に、電子基板に似た黄金色のラインが伝う。可憐な顔立ちに義憤を宿らせ、ルーエルは盗賊を睨み付け、
「その捻じ曲がった精神を、教えの下に叩き直してやるさっ!」
戦鎚を振り下ろした。
残留組は再び襲撃して来た盗賊達を相手取っていた。
「まだ来るとは、余程死にたいらしい。なら望み通りに斬って捨ててやろう」
盗賊達の目線、銃口から弾道を予測して魔導バイクを駆るクリスティンが、過ぎ去り様に次々と敵を斬殺して行く。
「はは、そうだよな。ホストがゲストを置いて先に帰るなんてのは、マナー違反だよな! どうせなら、最後の最期まできっちりかっちり持て成して逝けよ、チンピラ!」
カッツが愉し気に嗤いながら、接近して来た騎馬に飛び降りる。
「そら、出血大サービスだ」
左手の鎧通しを盗賊の首筋に突き刺すと、馬の背から装甲馬車に戻る。
「へぇ、シャンパンまで用意してくれるたぁ気が利いてるな。……まあ、俺は飲めないがね」
心臓の鼓動に合わせて血を噴き上げる死体を見下ろして、皮肉を口にした。
「うわっと!」
レインが飛来して来た弾丸に思わず、防護障壁を張る。彼女の高速機動に、盗賊達も目が慣れて来たのだろう。照準が正確になり始めた。
「……しまった」
貴重な防御スキルを、愛車を守りたいが為に使用してしまった事に後悔するレインだが、ふと愛車の車体に付いた傷に気が付く。それは僅かな塗装剥げに過ぎなかったが、彼女の理性を吹き飛ばすには十分だった。
「ルー君の贈り物、私の宝物によくも……。ふ、ふふっ、てめえら、今棺桶に片足突っ込んだぞ?」
怒りのままに構えた銃口から、三条の光線が迸る。一筋の光線が、馬車の車輪を撃ち砕いた。
「糞っ垂れ、計画がグダグダじゃねえか」
クラッシュした馬車の車上から投げ出された盗賊が悪態を吐く。
「あなたが、盗賊団のリーダーですか?」
他の盗賊達と比べて質の良い衣装に身を包んだ男に杖を突き付けて、エルバッハは尋問する。
「あん? ……へぇ、年の割には良い身体してんじゃねえか、お嬢ちゃん。エルフとはヤッた事がねえんだ。俺を慰めちゃくれねえかい?」
問いを無視して、下卑た笑みを男が浮かべる。
「熱烈なお誘いですが、あなたの様な下種に触れさせてあげる程、私の身体は安くありません。目の保養だけで我慢して下さい」
エルバッハは余裕の笑みを浮かべて、男をあしらう。その眼はホルスターに収められた拳銃を目敏く見ていた。男が腰に手を伸ばして銃把を握り、銃口をこちらに向けるよりも、魔法を紡ぐ方が速いと踏んでの余裕の態度。
「──釣れないなぁ、クソアマ!」
しかし、ガンスリンガーのクイックドローは、彼女の予想を上回る。予備動作のない抜き撃ちが、魔法発動に先んじる。
BAAAAAANG!
「があああああああ!」
銃声と同時に男の笑みが苦悶の表情へと変わり、股間を抑えて蹲る。
「おっと、悪いな。手に握った銃を狙ったつもりが、竿じゃなくて玉に当たっちまった。まあ良いだろ、女性をクソアマ呼ばわりする屑の胤は、根絶やしにしちまった方が世の為だ」
バリーが澄ました顔で、スピンコック──硝煙立ち昇るレバーアクションライフルを、レバーに掛けた指を軸に振り回して排莢と次弾装填を済ませる。
「ふ、ふざけんじゃ──あ……?」
痙攣する身を無理矢理起こして銃口をバリーに向けようとした男が昏倒する。
「助かったよ、お嬢さん」
催眠作用のある雲を発生させたエルバッハに向けて、バリーが会釈して礼を示す。
「いえいえ、こちらこそ」
それに、優雅な微笑みを浮かべてエルバッハは応じた。
首領を生け捕りにされた盗賊団の残党勢力は、彼を見捨てて退却した。ハンター一行は、ルーエルの回復魔法で傷を癒すと、残りの道程を何の障害もなく進んで行き、やがて目的地である町が見えて来た。
「大丈夫なんですかね、あれ」
