ゲスト
(ka0000)
心優しき商人の懇願
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/04 15:00
- 完成日
- 2015/12/09 04:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
グルノア村を、ゴブリンの手から取り戻したい――。
グラズヘイム王国のとあるハンター支部。商人のダンダ・ダッダは訪れるなり、受付の若い男性へ泣きそうな顔で依頼を出した。
ゴブリンたちに占拠され、後方拠点として使用されていたのがグルノア村だった。ゴブリンの脅威はひとまず去ったものの、傷跡は今も各地に残っている。
「ハンターへ依頼しなくとも、王国軍、もしくは領主が私兵を派遣して解放するのでは?」
茨小鬼を率いていた巨躯のゴブリンが退治されたという話は、この支部にも伝わっている。統率者がいなくなれば、あとは残党を掃討するだけだ。各領地に残るゴブリンを、それぞれの領主が放置しておくとも思えない。
そうした理由も合わせて説明したのだが、依頼に来たダンダ・ダッダはひたすら頭を下げ続ける。繰り返されるお願いしますの言葉に、並々ならぬ一生懸命さを感じた受付の男性は何か事情があるのですかと尋ねた。
「グルノア村は私の故郷なのです! そこに妻も娘もいるんです! 村から避難した住民が暮らす町へ行ってみましたが、そこにはいませんでした。だから、ですから……!」
目の前で号泣するダンダを見て、受付の男性は何も言えなくなってしまう。
「これまではゴブリンの後方拠点に使われてる可能性が高いとかで、迂闊に攻め入ったりはできませんでしたが、争いはひと段落したらしいのです。すぐさま私は領主様へお願いしに行きました!」
しかし遠征で疲弊していた領主はすぐに兵を出せないと言い、逆に少し待ってほしいとお願いされた。本来ならそれでいいかもしれないが、ダンダはすぐにでも妻子の安否を確認したかった。
「村に残るゴブリンの数が少ないのであればと考え、こうしてハンターの方々へお願いに来たのです! どうか、どうか! 引き受けてください!」
「ですが、どれくらいゴブリンが残っているかもわからない現状では……」
「調べて来ました! 遠目から見える範囲でしかありませんが、強そうなのが一体いました。確か……ガガンとか呼ばれていたはずです。遠目から見た印象では、あまり巨大には思えませんでした。ただ、テキパキと他のゴブリンへ指示を出していました。もしかしたら頭がいいというか、狡猾なタイプなのかもしれません」
ダンダの話を聞いた瞬間、受付の男性は顔色を変えた。
「いくら生まれ故郷とはいえ、ゴブリンの後方拠点にされていた場所へひとりで行ったのですか!?」
もしかしなくとも危険すぎる。仮にゴブリンに発見でもされていたら、ダンダの命はなかったはずだ。
「す、すみません。ですが、いてもたってもいられず……! と、とにかく、これが村の地図です」
村にあった家屋の半分以上は倒壊しており、かろうじて残っていた家をゴブリンたちは根城にしているみたいだった。
住民を奴隷のように働かせている場面も目撃したが、最後までダンダの妻子の姿は確認できなかった。
生きているのか死んでるのかもわからず、村人がどこへ収容されてるのかも正確にはわからない。
「どうやら、村の中に点在する家の中に、まとめて押し込まれてるみたいなのですが、その時々で変えられてるみたいなのです」
額に滲む冷や汗を、ダンダが手の甲で拭う。
「法則みたいなのはなく、ゴブリンの気分で変えられてるみたいです。私が調べられたのはここまででして……」
そこまで言ったあと、ダンダは再びすがるように受付の男性を見た。
「どうか! どうかお願いします! お願いします……!」
●
受付の男性は、訪れたハンターに依頼の説明をする。ダンダ・ダッダという商人から出された依頼の内容を。
「依頼者は商人のダンダ・ダッダさんです。目的はゴブリンに占拠されてしまった村グルノアの奪還。今回の依頼に関して、領主の私兵の派遣等、援軍は期待できないそうです。部隊を再編制できるようになれば、支配された村の奪還作戦が開始されるのでしょうが、依頼人の強い要望でハンターに依頼が出されました」
ダンダから受け取っていた地図を使い、受付の男性は説明を継続する。
「侵攻時に破壊されてしまったせいで、村に残っている家は僅か。そのうちのひとつに、生き残った住民が捕らわれている模様です。依頼者は住民はもちろん、とにかく妻子の安否を確認したいみたいです。ゴブリンの殲滅は当然ですが、生き残っている住民がいれば、そちらの方もお願いします。しかしながら、どのくらいの人数が無事かなどの詳細は判明しておりません。住民の保護は後回しにして、一気にゴブリンを倒してしまうのも手かもしれませんね。ゴブリンは数匹ですが、大将格がいるようです。占拠されていた事情を考慮すれば、茨小鬼がいても不思議はないです。真っ先にボスを倒し、他のゴブリンの戦意を削ぐのも有効かと思います」
