ゲスト
(ka0000)
これは魔法の粉なのだ
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/12/05 19:00
- 完成日
- 2015/12/10 23:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
極彩色の町ヴァリオス。
ハンターたちは町の美術商から以下の依頼を受けた。
「ヴァリオス郊外にある美術館に品を届ける際の、護衛をして欲しいんですよ。何しろとても高価なものですので、もし間違いがあると、大変なことになりますのでね。ですから、念には念をとあなたがたをお呼びいたしました次第で。何しろお高いものですので。とにかく扱いには気をつけてくださいね。万一にも傷が付いたりましてや壊れたりすることなどないように。とにかく高価なものですので」
美術商はくどいほど品の金銭的価値を繰り返す。
だが依頼を受けたハンターたちには、その言葉がいまいち実感出来なかった。
大きさは普通の花瓶くらい。素材は陶器。適当に捻り出した突起が足の役割をしているのでなければ、どんな水平面に置いても立ち上がらないだろうほど歪みまくった楕円形。
色は余った塗料を適当にぶちまけたみたいなまだら模様。眺めていると目がチカチカしてくる。
しかし驚くなかれこの無用の長物としか見えない置物、価格が1個4000000。
べらぼうとしか言いようがない。
今回担当するのは梱包済みの1ダース。総額48000000。
あり得ないとしか言いようがない。
「……よくこんなもんにそこまで金出すな……」
「……子供でも作れるだろ、あれくらいなら」
「……いや、意外とああいうものほど作るのが難しいのかも……」
依頼を受けたメンバーの中には、兼業画家の八橋杏子もいるのだが、彼女もこの高価格には首をひねっている。
「杏子さん、美術業界の相場的には普通なんですか、こういうの」
「うーん……どうかしらねえ。私は絵画が専門で陶芸にはあまり詳しくないんだけど……それでも破格だと思うわよ? よっぽど名の通った人の作品とかじゃない限り、ここまで値がつくかどうか……あまり聞いたことないんだけどね、この制作者……」
会話が聞こえたのだろう、美術商がうおっほんと咳払いした。
「何をおっしゃる。この方は知る人ぞ知る正真正銘新進気鋭のアーチストですぞ。自由都市同盟内のみならず王国、帝国さては辺境にも順次売り出していく予定であります」
●
クリムゾンウェストにあまたいるゴブリン盗賊団の1つは、ヴァリオスに通じる街道で、とある荷馬車を見つけた。
ハンターが左右に付き従って、まこと物々しい警備。荷台には幾重にもくるまれた箱。
こいつは金目の物に違いないと踏んだ頭目のゴブリンは、襲撃を決めた。
相手に分からないようこっそりと後をつけ、山間の隘路に差しかかったところで、前後から挟み撃ち。
足止めはコボルドにやらせる――コボルドは何匹死んでも構わない。すぐ増えるのだし、替えはいくらでもいる。
その間に自分はあの箱をとって逃げる。
安全なところまで逃げて中身を確かめる。
それがいいものだったら、全部自分のものにする……。
●
ハンターたちは急に襲ってきたコボルドたちを一匹のこらず返り討ちにし、その機に乗じて箱を盗み逃げたゴブリンを追跡し首を撥ねた。
そして、梱包を解かれ剥き出しとなった箱に駆け寄る。
「荷物は、荷物は大丈夫か!」
ゴブリンごときに一時的にせよ荷を奪われるとは、ハンターとして苦々しい限り。これでもし荷物が破損していたら、苦々しいどころではすまない限り。弁償しろとか言われたら確実に進退窮まる。
どうかどこも欠けたり割れたりしていませんようにと神や精霊や英霊に祈りを捧げ、1つ1つ取り出し調べる。
ややもして杏子が、絶望的な呟きを漏らした。
「……足の先っぽが取れてる……」
勘弁してくれ。
その思い一つが一同の胸を満たす。
「やばい……弁償だ」
「1つ4000000……でしたっけ?」
「……ま、待ってください……この折れたところを接着剤でくっつけておけば分からないんじゃないでしょうか?」
「いや、それはまずいんじゃ……ばれたときに……」
そこで杏子が急に目を細め、置物の欠けた部分を覗き込んだ。
「……あれ、何これ」
「どうしたんですか杏子さん」
「これ……中が空洞になってる……」
欠けた方を下にして置物を振ると、さらさらした白っぽい粉が出てきた。
杏子はそれを指につけ舌に乗せ、大急ぎで吐き出した。
「一体何だったんです?」
「……小麦粉でも砂糖でもないことは確実ね……舌に乗せた瞬間びりっときたわ……」
ハンタ-たちは視線を交わし合った。
恐らく他の置物にもこれと同様、粉が詰まっている。破格の値段はその粉につけられたものであって、外側につけられたものではない。売り手と買い手はもちろんこのことを知っているはずだ。
いち早くしかるべき場所へ通報するのが筋だろう。
