ゲスト
(ka0000)
【深棲】船上にて、船酔い注意
マスター:植田誠

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/11 09:00
- 完成日
- 2014/08/19 19:50
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ベルトルードから一隻の船が出港した。大規模作戦に備え帝国軍が準備した比較的大きな物資輸送船だ。
歪虚の襲撃なども考慮して兵士の他雇われたハンターも同乗していたが……天候は良好、波も穏やか。先行して航路の確認を行っているグリフォンライダーからも特に報せは入っていない。
船員たちも割とのんびり船旅を楽しむ余裕があった。
……それから数十分後。
「……もう駄目だ……グぇボボボボ……」
「や、やめろ……俺まで貰って……ウッ……ゲボァ!」
「ウェ……はぁ、大丈夫。もう大丈bオボロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛!」
船上は嘔吐のオンパレードにより地獄と化していた。
そこら中で「オボロシャァッ!」「エレエレエレエレ……」等と言った様々な吐き方をする人々。
これは、いわゆる船酔いというやつだ。まぁさして珍しいものでは無い。
ただ奇妙だったのは……帝国の兵士だけではなく、本来船に乗り慣れているはずの船乗りまでもが船酔いらしき症状が現れているという点だ。
「ウップ……危ない危ない」
いい歳こいたおっさん……もとい錬金術師組合正博士たるクロウも他の乗員同様、船酔いの真っ最中だ。怪我も治ったことだし鈍った体を動かすか……なんて軽い気持ちで帝国軍の手伝いなど買って出たのだが、それがこの様である。尤も、クロウの場合船酔いだけではなく昨晩飲みすぎた結果二日酔い気味だったのも原因の一つだろうが。
「やれやれ……いい歳こいたおっさんがこんなところで吐いてられるか……」
口元を抑えながらも、必死にクロウは頭を働かせていた。
毒などを仕込まれたというのも考えないではないが、歪虚のやりそうな手では無い。そもそも、船酔いを助長させるぐらいならもっと致死性の高い毒を入れてやればいい話だ。そうなると……
「……敵が近くにいる……ってのが一番分かりやすいか?」
この船酔いの原因がその敵にある……そう考えていた矢先だ。
「て、敵襲! 敵sウェゲェェェ!」
船員の一人が嘔吐しながらも敵の襲来を告げる。空からの索敵にかからなかったところを見るに、割と深いところから近づいてきたのだろう。
「……なんだありゃ?」
水中から現れたのは3体の半魚人だった。ただ、普通の半魚人とは違う点が一つ。それは肩に乗った機導装置。
「……なんで半魚人が機導装置っぽいの積んでるんだ?」
帝国だと稀に機械で改造されたゾンビなんてものが出現する例がある。ただ、ゾンビなどは一般的に暴食の歪虚に属する。対し、今この辺りで幅を利かせているのは狂気の歪虚だ。
「他の眷属わざわざ捕まえて、起動装置の実験でもしようってのか? ……ん?」
様子を窺っていたクロウに気が付いたのだろうか。3体の半魚人ゾンビはクロウへと振り向く。すると不意に耳鳴りのようなものが聞こえてくる。同時に、今まで感じていた船酔いによる不快感が急増する。
「グェ……何だ急に……」
戦闘に備え覚醒しているのにこれだ。船内に入った一般人はたまったものじゃないだろう。
「耳鳴り……機導装置……なるほど原因がこいつらなのは間違いねぇか……」
同乗していたハンターたちが駆けつけたのはそんな時だった。
「お、来たか……多分、そいつらが船酔いの原因だ……そいつら倒せば多分……ウッ!」
クロウはそう言いながら結局耐えきれず、吐瀉物を海へと撒き散らしたのだった。
