ゲスト
(ka0000)
『過去』の罪科
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/03 22:00
- 完成日
- 2015/12/08 05:51
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
――大峡谷にほど近い王国北部
一人の老人が街道で亜人を追い払っている。
圧倒的な火力。マテリアルの光が迸り、直撃した亜人は倒れていった。
「雑魚じゃのぉ」
つまらぬ様子で機導術を放ち――やがて、襲撃してきた亜人は慌てた様子で逃げ去った。
「さてと……生存者はいない様子じゃな」
辺りを見渡す。
どこかの村から避難する途中だったのか、規模の大きい行商だったのか、多くの人々が倒れていた。
その一人一人の遺体を確認し、やがて、一人の少女を見つけた。
「背丈……髪色……まぁ、いいじゃろ」
息絶えた少女を担ぐ老人。
「さて、『戦慄の機導師』とはよく言われたものじゃ」
死体に工作するなど、常識では有り得ない事でも、この老人はやってのける。
若い頃、目的の為であればいかなる手段で淡々と任務を遂行する姿に、渾名つけられた称号のようなものだった。
●ブルダズルダの街
この街と一帯を治めている領主は、隣のフレッサ領の領主と同じく、悪い評判の領主であった。
「フレッサ領主め! 上手い事、取り入りやがって!」
機嫌を悪いのを隠そうともせず、持っていた報告書の束をぶちまける。
その書類には、数ヶ月前、フレッサ領が歪虚によって侵攻された際、ブルダズルダ領主の私兵が、フレッサ領内で悪事を働いていた事が記されていた。
部隊の動き、強奪された資産等、詳細に記録されている。
フレッサ領主は、王家派から貴族派の参加に入ったようで、その支援をもとに、フレッサの街の復興は目覚ましい。そういう意味でも注目の貴族であったから、掠奪の件については注目もされるだろう。
「なんとか、せねば……なんとか……」
ブツブツと呟きながら部屋の中をぐるぐると回る。
その時、ぶちまけた書類の中に、一枚の書類が目に留まった。
「歪虚の残党が領内に……歪虚の協力者と思われる少女の存在……」
そして、閃いた。
もし、この残党を追い払う事ができれば。そして、歪虚の協力者である少女を捕まえる事ができれば。
「誰ぞ! おるか!」
その叫びに数人の兵士達がドタドタと集まった。
「我が領内に潜伏し、歪虚の協力者である小娘を捕まえるのじゃ! そして、尋問して歪虚の情報を得るのだ!」
「分かりました」
「捕まえて、情報を得た後、その小娘は、貴様らの自由にしていいぞ。褒美もつけよう」
その言葉に兵士達は下衆な歓声をあげた。
●リゼリオ
小隊の部下から届いた報告書を読み――ソルラは顔を伏せた。
「シャルさん……」
王国西部ブルダズルダの街周辺の小さい村に現れた歪虚ズールと戦い、そして、戦死したという事が記されていた。
優秀な騎士だった。ソルラの一期上で、青の隊には珍しく武勇に優れていた。一部団員の間では次期青の隊隊長候補の一人と目されていた程度に。
将来の夢は、システィーナ姫を支える騎士団長になると宣言していたのに……。
「これは、私自らが赴く必要がありそうですね」
歪虚ズール、そして、角折の歪虚ネル・ベルの存在。
皇帝から借りたままの歪虚の存在を知らせる装置を、いつまでも、移住民街で置いておくわけにはいかない。
「けど、北伐の状況も芳しくない……」
大きな怪我を負った人の中に、見知った名前があった。ちょうど一年程前、依頼で一緒になったハンターだっただけにショックが大きい。
悩んだ末に、ソルラは指示書を書き始めた。
今は歪虚王への対処が重要だ。南下を許し過ぎると、惨事が広がってしまう。
「皆さん、頼みましたよ」
蝋でしっかりと封をして、ソルラは呟いた。
●とあるハンターオフィス
「……今度の依頼は、王国からじゃなくて、ハンターオフィスから~?」
受付嬢兼報告官のミノリが変な声を出していた。
覚醒者が歪虚の手下か協力者をしているという情報から、ハンターズソサエティとしての繋がりがあるのかないのか、確認する必要があった。
ハンターの信用問題になるからだ。
「それで、ブルダズルダの街の衛兵よりも、早く、覚醒者を捕まえると……」
資料には覚醒者の特徴が記されていた。
「名前はノゾミ。緑色のふわゆるくるくるの髪が特徴的。美少女。胸が……残念!? なにこの、資料!」
思わず資料を叩きつけるミノリ。
後でこのふざけた資料を作った奴を痛めつけようと心に決める。
「美少女を探す依頼、誰か受けませんかぁ!」
●???