だが今通報してしまったら、依頼主から金を受け取れなくなってしまう。報酬は、荷が確実に届けられたと確認してから支払われる手筈になっているのだから。
荷馬車の御者は確か美術商が雇っている人間だ。であればこの事情を知っている可能性が高い。
……自分たちが事の真相に気づいたと察したら、果たしてどんな行動を取ろうとするだろうか……。
ハンターたちは町の美術商から以下の依頼を受けた。
「ヴァリオス郊外にある美術館に品を届ける際の、護衛をして欲しいんですよ。何しろとても高価なものですので、もし間違いがあると、大変なことになりますのでね。ですから、念には念をとあなたがたをお呼びいたしました次第で。何しろお高いものですので。とにかく扱いには気をつけてくださいね。万一にも傷が付いたりましてや壊れたりすることなどないように。とにかく高価なものですので」
美術商はくどいほど品の金銭的価値を繰り返す。
だが依頼を受けたハンターたちには、その言葉がいまいち実感出来なかった。
大きさは普通の花瓶くらい。素材は陶器。適当に捻り出した突起が足の役割をしているのでなければ、どんな水平面に置いても立ち上がらないだろうほど歪みまくった楕円形。
色は余った塗料を適当にぶちまけたみたいなまだら模様。眺めていると目がチカチカしてくる。
しかし驚くなかれこの無用の長物としか見えない置物、価格が1個4000000。
べらぼうとしか言いようがない。
今回担当するのは梱包済みの1ダース。総額48000000。
あり得ないとしか言いようがない。
「……よくこんなもんにそこまで金出すな……」
「……子供でも作れるだろ、あれくらいなら」
「……いや、意外とああいうものほど作るのが難しいのかも……」
依頼を受けたメンバーの中には、兼業画家の八橋杏子もいるのだが、彼女もこの高価格には首をひねっている。
「杏子さん、美術業界の相場的には普通なんですか、こういうの」
「うーん……どうかしらねえ。私は絵画が専門で陶芸にはあまり詳しくないんだけど……それでも破格だと思うわよ? よっぽど名の通った人の作品とかじゃない限り、ここまで値がつくかどうか……あまり聞いたことないんだけどね、この制作者……」
会話が聞こえたのだろう、美術商がうおっほんと咳払いした。
「何をおっしゃる。この方は知る人ぞ知る正真正銘新進気鋭のアーチストですぞ。自由都市同盟内のみならず王国、帝国さては辺境にも順次売り出していく予定であります」
●
クリムゾンウェストにあまたいるゴブリン盗賊団の1つは、ヴァリオスに通じる街道で、とある荷馬車を見つけた。
ハンターが左右に付き従って、まこと物々しい警備。荷台には幾重にもくるまれた箱。
こいつは金目の物に違いないと踏んだ頭目のゴブリンは、襲撃を決めた。
相手に分からないようこっそりと後をつけ、山間の隘路に差しかかったところで、前後から挟み撃ち。
足止めはコボルドにやらせる――コボルドは何匹死んでも構わない。すぐ増えるのだし、替えはいくらでもいる。
その間に自分はあの箱をとって逃げる。
安全なところまで逃げて中身を確かめる。
それがいいものだったら、全部自分のものにする……。
●
ハンターたちは急に襲ってきたコボルドたちを一匹のこらず返り討ちにし、その機に乗じて箱を盗み逃げたゴブリンを追跡し首を撥ねた。
そして、梱包を解かれ剥き出しとなった箱に駆け寄る。
「荷物は、荷物は大丈夫か!」
ゴブリンごときに一時的にせよ荷を奪われるとは、ハンターとして苦々しい限り。これでもし荷物が破損していたら、苦々しいどころではすまない限り。弁償しろとか言われたら確実に進退窮まる。
どうかどこも欠けたり割れたりしていませんようにと神や精霊や英霊に祈りを捧げ、1つ1つ取り出し調べる。
ややもして杏子が、絶望的な呟きを漏らした。
「……足の先っぽが取れてる……」
勘弁してくれ。
その思い一つが一同の胸を満たす。
「やばい……弁償だ」
「1つ4000000……でしたっけ?」
「……ま、待ってください……この折れたところを接着剤でくっつけておけば分からないんじゃないでしょうか?」
「いや、それはまずいんじゃ……ばれたときに……」
そこで杏子が急に目を細め、置物の欠けた部分を覗き込んだ。
「……あれ、何これ」
「どうしたんですか杏子さん」
「これ……中が空洞になってる……」
欠けた方を下にして置物を振ると、さらさらした白っぽい粉が出てきた。
杏子はそれを指につけ舌に乗せ、大急ぎで吐き出した。
「一体何だったんです?」
「……小麦粉でも砂糖でもないことは確実ね……舌に乗せた瞬間びりっときたわ……」
ハンタ-たちは視線を交わし合った。
恐らく他の置物にもこれと同様、粉が詰まっている。破格の値段はその粉につけられたものであって、外側につけられたものではない。売り手と買い手はもちろんこのことを知っているはずだ。
いち早くしかるべき場所へ通報するのが筋だろう。
だが今通報してしまったら、依頼主から金を受け取れなくなってしまう。報酬は、荷が確実に届けられたと確認してから支払われる手筈になっているのだから。