一度言葉を切ったあとで、受付の男性は依頼の詳細を聞きに来たハンターを真っ直ぐに見た。
「確実に戦闘になります。いまだ敵の支配下にある拠点ということで、不明な点も多いです。依頼を引き受ける際は十分な準備をし、気をつけて行動するようにしてください」
グルノア村を、ゴブリンの手から取り戻したい――。
グラズヘイム王国のとあるハンター支部。商人のダンダ・ダッダは訪れるなり、受付の若い男性へ泣きそうな顔で依頼を出した。
ゴブリンたちに占拠され、後方拠点として使用されていたのがグルノア村だった。ゴブリンの脅威はひとまず去ったものの、傷跡は今も各地に残っている。
「ハンターへ依頼しなくとも、王国軍、もしくは領主が私兵を派遣して解放するのでは?」
茨小鬼を率いていた巨躯のゴブリンが退治されたという話は、この支部にも伝わっている。統率者がいなくなれば、あとは残党を掃討するだけだ。各領地に残るゴブリンを、それぞれの領主が放置しておくとも思えない。
そうした理由も合わせて説明したのだが、依頼に来たダンダ・ダッダはひたすら頭を下げ続ける。繰り返されるお願いしますの言葉に、並々ならぬ一生懸命さを感じた受付の男性は何か事情があるのですかと尋ねた。
「グルノア村は私の故郷なのです! そこに妻も娘もいるんです! 村から避難した住民が暮らす町へ行ってみましたが、そこにはいませんでした。だから、ですから……!」
目の前で号泣するダンダを見て、受付の男性は何も言えなくなってしまう。
「これまではゴブリンの後方拠点に使われてる可能性が高いとかで、迂闊に攻め入ったりはできませんでしたが、争いはひと段落したらしいのです。すぐさま私は領主様へお願いしに行きました!」
しかし遠征で疲弊していた領主はすぐに兵を出せないと言い、逆に少し待ってほしいとお願いされた。本来ならそれでいいかもしれないが、ダンダはすぐにでも妻子の安否を確認したかった。
「村に残るゴブリンの数が少ないのであればと考え、こうしてハンターの方々へお願いに来たのです! どうか、どうか! 引き受けてください!」
「ですが、どれくらいゴブリンが残っているかもわからない現状では……」
「調べて来ました! 遠目から見える範囲でしかありませんが、強そうなのが一体いました。確か……ガガンとか呼ばれていたはずです。遠目から見た印象では、あまり巨大には思えませんでした。ただ、テキパキと他のゴブリンへ指示を出していました。もしかしたら頭がいいというか、狡猾なタイプなのかもしれません」
ダンダの話を聞いた瞬間、受付の男性は顔色を変えた。
「いくら生まれ故郷とはいえ、ゴブリンの後方拠点にされていた場所へひとりで行ったのですか!?」
もしかしなくとも危険すぎる。仮にゴブリンに発見でもされていたら、ダンダの命はなかったはずだ。
「す、すみません。ですが、いてもたってもいられず……! と、とにかく、これが村の地図です」
村にあった家屋の半分以上は倒壊しており、かろうじて残っていた家をゴブリンたちは根城にしているみたいだった。
住民を奴隷のように働かせている場面も目撃したが、最後までダンダの妻子の姿は確認できなかった。
生きているのか死んでるのかもわからず、村人がどこへ収容されてるのかも正確にはわからない。
「どうやら、村の中に点在する家の中に、まとめて押し込まれてるみたいなのですが、その時々で変えられてるみたいなのです」
額に滲む冷や汗を、ダンダが手の甲で拭う。
「法則みたいなのはなく、ゴブリンの気分で変えられてるみたいです。私が調べられたのはここまででして……」
そこまで言ったあと、ダンダは再びすがるように受付の男性を見た。
「どうか! どうかお願いします! お願いします……!」
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受付の男性は、訪れたハンターに依頼の説明をする。ダンダ・ダッダという商人から出された依頼の内容を。
「依頼者は商人のダンダ・ダッダさんです。目的はゴブリンに占拠されてしまった村グルノアの奪還。今回の依頼に関して、領主の私兵の派遣等、援軍は期待できないそうです。部隊を再編制できるようになれば、支配された村の奪還作戦が開始されるのでしょうが、依頼人の強い要望でハンターに依頼が出されました」
ダンダから受け取っていた地図を使い、受付の男性は説明を継続する。
「侵攻時に破壊されてしまったせいで、村に残っている家は僅か。そのうちのひとつに、生き残った住民が捕らわれている模様です。依頼者は住民はもちろん、とにかく妻子の安否を確認したいみたいです。ゴブリンの殲滅は当然ですが、生き残っている住民がいれば、そちらの方もお願いします。しかしながら、どのくらいの人数が無事かなどの詳細は判明しておりません。住民の保護は後回しにして、一気にゴブリンを倒してしまうのも手かもしれませんね。ゴブリンは数匹ですが、大将格がいるようです。占拠されていた事情を考慮すれば、茨小鬼がいても不思議はないです。真っ先にボスを倒し、他のゴブリンの戦意を削ぐのも有効かと思います」