ベルトルードから一隻の船が出港した。大規模作戦に備え帝国軍が準備した比較的大きな物資輸送船だ。
歪虚の襲撃なども考慮して兵士の他雇われたハンターも同乗していたが……天候は良好、波も穏やか。先行して航路の確認を行っているグリフォンライダーからも特に報せは入っていない。
船員たちも割とのんびり船旅を楽しむ余裕があった。
……それから数十分後。
「……もう駄目だ……グぇボボボボ……」
「や、やめろ……俺まで貰って……ウッ……ゲボァ!」
「ウェ……はぁ、大丈夫。もう大丈bオボロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛!」
船上は嘔吐のオンパレードにより地獄と化していた。
そこら中で「オボロシャァッ!」「エレエレエレエレ……」等と言った様々な吐き方をする人々。
これは、いわゆる船酔いというやつだ。まぁさして珍しいものでは無い。
ただ奇妙だったのは……帝国の兵士だけではなく、本来船に乗り慣れているはずの船乗りまでもが船酔いらしき症状が現れているという点だ。
「ウップ……危ない危ない」
いい歳こいたおっさん……もとい錬金術師組合正博士たるクロウも他の乗員同様、船酔いの真っ最中だ。怪我も治ったことだし鈍った体を動かすか……なんて軽い気持ちで帝国軍の手伝いなど買って出たのだが、それがこの様である。尤も、クロウの場合船酔いだけではなく昨晩飲みすぎた結果二日酔い気味だったのも原因の一つだろうが。
「やれやれ……いい歳こいたおっさんがこんなところで吐いてられるか……」
口元を抑えながらも、必死にクロウは頭を働かせていた。
毒などを仕込まれたというのも考えないではないが、歪虚のやりそうな手では無い。そもそも、船酔いを助長させるぐらいならもっと致死性の高い毒を入れてやればいい話だ。そうなると……
「……敵が近くにいる……ってのが一番分かりやすいか?」
この船酔いの原因がその敵にある……そう考えていた矢先だ。
「て、敵襲! 敵sウェゲェェェ!」
船員の一人が嘔吐しながらも敵の襲来を告げる。空からの索敵にかからなかったところを見るに、割と深いところから近づいてきたのだろう。
「……なんだありゃ?」
水中から現れたのは3体の半魚人だった。ただ、普通の半魚人とは違う点が一つ。それは肩に乗った機導装置。
「……なんで半魚人が機導装置っぽいの積んでるんだ?」
帝国だと稀に機械で改造されたゾンビなんてものが出現する例がある。ただ、ゾンビなどは一般的に暴食の歪虚に属する。対し、今この辺りで幅を利かせているのは狂気の歪虚だ。
「他の眷属わざわざ捕まえて、起動装置の実験でもしようってのか? ……ん?」
様子を窺っていたクロウに気が付いたのだろうか。3体の半魚人ゾンビはクロウへと振り向く。すると不意に耳鳴りのようなものが聞こえてくる。同時に、今まで感じていた船酔いによる不快感が急増する。
「グェ……何だ急に……」
戦闘に備え覚醒しているのにこれだ。船内に入った一般人はたまったものじゃないだろう。
「耳鳴り……機導装置……なるほど原因がこいつらなのは間違いねぇか……」
同乗していたハンターたちが駆けつけたのはそんな時だった。
「お、来たか……多分、そいつらが船酔いの原因だ……そいつら倒せば多分……ウッ!」
クロウはそう言いながら結局耐えきれず、吐瀉物を海へと撒き散らしたのだった。
リプレイ本文
●
クロウが3体の半魚人と接敵する少し前。
この船に同乗していた8人のハンターたちも、クロウ同様に体の変調……ぶっちゃけてしまえば船酔いに頭を悩ませていた。
「乗り物酔いってのは、視覚情報と感覚器官からの情報のずれから……だったよな」
そう呟きながらラザラス・フォースター(ka0108)は目を閉じて酔いを軽減できないか試みる……が、あまり効果は無いようだ。