荷馬車の御者は確か美術商が雇っている人間だ。であればこの事情を知っている可能性が高い。
……自分たちが事の真相に気づいたと察したら、果たしてどんな行動を取ろうとするだろうか……。
リプレイ本文
静まり返った場。
夜桜 奏音(ka5754)の頬には、黒い笑いが浮かんでいる。
「こういうことでしたか、そうでしたらばれなければ問題ないですね」
島野 夏帆(ka2414)がうんざりした様子で、頭をくしゃくしゃかきむしった。
「まったくもう、せっかく楽な仕事見つけたと思ったのに! ついてないったら、ないわ!!」
ザレム・アズール(ka0878)は見立てを述べる。
「御者はグル。納品先の美術館もだろうな。一人も逃がさずお縄、ついでに報酬ゲットってのが理想か」
それに対する異論はどこからも出なかった。力は世のため人のためを自認する町田紀子(ka5895)からさえ。
「麻薬密売組織からうまく報酬をちょろまかす…まさにヒーローにふさわしい仕事だな……。……んっ?」
首を傾げているから多少の疑問はあるのだろうが、真っ向反対する意志は無さそうだ。
水流崎トミヲ(ka4852)にはその気持ちがよく分かる。善良な市民としてすぐにでも通報はしたいけど、報酬は欲しい。すごく欲しい。
「昔似たようなヤツをラノベで見たよ! こういう場合はまず第一に……荷物の無事を装わなきゃね。部外者に荷を触られた時点で運び屋も警戒しているはずだから」
フォークス(ka0570)はすすどい眼差しを、脚の取れた壷へ注ぐ。
「接着剤で誤魔化せるンならそうした方がいいんじゃないかい?」
エリオ・アスコリ(ka5928)は杏子に顔を向けた。
「くっつけるだけでは気づかれてしまうかも知れないから……八橋さん、ヒビを模様のように偽装出来ないかな? 泥とか水とか使って」
「え? うーん……やれるだけやってみるわ。ただ、ちょっと時間がかかるわよ? その間御者を引き付けておいてくれると有り難いんだけど」
フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)は、胸中一人ごちる。
(演技か……昔の仕事を思い出すねぇ……)
ともあれ御者に対し、なるべく荷に意識がいかないよう、仕掛けをする必要がある。
「……怪我人が出た、とするのがいいだろうねぇ。よくある手だろうけど」
なれば自分が役に立つはず。
思ってトミヲは、遠慮がちに申し出る。
「……実は僕……重体でさ……」
その途端フォークスに言われた。
「ああ、なんかえらい目見たんだッてな。脱衣ジャンケン大会で」
「えっ!? 知ってた?! アイエエー、なんで?!」
衝撃の事実に心を打ち抜かれるトミヲ。ザレムはいち早く来た道を引き返して行く。
「俺は御者の所に先に行って時間を稼ぐ。その間に工作を頼むよ」
●
「あいつら……何してやがるんだ。遅いじゃねえか……」
御者は煙草を噛み潰し、ハンターたちが入っていった山の方を見た。
荷は無事なのか。まさか中身を暴かれていないか。見に行くか。しかしまだゴブリン共と戦っていたら危険だ。
そんな堂々巡りを続けていたところに、蹄の音。ザレムが戻ってきた。
「遅いじゃないか、荷物はどうしたんだ!」
「心配しないでくれ、荷は大丈夫だ。しかし水流崎が負傷してな。かなり傷が深くて――応急処置に手間取っているんだ」
「何?」
続いてフェイルも戻ってくる。
「水流崎が……仲間がゴブリンに襲われて重傷なんだ……早く治療しに連れて行かないと……」
彼らの言葉を裏付けるかのようにトミヲ本人が、エリオ、紀子、フォークスに運ばれつつ戻ってきた。
トミヲは今にも死にそうだ。
「うっ、くっ……痛、ぃよぉ……へへ、でも、やってやった……箱は守り切ってやったよ……ッ」
顔色は真っ青、額は割れ、腹に深くナイフが刺さっている。紀子が血まみれの布を、彼の腹に当てている。
「しっかりするんだトミヲさん! 気を確かに! ナイフは抜いちゃ駄目だ、余計出血する!」
「ぐぅぅ、でもマジで痛いよ……し、死にたくない……ま、まだ、僕は……DT……」
白目を剥き泡を噴き痙攣している様は、まさに鬼気迫るものだった。御者もいささかたじろがざるを得ない。
そこでフェイルが言う。
「見てみろこの顔色を……いつ死んでもおかしくない……ちょっと連れて行ってくる」
「ま、待て。連れて行くってどこにだ」
「近場の療養所だ」
「冗談じゃない、困るよそんな、仕事の途中で勝手に抜けられたら――」
フォークスは閉口した顔で、唸っているトミオを見下ろす。
「あーこりゃ駄目かもな。依頼中に重篤者出たら、ソサエティに逐一報告しなくちゃなんないんだよなー……めんどくさっ」
ザレムは御者に向け、親指を持ち上げた。
「大丈夫だ、護衛が抜けるとしても、ちょっとの間だけだから。その分俺が守るよ」
そこへ夏帆、奏音、杏子によって荷箱が運ばれてくる。
「だいじょーぶ! 無事でしたよー」
明るく手を振る夏帆。