一度言葉を切ったあとで、受付の男性は依頼の詳細を聞きに来たハンターを真っ直ぐに見た。
「確実に戦闘になります。いまだ敵の支配下にある拠点ということで、不明な点も多いです。依頼を引き受ける際は十分な準備をし、気をつけて行動するようにしてください」
リプレイ本文
●
「いやがる、いやがる。多分、他のゴブリンに指示を出してる奥の偉そうなのが、ガガンって事だろ。動きがあれば、トランシーバーで情報を流すぜ」
グルノア村の出入口付近。望遠鏡を使って中の様子を確認中のクルス(ka3922)が、他の仲間へ聞こえるように言った。
「ゴブリンに占拠された村か……生存は絶望的だが、よくできた妻なんだろ? なら妻を信じて待ってろよ。娘もちゃんと護ってる筈だ。知ってるか? 女性は母親になると男が想像するより強いんだぜ。大丈夫だ。無事に全員を救助してやるよ」
歩みを止め、背後を振り返ったステラ・レッドキャップ(ka5434)が、同行中のダンダ・ダッダに声をかけた。
何度もハンターへ頭を下げるダンダの隣で、カイン・マッコール(ka5336)は真っ直ぐにグルノア村を見続ける。
「王国の一件で余計な知恵をつけた奴が出てきたか、生き残りかそれとも……どちらにしても、僕はゴブリンを殺すだけだ。何も変わらない」
ハンターたちとひととおりの会話を終えたあと、ダンダは後方へ避難する。比較的安全そうな場所に隠れ、様子を見るためだ。
ダンダの避難後に、心配そうにグルノア村へ視線を向けていた夜桜 奏音(ka5754)が呟くように言う。
「住民の皆さんは無事だといいのですが」
「それはわからねえけど、連中を叩き出してこれ以上の人死にがなきゃ上等だろ」
クルスの言葉は不安がる奏音を励ますと同時に、自分へ言い聞かせてるようでもあった。
「は、初めての戦闘任務ですが、頑張ります!」
二人の側ではヘカテー・オリュンポス(ka5905)が、極度の緊張でカードバインダーを持つ手を小さく震わせている。
「中央突破、な……まあ、やるけどよ。私は釣る奴に仕掛けるから、真ん中のは任せるぜ」
エルフリーデ・フューレン(ka5904)の言葉に頷きつつ、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)はゆっくりと騎士剣を抜く。
「ゴブリン共の手に落ちた村の奪還か。なかなか難儀な事だな。だが安心するが良いぞ! 大王たるボクがゴブリン共を薙ぎ払って取り返してくれよう!」
高々と宣言するかのように言葉を発したディアドラが、跨る戦馬に前進を命じる。
敵のど真ん中に真っ直ぐ突っ込み、自分へ注意を向けるのが狙いだった。
ディアドラに続いて、カインもバイクで敵へ突進していく。
「茨小鬼か。ある日突然、化物たちが我が物顔で住処にやってきて、根絶やしにしていくのを一部始終見続けて、復讐の為に死にもの狂いで生き延びてきたってとこか? 僕と同じで」
推測が正しかったとして、カインは同情などしない。慈悲もない。ゴブリンを狩り尽くすことだけが目的だからだ。
「こっちも始めるぜ」
乗っている魔導二輪のエンジン音を、一際大きく響かせたエルフリーデがアクセルを全開にする。
「連中の敵対心を煽ってやらねぇと釣るモンも釣れねぇしな。……頭がいるってんなら尚更だ」
陽動組と足並みを合わせる奏音も、馬で中央を駆ける。
「ゴブリン達、私はここですよ」
敵陣へ突っ込んでいったのはディアドラ、カイン、エルフリーデに奏音の四名。残りのステラ、クルス、ヘカテーはいまだ村の出入口付近にいた。
「俺はステラと突撃連中の後方支援、と見せかけた確認、救助の護衛ってとこだな」
望遠鏡で敵の様子や配置の確認をしては、トランシーバーを使ってクルスが奏音に情報を流す。
一方でステラは余ったトランシーバーを、ヘカテーに手渡していた。
陽動組が動き出したのを受けて、ステラはヘカテーと一緒に行動する。ゴブリンが手薄な民家へ向かう。要であるヘカテーが目立たないように。
「村を占拠したゴブリン、許せません! 囚われた村人たちを絶対に助け出します!」
村人の救助を最優先にして任務に参加中のヘカテーが、改めて気合を入れた。
「いい決意だ。オレがサポートしてやる。心配すんな」
「はい! ステラ先輩、よろしくお願いします」
頼もしいことを言ってくれたステラにお礼を言い、ヘカテーも行動を開始する。
前方を見れば、集まってきたゴブリンを相手にディアドラが剣を振るっている最中だった。
作戦開始前の偵察により、敵のおおまかな位置は確認済み。周囲のゴブリンの視界に入りやすい場所で、大立ち回りを演じる。
村の中央まで突撃してきたハンターたちを、四方から囲むようにゴブリンが動き出す。ガガンの指示だ。
ガガンも計画どおりなら、陽動役として突っ込んだハンターたちも計算どおり。向かってくるゴブリンを相手にそれぞれの武器を振るう。