「っかしーな……うぇっぷ」
自身も吐き気をこらえながら、これがただの集団船酔いではないのかと疑い始めていた。
「あまり床を見たくない惨状ですね……」
月架 尊(ka0114)は口元を抑えながら、それでも一応甲板の状態を確認し……やっぱり見なければよかったと後悔した。
「何故にまたこんな汚いことに……」
呟く十 音子(ka0537)。その原因が何かはすぐに分かった。船員の一人が、嘔吐しながらも敵襲が来たことを叫んだからだ。
こうしてハンターたちは敵のいる甲板上に集まり、そこでクロウと、彼の前に立つ半魚人たちを発見した。
「スピーカーを付けた半魚人……シュールですわね」
敵の姿を見ながら、落ち着いて感想を述べる古川 舞踊(ka1777)。確かに、水棲の半魚人と水に弱そうな機械の組み合わせというのはミスマッチな気がする。
「ふざけやがって……快適な船旅に茶々いれてくれたんだ。覚悟できてんだろうな」
一方、アニス・テスタロッサ(ka0141)はこめかみを抑えながら、敵を睨みつける。その瞳には殺意の色が濃い。
「船酔いで海を楽しめないのは辛いよな、あたしも機械を楽しめないのが辛いぜ!」
対してジナイーダ・ドラグノーヴァ(ka0802)はというと、敵の機導装置の方に興味が向いているようだ。
「お、来たか……多分、そいつらが船酔いの原因だ……そいつら倒せば多分……ウッ!」
それを見て気が緩んだのか、クロウはとっさに船から身を乗り出し、海に向かって吐き出す。
「……なんにせよ、初めての依頼だ、全員無事に帰らねぇとな」
クロウが吐くのを見て多少辟易しつつ、立守 円(ka1992)はそう言って気を引き締めた。
●
「あいつを倒さないと、この状態は終わらないのですから、がんばりましょう」
「だな。クロウに詳しい話を聞いときたかったが、そういう時間もなさそうだし」
尊とイスカ・ティフィニア(ka2222)はそう言いながらランアウトを使用し、同時に飛び出していく。目的は敵の注意を引くこと。
「まぁ、1人1体は引き付けるのが目標ですか」
まず潰したいのは肩に付けられたスピーカー状の機導装置。だが、尊はそこではなく、あえて胴を狙う。
(肩を警戒させるわけにはいきませんからね……ここの破壊は攻撃班に任せます)
日本刀で斬りつける尊。多少ダメージは与えられただろうが、浅い。足元がふらつき攻撃が上手く決まらない。
ふと、尊は足元を見る。見てしまった……
「……絶対転ばないようにしないと……」
その惨状を直視した尊を急激な吐き気が襲うが、そこをなんとかこらえ、態勢を立て直す。
「俺の忍耐力を甘く見るなよ?」
一方のイスカ。先に瞬脚を使用していたため、その速度は尊以上。その速さを活かして攻撃、さらにすぐさま敵の背後に回り込む。その姿を追いかけるように、半魚人はイスカへと振り向く。
「よしよし、俺から注意を逸らすなよ? そん時はすぐさま斬るからな」
正面から半魚人を見据えるイスカ。吐き気は先程よりきつくなってきてはいたが、まだ耐えられる範囲だ。
「即時潰す、魚人共め……ぐぅっ」
尊、イスカと同様囮役を買って出た音子。2人に少し遅れながら接近。鞭を半魚人の顔めがけて振り抜く……が、攻撃は外れ。船酔いの影響が少ない方ではあるが、近接攻撃はやや専門外か。だが、敵の注意を惹くのには成功したと見える。
囮に出た3人の動きを観察しながら、舞踊は機導砲を使用して援護を行う。目的は敵の動きを制限、あるいは牽制すること。これで味方への攻撃を減らし、敵の回避を妨害する。
「どう見ても怪しすぎるアレ……さっさとぶっ壊すぞ。さっさと始末しねぇと、歌いたくも聞きたくもねぇ合唱するハメになっちまう」
その間、アニスはそう言いつつ敵の正面から外れるように横へ大きく移動していく。