奏音はトミヲを心配そうに見やりながら、御者を励ました。
「荷物は本当に大丈夫ですよ。確認しましたが、どれも割れていませんでしたから」
御者の口から煙草が落ちる。
「おい! な、中を開けたのか!? なんでそんなことしたんだ!」
声を荒げた御者は、急に押し黙った。紀子が『え? 何?』という目で見ているのに気づいたからである――もし相手が何も知らないままなら、こちらがあまり騒ぐと、かえって怪しまれる結果となりかねない。
夏帆が、ぺこんと頭を下げてきた。
「申し訳ありません。私たちが追いついたとき、すでにゴブリンが箱を開けて中を物色していましたもので、無事を確認するためにあけちゃいました! そしたら無事でした! 割れなくてよかったですねー! 見てくださいほら!」
こともあろうに、箱の蓋をがばっと開ける。
そこからエリオが壷を一つ取り出し、よく相手に見えるよう掲げる。
「念の為中身確認しましょうか? 他のも」
御者は御者台から飛び降り、早口に言った。
「い、いや、いい! 無事だと確認出来たのならそれでいい! 俺が運ぶ俺が!」
エリオの手から壷を引ったくり箱に戻す際、ざっと他の分も見てみたが、割れや欠けはなかった。数も全部揃っている。
大急ぎで蓋を閉めてしまう御者。
それに不思議そうな目を向けていたエリオは、ぽんと手を打った。
「ああ、これ以上トラブルが起きても大変ですからね。とにかく怪我人は足手まといだから帰らせ、先を急いだほうがいいです。荷を運ぶことが第一ですから」
箱を持ち上げた御者の手へ、ちくっと痛みが走る。外側の隙間に尖った木片が挟まっていたのだ。
「てっ! とっ、と!」
しかし荷の価値を知っている彼は手を離さない。顔を歪めつつ荷台へ持ち上げようとする。
その時足が急に滑った――もしかしたら地面がぬかるんでいたのかもしれない――箱はかなり乱暴に、荷台へ叩きつけられる結果となる。
エリオと紀子が、声を潜めて囁きあった。
「あれ、なんかガシャって……」
「今結構大きな音が……」
御者は咳払いし、新しい煙草に火をつける。
「……気のせいじゃないのか。俺には何も聞こえんかったぞ」
何食わぬ顔をしながらも動揺しているのだろう。火がついた方を咥えてしまい、あちい!と吐き出す。
「では、行ってきます! またすぐ戻って追いつきますので!」
フェイルの魔導二輪がトミヲを乗せ走り去って行く。
フォークスも後を追った。魔導バイクで。
「じゃあ、あたいもちょっくら最寄りのオフィスに報告行ってくるよ! 大丈夫、すぐ戻ってくるからー!」
一気に3名もハンターが抜けてしまった。
御者とてそのことに懸念を覚えないわけではない。しかし荷物を傷めたのではという動揺が胸に渦巻いている状態では、深く追求し続けることも出来ず。早く仕事を終えたいという気持ちばかり強くなってくる。
ザレムがせかしてきた。
「急ぐか? 割れ物だから静かに運ぶのもいいが……」
「そんなもの、もちろん急ぐに決まってるだろう。時間までに届けんと、信用問題に拘わるからな」
御者は御者台に戻る。奏音、エリオ、杏子は荷台に戻る。夏帆は自転車、ザレムはゴースロン、紀子は魔導バイクに戻る。
一行は、再度先を急いだ。
奏音は御者席の隣に座り、親しげに御者へ話しかけた。荷物が奪われる前と全く変わらずに。ほかのメンバーも同様で、一切不審そうな様子は見せない。
内心胸を撫で下ろす御者は会話に応じ始めた。妙にゆるい相手の胸元をちらちら横目にしながら。
「ああ、こう見えて俺は馬の扱いにかけてはピカ1でね。時々レースに出ることもあるんだぜ」
「そのようなこともできるのですか、すごいですね」
●
「フェイル君が運んでくれるの……? 良かった。死ぬほど良かった。これで女の子が運ぶんだったらマジで死んでっ」
トミヲは危うく舌を噛みそうになった。フェイルが急に魔導二輪を止めたので。
「じゃあここで降りてくれるか水流崎」
「あれ? お? ……置いてくの?」
彼らの直近でバイクを止めたフォークスは、事もなげに言った。
「そりゃそうだよねぇ。荷物乗せたままだと足が鈍るし」
フェイルも言う。
「ここからはスピード勝負になるからな。どこか目立たない茂みにでも隠れていてくれ。後でまた拾いに来るから」
トミヲは2人の顔を代わる代わる眺め、ふっと目をそらした。
「……い、いや! 大丈夫だよ! ささ寒くないようにしとくし!!」
着ぐるみの前を掻き合わせ、茂みにごそごそ入り込みんでいく。
「待ってるから……ずっと……」
ちょっと涙ぐんだような声だったが、フォークスは特に気に止めなかった。
「じゃ、あたいは美術商んとこ行ってくっから。片方捕まえても片方逃げたら何もならないし」
そう言い残し、バイクをふかして行ってしまう。
フェイルはそれを見届ける事なく、最高速度で二輪を走らせにかかる。
――それからおよそ30分後。フェイルのみが戻ってきた。
「……待たせたな水流崎……ところでさっき言っていたDTとは何のことだ……?」
「……いや、そこは聞かなかったふりしてくれると助かるんだけど……」