幾何学模様が美しい角を持つ歪虚がある知らせを読んでいた。
「討たれたのか……クラベル……愚かな」
「お、お知り合いなのですか?」
とある街の領主がオドオドとしながら訊ねた。この知らせを持ってきた張本人だ。
彼は貴族に広がるネットワークから得た情報を、歪虚――ネル・ベル――に伝える役目を持っている。
「知り合い? そうだな……そんな、所だな。敵を侮り、鍛錬を怠った結果、敗れた者の存在など」
一方、歪虚自身は更なる高みを目指している。
王国北部の街で得たマテリアル。配下の歪虚ズールの上納。ハンター達との戦闘。
経験とマテリアルを得て、歪虚は強くなっていく。その成長スピードはハンター達に劣ってはいないはずだ。
「私はもっと強くなる。私なりの方法でな」
歪虚は高らかな笑い声をあげた。
一人の老人が街道で亜人を追い払っている。
圧倒的な火力。マテリアルの光が迸り、直撃した亜人は倒れていった。
「雑魚じゃのぉ」
つまらぬ様子で機導術を放ち――やがて、襲撃してきた亜人は慌てた様子で逃げ去った。
「さてと……生存者はいない様子じゃな」
辺りを見渡す。
どこかの村から避難する途中だったのか、規模の大きい行商だったのか、多くの人々が倒れていた。
その一人一人の遺体を確認し、やがて、一人の少女を見つけた。
「背丈……髪色……まぁ、いいじゃろ」
息絶えた少女を担ぐ老人。
「さて、『戦慄の機導師』とはよく言われたものじゃ」
死体に工作するなど、常識では有り得ない事でも、この老人はやってのける。
若い頃、目的の為であればいかなる手段で淡々と任務を遂行する姿に、渾名つけられた称号のようなものだった。
●ブルダズルダの街
この街と一帯を治めている領主は、隣のフレッサ領の領主と同じく、悪い評判の領主であった。
「フレッサ領主め! 上手い事、取り入りやがって!」
機嫌を悪いのを隠そうともせず、持っていた報告書の束をぶちまける。
その書類には、数ヶ月前、フレッサ領が歪虚によって侵攻された際、ブルダズルダ領主の私兵が、フレッサ領内で悪事を働いていた事が記されていた。
部隊の動き、強奪された資産等、詳細に記録されている。
フレッサ領主は、王家派から貴族派の参加に入ったようで、その支援をもとに、フレッサの街の復興は目覚ましい。そういう意味でも注目の貴族であったから、掠奪の件については注目もされるだろう。
「なんとか、せねば……なんとか……」
ブツブツと呟きながら部屋の中をぐるぐると回る。
その時、ぶちまけた書類の中に、一枚の書類が目に留まった。
「歪虚の残党が領内に……歪虚の協力者と思われる少女の存在……」
そして、閃いた。
もし、この残党を追い払う事ができれば。そして、歪虚の協力者である少女を捕まえる事ができれば。
「誰ぞ! おるか!」
その叫びに数人の兵士達がドタドタと集まった。
「我が領内に潜伏し、歪虚の協力者である小娘を捕まえるのじゃ! そして、尋問して歪虚の情報を得るのだ!」
「分かりました」
「捕まえて、情報を得た後、その小娘は、貴様らの自由にしていいぞ。褒美もつけよう」
その言葉に兵士達は下衆な歓声をあげた。
●リゼリオ
小隊の部下から届いた報告書を読み――ソルラは顔を伏せた。
「シャルさん……」
王国西部ブルダズルダの街周辺の小さい村に現れた歪虚ズールと戦い、そして、戦死したという事が記されていた。
優秀な騎士だった。ソルラの一期上で、青の隊には珍しく武勇に優れていた。一部団員の間では次期青の隊隊長候補の一人と目されていた程度に。
将来の夢は、システィーナ姫を支える騎士団長になると宣言していたのに……。
「これは、私自らが赴く必要がありそうですね」
歪虚ズール、そして、角折の歪虚ネル・ベルの存在。
皇帝から借りたままの歪虚の存在を知らせる装置を、いつまでも、移住民街で置いておくわけにはいかない。
「けど、北伐の状況も芳しくない……」
大きな怪我を負った人の中に、見知った名前があった。ちょうど一年程前、依頼で一緒になったハンターだっただけにショックが大きい。
悩んだ末に、ソルラは指示書を書き始めた。
今は歪虚王への対処が重要だ。南下を許し過ぎると、惨事が広がってしまう。
「皆さん、頼みましたよ」
蝋でしっかりと封をして、ソルラは呟いた。
●とあるハンターオフィス
「……今度の依頼は、王国からじゃなくて、ハンターオフィスから~?」
受付嬢兼報告官のミノリが変な声を出していた。
覚醒者が歪虚の手下か協力者をしているという情報から、ハンターズソサエティとしての繋がりがあるのかないのか、確認する必要があった。
ハンターの信用問題になるからだ。
「それで、ブルダズルダの街の衛兵よりも、早く、覚醒者を捕まえると……」
資料には覚醒者の特徴が記されていた。
「名前はノゾミ。緑色のふわゆるくるくるの髪が特徴的。美少女。胸が……残念!? なにこの、資料!」
思わず資料を叩きつけるミノリ。
後でこのふざけた資料を作った奴を痛めつけようと心に決める。
「美少女を探す依頼、誰か受けませんかぁ!」
●???