「あたしはただ機械が弄れればいいんだけど……まぁその邪魔をするなら叩きのめすけどな!」
アニスに呼応するかのように、ジナイーダも魔導機械を構え……
「あたし以外の誰かが!」
そう言って囮役、最も近くにいた音子に防性強化を使用する。やる気がない……ともとられかねないが皆の体調が万全ではない状態だ。サポート役は重要になってくる。この間、クロウも合わせるように囮役2人に防性強化を使用する。
「さて、このおっさんにゃ来る大作戦で愛娘達の面倒見て貰わねぇとなんねぇんだ」
自身に攻性強化を使用したラザラスは、次いで魔導機械を半魚人に向ける。
「こんなところで怪我してもらっちゃ困るんだよ!」
発射された機導砲が半魚人を捉える。多少ダメージは与えられたか。もっとも、狙っていた肩の機導装置には当たらなかったが。
「ちっ……やっぱピンポイントで当てるのは……うぷ」
未だ収まらぬ吐き気に悩まされながらも口元を抑える。
吐き気が収まらないのはアニスも同様。だが、それを怒りで抑え込みながら、銃撃。狙いは敵機導装置……ではなく船の縁。跳弾させて敵の意識外から攻撃しようという策だ。だが、跳ね返った弾丸は装置を掠めただけ。船酔いで角度を誤ったか。
「クソ……揺れと頭痛で当たりゃしねぇ……!」
アニスがそう毒づく。
「このっ……!」
尊は胴や腕への狙いを継続。できる限り攻撃班の狙う肩から注意を逸らす。攻撃に関しては回避主体で……と思ってはいても、この体調ではなかなか厳しいものがある。マルチステップを利用した回避でなんとか持たせてはいるが……
「……上手く、行きませんね……」
それ以上に厳しかったのは音子。鞭を利用して敵に巻き付け束縛しよう……としても、攻撃が当たらないのでは意味がない。これらの行動が敵の注意を引いているのは確かではあったが、その分敵の攻撃も音子を傷つけている。
「……これ以上は、厳しいですね……」
半魚人と正面切っての戦いは音子の吐き気を蓄積させる。これ以上は吐きながら戦うことにもなりかねない。音子は傷を治療することも兼ねて一度敵から離れ、マテリアルヒーリングを使用することに。
そうはさせまいと半魚人は追おうとするが、それを妨げたのは舞踊の機導砲。
「回復するまでは、わたくしがお相手いたします」
言いつつ、アルケミストクローを構え、接近戦に移行……
「うぉぉぉっ!」
「!?」
不意に、頭上から声。見上げる間もなく、声の主は舞踊の前に立つ半魚人の上に落ちる。
「立守さん!?」
そこには剣を構えた円の姿。円はこっそりマストに登り、そこから飛び降りての奇襲を敢行したのだ。これは見事成功。半魚人は降ってきた円に倒され無防備な状態。
あっけにとられていた舞踊だったが、この隙を逃すわけにはいかない。すぐさま機導剣を使い、機導装置を破壊。反対側の機導装置には円の剣が突き立てられている。
不意に、全体の不快感が若干軽減された。1対の機械が破壊されたことで影響が弱まったと見える。
「よし、このまま畳み掛ける!」
円はさらに強打を使用して攻撃。半魚人が立ち上がるすきを与えることなく、始末しきる。
「さっきよりはまし……いや……」
マルチステップで敵の攻撃を回避していた尊。ふと、先程よりも数段動きが良くなったのを自覚する。これは機械の影響がなくなっただけではない。
ふと目線を向けると、ジナイーダが軽くウィンクをする。彼女が運動強化を使用したのだ。
「あくまであたしはサポート役なんで、戦闘は任せるぜ」
「助かります!」
他方、抵抗力の差からか、先程までより多少ましにはなったが不快感は晴れないラザラス。
「……この程度、磁気嵐のど真ん中で集積回路の故障を見つけ出すころに比べりゃ、なんてことはねぇ……元ロッソ整備班なめんなっ!」
