ありがちな奇跡・後

マスター:月宵

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/12/04 07:30
完成日
2015/12/12 13:56

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ハンター達はとある依頼を受けた。ハンター達を救出に行ったハンター達を救出に行く。但し、途中に報告書に記載されていない歪虚の調査を兼ねて、だ。二人のハンターをどうにか助け、歪虚から逃げおおせる。それから一日が過ぎた後、ハンター達はギルド職員に呼ばれることとなった。

「改めて詳しく歪虚を調べて貰った。負マテリアルの含有量から、高確率で闘狩人セクト・ロンゲアが歪虚化したものだろうと確定した」

 肩を落としながら、小声で傷ましい事実をハンター達に突き付けた。そうなれば、彼がハンター達に何を言いたいか悲しくも予測は容易い。
「今はまだ、大広間から歪虚は出てはいない。が、何時外に出てくるかは、時間の問題だろう」
 そして、この場所、はたまた本来の依頼にあった襲撃を受けた村、
 ハンター達への依頼は、無論、歪虚化したと思わしきセクトの消滅である。
 しかし、この歪虚、一筋縄で行きそうはない。
 隻眼の青い瞳をした、一見は触手の塊のようなそれ。だが、実際は槍、弓、魔法の三形態に変わり、しかも受けた傷は高速で再生していく。このままでは、倒せそうにない。
 それは職員も理解しているようで、先ずは何よりも情報と考えた。

「助け出した二人に、出来るだけ聞いてみると良いだろう」


●舞刀士の話
 ハンター達は先日助けた舞刀士の元へと赴く。全身包帯にながら、意識はあるのか目は開いたドアを眺めてきた。
「座ることも出来ず、申し訳ない……」
 まだ動ける身体でもないのだろう。口だけを動かし、歪虚に会うまでのことを語ってくれた。
 目前の塊。穿たれ、燃やされ、なすすべもなく殺される仲間。
「魔術師が、火傷のわたしを庇って……槍が…彼女はそれでも術で気を引いて」
 魔術師、それはハンター達の看取ったあのハンターの事であった。シーツを掴む手。もし彼に他のものを掴むちからがあれば、何を握っていたのだろう。

「彼女は……うわごとのように、何か気づいて…知らせなきゃ、と」
 歪虚について、何か打開策に気付いた。そう何度も何度も舞刀士はハンター達に訴えたのだった。だが、もう本人はいない。

●機導師の話
 次にハンター達が訪れたのは、救出したうち一番軽傷な機導師を訪ねた。そこにはメティの部屋でもあり、機導師は調度発見した遺体について話をしていた。

「最初にイェーガーが溺死。次がマギステルで焼死。最後に発見したクルセイダーは…砂で生き埋めだった」
「そう、なの」
 仲間の死を直接告げられ、メティから漸く出てきた言葉がそれだけだ。顔には少しの笑み、頬は濡れていない。機導師は話を続ける。自らで淹れたであろう手元のお茶は、全く口にされずとっくに冷め切っていた。

「君達はオレらが遺体を動かしたから知らないだろうけど。遺体は何故か一部屋に一人。しかも、扉の前に居たんだ」
 まるで護る様に、と彼は自ら感想をハンター達に告げる。
 三人の遺体は一つに纏めておいたため、歪虚を倒した後にでも埋葬しようと彼は言う。
「あの……また、ついて行かせてもらえません?」
 メティが、ハンター達にそう返してきた。
「今度は城に入る、何て言いません。ただ……歪虚を倒したら、セクトの遺体を探したいの」
 それまで近くにいたいの……そう語る疾影士はまだ真実を知らないのだ。お願い、お願いと彼女はハンター達が部屋を出るまで願うのであった。
「なぁ」
 メティの部屋を出て暫く歩いていると、機導師がハンター達に声をかける。
「これ、見たか?」
 折れた腕を添え木で支えながら。手に報告書を携えていた。それには前回ハンター達が確認した歪虚の詳細が書かれている。
「何か違和感があるんだ……」
 明確には言えない何か。もどかしそうに頭をかいた後、更にハンター達に質問してきた。

「あの歪虚、強かったよな。なぁ、自然に雑魔になったらあんなに強くなるものか?」
 言いようのない不安、不可視のなにかを食したような息苦しさ。歪虚戦闘したからこそ、そんなことが思えるのだろうか……
 やっぱいい、単なる気のせいだろう。機導師はそう言い直す。そして、改めてこう口にした。