幾何学模様が美しい角を持つ歪虚がある知らせを読んでいた。
「討たれたのか……クラベル……愚かな」
「お、お知り合いなのですか?」
とある街の領主がオドオドとしながら訊ねた。この知らせを持ってきた張本人だ。
彼は貴族に広がるネットワークから得た情報を、歪虚――ネル・ベル――に伝える役目を持っている。
「知り合い? そうだな……そんな、所だな。敵を侮り、鍛錬を怠った結果、敗れた者の存在など」
一方、歪虚自身は更なる高みを目指している。
王国北部の街で得たマテリアル。配下の歪虚ズールの上納。ハンター達との戦闘。
経験とマテリアルを得て、歪虚は強くなっていく。その成長スピードはハンター達に劣ってはいないはずだ。
「私はもっと強くなる。私なりの方法でな」
歪虚は高らかな笑い声をあげた。
リプレイ本文
●縁
「……分かった。次の定時でな」
全身を覆うマントの中でトランシーバーを使い連絡をしているのはジルボ(ka1732)だった。
彼は一見すると旅人のような装いをしている。
「どうでしたか?」
横に並んでいたマヘル・ハシバス(ka0440)からの質問に彼は首を横に振った。
現時点では有効な情報がまだ集まらないのだ。
それでも――と、マヘルは空を仰いだ。
ノゾミと出逢って半年。少女が歩んできた道、そして、行く先。霞の様に消えてしまう少女の影をようやく掴めた。
(やっと追いつくことができました。あなたは捕えさせてもらいます)
少女の似顔絵をみつめてマヘルは諦めない。
その絵はジルボが用意したものではなかった。
「絵があるなら、そう言ってくれれば良かったのによ」
少し不満そうに呟くジルボ。記憶や友人の協力を得て描いてみたのだが、思ったように描けず、逆に笑いを呼んでしまった。
今、二人が持っている絵はジルボが模写したものであり、元々の絵は、ある依頼でハンター達が入手したものだ。
「恋は盲目。殺せよ乙女。もう立派な犯罪者だよな。ま、野放しにした責任は取らなきゃな……」
思えば、港町での洞窟での戦闘の際に救出しきれなかった所から続いている縁だ。
いや――と、ジルボは目を細めた。
昨年、狼煙台での戦いで歪虚ネル・ベルを討ち逃した事から始まった事なのかとそんな思いが過った。
だとしたら……そのケジメはプロとしてつけなくてはいけない。
「市場では少女を見かけた人がいないという事は、やはり……」
マヘルが考えるように口元に手を当てた。
人間である以上、食事は欠かせないと予想して聞き込みしていたが、市場でも大通りでも有力な情報を得られなかった。
「人を使って仕入れている可能性はあるな」
ジルボがマヘルの言葉の後を続けた。
ノゾミ本人も警戒しているはずだ。
「『悔恨の壁』?」
いくつか商人に聴き取りを行っているうちに、ある商人の言葉をジルボが疑問形で返した。
「そこで、怪しい少女に声をかけられたっていう行商が居てね。怖くて逃げてきたって話さ」
商人の話にマヘルとジルボは思わず目を合わせる。
「ノゾミさんが港町や古都で事件を起こした時、怪しい場所だったという事を聞いたような……」
「俺も事件をずっと追って来たわけじゃないが、なにかの手掛かりにはなるかもな」
真剣な表情で考え込むマヘルを横目にジルボは、トランシーバーを手に取った。
●いわくつきの場所
(カードの力と、ルンルン忍法で、絵で見た少女を衛兵さん達よりも先に捕まえちゃいます!)
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が自信満々に豊潤満々な胸を張った。
これが格差かと思いつつ、外套を羽織った小鳥遊 時雨(ka4921)がフードの奥から嫉妬にも似た視線を向ける。
「それにしても、あんなに効くとは思わなかったよ」
「時雨さん、ナイスなのです☆」
歓楽街から正門に向かう途中、領主の館前で声をかけてきた街の兵士達に時雨が言ったのだ。
ノゾミの事は囮で、歪虚が屋敷を狙っているのではないかと。
兵士達は慌てて屋敷に入っていったので、多少は時間を稼げただろう。
「ここの領主さんは評判最悪って聞くもの、そんな所で捕まったらどんな事になるか……」
ルンルンが何度も頷きながら、胸を揺らして呟いた。
実にけしからん……事になりそうだねと時雨はジト目を浮かべていた。
「行きましょう、時雨さん。匿名係の出番です……捜査の基本は足なんだからっ!」
「変装もバッチリだから、ね!」
ノゾミに容姿を知られている時雨は、そういうわけで外套を羽織っていたわけだ。
街の正門で聞き取りをしていた二人は、王国兵の姿を見かけた。
「やっほー! アルテミス小隊のみんな!」
時雨が元気に呼び掛ける。
歓楽街で偶然にもアルテミス小隊員らと出逢った時雨達は情報交換をしていた。
結局、歓楽街で思う様な成果は見られなかったのだが……。
「これは、時雨さんと、ルンルンさん。捜査はどうですか?」
「これからです♪ これ、どうぞです!」
ルンルンが王国兵にパンと牛乳を渡す。なんでもリアルブルーの事件捜査では必須なアイテムらしい。