●
荷物はつつがなく美術館に運ばれた。
御者はハンターたちを外に待たせ、美術館館長のもとへ行き、事の次第を報告する。
「途中で開けられただと……? ば・か・や・ろ・う! もし事の次第が露見したらただではすまさんぞ!」
「だ、大丈夫です大丈夫です! ハンターどもは全く気づいていませんから!」
「本当だろうな……?」
「もちろんもちろんもちろんです」
冷や汗をかき頷く御者に、陰険な目を向ける館長。
「……とにもかくにもハンターたちを早いところ追っ払わなければな」
「やあやあ皆さん。この度はゴブリンの襲撃を防いでいただいたとか。重傷者も出られたそうで、いやまことに大変なことでしたな。それではお約束の報酬をお渡ししま――」
御者と運搬用の職員、そして報酬を携え表に出てきた館長は、血相を変えた。ハンターたちが勝手に荷物を荷台から降ろそうとしていたのだ。
「ちょっちょっちょっ何をしとるんだ!」
駆け寄ってきた館長にザレムは、きょとんとした顔で答えた。
「いえ、ついでですから運び入れておこうかと……」
「いいよ! うちのスタッフでやるからそこまでしなくていいんだよ! 君らの仕事は荷物を運ぶまでだ、余計なことはしないでくれ!」
彼は荷物の反対側を持っている紀子と顔を見合わせ、では、と荷台に戻す。それから改めて館長に向き直る。
「誠に失礼致しました。ではそのー、受け取りのサインと報酬をお願いしたいのですが。画商さんからは、着払いと聞いておりますので」
「ああ分かった、それは持って来てるから。どうもありがとうね」
おざなりの礼を述べた館長はそそくさ書類にサインし、報酬とともに手渡した。
荷は職員の手により美術館の奥へ運ばれて行く。
だが途中で邪魔が入った。
いつのまにやら美術館の中に入り展示物をべたべた触りまくっていた夏帆が、からんできたのである。
「ねーねー、あの壺、もっとじっくり見せてくださいよー! お願いお願い、ね、いいでしょう? 私ってば、美術品に興味が出てきちゃったの!」
「やめろ触るな!」
「えーなんでーいいじゃない。ちょっとだけだからー!」
ちょっとだけと言いつつ彼女は、かなりの力で職員の腕を引っ張った。
ゴッシャン。
床に落ちた箱から、誤魔化しようがないほど大きな音が聞こえた。
夏帆は悲鳴を上げる。
「ごめんなさい! どうしよう、もしかして割れちゃったかもー!」
固まっている関係者が止める暇も無く蓋をもぎ取り、梱包材をかきわけ周囲に撒き散らす。
「……あれれ? 変な粉が出てきたわ!!」
割れた壷を彼女が持ち上げると同時に、美術館の入り口が開いた。
現れたのは――トミヲとフェイル。
「……ふふ、僕らの演技を前に、まるっと騙されてくれたn」
言い終わる前にトミヲが床へ伏せた。館長がいきなり銃を取り出し、発砲してきたのだ。
フェイルは一息で相手の懐に飛び込み、腕を蹴り上げ銃を落とさせる。ザレムが剣の柄で首後ろを殴り、昏倒させる。
タイミングを合わせるかのように、制服姿の官憲たちが、盾を構えて突入してきた。
逃げようとする職員たちの足を紀子が引っかけ転倒させる。
奏音が符を床に叩きつけ、前方に桜吹雪の煙幕を張り、逃走を防いだ。
「なんだかわかりませんが何か悪いことをしたのでしたら罪は償うべきですよ」
御者はと言えば、杏子から首筋へ刃を突き付けられ、身動きが取れなくなっている。
エリオは場を見回し、肩をすくめた。
「まさか依頼人が運び屋とは驚きだね。全然分からなかったよ」
彼と同様傍観を貫く夏帆は、嘆かわしそうに首を振った。
「全く乱れた世の中よねえ」
●
「報酬? おかしいですね、先様から支払う手筈だと最初に言ったはずですが」
「そうだったっけ?」
「大体こんな早くに引き返してくるとは、荷物はどうしたんです」
「ああ、いきなりゴブリンに襲われるっていうアクシデントはあったケド、仕事はキッチリとしたヨ。不安なら確かめてみるかい?」
のらりくらりの会話に、美術商は段々苛立ってきた。このフォークスとかいう女、何しに戻ってきたのか。
「とにかくね、うちに来ても無駄ですよ。美術館の方へ行ってください」
穏やかに諭しつつ机の引き出しから、こっそり銃を引き出そうとする。
その瞬間フォークスが腰の銃を抜いた。
美術商が反応し応戦するより早く、引き金を引く。
「Don’t fucking move!」
机にあった花瓶が粉みじん、背後にかけられていた絵が穴だらけ。
硬直する相手の額に銃口を押し付け彼女は、にやりと笑った。
「仲間はずれはよくないねェ。言ってくれれば一枚噛んだカモしんないのに。ま、断るケド。じゃあ、あたいはこれで。ここから先は犬の仕事だ……ほら、もう来た」
複数の人間が激しく扉を叩く音が聞こえてきた。
後日、ハンターたちには当局より、捜査協力への感謝状と金一封が贈られたそうである。
夜桜 奏音(ka5754)の頬には、黒い笑いが浮かんでいる。
「こういうことでしたか、そうでしたらばれなければ問題ないですね」