「多少時間のかかる作戦だが、確実な救助のためだ。やむを得ないが手早く行っていきたいところだ」
ディアドラが戦闘する側を、魔導バイクに乗ったカインが走り抜ける。
一直線に敵の大将格であるガガンを目指す。視界に捉えれば、一気に距離を詰めて妖剣でのチャージングを叩きこむ。
「騎乗戦闘は出来やしないし、勝つのは難しいけど、壁ぐらいにはなれる、鎧をつけていれば即死はしない」
先手を取ったあとはバイクから降り、カインは正面からガガンの目を睨みつける。
「ニンゲンが……調子に乗るな!」
怒るガガンが槍を繰り出す。予想以上の速度だ。
すんでのところでカインは体をひねり、武者甲冑の腕部分でなんとか攻撃を防ぐ。
カインとガガンが戦う中、陽動組の一員であるエルフリーデがまだ民家前にいるゴブリンを狙う。
術と衝撃で吹き飛ばすべく、至近距離でコンボーカードからの火炎符を発動させる。
符に付与された火の精霊力が、標的のゴブリンを焼き焦がす。
断末魔の悲鳴が上がる。ゴブリンたちの目に宿る殺気が強くなり、突っ込んできたハンターたちへさらに意識が集中する。
民家から引き離すべく、二匹のゴブリンを狙った奏音の風雷陣も駄目押しになる。
「黙って立っていたら、私の符の餌食になるだけですよ」
言いながら空中へ投げた符が、凶悪な稲妻に変わる。
驚きに目を見開くゴブリンの一体を強烈に貫いて命を奪うと、同時に狙ったもう一体にも命中して瀕死の重傷を負わせた。
普通なら戦意を喪失してもおかしくないが、かろうじて致命傷を逃れたゴブリンは狂ったように奏音へ襲い掛かってくる。
それならばと奏音はゴブリンに狙われたまま移動し、手前の民家から引き離す。
手前にあった民家のひとつからゴブリンがいなくなったのを受け、すぐにクルスたちが行動を開始する。
「突撃した連中が陽動で引っ張ってくれたおかげで、スムーズに行きそうだな。仮にこっちへ向かってくる奴がいても、すぐに迎撃してやるぜ」
「オレたちが周辺を警戒する。ヘカテーは民家の中を頼む」
リボルバーに持ち替えたステラがクルスと一緒に周囲の警戒をしながら、背後にいるヘカテーへ声をかけた。
ゴブリンを引き付けてくれた奏音から、この付近には敵がいなくなったという連絡は既に受けている。
「では、家の中の様子を見てきますね」
そう言ってヘカテーは、ひとりで民家の中へ入った。
連絡がない限り民家内の捜索をステラが行おうとしなかったのは、ゴブリン連中にあくまでも銃を持った後方支援に徹していると思わせたかったからだった。
おかげで敵に住民の救出を優先されているとバレず、こうして捜索も実行できている。
やがて民家内の探索を終えたヘカテーが戻ってくる。
「駄目です。ここにはいませんでした」
「そうか。じゃあ次に行くぞ」
ヘカテーの報告を受けて、ステラはすぐに残っているゴブリンの敵とガガンの位置を確認する。
「雑魚がいくら集まっても無駄だぞ。大王たるボクには、かすり傷すらつけられないからな!」
最初に突っ込んだディアドラを袋叩きにしようとするゴブリンが、次から次に攻撃を行ってくる。
鋭い爪の一撃をディアドラは苦もなくシールドで受け止める。そのまま敵を押し返し、バランスを崩したところを狙って騎士剣の斬撃をお見舞いする。
従来のゴブリンよりは手応えがあるものの、かつて世界を支配していたという大王の生まれ変わり……を自称するディアドラの敵ではなかった。
唯一の問題は四方を囲まれてしまうことくらいだが、そうはさせじとエルフリーデが対処する。
ディアドラを狙うゴブリンの一体に一撃を入れたあと、自分に向かってくるのを確認して引き離す。
単純に逃げるのではなく、味方からゴブリンがやや離れたところで素早くエルフリーデは反転する。
「ケツ持ちは任せとけ。包囲されるとか冗談じゃねえよ」
追ってくるゴブリンを迎撃するため、射程ギリギリからエルフリーデが火炎符を放つ。
焼き焦げたゴブリンが前のめりに倒れるのを見てから、エルフリーデはガガンを狙うように再発進する。
ステラたちは手前のもう一軒の民家へ到着していたが、こちらにも救助すべき住民の影も形も見えなかった。
トランシーバーで報告を受け取った奏音は、ゴブリンの相手を継続しながらステラに問いかける。
「救助組は今後どう動きますか」
「ここから最短ルートで一番近い奥の民家へ行く。そこにもいなければ、ゴブリンの殲滅に移る」
ステラがそう言った時だった。
ガガンの指示が出た後でも家から動かねえ奴らがいれば、そこが本命かもしれねえ。そう思って村全体の様子を望遠鏡で逐一確認していたクルスが、真っ先に異変を察知した。
残り半数程度になっていたゴブリンたちが、一斉に奥にある民家の一軒を目指しだしたのだ。
なるべく確保に動いてるのが露見しないように行動してきたつもりだが、ゴブリンにしては知略に優れるガガンにとうとう狙いがバレてしまったのである。