そう言いながら、魔導機械を構えるラザラス。その動きに気付いたか、半魚人がそちらを振り向き……
「俺は逸らすなって言ったよな?」
その隙を突かれ、イスカに背後から斬られる。さらにラザラスから追撃の機導砲。今度の攻撃は狙い通り機導装置を直撃。装置は煙を上げ、小さな爆発を起こす。取り付けられていた半魚人が、その爆発でわずかに怯む。
「こんだけ近けりゃ、外さねぇ……」
その隙を逃さず、アニスは至近まで接近。
「頭の中身かスピーカーの中身か分からねぇようにしてやるよ!」
そのまま銃口を押し付ける勢いで引き金を引き、半魚人の頭を撃ちぬいた。
2体が倒されたところで残りは1体。こうなるとハンターたちの優勢は揺るがない。だが、最後の1体は逃げることもせず最後まで戦おうとする。狂気の歪虚としての性という奴だろうか。
「逃げねぇか……まぁキッチリ落とし前つけてくのが筋ってもんだからな。どっちにせよ逃がさねぇ」
「ですね。一気に止めといきましょう」
ハンターたちは、残された半魚人を包囲するように展開。そして、いったん下がって回復を行った音子がデリンジャーで銃撃する。
それに合わせるようにアニスは銃。舞踊、ラザラスは機導砲を使い攻撃。まだ、多少機導装置による影響はあるものの、包囲状態からの集中砲火では多少命中力が下がっていても関係ない。砲火の中心にさらされた半魚人は、なすすべなく倒されることになった。
●
敵を倒したことで、徐々に乗員の吐き気は収まって来ていた。それはハンターたちも例外ではない。
「さぁ、掃除ですよ」
すっかり回復した尊は、早速甲板の掃除にとりかかる。このままでは、床の状態を見た船員が再度吐き気に襲われる可能性もあるからだ。
「あ~あ……できれば回収したかったんだけどなぁ」
「まったくだな……仕方ないし、船の機材でも弄ってるかな」
ラザラスやジナイーダは残念そうに呟く。機導装置は敵を倒すと一緒になって砂の様に崩れてしまった。歪虚の影響が強かったためだろうか。
「あるいは、つけた奴が自壊するようにしていたのか……まぁ多少謎は残るな」
それに答えるクロウ。まだ顔は若干青いままだ。
「これ改良してCAMに積みたかったんだけどな」
「それは……どうだろうな。まぁ試してみても面白かった……オェッ……」
「おいおい、船酔いは治ったんじゃねぇのか?」
「いや、その……二日酔いがちょっとな……」
「……あんまり動くんじゃねーぞ。足場にぶちまけられたら堪ったもんじゃねぇからな」
呆れたようにいったアニス。先ほどの戦闘も、船酔い以上に二日酔いの影響が強かったのでは……とは口には出さなかったが。
「まぁ、これに懲りて飲みすぎは控えることですね……」
「……あぁ、今度からは気を付けるとする……」
そう言った音子に介抱されながら、クロウは船室へと戻っていった。
「やれやれ、冷たいビールで乾杯、ってわけにはいかなそうだな……そういえば、イスカさんは?」
円に言われて、ハンターたちが周囲を見回すと、イスカは船の縁から身を乗り出していた。
「うぐ……ぐぉb(ピーーーーー)」
俺は……吐かない……そんなことを言っていた気がするイスカだったが、しっかりフラグを回収していったようである。
こうして、船上での戦闘は終わった。精神的には被害甚大ではあるが、物資や人的被害は皆無であり、依頼は大成功に終わったと言っていいだろう。
クロウが3体の半魚人と接敵する少し前。
この船に同乗していた8人のハンターたちも、クロウ同様に体の変調……ぶっちゃけてしまえば船酔いに頭を悩ませていた。
「乗り物酔いってのは、視覚情報と感覚器官からの情報のずれから……だったよな」
そう呟きながらラザラス・フォースター(ka0108)は目を閉じて酔いを軽減できないか試みる……が、あまり効果は無いようだ。
「っかしーな……うぇっぷ」