島野 夏帆(ka2414)がうんざりした様子で、頭をくしゃくしゃかきむしった。
「まったくもう、せっかく楽な仕事見つけたと思ったのに! ついてないったら、ないわ!!」
ザレム・アズール(ka0878)は見立てを述べる。
「御者はグル。納品先の美術館もだろうな。一人も逃がさずお縄、ついでに報酬ゲットってのが理想か」
それに対する異論はどこからも出なかった。力は世のため人のためを自認する町田紀子(ka5895)からさえ。
「麻薬密売組織からうまく報酬をちょろまかす…まさにヒーローにふさわしい仕事だな……。……んっ?」
首を傾げているから多少の疑問はあるのだろうが、真っ向反対する意志は無さそうだ。
水流崎トミヲ(ka4852)にはその気持ちがよく分かる。善良な市民としてすぐにでも通報はしたいけど、報酬は欲しい。すごく欲しい。
「昔似たようなヤツをラノベで見たよ! こういう場合はまず第一に……荷物の無事を装わなきゃね。部外者に荷を触られた時点で運び屋も警戒しているはずだから」
フォークス(ka0570)はすすどい眼差しを、脚の取れた壷へ注ぐ。
「接着剤で誤魔化せるンならそうした方がいいんじゃないかい?」
エリオ・アスコリ(ka5928)は杏子に顔を向けた。
「くっつけるだけでは気づかれてしまうかも知れないから……八橋さん、ヒビを模様のように偽装出来ないかな? 泥とか水とか使って」
「え? うーん……やれるだけやってみるわ。ただ、ちょっと時間がかかるわよ? その間御者を引き付けておいてくれると有り難いんだけど」
フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)は、胸中一人ごちる。
(演技か……昔の仕事を思い出すねぇ……)
ともあれ御者に対し、なるべく荷に意識がいかないよう、仕掛けをする必要がある。
「……怪我人が出た、とするのがいいだろうねぇ。よくある手だろうけど」
なれば自分が役に立つはず。
思ってトミヲは、遠慮がちに申し出る。
「……実は僕……重体でさ……」
その途端フォークスに言われた。
「ああ、なんかえらい目見たんだッてな。脱衣ジャンケン大会で」
「えっ!? 知ってた?! アイエエー、なんで?!」
衝撃の事実に心を打ち抜かれるトミヲ。ザレムはいち早く来た道を引き返して行く。
「俺は御者の所に先に行って時間を稼ぐ。その間に工作を頼むよ」
●
「あいつら……何してやがるんだ。遅いじゃねえか……」
御者は煙草を噛み潰し、ハンターたちが入っていった山の方を見た。
荷は無事なのか。まさか中身を暴かれていないか。見に行くか。しかしまだゴブリン共と戦っていたら危険だ。
そんな堂々巡りを続けていたところに、蹄の音。ザレムが戻ってきた。
「遅いじゃないか、荷物はどうしたんだ!」
「心配しないでくれ、荷は大丈夫だ。しかし水流崎が負傷してな。かなり傷が深くて――応急処置に手間取っているんだ」
「何?」
続いてフェイルも戻ってくる。
「水流崎が……仲間がゴブリンに襲われて重傷なんだ……早く治療しに連れて行かないと……」
彼らの言葉を裏付けるかのようにトミヲ本人が、エリオ、紀子、フォークスに運ばれつつ戻ってきた。
トミヲは今にも死にそうだ。
「うっ、くっ……痛、ぃよぉ……へへ、でも、やってやった……箱は守り切ってやったよ……ッ」
顔色は真っ青、額は割れ、腹に深くナイフが刺さっている。紀子が血まみれの布を、彼の腹に当てている。
「しっかりするんだトミヲさん! 気を確かに! ナイフは抜いちゃ駄目だ、余計出血する!」
「ぐぅぅ、でもマジで痛いよ……し、死にたくない……ま、まだ、僕は……DT……」
白目を剥き泡を噴き痙攣している様は、まさに鬼気迫るものだった。御者もいささかたじろがざるを得ない。
そこでフェイルが言う。
「見てみろこの顔色を……いつ死んでもおかしくない……ちょっと連れて行ってくる」
「ま、待て。連れて行くってどこにだ」
「近場の療養所だ」
「冗談じゃない、困るよそんな、仕事の途中で勝手に抜けられたら――」
フォークスは閉口した顔で、唸っているトミオを見下ろす。
「あーこりゃ駄目かもな。依頼中に重篤者出たら、ソサエティに逐一報告しなくちゃなんないんだよなー……めんどくさっ」
ザレムは御者に向け、親指を持ち上げた。
「大丈夫だ、護衛が抜けるとしても、ちょっとの間だけだから。その分俺が守るよ」
そこへ夏帆、奏音、杏子によって荷箱が運ばれてくる。
「だいじょーぶ! 無事でしたよー」
明るく手を振る夏帆。
奏音はトミヲを心配そうに見やりながら、御者を励ました。
「荷物は本当に大丈夫ですよ。確認しましたが、どれも割れていませんでしたから」
御者の口から煙草が落ちる。
「おい! な、中を開けたのか!? なんでそんなことしたんだ!」
声を荒げた御者は、急に押し黙った。紀子が『え? 何?』という目で見ているのに気づいたからである――もし相手が何も知らないままなら、こちらがあまり騒ぐと、かえって怪しまれる結果となりかねない。