戦況の不利も把握していたガガンはハンターに勝つ手段として、配下に捕らえてる人間を盾に使えと命令したのだった。
前線でゴブリンを相手に獅子奮迅の働きを見せていたディアドラも、状況の変化を敏感に察知していた。
「やはり相手もただの馬鹿ではなかったか。よし。こちらから攻勢に出るぞ! 敵の主力も含めて掃討する。一体たりとも、逃す理由はないからな」
ディアドラへ呼応するかのように、奏音もリロードを済ませた符を使って風雷陣を炸裂させる。
「あなた方の敵はこちらです」
わずかな時間でも注意をひけたおかげで、事態を把握したエルフリーデも狙いをガガンから変更して、住民のいる家を襲おうとするゴブリンに火炎符を食らわせる。
「舐めた真似してくれたじゃねぇか。このツケはでかいぜ!」
にわかに騒がしくなった戦場の真ん中で、ガガンが笑う。
「もっと慌てふためけ、ニンゲンども! グガガ!」
瞳に狂気の色を宿すガガンに、正面に立つカインが静かに問いかける。人間が憎いか、と。
「当たり前のことを聞くな! 憎くてたまらないに決まってるダロ!」
「奇遇だな。僕もお前たちが憎い」
「ほざけっ!」
突き出された槍を大剣で弾き、突きの体勢で突っ込んだカインが、ガガンに渾身撃を叩きこむ。
一撃で致命傷を与えられないのは承知済みだと言わんばかりに、何度も繰り返してガガンの体力を削っていく。
自らの近くにいたゴブリンの相手をエルフリーデに任せ、奏音は住民がいるであろう家を目指す連中の妨害をする。
「させません。住民の安全を脅かさせたりは」
桜幕符で敵の視界を防ぐ。
いきなりの状況に混乱するゴブリンを、遠距離からステラが狙う。
「先には行かせねえよ。黙ってそこで寝てろ」
遠射を使用してのターゲッティングで、正確にゴブリンの頭を撃ち抜いた。
ドサリとゴブリンが倒れ、また一体敵の数が減る。
クルスも遠距離からホーリーライトを飛ばし、民家にゴブリンを近寄らせない。
「迂闊に接近してきたら、メイスで殴ってやるぜ。覚悟しな」
その隙にヘカテーが、真っ先に民家へ到着する。
「大丈夫ですか!? 今、応急処置をしますね!」
住民を無事に発見したのを受け、追いついたステラとクルスが即座に民家の防衛を始める。
住民を盾にして戦局を有利にするはずが、ハンターの活躍でガガンの策略は不発に終わった。
焦りと失望が怒りに変わり、ガガンは怒声を村中に響かせる。
「茨小鬼? 馬鹿馬鹿しい、お前はゴブリンだよ、ただの薄汚いゴブリンなんだよ」
「ぐぎぎ……だったらお前は、ただの薄汚いニンゲンだろウガ!」
「僕は、ゴブリンスレイヤーだ」
再びの渾身撃を叩き込むも、やはりガガンを仕留めるには至らない。どちらも決め手を欠いている状況だった。
それでもガガンが動けず、他のゴブリンの相手だけならハンターが圧倒的に有利となる。
「さあ、早く避難を!」
助け出した生き残りの住民を、ヘカテーが安全圏まで避難誘導する。
クルスとステラが護衛についた時、残る敵はすでにガガン一体だけになっていた。
対峙していたカインだけでなく、ディアドラやエルフリーデ、さらには奏音までもがガガンに攻撃を仕掛ける。
いかに強力な茨小鬼とはいえ、複数のハンターに同時攻撃をされればひとたまりもなかった。
「オノレ、オノレェ! ニンゲンどもがあァァァ!」
怨恨の叫びを放ち、とうとうガガンが倒れる。
ゴブリンたちに支配された村グルノアが、ハンターの手で解放された瞬間だった。
●
戦闘終了後すぐに、ディアドラは被害にあった村人たちを勇気づけて回っていた。
「狡猾なゴブリン共に良いようにされてしまったのだ。被害を受けたものは無念でたまらないだろうからな」
解放から一時間後。ようやくダンダは愛する妻を見つけた。
我が子を抱きしめるようにして、地面に倒れている妻を。
息はしていなかった。
ダンダはその場に膝から崩れ落ちた。
慟哭の声を上げようとしたその時、かすかに娘の指が動いた。
慌てて母親の手から取り上げ、脈を測る。
「生きてる……娘だけは、まだ……」
最愛の妻は帰らぬ人になってしまったが、娘はかろうじて生きていた。
●
ハンターに簡単な治療をしてもらい、娘をベッドに寝かせたあと、ダンダは動ける村人たちに手伝ってもらって犠牲者の供養を行った。
合流し、供養を手伝ったハンターたちは何も言えずにダンダの背中を見つめていた。
掛けられる言葉なんてねぇよ……。
心の中で呟いたはずなのに、エルフリーデの声が聞こえたのか、ダンダが後ろを振り返った。
「私は大丈夫です。今はまだ泣いている暇はありません。娘が元気になり、村が再興したら、その時にゆっくり妻を想って泣きたいと思います」
そう言ったあと、ダンダはステラを見た。
「最初に貴女が言ってくださったとおり、妻は娘を護ってくれました。ゴブリンに支配された状況下でも。母親とは……本当に強いのですね」
「……ああ、そうだな」
それだけしか返せなかったステラに、ダンダは改めて微笑んだ。
沈みゆく夕日の光が、まるで涙みたいにダンダの頬で悲しげに照らしていた。