目を覚ましてから、終始急所の痛みに呻きを上げている首領を見遣ってから、傍らのバリーに問う。首領を乗せているのは、クリスティンが回収した盗賊達の騎馬だ。馬の足並みに合わせて走る激痛に苦鳴を上げている。
「一応止血はしといたから死ぬ事はないだろ。去勢した分大人しくなってくれりゃ良いんだが」
「しかし、うるさくて敵わんな。眠らせてやったらどうだ?」
キャリコが顔をしかめて提案するが、
「いえ、あれはあれで報いですからね。軍に差し渡すまでああしておきましょう」
「それもそうか」
エルバッハの返答に、同じ男として気の毒ではあるが、と思いつつキャリコは同意を示した。
「……傷、どうしよ」
レインが愛車の傷を気落ちした様子で見詰める。
「大丈夫だから、お姉さん。それくらいの傷なら簡単に消せるよ。僕も手伝ってあげるから」
「……ほんと?」
「本当だよ」
「……ほんとにほんと?」
「本当に本当、だから元気出して、ね?」
普段は少しだけ高い恋人の頭を、ルーエルは馬上から手を伸ばして撫でながら、慰めの言葉を口にする。
「……うん、わかった。私、元気出すよ。よーっし、帰ったらメンテナンス頑張るぞー!」
いつも通りに底抜けの明るさを取り戻した恋人の姿に、ルーエルは笑みを零す。
「うん、お姉さんはこうでなくちゃね。……しおらしいお姉さんも、ちょっと可愛かったけど」
「な、成程、ああやって甘えた方が、男性は嬉しいものなのだろうか」
仲睦まじい二人の様子を垣間見て、イーディスが煩悶としていた。
「い、いや、別に彼の気を引きたいとか、そういうわけではないけれど」
彼女の恋路は、まだまだ前途多難らしい。
「ん? おいおい、お姫様、頭に瘤ができてるじゃないか」
屋根の上から車内に戻ったカッツが、ラウラの額にできた瘤に気が付く。
「ああ、これ? さっき頭もぶつけたから」
「血まで滲んでるぜ? 大丈夫なのか?」
「これくらい平気よ。皆に比べたら傷の内にも入らないでしょ」
カッツが案ずるものの、ラウラは大丈夫だからの一点張り。その様子を眺めていたキャロルだったが、やがて御者台に座るバリーに問う。
「おい、バリー。救急箱、何処にしまったか覚えてるか?」
「確か、弾薬箱の下にあったんじゃないか?」
バリーの返答を頼りに、キャロルは救急箱を引っ張り出した。
「ほら、こっち向け」
「だ、大丈夫だって言ってるじゃない。大体、それくらい一人で」
消毒液を付けたガーゼを近付けるキャロルに、ラウラは抵抗するが、
「良いから、じっとしてろ」
キャロルに囁かれ、消え入るような声で呟いて治療を受け容れた。
「い、いえっさぁ……」
「あらあら、まあまあ」
ユリシウスが窓の外から二人の様子を微笑ましく見守る。
(……駄目だ。最後までクールな私を保たないとっ)
その隣で、クリスティンが心に芽生えた衝動と戦っていた。
装甲馬車の窓から身を乗り出して、ラウラは騎馬に跨るユリシウス(ka5002)に満面の笑みを向ける。
「ええ、そうですわね、ラウラ。お元気そうで何よりですわ」
ユリシウスもまた、微笑みを湛えて少女に答える。
「ほんと、元気そうで何よりだ。この間の凛々しい顔も嫌いじゃないが、やっぱり女の子は弾ける笑顔でなけりゃな」
馬車内で木箱に腰掛けるカッツ・ランツクネヒト(ka5177)が、普段通りに軽薄な調子で世辞を口にする。
「あなたも相変わらずね、ニンジャさん」
振り返ったラウラは、お澄まし顔でカッツを見遣る。
「お蔭様で。──それよりお姫様、ガンマンのお二人とは仲良くやってるのかい?」
肩を竦めるカッツの問いに、
「──仲良く? バリーはともかく、あの手持ちのデリカシーを豚の餌箱の中身と取り換えて来た様な馬鹿と、仲良くなんかできるわけないでしょ!」
ラウラが過敏に反応する。
「随分と御不満を溜め込んでいる様で。俺でよけりゃ、愚痴聞き相手になろうか?」
「良いの!?」
食い気味のラウラに、言い出した手前取り敢えず頷きを返すが、
(ちっとばかし、安請け合いし過ぎたか?)