夏帆が、ぺこんと頭を下げてきた。
「申し訳ありません。私たちが追いついたとき、すでにゴブリンが箱を開けて中を物色していましたもので、無事を確認するためにあけちゃいました! そしたら無事でした! 割れなくてよかったですねー! 見てくださいほら!」
こともあろうに、箱の蓋をがばっと開ける。
そこからエリオが壷を一つ取り出し、よく相手に見えるよう掲げる。
「念の為中身確認しましょうか? 他のも」
御者は御者台から飛び降り、早口に言った。
「い、いや、いい! 無事だと確認出来たのならそれでいい! 俺が運ぶ俺が!」
エリオの手から壷を引ったくり箱に戻す際、ざっと他の分も見てみたが、割れや欠けはなかった。数も全部揃っている。
大急ぎで蓋を閉めてしまう御者。
それに不思議そうな目を向けていたエリオは、ぽんと手を打った。
「ああ、これ以上トラブルが起きても大変ですからね。とにかく怪我人は足手まといだから帰らせ、先を急いだほうがいいです。荷を運ぶことが第一ですから」
箱を持ち上げた御者の手へ、ちくっと痛みが走る。外側の隙間に尖った木片が挟まっていたのだ。
「てっ! とっ、と!」
しかし荷の価値を知っている彼は手を離さない。顔を歪めつつ荷台へ持ち上げようとする。
その時足が急に滑った――もしかしたら地面がぬかるんでいたのかもしれない――箱はかなり乱暴に、荷台へ叩きつけられる結果となる。
エリオと紀子が、声を潜めて囁きあった。
「あれ、なんかガシャって……」
「今結構大きな音が……」
御者は咳払いし、新しい煙草に火をつける。
「……気のせいじゃないのか。俺には何も聞こえんかったぞ」
何食わぬ顔をしながらも動揺しているのだろう。火がついた方を咥えてしまい、あちい!と吐き出す。
「では、行ってきます! またすぐ戻って追いつきますので!」
フェイルの魔導二輪がトミヲを乗せ走り去って行く。
フォークスも後を追った。魔導バイクで。
「じゃあ、あたいもちょっくら最寄りのオフィスに報告行ってくるよ! 大丈夫、すぐ戻ってくるからー!」
一気に3名もハンターが抜けてしまった。
御者とてそのことに懸念を覚えないわけではない。しかし荷物を傷めたのではという動揺が胸に渦巻いている状態では、深く追求し続けることも出来ず。早く仕事を終えたいという気持ちばかり強くなってくる。
ザレムがせかしてきた。
「急ぐか? 割れ物だから静かに運ぶのもいいが……」
「そんなもの、もちろん急ぐに決まってるだろう。時間までに届けんと、信用問題に拘わるからな」
御者は御者台に戻る。奏音、エリオ、杏子は荷台に戻る。夏帆は自転車、ザレムはゴースロン、紀子は魔導バイクに戻る。
一行は、再度先を急いだ。
奏音は御者席の隣に座り、親しげに御者へ話しかけた。荷物が奪われる前と全く変わらずに。ほかのメンバーも同様で、一切不審そうな様子は見せない。
内心胸を撫で下ろす御者は会話に応じ始めた。妙にゆるい相手の胸元をちらちら横目にしながら。
「ああ、こう見えて俺は馬の扱いにかけてはピカ1でね。時々レースに出ることもあるんだぜ」
「そのようなこともできるのですか、すごいですね」
●
「フェイル君が運んでくれるの……? 良かった。死ぬほど良かった。これで女の子が運ぶんだったらマジで死んでっ」
トミヲは危うく舌を噛みそうになった。フェイルが急に魔導二輪を止めたので。
「じゃあここで降りてくれるか水流崎」
「あれ? お? ……置いてくの?」
彼らの直近でバイクを止めたフォークスは、事もなげに言った。
「そりゃそうだよねぇ。荷物乗せたままだと足が鈍るし」
フェイルも言う。
「ここからはスピード勝負になるからな。どこか目立たない茂みにでも隠れていてくれ。後でまた拾いに来るから」
トミヲは2人の顔を代わる代わる眺め、ふっと目をそらした。
「……い、いや! 大丈夫だよ! ささ寒くないようにしとくし!!」
着ぐるみの前を掻き合わせ、茂みにごそごそ入り込みんでいく。
「待ってるから……ずっと……」
ちょっと涙ぐんだような声だったが、フォークスは特に気に止めなかった。
「じゃ、あたいは美術商んとこ行ってくっから。片方捕まえても片方逃げたら何もならないし」
そう言い残し、バイクをふかして行ってしまう。
フェイルはそれを見届ける事なく、最高速度で二輪を走らせにかかる。
――それからおよそ30分後。フェイルのみが戻ってきた。
「……待たせたな水流崎……ところでさっき言っていたDTとは何のことだ……?」
「……いや、そこは聞かなかったふりしてくれると助かるんだけど……」
●
荷物はつつがなく美術館に運ばれた。
御者はハンターたちを外に待たせ、美術館館長のもとへ行き、事の次第を報告する。
「途中で開けられただと……? ば・か・や・ろ・う! もし事の次第が露見したらただではすまさんぞ!」
「だ、大丈夫です大丈夫です! ハンターどもは全く気づいていませんから!」
「本当だろうな……?」
「もちろんもちろんもちろんです」
冷や汗をかき頷く御者に、陰険な目を向ける館長。