「いやがる、いやがる。多分、他のゴブリンに指示を出してる奥の偉そうなのが、ガガンって事だろ。動きがあれば、トランシーバーで情報を流すぜ」
グルノア村の出入口付近。望遠鏡を使って中の様子を確認中のクルス(ka3922)が、他の仲間へ聞こえるように言った。
「ゴブリンに占拠された村か……生存は絶望的だが、よくできた妻なんだろ? なら妻を信じて待ってろよ。娘もちゃんと護ってる筈だ。知ってるか? 女性は母親になると男が想像するより強いんだぜ。大丈夫だ。無事に全員を救助してやるよ」
歩みを止め、背後を振り返ったステラ・レッドキャップ(ka5434)が、同行中のダンダ・ダッダに声をかけた。
何度もハンターへ頭を下げるダンダの隣で、カイン・マッコール(ka5336)は真っ直ぐにグルノア村を見続ける。
「王国の一件で余計な知恵をつけた奴が出てきたか、生き残りかそれとも……どちらにしても、僕はゴブリンを殺すだけだ。何も変わらない」
ハンターたちとひととおりの会話を終えたあと、ダンダは後方へ避難する。比較的安全そうな場所に隠れ、様子を見るためだ。
ダンダの避難後に、心配そうにグルノア村へ視線を向けていた夜桜 奏音(ka5754)が呟くように言う。
「住民の皆さんは無事だといいのですが」
「それはわからねえけど、連中を叩き出してこれ以上の人死にがなきゃ上等だろ」
クルスの言葉は不安がる奏音を励ますと同時に、自分へ言い聞かせてるようでもあった。
「は、初めての戦闘任務ですが、頑張ります!」
二人の側ではヘカテー・オリュンポス(ka5905)が、極度の緊張でカードバインダーを持つ手を小さく震わせている。
「中央突破、な……まあ、やるけどよ。私は釣る奴に仕掛けるから、真ん中のは任せるぜ」
エルフリーデ・フューレン(ka5904)の言葉に頷きつつ、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)はゆっくりと騎士剣を抜く。
「ゴブリン共の手に落ちた村の奪還か。なかなか難儀な事だな。だが安心するが良いぞ! 大王たるボクがゴブリン共を薙ぎ払って取り返してくれよう!」
高々と宣言するかのように言葉を発したディアドラが、跨る戦馬に前進を命じる。
敵のど真ん中に真っ直ぐ突っ込み、自分へ注意を向けるのが狙いだった。
ディアドラに続いて、カインもバイクで敵へ突進していく。
「茨小鬼か。ある日突然、化物たちが我が物顔で住処にやってきて、根絶やしにしていくのを一部始終見続けて、復讐の為に死にもの狂いで生き延びてきたってとこか? 僕と同じで」
推測が正しかったとして、カインは同情などしない。慈悲もない。ゴブリンを狩り尽くすことだけが目的だからだ。
「こっちも始めるぜ」
乗っている魔導二輪のエンジン音を、一際大きく響かせたエルフリーデがアクセルを全開にする。
「連中の敵対心を煽ってやらねぇと釣るモンも釣れねぇしな。……頭がいるってんなら尚更だ」
陽動組と足並みを合わせる奏音も、馬で中央を駆ける。
「ゴブリン達、私はここですよ」
敵陣へ突っ込んでいったのはディアドラ、カイン、エルフリーデに奏音の四名。残りのステラ、クルス、ヘカテーはいまだ村の出入口付近にいた。
「俺はステラと突撃連中の後方支援、と見せかけた確認、救助の護衛ってとこだな」
望遠鏡で敵の様子や配置の確認をしては、トランシーバーを使ってクルスが奏音に情報を流す。
一方でステラは余ったトランシーバーを、ヘカテーに手渡していた。
陽動組が動き出したのを受けて、ステラはヘカテーと一緒に行動する。ゴブリンが手薄な民家へ向かう。要であるヘカテーが目立たないように。
「村を占拠したゴブリン、許せません! 囚われた村人たちを絶対に助け出します!」
村人の救助を最優先にして任務に参加中のヘカテーが、改めて気合を入れた。
「いい決意だ。オレがサポートしてやる。心配すんな」
「はい! ステラ先輩、よろしくお願いします」
頼もしいことを言ってくれたステラにお礼を言い、ヘカテーも行動を開始する。
前方を見れば、集まってきたゴブリンを相手にディアドラが剣を振るっている最中だった。
作戦開始前の偵察により、敵のおおまかな位置は確認済み。周囲のゴブリンの視界に入りやすい場所で、大立ち回りを演じる。
村の中央まで突撃してきたハンターたちを、四方から囲むようにゴブリンが動き出す。ガガンの指示だ。
ガガンも計画どおりなら、陽動役として突っ込んだハンターたちも計算どおり。向かってくるゴブリンを相手にそれぞれの武器を振るう。
「多少時間のかかる作戦だが、確実な救助のためだ。やむを得ないが手早く行っていきたいところだ」
ディアドラが戦闘する側を、魔導バイクに乗ったカインが走り抜ける。
一直線に敵の大将格であるガガンを目指す。視界に捉えれば、一気に距離を詰めて妖剣でのチャージングを叩きこむ。
「騎乗戦闘は出来やしないし、勝つのは難しいけど、壁ぐらいにはなれる、鎧をつけていれば即死はしない」