カッツはこの後、自分の軽はずみな言動を悔いる事になる。
「キャロルだったかな?」
バイクに跨ったクリスティン・ガフ(ka1090)が、馬車の上で煙草を吹かすキャロルに声を掛ける。
「そうだが。何か用かよ、サムライガール」
キャロルは、彼女が背に背負った大太刀を目にしながら応じた。
「彼女と三人で旅をしているのか?」
クリスティンは、ラウラの愚痴が漏れて来る馬車を指して問う。
「それがどうかしたか?」
「いや、あまり人の趣味にとやかく言うつもりはないが、彼女一人で二人を相手にするのは大変だな、と」
クリスティンの意味深な、いやはっきりと問題のある発言に、キャロルは思わず咥えていた煙草を落した。
「お、おいちょっと待て。そりゃ、どういう意味だ?」
「いや、深い意味はないが。しかし、うーん、やはり一言だけ言わせて貰うが、健全ではないと思うんだ」
「──ふざけた誤解がある様だから言っておくが、俺はあんな丸太の方が色気の探し様のあるガキを相手にする気はねえよ」
「……あの馬鹿には、今晩たくさん生の人参を食べさせてあげなくちゃ。痺れ薬に漬け込んであげたら、味覚も麻痺してきっと苦手も克服できるわね」
こめかみを引き攣かせながら唇だけで微笑を作るラウラを前にして、カッツは馬車の天井を見上げて内心で呟いた。
(もう少し優しくしてやらんと、ほんと一服盛られかねんぜ、旦那)
「来たよ遂にこの日が!」
馬車の後方で御自慢のバイクに跨ったレイン・レーネリル(ka2887)が、声高に歓喜を叫ぶ。
「もうただの飾りだなんて呼ばせない。今こそ私はこの子と一緒に風になる!」
「随分と楽しそうだな」
傍らで同じくバイクを駆るキャリコ・ビューイ(ka5044)が、ハイテンションなレインに声を掛ける。
「そりゃ勿論。これまで全然この子に乗る機会がなかったんだから。帰ったら、しっかりとメンテナンスしてあげるからねー」
「良いバイクだが、あまり実戦向きではない様だ」
親馬鹿ならぬ、バイク馬鹿になったレインの愛車を見ながら、キャリコが指摘する。
オフロードに対応し、更に射撃補助用の台座まで付いた彼の機体とは違い、レインの愛機は速度重視のレーシング仕様である。
「だいじょーぶ! 風になるから!」
「何がどう大丈夫なのかは分かりかねるが、頑張ってくれ」
「張り切ってるみたいだね、彼女」
後方から聞こえるレインの高らかな声を耳にして、騎馬に跨るイーディス・ノースハイド(ka2106)は微笑を浮かべる。
「うん、元々バイクとか好きだったみたいで。でもずっと置物扱いになっていたから、今回思う存分走り回る事ができるって喜んでたよ」
当のレインの恋人にして、彼女にバイクを贈ったルーエル・ゼクシディア(ka2473)が鞍に腰掛けてイーディスに応じる。
「このまま、気楽なツーリングで終わってくれたら良いんだけど」
ルーエルが表情を曇らせる。
「それには私も異存ないが、無理な話だろうね。平穏を望むには、どうにもきな臭過ぎる様だから」
「そうだよね。レインお姉さんは残念がるだろうけど、仕方ないか」
「君は余程彼女の事を想っているんだな。私にはあまり理解できない感情だよ。何しろ、幼いころから騎士としての研鑽に明け暮れていたから、恋愛事には疎くてね」
「僕もお姉さんが居なかったら、同じだったかもしれないけどね。イーディスさんには、そういう人は居ないの? ──あ、えと、答えたくなかったなら、良いんだけど」
初対面の女性に対して、突っ込み過ぎた質問だったかと思い直しルーエルは取り繕うが、そんな彼の言葉は耳に入っていない様子で、イーディスは思考に耽った。
「私は彼の事をどう思っているのだろう……」
まだ、答えの出ない疑問。そして、次の疑問に触れるのには、少しだけ躊躇いがあった。
明確な答えを知る事に臆病になってしまうけれど、でもやっぱり考えずにはいられない。
「……彼は私の事をどう思っているのだろう」
「盗賊団ですか。本来ならこの護衛依頼の前に、この土地の管轄者が討伐依頼を出すべきでしょうに」
戦馬の上で年齢にそぐわぬ豊かな胸を揺らしながら、エルバッハ・リオン(ka2434)が誰にともなしに呟く。
「ん? 何か言ったか、ミス・リオン」
馬車内から響く喧噪の中で、微かにエルバッハの呟きを捉えたバリーが声を掛ける。
「いえ、後々の事を考えると、盗賊団を殲滅しておいた方が良いのかと。勿論、護衛を最優先としてですが」
先の呟きには触れずに、エルバッハは取り敢えず思案していた件を口にする。
「その場合、盗賊団のリーダーを生け捕りするのも手かなと思ったんですが」