「あ、ありがとうございます。そういえば、この街には怪しい場所があるっていう情報を聞きましたよ」
「怪しい場所?」
首を傾げる時雨。
治安の悪いこの街のあちらこちらが既に怪しいのだが、そんな中でも更に怪しいというのだろうか。
「え? なになに? 手掛かりですか!?」
色々と身体を揺らしてルンルンが詰め寄る。
思わず王国兵の視線がある一点に向いて話しが止まってしまう所で、時雨がハリセンを静かに取りだした。
大慌てで王国兵が咳払いする。
「港町では『恨晴石』。古都では『嘆きの橋』と、いわくつきの場所が少女の活動場所かもしれないのです」
「なるほどです! つまり、この街でもそういう場所があれば!」
ポンと手を叩いたルンルン。その反動で胸が(略
「そこに居る可能性があり得る……よね」
時雨も手を叩くが、色々お察しの中、代わりにトランシーバーが揺れた。
そして、スピーカーに耳を当て仲間から連絡を聞いた時雨がキリっとした表情をルンルンに向ける。
「ビンゴだよ!」
●罪科の行方
「J・Dさん、どう思いますか?」
住宅街で聞き込みを続けていたUisca Amhran(ka0754)がJ・D(ka3351)に声をかけた。
どうとは、二人が得た情報の数々であった。広場では、少女と良く似た人物の目撃例。そして、住宅街で聞いた財宝の噂。
「フレッサ領から強奪された財宝の一部がこの街に流れてるっつーのは、怪しい限りだな」
「前の依頼で手に入れたこの街の宿や酒場の一覧……フレッサ領からの財宝……そして、ノゾミちゃん……」
Uiscaの脳裏にある歪虚の姿が浮かんだ。
「ノゾミちゃん、善悪の判断がついてない……のかな? 育った環境のせい? イケメンさんの負のマテリアルの影響?」
いずれにしてもあの歪虚が影響を及ぼしているのは明らかだ。
「歪虚と言えど、ノゾミの生きる希望には違いあるまい。しかし、人に仇為すなら歪虚は倒さねばならない」
サングラスの位置を直しながらJ・Dは静かに呟いた。
ノゾミという少女にとって、その歪虚が、欠かせない存在なのは、仲間の話や報告書で確認した。ただ、歪虚は歪虚。仇をなしている以上、いつかは倒さなければいけないだろう。
「それが為された時、歪虚を喪う絶望は、彼女を殺すだろうか」
「そんな事はさせません。ノゾミちゃんは、もう、一人じゃありませんから」
孤独は人を殺す。
だけど、少女は一人ではなくなった。
「だからこそ、これ以上、罪を重ねさせるわけにはいきません」
Uiscaの決意の言葉が夕日の中へと消えていった。
「俺に、できる事は、今、手足を動かすべき事……だな」
ノゾミの目を覚まさせ得るのは自分ではないと思ったJ・Dの台詞。
少女を救う事ができる者達に託す為にも、今は逃がしてはならないのだ。
二人は住宅街での探索を続けていた。
J・Dの目論見通りというべきか、ある屋敷の話しが耳に入った。
「幽霊屋敷と呼ばれていた古屋敷が買い取られた話しは当たりかもな」
その場所を教えて貰い、彼は口元を緩めた。
「いよいよですね」
Uiscaの台詞に力強く頷く。
仲間達からの連絡で、『悔恨の壁』といういわくつきの場所があるという話しは耳に入っていた。
そして、幽霊屋敷の一角は、崩れて壁が露出しているらしいのだ。
後にも先にも行かなくなり絶望した人が訪れそうな場所は、ノゾミが過去に姿を現していたと思われる場所と共通性がある。生きる事に絶望した人を、滅亡へと導く力を渡すにはうってつけの場所なのかもしれない。
「ノゾミちゃんが歪虚にされてないのは、まだ完全に絶望してないから……かも?」
力を与えている方の少女が、生身の人間でいるという事に、ふと疑問を浮かべるUisca。
「もしくは、『人間でいさせる事の意味』があるかもな」
J・Dが冷静な装いで応えた。
歪虚ズール、歪虚シャルといったネル・ベルの配下は、つい最近まで人間であった。
「よし、仲間達に連絡して集合するか」
トランシーバーの電源を入れた。
●悔恨の壁
屋敷の一角が崩れ、壁と床が剥き出しになっているその場所にハンター達がやってきた。
Uiscaが、今にも崩れ落ちそうな壁際へと進み出る。
「ノゾミちゃん、皆のノゾミ叶えて回っているんだよね? 私のノゾミも叶えてくれる?」
ガタン。
横際から、青黒いドレス姿の緑色の髪を持つ少女が姿を現した。
「……Uiscaさん、どういうつもりですか?」
その声は、悲しみを帯びながらも、どこか、怒りを感じさせていた。
「重い病の子を助けたいの。貴方の恋の病、重症だよ。それは恋に恋しているだけ……」
「応援して下さったのは、Uiscaさんですよ」
少女の言葉に、Uiscaは首を横に振った。
「因果が巡って、貴方もオキナさんもイケメンさんも、ノゾミを叶えた人と同じく破滅するよ」
「……行きつく先が絶望なら、変わらないです……よ!」
間合いを詰めようとしたUiscaに向かって、手から落とした壺を蹴り上げるノゾミ。
「ノゾミちゃん!」
悲痛なUiscaの叫び。
本来なら、隠していたロープで捕縛するつもりだったのだが、目論見通りにはいかない。