自身も吐き気をこらえながら、これがただの集団船酔いではないのかと疑い始めていた。
「あまり床を見たくない惨状ですね……」
月架 尊(ka0114)は口元を抑えながら、それでも一応甲板の状態を確認し……やっぱり見なければよかったと後悔した。
「何故にまたこんな汚いことに……」
呟く十 音子(ka0537)。その原因が何かはすぐに分かった。船員の一人が、嘔吐しながらも敵襲が来たことを叫んだからだ。
こうしてハンターたちは敵のいる甲板上に集まり、そこでクロウと、彼の前に立つ半魚人たちを発見した。
「スピーカーを付けた半魚人……シュールですわね」
敵の姿を見ながら、落ち着いて感想を述べる古川 舞踊(ka1777)。確かに、水棲の半魚人と水に弱そうな機械の組み合わせというのはミスマッチな気がする。
「ふざけやがって……快適な船旅に茶々いれてくれたんだ。覚悟できてんだろうな」
一方、アニス・テスタロッサ(ka0141)はこめかみを抑えながら、敵を睨みつける。その瞳には殺意の色が濃い。
「船酔いで海を楽しめないのは辛いよな、あたしも機械を楽しめないのが辛いぜ!」
対してジナイーダ・ドラグノーヴァ(ka0802)はというと、敵の機導装置の方に興味が向いているようだ。
「お、来たか……多分、そいつらが船酔いの原因だ……そいつら倒せば多分……ウッ!」
それを見て気が緩んだのか、クロウはとっさに船から身を乗り出し、海に向かって吐き出す。
「……なんにせよ、初めての依頼だ、全員無事に帰らねぇとな」
クロウが吐くのを見て多少辟易しつつ、立守 円(ka1992)はそう言って気を引き締めた。
●
「あいつを倒さないと、この状態は終わらないのですから、がんばりましょう」
「だな。クロウに詳しい話を聞いときたかったが、そういう時間もなさそうだし」
尊とイスカ・ティフィニア(ka2222)はそう言いながらランアウトを使用し、同時に飛び出していく。目的は敵の注意を引くこと。
「まぁ、1人1体は引き付けるのが目標ですか」
まず潰したいのは肩に付けられたスピーカー状の機導装置。だが、尊はそこではなく、あえて胴を狙う。
(肩を警戒させるわけにはいきませんからね……ここの破壊は攻撃班に任せます)
日本刀で斬りつける尊。多少ダメージは与えられただろうが、浅い。足元がふらつき攻撃が上手く決まらない。
ふと、尊は足元を見る。見てしまった……
「……絶対転ばないようにしないと……」
その惨状を直視した尊を急激な吐き気が襲うが、そこをなんとかこらえ、態勢を立て直す。
「俺の忍耐力を甘く見るなよ?」
一方のイスカ。先に瞬脚を使用していたため、その速度は尊以上。その速さを活かして攻撃、さらにすぐさま敵の背後に回り込む。その姿を追いかけるように、半魚人はイスカへと振り向く。
「よしよし、俺から注意を逸らすなよ? そん時はすぐさま斬るからな」
正面から半魚人を見据えるイスカ。吐き気は先程よりきつくなってきてはいたが、まだ耐えられる範囲だ。
「即時潰す、魚人共め……ぐぅっ」
尊、イスカと同様囮役を買って出た音子。2人に少し遅れながら接近。鞭を半魚人の顔めがけて振り抜く……が、攻撃は外れ。船酔いの影響が少ない方ではあるが、近接攻撃はやや専門外か。だが、敵の注意を惹くのには成功したと見える。
囮に出た3人の動きを観察しながら、舞踊は機導砲を使用して援護を行う。目的は敵の動きを制限、あるいは牽制すること。これで味方への攻撃を減らし、敵の回避を妨害する。
「どう見ても怪しすぎるアレ……さっさとぶっ壊すぞ。さっさと始末しねぇと、歌いたくも聞きたくもねぇ合唱するハメになっちまう」
その間、アニスはそう言いつつ敵の正面から外れるように横へ大きく移動していく。