「成程な。軍に身柄を引き渡せば、追加報酬の見込みもあるか。縄なら馬車に積んであるしな。だが、どうやって生け捕りにする」
「私は魔術師ですので。催眠魔法で、おやすみして貰います」
「そりゃ良い。それじゃあそっちは任せても良いか? リトルレディ」
バリーの問いに、エルバッハは悪戯めいた笑みを浮かべて答える。
「ええ、お任せあれ」
「おい、あんたら。そろそろ盗賊通りに入る。俺は真っ直ぐ進むからよ。護衛をよろしく頼まあな」
幌付き馬車の御者が、ハンター達にそう言った。
いち早く盗賊の襲撃を察知したのは、エルバッハとユリシウスだ。双眼鏡と望遠鏡で周囲を警戒していた彼女達が、丘陵の陰から騎馬や馬車に乗って現れた盗賊団を見咎める。
「来なすったぜ、悪党共が」
ホルスターから愛銃を引き抜いたキャロルが、リボルバーの銃口と共に、盗賊団へ獰猛な歓迎の笑みを向けた。
「Come on,BABY!」
「あらあら、喜色満面の笑みですわ」
アイアンサイトの奥に盗賊御者の顔に浮かぶ表情を見据えたユリシウスは、失笑を禁じ得ずに、何処か蠱惑的に唇を歪めた。
「鴨が葱を背負ってやって来た、といった心境でしょうか」
騎兵銃の銃口を向けられながらも、まだ彼らは余裕の態度だ。
さもあらん。
光学スコープすらない短銃身の銃で狙撃が叶う距離ではない。況してやユリシウスの風貌は、鉄火場には不釣り合いな令嬢めいたドレス姿である。彼らが侮るのも無理からぬ事。
しかし彼女は、淑やかなだけの深窓の令嬢ではない。
「そんな貴方方へ、銃弾と一緒にこの言葉をお贈りましょう」
細指にトリガープルが掛かった直後、
「雉も鳴かずば撃たれまい」
拡張した彼女の視界の中で真っ赤な花が咲いた。
「わたくし達の前に現れなければ、長生きする事ができたかもしれませんのに」
その忠告も、今しがた爆ぜた男の後悔も遅過ぎた。
「──ああ、後のお祭りは、どうか地獄の底で開いて下さいな」
きっとすぐに、そちらは賑やかしくなる事でしょうから。
「物量攻めか。まあ、悪くない手ではある」
ユリシウスの銃撃で仲間を葬られて色めき立つ盗賊達の襲撃に対し、キャリコは冷静に評価を述べた。
「ただ、少々固まり過ぎだ」
バイクのハンドルに取り付けられた台座に魔導銃の銃身を置いて、照準を安定させる。試作型であるこの銃は、ちょいと精度が粗いじゃじゃ馬だが、癖を把握した上で乗りこなしてやれば、長射程を誇る悪くない銃だ。
銃身にマテリアルを流す。
マテリアルは宿主の感情を投影して、絶対零度の冷気へと変化した。黒色の外装に霜が貼り付き、白の彩色を施す。
紅き双眸で標的を捉え、鉄爪に掛けた指に力を籠める。
銃口から放たれた魔弾が、騎馬隊の先頭を駆ける馬の騎手の肩口に着弾。魔弾が孕む冷気に侵された騎手の身体は硬直し、着弾の衝撃のままに落馬する。
固まった拳で手綱を握ったまま落馬した為、馬が嘶きながら棹立ちになり急停止。後続の騎馬が軌道を阻害されて、騎馬の群れが一時停滞した。
「良い具合に固めて貰いました。では、皆纏めて火焙りの刑といきましょう」
戦馬の上でエルバッハが杖を掲げ、その先端に火花を生じさせる。火花が集い、火球を形成。固まった盗賊達の中心へと、火球が投じられる。
火球が弾け、爆炎を生み出した。逆巻く火炎に呑み込まれた悪党共の悲鳴が木霊す中で、爆炎から一人の男が逃れ出る。
「いきなり処刑たぁ酷過ぎやしねえか、ハンター共!」
リボルバーを構えたその男の身のこなしから鑑みて、盗賊団に紛れているという覚醒者の一人だろう。
「どの口がほざくのやら。裁判を受ける権利が、お前達にあるわけがないだろう」
呆れた口調で返したのは、クリスティン。
「殺す気で私達に喧嘩を売ったのだろう? なら殺されても文句を言うべきではない。それも理解できないのなら、そんな大仰な得物を提げる資格はないな」
「吹くじゃねえかよ、剣士サマ? そんな棒切れでガンマンに挑もうってか?」
「馬鹿かお前は。刀が銃に劣る道理が何処にある」
事もなく言い切ったクリスティンは、魔導バイクのスロットルを全開にする。
機械仕掛けの馬の心臓部──魔導機関が乗り手のマテリアルだけでは飽き足らず、その命すらも吸い上げて咆哮を上げる。生み出したエネルギーが車輪へと伝播し、機馬の馬脚が地を踏み締めて急加速。
盗賊とて、持ち主の倍以上の長さを誇る大太刀の切先が自身に迫るのを、指を咥えて見ていたわけではない。銃口を向けて鉄爪を絞る。
BAANG、BAANG、BAAAANG!
一発、二発、三発と立て続いて襲い来る凶弾を、クリスティンは悉く回避して突き進む。
長髪とローブを靡かせながら疾駆する姿は、さながら紫電の如く。
「なめんじゃねえぞ、剣士!」
BAAAAAANG!