「オレ達はただ依頼で集まっただけの関係だ。だが……あいつらの仇討ってくれ」

リプレイ本文

 セクトと決着をつけるその前に、ハンターはあることを行うことを全員で決めていた。発された言葉に疾影士のメティは目を見開きつつも、詰まらせた言葉をゆっくり吐き出した。

「……そう……」
 行うこと。それは、セクトが歪虚化したと言う真実を告げることであった。酷な事実を隠したまま、肉親をハンター達に殺されるなどと言う悲劇をなくすためだ。この真実が誰のためか、あまり考えたくはないが。

「……驚かないの?」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)がメティの反応に訝しむ。メティは皆さんの空気でわかります、と小さく微笑む。無論、これは無理矢理口元をあげたもの。動揺していないワケもない。
 だが、アルトのやることは代わらない。セクトが大切なものに手をかける前に葬る。それだけだ。

「ちょっと、教えてはもらえないか?セクトはどんな弟だった?」
「とても、責任感が強いの。色んなもの背負ってしまう……優しい弟よ」
 彼女の名はフルルカ(ka5839)だ。セクトに安らかな眠りを望む彼女は、メティの気持ちを落ち着かせるため彼女の話を聞くことにした。

「なァ。青い眼は『二つあった』ンじゃねェか?」
「それだ! そうだよ、何で隻眼って思ったんだ」
 万歳丸(ka5665)は改めて機導師に話を聞いた。彼の言う報告書の違和感が気になったのだ。先程の一言に、万歳丸は再生しなかったのは、それが弱点属性であると感付いた。
 それは前回戦闘に参加していたディヤー・A・バトロス(ka5743)もに気付いていた。自分ごときの弱い魔法で声をあげるのは、何か理由があるのだと。
「歪虚というより実験動物のようじゃったか?」
 ディヤーがもう一つ気になったのは、あれだけの歪虚が生まれたにもかかわらず、気配が他になく、伝話も届かない。まるで周囲のマテリアルをその場に収束させたかのような、そんなものではないのかと問う。

「いや、あれはよくある障害物による障害だろう」

 機導師は首を横に振った。廃城の障害は彼が聞いた話じゃ、歪虚が出現する前々から障害はあったらしい。構造的なものじゃないかと、彼は語った。

「うむ、そうか。後、遺体の様子や部屋の構造も教えてくれぬか?」
 ならば、通信の障害は今回の件とは関係ないと考えた方がよさそうだ。そう思いディヤーは新たな方面から考えを巡らせることにした。

「彼は、あんたに会いたがってた。勿論、来てくれるわよね?」
 牡丹(ka4816)のメティへ向けた力強い台詞には、もはや肯定以外の意味を含んでいない。その傍らにて、クアンタ(ka4214)は不安そうにメティを見つめていた。ハンターとして、未だ足を引き摺る彼女を同行させたくはない。危険だからだ。
 だが、同時に姉としては肉親に会わせてあげたいとも考えていた。自分だって逢いたいのだから……

「俺達はお前の弟の命を確実に奪うことになる。だから、弟の最後を見届けたい、真実をその目で確かめたいってんなら付いて来い」
 戻ることは出来ない。エヴァンス・カルヴィ(ka0639)の言葉に、メティはうなずいた。

「…落ち着いたか? じゃ、行こうじゃねェか」


 ハンター達はメティを連れて廃城まで訪れる。前回と同じ歪虚が、天井に同じようにはりついている。
 だが、目的も全く異なる。
 古川 舞踊(ka1777)は、そっと視線をメティに向ける。天井のセクトを仰ぎ見、視線はそらさない。今のところ、セクト消滅の妨害をする気はないことに、息をついた。自分が彼女に何かをする必要はなさそうだ、と。今はまだ、という可能性は否定できないが。

『舞踊さん、聴こえ…ます?』
 短伝話からクアンタの声が聴こえる。伝波増幅を行った伝話は、地下通路側にいるクアンタの声を届ける。場所が近いからかノイズは殆んどない。
『形跡はありませんね』
『……そうですか』
 強すぎる歪虚化に、万歳丸同様、舞踊とクアンタも親玉の存在を感じていた。
 もし、地下通路に何者かが来たらわかるよう、クアンタは黒い糸を張り巡らせた。

『確認しましたが、此方も遺体に異常はありませんでした』
 舞踊はクアンタに頼まれ、三人の遺体を確認していた。遺体と似たスキルをセクトが行使するなら、遺体もまた変化があったのでと考えたのだ。
 しかし、広間前にあった連なった部屋にあったとされる三人の遺体には、変化はなかった。