払い避けた壺は壁に直撃すると、乾いた音を立てて脆く割れた。
「出てきやがったか」
即座にジルボがマテリアルを込めた銃撃を放つ。
狙い通りスライム状の雑魔の動きを止める。
ノゾミが宙に光り輝く三角形のマテリアルを創りだした。
だが、迸った光はか細く、威力があるとは思えない。
「恐ろしいお嬢ちゃんだな」
J・Dがそんな事を言った。
覚醒者としての力ではなく、用意周到で、思いっきりの良い所に、だ。
少女が放ったデルタレイはハンター達ではなく、周辺に置いてあった壺を、それぞれ直撃した。割れた壺からスライム状の雑魔が出現する。
「ノンノン、確保頼んだー!」
時雨が叫びつつ、ジルボやJ・Dと同様、冷気の纏った射撃を放って、スライム状の雑魔の動きを止めた。
「……さようなら、皆さん」
ノゾミはそう言い残して垂直にジャンプする。
(まさか、ハンターオフィスが動いていたなんて……オキナさんが居ないと情報がまったく入ってこない)
とりあえず、今は逃げないとと思いながら機導術を用いて靴底からマテリアルを噴出する。
「ノゾミちゃん! 待って!」
スライム状の雑魔を一撃で粉砕したUiscaが声をあげるのを見届けながら屋上に着地するノゾミ。
Uiscaの呼び掛け自体が罠とは気がつかなかった。逃げ出そうと振り返ったノゾミの視界一杯にマヘルが迫っていたからだ。
「悪いですけど眠っていてもらいますよ」
ノゾミが機導術を使う事は予測していたマヘルは先廻りして建物の屋上で待ち構えていた。
魔導槍を横に持ち、一気に距離を詰め、少女に柄を押し当てるようにエレクトリックショックを放った。
「さすが、マヘル様です」
痛みと痺れに耐えながらノゾミが魔導ガントレットを振り上げた。
反撃が来ると思い、身構えるマヘル。ノゾミの動きは緩慢だ。どんな一撃が来ても耐えれば次、確実に押さえにいけるはず。
「ここ、で、超重練成、ですか」
マヘルは絶句した。
今にも崩れそうな屋敷に巨大化した格闘武器の一撃が入るという意味は――。
ぐらりと大きく屋敷が揺れた。虚を突かれたマヘルは落ちないように耐えるのが精一杯だ。
「本当にさよならです」
ノゾミが立ち去ろうとしたその時だった。
符があたりを舞ったと思った次の瞬間、屋根の上というのにノゾミの足元が泥状になった。
「その動きはまるっとお見通しだもの……ここで、フィールドトラップ発動。ノゾミさん、大人しく私達に捕まってください!」
ルンルンの声が響いた。
彼女が放った符術だ。ルンルンが事前に式神を使って、周辺の地形を確認。
退路を予測していて待ちかまえていたからだ。
ノゾミは周囲を見渡す。正面も背後も囲まれ屋根の下左右も囲まれている。逃げ場は無い。
「……ここまで、みたいですね」
諦めて座り込んだ。
●捕縛
「もー。逃げることないし、壷パリーンすることないじゃん?」
時雨が、ルンルンとマヘルに両脇を固められながら姿を現したノゾミに駆け寄った。
「……時雨さん」
時雨はノゾミをギュッと抱擁した。
そして、耳元で告げる。
「……ずっと、会いたかったよん。心配したんだから」
「私を?」
「そうだよ! どんなノゾミだって……私は、ずーっと友達だから」
ノゾミの瞳に涙が浮かんだ――ように見えた時だった。
「囲まれています!」
「誰ですか!」
Uiscaとマヘルが警戒の声をあげる。
「あ! この街の兵士さん達ですね!」
ルンルンが言った通り、ハンター達をぐるりと囲んでいるのは、ブルダズルダの街の兵士達であった。
50人以上はいるだろうか。槍の穂先を向けている。
「その娘を寄こせ! ここは、我らが街だ!」
兵士達が叫ぶ。
「横取りか、そうなるとは思ってたけどな」
「痛い目に遭いたいらしい」
ジルボとJ・Dは銃を構えたまま臨戦態勢だった。
最後まで警戒を怠っていない二人だからこそだろう。
「貴族に刃向かう事は、すなわち、王国に対する反逆だぞ」
「俺達はハンターオフィスからの依頼でここにいる」
兵士の脅しにジルボが胸を張って主張した。
「こいつらも、歪虚の仲間か!」
「やれやれ、困ったもんだ。本当に痛い目に遭わないと白黒わからないみたいだな」
隊長らしい兵士の言葉に、J・Dが余裕めいて応えた。
まさしく、一触即発。
ノゾミに抱きついている腕に力を入れる時雨。
伝えたい事は沢山ある。それなのに、こんな所で別れたくない。
不穏な空気に包まれた中――颯爽とアルテミス小隊が割って入ってきた。
「第13独立小隊国内潜伏歪虚追跡調査隊だ。容疑者の身柄は、我々が預かる」
「なんだ余所者が!」
「調査が終わるまで、この街からは出ない。それでいいだろ!」
小隊員の言葉に兵士達は怒りを露わにしながら捨て台詞を吐いて立ち去っていく。
十分に兵士達の姿が見えなくなってから、小隊員がハンター達に向かって言った。
「悪いが、君達にも従ってもらう事になる……もちろん、少女に対して手荒な事はしない」
ノゾミは無言のまま、時雨を押しのけると小隊員に近付いていく。
少女の名を呼んだ時雨に向かって、振り返ったノゾミの顔は――微笑を浮かべていた。
こうして、歪虚の協力者と思われる少女ノゾミの捕縛に成功した。