盗賊が放った四発目が、クリスティンの大腿を貫通した。
神経が、灼けた鉛の侵入を訴えるが、それを受けた脳が瞬時に大腿を走査し、骨、腱、筋、大動脈に損傷がない事を確認すると、痛覚の警告を『苦痛』ではなく単なる『情報』として処理する。
敵を斬るという行為に支障がないのであれば、多少の傷など些末事に過ぎない。思考を鈍らせる要因は、その全てを排除する。彼女の身体は、刀の柄を握る事でそういう風に切り替わる。
だが、クリスティンの信条の一つ『常在戦場』──常ニ戦場ニ在レ、その言葉の極致にあるのは──即ち『無念無想』。
その身に根差した『斬魔剛剣術』が、彼女自身の思考すらも置き去りにした。
その手に握る愛刀──マテリアル効率を上げる為に己の血を摩り込んだ紅い刀身に、主従関係を覆して憑き動かされでもした様に。
五発目を放たんとする銃口が、正中線を睨み付ける。回避の暇はない。しかし、意なき刀は銃弾の速度すらも凌駕する。
片手でハンドルを切る。轟轟と風を切る速度にまで達した魔導バイクが、急激な操舵に応じて、スピン。
一転──片手で支えられた長刀が銃口から吐き出された弾丸を水平に薙ぎ、
二転──六度目の撃発を許さずにリボルバーの銃身を切断して、
三転──紅い刀身が刎頚の軌跡を描いた。
「見たか、我が天剣絶刀を。冥土の土産話に持っていけ」
地に転がった首に向けて言い捨て、クリスティンは新たな標的を求めて機馬を駆った。
死に逝く虚ろな瞳が見詰める。
残酷なまでに美しい、主と敵の血を吸った刀身を。
「駆けろ、エクレール。その名の如く!」
エクレール──雷の名を冠する騎馬が、主の鬨の声に従い蹄鉄の音を轟かせて疾駆する。イーディスが突撃槍の穂先を盗賊騎馬隊の一騎へと向けた。
鋼板すら穿つランスチャージの標的とされた盗賊は当然、させじとイーディスに銃撃を浴びせる。
しかし、彼女が掲げる大盾がそれを阻む。木製の芯を金属で被甲した盾は柔と剛を兼ね備え、銃撃の威力と衝撃を耐え凌ぐ。
たとえ盾の障害を掻い潜った銃弾があろうとも、女騎士の身を覆う鎧がその全てを弾き飛ばす。複合装甲──二重三重に異なる材質を積層したそれは、リアルブルーの戦車にも使用されているものだ。無法者の豆鉄砲など、何を恐れる事があろうか。
イーディスに幾ら銃弾を浴びせても無駄と判断した盗賊は、将を射んと欲すればまず馬を射よとばかりに、銃口を彼女の愛馬へと向ける。
「やらせんさ!」
照準の変更を目敏く見咎めたイーディスが、突撃槍を虚空に向けて突き出した。吹き荒れる衝撃波が盗賊を叩いて、撃発を阻止。
盗賊が仰け反り動きを止めている間にも、エクレールの四足は距離を詰め、とうとう主の突撃槍の間合いへと踏み込んだ。
「火焙り、ギロチンとくれば、お次は串刺しさ!」
勇壮美麗な装飾突撃槍のランスチャージを前にすれば、人身など紙切れの様なもの。大した抵抗もなしに、盗賊の腹に穂先の根本まで深々と突き刺さった。
どてっ腹に大穴が開いた骸を地に捨てて、イーディスは盗賊達に向けて声を張り上げる。
「さあ、無法者共。斯様な死に様を望まぬ者は、早々に去るが良い! 尚も掛かって来るなら、それも良いさ。腸をぶち撒け、己の罪と愚かさを思い知りながら逝け!」
初心な恋心に悩む乙女の顔、高らかに気勢を上げる勇将の顔。裏も表もない。どちらも同時に、イーディス・ノースハイドを構成する一面だ。
WHinnnnnnNN────Yy!
主の気炎に応えて嘶きを上げたエクレールは、再び蹄鉄を踏み出した。
「ひゃっほぉおう! 今こそ、私は風になった!」
猛る風音に負けじと奇声を上げながら、レインが更に魔導バイクのアクセルグリップを回す。更に加速するバイクは、盗賊達を撹乱する様に駆け回る。
旋回性能を犠牲にして超加速を手にした愛車は、凶弾の雨を置き去りにした。そもそも、照準で捉えられなければ回避する必要すらない。
「あっはっはー、このノロマ共め! お前達は精々、我が後塵でも拝しておけい!」
哄笑しながら、後方へと火炎放射による牽制を放つ。猛火に怯んだ馬車馬が足を止めた。
「そおれぃ!」
ハンドルを切りながら、同時に前後のブレーキレバーを握る。車体が横滑りしながら急停止。魔導銃の銃口を炎壁の前に立ち往生する馬車に向けると、
「バアアァァン!」
自主制作効果音を付けながら、三条の光線を放った。
「うわぁ、お姉さんノリノリだ……。水を得た魚みたい」
恋人が放った光線が車上の盗賊達を吹き飛ばす様を見届けたルーエルの額を妙な汗が伝う。
「僕も頑張らないと、ね」
聖印が刻まれた盾を掲げて、ルーエルは表情を引き締める。
味方が敷いた防衛網──いや、迎撃網を潜り抜けた盗賊を見咎めたルーエルは、彼が構えた銃口が幌馬車の御者へと向いている事に気付くと、咄嗟に射線に割って入った。
「大丈夫か、坊主!」
案じる御者の声を聞きながら銃弾の衝撃を捩じ伏せると、
「罪には罰を──不義を正して、闇を裁く光を」
ルーエルは法具としても機能する盾を媒介として、光弾を撃ち出した。聖印が生み出す白光が、硝煙吐く銃を構える盗賊に裁きを下す。
「おお、大したもんだな坊主。ありがとよ」
「どういたしまして。それじゃあ先に進もう、御者さん。あまり、うかうかしてられないみたいだから」
「やっと出番か。待ちくたびれちまった」
「やる前から何で疲れてんだよ、お前は」
嘆息するカッツを、キャロルが笑う。
「……旦那のお蔭だよ。ちったあ、女の子の扱いを考え直さねえと、麻痺するどころじゃ済まねえぜ?」
「何の事だ?」
「わからねえなら、それでも──っと」
言い掛けたカッツは、咄嗟に身を伏せる。同様にキャロルも姿勢を下げた直後、
BANG、BANG、BANG,BAAANG!