『わかりました。確認ありがとうございます』

 舞踊は短伝話の一つを、メティに持たせ彼女は大広間の扉の影で待機した。
「お願いしますわ」
「……ええ」

 両方の扉が同時に開き、ハンター達が次々と流れ込んだ。部屋に響く巨体が生み出す轟音が、決着の開始を告げてきた。青い一つ目が煌々と正面組を照らす。

(平常心、平常心)
 自らに暗示をかけつつ納刀状態で、牡丹がセクトの元へ駆ける。
「触手って一本ならともかく複数集まるとどうしてこう…すごく気持ち悪いんですかね…」
 弾を込めながらアメリア・フォーサイス(ka4111)がぼやく。コルネリア・S(ka5302)はシールドを構える。自分は、恐らく弱点であろう属性武器を持ち得ない。しかも、相手は死者の能力を使うカウンター持ちと聞いた。ならば、出来ることは仲間を護ること、それだろう。
 シールドを栄えるように、片手にくまんてぃーぬを嵌めながら彼女は時を待った。

 最初に場が動かしたのは、アルトとエヴァンスの二人。これもフルルカの禹歩のおかげだろう。
 縮地を利用し、振動刀にてアルトが低音を響かせ背の触手を切り払ってゆく。
「くっ」
 しかし、セクトは逃げる暇を与えず楯にて、彼女に当て身を食らわせて転倒を促す。
「まだ意思が残ってるってんなら、一瞬でも攻撃をやめて少しは思いを見せてみろ!」
 風属性の武器テンペストにて、チャージング。勢いよく背後より斬りかかる。青い目の辺りを狙いたいが、背後からではそれは適わない。刃を引き抜き抉れた傷口を凝視するエヴァンス。
 だがそれは時を巻き戻した様に、触手か新たに埋め尽くされていく。それは、アルトが与えた傷も同様に、だ。
 風属性は弱点ではないらしい。

「はぁ!」
 牡丹が鞘から抜いた刀より、刹那の迅雷にて触手を狙うが体躯を捻らせて回避される。
「は…早いっ」
「援護します!」
「合わせますね」
 アメリアの制圧射撃。触手の足元を六発の破裂音が響き、その後ろで、クアンタがニョルニルをあらぬ方向へ放り投げる。
 同時に発される騒音の壁に挟まれ、セクトは一瞬動きを止めた。聴覚を頼りにしているセクトにとっては、過酷なものなのだろう。
 その隙を狙い、万歳丸が鈍い音を響かせ、棍棒をめり込ませる。蒸発音と共に触手はその部分だけ減少していく。
「《因果応報》……叶わねェ願いを願っちまったのがてめェの罪だ、セクト」
 何となくだが、万歳丸には『それ』が解ってしまっていた。

「そのカタチの弱点、確かめさせてもらおうぞ!」
 ディヤーは、遠くよりアースバレットを打ち込んでゆく。自らの魔力では、それも微々たるものであるのもわかっている。実際嫌がる素振りを見せるように、触手を振り回す程度で終わった。

 しかし、隙は一瞬のもの直ぐ様、巨大な槍がアルト達に襲い掛かった。万歳丸、アルト、コルネリアは身体を浮かせ、風圧のみに衝撃を抑えるが……

「危ない!」
『セクト、もう止めて!』
 歪虚に気圧されたのか指が動かない牡丹。危機の目前に現れたのは舞踊であった。
(まだ障壁は!)
 彼女はシールドに素早くマテリアルを反応させ、攻撃に備える。
「うっ」
 よりによって頭部に攻撃を受けるも直撃は免れた。それでも、黒髪に血が滴る程の傷を残したのだ。

(攻撃の精度が上がっているの!?)
 前回より強い攻撃に牡丹は驚愕する。ある意味『歪虚』なら当たり前のことだが。

 まだセクトの攻撃は終わらない。次に狙われたのは、コルネリアだ。胴を突かんとし構える一撃を、彼女は真っ直ぐ見据えながら受け止めきった。

「自分に……できることは、これだけなんだ」
 そう言ってから、頭を押さえ後退する舞踊を庇うようにコルネリアは楯をまるで鉄壁のように構えた。歯をきしり、と軋ませた音を背後に感じながら。

『アタシ来たから、もう……やめてよ』

 フルルカは結界術をかけた空間に、クアンタの伝話からメティの声が聴こえる。もしセクトが少しでも、意思に抵抗しているなら、と考えたが。
「今、声が届かなくてもてめェが傷つく必要はねェ
いつか届く」
 ただ虚しく、セクトの行動は変わることはない。ただ遅かったのだ……