「あたしはただ機械が弄れればいいんだけど……まぁその邪魔をするなら叩きのめすけどな!」
アニスに呼応するかのように、ジナイーダも魔導機械を構え……
「あたし以外の誰かが!」
そう言って囮役、最も近くにいた音子に防性強化を使用する。やる気がない……ともとられかねないが皆の体調が万全ではない状態だ。サポート役は重要になってくる。この間、クロウも合わせるように囮役2人に防性強化を使用する。
「さて、このおっさんにゃ来る大作戦で愛娘達の面倒見て貰わねぇとなんねぇんだ」
自身に攻性強化を使用したラザラスは、次いで魔導機械を半魚人に向ける。
「こんなところで怪我してもらっちゃ困るんだよ!」
発射された機導砲が半魚人を捉える。多少ダメージは与えられたか。もっとも、狙っていた肩の機導装置には当たらなかったが。
「ちっ……やっぱピンポイントで当てるのは……うぷ」
未だ収まらぬ吐き気に悩まされながらも口元を抑える。
吐き気が収まらないのはアニスも同様。だが、それを怒りで抑え込みながら、銃撃。狙いは敵機導装置……ではなく船の縁。跳弾させて敵の意識外から攻撃しようという策だ。だが、跳ね返った弾丸は装置を掠めただけ。船酔いで角度を誤ったか。
「クソ……揺れと頭痛で当たりゃしねぇ……!」
アニスがそう毒づく。
「このっ……!」
尊は胴や腕への狙いを継続。できる限り攻撃班の狙う肩から注意を逸らす。攻撃に関しては回避主体で……と思ってはいても、この体調ではなかなか厳しいものがある。マルチステップを利用した回避でなんとか持たせてはいるが……
「……上手く、行きませんね……」
それ以上に厳しかったのは音子。鞭を利用して敵に巻き付け束縛しよう……としても、攻撃が当たらないのでは意味がない。これらの行動が敵の注意を引いているのは確かではあったが、その分敵の攻撃も音子を傷つけている。
「……これ以上は、厳しいですね……」
半魚人と正面切っての戦いは音子の吐き気を蓄積させる。これ以上は吐きながら戦うことにもなりかねない。音子は傷を治療することも兼ねて一度敵から離れ、マテリアルヒーリングを使用することに。
そうはさせまいと半魚人は追おうとするが、それを妨げたのは舞踊の機導砲。
「回復するまでは、わたくしがお相手いたします」
言いつつ、アルケミストクローを構え、接近戦に移行……
「うぉぉぉっ!」
「!?」
不意に、頭上から声。見上げる間もなく、声の主は舞踊の前に立つ半魚人の上に落ちる。
「立守さん!?」
そこには剣を構えた円の姿。円はこっそりマストに登り、そこから飛び降りての奇襲を敢行したのだ。これは見事成功。半魚人は降ってきた円に倒され無防備な状態。
あっけにとられていた舞踊だったが、この隙を逃すわけにはいかない。すぐさま機導剣を使い、機導装置を破壊。反対側の機導装置には円の剣が突き立てられている。
不意に、全体の不快感が若干軽減された。1対の機械が破壊されたことで影響が弱まったと見える。
「よし、このまま畳み掛ける!」
円はさらに強打を使用して攻撃。半魚人が立ち上がるすきを与えることなく、始末しきる。
「さっきよりはまし……いや……」
マルチステップで敵の攻撃を回避していた尊。ふと、先程よりも数段動きが良くなったのを自覚する。これは機械の影響がなくなっただけではない。
ふと目線を向けると、ジナイーダが軽くウィンクをする。彼女が運動強化を使用したのだ。
「あくまであたしはサポート役なんで、戦闘は任せるぜ」
「助かります!」
他方、抵抗力の差からか、先程までより多少ましにはなったが不快感は晴れないラザラス。
「……この程度、磁気嵐のど真ん中で集積回路の故障を見つけ出すころに比べりゃ、なんてことはねぇ……元ロッソ整備班なめんなっ!」
そう言いながら、魔導機械を構えるラザラス。その動きに気付いたか、半魚人がそちらを振り向き……