先手を取ったあとはバイクから降り、カインは正面からガガンの目を睨みつける。
「ニンゲンが……調子に乗るな!」
怒るガガンが槍を繰り出す。予想以上の速度だ。
すんでのところでカインは体をひねり、武者甲冑の腕部分でなんとか攻撃を防ぐ。
カインとガガンが戦う中、陽動組の一員であるエルフリーデがまだ民家前にいるゴブリンを狙う。
術と衝撃で吹き飛ばすべく、至近距離でコンボーカードからの火炎符を発動させる。
符に付与された火の精霊力が、標的のゴブリンを焼き焦がす。
断末魔の悲鳴が上がる。ゴブリンたちの目に宿る殺気が強くなり、突っ込んできたハンターたちへさらに意識が集中する。
民家から引き離すべく、二匹のゴブリンを狙った奏音の風雷陣も駄目押しになる。
「黙って立っていたら、私の符の餌食になるだけですよ」
言いながら空中へ投げた符が、凶悪な稲妻に変わる。
驚きに目を見開くゴブリンの一体を強烈に貫いて命を奪うと、同時に狙ったもう一体にも命中して瀕死の重傷を負わせた。
普通なら戦意を喪失してもおかしくないが、かろうじて致命傷を逃れたゴブリンは狂ったように奏音へ襲い掛かってくる。
それならばと奏音はゴブリンに狙われたまま移動し、手前の民家から引き離す。
手前にあった民家のひとつからゴブリンがいなくなったのを受け、すぐにクルスたちが行動を開始する。
「突撃した連中が陽動で引っ張ってくれたおかげで、スムーズに行きそうだな。仮にこっちへ向かってくる奴がいても、すぐに迎撃してやるぜ」
「オレたちが周辺を警戒する。ヘカテーは民家の中を頼む」
リボルバーに持ち替えたステラがクルスと一緒に周囲の警戒をしながら、背後にいるヘカテーへ声をかけた。
ゴブリンを引き付けてくれた奏音から、この付近には敵がいなくなったという連絡は既に受けている。
「では、家の中の様子を見てきますね」
そう言ってヘカテーは、ひとりで民家の中へ入った。
連絡がない限り民家内の捜索をステラが行おうとしなかったのは、ゴブリン連中にあくまでも銃を持った後方支援に徹していると思わせたかったからだった。
おかげで敵に住民の救出を優先されているとバレず、こうして捜索も実行できている。
やがて民家内の探索を終えたヘカテーが戻ってくる。
「駄目です。ここにはいませんでした」
「そうか。じゃあ次に行くぞ」
ヘカテーの報告を受けて、ステラはすぐに残っているゴブリンの敵とガガンの位置を確認する。
「雑魚がいくら集まっても無駄だぞ。大王たるボクには、かすり傷すらつけられないからな!」
最初に突っ込んだディアドラを袋叩きにしようとするゴブリンが、次から次に攻撃を行ってくる。
鋭い爪の一撃をディアドラは苦もなくシールドで受け止める。そのまま敵を押し返し、バランスを崩したところを狙って騎士剣の斬撃をお見舞いする。
従来のゴブリンよりは手応えがあるものの、かつて世界を支配していたという大王の生まれ変わり……を自称するディアドラの敵ではなかった。
唯一の問題は四方を囲まれてしまうことくらいだが、そうはさせじとエルフリーデが対処する。
ディアドラを狙うゴブリンの一体に一撃を入れたあと、自分に向かってくるのを確認して引き離す。
単純に逃げるのではなく、味方からゴブリンがやや離れたところで素早くエルフリーデは反転する。
「ケツ持ちは任せとけ。包囲されるとか冗談じゃねえよ」
追ってくるゴブリンを迎撃するため、射程ギリギリからエルフリーデが火炎符を放つ。
焼き焦げたゴブリンが前のめりに倒れるのを見てから、エルフリーデはガガンを狙うように再発進する。
ステラたちは手前のもう一軒の民家へ到着していたが、こちらにも救助すべき住民の影も形も見えなかった。
トランシーバーで報告を受け取った奏音は、ゴブリンの相手を継続しながらステラに問いかける。
「救助組は今後どう動きますか」
「ここから最短ルートで一番近い奥の民家へ行く。そこにもいなければ、ゴブリンの殲滅に移る」
ステラがそう言った時だった。
ガガンの指示が出た後でも家から動かねえ奴らがいれば、そこが本命かもしれねえ。そう思って村全体の様子を望遠鏡で逐一確認していたクルスが、真っ先に異変を察知した。
残り半数程度になっていたゴブリンたちが、一斉に奥にある民家の一軒を目指しだしたのだ。
なるべく確保に動いてるのが露見しないように行動してきたつもりだが、ゴブリンにしては知略に優れるガガンにとうとう狙いがバレてしまったのである。
戦況の不利も把握していたガガンはハンターに勝つ手段として、配下に捕らえてる人間を盾に使えと命令したのだった。
前線でゴブリンを相手に獅子奮迅の働きを見せていたディアドラも、状況の変化を敏感に察知していた。
「やはり相手もただの馬鹿ではなかったか。よし。こちらから攻勢に出るぞ! 敵の主力も含めて掃討する。一体たりとも、逃す理由はないからな」
ディアドラへ呼応するかのように、奏音もリロードを済ませた符を使って風雷陣を炸裂させる。
「あなた方の敵はこちらです」