銃弾の雨が馬車を襲った。
「どうやら暢気にお喋りしている暇はなさそうだな──って、おいおい!」
鉛玉の送り主の方へと視線をやったカッツは、こちらへ急接近して来る四輪馬車を捉えて目を見張る。
盗賊達の馬車は一切速度を緩める事なく体当たりをぶちかまして来た。「うにぃあ!?」という奇天烈な悲鳴が足下から響く。
「無茶苦茶しやがるね、悪党ってのはどいつもこいつも」
あわや振り落され掛かったが、二人はどうにか踏み止まる。一度離れた盗賊馬車が再び銃撃による牽制を放ってくるのに対し、カッツが舌を打つ。
「連中、またかまして来るつもりか? 馬車自体は問題ねえだろうが、下のお姫様が心配だ」
「くそ……、カッツ、乗り込めるか?」
「あいよ、任された。旦那こそ、援護頼むぜ?」
「ああ。銃撃が止んだ瞬間に行くぞ」
「OK。手厚い歓迎をしてくれた悪党共を、地獄へご招待と洒落こもうかね」
右手に直剣、左手に鎧通しを構えたカッツは、シニカルに唇を歪める。
牽制射撃が止んだ直後、キャロルがファニングショットを見舞い、接近して来る馬車を押し留める。その隙にカッツが僅かな助走を経て、跳んだ。
車上に居座る盗賊達の中央に降り立ったカッツは、右手の得物を閃かせて、銃把を握る盗賊の手首を斬り飛ばす。
「どしたよ、チンピラ。撃てよ、撃てるもんなら撃ってみろ」
手首を失い苦鳴を上げる盗賊を嘲笑う。しかし、残りの盗賊達が自分に銃口を向けようと動く様子を確認すると、
「ちょいと、失礼」
利き手の切断面をもう片方の手で押さえる盗賊の顔を足蹴にして、車上から退避する。
装甲馬車の屋根の縁に手を掛けたカッツを盗賊達の銃口が追う。が、キャロルとバリーの一斉射撃が彼らの身体をボロ屑へと変えた。
「はっは、ざまあねえな」
片手で自重を支えながら、またカッツは嘲笑を零す。
「っと、そうだ。──大丈夫かい、お姫様」
「……うぅ、ひたひゃんだ」
車内への呼びかけに対する舌足らずの返答に、嘲笑を苦笑に変える。
「そいつはご愁傷さま。取り敢えず、大した怪我もなさそうで良かったよ」
キャロルの手を借りて屋根に上がったカッツは、周囲の様子を見渡してある事に気が付く。
「奴さん達が退いて行く?」
「さて、どうするか」
バリーが思案の声を漏らす。
盗賊達が退却して行った後も周囲を警戒しながら進んだ一行は、左右を崖に挟まれた道の前に来ると、一旦立ち止まった。
「奇襲にはこの上なく適した地形だな」
「そうですわね。町で聞き込んだ限りでは、この場所まで獲物を追い込んで崖上から銃撃を浴びせる、というのが常套手らしいですわ」
キャリコの分析に、事前に情報を仕入れておいたユリシウスが頷く。
ユリシウスの情報が正しければ、盗賊達が退いたのは策などではなく、護衛と呼ぶにはあまりにも攻撃的なハンター達を前に怖れを成したからだろう。
このままでは不利と感じ取った彼らは、最も地の利を発揮できるこの道を最終決戦の場所と定めた。となれば、ハンター達が取るべき手段は自ずと決まる。
何もわざわざ不用心に道を進んで、盗賊達に勝機を譲ってやる謂れはない。
「二手に分かれてはどうだろう。一組がここに留まり馬車の護衛を務め、もう一組が崖上に登って上に居るであろう盗賊を討つ。これが最善策だと思う」
「良いとは思うが、人選はどうする? この崖は、私のナグルファルでは登れそうにないが」
イーディスの提案に、クリスティンが急な上り坂を見上げて呟く。確かに、通常の魔導バイクで登るのは不可能だろう。となると、馬に騎乗した者が適任となる。
イーディス、ユリシウス、ルーエル、そしてエルバッハが崖上組に決まり掛けた所で、
「いや、俺が行こう」
とキャリコが提案した。
「俺のバイクなら、この道でも登る事が可能だ。それに、事前に依頼人から聞いた限りでは、盗賊の主戦力は騎兵と馬車だ。崖上に伏兵が居たとしても、それは歩兵。つまり、少人数という事になる。ならば、広範囲攻撃を持つ魔術師は残留組に残った方が合理的だろう」
こうして、崖上組がイーディス、ユリシウス、ルーエル、キャリコ。残留組がクリスティン、レイン、エルバッハ、カッツと相成った。
巧みにハンドルを操り、キャリコは険しい道を駆け上がって行く。登頂付近に達しても速度を落とす事無く、寧ろ更に魔導エンジンの回転数を上げる。急斜面を一気に登った軽量の車体が、勢いのままに空高く舞った。
眼下に自分を見上げる盗賊達を視認する。大口を開けた彼らの表情を笑みも浮かべる事もなく見下ろして、
「間抜け」
嘲りの言葉と共に、リボルバーの射撃を浴びせた。
「リロードする、援護を任せた!」
車体が地に落ちると同時に味方へリロードを宣告しながら、シリンダーの空薬莢を排莢。零れ落ちる真鍮の輝きを網膜に映しつつ、クイックローダーを取り出す。
「隙だらけだぜ、ハンター!」
再装填の隙を、盗賊が狙う。
BAAAAAANG!