「声が、聴こえないんですか!?」
 リロードを終えたアメリアの銃弾が、セクトに食い込み凍らせ始める。
 少しでも再生を止められればと考えたが、氷の奥から突き出す触手は無情だ。
 が、地属性の攻撃は徐々に削りゆく。
「ハァ!」
 それ以外の攻撃も、効果がないわけじゃない。セクトの回復力を大幅にこえれば、傷はつけられることがわかった。
「二度もかかるか!」
 襲ってくる盾を掻い潜り、アルトの蓮華が頭を穿つ。さまざな攻撃を試してみたが、どうやら斬ったり突いたりしても、それが特別弱点ということでは無いらしい。やはり弱点は仲間の死因となった、その属性で間違いないのだろう。
(それでも、セクトが大切な人を手にかける前にボクに出来るのは、滅ぼすことだけだ)
 それが悔しいとは思わない、当然のことなのだ。
 次の瞬間。セクトの槍と盾が引っ込み、杖が出現した。

「これでどう!」
 クアンタが魔導拳銃を持ち、杖をもった触手に撃ち込み引き千切ろうとした。が、触手に銃弾は弾かれてしまう。
「力…足りないか」

「来るぞっ!」
 変化の瞬間を見極めていたディヤーは、いち早く反応を見せた。何よりも過酷なのは、この魔形態の火炎球なのだ。まだ人として魔術師として若輩だが、こうして形態を誘引し2人の先輩魔術師が造った道を繋ぐことはできるのだから。

『もう、やめて……』
 禍々しい杖より雷が一直線に走る。その先には、またもや牡丹。
「牡丹さん」
「危ないぞ!」
 動けない牡丹の前に障壁と瑞鳥符が発動された。しかし、雷は光の鳥を掻い潜り、衝撃に壁は光の破片となる。
「うぐっ」
 鞘を杖代わりに、焼ける痛みを牡丹はこらえる。

 瞬時にエヴァンスは、武具を切り替え一刀両断せんと斬りかかる。それはただ、炎の線だけを描くのみに終わったが。
「クソッ」
 次いで撃たれた雷を万歳丸は素早く避けて攻勢に回る。
「覇亜亜亜亜ッ!」
 拳に纏う螺旋様の炎の渦が、触手を穿った。今までとまるで違う柔い手応えに、くぐもったヒトの声が万歳丸の鼓膜に響く。

「皆と……く束…守…と」
(ア? みんな?)

 ディヤーは別のことを気にかけていた。これは偶然なのか、と考えていた。
(まさか…セクト殿)
 扉の後のメティ、そしてクアンタに視線を移してから少年は静かに顔を伏した。
 再びの牽制射撃を行うアメリア。しかし、そう何度も幸運は続かないようだ。攻撃は放たれ続けられ、氷は触手に飲み込まれた。
 セクトの触手は、既に半分まで体積を減少させていた。しかし、まだ触手は脈動し弓矢を型どり始める。
 変化のタイミングを見ていたエヴァンスは、規則性こそ見つからなかったものの、一つの事に気付いた。どうやら、同じ形態には長いこといられないらしいのだ。
(これが何を意味するか、俺にはわからないがな)

 矢じりは地下通路組に向いていた。

「だめっ、そっちは」
 フルルカに一発、しかしそれは陽動であった。野生の瞳を用いて、気付いたクアンタが声をあげる。
「しまっ――」
 それが囮と気付いた時、彼女には鳥を喚ぶのが精一杯であった。足を縫い止める一撃に激痛がはしる。舞踊の防壁もセクトに視界が邪魔され、間に合わなかったのだ。
「フルルカさん!」
 声に気を取られたエヴァンスにも、引き絞られた矢が飛ぶ。脚部へ飛んでくる矢を彼は蹴飛ばした。
「この!」
 微かにだが、覚える痛み。

「姉さ……ン゛」
 言の葉がまるで鳴き声のように響き渡る。どうしてこんなことに、そう思っても今更仕方ない。

「……っ」
 重く響く音。
「もう、止まって下さいっ!」
 銃声。
「戻ってこい、セクト殿!」
 炸裂する水音。

 しかし、ことごとく、避けられた。まるで使命を果たさなければ、と悪あがきを行う。主人公の意地のようにセクトはその身を回転させる。

 一瞬の停止。万歳丸の拳が、突き刺さり冷気に凍てつき、触手が溶けてゆく。そして、力の限り叫んだ。

「今だ、決めろォ!」
 唯、エヴァンスは大きくソードを振りかぶった。ブチブチと触手を切り裂きながら、彼は生命の停止を柄から感じとった。同時に、傷口に埋まる何かが彼の目に止まる。
(……槍?)
 それは、セクトの所持していたものではない。そこまでわかったが、その瞬間それは靄のように霧散した。
「何だ今のは」