「俺は逸らすなって言ったよな?」
その隙を突かれ、イスカに背後から斬られる。さらにラザラスから追撃の機導砲。今度の攻撃は狙い通り機導装置を直撃。装置は煙を上げ、小さな爆発を起こす。取り付けられていた半魚人が、その爆発でわずかに怯む。
「こんだけ近けりゃ、外さねぇ……」
その隙を逃さず、アニスは至近まで接近。
「頭の中身かスピーカーの中身か分からねぇようにしてやるよ!」
そのまま銃口を押し付ける勢いで引き金を引き、半魚人の頭を撃ちぬいた。
2体が倒されたところで残りは1体。こうなるとハンターたちの優勢は揺るがない。だが、最後の1体は逃げることもせず最後まで戦おうとする。狂気の歪虚としての性という奴だろうか。
「逃げねぇか……まぁキッチリ落とし前つけてくのが筋ってもんだからな。どっちにせよ逃がさねぇ」
「ですね。一気に止めといきましょう」
ハンターたちは、残された半魚人を包囲するように展開。そして、いったん下がって回復を行った音子がデリンジャーで銃撃する。
それに合わせるようにアニスは銃。舞踊、ラザラスは機導砲を使い攻撃。まだ、多少機導装置による影響はあるものの、包囲状態からの集中砲火では多少命中力が下がっていても関係ない。砲火の中心にさらされた半魚人は、なすすべなく倒されることになった。
●
敵を倒したことで、徐々に乗員の吐き気は収まって来ていた。それはハンターたちも例外ではない。
「さぁ、掃除ですよ」
すっかり回復した尊は、早速甲板の掃除にとりかかる。このままでは、床の状態を見た船員が再度吐き気に襲われる可能性もあるからだ。
「あ~あ……できれば回収したかったんだけどなぁ」
「まったくだな……仕方ないし、船の機材でも弄ってるかな」
ラザラスやジナイーダは残念そうに呟く。機導装置は敵を倒すと一緒になって砂の様に崩れてしまった。歪虚の影響が強かったためだろうか。
「あるいは、つけた奴が自壊するようにしていたのか……まぁ多少謎は残るな」
それに答えるクロウ。まだ顔は若干青いままだ。
「これ改良してCAMに積みたかったんだけどな」
「それは……どうだろうな。まぁ試してみても面白かった……オェッ……」
「おいおい、船酔いは治ったんじゃねぇのか?」
「いや、その……二日酔いがちょっとな……」
「……あんまり動くんじゃねーぞ。足場にぶちまけられたら堪ったもんじゃねぇからな」
呆れたようにいったアニス。先ほどの戦闘も、船酔い以上に二日酔いの影響が強かったのでは……とは口には出さなかったが。
「まぁ、これに懲りて飲みすぎは控えることですね……」
「……あぁ、今度からは気を付けるとする……」
そう言った音子に介抱されながら、クロウは船室へと戻っていった。
「やれやれ、冷たいビールで乾杯、ってわけにはいかなそうだな……そういえば、イスカさんは?」
円に言われて、ハンターたちが周囲を見回すと、イスカは船の縁から身を乗り出していた。
「うぐ……ぐぉb(ピーーーーー)」
俺は……吐かない……そんなことを言っていた気がするイスカだったが、しっかりフラグを回収していったようである。
こうして、船上での戦闘は終わった。精神的には被害甚大ではあるが、物資や人的被害は皆無であり、依頼は大成功に終わったと言っていいだろう。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/09 21:06:22 |
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【相談卓】吐キ気ニモマケズ イスカ・ティフィニア(ka2222) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/08/11 04:45:56 |