「……とにもかくにもハンターたちを早いところ追っ払わなければな」
「やあやあ皆さん。この度はゴブリンの襲撃を防いでいただいたとか。重傷者も出られたそうで、いやまことに大変なことでしたな。それではお約束の報酬をお渡ししま――」
御者と運搬用の職員、そして報酬を携え表に出てきた館長は、血相を変えた。ハンターたちが勝手に荷物を荷台から降ろそうとしていたのだ。
「ちょっちょっちょっ何をしとるんだ!」
駆け寄ってきた館長にザレムは、きょとんとした顔で答えた。
「いえ、ついでですから運び入れておこうかと……」
「いいよ! うちのスタッフでやるからそこまでしなくていいんだよ! 君らの仕事は荷物を運ぶまでだ、余計なことはしないでくれ!」
彼は荷物の反対側を持っている紀子と顔を見合わせ、では、と荷台に戻す。それから改めて館長に向き直る。
「誠に失礼致しました。ではそのー、受け取りのサインと報酬をお願いしたいのですが。画商さんからは、着払いと聞いておりますので」
「ああ分かった、それは持って来てるから。どうもありがとうね」
おざなりの礼を述べた館長はそそくさ書類にサインし、報酬とともに手渡した。
荷は職員の手により美術館の奥へ運ばれて行く。
だが途中で邪魔が入った。
いつのまにやら美術館の中に入り展示物をべたべた触りまくっていた夏帆が、からんできたのである。
「ねーねー、あの壺、もっとじっくり見せてくださいよー! お願いお願い、ね、いいでしょう? 私ってば、美術品に興味が出てきちゃったの!」
「やめろ触るな!」
「えーなんでーいいじゃない。ちょっとだけだからー!」
ちょっとだけと言いつつ彼女は、かなりの力で職員の腕を引っ張った。
ゴッシャン。
床に落ちた箱から、誤魔化しようがないほど大きな音が聞こえた。
夏帆は悲鳴を上げる。
「ごめんなさい! どうしよう、もしかして割れちゃったかもー!」
固まっている関係者が止める暇も無く蓋をもぎ取り、梱包材をかきわけ周囲に撒き散らす。
「……あれれ? 変な粉が出てきたわ!!」
割れた壷を彼女が持ち上げると同時に、美術館の入り口が開いた。
現れたのは――トミヲとフェイル。
「……ふふ、僕らの演技を前に、まるっと騙されてくれたn」
言い終わる前にトミヲが床へ伏せた。館長がいきなり銃を取り出し、発砲してきたのだ。
フェイルは一息で相手の懐に飛び込み、腕を蹴り上げ銃を落とさせる。ザレムが剣の柄で首後ろを殴り、昏倒させる。
タイミングを合わせるかのように、制服姿の官憲たちが、盾を構えて突入してきた。
逃げようとする職員たちの足を紀子が引っかけ転倒させる。
奏音が符を床に叩きつけ、前方に桜吹雪の煙幕を張り、逃走を防いだ。
「なんだかわかりませんが何か悪いことをしたのでしたら罪は償うべきですよ」
御者はと言えば、杏子から首筋へ刃を突き付けられ、身動きが取れなくなっている。
エリオは場を見回し、肩をすくめた。
「まさか依頼人が運び屋とは驚きだね。全然分からなかったよ」
彼と同様傍観を貫く夏帆は、嘆かわしそうに首を振った。
「全く乱れた世の中よねえ」
●
「報酬? おかしいですね、先様から支払う手筈だと最初に言ったはずですが」
「そうだったっけ?」
「大体こんな早くに引き返してくるとは、荷物はどうしたんです」
「ああ、いきなりゴブリンに襲われるっていうアクシデントはあったケド、仕事はキッチリとしたヨ。不安なら確かめてみるかい?」
のらりくらりの会話に、美術商は段々苛立ってきた。このフォークスとかいう女、何しに戻ってきたのか。
「とにかくね、うちに来ても無駄ですよ。美術館の方へ行ってください」
穏やかに諭しつつ机の引き出しから、こっそり銃を引き出そうとする。
その瞬間フォークスが腰の銃を抜いた。
美術商が反応し応戦するより早く、引き金を引く。
「Don’t fucking move!」
机にあった花瓶が粉みじん、背後にかけられていた絵が穴だらけ。
硬直する相手の額に銃口を押し付け彼女は、にやりと笑った。
「仲間はずれはよくないねェ。言ってくれれば一枚噛んだカモしんないのに。ま、断るケド。じゃあ、あたいはこれで。ここから先は犬の仕事だ……ほら、もう来た」
複数の人間が激しく扉を叩く音が聞こえてきた。
後日、ハンターたちには当局より、捜査協力への感謝状と金一封が贈られたそうである。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/04 15:06:12 |
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化かし合い相談卓 フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808) 人間(クリムゾンウェスト)|35才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/12/05 18:54:18 |