なお、捕縛に関してハンター達の活躍の大きさを鑑み、制限付きでハンター達の面会が許可される事が決まったのであった。
おしまい。
「……分かった。次の定時でな」
全身を覆うマントの中でトランシーバーを使い連絡をしているのはジルボ(ka1732)だった。
彼は一見すると旅人のような装いをしている。
「どうでしたか?」
横に並んでいたマヘル・ハシバス(ka0440)からの質問に彼は首を横に振った。
現時点では有効な情報がまだ集まらないのだ。
それでも――と、マヘルは空を仰いだ。
ノゾミと出逢って半年。少女が歩んできた道、そして、行く先。霞の様に消えてしまう少女の影をようやく掴めた。
(やっと追いつくことができました。あなたは捕えさせてもらいます)
少女の似顔絵をみつめてマヘルは諦めない。
その絵はジルボが用意したものではなかった。
「絵があるなら、そう言ってくれれば良かったのによ」
少し不満そうに呟くジルボ。記憶や友人の協力を得て描いてみたのだが、思ったように描けず、逆に笑いを呼んでしまった。
今、二人が持っている絵はジルボが模写したものであり、元々の絵は、ある依頼でハンター達が入手したものだ。
「恋は盲目。殺せよ乙女。もう立派な犯罪者だよな。ま、野放しにした責任は取らなきゃな……」
思えば、港町での洞窟での戦闘の際に救出しきれなかった所から続いている縁だ。
いや――と、ジルボは目を細めた。
昨年、狼煙台での戦いで歪虚ネル・ベルを討ち逃した事から始まった事なのかとそんな思いが過った。
だとしたら……そのケジメはプロとしてつけなくてはいけない。
「市場では少女を見かけた人がいないという事は、やはり……」
マヘルが考えるように口元に手を当てた。
人間である以上、食事は欠かせないと予想して聞き込みしていたが、市場でも大通りでも有力な情報を得られなかった。
「人を使って仕入れている可能性はあるな」
ジルボがマヘルの言葉の後を続けた。
ノゾミ本人も警戒しているはずだ。
「『悔恨の壁』?」
いくつか商人に聴き取りを行っているうちに、ある商人の言葉をジルボが疑問形で返した。
「そこで、怪しい少女に声をかけられたっていう行商が居てね。怖くて逃げてきたって話さ」
商人の話にマヘルとジルボは思わず目を合わせる。
「ノゾミさんが港町や古都で事件を起こした時、怪しい場所だったという事を聞いたような……」
「俺も事件をずっと追って来たわけじゃないが、なにかの手掛かりにはなるかもな」
真剣な表情で考え込むマヘルを横目にジルボは、トランシーバーを手に取った。
●いわくつきの場所
(カードの力と、ルンルン忍法で、絵で見た少女を衛兵さん達よりも先に捕まえちゃいます!)
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が自信満々に豊潤満々な胸を張った。
これが格差かと思いつつ、外套を羽織った小鳥遊 時雨(ka4921)がフードの奥から嫉妬にも似た視線を向ける。
「それにしても、あんなに効くとは思わなかったよ」
「時雨さん、ナイスなのです☆」
歓楽街から正門に向かう途中、領主の館前で声をかけてきた街の兵士達に時雨が言ったのだ。
ノゾミの事は囮で、歪虚が屋敷を狙っているのではないかと。
兵士達は慌てて屋敷に入っていったので、多少は時間を稼げただろう。
「ここの領主さんは評判最悪って聞くもの、そんな所で捕まったらどんな事になるか……」
ルンルンが何度も頷きながら、胸を揺らして呟いた。
実にけしからん……事になりそうだねと時雨はジト目を浮かべていた。
「行きましょう、時雨さん。匿名係の出番です……捜査の基本は足なんだからっ!」
「変装もバッチリだから、ね!」
ノゾミに容姿を知られている時雨は、そういうわけで外套を羽織っていたわけだ。
街の正門で聞き取りをしていた二人は、王国兵の姿を見かけた。
「やっほー! アルテミス小隊のみんな!」
時雨が元気に呼び掛ける。
歓楽街で偶然にもアルテミス小隊員らと出逢った時雨達は情報交換をしていた。
結局、歓楽街で思う様な成果は見られなかったのだが……。
「これは、時雨さんと、ルンルンさん。捜査はどうですか?」
「これからです♪ これ、どうぞです!」
ルンルンが王国兵にパンと牛乳を渡す。なんでもリアルブルーの事件捜査では必須なアイテムらしい。
「あ、ありがとうございます。そういえば、この街には怪しい場所があるっていう情報を聞きましたよ」
「怪しい場所?」
首を傾げる時雨。
治安の悪いこの街のあちらこちらが既に怪しいのだが、そんな中でも更に怪しいというのだろうか。
「え? なになに? 手掛かりですか!?」
色々と身体を揺らしてルンルンが詰め寄る。
思わず王国兵の視線がある一点に向いて話しが止まってしまう所で、時雨がハリセンを静かに取りだした。
大慌てで王国兵が咳払いする。
「港町では『恨晴石』。古都では『嘆きの橋』と、いわくつきの場所が少女の活動場所かもしれないのです」
「なるほどです! つまり、この街でもそういう場所があれば!」