わずかな時間でも注意をひけたおかげで、事態を把握したエルフリーデも狙いをガガンから変更して、住民のいる家を襲おうとするゴブリンに火炎符を食らわせる。
「舐めた真似してくれたじゃねぇか。このツケはでかいぜ!」
にわかに騒がしくなった戦場の真ん中で、ガガンが笑う。
「もっと慌てふためけ、ニンゲンども! グガガ!」
瞳に狂気の色を宿すガガンに、正面に立つカインが静かに問いかける。人間が憎いか、と。
「当たり前のことを聞くな! 憎くてたまらないに決まってるダロ!」
「奇遇だな。僕もお前たちが憎い」
「ほざけっ!」
突き出された槍を大剣で弾き、突きの体勢で突っ込んだカインが、ガガンに渾身撃を叩きこむ。
一撃で致命傷を与えられないのは承知済みだと言わんばかりに、何度も繰り返してガガンの体力を削っていく。
自らの近くにいたゴブリンの相手をエルフリーデに任せ、奏音は住民がいるであろう家を目指す連中の妨害をする。
「させません。住民の安全を脅かさせたりは」
桜幕符で敵の視界を防ぐ。
いきなりの状況に混乱するゴブリンを、遠距離からステラが狙う。
「先には行かせねえよ。黙ってそこで寝てろ」
遠射を使用してのターゲッティングで、正確にゴブリンの頭を撃ち抜いた。
ドサリとゴブリンが倒れ、また一体敵の数が減る。
クルスも遠距離からホーリーライトを飛ばし、民家にゴブリンを近寄らせない。
「迂闊に接近してきたら、メイスで殴ってやるぜ。覚悟しな」
その隙にヘカテーが、真っ先に民家へ到着する。
「大丈夫ですか!? 今、応急処置をしますね!」
住民を無事に発見したのを受け、追いついたステラとクルスが即座に民家の防衛を始める。
住民を盾にして戦局を有利にするはずが、ハンターの活躍でガガンの策略は不発に終わった。
焦りと失望が怒りに変わり、ガガンは怒声を村中に響かせる。
「茨小鬼? 馬鹿馬鹿しい、お前はゴブリンだよ、ただの薄汚いゴブリンなんだよ」
「ぐぎぎ……だったらお前は、ただの薄汚いニンゲンだろウガ!」
「僕は、ゴブリンスレイヤーだ」
再びの渾身撃を叩き込むも、やはりガガンを仕留めるには至らない。どちらも決め手を欠いている状況だった。
それでもガガンが動けず、他のゴブリンの相手だけならハンターが圧倒的に有利となる。
「さあ、早く避難を!」
助け出した生き残りの住民を、ヘカテーが安全圏まで避難誘導する。
クルスとステラが護衛についた時、残る敵はすでにガガン一体だけになっていた。
対峙していたカインだけでなく、ディアドラやエルフリーデ、さらには奏音までもがガガンに攻撃を仕掛ける。
いかに強力な茨小鬼とはいえ、複数のハンターに同時攻撃をされればひとたまりもなかった。
「オノレ、オノレェ! ニンゲンどもがあァァァ!」
怨恨の叫びを放ち、とうとうガガンが倒れる。
ゴブリンたちに支配された村グルノアが、ハンターの手で解放された瞬間だった。
●
戦闘終了後すぐに、ディアドラは被害にあった村人たちを勇気づけて回っていた。
「狡猾なゴブリン共に良いようにされてしまったのだ。被害を受けたものは無念でたまらないだろうからな」
解放から一時間後。ようやくダンダは愛する妻を見つけた。
我が子を抱きしめるようにして、地面に倒れている妻を。
息はしていなかった。
ダンダはその場に膝から崩れ落ちた。
慟哭の声を上げようとしたその時、かすかに娘の指が動いた。
慌てて母親の手から取り上げ、脈を測る。
「生きてる……娘だけは、まだ……」
最愛の妻は帰らぬ人になってしまったが、娘はかろうじて生きていた。
●
ハンターに簡単な治療をしてもらい、娘をベッドに寝かせたあと、ダンダは動ける村人たちに手伝ってもらって犠牲者の供養を行った。
合流し、供養を手伝ったハンターたちは何も言えずにダンダの背中を見つめていた。
掛けられる言葉なんてねぇよ……。
心の中で呟いたはずなのに、エルフリーデの声が聞こえたのか、ダンダが後ろを振り返った。
「私は大丈夫です。今はまだ泣いている暇はありません。娘が元気になり、村が再興したら、その時にゆっくり妻を想って泣きたいと思います」
そう言ったあと、ダンダはステラを見た。
「最初に貴女が言ってくださったとおり、妻は娘を護ってくれました。ゴブリンに支配された状況下でも。母親とは……本当に強いのですね」
「……ああ、そうだな」
それだけしか返せなかったステラに、ダンダは改めて微笑んだ。
沈みゆく夕日の光が、まるで涙みたいにダンダの頬で悲しげに照らしていた。
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相談卓 カイン・A・A・カーナボン(ka5336) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/12/04 03:24:36 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/01 20:14:16 |