「セクトォ!」
 エヴァンスが改めて確認すると、そこには触手が剥がれヒトの姿をしたものが出てきた。だが、針金の様にネジ曲がった骨格が既にそれがヒトでないことを教えてくれる。
 駆け寄るメティを、もはやハンター達は誰も止めなかった。片足を引き摺り、瓦礫を巻き込むのも気にせず彼女は歪虚の肩を抱えた。

 潰された青い瞳を抉じ開け、歪虚はこう口を開閉させた。

「ただいま」

 メティの手の中で、灰が舞って散った……掌には粉すら残らない。これが、歪虚化したものの末路というものだ。

「ア……い、イヤァ――――」

 背後に水を含む疾影士の叫びを聞きながら、クアンタは両手で顔を覆った。
「わたしは、生きて弟と、会えるかな…?」
 それがいつかの自分の姿にならないことを祈って……


 結局、地下通路には誰も現れなかった。黒い糸を回収し、ハンター達は、メティを送った後、何人かで廃城を調べることにした。
 牡丹はくまなく廃城を探した。もしかすると、セクトの遺体が別に残っているかもと考えたからだ。
「なかったけどね。わかったのは、三人の遺体に戦ったような傷とその傷が各扉にもあったってだけよ」

 牡丹の説明に万歳丸は、真相を察したの。セクトには四人分の想いが、のしかかっていたのだと。
 しかし、そうだとしたら……

「…良い趣味してるぜ」
 どこまで理解していたか知らないが、と親玉を苦々しげに彼は皮肉る。

「ん、何?」
「いや、元々城に居た人間は、ただ何処に消えちまったんだろうなァ」
「や……やめてよ」
 書斎を調べていた牡丹は、背中に嫌な汗が伝い言葉尻が震える。
「ほら、あそこだ」
 冗談そのまま万歳丸が指を指すと、風もなく落ちる棚。まあ、ただ木が腐っていただけなのだろうが……
「キャァァァァァ~!」
 色々限界だった牡丹には、それだけで口から色々なものが飛び出してしまったようだ。


「想い…ワシは通じていたと思うぞ」
 先に帰りアルト達が遺体を埋葬していると、メティに向かいふとディヤーが言った。
「ん、しかし反応は……」
 コルネリアに手当てを受けながら、フルルカが悲しそうに言う。それは通信の言葉のことだろう。戦闘は続いた。待ち望んだメティがそこに居ても、だ。
「火の玉が来なかった。それだけじゃが、ワシにはわかるのじゃ」
「そういうこと」
 前回の参加者より、今回はセクトは前より強くなっていたとアルトは先程聞いた。ならば、火炎の範囲が広間の外まで広がっていてもおかしくないのだ。

「もし放っていたならば、メティさんにも被害はあったかも知れませんね」
 舞踊の言葉にメティは、静かに墓の前で蹲る。その感情を舞踊には読み取ることは出来なかった。

(同じ弟なら、姉上は守りたいもの)
 じゃろ、と四つの簡素な墓にまるで語りかけるように、ディヤーは笑みを浮かべたのであった。



●遥か先

「クフフ、オイオイあっという間かよ! 折角オレ様が願い叶えてやったのによ」

 今回の出来事は、それこそ長い戦いの単なる序章にもならなかった……かも知れない。

依頼結果

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MVP一覧

  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィka0639
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • 君じゃない君
    クアンタka4214
  • パティの相棒
    万歳丸ka5665

重体一覧

参加者一覧

  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 咄嗟の護り手
    古川 舞踊(ka1777
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 君じゃない君
    クアンタ(ka4214
    人間(紅)|14才|女性|霊闘士
  • マケズギライ
    牡丹(ka4816
    人間(紅)|17才|女性|舞刀士

  • コルネリア・S(ka5302
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 鉄壁の機兵操者
    ディヤー・A・バトロス(ka5743
    人間(紅)|11才|男性|魔術師

  • フルルカ(ka5839
    人間(紅)|13才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/30 23:46:11
アイコン ありがちな奇跡
万歳丸(ka5665
鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2015/12/04 04:18:40

 
 
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