ポンと手を叩いたルンルン。その反動で胸が(略
「そこに居る可能性があり得る……よね」
時雨も手を叩くが、色々お察しの中、代わりにトランシーバーが揺れた。
そして、スピーカーに耳を当て仲間から連絡を聞いた時雨がキリっとした表情をルンルンに向ける。
「ビンゴだよ!」
●罪科の行方
「J・Dさん、どう思いますか?」
住宅街で聞き込みを続けていたUisca Amhran(ka0754)がJ・D(ka3351)に声をかけた。
どうとは、二人が得た情報の数々であった。広場では、少女と良く似た人物の目撃例。そして、住宅街で聞いた財宝の噂。
「フレッサ領から強奪された財宝の一部がこの街に流れてるっつーのは、怪しい限りだな」
「前の依頼で手に入れたこの街の宿や酒場の一覧……フレッサ領からの財宝……そして、ノゾミちゃん……」
Uiscaの脳裏にある歪虚の姿が浮かんだ。
「ノゾミちゃん、善悪の判断がついてない……のかな? 育った環境のせい? イケメンさんの負のマテリアルの影響?」
いずれにしてもあの歪虚が影響を及ぼしているのは明らかだ。
「歪虚と言えど、ノゾミの生きる希望には違いあるまい。しかし、人に仇為すなら歪虚は倒さねばならない」
サングラスの位置を直しながらJ・Dは静かに呟いた。
ノゾミという少女にとって、その歪虚が、欠かせない存在なのは、仲間の話や報告書で確認した。ただ、歪虚は歪虚。仇をなしている以上、いつかは倒さなければいけないだろう。
「それが為された時、歪虚を喪う絶望は、彼女を殺すだろうか」
「そんな事はさせません。ノゾミちゃんは、もう、一人じゃありませんから」
孤独は人を殺す。
だけど、少女は一人ではなくなった。
「だからこそ、これ以上、罪を重ねさせるわけにはいきません」
Uiscaの決意の言葉が夕日の中へと消えていった。
「俺に、できる事は、今、手足を動かすべき事……だな」
ノゾミの目を覚まさせ得るのは自分ではないと思ったJ・Dの台詞。
少女を救う事ができる者達に託す為にも、今は逃がしてはならないのだ。
二人は住宅街での探索を続けていた。
J・Dの目論見通りというべきか、ある屋敷の話しが耳に入った。
「幽霊屋敷と呼ばれていた古屋敷が買い取られた話しは当たりかもな」
その場所を教えて貰い、彼は口元を緩めた。
「いよいよですね」
Uiscaの台詞に力強く頷く。
仲間達からの連絡で、『悔恨の壁』といういわくつきの場所があるという話しは耳に入っていた。
そして、幽霊屋敷の一角は、崩れて壁が露出しているらしいのだ。
後にも先にも行かなくなり絶望した人が訪れそうな場所は、ノゾミが過去に姿を現していたと思われる場所と共通性がある。生きる事に絶望した人を、滅亡へと導く力を渡すにはうってつけの場所なのかもしれない。
「ノゾミちゃんが歪虚にされてないのは、まだ完全に絶望してないから……かも?」
力を与えている方の少女が、生身の人間でいるという事に、ふと疑問を浮かべるUisca。
「もしくは、『人間でいさせる事の意味』があるかもな」
J・Dが冷静な装いで応えた。
歪虚ズール、歪虚シャルといったネル・ベルの配下は、つい最近まで人間であった。
「よし、仲間達に連絡して集合するか」
トランシーバーの電源を入れた。
●悔恨の壁
屋敷の一角が崩れ、壁と床が剥き出しになっているその場所にハンター達がやってきた。
Uiscaが、今にも崩れ落ちそうな壁際へと進み出る。
「ノゾミちゃん、皆のノゾミ叶えて回っているんだよね? 私のノゾミも叶えてくれる?」
ガタン。
横際から、青黒いドレス姿の緑色の髪を持つ少女が姿を現した。
「……Uiscaさん、どういうつもりですか?」
その声は、悲しみを帯びながらも、どこか、怒りを感じさせていた。
「重い病の子を助けたいの。貴方の恋の病、重症だよ。それは恋に恋しているだけ……」
「応援して下さったのは、Uiscaさんですよ」
少女の言葉に、Uiscaは首を横に振った。
「因果が巡って、貴方もオキナさんもイケメンさんも、ノゾミを叶えた人と同じく破滅するよ」
「……行きつく先が絶望なら、変わらないです……よ!」
間合いを詰めようとしたUiscaに向かって、手から落とした壺を蹴り上げるノゾミ。
「ノゾミちゃん!」
悲痛なUiscaの叫び。
本来なら、隠していたロープで捕縛するつもりだったのだが、目論見通りにはいかない。
払い避けた壺は壁に直撃すると、乾いた音を立てて脆く割れた。
「出てきやがったか」
即座にジルボがマテリアルを込めた銃撃を放つ。
狙い通りスライム状の雑魔の動きを止める。
ノゾミが宙に光り輝く三角形のマテリアルを創りだした。
だが、迸った光はか細く、威力があるとは思えない。
「恐ろしいお嬢ちゃんだな」
J・Dがそんな事を言った。
覚醒者としての力ではなく、用意周到で、思いっきりの良い所に、だ。
少女が放ったデルタレイはハンター達ではなく、周辺に置いてあった壺を、それぞれ直撃した。割れた壺からスライム状の雑魔が出現する。
「ノンノン、確保頼んだー!」