マズルフラッシュに燐光が混じる。余剰マテリアルの発露を伴うその一射が意味するのは、ワンショットキル──覚醒者の渾身を籠めた一撃必殺。しかし、
「任されたさ!」
その一撃を、射線に割って入ったイーディスの大盾が受け止めた。
衝撃吸収に特化した機械盾に内臓したモーターの回転音が、悲鳴の様に木霊する。
「この程度!」
だが、守護を司る概念精霊と契約を交わした彼女は、『盾』として機能する時、最高のポテンシャルを発揮する。
凶弾を弾き飛ばしたイーディスは、渾身の一撃を防がれた盗賊に衝撃波を放つ。
「踏み砕け、エクレール」
主の名を受けて、猛馬は地に倒れた盗賊の頭蓋を目掛けて蹄鎚を振り下ろした。
「悪知恵を働かせたつもりでしょうが、策に溺れましたわね。そのまま溺死して下さいな」
ユリシウスは、ハンター達の思わぬ反撃に慌てふためく盗賊達に照準を付ける。
「引導くらいは渡して差し上げてもよろしくてよ?」
セレッサ──愛馬の名と同じ薄紅色の光彩で敵の死を見詰めながら、彼女は銃爪を絞った。
「今ですわ、ルーエル様」
微笑むユリシウスの傍を、ルーエルを乗せた戦馬が駆け抜ける。
「うん、ありがとうユリシウスさん」
無骨な戦鎚を握る手に、電子基板に似た黄金色のラインが伝う。可憐な顔立ちに義憤を宿らせ、ルーエルは盗賊を睨み付け、
「その捻じ曲がった精神を、教えの下に叩き直してやるさっ!」
戦鎚を振り下ろした。
残留組は再び襲撃して来た盗賊達を相手取っていた。
「まだ来るとは、余程死にたいらしい。なら望み通りに斬って捨ててやろう」
盗賊達の目線、銃口から弾道を予測して魔導バイクを駆るクリスティンが、過ぎ去り様に次々と敵を斬殺して行く。
「はは、そうだよな。ホストがゲストを置いて先に帰るなんてのは、マナー違反だよな! どうせなら、最後の最期まできっちりかっちり持て成して逝けよ、チンピラ!」
カッツが愉し気に嗤いながら、接近して来た騎馬に飛び降りる。
「そら、出血大サービスだ」
左手の鎧通しを盗賊の首筋に突き刺すと、馬の背から装甲馬車に戻る。
「へぇ、シャンパンまで用意してくれるたぁ気が利いてるな。……まあ、俺は飲めないがね」
心臓の鼓動に合わせて血を噴き上げる死体を見下ろして、皮肉を口にした。
「うわっと!」
レインが飛来して来た弾丸に思わず、防護障壁を張る。彼女の高速機動に、盗賊達も目が慣れて来たのだろう。照準が正確になり始めた。
「……しまった」
貴重な防御スキルを、愛車を守りたいが為に使用してしまった事に後悔するレインだが、ふと愛車の車体に付いた傷に気が付く。それは僅かな塗装剥げに過ぎなかったが、彼女の理性を吹き飛ばすには十分だった。
「ルー君の贈り物、私の宝物によくも……。ふ、ふふっ、てめえら、今棺桶に片足突っ込んだぞ?」
怒りのままに構えた銃口から、三条の光線が迸る。一筋の光線が、馬車の車輪を撃ち砕いた。
「糞っ垂れ、計画がグダグダじゃねえか」
クラッシュした馬車の車上から投げ出された盗賊が悪態を吐く。
「あなたが、盗賊団のリーダーですか?」
他の盗賊達と比べて質の良い衣装に身を包んだ男に杖を突き付けて、エルバッハは尋問する。
「あん? ……へぇ、年の割には良い身体してんじゃねえか、お嬢ちゃん。エルフとはヤッた事がねえんだ。俺を慰めちゃくれねえかい?」
問いを無視して、下卑た笑みを男が浮かべる。
「熱烈なお誘いですが、あなたの様な下種に触れさせてあげる程、私の身体は安くありません。目の保養だけで我慢して下さい」
エルバッハは余裕の笑みを浮かべて、男をあしらう。その眼はホルスターに収められた拳銃を目敏く見ていた。男が腰に手を伸ばして銃把を握り、銃口をこちらに向けるよりも、魔法を紡ぐ方が速いと踏んでの余裕の態度。
「──釣れないなぁ、クソアマ!」
しかし、ガンスリンガーのクイックドローは、彼女の予想を上回る。予備動作のない抜き撃ちが、魔法発動に先んじる。
BAAAAAANG!