時雨が叫びつつ、ジルボやJ・Dと同様、冷気の纏った射撃を放って、スライム状の雑魔の動きを止めた。
「……さようなら、皆さん」
ノゾミはそう言い残して垂直にジャンプする。
(まさか、ハンターオフィスが動いていたなんて……オキナさんが居ないと情報がまったく入ってこない)
とりあえず、今は逃げないとと思いながら機導術を用いて靴底からマテリアルを噴出する。
「ノゾミちゃん! 待って!」
スライム状の雑魔を一撃で粉砕したUiscaが声をあげるのを見届けながら屋上に着地するノゾミ。
Uiscaの呼び掛け自体が罠とは気がつかなかった。逃げ出そうと振り返ったノゾミの視界一杯にマヘルが迫っていたからだ。
「悪いですけど眠っていてもらいますよ」
ノゾミが機導術を使う事は予測していたマヘルは先廻りして建物の屋上で待ち構えていた。
魔導槍を横に持ち、一気に距離を詰め、少女に柄を押し当てるようにエレクトリックショックを放った。
「さすが、マヘル様です」
痛みと痺れに耐えながらノゾミが魔導ガントレットを振り上げた。
反撃が来ると思い、身構えるマヘル。ノゾミの動きは緩慢だ。どんな一撃が来ても耐えれば次、確実に押さえにいけるはず。
「ここ、で、超重練成、ですか」
マヘルは絶句した。
今にも崩れそうな屋敷に巨大化した格闘武器の一撃が入るという意味は――。
ぐらりと大きく屋敷が揺れた。虚を突かれたマヘルは落ちないように耐えるのが精一杯だ。
「本当にさよならです」
ノゾミが立ち去ろうとしたその時だった。
符があたりを舞ったと思った次の瞬間、屋根の上というのにノゾミの足元が泥状になった。
「その動きはまるっとお見通しだもの……ここで、フィールドトラップ発動。ノゾミさん、大人しく私達に捕まってください!」
ルンルンの声が響いた。
彼女が放った符術だ。ルンルンが事前に式神を使って、周辺の地形を確認。
退路を予測していて待ちかまえていたからだ。
ノゾミは周囲を見渡す。正面も背後も囲まれ屋根の下左右も囲まれている。逃げ場は無い。
「……ここまで、みたいですね」
諦めて座り込んだ。
●捕縛
「もー。逃げることないし、壷パリーンすることないじゃん?」
時雨が、ルンルンとマヘルに両脇を固められながら姿を現したノゾミに駆け寄った。
「……時雨さん」
時雨はノゾミをギュッと抱擁した。
そして、耳元で告げる。
「……ずっと、会いたかったよん。心配したんだから」
「私を?」
「そうだよ! どんなノゾミだって……私は、ずーっと友達だから」
ノゾミの瞳に涙が浮かんだ――ように見えた時だった。
「囲まれています!」
「誰ですか!」
Uiscaとマヘルが警戒の声をあげる。
「あ! この街の兵士さん達ですね!」
ルンルンが言った通り、ハンター達をぐるりと囲んでいるのは、ブルダズルダの街の兵士達であった。
50人以上はいるだろうか。槍の穂先を向けている。
「その娘を寄こせ! ここは、我らが街だ!」
兵士達が叫ぶ。
「横取りか、そうなるとは思ってたけどな」
「痛い目に遭いたいらしい」
ジルボとJ・Dは銃を構えたまま臨戦態勢だった。
最後まで警戒を怠っていない二人だからこそだろう。
「貴族に刃向かう事は、すなわち、王国に対する反逆だぞ」
「俺達はハンターオフィスからの依頼でここにいる」
兵士の脅しにジルボが胸を張って主張した。
「こいつらも、歪虚の仲間か!」
「やれやれ、困ったもんだ。本当に痛い目に遭わないと白黒わからないみたいだな」
隊長らしい兵士の言葉に、J・Dが余裕めいて応えた。
まさしく、一触即発。
ノゾミに抱きついている腕に力を入れる時雨。
伝えたい事は沢山ある。それなのに、こんな所で別れたくない。
不穏な空気に包まれた中――颯爽とアルテミス小隊が割って入ってきた。
「第13独立小隊国内潜伏歪虚追跡調査隊だ。容疑者の身柄は、我々が預かる」
「なんだ余所者が!」
「調査が終わるまで、この街からは出ない。それでいいだろ!」
小隊員の言葉に兵士達は怒りを露わにしながら捨て台詞を吐いて立ち去っていく。
十分に兵士達の姿が見えなくなってから、小隊員がハンター達に向かって言った。
「悪いが、君達にも従ってもらう事になる……もちろん、少女に対して手荒な事はしない」
ノゾミは無言のまま、時雨を押しのけると小隊員に近付いていく。
少女の名を呼んだ時雨に向かって、振り返ったノゾミの顔は――微笑を浮かべていた。
こうして、歪虚の協力者と思われる少女ノゾミの捕縛に成功した。
なお、捕縛に関してハンター達の活躍の大きさを鑑み、制限付きでハンター達の面会が許可される事が決まったのであった。
おしまい。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/29 00:54:36 |
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【相談卓】過去に向き合うとき Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/12/03 00:37:53 |