「があああああああ!」
銃声と同時に男の笑みが苦悶の表情へと変わり、股間を抑えて蹲る。
「おっと、悪いな。手に握った銃を狙ったつもりが、竿じゃなくて玉に当たっちまった。まあ良いだろ、女性をクソアマ呼ばわりする屑の胤は、根絶やしにしちまった方が世の為だ」
バリーが澄ました顔で、スピンコック──硝煙立ち昇るレバーアクションライフルを、レバーに掛けた指を軸に振り回して排莢と次弾装填を済ませる。
「ふ、ふざけんじゃ──あ……?」
痙攣する身を無理矢理起こして銃口をバリーに向けようとした男が昏倒する。
「助かったよ、お嬢さん」
催眠作用のある雲を発生させたエルバッハに向けて、バリーが会釈して礼を示す。
「いえいえ、こちらこそ」
それに、優雅な微笑みを浮かべてエルバッハは応じた。
首領を生け捕りにされた盗賊団の残党勢力は、彼を見捨てて退却した。ハンター一行は、ルーエルの回復魔法で傷を癒すと、残りの道程を何の障害もなく進んで行き、やがて目的地である町が見えて来た。
「大丈夫なんですかね、あれ」
目を覚ましてから、終始急所の痛みに呻きを上げている首領を見遣ってから、傍らのバリーに問う。首領を乗せているのは、クリスティンが回収した盗賊達の騎馬だ。馬の足並みに合わせて走る激痛に苦鳴を上げている。
「一応止血はしといたから死ぬ事はないだろ。去勢した分大人しくなってくれりゃ良いんだが」
「しかし、うるさくて敵わんな。眠らせてやったらどうだ?」
キャリコが顔をしかめて提案するが、
「いえ、あれはあれで報いですからね。軍に差し渡すまでああしておきましょう」
「それもそうか」
エルバッハの返答に、同じ男として気の毒ではあるが、と思いつつキャリコは同意を示した。
「……傷、どうしよ」
レインが愛車の傷を気落ちした様子で見詰める。
「大丈夫だから、お姉さん。それくらいの傷なら簡単に消せるよ。僕も手伝ってあげるから」
「……ほんと?」
「本当だよ」
「……ほんとにほんと?」
「本当に本当、だから元気出して、ね?」
普段は少しだけ高い恋人の頭を、ルーエルは馬上から手を伸ばして撫でながら、慰めの言葉を口にする。
「……うん、わかった。私、元気出すよ。よーっし、帰ったらメンテナンス頑張るぞー!」
いつも通りに底抜けの明るさを取り戻した恋人の姿に、ルーエルは笑みを零す。
「うん、お姉さんはこうでなくちゃね。……しおらしいお姉さんも、ちょっと可愛かったけど」
「な、成程、ああやって甘えた方が、男性は嬉しいものなのだろうか」
仲睦まじい二人の様子を垣間見て、イーディスが煩悶としていた。
「い、いや、別に彼の気を引きたいとか、そういうわけではないけれど」
彼女の恋路は、まだまだ前途多難らしい。
「ん? おいおい、お姫様、頭に瘤ができてるじゃないか」
屋根の上から車内に戻ったカッツが、ラウラの額にできた瘤に気が付く。
「ああ、これ? さっき頭もぶつけたから」
「血まで滲んでるぜ? 大丈夫なのか?」
「これくらい平気よ。皆に比べたら傷の内にも入らないでしょ」
カッツが案ずるものの、ラウラは大丈夫だからの一点張り。その様子を眺めていたキャロルだったが、やがて御者台に座るバリーに問う。
「おい、バリー。救急箱、何処にしまったか覚えてるか?」
「確か、弾薬箱の下にあったんじゃないか?」
バリーの返答を頼りに、キャロルは救急箱を引っ張り出した。
「ほら、こっち向け」
「だ、大丈夫だって言ってるじゃない。大体、それくらい一人で」
消毒液を付けたガーゼを近付けるキャロルに、ラウラは抵抗するが、
「良いから、じっとしてろ」
キャロルに囁かれ、消え入るような声で呟いて治療を受け容れた。
「い、いえっさぁ……」
「あらあら、まあまあ」
ユリシウスが窓の外から二人の様子を微笑ましく見守る。
(……駄目だ。最後までクールな私を保たないとっ)
その隣で、クリスティンが心に芽生えた衝動と戦っていた。
依頼結果
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面白かった! | 8人 |
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エルバッハ・リオン(ka2434)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 イーディス・ノースハイド(ka2106) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/11/29 18:35:12 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/26 00:58:14 |